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特許70155497-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタン誘導体の乾燥粉末吸入器組成物
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  • 特許-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタン誘導体の乾燥粉末吸入器組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタン誘導体の乾燥粉末吸入器組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/407 20060101AFI20220127BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K47/26
A61K9/14
A61K9/48
A61K31/58
A61P11/06
A61P11/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018536181
(86)(22)【出願日】2017-01-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 US2017012650
(87)【国際公開番号】W WO2017120559
(87)【国際公開日】2017-07-13
【審査請求日】2019-10-10
(31)【優先権主張番号】62/276,778
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518239813
【氏名又は名称】セロン ファーマシューティカルズ, インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ベンカトラマン, ミーナクシ, エス.
(72)【発明者】
【氏名】ツァン, シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイウッド, フィリップ
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0157567(US,A1)
【文献】国際公開第98/041193(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0202054(US,A1)
【文献】特表2008-500988(JP,A)
【文献】特表2009-504768(JP,A)
【文献】特表2013-518120(JP,A)
【文献】PFISTER, Jurg R. et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,1985年02月,Vol. 74, No. 2,pp. 208-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 11/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、
(a)以下に示される式の1つの化合物
【化10】

【化11】

及び
【化12】

及び
(b)ラクトース
を含み、
式中、Xは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、及びトルエンスルホン酸イオンからなる群より選択され、
前記ラクトースは、1-15μmのX10、50-100μmのX50及び120-160μmのX90によって特徴付けられる粒子直径分布を有し、
前記化合物が前記医薬組成物の0.025~4質量%を構成し、前記化合物及びラクトースがブレンド中にあり、前記組成物が乾燥粉末吸入器から分散可能である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物が、
【化13】

(1S,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
【化14】

(1R,2S)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
及び
【化15】

(1R,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬的に許容される組成物。
【請求項3】
前記化合物が化合物(2)である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物が化合物(3)である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記化合物が、前記組成物の0.025~2.0質量%を構成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化合物が、前記組成物の0.05質量%を構成する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
さらにコルチコステロイドを含む、請求項1-6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記コルチコステロイドがモメタゾンである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
モメタゾンが、前記組成物の2~5質量%を構成する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ブレンドが、≧50%の前記化合物についての微粒子割合(FPF)を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ブレンドが、≧50%の各前記化合物及びモメタゾンについての微粒子割合(FPF)を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記化合物、ラクトース及び任意選択的にモメタゾンから本質的に成る、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ラクトース以外に任意の医薬的に許容される担体を含まない、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
少なくとも1ヶ月周囲温度で安定である、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも6ヶ月周囲温度で安定である、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
少なくとも1年周囲温度で安定である、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むカプセルであって、前記カプセルが、前記組成物を被験体の肺に分散させることができる乾燥粉末吸入器への挿入に適合している、カプセル。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、乾燥粉末吸入器。
【請求項19】
請求項8~12のいずれか一項に記載の医薬組成物を調製するためのプロセスであって、
(a)前記化合物を体積平均径(VMD)が5μm未満になるまで微細化する工程、
(b)微細化された化合物をラクトースとブレンドして、組成物Iを作製する工程、
(c)モメタゾンをVMDが5μm未満になるまで微細化する工程、
(d)モメタゾンをラクトースとブレンドして、組成物IIを作製する工程、及び
(e)ブレンドされた組成物I及びIIを組み合わせて、最終ブレンドを作製する工程
を含む、プロセス。
【請求項20】
喘息又はCOPDの治療に使用するための、請求項1-16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、US62/276,778(2016年1月8日出願)の利益を主張するものであり、US62/276,778は、参照によりその全体が全ての目的のために組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器症状を抱える人々の数は、世界中で増え続けている。喘息は、気道に炎症を起こし狭窄させる、慢性呼吸器疾患である。喘息は、胸部絞扼感、息切れ、及び咳を繰り返し引き起こす。喘息は、アメリカ合衆国の人口のおよそ7%に影響を及ぼし、年間およそ4,210人の死亡を引き起こす。COPDは、慢性気管支炎及び肺気腫を含む様々な進行性の健康問題を包含し、世界の死亡率及び罹患率の主要な原因である。喫煙は、COPDの進行の主要なリスク要因である。米国だけでほぼ5000万の人々がたばこを吸い、推定で3,000人が毎日その習慣を嗜んでいる。その結果、COPDは、2020年までに、世界的な健康負担として、上位5つの疾患の中に入ると予想されている。
【0003】
これらの呼吸器症状は、管理指針及び有効な薬が利用可能であるにも関わらず、十分に制御されていないままである。制御が不十分である1つの理由は、吸入器装置の誤用である。加圧式定量用量吸入器(pMDI)は、世界中で最も頻繁に使用されている装置であるが、多くの患者は、繰り返し指導を受けても、正しくそれらを使用することができない。乾燥粉末吸入器(DPI)は、呼吸のみによって作動されて薬物粒子を肺に分配するものであり、pMDIよりも使いやすい。しかしながら、喘息又はCOPDの治療に有効な薬物のほんの一部のみしか、DPIによる分配に適した組成物、すなわち、吸入装置内で粉末が過度に凝集することなく、装置全体にわたって妥当な均一性で、治療用量を送達することができる組成物に、製剤化されていない。
【0004】
ムスカリン性アセチルコリンレセプター(mAChR)は、喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの多数の生物学的プロセスに関与する。吸入抗コリン療法は、現在、COPDの最初に使われる療法として、「ゴールドスタンダード」であると考えられている(Pauwels et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163, 1256 (2001))。
【0005】
呼吸器疾患の治療のための抗コリン療法の使用を支持する大きな証拠があるにもかかわらず、そのような適用疾患のためのクリニックにおける使用には、比較的少数の抗コリン化合物しか入手可能でない。これらのうち、イプラトロピウム(Atrovent;また、アルブテロールと組み合わせたCombiventとして)が、アメリカ合衆国のみにおいて、MDI製剤として入手可能である。チオトロピウム(Spiriva)がDPI製剤として入手可能であるが、それ単独のみであり、コルチコステロイドとの併用治療としてではない。DPI装置に適した共製剤の欠如は、他の薬物の存在下でのチオトロピウムの十分な化学的安定性の欠如に起因するようである。加えて、呼吸器用製品に従来から使用されているゼラチンカプセルに包装された場合に、チオトロピウムは、その微粒子用量を限定する水分に、極めて感受性である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に係る発明の概要
本発明は、(a)(本明細書中で定義されるような)式Iに係る、立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物、及び(b)ラクトースを含む医薬組成物を提供し、式Iの化合物は、医薬組成物の0.025~4質量%を構成し、式Iの化合物及びラクトースはブレンド中にあり、組成物は、乾燥粉末吸入器から分散可能である。好ましくは、立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物は、
【化1】
(1S,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
【化2】
(1R,2S)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
及び
【化3】
(1R,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
からなる群より選択される。
【0007】
代替的に、Brアニオンは、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、及びトルエンスルホン酸イオンからなる群より好ましくは選択される別の対イオンで置き換えてよい。
【0008】
ラクトースは、好ましくは、篩分けされた吸入等級のラクトースであり、任意選択的に、9μmのX10、69μmのX50及び141μmのX90によって特徴付けられる粒子直径分布を有する。任意選択的に、式Iの化合物は、X90≦4.5μmによって特徴付けられる粒子直径分布を有する。任意選択的に、粒子直径分布は、X50≦2.5μmによってさらに特徴付けられる。任意選択的に、式Iの化合物は、組成物の0.025~2.0質量%を構成する。任意選択的に、式Iの化合物は、0.05質量%を構成する。
【0009】
本発明はさらに、コルチコステロイド、好ましくはモメタゾンをさらに含む上述の医薬組成物を提供する。任意選択的に、モメタゾンは、≦5μmのX90によって特徴付けられる粒子直径分布を有する。任意選択的に、モメタゾンは、≦2μmのX50によってさらに特徴付けられる粒子直径分布を有する。任意選択的に、モメタゾンは、組成物の2~5質量%を構成する。任意選択的に、粒子直径の相対標準偏差(RSD)は≦5%である。任意選択的に、ラクトース中の式Iの化合物のブレンドは、≧30%又は≧50%の微粒子割合(FPF)を有する。任意選択的に、ラクトース中のモメタゾンのブレンドは、≧30%の微粒子割合(FPF)を有する。任意選択的に、ラクトース中のモメタゾンのブレンドは、≧50%の微粒子割合(FPF)を有する。任意選択的に、ラクトース中の式Iの化合物及びモメタゾンのブレンドは、≧30%の微粒子割合(FPF)を有する。任意選択的に、ラクトース中の式Iの化合物及びモメタゾンのブレンドは、≧50%の微粒子割合(FPF)を有する。
【0010】
任意選択的に、モメタゾンは、組成物の2.2質量%又は4.4質量%を構成する。任意選択的に、式Iの化合物は組成物の0.05質量%を構成し、モメタゾンは組成物の4.4質量%を構成する。任意選択的に、式Iの化合物は組成物の2.0質量%を構成し、モメタゾンは組成物の2.2質量%を構成する。
【0011】
いくつかの組成物は、式Iの化合物、ラクトース及び任意選択的にモメタゾンから本質的に成る。いくつかの組成物は、ラクトース以外の任意の医薬的に許容される担体を含まない。いくつかの組成物は、周囲温度で少なくとも1ヶ月、6ヶ月又は1年、安定である。
【0012】
本発明はさらに、先に定義した医薬組成物を含むカプセルを提供し、カプセルは、組成物を被験体の肺に分散させることができる乾燥粉末吸入器への挿入に適合している。
【0013】
本発明はさらに、先に説明した医薬組成物を含む乾燥粉末吸入器を提供する。
【0014】
本発明はさらに、請求項15に記載の医薬組成物を調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、(a)式Iの化合物を体積平均径(VMD)が5μm未満になるまで微細化する工程、(b)微細化された式Iの化合物をラクトースとブレンドして、組成物Iを作製する工程、(c)モメタゾンをVMDが5μm未満になるまで微細化する工程、(d)モメタゾンをラクトースとブレンドして、組成物IIを作製する工程、及び(e)ブレンドされた組成物I及びIIを組み合わせて、最終ブレンドを作製する工程、を含む。任意選択的に、結果として得られる医薬組成物は、RSD≦5%のブレンド均一性を有する。任意選択的に、本方法はまた、組成物を乾燥粉末吸入器に組み込む。
【0015】
本発明はさらに、患者に、治療的に有効量の上述の医薬組成物を、乾燥粉末吸入器から投与する工程を含む、喘息又はCOPDを抱える患者を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、TRN-157微細化及び非微細化材料の熱重量分析(TGA)を示す。両方の材料の同様のパターンは、微細化中の材料の物理的構造の変化を示さない。
【0017】
図2図2A-Bは、次世代インパクター(NGI)で測定した、標準(25℃/60%RH)及び加速(40℃/75%RH)安定性条件下で保持されたブレンド中の、TRN-157及びモメタゾンの粒子径分布を示す。いずれの条件においても、1ヶ月後に顕著な変化は示されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
M3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニストは、US 8,742,131の例2において説明されるムスカリンレセプター放射性リガンド結合アッセイで測定した場合に、5、3、1、0.5、又は0.3nM未満のIC50を有する化合物である。
【0019】
「アルキル」は、飽和直鎖炭化水素鎖、分岐炭化水素鎖、環状炭化水素鎖、又は直鎖炭化水素鎖及び/又は分岐炭化水素鎖及び/又は環状炭化水素鎖及び/又は炭素原子の環の組み合わせである。一つの実施形態において、アルキル基は、1~12の炭素原子を有する、すなわち、C-C12アルキルである。別の実施形態において、アルキル基は、1~8の炭素原子を有する、すなわち、C-Cアルキルである。分子の残部へのアルキル基の結合点は、断片上の任意の化学的に実現可能な位置にあることができる。
【0020】
「アルコキシ」は、-O-アルキルという基、例えば、-O-C-C12アルキル又は-O-C-Cアルキルを指す。
【0021】
「低級アルキル」は、「C-Cアルキル」と同義であり、メチル(Me)、エチル(Et)、プロピル(Pr)、n-プロピル(nPr)、イソプロピル(iPr)、ブチル(Bu)、n-ブチル(nBu)、イソブチル(iBu)、sec-ブチル(sBu)、t-ブチル(tBu)、シクロプロピル(cyclPr)、シクロブチル(cyclBu)、シクロプロピル-メチル(cyclPr-Me)及びメチル-シクロプロパン(Me-cyclPr)を包含することが意図され、ここでC-Cアルキル基は、C-Cアルキル基上の任意の原子価を介して分子の残部に結合することができる。
【0022】
「ハロ」は、F、Cl、Br及びIを指す。
【0023】
「アリール」は、C-C10芳香族炭化水素などの芳香族炭化水素を指し、フェニル及びナフチルを含むが、これらに限定されない。
【0024】
「アリールオキシ」は、-O-アリールという基を指す。
【0025】
「アラルキル」は、-アルキル-アリールという基を指す。
【0026】
「アリールオキシアルキル」は、-アルキル-O-アリールという基を指す。
【0027】
「アルコキシカルボニルアルキル」は、-アルキル-(C=O)-O-アルキルという基を指す。
【0028】
化合物に言及するとき、「医薬的に許容されるアニオン」は、アニオン(Xと表記される)が、ヒトでの使用について許容される対イオン、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、及びトルエンスルホン酸イオンなどであることを示す。
【0029】
式Iにおいて示される構造は、例示されるような7-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-オール部分の4つの可能な異性体を組み込んでいる、少なくとも4つの可能な立体異性体を表す。
【化4】
【0030】
追加の立体中心が存在する場合、例えば、-C(R1)(R2)(R3)という基について、R1、R2、及びR3によって置換された炭素原子が不斉である場合、合計で少なくとも8つの異なるジアステレオマーが生じることとなる。
【0031】
R4及びR5基が異なる場合、四級化ステップにおいて、追加の立体異性体が生じ得る。
【0032】
本発明は、対象化合物の全ての活性異性体、活性異性体の混合物、結晶形態、アモルファス形態、水和物、又は溶媒和物を含む。
【0033】
本明細書中に列挙される化学構造及び化学名は、全てのアイソトポログを含むものと解釈されるべきである。アイソトポログは、同位体組成(同位体置換の数)のみが異なる分子実体であり、例えばCH4、CH3D、CH2D2、など(「D」は重水素、すなわち、2H)がある。アイソトポログは、構造中の任意の又は全ての原子で同位体置換を有することができ、又は構造中の任意の又は全ての位置で、天然存在度で存在する原子を有することができる。
【0034】
用語「ジアステレオマー」は、2以上の非対称の中心を有する立体異性体であって、その分子が互いに鏡像異性体でない、立体異性体を指す。
【0035】
用語「立体異性体」は、同じ分子式及び結合した原子の同じ結合性を有するが、空間におけるそれらの原子の3次元配向が異なる、異性体の分子を指す。
【0036】
「ブレンド(blending)」は、異なる構成成分を混合して、組成物を形成することを指す。構成成分がもはや互いに視覚的に区別できなくなることによって決定されるように、さらにブレンドしても検出可能な均一性の増加が得られないことによって決定されるように、又は成分回収の予想される許容範囲内にブレンドされたバルク試薬の割合に対応する割合で、成分がブレンドのランダムアリコートから回収することができることによって決定されるように、好ましくは、構成成分は組成物中に実質的に均一に分布している。結果として得られるブレンドの均一性は、活性型の構成成分の相対標準偏差(RSD)によって測定することができ、好ましい相対標準偏差(RSD)は≦5%である。
【0037】
化合物は、好ましくは、精製された形態で、すなわち、それらの製造において使用される他の成分から少なくとも部分的に分離されて、提供される。化合物は、好ましくは、少なくとも80%、90%、95%、又は99%純粋である又は本質的に均質である。単離パーセンテージは、好ましくは質量パーセントであるが、モルパーセントであることも可能である。単離の純度のパーセンテージを計算する場合、医薬的に許容される賦形剤又は併用治療において使用するための他の化合物などの、所望の成分は、含まれない。
【0038】
医薬的に許容される賦形剤は、ヒトにおける使用のための現在の判定基準によって、FDAによって承認されている又は承認可能であり、組成物の他の成分と適合性である。
【0039】
医薬的に許容される塩は、ヒトにおける使用のための現在の判定基準によって、FDAによって承認されている又は承認可能な、式Iの化合物との塩である。
【0040】
「立体化学的に純粋な化合物」は、2以上の可能な立体異性体のうち、主として1つの立体異性体を含む。立体化学的に純粋な化合物の調製物は、存在する化合物の全ての立体異性体のうち単一の立体異性体を、少なくとも80、90、95、98、99、99.5又は99.9%含有する。立体化学純度パーセンテージは、好ましくは、モルパーセントであるが、質量パーセントも可能である。
【0041】
粒子直径は、粒子と等しい体積の球の直径である。
【0042】
微粒子用量(Fine particle dose、FPD)は、以下にさらに説明するように、次世代インパクター(NGI)装置に堆積された薬物の質量である。微粒子割合(Fine particle fraction、FPF)は、放出された用量のパーセンテージとして表される、堆積された薬物の質量である。
【0043】
VMDは、組成物における平均粒子直径である。
【0044】
X90は、粒子直径であって、組成物中の粒子の90%がそれより小さい直径を有する、粒子直径である。X50は、メジアン粒子直径であって、組成物中の粒子の50%がそれより小さい直径を有し、50%がそれより大きい直径を有する、メジアン粒子直径である。X10は、メジアン粒子直径であって、組成物中の粒子の10%がそれより小さい直径を有し、90%がそれより大きい直径を有する、メジアン粒子直径である。
【0045】
RSDは、組成物の異なるサンプル間の濃度の相対標準偏差(標準偏差/平均)であり、均一性の程度の尺度である(より小さいRSDは、より均一であることを意味する)。
【0046】
「カプセル」は、雰囲気からのバリアを形成する、活性医薬化合物を封入する容器であり、突き刺すことなどによって開けて、化合物を放出することができる。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、カプセルのための例示的な材料である。
【0047】
患者は、本発明の組成物を投与することのできるヒト又は他の動物を指す。他の動物は、サル、鳥類、ネコ、イヌ、ウマ、げっ歯類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳類家畜、哺乳類スポーツ動物、及び哺乳類ペットを含む。
【0048】
本発明の様々な組成物又は方法が、列挙された要素を含むとして説明される場合は、他の要素もまた存在してよいことを意味し、本発明は、列挙された要素から成る又は列挙された要素から本質的に成る、対応する組成物又は方法を代替的に包含するものとして理解されるべきである。
【0049】
「~から本質的に成る」は、組成物又は方法の基本的特性及び新規の特性に実質的に影響を及ぼさない任意の列挙されていない材料又はステップを含むことを認める慣習にしたがって用いられる。
【0050】
「約」は、組成物の有効性又は安定性に顕著な効果を及ぼさない、実質的でない変動を示す。
【0051】
文脈から他に明らかでない限り、平均に対する言及は、平均、メジアン又はモードのうち任意のものを指す可能性がある。
【0052】
ある範囲への言及は、その範囲を縁取る又はその範囲内にある各整数及びそのような整数から形成される全ての部分範囲への言及を含むものとして理解されるべきである。
【0053】
「本明細書中(herein)」は、この特許文献中のいずれかの場所を意味する。
【0054】
詳細な説明
I. 概要
本発明は、喘息、COPD及び他の呼吸器疾患の治療のための、乾燥粉末吸入器からの分散に適した、式Iの化合物を含む医薬組成物を提供する。式Iの化合物は、唯一の活性化合物として、又は併用治療として呼吸器症状を治療するのに有効なコルチコステロイド又は他の薬剤と共に、製剤化することができる。
【0055】
II. 式Iの化合物
式Iの化合物は、US 8,742,131、US 8742,134及びUS 8,426,611(これらはそれぞれ参照により組み込まれる)においてすでに記載されている抗コリン化合物である。要するに、このような化合物は、式Iに係る立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物である。医薬組成物は、(a)式Iに係る立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物を含む。
【化5】
(式中、Rが、フェニル又はチエニル(これらは両方共、アルキル、アルコキシ、ハロ、又はCOOR基で任意選択的に置換される)から独立して選択され;Rが、フェニル、チエニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-アルキルシクロペンチル、1-アルキルシクロヘキシル、1-ヒドロキシシクロペンチル又は1-ヒドロキシシクロヘキシルから独立して選択され、フェニル、チエニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-アルキルシクロペンチル、1-アルキルシクロヘキシル、1-ヒドロキシシクロペンチル又は1-ヒドロキシシクロヘキシルが、アルキル、アルコキシ、ハロ、又はCOOR基で任意選択的に置換され;又はR及びRが共に9-キサンテニルであり、9-キサンテニルが、一方又は両方のベンゼン環上で、アルキル、アルコキシ、ハロ、又はCOOR基で置換され;RがOHであり;R及びRが、低級アルキル、アルコキシカルボニルアルキル、アラルキル、又はアリールオキシアルキルから独立して選択され、アルコキシカルボニルアルキル及び/又はアラルキルが、アルキル、アルコキシ、ハロ、又はCOOR基で任意選択的に置換され;又はR及びRが共に環を備え、それらが前記環に結合して、アリール又はアリールオキシで任意選択的に置換された五員環又は六員環を形成し;Rが低級アルキルであり;*、**、及び***がそれぞれ独立して立体中心であり、立体中心*、**、及び***が、以下の組み合わせのうちの1つで存在し:
(i)*が(R)であり、**が(R)であり、***が(S)である、又は
(ii)*が(S)であり、**が(S)であり、***が(R)である、又は
(iii)*が(R)であり、**が(S)であり、***が(R)である
(iv)*が(S)であり、**が(R)であり、***が(S)である;
が、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、又はトルエンスルホン酸イオンなどの、医薬的に許容されるアニオンを表す)
任意選択的に、式Iに係る立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物は、以下のとおりである。
【化6】
(式中、Rが、アルキル、アルコキシ、又はハロ基で任意選択的に置換されたフェニルであり;
が、R、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-アルキルシクロペンチル又は1-アルキルシクロヘキシルであり;
がH又はOHであり;
及びRが低級アルキルであり;
が、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、又はトルエンスルホン酸イオンなどの、N原子の正電荷に関連する医薬的に許容されるアニオンを表す)
【0056】
より好ましくは、立体化学的に純粋なM3ムスカリン性アセチルコリンレセプターアンタゴニスト化合物は、以下のうちの任意のものである。
【化7】
(1S,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
【化8】
(1R,2S)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
又は
【化9】
(1R,2R)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミド
【0057】
TRN-157は、上の式(2)によって表される、(1R,2S)-2-((R)-2'-シクロペンチル-2'-ヒドロキシ-2'-フェニルアセトキシ)-7,7-ジメチル-7-アゾニアビシクロ[2.2.1]ヘプタンブロミドのIUPAC名の化合物を指す。
【0058】
III. 式Iの化合物の組成物
式Iの化合物は、ラクトースとブレンドされて、DPIによる分散に適した製剤を形成する。いくつかの製剤において、ラクトースは組成物に含まれる唯一の賦形剤であり、式Iの化合物は組成物に含まれる唯一の活性薬剤である。いくつかの組成物は、式Iの化合物及びラクトースから本質的に成る。
【0059】
好ましくはないが存在してよい他の賦形剤は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Pub. Co.、New Jersey (1991)、及び「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins、Philadelphia、第20版(2003)及び第21版(2005)(これらは参照により本明細書に組み込まれる)において一般に記載されている、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖類、二糖類、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ポリビニルピロリジノン、低融点ワックス、イオン交換樹脂など、及びそれらのうち任意の2つ以上の組み合わせを含む。
【0060】
式Iの化合物及びラクトースの粒子直径分布及びそれら2つの比は、DPIによる分散のための組成物の適合性に影響を及ぼす可能性がある。一般に、活性化合物の粒子直径がより小さいこと(例えば、0.2-5μm)が、肺の深部末梢気道への分散に有利である。しかしながら、このサイズの微粒子単独では、互いに付着しやすく、凝集を引き起こし、流動性を低下させる。凝集は、より大きい粒子径の賦形剤を含めることによって、減少させることができる。このより大きい粒子径の賦形剤は、保存中には活性化合物に付着して凝集を阻害するが、作動時には実質的に外れるものであり、その結果、賦形剤ではなく主に活性化合物が肺全体に分散される。凝集はまた、粒子の粗度(表面粗さ)を減少させることによって、減少させることもできる。
【0061】
式Iの化合物の粒子直径は、好ましくは、3-4μmのX90及び1-2μmのX50を有する。好ましくは、粒子の、3分の2、又は約80%、より好ましくは約90%が、約1μm~約5μmの範囲の直径を有することとなる。このような粒子直径分布は、実施例に記載されるような粉砕によって達成することができる。ほとんどの粒子が約1μm~約5μmの直径を有するようにサイズを減少させることは、微細化と呼ばれる。
【0062】
ラクトースは、好ましくは、吸入等級のラクトース、好ましくはアルファ-ラクトース一水和物である。吸入等級は、典型的には、粉砕によるものなどの粒子径の減少、及び篩分けによるものなどの、均一性を増加させるための粒子径の選択を受けている。このような吸入等級のラクトースは、様々な粒子径分布のものを、いくつかの商業的供給者から入手可能である。吸入等級のラクトースの2つのこのようなタイプは、30μmのX10、59μmのX50、及び90μmのX90の粒子直径を有するRespitose(登録商標)SV003(本明細書中ではRespitoseと呼ばれる)、及び9μmのX10、69μmのX50、及び141μmのX90の粒子直径を有するLactohale(登録商標)200(本明細書中ではLactohaleと呼ばれる)であり、これらは両方共DFE Pharma製である。ラクトースのいくつかの吸入等級は、5-15μmのX10、50-100μmのX50及び120-160μmのX90によって特徴付けられる粒子直径を有する。ラクトースの平均粒子直径は、本組成物中の式Iの化合物のものよりもかなり大きい。
【0063】
粉砕後、式1の化合物をラクトースとブレンドする。ブレンドは、実施例において記載されるように、手動撹拌又は機械的撹拌、又はそれらの組み合わせによって行うことができる。好ましくは、式1の化合物及びラクトースは、式Iの化合物が、結果として得られる組成物の0.025-4.0質量%、0.025-2.0質量%、0.05-2質量%、又は0.5-2質量%、0.5-4.0質量%及び任意選択的に0.05質量%、0.5質量%又は2.0質量%を構成するようにブレンドされる。好ましくは、式1の化合物の濃度の相対標準偏差は≦5%である。
【0064】
IV. 式Iの化合物のコルチコステロイドとの組成物
式Iの化合物はまた、DPIによる分散のために、コルチコステロイド、特にモメタゾンと共製剤化することができる。モメタゾンは、グルココルチコステロイドであり、(11β,16α)-9,21-ジクロロ-11-ヒドロキシ-16-メチル-3,20-ジオキソプレグナ-1,4-ジエン-17-イル2-フロエートのIUPAC名を有する、フランカルボン酸モメタゾンを指す。使用することのできる他のコルチコステロイドは、プロピオン酸フルチカゾン、ブデソニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、フルニソリド、トリアムシノロンアセトニド、又はシクレソニドを含む。活性薬剤として式Iの化合物のみを含む組成物でのように、共製剤もまた、賦形剤としてラクトースを含む。いくつかのこのような組成物は、式Iの化合物、コルチコステロイド及びラクトースから本質的に成る。粒子径及び均一性、化合物をブレンドする順序、及び成分の比は全て、DPIとしての分散のための組成物の適合性に影響を及ぼす可能性がある。
【0065】
式Iの化合物及びコルチコステロイドの両方を粉砕して、式Iの化合物について上記した範囲内の粒子直径分布を達成することができる。式Iの化合物及びコルチコステロイドは、好ましくは、別々に粉砕され、次いで上述のものと同じタイプのラクトースと個々にブレンドされ、次いでこの2つの別個のブレンド自体がブレンドされて、単一の組成物を形成する。好ましくは、式1の化合物及びコルチコステロイドのそれぞれの濃度の相対標準偏差は≦5%である。代替のブレンドの方法、例えば、TRN-157などの式Iの化合物及びモメタゾンなどのコルチコステロイドを共に粉砕し、次いでラクトースとブレンドする方法は、ブレンドの十分な均一性を提供しないと判断された。
【0066】
好ましくは、コルチコステロイドが組成物の2-5質量%を構成し、式1の化合物が、前に説明したように、組成物の0.025-4質量%、0.025-2質量%又は0.05-2質量%、0.5-4質量%、又は0.5-2質量%を構成する。いくつかの組成物において、コルチコステロイドが組成物の2.2質量%-4.4質量%を構成する。いくつかの組成物において、式Iの化合物が組成物の0.05質量%を構成し、コルチコステロイドが組成物の4.4質量%を構成する。いくつかの組成物において、式Iの化合物が組成物の2.0質量%を構成し、コルチコステロイドが組成物の2.2質量%を構成する。
【0067】
集合的に、式Iの化合物及びコルチコステロイドは、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、45%又は50%、及び最も好ましくは少なくとも60%、70%、又は75%の微粒子割合を有する。微粒子割合の例示的な範囲は、30-75%又は30-50%である。
【0068】
V. 安定性
上述の本発明の組成物は、好ましくは、周囲温度で(すなわち、約20-23.5℃の範囲内で)少なくとも1ヶ月、6ヶ月、1年又は2年、安定である。安定であることは、ある期間の後の式Iの化合物及びコルチコステロイド(存在する場合)の活性が、その完全な活性の95、96、97、98又は99%以上であること、及び/又は保存中に形成された任意の副生成物が、それらが由来する活性化合物(すなわち、式Iの化合物又はコルチコステロイド)の5、3、2又は1パーセント未満を構成すること、及び/又は活性化合物の純度が95、96、97、98、又は99%以上のままであること、及び/又はFPF%が、組成物が形成されたときの値の15%、10%又は5%以下だけ減少すること、を意味する。
【0069】
VI. 乾燥粉末吸入器
乾燥粉末吸入器(DPI)は、乾燥粉末形態の薬を送達する吸入器である。DPI薬は、吸入のために多くの異なる設計によって送達される。DPIの例は、Accuhaler/Discus(登録商標)、Aerohaler(登録商標)、Aerolizer(登録商標)、Clickhaler(登録商標)、Diskhaler(登録商標)、Easyhaler(登録商標)、Handihaler(登録商標)、Novolizer(登録商標)、Pulvinal(登録商標)、Rotadisk(登録商標)、及びRotahaler(登録商標)である。設計に応じて、DPIは、1つのカプセル中の単回用量を、複数のカプセル中の複数の個々の用量を(例えば、これらのカプセルはディスクの異なるセグメントを占め、ディスクは回転して、異なるカプセルを装置の動作可能位置に導入する)、又は分割されていない複数の用量を含有する単一のカプセルを、保持するように適合させることができる。DPIはまた、それらの設計及び機械的特徴に依存する、必要とされる呼気流量(L/min)に基づいて、以下のように分類することができる:i)低抵抗装置(>90L/min)、ii)中抵抗装置(約60L/min)、及びiii)高抵抗装置(約30L/min)。報告される流量は、ヨーロッパ薬局方に従って、4kPa(キロパスカル)の圧力降下を指す。
【0070】
これらの装置の共通の特徴は、薬物が乾燥粉末組成物の形態であり、この乾燥粉末組成物が、化学的推進剤とは区別される患者の吸入によって駆動されて患者の肺に分散されるということである。DPIは、使用が簡単であり、推進剤が環境を損なうのを回避するという利点を有するが、組成物に厳しい要求を課す。この要求とは、十分な均一性で且つ治療的用量で、患者の肺に、許容されない凝集を伴わずに、患者自身の吸入によってのみ動力を供給されて、薬物が分散されるというものである。
【0071】
VII. 治療適用疾患、及び用量
上に開示される組成物は、様々な呼吸器疾患を患う患者を治療するために使用することができる。この呼吸器疾患としては、特にCOPD及び喘息があり、慢性気管支炎、慢性呼吸障害、肺線維症、肺気腫、鼻漏、アレルギー性鼻炎、及び職業性肺疾患(これには、じん肺症(黒肺塵症、珪肺症及び石綿肺症など)が含まれる)、急性肺傷害(ALI)、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)もある。診断は、国立心臓・肺臓・血液研究所専門家パネル報告3:喘息の診断及び管理のためのガイドライン(2007)又は慢性閉塞性肺疾患のためのグローバルイニシアチブガイドライン(2015)などの正式なガイドラインに従うことができ、又は治療をする医師の意見において治療を正当化するのに十分な疾患の可能性を示す徴候及び症候の任意の組み合わせに基づくことができる。メカニズムの理解は本発明の実施に必要ではないが、このような疾患は、ムスカリン性アセチルコリンレセプターによって少なくとも部分的に媒介されると考えられている。
【0072】
組成物は、好ましくは、GMP条件下で製造され、好ましくは滅菌である(アメリカ合衆国薬局方第797章、第1072章、及び第1211章;カリフォルニア会社及び職業規則集4127.7(California Business & Professions Code 4127.7);カリフォルニア規則集第16巻1751(16 California Code of Regulations 1751)、連邦規則集第21巻211(21 Code of Federal Regulations 211))。
【0073】
組成物は、呼吸器疾患を治療するのに有効なレジメンで投与される。有効なレジメンは、治療されている症状の少なくとも1つの徴候又は症候の重症度又は頻度又は発生を減少させるか、又は治療されている症状の少なくとも1つの徴候又は症候の悪化を阻害又は遅延させるのに有効な、投与の用量及び頻度を表す。
【0074】
組成物は、投与時の患者の症候に関わらず、繰り返し投与することができる(例えば、1日に1、2、3、又は4回、隔日、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回又は毎月)。組成物はまた、患者の症候に応答して投与することもできる(すなわち、症候の発生が近づいている又は起こっているときに、組成物が投与される)。
【0075】
任意の特定の患者のための用量は、様々な要因に依存する。この要因には、採用される特定の化合物の活性、年齢、体重、身体面積、ボディ・マス指数(BMI)、全体的な健康、性別、食事、投与の時間、投与の経路、排泄速度、薬物の組み合わせ、及び治療を受ける特定の疾患のタイプ、進行、及び重症度が含まれる。使用することができる本明細書に記載される化合物の用量の例は、体重1キログラム当たり約0.1μg~約10mg、又は体重とは無関係に0.001mg~100mgの用量範囲内の有効量である。
【0076】
本組成物は、呼吸器疾患を治療するための任意の他の従来の薬剤と組み合わせて投与することができる。他の薬剤は、イプラトロピウム及びチオトロピウムなどの他のアセチルコリンレセプター阻害剤;又は1又は複数の抗炎症剤、気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤、充血緩和剤又は鎮咳剤を含む。
【0077】
理解を明確にする目的で本発明を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲内で、ある特定の改変を実施してもよいことは明らかであろう。本出願で引用される全ての刊行物、受託番号、ウェブサイト、特許文献などは、それぞれが個々に示されているかのように、参照によりそれらの全体が全ての目的のために本明細書に組み込まれる。異なる時点において、異なる情報が1つの引用に関連する限りにおいては、本出願の有効出願日現在に存在する情報が意図される。有効出願日は、問題の受託番号を開示する最先の優先権出願の日である。文脈から他に明らかでない限り、本発明の任意の要素、実施形態、ステップ、特徴又は態様は、任意の他のものと組み合わせて実施することができる。
【実施例
【0078】
例1
TRN-157及びモメタゾンの微細化
振動フィーダを備えるFluid EnergyのPE Jet-O-Mizer(モデル00)ジェットミルにおいて、120psiの圧力で、窒素雰囲気下で、TRN-157及びモメタゾンの両方の微細化を実施した。
【0079】
開始時の粒子径が、12μmのX50及び40μmのX90であった、TRN-157又はモメタゾンを、3gのアリコートで振動フィーダに移し、1.5g/minの供給速度で、粒子がラインに詰まらないように予防措置をとりながら、微細化した。そして、微細化された材料をHDPEボトルに回収した。粒子の均一な分布を保証するために、これらのボトルを転倒させた。平均粒子径が1.93μmのX50及び3.94μmのX90になるまでこのプロセスを反復した。ここで、表1に示されるように、反復間の差はほとんどなかった。モメタゾンについての類似の結果を表2に示す。粒子径分布はレーザー回折によって決定した。HPLCを用いて、微細化後の化学的純度の変化は検出されなかった。また、熱重量分析によって、物理的又は化学的特性(例えば、結晶形)の変化は検出されなかった(図1)。
【表1】
【表2】
【0080】
例2
本明細書に記載される様々なブレンド実験は、上述の方法によって微細化されたTRN-157及びモメタゾンを利用した。最初のブレンドは、スパチュラを使用してラクトース及びTRN-157をボトルに交互に添加して実施した。次いで、ボトルをTurbulaタイプT2 Fシェーカーミキサー(Glen Mills)に入れ、合計で60分間ブレンドした。この期間中、ボトルを15分ごとに取り出し、軽くたたいてキャップに蓄積している粉末を除去した。ブレンドからサンプルをランダムに取り出し、HPLCによって分析して、ブレンドの均一性に関するTRN-157濃度を決定した。下記の表4の第1のセクションに見られるように、%RSD=3.8%の濃度の良好な均一性が達成された。
【0081】
例3
TRN-157及びモメタゾンとラクトースとのブレンドを、最初に、TRN-157、ラクトース、及びモメタゾンを、スパチュラを使用して容器内へ交互に混合することにより実施した。最初の混合の後、混合物をボトルに移し、TurbulaタイプT2 Fシェーカーミキサーに入れ、合計で60分間ブレンドした。この期間中、ボトルを15分ごとに取り出し、軽くたたいてキャップに蓄積している粉末を除去した。サンプルをランダムに取り出し、HPLCによって分析して、ブレンドの均一性を決定した。この手順は、表3に示されるように、%RSD>5%という高い%RSDによって証明されるように、均一ではないブレンドをもたらした。Turbula又は高せん断ミキサーでの長時間の混合は、%RSDを向上させなかった。
【表3】
【0082】
例4
ブレンドの均一性を向上させるために、別の方法を使用した。スパチュラを使用してラクトース及びTRN-157を交互に添加して、ボトルA中でTRN-157をラクトースとブレンドした。TRN-157ブレンドと同様にスパチュラを使用して、ボトルB中でモメタゾンをラクトースとブレンドした。最初にスパチュラを使用して、ボトルA及びBの内容物を、第3のボトルC内にブレンドし、次いでTurbulaミキサーに入れ、合計で60分間ブレンドした。この期間中、ボトルを15分ごとに取り出し、軽くたたいて、蓄積している粉末を除去した。サンプルをランダムに取り出し、HPLCによって分析して、ブレンドの均一性を決定した。結果を例5において説明する。
【0083】
例5
2%TRN-157及び2%TRN-157/4.4%モメタゾンブレンドの調製及び均一性
例2で説明した手順に従って、正確に計量した400mgのTRN-157及び20gのLactohale(登録商標)ラクトースを使用して、2%TRN-157ブレンドを調製した。60分の最後に、6つの異なる20mgサンプルを採取した。サンプルを1mLのアセトニトリル/水(1:1)に溶解し、TRN-157についてHPLCによって分析し、定量化した。このプロセスは、%RSD≦5%の均一なTRN-157ブレンドをもたらした。例4で説明した手順に従って、正確に計量した400mgのTRN-157、880mgのモメタゾン及び20gのラクトースを使用して、2%TRN-157/4.4%モメタゾンブレンドを調製した。60分の最後に、6つの異なる20mgサンプルを採取した。サンプルを1mLのアセトニトリル/水(1:1)に溶解し、TRN-157及びモメタゾンの両方についてHPLCによって分析した。結果を以下の表4で一覧にしている。表4は、TRN-157/モメタゾンブレンドが、TRN-157について2.3%、モメタゾンについて2.5%の優れた均一性を有することを示している。
【表4】
【0084】
例6
次世代インパクターによる空気力学的粒子径の決定
DPIにおけるブレンドの性能を決定するための試験を、safetech環境制御チャンバーの内側に誘導ポート及びプリセパレータを備える、次世代インパクター(NGI)、MSPモデル170で実施した。10mg又は20mgのTRN-157、モメタゾン、及びラクトースブレンドを装填した、HPMCカプセル、サイズ3において、ブレンドをDPI装置に装填した。装置を作動させ、コントローラを閉じた後に粒子を分散させ、真空にした。粒子は、粒子径に基づいて異なる距離を移動し、適切な距離に配置された回収カップに回収された。7つの段階に対応するカップを回収し、HPLCを使用してそれらの内容物を分析した。微粒子用量(FPD;段階3-7の薬物の総量と段階2の量の一部分であり、<4.6μmの直径の粒子に対応する)及び微粒子割合(FPF;FPDを放出された用量で割ったもの、パーセントとして表される)は、ヒトの肺に到達する薬物の量に対応する。
【0085】
例7
例6に説明した手順を使用して、2つの異なるラクトース担体中の、モメタゾンを含むTRN-157ブレンドの粒子径分布を決定した。表5及び表6の結果は、TRN-157について、Lactohale(登録商標)200を担体として使用したときに、FPFが、>30%(ほぼ40%)であったが、Respitose(登録商標)SV003を担体として使用したときは30%未満であったことを示す。モメタゾンについてのFPFもまた、実質的に向上した(Lactohale(登録商標)では44%、Respitose(登録商標)では25%)。したがって、Lactohale(登録商標)200は許容される担体であるが、Respitose(登録商標)SV003は許容されない。
【表5】
【表6】
【0086】
例8
担体としてのLactohale(登録商標)ラクトースの量を変化させた(10mg及び20mg)2つのTRN-157ブレンドの粒子径分布を、最初に、例2において説明した手順を使用してブレンドを作製し、次いで例6において説明した手順に従って粒子径分布を決定することによって決定した。表8及び9に示されるように、結果は、50μgのTRN-157について、10mgのラクトースを使用したブレンドが、はるかに高い微粒子割合を有することを示した。20mgよりも10mgのラクトースを使用することで、TRN-157についてより良好なFPFが得られることは、TRN-157とモメタゾンとのブレンドにおいてもそうであった。
【表8】
【表9】
【0087】
例9
ブレンド安定性
安定性研究は、TRN-157及びモメタゾンの化学的安定性、及び外観、粒子径分布及び含水量などの物理的特性の両方を検討する。例2及び例4において説明した手順を使用して、TRN-157及びモメタゾンの量を変化させた異なるブレンドを作製した。次いで、ブレンドを、温度及び湿度の制御されたチャンバーに入れた。次いで、異なる予め設定された時点(1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月など)でカプセルを取り出し、サンプルをHPLCによって分析し、元の材料と比較して、分解の程度を決定した。例6において説明した手順に従って、粒子径分布もまた決定する。結果は、表10において例示されているように、ブレンドが、室温から80℃までで、少なくとも2週間、非常に安定であったことを示した。また、表11及び図2A-Bに示されるように、1ヶ月後、試験された全ての温度条件及び湿度条件で、粒子径分布もまた変化しなかった。興味深いことに、TRN-157のFPFが、単独で使用された場合と比較して、モメタゾンとのブレンド中にあった場合に、35-40%から>60%に向上した。そして、モメタゾンのFPFもまた>60%で高かった(表11中の、初期時点でのFPFを参照されたい)。理論に束縛されるものではないが、TRN-157及びモメタゾンが相互作用し、互いの追加の担体として働いている可能性があると考えられる。
【表10】
【表11】
【0088】
下記の表12に列挙された追加のブレンドもまた、25℃/60%RH及び40℃/75%RH条件での安定性研究の一部であり、定期的な時点で化学的安定性及び粒子径分布について評価されているところであり、今日まで、結果は表11及び12に示されているものと同等である。
【表12】
【0089】
ブレンドは、粉末であり、DPI装置において使用されるタイプのカプセル中に保存されている。25℃/60%RHで12ヶ月保存した後、カプセル中の粉末は、凝集体又は異質な微粒子のない白色の自由流動性粉末のままであったことから、物理的に安定であった。ブレンドのカールフィッシャー分析は、~4.8%の初期含水量(主としてラクトース担体から来るもの)をもたらした。12ヶ月後の全てのブレンドについて、含水量は初期時点の0.6%以内であり、顕著な水吸収がないことが示された。全てのブレンドは極めて化学的に安定であり、関連する物質(例えば、分解物)を表す全てのピークは、全ての時点で、検出されなかったか、定量限定を下回っていたか、又は≦0.1%であった。4Lの空気を引くための2.4秒の臨界流コントローラ時間で、100LPMで測定された、RS01カプセルDPI(Plastiape)から送達された用量は、様々な異なるブレンドについて~70%であった。そして、12ヶ月の安定性期間中に、減少傾向は見られなかった。空気力学的粒子径分布は、TRN-157及びモメタゾンについて、様々なブレンドにおいて、約2.4μmで、同等であった。そして、12ヶ月で、例えば0.4μmだけ、わずかに増加した。以下の表13及び14は、7段階NGI及びプリセパレータで測定した、各時点での各ブレンドのTRN-157及びモメタゾンのFPFを示す(25℃/60%RH保存)。結果は異なるブレンド間で幾分異なっていたが(特に初期時点に関して)、概して、初期から、最終の12ヶ月の時点までに、約10%以下の減少しか見られなかった。
【表13】
【表14】
【0090】
現在好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明から逸脱することなく様々な改変をすることが可能であることを理解されたい。文脈から他に明らかでない限り、本発明の任意のステップ、要素、実施形態、特徴又は態様は、任意の他のものと共に使用することができる。引用された、受託番号などを含む全ての刊行物、特許及び特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許及び特許出願が具体的に且つ個々に示されて参照によりその全体が全ての目的のために組み込まれたかのように、参照によりそれらの全体が全ての目的のために本明細書中に組み込まれる。単語「本明細書中(herein)」は、単に単語「本明細書中(herein)」が出現するセクション内だけでなく、この特許出願中のいずれかの場所を指すものとする。
図1
図2