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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビフェニル類の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20220127BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20220127BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20220127BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G01N30/88 X
G01N1/10 C
G01N30/06 Z
G01N30/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018022510
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019138774
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 文人
(72)【発明者】
【氏名】宮内 佑子
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 典明
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-275822(JP,A)
【文献】特開2003-225507(JP,A)
【文献】特開2015-021869(JP,A)
【文献】特開2015-021868(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073818(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/123393(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0122708(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/06,30/88,
B01J 20/283-20/284,
G01N 33/00,
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液からポリ塩化ビフェニル類を抽出するための方法であって、
通液性を有しかつ前記溶液が浸透可能でありかつポリ塩化ビフェニル類に対して不活性な材料を用いて形成された保持層と、硫酸シリカゲル層とを含む第一層の前記保持層へ前記溶液を添加する工程1と、
前記溶液が添加された前記第一層へ前記保持層側から脂肪族炭化水素溶媒を供給して前記保持層および前記硫酸シリカゲル層の順に通過させる工程2と、
第一アルミナ層と第二アルミナ層とを含む第二層に対し、前記第一層を通過した前記脂肪族炭化水素溶媒を前記第一アルミナ層側から供給して前記第一アルミナ層および前記第二アルミナ層の順に通過させる工程3と、
前記脂肪族炭化水素溶媒が通過した前記第二層へポリ塩化ビフェニル類の抽出溶媒を供給して通過させる工程4と、
前記第二層を通過した前記抽出溶媒を確保する工程5とを含み、
前記第二アルミナ層は、酸化ニッケルおよび酸化銀からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む酸化アルミニウムを含み、
工程1および工程2において、前記第一層の温度を35℃未満に設定する、
ポリ塩化ビフェニル類の抽出方法。
【請求項2】
前記保持層がシリカゲルを用いて形成されている、請求項1に記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出方法。
【請求項3】
工程4において、前記第二層に対し、前記脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向に前記抽出溶媒を供給して通過させる、請求項1または2に記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出方法。
【請求項4】
工程4において前記第二層に対して前記抽出溶媒を供給する前に、前記第二層に残留している前記脂肪族炭化水素溶媒を除去する、請求項1から3のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出方法。
【請求項5】
前記溶液は、水圏底部若しくは陸上表面の物質層、食品、生物試料、環境水、排水、焼却灰または気体中含有物を捕集した捕集体から溶媒を用いてポリ塩化ビフェニル類を抽出したものである、請求項1から4のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出方法。
【請求項6】
ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液からポリ塩化ビフェニル類を抽出するためのカラムであって、
通液性を有しかつ前記溶液が浸透可能でありかつポリ塩化ビフェニル類に対して不活性な材料を用いて形成された保持層と、硫酸シリカゲル層とを含む第一層が充填された両端に開口部を有する第一カラムと、
前記第一カラムに対して着脱可能に連結された、第一アルミナ層と第二アルミナ層とを含む第二層を充填した両端に開口部を有する第二カラムとを備え、
前記第一層は、前記第一カラムの一方の開口部から他方の開口部に向けて前記保持層と前記硫酸シリカゲルとをこの順に含み、
前記第二層は、前記第二カラムの一方の開口部から他方の開口部に向けて前記第一アルミナ層と前記第二アルミナ層とをこの順に含み、
前記第二アルミナ層は、酸化ニッケルおよび酸化銀からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む酸化アルミニウムを含み、
前記第二カラムは、前記第一アルミナ層側の端部が前記第一カラムの前記硫酸シリカゲル層側の端部に対して着脱可能に連結されている、
ポリ塩化ビフェニル類の抽出用カラム。
【請求項7】
前記保持層がシリカゲルを用いて形成されている、請求項6に記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出用カラム。
【請求項8】
前記第二カラムにおいて、前記第一アルミナ層と前記第二アルミナ層とが同じ体積になるよう充填されている、請求項6または7に記載のポリ塩化ビフェニル類の抽出用カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル類の抽出方法、特に、ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液からポリ塩化ビフェニル類を抽出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
底質、土壌、焼却施設において産出される焼却灰、食品、血液や母乳などの生物試料、海水、河川水、湖沼水および地下水等の環境水や工業排水、大気、焼却施設からの排ガスなどについて、生体への毒性が強い環境汚染物質として知られたポリ塩化ビフェニル類(以下、「PCB類」と称することがある。)による汚染状況の評価が求められている。
【0003】
PCB類による汚染状況の評価では、通常、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒やトルエン等の芳香族炭化水素溶媒などの溶媒を用いて評価対象の試料からPCB類を抽出し、この抽出により得られるPCB類の溶液をガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)やガスクロマトグラフ電子捕獲検出法(GC/ECD法)のような高感度の分析機器を用いて分析する。
【0004】
PCB類は、水素原子が塩素原子により置換されたビフェニル類の総称であり、置換された塩素数の点でモノクロロビフェニルからデカクロロビフェニルまでの10種類が存在し、また、塩素の置換位置によって209種類が存在する。そこで、PCB類を高精度に分析するために、PCB類の溶液は、分析機器での測定に際してPCB類の各同族体の回収率を損なわずに測定結果に影響する妨害成分(夾雑成分)を除去可能な高精度の前処理が求められている。
【0005】
前処理方法の一つとして、非特許文献1には、底質からPCB類を抽出したヘキサン溶液の前処理方法が記載されている。この前処理方法では、試料であるヘキサン溶液に対して硫酸処理を繰り返し、この処理後のヘキサン溶液を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄して濃縮する。そして、濃縮したヘキサン溶液を硫酸ナトリウムを含むシリカゲルカラムでさらに処理し、ヘキサンを用いて当該シリカゲルカラムからPCB類を抽出するものである。この前処理方法は、PCB類の各同族体の回収率を損なわずに夾雑成分を効果的に除去可能であるものの、多くの手作業を必要とすることから完了までに長時間を要し、一日の実稼働時間内で処理可能な試料数が限定される。このため、日々発生する多数の試料をこの前処理方法により迅速にかつ経済的に処理するのは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】平成24年8月 環境省 水・大気環境局 底質調査方法(II.6.4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PCB類を含む溶液から、簡単な操作により短時間でPCB類を抽出できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液からポリ塩化ビフェニル類を抽出するための方法に関するものである。この抽出方法は、通液性を有しかつ上記溶液が浸透可能な、ポリ塩化ビフェニル類に対して不活性な材料を用いて形成された保持層と、硫酸シリカゲル層とを含む第一層の保持層へ上記溶液を添加する工程1と、上記溶液が添加された第一層へ保持層側から脂肪族炭化水素溶媒を供給して通過させる工程2と、第一アルミナ層と第二アルミナ層とを含む第二層に対し、第一層を通過した脂肪族炭化水素溶媒を第一アルミナ層側から供給して通過させる工程3と、脂肪族炭化水素溶媒が通過した第二層へポリ塩化ビフェニル類の抽出溶媒を供給して通過させる工程4と、第二層を通過した抽出溶媒を確保する工程5とを含む。ここで用いられる第二アルミナ層は、酸化ニッケルおよび酸化銀からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む酸化アルミニウムを含む。また、この抽出方法の工程1および工程2では、第一層の温度を35℃未満に設定する。
【0009】
この抽出方法において、工程1で保持層へ添加されたポリ塩化ビフェニル類を含む溶液は、工程2で供給される脂肪族炭化水素溶媒に溶解して脂肪族炭化水素溶媒とともに保持層および硫酸シリカゲル層の順で第一層を通過し、また、工程3において脂肪族炭化水素溶媒とともに第二層を通過する。この際、上記溶液に含まれるポリ塩化ビフェニル類は、工程1および工程2において第一層の温度を35℃未満に設定していることから第一層、特に硫酸シリカゲル層での分解が抑えられ、その種類に応じて第二層の第一アルミナ層または第二アルミナ層において捕捉される。また、ポリ塩化ビフェニル類以外の夾雑成分は、一部が第一層に捕捉され、残余が脂肪族炭化水素溶媒とともに第一層および第二層を通過する。このため、工程4において第二層へ供給した抽出溶媒を工程5で確保すると、ポリ塩化ビフェニル類の抽出溶媒溶液が得られる。
【0010】
この抽出方法において用いられる第一層の保持層は、例えば、シリカゲルを用いて形成されている。
【0011】
この抽出方法では、工程4において、第二層に対し、脂肪族炭化水素溶媒の通過方向とは逆方向に抽出溶媒を供給して通過させるのが好ましい。また、工程4において第二層に対して抽出溶媒を供給する前に、第二層に残留している脂肪族炭化水素溶媒を除去するのが好ましい。
【0012】
この抽出方法によりポリ塩化ビフェニル類を抽出可能な溶液は、例えば、水圏底部若しくは陸上表面の物質層、食品、生物試料、環境水、排水、焼却灰または気体中含有物を捕集した捕集体から溶媒を用いてポリ塩化ビフェニル類を抽出したものである。
【0013】
他の観点に係る本発明は、ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液からポリ塩化ビフェニル類を抽出するためのカラムに関するものである。このカラムは、通液性を有しかつ溶液が浸透可能な、ポリ塩化ビフェニル類に対して不活性な材料を用いて形成された保持層と、硫酸シリカゲル層とを含む第一層が充填された第一カラムと、第一カラムに対して着脱可能に連結された、第一アルミナ層と第二アルミナ層とを含む第二層を充填した第二カラムとを備えている。ここで、第二アルミナ層は、酸化ニッケルおよび酸化銀からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む酸化アルミニウムを含み、第二カラムは、第一アルミナ層側の端部が第一カラムの硫酸シリカゲル層側の端部に対して着脱可能に連結されている。
【0014】
このカラムにおいて用いられる保持層は、例えば、シリカゲルを用いて形成されている。また、第二カラムは、第一アルミナ層と第二アルミナ層とが同じ体積になるよう充填されているのが好ましい。
【0015】
本発明に係るポリ塩化ビフェニル類の抽出用カラムは、本発明の抽出方法において用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリ塩化ビフェニル類の抽出方法は、上述の工程1~5を含むものであるため、ポリ塩化ビフェニル類を含む溶液から、ポリ塩化ビフェニル類を簡単な操作により短時間で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るポリ塩化ビフェニル類の抽出方法において利用可能なカラムの一例の概略図。
図2】前記カラムを用いた抽出方法の一工程を示す図。
図3】前記カラムを用いた抽出方法の他の工程を示す図。
図4】前記カラムを用いた抽出方法のさらに他の工程を示す図。
図5】前記カラムを用いた抽出方法のさらに他の工程を示す図。
図6】実験例Iの結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るポリ塩化ビフェニル類(PCB類)の抽出方法は、PCB類を含む溶液からPCB類を抽出するための方法に関するものである。
【0019】
この抽出方法の対象となるPCB類含有溶液は、特に限定されるものではないが、通常はPCB類による汚染の評価を必要とするもの、例えば、底質や土壌等の水圏底部若しくは陸上表面の物質層、農作物、食肉類および魚介類等の食品、母乳および血液等の体液、器官並びに組織等の生物試料、河川水、湖沼水および地下水などの環境水、工業排水や生活排水等の排水、焼却施設において産出される焼却灰、または、環境大気や焼却施設から排出される排ガス等の気体中の含有物を捕集したフィルタ等の捕集体などから溶媒(通常はヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒やトルエン等の芳香族炭化水素溶媒などの疎水性有機溶媒。)を用いてPCB類を抽出した溶液である。
【0020】
図1を参照して、本発明に係るPCB類の抽出方法を実施するために用いられる抽出用カラムの一例を説明する。図において、抽出用カラム1は、主に、第一カラム10、第二カラム20および両カラム10、20を連結するための連結部材30を備えており、第一カラム10から第二カラム20にかけて一連の流路系を形成している。
【0021】
第一カラム10は、下端部10aの外径および内径が縮小された円筒状に形成されており、上端部および下端部にそれぞれ開口部11、12を有している。この第一カラム10は、例えば、ガラスまたは耐溶媒性を有する樹脂材料を用いて形成されており、開口部11側に空間13を設けて第一層14が充填されている。第一層14は、開口部11側から開口部12側に向けて保持層15と硫酸シリカゲル層16とをこの順に含む。
【0022】
保持層15は、通液性を有しかつPCB類含有溶液が浸透可能な層であり、PCB類に対して不活性な材料を用いて形成されている。保持層15を形成する材料としては、通常、粒状のシリカゲル、粒状の活性シリカゲル、粒状または不定形状の二酸化ケイ素、綿状のガラス繊維、綿状の石英ガラス、粒状のフロリジル(ケイ酸マグネシウム)、粒状の活性白土、セライトなどの珪藻土、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂若しくはパーフルオロアルコキシアルカン樹脂等のフッ素系樹脂等の樹脂材料を粒子状等の形状に成型したものなどを挙げることができる。これらの材料は、二種以上のものが併用されてもよい。この場合、各材料は、混合して用いられてもよいし、上下方向の多層に配置されてもよい。上記材料として好ましいものは、安価に入手可能で第一カラム10内に充填しやすいことから、シリカゲルである。
【0023】
硫酸シリカゲル層16は、硫酸シリカゲルからなる層である。ここで用いられる硫酸シリカゲルは、濃硫酸をシリカゲル(好ましくは活性シリカゲル)の表面に均一に添加することで調製されたものである。
【0024】
第一層14において、保持層15を形成する材料の充填密度は、通常、0.1~2.5g/cmに設定するのが好ましく、0.2~1g/cmに設定するのがより好ましい。この充填密度が0.1g/cm未満の場合、第一層14に対してPCB類含有溶液を添加したときに、添加したPCB類含有溶液が保持層15において保持されにくく、短時間のうちに保持層15を透過して硫酸シリカゲル層16へ移行してしまう可能性がある。逆に、この充填密度が2.5g/cmを超える場合、第一層14に対して脂肪族炭化水素溶媒を供給したときに、この脂肪族炭化水素溶媒が保持層15を通過しにくくなる可能性がある。
【0025】
第一層14において、硫酸シリカゲル層16を形成する硫酸シリカゲルの充填密度は、通常、0.2~2.0g/cmに設定するのが好ましく、0.5~1.0g/cmに設定するのがより好ましい。この充填密度が0.2g/cm未満の場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類以外の夾雑成分が硫酸シリカゲル層16において捕捉されにくくなり、PCB類含有溶液中のPCB類と夾雑成分との分離が困難になる可能性がある。逆に、この充填密度が2.0g/cmを超える場合、第一層14に対して脂肪族炭化水素溶媒を供給したときに、この脂肪族炭化水素溶媒が硫酸シリカゲル層16を通過しにくくなる可能性がある。
【0026】
第一層14において、保持層15および硫酸シリカゲル層16の充填量は、抽出用カラム1に適用するPCB類含有溶液の量(試料量)によるが、例えば試料量が2mL以下の場合、保持層15の充填量は、通常、0.2~3mLに設定するのが好ましく、0.5~1.5mLに設定するのがより好ましい。この充填量が0.2mL未満の場合、第一層14に対してPCB類含有溶液を添加したときに、添加したPCB類含有溶液が保持層15において保持されにくく、短時間のうちに保持層15を透過して硫酸シリカゲル層16へ移行してしまう可能性がある。逆に、この充填量が3mLを超える場合、第一層14に対して脂肪族炭化水素溶媒を供給したときに、この脂肪族炭化水素溶媒が保持層15を通過しにくくなる可能性がある。同じく試料量が2mL以下の場合、硫酸シリカゲル層16を形成する硫酸シリカゲルの充填量は、通常、1~10mLに設定するのが好ましく、3~6mLに設定するのがより好ましい。この充填量が1mL未満の場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類以外の夾雑成分が硫酸シリカゲル層16において捕捉されにくくなり、PCB類含有溶液中のPCB類と夾雑成分との分離が困難になる可能性がある。逆に、この充填量が10mLを超える場合、第一層14に対して脂肪族炭化水素溶媒を供給したときに、この脂肪族炭化水素溶媒が硫酸シリカゲル層16を通過しにくくなる可能性がある。
【0027】
第二カラム20は、円筒状に形成されており、上端部および下端部にそれぞれ開口部21、22を有している。この第二カラム20は、例えば、ガラスまたは耐溶媒性および耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されており、内部にPCB類を捕捉するための第二層23が充填されている。第二カラム20の外径および内径は、通常、第一カラム10の下端部10aのこれらの径よりも大きく設定するのが好ましいが、下端部10aのこれらの径と同じに設定することもできる。
【0028】
第二層23は、第二カラム20の開口部22側に空隙24が形成されるよう、開口部21側に偏って充填されており、開口部21側から開口部22側に向けて第一アルミナ層25と第二アルミナ層26とをこの順に含む。
【0029】
第一アルミナ層25は、粉末状または粒子状の酸化アルミニウムを用いて形成されたものである。ここで用いられる酸化アルミニウムは、通常、γ-アルミナ、δ-アルミナまたはθ-アルミナのような中間アルミナが好ましく、また、塩基性、中性または酸性のいずれのものであってもよい。また、酸化アルミニウムの活性度は限定されるものではなく、第一アルミナ層25において各種の活性度の酸化アルミニウムを用いることができる。
【0030】
第一アルミナ層25の充填密度は、通常、0.4~2g/cmに設定するのが好ましく、0.5~1.6g/cmに設定するのがより好ましい。この充填密度が0.4g/cm未満の場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類のうち、塩素数の少ないPCB類を第二層23において捕捉して回収するのが困難になる可能性がある。逆に、この充填密度が2g/cmを超える場合、後記する抽出溶媒により第二層23からPCB類を抽出するときにPCB類の回収が不十分になったり圧損が高くなったりする可能性がある。
【0031】
第二アルミナ層26は、粉末状または粒子状の酸化アルミニウムを用いて形成されたものである。但し、ここで用いられる酸化アルミニウムは、酸化ニッケルおよび酸化銀からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含むものである。このような金属酸化物含有酸化アルミニウムは、ニッケル塩および銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属塩の水溶液と酸化アルミニウムとを混合し、この混合物から水分を蒸発させて乾燥することで得られる固形物を空気雰囲気下で焼成することで得られるものであり、酸化アルミニウムの粒子が主としてその表面の少なくとも一部において直接に、または、金属層(すなわち、使用する金属塩に由来のニッケル若しくは銀の層。)を挟んで間接に金属酸化物を有するものと推定される。
【0032】
金属酸化物含有酸化アルミニウムの調製において用いられる酸化アルミニウムは、粉末状または粒子状のものであり、通常、γ-アルミナ、δ-アルミナまたはθ-アルミナのような中間アルミナが好ましく、また、塩基性、中性または酸性のいずれのものであってもよい。また、酸化アルミニウムの活性度は限定されるものではなく、各種の活性度の酸化アルミニウムを用いることができる。
【0033】
金属塩であるニッケル塩としては、水への溶解度および分解性が良好なことから、通常、硝酸ニッケル、塩素酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、臭化ニッケル、臭素酸ニッケル、フッ化ニッケルまたはヨウ化ニッケルが用いられる。これらのニッケル塩は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0034】
金属塩である銀塩としては、水への溶解度および分解性が良好なことから、通常、硝酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀またはフッ化銀が用いられる。これらの銀塩は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0035】
金属塩の水溶液における金属塩の濃度は特に限定されない。但し、酸化アルミニウムに対する金属塩水溶液の混合量は、通常、酸化アルミニウムの質量(g)あたりの金属(ニッケルおよび銀のうちの少なくとも一つ)の量(mmol)が0.1~10mmolになるよう設定するのが好ましく、0.5~5mmolになるよう設定するのがより好ましい。
【0036】
空気雰囲気下での焼成は、金属酸化物を生成するための処理であり、この処理により目的の金属酸化物含有酸化アルミニウムが得られる。焼成は、通常、空気雰囲気下で実行するが、空気雰囲気下で実行した後、続いて窒素雰囲気下で実行することもできる。窒素雰囲気下での焼成により、酸化アルミニウムの表面を活性化することができる。また、焼成後の室温への降温過程において、生成した金属酸化物含有酸化アルミニウムに水分や酸素が吸着するのを抑えることができ、それによって生成した金属酸化物含有酸化アルミニウムの活性を維持または安定化することができる。
【0037】
空気雰囲気下での焼成および窒素雰囲気下での焼成は、いずれも1,000℃以下で行うのが好ましい。
【0038】
第二アルミナ層26の充填密度は、通常、0.4~2g/cmに設定するのが好ましく、0.5~1.6g/cmに設定するのがより好ましい。この充填密度が0.4g/cm未満の場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類、特に塩素数の多いPCB類が第二層23において捕捉されにくくなり、その回収率が低下する可能性がある。逆に、この充填密度が2g/cmを超える場合、後記する抽出溶媒により第二層23からPCB類を抽出するときにPCB類の回収が不十分になったり圧損が高くなったりする可能性がある。
【0039】
第二層23において、第一アルミナ層25と第二アルミナ層26との充填割合は、通常、体積比(第一アルミナ層25:第二アルミナ層26)で3:5~5:3になるよう設定するのが好ましいが、両者が同体積になるよう設定するのが特に好ましい。第一アルミナ層25の充填割合が上記体積比で3未満の場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類のうち、塩素数の少ないPCB類を第二層23において捕捉して回収するのが困難になる可能性がある。逆に、第一アルミナ層25の充填割合が上記体積比で5を超える場合、PCB類含有溶液に含まれるPCB類のうち、塩素数の多いPCB類を第二層23において捕捉して回収するのが困難になる可能性がある。
【0040】
連結部材30は、第一カラム10の下端部10aと第二カラム20の上端部とを挿入可能な筒状の部材であり、各種の溶媒、特に炭化水素溶媒に対して安定で耐熱性を有する材料、例えば、耐溶媒性および耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されている。この連結部材30は、第一カラム10の下端部10aと第二カラム20の上端部とを着脱可能に連結している。したがって、抽出用カラム1において、第一カラム10と第二カラム20とは分離可能である。
【0041】
抽出用カラム1の大きさは、PCB類の抽出対象となるPCB類含有溶液の量に応じて適宜設定することができるが、PCB類含有溶液に含まれるPCB類の濃度を測定するためにPCB類含有溶液から夾雑成分を除去する前処理をするときは、PCB類含有溶液から少量若しくは微量の試料を採取して後記の抽出方法を適用すれば足りるため、それに応じて抽出用カラム1を小型に設定することができる。例えば、PCB類含有溶液から採取した1.0~500mg程度の試料について、PCB類の濃度を測定するためにPCB類を抽出する場合、抽出用カラム1における第一カラム10の大きさ(第一層14を充填可能な部分の大きさ)は、内径10~20mmで長さが30~110mmのものが好ましく、また、第二カラム20の大きさ(第二層23を充填可能な部分の大きさ)は、内径2.0~10.0mmで長さが10~200mmのものが好ましい。
【0042】
次に、上述の抽出用カラム1を用いてPCB類含有溶液からPCB類を抽出するための方法を説明する。この抽出方法では、先ず、図2に示すように、第一カラム10が上方になるよう抽出用カラム1を起立させ、抽出用カラム1を通過する後述の脂肪族炭化水素溶媒を受けるための溶媒容器40を第二カラム20の下端部に配置する。
【0043】
次に、PCB類含有溶液から少量若しくは微量(通常は1.0~500mg程度)の試料を採取し、この試料を第一カラム10の上端部の開口部11から第一層14の保持層15へ添加する(工程1)。添加された試料は、保持層15内に徐々に浸透し、保持層15内で保持される。これにより、試料の添加後に次の工程へ移るまでに時間を要することがあっても、その間に試料中のPCB類が硫酸シリカゲル層16と直接に接触する可能性が低くなる。この結果、硫酸シリカゲルの作用による試料中のPCB類、特に塩素数が1~2個のPCB類の分解が抑えられ、本抽出方法において塩素数の少ないPCB類を含む全PCB類の回収率を高めることができる。
【0044】
この工程では、保持層15へ試料を添加するとともに、試料を溶解可能でありかつ後述の脂肪族炭化水素溶媒と混和可能な炭化水素溶媒を保持層15に対して添加することで試料を希釈してもよい。炭化水素溶媒は、通常、保持層15へ試料を添加した直後に続けて添加してもよいが、予め試料へ添加しておくこともできる。
【0045】
次に、図3に示すように、第一カラム10の上端側の開口部11に対して第一カラム10へ溶媒を供給するためのリザーバ50を装着し、このリザーバ50内に脂肪族炭化水素溶媒を貯留する。そして、リザーバ50に対し、その内部を加圧するための加圧装置51を装着し、そのポンプ52を作動することでリザーバ50内を加圧する。これにより、リザーバ50内に貯留された脂肪族炭化水素溶媒は、第一カラム10内へ連続的に徐々に供給され、第一層14を通過する(工程2)。
【0046】
このとき、第一カラム10に供給された脂肪族炭化水素溶媒は、空間13内に溜まりながら保持層15内に浸透し、保持された試料を溶解しながら保持層15および硫酸シリカゲル層16をこの順に通過する。このようにして第一層14を通過した脂肪族炭化水素溶媒は、第一カラム10の開口部12から連結部材30へ流れ、開口部21から第二カラム20内へ流れる。この過程において、保持層15に保持された試料を溶解した脂肪族炭化水素溶媒は、硫酸シリカゲル層16を通過するときにPCB類以外の夾雑成分の一部が硫酸シリカゲル層16において捕捉される。
【0047】
第二カラム20内へ流れた脂肪族炭化水素溶媒は、第二層23を通過し、開口部22から排出されて溶媒容器40により受けられる(工程3)。この際、第一カラム10からの脂肪族炭化水素溶媒中に溶解しているPCB類は、その種類により第二層23の第一アルミナ層25または第二アルミナ層26により捕捉され、第二層23内に保持される。傾向的には、PCB類のうち、塩素数が1~2個程度の塩素数の少ないPCB類は主に第一アルミナ層25により捕捉され、また、他の塩素数の多いPCB類は主に第二アルミナ層26により捕捉され、第二層23内に保持される。
【0048】
ここで、脂肪族炭化水素溶媒中に溶解しているPCB類は、その種類により第一アルミナ層25または第二アルミナ層26により捕捉されやすいことから、第一アルミナ層25および第二アルミナ層26内のそれぞれ開口部21に近い部位で主に保持される。また、第一層14において捕捉されずにPCB類とともに第二カラム20へ流れた残余の夾雑成分は、脂肪族炭化水素溶媒とともに第二層23を通過し、溶媒容器40へ流出する。
【0049】
リザーバ50に貯留する脂肪族炭化水素溶媒は、試料中のPCB類を溶解可能なものであり、通常は炭素数が5~8個の脂肪族飽和炭化水素溶媒、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンおよびシクロヘキサンなどである。特に、n-ヘキサンが好ましい。リザーバ50における脂肪族炭化水素溶媒の貯留量、すなわち、第一カラム10へ供給する脂肪族炭化水素溶媒の総量は、通常、10~120mLに設定するのが好ましい。また、リザーバ50からの脂肪族炭化水素溶媒の供給速度は、ポンプ52によるリザーバ50内の加圧状態の調節により、通常、0.2~5.0mL/分に設定するのが好ましい。
【0050】
以上の工程1~3、特に、工程1および2では、第一層14の温度を35℃未満、好ましくは30℃以下、より好ましくは28℃以下に設定する。このため、この抽出操作を高温環境下で実施する場合であって第一層14の温度が35℃以上になるようなときは、冷却材や冷却装置を用いて第一層14の温度を35℃未満に制御する。第一層14の温度が35℃以上のときは、塩素数の少ないPCB類が硫酸シリカゲル層16で分解されたり吸着されたりしやすくなり、塩素数の少ないPCB類の抽出率(回収率)が低下する。なお、第一層14の温度の下限は、脂肪族炭化水素溶媒が円滑に流通可能な温度領域内であれば特に限定されるものではないが、通常は10℃程度が好ましい。
【0051】
次に、連結部材30から第一カラム10を取り外すことで第二カラム20と第一カラム10とを分離する。そして、図4に示すように、第二カラム20の上下を反転し、その第二層23の周りに加熱装置60を配置する。また、図4に示すように、上下反転により第二カラム20の上端側に移動した開口部22に加圧装置51を装着する。そして、加熱装置60により第二層23の全体を35~90℃程度に加熱しながらポンプ52を作動させ、開口部22から第二カラム20内に窒素ガス等の不活性ガスや空気を供給する。これにより、第二カラム20内に残留している脂肪族炭化水素溶媒等の溶媒が不活性ガス等とともに第二カラム20の下端側に移動した開口部21から排出される。この結果、第二層23は、脂肪族炭化水素溶媒等の溶媒が除去され、乾燥処理される。ここで用いられる加熱装置60は、ヒーターやペルチェ素子などであり、第二カラム20内の第二層23全体を所要の温度に加熱可能なものである。
【0052】
図4において、第二カラム20は連結部材30が取り付けられた状態で表示されているが、連結部材30は第二カラム20から取り外されていてもよい。
【0053】
次に、加圧装置51を第二カラム20から取り外し、図5に示すように、上下反転させたままで起立させた第二カラム20の開口部22から空隙24内へPCB類を溶解可能な抽出溶媒を供給する。供給された抽出溶媒は、空隙24内に溜まり、自重により第二層23へ徐々に浸透する。
【0054】
第二層23へ浸透した抽出溶媒は、第二層23を通過し、第二カラム20の下端側に移動している開口部21から流出する(工程4)。この際、抽出溶媒は、第二層23の第一アルミナ層25および第二アルミナ層26のそれぞれに捕捉されたPCB類を溶解し、このPCB類とともに開口部21から流出する。このため、開口部21から流出する抽出溶媒を確保すると、PCB類の抽出溶媒溶液、すなわち、目的とするPCB類の抽出液が得られる(工程5)。
【0055】
ここで、PCB類は、主に、第一アルミナ層25および第二アルミナ層26のそれぞれ開口部21側付近において捕捉されているため、第二層23に捕捉されたPCB類の実質的に全量は、第二カラム20から流出する主に初期から中期部分の抽出溶媒に溶解した状態になる。したがって、開口部21から流出する初期から中期部分の抽出溶媒を確保するだけで目的とするPCB類の抽出液を得ることができることから、抽出液の分量を後述する分析操作において利用しやすい少量に抑えることができる。また、ここで得られるPCB類の抽出液は、第二層23より脂肪族炭化水素溶媒を除去してから第二カラム20へ抽出溶媒を供給して得られたものであるため、脂肪族炭化水素溶媒およびそれに溶解している夾雑成分の混入が少ない、高純度の抽出液になり得る。
【0056】
本実施の形態に係る抽出方法によれば、通常、作業開始(工程1)から0.5~1時間程度の短時間で上述の抽出液を得ることができる。
【0057】
第二層23からPCB類を抽出する際、加熱装置60により第二層23の全体を加熱しながら抽出溶媒を供給するのが好ましい。第二層23の加熱温度は、通常、少なくとも35℃になるよう設定するのが好ましく、60℃以上になるよう設定するのがより好ましい。加熱温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常、90℃程度である。抽出時に第二層23を加熱すると、第二層23に捕捉されたPCB類は、より少量の抽出溶媒により全量が抽出されやすくなるので、PCB類の抽出液量を後述する分析操作において利用しやすいより少量に制御することができる。
【0058】
第二層23からPCB類を抽出するための抽出溶媒は、PCB類の分析方法に応じて選択することができる。分析方法としてガスクロマトグラフィー法を採用する場合、抽出溶媒としてPCB類を溶解可能な疎水性溶媒を用いる。このような疎水性溶媒としては、例えば、トルエン、トルエンと脂肪族炭化水素溶媒(例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、シクロヘキサンなど)との混合溶媒および有機塩素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタンなど)と脂肪族炭化水素溶媒(例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、シクロヘキサンなど)との混合溶媒などが挙げられる。このうち、より少量の使用で第二層23からPCB類を抽出できるトルエンが好ましい。
【0059】
疎水性溶媒を抽出溶媒として用いた場合、工程5において得られる抽出液は、そのままで、または、必要に応じて適宜濃縮することで、ガスクロマトグラフィー法での分析用試料として用いることができる。ガスクロマトグラフィー法は、各種の検出器を備えたガスクロマトグラフィーを用いて実施することができるが、通常は、PCB類に対する感度が良好なガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS/MS法も含む意味でのGC/MS法)またはガスクロマトグラフ電子捕獲検出法(GC/ECD法)が好ましい。特に、GC/MS法によれば、分析用試料に含まれるPCB類を異性体や同族体の単位で定量することができ、分析結果からより多くの知見を得ることができる。
【0060】
また、分析方法としてバイオアッセイ法を採用する場合、抽出溶媒としてはPCB類を溶解可能な親水性溶媒を用いる。このような親水性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やメタノールが挙げられる。
【0061】
親水性溶媒を抽出溶媒として用いた場合、工程5において得られる抽出液は、そのままでイムノアッセイ法やELISA法等のバイオアッセイ法での分析用試料として用いることができる。
【0062】
上述の抽出方法は、PCB類含有溶液に含まれる塩素数が1のPCB類から塩素数が10のPCB類までの広範囲の種類のPCB類を高回収率で抽出可能なことから、この抽出方法を用いて得られた抽出液を分析用試料として用いると、PCB類含有溶液に含まれるPCB類を高精度に測定することができる。このため、上述の抽出方法は、塩素数が1から10までの広範囲の種類のPCB類を含む可能性がある各種の試料、特に、底質や土壌のような水圏底部若しくは陸上表面の物質層、食品、生物試料、環境水、排水、焼却灰または排ガスや大気等の気体中に含まれるPCB類の分析用試料を調製する場合において、特に有用である。
【0063】
上述の実施の形態は、例えば、以下のような変形が可能である。
(1)第一カラム10は、第一層14の下方において、通液性を有しかつPCB類に対して不活性な材料を用いて形成された補助層をさらに備えていてもよい。補助層を形成する材料としては、通常、保持層15を形成する材料と同様のものを用いることができる。補助層を設けた場合、硫酸シリカゲル層16において捕捉されずにPCB類とともに第一層14を通過した夾雑成分の一部を補助層において分離することができ、PCB類と夾雑成分とをより高精度に分離することができる。
【0064】
(2)第二カラム20は、開口部22側に空隙24が形成されるよう第二層23が充填されているが、同様の空隙は開口部21側にも設けることができる。この場合、第一カラム10を通過した脂肪族炭化水素溶媒を開口部21側の空隙に溜めることができるため、当該脂肪族炭化水素溶媒を第二層23に対して安定に供給することができる。
【0065】
(3)第二層23の第二アルミナ層26は、PCB類の捕捉性を損なわない程度において、金属酸化物含有酸化アルミニウムとともに他の材料、例えば、第一アルミナ層25において用いるものと同様の酸化アルミニウム、酸化コバルト、酸化ジルコニア、酸化セリウム、酸化チタンまたは酸化鉄等を含むものであってもよい。他の材料は、二種以上のものが用いられてもよい。
【0066】
(4)上述の実施の形態では、第一カラム10と第二カラム20との間を連結部材30により着脱可能に連結しているが、カラム間の連結には他の手段を用いることもできる。例えば、カラムの連結部に摺り合わせ部を設け、カラム間をこの摺り合わせ部の接続により着脱可能に連結することができる。
【0067】
(5)上述の実施の形態では、リザーバ50に貯留した脂肪族炭化水素溶媒を加圧装置51により加圧することで第一カラム10へ供給しているが、リザーバ50の脂肪族炭化水素溶媒は、加圧装置51を用いずに自重により自然に第一カラム10へ流下させることもできる。また、脂肪族炭化水素溶媒は、シリンジポンプなどの定量ポンプや吸引装置を用いて第一カラム10へ供給することもできる。さらに、脂肪族炭化水素溶媒は、ピペットなどの器具を用いた手作業により第一カラム10へ供給することもできる。
【0068】
(6)上述の実施の形態では、第二カラム20の空隙24へ供給した抽出溶媒を第二層23に対して自重により自然に供給するようにしたが、第二カラム20の開口部21または開口部22へ抽出溶媒を供給するためのリザーバを設置し、このリザーバに蓄えた抽出溶媒を第二カラム20に対して自重により自然に供給するように変更することもできる。また、抽出溶媒は、シリンジポンプなどの定量ポンプや吸引装置を用いて第二カラム20へ供給することもできる。
【0069】
(7)上述の実施の形態では、加熱装置60により第二層23を加熱しながら第二カラム20内に不活性ガス等を供給し、第二層23を乾燥処理しているが、第二層23は加熱せずに乾燥処理してもよい。但し、加熱することで第二カラム20内に残留する溶媒を気散させやすく、より短時間で第二層23を乾燥処理することができる。
【0070】
(8)上述の実施の形態では、第二カラム20へ不活性ガス等や抽出溶媒を供給する際に、第二カラム20を第一カラム10から分離しているが、第二カラム20を第一カラム10から分離せずに、第二カラム20に対して不活性ガス等や抽出溶媒を供給可能なように変更することもできる。これは、例えば、第一カラム10と第二カラム20とを流路切替弁を有する連結装置を用いて連結することで実現することができる。この場合に用いられる流路切替弁は、不活性ガス等の導入口と抽出溶媒の排出口とを有し、また、第一カラム10と第二カラム20とを連絡するための流路、不活性ガス等の導入口と第二カラム20とを連絡するための流路および第二カラム20と抽出溶媒の排出口とを連絡するための流路を有するものであり、流路の切替えにより、第一カラム10から第二カラム20への脂肪族炭化水素溶媒の供給、不活性ガス等の導入口から第二カラム20への不活性ガスの導入、および、開口部22から第二カラム20へ供給した抽出溶媒の排出口からの排出のいずれかを選択可能なものである。
【0071】
[実験例]
[試験用試料の調製]
<試料A>
PCB標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「BP-MS」)50μLと、PCB内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「MBP-MXP」)100μLとをマイクロチューブ内で混合し、試料Aを調製した。
【0072】
<試料B>
PCB内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「MBP-MXP」)100μLとイソオクタン100μLとをマイクロチューブ内で混合し、試料Bを調製した。
【0073】
<試料C>
PCB標準物質(CIL社の商品名「COMPREHENSIVE NATIVE PCB MIXTURE」)50μL、PCB内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「MBP-MXP」)100μLおよびイソオクタン100μLをマイクロチューブ内で混合し、試料Cを調製した。
【0074】
<試料D>
ダイオキシン類・PCB同族体分析用河川底質認証標準物質「JSAC0432」を10g秤量し、これにPCB内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「MBP-MXP」)を1mL添加したものをナス型フラスコに入れた。このナス型フラスコに約1.2Mの水酸化カリウム/エタノール溶液50mLを加え、還流冷却管を装着して沸騰水浴中で約1時間加熱分解処理した。そして、ナス型フラスコの内容物を冷却した後にn-ヘキサン50mLを加え、共栓をつけて激しく振とうした後、ナス型フラスコ内の混合液をガラス繊維ろ紙を用いて減圧濾過した。一方、ナス型フラスコ内の残渣は、エタノール/n-ヘキサン(1/1)混合溶液20mLを加えて激しく振とうした後、同様に減圧濾過した。これらの減圧濾過により得られたろ液を分液漏斗(A)に入れることで合わせた。また、ナス型フラスコ内の残渣をn-ヘキサン30mLを用いてろ過装置内に洗いこみ、そのろ液を分液漏斗(A)に移した。この分液漏斗(A)に水50mLを加えて10分間振とう抽出し、静置後の水層を別の分液漏斗(B)に移した。この分液漏斗(B)にn-ヘキサン50mLを加えて再度振とう抽出し、そのヘキサン層を分液漏斗(A)のヘキサン溶液(油層)と合わせた。ガラス製漏斗下部にグラスウールを詰め、無水硫酸ナトリウムを積層したものに分液漏斗(A)のヘキサン溶液を通して脱水処理した。そして、ロータリーエバポレータを用い、脱水処理したヘキサン溶液を5mLまで濃縮することで試料Dを得た。
【0075】
[金属酸化物含有酸化アルミニウムの調製]
蒸留水10gに硝酸銀3.39gを溶解した水溶液を調製し、この水溶液の全量と酸化アルミニウム(MP Biomedicals社の商品名「MP Alumina B Super I」)10.0gとを混合することで混合液を得た。この混合液において、酸化アルミニウムの質量(g)あたりの金属濃度(銀濃度)は2mmolである。
【0076】
ロータリーエバポレータを用いて混合液から水を蒸発させ、固形分を乾燥した。この固形分を温度が1,000℃以下になるよう制御した管状炉に入れて200mL/分の空気流下で2.5時間焼成した後、窒素気流下で管状炉の加熱を停止し、管状炉を室温まで冷却した。これにより、酸化銀を含む酸化アルミニウムを得た。
【0077】
[実験例I]
内径13mmで長さ70mmのカラム内に3.3gの硫酸シリカゲル(三浦工業株式会社の商品名「ラピアナ硫酸シリカ」)を高さが35mmになるよう充填し、その上に0.5gのシリカゲル(関東化学株式会社の商品名「シリカゲル60(球状)」を高さが10mmになるように充填することで第一層を形成し、第一カラムを作成した。また、内径4.6mmで長さ100mmのカラム内に0.7gの金属酸化物含有酸化アルミニウムを高さが35mmになるよう充填し、その上に、酸化アルミニウム(MP Biomedicals社の商品名「MP Alumina B Super I」)を焼成して活性化させることで得られた0.6gの活性アルミナを高さが35mmになるようさらに充填することで第二層を形成し、第二カラムを作成した。そして、第一層においてシリカゲルの層が上側になるよう起立させた第一カラムの下端に対し、活性アルミナの層が上側になるよう起立させた第二カラムを連結し、抽出用カラムを作成した。
【0078】
抽出用カラムの第一層上に試料Aの全量とイソオクタン0.8mLとを添加し、10分程度静置した。その後、20mLのn-ヘキサンを2mL/分の速度で第一カラムの上端へ供給し、第二カラムの下端から流出させた。この間、第一カラムの第一層の温度を室温(25℃)に維持した。n-ヘキサンの供給終了後、第一カラムと第二カラムとを分離し、上下反転させた第二カラムに対してn-ヘキサンの通過方向とは逆方向に空気を供給することで第二カラムに残留しているn-ヘキサンを除去した。このとき、第二カラムを加熱し、その温度を85℃に維持した。
【0079】
次に、上下反転状態を維持した第二カラムに対してn-ヘキサンの通過方向とは逆方向にトルエンを供給し、第二層に捕捉されているPCB類を抽出した。この際、第二カラムを加熱し、第二層の温度を85℃に維持した。また、トルエンの供給速度は100μL/分に設定し、第二カラムから排出される約900μLのトルエン溶液をPCB類の抽出液として採取した。試料Aとイソオクタンの添加からこの抽出液が得られるまでに要した時間はおよそ0.7時間であった。
【0080】
得られた抽出液について、PCB類の回収率を算出した。ここでは、抽出液に対して回収率算出用の内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「P48-RS-STK」)50μLを添加することで分析用試料を調製し、この分析用試料を平成10年10月に環境庁から提示された「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル」に記載の方法に従ってHRGC/LRMS法で分析するとともに、同マニュアルに記載の方法でPCB類回収率を計算した。
【0081】
結果を図6に示す。図6において、PCB類の種類を示す記号(#1等)はIUPAC番号であり、「1Cl」等の表示はPCB類の塩素数を意味する。図6によると、塩素数が1のPCB類から塩素数が10のPCB類まで、全PCB類が80%を超える高い回収率で回収されていることがわかる。
【0082】
[実験例II]
<実験例II-1、II-2>
試料Aを試料Bに変更するとともに、試料Bの全量とイソオクタン0.8mLとの添加後の静置時間を表1に示すように変更した点を除いて実験例Iと同様に作業し、抽出液を得た。
【0083】
<実験例II-3、II-4>
内径13mmで長さ70mmのカラム内に3.8gの硫酸シリカゲル(三浦工業株式会社の商品名「ラピアナ硫酸シリカ」)を高さが40mmになるよう充填したカラムを作成した。このカラムと第一カラムとして用いた点、および、試料Aを試料Bに変更するとともに、試料Bの全量とイソオクタン0.8mLとの添加後の静置時間を表1に示すように変更した点を除いて実験例Iと同様に作業し、抽出液を得た。
【0084】
<実験例IIの評価>
各実験例で得られた抽出液について、実験例Iと同様の方法でPCB類の回収率を算出した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1によると、第一層が硫酸シリカゲル層のみからなる第一カラムを用いた実験例II-3およびII-4は、試料Bの全量とイソオクタン0.8mLとの添加後の静置時間が長くなると塩素数が1のPCB類の回収率が大きく低下することになるが、第一層が硫酸シリカゲルの上にシリカゲルを積層したたものである第一カラムを用いた実験例II-1、II-2は、同静置時間が長くなっても塩素数が1のPCB類の回収率に実質的な変動のないことがわかる。
【0087】
[実験例III]
<実験例III-1、III-2、III-3>
実験例II-3、II-4において作成したカラム(第一層が硫酸シリカゲル層のみからなるもの。)を第一カラムとして用いた点、第二カラムとして、実験例Iで用いたものと同様のカラム内に金属酸化物含有酸化アルミニウムを表2に示すように充填し、その上に、酸化アルミニウム(MP Biomedicals社の商品名「MP Alumina B Super I」)を焼成して活性化させることで得られた0.6gの活性アルミナを高さが3.5cmになるようさらに充填することで第二層を形成したものを用いた点、および、試料Aを試料Cに変更するとともに、試料Cの全量とイソオクタン0.8mLとを第一層上に添加後、第一カラムに対して速やかにn-ヘキサンを供給し始めた点を除いて実験例Iと同様に作業し、抽出液を得た。試料Cとイソオクタンの添加からこの抽出液が得られるまでに要した時間はおよそ0.8時間であった。
【0088】
<実験例III-4>
第二層が0.7gの金属酸化物含有酸化アルミニウムを高さが3.5cmになるよう充填した層のみからなる第二カラムを用いた点を除いて実験例III-1、III-2およびIII-3と同様に作業し、抽出液を得た。試料Cとイソオクタンの添加からこの抽出液が得られるまでに要した時間はおよそ0.7時間であった。
【0089】
<実験例IIIの評価>
各実験例で得られた抽出液について、実験例Iと同様の方法で塩素数が1および2のPCB類並びに塩素数が10のPCB類の回収率を算出した。結果を表2に示す。表2によると、金属酸化物含有酸化アルミニウム層の上に活性アルミナ層を配置することで塩素数の少ないPCB類の回収率が高まることがわかる。
【0090】
【表2】
【0091】
[実験例IV]
試料Aを試料Dに変更するとともに、試料Dの0.5mLとイソオクタン0.8mLとの添加後、第一カラムに対して速やかにn-ヘキサンを供給し始めた点を除いて実験例Iと同様に作業し、抽出液を得た。
【0092】
得られた抽出液について、PCB類の濃度を測定するとともに回収率を算出した。ここでは、抽出液に対して回収率算出用の内標準物質溶液(Wellington Laboratories社の商品名「P48-RS-STK」)50μLを添加することで分析用試料を調製した。そして、この分析用試料を平成24年8月 環境省 水・大気環境局の底質調査方法(II.6.4)に記載の方法に従ってキャピラリーカラム-ガスクロマトグラフ四重極形質量分析法により測定し、PCB類の濃度を測定するとともに、PCB内標準物質の回収率を算出した。結果を表3に示す。表3に示した結果は、抽出液の調製作業を3回実施し、各抽出液について求めたPCB類の濃度および回収率の平均値に基づいて評価したものである。
【0093】
【表3】
【0094】
塩素数が1~10のいずれのPCB同族体についても定量値(濃度測定値)が認証値に対して±2SD(標準偏差)に入っており、信頼性の高い濃度測定のできていることがわかる。なお、塩素数が9および10のPCB類の回収率が低いのは、試料Dの調製過程において、アルカリ(水酸化カリウム)の作用を受けてこれらのPCB類の一部が分解するためである。
【符号の説明】
【0095】
1 抽出用カラム
10 第一カラム
14 第一層
15 保持層
16 硫酸シリカゲル層
20 第二カラム
23 第二層
25 第一アルミナ層
26 第二アルミナ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6