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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】部分粘着シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220127BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220127BHJP
   C09J 123/22 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
C09J123/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020077762
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165365
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】303059576
【氏名又は名称】有限会社エムテー工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦憲
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-167281(JP,A)
【文献】特開平06-000435(JP,A)
【文献】特開平11-114925(JP,A)
【文献】特開2007-099936(JP,A)
【文献】特開2009-035690(JP,A)
【文献】特開2010-106648(JP,A)
【文献】特開2005-139744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状支持体に型部材を重ね合わせ、型部材の上に25℃における剪断貯蔵弾性率が1×103~1×106Pa、かつ、100℃における剪断貯蔵弾性率が1×102Pa以上、25℃における損失正接(tanδ)が0.1~0.9である粘着剤を生地出しして重ね合わせた後、型部材を取り除き、前記シート状支持体に厚さ0.3~2.0mmの粘着層を形成することを特徴とする部分粘着シートの製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の型部材が、開孔率20~85%のフラットメッシュ、プラスチックシート又は紙であることを特徴とする部分粘着シートの製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の型部材が、厚さ10~100μm、かつ、幅3~30mmのフラットヤーンで構成されたフラットメッシュであることを特徴とする部分粘着シートの製造方法。
【請求項4】
前記請求項1、2又は3に記載の粘着剤にブチルゴムが含まれていることを特徴とする部分粘着シートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状支持体に粘着剤層を縞状に成型した部分粘着シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜防水工法やシート防水工法において、下地との接着界面に残存していた水分や溶剤等が太陽熱で暖められて気化・膨張し、防水層が膨れて下地から剥がれてしまう問題がある。
【0003】
この問題を解決するために、接着界面に通気のための空隙(以下通気路という)を作っておき発生した気体を脱気筒へ導いて膨れを防止するという通気緩衝シートの発明が多く出願されている。
【0004】
例えば、合成繊維製不織布の繊維目を通気路として利用する方法、通気路となる溝を設けた部材を貼りつける方法、粘着剤を帯状に成型しその間の溝を通気路とする方法等の提案がなされている。
【0005】
しかしながら、合成繊維製不織布を使用する場合は、十分な通気性を確保する為には繊維目が粗いもの、すなわち密度が小さくて分厚いものを使用しなければならず、低強度ゆえ層間破壊が起こりやすいし、溝加工を施した部材は防水材を施工する前に貼り付けておかなければならないので余分な工程や工期を要し作業が煩雑である。また、帯状に成型して粘着剤間の溝を通気路とする工法が提案されているが、溝と直交する方向の通気性を確保するために合成繊維製不織布を貼り合わせており、やはり上述のような合成繊維不織布の強度不足問題を孕んでいる。
【0006】
上記のような問題点を解決する手段として、接着剤として機能する粘着層を縞状に配置するのが望ましく、次のような部分塗工方法が提唱されている。
【0007】
特開平3-167281には、縞状ピッチを有する櫛歯状のかき落とし刃を用いてコーティングロールの表面に付着させた粘着剤をかき落とし、基材シート上に転写する方法、特開平6-435号公報には、粘着剤が吐出するダイの隙間を部分的に閉めておく方法、特開平11-114925号公報には、リバースコーターやコンマコーターに条線状ナイフを取り付ける方法やシルクスクリーンやグラビアコーターによって乾燥後厚さ15~150μmの粘着層を部分的に形成させる記述、特開2007-99936号公報には、流動性粘着剤を乾燥後の厚さが20~180μmになるよう塗工した粘着シートを凹凸型と圧力受け面で挟み、粘着層に薄い部分と厚い部分を形成させる方法、特開2009-35690号公報には、パターン塗工、ランダム塗工、スジ状塗工、ドット状塗工等によって硬化後厚さ2~100μmの粘着層を部分的に形成させる方法等である。
【0008】
また、グラビア塗工、コンマ塗工、ナイフ塗工、ファウンテンダイ塗工、シルクスクリーン塗工、捺染等、公知の印刷や染色手法も粘着剤の部分塗工に実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平3-167281号公報
【文献】特開平6-435号公報(段落番号0007)
【文献】特開平11-114925号公報(段落番号0026~0027)
【文献】特開2007-99936号公報(段落番号0010、0027
【文献】特開2009-35690号公報(段落番号0036~0037)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような方法によって部分塗工が可能な粘着剤の性状は、水や溶剤を含んだ液状や溶融液状を呈する無溶剤型ホットメルトタイプ等で、主にラベルや包装用粘着テープに使われる低粘度で流動性が大きいものに限られている。
【0011】
例えば、常温での塗工が可能な水系や溶剤系粘着剤は、25℃において500~10000mPa・s、溶融塗工が行われるホットメルト粘着剤は、110~170℃の溶融状態において5000~30000mPa・sであり、いずれも塗工時の粘度は回転粘度計によって測定可能な流動性を有している。
【0012】
このように低粘度状態で塗工される粘着層は、厚くすると塗工直後に流れてしまうので乾燥や硬化又は冷却後の厚さは最大でも300μm程度しかなく、粘着層間に出来る溝の深さ、すなわち、基材シートと下地との空隙は極めて小さく、貼り付け時の空気の巻き込みを防止する程度の効果はあるものの、通気路としては全く機能しない。
【0013】
また、溶融状態のホットメルト粘着剤を複数の絞り口金を備えたデポジッターを用いて基材シート上に部分吐出する方法も考えられるが、成型直後に流動して厚さを確保できない問題は依然として解決できない。
【0014】
基材シートと下地との間に大きな空隙を作り出すためには、厚みのある粘着層を形成しなければならず、したがって、高粘度の粘着剤を使用する必要があるが、上記のような従来の部分塗工方法は適用できない。
【0015】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたもので、塗工時に流動性がなく粘性と弾性を併せもつ高粘度の餅状粘着剤の塗工方法に関し、厚く塗りつけても成型直後に流れ出すことがなく、かつ、効率よく部分塗工できる方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、シート状支持体に型部材を重ね、その上に押出機や圧延ロール機を用いて高粘度の餅状粘着剤を生地出して押圧し、型部材を取り除いた後、部分粘着層に離型紙をあてがうという製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
シート状支持体としては、高粘度の餅状粘着剤を塗工する工程でかかる張力に耐えうる強度を備えていることが肝要で、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン等の長尺プラスチックシートを用いることができ、その厚さは30~100μmが好ましい。また、ポリ塩化ビニルや加硫ゴムシートを用いることもでき、その厚さは特に限定されない。
【0018】
更に、目付が20~100g/mの合成繊維不織布を用いることもできる。繊維目の空隙に配慮する必要がなく、平滑性や引張強さを高めたペーパーライクなタイプが好ましい。
【0019】
型部材は、縞状に配置する粘着層の形状に相応した開孔部を有する長尺シート(以下開孔シートという)を用いる。
【0020】
開孔シートとしては、厚さ10~100μm、幅3~30mmのポリオレフィンフラットヤーンを縦横に配列させたフラットメッシュや厚さ10~100μmのポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムや坪量50~80g/mの紙等に、孔開け加工を施したものが使用できる。
【0021】
開孔率は、20~85%の範囲にあることが好ましく、30~75%がより好ましい。開孔率が20%以下の場合、隣り合う粘着層の間隔が広いので通気路は大きく気体の流通性は向上するものの、下地への接着面積が小さく防水層の浮きや剥がれの原因になる。一方、開孔率が85%以上の場合、シート状支持体と下地との接着面積が大きく下地への接着性は向上するものの、隣り合う粘着層間が狭いので通気路は小さくなってしまい、防水層の膨れを抑制する機能は低い。
【0022】
開孔シートとして紙を使用する場合、ポリエチレン等で表面加工を行ったグラシン紙や破断強度を高め重包装用途に用いられるクルパック紙等が望ましく、プラスチックフィルムよりも概して耐熱性に優れているので、粘着加工時にかかる熱による変形が起こりにくく製造作業性がよい。
【0023】
また、剥離剤を塗工したフィルムや紙を開孔シートとして使用すれば、粘着剤を分離して再利用が可能であり経済的である。
【0024】
開孔部の形状は、矩形、ひし形、多角形、円形、楕円形等で、特に限定されるものではなく、配置も限定されない。特に延伸フィルムの強度は一方向に弱く、開孔部の隅から裂けやすいので円形又は楕円形が望ましく、また、孔開け加工もし易い。
【0025】
開孔部が円の場合、その直径は30~70mm、間隔は20~100mmが望ましく、好ましい開孔率に相応して直径と間隔や配列を選定すればよい。また、本シートの左右両端部において非接着部が連続して現れることを防止するため、千鳥状に配列させることが好ましい。
【0026】
高粘度の餅状粘着剤としては、粘着性防水シートや粘着性防水テープとして施工実績が豊富なゴム系や改質アスファルト系等が使用でき、これらの動的粘弾性測定法(周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、試料の厚さ:1mm、パラレルプレート:20mmφ)によって実測した剪断貯蔵弾性率G’は、25℃において2.51×10~1.00×10Pa、100℃において2.40×10~1.55×10Pa、25℃における損失正接(tanδ)は、0.20~1.00であった。
【0027】
剪断貯蔵弾性率G’は、25℃において1×10~1×10Paの範囲にあることが好ましく、1×10~1×10がより好ましい。1×10Pa以下であると柔らかすぎてコールドフローを起こしやすく経時に伴って変形しやすいし、1×10以上であると硬すぎて粘着性に乏しく、施工時にプライマーを使用しても下地に対する接着力は不十分である。また、100℃における剪断貯蔵弾性率G’は、1×10以上が好ましく、1×10以上がより好ましい。1×10Pa以下であると開孔シートを取り除いた直後に型崩れして流れ出しやすいので好ましくない。上限は特に限定されない。
【0028】
損失正接(tanδ)は粘着力と凝集力の適度なバランスを考慮すると、25℃において0.1~0.9の範囲にあることが好ましく、0.2~0.8であることがより好ましい。0.1以下になると粘着性に乏しく、特に冬季における接着性に問題が起こりやすいし、0.9以上になると粘着力は強いが型崩れし易くなる。
【0029】
とりわけ、耐久性に優れ、広い温度域で安定した粘着性を発揮し、コールドフローを起こしにくいので保形性に優れ、経時に伴う変形が少ないブチルゴム系粘着剤が最も好ましい。このものの配合及び物性の一例を表1及び表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
縞状に形成される粘着剤層の厚さは0.3~2.0mmが好ましく、0.5~1.5mmがより好ましい。0.3mm以下では粘着層間に出来る溝の深さ、すなわち、シート状支持体と下地との空隙は極めて小さく、通気路としては機能しない。また、2.0mm以上になると長年月が経つにつれて粘着層の変形を起こす危険性がある。
【0033】
部分粘着層にあてがってロール状に巻き取る際の離型紙としては、クラフト紙、グラシン紙、クルパック紙等にシリコーン樹脂を塗工した汎用離型紙が使用できるが、巻き取り時に内径外径の差によるしわの発生を防止するため、クレープ加工されたものが望ましい。また、ポリオレフィンやポリエステル等のプラスチックフィルムに剥離処理を施した離型フィルムを用いると、工事現場で剥離時に破れたり裂けたりする危険性が少なく施工性を向上させることができる。
【0034】
本部分粘着シートを施工する場合、離型紙を捲り取りながら下地に押圧するだけでよいが、予め専用プライマーを塗布しておけばより強固に接着できる。
【0035】
また、部分粘着層は下地に対する接着機能の他に、下地の動きや発生するクラックの挙動を吸収してその影響が仕上がり面に現れることを防止する効果も兼ね備えている。
【発明の効果】
【0036】
低粘度の粘着剤でのみ成し得なかった部分塗工が、開孔シートを重ねて生地出しした後にこれを取り除くという方法によって、高粘度の餅状粘着剤でも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明による部分粘着層の塗工方法を模式的に表した図
図2】本願明細書での実施例1によって製造した部分粘着シートの斜視模式図
図3】開孔シート「フラットメッシュ」の平面模式図
図4図3のA-A’断面(図1に記載の1-2に相応)
図5】開孔シート「孔開きプラスチックシート又は紙」の平面模式図
図6】本願明細書での実施例1によって製造した部分粘着シートを塗膜防水工法の通気緩衝シートとして使用した場合の概略斜視模式図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に基づく実施例につき説明する。
【実施例1】
【0039】
ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製、商品名:エステルフィルム、品番:E-5100、厚さ50μm、幅1100mm)をシート状支持体とし、その片面に図3に示した形状のフラットメッシュ(住化積水フィルム株式会社製、商品名:ソフ、品番:HL0.7 0.7、縦横とも幅6mmのポリエチレンヤーンを、縦横とも3インチ当たり2本のピッチで直交させ交点を融着したもの。開孔率:71%)を重ね合わせ、該フラットメッシュ上にカレンダーロール機を使って表1に示した配合のブチルゴム系粘着剤を厚さ1.0mm、幅1000mmに生地出して押圧し、該フラットメッシュを取り除いた後、その上から離型紙をあてがってロール状に巻き取った。厚さ1.0mm、1辺が約32mmの正方形粘着層を縦横6mmの間隔をあけて配列させた部分粘着シートを得た。粘着層の型崩れは見られなかった。
【実施例2】
【0040】
実施例1と同様のポリエステルフィルムの片面に、厚さ50μm、幅1000mmのポリプロピレンフィルム(サントックス株式会社製、品番:CPP-KT)に図4に示したような角千鳥形状(円の直径:50mm、開孔率:33.5%)に孔開け加工したフィルムを重ね合わせ、該フィルム上に実施例1と同様の粘着剤を厚さ0.7mm、幅1000mmに生地出しして押圧し、該フィルムを取り除いた後、その上から離型紙をあてがってロール状に巻き取った。厚さ0.7mm、直径50mmの円形粘着層を千鳥状に配列させた部分粘着シートを得た。粘着層の型崩れは見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
このようにして得られた部分粘着シートは、シート状支持体の表面にポリウレタンやFRP等の塗膜防水材を施工して通気緩衝シートとして用いることができる。更に、シート状支持体として加硫ゴムやポリ塩化ビニル製防水シートを使用すれば、下地への接着と通気緩能を併せもったシート防水工法として有用で、大幅な工期短縮がはかれる。また、シート状支持体の表面に全面にわたって粘着加工を施しておけば、屋根仕上材の貼着施工が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1:本発明による部分粘着層の塗工方法を模式的に表した図
1-1:シート状支持体
1-2:開孔シート
1-3:粘着剤
1-4:離型紙
1-5:圧延ロール機
1-6:押さえロール
1-7:開口シートの取り除き
1-8:部分粘着シートの巻き取り
2:本願明細書での実施例1によって製造した部分粘着シートの斜視模式図
2-1:シート状支持体
2-2:部分粘着層
2-3:離型紙
2-4:巻き心
3:開孔シート「フラットメッシュ」の平面模式図
3-1:開孔部
3-2:ポリオレフィンヤーン
4:図3のA-A’断面
4-1:開孔部
4-2:ポリオレフィンヤーン
5:開孔シート「プラスチックフィルム又は紙」の平面模式図
5-1:開孔部
5-2:プラスチックフィルム又は紙
6:本願明細書での実施例1によって製造した部分粘着シートを塗膜防水工法の通気緩衝シートとして使用した場合の概略斜視模式図
6-1:塗膜防水層
6-2:シート状支持体
6-3:部分粘着層
6-4:通気路
6-5:下地
図1
図2
図3
図4
図5
図6