(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】結露検出素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220127BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G01N27/416 311J
G01N27/30 B
G01N27/30 F
(21)【出願番号】P 2020555665
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044040
(87)【国際公開番号】W WO2020100778
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018212358
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】川喜多 仁
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-151524(JP,A)
【文献】特開昭59-083044(JP,A)
【文献】特開昭62-066150(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150903(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147358(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/020207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の細線電極と、
第2の細線電極とを並置し、前記
第1の細線電極と前記
第2の細線電極間を流れる電流によって、前記
第1の細線電極と前記
第2の細線電極に接触する水滴の有無を検出する結露検出部と、
前記水滴による結露の検出を電気信号として出力する出力部を少なくとも有する周辺回路部からなり、
前記第1の細線電極の材料は、第1の金属、並びに炭素およびその同素体からなる群から選択され、
前記第2の細線電極の材料は、前記第1の金属とは異なる第2の金属であり、
前記結露検出部は第1の基板部上に形成されており、
前記周辺回路部は第2の基板部上に形成されており、
前記第1の基板部は前記第2の基板部より熱伝導率が高く、かつ熱容量が小さい、結露検出素子。
【請求項2】
前記第1の基板部は、前記第2の基板部より単位面積当たりの熱伝導率が高く、かつ単位面積当たりの熱容量が小さい、請求項1
に記載の結露検出素子。
【請求項3】
前記第1の基板部は、被測定物と直接接触する構造を有する、請求項1または2に記載の結露検出素子。
【請求項4】
前記第1の基板部は、ヒートシンク部を有する、請求項1または2に記載の結露検出素子。
【請求項5】
前記第1の基板部は、被測定物と接触する側を除いて、前記第1の基板部より熱伝導性の低い部材で囲われている、請求項1から4の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項6】
前記第1の基板部は、前記第2の基板部によって周囲を囲われている、請求項1から5の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項7】
前記第1の基板部は、前記第2の基板部と場所的に分かれて配置されている、請求項1から6の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項8】
前記第1の基板部の厚さは、前記第2の基板部の厚さより薄い、請求項1から7の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項9】
前記結露検出部は、前記周辺回路部とボンディング配線により電気的に繋がれている、請求項1から8の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項10】
前記周辺回路部は、電気信号増幅部、電流電圧変換部、アナログデジタル信号変換部、0/1信号への2値化部、無線伝送部、信号端子部および電源部の群から選ばれる1以上を有する、請求項1から9の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項11】
前記第1の金属は、金、白金、銀、チタンおよびこれらの合
金からなる群から選択される、請求項1から10の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項12】
前記第2の金属は、銀、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、コバルト、アルミニウム、スズ、クロム、モリブデン、マンガン、マグネシウムおよびこれらの合金からなる群から選択される、請求項1から11の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項13】
前記
第1の細線電極と前記
第2の細線電極との間隔は、5nm以上200000nm以下である、請求項1から12の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項14】
前記
第1の細線電極と前記
第2の細線電極の少なくとも一方は複数本設けられ、
前記
第1の細線電極と前記
第2の細線電極とは互いに対向する方向から相手側に向かって伸びることにより、互いに平行に併走する、請求項1から13の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項15】
前記第1の基板部は、アルミニウム、銅、シリコン、ダイヤモンドおよびグラファイトの群から選ばれる1以上、あるいはアルミニウム、銅、シリコン、炭素の群から選ばれる1以上を含む合金または化合物の上に絶縁膜が形成された部材を有する、請求項1から14の何れか1に記載の結露検出素子。
【請求項16】
前記第2の基板部は、樹脂、ガラス、およびセラミックの群から選ばれる1以上の部材を有する、請求項1から15の何れか1に記載の結露検出素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結露検出素子に係り、特に被測定物上の結露を高感度、高精度かつ迅速に測定する結露検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
物の表面に結露が起こると、カビやサビの発生の基になったり、光が散乱したりする。 例えば、壁の場合は、結露による水分の存在下で壁材やその表面に付着したコンタミを養分にしてよくカビが発生し、金属の場合には、腐食によりサビが発生する。食品庫内で結露が生じると食品の味や品質が落ちたりする。また、食品にカビが発生しやすくなるなどの衛生上の問題も起こしやすくなる。また、窓などの透明部材に結露が起こると曇りが発生する。高湿などでレンズに結露が起きると、レンズに入射する光が散乱され、像が歪むなどのレンズの結像性能の低下が起こる。結露による1つ当たりの水滴の寸法が小さい場合は、フレアがかかったような状態になって結像のコントラストが低下する。
【0003】
このような問題が起こるため、結露を起こさないようにすることが往々にして求められるが、必要以上に常時除湿を行うのは設備的にも省エネルギーの観点からも好ましくない。
したがって、結露を正確かつ迅速(高応答)に検出することが肝要になる。正確かつ迅速に結露の発生を検知できれば、効率的に結露対策を行うことが可能になり、省エネルギーにもつながる。ここで、結露の正確な検知とは、結露を高感度かつ高精度に検知することを意味する。
【0004】
結露を検出する一つの方法として、よく湿度がモニターされる。
【0005】
湿度をモニターするためのセンサー(湿度センサー)としては、例えば、センサー素子(乾湿応答部)の電気抵抗値(インピーダンス)または静電容量の変化に応じて湿度を検知するセンサーが知られている。
電気抵抗式の湿度センサーは、一般に、センサー素子の乾湿応答材料として高分子やセラミックなどが用いられており、材料が安価であることや構造がシンプルであるため量産による低コスト化が可能である。しかしながら、電気抵抗式湿度センサーは、経時変化が非常に大きく、多くの場合、温度依存性も大きいため、温度補正が必要である。さらに、電気抵抗式湿度センサーは、精度のばらつきが大きく(±5~15%RH程度)、応答も遅い(30秒~数分以上)。
静電容量式の湿度センサーは、一般に、センサー素子の乾湿応答材料として高分子膜が用いられており、電気抵抗式と比較して応答速度が速く(通常数秒~10秒前後)、精度・再現性・信頼性に優れているが、生産コストが高いという問題がある。
さらに、電気抵抗式および静電容量式のいずれの湿度センサーの場合でも、相対湿度100%、すなわち完全に結露し、いわゆる浸水した状態では、適切に計測できないことに加え、乾燥状態に戻らず、使用不能となることがある。さらに、センサーを駆動するための外部駆動電源を必要としており、装置が大型、複雑化している。
【0006】
このように、湿度センサーにはいろいろな課題がある。その上で、湿度センサーは結露を直接検出する方法ではないため、結露を正確かつ迅速に測定することが本質的に難しいという問題がある。
例えば、食品庫内の結露を検知するために湿度をモニターした場合、高精度かつ迅速(高速、高応答)に湿度がモニターされたとしても、湿度と結露が必ずしも1:1の関係があるわけではないので、結露が正確かつ迅速に検知されるわけではない。すなわち、結露は、湿度に加え、空気中の異物や結露が起こる物体面の汚れ、形状、疎水性など様々な要因の影響を受けて発生するので、湿度のみのモニターでは結露を正確かつ迅速には検知できない。
【0007】
一つの方法としては、湿度に加え、結露に関する様々な要因も合わせてモニターして結露を検知する方法もあるが、より直接的な方法として、結露で生じた液滴(水滴)を検出する方法がある。
この液滴検出の方法は、液滴の直接測定であるため、結露の正確かつ迅速な測定に適するポテンシャルを有する。なお、液滴の検出器は、例えば特許文献1および特許文献2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2016/13544A1
【文献】国際公開WO2017/020930A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、液滴検出器で結露をモニターしてみると被測定物上の結露と検出器の液滴検知結果とは必ずしも一致せず、結露検知の精度、迅速性(高速性、応答性)とも必ずしも満足できるものではなかった。
本発明の課題は、被測定物上の結露の正確かつ迅速な測定、検出を行うことができる結露検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
第1の金属の細線電極と、前記第1の金属とは異なる第2の金属の細線電極とを並置し、前記第1の金属の細線電極と前記第2の金属の細線電極間を流れる電流によって、前記第1の金属の細線電極と前記第2の金属の細線電極に接触する水滴の有無を検出する結露検出部と、
前記水滴による結露の検出を電気信号として出力する出力部を少なくとも有する周辺回路部からなり、
前記結露検出部は第1の基板部上に形成されており、
前記周辺回路部は第2の基板部上に形成されており、
前記第1の基板部は前記第2の基板部より熱伝導率が高く、かつ熱容量が小さい、結露検出素子。
(構成2)
前記第1の基板部は、前記第2の基板部より単位面積当たりの熱伝導率が高く、かつ単位面積当たりの熱容量が小さい、構成1記載の結露検出素子。
(構成3)
前記第1の基板部は、被測定物と直接接触する構造を有する、構成1または2に記載の結露検出素子。
(構成4)
前記第1の基板部は、ヒートシンク部を有する、構成1または2に記載の結露検出素子。
(構成5)
前記第1の基板部は、被測定物と接触する側を除いて、前記第1の基板部より熱伝導性の低い部材で囲われている、構成1から4の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成6)
前記第1の基板部は、前記第2の基板部によって周囲を囲われている、構成1から5の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成7)
前記第1の基板部は、前記第2の基板部と場所的に分かれて配置されている、構成1から6の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成8)
前記第1の基板部の厚さは、前記第2の基板部の厚さより薄い、構成1から7の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成9)
前記結露検出部は、前記周辺回路部とボンディング配線により電気的に繋がれている、構成1から8の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成10)
前記周辺回路部は、電気信号増幅部、電流電圧変換部、アナログデジタル信号変換部、0/1信号への2値化部、無線伝送部、信号端子部および電源部の群から選ばれる1以上を有する、構成1から9の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成11)
前記第1の金属は、金、白金、銀、チタンおよびこれらの合金、並びに炭素からなる群から選択される、構成1から10の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成12)
前記第2の金属は、銀、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、コバルト、アルミニウム、スズ、クロム、モリブデン、マンガン、マグネシウムおよびこれらの合金からなる群から選択される、構成1から11の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成13)
前記第1の金属の細線電極と前記第2の金属の細線電極との間隔は、5nm以上200000nm以下である、構成1から12の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成14)
前記第1の金属の細線電極と前記第2の金属の細線電極の少なくとも一方は複数本設けられ、
前記第1の金属の細線電極と前記第2の金属の細線電極とは互いに対向する方向から相手側に向かって伸びることにより、互いに平行に併走する、構成1から13の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成15)
前記第1の基板部は、アルミニウム、銅、シリコン、ダイヤモンドおよびグラファイトの群から選ばれる1以上、あるいはアルミニウム、銅、シリコン、炭素の群から選ばれる1以上を含む合金または化合物の上に絶縁膜が形成された部材を有する、構成1から14の何れか1に記載の結露検出素子。
(構成16)
前記第2の基板部は、樹脂、ガラス、およびセラミックの群から選ばれる1以上の部材を有する、構成1から15の何れか1に記載の結露検出素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被測定物上の結露の正確かつ迅速な測定、検出を行うことができる結露検出器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図3】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図4】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図5】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図6】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図7】本発明の結露検出素子の構造を示す概要図で、(a)は平面図、(b)は断面図。
【
図8】結露検出部の電極配置の実施例を示す平面図。
【
図9】結露検出部温度の経過時間依存性を示す特性図。
【
図10】被測定物の温度と検出電流の関係を示す特性図。
【
図11】結露検出素子の特性を評価する評価装置の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下本発明を実施するための第1の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0014】
結露は、微視的にみると、被測定物上に微小な液滴(水滴)が多数形成された現象である。
このため、発明者は、微小な液滴を検出する液滴センサー(液滴検出素子)を用いて結露の検出を試みた。
【0015】
しかしながら、目視観察によって確認した被測定物上の結露発生時点と、液滴センサーにより検知された結露発生時点は一致しなかった。当初、この結露発生時点のずれは、検出する液滴の大きさの差と考えて様々な評価を行ったが、そのずれを解消することはできなかった。さらに詳細な検討を行ったところ、結露発生の検知タイミングがずれているばかりではなく、結露自体の検知にも目視と液滴センサーとでは異なる場合があることがわかった。
【0016】
詳細に検討したところ、このずれの原因が、液滴センサーの液滴を検知する部分の温度と被測定物の温度が異なっているためであることを見出した。さらに詳細な検討を行った結果、たとえ液滴センサーの温度を被測定物の温度と一致させても、周辺回路などからの熱の影響を受けて、液滴センサーの液滴を検知する部分の温度と被測定物の温度が異なり、そのことにより、液滴センサーにより結露を正確に検知できていないことがわかった。
【0017】
本発明の結露検出素子は、上記知見を基に、被測定物上と液滴(水滴)を検知する部分の温度が結露検出上許容できる範囲に収まる構造を有するように構成された結露検出素子であり、被測定物上の結露を高精度、高感度かつ高い応答性(高速性)をもって検出可能な結露検出素子である。
【0018】
本発明の結露検出素子101は、
図1に示すように、第1の基板10(第1の基板部10)上に形成された結露検出部111と、第2の基板20(第2の基板部20)上に形成された周辺回路部112を有する。ここで、
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のAとA′を結んだ部分の断面図である。
ここで、第1の基板部10は、第2の基板部20より熱伝導率が高く、かつ熱容量が小さい。その上で、第1の基板部10は第2の基板部20と空間的に離れている。このため、結露による水滴を検出するところの温度は周辺回路からの発熱による影響を受けにくい。
また、第1の基板部10は、被測定物30上に直に形成された構造になっている。このため、結露による水滴を検出するところの温度は被測定物の温度とほぼ同じになる。
以上のことから、結露検出素子101は、被測定物上の結露を高精度、高感度かつ高い応答性(高速性)をもって検出可能な結露検出素子になる。
【0019】
結露検出部111には、第1の金属の細線電極(第1の細線電極)14と第1の金属とは異なる第2の金属の細線電極(第2の細線電極)15が並置された水滴の有無を検出する水滴検出部が配置される。ここで、第1の細線電極14は、第1の基板部10上に配置された第1の電極11に電気的に繋がれており、第2の細線電極15は、第1の基板部10上に配置された第2の電極12に電気的に繋がれている。
【0020】
水滴が第1の細線電極14と第2の細線電極15とに接触するように被着・形成されると、金属間の電気化学ポテンシャル差により、
図2に示すように、第1の細線電極14と第2の細線電極15の間にガルバニ電流が流れる。本発明の結露検出素子101では、このガルバニ電流をモニターして、結露を検知する。
水は超純水状態では導電率が低く絶縁的であるが、少なくとも10
‐7mol/Lずつ存在する水素イオンおよび水酸化物イオンやコンタミなどにより微量の電解成分が含まれると、計測可能なガルバニ電流が流れる。
【0021】
ここで、第2の細線電極15は、チタン酸化物などの半導体とすることもできる。半導体にした場合は、半導体に光が当たると光電効果により電気化学ポテンシャルの差が発生し、第1の細線電極14と導電性の液体で繋がれた第2の細線電極15の間に電流が流れる。
【0022】
この構造では、電極の幅が狭い電極、すなわち細線電極にすることにより、水滴検出部の面積に対して両電極が近接して対向している部分を長くすることができる。そして、このことにより電池容量の増大、すなわち取り出すことができるガルバニ電流を増大させることができる。
このような細線電極同士を平行に配置することで、細線電極間の近接部分の長さ(以下、併走距離と称する)を増大させる構成としては、例えば、櫛形構造や、二重渦巻き構造を挙げることができる。一定の平面領域内で2つの電極の併走距離をできるだけ長くするための構造自体は半導体素子分野等でよく知られているので、そのような構造も必要に応じて採用してもよい。なお、本発明において、「細線電極を基板上に並置する」とは、基板上に置かれる複数の細線電極の相互の向きを特定するものではなく、細線電極を基板の同一平面上に離間させて配置することをいう。
【0023】
第1の細線電極14の材料としては、第1の細線電極14をカソードとする場合、例えば、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、チタン(Ti)およびこれらの合金、並びに炭素(C)およびその同素体を挙げることができる。
第2の細線電極15の材料としては、第2の細線電極15をアノードとする場合、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびこれらの合金を挙げることができる。ただし、第1の細線電極14として銀またはその合金を用いる場合には、第2の細線電極15の材料としては銀およびその合金以外を用いる。
【0024】
当然ながら、出力(電流)は細線電極の金属材料の組合せに依存する。例えば銀/鉄と金/銀とでは、銀/鉄の組み合わせの方が同じ面積当たりの腐食速度が大きいため、得られる電流値が大きくなる。一方で、金/銀の方は、電極の消耗が少ないため長寿命になる。ここで、銀は水滴を検出する場所にカビが発生するのを防ぐ効果があるので、第1の細線電極14または第2の細線電極15として用いることが好ましい。
なお、第1の電極11は第1の細線電極14と、第2の電極12は第2の細線電極15と同じ材料とすると、結露検出素子101の製造工程が簡単化されるので好ましい。
【0025】
第1の細線電極14と第2の細線電極15との間隔は、5nm以上200000nm(200μm)以下が好ましい。細線電極間の間隔が5nmを下回ると、半導体製造プロセスの適用をもってしても歩留まりは低く、また相対的な間隔バラツキが大きくなって、結露検出感度および精度が低下する。一方で、細線電極間の間隔が200000nmを上回ると、検出する水滴の大きさから、窓の曇り等を引き起こす種の結露を検出するのが難しくなる。
【0026】
第1の細線電極14および第2の細線電極15の電極幅は、50nm以上100μm以下が好ましい。第1の細線電極14および第2の細線電極15の電極幅が50nmを下回ると、電気抵抗が大きくなりすぎて出力を取り出しにくくなり、また経時変化も大きくなりやすいという問題が生じる。断線もしやすくなり、不良発生頻度が高くなる。一方、第1の細線電極14および第2の細線電極15の電極幅が100μmを上回ると、結露検出部111の領域を広くする必要が生じ、結露検出素子101を小型化しにくくなる。
【0027】
第1の細線電極14および第2の細線電極15の厚さは、10nm以上300nm以下が好ましい。第1の細線電極14および第2の細線電極15の厚さが10nmを下回ると、電気抵抗が大きくなりすぎて出力を取り出しにくくなり、また経時変化も大きくなりやすいという問題が生じる。一方、第1の細線電極14および第2の細線電極15の厚さが300nmを上回ると、結露検出部111の熱容量が大きくなるという問題が生じる。
【0028】
第1の細線電極14と第2の細線電極15の間は空間でもよいし、そこに絶縁物が埋め込まれていてもよい。空間の場合は、そこに微小水滴が形成されたとき水溜り状になり、絶縁物が埋め込まれているときはその上に微小水滴が液盛りされた形になる。液盛りの形状はその絶縁物表面の撥水性(水滴の接触角)により制御することが可能になる。
【0029】
なお、結露検出部111において繰り返しガルバニ電流が流れると、第2の細線電極15であるアノード電極の金属がイオン化することでアノード電極(第2の細線電極15)が次第に消耗する。また、多湿かつ塩害の大きな環境で長期間使用することを想定した場合、特に細線電極の敷設密度を高くするために電極を細くした結露検出素子101では、このアノード電極の消耗によって細線電極間距離が次第に大きくなやすく、また細線電極が断線しやすくなる。
【0030】
細線電極の敷設密度を維持したままでこの問題に対処するには、例えばアノード電極(第2の細線電極15)を厚くしたり、あるいはアノード電極の幅を広くし、その代わりにカソード電極(第1の細線電極14)の幅を狭くする等すればよい。
また、細線電極間距離を非常に狭くした場合には、アノード電極の消耗による細線電極間距離のわずかな増大が測定結果に与える影響が大きくなる。このような影響が問題になる場合には、例えば、アノード電極の金属の消耗が原理的にはガルバニ電流の時間積分に比例することを利用して、測定結果に対して補償演算を行うという測定系全体としての対策も可能である。
【0031】
なお、細線電極間距離を狭くしていくと、大気中などに存在する金属粉等の導電性の微粒子が細線電極間に付着して短絡を起こす可能性が高くなる。この問題に対しては、例えば、細線電極の上方面に網の目状物を設け、微粒子が細線電極に到達しないようになどの対策を講じればよい。
【0032】
第1の基板10は、アルミニウム、銅、シリコン、ダイヤモンドおよびグラファイトの群から選ばれる1以上、あるいはアルミニウム、銅、シリコン、炭素の群から選ばれる1以上を含む合金または化合物の上に絶縁膜が形成された部材からなることが好ましい。
これらの材料は基板として十分な剛性をもち、かつ熱伝導率が高いという特徴をもつ。その上で、単位体積当たりの熱容量も比較的小さい。
特に、アルミニウムおよび銅は、適度な柔軟性をもつので、被測定物の測定面が複雑な曲面であってもその曲面にフィッティングさせて被測定物に直付けの接触面を得るのに好適という特徴を有する。このため、薄膜アルミニウムやアルミテープを第1の基板10に用いることも好ましい。
第1の基板10の厚さは、基板としての剛性が得られる範囲で薄い方が、熱伝導性を上げて、かつ熱容量を下げる上で好ましい。例えば、第1の基板10の厚さとしては、50μm以上1500μm以下を挙げることができる。
【0033】
第1の基板10の絶縁膜としては、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化ハフニウム(HfOx)などの酸化膜、窒化膜および酸窒化膜を挙げることができる。
絶縁膜の膜厚は、10nm以上200nm以下が好ましい。絶縁膜の膜厚が10nmを下回ると、絶縁性が不足しやすく、またピンホールなどによる絶縁不良の発生頻度が高くなる。絶縁膜の膜厚が200nmを上回ると、結露検出部111の熱伝導性を高め、また熱容量を下げる上で好ましくない。
【0034】
結露検出部111は、以上述べてきたように、単純な構造で、水滴検出感度を左右する面積に対して、相対的に体積を小さくでき、熱伝導性が高くかつ熱容量の比較的小さな材料で構成することが可能である。このため、結露検出部111は、熱容量を小さくするのに好適な構造となっている。その上で、被測定物との熱伝導性にも優れる。したがって、結露検出部111の温度を被測定物の温度とほぼ等しくすることが容易になるという特徴をもつ。
【0035】
周辺回路部112は、第2の基板20(第2の基板部20)上に形成された少なくとも出力部を有する周辺回路からなる。
実施の形態1では、周辺回路入力電極21,22、周辺回路要部23、出力電極25,26からなり、周辺回路要部23と周辺回路入力電極21,22および出力電極25,26が配線24で電気的に繋がれている場合が周辺回路部112の例として示されているが(
図1)、出力電極25,26は無線出力回路に置き換えることもできる。
【0036】
周辺回路要部23は、結露検出部111にて測定した水滴の電流信号を、結露検知信号として出力する回路を少なくとも含み、電気信号増幅回路(電気信号増幅部)、電流電圧変換回路(電流電圧変換部)、アナログデジタル信号変換回路(アナログデジタル信号変換部)、2値化回路(0/1信号への2値化部)、電源回路(電源部)、無線伝送回路(無線伝送部)および信号端子部の少なくともいずれか1以上を有する。なお、
図1では、信号端子部の一部が、出力電極25,26として、配線24を介して周辺回路要部23の外側に図示されている。
【0037】
第2の基板20は、第1の基板10より低熱伝導率で高熱容量の剛性を有する電気絶縁性の基板である。
具体的な第2の基板20の部材としては、アクリルやポリカーボネートなどの樹脂、石英ガラスやソーダライムガラスのようなガラス、および炭化シリコン(SiC)などのセラミックの群から選ばれる1以上の部材を挙げることができる。
第2の基板20の部材としてはイソプレーンゴム、シリコーンゴムなどのゴムも使用可能である。但し、ゴムの場合は、一般的に配線や電極との密着性が低いので、配線や電極の一部がゴムに埋め込まれる等の密着性を向上させる方法と組み合わせて使用されるのが好ましい。
これらの材料は熱伝導率が比較的低いことで知られている材料である。なお、一般的に、熱伝導率が低い材料は電気的絶縁性も高い。
【0038】
また、第2の基板20は、第1の基板10より単位面積当たりの熱伝導率が低く、かつ単位面積当たりの熱容量は大きい、言い換えれば第1の基板部10は第2の基板部20より単位面積当たりの比較で熱伝導率が高く、熱容量は小さいことが好ましい。
第2の基板20の厚さが第1の基板10の厚さより厚いと、熱伝導性は第1の基板10の方が高めやすく、熱容量は第1の基板10の方が小さくしやすい。このため、第1の基板10の厚さは第2の基板20の厚さより薄い方が好ましい。
【0039】
第1の電極11と周辺回路入力電極21、および第2の電極12と周辺回路入力電極22は、それぞれ配線31,32で電気的に繋がれる。その方法としては、熱伝導性の小さな繋ぎ方が好ましく、例えばその方法としてボンディング配線によって繋ぐ方法を挙げることができる。この場合、配線が細くても十分な電気的接続を行えるので、熱伝導を抑えることが容易となる。その他の方法としては、針当て、クランプ、端子接触などを挙げることができる。この場合は、結露検出部111と周辺回路部112を別々なモジュールコンポーネントとし、被測定物上に配置するときに組み合わせて組み立て配置することも可能になるので、配置の自由度が増すという特徴がある。
【0040】
実施の形態1の結露検出素子101は、
図1に示すように、結露検出部111と周辺回路部112が空間的にも熱的にも分離された構造になっている。その上で、前述のように、第1の基板部10は熱容量が小さく、熱伝導性が高く、かつ被測定物30上に直に形成された構造になっている。発熱源である周辺回路部112は熱伝導性が低く、熱容量は第1の基板部10より大きい。このため、結露による水滴を検出するところの温度は、周辺回路部112が発熱をしても、被測定物の温度とほぼ同じになる。
以上のことから、結露検出素子101は、被測定物上の結露を高精度、高感度かつ高い応答性(高速性)をもって検出可能な結露検出素子になる。
【0041】
(実施の形態2)
ヒートシンクを用いて結露検出部の温度を被測定物30の温度に近づけてもよい。その例を、
図3を参照しながら実施の形態2で説明する。
実施の形態2の結露検出素子102は、第1の基板10と被測定物30の間にヒートシンク16が形成されている結露検出部113を有することを特徴としている。その他は、実施の形態1と同じである。
【0042】
ヒートシンク16は熱伝導性に優れる材料で構成され、具体的な材料としてはアルミニウム、銅、鉄、窒化アルミニウム(AlNx)、窒化シリコン(SiNx)を挙げることができる。
また、ヒートシンク16は、その材料および形状を適当なものとすることにより、結露検出部113の熱容量を所望の値に制御することが可能となる。
【0043】
ここで、ヒートシンク16は、単一の材料に限らず、複数の材料、例えば異なる材料からなる積層材からなってもよい。また、ヒートシンク16の形状は、直方体に限らず、使用環境やその目的に応じて、円柱、ハンマーヘッド、逆ハンマーヘッド、角柱、円錐台、逆円錐台、角柱台、逆角柱台、剣山状などの各種形状とすることも好ましい。例えば、ヒートシンク16として、被測定物30と接触する側(下側)を特に熱容量が低い材料とし、上側は熱伝導性の高い材料で構成した逆ハンマーヘッド形状を挙げることができる。
【0044】
ヒートシンク16を被測定物30に直付けにすることにより、結露による水滴を検出するところの温度は被測定物30の温度とほぼ同じにできるので、結露検出素子102は、被測定物上の結露を高精度、高感度かつ高い応答性(高速性)をもって検出可能な結露検出素子になる。
【0045】
また、結露検出素子102は、ヒートシンク16により、第1の基板10の表面の高さ位置と第2の基板20の表面の高さ位置をほぼ等しくすることができ、第1の電極11と周辺回路入力電極21、および第2の電極12と周辺回路入力電極22との電気的接続が容易になり、またその電気的接続の信頼性を高めることが容易になる。
【0046】
(実施の形態3)
結露検出部は周辺回路部で囲われることも有効である。その例を、
図4を参照しながら実施の形態3で説明する。
実施の形態3の結露検出素子103は、結露検出部111が周辺回路部114によって囲われていること、言い換えれば第1の基板部10が第2の基板20によって囲われていることを特徴とする。第2の基板20は熱伝導性が低い上に、結露検出部111と周辺回路部114が空間的にも、熱的にも隔離されているため、結露検出部111は周辺回路要部23からの発熱の影響を受けにくい。その上で、結露検出部111は、熱容量が比較的大きくて熱伝導性が低い第2の基板20が壁になって風などの外界の影響を避けることができ、被測定物30に近い環境での結露検出が可能になるという特徴を有する。
ここで、
図4では、出力電極に代えて無線出力部29が備えられ、周辺回路要部23と無線出力部29は配線33によって電気的に繋がれ、周辺回路入力電極を周辺回路入力電極28として周辺回路要部23に組み込まれた例を示している。その他は、実施の形態1と同じである。
なお、周辺回路要部23の中の発熱源となる素子(図示なし)は、結露検出部111からなるべく離れた位置に配置されることが好ましい。
【0047】
(実施の形態4)
結露検出部は被測定物30と接触する側を除いて第1の基板10より熱伝導性の低い部材で囲われることも有効である。その例を、
図5を参照しながら実施の形態4で説明する。
実施の形態4の結露検出素子104は、結露検出素子103の構造をベースに開口となっていた結露検出部111の上に通気性熱絶縁膜34が形成され、結露検出部111が被測定物30と接触する側を除いて第1の基板部10より熱伝導性の低い部材で覆われた構造になっている。その他は、実施の形態3と同じである。
この構造は、結露検出素子103よりさらに外界の影響を受けにくい構造となっているので、被測定物30に近い環境での結露検出が可能になるという特徴を有する。
ここで、通気性熱絶縁膜34としては、多孔性ポリウレタン、グラスファイバーなどを挙げることができる。通気性であるため、水滴が形成される環境は被測定物30上とほぼ等しい。
【0048】
(実施の形態5)
結露検出部を周辺回路部で囲い、かつヒートシンクを用いて結露検出部の温度を被測定物30の温度に近づけることも有効である。その例を、
図6を参照しながら実施の形態5で説明する。
実施の形態5の結露検出素子105は、第1の基板10と被測定物30の間にヒートシンク16が形成されている結露検出部113が周辺回路部114によって囲われていることを特徴とする。その他は、実施の形態2と同じである。
この構造は、実施の形態2と実施の形態3を組み合わせた構成で、両実施の形態の足し合わせの効果が得られる。すなわち、結露検出素子105は、外界の影響を受けにくく、被測定物30に近い環境での結露検出が可能になるという特徴を有する。
【0049】
(実施の形態6)
実施の形態6は、
図7に示すように、1つの基板40を用いて結露検出部(第1の基板部)41と周辺回路部(第2の基板部42)を形成した結露検出素子106の例である。基板40の第1の基板部41に対応する場所には空間が形成され、その空間には基板40および被測定物30と接触するヒートシンク16が配置される。その他は、実施の形態2に準拠している。
【0050】
基板40としては、基板としての使用に耐える剛性と電気的絶縁性を備えるものであれば使用可能である。導電性の基体の上に絶縁膜が形成された基板も使用可能である。
具体的には、アルミニウム、銅、シリコン、ダイヤモンドおよびグラファイトの群から選ばれる1以上、あるいはアルミニウム、銅、シリコン、炭素の群から選ばれる1以上を含む合金または化合物の上に、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化ハフニウム(HfOx)などの酸化膜、窒化膜および酸窒化膜などの絶縁膜が形成された基板を挙げることができる。また、アクリルやポリカーボネートなどの樹脂、石英ガラスやソーダライムガラスのようなガラス、および炭化シリコン(SiC)などのセラミックの群から選ばれる1以上の部材を挙げることもできる。
【0051】
第1の基板部41は、ヒートシンク16により、単位面積当たりの熱伝導率が第2の基板部42より高く、熱容量は低くなっている。このため、結露検出素子106の結露による水滴を検出するところの温度は、周辺回路要部23が発熱をしても、被測定物30の温度とほぼ同じになる。
以上のことから、結露検出素子106は、被測定物30上の結露を高精度、高感度かつ高い応答性(高速性)をもって検出可能な結露検出素子になる。
また、結露検出素子106は、第1の電極11および第2の電極12と周辺回路入力電極28が同一の基板40の表面に形成されるため、それらの電極を繋ぐ配線33の形成が容易で、信頼性も高いものになるという特徴をもつ。
【0052】
また、本発明の結露検出素子は、上記のように被測定物上の結露発生を検出するのに留まらず、第1と第2の細線電極の間隔を調整することにより(被測定物上の水の濡れ性に依存するが、例えば20nm以上5000nm以下、好ましくは20nm以上2000nm以下)、被測定物上に結露が発生する前の(結露までの大きさには至らない)微小な水滴や水膜の検出も可能である。本発明の結露検出素子は、被測定物上の環境で、このような微小な水滴や水膜を正確に検出が可能という特徴も有する。
【0053】
このような微小な水滴や水膜は、程度の差はあれ結露と同じように、錆の発生、成長、金属等の部材の腐食、摩擦力の変化、カビの繁殖、生育に影響を与えるので、この検出は有用である。
また、このような微小な水滴や水膜の検知が可能になると、被測定物上に結露が発生する前にエアコンやヒーターの稼働といった結露防止策を効率的に施すことが可能になり、有用である。
したがって、本発明の結露検出素子は、効率的な結露予防用検出素子、および錆の発生、成長、金属等の部材の腐食、摩擦力の変化、カビの繁殖、生育などの現象に関連した定量化素子としても活用することが可能である。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
実施例1では、2つの電極を櫛形に配置した結露検出部を有する結露検出素子106の実施例について説明する。当然ながら、本発明はこのような特定の形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものである。
【0055】
基板40としての厚さ150nmのシリコン酸化膜を有する厚さ500μmのシリコンウェハ上に、
図8に示す第1の細線電極14としての金(Au)からなるカソード電極と第2の細線電極15となる銅(Cu)からなるアノード電極を櫛形に配置し、結露検出部41とした。
実施例1で用いた第1の細線電極14、第2の細線電極15、第1の電極11および第2の電極12のレイアウトを
図8に示す。
カソード電極、アノード電極は各々10本ずつとし、長さ1000μmに亘って両電極を交互に併走させた。ここで、電極間の距離(間隔)は10μmとした。
【0056】
この結露検出素子106を、被測定物30としたペルチェ素子上に置き、ペルチェ素子の温度を8℃に設定したときの結露検出素子106の結露検出部41の表面温度の経時変化を測定した。このとき、結露検出部41を覆う熱絶縁被覆膜がある場合とない場合について測定した。その結果を
図9に示す。ここで、熱絶縁被覆膜としては発泡ウレタン樹脂を、結露検出素子106のヒートシンク16としてはアルミ合金を用いた。
図9に示すように、結露検出素子106の表面温度は被測定物30であるペルチェ素子の温度を反映してほぼ直線的に低下し、約200
分で安定した。その温度は、熱絶縁被覆膜が形成されていない場合は、被測定物30の温度より約7℃高い15℃となり、熱絶縁被覆膜が形成されている場合は、ペルチェ素子の温度と等しい8℃になった。
本発明の結露検出素子は、被測定物の温度に近い温度で動作させることが可能で、熱絶縁被覆膜で覆うとさらに被測定物の温度に近い温度で動作させることが可能であることがわかった。
【0057】
次に、この結露検出素子106を、模擬の被測定物30としたペルチェ素子上に置き、ペルチェ素子の温度を24℃から18℃まで変化させたときの結露検出素子106の出力電流を測定した。その結果を
図10に示す。
ペルチェ素子の温度が下がるにしたがい、水分子の吸着により結露検出素子106の出力電流は直線的に増し、約18.3℃のところで急激に電流が増大する。これは、この温度で水滴が形成され結露状態になるためであり、実際、目視にてこの温度で結露が観察された。また、出力電流の値および出力電流曲線の変曲点とノイズを比較すると、この出力電流特性から結露発生時を検出できる十分なS/N比が確保されていることがわかる。
この結果から、結露は被測定物の温度に依存すること、および結露の発生や有無を本発明の結露検出素子で検出できることが立証された。
【0058】
(実施例2)
実施例2では、環境および結露検出部の温湿度と結露検出の関係を調べた。
【0059】
測定に用いた特性評価装置201の構成を
図11に示す。
特性評価装置201は、結露検出部51、周辺回路、計測回路部52、熱伝導基板(Alフォーク)53、ペルチェ素子54、配線55、テストチャンバー56、湿度調整空気導入口57、通気用パイプ58、バッファーチャンバー59、排気口60および温度、湿度測定装置61からなる。
【0060】
結露検出素子は、結露検出部51とセラミックパッケージおよび周辺回路を含む計測回路部52からなる。
結露検出部51は、表面がシリコン酸化膜で覆われた厚さ500μmのシリコン基板を用いて作製され、その上に第1の細線電極としての金(Au)からなるカソード電極と第2の細線電極となるアルミニウム(Al)からなるアノード電極が櫛形に配置されている。第1の細線電極と第2の細線電極との間隔は10μmと0.5μmの2水準、第1および第2とも細線電極の厚さは150nm、幅は1μmとした。結露検出部の大きさは5mm×5mmである。
熱伝導性が高く熱容量の小さな結露検出部51は、セラミックパッケージ(京セラ(株)製)に収められ、その底部はAlフォークからなる熱伝導基板53に接している。熱伝導基板53はペルチェ素子54により、その温度が制御されている。したがって、結露検出部51はその温度を所望の値に制御できるようになっていて、その温度は結露検出部51に設けられた白金(Pt)ワイヤーを用いた温度計によりモニターされる。
【0061】
結露検出部51は、配線55を介して周辺回路、計測回路部52に電気的に繋がっている。周辺回路、計測回路部52にはアンプおよびA/Dコンバータなどが組み込まれ、その特性は半導体評価装置(Agilent technologies製 B1500A)を用いて校正されている。
【0062】
結露検出部51は、容量が130cm3のテストチャンバー56に載置されている。テストチャンバー56には湿度調整空気導入口57を通じて温度および湿度が制御された空気が導入される。導入された空気は、通気パイプ58を介して容積が130cm3のバッファーチャンバー59に設けられた排気口60から排出される。ここで、湿度調整空気の導入量は200sccmとし、その空気の湿度調整にはme-40DPPT-MFC(micro equipment製)を用いた。
バッファーチャンバー59には温度、湿度測定装置(E+E Electronic製 EE23)が置かれ、結露検出部51の環境の温度および湿度がモニターされるようになっている。
【0063】
検出部および環境の温度、湿度をパラメータにしたこの結露検出素子の結露検出結果を
図12に示す。ここで、
図12(a)は検出部および環境の温度、湿度を示し、
図12(b)および(c)は、第1と第2の細線配線間隔を10μmとしたときの検出部で検知された電流を示す。なお、
図12(c)は
図12(b)の再現性の確認目的である。
図12(a)からわかるように、環境温度(26℃)、環境(相対)湿度(50%)は観測した10分間に渡って一定であるが、検出部の温度をペルチェ素子54を用い、Alフォーク53を一種のヒートシンクとして下げていくと、検出部の湿度も上昇し、検出部上に結露が生じた。この検出部上の結露は、検出部上に設けた顕微鏡による目視観察により行った。観察上の結露(露点)は15.1℃であった。一方、理論上の露点は15.2℃であり、誤差を考えると十分一致するものであった。
この結露検出素子の結露検出部で検知された電流は、
図12(b)および(c)に示されるように、結露が観測された時間のところで急激に上昇し、この電流検知により十分高い精度で結露が検出されることを確認した。
【0064】
この実験は、結露は、環境の温度や湿度ではなく、結露対象面上での温度、湿度がもとになることを示している。
その上で、本実施例のように、熱伝導性が高く熱容量も小さい結露検出部51を用い、熱伝導性が低いセラミックスパッケージで覆い、周辺回路や計測回路部52などを熱的に分離配置することにより、結露を観測すべき対象面であるAlフォーク53上の結露発生が正確に検知できることを示している。
また、言い方を変えると、Alフォーク53をヒートシンクと見なすと、熱伝導性が高く熱容量も小さい結露検出部51を用い、熱伝導性が低いセラミックスパッケージで覆い、ヒートシンクを配置し、周辺回路や計測回路部52などを熱的に分離配置することにより、ヒートシンク(Alフォーク53)に接触した結露を観測すべき対象面(ペルチェ素子54)の結露発生が正確に検知できることを示している。
【0065】
検出部および環境の温度、湿度をパラメータにしたこの結露検出素子の第2の結露検出結果を
図13に示す。ここで、
図13(a)は検出部および環境の温度、湿度を示し、
図13(b)は、第1と第2の細線配線間隔を10μmおよび0.5μmとしたときの検出部で検知された電流を示す。なお、
図12と
図13の場合の差は時間スケールを変え、
図13の場合は小さな脈動を伴いながらゆっくり検出部の温度、湿度を変化させたことにある。
図13(a)からわかるように、環境温度(26℃)、環境(相対)湿度(50%)は観測した130分間に渡ってほぼ一定であるが、検出部の温度をペルチェ素子54を用い、Alフォーク53を一種のヒートシンクとして下げていくと、検出部の湿度も上昇し、検出部上に結露が生じた。この検出部上の結露は、検出部上に設けた顕微鏡による目視観察により行った。観察上の結露は15.3℃であった。
この結露検出素子の結露検出部で検知された電流は、
図13(b)に示されるように、結露が観測された時間のところで急激に上昇し、この電流検知により十分高い精度で結露が検出されることを確認した。
【0066】
図13に示した実験においても、結露は、環境の温度や湿度ではなく、結露対象面上での温度、湿度がもとになることを示している。
その上で、本実施例のように、熱伝導性が高く熱容量も小さい結露検出部51を用い、熱伝導性が低いセラミックスパッケージで覆い、周辺回路や計測回路部52などを熱的に分離配置することにより、結露を観測すべき対象面であるAlフォーク53上の結露発生が正確に検知できることを示している。
また、言い方を変えると、Alフォーク53をヒートシンクと見なすと、熱伝導性が高く熱容量も小さい結露検出部51を用い、熱伝導性が低いセラミックスパッケージで覆い、ヒートシンクを配置し、周辺回路や計測回路部52などを熱的に分離配置することにより、ヒートシンク(Alフォーク53)に接触した結露を観測すべき対象面(ペルチェ素子54)の結露発生が正確に検知できることを示している。
【0067】
本発明の結露検出素子は、上記のように被測定物上の結露発生を検出するのに留まらず、被測定物上に結露が発生する前の(結露までの大きさには至らない)微小な水滴や水膜の検出にも適している。
このような微小な水滴や水膜は、程度の差はあれ結露と同じように、錆の発生、成長、金属等の部材の腐食、摩擦力の変化、カビの繁殖、生育に影響を与えるので、この検出は有用である。
また、このような微小な水滴や水膜の検知が可能になると、被測定物上に結露が発生する前にエアコンやヒーターの稼働といった結露防止策を効率的に施すことが可能になり、有用である。
【0068】
図13(b)をみると、第1と第2の細線電極間隔が0.5μmの場合、結露発生前の時点から電流が増加していて、結露に成長する前の微小な水滴や水膜が検出されている。このことは、顕微鏡観察で確かめられている。第1と第2の細線電極の間の一部に水が存在してガルバニ電流が流れた。
本発明の結露検出素子は、このような結露に成長する前の微小な水滴や水膜を、しかも被測定物上の環境で正確に検出が可能という特徴も有する。このことにより、本発明の結露検出素子は、効率的な結露予防用検出素子、および錆の発生、成長、金属等の部材の腐食、摩擦力の変化、カビの繁殖、生育などの現象に関連した定量化素子としても活用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
結露は、一般に、カビ、腐食、曇り、食品等の品質低下など様々な障害の元凶になる。したがって、結露の検知は重要である。
本発明による結露検出素子は、上記説明のように、被測定物上の結露を高感度、高精度かつ迅速(高速、高応答)に検知できるものなので、結露管理を十分行うためのモニター手段となるため、民生用途から産業用用途まで幅広い分野で使用される可能性が高い。
【符号の説明】
【0070】
10:第1の基板部(第1の基板、結露センサー部基板)
11:第1の電極
12:第2の電極
14:第1の細線電極(第1の金属の細線電極、カソード電極)
15:第2の細線電極(第2の金属の細線電極、アノード電極)
16:ヒートシンク
20:第2の基板部(第2の基板、周辺回路部基板)
21:周辺回路入力電極
22:周辺回路入力電極
23:周辺回路要部
24:配線
25:出力電極
26:出力電極
28:周辺回路入力電極
29:無線出力部
30:被測定物
31:配線
32:配線
33:配線
34:通気性熱絶縁膜
40:基板
41:結露検出部(第1の基板部)
42:周辺回路部(第2の基板部)
51:結露検出部
52:周辺回路、計測回路部
53:熱伝導基板(Alフォーク)
54:ペルチェ素子
55:配線
56:テストチャンバー
57:湿度調整空気導入口
58:通気パイプ
59:バッファーチャンバー
60:排気口
61:温度、湿度測定装置
101:結露検出素子
102:結露検出素子
103:結露検出素子
104:結露検出素子
105:結露検出素子
106:結露検出素子
111:結露検出部
112:周辺回路部
113:結露検出部
114:周辺回路部
210:特性評価装置