(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】下地シート
(51)【国際特許分類】
D06M 13/02 20060101AFI20220127BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20220127BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20220127BHJP
F16L 58/10 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
D06M13/02
C23F11/00 G
D06M13/224
F16L58/10
(21)【出願番号】P 2015237923
(22)【出願日】2015-12-04
【審査請求日】2018-11-29
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】桐山 招大
(72)【発明者】
【氏名】安藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】笠松 丈一
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】柳本 幸雄
【審判官】石井 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-9563(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072519(WO,A1)
【文献】特開2014-208929(JP,A)
【文献】特開平10-8270(JP,A)
【文献】実開昭61-22630(JP,U)
【文献】特開平8-326990(JP,A)
【文献】特開昭61-144490(JP,A)
【文献】特開平10-44320(JP,A)
【文献】特開平10-8270(JP,A)
【文献】特開2005-60854(JP,A)
【文献】特開2005-336679(JP,A)
【文献】特開昭59-62110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/02
F16L58/10
D06M13/224
C23F11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食シートによって防食される保護対象物と前記防食シートとの間に配されて該防食シートと前記保護対象物との接着に用いられ、
ポリエステル不織布
たる第1不織布と
第1防食ペーストとを備え、前記
第1防食ペーストが前記ポリエステル不織布に含浸されており、
前記ポリエステル不織布を構成している繊維の平均繊度が0.8~6.0dTexであり、
該ポリエステル不織布の目付が、10~200g/m
2 であ
り、
前記第1防食ペーストは、油性成分を含有し、
前記防食シートは、第2不織布と第2防食ペーストとを備え、該第2防食ペーストが前記第2不織布に担持された防食シートであることを特徴とする下地シート。
【請求項2】
前記繊維の断面形状が円形状となっている請求項1記載の下地シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食シートによって防食される保護対象物と前記防食シートとの間に配される下地シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のプラントなどにおいて、ガス、水道などの配管、電線などを敷設する電線管などといった金属製の管材を腐食から保護すべく、前記管材の外周にテープ状の防食シート(防食テープ)を巻き付けることが行われており、この種の用途に用いられる防食テープとしては、不織布などからなるテープ状の基材シートにペトロラタムなどを主成分とした防食ペーストを含浸、担持させたものが知られている(下記特許文献1参照)。
また、ペトロラタム系の防食ペーストが夏場の屋外などにおいて達し得る高温域において滴下を生じることがあるために、防食ペーストに乾性油や半乾性油を含有させたものも防食シートとして利用がなされている。
【0003】
なお、従来の防食シートは、その取扱いを容易にする上において表面粘着性に特に優れた状態にはなっていない。
そして、このような防食シートによって防食される管材などの保護対象物は、必ずしも表面が平坦ではなく不陸を生じて周囲よりも凹んだ箇所が形成されている場合がある。
そうすると、保護対象物に直接防食シートを貼り付けただけでは、凹入箇所において防食シートに浮きを生じさせてしまうおそれを有する。
このようなことから、従来、防食ペーストだけを予め保護対象物の表面に塗りつけて不陸調整を行うとともに防食シートと保護対象物との接着性を改善するようなことが下地処理として行われている。
【0004】
なお、下記特許文献2には、下テープと上テープとの2層構成の防食構造を形成させることが記載されており、下テープを粘稠な防食コンパウンドを多孔質基材シートに含浸させてなる常時軟質性のものとすることが記載されている。
即ち、下記特許文献2には、下テープを上テープと保護対象物との接着性を改善するための下地シートとして利用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-184968号公報
【文献】特開平10-044320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、防食シートは、保護対象物に防食性を付与するという観点から、ある程度の厚みを必要とするが、下地シートに対しては、防食シートとは異なり保護対象物の表面形状に対する追従性や防食シートなどとの接着性に優れることが厚みよりも重要視されている。
また、下地シートの単位面積当たりの材料費を抑制させるという観点からは、目付の小さい基材シートを用いて、基材シートの使用量を抑制させるとともに、該基材シートに付着させる防食ペーストの使用量も抑制することが望ましい。
しかし、保護対象物への追従性やコストなどの観点から目付の小さい基材シートを用いて下地シートを作製すると、防食ペーストが基材シートに均一に担持され難く、保護対象物や防食シートとの接着性にムラが生じるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、厚みを薄く形成させながらも防食ペーストが比較的均一に担持された下地シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、繊維の平均繊度が6.0dTex以下である基材シートを用いることで当該基材シートとして200g/m2以下の目付のものを採用した場合においても防食ペーストが比較的均一に担持されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、防食シートによって防食される保護対象物と前記防食シートとの間に配されて該防食シートと前記保護対象物との接着に用いられ、ポリエステル不織布と防食ペーストとを備え、前記防食ペーストが前記ポリエステル不織布に含浸されており、前記ポリエステル不織布を構成している繊維の平均繊度が0.8~6.0dTexであり、該ポリエステル不織布の目付が、10~200g/m2 であることを特徴とする下地シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚みを薄く形成させながらも防食ペーストが比較的均一に担持された下地シートを提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】下地シートの製造設備を模式的に示した設備構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を一例を挙げて説明する。
本実施形態における下地シートは、長尺帯状の基材シートたるポリエステル不織布(以下、単に「不織布」ともいう)と、該ポリエステル不織布に含浸された防食ペーストとを備えている。
【0013】
本実施形態の下地シートの基材シートとして用いる前記ポリエステル不織布としては、目付が小さい方が保護対象物の表面形状に対する追従性に優れ、保護対象物への接着性に優れた下地シートを形成させる上において有利となる。
一方で、ある程度以上の目付を有する不織布を基材シートとして採用する方が下地シートに優れた強度を発揮させる上に有利となる。
従って、前記不織布の目付は、優れた強度と、保護対象物に対する優れた接着性とを下地シートに賦与し得る点において、通常、10~200g/m2とすることができる。
また、前記基材シートは、防食ペーストの保持性の観点から、目付が好ましくは25~150g/m2 、更に好ましくは50~100g/m2 の不織布とすることができる。
【0014】
前記不織布は、ポリエステル繊維を主体とするものであれば特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、及び、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN)などの内の何れかで構成されたもの、又は、上記繊維の複数種の混合品とすることができる。
また、前記不織布は、ポリエステル繊維を主体とするものであればポリエステル繊維以外の他の繊維を少量含有するものであってもよい。
さらに、前記不織布の主体となるポリエステル繊維は、ポリエステル樹脂を主成分とした混合樹脂で形成されていても良い。
また、芯鞘構造を有し、芯部がポリエステル樹脂で鞘部が他の樹脂で形成されているものや、鞘部がポリエステル樹脂で芯部が他の樹脂で形成されている繊維を主体とした不織布もポリエステル不織布として前記基材シートに採用することが可能である。
【0015】
なお、前記不織布は、防食ペーストの含浸及び担持を良好なものとし得る点においてクリンプ(捲縮)構造を有する繊維によって構成されていることが好ましく、繊維どうしが厚み方向において十分に交絡されているものが好ましい。
また、前記不織布を構成する繊維は、防食ペーストの含浸及び担持を良好なものとし得る点において断面形状が円形状、Y字状、X字状、又は、星型などの中心から放射状に延びる断面形状を有しているものが採用される。
【0016】
前記不織布としては、スパンボンド、ケミカルボンド、ニードルパンチ、ステッチボンドなどの各種の方法で作製されたものを採用することができる。
なかでも基材シートの長手方向における強度を優れたものとし得る点において縫い目の方向が基材シートの長手方向となるようにウェブが縫われて形成されたステッチボンド不織布が好ましい。
即ち、ステッチボンド不織布は、ウェブを薄手のものとしてもステッチ糸による補強効果が期待できる上において本実施形態の基材シートとして好適であるといえる。
【0017】
前記不織布は、同じ目付である場合、繊維太さを太くすると目が粗いものとなる。
従って、防食ペーストの部分的な脱落や、繊維の部分的な露出を抑制して防食ペーストを面方向に均一に担持させる上において前記繊維の平均繊度が0.8~6.0dTexであることが重要で、繊維の平均繊度は、地合いの均一性の観点から、好ましくは1.0~5.0dTex、更に好ましくは1.2~3.3dTexである。
前記平均繊度については、JIS L1013:2010のB法(簡便法)により測定することができる。
【0018】
前記基材シートに担持される防食ペーストは、一般的なペトロラタム系防食ペーストと同様のものを採用することができ、油性成分、充填材、防錆剤を含みJIS K2235に規定のペトロラタム1~4号を油性成分の主成分とするものを採用することができる。
また、防食ペーストは、ペトロラタム以外の石油ワックスやオイルによってペトロラタムと同様の風合いに調製された油性成分を充填材や防錆剤などとともに含有するペトロラタム系防食剤であっても良い。
【0019】
前記防食ペーストは、25℃におけるちょう度が好ましくは70~130である。
なお、本実施形態におけるちょう度は、JIS K2235:1991「石油ワックス 5.10 ちょう度試験方法」従って測定することができる。
【0020】
前記防食ペーストは、平行板粘度計による23℃における降伏値が、好ましくは1~30000Pa、より好ましくは5~20000Pa、さらにより好ましくは10~15000Paである。
なお、本実施形態における平行板粘度計による降伏値は、JIS K5701-1:2000「平版インキ-第1部:試験方法」の「スプレッドメータによる方法」に従って測定することができる。荷重板の重さを5kgとし、“荷重板が試料に接したとき”から“広がりの直径を測定するとき”までの時間を60秒とする。
【0021】
以下には、オイルなどの成分の分離を抑制させるべく調整されたペトロラタム系防食剤の一例を示す。
本実施形態のペトロラタム系防食剤は、油性成分として常温常圧(例えば、20℃、1気圧)において液状の液状油たるオイルと、常温常圧において固体状の固形油たるワックスとを含有している。
なお、前記の“固体状”との用語は、本明細書においては、通常の外力によって変形を生じることのない厳密な意味での固体のみを意味するものではなく、外力によって変形を生じるものの自然流動を生じることが無いいわゆる半固体をも包含する意味で用いている。
【0022】
本実施形態の防食ペーストとして用いるペトロラタム系防食剤は、前記油性成分、即ち、前記オイル及び前記ワックスを含有している。
さらに、本実施形態のペトロラタム系防食剤は、防錆剤、無機フィラー等の添加剤を含有している。
【0023】
前記油性成分は、その合計が、前記ペトロラタム系防食剤に20質量%以上70質量%以下の割合で含有されることが好ましく、40質量%以上60質量%以下の割合で含有されることがより好ましい。
【0024】
前記ワックスとしては、エチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド系ワックスなどの脂肪酸エステル系ワックス、炭化水素系ワックスなどが挙げられる。
前記オイルとしては、ナフテン系オイルや、ブライトストック油などの粘度の高いオイル、モーター油などとして利用されている粘度の低いパラフィン系オイルなどが挙げられる。
なかでも、ペトロラタム系防食剤からオイルが分離するのを抑制できるという点で、前記ペトロラタム系防食剤としては、炭化水素系ワックスと、ナフテン系オイルとを含有するものが好ましい。
【0025】
該炭化水素系ワックスとしては、例えば、JIS K2235に120P、125P、130P、135P、140P、145P、150P、及び、155Pの種別で規定されているパラフィンワックスや、同規格に150M、160M、170M、180M、及び、190Mの種別で規定されているマイクロクリスタンワックスを採用することができる。
また、炭化水素系ワックスとしては、同規格外のものも採用が可能であり、例えば、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)ワックスと呼ばれている一酸化炭素と水素とを反応させて合成されるもの、ポリエチレンワックスと呼ばれているエチレンの重合又はポリエチレンの熱分解で得られるもの、ポリプロピレンワックスなどと呼ばれている合成ワックスなども採用することができる。
さらに、ペトロラタム系防食剤には、キャンデリラワックスやスラックワックスのような炭化水素系ワックスを主成分とするワックスにより炭化水素系ワックスを含有させるようにしてもよい。
【0026】
なかでも、ペトロラタム系防食剤からオイルが分離することを防止する上においては、下地シートの実使用において想定される温度以上の融点を有する炭化水素系ワックスを含有させることが好ましい。
その一方で、炭化水素系ワックスは一般的に融点が高くなるほど硬度が上昇する傾向を示すことから、過度に高融点のものを採用しようとした場合にはペトロラタム系防食剤に常温における好適な展延性を発揮させるために多くの液状油を含有させることになり、ペトロラタム系防食剤からオイルが分離するおそれを有する。
このようなことから、炭化水素系ワックスは、融点75℃以上100℃以下のものを採用することが好ましい。
なお、この炭化水素系ワックスの融点については、JIS K2235「石油ワックス」に記載の試験方法によって確認することができる。
【0027】
前記ナフテン系オイルは、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの飽和環構造を分子中に含有するものであれば特に限定されるものではなく、市販品などを採用することができる。
【0028】
前記防錆剤としては、スルホネート、ラノリン誘導体、石油酸化物、エステル、アミド化合物、リン酸エステル、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
前記石油酸化物としては、酸化ペトロラタム、酸化パラフィン等が挙げられる。
【0029】
前記無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、アルミナ等が挙げられる。
【0030】
また、前記ペトロラタム系防食剤には、例えば、防カビ剤、抗菌剤などの機能性薬剤;顔料などを添加剤として含有させることができる。
【0031】
本実施形態に係る下地シートは、基材シートへのペトロラタム系防食剤の単位面積当たりの付着量が、好ましくは0.2~2.0kg/m2 、より好ましくは0.4~1.5kg/m2 である。
【0032】
本実施形態に係る下地シートは、厚みが、好ましくは0.3~2.0mm、より好ましくは0.5~1.5mmである。
【0033】
次に、本実施形態に係る下地シートの製造方法について説明する。
本実施形態に係る下地シートの製造方法は、不織布と、該不織布に担持されたペトロラタム系防食剤とを備える下地シートを作製する方法である。
また、本実施形態に係る下地シートの製造方法は、ポリエステル不織布を加熱して厚み方向に圧縮する圧縮工程と、加熱されて常温時よりも低粘度化されたペトロラタム系防食剤を、前記圧縮工程が実施された前記不織布に含浸させる含浸工程とを備えている。
【0034】
以下では、ステッチボンドされてなる前記ポリエステル不織布を基材シートに用いながらも基材シートが表面露出されることが抑制され、ペトロラタム系防食剤からなる防食ペーストが比較的均一に担持された下地シートを製造するための製造方法を例に挙げて説明する。
本実施形態の下地シート製造方法は、長尺帯状の原反シートを作製し、これをそのまま、或いは、適度な幅にスリット加工して下地シートとするものである。
まずは前記下地シート(原反シート)を製造するのに好適な装置構成について図を参照しつつ説明する。
【0035】
図1は、本実施形態の下地シートを製造するための製造設備を示す概略構成図であり、図にも示されているように、当該製造方法には、縫い目が長手方向に延在する長尺帯状のポリエステル不織布がロール状にされた基材シートロール1が用いられる。
また、本実施形態の下地シートを製造するための製造設備には、図に示されているように前記ペトロラタム系防食剤を加熱し、常温時(例えば、20℃)よりも低粘度化された当該ペトロラタム系防食剤を貯留するペースト槽2が備えられている。
さらに、本実施形態の製造設備には、前記基材シートロール1が回転可能に保持され、該基材シートロール1が回転されてその外側から繰り出されるポリエステル不織布10が前記ペースト槽2に向けて送り出される送出機3が備えられている。
【0036】
本実施形態の製造設備には、前記ペースト槽2を挟んで前記送出機3とは反対側に配され、前記送出機3から送り出されたポリエステル不織布10に前記ペースト槽2にペトロラタム系防食剤が含浸されて得られた下地シート11を引き取ってロール状に巻き取る巻取機4がさらに備えられている。
【0037】
さらに、本実施形態の製造設備には、一対の加熱ロール51によって構成され、前記ペースト槽2の手前で前記送出機3から送り出されたポリエステル不織布10を前記加熱ロール51で挟み込み、該ポリエステル不織布10を厚み方向に加熱により圧縮するホットセット機5が備えられている。
また、本実施形態の製造設備には、前記ペースト槽2を通過して前記ペトロラタム系防食剤が含浸、担持されたポリエステル不織布10’(以下、「含浸済シート10’」ともいう。)から余分に付着しているペトロラタム系防食剤を掻き落として所定の厚みの下地シート11を形成させるための厚み制御機6が備えられている。
【0038】
そして、本実施形態の製造設備には、前記厚み制御機6を通過して所定の厚みとされた下地シート11を強制冷却するための冷却機7が前記厚み制御機6と前記巻取機4との間に備えられている。
【0039】
本実施形態の下地シートを作製するための製造設備は、基材シートロール1が装着された前記送出機3から繰り出されるポリエステル不織布10が下地シート11となって前記巻取機4によって巻き取られるまで略一定速度で走行するように構成されている。
【0040】
即ち、本実施形態の製造設備は、前記送出機3から繰り出され、前記ホットセット機5で連続的に圧縮された前記ポリエステル不織布10が前記ペースト槽2に貯留された加熱溶融状態のペトロラタム系防食剤中を通過する間にこのポリエステル不織布10にペトロラタム系防食剤が含浸され、このペースト槽2を通過した前記含浸済シート10’が前記厚み制御機6で前記ペトロラタム系防食剤の担持量が調整されて下地シート11とされ、該下地シート11が前記冷却機7で冷却されて前記巻取機4によって巻き取られるように構成されている。
【0041】
前記送出機3としては、例えば、適度なブレーキをかけつつ一定速度でポリエステル不織布10を送り出すことが可能に構成されたものを採用することができる。
【0042】
前記送出機3から送り出されたポリエステル不織布10を圧縮する前記ホットセット機5は、ステッチボンド不織布の毛羽立ちを抑制させてペースト槽2に導入させるべく備えられている。
即ち、前記ホットセット機5は、ポリエステル不織布10に前記加熱ロール51でアイロン掛けを行うような機能を発揮させるべく下地シート製造設備に備えられている。
従って、前記ホットセット機5としては、前記加熱ロール51が十分な加熱能力を有し、且つ表面平滑なものを採用することが好ましい。
【0043】
該ホットセット機5によって圧縮されたポリエステル不織布10に対して前記ペトロラタム系防食剤を含浸、担持させるには、ペトロラタム系防食剤に含有されているワックスの融点以上の温度にペトロラタム系防食剤を加熱して当該ペトロラタム系防食剤を十分に低粘度化させることが好ましい。
従って、前記ペースト槽2は、ペトロラタム系防食剤を十分に低粘度化させることが可能な加熱能力を有するものを採用することが好ましい。
【0044】
なお、このペースト槽2におけるペトロラタム系防食剤の温度は、該ペトロラタム系防食剤に含有されている全てのワックスの融点以上とする必要はなく、前記炭化水素系ワックスの融点以上とすればよい。
【0045】
このペースト槽2としては、例えば、前記ポリエステル不織布10を巻き掛けるための巻掛ロール21を槽底に配し、ホットセット機5から供給されるポリエステル不織布10を当該巻掛ロール21に巻き掛けて加熱溶融状態のペトロラタム系防食剤中に浸漬させた後に前記厚み制御機6に向けて送り出しうるように構成されたものを採用することができる。
【0046】
前記厚み制御機6としては、ペースト槽2を通過してペトロラタム系防食剤の含浸、担持された含浸済シート10’に当接させて余分なペトロラタム系防食剤を掻き落とすための部材が備えられたものを採用することができ、例えば、前記含浸済シート10’の一面側に当接させて該一面側の表面に余分に付着しているペトロラタム系防食剤を掻きおとすための第一の厚み規制部材61と、前記一面側とは反対となる他面側から含浸済シート10’に当接させて該他面側において表面に余分に付着しているペトロラタム系防食剤を掻きおとすための第二の厚み規制部材62とを有するものを採用することができる。
【0047】
なお、第一の厚み規制部材61や第二の厚み規制部材62としては、前記ペースト槽2から引き上げられて前記ポリエステル不織布10の幅よりも長さの長い板状のものやロール状のものを採用することができる。
該厚み規制部材61,62は、含浸済シート10’に対して角張った部材を当接させるよりも曲面を有する部材を当接させる方が含浸済シートの表面のペトロラタム系防食剤を平滑で均一厚みとすることが容易であるため、ロール状のものを採用することが好ましい。
【0048】
本実施形態において基材シートとして用いているステッチボンド不織布は、通常、一本の編み込み糸が一面側10aにおいては2本となって観察され、他面側10bにおいては1本となって観察されるように形成されており、2本の編み目が観察される側の方が1本の編み目しか観察されない側に比べて空隙の少ない締まった状態になっている。
【0049】
即ち、本実施形態におけるポリエステル不織布10は、2本編み目側となる前記一面側10aの方が1本編み目側となる前記他面側10bよりもペトロラタム系防食剤が含浸されにくく、前記一面側10aの方が表面にもペトロラタム系防食剤が担持され難い状態になっている。
【0050】
このことから前記厚み制御機6は、第一の厚み規制部材61と第二の厚み規制部材62とを含浸済シート10’に対して同時に当接させたのでは一面側10a’と他面側10b’とでペトロラタム系防食剤の表面担持量に差が生じやすくなる。
従って、前記厚み制御機6は、前記一面側10aにおいて第一の厚み規制部材61によってポリエステル不織布10へのペトロラタム系防食剤の担持量を規制するタイミングと、前記他面側10bにおいて第二の厚み規制部材62によってペトロラタム系防食剤の担持量を規制するタイミングとを別々に設定することが好ましく、厚み規制部材61,62を前記含浸済シート10’の進行方向に対してオフセット配置させることが好ましい。
【0051】
即ち、本実施形態の厚み制御機6は、第一の厚み規制部材61、及び、第二の厚み規制部材62としてポリエステル不織布10の幅よりも長さの長いロールを採用し、第一の厚み規制部材61たるロール(以下、「第一ロール61」ともいう。)と前記第二の厚み規制部材62たるロール(以下、「第二ロール62」ともいう。)とをオフセット配置させることが好ましい。
【0052】
以下に厚み制御機6の好ましい態様について、含浸済シート10’がペースト槽2から垂直方向上向きに引き上げられており、このペースト槽2の上方に厚み制御機6が配されている場合を例にしてより詳しく説明する。
【0053】
該厚み制御機6においては、含浸済シート10’の一面側10a’に当接される前記第一ロール61と含浸済シート10’の他面側10b’に当接される前記第二ロール62とは、軸方向が略水平方向となり且つ互いの前記軸方向が略平行となるように配されている。
なお、前記のように第一ロール61は、第二ロール62よりも上位に配されている。
従って、該第一ロール61は、第二ロール62と斜め上側において平行するように配置されている。
しかも、第一ロール61と第二ロール62とは、図に示されているように、上下方向にオフセット(位置ずれ)させて配置されているのみならず互いの側縁を垂線に対して行き違えるようにして配置されている。
言い換えると、垂直方向下位側の第二ロール62は、その第一ロール側の側縁を通る垂線(
図1の仮想線C)が、上位に配されている第一ロール61の第二ロール側の側縁と中心軸との間を通るように配されている。
また、同様に第一ロール61は、第二ロール側の側縁を通る垂線(
図1の仮想線D)が、第二ロール62の第一ロール側の側縁と中心軸との間を通るように配されている。
【0054】
従って、ペースト槽2から引き上げられた含浸済シート10’は、前記他面側10b’に第二ロール62が当接されて、前記一面側10a’が外側となるように僅かに屈曲された後に前記一面側10a’から第一ロール61が当接されて、先程とは逆に他面側10b’が外側となるように僅かに屈曲される形となって当該厚み制御機6を通過することになる。
【0055】
また、第一ロール61と第二ロール62とは、作製する下地シートの厚みよりも大きく隙間を設けて厚み制御機6に配されている。
【0056】
なお、前記第一ロール61は、前記含浸済シート10’と接する外周面が該含浸済シート10’の移動方向と対向する方向に移動するように回転させるべく厚み制御機6に備えられている。
そして、本実施形態においては、前記第一ロール61と略同じ長さを有し、該第一ロール61の外周面との距離を軸方向において略一定にしながら前記距離を調整可能となるようにして配置された調整材63が厚み制御機6にさらに備えられている。
【0057】
前記第一ロール61は、含浸済シート10’の一面側10a’に付着している余分なペトロラタム系防食剤を掻き落とす機能を有しているが、前記ポリエステル不織布10は2本編み目側となる前記一面側10aの方が固く締まった状態になっているために糸目が露出されやすく、この糸目をより確実に表面露出させないように回転され、且つ前記調整材63と組み合わせて用いられる。
【0058】
前記ポリエステル不織布10は、前記一面側10aの方が固く締まった状態になっているために含浸済シート10’の張力が変化し、それまでよりも強めの張力が含浸済シート10’に生じた際に過度にペトロラタム系防食剤が掻き落とされてしまい易い。
そのために前記第一ロール61は、その外周面に担持させた余分なペトロラタム系防食剤を回転によって前記調整材63との間を通過させて外周面全体における当該ペトロラタム系防食剤の厚みを所定の厚みに調整し、この厚みが調整されたペトロラタム系防食剤を再び含浸済シート10’の表面に付着させるべく構成されており、このようにして下地シートの表面に糸目が露出することをより確実に防止させるべく厚み制御機6に備えられている。
【0059】
一方で、ポリエステル不織布10の他面側10bは、比較的柔軟性に富んでいるために張力の変化などによってペトロラタム系防食剤の担持量に変化を生じさせ難い。
従って、前記第二ロール62は、前記第一ロール61と同様に規制部材を設けて回転させるべく構成させても良いが、静止した状態となるように厚み制御機6に備えさせてもよい。
【0060】
前記第一ロール61や前記第二ロール62は、含浸済シート10’との接触によって該含浸済シート10’に担持されているペトロラタム系防食剤をその主成分たるワックスの結晶化温度以下に冷却させてしまうと当該ペトロラタム系防食剤の粘度が急激に上昇してポリエステル不織布10からペトロラタム系防食剤が剥がれてしまうおそれを有することから、その表面温度を前記結晶化温度を超える温度にし、厚み制御機6を通過するまでペトロラタム系防食剤を前記結晶化温度を超える温度に維持させるべく加熱機能を有することが好ましい。
【0061】
この第一ロール61や第二ロール62としては、通常、直径100mm~350mmの金属ロールで内部に電気ヒーターや熱媒体の流通路を有するものを採用することができる。
【0062】
そして、この厚み制御機6を通過した下地シートを強制冷却するための前記冷却機7は、前記ペトロラタム系防食剤のワックスの結晶化温度よりも低い温度の気体を前記下地シートのペトロラタム系防食剤に吹き付けるように構成されたものや当該下地シートに当接されて下地シートの移動とともに供回りする冷却ローラなどによって構成させることができる。
【0063】
前記冷却機7は、前記ペトロラタム系防食剤のワックスの結晶化温度よりも低い温度の気体を前記下地シートのペトロラタム系防食剤に吹き付けるように構成されていることが好ましい。前記冷却機7は、斯かる構成になっていることにより、前記下地シートの面の比較的広い範囲を冷却することが可能となる。
前記気体としては、水分を含む気体を用いることが好ましい。水分を含む気体を用いることにより、水の蒸発潜熱で下地シートを効率良く冷却することができる。
また、前記水分を含む気体としては、微細な水の粒子を含む気体(例えば、霧)を用いることがより好ましい。水分を含む気体を下地シートに吹き付けると、水の粒子が未硬化のペトロラタム系防食剤に衝突して下地シートの表面に凹みが生じ得るが、水の粒子の粒径が小さい程凹みの大きさを小さくさせることができるからである。
前記水の粒子の粒径としては、好ましくは50μm以下、より好ましくは1~20μmである。
【0064】
さらに、前記巻取機4は、特に限定されるものではなく、前記下地シートを一定速度で引き取ってロール状に巻き取るように構成されたものを採用することができる。
【0065】
次いで、このような製造設備を用いて下地シートを製造する製造方法について説明する。
まず、送出機3に基材シートロール1をセットし、この基材シートロール1の外側から帯状のポリエステル不織布10を繰り出し、前記ホットセット機5に備えられた一対の加熱ロール51の間を繰り出された前記ポリエステル不織布10を通過させた後に該ポリエステル不織布10を前記ペースト槽2の巻掛ロール21に巻き掛け、さらに前記厚み制御機6を通してこのポリエステル不織布10の先端部を前記巻取機4に取り付ける通紙作業を実施する。
このとき前記厚み制御機6においては、ポリエステル不織布10の一面側10aに全幅にわたって第一ロール61の外周面が当接されるようにさせるとともにポリエステル不織布10の他面側10bに全幅にわたって第一ロール62の外周面が当接されるようにさせ、且つ、これらロール61,62とポリエステル不織布10との接触圧を調整すべくポリエステル不織布10に適度な張力を生じさせる。
【0066】
その後、ペースト槽2に加熱溶融させたペトロラタム系防食剤を収容させて所定温度に保温させるとともにホットセット機5の加熱ロール51、厚み制御機6の第一ロール61及び第二ロール62を所定の温度にセットする。
そして、第一ロール61と調整材63との距離、及び、第一ロール61の回転数などを決定した上でこの製造設備の運転を開始する。
【0067】
この製造方法においては、ホットセット機5の加熱ロール51で圧縮したポリエステル不織布10をペースト槽2に導入させることから、ポリエステル不織布10の毛羽立ちが抑制されるとともにこのペースト槽2に貯留された加熱溶融状態のペトロラタム系防食剤中で先に一旦圧縮されたポリエステル不織布10の厚みがある程度復元され、当該ポリエステル不織布に対するペトロラタム系防食剤の含浸性が向上される。
【0068】
なお、ホットセット機5によって実施する圧縮工程について詳述すると以下の通りとなる。
前記ホットセット機5には、回転軸が水平方向となるように軸支された一対の加熱ロールが互いに水平方向において平行するように配されており、圧縮工程は、この2本の加熱ロールにポリエステル不織布10をS字(正確にはS字を90度回転させた形)に巻き掛けて実施する。
即ち、2本の加熱ロールを縫うようにしてポリエステル不織布10を通過させる際に、前記加熱ロールとの接触によりポリエステル不織布10を加熱し、2本の加熱ロールの間をポリエステル不織布10が通過する際に、当該加熱ロールでポリエステル不織布10を厚み方向に圧縮して圧縮工程を実施する。
【0069】
このとき、例えば、平均繊度が1.2~3.3dTex、目付が50~70g/m2であり、厚みが0.4~1.0mmのポリエステル不織布に対して圧縮工程を実施するのであれば、通常、前記加熱ロールの温度を170℃~180℃とし、ポリエステル不織布10が加熱ロールに接する合計時間を10秒~15秒として圧縮工程を実施することができる。
また、元のポリエステル不織布10の厚みをT(mm)とすると、該厚みに対する前記加熱ロール間の間隙D(mm)の割合(D/T)は、通常、0.40~0.50とすることができる。
【0070】
ポリエステル不織布は、捲縮構造を有する繊維がカードされたウェブを有するもののような場合には、繊維が前記カードによって本来の捲縮状態よりも伸ばされた状態となってウェブを形成しているために、熱収縮性を潜在的に有している。
即ち、ポリエステル不織布は、加熱されて繊維が軟化された際に当該繊維が本来の捲縮状態に戻ろうとすることで収縮を生じることがある。
そして、本実施形態のポリエステル不織布のように、従来の下地シートにおいて基材シートに利用されているようなものに比べて目付の小さなものにあっては収縮力が小さいものとなるが、当該圧縮工程を実施することによってより一層収縮を抑制させることができる。
【0071】
この点に関してより詳しく説明すると、この圧縮工程においては、加熱ロール51でポリエステル不織布を厚み方向に圧縮しつつ加熱することで繊維をある程度自然な捲縮状態に戻すことができるため、その後のポリエステル不織布の熱収縮を抑制させることができる。
しかも、この圧縮工程によって繊維間が密になってポリエステル不織布が締まった状態になることから、下地シートを引張強度に優れたものとすることができ、例えば、施工時などにおいて下地シートに高い張力が加わった際においても当該下地シートが不用意に切断されてしまうことを抑制させることができる。
【0072】
この圧縮工程が施されたポリエステル不織布にペトロラタム系防食剤を含浸させる含浸工程について詳述すると以下の通りとなる。
ペトロラタム系防食剤をポリエステル不織布に含浸させるのに際しては、前記ペースト槽内のペトロラタム系防食剤の温度を90℃~100℃とし、ペトロラタム系防食剤を常温の状態に比べて十分に低粘度化させることが好ましい。
【0073】
そして、90℃~100℃のペトロラタム系防食剤中に前記ポリエステル不織布を浸漬させると、前記圧縮工程において圧縮状態にされたポリエステル不織布は、ペトロラタム系防食剤が毛細管現象によって内部に浸透しようとする圧力とペトロラタム系防食剤による加熱とによって厚みを回復させることになる。
このとき本実施形態においては基材シートが薄手で目付が小さいことから素早くペトロラタム系防食剤を含浸させ得るのみならず、厚みの回復に伴ってペトロラタム系防食剤を内部に吸い込ませる機能を生じさせて当該含浸工程後にポリエステル不織布内に気泡が残存することを抑制させることができる。
【0074】
なお、前記含浸工程後は、このペースト槽2から取り出される含浸済シート10’を前記厚み制御機6に導入し、その一面側10a’と他面側10b’とに余分に付着しているペトロラタム系防食剤をロール61,62の外周面を使って掻き落とさせて所定厚みに調節した下地シートを形成させることができる。
この厚み制御機6には、前記のように上下にオフセットされた状態で第一ロール61と第二ロール62とが配されているため、下地シートは、最初に含浸済シート10’の他面側10b’においてペトロラタム系防食剤の担持量が第二ロール62によって調整された後に該他面側10b’とは反対の前記一面側10a’のペトロラタム系防食剤の担持量が前記第一ロール61と前記調整材63とによって調整されることになる。
【0075】
従来の厚み制御機は、一般的には長板状のブレードを2枚使って構成されており、該ブレードを刃先が対向するように配置し、且つ刃先間が作製する下地シートの仕上がり厚みとなるように配置してこの間を含浸済シートを通過させるように構成されている。
そのため、従来の厚み制御機を通過させて得られる下地シートは、厚みが均一で表面の平滑性にも優れている。
その一方で、従来の下地シートは、基材シートとしてステッチボンド不織布などの表面の凹凸が比較的大きいものを採用した際には表面におけるペトロラタム系防食剤の担持量が局所的に薄くなってしまい、場合によっては基材シートを表面露出させるおそれを有している。
【0076】
このようなことに対し、本実施形態においては、ペトロラタム系防食剤の掻き落としにブレードのようなエッジの鋭い部材を用いるのではなくロール61,62の外周面を用いている。
前記ブレードが含浸済シートとの間で略線接触となるのに対し、ロール61,62は、含浸済シート10’との接触幅を広く確保することができるため、含浸済シート10’との間に高い接触圧が局所的に作用することを防止することができる。
しかも、本実施形態においては、含浸済シート10’が第一ロール61や第二ロール62と接している間は、反対面に別の部材が当接されない。
従って、含浸済シート10’がロール61,62と接している間に当該ロール61,62から離れる方向に移動容易となっており過度にペトロラタム系防食剤が掻き落とされるおそれが抑制され得る。
しかも、本実施形態においては、前記調整材63と前記第一ロール61とのギャップ調整によって所定厚みで第一ロール61の外周面に担持されたペトロラタム系防食剤が当該第一ロール61から離れて行く含浸済シート10’の一面側10a’に転写されることから、ステッチボンド不織布のように一面側が他面側に比べて密度(繊維密度)が高く硬く締まった状態になっているような場合であってもこの硬く締まった側が第二ロール62側となるようにして厚み制御機6を通過させることで基材シートの表面露出をより確実に抑制させることができる。
【0077】
なお、下地シートの各面におけるペトロラタム系防食剤の担持量は、厚み制御機中における含浸済シート10’の張力(第一ロール61や第二ロール62への押圧力)や、第一ロール61や第二ロール62の温度や回転速度などにより調整させることができる。
【0078】
その後、前記巻取機4で下地シートをそのまま巻き取ってもよく、間にセパレートフィルムを挟みながら巻き取るようにしてもよい。
この巻き取られた下地シートは、そのままの状態、又は、適度な幅にスリット加工して下地シートとして利用することができる。
【0079】
この下地シートで、管材などの防食シートによって防食される保護対象物に対して下地処理を施して防食構造を形成させる際には、まず、前記管材に当該下地シートを巻き付けて下地層を形成させた後に、防食テープを巻き付けて防食テープ層を前記下地層の外側に形成させるようにすればよい。
本実施形態の下地シートは、基材シートの目付が小さく、厚みも薄いことから自在に変形し、管材に多少の凹凸が生じていたとしても当該管材の外表面に対して優れた追従性を発揮させ得る。
しかも、本実施形態の下地シートは、防食ペーストが基材シートに均一に担持されていることから接着ムラなどが抑制されており、保護対象物たる管材と防食シートとの間に配されて該防食シートと前記保護対象物との双方に対して全面にわたって優れた接着性を発揮する。
そして、海中などに設置された管材などは、防食ペーストを塗り付けても当該防食ペーストが波によって洗い流されてしまい易く、また、防食テープを直接巻きつけようとしても間に海水を巻き込み易く、防食構造を形成させるのが困難な状況であったが、本実施形態の下地シートは、管材などに対して隙間なく貼りつけることができ、貼り付けた後は防食ペースト単体を塗り付けた場合のように洗い流されたりし難いことからこのような場所において防食構造を形成させる際の下地処理に特に有効なものである。
【0080】
なお、本発明の下地シートについては、上記のような例示のものに限定されるものではなく、その製造方法についても上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(評価)
下地シートについて各種の評価を行った事例を示す。
まず、下地シートに対する評価方法について説明する。
【0083】
<ポリエステル不織布の厚さ>
ポリエステル不織布の厚さについては、測定子10mmφの1/100mmダイヤルゲージを用いてポリエステル不織布の5箇所の厚さを測定し、測定値の算術平均値をポリエステル不織布の厚さとした。
【0084】
<ポリエステル不織布の繊維の平均繊度>
JIS L1013:2010のB法(簡便法)により測定した。
【0085】
<防食ペーストの付着量>
防食ペーストを含浸する前のポリエステル不織布の目付を重量と面積とから求めた。また、防食ペーストをポリエステル不織布に含浸して得られた下地シートの目付を重量と面積とから求めた。そして、下地シートの目付と、ポリエステル不織布の目付との差から、防食ペーストの付着量を求めた。
【0086】
<防食ペーストの付着状況>
ポリエステル不織布への防食ペーストの付着状況を目視で確認した。
○:糸目がほとんど或いは全く露出しなかった場合
△:糸目が若干露出した場合
×:○、△以外の場合
【0087】
(実施例1)
上述した、
図1に示す下地シートを製造するための製造設備を用い、下記の条件で下地シートを作製した。なお、防食ペーストとしては、ペトロラタム系の防食ペーストを用いた。
基材シート:ポリエステル不織布
厚さ:0.7mm
目付:60g/m
2
繊維の平均繊度:2.2dTex
繊維の長さ:51mm
繊維の断面形状:Y字状
加熱ロール間の間隙:0.9mm
厚み制御機のロール間の間隙:1.4mm
【0088】
(実施例2)
厚み制御機のロール間の間隙を0.8mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして、下地シートを作製した。
【0089】
(実施例3)
下記の条件以外は、実施例1と同様にして、下地シートを作製した。
基材シート:ポリエステル不織布
厚さ:0.6mm
目付:56g/m2
繊維の平均繊度:1.7dTex
繊維の長さ:38mm
繊維の断面形状:円形状
厚み制御機のロール間の間隙:1.2mm
【0090】
(実施例4)
加熱ロール間の間隙を0.4mm、厚み制御機のロール間の間隙を1.4mmにしたこと以外は、実施例3と同様にして、下地シートを作製した。
【0091】
(実施例5)
厚み制御機のロール間の間隙を0.6mmにしたこと以外は、実施例4と同様にして、下地シートを作製した。
【0092】
(実施例6)
下記の条件以外は、実施例1と同様にして、下地シートを作製した。
基材シート:ポリエステル不織布
厚さ:1.2mm
目付:97g/m2
繊維の平均繊度:3.3dTex
繊維の長さ:51mm
繊維の断面形状:円形状
加熱ロール間の間隙:1.2mm
【0093】
(参考例1)
厚み制御機のロール間の間隙を0.6mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして、下地シートを作製した。
【0094】
(参考例2)
厚み制御機のロール間の間隙を0.8mmにしたこと以外は、実施例3と同様にして、下地シートを作製した。
【0095】
(参考例3)
厚み制御機のロール間の間隙を0.6mmにしたこと以外は、実施例3と同様にして、下地シートを作製した。
【0096】
(参考例4)
下記の条件以外は、実施例6と同様にして、下地シートを作製した。
基材シート:ポリエステル不織布
厚さ:0.9mm
目付:84g/m2
加熱ロール間の間隙:0.9mm
厚み制御機のロール間の間隙:0.6mm
【0097】
結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1~6の下地シートは、糸目がほとんど或いは全く露出しなかった。なお、参考例1~4は、実施例1~6の下地シートに比べれば、糸目の露出が見られた。
よって、本発明によれば、厚みを薄く形成させながらも防食ペーストが比較的均一に担持された下地シートを提供できることがわかる。
【符号の説明】
【0100】
1:基材シートロール、10:ポリエステル不織布、11:下地シート