(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】生体分子の溶媒接近性および3次元構造を研究するための方法、システムおよび組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220127BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G01N33/48 A
C12Q1/00
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2018560172
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(86)【国際出願番号】 US2017033621
(87)【国際公開番号】W WO2017201457
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2019-05-09
(32)【優先日】2016-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506097988
【氏名又は名称】ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】サスマン, マイケル アール.
(72)【発明者】
【氏名】ショヘット, ジェイ. レオン
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリー, ファラズ エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブラッツ, ジョシュア エム.
(72)【発明者】
【氏名】ミンコフ, ベンジャミン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン, ダニエル アイ.
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-181747(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0122297(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0208038(US,A1)
【文献】特表2007-535666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0042560(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103997842(CN,A)
【文献】特表2000-516452(JP,A)
【文献】ATTRI, Pankaj,TMAO and sorbitol attenuate the deleterious action of atmospheric pressure non-thermal jet plasma on α-chymotrypsin,RSC Advances,2012年,2,7146-7155
【文献】ATTRI, Pankaj,Influence of reactive species on the modification of biomolecules generated from the soft plasma,Scientific Reports,2015年,5:8221,1-12
【文献】HOBMAN, J L,Probing bactericidal mechanisms induced by cold atmospheric plasmas with Escherichia coli mutants,Applied Physics Letters,2007年,90, 7,73902,1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に位置する生体分子を修飾する方法であって、前記試料は、流体によって接触されているかまたは閉鎖空間内に封入されており、前記試料または前記流体は、複数のマーカーラジカル前駆体を含有しており、前記方法は、
a)前記流体中で、前記試料の1cm以内に少なくとも一部分を有するプラズマパルスのシーケンスを生成し、および/または前記試料内でプラズマパルスのシーケンスを生成し、それにより前記複数のマーカーラジカル前駆体の1つまたは複数を、1つまたは複数のマーカーラジカルに変換するステップ
であって、前記プラズマは前記試料の温度を、前記生体分子の変性を開始する量よりも少ない量だけ上昇させるように構成される、ステップと、
b)
前記生体分子に検出可能な差を生じさせるために、前記1つまたは複数のマーカーラジカルが前記生体分子と相互作用するのに十分な長さの時間を待ち、それにより前記生体分子を修飾するステップと
を含
む、方法。
【請求項2】
前記プラズマパルスが、1ピコ秒から1ミリ秒の間のパルス幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマパルスのシーケンスが、1Hzから100GHzの間の周波数を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマパルスのシーケンスが、1ナノ秒から1時間の間の合計の時間の長さにわたり生成される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)のプラズマパルスのシーケンスが、プラズマジェットによって生成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)のプラズマパルスのシーケンスが、1Vから1MVの範囲の電圧によって生成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の生成することが、前記試料中のマーカーラジカルのピーク濃度を50nMから800μMの間の範囲で提供するように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)の生成することが、50℃未満の度合だけ前記試料の温度を上昇させる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)の生成することが、360MJ未満のエネルギー量を前記試料に移行させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が、1μLから400Lの間の体積を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記流体が、前記複数のマーカーラジカル前駆体を含有するガスである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記複数のマーカーラジカル前駆体が、複数の水分子である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が、血液、血漿、尿、唾液、リンパ、涙、汗、脳脊髄液、羊水、房水、硝子体液、胆汁、母乳、耳垢、乳糜、チャイム(chime)、内リンパ、外リンパ、滲出液、糞便、膣液(female ejaculate)、胃酸、胃液、粘液、囲心腔液、腹水、胸水、膿、粘膜分泌物(rheum)、皮脂、漿液、精液、スメグマ、痰、滑液、膣分泌物、嘔吐物、生きている細菌の培養物、生きている組織または真核生物の培養物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が、真核生物の細胞内液、真核生物の細胞外液、原核生物の細胞内液、原核生物の細胞外液、均質化された組織または細胞、均質化された組織または細胞の培養物、均質化された植物組織、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞外液が、血管内液、間質液、リンパ液、細胞透過液、植物アポプラスト液または維管束液、原核生物または真核生物のin vitro増殖からの余分な栄養培地、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料が、生体分子および緩衝溶液を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記緩衝溶液が、リン酸緩衝生理食塩液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、トリス塩酸、炭酸水素アンモニウム、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-2,2’,2”-ニトリロトリエタノール(ビス-トリス)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、3-(N-モルホリニル)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩(MOPSO)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(ビス-トリスプロパン)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、3-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(DIPSO)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO)、Trizma、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)二水和物(POPSO)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPS)、N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン(TRICINE)、グリシルグリシン(GLY-GLY)、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(BICINE)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]プロパン-1-スルホン酸(TAPS)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、1-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)、Lysogenyブロス、生物学的または生理学的に関連の塩、またはそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体分子が、核酸分子、タンパク質、脂質、生物代謝物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
複数の試料中に位置する複数の生体分子を修飾する方法であって、前記複数の試料は、流体によって接触されているかまたは複数の閉鎖空間に隔離されており、前記複数の試料または前記流体は、複数のマーカーラジカル前駆体を含有しており、前記方法が、
a)前記流体中で、前記複数の試料のそれぞれの1cm以内に少なくとも一部分を有するプラズマパルスのシーケンスまたは複数のプラズマパルスのシーケンスを生成する、または前記複数の試料内で複数のプラズマパルスのシーケンスを生成し、それにより前記複数のマーカーラジカル前駆体の1つまたは複数を、1つまたは複数のマーカーラジカルに変換するステップ
であって、前記プラズマは前記試料の温度を、前記生体分子の変性を開始する量よりも少ない量だけ上昇させるように構成される、ステップと、
b)
前記複数の生体分子に検出可能な差を生じさせるために、前記複数のマーカーラジカルの1つまたは複数が、前記複数の生体分子と相互作用するために十分な長さの時間を待ち、それにより前記複数の生体分子を修飾するステップと
を含
む、方法。
【請求項20】
前記複数の試料が、2~1,000,000個の試料を含み、前記複数のプラズマが、2~1,000,000個のプラズマを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の試料が、96個の試料を含み、前記複数のプラズマが、96個のプラズマを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
生体分子の一部分が溶媒に接近可能であるかを決定する方法であって、前記生体分子および前記溶媒は、試料に含有されており、前記試料は、流体によって接触されているかまたは閉鎖空間内に封入されており、前記試料または前記流体は、マーカーラジカル前駆体を含有しており、前記方法が、
a)前記試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して、
前記生体分子に検出可能な差を生じさせるのに十分な長さの時間で、前記生体分子を酸化するステップ
であって、前記プラズマは前記試料の温度を、前記生体分子の変性を開始する量よりも少ない量だけ上昇させるように構成される、ステップと、
b)ステップa)に続けて、前記生体分子の前記一部分が、ステップa)の酸化によって酸化されたかどうかを評価するステップであって、酸化の存在は、前記一部分が前記溶媒に接近可能であることを示し、酸化の不在は、前記一部分が前記溶媒に接近不能であることを示し、ステップb)の評価することが、前記生体分子の質量分析を行うことを含む、ステップと、
c)前記一部分が前記溶媒に接近可能であるか前記溶媒に接近不能であるかを示すレポートを作成するステップと
を含む、方法。
【請求項23】
ステップa)の酸化することが、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の溶媒接近可能部分と1つまたは複数の溶媒接近不能部分とを有する1つまたは複数の生体分子を含有する生体試料を評価する方法であって、
a)前記生体試料の第1のサブ試料および第2のサブ試料を取得するステップであって、前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料は、実質的に同等な濃度の前記1つまたは複数の生体分子を含有している、ステップと、
b)前記生体試料の第2のサブ試料に切断因子を導入するステップであって、前記切断因子は、前記第2のサブ試料内に位置する前記1つまたは複数の生体分子を変化させて前記溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を溶媒に曝露させるように構成されている、ステップと、
c)前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して、
前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料中の前記1つまたは複数の生体分子に検出可能な差を生じさせるのに十分な長さの時間で、前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料中の前記1つまたは複数の生体分子を酸化するステップであって、前記プラズマは前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料の温度を、前記1つまたは複数の生体分子の変性を開始する量よりも少ない量だけ上昇させるように構成される、ステップと、
d)ステップc)に続けて、前記第1のサブ試料の前記1つまたは複数の生体分子と前記第2のサブ試料の前記1つまたは複数の生体分子との間の酸化レベルの差異を評価し、それにより前記1つまたは複数の溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を同定するステップであって、ステップd)の評価することが、前記生体分子の質量分析を行うことを含む、ステップと、
e)前記1つまたは複数の溶媒接近不能部分の前記少なくとも一部分の同定を示すレポートを作成するステップと
を含む、方法。
【請求項25】
ステップc)の酸化することが、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
生体分子を修飾するためのシステムであって、
生体分子を含む試料を含有するように構成された試料チャンバであって、化学的および生物学的に不活性な内面を含む試料チャンバと、
接地電極と、
前記試料チャンバを前記接地電極から分離する誘電体と、
プラズマ源点を含むプラズマ電極と、
プラズマ電極位置決めシステムと、
電源と、
前記電源、前記接地電極および前記プラズマ電極と電子通信する制御システムであって、前記制御システムは、前記電源からの電力を前記プラズマ電極および前記接地電極とともに利用して前記プラズマ源点からプラズマを生成するように構成されており、前記プラズマは、前記生体分子を酸化するために適切なマーカーラジカルを生成するように構成されている、制御システムと、
前記生体分子の質量を検出するように構成されている質量分析計と
を含み、前記制御システムが、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法を実行するようにさらに適合されている、システム。
【請求項27】
前記システムが複数の追加の試料チャンバをさらに含み、前記プラズマ電極が複数の追加のプラズマ源点をさらに含む、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
複数の追加の試料チャンバおよび複数の追加のプラズマ電極をさらに含む、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
前記プラズマ電極が、少なくとも前記プラズマ源点を覆う誘電体コーティングを有する、請求項26に記載のシステム。
【請求項30】
前記電源と前記プラズマ電極との間に位置し、前記プラズマ電極で電圧を増幅するように構成された増幅器をさらに含む、請求項26から29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
少なくとも前記試料チャンバと前記プラズマ電極とを取り囲む保護ハウジングをさらに含む、請求項26から30のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項32】
前記保護ハウジングは密閉されている、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記保護ハウジングが、前記保護ハウジング内のガスの組成および圧力を制御するように構成されたガスマニホールドに結合された入口を有する、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記保護ハウジングが、前記保護ハウジングの内部へのアクセスを提供するように構成されたドアを有し、前記ドアが、前記制御システムと電子通信されたロックを有し、前記制御システムが、前記システムの操作の間に前記ロックをロックするように構成されている、請求項31から33のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項35】
前記制御システムが、少なくとも100ミリ秒の時間分解能を有する前記プラズマを生成するように構成されている、請求項26から34のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項36】
前記時間分解能が、少なくとも10ミリ秒である、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記時間分解能が、少なくとも1ミリ秒である、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
生体分子を修飾するためのシステムであって、
生体分子を含む試料を含有するように構成された試料チャンバであって、化学的および生物学的に不活性な内面を含む試料チャンバと、
プラズマを生成し、前記プラズマを前記試料チャンバに向けるように構成されたプラズマジェットと、
プラズマジェット位置決めシステムと、
電源と、
前記電源および前記プラズマジェットと電子通信する制御システムであって、前記制御システムは、前記電源からの電力を前記プラズマジェットとともに利用してプラズマを生成し、前記プラズマを前記試料チャンバに向けるように構成されており、前記プラズマは、前記生体分子を酸化するために適切なマーカーラジカルを生成するように構成されている、制御システムと、
前記生体分子の質量を検出するように構成されている質量分析計と
を含み、前記制御システムが、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法を実行するようにさらに適合されている、システム。
【請求項39】
複数の追加の試料チャンバをさらに含む、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記試料チャンバが、対流冷却装置へ熱的に結合されたセラミックホルダー内に位置している、請求項38または39に記載のシステム。
【請求項41】
前記対流冷却装置がペルチェ冷却器である、請求項40に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2016年5月19日に出願された米国仮特許出願第62/338,699号に関連し、それへの優先権を主張し、そしてその全体を参考として本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府により資金供与を受けた研究に関する陳述
本発明は、アメリカ国立科学財団によって付与されたMCB1410164およびCBET1066231、ならびにアメリカ合衆国エネルギー省によって付与されたDE-FG02-88ER13938の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
生体システムを調べる既存の方法は、膨大な量の情報を導き出すことができる。既存の方法の例として、生物のゲノム、エクソーム、トランスクリプトーム、プロテオームおよびメタボロームを決定するための方法が挙げられる。
【0004】
ゲノムは、典型的にはDNAの形態で(RNAも生物のサブセットで同様の目的を果たすが)、生物の遺伝物質を決定するために解くことができる。ゲノムは、遺伝物質内に保存された遺伝子の全てを含むことができる。エクソームは、エクソンによって形成されたゲノムの一部分である。
【0005】
トランスクリプトームは、細胞、細胞群、または生物全体のmRNAの発現のレベルを指す。mRNA発現産物は環境条件に基づいて変動しうるので、トランスクリプトームは、特定の細胞株について環境に関するいくつかの情報を含有する。
【0006】
プロテオームは、細胞、細胞群、または生物全体で発現されたタンパク質の集団を指す。タンパク質発現は環境条件に基づいて変動しうるので、プロテオームも特定の細胞株について環境に関する情報を含有する。
【0007】
メタボロームは、生体試料中に存在する小分子の集団を指す。小分子の生成および消費は、環境条件に基づいて変動しうるので、メタボロームは、特定の細胞株について環境に関する追加のおよび異なる情報を含有する。
【0008】
上述の全てを越えて、いまだ効果的または効率的に精査されていない領域、つまり、所与の生体試料中の生体分子のいずれかまたは全てについてのコンホメーション情報である「コンホメーショム(conformatiome)」がある。コンホメーショムは、理想的には、天然および未変化のコンホメーション状態の様々な生体分子に関するコンホメーション情報を提供する。
【0009】
コンホメーション構造情報を精査すると主張している現在の方法は、以下の問題の1つまたは複数を抱えている。第1に、一部の方法は、試料の結晶化(X線結晶学など)または生体分子を天然の状態で提示しない他の操作を必要とする。第2に、一部の方法は、試料をタグ付けするための種を提供するために、試料に非天然化学種を添加することを必要とする。一例は、生体分子を酸化するために過酸化水素を添加することを必要とする、タンパク質の高速光化学的酸化(FPOP)である。過酸化水素の添加は、調べられる生体分子のコンホメーション状態を変化させる可能性がある。第3に、一部の方法は、非常に高価な設備を必要とする。例えば、前述のFPOPは、高価な機器であるエキシマーレーザの使用を必要とする。他の方法、例えばシンクロトロンに基づくヒドロキシルラジカルフットプリンティングは、シンクロトロンなどの数百万ドルの施設の使用を要する場合がある。
【0010】
目的の生体分子をその構造を変化させうる外来物質に導入する必要なしに、コンホメーショムを調べるための、安価なシステムおよび迅速な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、生体分子のプラズマ誘起酸化に関する方法、システム、物質の組成物、およびキットを提供することにより、上述の欠点を克服する。
【0012】
一態様では、本開示は、試料中に位置する生体分子を修飾する方法を提供する。試料は流体によって接触されているかまたは閉鎖空間内に封入されていることができる。試料または流体は、複数のマーカーラジカル前駆体を含有することができる。方法は、以下のステップの1つまたは複数を含むことができる:a)前記流体中で、前記試料の1cm以内に少なくとも一部分を有するプラズマを生成し、および/または前記試料内でプラズマを生成し、それにより前記複数のマーカーラジカル前駆体の1つまたは複数を、1つまたは複数のマーカーラジカルに変換するステップおよびb)前記1つまたは複数のマーカーラジカルが前記生体分子と相互作用するのに十分な長さの時間を待ち、それにより前記生体分子を修飾するステップ。
【0013】
別の態様では、本開示は、複数の試料中に位置する複数の生体分子を修飾する方法を提供する。複数の試料は、流体によって接触されているかまたは複数の閉鎖空間に隔離されていることができる。複数の試料または流体は、複数のマーカーラジカル前駆体を含有することができる。方法は、以下のステップの1つまたは複数を含むことができる:a)前記流体中で、前記複数の試料のそれぞれの1cm以内に少なくとも一部分を有するプラズマまたは複数のプラズマを生成する、または前記複数の試料内で複数のプラズマを生成し、それにより前記複数のマーカーラジカル前駆体の1つまたは複数を、1つまたは複数のマーカーラジカルに変換するステップおよびb)前記複数のマーカーラジカルの1つまたは複数が、前記複数の生体分子と相互作用するために十分な長さの時間を待ち、それにより前記複数の生体分子を修飾するステップ。
【0014】
さらに別の態様では、本開示は、生体分子の一部分が溶媒に接近可能であるかを決定する方法を提供する。生体分子および溶媒は、試料に含有されていることができる。試料は流体によって接触されているかまたは閉鎖空間内に封入されていることができる。試料または流体は、マーカーラジカル前駆体を含有することができる。方法は、以下のステップの1つまたは複数を含むことができる:a)前記試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して、前記生体分子を酸化するステップ、b)ステップa)に続けて、前記生体分子の前記一部分が、ステップa)の酸化によって酸化されたかどうかを評価するステップであって、酸化の存在は、前記一部分が前記溶媒に接近可能であることを示し、酸化の不在は、前記一部分が前記溶媒に接近不能であることを示す、ステップ、およびc)前記一部分が前記溶媒に接近可能であるか前記溶媒に接近不能であるかを示すレポートを作成するステップ。
【0015】
さらなる態様では、本開示は、1つまたは複数の溶媒接近可能部分と1つまたは複数の溶媒接近不能部分とを有する1つまたは複数の生体分子を含有する生体試料を評価する方法を提供する。方法は、以下のステップの1つまたは複数を含むことができる:a)前記生体試料の第1のサブ試料および第2のサブ試料を取得するステップであって、前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料は、実質的に同等な濃度の前記1つまたは複数の生体分子を含有している、ステップ、b)前記生体試料の第2のサブ試料に切断因子を導入するステップであって、前記切断因子は、前記1つまたは複数の生体分子を変化させて前記溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を溶媒に曝露させるように構成されている、ステップ、c)前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して、前記第1のサブ試料および前記第2のサブ試料中の前記1つまたは複数の生体分子を酸化するステップ、d)ステップc)に続けて、前記第1のサブ試料の前記1つまたは複数の生体分子と前記第2のサブ試料の前記1つまたは複数の生体分子との間の酸化レベルの差異を評価し、それにより前記1つまたは複数の溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を同定するステップ、およびe)前記1つまたは複数の溶媒接近不能部分の前記少なくとも一部分の同定を示すレポートを作成するステップ。
【0016】
さらに別の態様では、本開示は、生体分子を修飾するためのシステムを提供する。システムは、試料チャンバ、接地電極、誘電体、プラズマ電極、プラズマ電極位置決めシステム、電源、および制御システムを含むことができる。試料チャンバは、生体分子を含む試料を含有するように構成することができる。試料チャンバは、化学的および生物学的に不活性な内面を含むことができる。誘電体は、試料チャンバを接地電極から分離することができる。制御システムは、電源、接地電極およびプラズマ電極と電子通信することができる。制御システムは、電源からの電力をプラズマ電極および接地電極とともに利用して、プラズマ源点からプラズマを生成するように構成することができる。プラズマは、生体分子を酸化するために適切なマーカーラジカルを生成するように構成することができる。
【0017】
さらなる態様では、本開示は、生体分子を修飾するためのシステムを提供する。システムは、試料チャンバ、プラズマジェット、プラズマジェット位置決めシステム、電源、および制御システムを含むことができる。試料チャンバは、生体分子を含む試料を含有するように構成することができる。試料チャンバは、化学的および生物学的に不活性な内面を有することができる。プラズマジェットは、プラズマを生成し、プラズマを試料チャンバに向けるように構成することができる。制御システムは、電源およびプラズマジェットと電子通信することができる。制御システムは、電源からの電力をプラズマジェットとともに利用してプラズマを生成し、プラズマを試料チャンバに向けるように構成することができる。プラズマは、生体分子を酸化するために適切なマーカーラジカルを生成するように構成することができる。
【0018】
追加の態様では、本開示は、物質の組成物を提供する。物質の組成物は、液体試料中の生体分子および少なくとも1つのマーカーラジカル前駆体と、液体試料内のプラズマとを含むことができる。プラズマは、少なくとも1つのマーカーラジカル前駆体をマーカーラジカルに変換するように構成することができる。
【0019】
なおさらなる態様では、本開示は、物質の組成物を提供する。物質の組成物は、プラズマ誘起酸化への予測可能な応答を有するように構成された合成生体分子を含むことができる。
【0020】
別の追加の態様では、本開示は、キットを提供する。キットは、プラズマ誘起酸化への既知の応答を有する参照試料と、既知の応答に関する情報とを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本開示の一態様によるシステムである。
【0022】
【
図2】
図2は、本開示の一態様によるシステムである。
【0023】
【
図3】
図3は、本開示の一態様によるプラズマの画像である。
【0024】
【
図4】
図4は、実施例1に記載される放電にわたる電圧および電流のプロットである。
【0025】
【
図5】
図5は、実施例1に記載される生体分子の相対的修飾を示すプロットである。
【0026】
【
図6】
図6は、実施例2に記載される生体分子の修飾%を示すプロットである。
【0027】
【
図7】
図7は、実施例3に記載されるDNAの分解を説明する電気泳動ゲルの画像である。
【0028】
【
図8】
図8は、実施例3に記載されるDNAの分解を説明する電気泳動ゲルの画像である。
【0029】
【
図9】
図9は、実施例4に記載される細胞内の生体分子の修飾%を示すプロットである。
【0030】
【
図10】
図10は、実施例4に記載される細胞内の特定の生体分子の特定の部分の修飾%を示すプロットである。
【0031】
【
図11】
図11は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0032】
【
図12】
図12は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0033】
【
図13】
図13は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0034】
【
図14】
図14は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0035】
【
図15】
図15は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0036】
【
図16】
図16は、実施例6に記載される未消化および消化ウシ血清アルブミンの酸化の一対のプロットである。
【0037】
【
図17】
図17は、上皮増殖因子と結合したときに酸化が減少した残基を示している、上皮増殖因子受容体タンパク質の一結晶構造である。
【0038】
【
図18】
図18は、上皮増殖因子と結合したときに酸化が減少した残基を示している、上皮増殖因子受容体タンパク質ホモ二量体の一結晶構造である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明は、記載された特定の実施形態に限定されるものではないことが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解される。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他のことを指示していない限り、複数の実施形態を含む。
【0040】
生体分子を修飾することに関連する特定の構造、装置および方法が開示される。既に記載された事項に加えて、多くの追加的修飾が、本発明の概念から逸脱することなく可能であることは、当業者にとって明らかである。本開示の解釈において、全ての用語は、文脈と一致する最も広範な様式で解釈されるべきである。用語「含む」のバリエーションは、非排他的様式に要素、コンポーネントまたはステップを指すとして解釈されるべきであり、したがって、参照されている要素、コンポーネントまたはステップは、明示されていない他の要素、コンポーネントまたはステップと組み合わされる場合がある。ある特定の要素を「含む」として参照される実施形態は、これらの要素「から本質的になる」および「からなる」としても企図されている。特定の値について2つまたはそれよりも多い範囲が列挙されているとき、その開示は、明白に列挙されていないそれらの範囲の上限と下限の全ての組み合わせを企図している。例えば、1から10の間の値または2から9の間の値の列挙は、1から9の間の値または2から10の間の値も企図している。
【0041】
様々な態様は、様々な機能コンポーネントおよび処理ステップの観点で本明細書に記載されている場合がある。そのようなコンポーネントおよびステップは、特定の機能を行うように構成された任意の数のハードウェアコンポーネントによって実現されうることが認識されるべきである。
【0042】
方法
本開示は、様々な方法を提供する。様々な方法は、他の方法を用いた使用のために適していると認識されるべきである。同様に、様々な方法は、本明細書の他の箇所に記載のシステムおよび組成物を用いた使用のために適していると認識されるべきである。本開示の特徴が所与の方法に関連して記載されているとき、文脈が他のことを明確に指示していない限り、その特徴は、本明細書に記載の他の方法、システム、および組成物のためにも有用であることが明白に企図されている。
【0043】
本開示の方法は、概して、生体分子を修飾するための新たなプロセスの発見から生まれたものである。この新たなプロセスには、生体分子の様々な置換基を酸化できるマーカーラジカル(例えば、ヒドロキシルラジカル)をそれ自体生成する、プラズマの生成が関与している。ヒドロキシルラジカルを使用する生体分子の酸化は一般に公知であり、本開示は、このプロセスの改善を示す。
【0044】
一態様では、本開示は、生体分子を修飾する方法を提供する。生体分子は、試料中に位置することができる。試料は、流体によって接触されているかまたは閉鎖空間内に封入されていることができる。方法は、a)流体中で、試料のある距離以内にプラズマを生成する、または試料内でプラズマを生成するステップと、b)ある時間の長さを待つステップとを含むことができる。プラズマは、最大1cmの距離、例えば限定されないが、最大5mm、最大3mm、最大1mm、最大100μm、最大10μm、または最大1μmの距離で、試料に最も近い点を有することができる。ある特定の態様では、プラズマは試料と接触することができる。プラズマが電極を介して生成されるある特定の態様では、プラズマは、試料に対して最大3cmの距離、例えば限定されないが、最大1cmの距離、または最大3mmの距離で配置される電極によって生成され得る。当業者は、これらの距離が、例えば、より大きいまたは小さい電圧を使用するかまたはプラズマパルスの周波数を変化させることによって、拡大または縮小されてもよいことを認識する。
【0045】
ステップa)の生成は、それにより複数のマーカーラジカル前駆体の1つまたは複数を、1つまたは複数のマーカーラジカルに変換することができる。マーカーラジカルの例としては、限定されないが、ヒドロキシルラジカル(●OH)、水素ラジカル(H・)、亜硝酸もしくは二酸化窒素ラジカル(●NO2)、硝酸ラジカル(●NO3)、ペルオキシドラジカル(●OOH)、ラジカル前駆体とプラズマ相互作用することにより生成されるとして当業者に既知の他のラジカルおよびそれらの組み合わせなどが挙げられる。マーカーラジカル前駆体の例としては、限定されないが、水または過酸化水素などのヒドロキシルラジカル前駆体、水素ガスなどの水素ラジカル前駆体、亜硝酸塩または二酸化窒素などの亜硝酸または二酸化窒素ラジカル前駆体、硝酸塩などの硝酸ラジカル前駆体、過酸化水素などのペルオキシドラジカル前駆体、プラズマと相互作用することによりラジカルに変換されることが当業者に既知の他の前駆体およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。時間の長さは、1つまたは複数のマーカーラジカルが生体分子と相互作用するのに十分な時間の長さでありうる。この相互作用は、生体分子を修飾することができる。
【0046】
いずれか特定の理論に限定されることは望まないが、流体中でプラズマを生成することは、流体中のマーカーラジカル前駆体をマーカーラジカルに変換することを含むことができ、マーカーラジカルは次いで拡散し、または一部が試料内に移行する。いずれか特定の理論に限定されることは望まないが、試料内でプラズマを生成することは、試料中のマーカーラジカル前駆体をマーカーラジカルに変換することを含むことができ、マーカーラジカルは試料内に拡散し、次いで生体分子と相互作用する。ある特定の態様では、流体中または試料内でプラズマを生成することは、流体内と試料内の両方にプラズマを生成することを含むことができる。
【0047】
ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、プラズマジェットからプラズマを生成することを含むことができる。プラズマジェットの背後にある原理は、下記でより詳細に記載されるが、簡単には、プラズマジェットは、閉鎖空間にプラズマを生成し、続いて、生成されたプラズマを、ガス流を使用して標的の方へ(この場合は試料の方へ)発射することを含む。
【0048】
プラズマを生成するステップは、単一のプラズマパルスまたはプラズマパルスのシーケンスを生成することを含むことができる。
【0049】
ある特定の態様では、プラズマは、1Vから1MVの間の電圧、例えば限定されないが500Vから100kVの間、1kVから50kVの間、または5kVから15kVの間の電圧によって生成することができる。先に開示した距離と同様に、これらの電圧は、特定の操作パラメータに応じて拡大または縮小することができる。
【0050】
プラズマパルスのシーケンスを利用する態様では、このパラグラフの操作パラメータを利用することができる。プラズマパルスは、1ピコ秒から1ミリ秒の間の範囲のパルス幅、例えば限定されないが500ピコ秒から100マイクロ秒の間または1ナノ秒から10マイクロ秒の間の範囲内のパルス幅を有することができる。プラズマパルスのシーケンスは、1Hzから100GHzの間の範囲の周波数、例えば限定されないが10Hzから100MHzの間または1kHzから10kHzの間の範囲の周波数を有することができる。プラズマパルスのシーケンスは、1ナノ秒から数時間~数日の間の範囲の合計の時間の長さ、例えば限定されないが100ナノ秒から20分の間、1マイクロ秒から1時間の間、1ミリ秒から30分の間、1秒から10分の間または30秒から5分の間の範囲の合計の時間の長さにわたり生成することができる。プラズマパルスのシーケンスについての上述のパルス幅、周波数および合計の時間の長さパラメータは、生じるマーカーラジカルの寿命、標的生体分子の濃度、標的生体分子のサイズ、マーカーラジカル前駆体の濃度、変動する濃度のマーカーラジカルが存在する場合の標的生体分子の安定性、ならびに/または所望される生体分子の修飾および/もしくは破壊の程度に応じて変動することができる。
【0051】
ある特定の態様では、プラズマ生成ステップは、試料中に、ある濃度のマーカーラジカルを生成するように構成することができる。マーカーラジカルの濃度は、プラズマの直後が最も高く、マーカーラジカルが生体分子と相互作用する、および/もしくは試料内の他のコンポーネントと相互作用するにつれて経時的に減衰する、ならびに/または再組み換えプロセスにより経時的に自然に減衰する。ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、50nMから800μMの間でありうる試料中のマーカーラジカルのピーク濃度、例えば限定されないが、500nMから800nMの間、5μMから8μMの間または50μmから80μmの間の試料中のマーカーラジカルのピーク濃度を提供するように構成することができる。ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、50nMから800μMの間の試料中のマーカーラジカルの平均濃度、例えば限定されないが、500nMから800nMの間、5μMから8μMの間、または50μmから80μmの間の試料中のマーカーラジカルのピーク濃度を提供するように構成することができる。ある特定の態様では、平均濃度は、プラズマの「オン」時間に基づいて与えられる値の一部またはパーセンテージ、例えば限定されないが、与えられる値の75%、50%、40%、30%、20%または10%であることができる。平均濃度は、プラズマまたはプラズマパルスのシーケンスが生成されている間の時間の長さに、約5秒、10秒、30秒または1分の時間の長さを加えた時間の長さについて測定することができる。
【0052】
ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、生体分子または複数の生体分子の変性が開始する度合(amount)よりも少ない度合だけ試料の温度を上昇させることができる。複数の生体分子が異なる変性温度を有する場合には、プラズマを生成するステップは、最も低い変性温度を有する生体分子の変性が開始する度合よりも少ない度合だけ試料の温度を上昇させることができる。本開示のこの態様について、変性は、四次、三次または二次構造の変性を指すことができる。
【0053】
ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、試料の温度を50℃未満、例えば限定されないが、5℃未満、または0.5℃未満上昇させることができる。ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、試料の温度を73.5℃未満の温度へ、例えば限定されないが、28.5℃未満の温度へ、または23.5℃未満の温度へ上昇させることができる。
【0054】
ある特定の態様では、プラズマを生成するステップは、60MJ/μL未満の単位体積当たりのエネルギー量を試料に移行することができ、例えば限定されないが、180MJ/μL未満、または360MJ/μL未満の単位体積当たりのエネルギー量を試料に移行することができる。
【0055】
ある特定の態様では、方法は、1μLから400Lの間の体積を有する試料、例えば限定されないが、10μLから100mLの間の体積、または50μLから200μLの間の体積を有する試料に行うことができる。
【0056】
試料が流体によって接触されている態様では、流体は、0.01wt%から99.99wt%の間の濃度範囲、例えば限定されないが、10%から99.9%の間または90%から99%の間の濃度範囲のマーカーラジカル前駆体を含有する気体状フィードガスであることができる。気体状フィードガスは、空気、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、クリプトン、四フッ化炭素、水素、およびそれらの組み合わせなどであることができる。
【0057】
マーカーラジカル前駆体が試料内に位置する態様では、試料は、0.01wt%から99.99wt%の間の濃度範囲、例えば限定されないが、10%から99.9%の間または90%から99%の間の濃度範囲のマーカーラジカル前駆体を含有することができる。
【0058】
生体分子を修飾する方法は、複数の生体分子を修飾するために拡張することができる。拡張は、少なくとも2つの方法で行うことができる。第1に、単一の試料が、多数の生体分子を含有することができる。第2に、それぞれ少なくとも1つの生体分子を含有する複数の試料に、本明細書に記載の方法を行うことができる。複数の試料が関与するこの第2のアプローチのために、単一の試料に関して記載された方法の、例えば体積などの態様は、複数の試料のそれぞれ適用することができる。
【0059】
試料は、その試料内に1つまたは複数の生体分子を含有する生体試料であることができる、または試料は、生体分子を含むように調製された試料、例えば、緩衝溶液に溶解されたタンパク質試料であることができる。
【0060】
ある特定の態様では、生体分子は、核酸分子、タンパク質、脂質、生物代謝物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0061】
ある特定の態様では、試料は、血液、血漿、尿、唾液、リンパ、涙、汗、脳脊髄液、羊水、房水、硝子体液、胆汁、母乳、耳垢、乳糜、チャイム(chime)、内リンパ、外リンパ、滲出液、糞便、膣液(female ejaculate)、胃酸、胃液、粘液、囲心腔液、腹水、胸水、膿、粘膜分泌物(rheum)、皮脂、漿液、精液、スメグマ、痰、滑液、膣分泌物、嘔吐物、生きている細菌の培養物、生きている組織または真核生物の培養物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。ある特定の態様では、試料は、真核生物の細胞内液、真核生物の細胞外液、原核生物の細胞内液、原核生物の細胞外液、均質化された組織または細胞、均質化された組織または細胞の培養物、均質化された植物組織、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。試料が細胞外液である、ある特定の態様では、細胞外液は、血管内液、間質液、リンパ液、細胞透過液、植物アポプラスト液または維管束液、原核生物または真核生物のin vitro増殖からの余分な栄養培地、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。試料が生きている細菌、組織、または真核細胞の培養物である、ある特定の態様では、培養物は、原核生物の任意の種、任意の哺乳動物組織もしくは細胞の培養物、真核生物の任意の培養可能な種、またはそれらの組み合わせであることができる。ある特定の態様では、試料は、本明細書に記載のシステム中に適切に配置され得るおよび/または本明細書に記載の方法で使用するために適切であることができる、任意の生きている生物または生物のサブコンポーネント、例えば、1つまたは複数の細胞であることができる。
【0062】
ある特定の態様では、試料は、1つまたは複数の生体分子および緩衝溶液を含むことができる。ある特定の態様では、緩衝溶液は、リン酸緩衝生理食塩液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、トリス塩酸、炭酸水素アンモニウム、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-2,2’,2”-ニトリロトリエタノール(ビス-トリス)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、3-(N-モルホリニル)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩(MOPSO)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(ビス-トリスプロパン)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、3-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(DIPSO)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO)、Trizma、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)二水和物(POPSO)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPS)、N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン(TRICINE)、グリシルグリシン(GLY-GLY)、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(BICINE)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(HEPBS)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]プロパン-1-スルホン酸(TAPS)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、1-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、4-(シクロヘキシルアミノ)-1-ブタンスルホン酸(CABS)、Lysogenyブロス(LB)または他の栄養学的増殖培地、「生物学的緩衝液」として定義される任意のもの、生物学的または生理学的に関連の塩、およびそれらの組み合わせを含むことができ、またはそれらであることができる。ある特定の態様では、緩衝溶液は、1から14の間のpH値、例えば限定されないが、3から9の間のpHまたは4から8の間のpHを有することができる。
【0063】
上述の方法の操作パラメータは、生体分子へ所望の量の酸化を導入するために、当業者によって利用され得る。さらに、操作パラメータは、生体分子への最小限の量の損傷で、この酸化を誘導するために、当業者によって利用され得る。一方、操作パラメータは、生体分子へ所望の量の損傷を引き起こす条件下でこの酸化を誘導するために、当業者によって利用され得る。様々な種類の情報が、損傷を誘導しない方法から実現されうること、および様々な異なる種類の情報が、制御された損傷および/または完全な損傷を誘導する方法から実現されうることが認識されるべきである。
【0064】
酸化のレベルおよび損傷の量の制御は、ある特定の理想的操作パラメータへ予測可能な既知の応答を有する対照試料を使用してモニタリングすることができる。例えば、下記で実施例1に記載のチトクロムC実験は、ある特定の実験のための操作パラメータが適切であるかを決定するためのベンチマークとして使用することができる。ある特定の態様では、本明細書に記載の方法は、プラズマ誘起酸化へ既知の応答を有する対照試料を使用して、一組の操作パラメータを確認するステップを含むことができる。
【0065】
上記方法は、生体分子についての構造情報を決定するために利用することができる。生体分子は、生体分子の様々な部分との溶媒の相互作用を妨げる二次、三次、および四次構造を含むことができる。
【0066】
別の態様では、本開示は、生体分子の一部分が溶媒に接近可能であるかを決定する方法を提供する。方法は、以下のステップを含むことができる:試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して生体分子を酸化するステップ;酸化するステップに続けて、生体分子の一部分がステップa)の酸化によって酸化されたかどうかを評価するステップであり、ここで酸化の存在は、一部分が溶媒に接近可能であることを示し、酸化の不在は、一部分が溶媒に接近不能であることを示す、ステップ;および、一部分が溶媒に接近可能であるか溶媒に接近不能であるかを示すレポートを作成するステップ。
【0067】
別の態様では、本開示は、1つまたは複数の溶媒接近可能部分と1つまたは複数の溶媒接近不能部分とを有する1つまたは複数の生体分子を含有する生体試料を評価する方法を提供する。方法は、以下のステップを含むことができる;生体試料の第1のサブ試料および第2のサブ試料を取得するステップであって、第1のサブ試料および第2のサブ試料は、実質的に同等な濃度の1つまたは複数の生体分子を含有している、ステップ;生体試料の第2のサブ試料に切断因子を導入するステップであって、切断因子は、1つまたは複数の生体分子を変化させて溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を溶媒に曝露させるように構成されている、ステップ;第1のサブ試料および第2のサブ試料にマーカーラジカルを導入するプラズマを介して、第1のサブ試料および第2のサブ試料中の1つまたは複数の生体分子を酸化するステップ;酸化に続けて、第1のサブ試料の1つまたは複数の生体分子と第2のサブ試料の1つまたは複数の生体分子との間の酸化レベルの差異を評価し、それにより1つまたは複数の溶媒接近不能部分の少なくとも一部分を同定するステップ;ならびにレポートを作成するステップ。
【0068】
これらの方法の酸化は、本明細書の他の箇所に記載される方法によって達成することができる。
【0069】
切断因子を導入するステップは、1つまたは複数の生体分子における構造上の予測可能な変化を促すために使用することができる。比較のベースラインとしてこの構造上の予測可能な変化を使用して、切断因子の対象でない生体分子の酸化レベルを、切断因子の対象となった生体分子の酸化レベルと比較することにより、溶媒接近可能性に関する情報を得ることができる。
【0070】
いくつかの態様では、切断因子は、1つまたは複数の生体分子の溶媒接近不能部分の全てを、溶媒に曝露させることができる。例えば、タンパク質は、全てが溶媒に接近可能である個々のアミノ酸に消化することができ、この場合、消化タンパク質は、全ての部分が、溶媒に接近可能であり、したがって酸化され、未消化タンパク質は、溶媒に接近可能な通常の溶媒接近可能部分のみを有する。
【0071】
切断因子は、トリプシン(ウシ)、キモトリプシン(ウシ)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Pseudomonas fragi)、エンドプロテイナーゼArg-C(マウス顎下腺)、エンドプロテイナーゼGlu-C(V8プロテアーゼ)(Staphylococcus aureus)、エンドプロテイナーゼLys-C(Lysobacter enzymogenes)、ペプシン(ブタ)、サーモライシン(Bacillus thermo-proteolyticus)、エラスターゼ(ブタ)、パパイン(Carica papaya)、プロテイナーゼK(Tritirachium album)、サブチリシン(Bacillus subtilis)、クロストリパイン(エンドプロテイナーゼ-Arg-C)(Clostridium histolyticum)、エキソペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼA(ウシ)、カルボキシペプチダーゼB(ブタ)、カルボキシペプチダーゼP(Penicillium janthinellum)、カルボキシペプチダーゼY(酵母)、カテプシンC、アシルアミノ酸放出酵素(ブタ)、ピログルタメートアミノペプチダーゼ(ウシ)、当業者に既知の他の切断因子、およびそれらの組み合わせなどであることができる。
【0072】
評価ステップは、質量分析、ゲル電気泳動、DNA配列決定のような配列決定などを含むことができる。本明細書に記載の酸化は、生体分子の一部分の分子量を変化させることができる。例えば、ある特定のアミノ酸は、マーカーラジカルによる酸化を受けやすい。特定のアミノ酸の分子量の増加は、酸化の時点で溶媒接近可能であったことを示している。別の例として、in vivoのDNA片は、周囲の環境から(例えば、結合するタンパク質を有することによって)遮蔽される場合があり、そのDNA片は、本明細書に記載されるように生成されたラジカルに曝露されず、したがってラジカル切断を受けない。したがって、インタクトなままであり、そのように同定されたDNA片は、in vivoのタンパク質によって結合されていると関連づけられることができる。
【0073】
本明細書に記載の方法は、様々な適用のために、例えば限定されないが、バイオ医薬品の品質制御のために有用であることができる。バイオ医薬品は、意図される生物学的環境で機能させるために必要な二次、三次および/または四次構造を保持する場合のみ、ある特定の場合に有効であることができる。したがって、製造時、輸送中、および使用前に、バイオ医薬品が、意図された二次、三次および/または四次構造を失っていないことを確認することが重要でありうる。本明細書に記載の方法は、この構造をモニタリングし、バイオ医薬品のコンプライアンスを評価するための手段を提供する。
【0074】
本明細書に記載の方法はまた、被験体における1つまたは複数の生体分子のコンホメーション変化によって発現される疾患状態を評価することに利用することができる。例えば、疾患状態が、タンパク質の二量体が分裂することによって発現される場合、本開示の方法は、通常は溶媒に接近可能でない二量体のサブユニット間の接触表面が、溶媒に接近可能になったことを同定するために使用することができる。本開示の方法は、接触表面が溶媒に接近可能であると決定する場合、この情報を、疾患状態の診断を形成するために使用することができる。
【0075】
本明細書に記載の方法は、目的の試料の温度依存特性を調べるために利用することができる。例えば、動態、タンパク質の折り畳み、および他の目的の温度依存性メカニズムは、本明細書に記載の方法の温度依存展開を用いて調べることができる。
【0076】
本明細書に記載の方法は、目的の試料内のコンポーネントまたはサブコンポーネントの修飾速度を決定するために利用することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、目的のタンパク質の2つの異なる残基の酸化速度を比較することができ、それらの速度間の差異に基づいて、様々な後続の推論、例えば溶媒接近可能性のレベルの決定をなすことができる。
【0077】
システム
本開示は、システムも提供する。システムは、本明細書に記載の方法および組成物を用いた使用のために適切であることができる。本開示の特徴が所与のシステムに関連して記載されているとき、文脈が他のことを明確に指示していない限り、特徴はさらに、本明細書に記載の他のシステム、方法、および組成物と組み合わせ可能であることが明白に企図されている。さらに、
図1に示される本開示の態様に関連して以下に記載されている特徴は、文脈が他のことを明確に指示していない限り、
図2に示される本開示の態様にも適用可能であり、逆も同様である。例えば、
図2に示される冷却装置44、試料チャンバホルダー46、または保護ハウジング48およびドア50は、本開示の範囲を逸脱することなく、
図1の文脈において展開することができる。
【0078】
一態様では、
図1を参照して、本開示は、生体分子を修飾するためのシステム10を提供する。生体分子を修飾するためのシステム10は、試料チャンバ12、接地電極14、プラズマ電極16、電源18、および制御システム20を含むことができる。システム10は、電源18とプラズマ電極16との間に位置する増幅器22も含むことができる。システムは、試料チャンバ12と接地電極14との間に位置する誘電体24を含むことができる。
【0079】
試料チャンバ12は、試料26を受けるように構成することができる。試料26は、本明細書の他の箇所に記載されたものであることができる。試料チャンバ12は、化学的および生物学的に不活性な内面を有することができる。本明細書で使用されるとき、生物学的に不活性とは、1つまたは複数の生体分子のコンホメーション状態に影響を与えない材料を指す。
【0080】
試料チャンバ12は、円筒、楕円の円筒、立方体、円錐の切頭体、角錐(三角形、長方形、五角形など)の切頭体、プリズム(三角形、五角形、六角形など)、液体試料を保持するための任意の適切な形状、それらの任意の分割体(subdivision)(例えば、半円筒)などの様々な形状をとることができる。
【0081】
試料チャンバ12は、最適なプラズマ生成および生成されたマーカーラジカルのその後の相互作用を提供するように構成されており、高さ28および幅30を有することができる。高さ28は0.75インチであることができ、幅30は0.5インチであることができるが、試料チャンバ12の他のサイズも企図されており、適切なサイズは、当業者によって決定され得る。
【0082】
一部の態様では、試料チャンバ12は、オープントップを有することができる。一部の態様では、試料チャンバは、クローズドトップを有することができる。試料チャンバ12がクローズドトップを有する態様では、試料26は、試料26と接触する流体、例えば、ガス、空気などがないように試料チャンバ12を完全に満たすことができ、または試料26は、試料チャンバ12の一部分を満たし、流体が試料チャンバ12の残りの部分を占めることができる。
【0083】
ある特定の態様では、試料チャンバ12は、マイクロ流体装置および/またはチャネルの一部分であることができる。
【0084】
接地電極14は、当業者に既知の導電性材料から構成することができる。接地電極14に使用するための適切な導電性材料の例としては、限定されないが、銅、銀、金、アルミニウム、鉄、黒鉛、カルシウム、ベリリウム、マグネシウム、ロジウム、モリブデン、イリジウム、タングステン、亜鉛、コバルト、カドミウム、ニッケル、ルテニウム、リチウム、オスミウム、白金、パラジウム、セレン、タンタル、コロンビウム、鉛、バナジウム、スズ、チタン、それらの導電性酸化物、それらの導電性合金、導電性ポリマー、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0085】
プラズマ電極16は、当業者に既知の導電性材料から構成することができる。プラズマ電極16で使用するために適切な導電性材料の例としては、限定されないが、接地電極14に使用するために適切として上記に列挙した材料が挙げられる。
【0086】
いくつかの態様では、プラズマ電極16は、試料の近傍にあることができ、または試料と接触することができる。プラズマ電極16が試料の近傍にあるまたは試料と接触する場合では、プラズマ電極16は、試料を汚染しない材料から作ってもよい。当業者は、プラズマ電極16が試料を汚染する程度が試料の特性に依存することを認識している。プラズマ電極16は、本明細書の他の箇所に記載の試料を汚染しないものであることができる。
【0087】
プラズマ電極16は、プラズマ34が生じる点である、プラズマ源点32を含むことができる。プラズマ電極16は、複数のプラズマ源点32を含むことができる。
【0088】
ある特定の態様では、プラズマ電極16は、プラズマ電極16と試料26との間の直接接触を防止することができる誘電体コーティング(図示せず)を有することができる。誘電体コーティングは、少なくともプラズマ源点32を覆うことができる。当業者は、そのようなコーティングが有し得るシステム10のプラズマ生成特性に与えうる影響を認識し、そのようなコーティングを収容しながらシステム10の全体的性能を維持するためのシステム10の様々な態様を調節することができる。
【0089】
ある特定の態様では、プラズマ電極16は、針の形状、またはプラズマ34を発生させるために適切な任意の形状を有することができる。プラズマ源点32は、本開示によるプラズマ34を発生させるために適切な形状をとることができる。ある特定の態様では、プラズマ源点32は、針の先端の形状、丸みを帯びた凸面、平らな面、複数の針の先端、円盤、球、またはプラズマ34の生成に適することが当業者に既知の他の形状をとることができる。
【0090】
ある特定の態様では、プラズマ34は、電極を含まないプラズマ生成器によって生成することができる。一例として、マイクロ波源は、本明細書の他の箇所に記載された特性を有するプラズマ34を生成するように構成することができる。
【0091】
ある特定の態様では、プラズマ電極16は、プラズマ電極並進装置36に機械的に結合することができる。プラズマ電極並進装置36の例としては、限定されないが、1、2または3次元並進ステージ(手動および電動)、ロボットアーム、電極のアレイなどが含まれる。
【0092】
試料チャンバ12、接地電極14、および任意選択で誘電体24が、試料チャンバ並進装置(図示せず)を介してプラズマ電極16に対して移動可能であるシステムも企図されている。試料チャンバ並進装置の例としては、プラズマ電極並進装置36に関して上記したものが含まれる。
【0093】
制御システム20は、様々な機能生成器、プログラマブル制御、パルス生成器、電圧計、電流計、光センサ、温度計、ガス圧力センサ、ガス流量制御器、蛍光光度計、モノクロメータ、液体流量計、液体流量制御器、タイマー、またはシステム10の様々なコンポーネントの制御のために有用であると当業者が認識する他のコンポーネントを含むことができる。一部の場合では、制御システム20は、コンピュータである。制御システム20は、プラズマ放電の時間を正確に制御するように構成することができる。制御システム20は、プラズマ放電のミリ秒の分解能、例えば100ミリ秒を超える、10ミリ秒を超える、または1ミリ秒を超える分解能を提供することができる。
【0094】
システム10は、ユーザーインターフェース38を含むことができる。ユーザーインターフェース38は、制御システム20および/または電極並進装置36と通信することができる。ユーザーインターフェースは、コンピュータ、タブレットもしくはスマートフォンなどのパーソナル装置、ボタン、ノブ、スイッチなどの機械的入力の配置、またはユーザ入力を受け取り、シグナルを制御システム20および/もしくは電極並進装置36に提供し、システム10を操作するための、他の手段の形態をとることができる。
【0095】
ある特定の態様では、システム10は、1個よりも多い試料チャンバ12を有することができる。これらの態様では、システム10は、試料チャンバ16の数と同じ量の1個よりも多いプラズマ電極16を有することもできる。例えば、システム10は、96ウェルプレートと同様の試料チャンバ12のアレイと、それぞれの試料チャンバ12が、その中に配置される、プラズマ34の生成のためのプラズマ源点32を含むように構成された個々のまたは独立したプラズマ電極16のアレイとを有することができる。
【0096】
一態様では、システム10は、生体試料を評価するために使用することができる。生体試料を評価するためのシステム10は、生体分子の一部分がマーカーラジカルによって修飾されたかどうかを決定することができる分析装置40を任意選択で含むことができる。分析装置40は、制御システム20および/またはユーザ入力38と、任意選択で電子通信することができる。制御システム20は、システム10の他の態様に従って、分析装置40の制御を任意選択で調整することができる。ユーザーインターフェース38は、任意選択で、分析装置を制御するようにおよび/または分析装置40の制御のためのユーザ入力を直接受け取るように、分析装置40と協調して使用することができる。
【0097】
ある特定の態様では、分析装置40は、質量分析計であることができる。質量分析計は、特定の関連の種を検出するように構成された専用の質量分析計であることができる。例えば、専用の質量分析計は、他の質量を無視する一方で、修飾されたアミノ酸を位置づける配列情報を取得できるようにするため、酸化および非酸化ペプチドの質量を検出するように構成することができる。
【0098】
ある特定の態様では、試料チャンバ12は、ユーザが試料を分析装置に移す必要なしに試料を自動的に処理できるように、分析装置40に直接的に接続することができる。ある特定の態様では、自動移送は、例えば、ロボットピペットシステムを介して行うことができる。
【0099】
ある特定の態様では、システム10は、試料26を、試料チャンバ12に自動的に導入するための試料ホッパーを含むことができる。試料ホッパーの例としては、限定されないが、試料チャンバの上方に配置される自動ピペットが挙げられる。当業者は、ガスクロマトグラフィーのような他の技術で使用可能な自動化技術が、システム10で使用可能であり得ることを認識する。
【0100】
下記の参照試料およびキットと組み合わせて、自動ローディングおよび/または分析装置への自動移送を使用することにより、システム10は、操作パラメータを自動的に最適化することができる。例えば、システム10は、参照質量スペクトルをメモリに保存することができた。システムは、次いで、参照試料を試料チャンバに自動的に導入し、参照試料を一組の操作パラメータで自動的に酸化し、酸化された参照試料を質量分析計に自動的に移行させ、参照試料の質量スペクトルを自動的に取得し、取得した質量スペクトルと保存された参照質量スペクトルとを比較することができる。システムは、取得された質量スペクトルが、保存された参照質量スペクトルと実質的に一致するまで、このプロセスを繰り返すことができ、最適化ルーチンを使用して操作パラメータを変動させることができる。
【0101】
本明細書で使用されるとき、「接地電極」は、個々の接地電極、または互いに実質的に同等に接地されている複数の接地電極を指す。例えば、単一の接地に全て電気的に接続されている複数の銅電極は、この開示の文脈において、一つの接地電極と考えることができる。分かり易くするために、接地電極への参照は、任意の数の個々の接地電極を含む。
【0102】
図2を参照して、
図1に示される特徴に匹敵し、交換可能である修飾を有するシステム10を説明する。
図2に示され、
図1に関連して上述された特徴は、効率のためにここでは繰り返さないが、上述と同じおよび/または同様の文脈で展開される。そのような特徴が
図2の文脈で使用されるように適合する必要がある場合、当業者はそのような適合に対応する方法を理解する。一態様では、
図2を参照して、本開示は、プラズマジェット42を含むシステム10を提供する。システム10は、プラズマジェット42から生じるプラズマ34を正確に送達するために、プラズマジェット42を物理的に操作するように構成されたプラズマジェット並進装置37を含むことができる。システム10は、試料チャンバ12内の試料26を熱的に冷却するように構成された冷却装置44を含むことができる。システムは、試料チャンバ12を受けるように構成された試料チャンバホルダー46を含むことができる。システム10は、保護ハウジング48を含むことができる。保護ハウジング48は、ドア50を含むことができる。システム10は、ガスマニホールド52を含むことができる。システム10は、温度センサ54を含むことができる。
【0103】
本明細書で使用されるとき、用語「プラズマジェット」は、第1の空間内でプラズマを生成し、生成されたプラズマを、ガスの移動およびプラズマジェットの形成を介して標的へ向けて推進する装置を指す。プラズマ生成分野における当業者は、プラズマジェットが、本開示の範囲を逸脱することなく、様々な形態をとりうることを認識する。一例では、プラズマジェット42は、上記のようなマーカーラジカル前駆体を有する流体が流れるガラス管であることができる。ガラス管は、ガラス管内でプラズマ34を生成するように構成された電極、一部の場合では巻電極、によって包囲されていることができる。次いで、流体の流量は、ガラス管の外へ試料26に向かってプラズマ34を推進するように、調整することができる。ガラス管は、プラズマ34の再現可能な方向づけを容易にする形状を有することができる。プラズマジェット42は、当業者に既知のフィードガス制御を有することができ、制御システム42によって制御され得る。またプラズマジェット42は、プラズマ34の方向性、サイズ、および形状の制御のためのシースガスを展開する能力を有することができる。市販のプラズマジェットの非限定的な例としては、Roswell、GAに本社を置くPlasma Surgical,Inc.から市販されているPlasmaJet(登録商標)が挙げられる。
【0104】
プラズマジェット42を使用する利点としては、例えば限定されないが、位置の柔軟性、プラズマ34の制御の増強、および当業者に認識される他の利点を挙げることができる。一例として、プラズマジェット42の使用は、より大きな試料チャンバ12の使用を容易にすることができる。この例では、プラズマジェット42を展開して、試料26の広い表面にわたって「走査」(例えば、ラスタ走査運動)することができ、プラズマ34を試料26の様々なエリアに導入することができた。
【0105】
一部の場合では、プラズマジェット42は、その機能に関連した乱流を有することができる。乱流は、試料26の混合を助けるために有利に使用することができる。
【0106】
冷却装置44は、当業者に既知の対流冷却装置であることができる。適切な冷却装置44の例としては、限定されないが、液体フロースルー冷却装置、ペルチェ冷却器などを挙げることができる。冷却装置44は、制御システム20によって制御され得る。図示されないが、冷却装置44は、加熱装置または冷却加熱装置であってもよいことが認識されるべきである。
【0107】
試料チャンバホルダー46は、試料チャンバ12を受けるように構成されることができ、したがって試料チャンバ12のサイズおよび形状を基準にしたサイズおよび形状を有することができる。一部の場合では、試料チャンバホルダー46は、試料チャンバ12を受けるように構成された凹状のキャビティを有することができる。一部の場合では、試料チャンバホルダー46は、試料チャンバ12が静置される平らな表面を有することができる。試料チャンバ12が円筒形状を有する、ある特定の場合では、試料チャンバホルダー46は、試料チャンバを受けるように構成された円筒状のキャビティを有することができる。試料チャンバホルダー46は、セラミックなどの熱伝導性材料で作ることができる。試料チャンバホルダー46は、電気的に絶縁していることができる。
【0108】
保護ハウジング48は、密閉されていることができる。保護ハウジング48のドア50は、自動ロック機構を有することができる(図示せず)。自動ロック機構は、制御システム20と電子通信することができ、制御システム20によって制御され得る。自動ロック機構は、システム10の使用時にはドア50をロックし、システム10が使われていないときはドア50のロックを解除することによって機能することができる。保護ハウジング48は、保護ハウジング内の環境を制御するためにガスを受ける入口51を有することができる。ガスマニホールド52は、入口に結合することができ、保護ハウジング48内の大気組成を制御することができる。ガスマニホールド52は、手動で制御することができ、または、任意選択で制御システム20によって、自動で制御することができる。保護ハウジング48は、透明であることができる。保護ハウジング48は、プレキシガラスで作ることができる。
【0109】
温度センサ54は、試料チャンバ12の近く、試料チャンバ12内、試料26の近く、および/または試料26内に配置され得る。複数の温度センサ54を使用することができる。温度センサ54は、温度計、熱電対、またはガスおよび/もしくは液体の温度を測定するために有用であることが当業者に既知の他の任意の装置であることができる。温度センサ54は、任意選択で、制御システム20と通信することができる。温度センサ54で測定された温度は、システム10を制御するために、特にプラズマ34および/または冷却装置44を制御するために、フィードバックとして利用することができる。
【0110】
電源18は、フライバック変成器を含むこと、および利用することができ、したがってより低いコストで高電圧性能を提供することができる。
【0111】
制御システム20は、試料に導入されたプラズマパルスの数に関してフィードバックを受けることができ、フィードバックに基づいてシステム10をさらに制御することができる。
【0112】
一部の場合では、試料26は、蒸発および/または乱流を最小にするために試料26の上に油の層(図示せず)を有することができる。
【0113】
物質の組成物
本開示は、物質の組成物を提供する。
【0114】
一態様では、物質の組成物は、液体試料中の生体分子と、試料内のプラズマとを含むことができる。液体試料は、少なくとも1つのマーカーラジカル前駆体を含むことができる。プラズマは、マーカーラジカル前駆体をマーカーラジカルに変換するように構成することができる。
【0115】
一態様では、物質の組成物は、流体によって接触されている液体試料中の生体分子と、液体試料および/または流体内のプラズマを含むことができる。液体試料および/または流体は、少なくとも1つのマーカーラジカル前駆体を含むことができる。プラズマは、マーカーラジカル前駆体をマーカーラジカルに変換するように構成することができる。
【0116】
上記物質の組成物のある特定の態様では、組成物は、複数のマーカーラジカル前駆体を含むことができ、前駆体のいくつかの部分はマーカーラジカルに変換され、したがって組成物は、プラズマと、マーカーラジカル前駆体と、マーカーラジカルとを含むことができる。
【0117】
一態様では、物質の組成物は、プラズマ誘起酸化への予測可能な応答を有するように構成された合成生体分子を含むことができる。合成生体分子は、所定の質量および/または所定の配列を有することができる。合成生体分子は、所定の回数、例えば1回、2回、3回など、最大n回の回数、選択的に酸化されるように構成することができる。合成生体分子は、特定のアミノ酸などの特定の残基、または複数の特定の残基で選択的に酸化されるように構成することができる。合成生体分子は、特定のラジカルマーカーによって選択的に酸化されるように構成することができる。
【0118】
合成生体分子は、ある特定の条件下で溶媒接近可能であり、他の条件下で溶媒接近不能である特定の残基で選択的に酸化されるように構成することができる。例えば、特定の残基は、第1の温度、pH、塩分または他のパラメータで溶媒接近可能であり、第2の温度、pH、塩分または他のパラメータで溶媒接近不能であることができる。
【0119】
ある特定の態様では、物質の組成物は、合成生体分子に関連して上記に示したものおよび/またはプラズマ誘起酸化への予測可能な応答などの所定の特性を有するように構成された合成生体分子の混合物を含むことができる。
【0120】
ある特定の態様では、物質の組成物は、本明細書に記載のシステムおよび方法のベンチマークとなる性能のための基準として利用することができる。
【0121】
キット
本開示は、キットを提供する。
【0122】
一態様では、キットは、参照試料と、上記方法の1つまたは複数に従って生体分子の特性の同定において参照試料を有用なものとすることができる情報とを有することができる。参照試料は、プラズマ誘起酸化への既知の応答を有することができる。情報は、既知の応答を含むことができる。例えば、情報は、参照試料の最適なプラズマ誘起酸化のための既知の質量スペクトルであることができ、メモリに保存することができる。
【0123】
実験者は、タンパク質試料が貴重でありうることを認識する。したがって、本開示のキットは、ユーザが、適切な設定により、さほど貴重でない参照試料の破壊しかリスクがないように、システムをチューニング可能なものであってもよい。例えば、上述の方法に対する既知の応答を有する参照試料および既知の応答を記載する情報を使用してシステムの操作パラメータを最適化することができ、次いで最適化された操作パラメータを、目的の試料自体に使用することができる。
【0124】
一態様では、キットは、システムが適切に構成されているかどうかを決定するために使用することができる。
【0125】
参照試料は、プラズマ誘起酸化に対する応答がある程度既知である限り、本明細書の他の箇所に記載の試料の特徴を含むことができる。
【0126】
情報は、参照質量スペクトルまたは参照質量スペクトルのカタログの形態であることができる。
【実施例】
【0127】
(実施例1 チトクロムCの標識化)
【0128】
図1に示されるシステムを使用して、タンパク質溶液中のラジカルを生成した。プラズマは以下のように発生させた。低電圧a.c.源により、可聴周波数範囲の可変周波数シグナルを生成した。このシグナルをTrek増幅器(Trek,Inc.、Lockport、NYから市販)に供給し、最大30kHzの同じ周波数で高電圧シグナルを発生させた。次いで、Trek増幅器の出力を、ガラス管中のタンパク質溶液の上に配置されたニッケル針に供給した。ガラス管は、高さ0.75インチ、直径0.5インチであった。ガラス管を、誘電体バリアとして機能するガラスの薄いシート(厚さ0.0625インチ)に密封した。銅電極を、ガラス誘電体の反対側に配置し、シグナル生成器の他の側(接地された側)に接続した。針と銅電極の間の電圧が、電圧の大きさおよびシグナル生成器の周波数に依存した特定の値を超えるときはいつでも、プラズマがマイクロ秒バーストで形成された。プラズマは、タンパク質溶液上の空気中で生成し、液体自体の中へ広がった。
【0129】
得られた誘電体バリア放電の写真を
図3に示す。放電にわたる電圧および電流のプロットを
図4に示しており、ここで電圧はUで標識し、電流はIで標識している。プロットは、分解が起こった時間およびプラズマが生成した時間を示している。電圧は急上昇し、電流は正の値と負の値との間で振れ、パルス幅は3~4マイクロ秒であった。
【0130】
この方法のタンパク質標識化能力を説明するために、精製タンパク質チトクロムCを、タンパク質溶液で使用した。チトクロムCは、背景技術の項目に記載のシンクロトロンに基づく方法を含む他の方法で歴史的にベンチマークとされているモデルタンパク質である。方法の有効性を実証するために、濃度50μMの弱緩衝塩溶液(lightly buffered salt solution)中のチトクロムCを、以下の条件下で試験した:プラズマ曝露なし;30秒のプラズマ曝露;および2分のプラズマ曝露。実験は独立して2回実施し、2つの異なる補完的質量分析技術を使用して分析した。結果を
図5に要約しており、この図は、プラズマ曝露時間が増加すると、チトクロムCの特定の領域の修飾が増加したことを説明している。これらの実験は、上述の方法の用量依存性と再現性の両方を確証した。
【0131】
(実施例2 ウシ血清アルブミンの標識化)
【0132】
図1に示されるシステムを使用して、実施例1の記載と同じ操作パラメータで、タンパク質溶液中のラジカルを生成した。
【0133】
濃度10μMの弱緩衝塩溶液中の精製ウシ血清アルブミン(BSA)を、以下の条件下で試験した:プラズマ曝露なし;30秒のプラズマ曝露;および1分のプラズマ曝露。BSA内の4つの異なるペプチドを、用量依存的様式で上記方法によって修飾した。
【0134】
図6を参照して、プロットに、3つの異なる条件下の4つの異なるペプチドの修飾%を示す。実施例1と組み合わせて、この実施例は、異なる濃度でのタンパク質の標識化、サイズの異なるタンパク質の標識化、および異なる生理化学的特性を有するタンパク質の標識化におけるシステムおよび方法の有効性を説明する。
【0135】
(実施例3 サイズ依存的および曝露用量依存的様式でのDNAの分解)
【0136】
水中の精製ラムダファージゲノムDNA試料を、
図1に示されたものと同様の実験セットアップおよび実施例1に記載の実験パラメータで、試料として用いた。ラムダファージゲノムは、48,500塩基対を含有しており、線形である。試料を、プラズマなし、5秒、10秒、15秒、30秒、45秒および60秒のプラズマに曝露した。
図7を参照して、プラズマ曝露後のDNA試料を用いた電気泳動ゲルの試行を示す。曝露なし、5秒曝露および10秒曝露の試料は、大半が修飾されていなかった。15秒、30秒、45秒および60秒曝露の試料は、ゲル中にスメアを生じた。スメアは、DNAを非特異的に切断し、したがって様々な異なるサイズの片を導くヒドロキシルラジカルから生じた多くの様々なDNA分解産物を表す。曝露時間が増加したときのスメアのシフトは、曝露時間の増加に応じた分解産物のサイズの減少を説明している。
【0137】
7500塩基対のプラスミド(環状DNA)を、同じ条件で、曝露なし、5秒の曝露、10秒の曝露、15秒の曝露、および30秒の曝露に曝露した。
図8を参照して、プラズマ曝露後のDNA試料を用いた電気泳動ゲルの試行を示す。この例の場合、ラムダファージゲノムDNAと比較して、このDNAの分解を開始するために必要な全体的曝露時間は短かったが、同様の結果が全体的に観察された。
【0138】
(実施例4 インタクト/生細胞内のタンパク質の標識化)
【0139】
生きているE.coliを実施例1に記載のプラズマ条件に曝露した。試料を、プラズマなし、1分のプラズマ曝露、3分のプラズマ曝露、および5分のプラズマ曝露に曝露した。プラズマ曝露の結果として、E.coliの生存度に有意な減少は観察されなかった。配列情報が質量分析後に導き出された全てのペプチドを試験し、少なくとも1つの酸化事象を含むペプチドのパーセンテージの用量依存的増加を同定した。結果を
図9にまとめる。
【0140】
E.coli由来の単一タンパク質であるグリセロールキナーゼを、分析のためにプロテオミクスバックグラウンドから単離した。
図10を参照して、タンパク質内の位置に対する修飾%のプロットを示す。プロットは、修飾が、タンパク質の特定の領域、特に溶媒に曝露される領域で、選択的に生じたことを説明している。
【0141】
(実施例5 酸化に対するコンホメーションの感受性)
【0142】
実施例1の実験パラメータを以下の2つの試料について繰り返した:1)インタクトのチトクロムCを含有する溶液;および2)最初にタンパク分解によってペプチドにすることによって変性されたチトクロムCを含有する溶液。両方の溶液を、同じ時間の長さにわたりプラズマに曝露した。標識化は、インタクトのチトクロムCと比較したとき、変性されたチトクロムCでより広範であった。この結果は、コンホメーション情報が、本明細書に記載のシステムおよび方法から導き出せることの証拠を提供する。
【0143】
(実施例6 天然 対 消化ウシ血清アルブミンの比較)
【0144】
水中の未消化および消化ウシ血清アルブミン試料を、
図1に示されたものと同様の実験セットアップおよび実施例1に記載の実験パラメータで、試料として用いた。
図11~16を参照して、未消化(上部)および消化(下部)ウシ血清アルブミンの酸化レベルを比較するプロットを示す。
図11および12は、100%の尺度とし、
図13および14は10%の尺度とし、
図15および16は1.0%の尺度とした。100%の尺度のプロットでは多少類似して見えるが、10%および1.0%の尺度のプロットでは、未消化実験と消化実験との間の大きな差異が示される。詳細には、これらのデータは、タンパク質が消化されていないとき、溶媒の相互作用の減少によって、様々な残基の酸化は制限されることの証拠を示している。一方で、消化により、ほとんどの残基が溶媒接近可能となり、消化実験で得られた酸化レベルは、より多くの残基が接近可能であることを説明している。この実施例は、本明細書に記載の方法が、溶媒接近可能性を調べるために有用であること、および消化タンパク質が、未消化タンパク質と比較するためのベンチマークとして利用できることを確認する。
【0145】
(実施例7 リガンドに結合されたおよび結合されていないタンパク質の溶媒接近可能性の調査)
【0146】
この実施例では、
図1に示されたものと同様の実験セットアップおよび実施例1に記載の実験パラメータを使用した。
図17を参照して、上皮増殖因子受容体(EGFR)タンパク質のタンパク質結晶構造を示す。黒色の残基は、上皮増殖因子(EGF)に結合されたEGFRの酸化と比較したとき、EGFに結合されていないEGFRで酸化が大きい残基を表す。
図18を参照して、EGFRタンパク質活性化ホモ二量体のタンパク質結晶構造を示す。両方の場合でEGFは図示していない。測定された酸化の減少(つまりEGFに結合したときの酸化の減少)と関連する残基の多くがEGFRホモ二量体の界面に位置しており、これにより、結合および二量体形成の構造的修飾の結果として、EGFの結合および活性化ホモ二量体の形成における相互作用エリア(加えてこれらの相互作用エリアから離れたいくつかの残基)で酸化が減少していることが示唆されることが認識されるべきである。
【0147】
本発明を、ある特定の態様に関連してかなり詳細に記載してきたが、当業者は、本発明が、説明の目的で提示された、限定のない、記載された実施形態以外の方法で実施できることを認識する。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲は、本明細書に含まれる実施形態の記載に限定されるべきでない。