IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-直流給電用限流コイル 図1
  • 特許-直流給電用限流コイル 図2
  • 特許-直流給電用限流コイル 図3
  • 特許-直流給電用限流コイル 図4
  • 特許-直流給電用限流コイル 図5
  • 特許-直流給電用限流コイル 図6
  • 特許-直流給電用限流コイル 図7
  • 特許-直流給電用限流コイル 図8
  • 特許-直流給電用限流コイル 図9
  • 特許-直流給電用限流コイル 図10
  • 特許-直流給電用限流コイル 図11
  • 特許-直流給電用限流コイル 図12
  • 特許-直流給電用限流コイル 図13
  • 特許-直流給電用限流コイル 図14
  • 特許-直流給電用限流コイル 図15
  • 特許-直流給電用限流コイル 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】直流給電用限流コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20220127BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20220127BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
H01F37/00 C
H01F37/00 N
H01F27/28 K
H01F37/00 A
H01F27/24 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017170829
(22)【出願日】2017-09-06
(65)【公開番号】P2019047048
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100146950
【弁理士】
【氏名又は名称】南 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/188662(WO,A1)
【文献】特開昭61-109423(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105529694(CN,A)
【文献】米国特許第04152637(US,A)
【文献】特開2016-181686(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第01472841(FR,A1)
【文献】中国実用新案第202424148(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/28
H01F 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流給電において使用される直流給電用限流コイルであって、
磁束を通しやすい材料で作られたコアと、
前記コアにおいて異なる位置に巻回され、差動接続の向きに接続された2つのコイルと、
前記コアに巻回され、前記2つのコイルの間に相互誘導が生じることを妨げる短絡コイルと、を備え、
前記コアが、対向する第1のヨークおよび第2のヨークと、当該第1のヨークの一方の端部および当該第2のヨークの一方の端部を連結する第1の脚部と、当該第1のヨークの他方の端部および当該第2のヨークの他方の端部を連結する第2の脚部とを有し、
前記2つのコイルの一方が、前記第1の脚部に巻回されており、
前記2つのコイルの他方が、前記第2の脚部に巻回されており、
前記短絡コイルは、前記コアにおいて前記第1の脚部と前記第2の脚部の間に配置され、かつ前記2つのコイルからそれぞれ生じる磁束の大きさに差がある位置に配置されることを特徴とする直流給電用限流コイル。
【請求項2】
前記コアが、前記第1のヨークの中間部分と前記第2のヨークの中間部分を連結する第4の脚部を有し、
前記短絡コイルが、前記第1のヨークと前記第2のヨークの少なくとも一方において前記第2の脚部と前記第4の脚部の間に配置され、かつ前記第1のヨークと前記第2のヨークのいずれにおいても前記第1の脚部と前記第4の脚部の間には配置されていないことを特徴とする請求項に記載の直流給電用限流コイル。
【請求項3】
前記コアが、前記第1のヨークの他方の端部から延長された第1の拡張ヨークと、前記第2のヨークの他方の端部から延長された第2の拡張ヨークと、当該第1の拡張ヨークにおける前記第1のヨークと反対側の端部と当該第2の拡張ヨークにおける前記第2のヨークと反対側の端部とを連結する第3の脚部を有することを特徴とする請求項またはに記載の直流給電用限流コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流給電において使用される直流給電用限流コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタ等でサーバに高電圧直流を給電するシステムが知られている。また、スマートグリッドへの適用を目指して、380V程度の高電圧直流(HVDC:High Voltage Direct Current)送電の研究開発が進められている。
【0003】
このような高電圧直流の給電線に短絡事故等が発生すると、過大電流が流れるおそれがある。この過大電流は、給電線の途中にコイルを挿入することにより、抑制することができる。電圧が急激に変化するとき、コイルのインダクタンスが電流の急激な変化を抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
短絡事故等により大きな電圧が印加されると、磁束が徐々に増加し、それに伴って電流が増加する。例えば、遮断器は電流値が所定の値に達したときに電流を遮断する。一方、コイルは磁気飽和すると、インダクタンスが非常に小さくなり、膨大な電流が瞬時に流れる。遮断器により電流が遮断される前にコイルが磁気飽和すると、過大電流が流れて遮断器や給電線に接続された機器等が損傷を受けるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、大きな電圧が印加されたとき、磁気飽和するまでに磁束の変化できる幅が大きい直流給電用限流コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の直流給電用限流コイルは、
直流給電において使用される直流給電用限流コイルであって、
磁束を通しやすい材料で作られたコアと、
前記コアにおいて異なる位置に巻回され、差動接続の向きに接続された2つのコイルと、
前記コアに巻回され、前記2つのコイルの間に相互誘導が生じることを妨げる短絡コイルと、
を備え、
前記コアが、対向する第1のヨークおよび第2のヨークと、当該第1のヨークの一方の端部および当該第2のヨークの一方の端部を連結する第1の脚部と、当該第1のヨークの他方の端部および当該第2のヨークの他方の端部を連結する第2の脚部とを有し、
前記2つのコイルの一方が、前記第1の脚部に巻回されており、
前記2つのコイルの他方が、前記第2の脚部に巻回されており、
前記短絡コイルは、前記コアにおいて前記第1の脚部と前記第2の脚部の間に配置され、かつ前記2つのコイルからそれぞれ生じる磁束の大きさに差がある位置に配置されることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、本発明の直流給電用限流コイルは、
前記コアが、前記第1のヨークの中間部分と前記第2のヨークの中間部分を連結する第4の脚部を有し、
前記短絡コイルが、前記第1のヨークと前記第2のヨークの少なくとも一方において前記第2の脚部と前記第4の脚部の間に配置され、かつ前記第1のヨークと前記第2のヨークのいずれにおいても前記第1の脚部と前記第4の脚部の間には配置されていないことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、本発明の直流給電用限流コイルは、
前記コアが、前記第1のヨークの他方の端部から延長された第1の拡張ヨークと、前記第2のヨークの他方の端部から延長された第2の拡張ヨークと、当該第1の拡張ヨークにおける前記第1のヨークと反対側の端部と当該第2の拡張ヨークにおける前記第2のヨークと反対側の端部とを連結する第3の脚部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大きな電圧が印加されたとき、磁気飽和するまでに磁束の変化できる幅を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】単一のコイルがコアに巻回された限流コイルに直流電流が流れている状態の一例を示す図である。
図2図1の限流コイルに大きな電圧が印加された状態の一例を示す図である。
図3図1のコアにおける磁気ヒステリシスの一例を示す図である。
図4】2つのコイルが差動接続された限流コイルの一例を示す図である。
図5図4の限流コイルに直流電流が流れている状態の一例を示す図である。
図6図4の限流コイルに大きな電圧が印加された状態の一例を示す図である。
図7図5のコアにおける磁気ヒステリシスの一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る限流コイルの一例を示す図である。
図9図8の限流コイルに直流電流が流れている状態の一例を示す図である。
図10図8の限流コイルに大きな電圧が印加された状態の一例を示す図である。
図11図4の限流コイルと図8の限流コイルに流れる電流の時間変化の一例を示す図である。
図12】逆起電力抑止用ダイオードが付加された本発明の実施形態に係る直流給電用限流コイルの一例を示す図である。
図13】矩形状のコアを有する図12の限流コイルの構成の一例を示す図である。
図14】矩形部の隣に磁束の経路が付加されたコアを有する図12の限流コイルの構成の一例を示す図である。
図15】矩形部の中間に磁束の経路が付加されたコアを有する図12の限流コイルの構成の一例を示す図である。
図16】矩形部の中間および矩形部の隣に磁束の経路が付加されたコアを有する図12の限流コイルの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る直流給電用限流コイルについて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態を説明する全図において、共通の構成要素には同一の符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0013】
図1は、コア20に単一のコイル10が巻かれた限流コイル100に直流電流Iが流れている状態の一例を示す。図2は、図1の限流コイル100に大きな電圧が印加された状態の一例を示す。
限流コイル100は、コイル10と、コア20とを有する。コイル10はコア20に巻かれている。コイル10は、巻き始めと巻き終わりがそれぞれ端子T1と端子T2に接続されている。コア20は、鉄のような磁束を通しやすい材料で作られている。ただし、コア20は、磁束を通しやすい材料であれば、鉄以外の材料で作られていてもよい。
【0014】
限流コイル100は、直流の給電線の途中に挿入される。通常(すなわち、短絡事故等が起こっていないとき)、コイル10は単なる配線とみなせ、コイル10には略一定の直流電流Iが流れる。このとき、図1に示すように、この直流電流Iによりコア20の内部には略一定の磁束Φ1が生じる。
短絡事故等が起こり、図2に示すように、端子T1と端子T2をそれぞれ正側と負側として急に大きな電圧が印加されると、端子T1から端子T2に向けてコイル10に電流iが流れる。電流iによって、コア20の内部に磁束Φ2が生じる。急に大きな電圧が印加された後、コイル10のインダクタンスのために電流iは徐々に増加し、それに伴い磁束Φ2は徐々に増加する。
このように、大きな電圧が印加されたとき、コア20内の磁束はΦ1+Φ2となり、Φ1から徐々に増加する。このため、限流コイル100は磁気飽和するまでに磁束の変化可能な幅が小さい。従って、電流iが増加すると、コア20は磁気飽和しやすい。コア20が磁気飽和すると、電流iは瞬時に増加する。
【0015】
しかも、図3に示すように通常コア20には磁気ヒステリシスがある。図3において、Hはコイル10に電流が流れることによって生じる磁界である。また、Bはそのときコア20に生じる磁束密度である。最初に限流コイル100が使用されるとき、コア20には残留磁化がない。このとき、コイル10に直流電流Iが流れると、磁束密度Bは図3のa点となる。そして、急に大きな電圧が印加され、コイル10に電流iが流れるとき、磁束密度Bはa点からb点まで増加することができる。
磁気飽和する直前まで電流iが増加した後、電流が遮断されてコイル10に流れる電流が0になっても、残留磁化のために磁束密度Bはc点までしか減少しない。そして、再度コイル10に直流電流Iが流れると、磁束密度Bはd点となる。この状態で急に大きな電圧が印加され、コイル10に電流iが流れるとき、磁束密度Bはd点からb点までしか増加しない。
この理由からも限流コイル100はコア20が磁気飽和するまでに磁束の変化可能な幅が小さい。
【0016】
図4は、コイル11とコイル12が差動接続された限流コイル200の一例を示す。図5は、図4の限流コイル200に直流電流が流れている状態の一例を示す。図6は、図4の限流コイル200に大きな電圧が印加された状態の一例を示す。
限流コイル200は、コイル11と、コイル12と、コア20とを有する。コイル11とコイル12は、差動接続されている。コイル11は、巻き始めが端子T1に接続されている。コイル12は、巻き始めが端子T2に接続されている。コイル11とコイル12の巻き終わりは接続されている。
コイル11とコイル12の自己インダクタンスをそれぞれL11とL12、相互インダクタンスをMとすると、限流コイル200の合成インダクタンスはL11+L12-2Mとなる。
【0017】
コイル11とコイル12は、コア20に巻かれている。限流コイル200は、直流の給電線の途中に挿入される。図5に示すように、通常(すなわち、短絡事故等が起こっていないとき)、コイル11とコイル12は単なる配線とみなせ、コイル11とコイル12には略一定の直流電流Iが流れる。直流電流Iによって、コア20の内部に、コイル11による磁束Φ11とコイル12による磁束Φ12とが生じる。磁束Φ11と磁束Φ12は、逆向きであり、互いに打ち消し合う。コア20の内部の磁束は小さく、略0とみなせる場合もある。
【0018】
短絡事故等が起こり、例えば、図6に示すように、端子T1と端子T2をそれぞれ正側と負側として急に大きな電圧が印加されると、電流iが流れる。電流iによって、コア20の内部にコイル11による磁束Φ21とコイル12による磁束Φ22とが生じる。磁束Φ21と磁束Φ22も、逆向きであり、互いに打ち消し合う。コア20内の磁束は小さい。合成インダクタンス(L11+L12-2M)が小さいため、限流コイル200は、電流iが急速に増加し、それに伴い磁束Φ21と磁束Φ22が急速に増加する。
【0019】
このとき、コイル11には漏れ磁束ΦL11が生じ、コイル12には漏れ磁束ΦL12が生じる。漏れ磁束ΦL11と漏れ磁束ΦL12は、例えば空気中を通る。漏れ磁束ΦL11と漏れ磁束ΦL12により、コイル11とコイル12にそれぞれ漏れインダクタンスが生じる。時間が経過するとともに電流iが増加し、漏れ磁束ΦL11と漏れ磁束ΦL12が増加する。それに起因してコア20における磁束の状態が変化し、電流iの増加率が減少し、電流iの増加は抑制される。
【0020】
限流コイル200では、コア20の磁束密度Bは図7に示すように変化する。図7において、Hはコイル11とコイル12に電流が流れることによってコア20に生じる磁界である。また、Bはそのときコア20に生じる磁束密度である。コイル11とコイル12に直流電流Iが流れるとき、コア20の磁束密度Bは略0とみなせる。そして、急に大きな電圧が印加され、コイル10とコイル12に電流iが流れるとき、磁束密度Bは略0からb点まで増加することができる。
磁気飽和する直前まで電流iが増加した後、電流が遮断されてコイル11とコイル12に流れる電流が0になると、コア20には残留磁化が生じる。しかし、再度コイル10に直流電流Iが流れると、磁束密度Bは略0となる。この状態で急に大きな電圧が印加され、コイル11とコイル12に電流iが流れるとき、磁束密度Bは略0からb点まで増加することができる。
このため。限流コイル200はコア20が磁気飽和するまでに磁束の変化可能な幅が大きい。
【0021】
図8は、本発明の実施形態に係る限流コイル1の一例を示す。図9は、図8の限流コイル1に直流電流Iが流れている状態の一例を示す。図10は、図8の限流コイル1に大きな電圧が印加された状態の一例を示す。
限流コイル1は、コイル11と、コイル12と、コア20と、短絡リング30とを有する。
限流コイル1のコイル11とコイル12は、限流コイル200と同様に、差動接続の向きに接続される。そして、コイル11とコイル12は、コア20において異なる位置に巻回される。コイル11は、巻き始めが端子T1に接続される。コイル12は、巻き始めが端子T2に接続される。コイル11とコイル12の巻き終わりは接続される。
【0022】
短絡リング30は、コア20においてコイル11とコイル12から生じる磁束の大きさに差がある位置に巻回(配置)される。短絡リング30は、その位置における磁束の変動を妨げ、コイル11とコイル12の間に相互誘導が生じることを妨げる。このため、コイル11とコイル12には相互インダクタンスが生じない。コイル11とコイル12の自己インダクタンスをそれぞれL21とL22とすると、限流コイル1の合成インダクタンスはL21+L22とみなせる。
なお、複数回巻かれた巻線を有し、その巻線の巻き始めと巻き終わりが短絡されているものを短絡コイルという。また、配線がリング状になっているものを短絡リングという。本発明において、短絡リングと短絡コイルのいずれを用いても作用と効果は同一である。そこで、本発明では、短絡リングは短絡コイルに含まれるものとする。
【0023】
図9図10に示すように、コイル11とコイル12はコア20の異なる位置に巻回される。短絡リング30として、短絡リング30Aと短絡リング30Bのいずれか一方または両方がコア20に巻回される。図9図10の例では、短絡リング30Aと短絡リング30Bはコイル12の近傍に配置されている。この位置では、コイル12の生じる磁束がコイル11の生じる磁束よりも大きい。
短絡リング30Aと短絡リング30Bは、渦電流を生じてそれらの配置された位置における磁束の変動を妨げる。
【0024】
限流コイル1は、直流の給電線の途中に挿入される。通常(すなわち、短絡事故等が起こっていないとき)、限流コイル200と同様に、コイル11とコイル12は単なる配線とみなせる。図9に示すように、このとき、コイル11とコイル12には略一定の直流電流Iが流れる。直流電流Iによって、コア20の内部に、コイル11による磁束Φ11とコイル12による磁束Φ12が生じる。磁束Φ11と磁束Φ12は、逆向きであり、互いに打ち消し合う。このため、コア20の内部の磁束は小さくなり、略0となる場合もある。
【0025】
短絡事故等が起こり、例えば、図10に示すように、端子T1と端子T2をそれぞれ正側と負側として急に大きな電圧が印加されると、電流iが流れる。このとき、コイル11とコイル12には相互インダクタンスが生じない。
そして、電流iによって、コイル11には漏れ磁束ΦL21が生じ、コイル12には漏れ磁束ΦL22が生じる。時間が経過するとともに電流iが増加し、漏れ磁束ΦL21と漏れ磁束ΦL22は増加する。漏れ磁束ΦL21に対応するコイル11の自己インダクタンスをL21とし、漏れ磁束ΦL22に対応するコイル12の自己インダクタンスをL22とすると、限流コイル1の合成インダクタンスはL21+L22となる。電圧が急激に変化するとき、このインダクタンス(L21+L22)は電流iの急激な変化を抑制する。このため、図11に示すように、限流コイル1は、限流コイル200と比べて、電流iの増加率が小さく、電流を限流する性能が勝っている。
【0026】
その上、限流コイル1は、限流コイル200と同様に、直流電流Iが流れているとき、コア20の内部の磁束は小さく、略0である。短絡事故等が起こり、急に大きな電圧が印加されると、コア20の内部の磁束は、小さな磁束から増加し始める。このため、限流コイル1は、限流コイル200と同様に、コア20が磁気飽和するまでに磁束の変化可能な幅が限流コイル100に比べて大きい。このため、限流コイル1は、限流コイル100と比べて、コア20が磁気飽和する前に十分に大きな電流iを流すことができる。
【0027】
一般的に限流コイルは遮断器とともに高電圧直流の給電線に設置される。短絡事故等が発生すると、遮断器により電流が遮断される。このとき、限流コイルに逆起電力が生じる。図12は、逆起電力抑止用ダイオードDrが付加された本発明の実施形態に係る直流給電用限流コイル1’の一例を示す。
限流コイル1’は、限流コイル1に逆起電力抑止用ダイオードDrが付加されたものである。逆起電力抑止用ダイオードDrは、アノードが端子T2側に接続され、カソードが端子T1側に接続される。
端子T1から端子T2に向けて流れていた電流が遮断されると、図12に示すように、コイル11とコイル12に逆起電力が生じる。図12においてコイル11とコイル12の両端に付した+と-の符号は逆起電力の向きを示す。
コイル11とコイル12の逆起電力により流れる電流irは、コイル11とコイル12と逆起電力抑止用ダイオードDrによって形成されるループを流れる。
【0028】
以下に、限流コイル1’の具体的な構成例について説明する。
図13は、矩形状のコア21を有する限流コイル1Aの構成の一例を示す。
限流コイル1Aは、コイル11と、コイル12と、コア21と、短絡リング30Aと、短絡リング30Bと、逆起電力抑止用ダイオードDrとを有する。
コア21は、ヨークY1と、ヨークY2と、脚部P1と、脚部P2とを有する。ヨークY1とヨークY2は対向している。脚部P1は、ヨークY1の左の端部とヨークY2の左の端部を連結する。脚部P2は、ヨークY1の右の端部とヨークY2の右の端部を連結する。ヨークY2は、中間にギャップ(隙間)AG1を有する。ヨークY1とヨークY2と脚部P1と脚部P2とは矩形部を形成する。なお、ヨークY2は、中間にギャップ(隙間)AG1が無くてもよい。また、ヨークY1が中間にギャップ(隙間)を有していてもよい。
【0029】
限流コイル1Aにおけるコイル11の巻線は、脚部P1に左回りに巻回されている。コイル12の巻線は、脚部P2に右回りに巻回されている。コイル11のヨークY1側の端部とコイル12のヨークY1側の端部(コイル11の巻き初めとコイル12の巻き初め)にそれぞれ端子T1と端子T2が設けられる。コイル11のヨークY2側の端部とコイル12のヨークY2側の端部(コイル11の巻き終わりとコイル12の巻き終わり)は接続される。
短絡リング30Aは、ヨークY1においてコイル12の近傍に配置されており、ヨークY1がその中心の孔を通っている。また、短絡リング30Bは、ヨークY2においてコイル12の近傍に配置されており、ヨーク2がその中心の孔を通っている。
なお、短絡リング30Aと短絡リング30Bは、いずれか一方のみでもよい。
【0030】
限流コイル1Aでは、漏れ磁束ΦL21と漏れ磁束ΦL22は空気中を通るが、漏れ磁束ΦL21は漏れ磁束ΦL22よりも大きい。このため、コイル11のインダクタンスL21が大きくなるため、限流コイル1Aのインダクタンス(L21+L22)は大きくなる。そして、急に大きな電圧が印加されたとき、コイル11の漏れ磁束ΦL21とコイル12の漏れ磁束ΦL22は小さな磁束から増加し始める。このため、急に大きな電圧が印加されたとき、限流コイル1Aは、電流iの増加を抑制しつつ、コア21が磁気飽和する前に大きな電流iを流すことができる。
【0031】
図14は、矩形部の隣に磁束の経路が付加されたコア22を有する限流コイル1Bの構成の一例を示す。
限流コイル1Bは、コイル11と、コイル12と、コア22と、短絡リング30Aと、短絡リング30Bと、逆起電力抑止用ダイオードDrとを有する。
限流コイル1Bにおけるコイル11とコイル12と短絡リング30Aと短絡リング30Bと逆起電力抑止用ダイオードDrは、図13の限流コイル1Aのものと同一である。
限流コイル1Bは、コア22の構成が図13のコア21と異なる。コア22は、コア21に、拡張ヨークY3と、拡張ヨークY4と、脚部P3とが付加されたものである。すなわち、コア22は、ヨークY1と、ヨークY2と、拡張ヨークY3と、拡張ヨークY4と、脚部P1と、脚部P2と、脚部P3とを有する。
拡張ヨークY3は、ヨークY1の右の端部から延びる。拡張ヨークY4は、ヨークY2の右の端部から延びる。脚部P3は、拡張ヨークY3の右の端部(拡張ヨークY3におけるヨークY1と反対側の端部)と拡張ヨークY4の右の端部(拡張ヨークY4におけるヨークY2と反対側の端部)を連結する。脚部P3は中間にギャップ(隙間)AG2を有する。
【0032】
脚部P3は、漏れ磁束ΦL22の経路となる。限流コイル1Bでは、漏れ磁束ΦL22が、脚部P2と拡張ヨークY3と脚部P3と拡張ヨークY4を通る。このため、限流コイル1Bにおけるコイル12のインダクタンスL22が限流コイル1Aにおけるコイル12のものより大きくなり、限流コイル1Bのインダクタンス(L21+L22)は限流コイル1Aのものに比べて大きくなる。そして、急に大きな電圧が印加されたとき、コイル11の漏れ磁束ΦL21は小さな磁束から増加し始める。このため、急に大きな電圧が印加されたとき、限流コイル1Bは、限流コイル1Aより電流iの急激な増加を更に抑制することができる。
【0033】
図15は、矩形部の中間に磁束の経路が付加されたコア23を有する限流コイル1Cの構成の一例を示す。
限流コイル1Cは、コイル11と、コイル12と、コア23と、短絡リング30Aと、短絡リング30Bと、逆起電力抑止用ダイオードDrとを有する。
限流コイル1Cにおけるコイル11とコイル12と短絡リング30Aと短絡リング30Bと逆起電力抑止用ダイオードDrは、図13の限流コイル1Aのものと同一である。
限流コイル1Cは、コア23の構成が図13のコア21と異なる。コア23は、コア21に、脚部P4が付加されたものである。すなわち、コア23は、ヨークY1と、ヨークY2と、脚部P1と、脚部P2と、脚部P4とを有する。
脚部P4は、ヨークY1の中間部分とヨークY2の中間部分を連結する。脚部P4は、中間にギャップ(隙間)AG3を有する。
【0034】
短絡リング30Aは、ヨークY1において脚部P2と脚部P4の間に配置されており、ヨークY1がその中心の孔を通っている。また、短絡リング30Bは、ヨークY2において脚部P2と脚部P4の間に配置されており、ヨークY2がその中心の孔を通っている。
なお、短絡リング30Aと短絡リング30Bは、いずれか一方のみでもよい。
【0035】
脚部P4は、漏れ磁束ΦL21の経路となる。限流コイル1Cでは、漏れ磁束ΦL21が、脚部P1とヨークY1と脚部P4とヨークY2を通る。このため、限流コイル1Cにおけるコイル11のインダクタンスL21が限流コイル1Aのコイル11のものよりも大きくなり、限流コイル1Cのインダクタンス(L21+L22)は限流コイル1Aのものより大きくなる。そして、急に大きな電圧が印加されたとき、コイル11の漏れ磁束ΦL21とコイル12の漏れ磁束ΦL22は小さな磁束から増加し始める。このため、急に大きな電圧が印加されたとき、限流コイル1Bは、電流iの急激な増加を抑制しつつ、コア23が磁気飽和する前に大きな電流iを流すことができる。
【0036】
図16は、矩形部の中間および矩形部の隣に磁束の経路が付加されたコア24を有する限流コイル1Dの構成の一例を示す。
限流コイル1Dは、コイル11と、コイル12と、コア24と、短絡リング30Aと、短絡リング30Bと、逆起電力抑止用ダイオードDrとを有する。限流コイル1Dにおけるコイル11とコイル12と短絡リング30Aと短絡リング30Bと逆起電力抑止用ダイオードDrは、図15の限流コイル1Cのものと同一である。
限流コイル1Dは、コア24の構成が図15のコア23と異なる。コア24は、コア23に、拡張ヨークY3と、拡張ヨークY4と、脚部P3とが付加されたものである。すなわち、コア24は、ヨークY1と、ヨークY2と、拡張ヨークY3と、拡張ヨークY4と、脚部P1と、脚部P2と、脚部P3と、脚部P4とを有する。
拡張ヨークY3は、ヨークY1の右の端部から延びる。拡張ヨークY4は、ヨークY1の右の端部から延びる。脚部P3は、拡張ヨークY3の右の端部(拡張ヨークY3におけるヨークY1と反対側の端部)と拡張ヨークY4の右の端部(拡張ヨークY4におけるヨークY2と反対側の端部)を連結する。脚部P3は中間にギャップAG2を有する。
【0037】
脚部P3は、漏れ磁束ΦL22の経路となる。限流コイル1Dでは、漏れ磁束ΦL22が、脚部P2と拡張ヨークY3と脚部P3と拡張ヨークY4を通る。このため、限流コイル1Dにおけるコイル12のインダクタンスL22が限流コイル1Cにおけるコイル12のものより大きくなり、限流コイル1Dのインダクタンス(L21+L22)は限流コイル1Cのものに比べて大きくなる。そして、急に大きな電圧が印加されたとき、コイル11の漏れ磁束ΦL21は小さな磁束から増加し始める。このため、急に大きな電圧が印加されたとき、限流コイル1Dは、限流コイル1Cより電流iの急激な増加を更に抑制することができる。
【0038】
なお、図13図16に示したコア21~コア24の構成は、例示であって限定するものではない。コア20として、これら以外にも様々な構成のコアを用いることができる。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、大きな電圧が印加されたとき、磁気飽和するまでに磁束の変化できる幅を大きくすることができる。
このため、本発明の直流給電用限流コイルを直流の給電線の途中に挿入することにより、時間が経過してもコアが磁気飽和しにくくなる。その結果、過大電流が突発的に生じにくくなる。そして、本発明の直流給電用限流コイルを遮断器やヒューズと共に用いることにより、遮断器やヒューズにより電流が遮断される前に過大電流が流れて遮断器や給電線に接続された機器等が損傷を受ける可能性を少なくすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、設計または製造上の都合やその他の要因によって必要となる様々な修正や組み合わせは、請求項に記載されている発明や発明の実施形態に記載されている具体例に対応する発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1,1’,1A,1B,1C,1D,100,200…限流コイル、10,11,12…コイル、20,21,22,23,24…コア、30,30A,30B…短絡リング(短絡コイル)、Y1,Y2…ヨーク、Y3,Y4…拡張ヨーク、P1,P2,P3,P4…脚部、AG1,AG2,AG3…ギャップ(隙間)、Dr…逆起電力抑止用ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16