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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】工業用織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20220127BHJP
   D21F 7/10 20060101ALI20220127BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220127BHJP
   D03D 1/04 20060101ALI20220127BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D21F7/10
D03D1/00 Z
D03D1/04
D03D11/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018136417
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020012217
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144281(JP,A)
【文献】特開2015-86496(JP,A)
【文献】特開2011-157664(JP,A)
【文献】特開2008-13885(JP,A)
【文献】特開2002-105884(JP,A)
【文献】特開2002-266275(JP,A)
【文献】特開2003-96683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/196670(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 7/00- 7/12
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む紙材料から搾水することを含む工程で使用される工業用織物であって、
上層及び下層の2層に配置され、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなる第1経糸、及び、前記第1経糸よりも太く、マルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸を有する経糸と、
1層に配置され、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなる緯糸とを有し、
前記緯糸は、互いに隣接する2本を1組として、1組毎に互いに同じパターンで前記第1経糸及び前記第2経糸に絡み、
前記上層及び前記下層のそれぞれにおいて、所定の本数の前記第1経糸と、所定の本数の前記第2経糸とが、交互に配置され、
前記第1経糸同士及び前記第2経糸同士は、互いに上下で重ならないことを特徴とする工業用織物。
【請求項2】
当該工業用織物は、経方向に無端状になった袋状織物であり、
前記第1経糸は、緯方向に延在する芯線で折り返してループを形成することにより前記上層及び前記下層の間を移動し、
前記第2経糸は、前記芯線の経方向の前後で、前記ループを形成せずに前記上層及び前記下層の間を移動し、
前記芯線の前方で前記上層及び前記下層の間を移動する前記第2経糸と、前記芯線の後方で前記上層及び前記下層の間を移動する前記第2経糸とは、所定の本数毎に交互に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の工業用織物。
【請求項3】
前記上層及び前記下層のそれぞれにおいて、1本の前記第1経糸と、1本の前記第2経糸とが、交互に配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の工業用織物。
【請求項4】
前記第1経糸及び前記第2経糸は、互いに上下で重なり、
前記パターンは、1組の前記緯糸が、前記上層の1本の前記経糸の上、前記上層の1本の前記経糸と前記下層の1本の前記経糸の間、前記下層の1本の前記経糸の下、前記上層の1本の前記経糸と前記下層の1本の前記経糸の間の順に通ることによって形成されたことを特徴とする請求項3に記載の工業用織物。
【請求項5】
前記第1経糸は、0.4mm~0.65mmの直径を有するモノフィラメント、又は各々が0.18mm~0.28mmの直径を有するモノフィラメントの4本~6本の撚り糸からなり、
前記第2経糸は、5d~50dの太さを有するマルチフィラメントを含み、かつ全体として3000d~6000dの太さを有する撚り糸からなることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の工業用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水分を含む紙材料から搾水することを含む工程で使用される、工業用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプシートを形成するパルプマシーンでは、プレスパートにおいて、紙料の懸濁液から水分を脱落させ、さらにプレスして搾水する。この工程で使用される、水分を含む紙材料を運搬するための織物が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、この工程で使用される織物が記載されている。特許文献1及び2に記載の織物は、モノフィラメントからなる経糸と、マルチフィラメント等の小径の素糸を纏めて素糸間に微細な搾水空間を形成した糸、及びモノフィラメントの2種類の緯糸とを有する、経1層緯2層の織物である。上層の緯糸は、マルチフィラメントとモノフィラメントとが1本ずつ交互に配置され、下層の緯糸は、マルチフィラメントとモノフィラメントとが1本又は2本ずつ交互に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3793408号公報
【文献】特許第4828330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の織物に運搬される水分を含んだ紙材料は、緯方向(クロス機械方向)に回転軸を有するロールによってプレスされ、プレスによって搾り出された水は、経方向(機械方向)に移動しようとする。しかしながら、特許文献1及び2に記載の織物では、マルチフィラメントの延在方向が緯方向であるため、経方向への水の移動が小さく、搾水量が少なかった。また、マルチフィラメントが使用とともに扁平化するため、構造上、モノフィラメントの緯糸との隙間がなくなり、搾水性が低下する要因になっていた。緯糸のモノフィラメントを2本並べる組織にしてその間の隙間が使用末期まで維持できるようにしても、マルチフィラメントによるプレス面積が減るため、搾水性を十分に改善できなかった。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、水分を含む紙材料から搾水することを含む工程で使用される工業用織物において、搾水性を向上させることを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、水分を含む紙材料から搾水することを含む工程で使用される工業用織物(1,11)であって、上層(4)及び下層(5)の2層に配置され、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなる第1経糸(2a)、及び、前記第1経糸よりも太く、マルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸(2b)を有する経糸(2)と、1層に配置され、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなる緯糸(3)とを有し、前記緯糸は、互いに隣接する2本を1組として、1組毎に互いに同じパターンで前記第1経糸及び前記第2経糸に絡み、前記上層及び前記下層のそれぞれにおいて、所定の本数の前記第1経糸と、所定の本数の前記第2経糸とが、交互に配置され、前記第1経糸同士及び前記第2経糸同士は、互いに上下で重ならないことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、1組の緯糸によって第2経糸が大きく屈曲するため、第2経糸がプレス用のロールに接する形になるとともに、水を吸収するマルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸が経方向に存在するだけでなく、湿紙に圧力をかける凸部を形成する第2経糸と、吸収しきれない水の逃げ道になる凹部を形成する第1経糸とが経方向に存在することになり、より搾水性が向上する。また、第2経糸の屈曲によって、第1経糸と第2経糸との間に、斜め緯方向の隙間が生じるため、マルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸が扁平化する使用末期においても、搾水性が安定し汚れによる目詰まりも使用末期まで発生し難いものになる。
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る工業用織物は、上記構成において、経方向に無端状になった袋状織物であり、前記第1経糸は、緯方向に延在する芯線(6)で折り返してループ(7)を形成することにより前記上層及び前記下層の間を移動し、前記第2経糸は、前記ループを形成するための前記芯線の経方向の前後で、前記ループを形成せずに前記上層及び前記下層の間を移動し、前記芯線の前方で前記上層及び前記下層の間を移動する前記第2経糸と、前記芯線の後方で前記上層及び前記下層の間を移動する前記第2経糸とは、所定の本数毎に交互に配置されたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、2本以上のシャットルを有する織機で、本発明に係る工業用織物を製織することができる。また、比較的太い第2経糸の上下の入れ替わり部分がループの前後に分散するため、経糸本数を増やすことができる。また、芯線が緯糸として機能するため、入れ替わり部の厚さがその他の部分と同等になり、袋耳部の搾水ムラが抑制される。
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る工業用織物は、上記構成の何れかにおいて、前記上層及び前記下層のそれぞれにおいて、1本の前記第1経糸と、1本の前記第2経糸とが、交互に配置されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1経糸と第2経糸との間の斜め緯方向の隙間が多くなり、マルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸が扁平化する使用末期においても、搾水性がさらに安定する。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る工業用織物(1)は、上記構成において、前記第1経糸及び前記第2経糸は、互いに上下で重なり、前記パターンは、1組の前記緯糸が、前記上層の1本の前記経糸の上、前記上層の1本の前記経糸と前記下層の1本の前記経糸の間、前記下層の1本の前記経糸の下、前記上層の1本の前記経糸と前記下層の1本の前記経糸の間の順に通ることによって形成されたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2経糸2bが大きく屈曲して搾水性が良好になる。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る工業用織物は、上記構成の何れかにおいて、前記第1経糸は、0.4mm~0.65mmの直径を有するモノフィラメント、又は各々が0.18mm~0.28mmの直径を有するモノフィラメントの4本~6本の撚り糸からなり、前記第2経糸は、5d~50dの太さを有するマルチフィラメントを含み、かつ全体として3000d~6000dの太さを有する撚り糸からなることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、搾水性がさらに良好になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水分を含む紙材料から搾水することを含む工程で使用される工業用織物において、搾水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る工業用織物の経方向に直交する断面における断面図
図2】比較例及び第1実施形態に工業用織物の製織方法を示す説明図
図3】第2実施形態に係る工業用織物の経方向に直交する断面における断面図
図4】実施例に係る工業用織物の写真(A:上層側の表面、B:緯糸を切断した面を緯方向から撮った写真、C:緯糸を切断した面を斜め緯上方から撮った写真)
図5】比較例及び実施例に係る圧力分布測定の結果を示す写真(A:比較例、B:入れ替わり部側の袋耳部、C:入れ替わり部とは反対側の袋耳部)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、第1実施形態に係る工業用織物1の経方向に直交する断面における断面図である。工業用織物1は、経2層緯1層(経2重緯1重織)の織物である。工業用織物1は、経方向に無端状であり、機械のロールに掛け渡され、ロールの回転に応じて走行する。水分を含んだ紙材料は、工業用織物1に運搬され、搾水用のロールにプレスされて搾水される。
【0020】
工業用織物1は、経糸2と、経糸2に織り込まれた緯糸3とを有する。経糸2は、上層4及び下層5の2層に配置され、緯糸3は、上層4及び下層5の経糸に織り込まれるように1層に配置される。上層4及び下層5のそれぞれに、第1経糸2a及び第2経糸2bの2種類の経糸2が使用される。第1経糸2aは、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなり、好ましくは、0.4mm~0.65mmの直径を有するモノフィラメント、又は各々が0.18mm~0.28mmの直径を有するモノフィラメントの4本~6本の撚り糸からなる。第2経糸2bは、第1経糸2aよりも太い。第2経糸2bは、マルチフィラメントを含む撚り糸、例えば、マルチフィラメントの撚り糸、又はマルチフィラメントと紡績糸やモノフィラメントとの撚り糸からなり、好ましくは、5d~50dの太さを有するマルチフィラメントを含み、かつ全体として3000d~6000dの太さを有する撚り糸からなる。
【0021】
上層4及び下層5のそれぞれにおいて、所定の本数の第1経糸2aと所定の本数(第1経糸2aと同じ本数でも異なる本数でもよい)の第2経糸2bとが、互いに交互に配置され、好ましくは、第1経糸2aと第2経糸2bとが、1本ずつ互いに交互に配置される。第1経糸2a同士及び第2経糸2b同士は、互いに上下で重ならず、好ましくは、第1経糸2aと第2経糸2bとが互いに上下で重なる。
【0022】
緯糸3は、モノフィラメント又はモノフィラメントの撚り糸からなり、2本1組として、1組毎に互いに同じパターンで第1経糸2a及び第2経糸2bに絡む。緯糸3が経糸2に絡むパターンは、1組の緯糸3が、上層4の1本の経糸2の上、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2の間、下層5の1本の経糸2の下、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2の間の順に通るように形成される。
【0023】
上層4に配置された2本の第1経糸2a及び2本の第2経糸2b、下層5に配置された2本の第1経糸2a及び2本の第2経糸2b、並びに4組(計8本)の緯糸3で完全組織が構成されている。経糸2及び緯糸3に使用されるモノフィラメント又はマルチフィラメントは、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を素材とする。
【0024】
第1実施形態に係る工業用織物1の作用効果について説明する。マルチフィラメントを含む撚り糸からなる第2経糸2bが経方向に延在し、かつ、湿紙に圧力をかける凸部を形成する第2経糸2bと、吸収しきれない水の逃げ道になる凹部を形成する第1経糸2aとが経方向に存在することになるため、工業用織物1の進行方向である経方向に水が移動しやすい。また、互いに隣り合う2本の緯糸3,3が1組となって、同じ組織を形成させて第2経糸2bに大きい屈曲をつけるため、第2経糸2bがプレス用のロールに接する形となる。そのため、水がロールから経方向成分を含む大きな力を受け、より多くの水を搾水できる。空隙量が低下しても経方向に水が移動することにより搾水不良になり難い。緯糸3が第1経糸2a及び第2経糸2b間に織り込まれることにより、図1の矢印で示すように第2経糸2bと第1経糸2aとの段差により生じた斜め緯方向の隙間により、初期の空隙量が大きくなるとともに、使用末期まで搾水性が安定し汚れによる目詰まりも使用末期まで発生し難いものになる。
【0025】
図2は、工業用織物1の製織方法を示す。袋織で製織される工業用織物1は、緯糸3が製織時の整経糸となり、経糸2が製織時の打ち込み糸となる。上層4の第1経糸2a用、上層4の第2経糸2b用、下層5の第1経糸2a用、及び下層5の第2経糸2b用の合計4丁のシャットル(杼)があれば製織できるが、4丁以上のシャットルを有する織機はあまり普及していない。そこで、2丁のシャットルで工業用織物1を製織する方法を説明する。この場合、上層4の第1経糸2aと下層5の第1経糸2aとは、互いに同種の糸となり、上層4の第2経糸2bと下層5の第2経糸2bとは互いに同種の糸となる。
【0026】
図2の左図は、製織時に袋耳部の一方(紙面の右側)で経糸2の上下を入れ替えて(上層4から下層5へ、また下層5から上層へ経糸2を移動させて)製織した様子を示し、図2の右図は、機器に取り付けられた工業用織物1において、その袋耳部が前後(紙面の左右)にまっすぐ延びている状態を示す。
【0027】
図2(A)の比較例1に示すように、1組の緯糸3,3と、これに隣接する他の1組の緯糸3,3との間で、第1経糸2a及び第2経糸2bのそれぞれについて上下を入れ替えると、1組の緯糸3,3とこれに隣接する他の1組の緯糸3,3と距離が、上下の入れ替わり部分で、他の部分よりも大きくなる。その結果、上下の入れ替わり部分の厚さが他の部分よりも薄くなり、振動や偏摩耗等の要因となる。また上下入れ替わりを第1経糸2aは左側袋耳部で、第2経糸2bは右側袋耳部と分けた場合でも、糸の太さの差が大きすぎるため、意味がなく、振動や偏摩耗等の危険部分が増えるだけとなる。
【0028】
図2(B)の比較例2に示すように、第1経糸2a及び第2経糸2bのそれぞれについて、所定の1組の緯糸3,3を芯線6として、芯線6に対してループ7を形成するように折り返して上下を入れ替えると、ループ7の部分で、経糸2の本数が他の部分の2倍になって厚くなるため、振動の要因となる。また、経糸2の本数が2倍となるループ7部分が存在するため、単位幅あたりの経糸2の本数も増やせない。
【0029】
そこで、第1実施形態に係る工業用織物1では、図2(C)及び(D)に示すように、比較的細い第1経糸2aは、ループ7を形成するように芯線6で折り返して上下を入れ替え、比較的太い第2経糸2bは、芯線6の前後で、ループを形成せずに(折り返さずに)上下を入れ替えている。芯線6の前方で上下を入れ替える第2経糸2bと、芯線6の後方で上下を入れ替える第2経糸2bとは、所定の本数毎に交互に配置される。図示する例では、芯線6の後方で上層4から下層5に移動する第2経糸2b、芯線6後方で下層5から上層4に移動する第2経糸2b、芯線6前方で上層4から下層5に移動する第2経糸2b、芯線6前方で下層5から上層4に移動する第2経糸2bの順に配置されている。
【0030】
比較的太い第2経糸2bの重なり部分が芯線6の前後に分散するため、経糸2の本数を増やすことができる。また、芯線6が緯糸3として機能するため、入れ替え部分の厚さは、他の部分の厚さと略同等になり、振動や偏摩耗を抑制できる。
【0031】
次に、図3を参照して、第2実施形態に係る工業用織物11について説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第2実施形態に係る工業用織物11は、緯糸3の経糸2への織り込みパターンが第1実施形態と相違する。
【0032】
工業用織物11では、経糸2は、第1実施形態と同様に配置され、緯糸3が、上層4の1本の経糸2の上、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2との間、上層4の1本の経糸2の上、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2との間、下層5の1本の経糸2の下、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2との間、下層5の1本の経糸2の下、上層4の1本の経糸2と下層5の1本の経糸2との間の順に通ることによって緯糸3の経糸2への織り込みパターンが構成される。
【実施例
【0033】
図4は、第1実施形態に対応する実施例の写真である。第1経糸2aはモノフィラメントからなり、第2経糸2bはマルチフィラメントの撚り糸からなり、緯糸3はモノフィラメントからなる。
【0034】
図4(A)に示すように、プレスされた紙材料から搾り出された水を毛細管現象等により移動させるマルチフィラメントの撚り糸からなる第2経糸2bは、経方向に延在し、湿紙に圧力をかける凸部を形成する第2経糸2bと、吸収しきれない水の逃げ道になる凹部を形成する第1経糸2aとが経方向に存在する。プレス用のロールから受ける圧力の方向が経方向成分を含むため、効率的に搾水できる。
【0035】
図4(B)に示すように、第2経糸2bの最上部及び最下部が、工業用織物1の最上部及び最下部となっている。これは、互いに隣り合う2本1組の緯糸3,3が、1組毎に互いに同じパターンで経糸2に絡むことにより、第2経糸2bを大きく屈曲させるためである。これにより、第2経糸2bが、プレス用のロールに直接又は紙材料を介して接する形となるため、搾水性が向上する。
【0036】
図4(C)に示すように、互いに隣接する第2経糸2bと第1経糸2aとの間に斜め緯方向に隙間が生じている。これも、互いに隣り合う2本1組の緯糸3,3が、1組毎に互いに同じパターンで経糸2に絡むことにより、第2経糸2bを大きく屈曲させるためである。これにより、マルチフィラメントの撚り糸からなる第2経糸2bが扁平化しても、搾水性の低下が抑制され、汚れによる目詰まりも使用末期まで発生し難いものになる。
【0037】
図5(A)は、図2(A)に示す比較例1に対応する織物の経糸2の入れ替わり部の圧力分布測定の結果を示し、図5(B)は、図2(C)及び(D)に示す第1実施形態に対応する実施例の工業用織物1の入れ替わり部の圧力分布測定の結果を示し、図5(C)は、(B)と同じ実施例における入れ替わり部とは反対側の袋耳部の圧力分布測定の結果を示す。測定結果の写真において、色の濃い部分は圧力が高いことを示し、色の薄い部分は圧力が低いことを示す。
【0038】
図5(A)に示すように、入れ替わり部が薄くなる比較例1では、入れ替わり部にかかる圧力が小さくなり、搾水性が低下する。図5(B)に示すように、第1経糸がループを形成して上下に入れ替わり、第2経糸が芯線の前後で上下に入れ替わる構成では、入れ替わり部の圧力と通常部(袋耳部以外の部分)の圧力と差が小さくなっている。また、図5(C)に示すように、入れ替わり部と反対側の袋耳部の圧力は、通常部の圧力と略同等である。以上のように、第1経糸がループを形成して上下に入れ替わり、第2経糸が芯線の前後で上下に入れ替わる構成では、経糸がループを形成せずに1箇所で上下に入れ替わる構成に比べて、搾水性及び紙面性が良好である。
【0039】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、芯線として、1組の緯糸とは異なる種類及び/又は本数の糸を使用してもよい。本発明に係る工業用織物を製紙用フェルトの基布に適用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1,11:工業用織物
2:経糸
2a:第1経糸
2b:第2経糸
3:緯糸
4:上層
5:下層
6:芯線
7:ループ
図1
図2
図3
図4
図5