(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】多重エネルギー(二重エネルギーを含む)コンピュータ断層撮影(CT)イメージングを行うための方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220127BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20220127BHJP
G01N 23/087 20060101ALI20220127BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20220127BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 350J
G01T7/00 A
G01N23/087
G01N23/046
A61B6/03 320M
(21)【出願番号】P 2018523385
(86)(22)【出願日】2016-07-22
(86)【国際出願番号】 US2016043713
(87)【国際公開番号】W WO2017019554
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-07-18
(32)【優先日】2015-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518027438
【氏名又は名称】フォト・ダイアグノスティック・システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】ウォーズテル,ウィリアム・エイ.
(72)【発明者】
【氏名】キーラー,マシュー・レン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,オロフ
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン,バーナード・エム.
【審査官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231058(JP,A)
【文献】特開2009-294209(JP,A)
【文献】特開2014-061274(JP,A)
【文献】特開昭60-220049(JP,A)
【文献】特開2014-061286(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064446(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00
G01T 7/00
G01N 23/087
G01N 23/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の画像を提供するための多重エネルギーコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムであって、
多色(polychromatic)X線源であって、前記多色X線源が、単一の電圧で駆動されて、多色X線ビームを生成する単一のX線管を備えるものと、
前記多色X線源からのX線を、前記X線が対象を通過した後に検出するための、ならびに、前記対象を通過した第1の多色X線スペクトルに関する第1の組の多色エネルギー測定値を提供するための、および、前記対象を通過した第2の多色X線スペクトルに関する第2の組の多色エネルギー測定値を提供するための検出器と、
(i)前記第1の組の多色エネルギー測定値および前記第2の組の多色エネルギー測定値の少なくとも一方を、選択される第1の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第1の単色データセットに、および、選択される第2の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第2の単色データセットに変換し、
(ii)前記第1の単色データセットを第1の単色画像に変換し、前記第2の単色データセットを第2の単色画像に変換し、
(iii)前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の少なくとも1つを使用して、(a)ビームハードニングアーチファクトがない画像の提供、および(b)前記対象内の物質特性の同定(identification)の提供の少なくとも一方を行う
ように構成されたプロセッサと、
を備え、
前記検出器が、第1の区間(section)および第2の区間を備え、さらに、前記第1の組
の多色エネルギー測定値が、前記多色X線源と前記検出器の前記第1の区間との間に第1のフィルタを位置決めすることによって提供され、前記第2の組の多色エネルギー測定値が、前記多色X線源と前記検出器の前記第2の区間との間に第2のフィルタを位置決めすることによって提供され、
前記第1の組の多色エネルギー測定値および前記第2の組の多色エネルギー測定値の前
記少なくとも一方が、ルックアップテーブルを使用して、対応する第1の単色データセットに、および、対応する第2の単色データセットに変換され、
前記ルックアップテーブルのインデックスが、
(i)前記第1の組の多色エネルギー測定値および前記第2の組の多色エネルギー測定値の少なくとも一方と、
(ii)前記第1の組の多色エネルギー測定値と前記第2の組の多色エネルギー測定値との間の差に感応する(sensitive to)関数とを含み、
前記ルックアップテーブルのインデックスが、
(i)前記第1の組の多色エネルギー測定値および前記第2の組の多色エネルギー測定値の少なくとも一方と、
(ii)前記第1の組の多色エネルギー測定値と前記第2の組の多色エネルギー測定値との間の比率とを含む、
システム。
【請求項2】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタの少なくとも1つが、前記多色X線源と前記対象との間に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタの少なくとも1つが、前記対象と前記検出器との間に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記検出器が、第1の区間および第2の区間を備え、さらに、前記第1の組の多色エネルギー測定値が、前記多色X線源と前記検出器の前記第1の区間との間に第1のフィルタを位置決めすることによって提供され、前記第2の組の多色エネルギー測定値が、前記検出器の前記第1の区間の出力と前記検出器の前記第2の区間の出力との間の差を計算することによって提供される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のフィルタが、前記多色X線源と前記対象との間に配置される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のフィルタが、前記対象と前記検出器との間に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記対応する第1の単色データセットが、第1のサイノグラム(sonogram)を含み、前記対応する第2の単色データセットが、第2のサイノグラムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記ルックアップテーブルが、前記第1の組の多色エネルギー測定値および前記第2の組の多色エネルギー測定値の前記少なくとも一方を、対応する第1の単色データセットに、および、対応する第2の単色データセットに変換するための少なくとも1つの乗数(multiplier)を提供する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の前記少なくとも1つが、前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の1つを提示することによってビームハードニングアーチファクトがない画像を提供するために使用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の前記少なくとも1つが、前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の合成画像を提示することによってビームハードニングアーチファクトがない画像を提供するために使用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
単一エネルギー比率画像I
Rが、第1の単色画像を、第2の単色画像で、除算すること、即ち、[第1の単色画像]/[第2の単色画像]、によって生成される、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記合成画像の各ボクセル(voxel)が、前記第1の単色画像または前記第2の単色画像
から選択されるボクセルを含む、請求項
10に記載のシステム。
【請求項13】
前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の前記少なくとも1つが、ボクセル値が前記スキャンされた対象の前記物質特性を反映する画像を生成することによって前記対象内の物質の同定を提供するために使用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の前記少なくとも1つが、ボクセル値が前記スキャンされた対象の電子密度(rho値)を反映する画像を生成することによって前記対象内の物質の同定を提供するために使用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1の単色画像および前記第2の単色画像の前記少なくとも1つが、ボクセル値が前記スキャンされた対象のZ
effectiveを反映する画像を生成することによって前記対象内の物質の同定を提供するために使用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記検出器が、前記対象を通過した第3の多色X線スペクトルに関する第3の組の多色エネルギー測定値を提供する、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
係属中の先の特許出願の参照
本特許出願は、Photo Diagnostic Systems,Inc.およびWilliam A.Worstell他によって、METHOD AND APPARATUS FOR PERFORMING DUAL ENERGY COMPUTED TOMOGRAPHY(CT) IMAGINGについて、2015年7月24日に出願された、係属中の先の米国仮特許出願第62/196,422号(代理人整理番号PDSI-1仮)の利益を主張し、同特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般にはイメージングシステムに、より詳細にはコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの状況で、対象の内部を画像化することが望ましい場合がある。一例として、限定するものではないが、医療分野において、患者の身体の内部を画像化し、皮膚を物理的に貫くことなく内部構造の目視を可能にすることが望ましい場合がある。さらなる例として、限定するものではないが、セキュリティ分野において、容器(たとえば、スーツケース、パッケージなど)の内部を画像化し、容器を物理的に開けることなく内部構造の目視を可能にすることが望ましい場合がある。
コンピュータ断層撮影(CT)
とりわけ、医療およびセキュリティ分野における主要なイメージングモダリティとして、コンピュータ断層撮影(CT)が出現した。CTイメージングシステムは一般に、様々な位置から対象(たとえば、身体または容器)内にX線を当て、対象を通過するX線を検出し、次いで対象の内部(たとえば、患者の解剖学的構造または容器の中身)の三次元(3D)データセットおよび3Dコンピュータモデルを構築するように検出されたX線を処理することによって動作する。3Dデータセットおよび3Dコンピュータモデルは次いで、対象の内部(たとえば、患者の解剖学的構造または容器の中身)の画像(たとえば、スライス画像、3Dコンピュータ画像など)を提供するように視覚化され得る。
【0004】
一例として、限定するものではないが、ここで
図1および2を見ると、例証的な先行技術のCTイメージングシステム5が図示される。CTイメージングシステム5は一般に、ベース15によって支持されるトーラス10を備える。トーラス10には中央開口部20が形成される。中央開口部20は、CTイメージングシステム5によってスキャンされることになる対象(たとえば、身体または容器)を受け入れる。
【0005】
次に
図3を見ると、トーラス10は一般に、固定ガントリ25、回転ディスク30、X線管装置35およびX線検出器装置40を備える。より詳細には、固定ガントリ25は、中央開口部20のまわりに同心状に配置される。回転ディスク30は、固定ガントリ25に回転可能に装着される。X線管装置35およびX線検出器装置40は正反対の関係で回転ディスク30に装着され、その結果、X線ビーム45(X線管装置35によって発生されて、X線検出器装置40によって検出される)が、中央開口部20に配置される対象(たとえば、身体または容器)を通過する。X線管装置35およびX線検出器装置40は、それらが中央開口部20のまわりに同心状に回転されるように回転ディスク30に装着されるので、X線ビーム45は、CTイメージングシステム5がX線ビームによって貫かれる対象(たとえば、身体または容器)の「スライス」画像を作成することを可能にするように、径方向位置の全範囲に沿って対象を通過することになる。さらには、対象(たとえば、身体もしくは容器)および/またはCTイメージングシステム5をスキャン中に互いに対して移動させることによって、一連のスライス画像が取得され、その後、スキャンされた対象の3Dデータセットおよびスキャンされた対象の3Dコンピュータモデルを作成するように適切に処理され得る。
【0006】
実際には、スキャンされる対象の3Dデータセットを生成するように対象のヘリカルスキャンを実施することが現在一般的であり、その3Dデータセットは次いで、スキャンされた対象の3Dコンピュータモデルを構築するために処理され得る。3Dデータセットおよび/または3Dコンピュータモデルは次いで、対象の内部(たとえば、患者の解剖学的構造または容器の中身)の画像(たとえば、スライス画像、3Dコンピュータ画像など)を提供するように視覚化され得る。
ビームハードニング
実際には、X線管装置35は典型的に多色X線源である、すなわち、X線管装置35は典型的に、異なるエネルギーの範囲でX線を放出する種類のX線管を備える。しかしながら、多色X線源からのX線ビームがスキャンされている対象を通過するにつれて、低エネルギーX線光子が、一般に高エネルギーX線光子より容易に減衰される。したがって、多色X線源からのX線ビームは、それが対象を通過するにつれて、そのスペクトルのより低エネルギー部分を優先的に失う。これは、X線ビームのより低エネルギー部分を大幅に減衰させることができる骨および金属などの高原子番号物質に関する特有の問題であり、(とりわけ)2つの高減衰物質間で(たとえば、高原子番号を有する2つの物質間で)画像アーチファクトを発生させることがある。この現象は、時に「ビームハードニング」と称される。ビームハードニングを補正しようと、各種のアルゴリズムが開発されてきたが、そのようなアルゴリズムには一般に、それらが、一定の仮定がなされること(たとえば、多色X線源が、X線管が発熱するにつれて変化しない固定スペクトルを有すること、X線吸収スペクトルが、理想とされる形状を有すること、など)を必要とするという事実がある。
二重エネルギーCT
X線減衰は一般に、(i)スキャンされている対象による放射線の散乱、および/または(ii)スキャンされている対象による放射線の吸収によってもたらされる。主にこれらの2つの作用の原因となる機構は、コンプトン散乱および光吸収である。コンプトン散乱および光吸収は、(a)X線における光子のエネルギー、および(b)スキャンされている対象の組成に従って変化する。この理由で、2つの異なるX線エネルギー(すなわち、「二重エネルギー」)でとられる測定値が、スキャンされている対象における異なる物質間を区別するために使用され得ると認識されてきた。これらの2つの異なる測定されたX線エネルギーは、必ずしも単色測定値に限定されるわけではなく、実際には、2つの測定値は、低および高エネルギーの広範囲にわたってとられる(すなわち、低エネルギー多色測定値が二重エネルギースキャンのX線エネルギーの一方として使用され、高エネルギー多色測定値が二重エネルギースキャンのX線エネルギーの他方として使用される)。
【0007】
2つの異なるX線エネルギー範囲の測定値を生成するために、いくつかの異なる手法が使用され得る。
第一に、2つの異なるX線スペクトルがスキャンされている対象に当てられ得、スキャンされている対象による減衰の差を検出するために、フィルタ無し検出器が使用され得る。したがって、いくつかの二重エネルギーCTイメージングシステムに関しては、システムは、2つの異なる電圧間で迅速に切り替わる単一のX線管を備え、2つの異なるX線電圧でスキャンされている対象による減衰の差を検出するために、フィルタ無し検出器が使用される。しかしながら、この手法は比較的高コストを被る。なぜなら、それが、単一のX線管が2つの異なる電圧によって駆動されることを必要とし、それには一般に、2つの高圧電源か単一の高速スイッチング電源かの提供を必要とするからである。他の二重エネルギーCTイメージングシステムに関しては、システムは、異なる電圧で駆動される(それによって、スキャンされている対象に2つの異なるX線スペクトルを当てる)2つのX線管を備え、2つの異なるX線管/2つの異なるX線管電圧によってスキャンされている対象による減衰の差を検出するために、フィルタ無し検出器が使用される。しかしながら、この手法も比較的高コストを被る。なぜなら、それが2つのX線管の提供を必要とするからである。
【0008】
第二に、単一のX線スペクトルがスキャンされている対象に当てられ得るとも認識されてきており、さらに、2つの異なるX線エネルギー範囲(たとえば、「高」X線エネルギー帯および「低」X線エネルギー帯)にわたって測定値を得て、それによって、スキャンされている対象による減衰の差を検出するために、二重フィルタ検出器(すなわち、2つの異なるX線スペクトルフィルタを有する検出器)が使用され得る。したがって、いくつかの二重エネルギーCTイメージングシステムに関しては、システムは、単一の電圧によって駆動される単一のX線管を備え、2つの異なるX線エネルギー範囲にわたって測定値を得るために、二重フィルタ検出器が使用される、すなわち、1つのフィルタがより高エネルギー光子の検出を最大にするように構成され、1つのフィルタがより低エネルギー光子の検出を最大にするように構成される。しかしながら、この手法は利用可能な光子の比較的非効率的な使用を被る。なぜなら、各フィルタが、「所望の」スペクトルの光子のある一部分を得るために「不所望の」スペクトルの光子のどれくらいの割合が通過するようにされなければならないかを決定する際に、折衷案のようなものでなければならないからである。換言すると、二重フィルタ検出器に使用される2つのフィルタは無限の率で遮断することができず、それゆえに、各フィルタの設計は折衷案のようなものでなければならない。
【0009】
ここでも、X線源が多色X線源である(すなわち、X線管装置が異なるエネルギーの範囲でX線を放出する)場合、ビームハードニング(すなわち、スキャンされている対象による低エネルギーX線光子の優先的な減衰)のために問題が生じる。これは、物質同定で問題を引き起こす場合がある。ここでも、ビームハードニングを補正しようと、各種のアルゴリズムが開発されてきたが、そのようなアルゴリズムには一般に、それらが、一定の仮定がなされること(たとえば、多色X線源が、X線管が発熱するにつれて変化しない固定スペクトルを有すること、X線吸収スペクトルが、理想とされる形状を有すること、など)を必要とするという事実がある。
【0010】
したがって、改善されたイメージング(たとえば、ビームハードニングアーチファクトまたは近似がない画像)および改善された物質同定を提供する改善された多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明の一実施例は、例えば、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)コンピュータ断層撮影(CT)イメージングを行うための方法および装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のこれらおよび他の目的は、改善されたイメージング(たとえば、ビームハードニングアーチファクトまたは近似がない画像)および改善された物質同定を提供する改善された多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムの提供および使用によって対処される。
【0013】
本発明の1つの好適な形態において、二重エネルギーCTイメージングを行うための新規な手法が提供される。
第一に、対象は、(i)単一の電圧で駆動されて、多色X線ビームを発生する単一のX線管を備えるX線管装置と、(ii)各検出器が2つの異なるX線エネルギー範囲、すなわち、「高エネルギー測定値」および「低エネルギー測定値」を測定することが可能であるX線検出器装置とを備えるCTイメージングシステムを使用してスキャンされる。これは、従来の「二重フィルタ」検出器を使用して、または本明細書に記載される新規な「単一フィルタ」検出器を使用して行われてもよい。いずれの場合も、そのようなスキャンは、スキャンされている対象のまわりのX線管装置/X線検出器装置の各回転位置に対して、すなわち、各「応答線」に対して、2つの多エネルギー信号gHIGH(「高エネルギー」)およびgLOW(「低エネルギー」)を生成する。一般に、利用可能なスペクトル情報をさらに補足するために使用され得る追加の多エネルギー信号を得るために、追加のフィルタ(またはそれらの機能的等価物)が使用されてもよく、たとえば、多重エネルギーCTを可能にするための3つ以上の多エネルギー信号を生成するために、適切なフィルタリングが提供されてもよい。
【0014】
次に、各応答線に対して、比率gHIGH/gLOW(または「R」)が算出される。
乗法因子(それぞれ、「A」または「B」)を得て、多エネルギーデータg(すなわち、それぞれ、gHIGHまたはgLOW)を任意の単一エネルギーの純粋な単色システムに対する予測信号に変換するために、Rおよびg(すなわち、gHIGHまたはgLOW)が次いで、適切なルックアップテーブルのためのインデックスとして使用される。単一エネルギーサイノグラム(GENERGY)は、高フィルタ付き(gHIGH)およびより低フィルタ付きまたはフィルタ無し(gLOW)検出器の両方と関連付けられる応答線を含む応答線ごとに任意の単一のエネルギー(下付き文字「ENERGY」)に対する単一エネルギー信号の集合を含む。関数Rが、特定の比率gHIGH/gLOWまたは、さらに言えば、任意の他の比率である必要はなく、2つの(またはより多くの)異なる種類の検出器チャネルgHIGHおよびgLOWの応答差に感応する任意の関数でもよいことに留意されたい。
【0015】
対応する単色サイノグラムGENERGYおよび、そこから、任意の単一の単一エネルギー(下付き文字「ENERGY」)に対する対応する画像を生成するために、ルックアップテーブル(適切な乗法因子「AENERGY」および「BENERGY」を含む)が生成され得る。一例として、限定するものではないが、対応する単色サイノグラムG160(すなわち、単一エネルギー160kevでの対応する単色サイノグラム)および、そこから、その単一エネルギーに対する対応する画像I160(すなわち、その単一エネルギー160kevに対する対応する画像)を生成するために、ルックアップテーブル(適切な乗法因子「A160」および「B160」を含む)が生成され得る。さらなる例として、限定するものではないが、対応する単色サイノグラムG40(すなわち、単一エネルギー40kevでの対応する単色サイノグラム)および、そこから、その単一エネルギーに対する対応する画像I40(すなわち、その単一エネルギー40kevに対する対応する画像)を生成するために、ルックアップテーブル(適切な乗法因子「A40」および「B40」を含む)が生成され得る。
【0016】
有意には、これらの「合成」単一エネルギー画像(たとえば、I160、I40など)にはビームハードニングアーチファクトがない。
さらには、1つまたは複数の単一エネルギー画像(たとえば、I160、I40など)を演算する適切な関数によって、物質組成が得られ得る。
【0017】
たとえば、単一エネルギー比率画像IRが生成され、(i)融合画像における各ボクセルごとに実効原子番号(Zeff)、および(ii)融合画像における各ボクセルごとに電子密度(Rho)を求めるために使用され得、その結果、対象の物質組成が求められ得る。一例として、限定するものではないが、IRはI160/I40でもよい。
【0018】
一般に、異なるフィルタ付き検出器と関連付けられた信号gxは、関数Rと併せて、単一エネルギーX線源を前提とする等価信号に変換され得る。この変換は単純な数学関数でもよいが、ほとんどの事例で、ルックアップテーブルを使用することによって有効な計算の省力化のため、ルックアップテーブルが好適な実施形態である。加えて、多エネルギー信号から等価の単一エネルギー信号への変換は、経験的に導出されてもよく、その場合、テーブルベースの実装が好まれる。ビームハードニングを補正するこの方法は、原則として、正確であり、かつ他の方法論に存在する近似を被らない。
【0019】
単一エネルギー画像は、ビームハードニングがないため、スキャンされている物質の異なる態様を特性化するために使用され得る。1つの実装において、多数の単一エネルギー画像が組み合わせられて、組み合わせられた画像の各ボクセルが全吸収スペクトルを有する仮想の「X線スペクトロメータ」を生成することができる。対極では、単一の単一エネルギーでの物質の吸収特性を単に予測することが有用である場合がある。たとえば、この方法は、核イメージングに使用される高エネルギーガンマ線の吸収を予測するために使用され得る(単一光子放射形コンピュータ断層撮影「SPECT」スキャンは放射性元素テクネチウム99を使用し、それは単色140kev放射線を放出する)。好適な実施形態において、2つの単一エネルギー画像(たとえば、I160およびI40)は、値がスキャンされた物質の実効原子番号に比例する単一エネルギー比率画像IRに変換される。電子密度(Rho)またはコンプトン散乱度など、他の物質または物理特性が、単色画像(たとえば、I160およびI40)から導出され得る。
【0020】
本発明の1つの好適な形態において、対象の画像を提供するための多重エネルギーコンピュータ断層撮影(CT)イメージングシステムであって、
多色X線源と、
多色X線源からのX線を、X線が対象を通過した後に検出するための、ならびに、対象を通過した第1の多色X線スペクトルに関する第1の組の多色エネルギー測定値を提供するための、および、対象を通過した第2の多色X線スペクトルに関する第2の組の多色エネルギー測定値を提供するための検出器と、
(i)第1の組の多色エネルギー測定値および第2の組の多色エネルギー測定値の少なくとも一方を、選択される第1の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第1の単色データセットに、および、選択される第2の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第2の単色データセットに変換し、
(ii)第1の単色データセットを第1の単色画像に変換し、第2の単色データセットを第2の単色画像に変換し、
(iii)第1の単色画像および第2の単色画像の少なくとも1つを使用して、(a)ビームハードニングアーチファクトがない画像の提供、および(b)対象内の物質特性の同定の提供の少なくとも一方を行う
ように構成されたプロセッサとを備えるシステムが提供される。
【0021】
本発明の別の好適な形態において、ビームハードニングアーチファクトがない対象の画像を提供する、および/または、対象の物質特性の同定を提供するための方法であって、
対象を通過した第1の多色X線スペクトルに関する第1の組の多色エネルギー測定値を提供し、対象を通過した第2の多色X線スペクトルに関する第2の組の多色エネルギー測定値を提供するステップと、
第1の組の多色エネルギー測定値および第2の組の多色エネルギー測定値の少なくとも一方を、選択される第1の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第1の単色データセットに、および、選択される第2の単色エネルギーレベルでのX線と関連付けられる対応する第2の単色データセットに変換するステップと、
第1の単色データセットを第1の単色画像に変換し、第2の単色データセットを第2の単色画像に変換するステップと、
第1の単色画像および第2の単色画像の少なくとも1つを使用して、(a)ビームハードニングアーチファクトがない画像、および(b)対象内の物質特性の同定の少なくとも一方を提供するステップとを含む方法が提供される。
【0022】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、同様の数字が同様の部分を指す添付の図面と共に考慮されることになる、本発明の好適な実施形態の以下の詳細な記載によってより十分に開示される、または、明らかにされることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】例証的な先行技術のCTイメージングシステムの外観を図示する概略図である。
【
図2】例証的な先行技術のCTイメージングシステムの外観を図示する概略図である。
【
図3】
図1および2に図示される例証的な先行技術のCTイメージングシステムのトーラスにおける各種の構成部品を図示する概略図である。
【
図4】本発明に従って形成される新規な多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムのトーラスにおける構成部品を図示する概略図である。
【
図5】
図4に図示される新規な多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムのX線検出器装置に活用され得る二重フィルタ検出器の概略図である。
【
図6】
図4に図示される新規な多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムのX線検出器装置に活用され得る単一フィルタ検出器の概略図である。
【
図7】多エネルギーデータがどのように単一エネルギーデータに変換され得るかを図示する概略表現である。
【
図8】複数の単一エネルギーデータセットおよび画像がどのように生成され得るか、ならびに、複数の単一エネルギー画像がどのように物質特性を示す画像に変換され得るかを図示する概略表現である。
【
図9】多エネルギーデータセットがどのように任意の数の単一エネルギーデータセットに変換され得るか、および、2つ以上の単一エネルギー画像がどのように物質特性を示す画像に変換され得るかを図示する概略図である。
【
図10】生の多色データがどのように等価の単色データに変換され得るかを図示するテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によれば、改善されたイメージング(たとえば、ビームハードニングアーチファクトまたは近似がない画像)および改善された物質同定を提供する新規な多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステムが提供される。
二重エネルギーコンピュータ断層撮影(CT)イメージングを行うための装置
本発明によれば、またここで
図4を見ると、新規な多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105が提供される。多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105は、以下に述べられることになる場合を除いて、前述された例証的な先行技術のCTイメージングシステム5と実質的に同じである。
【0025】
より詳細には、本発明の好適な形態において、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105は一般に、ベース115によって支持されるトーラス110を備える。トーラス110には中央開口部120が形成される。中央開口部120は、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105によってスキャンされることになる対象(たとえば、身体または容器)を受け入れる。
【0026】
ここで、なお
図4を見ると、トーラス110は一般に、固定ガントリ125、回転ディスク130、X線管装置135およびX線検出器装置140を備える。より詳細には、固定ガントリ125は、中央開口部120のまわりに同心状に配置される。回転ディスク130は、固定ガントリ125に回転可能に装着される。X線管装置135およびX線検出器装置140は正反対の関係で回転ディスク130に装着され、その結果、X線ビーム145(X線管装置135によって発生されて、X線検出器装置140によって検出される)が、中央開口部120に配置される対象(たとえば、身体または容器)を通過する。
【0027】
本発明の1つの好適な形態において、X線管装置135は多色X線管装置を含む、すなわち、X線管装置135は、異なるエネルギーの範囲でX線を放出する。本発明の1つの好適な形態において、X線管装置135は、単一の電圧によって駆動される単一のX線管を備える。
【0028】
X線管装置135が単一の電圧によって駆動される単一の多色X線管を備えるので、イメージングシステムが多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングのために使用されるようにするために、X線検出器装置140が、その検出器の各々ごとに、2つ以上の異なるX線エネルギー範囲での測定値、たとえば、より高エネルギー光子の検出を最大にする「高エネルギー測定値」およびより低エネルギー光子の検出を最大にする「低エネルギー測定値」を、追加のエネルギー測定値の有無にかかわらず提供することが必要である。
【0029】
記載を明確にするため、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105は一般に、二重エネルギーCTイメージングシステムの文脈で以下に述べられることになるが、しかしながら、CTイメージングシステムが、本発明の範囲から逸脱することなく3つ以上のエネルギー測定値を活用してもよいことを理解されたい。
【0030】
所望により、このことは、先行技術の方式で、すなわち、
図5に図示される二重フィルタ検出器などの二重フィルタ検出器を提供することによって達成されてもよい。より詳細には、本発明のこの形態において、X線検出器装置140の各検出器150(
図5)は、2つの別々の検出領域155、160を備えており、検出領域155は、より高エネルギー光子の検出を最大にする(それによって、二重エネルギーCTスキャンのために使用される「高エネルギー測定値」を提供する)ように構成された第1のフィルタ165を備え、検出領域160は、より低エネルギー光子の検出を最大にする(それによって、二重エネルギーCTスキャンのために使用される「低エネルギー測定値」を提供する)ように構成された第2の異なるフィルタ170を備える。しかしながら、この先行技術の手法は、「低エネルギー測定値」が低エネルギー光子に限定され、そのような低エネルギー光子が、それらがスキャンされている対象に遭遇するにつれてより大幅に減衰されて、それによって、より低い光子収量をもたらすので、特に「低エネルギー測定値」に関して、増加するコストおよびより低い光子収量の欠点を有する。
【0031】
この理由で、本発明は、二重エネルギーCTスキャンを可能にするために、その検出器の各々ごとに、2つの異なるX線エネルギー範囲での測定値(すなわち、「高エネルギー測定値」および「低エネルギー測定値」)を提供するための改善された手法を提供する。
【0032】
より詳細には、ここで
図6を見ると、本発明の改善された手法に関しては、X線検出器装置140の各検出器150は、2つの別々の検出領域155、160を備える。検出領域155は、より高エネルギー光子の検出を最大にする(それによって、二重エネルギーCTスキャンのために使用される「高エネルギー測定」を提供する)ように構成されたフィルタ165を備える。検出領域160はフィルタを備えない(したがって、
図6に図示される検出器は、
図5に図示されるような「二重フィルタ検出器」よりはむしろ、「単一フィルタ検出器」であると考えられてもよい)。
【0033】
この構成の結果として、検出領域155は、スキャンされている対象を通過するX線スペクトルのより高エネルギー部分を表す測定値「X」を提供することになり、検出領域160は、スキャンされている対象を通過する全X線スペクトルを表す測定値「Y」を提供することになる。本発明は、上述の測定値「X」の値が上述の測定値「Y」の値から減算されれば、結果値「Z」が、スキャンされている対象を通過するX線スペクトルのより低エネルギー部分を表すことになると認識する。したがって、この手法に関しては、フィルタ165を通過して、検出領域155に当たる高エネルギー光子(すなわち、上述の測定値「X」)を測定することによって、二重エネルギーCTスキャンのために使用される「高エネルギー測定値」が得られ得る。そして、検出領域160に当たる全X線スペクトル(すなわち、上述の測定値「Y」)を測定し、次いで検出領域155に当たるX線スペクトルのより高エネルギー部分の値(すなわち、上述の測定値「X」)を減算することによって、「低エネルギー測定値」(すなわち、上述の測定値「Z」)が得られ得る。このようにして、
図6に図示される「単一フィルタ検出器」は、二重エネルギーCTスキャンのために使用される「高エネルギー測定値」および「低エネルギー測定値」を取得するために使用され得る。
【0034】
代替的に、「高エネルギー測定値」の代用が、その平均スペクトル応答が領域155のそれより高エネルギーを表すので、領域160に当たる信号とされ得、「低エネルギー測定値」は、フィルタ165が、領域155に当たる光子が領域160に当たる光子より低エネルギーレベルであることを確実にすることになるので、領域155に当たる信号とされ得る。
多重エネルギー(二重エネルギーを含む)コンピュータ断層撮影(CT)イメージングを行うための方法
本発明によれば、2つ以上の異なる多色X線エネルギーでとられる測定値を使用して、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングを提供するための新たな工程も提供される。
【0035】
記載を明確にするため、多重エネルギー(二重エネルギーを含む)CTイメージングシステム105は一般に、二重エネルギーCTイメージングシステムの文脈で以下に述べられることになるが、しかしながら、CTイメージングシステムが、本発明の範囲から逸脱することなく3つ以上のエネルギー測定値を活用してもよいことを理解されたい。
【0036】
下記の工程は、多色二重エネルギーデータがどのように、ビームハードニングアーチファクトがなく、物質組成に関する情報も含む合成単色画像に処理され得るかを図示する。
より詳細には、二重エネルギーCTイメージングが対象(たとえば、身体または容器)に行われることになるとき、対象は、新規な二重エネルギーCTイメージングシステム105の中央開口部120に配置され、回転ディスク130は、固定ガントリ125のまわりに回転され、X線管装置135は、多色X線ビーム145を放出するように通電され、X線検出器装置140は、X線検出器装置140の各検出器ごとに2つのエネルギー測定値、すなわち、多色「高エネルギー測定値」および多色「低エネルギー測定値」を収集するように作動される。
【0037】
上述のように、また
図5に図示されるように、2つのエネルギー測定値は、各検出器150上に2つの異なるフィルタが位置決めされる二重フィルタ検出器を使用することによって、すなわち、検出領域155上にフィルタ165を位置決めすることによって、また検出領域160上にフィルタ170を位置決めすることによって、各検出器ごとに得られてもよい。このようにして、「高エネルギー測定値」は検出領域155の出力から得られ、「低エネルギー測定値」は検出領域160の出力から得られる。
【0038】
代替的に、より好ましくは、また上述されもしたように、2つのエネルギー測定値は、検出器の半分上にフィルタを位置決めし、検出器の他方の半分を露出されたままにすることによって(すなわち、
図6に図示される方式で、検出領域155上にフィルタ165を位置決めし、検出領域160をフィルタ無しのままにすることによって)、X線検出器装置140の各検出器ごとに得られてもよい。このようにして、多色「高エネルギー測定値」は検出領域155の出力から得られてもよく、多色「低エネルギー測定値」は検出領域160の出力から得られてもよい。
【0039】
これらの2つの多色エネルギー測定は、X線検出器装置140の各検出器ごとに、固定ガントリ125のまわりの回転ディスク130の各回転位置に対して、すなわち、スキャンされている対象を通過するX線ビームの各「応答線」に対して)なされ、それによって、2つの多エネルギーサイノグラムgHIGH(「高エネルギー」)およびgLOW(「低エネルギー」)をもたらす。
【0040】
次いで、各応答線に対して、比率gHIGH/gLOW(または「R」)が算出される。
任意の所与の応答線に対する信号は、フィルタ付き検出器と関連付けられようとフィルタ無し検出器と関連付けられようと(すなわち、それぞれ、gHIGHまたはgLOW)、任意の単一エネルギーの純粋な単色システムに対する予測信号に変換され得る。これは、Rおよびg(gHIGHかgLOWか)がルックアップインデックスとして使用されるルックアップテーブルを使用して、適切な乗数を得て、CT取得多エネルギーサイノグラムg(gHIGHかgLOWか)を合成単一エネルギーサイノグラムGENERGYに変換して達成され、ここで「ENERGY」は任意の単一エネルギーレベル(たとえば、160kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギーサイノグラムを表すG160、40kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギーサイノグラムを表すG40、など)でもよい。実際には、フィルタ付きおよびフィルタ無しチャネルの応答が異なるので、フィルタ付きおよびフィルタ無しチャネルの各々に対して、別々のテーブルおよび別々のルックアップ値が必要とされる(すなわち、それぞれGENERGYの対応する単色サイノグラムを生成する乗数「AENERGY」および「BENERGY」)。このようにして、応答線ごとに合成単一エネルギー信号レベルが予測されて、フル解像度単一エネルギー合成サイノグラムを生成する。これは、適切な乗数を使用して任意の単一エネルギーに対して行われてもよい。
【0041】
次に、単一エネルギーサイノグラムにCT再構成法が適用されて、単一エネルギー画像、すなわち、IENERGYを生成する。単一エネルギー画像は、任意の単一エネルギーに対して生成されてもよい(たとえば、160kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギー画像であるI160、40kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギー画像であるI40、など)。記載される方法を使用して取得されるデータから、任意の数の単一エネルギー画像が生成され得る。これらの単一エネルギー画像はビームハードニングアーチファクトがなく、それゆえに、その理由のみで潜在的に有益である。一例として、限定するものではないが、単一の単一エネルギー画像が「放射線計画」のために潜在的に非常に有用でありえる。放射線治療では、腫瘍を対象とし、死滅させるために使用される放射線がどのように、放射線ビームが身体を通るにつれて減衰するかを知ることが有用である。単一エネルギー画像は、治療目的で使用される放射線と同じエネルギーで生成され得る。画像内の各位置(すなわち、各ボクセル)は、治療ビームに対する物質の予測される減衰特性を含む。
【0042】
一例として、限定するものではないが、ここで
図7を見ると、図の上部は、多色二重エネルギーデータの表現を図示する。断層撮影の分野において、生データは通例「サイノグラム」または「ファノグラム」の形態をとる。
図7の左側のデータはサイノグラム形式である。各「検出器チャネル」は、いくつかのフィルタ付き検出器からなる。たとえば、二重エネルギーシステムに関しては、測定される2つの多エネルギー信号g
HIGHおよびg
LOW(それぞれ、高および低多エネルギー範囲に対する)がある。インサートは、いくつかの検出器対に対する数値データ例を図示する。この生データは、フィルタ補正逆投影を含む任意の数の業界標準再構成法を使用して未補正多エネルギー画像に変えられることがありえる。多エネルギー画像は、ビームハードニング画像アーチファクトを被るものである。
図7の中間行は、生の多エネルギーデータを単一エネルギーデータに変換する乗数マップ例を図示する。各検出器チャネルに対する乗数は、それぞれ多エネルギー信号g
HIGHおよびg
LOWを変換する2つの要素AおよびBを有する。
図7の最下行は、結果的な単一エネルギーデータを図示する。2つの多エネルギー信号g
HIGHおよびg
LOWは、単一エネルギー信号g
ENERGYに変換され、ここで「
ENERGY」は任意の単一エネルギーレベル(たとえば、160kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギーサイノグラムを表すG
160、40kevの単一エネルギーでの合成単一エネルギーサイノグラムを表すG
40、など)でもよい。単一エネルギーデータは、画像に変えられるときにビームハードニングアーチファクトを被らない。
【0043】
合成単一エネルギー画像は、各応答線に沿って物質組成に関する情報も含む。たとえば、数学関数rho(IHIGH,ILOW)は、その位置(すなわち、ボクセル)での物質の電子密度を直接求めるために使用されることがありえる。
【0044】
計算効率の観点から、好適な実施形態は、ルックアップテーブルを使用して、画像内の各位置での単一エネルギー値を物性値(この例では、rho)に変換する。
X線の減衰を決定する基礎となる物理的相互作用は、一般にコンプトン散乱(弱束縛電子と相互作用する)および光電効果(原子殻内の電子との共鳴相互作用)によって特性化される。これらの2つの種類の相互作用の測定強度に強く依存する任意の物理特性が評価され得る。たとえば、物質の質量密度は、物質が構成された原子の種類(光電効果の関数)および体積当たりの原子数(電子密度の関数)に大きく依存しており、複数の合成単一エネルギー画像IHIGH、ILOW(たとえば、I160、I40でありえる)を使用して求められ得る。
【0045】
ここで
図8を見ると、任意の数の単一エネルギーデータセットおよび画像が作成され得るが、好適な実施形態においては、3つの単色画像が作成される。中間エネルギー画像は、信号/雑音比を最適化し、ビームハードニングアーチファクトがない。低および高エネルギー単色画像は、物質原子組成の画像を生成するために変換される。
単一エネルギーサイノグラムのためのルックアップテーブルの生成
多エネルギーサイノグラムデータから単一エネルギーサイノグラムデータへの変換は、好適な実施形態をルックアップテーブルに一般化して、数学関数として上記されてきた。数学関数および/またはルックアップテーブル内容は、理論計算から、または、経験的データから完全に求められることがありえる。両手法について、目的は、検出器で測定される多エネルギー信号を期待される単一エネルギー信号に変換することである。変換動作が「期待される」単一エネルギー信号を生成することを検証するために、通常は、単純な形状および組成の検査対象を選択することが便利である。ほとんどの実施形態において、「期待される」値は、最良の科学的に導出された値である。我々の本実施形態において、これらの目標値は、国立標準技術研究所(NIST)によって公開されるデータから得られるが、しかし任意の情報源から得られることもありえる。
【0046】
完全に理論的な手法を使用して、X線源のスペクトルをモデル化し、異なる種類のフィルタ付き検出器に対する期待される信号レベルを算出したものである。各種のフィルタ付き検出器に対する信号レベルは、単一エネルギーX線源を前提として再度算出されたものである。多エネルギー線源に対して算出された検出器信号に対する単一エネルギーX線源に対して算出された検出器信号の比率をとることが、測定される多エネルギー信号を目標単一エネルギー信号に変換するのに必要な乗数を求めたものである。
【0047】
完全に経験的な手法を使用することは、標準広域スペクトル(すなわち、多色)X線源を使用して多くの対象(様々な組成および厚さをもつ)の測定を行うことを必要としたものである。等価測定値は、単一エネルギー線源を使用して取得されたものである。値を比較することによって、乗法値(たとえば、「AENERGY」および「BENERGY」)を求めて、1つの組の測定値(すなわち、多色測定値)を別の組の測定値(すなわち、単一エネルギーエネルギーレベル「ENERGY」、たとえば、160kev、40kevなどでの単色測定値)に変換することがありえる。しかしながら、単色X線を発生することが一般に難しいので、また数値測定値が大きいものであるので、純粋に経験的な手法が困難であることが認識されるであろう。
【0048】
実際的な手法、および本発明のための好適な実施形態は、経験的測定値に適合するように微調整される主に理論的な手法を伴う。様々な厚さをもつ既知の物質試料が多エネルギーX線源を使用してスキャンされて、多エネルギーデータを生成することができ、次いで、多エネルギーデータは、導出されたルックアップテーブルを使用して対応する単一エネルギーデータに変換され得る。これらの既知の試料に対する単一エネルギー検出器応答は、容易に算出されて、ルックアップ工程を使用した結果と比較され得る。テーブル値は次いで、正しい既知の応答を発生するように調整され得る。
【0049】
図9および10は、多エネルギーデータセットを、各々ビームハードニングがない任意の数の単一エネルギーデータセットに変換するための乗数を発生するために、ルックアップテーブルがどのように使用され得るかを図示する概略図である。単一エネルギー画像は次いで、実効原子番号または電子密度などの物質特性のマッピングに変換され得る。
Z
effectiveまたは他の物質特性を求めるためのルックアップテーブルの生成
単一エネルギーサイノグラムデータ(すなわち、g
ENERGY、たとえば、g
160、g
40などでありえる)および単一エネルギー画像データ(すなわち、I
ENERGY、たとえば、I
160、I
40などでありえる)と物質特性との間の変換は、数学関数である。好適な実施形態において、この関数は表形式に還元される。テーブル内の値は、物質の既知の物理特性から、または、データの経験的分析から導出され得る。好適な実施形態において、テーブルは経験的に導出される。たとえば、様々な平均原子番号(Z
effective)の試料がスキャンされる。2つの単一エネルギー画像(たとえば、I
160、I
40)の比率は、Z
effective値を返すテーブルへのインデックスとして使用される。したがって、テーブル値を発生するために、画像比率およびZ
effective値は、試料物質に対して記録される。6つの試料物質からのデータが収集されて、最良適合関数Z
eff(画像比率)が求められる。
変更
本開示に鑑みて、本発明のなおさらなる実施形態が当業者にとって明らかであろうことが認識されるであろう。本発明が、決して本明細書に開示および/または図面に図示される特定の構成に限定されるのではなく、本発明の範囲内で任意の変更または等価物を含むことが理解されるべきである。