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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】広視野角空中映像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 30/56 20200101AFI20220207BHJP
【FI】
G02B30/56
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017212012
(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公開番号】P2019086541
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直己
(72)【発明者】
【氏名】濱本 恭介
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-075483(JP,A)
【文献】特表2009-539122(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101868751(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0017089(US,A1)
【文献】特開2008-003553(JP,A)
【文献】特開2013-105000(JP,A)
【文献】梶田創 他,SkyAnchor:実物体の高速移動に対して空中像を固定表示する光学系,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,日本,2017年09月30日,Vol.22,No.3,PP.413-420
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
H04N 13/00-17/06
G02B 5/00-5/136
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像信号を出力する光源と、
前記光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する再帰透過光学系と、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記光源と前記再帰透過光学系を挟んで配置される第1のミラーおよび第2のミラーと、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記空中像と前記再帰透過光学系を挟んで配置される、第3のミラーおよび第4のミラーと、を備え、
前記第1のミラーと前記再帰透過光学系の角度、および前記第2のミラーと前記再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であり、
前記第3のミラーと前記再帰透過光学系の角度、および前記第4のミラーと前記再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満である
広視野角空中映像表示装置。
【請求項2】
前記光源と前記空中像は、前記再帰透過光学系に対して面対称である
請求項1に記載の広視野角空中映像表示装置。
【請求項3】
前記第3のミラーおよび前記第4のミラーは、いずれもハーフミラーである
請求項1または2に記載の広視野角空中映像表示装置。
【請求項4】
画像信号を出力する光源と、
前記光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する再帰透過光学系と、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記光源と前記再帰透過光学系を挟んで配置される第1の曲面ミラーおよび第2の曲面ミラーと、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記空中像と前記再帰透過光学系を挟んで配置される第3の曲面ミラーおよび第4の曲面ミラーと、を備え
前記光源の両端に配置される前記第1の曲面ミラーおよび前記第2の曲面ミラー、および前記空中像の両端に配置される前記第3の曲面ミラーおよび前記第4の曲面ミラーは、光源から出力された画像信号を反射させる
広視野角空中映像表示装置。
【請求項5】
立体画像信号を出力する立体光源と、
前記立体光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する第1の再帰透過光学系と、
前記第1の再帰透過光学系よりも前記立体光源に近い位置に配置される第2の再帰透過光学系と、
前記第2の再帰透過光学系とともに、前記立体光源を取り囲むように配置される、第1のミラーおよび第2のミラーと、
前記第1の再帰透過光学系とともに、前記空中像を取り囲むように配置される、第1のハーフミラーおよび第2のハーフミラーと、
前記第1の再帰透過光学系と前記第2の再帰透過光学系との間にあって、前記第1のミラーおよび前記第1のハーフミラーに連接配置される第3のミラーと、
前記第1の再帰透過光学系と前記第2の再帰透過光学系との間にあって、前記第2のミラーおよび前記第2のハーフミラーに連接配置される第4のミラーと、
前記第3のミラーおよび前記第4のミラーの内側にあって、前記第2の再帰透過光学系によって生成される奥行き反転した空中像を挟んで配置される第3のハーフミラーおよび第4のハーフミラーと、を備え、
前記第1のミラーと前記第2の再帰透過光学系の角度、および前記第2のミラーと前記第2の再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であり、
前記第3のハーフミラーと前記第2の再帰透過光学系の角度、および前記第4のハーフミラーと前記第2の再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であり、
前記第1のハーフミラーと前記第1の再帰透過光学系の角度、および前記第2のハーフミラーと前記第1の再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であり、
前記第3のミラーと前記第1の再帰透過光学系の角度、および前記第4のミラーと前記第1の再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満である、
広視野角空中映像表示装置。
【請求項6】
立体画像信号を出力する立体光源と、
前記立体光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する第1の再帰透過光学系と、
前記第1の再帰透過光学系よりも前記立体光源に近い位置に配置される第2の再帰透過光学系と、
前記第2の再帰透過光学系とともに、前記立体光源を取り囲むように配置される、第1の曲面ミラーおよび第2の曲面ミラーと、
前記第1の再帰透過光学系とともに、前記空中像を取り囲むように配置される、第1の曲面ハーフミラーおよび第2の曲面ハーフミラーと、
前記第1の再帰透過光学系と前記第2の再帰透過光学系との間にあって、前記第1の曲面ミラーおよび前記第1の曲面ハーフミラーに連接配置される第3の曲面ミラーと、
前記第1の再帰透過光学系と前記第2の再帰透過光学系との間にあって、前記第2の曲面ミラーおよび前記第2の曲面ハーフミラーに連接配置される第4の曲面ミラーと、
前記第3の曲面ミラーおよび前記第4の曲面ミラーの内側にあって、前記第2の再帰透過光学系によって生成される奥行き反転した空中像を挟んで配置される第3の曲面ハーフミラーおよび第4の曲面ハーフミラーと、を備える
広視野角空中映像表示装置。
【請求項7】
画像信号を出力する光源と、
前記光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する再帰透過光学系と、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記光源と前記再帰透過光学系を挟んで配置される第1のミラーおよび第2のミラーと、
前記再帰透過光学系の端辺に、前記空中像と前記再帰透過光学系を挟んで配置される、第3のミラーおよび第4のミラーと、を備え、
前記第1のミラーと前記再帰透過光学系の角度、および前記第2のミラーと前記再帰透過光学系の角度は、いずれも90°を超えるように設定されており、
前記第3のミラーと前記再帰透過光学系の角度、および前記第4のミラーと前記再帰透過光学系の角度は、いずれも90°を超えるように設定されており、
前記再帰透過光学系を透過した画像信号を、前記再帰透過光学系の両端に配置される前記第3のミラーおよび前記第4のミラーで反射させて、空中に空中像を得る
広視野角空中映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広視野角空中映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空中に像を結像させ、映像が空中に浮かんでいるように体験できる「空中像ディスプレイ」に関する研究が盛んに行われている。現在、多数の方式が提案されているが、中でも、2層式再帰透過光学系や、ハーフミラーと再帰性反射材を組み合わせた方式が商品化され、誰もが利用できる環境に近づきつつある。
【0003】
空中への映像提示は視覚的なインパクトが強く、その実現を目指して多くの研究が行なわれてきており、中でもAIプレート(AerialImagingPlate:以下、AIPと称す。)という特殊な光学素子を用いて生成される空中像は、その品質と表示方法の手軽さから、新たな立体ディスプレイとして多くの分野での活用が期待されている。
【0004】
上記技術は、既に研究提案され、商品化されているものであるが、原理的には類似したものがいくつか提案されており、機能としては、液晶ディスプレイなどの結像面を、当該光学系に対して対称の位置に結像させる、というものがある。
【0005】
光学系さえ用意できれば、その反対側に液晶モニタなどを置くだけで空中像が提示できるため、インタフェースや空間演出など、様々な応用が期待されている。例えば、アスカネット社が改良版光学系や、樹脂製の低価格版の発表を行っている。
【0006】
また、AIPが作る空中像の視野角を広げる手法として、梶田らは、AIPとミラーを組み合わせたbeyooooonD と呼ばれるシステムを提案している(非特許文献1)。beyooooonD では、AIPの存在しないテーブル上の領域に、ハーフミラーを置くことで空中像を表示させていた従来研究を更に発展させ、空中像の観察角度に応じた2枚のディスプレイを配置することで、その視野角を拡大する光学系を提案している。これにより、ハーフミラーとAIPそれぞれの表示領域上に空中像を横断的に表示することを可能としている。しかし、この光学系では、視野角を広げるために別のディスプレイを用いているため、その視野角は追加したディスプレイから新たにAIPに入射する光線分しか拡大されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5177483号
【非特許文献】
【0008】
【文献】梶田創、 小泉直也、 苗村健、 beyooooonD: テーブルトップ直立空中像ディスプレイの視域・視野角の拡大、 VR 大会、 34C-03、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
再帰透過光学系では,素子自体の大きさや空中に表示したい光源の位置およびサイズによって、空中像を提示できる範囲に制限が生じてくる。例えば、一般的な使用が想定される組み合わせとして、350mm角の再帰透過光学系を用いて、10インチ程度の液晶タブレット端末の映像を空中に提示しようとすると、提示される空中像の視野角は約40°前後に限定される。そのため、基本的には正面に正対した観察者一名のみを対象としており、個人向けユーザインタフェースとしては十分であるが、多人数を対象とした提示には向かず、すなわち一般的な展示用途などへの応用は困難な状況である。
【0010】
この視野角は複数枚の再帰透過光学系を組み合わせ、素子そのもののサイズを大きくすることで広げることが可能であるが、例えば、多人数で観察可能な程の広い視野角を提示しようとした場合、装置サイズが非常に大きくなると共に、コストの大幅な増加という問題が発生してしまう。この際、素子同士に角度を持たせて組み合わせることにより、より少ない素子数でも広視野角を得ることが可能となるが、その場合、拡大する視野角部分に対応する複数の光源を適切な位置に置く必要があるため、やはりその分装置サイズは大きくなってしまう。更に、どちらの場合でも180°を超える視野角を得ることはできないという問題がある。
【0011】
すなわち詳述すると、再帰透過光学系は、光源からの光を空中像として面対称位置に結像させる作用を持つ。しかし、実際に空中像が作られる際には、光源から発せられる光のうち、再帰透過光学系 に入射することができた一部の光しか利用されていない。その為、再帰透過光学系 に入射していない部分を空中像として見ることはできず、このとき実際に空中像として観察可能な最大視野角は、再帰透過光学系 に入射する光線の最大入射角と等しくなる。
【0012】
本発明は上記の従来の問題点に鑑み提案されたものであり、その目的とするところは、複数枚のミラーと再帰透過光学系を組み合わせ、180°以上の観察視野角を実現可能な空中立体像を提示することができる広視野角空中映像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の広視野角空中映像表示装置は、画像信号を出力する光源と、光源から出力された画像信号を取得して空中に空中像を結像する再帰透過光学系と、この再帰透過光学系の端辺に、光源と再帰透過光学系を挟んで配置される第1のミラーおよび第2のミラーと、再帰透過光学系の端辺に、空中像と再帰透過光学系を挟んで配置される、第3のミラーおよび第4のミラーと、を備える。
また、本発明の広視野角空中映像表示装置は、第1のミラーと再帰透過光学系の角度、および第2のミラー再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であり、第3のミラーと再帰透過光学系の角度、および第4のミラー再帰透過光学系の角度は、いずれも90°未満であることを特徴とする。
本発明において、画像信号は、静止画像に限らず動画も含むものとする。また、光源は、例えばパネルディスプレイのような平面型ディスプレイを指すが、これに限定されず、3次元画像信号を含む多視点ディスプレイや、置物などに適度な照明を当てたものでもよい。
【0014】
上記構成により、再帰透過光学系に入射していない部分の光を複数のミラーを用いることによって反射させ、空中像に欠けていた部分の光を補うことで、最大視野角の拡大を実現することができる。その結果、複数人で空中像を囲んでの観察や、視点を大きく水平に移動させながらの観察を行うことができる程の広視野角を得ることができる。
【0015】
本発明において、請求項記載の再帰透過光学素子は、明細書において再帰透過光学系と称す。
【発明の効果】
【0016】
本発明にあっては、180°以上の観察視野角を実現可能な空中立体像を提示することができる広視野角空中映像表示装置および表示方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る広視野角空中映像表示装置の構成図である。
図2】本発明に係る広視野角空中映像表示装置のミラーの角度を90°以下としたときの構成図である。
図3】本発明に係る広視野角空中映像表示装置のミラーの一部をハーフミラーに置き換えた場合の構成図である。
図4】本発明に係る広視野角空中映像表示装置の斜視図である。
図5】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、光源を立体光源にし、再帰透過光学系を2枚にした場合の構成図である。
図6】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、図5のミラー角度を90°以下とした場合の構成図
図7】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、図5のミラーを曲面ミラーに置き換えた場合の構成図である。
図8】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、光源を多視点ディスプレイとした場合の構成図である。
図9】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、ミラー角度を90°以上にした場合の構成図である。
図10】本発明に係る広視野角空中映像表示装置において、図3のミラー及びハーフミラーを、それぞれ曲面ミラー及び曲面ハーフミラーとした場合の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にあっては、180°以上の観察視野角を実現可能な空中立体像を提示することができる広視野角空中映像表示装置を提供することができる。
【0019】
図1は、本発明の広視野角空中映像表示装置1を上方から見たときの一構成例である。
[本発明の原理]
従来は光源を面対称の位置に結像するように開発されてきた再帰透過光学系を、さらにミラーで挟み込むことにより、再帰透過光学系に入射しきれなかった光線を、もれなく同光学系に入射させると共に、本来観測不可能であった位置にも、結像することを可能にした。
【0020】
具体的に、提案する光学系は、再帰透過光学系3の端点に4枚のミラー4a~4dを垂直に接続した対称構造から成る。図1にて通常視野角と示された領域が再帰透過光学系のみで作り出される空中像の観察可能領域である。そこに加え、光源2を挟むように2枚のミラー4a、4bを設置することにより、本来再帰透過光学系3 に入射することのなかった部分の光線がミラー4a、4bに反射されて再帰透過光学系3に入射される。この光線は空中像5側に設置されたミラー4c、4dにより折り返され、元の空中像に対して連続性を保ちつつその最大視野角を拡大する。この結果、空中像5の視野角は、光源に対して、大きさ無限の再帰透過光学系 が作り出す空中像5の視野角と等しくなり、その最大観察視野角は180°まで拡大される。しかし、実際には、観察角度が大きくなるにつれ、ミラー上での反射回数が増加し、光が減衰するため空中像5が歪んでしまう。そのため、実際の観察視野角は180°よりは小さくなる。図1中で通常視野角の両脇の斜線で塗りつぶされた領域が本提案により新たに拡大される観察可能領域である。
【0021】
[構成図]
図2は、ミラーの配置角θを90°未満にした場合を示す図である。
再帰透過光学系3を真横から観察する場合、すなわち最大観察視野角付近での光の反射は、ミラー4a~4dによる反射回数の増加により、像の歪みなどの影響が問題となる。そこで、図2に示すように角度θが90°未満となるように、ミラー(4aと4b、4cと4d)を対称となるように傾けて実装することにより、ミラー4a~4dでの反射回数を抑えつつ、最大180°までの観察視野角を実現することができる。
【0022】
図2の構成により、これまで光源2と再帰透過光学系3の位置及び大きさによって制約されていた観察視野角を180°まで拡張することができる。すなわち、従来多く見られた40°程度の観察視野角では、ほぼ一人用としてのみ観察が可能だったものが、本発明の構成により複数の人による異なる視点からの同時観察に対応することができるようになる。
【0023】
さらに図2の広視野角空中映像表示装置1について試作機を構築し、従来の再帰透過光学系のみによる視野角と、発明したシステムの視野角を比較した。その結果、視野角180°(正面から90°)の角度まで傾けた際に、従来光学系では映像が消失しているが、本発明の広視野角空中映像表示装置1では映像が観察可能であることが確認できた。
【0024】
図3は、180°以上の観察視野角を実現する構成を示す図である。
図3に示すように、空中像が結像する側のミラー4c、4dをハーフミラー7a、7bに変更することにより、再帰透過光学系3とは逆向きに放射される光線をもミラー4a、4bで反射させ、再帰透過光学系を通過し、ミラー4a、4bに遮られて透過しなかった角度の光線がハーフミラー7a、7bを透過するようになるため、180度を超えた視点からの観察を実現することができる。
【0025】
すなわち、図3の広視野角空中映像表示装置1を用いることで、提示した立体映像の“後ろ側”に回り込んでの観察が可能になる。それにより、空中に結像した像が、そこに存在する立体像である感覚をより強く感じられるようになる。
【0026】
図4は、再帰透過光学系3を光源2に対して45°傾けた構成図である。図1~3のように、観察視点に対して光源2を再帰透過光学系3の真裏に配置すると、光源2からの直接光が観察されてしまい、空中像5の知覚を阻害してしまう。図4のように斜めに配置することで、観察する視線の先に光源2が配置されなくなるため、直接光の影響を回避できる。このような配置をしても、視野角拡張には影響がない。
【0027】
図5は、再帰透過光学系3を2つ用い、光源を立体光源8にすることで、立体的な光源8による空中像10を実現する構成を示した図である。
これまでは、光源はディスプレイのような平面を想定していたが、180°以上の視野角を実現できるということは、光源の後ろ側を見ることが可能であるため、光源8自体も、単なる平面ではなく、実物体のように180°以上の視野角をもつものと組み合わせることが有効である。
【0028】
例えば、置物等の立体物に照明を当てたものなどが、180°以上の視野角をもつ光源に相当する。このような奥行きを持つものを本装置の光源8の位置に設置することで、奥行きを有した像が空中結像する。
【0029】
しかし、本装置において、光源8が発する光線のうち、再帰透過光学系に近い部分が発する光線は再帰透過光学系の近くに、再帰透過光学系から遠い部分は遠くに結像するために、形成された空中像10の光学的な奥行は反転してしまう。さらに、光線の出射方向も同時に反転してしまうため視点を左右に動かすと、逆側に視点移動した際に見える映像のように空中像10が見えてしまうという問題が存在している。
【0030】
この問題を解決する方法として、再帰透過光学系3a、3bを2枚用いて、奥行の反転した空中像をさらにもう一枚の素子で反転させる方法が考えられる。この場合、空中像8の結像のためには、光源8からの光が2つの再帰透過光学系3a、3bを通る必要があるため、1枚の再帰透過光学系3のみを用いて作られた場合と比べて、更に視野角が狭くなってしまう。
【0031】
そこで、図5に示した構成では、ミラー4e、4fを2枚の再帰透過光学系3a、3bに対して対称配置することにより、理論上視野角を約180°まで拡大することが可能となる。
【0032】
図6は、2つの再帰透過光学系である第1の再帰透過光学系3aと第2の再帰透過光学系3bに対して、第1のミラー4aと第2のミラー4b、第3のミラー4eと第4のミラー4f、第1のハーフミラー7cと第2のハーフミラー7d、第3のハーフミラー7aと第4のハーフミラー7bを傾けて(90°未満になるように)配置した構成を示した図である。図5で示した構成に対して、ミラーを傾けて配置するとともに、更に第3のミラー4eと第4のミラー4fの内側に第3のハーフミラー7aと第4のハーフミラー7bを配置させることで、180°以上の観察視野角を実現する。これにより、奥行が正しい空中立体像を横からや後ろから見ることが可能になる。
一方、図7は、図6のミラーを曲面ミラー(ハーフミラーは曲面ハーフミラー)に置き換えたものである。具体的には、ミラー4a、4bは、曲面ミラー12a、12bとし、ミラー4e、4fは、曲面ミラー12c、12dとし、更に、ハーフミラー7a、7bは、曲面ハーフミラー13c、13dとし、ハーフミラー7c、7dは、曲面ハーフミラー13a、13bとしている。
このように曲面ミラーを用いることで180°以上の視野角を与える光学系で問題となる、意図しない迷光による空中像と、光源自体による光線の遮蔽問題を解決することができる。この際に、曲面ミラーの傾きは、視野角拡大が行われる最低ミラー角度を基準とし、この角度から傾きが徐々に小さくなっていくように設計する。
【0033】
図8は、多視点ディスプレイと1つの再帰透過光学系3aを組み合わせて立体像を空中結像させる構成を示す図である。
立体的な光源の用意は簡単ではなく、構成も限定される。これをディスプレイ等で再現しようとした際、観察方向に対して異なった視差を有した画像を提示可能な多視点ディスプレイ11が有効である。これは、平面ディスプレイと同じ平らな結像面を有するため、本装置によって、立体像を空中に結像させることができる。
【0034】
しかし、多くの多視点ディスプレイ11の視点数は10を超えないため、多視点からの観察に対応した視差画像提示には不向きである。そこで、一般的な液晶ディスプレイ等を回転させ、その回転角に応じて視差画像を表示する方式のほうが、再現視野数を増やすことができる。さらには、高速回転するミラーに高速プロジェクタを用いて視差画像を投影する方法も有効である。これらを本装置と組み合わせることで、多視点から観察可能な空中立体像9を実現することができる。もちろん、回り込んで真横や後ろ側からの観察にも対応する。
【0035】
図9は、ミラーの配置角θを90°以上にした構成を示した図である。配置角θは90°以下としたほうが光の伝達効率がよいが、90°を超えて設置した方が、装置の観察部を広くとることが可能になる。
【0036】
再帰透過光学系の大きさをw、光源から再帰透過光学系の距離をdとすると、視野角が拡大されるために最低限必要なミラーの角度θは、(式1)と表される。この角度より大きくしなければ、視野角の拡大は行なわれる。
【数1】
・・・(式1)
【0037】
図10は、図3のミラー4a、4b及びハーフミラー7a、7bを、それぞれ曲面ミラー12a、12b及び曲面ハーフミラー13a、13bに置き換えて、180°以上の観察視野角を実現するように構成された構成図である。曲面ミラー12a、12bを用いることで180°以上の視野角を与える光学系で問題となる、意図しない迷光による空中像と、光源自体による光線の遮蔽問題を解決できる。
【0038】
図10で求めた、視野角拡大が行われる最低ミラー角度を基準とし、この角度から傾きが徐々に小さくなっていくようにミラーを曲げていくことで、空間を広く取りつつ視野角を180°以上の最大まで拡大することができる。また、空間を広く使うことでミラーも大きく曲がるため、平面ミラーを傾けるよりも、光源間際の反射角は大きく取ることができる。
【0039】
以上のことから、本発明により、空中像の提示視野角を拡大し(180°以上)、多人数での同時観察が可能になる。実質一人用であったものが多人数で取り囲んでの観察や体験が可能になる。また、観察視点位置に応じた視差を表示可能なディスプレイと組み合わせることで、空中に浮かぶ立体像を、様々な角度から、さらには後ろに回り込んでまで、観察することが可能になる。
尚、本実施の形態では、視野角の拡大方向について横方向(水平方向)のみ記載されているが、拡大方向はこれに限らず縦方向(垂直方向)となるように構成されていても良い。
【0040】
表示方法について以下記す。
本発明の表示方法は、光源から出力された画像信号を、前記光源の両端に対称配置される第1および第2のミラーで反射させて再帰透過光学素子に入射させ、前記再帰透過光学素子を透過した画像信号を、当該再帰透過光学素子の両端に対称配置される第3および第4のミラーで反射させて、空中に空中像を得ること、を特徴とする。
図3の場合、第1および第2ミラーで反射させて再帰透過光学系に入射させ、そこから透過してきた画像信号を、第3およびだい4のハーフミラーで反射および透過させることで、空中像を得る。
図5の場合、再帰透過光学系3aの立体光源8側のミラーで反射した光が再帰透過光学系3aに入射し、再帰透過光学系3aの右側のミラー4a、4bによって反射されて空中像を提示する。その空中像を光源として、再帰透過光学系3bの前後のミラーで入射・反射を行って、最終的に奥行きの正しい空中像を結像する。
図6の場合は、図5の場合と基本同じである。再帰透過光学系3aの右側がハーフミラーになっているので、ここでは反射だけでなく、反射と透過が空中像提示の要素となる。
【符号の説明】
【0041】
1 広視野角空中映像表示装置
2 光源
3a、3b 再帰透過光学系
4a~4f ミラー
5 空中像
6 虚像
7a~7d ハーフミラー
8 立体光源
9 正しい奥行の空中像
10 奥行反転した空中像
11 多視点ディスプレイ
12a~12d 曲面ミラー
13a~13d 曲面ハーフミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10