(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】誘電エラストマートランスデューサーシステム
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20220127BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220127BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220127BHJP
B81B 5/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
H01L41/113
H01L41/09
B81B5/00
(21)【出願番号】P 2018142042
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】514285911
【氏名又は名称】千葉 正毅
(73)【特許権者】
【識別番号】510244754
【氏名又は名称】和氣 美紀夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】千葉 正毅
(72)【発明者】
【氏名】和氣 美紀夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃司
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-099429(JP,A)
【文献】特開2017-127088(JP,A)
【文献】特開2008-211924(JP,A)
【文献】特開2018-033293(JP,A)
【文献】特表2013-520956(JP,A)
【文献】特開2013-055877(JP,A)
【文献】特表2014-507930(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112514235(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第2239792(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0231091(US,A1)
【文献】米国特許第6140745(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
H01L 41/113
H01L 41/09
B81B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が誘電エラストマー層と当該誘電エラストマー層を挟む一対の電極層とを有する複数の誘電エラストマー要素と、
前記誘電エラストマー要素に接続された電気回路装置と、を備える誘電エラストマートランスデューサーシステムであって、
前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素に個別に接続されて
おり、
前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素をアクチュエータとして駆動する駆動制御回路、前記複数の誘電エラストマー要素を用いた発電を行う発電制御回路および前記複数の誘電エラストマー要素を用いた検出処理を行う検出制御回路から各々が選択され且つ互いに異なる第1制御回路および第2制御回路を有し、
前記複数の誘電エラストマー要素のいずれかが前記第1制御回路に接続され且つ前記複数の誘電エラストマー要素の他のいずれかが前記第2制御回路に接続された状態が存在することを特徴とする、誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【請求項2】
前記複数の誘電エラストマー要素は、力学的に直列に連結されている、請求項1に記載の誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【請求項3】
前記複数の誘電エラストマー要素は、互いの特性が異なる誘電エラストマー要素を含む、請求項1または2に記載の誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【請求項4】
前記特性は、前記一対の電極層の電位差と前記誘電エラストマー層の歪みとの関係である、請求項3に記載の誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【請求項5】
前記特性は、前記一対の電極層の電位差の時間変化率と前記誘電エラストマー層の歪みの時間変化率との関係である、請求項3に記載の誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【請求項6】
前記複数の誘電エラストマー要素は、力学的に並列に連結されている、請求項1に記載の誘電エラストマートランスデューサーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電エラストマー層を有しエネルギーを変換する誘電エラストマートランスデューサーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの変換効率に優れたトランスデューサーとして、誘電エラストマー層およびこれを挟む一対の電極層からなる誘電エラストマー要素を有する誘電エラストマートランスデューサーが注目されている。この誘電エラストマートランスデューサーは、誘電エラストマー層の変形(伸縮及び収縮)を利用して、任意のエネルギーを他のエネルギーに変換する。
【0003】
たとえば、特許文献1には、一対の電極層に電荷を付与した際の誘電エラストマー層の変形を利用して駆動力を発揮させることにより、誘電エラストマー要素をアクチュエータとしての機能例が開示されている。また、アクチュエータとしての駆動力を高める等を目的として、複数の誘電エラストマー要素を用いる例が開示されている。
【0004】
しかしながら、複数の誘電エラストマー要素を用いた場合、すべてのまたはいずれかの誘電エラストマー要素が電気的または機械的に動作不良を生じる可能性がある。また、複数の誘電エラストマー要素を一括して駆動制御するため、単に駆動力を高めることに留まり、駆動力の増強を超えたさらなる利点が見いだせない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、信頼性を向上させるとともに高機能化を図ることが可能な誘電エラストマートランスデューサーシステムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される誘電エラストマートランスデューサーシステムA1は、各々が誘電エラストマー層と当該誘電エラストマー層を挟む一対の電極層とを有する複数の誘電エラストマー要素と、前記誘電エラストマー要素に接続された電気回路装置と、を備える誘電エラストマートランスデューサーシステムであって、前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素に個別に接続されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記複数の誘電エラストマー要素は、力学的に直列に連結されている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記複数の誘電エラストマー要素は、互いの特性が異なる誘電エラストマー要素を含む。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記特性は、前記一対の電極層の電位差と前記誘電エラストマー層の歪みとの関係である。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記特性は、前記一対の電極層の電位差の時間変化率と前記誘電エラストマー層の歪みの時間変化率との関係である。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記複数の誘電エラストマー要素は、力学的に並列に連結されている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素をアクチュエータとして駆動する駆動制御回路を含む。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素を用いた発電を行う発電制御回路を含む。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電気回路装置は、前記複数の誘電エラストマー要素を用いた検出処理を行う検出制御回路を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、誘電エラストマートランスデューサーシステムの信頼性を向上させるとともに高機能化を図ることができる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムの使用形態の一例を示すタイミングチャートである。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムの使用形態の他の例を示すタイミングチャートである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムの使用形態の他の例を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムの使用形態の他の例を示す断面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【
図10】本発明の第6実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA1は、複数の誘電エラストマー要素1、支持体2および電気回路装置3を備えている。誘電エラストマートランスデューサーシステムA1は、複数の誘電エラストマー要素1がアクチュエータとして機能するように構成されている。
【0021】
複数の誘電エラストマー要素1は、各々が誘電エラストマー層11および一対の電極層12を有しており、本実施形態においては、電気回路装置3からの電荷付与によりアクチュエータとして機能する。誘電エラストマー層11は、弾性変形が可能であるとともに、絶縁強度が高いことが求められる。このような誘電エラストマー層11の材質は特に限定されないが、好ましい例として、たとえばシリコーンエラストマーやアクリルエラストマーが挙げられる。
【0022】
誘電エラストマー層11の形状は特に限定されず、本実施形態においては、誘電エラストマー層11は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の構成要素として形成される前の外力等が加えられていない状態において平面視円環形状である。
【0023】
一対の電極層12は、誘電エラストマー層11を挟んでいる。電極層12は、導電性を有するとともに、誘電エラストマー層11の弾性変形に追従しうる弾性変形が可能な材質によって形成される。このような材質としては、弾性変形可能な主材に導電性を付与するフィラーが混入された材質が挙げられる。前記フィラーの好ましい例として、たとえばカーボンナノチューブが挙げられる。
【0024】
本実施形態においては、複数の誘電エラストマー要素1は、4つの誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dからなる。誘電エラストマー要素1Aは、誘電エラストマー層11Aおよび一対の電極層12Aを有する。誘電エラストマー要素1Bは、誘電エラストマー層11Bおよび一対の電極層12Bを有する。誘電エラストマー要素1Cは、誘電エラストマー層11Cおよび一対の電極層12Cを有する。誘電エラストマー要素1Dは、誘電エラストマー層11Dおよび一対の電極層12Dを有する。誘電エラストマー層11A,11B,11C,11Dは、特に言及しない限り、互いに同様の構成である。電極層12A,12B,12C,12Dは、特に言及しない限り、互いに同様の構成である。
【0025】
支持体2は、複数の誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dを支持している。本実施形態においては、支持体2は、複数の誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dを力学的に直列に連結している。具体的には、支持体2は、一対の支持リング21、一対の支持リング22、支持板23および複数の支持ロッド24を有する。支持体2の材質は特に限定されず、誘電エラストマー要素1と接する部位は、樹脂等の絶縁材料からなることが好ましい。なお、以降に説明する支持体2は、一例であり、支持体2の具体的構成は何ら限定されない。
【0026】
一対の支持リング21は、図中上下方向に離間して配置されており、比較的大径のリング状部材である。図中上方の支持リング21には、誘電エラストマー要素1Aの誘電エラストマー層11Aの外周端が固定されている。図中下方の支持リング21には、誘電エラストマー要素1Dの誘電エラストマー層11Dの外周端が固定されている。
【0027】
一対の支持リング22は、一対の支持リング21の間において図中上下方向に離間して配置されており、比較的小径のリング状部材である。図中上方の支持リング22には、誘電エラストマー要素1Aの誘電エラストマー層11Aの内周端と誘電エラストマー要素1Bの誘電エラストマー層11Bの内周端とが固定されている。図中下方の支持リング22には、誘電エラストマー要素1Cの誘電エラストマー層11Cの内周端と誘電エラストマー要素1Dの誘電エラストマー層11Dの内周端とが固定されている。
【0028】
支持板23は、一対の支持リング22の間に配置されており、たとえば円形状の板状部材である。支持板23には、誘電エラストマー要素1Bの誘電エラストマー層11Bの外周端と誘電エラストマー要素1Cの誘電エラストマー層11Cの外周端とが固定されている。また、支持板23には、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からの駆動力を出力すべく外部と接続される接続部材9が取り付けられている。
【0029】
複数の支持ロッド24は、一対の支持リング21を互いに連結している。複数の支持ロッド24の長さは、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dを図中上下方向に十分に伸張させることにより、電気回路装置3から電荷が付与されていない状態において、所望の張力を生じる状態とされる。
【0030】
このような構成の支持体2によって支持されることにより、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dは、上下方向を軸方向とする円錐体形状をなすように設定される。
【0031】
電気回路装置3は、複数の誘電エラストマー要素1に接続されている。電気回路装置3は、誘電エラストマー要素1が果たすべき機能に対応した種々の電気回路を含む構成とされている。本実施形態においては、複数の誘電エラストマー要素1をアクチュエータとして機能させるべく、電気回路装置3は、駆動制御回路35A~35Dを有する。駆動制御回路35A~35Dは、たとえば、誘電エラストマー要素1に電荷を付与するための電圧を発生する電源回路や、この電源回路を制御する制御回路を含む。図示された例においては、駆動制御回路35Aは、誘電エラストマー要素1Aに電位差を付与し、駆動制御回路35Bは、誘電エラストマー要素1Bに電位差を付与し、駆動制御回路35Cは、誘電エラストマー要素1Cに電位差を付与し、駆動制御回路35Dは、誘電エラストマー要素1Dに電位差を付与する。
【0032】
複数の誘電エラストマー要素1と電気回路装置3とは、複数の配線31,32によって接続されている。より具体的には、複数の配線31,32は、配線31A,32A,31B,32B,31C,32C,31D,32Dからなる。
【0033】
配線31Aは、駆動制御回路35Aと誘電エラストマー要素1Aの一方の電極層12Aに接続されており、配線32Aは、駆動制御回路35Aと誘電エラストマー要素1Aの他方の電極層12Aに接続されている。配線31Bは、駆動制御回路35Bと誘電エラストマー要素1Bの一方の電極層12Bに接続されており、配線32Bは、駆動制御回路35Bと誘電エラストマー要素1Bの他方の電極層12Bに接続されている。配線31Cは、駆動制御回路35Cと誘電エラストマー要素1Cの一方の電極層12Cに接続されており、配線32Cは、駆動制御回路35Cと誘電エラストマー要素1Cの他方の電極層12Cに接続されている。配線31Dは、駆動制御回路35Dと誘電エラストマー要素1Dの一方の電極層12Dに接続されており、配線32Dは、駆動制御回路35Dと誘電エラストマー要素1Dの他方の電極層12Dに接続されている。
【0034】
このように、電気回路装置3の駆動制御回路35A~35Dは、複数の誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dに、個別に独立して接続されている。したがって、電気回路装置3は、複数の誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dのそれぞれに独立して電荷(電位差)を付与可能な構成である。
【0035】
次に、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の作用について説明する。
【0036】
本実施形態によれば、複数の誘電エラストマー要素1と電気回路装置3とは、個別に接続されている。このため、複数の誘電エラストマー要素1のいずれかが機械的または電気的に動作不良の状態となった場合に、当該誘電エラストマー要素1以外の誘電エラストマー要素1への電荷付与を継続することにより、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1を引き続き機能させることができる。特に、複数の誘電エラストマー要素1の個数が多くなった場合に、いずれか1つの誘電エラストマー要素1の不良によって誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の全体が機能不可となる事態を回避することができる。
【0037】
図2は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の使用形態の一例を示している。横軸は時間である。上側のグラフの縦軸は、誘電エラストマー要素1A~1Dの電位差(電圧)Vである。下側のグラフの縦軸は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1が発揮する駆動力Fである。同グラフにおいては、駆動力Fの正方向が
図1におけるz1方向に相当し、負方向が
図1におけるz2方向に相当する。
【0038】
本例においては、時刻t0に誘電エラストマー要素1A,1Bに電気回路装置3の駆動制御回路35Aおよび駆動制御回路35Bから電位差V1が付与される。これにより、一対の電極層12Aと一対の電極層12Bとが、クーロン力により互いに引き合う。このため、誘電エラストマー層11A,11Bの厚さが薄くなり、面積が増大する。この結果、張力を発揮している誘電エラストマー要素1C,1Dが支持板23を図中下方に引き下げる格好となる。これにより、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、接続部材9をz2方向に引き下げる駆動力F1が発揮される。
【0039】
次いで、時刻t1に、誘電エラストマー要素1A,1Bの電荷が除外されて電位差が0とされ、誘電エラストマー要素1C,1Dに電気回路装置3の駆動制御回路35Cおよび駆動制御回路35Dから電位差V1が付与される。これにより、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dは、時刻t0~t1とは、上下方向反対の挙動を示す。この結果、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、接続部材9をz1方向に押し上げる駆動力F1が発揮される。
【0040】
この後の時刻t2~t6は、時刻t0,t1と同様の駆動制御が電気回路装置3によってなされており、それに対応した駆動力Fが発揮されている。
【0041】
このような使用形態によれば、図中z1方向およびz2方向の双方に、複数の誘電エラストマー要素1を余すことなく活用した、強い駆動力Fを発揮することができる。
【0042】
図3は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の使用形態の他の例を示している。本例においては、時刻t0に誘電エラストマー要素1Aのみに電気回路装置3の駆動制御回路35Aから電位差V1が付与される。これにより、誘電エラストマー層11Aのみ厚さが薄くなり、面積が増大する。この結果、張力を発揮している誘電エラストマー要素1C,1Dが支持板23をz2方向に引き下げる格好となる。ただし、誘電エラストマー要素1Bは、依然として張力を発揮している。したがって、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、
図2における駆動力F1よりも弱いz2方向への駆動力F2が発揮される。
【0043】
次いで、時刻t1に、誘電エラストマー要素1Aの電荷が除外されて電位差が0とされ、誘電エラストマー要素1Cのみに電気回路装置3の駆動制御回路35Cから電位差V1が付与される。これにより、誘電エラストマー層11Cのみの厚さが薄くなる。この結果、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、
図2における駆動力F1よりも弱いz1方向への駆動力F2が発揮される。
【0044】
次いで、時刻t2に、誘電エラストマー要素1Cの電荷が除外されて電位差が0とされ、誘電エラストマー要素1Bのみに電気回路装置3の駆動制御回路35Bから電位差V1が付与される。これにより、誘電エラストマー層11Bのみの厚さが薄くなる。この結果、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、
図2における駆動力F1よりも弱いz2方向への駆動力F2が発揮される。
【0045】
次いで、時刻t3に、誘電エラストマー要素1Bの電荷が除外されて電位差が0とされ、誘電エラストマー要素1Dのみに電気回路装置3の駆動制御回路35Dから電位差V1が付与される。これにより、誘電エラストマー層11Dのみの厚さが薄くなる。この結果、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1からは、
図2における駆動力F1よりも弱いz1方向への駆動力F2が発揮される。
【0046】
この後の時刻t4以降は、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dへの電荷付与が適宜繰り返される。
【0047】
このような使用形態によれば、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の使用期間において、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dのそれぞれに電荷(電位差)が付与される時間率を減少させることが可能である。これにより、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dが、電気的または機械的に動作不良を生じるまでの期間を延長させることが可能であり、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1の駆動寿命を延ばすことができる。
【0048】
なお、
図2のように、複数の誘電エラストマー要素1に同時に電荷を付与する使用形態と、
図3のように、いずれかの一部の誘電エラストマー要素1のみに電荷を付与する使用形態とを、互いに組み合わせて行ってもよい。
【0049】
また、複数の誘電エラストマー要素1の仕様が互いに異なる場合には、仕様の相違に応じた使用形態を適宜採用すればよい。たとえば、誘電エラストマー要素1Aおよび誘電エラストマー要素1Cの駆動ストロークが相対的に長い仕様であり、誘電エラストマー要素1Bおよび誘電エラストマー要素1Dの動作反応速度が相対的に速い仕様である場合が想定される。この場合、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1として、より長い駆動ストロークが求められる場合には、誘電エラストマー要素1Aおよび誘電エラストマー要素1Cのみに交互に電荷(電位差)を付与すればよい。一方、誘電エラストマートランスデューサーシステムA1としてより速い反応速度が求められる場合には、誘電エラストマー要素1Bおよび誘電エラストマー要素1Dのみに交互に電荷(電位差)を付与すればよい。
【0050】
図4~
図10は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0051】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA2は、複数の誘電エラストマー要素1がアクチュエータおよび発電素子として機能するように構成されている。
【0052】
本実施形態においては、電気回路装置3は、駆動制御回路35A~35D、発電制御回路36A~36Dおよびスイッチ39A~39Dを有している。
【0053】
駆動制御回路35A~35Dは、上述した誘電エラストマートランスデューサーシステムA1における駆動制御回路35A~35Dと同様であり、複数の誘電エラストマー要素1をアクチュエータとして駆動するための制御を行う。
【0054】
発電制御回路36A~36Dは、複数の誘電エラストマー要素1を発電素子として機能させるための制御を行う。具体的には、発電制御回路36A~36Dは、誘電エラストマー要素1A~1Dへの初期電荷の付与や、外力に起因する誘電エラストマー要素1A~1Dの変形によって増大した電気エネルギーの回収を行う。この様な発電制御回路36A~36Dは、発電回路や蓄電回路を適宜含んでいる。
【0055】
スイッチ39A~39Dは、誘電エラストマー要素1A~1D(配線31A~31Dおよび配線32A~32D)と、駆動制御回路35A~35Dおよび発電制御回路36A~36Dとの接続状態を切り替えるためのものである。同図においては、スイッチ39Aが、配線31Aおよび配線32Aと駆動制御回路35Aとを接続させている。また、スイッチ39Bが、配線31Bおよび配線32Bと駆動制御回路35Bとを接続させている。また、スイッチ39Cが、配線31Cおよび配線32Cと駆動制御回路35Cとを接続させている。また、スイッチ39Dが、配線31Dおよび配線32Dと駆動制御回路35Dとを接続させている。
【0056】
同図に示した状態は、誘電エラストマー要素1A~1Dのすべてをアクチュエータとして駆動する状態である。この使用形態においては、たとえば
図2および
図3を参照して説明した誘電エラストマートランスデューサーシステムA1と同様の使用形態を実現することができる。
【0057】
図5は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA2の使用形態の他の例を示している。同図に示す例においては、スイッチ39A~39Dが、配線31A~31Dおよび配線32A~32Dと、発電制御回路36A~36Dとをそれぞれ接続している。これにより、この使用形態においては、誘電エラストマー要素1A~1Dのすべてが発電素子として用いられる。たとえば、接続部材9に対して外部の外力発生体から外力が付与付されると、その外力に応じて接続部材9および支持板23がz1方向およびz2方向に移動する。この移動によって誘電エラストマー要素1A~1Dが変形し、発電が行われる。
【0058】
図6は、誘電エラストマートランスデューサーシステムA2の使用形態のさらに他の例を示している。同図に示す例においては、スイッチ39Aおよびスイッチ39Dが、配線31A,31D,32A,32Dと駆動制御回路35Aおよび駆動制御回路35Dとをそれぞれ接続しており、スイッチ39Bおよびスイッチ39Cが、配線31B,31C,32B,32Cと発電制御回路36Bおよび発電制御回路36Cとをそれぞれ接続している。すなわち、誘電エラストマー要素1Aおよび誘電エラストマー要素1Dが、アクチュエータとして駆動され、誘電エラストマー要素1Bおよび誘電エラストマー要素1Cが発電素子として用いられる。
【0059】
本使用形態によれば、1つの誘電エラストマートランスデューサーシステムA2を、アクチュエータと発電との2つの用途に用いることが可能である。アクチュエータとしての動作と発電動作とは、常に同時に行う必要はない。たとえば、誘電エラストマートランスデューサーシステムA2がアクチュエータとして駆動することが求められる場合、駆動制御回路35Aおよび駆動制御回路35Dによって誘電エラストマー要素1Aおよび誘電エラストマー要素1Dをアクチュエータとして駆動させ、発電制御回路36Bおよび発電制御回路36Cは、たとえば休止状態とすればよい。一方、外力の発生により発電が求められる場合、発電制御回路36Bおよび発電制御回路36Cによって誘電エラストマー要素1Bおよび誘電エラストマー要素1Cを用いた発電を行い、発電制御回路36Aおよび26Dは、たとえば休止状態とすればよい。なお、これらのアクチュエータとしての駆動と発電とを同時に行う使用形態を採用してもよい。
【0060】
誘電エラストマートランスデューサーシステムA2によれば、駆動用途と発電用途とを適宜切替えたり、組み合わせたりした使用形態が可能であり、より多様な用途に適用することができる。また、発電用途であっても、誘電エラストマー要素1A~1Dと発電制御回路36A~36Dとを個別に接続することにより、誘電エラストマートランスデューサーシステムA3の使用期間において、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dのそれぞれが使用される時間率を減少させることが可能である。これにより、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dが、電気的または機械的に動作不良を生じるまでの期間を延長させることが可能であり、誘電エラストマートランスデューサーシステムA2の寿命を延ばすことができる。
【0061】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA3は、複数の誘電エラストマー要素1がセンサ素子として機能するように構成されている。
【0062】
本実施形態においては、電気回路装置3が、検出制御回路37A~37Dを有する。検出制御回路37A~37Dは、誘電エラストマー要素1A~1Dの変形に伴う静電容量の変化を検出するための回路である。このような検出制御回路37A~37Dは、たとえば交流電気信号を出力する発振回路や静電容量の変化を判定する判定回路等を含む。
【0063】
誘電エラストマー要素1A~1Dは、誘電エラストマートランスデューサーシステムA3の検出対象である対象物8の表面に固定されている。図示された例においては、対象物8は、たとえば図中の矢印の方向に伸縮する。
【0064】
誘電エラストマートランスデューサーシステムA3によれば、複数の誘電エラストマー要素1A~1Dを用いて対象物8の変形を検出することが可能である。これにより、誘電エラストマー要素1A~1Dのいずれかが絶縁破壊等によって使用不可となっても、他の誘電エラストマー要素1を用いて検出を行うことが可能である。したがって、誘電エラストマートランスデューサーシステムA3の寿命を延ばすことができる。
【0065】
また、誘電エラストマー要素1A~1Dを同一の誘電エラストマー要素1によって構成してもよいし、互いに異なる使用の誘電エラストマー要素1によって構成してもよい。たとえば、より長い変形量を検出可能な誘電エラストマー要素1と、変形量をより高精度に検出可能な誘電エラストマー要素1とを、誘電エラストマー要素1A~1Dのいずれかにそれぞれ用いれば、検出可能な変形量の拡大と、検出精度の向上とを図ることができる。
【0066】
<第4実施形態>
図8は、本発明の第4実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA4は、電気回路装置3の構成が上述した実施形態と異なっている。
【0067】
本実施形態の電気回路装置3は、発電制御回路36A~36D、検出制御回路37A~37Dおよびスイッチ39A~39Dを有する。誘電エラストマー要素1A~1Dは、スイッチ39A~39Dによって発電制御回路36A~36Dまたは検出制御回路37A~37Dのいずれかに、個別に切り替え接続可能である。
【0068】
本実施形態によれば、誘電エラストマー要素1A~1Dによって、発電用途と検出用途とを実現可能である。また、誘電エラストマー要素1A~1Dの使用に伴う経年劣化は、発電用途において顕著であり、センサ用途においては劣化が進行しにくい。このため、誘電エラストマー要素1A~1Dのいずれかが発電用途に伴う経年劣化によって使用が困難となった場合に、誘電エラストマー要素1A~1Dのうち検出用途に使用されていたために劣化が進行していないものを発電用途に切り替えることができる。
【0069】
また、
図8に示された使用形態の場合、誘電エラストマー要素1A,1Dが発電用途に使用されており、誘電エラストマー要素1B,1Cが検出用途に用いられている。この場合、誘電エラストマー要素1B,1Cによって対象物8の変形を検出し、その結果に基づいて発電制御回路36A,36Dからの誘電エラストマー要素1A,1Dへの初期電圧の印加タイミングを制御するといった制御が可能である。これは、誘電エラストマー要素1A,1Dによる発電効率を向上させるのに有利である。
【0070】
また、たとえば発電用途に誘電エラストマー1A,1Dを用いる使用形態において、に誘電エラストマー1A,1Dの誘電エラストマー層11A,11Dの厚さが互いに異ならせてもよい。この場合、誘電エラストマー要素1Aは、大変形による発電に適したものとなり、誘電エラストマー要素1Dは、小変形による発電に適したものとなる。検出用途である誘電エラストマー要素1B,1Cの検出結果に基づいて、生じている変形が大変形であるか小変形であるかを判断し、誘電エラストマー要素1A,1Dのいずれかを選択的に発電用途に用いてもよい。このような使用形態によっても、発電効率を向上させることができる。
【0071】
<第5実施形態>
図9は、本発明の第5実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA5は、電気回路装置3の構成が上述した実施形態と異なっている。
【0072】
本実施形態の電気回路装置3は、駆動制御回路35A~35D、発電制御回路36A~36D、検出制御回路37A~37Dおよびスイッチ39A~39Dを有する。誘電エラストマー要素1A~1Dは、スイッチ39A~39Dによって駆動制御回路35A~35D、発電制御回路36A~36Dおよび検出制御回路37A~37Dのいずれかに、個別に切り替え接続可能である。
【0073】
このような実施形態によれば、上述した実施形態の使用形態のほとんどすべてを網羅することができる。また、図示された例においては、誘電エラストマー要素1A,1Bを駆動用途として用いることにより、誘電エラストマートランスデューサーシステムA5全体としては、駆動用途をメインとしつつ、誘電エラストマー要素1Bによって発電用途を補助的に行うことができる。これに加えて、誘電エラストマー要素1Cを用いた検出によって、誘電エラストマー要素1Bによる発電効率を高めるといった使用が可能である。
【0074】
また、図示された例とは異なり、誘電エラストマートランスデューサーシステムA5全体として、発電用途をメインとしつつ(たとえば誘電エラストマー要素1A,1B)、誘電エラストマー要素1A~1Dのいずれか(たとえば誘電エラストマー要素1C)を補助的な駆動用途として用いてもよい。この場合、対象物8の変形に加えて、誘電エラストマー要素1Cによって対象物8の初期変形を増長させる駆動力を補助的に付与する。これにより、誘電エラストマー要素1A,1Bによる発電の効率を向上させることができる。また、この場合、誘電エラストマー要素1Dを検出用途に用いることにより、誘電エラストマー要素1Cの駆動制御を最適化することが好ましい。
【0075】
<第6実施形態>
図10は、本発明の第6実施形態に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムを示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーシステムA6は、誘電エラストマー要素1A,1B,1C,1Dの力学的な連結形態が、上述した実施形態と異なっている。
【0076】
本実施形態においては、誘電エラストマー要素1A,1Bと、誘電エラストマー要素1C,1Dとが、力学的に並列に連結されている。より具体的には、円錐体形状の誘電エラストマー要素1Aを外側から囲むように、円錐体形状の誘電エラストマー要素1Cが配置されている。誘電エラストマー要素1Aと誘電エラストマー要素1Cとは、支持体2を介して力学的に並列に連結されている。
【0077】
また、円錐体形状の誘電エラストマー要素1Bを外側から囲むように、円錐体形状の誘電エラストマー要素1Dが配置されている。誘電エラストマー要素1Bと誘電エラストマー要素1Dとは、支持体2を介して力学的に並列に連結されている。
【0078】
このような実施形態によっても、誘電エラストマートランスデューサーシステムA6の信頼性を向上させるとともに高機能化を図ることができる。誘電エラストマー要素1Aと誘電エラストマー要素1Cとが並列に連結されていること、また、誘電エラストマー要素1Bと誘電エラストマー要素1Dとが並列に連結されていることにより、並列に連結された誘電エラストマー要素の一方が動作に支障をきたす事態となっても、他方の誘電エラストマー要素を用いて、誘電エラストマートランスデューサーシステムA6の動作を継続することができる。
【0079】
なお、
図10においては、電気回路装置3が、駆動制御回路35A~35Dを含む場合を例に説明しているが、これに限定されない。誘電エラストマートランスデューサーシステムA6の変形例として電気回路装置3を、上述した誘電エラストマートランスデューサーシステムA2~A5の電気回路装置3と同様の構成としてもよい。
【0080】
本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0081】
A1~A6:誘電エラストマートランスデューサーシステム
1,1A,1B,1C,1D:誘電エラストマー要素
11,11A,11B,11C,11D:誘電エラストマー層
12,12A,12B,12C,12D:電極層
2 :支持体
21,22:支持リング
23 :支持板
24 :支持ロッド
3 :電気回路装置
31,31A,31B,31C,31D,32,32A,32B,32C,32D :配線
35A~35D:駆動制御回路
36A~26D:発電制御回路
37A~37D:検出制御回路
39A~39D:スイッチ
8 :対象物
9 :接続部材
F :駆動力