(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】バイオリアクタトレイ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220127BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220127BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 Z
C12M1/02 A
(21)【出願番号】P 2019522664
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2017077387
(87)【国際公開番号】W WO2018077994
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】201611037086
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】598041463
【氏名又は名称】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・ユーエスエー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ハレッシュ・ディガンバー・パティル
(72)【発明者】
【氏名】アヌープ・バルガヴ
(72)【発明者】
【氏名】プラヴェーン・ポール
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・ジョン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121292(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/062833(WO,A1)
【文献】特表2013-514804(JP,A)
【文献】特開2011-152077(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0100576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリアクタシステム(5)のベースステーション(3)上に設けられるように構成されたトレイ(1、1'、1'')であって、前記トレイ(1、1'、1'')は、底部(7、7')および周囲側壁部(9、9')を備え、バイオリアクタバッグ(11)を保持するように構成され、前記底部(7、7')は、少なくとも2つの底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')を備え、前記少なくとも2つの底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の中の1つが、前記底部の中間パーツ(7a、8b、8b')であり、前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の中の少なくとも1つが、少なくとも第1の位置および第2の位置へと可動であり、前記第1の位置は、前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')を互いに対して実質的に同一平面内に置くことにより前記トレイ(1、1'、1'')の実質的に平坦状の底部(7、7')を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツ(7a、8b、8b')を有する前記トレイの底部(7、7')を実現する、トレイ(1、1'、1'')。
【請求項2】
ロッキングバイオリアクタシステム(5)のベースステーション(3)上に設けられるように構成された、請求項1に記載のトレイ。
【請求項3】
前記底部(7)は、前記中間パーツである第1のパーツ(7a)と、前記第1のパーツ(7a)を囲む第2のパーツ(7b)とを備える、請求項1または2に記載のトレイ。
【請求項4】
前記中間パーツ(7a、8b、8b')は、前記第1の位置および前記第2の位置へと可動である、請求項1から3のいずれか一項に記載のトレイ。
【請求項5】
前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')はそれぞれ、少なくとも1つのヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のトレイ。
【請求項6】
前記中間パーツ(7a、8b、8b')は、温度センサ(13、13'、13'')を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のトレイ。
【請求項7】
前記トレイ(1、1'、1'')は、前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の中の少なくとも1つが
少なくとも2つの前記第1の位置および前記第2の位置に置かれるのを可能にするための位置決めデバイス(15)をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のトレイ。
【請求項8】
ベースステーション(3)および請求項1から7のいずれか一項に記載のトレイ(1、1'、1'')を備えるバイオリアクタシステム。
【請求項9】
前記ベースステーション(3)は、前記トレイ(1、1'、1'')の各底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')内の少なくとも1つのヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')に対して、および前記トレイの前記位置決めデバイス(15)に対して接続された制御デバイス(31)を備え、前記制御デバイス(31)は、前記位置決めデバイス(15)により少なくとも2つの異なる位置へと移動される前記少なくとも1つの底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の位置に依拠して、前記トレイ(1、1'、1'')内の前記ヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を制御するように構成される、請求項8に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項10】
前記ベースステーション(3)は、前記トレイ(1、1'、1'')内に提供されたバイオリアクタバッグ(11)の重量を測定するように構成された重量測定デバイス(33)を備え、前記ベースステーション(3)は、前記トレイ(1、1'、1'')の各底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')内の少なくとも1つのヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')に対して、および前記重量測定デバイス(33)に対して接続される制御デバイス(31)をさらに備え、前記制御デバイス(31)は、前記重量測定デバイス(33)において測定された前記バイオリアクタバッグの重量に依拠して前記ヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を制御するように構成される、請求項8に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項11】
前記トレイ(1、1'、1'')は、前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の中の少なくとも1つが少なくとも2つの前記第1の位置および前記第2の位置に置かれるのを可能にするための位置決めデバイス(15)をさらに備え、
前記制御デバイス(31)は、さらに前記位置決めデバイス(15)に対して接続され、測定重量に依拠して、前記第1の位置または前記第2の位置のいずれかに前記トレイ(1、1'、1'')の前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の中の少なくとも1つを置くように前記位置決めデバイスを制御するように構成される、請求項10に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項12】
前記ベースステーション(3)は、前記トレイ(1、1'、1'')内に提供されたバイオリアクタバッグ(11)の重量を測定するように構成された重量測定デバイス(33)を備え、前記ベースステーション(3)は、前記トレイ(1、1'、1'')の各底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')内の少なくとも1つのヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')に対して、および前記重量測定デバイス(33)に対して接続される制御デバイス(31)をさらに備え、
前記制御デバイス(31)は、さらに前記トレイ(1、1'、1'')の前記底部(7、7')の前記中間パーツ(7a、8b、8b')内に設けられた温度センサ(13、13'、13'')に対して接続され、前記制御デバイス(31)は、感知温度に依拠して前記トレイ(1、1'、1'')内のヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を制御するように構成される、請求項8から11のいずれか一項に記載のバイオリアクタシステム。
【請求項13】
ロッキング可能トレイ(1、1'、1'')を備えるバイオリアクタシステムであって、前記トレイは、ロッキング中にバイオリアクタバッグを支持するための略平坦状の表面(7、7')を有し、前記平坦状の表面は、前記表面中に凹部を形成するために可動または除去可能である部分(7a、8b、8b')をさらに備え、前記バイオリアクタシステムは、請求項1から12の
いずれか一項に記載の特徴を任意にさらに備える、バイオリアクタシステム。
【請求項14】
バイオリアクタシステム内で細胞を培養するための方法であって、
前記バイオリアクタシステム内のトレイ(1、1'、1'')内に位置決めされるバイオリアクタバッグ(11)内に提供された細胞培養物の体積または重量を判定するステップ(S1)と、
前記判定された体積または重量に依拠して、少なくとも2つの底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')を備える前記トレイ(1、1'、1'')の底部(7、7')の少なくとも1つの底部パーツを少なくとも第1の位置および第2の位置の一方へと位置決めするステップ(S3)であって、前記第1の位置は、前記底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')を互いに対して実質的に同一平面内に置くことにより前記トレイ(1、1'、1'')の実質的に平坦状の底部(7、7')を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツ(7a、8b、8b')を有する前記トレイ(1、1'、1'')の底部(7、7')を実現する、ステップと
を含む、方法。
【請求項15】
少なくとも2つの異なる位置へと位置決めされる前記少なくとも1つの底部パーツ(7a、7b、8a、8b、8c、8a'、8b'、8c')の位置に依拠して、または前記バイオリアクタバッグの測定重量に依拠して、前記トレイ(1、1'、1'')内に設けられた1つまたは複数のヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を制御するステップ(S5)をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオリアクタバッグ(11)内の温度を測定し、測定温度に依拠して前記トレイ(1、1'、1'')内のヒータ(21a、21b、21a'、21b'、21c')を制御するステップ(S7)をさらに含む、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリアクタシステムのベースステーション上に設けられるように構成されたトレイと、バイオリアクタシステムと、バイオリアクタシステム内で細胞を培養するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオリアクタは、細胞を培養するために使用される。あるタイプのバイオリアクタは、バイオリアクタバッグに対してロッキング運動を与えることによりバッグ内の細胞培養物を撹拌するロッキングバイオリアクタである。これは、ウェーブ運動とも呼ばれる。細胞療法では、細胞が、患者またはドナーから回収され、次いで種々のステップにおいて調製および増殖され、その後に細胞療法として患者に提供される。培養器が、低体積の細胞培養物を増殖するためにしばしば使用され、細胞培養物がより高体積となる細胞培養の後の段階では、ロッキングバイオリアクタなどのバイオリアクタが使用され得る。培養器からロッキングバイオリアクタへの細胞の移送は、細胞の損失リスクおよび細胞の汚染リスクの両リスクとなる。さらに、培養器は、高額なクリーンルーム内の大きな空間を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の1つの目的は、改良されたバイオリアクタシステムおよび細胞を培養するための方法を提供することである。
【0004】
また、本発明の1つの目的は、細胞を培養するための方法と、細胞の汚染および損失のリスクを軽減するバイオリアクタシステムとを提供することである。
【0005】
また、本発明の1つの目的は、細胞を培養するためのより効果的かつ安全な方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的は、独立請求項に記載されるようなトレイ、バイオリアクタシステム、および細胞を培養するための方法により対処される。
【0007】
ここで、ロッキングバイオリアクタは、初期細胞増殖のためにも、すなわち低体積の細胞培養物に対しても使用することが可能である。さらに、同一のバイオリアクタが、低い培養体積およびより高い培養体積の両方に対して使用され得る。先行技術のバイオリアクタでは、低体積の細胞培養物が過度に大型のロッキングバイオリアクタ内に提供される場合に、しばしば問題が生ずる。これらの問題は、培養物が過度に少量である場合にロッキング運動によって細胞が破壊され得る点と、細胞が凝縮により損失を被り得るテントに関する。本発明では、トレイのサイズは、バイオリアクタバッグ内に提供される種々の体積の細胞培養物に対して適合化され得るものであり、これにより同一のバイオリアクタバッグが、培養器内において通常実施される最初の初期細胞増殖に対して、および次いでさらに後の細胞増殖に対しても使用され得る。これにより、細胞培養物は培養器からバイオリアクタに移送される必要がなくなり、細胞損失および細胞汚染のリスクが軽減される。さらに、クリーンルーム空間が節減される。
【0008】
本発明の一態様では、トレイが提供される。このトレイは、バイオリアクタシステムのベースステーション上に設けられるように構成され、前記トレイは、底部および周囲側壁部を備え、バイオリアクタバッグを保持するように構成され、前記底部は、少なくとも2つの底部パーツを備え、少なくとも2つの底部パーツの中の1つが、底部の中間パーツであり、底部パーツの中の少なくとも1つが、少なくとも第1の位置および第2の位置へと可動であり、前記第1の位置は、底部パーツを互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツを有するトレイの底部を実現する。
【0009】
本発明の一態様では、上述のようなベースステーションおよびトレイを備えるバイオリアクタシステムが提供される。
【0010】
本発明のさらなる態様では、バイオリアクタシステム内で細胞を培養するための方法が提供される。前記方法は、
- バイオリアクタシステム内のトレイ内に位置決めされるバイオリアクタバッグ内に提供された細胞培養物の体積または重量を判定するステップと、
- 前記判定された体積または重量に依拠して、少なくとも2つの底部パーツを備えるトレイの底部の少なくとも1つの底部パーツを少なくとも第1の位置および第2の位置の一方へと位置決めするステップであって、前記第1の位置は、底部パーツを互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツを有するトレイの底部を実現する、ステップと
を含む。
【0011】
本発明の一実施形態では、トレイは、ロッキングバイオリアクタシステムのベースステーション上に設けられるように構成される。
【0012】
本発明の一実施形態では、底部は、中間パーツである第1のパーツと、前記第1のパーツを囲む第2のパーツとを備える。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記第1のパーツは、第1の位置および第2の位置へと可動である。
【0014】
本発明の一実施形態では、底部パーツはそれぞれ、少なくとも1つのヒータを備える。これにより、底部パーツの中の1つまたは複数が、底部の中間パーツの位置に依拠しておよび/またはバイオリアクタバッグ内の内容物の体積もしくは重量に依拠して個別に加熱され得る。
【0015】
本発明の一実施形態では、中間パーツは、温度センサを備える。これにより、ヒータは、バイオリアクタバッグ内の感知温度に依拠して制御され得る。
【0016】
本発明の一実施形態では、トレイは、底部パーツの中の少なくとも1つが少なくとも2つの異なる位置に置かれるのを可能にするための位置決めデバイスをさらに備える。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記ベースステーションは、トレイの各底部パーツ内の少なくとも1つのヒータに対して、およびトレイの位置決めデバイスに対して接続された制御デバイスを備え、前記制御デバイスは、位置決めデバイスにより少なくとも2つの異なる位置へと移動される少なくとも1つの底部パーツの位置に依拠して、トレイ内のヒータを制御するように構成される。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記ベースステーションは、トレイ内に提供されたバイオリアクタバッグの重量を測定するように構成された重量測定デバイスを備え、前記ベースステーションは、トレイの各底部パーツ内の少なくとも1つのヒータに対して、および重量測定デバイスに対して接続される制御デバイスをさらに備え、前記制御デバイスは、重量測定デバイスにおいて測定されたバイオリアクタバッグの重量に依拠してヒータを制御するように構成される。
【0019】
本発明の一実施形態では、制御デバイスは、さらに位置決めデバイスに対して接続され、測定重量に依拠して、第1の位置または第2の位置のいずれかにトレイの底部パーツの中の少なくとも1つを置くように位置決めデバイスを制御するように構成される。
【0020】
本発明の一実施形態では、制御デバイスは、さらにトレイの底部の中間パーツ内に設けられた温度センサに対して接続され、制御デバイスは、感知温度に依拠してトレイ内のヒータを制御するように構成される。
【0021】
本発明の一実施形態では、この方法は、
- 少なくとも2つの異なる位置へと位置決めされる少なくとも1つの底部パーツの位置に依拠して、またはバイオリアクタバッグの測定重量に依拠して、トレイ内に設けられた1つまたは複数のヒータを制御するステップ
をさらに含む。
【0022】
本発明の一実施形態では、この方法は、バイオリアクタバッグ内の温度を測定し、前記測定温度に依拠してトレイ内のヒータを制御するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1a】トレイ底部の第1のパーツが第1の位置に設けられた状態にある、本発明の一実施形態によるトレイの概略図である。
【
図1b】トレイ底部の第1のパーツが第2の位置に設けられた状態にある、
図1aに示すものと同一のトレイの概略図である。
【
図2a】トレイ底部の第1のパーツが第1の位置に設けられた状態にある、本発明の一実施形態によるバイオリアクタシステムの側方断面図である。
【
図2b】トレイ底部の第1のパーツが第2の位置に設けられた状態にある、
図2aに示すものと同一のバイオリアクタシステムの側方断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるトレイの分解図である。
【
図4a】本発明の一実施形態によるトレイの概略図である。
【
図4b】本発明の一実施形態によるトレイの分解図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるバイオリアクタシステムのベースステーション内の構成要素の概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態による細胞を培養するための方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、バイオリアクタシステムと、前記バイオリアクタシステム内のトレイとに関する。また、本発明は、バイオリアクタシステム内で細胞を培養するための方法に関する。バイオリアクタシステムは、ロッキングバイオリアクタシステムであることが可能であるが、例えば振盪式リアクタなどの、トレイがバイオリアクタバッグを保持するために使用される他のタイプのバイオリアクタシステムが、本特許出願の範囲に含まれるべきである。
【0025】
図1aおよび
図1bは、本発明の一実施形態によるトレイを概略的に示す。
【0026】
図2aおよび
図2bは、本発明の一実施形態によるバイオリアクタシステムの側方断面図を概略的に示す。
【0027】
本発明によれば、ロッキングバイオリアクタシステム5のベースステーション3上に設けられるように構成されたトレイ1が提供される。このトレイ1は、底部7および周囲側壁部9を備え、バイオリアクタバッグ11を保持するように構成される。底部7は、少なくとも2つの底部パーツを備える。
図1~
図3に示す実施形態では、底部は、2つの底部パーツを、すなわち第1のパーツ7aと、第1のパーツ7aを囲む第2のパーツ7bとを備える。本発明の別の実施形態では、例えば3つの別個の底部パーツが提供され得る。これは、
図4aおよび
図4bに示す。しかし、これらの実施形態に共通する点は、底部パーツの中の1つが底部の中間パーツであることである。
図1~
図3に示す実施形態では、第1のパーツ7aが中間パーツである。本発明によれば、底部パーツの中の少なくとも1つが、少なくとも第1の位置および第2の位置へと可動であり、前記第1の位置は、これらの底部パーツを互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部7を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツを有するトレイの底部7を実現する。
図1~
図3に示す実施形態では、中間パーツ7aとも呼ばれる第1のパーツ7aが、少なくとも第1の位置および第2の位置へと移動され得る底部パーツである。別の実施形態では、第1のパーツ7aは、少なくとも2つの異なる位置へと可動である1つまたは複数の他の底部パーツ、すなわち中間パーツ以外のパーツであることも可能である。第1のパーツ7aを囲む1つの第2のパーツ7bが設けられる場合には(
図1~
図3におけるように)、この第2のパーツは、少なくとも2つの異なる位置へと可動であることが可能である。
【0028】
図1~
図3に示す実施形態では、底部7の第1のパーツ7aは、2つの異なる位置に設けることが可能であり、第1の位置は、
図1aおよび
図2aに示され、第2のパーツ7bと実質的に同一平面内に第1のパーツ7aを置くことにより、トレイ1の実質的に平坦状の底部7を実現する。第1のパーツ7aの第2の位置は、
図1bおよび
図2bに示され、これは、第1のパーツ7aがトレイの底部7の凹状中間パーツとして提供される位置である。この凹状中間パーツは、トレイ1内に提供されることとなるバイオリアクタバッグ11が少量の細胞培養物を備えるに過ぎない場合には、細胞培養物体積の殆どを収容する。これにより、細胞培養物は、培養中およびロッキング運動中にバイオリアクタバッグ内においてより一体的に保持される。これは、細胞によってはより良いことであり、細胞培養物の温度感知および管理に対してより良好な可能性をもたらす。この凹状中間パーツが存在しない場合には、低体積の細胞培養物は、バイオリアクタ内において過剰に広がり、過熱、凝縮による影響をより被り、さらにロッキング運動によってより損傷を被る。
【0029】
本発明の一実施形態では、各底部パーツが、少なくとも1つのヒータを備える。
図1~
図3に示す実施形態では、第1のパーツ7aおよび第2のパーツ7bがそれぞれ1つのヒータを備える。
図3には、本発明の一実施形態によるトレイの分解図が示される。
図3に示す実施形態では、第1のヒータ21aが、第1のパーツ7aに対して設けられるのが示され、第2のヒータ21bは、第2のパーツ7bに対して設けられるのが示される。第1のヒータ21aおよび第2のヒータ21bはそれぞれ、バイオリアクタシステム5のベースステーション3内に設けられた制御デバイス31に対して接続される。制御デバイス31を備えるベースステーションは、
図5において概略的に示される。制御デバイス31は、トレイ内の第1のヒータ21aおよび第2のヒータ21bと通信し得る。この通信は、無線によって、またはベースステーションとトレイとの間の1つまたは複数の接続ポート22を介して実現され得る。トレイの底部の各底部パーツに対して個別のヒータを設けることにより、バイオリアクタの加熱が、バイオリアクタバッグ内に提供される細胞培養物の量に依拠して実現され得る。これにより、細胞培養物の温度が、低体積の細胞培養物の場合であってもはるかにより良好に制御され得る。
【0030】
本発明の一実施形態では、底部の中間パーツ(
図1~
図3に示す実施形態では第1のパーツ7a)が、温度センサ13を備える。温度センサ13は、接続ポート22を介してまたは無線によりベースステーション中の制御デバイス31に対して接続され、第1のヒータ21aおよび第2のヒータ21bの制御は、感知温度に依拠して実現される。
【0031】
トレイ1は、底部パーツの中の少なくとも1つが少なくとも2つの異なる位置に置かれるのを可能にするための位置決めデバイス15をさらに備える。
図1~
図3に示す実施形態では、底部7の第1のパーツ7aは、少なくとも2つの異なる位置に置かれ得る。ここでは、位置決めデバイス15は、細長作動ノブであることが示され、このノブは、ノブが垂直位置に置かれた場合に、トレイの底部の第1のパーツ7aを第1の位置に置く。第1の位置では、底部の第1のパーツおよび第2のパーツは、互いに対して実質的に同一平面内に置かれる。トレイの底部の第1のパーツ7aは、ノブが水平位置に置かれた場合に、第2の位置にすなわち第2のパーツ7bよりも低い位置に置かれる。ここで、ノブは、第1のパーツ7aを第1の位置へと上方に押し得るトレイ内の移送手段に対して接続される。本発明の範囲内で別のタイプの位置決めデバイス15が提供され得る。底部7の底部パーツの中の少なくとも1つを少なくとも2つの位置へと移動させ得る任意のデバイスが、本発明の範囲に含まれるべきである。例えば、バイオリアクタバッグの測定重量などに依拠して少なくとも1つの底部パーツをモータまたはソレノイドにより自動的に移動させることが可能である。
【0032】
図4aは、本発明の別の実施形態によるトレイ1'を概略的に示す。トレイ1'は、底部7'および周囲側壁部9'を備え、バイオリアクタバッグを保持するように構成される。この実施形態では、底部7'は、3つの別個の底部パーツ8a、8b、8cを備える。3つの底部パーツの中の1つが中間パーツ8bであり、他の2つは外方パーツ8aおよび8cであり、中間パーツ8bの各側にそれぞれ位置決めされる。中間パーツ8bまたは2つの外方パーツ8a、8cのいずれかが、上述のように2つの異なる位置に置かれ得る。第1の位置は、底部パーツ8a、8b、8cを互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部7'を実現し、第2の位置は、凹状中間パーツ8bを有するトレイの底部7'を実現する。ヒータは、この図には見ることができないが、各底部パーツ8a、8b、8cに対して1つずつ設けられ得る。温度センサ13'が、中間パーツ8bに対して設けられ得る。位置決めデバイス(図示しない)が、底部パーツ8a、8b、8cの中の少なくとも1つが少なくとも2つの異なる位置に置かれるのを可能にするためにトレイに対して設けられる。
【0033】
図4bは、本発明の別の実施形態によるトレイ1''の分解図である。この実施形態においても、トレイ底部7''は、3つの底部パーツ8a'、8b'、8c'へと分割される。しかし、
図4aに示す実施形態と比較して他の方向に。3つの底部パーツの中の1つが中間パーツ8b'であり、他の2つは外方パーツ8a'および8c'であり、中間パーツ8b'の各側にそれぞれ位置決めされる。中間パーツ8b'または2つの外方パーツ8a'、8c'のいずれかが、上述のように2つの異なる位置に置かれ得る。第1の位置は、底部パーツ8a'、8b'、8c'を互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部7''を実現し、第2の位置は、凹状中間パーツ8b'を有するトレイの底部7''を実現する。ヒータ21a'、21b'、21c'が、この分解図において見ることができ、それぞれが各底部パーツ8a'、8b'、8c'に対して設けられる。温度センサ13''が、中間パーツ8b'に対して設けられ得る。位置決めデバイス(図示しない)が、底部パーツ8a'、8b'、8c'の中の少なくとも1つが少なくとも2つの異なる位置に置かれるのを可能にするためにトレイに対して設けられる。
【0034】
図5では、ベースステーション3が概略的に示される。制御デバイス31が、ベースステーション3内に設けられる。ここでは、制御デバイス31は、接続ポート22に対して接続されて示され、この接続ポート22を介して制御デバイス31は、トレイの第1のヒータ21aおよび第2のヒータ21bと通信し得る。また、この通信は、2つ以上の接続ポートを介してまたは無線によっても実現され得る。制御デバイス31は、トレイの少なくとも1つの可動底部パーツの位置に依拠してまたはバイオリアクタバッグの測定重量に依拠して、トレイ内に設けられたヒータの中の1つまたは複数を制御するように構成される。ここで、制御デバイス31は、トレイ内の位置決めデバイス15、15'に対して無線によりもしくは接続ポート22を介してのいずれかによって、および/またはベースステーション3内に設けられた重量測定デバイス33に対してさらに接続される。制御デバイス31が、重量測定デバイス33および位置決めデバイス15、15'の両方に対して接続され、位置決めデバイスが自動的に制御され得る場合には、バイオリアクタバッグの重量に依拠してトレイ1、1'の底部7、7'の底部パーツの中の少なくとも1つの位置を自動的に制御することが可能となる。また、これらのヒータは、底部パーツの中の1つの位置に依拠して、またはバイオリアクタバッグの重量に依拠して制御される。これにより、細胞培養物の温度はより高い精度で制御され得る。また、制御デバイス31は、温度制御に対してさらなる可能性を与えるトレイ内の温度センサ13、13'に対しても接続される。これらのヒータは、感知温度に依拠して制御され得る。
【0035】
図6は、本発明の一実施形態による細胞を培養するための方法の流れ図である。以下、その方法ステップを順に説明する。
【0036】
S1:バイオリアクタシステム5内のトレイ1、1'内に位置決めされるバイオリアクタバッグ11内に提供された細胞培養物の体積または重量を判定するステップ。これは、オペレータがバイオリアクタバッグ内の体積が低体積であるかもしくは高体積であるかの判定を行うことによって手動的に、またはバイオリアクタバッグの重量を測定することによって自動的に実施され得る。
【0037】
S3:前記判定された体積または重量に依拠して、少なくとも2つの底部パーツを備える前記トレイの底部の少なくとも1つの底部パーツを少なくとも第1の位置および第2の位置の一方へと位置決めするステップ。前記第1の位置は、底部パーツを互いに対して実質的に同一平面内に置くことによりトレイの実質的に平坦状の底部を実現し、前記第2の位置は、凹状中間パーツを有するトレイの底部を実現する。
図1~
図3に示す実施形態では、本方法のこのステップは、前記判定された体積または重量に依拠して、第1の位置または第2の位置のいずれかに前記トレイの1底部7の第1のパーツ7aを位置決めすることになる。また、トレイ1の底部7の少なくとも1つの底部パーツのこの位置決めは、例えば
図1~
図3に示す実施形態において示すようなノブを回すなどの位置決めデバイス15の使用により手動的に、または測定重量に依拠して自動的に実施され得る。
【0038】
S5:少なくとも2つの異なる位置へと位置決めされる少なくとも1つの底部パーツの位置に依拠して、またはバイオリアクタバッグの測定重量に依拠して、トレイ1、1'内に設けられた1つまたは複数のヒータ21a、21bを制御するステップ。バイオリアクタシステム5のベースステーション3内の制御デバイス31は、上述のように、ヒータ21a、21bに対しておよび位置決めデバイス15に対して、ならびに場合によってはさらに重量測定デバイス33に対して接続される。これにより、制御デバイス31は、第1のパーツ7aが第2の位置に置かれた場合に、トレイの底部の第1のパーツ7aに対して設けられる第1のヒータ21aをオンに切り替えることが可能となり、制御デバイス31は、第1のパーツ7aが第1の位置に置かれた場合に、第1のヒータ21aおよび第2のヒータ21bの両方をオンに切り替えることが可能となる。これにより、バイオリアクタバッグ内の細胞培養物のより良好な温度制御が実現され得る。
【0039】
S7:バイオリアクタバッグ内の温度を測定し、前記測定温度に依拠してトレイ内のヒータを制御するステップ。これにより、さらに良好な温度制御が達成され得る。
【符号の説明】
【0040】
1 トレイ
1' トレイ
1'' トレイ
3 ベースステーション
5 ロッキングバイオリアクタシステム、バイオリアクタシステム
7 底部
7' 底部
7'' 底部
7a 第1のパーツ、中間パーツ
7b 第2のパーツ
8a 底部パーツ、外方パーツ
8a' 底部パーツ、外方パーツ
8b 底部パーツ、中間パーツ
8b' 底部パーツ、中間パーツ
8c 底部パーツ、外方パーツ
8c' 底部パーツ、外方パーツ
9 周囲側壁部
9' 周囲側壁部
11 バイオリアクタバッグ
13 温度センサ
13' 温度センサ
13'' 温度センサ
15 位置決めデバイス
15' 位置決めデバイス
21a 第1のヒータ、ヒータ
21a' ヒータ
21b 第2のヒータ、ヒータ
21b' ヒータ
21c' ヒータ
22 接続ポート
31 制御デバイス
33 重量測定デバイス