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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】炭水化物架橋剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20220207BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220207BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220207BHJP
   C08B 37/08 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
A61K9/06
A61L27/20
A61L27/52
A61K31/728
A61K8/02
A61K8/73
A61P17/00
A61Q19/00
C08B37/08 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018534173
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2016082783
(87)【国際公開番号】W WO2017114867
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-11-08
(31)【優先権主張番号】15202944.3
(32)【優先日】2015-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172254.1
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172225.1
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16172241.8
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505143927
【氏名又は名称】ガルデルマ エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨーアン・オルソン
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ・スティーヴン・ハリス
(72)【発明者】
【氏名】ホタン・モジャラディ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ギー・ボワトー
(72)【発明者】
【氏名】ティボー・ジェルフォー
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・トマス
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-505633(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102952281(CN,A)
【文献】特表2009-507103(JP,A)
【文献】特表2015-537078(JP,A)
【文献】国際公開第2015/181369(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/034436(WO,A1)
【文献】特表2014-531433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61L 27/00
A61K 31/00
A61K 8/00
C08B 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤性ポリマーを含むヒドロゲル製品であって、
前記ポリマーは
(a) 2個以上の官能基及び
(b) 二糖類、三糖類、四糖類、及び六糖類からなる群から選択される、非合成スペーサー基
からなる架橋剤を介して共有結合的に架橋されたグリコサミノグリカン分子を含み、
前記架橋剤を介したグリコサミノグリカン分子の共有結合的な架橋について、グリコサミノグリカンの化学構造は、官能基の添加によって修飾されていない、ヒドロゲル製品。
【請求項2】
前記グリコサミノグリカン分子は、ヒアルロン酸である、請求項1に記載のヒドロゲル製品。
【請求項3】
前記架橋の少なくとも75%が、二糖類、三糖類、及び四糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む、請求項1又は2に記載のヒドロゲル製品。
【請求項4】
前記スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースである、請求項1から3のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品。
【請求項5】
前記スペーサー基は、二糖類、三糖類、及び四糖類からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品。
【請求項6】
前記グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の少なくとも90%が、アミド結合である、請求項1から5のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品。
【請求項7】
前記グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の5%未満が、エステル結合である、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品。
【請求項8】
注射可能な製剤の形態である、請求項1から7のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品。
【請求項9】
架橋グリコサミノグリカン分子を含むヒドロゲル製品の調製方法であって、
(a)天然状態のグリコサミノグリカン分子上のカルボキシル基をカップリング剤で活性化して、活性化グリコサミノグリカン分子を形成する工程、並びに
(b)(i) 2個以上の官能基、及び(ii) 二糖類、三糖類、四糖類、及び六糖類からなる群から選択される、非合成スペーサー基からなる二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を使用して、前記活性化グリコサミノグリカン分子をこれらの活性化カルボキシル基を介して架橋し、架橋グリコサミノグリカン分子を得る工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記グリコサミノグリカン分子は、ヒアルロン酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記スペーサー基は、二糖類、三糖類、及び四糖類からなる群から選択される、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記架橋剤の求核基が、第一級アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、カルバゼート、セミカルバジド、チオセミカルバジド、チオカルバゼート及びアミノキシからなる群から選択される、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)の架橋は、前記グリコサミノグリカン分子と前記架橋剤との間にアミド結合をもたらす、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カップリング剤が、トリアジン系カップリング試薬である、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヒドロゲル製品又は請求項9から15のいずれか一項に記載の方法によって得られるヒドロゲル製品の、美容的に皮膚を処置するための製剤の製造における、使用。
【請求項17】
前記カップリング剤が、DMTMMである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
アルカリ加水分解を介して前記架橋グリコサミノグリカン分子におけるエステル結合を加水分解する工程をさらに含む、請求項9から15及び17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記エステル結合を加水分解する工程が、前記架橋グリコサミノグリカン分子をアルカリ溶液中で少なくとも1時間膨潤させる工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アルカリ溶液が、水酸化物を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋多糖類を含有するヒドロゲルの分野、並びに医学的及び/又は美容的用途におけるそのようなヒドロゲルの使用に関する。より詳細には、本発明は、架橋グリコサミノグリカン、特に架橋ヒアルロン酸、架橋コンドロイチン又は架橋コンドロイチン硫酸からできているヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
水吸収性ゲル又はヒドロゲルは、生物医学の分野において広く使用されている。それらは、ポリマーを化学的に架橋して無限の網目構造とすることによって一般には調製される。多くの多糖類は、完全に溶解するまで水を吸収するが、同じ多糖類の架橋ゲルは、飽和するまで、ある特定量の水を通常は吸収することができる、すなわち、それらは、有限の液体保持収容能力又は膨潤度を有する。
【0003】
ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は、周知されている生体適合性ポリマーである。これらは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する天然多糖類である。GAGの全てが負に荷電したヘテロ多糖鎖であり、これが多量の水を吸収する収容能力を有している。
【0004】
ヒアルロン酸(HA)は、医学的及び美容的用途に最も広く使用されている生体適合性ポリマーの1つである。HAは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する天然多糖である。ヒアルロン酸及びヒアルロン酸に由来する製品は、生物医学分野及び美容分野において、例えば、粘弾性手術(viscosurgery)中に及び皮膚充填剤として、広く使用されている。
【0005】
コンドロイチン硫酸(CS)は、哺乳動物の結合組織中に見出される多量に存在するGAGであり、結合組織において、他の硫酸化GAGと一緒に、一部プロテオグリカンとしてタンパク質に結合している。CSを含有するヒドロゲルは、天然の細胞外マトリクスと類似しているため、生物医学的用途に首尾よく使用できることが先に示されている(Lauder, R.M.、Complement Ther Med 17: 56~62頁、2009)。コンドロイチン硫酸は、変形性関節症の治療において、例えば栄養補助食品としても使用されている。
【0006】
グリコサミノグリカンの架橋によって、網状構造を構成する分解性ポリマーの持続期間が延長され、このことは、多くの(may)用途において有用である。しかし、架橋によってまた、グリコサミノグリカンの天然の特性が低下する場合もある。したがって、効率的な架橋による修飾の度合いは低く維持して、グリコサミノグリカンそれ自身の天然の特性及び効果を保存することが典型的には望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Lauder, R.M.、Complement Ther Med 17: 56~62頁、2009
【文献】「Synthetic Carbohydrate Polymers Containing Trehalose Residues in the Main Chain: Preparation and Characteristic Properties」; Keisuke Kurita、*Naoko Masuda、Sadafumi Aibe、Kaori Murakami、Shigeru Ishii、及びShin-Ichiro Nishimurat; Macromolecules 1994、27、7544~7549頁
【文献】「Library of mild and economic protocols for the selective derivatization of sucrose under microwave irradiation」; M. Teresa Barros、Krasimira T. Petrova、Paula Correia-da-Silva及びTaterao M. Potewar; Green Chem.、2011、13、1897~1906頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
膨潤性ポリマーとしてグリコサミノグリカン(GAG)を有するヒドロゲルを提供することが本発明の目的である。
【0009】
GAG分子の天然の特性に関し影響の小さい、GAG分子の架橋方法を提供することが本発明の更なる目的である。
【0010】
温和で効率的な経路でGAG分子のヒドロゲルを調製する方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的及び本開示から明白となる他の目的のために、本発明は、第一の態様によれば、膨潤性ポリマーとしてグリコサミノグリカン分子を含むヒドロゲル製品を提供し、この場合、グリコサミノグリカン分子は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む架橋を介して共有結合で架橋している。
【0012】
本明細書に記載のヒドロゲル製品を調製する本発明の方法に関して、用語「架橋剤」とは、非反応性スペーサー基、特に二糖、三糖、四糖、及びオリゴ糖に結合している2個以上の官能基、特に求核官能基を有する分子を指す。
【0013】
2個以上の官能基のそれぞれが、GAG分子上のカルボン酸基と反応して、安定な共有結合を形成することが可能である。好ましくは、架橋剤は2個以上の官能基及びスペーサーからなる。
【0014】
本明細書に記載の本発明のヒドロゲル製品に関して、用語「架橋」とは、架橋後にGAG分子がそれによって共有結合でリンクしている、架橋剤の部分又は残基を指す。架橋は、i)スペーサー基及びii)架橋剤の官能基がGAG上のカルボン酸基と反応した際に形成される結合基から典型的にはなる。スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基で、例えば構成されうる。
【0015】
二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む架橋剤による架橋によって、炭水化物型構造物又はそれらの誘導体を全体的にベースとしたヒドロゲル製品が提供され、これは、グリコサミノグリカンの天然の特性が架橋によって妨害されることを、最小限としている。二糖、三糖、四糖、又はオリゴ糖は、構造及び分子量の点で、明確に規定されていることが好ましい。好ましくは、スペーサー基は、1つの特定の二糖構造物、三糖構造物、四糖構造物、及びオリゴ糖構造物から選択される。好ましくは、当該二糖、三糖、四糖、及びオリゴ糖は、単分散であり、又は狭い分子量分布を有する。効率の良い縮合反応と一緒に明確に規定された二糖系、三糖系、四糖系、又はオリゴ糖系の架橋剤を使用すると、制御された様式で製品を組み立てることが可能となる。架橋剤それ自身はまた、例えばヒアルロン酸に関連する構造物(例えばジアミノヒアルロン酸四糖)と架橋する場合、又は水分保持が高い特性を有する構造物(例えばトレハロース)と架橋する場合、ヒドロゲルの特性を維持する又は高めることに役に立つこともできる。
【0016】
GAGは、例えば、ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパロサン、ヘパリン、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸等の、硫酸化又は非硫酸化グリコサミノグリカンであってもよい。一部の実施形態では、GAGは、ヒアルロン酸、コンドロイチン又はコンドロイチン硫酸である。好ましい一実施形態では、GAGはヒアルロン酸である。
【0017】
好ましい実施形態では、GAGは天然のGAGである。本発明と関連付けて使用するGAGは、天然GAGであることが好ましい。GAGは、その天然状態で使用されることが好ましい。すなわち、GAGの化学構造は、官能基等の添加によって変更又は修飾されていないことが好ましい。その天然状態でGAGを使用することが好ましく、なぜならこれによって、天然分子により密接に類似している架橋構造が得られるからであるが、この構造はGAGそれ自身の天然の特性及び効果を保存しているとともに、架橋GAGを体内に導入する場合、免疫応答を最小化することができる。
【0018】
共有結合で架橋しているGAG分子は、炭水化物型構造物又はそれらの誘導体から好ましくはなるか、又はこれらから本質的になる。これは、架橋GAG分子は、合成非炭水化物の構造物又はリンカーを好ましくは含まないか、又はこれらを本質的に含まないことを意味する。これは、その天然状態にあるGAGを、炭水化物型構造物又はそれらの誘導体からなるか又はこれらから本質的になる架橋剤と一緒に使用することによって実現することができる。次いで、架橋剤の官能基を、GAGのカルボキシル基に直接共有結合させる。したがって、共有結合で架橋しているGAGの架橋は、二糖の、三糖の、四糖の、及びオリゴ糖のスペーサー基から好ましくはなるか、又はこれらから本質的になる。
【0019】
本発明は、第二の態様によれば、架橋グリコサミノグリカン分子を含むヒドロゲル製品の調製方法であって、
(a)グリコサミノグリカン分子の溶液を用意する工程、
(b)グリコサミノグリカン分子上のカルボキシル基をカップリング剤で活性化して、活性化グリコサミノグリカン分子を形成する工程、
(c)二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を使用して、活性化グリコサミノグリカン分子をこれらの活性化カルボキシル基を介して架橋し、架橋グリコサミノグリカン分子を得る工程
を含む、方法を提供する。
【0020】
本発明は、共有結合による、好ましくはアミド結合による、グリコサミノグリカン分子の架橋であって、典型的には、グリコサミノグリカン分子骨格上のカルボキシル基のための活性化剤と、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤とを使用する架橋を含む。本発明の方法による架橋は、GAG分子の分解は最小限で高収率をもたらす温和で効率的な経路によって実現することができる。
【0021】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含有し、これはGAG分子間の架橋中にとどまる。二求核官能性の又は多求核官能性の二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類は、それらに結合している少なくとも2個の求核官能基を含む。少なくとも2個の求核官能基は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基によって分離していることが好ましい。
【0022】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤は、GAGの官能性カルボキシル基と反応することができる2個以上の官能基を含み、共有結合、好ましくはアミド結合の形成をもたらす。求核官能基は、グリコサミノグリカン分子上のカルボキシル基と反応して、アミド結合を形成することが可能であることが好ましい。一部の実施形態では、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類の求核官能基は、第一級アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、カルバゼート、セミカルバジド、チオセミカルバジド、チオカルバゼート及びアミノキシからなる群から選択される。
【0023】
二求核官能性の又は多求核官能性の二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類は、キチン由来のキトビオース等の、求核官能性多糖類由来であってもよい。二求核官能性の又は多求核官能性の二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類はまた、2個以上の求核官能基の導入によって修飾されている二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類であってもよい。
【0024】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤の好ましい群には、ホモ二官能性の又はヘテロ二官能性の第一級アミン類、ヒドラジン類、ヒドラジド類、カルバゼート類、セミカルバジド類、チオセミカルバジド類、チオカルバゼート類及びアミノキシが含まれる。
【0025】
ある特定の実施形態では、活性化工程(b)及び架橋工程(c)は同時に行われる。他の実施形態では、活性化工程(b)は、架橋工程(c)の前に且つこれから分離して行われる。
【0026】
好ましい一実施形態では、工程(c)は、0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mmの範囲の平均サイズを有する、架橋GAG分子の粒子を提供する工程を更に含む。
【0027】
好ましい一実施形態では、工程(b)のカップリング剤はペプチドカップリング試薬である。ペプチドカップリング試薬は、トリアジン系カップリング試薬、カルボジイミドカップリング試薬、イミダゾリウム由来カップリング試薬、オキシマ(Oxyma)及びCOMUからなる群から選択しうる。好ましいペプチドカップリング試薬は、トリアジン系カップリング試薬であり、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)及び2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)からなる群が挙げられ、好ましくはDMTMMである。別の好ましいペプチドカップリング試薬は、カルボジイミドカップリング試薬であり、好ましくは、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と混合したN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)である。
【0028】
関連した一態様によれば、本発明はまた、軟組織障害の治療における等の医薬としてのヒドロゲル製品の使用も提供する。治療有効量のヒドロゲル製品を患者に投与することによって軟組織障害に罹患している患者を治療する方法が提供される。治療有効量のヒドロゲル製品を患者に投与することにより、患者に矯正治療又は美容治療を提供する方法も提供される。
【0029】
本発明の他の態様及び好ましい実施形態は、本発明の以下の詳細な開示及び添付の特許請求の範囲から明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施形態の項目別リスト
1.膨潤性ポリマーとしてグリコサミノグリカン分子を含むヒドロゲル製品であって、グリコサミノグリカン分子は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む架橋を介して共有結合で架橋している、ヒドロゲル製品。
【0031】
2.グリコサミノグリカン分子は、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、実施形態1に記載のヒドロゲル製品。
【0032】
3.グリコサミノグリカン分子はヒアルロン酸である、実施形態2に記載のヒドロゲル製品。
【0033】
4.架橋の少なくとも75%が、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む、実施形態1から3のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0034】
5.架橋の少なくとも90%が、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む、実施形態4に記載のヒドロゲル製品。
【0035】
6.架橋の少なくとも95%が、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む、実施形態5に記載のヒドロゲル製品。
【0036】
7.スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基である、実施形態1から6のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0037】
8.スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖又はヒアルロン酸六糖の各残基である、実施形態7に記載のヒドロゲル製品。
【0038】
9.スペーサー基は、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基である、実施形態7に記載のヒドロゲル製品。
【0039】
10.スペーサー基は、二糖類、三糖類、及び四糖類からなる群から選択される、実施形態1から9のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0040】
11.架橋はアミド結合によりグリコサミノグリカン分子に結合している、実施形態1から10のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0041】
12.グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の少なくとも75%がアミド結合である、実施形態1から11のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0042】
13.グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の少なくとも90%がアミド結合である、実施形態12に記載のヒドロゲル製品。
【0043】
14.グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の少なくとも95%がアミド結合である、実施形態13に記載のヒドロゲル製品。
【0044】
15.グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の5%未満がエステル結合である、実施形態1から14のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0045】
16.グリコサミノグリカン分子と架橋との間の結合の1%未満がエステル結合である、実施形態15に記載のヒドロゲル製品。
【0046】
17.架橋グリコサミノグリカン分子は、0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mmの範囲の平均サイズを有するゲル粒子の形態にある、実施形態1から16のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0047】
18.注射可能な製剤の形態である、実施形態1から17のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0048】
19.架橋グリコサミノグリカン分子を含むヒドロゲル製品の調製方法であって、
(a)グリコサミノグリカン分子の溶液を用意する工程、
(b)グリコサミノグリカン分子上のカルボキシル基をカップリング剤で活性化して、活性化グリコサミノグリカン分子を形成する工程、
(c)二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を使用して、活性化グリコサミノグリカン分子をこれらの活性化カルボキシル基を介して架橋し、架橋グリコサミノグリカン分子を得る工程
を含む、方法。
【0049】
20.工程(c)の架橋は、グリコサミノグリカン分子と架橋剤との間にアミド結合をもたらす、実施形態19に記載の方法。
【0050】
21.活性化工程(b)及び架橋工程(c)は同時に行われる、実施形態19又は20に記載の方法。
【0051】
22.カップリング剤及び架橋剤は同時にグリコサミノグリカンに添加される、実施形態19から21のいずれか一形態に記載の方法。
【0052】
23.活性化工程(b)は、架橋工程(c)の前に且つこれから分離して行われる、実施形態19又は20に記載の方法。
【0053】
24.工程(c)は、0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mmの範囲の平均サイズを有する、架橋グリコサミノグリカンの粒子を提供する工程を更に含む、実施形態19から23のいずれか一形態に記載の方法。
【0054】
25.グリコサミノグリカン分子は、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、実施形態19から24のいずれか一形態に記載の方法。
【0055】
26.グリコサミノグリカン分子はヒアルロン酸である、実施形態19から25のいずれか一形態に記載の方法。
【0056】
27.工程(b)のカップリング剤はペプチドカップリング試薬である、実施形態19から26のいずれか一形態に記載の方法。
【0057】
28.ペプチドカップリング試薬は、トリアジン系カップリング試薬、カルボジイミドカップリング試薬、イミダゾリウム由来カップリング試薬、オキシマ及びCOMUからなる群から選択される、実施形態27に記載の方法。
【0058】
29.ペプチドカップリング試薬はトリアジン系カップリング試薬である、実施形態28に記載の方法。
【0059】
30.トリアジン系カップリング試薬は、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)及び2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)からなる群から選択される、実施形態29に記載の方法。
【0060】
31.トリアジン系カップリング試薬はDMTMMである、実施形態30に記載の方法。
【0061】
32.ペプチドカップリング試薬はカルボジイミドカップリング試薬である、実施形態28に記載の方法。
【0062】
33.カルボジイミドカップリング試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と混合したN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)である、実施形態32に記載の方法。
【0063】
34.スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基である、実施形態19から33のいずれか一形態に記載の方法。
【0064】
35.スペーサー基は、ヒアルロン酸四糖又はヒアルロン酸六糖の各残基である、実施形態19から33のいずれか一形態に記載の方法。
【0065】
36.スペーサー基は、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基である、実施形態19から33のいずれか一形態に記載の方法。
【0066】
37.スペーサー基は、二糖類、三糖類、及び四糖類からなる群から選択される、実施形態19から36のいずれか一形態に記載の方法。
【0067】
38.架橋剤の求核基が、第一級アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、カルバゼート、セミカルバジド、チオセミカルバジド、チオカルバゼート及びアミノキシからなる群から選択される、実施形態19から37のいずれか一形態に記載の方法。
【0068】
39.二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類の求核基は第一級アミンである、実施形態38に記載の方法。
【0069】
40.架橋剤は二求核官能性架橋剤である、実施形態39に記載の方法。
【0070】
41.架橋剤は、ジアミノヒアルロン酸四糖、ジアミノヒアルロン酸六糖、ジアミノトレハロース、ジアミノラクトース、ジアミノマルトース、ジアミノスクロース、キトビオース又はジアミノラフィノースからなる群から選択される、実施形態40に記載の方法。
【0071】
42.
(d)工程(c)で得た架橋グリコサミノグリカン分子をアルカリ処理に供する工程を更に含む、実施形態19から41のいずれか一形態に記載の方法。
【0072】
43.実施形態19から42のいずれか一形態に記載の方法によって得られる製品。
【0073】
44.医薬として使用するための、実施形態1から18及び43のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品。
【0074】
45.軟組織障害の治療に使用するための、実施形態44に記載のヒドロゲル製品。
【0075】
46.軟組織障害の治療のための医薬を製造するための、実施形態1から18及び43のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品の使用。
【0076】
47.実施形態1から18及び43のいずれか一形態に記載の、治療有効量のヒドロゲル製品を患者に投与することによって軟組織障害に罹患している患者を治療する方法。
【0077】
48.実施形態1から18及び43のいずれか一形態に記載の、治療有効量のヒドロゲル製品を患者に投与することにより、患者に矯正治療又は美容治療を提供する方法。
【0078】
49.実施形態1から18及び43のいずれか一形態に記載のヒドロゲル製品を皮膚に投与する工程を含む、皮膚を美容的に処置する方法。
【0079】
発明の詳細な説明
本発明は、架橋グリコサミノグリカン(GAG)分子からできているヒドロゲルを調製するための有利な方法、生成するヒドロゲル製品及びこれらの使用を提供する。GAGは、負に荷電したヘテロ多糖鎖であり、これは、多量の水を吸収する収容能力を有している。本発明によるヒドロゲル製品では、架橋GAG分子はゲル特性を提供する膨潤性ポリマーである。本明細書に記載の調製方法は、GAG分子にとって温和であるが、効率的な架橋を提供する。
【0080】
したがって、本発明は、カップリング剤を使用することを伴う反応によってGAG分子のカルボン酸基と直接共有結合を形成することができる二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を使用して、水性媒体中で架橋することにより、GAG分子ヒドロゲルを提供する。
【0081】
本発明によるGAGは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸からなる群から選択されることが好ましい。好ましい一実施形態では、GAG分子はヒアルロン酸である。ヒアルロン酸(HA)は、医学的及び美容的用途に最も広く使用されている生体適合性ポリマーの1つである。HAは、グリコサミノグリカン(GAG)のグループに属する天然多糖である。ヒアルロン酸及びヒアルロン酸に由来する製品は、生物医学分野及び美容分野において、例えば、粘弾性手術中に及び皮膚充填剤として、広く使用されている。
【0082】
別段の規定がない限り、用語「ヒアルロン酸」とは、様々な鎖長及び電荷状態の、並びに様々な化学修飾を有する、ヒアルロン酸、ヒアルロネート又はヒアルロナンの全てのバリアント及びバリアントの組合せを包含する。すなわち、この用語はまた、様々な対イオンを有する、ヒアルロン酸の様々なヒアルロン酸塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを包含する。ヒアルロン酸は、動物及び非動物起源の様々な供給源から得ることができる。非動物起源の供給源には、酵母及び好ましくは細菌が含まれる。単純ヒアルロン酸分子の分子量は、通常0.1~10MDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0083】
用語「コンドロイチン」とは、交互の非硫酸化D-グルクロン酸部分及びN-アセチル-D-ガラクトサミン部分からなる二糖繰り返し単位を有する、GAGを指す。誤解を避けるために記すと、用語「コンドロイチン」はコンドロイチン硫酸のいずれの形態をも包含しない。
【0084】
用語「コンドロイチン硫酸」とは、交互のD-グルクロン酸部分及びN-アセチル-D-ガラクトサミン部分からなる、二糖繰り返し単位を有するGAGを指す。硫酸部分は、様々な異なる位置に存在することができる。好ましいコンドロイチン硫酸分子は、コンドロイチン-4-硫酸及びコンドロイチン-6-硫酸である。
【0085】
コンドロイチン分子は、動物及び非動物起源の様々な供給源から得ることができる。非動物起源の供給源には、酵母及び好ましくは細菌が含まれる。単純コンドロイチン分子の分子量は、通常1~500kDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0086】
架橋GAGはGAG分子鎖間の架橋を含み、これによって、共有結合架橋によって一緒に維持される、GAG分子の連続的な網状構造を生み出している。
【0087】
GAG分子鎖は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む架橋剤を介して互いに架橋していることが好ましい。
【0088】
架橋剤はアミド結合によってグリコサミノグリカン分子に結合していることが好ましい。
【0089】
架橋GAG製品は、生体適合性であることが好ましい。これは、治療された個体において免疫応答がまったく起こらないか、又はごく軽度の免疫応答しか起こらないことを意味する。すなわち、治療された個体において、望ましくない局所的又は全身的影響がまったく起こらないか、又はごく軽度のものしか起こらない。
【0090】
本発明による架橋製品は、ゲル又はヒドロゲルである。すなわち、これは、液体、典型的には水性液体に供された場合に、水不溶性であるが実質的に希薄な、GAG分子の架橋した系とみなすことができる。
【0091】
ゲルは、質量で大部分は液体を含有し、例えば、水90~99.9%を含有することができるが、その液体内部の三次元の架橋GAG分子網状構造に起因して、固体のように挙動する。その液体含有量がかなり多いため、ゲルは構造的に柔軟で、天然組織に類似しており、これにより、ゲルは、組織工学における足場として、また組織増大術(tissue augmentation)のため、非常に有用となる。ゲルはまた軟組織障害の治療及び矯正治療又は美容治療にも有用である。これは注射製剤として使用することが好ましい。
【0092】
GAG分子の架橋は、カップリング剤で活性化し、その後、架橋剤と反応させることにより、行うことができる。GAG分子の濃度及び架橋度は、ゲルの機械的特性、例えば、弾性率G'及び安定性特性に影響を及ぼす。架橋GAG分子ゲルは、「修飾の程度」の観点から特徴付けられうる。GAG分子ゲルの修飾の程度は、一般に0.01と15モル%の間の範囲である。修飾の程度(モル%)とは、GAG分子に結合している架橋剤の量、すなわち、繰り返し二糖単位の総モル量に対する、結合した架橋剤のモル量を説明するものである。修飾の程度は、GAG分子が架橋剤によってどの程度化学的に修飾されたかを表す。活性化及び架橋のための反応条件並びに修飾の程度を決定するための適切な分析技法は全て、当業者に周知されており、当業者であれば、これら及び他の関連因子を容易に調整し、それによって、修飾の望ましい程度を得るための適切な条件を提供し、また生成する製品の特徴を修飾の程度に関連して検証することができる。
【0093】
また、ヒドロゲル製品は、架橋されていない、すなわち、三次元の架橋GAG分子網状構造に結合していないGAG分子の一分量を含んでいてもよい。しかし、ゲル組成物中のGAG分子の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70質量%、最も好ましくは少なくとも80質量%が、架橋GAG分子の網状構造の一部を形成していることが好ましい。
【0094】
架橋GAG分子は、ゲル粒子の形態で存在することが好ましい。ゲル粒子は、平均サイズが0.01~5mm、好ましくは0.1~0.8mm、例えば、0.2~0.5mm又は0.5~0.8mmの範囲であることが好ましい。
【0095】
ヒドロゲル製品は、水溶液中に存在していてもよいが、また、乾燥形態で、又は例えばエタノール中に沈殿した形態で存在していてもよい。ヒドロゲル製品は、注射可能であることが好ましい。
【0096】
ヒドロゲル製品は、
(a)グリコサミノグリカン分子の溶液を用意する工程、
(b)グリコサミノグリカン分子上のカルボキシル基をカップリング剤で活性化して、活性化グリコサミノグリカン分子を形成する工程、
(c)二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を使用して、活性化グリコサミノグリカン分子をこれらの活性化カルボキシル基を介して架橋し、架橋グリコサミノグリカン分子を得る工程
を含む方法によって調製することができる。
【0097】
本発明によるGAGは、ヒアルロン酸、コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸からなる群から選択されることが好ましい。好ましい一実施形態では、GAG分子はヒアルロン酸である。
【0098】
活性化工程(b)において、GAG分子上のカルボキシル基をカップリング剤で活性化して、活性化GAG分子を形成する。
【0099】
好ましい一実施形態では、ペプチドカップリング試薬は、トリアジン系カップリング試薬、カルボジイミドカップリング試薬、イミダゾリウム由来カップリング試薬、オキシマ及びCOMUからなる群から選択される。
【0100】
ペプチドカップリング試薬は、トリアジン系カップリング試薬、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)及び2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)であることが好ましい。好ましいトリアジン系ペプチドカップリング試薬はDMTMMである。
【0101】
他の好ましいペプチドカップリング試薬は、カルボジイミドカップリング試薬であり、好ましくは、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と混合したN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(EDC)である。
【0102】
架橋工程(c)において、活性化GAG分子の架橋は、架橋剤を使用してそれらのカルボキシル基を介して行われる。架橋剤は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含む二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤である。架橋剤はGAG骨格上のカルボキシル基を介してGAG鎖を互いに連結する。スペーサー基は、例えば、ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースの各残基とすることができる。用語「残基」とはここで、化合物の構造が、親化合物ヒアルロン酸四糖、ヒアルロン酸六糖、トレハロース、ラクトース、マルトース、スクロース、セロビオース又はラフィノースそれぞれに類似するが同一ではないことを意味する。残基の構造は、2個以上の求核官能基を備えているという点において、及び場合により、前記求核官能基を介して、GAG骨格上のカルボキシル基に共有結合でリンクしているという点において、親化合物の構造と異なっていてもよい。
【0103】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤は、GAGの官能性カルボキシル基と反応することができる2個以上の官能基を含み、共有結合、好ましくはアミド結合の形成をもたらす。
【0104】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤の好ましい群には、ホモ二官能性の又はヘテロ二官能性の第一級アミン類、ヒドラジン類、ヒドラジド類、カルバゼート類、セミカルバジド類、チオセミカルバジド類、チオカルバゼート類及びアミノキシが含まれる。本発明において有用な、そのようなヘテロ二官能性架橋剤の非限定的な例としては、
【0105】
【化1】
【0106】
ジアミノトレハロース(6,6'-ジアミノ-6,6'-ジデオキシトレハロース)、
【0107】
【化2】
【0108】
ジアミノスクロース(6,6'-ジアミノ-6,6'-ジデオキシスクロース)、
【0109】
【化3】
【0110】
キトビオース(2,2'-ジアミノ-2,2'-デオキシセロビオース)、
【0111】
【化4】
【0112】
ジアミノラクトース(6,6'-ジアミノ-6,6'-ジデオキシラクトース)、
【0113】
【化5】
【0114】
「還元型N-脱アセチル化ヒアルロン酸四糖」又は
「還元型ジアミノヒアルロン酸四糖」、及び
【0115】
【化6】
【0116】
ジアミノラフィノース(6,6"-ジアミノ-6,6"-ジデオキシラフィノース)
が含まれる。
【0117】
ヘテロ二官能性第一級アミン(1a)、アミノキシ(1b)、カルバゼート(1c)、セミカルバジド(1d)、チオセミカルバジド(1e)、チオカルバゼート(1f)、ヒドラジン(1g)及びヒドラジド(1h)によるカップリングの例を反応スキーム1a~1h
【0118】
【化7】
【0119】
【化8】
【0120】
【化9】
【0121】
【化10】
【0122】
に概略的に例示する。
【0123】
二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤は、二糖類、三糖類、四糖類、及びオリゴ糖類からなる群から選択されるスペーサー基を含有し、これはGAG分子間の架橋中にとどまる。
【0124】
方法は、適切なカップリング剤を使用して、二求核官能性架橋剤又は多求核官能性架橋剤を天然GAG上の固有のカルボン酸基に直接共有結合カップリングすることを含めて、水性媒体中でワンポット法で行うことができる。好ましい一実施形態では、活性化工程(b)及び架橋工程(c)が同時に行われる。
【0125】
別の実施形態では、活性化工程(b)は、架橋工程(c)の前に且つこれから分離して行われる。
【0126】
架橋ヒドロゲルを作製するための方法には、架橋剤、例えばジアミノトレハロース、DATH(カルボン酸基に対して0.001~10モル当量のアミン、又は好ましくは0.001~1モル当量)及びカップリング剤、例えばDMTMM(カルボン酸基に対して0.01~10モル当量、又は好ましくは0.05~1モル当量)と一緒のヒアルロン酸等のGAG分子の混合物を調製する工程が典型的には含まれる。混合物を、5~50℃で、好ましくは10~40℃で又は更に好ましくは20~35℃で、2~120時間の間、好ましくは4~48時間の間、インキュベートし、その後、アルカリ処理、中和、沈殿、洗浄且つ真空中での乾燥を行い、固体として架橋多糖を得る。沈殿物をNaClを含有するリン酸バッファー中で膨潤させてヒドロゲルを形成し、ヒドロゲルをサイズが0.01~5mm、好ましくは0.1~1mmのヒドロゲル粒子に微粉化することが好ましい。
【0127】
生成するヒドロゲル製品の典型的な用途には、限定されないが、矯正治療及び美容治療を含めて、軟組織障害の治療のための注射用製剤の調製物が含まれる。
【0128】
より具体的な一実施形態では、DATHでのコンドロイチン硫酸の架橋は以下のように行うことができる:
ジアミノトレハロース(DATH)を「Synthetic Carbohydrate Polymers Containing Trehalose Residues in the Main Chain: Preparation and Characteristic Properties」; Keisuke Kurita、*Naoko Masuda、Sadafumi Aibe、Kaori Murakami、Shigeru Ishii、及びShin-Ichiro Nishimurat; Macromolecules 1994、27、7544~7549頁に記載の通り合成する。
【0129】
コンドロイチン硫酸(CS)(10~200kDa)をファルコンチューブに秤量する。ジアミノトレハロース(DATH)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりDATHのストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、DATH溶液をDMTMMに添加する。DMTMM-DATH溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をCSに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋CSゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【0130】
別のより具体的な実施形態では、ジアミノスクロースでのHAの架橋は以下のように行うことができる:
ジアミノスクロースを「Library of mild and economic protocols for the selective derivatization of sucrose under microwave irradiation」; M. Teresa Barros、Krasimira T. Petrova、Paula Correia-da-Silva及びTaterao M. Potewar; Green Chem.、2011、13、1897~1906頁に記載の通り調製する。
【0131】
ヒアルロン酸(HA)(10~1000kDa)を容器に秤量する。ジアミノスクロースをリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりジアミノスクロースのストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、ジアミノスクロース溶液をDMTMMに添加する。DMTMM-ジアミノスクロース溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をHAに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋HAゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【0132】
別のより具体的な実施形態では、キトビオースでのHAの架橋は以下のように行うことができる:
ヒアルロン酸(HA)(10~1000kDa)を容器に秤量する。キトビオース(英国Carbosynth Ltd.社から購入)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりキトビオースのストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、キトビオース溶液をDMTMMに添加する。DMTMM-キトビオース溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をHAに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、次いで、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋HAゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【0133】
別のより具体的な実施形態では、還元型ジアミノHA四糖でのHAの架橋は以下のように行うことができる:
ヒアルロン酸(HA)(10~1000kDa)を容器に秤量する。還元型ジアミノHA四糖をリン酸バッファーpH7.4に溶解することにより、還元型ジアミノHA四糖のストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、還元型ジアミノHA四糖溶液をDMTMMに添加する。DMTMM及び還元型ジアミノHA四糖溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をHAに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋HAゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【0134】
別のより具体的な実施形態では、ジカルバゼートトレハロースでのHAの架橋は以下のように行うことができる:
α,α-D-トレハロース(1当量)(無水)(英国Carbosynth Ltd.社)を乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、その後、トリエチルアミン(2~6当量)を添加する。フラスコを0℃(氷/水)に及びN2雰囲気中で冷却する。クロロギ酸4-ニトロフェニル(2~6当量)をフラスコに滴下添加する。生成する混合物を、室温で2~48時間撹拌し、次いで濃縮し、FCにて精製し、真空中で乾燥させる。生成物をDMFに溶解し、ヒドラジン一水和物(2~20当量)を溶液に添加し、0~50℃で4~48時間撹拌する。次いで、反応物を濃縮し、FCにて精製し、真空中で乾燥させて、α,α-D-6,6'-ジデオキシ-6,6'-ジカルバゼートトレハロース(ジカルバゼートトレハロース、DCT)を得る。
【0135】
ヒアルロン酸(HA)(10~1000kDa)を容器に秤量する。ジカルバゼートトレハロース(DCT)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することにより、DCTのストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、DCT溶液をDMTMMに添加する。DMTMM-DCT溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をHAに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、次いで3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋HAゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【0136】
別のより具体的な実施形態では、ジアミノキシトレハロースでのHAの架橋は以下のように行うことができる:
α,α-D-トレハロース(1当量)(無水)(英国Carbosynth Ltd.社)の無水THF撹拌懸濁液に、N-ヒドロキシフタルイミド(2~10当量)及びトリフェニルホスフィン(2~10当量)を添加し、混合物を5~60分間撹拌する。次いで、アジジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD、2~10当量)を0~40℃で滴下添加し、混合物を0~40℃で2~48時間撹拌する。溶媒を真空中で除去し、粗生成物をFCにて精製し、真空中で乾燥させる。生成物のMeOH及びCH2Cl2混合物懸濁液をヒドラジン一水和物(2~20当量)で処理し、混合物を0~40℃で2~24時間撹拌し、その後、濃縮、FCでの精製、及び真空中での乾燥を行って、ジアミノキシトレハロースを得る。
【0137】
ヒアルロン酸(HA)(10~1000kDa)を容器に秤量する。ジアミノキシトレハロース(DAOT)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することにより、DAOTのストック溶液を調製する。DMTMMを容器に秤量し、DAOT溶液をDMTMMに添加する。DMTMM-DAOT溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHの添加によりおよそ7に調整し、その後、混合物をHAに添加する。内容物を十分にホモジナイズし、15~55℃で2~48時間インキュベートする。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、NaOH中で膨潤させる。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、エタノールで沈殿させる。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで、70%エタノール及びエタノールで洗浄する。得られた固体を真空中25℃で乾燥させる。沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、次いで3回フィルターメッシュを通してプレスする。架橋HAゲルを注射器に充填し、滅菌する。
【実施例
【0138】
それらに限定されることを望むものではないが、例として、本発明を以下に例示する。
【0139】
定義及び分析
SwF - 膨潤率(Swelling factor)分析を生理食塩水中で行った。
[PS] - 多糖の濃度、例えばHA濃度。PS濃度をLC-SEC-UV又はNIRで測定した。
GelP - ゲル部(ゲル含量又はGelCと呼ぶ場合もある)とは、ゲル網状構造の一部である多糖の百分率を説明するものである。90%という数値は、多糖のわずか10%だけが、網状構造の一部ではないことを意味する。ゲル中の遊離多糖の量は、LC-SEC-UVで測定した。
SwC - 膨潤収容能力とは、ゲル部に対して補正されていない、1グラムの多糖の総液体取込みである。
【0140】
【数1】
【0141】
SwCC - 補正膨潤収容能力(SwDCと呼ぶ場合もある)とは、ゲル部に対して補正されている、1グラムの多糖の総液体取込みである。
【0142】
【数2】
【0143】
CrR - 有効架橋率をLC-SEC-MSで分析し、
【0144】
【数3】
【0145】
と定義した。CrRが1.0とは、架橋剤の全てが架橋したことを意味する。
【0146】
アルカリ加水分解又は熱加水分解
下の例の一部では、架橋プロセス中に形成されるエステル結合を加水分解するために、生成物をアルカリ加水分解又は熱加水分解に供した。アルカリ/熱加水分解を行うと、最終生成物においてアミド架橋結合のみが得られる。アルカリ/熱加水分解を以下のように行った。
【0147】
アルカリ加水分解
材料を、0.25MのNaOH(材料1g:0.25MのNaOH 9g、pH13が得られる)中で室温で少なくとも1時間膨潤させた。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、次いで、エタノールで沈殿させた。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで洗浄して過剰の試薬を除去し、次いで、70%エタノールで洗浄して塩類を除去し、最終的にエタノールで洗浄して水を除去した。エタノールを真空乾燥機中で終夜除去した。
【0148】
沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、次いで、3回細かいフィルターメッシュを通してプレスした。ゲルを注射器に充填し、滅菌した。場合によっては、いくつかの注射器は、滅菌の効果を見るために滅菌しなかった。
【0149】
熱加水分解
材料を、0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中室温で膨潤させた。必要であれば、pHを7.2~7.5に調整した。ゲルを70℃で20~24時間放置し、次いで、粒径を3回細かいフィルターメッシュを通して小さくした。ゲルを注射器に充填し、滅菌した。場合によっては、いくつかの注射器は、滅菌の効果を見るために滅菌しなかった。
【0150】
ヒアルロン酸ジアミノトレハロースの合成
ジアミノトレハロース(DATH)を、「Synthetic Carbohydrate Polymers Containing Trehalose Residues in the Main Chain: Preparation and Characteristic Properties」; Keisuke Kurita、*Naoko Masuda、Sadafumi Aibe、Kaori Murakami、Shigeru Ishii、及びShin-Ichiro Nishimurat; Macromolecules 1994、27、7544~7549頁に記載の通り合成した。
【0151】
(実施例1)
ジアミノトレハロース(DATH)でのヒアルロン酸の架橋
カップリング剤として4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)を使用して、様々な分子量のヒアルロン酸(HA)を種々のモル比のDATHで架橋することを含む、一連の実験(実施例1-1~1-5)を行った。HAと、DATHとDMTMMとの間の比を、下のTable 1(表1)に記載する。
【0152】
ヒアルロナン(約100kDaから約1000kDaまでの分子量(Mw))をファルコンチューブに秤量した。ジアミノトレハロース(DATH)(0.001~0.005当量)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりDATHのストック溶液を調製した。DMTMM(0.05当量)をPTFE容器に秤量し、DATH溶液をDMTMMに添加して、これを溶解した。DMTMM-DATH溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHで6~7に調整し、次いで、HAに添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、35℃で24時間インキュベートした。
【0153】
生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、NaOH溶液で処理した。ゲルを1.2MのHClでpH7に中和し、次いで、エタノールで沈殿させた。生成する沈殿物を100mMのNaClの70%エタノールで洗浄して過剰の試薬を除去し、次いで、70%エタノールで洗浄して塩類を除去し、最終的にエタノールで洗浄して、水を除去した。エタノールを真空乾燥機中で終夜除去した。
【0154】
沈殿物を0.7%NaClリン酸バッファーpH7.4中で膨潤させ、次いで、3回フィルターメッシュを通してプレスした。ゲルを注射器に充填し、滅菌した。
【0155】
【表1】
【0156】
(実施例2)
ジアミノトレハロース(DATH)でのヒアルロン酸の架橋
カップリング剤として4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)を使用して、様々な分子量のヒアルロン酸(HA)を種々のモル比のDATHで架橋することを含む、一連の実験(実施例2-1~2-11)を行った。HAと、DATHとDMTMMとの間の比を、下のTable 2(表2)に記載する。
【0157】
ヒアルロン酸を反応容器に秤量した。架橋剤(DATH)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりこれのストック溶液を調製した。DMTMMをPTFE容器に秤量し、架橋剤溶液をDMTMMに添加して、これを溶解した。DMTMM-架橋剤溶液のpHを、1.2MのHCl又は0.25MのNaOHで6~7に調整し、次いで、HAに添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、35℃で24時間インキュベートした。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、熱又はアルカリのいずれかで処理した。結果をTable 2(表2)に示す。
【0158】
【表2】
【0159】
(実施例3)
キトビオース(CB)でのヒアルロン酸の架橋
ヒアルロン酸を反応容器に秤量した。架橋剤(キトビオース)をリン酸バッファーpH7.4に溶解することによりこれのストック溶液を調製した。DMTMMをPTFE容器に秤量し、架橋剤溶液をDMTMMに添加してこれを溶解した。DMTMM-架橋剤溶液のpHを、1.2MのHClで6~7に調整し、次いで、HAに添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、35℃で24時間インキュベートした。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、一般手順に従い熱又はアルカリのいずれかで処理した。HAと、キトビオースとDMTMMとの間の比を、以下Table 3(表3)に記載する(実施例3-1~3-2)。
【0160】
(実施例4)
ジアミノテトラ-HA(DA-4HA)でのヒアルロン酸の架橋
ジアミノテトラ-HA(DA-4HA)を下のスキームに従って合成した。
【0161】
【化11】
【0162】
工程1
室温にあるHA-4(500mg、0.61mmol)の水溶液(5ml)を水素化ホウ素ナトリウム(23.05mg、0.61mmol)で処理し、生成する溶液を3時間撹拌し、濃縮乾固して、白色泡状物として還元生成物1(532mg、100%と想定される)を得た。
LCMS(tr=0.28min.、ES+=779.4(M-2 Na+2H)
【0163】
工程2
還元生成物1(532mg)を水性NH2OH(5ml、50%v/v/)に溶解し、固体のNH4I(100mg)を添加した。生成する懸濁液を70℃で48時間加熱し、室温に冷却し、濃縮乾固して、残留物を得た。残留物をEtOH原液中で沈殿させ、生成する沈殿物をろ過にて収集し、一定質量まで乾燥させて、定量的収率で、ジアミン2とモノアミン3との1:1混合物を得た。粗反応生成物を更に精製することなく使用した。
2: LCMS(tr=0.16min.、ES+=695.36(M-2 Na+2H)
3: LCMS(tr=0.19min.、ES+=737.47(M-2 Na+2H)
【0164】
ヒアルロン酸を反応容器に秤量した。上に記載の通り合成した架橋剤(ジアミノテトラ-HA)のストック溶液及びDMTMMを、リン酸バッファーpH7.4にこれを溶解することによりそれぞれ調製した。両溶液のpHを7に調整し、次いで、HAに添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、23℃で24時間インキュベートした。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、一般手順に従い熱で処理した。HAと、ジアミノテトラ-HAとDMTMMとの間の比を、以下Table 3(表3)に記載する(実施例4)。
【0165】
(実施例5)
ジアミノトレハロース(DATH)でのヘパロサン(HEP)の架橋
カップリング剤DMTMM及び架橋剤DATHを別々の反応容器に秤量し、リン酸バッファー(pH7.4)に溶解した。溶液のpHを1.2MのHCl又は0.25MのNaOHでpH7~7.5に調整した。その後、DMTMM溶液及びDATH溶液を、反応容器に秤量しておいたヘパロサンに続けて添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、35℃で24時間インキュベートした。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、一般手順に従い熱で処理した。ヘパロサンと、DATHとDMTMMとの間の比を、下のTable 3(表3)に記載する(実施例5-1~5-2)。
【0166】
(実施例6)
ジアミノトレハロース(DATH)でのコンドロイチン硫酸(CS)の架橋
カップリング剤DMTMM及び架橋剤DATHを別々の反応容器に秤量し、リン酸バッファー(pH7.4)に溶解した。溶液のpHを1.2MのHCl又は0.25MのNaOHでpH7~7.5に調整した。その後、DMTMM溶液及びDATH溶液を、反応容器に秤量しておいたコンドロイチン硫酸に続けて添加した。内容物を十分にホモジナイズし、次いで、35℃で24時間インキュベートした。生成する材料を、2回1mmスチールメッシュを通してプレスし、次いで、一般手順に従い熱で処理した。コンドロイチン硫酸と、DATHとDMTMMとの間の比を、以下Table 3(表3)に記載する(実施例6-1~6-2)。
【0167】
【表3】