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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20220127BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20220127BHJP
【FI】
G01N21/01 Z
G01N21/3581
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018042708
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019158441
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(72)【発明者】
【氏名】小川 千隼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】川崎 栄嗣
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-045069(JP,A)
【文献】特開2002-296357(JP,A)
【文献】特開2009-210421(JP,A)
【文献】特開2003-014651(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111155(WO,A1)
【文献】特開2015-127699(JP,A)
【文献】特開2000-329848(JP,A)
【文献】特開2016-035394(JP,A)
【文献】特開2015-087158(JP,A)
【文献】特開平11-352223(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0040093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17/21/61
G01N 21/84-21/958
G01N 29/00-29/52
G01N 27/72-27/9093
G01B 11/00-11/30
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部に取り付けられ検査対象に接触して走行する走行部と、
前記支持部に支持され、計測波としてテラヘルツ波を検査対象に向けて発信する検査部と、
前記走行部の高さ調整により、前記検査部から検査対象までの距離を検査可能範囲内となるように前記検査部の姿勢を調整する姿勢調整部と
を備える検査装置。
【請求項2】
前記姿勢調整部は、前記走行部について、検査対象との接触箇所から前記支持部への取付箇所までの高さを調整する、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記姿勢調整部は、前記検査部からの計測波の装置外への射出位置から検査対象までの距離を、所定範囲内に保たせるように位置調整する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項4】
前記姿勢調整部は、前記検査部から発信される計測波について検査対象に対する向きを、所定範囲内に保たせるように角度調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記走行部による走行の進行方向に応じた所定位置に設けられ、当該所定位置での検査対象との距離の変化を計測する変位計を備え、
前記姿勢調整部は、前記変位計で計測された変化に応じて前記検査部の姿勢を調整する、請求項1~4のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記変位計は、前記検査部からの計測波の装置外への射出位置において、進行方向前方側に設けられる電磁波射出側変位計を含む、請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記変位計は、前記走行部の進行方向前方側に設けられる走行部側変位計を含む、請求項5及び6のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記走行部は、進行方向について前記検査部を挟んで前方側を構成する前方側接触部と、後方側を構成する後方側接触部とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記走行部は、地面を走行する車輪又は無限軌道で構成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記支持部は、台車の台座部であり、
前記検査部は、前記台座部の下面側に設けられ、下方に向けて計測波を発信する、請求項1~9のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測波として、例えばテラヘルツ波長帯域の電磁波(以下、テラヘルツ波という。)を利用して検査対象の状態を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電磁波を利用して検査対象の表面や内部についての検査がなされているが、電磁波の一種であるテラヘルツ波は、汚れや塗膜の下を透過して中の様子を検査できるため、例えばトンネル・橋梁・石油タンクなどの劣化検査への応用が期待されている。しかし、テラヘルツ波の波長は、赤外光等の光波と比べると長く、回折して拡がってしまうという性質を有するため、距離の変動に対する焦点のぼけの発生度合が大きくなる。したがって、上記のようなインフラ構造物の劣化の状態の検査等を行うには、距離関係が一定の要件を満たしていること、具体的には、テラヘルツ波の発信位置及び受信位置から、インフラ構造物における塗膜された表面部分といった検知対象あるいは検査対象の位置までの距離が一定となるよう高精度に保つ制御を行われていることが必要であり、さらに、このような制御をしつつ、インフラ構造物内を走行しながら、すなわち検査対象上を走行しながら検査を行う必要がある。
【0003】
これに対して、テラヘルツ波を利用した検査方法として、例えば、載置台に載せた検査対象たる試料(被測定物)との距離を、プリズムを用いた距離調整機構により一定に保つ構成にするものが知られている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1の構成では、走行しながら検査を行うことができない。
【0004】
なお、テラヘルツ波を利用したものではないが、位置変化の検知を利用した走行可能なタイプの検査装置として、地中探査装置が知られている(特許文献2参照)。特許文献2の地中探査装置では、位置変化の検知として地面から引き離されることを検知した場合、探査の動作を中断することで誤測定を回避する、といったことが記載されている。しかし、かかる技術を用いても、テラヘルツ波において要する検査対象に対する高精度な位置関係の維持ができるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-90314号公報
【文献】特開2006-317445号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、走行しながらであっても、検査に適した一定の距離となる位置関係を維持することができる検査装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するため検査装置は、支持部に取り付けられ検査対象に接触して走行する走行部と、支持部に支持され、計測波を検査対象に向けて発信する検査部と、走行部の高さ調整により、検査部から検査対象までの距離を検査可能範囲内となるように検査部の姿勢を調整する姿勢調整部とを備える。

【0008】
上記検査装置では、支持部に取り付けられ、かつ、検査対象に接触して走行する走行部を、姿勢調整部において高さ調整することで、走行とともに検査装置自体と検査対象との位置関係が変化しても、これに応じて検査対象に対する検査部の姿勢を調整できるので、検査部からの計測波による検査において適した位置関係の状態の維持が可能になる。例えば、検査部と検査対象との距離を一定に保つことができる。この場合、計測波として、例えば、テラヘルツ波等を用いた際に、検査部から発信される計測波の拡がりを抑えて検査対象の位置において十分集光された細いスポット径を形成させるようにできる。
【0009】
本発明の具体的な側面では、姿勢調整部は、走行部について、検査対象との接触箇所から支持部への取付箇所までの高さを調整する。この場合、上記箇所の高さ調整により、確実に検査部から検査対象までの距離を調整できる。
【0010】
本発明の別の側面では、姿勢調整部は、検査部からの計測波の装置外への射出位置から検査対象までの距離を、所定範囲内に保たせるように位置調整する。この場合、上記位置調整により、検査部から検査対象までの距離を調整できる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、姿勢調整部は、検査部から発信される計測波について検査対象に対する向きを、所定範囲内に保たせるように角度調整する。この場合、上記角度調整により、検査部から検査対象までの距離や向きを調整できる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、走行部による走行の進行方向に応じた所定位置に設けられ、当該所定位置での検査対象との距離の変化を計測する変位計を備え、姿勢調整部は、変位計で計測された変化に応じて検査部の姿勢を調整する。この場合、変位計により距離変化を捉えつつ調整できる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、変位計は、検査部からの計測波の装置外への射出位置において、進行方向前方側に設けられる電磁波射出側変位計を含む。この場合、検査部の進行方向前方での距離変化を捉えることができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、変位計は、走行部の進行方向前方側に設けられる走行部側変位計を含む。この場合、走行部の進行方向前方での距離変化を捉えることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、走行部は、進行方向について検査部を挟んで前方側を構成する前方側接触部と、後方側を構成する後方側接触部とを含む。この場合、検査部を挟んで前後に設けた各接触部を調整することで、検査部の姿勢調整ができる。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、走行部は、地面を走行する車輪又は無限軌道で構成される。この場合、地面に設置した状態を維持して確実な姿勢調整ができる。
【0017】
本発明のさらに別の側面では、支持部は、台車の台座部であり、検査部は、台座部の下面側に設けられ、下方に向けて計測波を発信する。この場合、台座部において各部を支持固定しつつ下面に向けて計測を行うことができる。
【0018】
本発明のさらに別の側面では、検査部において、計測波としてテラヘルツ波を発信させるテラヘルツ検査装置である。この場合、テラヘルツ波により、検査対象の表面や内部についての検査を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る検査装置について一例を説明するための概念的な側面図である。
図2】検査部について一例を説明するための概念図である。
図3】(A)は、テラヘルツ波の特性について説明するための概念図であり、(B)は、テラヘルツ波の集光の様子について説明するための概念図である。
図4】(A)~(G)は、検査装置の走行動作について一例を示す概念図である。
図5図4に示す動作に対応する各部の距離や高さについて示すグラフである。
図6】姿勢調整について説明するための概念的な平面図である。
図7】検査装置による一連の測定動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図8】一変形例の検査部について説明するための概念的な正面図である。
図9】一変形例の検査装置について説明するための概念的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1等を参照して、一実施形態に係る検査装置について一例を説明する。図1は、検査装置の概略構成の一例を示す図である。本実施形態の一態様としての検査装置100は、走行部20を構成する車輪あるいはタイヤを設けるとともに、台座部となる板状の支持部SUに持ち手部HDを取り付けることで、台車のような構成を有しており、タイヤにより走行させつつ、計測波を検査対象に向けて発信するとともに検査対象で反射された成分を受信することで、検査を行う。図示の例では、検査対象である塗膜された床面FLを照射すべく、計測波としての所定波長帯域のテラヘルツ波TWを下部に向けて発信する。
【0021】
上記のような検査を行うため、検査装置100は、上記した支持部SU及び持ち手部HDのほかに、支持部SUに取り付けられる本体部分10と、上述のタイヤ等で構成される走行部20とを備える。このうち、本体部分10は、計測波としてのテラヘルツ波TWを発信する検査部30と、検査部30の姿勢を調整する姿勢調整部40と、検査装置100と検査対象との距離の変化を計測する変位計60と、各部の動作を制御する主制御部80とを備える。また、図示の例では、走行部20は、支持部SUに取り付けられ検査対象である床面FLに接触して走行すべく、複数の車輪あるいはタイヤで構成されている。言い換えると、図示の例では、走行部20は、複数の車輪あるいはタイヤである接触部20F,20Bにより構成され、床面FL上を走行する。また、ここでは、接触部20F,20Bのうち、矢印D1に示す進行方向に対して前方側に位置するものを前方側接触部20Fとし、後方側に位置するものを後方側接触部20Bとする。なお、走行部20については、例えば図6を参照して後述するように、一対の前方側接触部20F,20Fと一対の後方側接触部20B,20Bとによる四輪式となっている。また、以上のように、図示の台車形状の検査装置100では、支持部SUは、台車の台座部となっており、検査部30は、台座部である支持部SUの下面側に設けられ、下方に向けてテラヘルツ波TWを発信するようになっている。つまり、検査装置100は、台座部としての支持部SUにおいて、本体部分10の各部を支持固定しつつ下面に向けてテラヘルツ波TWを射出して測定を行うことで、床面FLの状態を検査するようになっている。
【0022】
またここでは、図示のように、矢印D1で示す検査装置100の進行方向をZ方向とし、Z方向に垂直な面内において、垂直方向すなわち床面FLに向かう方向をY方向とし、Z方向及びY方向の双方に直交する方向である水平方向をX方向とする。なお、図示では、テラヘルツ波TWを発信する(射出する)方向である下方向を+Y方向としている。
【0023】
以下、検査装置100を構成する各部の詳細について説明する。まず、本体部分10のうち、検査部30は、テラヘルツ波TWを発信する発信部Txと、検査対象で反射された反射成分RWを受信する受信部Rxと、ハーフミラー等で構成されてテラヘルツ波TWの透過及び反射を行うビームスプリッターBSと、スキャン型ミラーとしてのガルバノミラーGMと、ガルバノミラーGMからの走査光を装置外部へ発信させるレンズLSとを備える。テラヘルツ波TWは、レンズLSから検査対象である床面FLに向けてすなわち+Y方向に向けて集光させつつ発信される。
【0024】
なお、図示の場合、検査部30は、走行部20のうち矢印D1に示す進行方向について前方側を構成する前方側接触部20Fと、後方側を構成する後方側接触部20Bとに挟まれた位置に存在している。
【0025】
以下、図2を参照して、上記した検査部30の各部の一構成例について、さらに詳しく説明する。
【0026】
まず、発信部Txは、例えば、周波数を0.1~2THzとする波長帯域すなわち150~3000μmの波長帯域のテラヘルツ波TWを、光軸AXの方向を進行方向の中心として発信する電磁波発信装置である。
【0027】
また、受信部Rxは、テラヘルツ波TWの波長帯域にある成分を受光可能な電磁波受信装置或いは電磁波測定装置である。受信部Rxは、テラヘルツ波TWのうち、検出対象である床面FLで反射された反射成分RWを受信する。なお、図示では、1つの受信部Rxとしているが、受信側を複数の受信部で構成する、あるいは、1つの受信部Rxの中に複数の受光素子を備えて構成する、といったことも可能である。複数とすることで、反射成分RWの変化状況をより的確に捉えることができる。
【0028】
また、ビームスプリッターBSは、例えばハーフミラーで構成され、当該ハーフミラーによって形成される透過反射面を、発信部Txの光軸AX上に光軸AXに対して45°傾けて配置されている。受信部Rxは、ビームスプリッターBSを基準として発信部Txに対称な位置に配置されており、ビームスプリッターBSにおいて反射される戻り光の成分を受信することで、反射成分RWの成分取得がなされる。
【0029】
また、ガルバノミラーGMは、発信部Txからある程度の距離を離した状態で、光軸AX上に配置されており、例えば光軸AXに直交する軸を中心に1軸回転(揺動)をする。すなわち、テラヘルツ波TWの一軸方向への走査がなされる。なお、走査方向については、光学系の配置により種々設定可能であるが、典型的には、図1に示す進行方向(Z方向)に対して垂直な水平方向、すなわちX方向について走査させることが考えられる。
【0030】
レンズLSは、ガルバノミラーGMからの走査光を、装置外の検出対象たる床面FLに向けて射出すべく、ガルバノミラーGMと床面FLとの間に配置されている。
【0031】
図1に戻って、本体部分10のうち、姿勢調整部40は、走行部20のうち前方側接触部20Fの高さ調整を行う前方側高さ調整部40Fと、走行部20のうち後方側接触部20Bの高さ調整を行う後方側高さ調整部40Bとで構成されている。各高さ調整部40F,40Bは、例えば油圧シリンダー等で構成されることで、各接触部20F,20Bの支持部SUに対する高さの変更を可能としている。つまり、姿勢調整部40は、各接触部20F,20Bすなわち走行部20について、検査対象である床面FLとの接触箇所から支持部SUへの取付箇所までの高さを個別に調整できる。以下では、高さ調整の説明のため、図に示すように、前方側接触部20Fの回転中心XXaから支持部SUの上面SUaまでの距離を高さHとし、後方側接触部20Bの回転中心XXbから上面SUaまでの距離を高さHとする。つまり、前方側高さ調整部40Fは、高さ調整によって、高さHの値を変更し、後方側高さ調整部40Bは、高さHの値を変更する。姿勢調整部40を構成する高さ調整部40F,40Bによって、走行部20の高さ調整が可能となっていることにより、姿勢調整部40は、検査部30から検査対象である床面FLまでの距離を検査可能範囲内となるように検査部30の姿勢を調整する。
【0032】
次に、本体部分10のうち、変位計60は、走行部側変位計として、進行方向について前方側接触部20Fの直近前方に設けられている第1の走行部側変位計60Fと、進行方向について後方側接触部20Bの直近前方に設けられている第2の走行部側変位計60Bとを備える。さらに、変位計60は、進行方向について検査部30の直近前方であって、検査部30からのテラヘルツ波TWの検査装置100外への射出位置に設けられている電磁波射出側変位計60Lを備えて構成されている。各変位計60F,60B,60Lは、例えば赤外線センサー等で構成され、+Y方向に向けて照射した赤外光の反射成分を捉えることで、床面FLまでの距離を測距する。すなわち、各変位計60F,60B,60Lは、床面FLまでの距離を測定している。この場合、各変位計60F,60B,60Lは、対応する各部の進行方向について直近前方に設けられていることで、走行中における各部の変位を予め計測しておくことが可能になっている。以下では、図に示すように、第1の走行部側変位計60Fによる計測結果を距離dとし、第2の走行部側変位計60Bによる計測結果を距離dとし、電磁波射出側変位計60Lによる計測結果を距離dとする。
【0033】
最後に、本体部分10のうち、主制御部80は、CPU等で構成され、各部の動作を制御し、特に、本実施形態では、検査装置100の走行を制御する走行制御部81と、姿勢調整部40による高さ調整により検査対象に対する検査部30の姿勢を制御する姿勢制御部82とを有している。
【0034】
走行制御部81は、自律走行を可能とすべく、図示を省略する電源装置や走行部20を適宜動作させる。すなわち、図示の例では、検査装置100には、支持部SUに持ち手部HDが取り付けられており、人による手押しで走行させることも可能であるが、適宜駆動源を有することで、走行制御部81の制御下で、自律的に走行することが可能となっている。
【0035】
姿勢制御部82は、姿勢調整部40の各部を統括制御することで、前方側接触部20Fと、後方側を構成する後方側接触部20Bとに挟まれた位置にある検査部30の姿勢を調整可能にしている。例えば、姿勢制御部82は、各変位計60F,60B,60Lに接続されており、各変位計60F,60B,60Lでの測定結果すなわち変位の有無の情報を取得する。これにより、姿勢制御部82は、通知された変位の有無に基づく距離の変化を相殺させるように姿勢調整部40による高さ調整を行わせることで、検査部30から検査対象である床面FLまでの距離を検査可能範囲内となるように姿勢の制御を行っている。また、姿勢制御部82は、水準器82aを有しており、併せて検査部30が水平であるか否かについて検出している。なお、図示の構成の場合、検査部30が取り付けられている支持部SUが水平な状態にあるか否かを検出することで、検査部30が水平であるか否かを判定できる。
【0036】
以上のような構成により、検査装置100は、テラヘルツ波TWを用いた床面FLの検査を可能としている。すなわち、検査装置100のうち、検査部30の発信部Txから床面FLへ向けてテラヘルツ波TWを発信するとともに、床面FLで反射された反射成分RWを検査部30の受信部Rxで受信することで、図示において一部拡大して示すように、眼に見えないような表面上の細かな凹凸TPのみならず、金属板MP上に塗膜PFを施して構成される床面FLの内部に生じた錆RUの検出までも可能になる。この際、さらに、本実施形態では、姿勢調整部40や変位計60等が協働することで、検査対象である床面FLにおいて、例えば段差SPがある、というような場合においても、検査部30の姿勢が床面FLに対して常に一定の距離を維持できるようにしている。検査対象となる床面FLは、上述のように金属板MP上に塗膜PFを施して構成されており、金属板MPの継ぎ目等によって、段差SPのような箇所が形成される。このような段差があることで、検査部30から床面FLまでの距離が変化してしまうと、検査部30での検査に影響を及ぼす可能性があり、特に、テラヘルツ波を用いる場合には、影響が出る可能性が高まる特性を有することになる。
【0037】
以下、図3を参照して、テラヘルツ波の特性等について説明する。テラヘルツ波については、一般に、進むにしたがって広がっていく回折現象を生じる、という特性を有している。この点において、直進性を有する赤外光等と特性が異なっている。例えば、図3(A)に示すように、光軸AXの延びる方向を中心方向としてテラヘルツ波TWが発信されると、レンズLS等により平行化をしていても、回折が生じるため、図中破線で示す平行を維持して直進する理想的な光線IMのようにはならず、徐々に広がってしまい、集光しない。したがって、例えば図3(B)に示すように、レンズLSを用いて光源からの射出成分としてのテラヘルツ波TWを集光させても、光軸AXの方向に沿った方向に関してテラヘルツ波TWのスポット径が測定検査に適する程度に小さく維持される許容範囲DD1は、非常に限られてしまう。言い換えると、検査部30での検査可能範囲内は、限られている。特に、上記波長帯域のような周波数を0.1~2THzとする低周波側の電磁波では、回折現象の影響が大きいと考えられる。
【0038】
これに対して、本実施形態では、上記のように、姿勢調整部40によって、検査部30について、検査対象である床面FLまでの距離を検査可能範囲内なるように調整可能にしている。すなわち、本実施形態では、例えば図1において、検査部30が取り付けられた支持部SUの下面(裏面)SUbから検査対象である床面FLまでの距離HHを、検査可能範囲内となるように維持することが非常に重要であり、これを姿勢調整部40での調整等によって達成させている。言い換えると、姿勢調整部40は、検査部30からのテラヘルツ波TWの検査装置100外への射出位置から床面FLまでの距離を、所定範囲内に保たせるように位置調整している。
【0039】
以下、図4等を参照して、検査装置100の走行動作について、一例を説明する。図4(A)~4(G)は、検査装置について走行の動作について一例を示す概念図である。ここでは、図示のように、検査装置100の進行方向前方に段差SPがあることで高さに変化が生じる場合について説明する。図4では、説明を簡略化するため、平面状の床面FLの一部に、一定の高さを有する段差SPが存在するものとするが、これ以外の形状である場合においても、同様の動作が可能である。なお、図5は、図4(A)~4(G)に示す動作に対応する距離d,d,dや、高さH,Hの変化の様子について示すグラフである。
【0040】
まず、図4(A)に示すように、検査装置100のうち、前方側接触部20Fの直近前方に設けられている第1の走行部側変位計60Fが、床面FLの段差SPに到達することで、段差SPの高さの分だけ、距離dの値が小さくなる(図5参照)。
【0041】
検査装置100の姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、前方側接触部20Fを引き上げる動作を開始する。具体的に説明すると、まず前提として、進行方向(Z方向)について第1の走行部側変位計60Fから前方側接触部20Fまでの距離が既知であり、これに相当する距離だけ移動するのに合わせて、前方側接触部20Fを上方(-Y側)に引き上げる、すなわち、高さHの値が小さくなるように調整する。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FLまでの距離が保たれるように維持される。
【0042】
前方側接触部20Fの引き上げが完了すると、図4(B)に示すような状態となり、さらに進行すると、今度は、検査部30の直近前方に設けられている電磁波射出側変位計60Lが、段差SPに到達することで、段差SPの高さの分だけ、距離dの値が小さくなる(図5参照)。
【0043】
姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、走行部20を除く装置全体を、すなわち支持部SUを引き上げるべく、前方側接触部20F及び後方側接触部20Bの動作を開始する。具体的に説明すると、まず前提として、進行方向(Z方向)について電磁波射出側変位計60Lから検査部30におけるテラヘルツ波TWの射出位置までの距離が既知であり、これに相当する距離だけ移動するのに合わせて、支持部SUを上方(-Y側)に引き上げる、すなわち、前方側接触部20F及び後方側接触部20Bを引き下げて高さH,Hの値を大きくして、距離dの値が変化前と同じになるように調整する。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FL(段差SP)までの距離が保たれるように維持される。なお、距離dの値が変化前と同じになるのに合わせて、小さくなっていた距離dの値も変化前と同じ状態に戻っていく(図5参照)。また、高さHの値も変化前と同じ状態に戻っていくことになる(同上)。高さHについては、図4(A)の場合よりも大きくなっていく(同上)。
【0044】
支持部SUの引き上げが完了すると、図4(C)に示すような状態となり、さらに進行すると、今度は、第1の走行部側変位計60Fが、床面FLの段差SPの終端よりも先に到達することで、例えば段差SPの高さの分だけ、距離dの値が大きくなる(図5参照)。
【0045】
姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、前方側接触部20Fを引き下げる動作を開始する。具体的に説明すると、既知の第1の走行部側変位計60Fから前方側接触部20Fまでの距離に相当する距離だけ移動するのに合わせて、前方側接触部20Fを下方(+Y側)に引き下げる、すなわち、高さHの値が大きくなるように調整する(図5参照)。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FL(段差SP)までの距離が保たれるように維持される。
【0046】
前方側接触部20Fの引き下げが完了すると、図4(D)に示すような状態となり、さらに進行すると、今度は、電磁波射出側変位計60Lが、段差SPの終端よりも先に到達することで、段差SPの高さの分だけ、距離dの値が大きくなる(図5参照)。
【0047】
姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、走行部20を除く装置全体を、すなわち支持部SUを引き下げるべく、前方側接触部20F及び後方側接触部20Bの動作を開始する。具体的に説明すると、既知の電磁波射出側変位計60Lから検査部30の射出位置までの距離に相当する距離だけ移動するのに合わせて、支持部SUを下方(+Y側)に引き下げる、すなわち、前方側接触部20F及び後方側接触部20Bを引き上げて高さH,Hの値を小さくして、距離dの値が変化前と同じになるように調整する。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FLまでの距離が保たれるように維持される。なお、距離dの値が変化前と同じになるのに合わせて、大きくなっていた距離d,dの値も変化前と同じ状態に戻っていく(同上)。
【0048】
支持部SUの引き下げが完了すると、図4(E)に示すような状態となり、さらに進行すると、今度は、後方側接触部20Bの直近前方に設けられている第2の走行部側変位計60Bが、床面FLの段差SPに到達することで、段差SPの高さの分だけ、距離dの値が小さくなる(図5参照)。
【0049】
姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、後方側接触部20Bを引き上げる動作を開始する。具体的に説明すると、まず前提として、進行方向(Z方向)について第2の走行部側変位計60Bから後方側接触部20Bまでの距離が既知であり、これに相当する距離だけ移動するのに合わせて、後方側接触部20Bを上方(-Y側)に引き上げる、すなわち、高さHの値が小さくなるように調整する。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FLまでの距離が保たれるように維持される。
【0050】
後方側接触部20Bの引き上げが完了すると、図4(F)に示すような状態となり、さらに進行すると、今度は、第2の走行部側変位計60Bが、段差SPの終端よりも先に到達することで、段差SPの高さの分だけ、距離dの値が大きくなる(図5参照)。
【0051】
姿勢制御部82は、距離dの変化を検知すると、所定距離移動後、後方側接触部20Bを引き下げる動作を開始する。具体的に説明すると、既知の第2の走行部側変位計60Bから後方側接触部20Bまでの距離に相当する距離だけ移動するのに合わせて、後方側接触部20Bを下方(+Y側)に引き下げる、すなわち、高さHの値が大きくなるように調整する。以上により、支持部SUが水平で、検査部30から床面FLまでの距離が保たれるように維持される。
【0052】
後方側接触部20Bの引き下げが完了すると、図4(G)に示すような状態となり、検査装置100は、必要に応じて、さらに検査をしつつ走行を続ける。
【0053】
図6は、姿勢調整について説明するための概念的な平面図である。上記説明では、進行方向(Z方向)についての姿勢に着目して説明したが、進行方向に垂直で水平な左右方向すなわちX方向についても姿勢の調整が可能である。すなわち、図示のように、走行部20が、一対の前方側接触部20F,20Fと一対の後方側接触部20B,20Bとによる四輪式となっており、各接触部20F,20F,20B,20Bの高さをそれぞれ調整する一対の前方側高さ調整部40F,40Fと一対の後方側高さ調整部40B,40Bとを有するものとすることができる。これにより、姿勢制御部82の制御により、例えば進行方向に対して、左右で異なる段差があるといった場合においても対応可能となる。
【0054】
また、上記構成の場合、姿勢調整部40は、検査部30について、検査対象である床面FLに対する向きを、所定範囲内に保たせるように角度調整できるので、角度調整により、検査部30から検査対象までの距離や向きを調整できることになる。つまり、検査部30の床面FLに対する向きを、所定範囲内に保たせるようにできる。テラヘルツ波TWの発信及び受信による検査を行う上では、既述のように検査部30から床面FLまでの距離を一定に保たせることが重要であり、これとともに、テラヘルツ波TWを射出させる向きを合わせておくこと、すなわち、検査部30を支持する板状の支持部SUを水平面であるXZ面に対して平行な状態に維持することも重要である。本実施形態では、姿勢調整部40により、上記のように、角度調整についても可能とすることで、かかる事項についても対応可能となっている。
【0055】
以下、図7のフローチャートを参照して、本実施形態に係る検査装置100による一連の測定動作の一例について説明する。
【0056】
まず、検査装置100において、例えば検査対象とすべき床面FLの範囲といった測定範囲を設定する(ステップS1)。ステップS1において、測定範囲が設定されると、検査装置100は、床面FLの検査のため、移動を開始する(ステップS2)。
【0057】
ここで、検査装置100は、床面FLの検査とともに、変位計60による距離測定を行う(ステップS3)。すなわち、ステップS2での移動に合わせて、ステップS3において、変位計60による距離測定を行う。検査装置100の主制御部80は、姿勢制御部82として、ステップS3において測定された距離に基づいて、調整すべき走行部20の高さの計算を行い(ステップS4)、ステップS4の結果に基づいて、姿勢調整部40に高さ調整を行わせる(ステップS5)。さらに、姿勢制御部82としての主制御部80は、水準器82aにより水平度を確認し(ステップS6)、水平度が規定範囲内であれば(ステップS7:Yes)、検査部30の姿勢が正しい状態にあるものとして、検査部30により受信した反射成分RWの強度測定を行う(ステップS8)。すなわち、検査部30での検査結果を採用すべき測定データとして記憶する。一方、ステップS7において、水平度が規定範囲内でないと判断された場合には(ステップS7:No)、測定された水平度に基づいて、ステップS4からの動作を繰り返す。すなわち、測定された水平度に基づいて修正すべく、再度、走行部20の高さの計算を行い(ステップS4)、さらに、ステップS4の結果に基づく高さ調整を姿勢調整部40に行わせ(ステップS5)、水準器82aによる水平度を確認する(ステップS6)。以上の動作を水平度が規定範囲内になるまで(ステップS7:Yes)繰り返す。
【0058】
ステップS8において強度測定が行われると、検査装置100は、ステップS1で設定された床面FLの測定範囲の全てについて検査が完了したか否かを確認し(ステップS9)、完了していなければ(ステップS9:No)、ステップS2からの動作を続け、完了していれば(ステップS9:Yes)、動作を終了する。
【0059】
以下、図8を参照して、検査装置のうち、検査部の一変形例について説明する。図8は、一変形例の検査装置100の概念的な正面図である。本変形例の検査部230は、発信部Tx、受信部Rx、ビームスプリッターBS、ガルバノミラーGM及びレンズLSのほか、複数の反射ミラー部MRと、吸収体ABとを有している。複数の反射ミラー部MRは、テラヘルツ波TWの光路を適宜折り曲げて所望の方向へ向ける。一方、吸収体ABは、ビームスプリッターBSに対して45°傾けて配置されている。これにより、吸収体ABは、発信部Txから射出されてビームスプリッターBSに向かった成分のうちビームスプリッターBSで反射された成分を吸収して、迷光の発生等を抑制している。
【0060】
また、図示の例では、ガルバノミラーGMにより、走査方向SC1について一軸方向への走査がなされており、この方向は、X方向に一致している。すなわち、進行方向(Z方向)に対して垂直な水平方向(横方向)について走査を行っている。
【0061】
以上のように、本実施形態では、検査装置100において、支持部SUに取り付けられており、かつ、検査対象である床面FLに接触して走行する走行部20を、姿勢調整部40において高さ調整することで、走行とともに装置と検査対象との位置関係が変化しても、これに応じて床面FLに対する検査部30の姿勢を調整できるので、検査部30からの計測波であるテラヘルツ波TWによる検査において適した位置関係の状態の維持が可能になる。例えば、上記構成の場合、検査部30と床面FLとの距離を一定に保つことができる。これにより、計測波として、その特性から検査可能な範囲が限られやすいテラヘルツ波TWを用いても、検査部30から発信されるテラヘルツ波TWの拡がりを抑えて床面FLの位置において十分集光された細いスポット径を形成させるようにできる。
【0062】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0063】
まず、上記実施形態では、走行部20を複数の車輪やタイヤで構成するものとしているが、これに限らず、種々のものが適用できる。例えば、図9において一変形例を示すように、検査装置100の走行部320として、無限軌道(クローラー、あるいあキャタピラー)を適用し、走行部320の高さ調整に応じた姿勢調整部340を採用することも考えられる。このほか、可動式の複数の脚部等を採用する等、高さ調整可能でかつ走行可能な種々のものを採用することができる。
【0064】
また、変位計60の配置や検査部30の配置についても、他の態様が考えられる。例えば、変位計60については、各部の配置すなわち位置関係が既知であることを利用して、一部を省略してもよい。また、走行方向が複数ある場合、例えば前方のみならず、後方へも走行可能である場合には、進行方向に応じて変位計を設け、進行方向に合わせて使用する変位計を切り替えることも考えられる。
【0065】
また、上記実施形態では、テラヘルツ波TWの波長帯域について、周波数を0.1~2THzとする帯域であるものとしているが、これに限らず、種々のテラヘルツ波長帯域を含むのについて本願を適用することができる。特に、回折の影響が大きい帯域を含むものについて本願が利用可能と考えられる。
【0066】
また、上記実施形態では、スキャン型の反射部材として、ガルバノミラーを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電磁駆動式、静電方式、圧電方式、熱方式などの各種の駆動方式の光反射面を駆動させるものを適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…本体部分、20…走行部、20B…後方側接触部、20F…前方側接触部、20F…後方側接触部、30…検査部、40…姿勢調整部、40F,40B…高さ調整部、60…変位計、60F,60B…走行部側変位計、60L…電磁波射出側変位計、80…主制御部、81…走行制御部、82…姿勢制御部、82a…水準器、100…検査装置、230…検査部、320…走行部、340…姿勢調整部、AB…吸収体、AX…光軸、BS…ビームスプリッター、D1…矢印、DD1…許容範囲、df,db,dl…距離、FL…床面、GM…ガルバノミラー、HD…持ち手部、HH…距離、IM…光線、LS…レンズ、MP…金属板、MR…反射ミラー部、PF…塗膜、RU…錆、RW…反射成分、Rx…受信部、SC1…走査方向、SP…段差、SU…支持部、SUa…上面、SUb…下面、TP…凹凸、TW…テラヘルツ波、Tx…発信部、XXa,XXb…回転中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9