(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】全血アルブミン分析装置および全血アルブミン分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220127BHJP
G01N 33/72 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/72 A
G01N33/52 C
(21)【出願番号】P 2017216122
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-06-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省東北総合通信局、戦略的情報通信研究開発推進事業、「医療過疎地域における在宅医療PEM患者栄養モニタリングのための在宅-診療所医療連携支援システムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】野坂 大喜
(72)【発明者】
【氏名】大浦 雅勝
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036959(JP,A)
【文献】特開昭64-065457(JP,A)
【文献】特開昭55-031989(JP,A)
【文献】特開2001-272403(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085162(WO,A1)
【文献】特表平06-502244(JP,A)
【文献】特開昭60-097274(JP,A)
【文献】特開2000-180439(JP,A)
【文献】米国特許第05284777(US,A)
【文献】特開2006-058280(JP,A)
【文献】鈴木浩, 外,ヘマトクリット補正機能を持つ簡易血糖測定器の精度評価における人工検体使用の妥当性の検討,糖尿病,2010年,Vol.53, No.12,p.823-828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血とアルブミン検出用試薬の混合液を用いて、全血のアルブミンに起因する吸光度である全血アルブミン吸光度を測定する全血アルブミン吸光度測定手段と、
全血とヘモグロビン検出用試薬の混合液を用いてヘモグロビン吸光度を測定するヘモグロビン吸光度測定手段と、
測定した前記ヘモグロビン吸光度をヘモグロビン濃度に変換するへモグロビン濃度変換手段と、
前記ヘモグロビン濃度を
変数として含む検量線近似式を使用して、測定した前記全血アルブミン吸光度を血清アルブミン濃度に変換し、前記ヘモグロビン濃度を参照して血球の容積割合を求めて前記血清アルブミン濃度をさらに補正するアルブミン濃度変換手段と、
補正した血清アルブミン濃度を表示する表示手段と
を備えたことを特徴とする全血アルブミン分析装置
【請求項2】
前記検量線近似式は1次式で表され、前記1次式の傾きおよび切片には前記ヘモグロビン濃度を表す変数が含まれていることを特徴とする請求項
1に記載の全血アルブミン分析装置。
【請求項3】
全血とアルブミン検出用試薬の混合液を用いて、全血のアルブミンに起因する吸光度である全血アルブミン吸光度を測定するステップ、
全血とヘモグロビン検出用試薬の混合液を用いてヘモグロビン吸光度を測定するステップ、
測定した前記ヘモグロビン吸光度をヘモグロビン濃度に変換するステップ、
前記ヘモグロビン濃度を
変数として含む検量線近似式を使用して、測定した前記全血アルブミン吸光度を血清アルブミン濃度に変換し、前記ヘモグロビン濃度を参照して血球の容積割合を求めて前記血清アルブミン濃度をさらに補正するステップ、
補正した血清アルブミン濃度を表示するステップ
を含むことを特徴とする全血アルブミン分析方法。
【請求項4】
前記検量線近似式は1次式で表され、前記1次式の傾きおよび切片には前記ヘモグロビン濃度を表す変数が含まれていることを特徴とする請求項
3に記載の全血アルブミン分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全血アルブミン分析装置および全血アルブミン分析方法に関するものであり、特に全血を用いたアルブミン測定結果より推定血清アルブミン(以下、ALBとも記す)値を算出可能なPOCT(Point Of Care Testing:臨床現場即時検査)用超微量血対応の全血ALB分析装置および全血ALB分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者のたん白質・エネルギー低栄養状態(PEM)は、疾病からの回復を長期化させる原因とされており、栄養マネジメントが重要な課題となっている。高齢者PEMは動物性タンパク質の不足を特徴とし、入院患者の約4割、在宅医療患者の約3割が低ALB血症(3.5g/dL以下)であることが報告されている。これら栄養不良のPEM患者は急性期医療機関に搬送された場合、栄養回復を行った上でなければ、手術を実施することができないため、入院の長期化や、合併症発生率の増加、最悪の場合は寝たきり介護患者の増加を来す原因となっている。
【0003】
このため各医療機関では、適切な患者栄養評価に基づく患者栄養モニタリングと患者低栄養状態(PEM)からの改善が患者予後の向上のみならず医療資源の効率化においても必要不可欠との認識から、栄養サポートチーム(NST)による栄養アセスメントが必須との認識に至っている。
【0004】
栄養サポートチーム(NST)による患者の栄養評価は大きく「身体アセスメント」と「臨床検査アセスメント」の2つから成り立っている。「臨床検査アセスメント」によって客観的栄養評価はなされており、生化学検査によって患者より採取した血液中のALB値や総タンパク値、RapidTurnoverProtein(RTP)などを測定し、これらを静的栄養評価指標や動的栄養指標としてモニタリングしている。これらの栄養評価モニタリング指標は在宅医療において、ワクチン効果の向上や祷靖防止を図る上でも継続的なモニタリングが重要となっている。
【0005】
総合病院では患者血液の生化学検査を行う場合、大型の生化学自動分析装置を使用している。医師や看護師が患者より静脈血を採取し、遠心分離によって回収した血清あるいは血清を対象として分析を行うこととしており、分析精度は極めて高い。一方で、導入・運用においては(1)装置価格が高い。(2)血清の遠心分離のため多量の血液を必要とする。(50kg~数mL)(3)装置が大型(数100kg)(4)試薬管理や精度管理が不可欠 などの問題点や制限を受けるため、在宅医療や訪問診療で同装置を用いることは困難である。
【0006】
在宅医療やPOCT用全自動生化学分析装置等で利用可能な生化学分析項目は心筋梗塞のマーカーや自己血糖に限定されており、栄養評価のためのPOCT装置は開発されていない。この理由として、自己血糖測定POCT装置に代表される可搬性の高い小型POCT装置では微量全血に対応するため、酵素電極を用いた電気化学方式による測定が行われており、本原理ではALBやタンパクなどに特異的に感応する酵素電極の開発が困難なためである。
【0007】
そのため、微量全血に対応した栄養指標分析のためのPOCT装置は実用化にいたっておらず、これまでPOCT装置では取り入れられることのなかったまったく異なる手法による測定技術の確立が必要となっている。
【0008】
なお、下記特許文献1には、血液中の特定成分の測定において、全血状態から迅速に測定結果を得る方法が開示されている。この方法は(1)全血検体を酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した従来の技術においては下記のような問題点があった。従来の液状試薬での測定においては、医療機関等で使用される全自動生化学分析装置での測定原理は確立されているものの、血清を測定対象としており、全血を対象としていない。その理由は、比色分析法では全血に含まれる赤血球など血球成分によって大きな吸光度誤差と容積誤差が生じるとともに、全血中に含まれる血球成分による影響についての補正を行う必要が生じるためである。 このため、従来は測定方法では血清の遠心分離装置が必要となり、在宅医療やPOCT用のALB値の簡単、安価で正確な全自動生化学分析装置が実用化出来ないという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決し、在宅医療などにおいて、指先から得た1~2μLの微量全血を用い、全血ALB値を計測すると共に、全血ALB値からデータ補正式を用いて推定血清ALB値を正確に算出することのできる簡単、安価で正確な全自動生化学分析装置を提供することにある。
【0012】
本発明はこの課題に対して、在宅医療において、指先から得た1~2μLの微量全血を用いて全血ALB値とヘモグロビン(以下、Hbとも記す)値を同時に計測し、Hb濃度を参照値して全血ALB値中に含まれる赤血球成分による濃度誤差補正と容積補正を行うとともに、全血ALB値からデータ補正式を用いて正確な推定血清ALB値を算出することとした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の全血ALB分析装置は、全血とアルブミン検出用試薬の混合液を用いて全血アルブミン吸光度を測定する全血アルブミン吸光度測定手段と、全血とヘモグロビン検出用試薬の混合液を用いてヘモグロビン吸光度を測定するヘモグロビン吸光度測定手段と、測定した前記ヘモグロビン吸光度をヘモグロビン濃度に変換するへモグロビン濃度変換手段と、前記ヘモグロビン濃度を参照して、測定した前記全血アルブミン吸光度を血清アルブミン濃度に変換するアルブミン濃度変換手段と、前記血清アルブミン濃度を表示する表示手段とを備えたことを主要な特徴とする。
【0014】
また、前記した全血ALB分析装置において、前記アルブミン濃度変換手段は、前記ヘモグロビン濃度を変数として含む検量線近似式を使用して変換を行う点にも特徴がある。 また、前記した全血ALB分析装置において、前記検量線近似式は1次式で表され、前記1次式の傾きおよび切片には前記ヘモグロビン濃度を表す変数が含まれている点にも特徴がある。 また、前記した全血ALB分析装置において、前記アルブミン濃度変換手段は、前記ヘモグロビン濃度を参照して血球の容積割合を求めて血清アルブミン濃度を補正する容積補正手段を備えた点にも特徴がある。
【0015】
また、本発明の全血ALB分析方法は、全血とアルブミン検出用試薬の混合液を用いて全血アルブミン吸光度を測定するステップ、全血とヘモグロビン検出用試薬の混合液を用いてヘモグロビン吸光度を測定するステップ、測定した前記ヘモグロビン吸光度をヘモグロビン濃度に変換するステップ、前記ヘモグロビン濃度を参照して、測定した前記全血アルブミン吸光度を血清アルブミン濃度に変換するステップ、前記血清アルブミン濃度を表示するステップを含むことを主要な特徴とする。
【0016】
また、前記した全血ALB分析方法は、前記血清アルブミン濃度に変換するステップは、前記ヘモグロビン濃度を変数として含む検量線近似式を使用して変換を行う点にも特徴がある。 また、前記した全血ALB分析方法は、前記検量線近似式は1次式で表され、前記1次式の傾きおよび切片には前記ヘモグロビン濃度を表す変数が含まれている点にも特徴がある。 また、前記した全血ALB分析方法は、前記アルブミン濃度変換手段は、前記ヘモグロビン濃度を参照して血球の容積割合を求めて血清アルブミン濃度を補正する点にも特徴がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の全血ALB分析装置および全血ALB分析方法には以下のような効果がある。(1)溶血血清検体の誤差補正が可能となり、在宅医療において精度の高いALB測定装置の提供が可能である。(2)血液の遠心分離作業が不要であるので、生化学分析装置の小型化、低価格化が可能であり、かつ可搬性が高いので在宅医療、POCTなどに利用し易くなる。 (3)ランセット等を用いた微量血での測定が可能となり、被検者の負担が軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明のALB分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は本発明の測定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明のALB分析装置におけるALB分析処理の内容を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明のALB分析装置におけるHb(ALB)測定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明のALB分析装置におけるブランク測定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明のALB分析装置における試薬反応液吸光度測定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明のALB分析装置における血清ALB値計算処理の内容を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の検量線作成処理の内容を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、Hb濃度ごとの検量線を説明する説明図である。
【
図10】
図10は、Hb濃度と切片の関係を説明する説明図である。
【
図11】
図11は、Hb濃度と傾きの関係を説明する説明図である。
【
図12】
図12は、複数の濃度のHbをALB測定試薬に溶解させて測定した吸光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態を説明する。 まず、本発明装置において利用するALB測定法について説明する。ALB測定法は現在主として色素結合法が用いられており、ブロモクレゾールグリーンを使用するBCG法と、ブロモクレゾールパープルを使用するBCP法の2法がある。BCG法は検体中のALBが、pH4.0付近でブロモクレゾールグリーン(BCG)と結合して、生成されたALB・ブロモクレゾールグリーン複合体について、吸光度を測定することによってALB濃度を求めるものである。
【0020】
一方のBCP法は、ALBが界面活性剤の存在下でブロモクレゾールパープル(BCP)と結合して、生成されたALB・ブロモクレゾールパープル複合体の青紫色を比色測定することによって、ALB濃度を求めるものである。
【0021】
BCG法はその測定においてALB以外の蛋白(グロブリンやC反応性蛋白など)
との交差反応性があるものの、第1反応試薬のみで測定を完了させることが可能であるのに対し、BCP法はその測定において第1反応試薬と第2反応試薬を使用する。BCG法に比較して反応過程が1ステップ多くなることで、装置内部の構造が複雑となることから、本発明においては基本原理としてBCG法を採用する。
【0022】
BCG法は遠心分離後の血清を対象とした分析技術であり、全血を対象とした分析には用いることができない。そこで本発明では、BCG法に対応したALB用POCT分析装置における全血分析値からの血清ALB値への換算アルゴリズムを開発した。
【0023】
次に、全血ALB測定波長について説明する。BCG法は、血中ALBがブロムクレゾールグリーン(BCG)と結合することで青色を呈し、ALBとの結合によって生じるpH誤差を630~660nmにおいて測定することを基本原理とする。
【0024】
しかし、従来法は血清分析に対する原理であることから、全血に対応すべく、測定波長を決定するため全血反応系でのBCG測定試薬に0g/dl~10g/dl濃度のHbを溶解させて測定した吸光スベクトル解析を実施した。
図12は、複数の濃度のHbを溶解させて測定した吸光スベクトルを示すグラフである。
【0025】
そして、吸光スペクトルを測定した結果、以下のような結果を得た。(1)Hbによる影響を受けず、かつ吸光度が増加する波長→800nm(2)Hbの影響が最も大きいが、最も感度が高い波長→600~650nm(3)Hbの影響の影響を若干受ける波長→530~540nm 本検討結果より、測定波長として600~650nmを第1選択波長、540nmを第2選択波長、800nmを第3選択波長とした。第1選択波長の600~650nmは最も感度が高いが、Hbの影響が最も大きいので、そのままでは高精度の全血ALB測定ができない。そこで、本発明においては、Hb濃度の影響を補正することにより、高感度の波長を使用して高精度の全血ALB測定ができるようにした。
【0026】
次に、全血ALB値から血清ALB値推定のためのアルゴリズムについて説明する。(1)ALB検量線に対する全血の影響分析 ALB値の定量においては吸光度をALB値に変換するための検量線が必要となるが、全血測定においては吸光スペクトル解析結果より、Hb濃度の影響を受けることが明らかとなっている。そこで、各ALB濃度の血清に対してHbを加え、全血による影響を補正可能であるかを実験した。
【0027】
その結果、ALB検量線はHb濃度にかかわらず直線性を示した。従って、1次近似式で近似可能である。また、Hb濃度が上昇するにつれ、ALB濃度Og/dlと5.0g/dl間の吸光度差が減少していることも判明した。
【0028】
次に、初期値吸光度の影響を除去した場合の補正検量線について検討すると、ALB検量線の傾きは含有するHb濃度によって変動している。このことからHb濃度と比例して検量線の傾きが低下していることが明らかであり、全血から血清ALB値への変換においては、切片と傾きより補正値を算出可能であることが明らかとなった。以下に実施例について図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は本発明のALB分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。PC(パソコン)10は、例えば、汎用デジタル入出力インターフェイス回路等を備えた周知のパソコンであってもよい。表示装置11は例えば液晶ディスプレイ装置などの周知の出力装置である。キーボード12、マウス13(タッチパネルやトラックボールであってもよい。)は、オペレーターが入力に使用する周知の入力装置である。本発明のALB分析装置は、後述する処理を実行するプログラムを作成してPC10にインストールすることにより実現される。
【0030】
測定装置20は、詳細は後述するが、PC10と、汎用デジタル入出力インターフェイスを介して接続され、PC10からの制御に基づいて試料の吸光度を測定し、PC10に出力する。本発明においては、例えば被検者がランセットなどによって自ら採血した血液(全血)21を、後述するALB試薬22および公知のHb試薬23がそれぞれ所定量だけ入っている2つのキュペット24にそれぞれ所定量だけ加えて測定装置20にセットする。
【0031】
図2は本発明の測定装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。測定装置20の制御回路30は、PC10からの制御に基づいて試料の吸光度の測定動作を行う制御回路である。制御回路30は、汎用デジタル入出力インターフェイス回路、複数のデジタル入出力端子、複数のアナログ入力端子などを備え、PC10からの制御に基づいてアナログ入力端子の電圧をアナログデジタル変換してPC10へ出力する機能を有する。
【0032】
なお、制御回路30としては、必要な機能を備えた周知の任意の1チップコンピューターを採用可能である。電源31は、例えば汎用デジタル入出力インターフェイスから供給される電源あるいは商用電源を入力し、測定装置20内部で必要な電源を供給する。
【0033】
測定装置20内部には、ALB測定用とHb測定用の2組の吸光度測定装置が設けられている。それぞれの装置の構造は同一であるが、測定する波長は異なっている。ALB測定用吸光度測定装置においては、発光ダイオード33および光学フィルター35によって波長630nmの光を発生させる。またHb測定用吸光度測定装置においては、発光ダイオード34および光学フィルター36によって波長530nmの光を発生させる。
【0034】
2つの駆動回路32は制御回路30からの指示信号に基づき、発光ダイオード33あるいは34を駆動して発光させる回路である。発光ダイオード33あるいは34から照射された光は光学フィルター35あるいは36、透明な容器、キュペット24を通過してのフォトダイオード40に到達する。センサー回路41は、センサー電源42から供給される電源を使用してフォトダイオード40に発生する受光量と比例した電圧信号を増幅し、制御回路30のアナログ入力端子に出力する。
【0035】
ここで、ALB分析装置を使用したALB計測手順の概要について説明する。まず、本発明のALB分析装置の電源を投入し、システムを初期化すると共にブランク時の吸光度を計測する。次に被検者が自己採血により血液を3μL採血し、それぞれにHb計測用とALB計測用の試薬が入っている2つのキュペット24にHb計測用の2μLとALB計測用の1μLに分けて投入し、反応させてから測定装置にそれぞれセットして吸光度を測定する。最後にHb補正を行うデータ変換処理を行って推定血清ALB値を算出して表示する。
【0036】
図3は、本発明のALB分析装置におけるALB分析処理の内容を示すフローチャートである。S10においては、被検者であるオペレーターからHb測定指示があったか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS12に移行するが、肯定の場合にはS11に移行する。S11においては、後述するHb測定処理が行われる。
【0037】
S12においては、オペレーターから全血ALB測定指示があったか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS13に移行するが、肯定の場合にはS14に移行する。S13においては、後述する全血ALB測定処理が行われる。S14においては、2値の測定が完了したか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS10に移行するが、肯定の場合にはS15に移行する。S15においては、後述する血清ALB値算出処理が行われる。
【0038】
図4は、本発明のALB分析装置におけるHb(全血ALB)測定処理S11(S13)の内容を示すフローチャートである。なお、Hb測定処理と全血ALB測定処理の内容は、ALB測定用とHb測定用の2組の吸光度測定装置のどちらを使用するかの違いだけで、他は同じである。
【0039】
S20においては、システムを初期化し、S21においては、試薬22あるいは23のみが入っているブランク(空)のキュペット24を測定装置20にセットして吸光度を測定するブランク測定処理を行う。S22においては、後述する試薬反応血液による吸光度測定処理を行う。
【0040】
図5は、本発明のALB分析装置におけるブランク測定処理S21の内容を示すフローチャートである。S30においては、試薬22あるいは23のみが入っているブランク(空)のキュペット24を測定装置20にセットするように指示する表示を行い、セットが確認された後に、測定装置20の制御回路30に2つのフォトダイオード40の出力電圧の測定を指示して、2つの測定電圧デジタル値を読み込む。
【0041】
S31においては、読み込んだ電圧値が予め定められた範囲内にあるか否かをチェックすることにより、正常か否かをチェックする。なお、異常値である場合には異常状態を表示して処理を終了する。S32においては、2組の吸光度測定装置のそれぞれについてブランク時即ち、透過率100%(吸光度0)時の測定電圧値を記録する。この値は吸光度の計算に使用される。
【0042】
図6は、本発明のALB分析装置における試薬反応液吸光度測定処理S22の内容を示すフローチャートである。S40においては、試薬反応時間カウントする。試薬は例えば5分程度で反応が完了する場合には5分間カウントして待つ。S41においては、全血に試薬を加えたキュペット24を測定装置20にセットするように指示する表示を行い、セットが確認された後に、測定装置20の制御回路30にフォトダイオード40の出力電圧の測定を指示して、測定電圧デジタル値を読み込む。
【0043】
S42においては、読み込んだ電圧値が予め定められた範囲内にあるか否かをチェックすることにより、正常か否かをチェックする。なお、異常値である場合には異常状態を表示して処理を終了する。S43においては測定回数情報と共に試薬反応血液測定電圧値を記録し、S44においては吸光度を算出する。吸光度は、次の式によって算出する。
【0044】
試薬反応血液測定電圧値をI。ブランク時測定電圧をI0とする。透過率(%T)=(I/I0 )×100、吸光度(ABS)=-Log(%T/100)=2-Log(%T)ただしLogは常用対数とする。
【0045】
S45においては、所定回数、例えば5回測定が完了したか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS46に移行するが、肯定の場合にはS47に移行する。S46においては、所定時間、例えば1分だけ待ち、S41に移行する。
【0046】
S47においては、吸光度に変動が無いか否かが判定され、判定結果が否定の場合にはS48に移行するが、肯定の場合にはS49に移行する。S48においては、エラー処理に移行し、異常状態を表示して処理を終了する。S47において吸光度に変動が無いか否かを判定する理由は、反応が終了し安定化したことを確認するためである。
【0047】
吸光度の変化率は変化率=(n回目吸光度)-(n-1回目吸光度))÷(n回目吸光度)で算出し、変化率が+5%以上である場合を上昇(変動有り)とする。実験の結果、5分後の段階でほぼ反応が終了しており、5回目まで測定した場合でも変動はほぼ認められない。従って、本実施例では3回目までに安定し、その後は変動が無い場合を反応終了(正常終了)と判定する。
【0048】
S49においては、出力すべき吸光度を決定する。吸光度としては5回目の値を採用してもよいし、変動のない複数の吸光度の平均値を採用してもよい。なお、測定の度に変化率を算出し、変動の無くなった吸光度値(例えば2回目の吸光度値)を用いて検量線よりALB濃度を算出し、速報値として表示してもよい。
【0049】
図7は、本発明のALB分析装置における血清ALB値計算処理S15の内容を示すフローチャートである。S50においては、Hb濃度値を算出して表示する。試薬ごとにHb吸光度をHb濃度値に変換する検量線の2次近似式は、予め本分析装置およびHb濃度値、ALB濃度値が既知のサンプル血液を用いた測
定実験により公知の方法で決定され、記憶されている。従って、Hb吸光度をHb濃度値に変換する検量線近似式に測定したHb吸光度を代入することによりHb濃度値を算出して表示する。
【0050】
S51においては、予め記憶されているHbを含まない場合の検量線を使用して吸光度から全血ALB濃度を算出して表示する。臨床検査装置では補正等を行う前の値も臨床的に有用である場合がある。そのために、Hbを含まない検量線を仮に使用した場合にどのような数値となるかを単純に計算して参考値として表示する。
【0051】
S52においては、Hb濃度影響補正検量線(式)を作成する。検量線式は、後述する方法で予め作成されたHb濃度を変数とする1次近似式である検量線式にS50において求めたHb濃度を変数Hに代入して作成する。本発明者が実験した結果、試作装置において例えば以下のような検量線式が得られた。y=(0.00004H^2-0.0017H+0.0626)x+(-0.0006H^2+0.0502H+0.0075)。ただし、「H」はHb濃度、「^2」は2乗である。
【0052】
S53においては、上記したHb濃度影響補正検量線の近似式を用いて、測定した吸光度(y)から推定血清ALB値(x)を算出する。ALB濃度xは、x=(y-b)/aで求めることができる。
【0053】
S54においては、Hb濃度値よりHt近似値(血球容積率)を算出する。血液の血球部分にはALBは含まれず、検量線で算出したALB濃度は血清に含まれている。また、血清の容積率は人それぞれ異なる。従って、容積の補正が必要となる。本来であればHt値を測定して血清の割合を求められることがベストであるが、POCTにおいては遠心分離機や血球計数器は使うことができない。そこで、Hb濃度からHt値の予測値を算出する。
【0054】
まずHb濃度値が所定の複数の値であり血球容積率が既知の多種のサンプル血液を用いて本発明のALB分析装置において吸光度を測定する。そして、この結果を縦軸をHt血球容積率、横軸をHb濃度として(グラフ化し)、最小二乗法などの公知の方法にて1次近似式を求める。この1次近似式は、右肩上がりの直線である。この1次近似式の一例を下記に示す。本発明者が実験した結果、試作装置において例えば以下のような数式が得られた。本数式より、Hb値(x)からHt値(y)を推定可能である。
【0055】
y=2.0817x+11.446
【0056】
S55においては、近似Ht値により容積データを補正する。Ht値より実際に全血中に含まれていた血清量がわかる。例えばHtが40%であれば、実際測定した全血サンプル中の60%が血清値ということになる。従って、血球容積補正値=(全血からのALB濃度×{100/(100-Ht)})で血球容積を補正した値が算出される。
【0057】
S56においては、測定検体量補正を行う。本来の血清でのALB値測定における試薬と血液との反応割合は原法のBCG法(血清分析)では発色試薬5mLに対し血清20μLを混和(混合比500:2)することとなっている。しかし、本発明の実施例においては全血でのALB値測定における試薬と血液との反応割合を、発色試薬500μLに対し全血1μLを混和(混合比500:1)することとする。また測定上限値を超過した高濃度血液検体においては、混和血液量を発色試薬500μLに対し全血0.5μLを混和(混合比1000:1)とすることとする。なお、本補正は検体の特性により混和血液量を同量とする場合においては、省略することができる。
【0058】
これは、全血測定においては完全溶血させ測定に最適な吸光度を得るには混合比を500:1とすることが望ましいことが実験結果より明らかになったためである。そのため、本来の半分の血液量で測定していることから、最終的に測定量を原法と合わせる必要があり、測定検体量補正として計測結果×2倍の値に補正を行う。また測定上限値を超過した高濃度血液検体においては、同様に減じた混和血液量の混合比に対しての補正を行う。S57においては、補正後の推定血清ALB値を表示し、処理を終了する。
【0059】
図8は、本発明の検量線作成処理の内容を示すフローチャートである。患者のHb濃度を別の測定系で同時に測定し、その情報を使って増加分の吸光度がいくらであったかを算出すれば、計測された吸光度からHbによる増加分を差し引くことで血清のみでのALB吸光度は一応算出可能である。しかし、実験の結果、Hbによる吸光度を単純に差し引くだけでは、ALB値を高精度に算出できないことが判明した。
【0060】
即ち、全血の吸光度を血清ALB濃度に変換するALB測定用検量線は、実験の結果、直線性は良好であるので、1次近似式で近似可能であるが、Hb濃度の上昇とともに検量線の傾きが低下することが判明した。従って、Hb濃度による傾きと切片の変化を検量線1次近似式で数式化できれば、患者Hb値に合わせてリアルタイムにALB測定用検量線を作成して高精度で推定血清ALB値を算出して表示することが可能である。
【0061】
まず、検量線をy=ax+bとする。ここで、yは全血でALBを測定した吸光度、xは求めたい推定血清ALB濃度値である。傾きaについては、Hb濃度の上昇と共に検量線の傾きaは低下する。切片bについては、Hb濃度の上昇により切片bは大きくなる。ALB濃度xは、x=(y-b)/aで求めることができる。
【0062】
S60においては、Hb濃度値が所定の複数の値であり、ALB濃度値が既知の多種のサンプル血液を用いて本発明のALB分析装置において吸光度を測定する。S61においては、測定結果をHb濃度値ごとにまとめて縦軸を吸光度、横軸をALB濃度として(グラフ化し)、最小二乗法などの公知の方法にてHb濃度値ごとの検量線1次近似式を求める。
【0063】
図9は、Hb濃度ごとの検量線を説明する説明図である。Hb濃度値ごとの検量線1次近似式は、
図9に示すように、Hb濃度が高いほど切片が大きい右肩上がりの直線である。このHb濃度ごとの1次近似式がヘモグロビン濃度が既知の所定の値である場合の検量線となる。
【0064】
S62においては、Hb濃度を切片bに変換する近似式を算出する。
図10は、Hb濃度と切片の関係を説明する説明図である。Hb濃度ごとの検量線1次近似式のy切片、即ちALB濃度値が0の場合の吸光度とモグロビン濃度との相関を数式化するために、縦軸を切片、横軸をHb濃度として(グラフ化し)、公知の方法にて2次近似式を求める。この2次近似式を用いることにより、測定したHb濃度から切片bを求めることができる。本発明者が実験した結果、試作装置において例えば以下のような切片bの近似式が得られた。 b=-0.0006H^2+0.0502H+0.0075、ただし、「H」はHb濃度、「^2」は2乗である。
【0065】
S63においては、Hb濃度を傾きaに変換する近似式を算出する。
図11は、Hb濃度と傾きの関係を説明する説明図である。Hb濃度ごとの検量線1次近似式の傾き(1次の項の係数)とHb濃度との相関を数式化するために、縦軸を傾き、横軸をHb濃度として(グラフ化し)、公知の方法にて2次近似式を求める。この2次近似式を用いることにより、測定したHb濃度から傾きaを求めることができる。本発明者が実験した結果、試作装置において例えば以下のような傾きaの近似式が得られた。 a=0.00004H^2-0.0017H+0.0626、ただし、「H」はHb濃度、「^2」は2乗である。
【0066】
S64においては、検量線式を作成する。本発明者が実験した結果、試作装置において例えば以下のような検量線式が得られた。y=(0.00004H^2-0.0017H+0.0626)x+(-0.0006H^2+0.0502H+0.0075)。ただし、「H」はHb濃度、「^2」は2乗である。
【0067】
本発明者は本発明装置で得られた測定結果と従来の自動生化学分析装置との相関性を検証するため、多数の健康成人の協力を得て評価を行った。その結果、実測血清ALB値と全血ALB値からの血清ALB推定値とは極めて相関性が高く一致した。
【0068】
次に、本計測に用いるALB測定用試薬22について説明する。 まず、(a)コハク酸二ナトリウム27.014gを蒸留水にて溶解し、1000mLとしたコハク酸二ナトリウム溶液と、(2)無水コハク酸10.007gを蒸留水にて溶解し1000mLとしたコハク酸溶液を用意し、(1)の溶液300mLに対し、(2)の溶液700mLを混和し、コハク酸緩衝液を作製する。
【0069】
次に、界面活性剤として、Briji35を10.0g秤量し、蒸留水70mLを加えて60℃で加温溶解し、冷却後蒸留水を加え100mLとした(4)Briji35水溶液を作製する。
【0070】
次に、BCG原液として、BCG0.7gを0.1mol/LNaOH10mLに溶解し、蒸留水を加えて100mLとした。24時間保存後、析出分を濾紙で濾過し、褐色瓶にて保存した(5)BCG保存液を作製する。
【0071】
最後に、BCG発色試薬として、上記した(3)0.1mol/LpH4.2コハク酸緩衝液500mL、(4)Briji35水溶液12mL(界面活性剤濃度は0.06~0.12%であればよい)、(5)BCG保存液15mLを混和し、蒸留水にて1000mLとして、ALB濃度測定用試薬22を作製する。
【0072】
ALB試薬について実験を行った結果、Briji35濃度の溶血度への影響については、コハク酸緩衝液+Briji35濃度(5%)が最も溶血度が低く、10%以上あるいは0.1%以下での溶血度が高いことが判明した。従って、ALB測定試薬については既知の試薬組成をそのまま使用してもよいが、含まれる界面活性剤の濃度を0.1%以下としても全血サンプルを完全溶血させることができる。
【0073】
以上、実施例について説明したが、本発明には以下のような変形例も考えられる。実施例においてはPCを使用する例を開示したが、処理を行う装置としては、ノートPC、タブレットPC、スマートフォンなどでもよく、更に、測定装置内に処理装置、表示装置、入力装置等を備えて処理装置と測定装置を一体化してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は在宅医療などにおいて血清ALB値を測定する全自動生化学分析装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10…PC 11…表示装置 12…キーボード 13…マウス 20…測定装置 21…血液 22…ALB試薬 23…Hb試薬 24…キュペット