(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】研削状態監視方法、研削状態監視プログラムおよび研削状態監視装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/16 20060101AFI20220127BHJP
B24B 19/12 20060101ALI20220127BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B19/12 C
G05B19/4155 V
(21)【出願番号】P 2019126531
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2021-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
(72)【発明者】
【氏名】大庭 卓
(72)【発明者】
【氏名】田島 滉太
(72)【発明者】
【氏名】若杉 諒介
(72)【発明者】
【氏名】石脇 健太
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-097839(JP,A)
【文献】特開2018-106562(JP,A)
【文献】特開2018-001301(JP,A)
【文献】特許第5985124(JP,B1)
【文献】特開2000-288895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-1/04
B24B9/00-19/28
B24B41/00-51/00
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
研削砥石を用いて
、円筒状であって互いに共通する形状を有する共通部分を有する複数の研削対象物の研削を行ったときの動力値の推移を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物
の前記共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定し、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成する
処理を実行することを特徴とする研削状態監視方法。
【請求項2】
コンピュータが、
研削砥石を用いて、複数の研削対象物の研削を行ったときの動力値の推移を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物間で共通する形状を有する共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定し、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成する、
処理を実行し、
前記複数の研削対象物の各々はカムシャフトであり、前記共通部分は前記カムシャフトのベース円の部分であることを特徴とする研削状態監視方法。
【請求項3】
前記第1情報に基づいて、前記研削砥石が前記複数の研削対象物の研削を行わない状態における前記動力値である第2動力値を特定し、
前記第1動力値から、前記第2動力値を除外した第3動力値を算出する、処理を前記コンピュータが実行し、
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第3動力値と前記第2情報とに基づいて、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項1
又は2に記載の研削状態監視方法。
【請求項4】
前記第1情報に基づき、研削の仕上げを行う状態における前記動力値である第4動力値を特定する、処理を前記コンピュータが実行し、
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第4動力値と前記第2情報とに基づいて、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項1
乃至3何れか一項に記載の研削状態監視方法。
【請求項5】
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第1動力値の最小値、最大値及び平均値のうち少なくとも一つを説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項1乃至
4何れか一項に記載の研削状態監視方法。
【請求項6】
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第1動力値および前記研削砥石の径を説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項1乃至
5何れか一項に記載の研削状態監視方法。
【請求項7】
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第1動力値および前記研削対象物の前記ベース円の径を説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項
2に記載の研削状態監視方法。
【請求項8】
前記品質予測モデルを生成する処理において前記コンピュータは、前記第1動力値および前記研削対象物の回転数を説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成することを特徴とする請求項1乃至7何れか一項に記載の研削状態監視方法。
【請求項9】
前記動力値は、前記研削砥石の駆動に要する電流値であることを特徴とする請求項1乃至8何れか一項に記載の研削状態監視方法。
【請求項10】
コンピュータに、
研削砥石を用いて
、円筒状であって互いに共通する形状を有する共通部分を有する複数の研削対象物の研削を行ったときの動力値を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物
の前記共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定し、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成する
処理を実行させることを特徴とする研削状態監視プログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
研削砥石を用いて、複数の研削対象物の研削を行ったときの動力値の推移を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物間で共通する形状を有する共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定し、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成する、
処理を実行させ、
前記複数の研削対象物の各々はカムシャフトであり、前記共通部分は前記カムシャフトのベース円の部分であることを特徴とする研削状態監視プログラム。
【請求項12】
前記品質予測モデルを生成する処理において、前記第1動力値および前記研削対象物の前記ベース円の径を説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする請求項11に記載の研削状態監視プログラム。
【請求項13】
前記品質予測モデルを生成する処理において、前記第1動力値および前記研削対象物の回転数を説明変数、前記第2情報を目的変数として、前記品質予測モデルを生成する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする請求項10乃至12何れか一項に記載の研削状態監視プログラム。
【請求項14】
前記動力値は、前記研削砥石の駆動に要する電流値であることを特徴とする請求項10乃至13何れか一項に記載の研削状態監視プログラム。
【請求項15】
研削砥石を用いて複数の研削対象物の研削を行う研削加工機と、
円筒状であって互いに共通する形状を有する共通部分を有する複数の研削対象物の研削を行ったときの前記研削加工機の動力値の推移を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得する取得部と、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物
の前記共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定する特定部と、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成するモデル生成部と
を有することを特徴とする研削状態監視装置。
【請求項16】
研削砥石を用いて複数の研削対象物の研削を行う研削加工機と、
前記複数の研削対象物の研削を行ったときの前記研削加工機の動力値の推移を示す第1情報と、前記複数の研削対象物の品質を示す第2情報とを取得する取得部と、
前記第1情報に基づき、前記複数の研削対象物間で共通する形状を有する共通部分を研削したときの前記動力値である第1動力値を特定する特定部と、
前記第1動力値と前記第2情報とに基づいて、品質予測モデルを生成するモデル生成部と
を有し、
前記複数の研削対象物の各々はカムシャフトであり、前記共通部分は前記カムシャフトのベース円の部分であることを特徴とする研削状態監視装置。
【請求項17】
前記動力値は、前記研削砥石の駆動に要する電流値であることを特徴とする請求項15または16に記載の研削状態監視装置。
【請求項18】
前記複数の研削対象物は、形状が互いに相違する非共通部分を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の研削状態監視方法。
【請求項19】
前記複数の研削対象物は、形状が互いに相違する非共通部分を更に有することを特徴とする請求項10又は11に記載の研削状態監視プログラム。
【請求項20】
前記複数の研削対象物は、形状が互いに相違する非共通部分を更に有することを特徴とする請求項15または16に記載の研削状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削状態監視方法、研削状態監視プログラムおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの製造業では、研削砥石を高速で回転させ、カムシャフトなどの研削対象物を示すワークを研削する研削加工を行うことにより、品質を一定に保つことが行われている。研削を繰り返すことで、研削砥石の目潰れやバランスが低下し、研削されたワークの品質の低下に繋がることから、品質を一定に保つために、研削砥石のドレッシングが定期的に行われる。
【0003】
一般的に、研削砥石のドレスタイミングは、作業員の経験や作業員の試行錯誤により、ある一定の研削回数で設定されている。近年では、研削砥石を回転させる回転用モータの負荷電流値が閾値を越えた場合に、切れ味低下など研削砥石の状態が悪化したと判定し、ドレッシングを行う技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-263437号公報
【文献】特開2009-006456号公報
【文献】特開昭51-050083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各ワークの研削表面が同じ状態であっても、研削砥石を回転させる研削時の負荷電流値はばらつきをもつため、研削砥石の表面の粗さを精度よく予測することが難しい。
【0006】
なお、ドレスタイミングの判定が不正確になると、品質が低下していない研削砥石をドレッシングしたり、品質が低下した研削砥石で研削加工を継続して行う状態が発生する。この結果、不要なドレッシングに伴うドレッシングのコスト増大や研削砥石の寿命の低下や、研削されたワークの品質低下にも繋がる。
【0007】
一つの側面では、研削品質の予測精度を向上させることができる研削状態監視方法、研削状態監視プログラムおよび装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の案では、研削状態監視方法は、コンピュータが、研削砥石を用いて研削対象物の研削を行ったときの前記研削砥石を駆動させた動力値の推移と研削対象物の品質を示す情報とを取得する処理を実行する。研削状態監視方法は、コンピュータが、前記動力値の推移から、前記研削砥石が研削対象とする複数の研削対象物の共通部分を研削したときの動力値である共通部分の動力値を抽出する処理を実行する。研削状態監視方法は、コンピュータが、前記共通部分の動力値と前記研削対象物の品質を示す情報とに基づくデータを用いて、研削状態を予測する品質予測モデルを生成する処理を実行する。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態によれば、研削品質の予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1にかかる研削装置の全体構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施例1にかかる研削品質予測装置を説明する図である。
【
図3】
図3は、実施例1にかかる研削品質予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、研削データの一例を説明する図である。
【
図5】
図5は、動力値の推移データを説明する図である。
【
図6】
図6は、学習用のデータの一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、ベース円を研削するタイミングの特定を説明する図である。
【
図8】
図8は、各プロセスの判定を説明する図である。
【
図9】
図9は、ベース円の研削時の動力値を用いた学習用のデータの生成例を説明する図である。
【
図10】
図10は、精研プロセスと微研プロセスの動力値を用いた学習用のデータの生成例を説明する図である。
【
図11】
図11は、空研プロセス時の動力値を除外した学習用のデータの生成例を説明する図である。
【
図12】
図12は、品質予測モデルの学習を説明する図である。
【
図13】
図13は、学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、研削砥石の直径を学習用のデータに利用する例を説明する図である。
【
図16】
図16は、カムシャフトの直径や回転数を学習用のデータに利用する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願の開示する研削状態監視方法、研削状態監視プログラムおよび装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0012】
[全体構成]
図1は、実施例1にかかる研削装置の全体構成を説明する図である。
図1に示すように、研削装置は、研削加工機1と研削品質予測装置10とがネットワークNを介して相互に通信可能に接続される。なお、ネットワークNは、有線や無線を問わず、インターネットや専用線などの各種通信網を採用することができる。
【0013】
研削加工機1は、研削対象であるワークの研削を実行して、所望の品質のワークを生成する装置である。具体的には、研削加工機1は、研削砥石2を駆動させて、ワークの一例であるカムシャフト3の研削を実行する。また、研削加工機1は、ドレス装置4を用いて研削砥石2のドレッシングを定期的に行うことで、品質を保証する。
【0014】
研削品質予測装置10は、研削加工機1の研削過程や研削対象物の品質を示す情報を取得し、研削品質の予測を行うコンピュータ装置の一例である。具体的には、研削品質予測装置10は、研削砥石2を駆動や回転させる動力値を示す砥石軸動力値(以下では、単に動力値と記載する場合がある)と、研削後のカムシャフト3の品質との関係性を入力として品質予測モデルを学習する。その後、研削品質予測装置10は、学習後の品質予測モデルを用いて研削砥石2の状態を予測して、ドレッシングタイミングの指標をユーザ等に出力する。
【0015】
一般的に、研削加工を実施する場合、被研削物の仕様情報は研削加工機1へプログラミングされている。そして、加工する前に研削加工機は被研削物の型式を確認し、それぞれに合わせた仕様に合わせた加工を実施する。例えば、カムシャフト3を研削する場合、カムシャフト3に記載された型式情報を事前に読み取り、読み込んだ仕様になるよう、研削加工を実施する。カムシャフト3の断面を
図1に示す。研削加工中は、カムシャフト3は加工機にクランプして固定され、回転動作を実行する。回転動作するカムシャフト3に対して、研削砥石2はアプローチする。アプローチは、研削プロセスに従い、切り込み量を一定に保ちながら、カムシャフト3へアプローチし、研削を実施する。研削砥石2は、カムシャフトベース円(
図1のカムシャフト3の太線の箇所)、トップ、リフト部の形状に合わせながら座標を制御しながら研削を実施する。
【0016】
このように、研削加工機1では、1種類のカムシャフト3に対してのみ連続的に研削を行うわけでなく、型式などの研削条件が異なるカムシャフト3に対して研削を行う。また、各型式により研削砥石2の動力値が異なることから、型式ごとに品質予測モデルを学習することも考えられる。しかし、型式は、膨大な数となるので、すべての研削条件に対応した品質予測モデルを学習することは、現実的ではない。
【0017】
そこで、実施例1の研削品質予測装置10は、型式に依存せず、同形状であることが多いカムシャフト3のベース円部分の研削に着目する。つまり、研削品質予測装置10は、各カムシャフト3の研削品質を示す情報から、ベース円部分を研削したときの動力値を学習用のデータに用いることで、型式に依存しない品質予測モデルを生成する。
【0018】
[研削品質予測装置10の説明]
図2は、実施例1にかかる研削品質予測装置10を説明する図である。
図2に示すように、研削品質予測装置10は、学習フェーズと予測フェーズとを実行する。なお、実施例1では、研削品質予測装置10が両方のフェーズを実行する例で説明するが、これに限定されるものではなく、各フェーズを別々の装置で実行することもできる。
【0019】
図2に示すように、学習フェーズでは、研削品質予測装置10は、研削加工機1から取得した設備データに含まれる砥石動力値の推移と、品質データである研削後のカムシャフト3の粗さ品質値とを取得する。そして、研削品質予測装置10は、砥石動力値からベース円部分を研削時の砥石動力値を抽出する。その後、研削品質予測装置10は、ベース円部分の砥石動力値と対応する粗さ品質値とを学習用のデータに用いて機械学習を実行して、品質予測モデルを生成する。
【0020】
予測フェーズでは、研削品質予測装置10は、研削加工機1から取得した砥石動力値のうち、学習時と同条件であるベース円部分の砥石動力値を抽出する。そして、研削品質予測装置10は、抽出した砥石動力値を、学習済みの品質予測モデルに入力する。その後、研削品質予測装置10は、学習済みの品質予測モデルの出力結果として、粗さ品質予測値を取得する。
【0021】
このように、実施例1にかかる研削品質予測装置10は、様々な型式のカムシャフト3それぞれに対して研削砥石2で研削を行ったときの各砥石動力値の推移と、各カムシャフト3の研削品質を示す情報とを取得する。そして、研削品質予測装置10は、各砥石動力値の推移から、各カムシャフト3の共通部分を研削したときの動力値である部分動力値を抽出する。その後、研削品質予測装置10は、部分動力値と研削品質を示す情報とに基づく学習用のデータを用いて、研削状態を予測する品質予測モデルを生成するので、研削品質の予測精度を向上させることができる。
【0022】
また、ユーザは、品質予測モデルの予測結果に基づき、研削砥石2の状態を把握することができるので、適切なタイミングで研削砥石2のドレッシングを行うことができる。
【0023】
[機能構成]
図3は、実施例1にかかる研削品質予測装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、研削品質予測装置10は、通信部11、記憶部12、制御部20を有する。
【0024】
通信部11は、他の装置との間の通信を制御する処理部であり、例えば通信インタフェースなどである。例えば、通信部11は、研削加工機1から動力値に関する各種データを受信し、管理者などのユーザが利用する端末に予測結果を出力する。
【0025】
記憶部12は、各種データや制御部20が実行するプログラムなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えばメモリやハードディスクなどである。この記憶部12は、研削データ13、学習用のデータ14、予測対象データ15、予測結果16を記憶する。
【0026】
研削データ13は、研削砥石2を駆動させたときの設備データと、そのときの研削により生成されたカムシャフト3の品質データとを対応付けて記憶する。具体的には、研削データ13は、研削が完了したカムシャフトごとの設備データと品質データである。
図4は、研削データ13の一例を説明する図である。
図4に示すように、研削データ13は、設備データとしての動力値と、品質データとしての粗さ品質値とを対応付けて記憶する。
【0027】
ここで記憶される動力値は、カムシャフト3を研削したときの一連の研削処理における動力値の推移データであり、粗さ品質値は、研削完了後のカムシャフト3の算術平均粗さ(Ra値)である。
図4の例では、研削完了時のカムシャフト3の品質が「R値」であり、その時の動力値の推移が「x0,x1,x2・・・」であったことを示す。なお、動力値は、研削加工機1のモータ等をモニタリングすることで取得することができ、粗さ品質値は、ユーザによって測定された値などが設定される。
【0028】
次に、設備データに設定される動力値の推移データについて説明する。
図5は、動力値の推移データを説明する図である。
図5に示すように、動力値の推移データは、研削開始から研削終了までに、研削砥石2を駆動および回転させるために出力された動力値の時間遷移を示したデータである。なお、
図5の縦軸が動力値(A:アンペア)、横軸が時間である。
【0029】
学習用のデータ14は、品質予測モデルを学習するために利用されるデータであって、説明変数と目的変数から構成される複数のデータである。
図6は、学習用のデータ14の一例を説明する図である。
図6に示すように、学習用のデータ14は、「説明変数(動力値)、目的変数(粗さ品質値)」を対応付けたデータである。ここで、説明変数は、研削データ13の設備データから抽出されたデータであり、目的変数は、研削データ13の品質データから抽出されたデータである。
図6の例では、説明変数が(x,y,z・・・)、目的変数が(R)である学習用のデータを示している。
【0030】
予測対象データ15は、品質の予測に使用するデータである。具体的には、予測対象データ15は、後述する予測処理部40により抽出された、状態を予測したい研削砥石2によりあるカムシャフト3のベース円を研削したときの動力値である。この予測対象データ15は、学習済みの品質予測対象モデルに入力される。
【0031】
予測結果16は、予測対象データ15を学習済みの品質予測対象モデルに入力して得られた、学習済みの品質予測対象モデルからの出力結果である。例えば、予測結果16は、算術平均粗さ(Ra値)などが該当する。
【0032】
制御部20は、研削品質予測装置10全体を司る処理部であり、例えばプロセッサなどである。この制御部20は、学習処理部30と予測処理部40を有する。なお、学習処理部30と予測処理部40は、プロセッサが有する電子回路の一例やプロセッサが実行するプロセスの一例である。
【0033】
学習処理部30は、研削結果取得部31、データ生成部32、学習部33を有し、学習用のデータの生成や品質予測モデルの学習を実行する処理部である。
【0034】
研削結果取得部31は、研削加工機1等から、各カムシャフト3の研削品質を示す情報を取得する処理部である。例えば、研削結果取得部31は、カムシャフト3の研削の開始から終了まで、研削加工機1が研削砥石2を駆動させるモータをモニタリングし、研削時に発生した動力値を取得して、動力値の推移データを生成する。そして、研削結果取得部31は、その時のカムシャフト3のRa値をユーザ等の入力により取得し、動力値の推移データとRa値とを対応付けて、記憶部12に研削データ13として格納する。このようにして、研削結果取得部31は、カムシャフト3の研削が終了するたびに、研削データ13を生成する。
【0035】
なお、ここでは、研削結果取得部31が研削データを生成する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、管理者などのユーザが動力値の推移データとRa値とを対応付けを生成し、そのデータを研削データ13として用いることもできる。
【0036】
データ生成部32は、研削データ13から学習対象とする特徴量を抽出して、学習用のデータ14を生成し、記憶部12に格納する処理部である。具体的には、データ生成部32は、研削データ13からベース円を研削するタイミングを特定し、そのタイミングの動力値を用いて学習用のデータ14を生成する。また、研削加工機1により研削処理は、様々なプロセスを経て、カムシャフト3の研削を実行することから、特定のプロセス時の動力値を用いることで、学習精度を向上させることができる。そこで、ここでは、ベース円研削時の特定、プロセスの特定、学習用のデータの生成を順に説明する。
【0037】
(1.ベース円研削時の特定)
まず、
図7を用いて、ベース円研削時の特定について説明する。
図7は、ベース円を研削するタイミングの特定を説明する図である。データ生成部32は、研削加工機1から研削砥石2の座標(切込座標)を取得することにより、研削砥石2が研削するために、カムシャフト3へ切り込むタイミングを特定できる。
【0038】
研削工程において、研削処理が開始されると、カムシャフト3も回転し始める。そして、研削砥石2は、カムシャフト3のベース円が研削位置に到達したときにベース円に対する研削を実行し、ベース円が研削位置から外れるとベース円以外の研削を行う。
【0039】
例えば、
図7に示すように、研削砥石2は、時間t0で研削処理が開始されると、接触するカムシャフト3のトップ部分から研削を開始し、時間t5でカムシャフト3のベース円が研削位置に到達すると、ベース円の研削を実行する。そして、研削砥石2は、カムシャフト3のベース円が研削位置に位置する時間t8まで研削し、その後はベース円以外の部分の研削を実行する。つまり、研削砥石2は、時間t5から時間t8までの間だけ、カムシャフト3のベース円を研削する。
【0040】
ここで、研削開始時に、研削砥石2がカムシャフト3のトップ部分を研削する位置を基準とすると、研削砥石2の座標を示す砥石切込軸座標は、基準位置より低い位置(x軸、y軸、z軸の値が小さい)となる。つまり、カムシャフト3のベース円に対して研削を行う時間t5から時間t8までの間、低い位置となる。したがって、
図7に示すように、砥石切込軸座標(研削砥石2の位置)は、カムシャフト3のベース円を研削している間だけ小さい値(低い位置)となり、それ以外のタイミングは大きな値(高い位置)となり、研削処理の間、この遷移を繰り返す。
【0041】
したがって、データ生成部32は、研削処理における砥石切込軸座標をモニタリングし、砥石切込軸座標が大きい値から小さい値へ繰り返す周期を特定し、その周期内の小さい位置(低い位置)をベース円の研削タイミングと特定する。
【0042】
なお、ここでは、一例として、基準位置がカムシャフト3よりも高い位置を例にして説明したが、逆の位置関係の場合には、上記周期も逆になるので、ベース円の研削タイミングも高い位置となる。
【0043】
(2.各プロセスの特定)
次に、
図8を用いて、研削処理で発生する各プロセスの特定について説明する。一般的に、研削処理で発生する各プロセスは、空研プロセス、粗研プロセス、仕上げプロセス、スパークアウトプロセスに区別され、この順でプロセスが遷移する。
【0044】
例えば、空研プロセスは、研削対象物へアプローチする工程であり、カムシャフト3の研削を行わないプロセスである。粗研プロセスは、空研プロセスの次のプロセスであり、目標の品質に向かって全体的に粗い研削を実行する工程である。仕上げプロセスは、粗研プロセスの次の工程であり、目標の品質に向かって精密に研削を実行する工程であり、精研プロセスと微研プロセス等の各工程を有する。なお、仕上げプロセスの各状態の研削が研削品質に大きな影響を与える。スパークアウトプロセスは、切込量が0で、ひずみを取る工程である。
【0045】
例えば、データ生成部32は、研削砥石2がカムシャフト3を研削するために切り込むときの切込み量により、研削データ13等から各プロセスを判定することができる。
図8は、各プロセスの判定を説明する図である。
図8には、研削の開始から終了までの砥石軸動力(動力値)の遷移と、砥石軸座標(研削砥石2位置)の遷移とが図示されている。
【0046】
図8に示すように、データ生成部32は、砥石切込軸座標の周期を特定し、各周期で閾値以下の座標値をベース円研削タイミングと特定する。
図8の例では、データ生成部32は、周期Fの場合、Qをベース円研削タイミングと特定する。そして、データ生成部32は、各周期のベース円研削タイミングにおける最小値と最大値の差を切り込み量として算出し、この切り込み量の大きさに基づき各プロセスを特定する。
【0047】
例えば、プロセスの初期段階程、研削砥石2がカムシャフト3へ切り込む量も大きくなる。なお、空研プロセス時も、カムシャフト3への切込を行うものの研削は行わない。これらを考慮して、閾値を設定することで、切り込み量の大きさに基づき各プロセスを特定することができる。
【0048】
具体例を挙げると、データ生成部32は、切り込み量が第1の閾値以上であれば空研プロセス、第1の閾値未満かつ第2の閾値以上であれば粗研プロセス、第2の閾値未満かつ0以上であれば仕上げプロセス、0であればスパークアウトプロセスと判定する。なお、各閾値の関係は、第1の閾値>第2の閾値>0であり、値は仕様等により任意に設定することができる。また、閾値をより細分化することにより、仕上げプロセスに含まれる精研プロセスおよび微研プロセスを区別することができ、その場合には、精研の切り込み量が微研の切り込み量より大きいとして判定する。
【0049】
このようにして、データ生成部32は、研削砥石2の座標からベース円の研削タイミングを抽出し、ベース円の研削タイミング時の切り込み量と各閾値とを比較して、各プロセスのタイミングを特定する。
図8の例では、データ生成部32は、研削開始から時間T1までを空研プロセス、時間T1か時間T2までを粗研プロセス、時間T2から時間T3までを精研プロセス、時間T3から時間T4までを微研プロセス、時間T4から時間T5までをスパークアウトプロセスと特定する。なお、実施例1では、図面上において空研のようにプロセスを略して表記する。
【0050】
(3.学習用のデータの生成)
次に、学習用のデータの生成について具体的に説明する。学習用のデータの生成は、ベース円の研削時の動力値を用いた手法、ベース円の研削時のうち仕上げプロセスの動力値のみを用いた手法、ベース円の研削時の動力値から空研プロセス時の動力値を除外する手法、またこれらの組み合わせにより生成することができる。ここでは、それぞれの手法について具体的に説明する。
【0051】
(3-1.ベース円の研削時の動力値を用いた手法)
まず、
図9を用いて、ベース円の研削時の動力値を用いた手法について説明する。ここでは、カムシャフト3の型式に依存せず、被研削物の仕様と研削条件が共通のタイミングの動力値を特徴量として抽出することで、学習精度を向上させることができる例を説明する。
【0052】
図9は、ベース円の研削時の動力値を用いた学習用のデータの生成例を説明する図である。
図9に示すように、データ生成部32は、上述した手法により、研削データからベース円研削時(A1からAn(nは自然数))および各プロセスのタイミングを特定する。
【0053】
続いて、データ生成部32は、ベース円研削時(A1からAn)に対応する動力値の範囲(A1´,A2´,・・・,An´)を特定する。そして、データ生成部32は、特定した各動力値を用いて学習用のデータを生成する。
【0054】
例えば、データ生成部32は、ベース円研削時A1に対応する動力値の範囲A1´から最小値1、平均値1、最大値1を算出し、ベース円研削時A2に対応する動力値の範囲A2´から最小値2、平均値2、最大値2を算出する。このようにして、データ生成部32は、各動力値の範囲(A1´,A2´,・・・,An´)に対応する最小値、平均値、最大値を算出する。その後、データ生成部32は、算出した各値を並べた[最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,・・・,最小値n,平均値n,最大値n]に、元となった研削データに対応付けられる品質データ[R]とを組み合わせた学習用のデータを生成する。
【0055】
すなわち、データ生成部32は、[説明変数,目的変数]=[(最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,・・・,最小値n,平均値n,最大値n),R]とする学習用のデータ14を生成して記憶部12に格納する。このようにして、データ生成部32は、収集された各研削データ13のそれぞれから、学習用のデータ14を生成することができるので、型式に依存せず、学習精度を向上させることができる。
【0056】
(3-2.仕上げプロセスの動力値を用いた手法)
次に、仕上げプロセスの動力値を用いた手法について説明する。ここでは、研削品質への影響が大きい仕上げプロセスの動力値を抽出することで、研削砥石2の品質を正確に判断できる例を説明する。
【0057】
図10は、精研プロセスと微研プロセスの動力値を用いた学習用のデータの生成例を説明する図である。
図10に示すように、データ生成部32は、上述した手法により、ベース円研削時のうち仕上げプロセス(B1,B2,B3)を特定する。
【0058】
続いて、データ生成部32は、仕上げプロセス(B1,B2,B3)に対応する動力値の範囲(B1´,B2´,B3´)を特定する。そして、データ生成部32は、特定した各動力値を用いて学習用のデータを生成する。
【0059】
例えば、データ生成部32は、仕上げプロセス時B1に対応する動力値の範囲B1´から最小値1、平均値1、最大値1を算出する。同様に、データ生成部32は、仕上げプロセス時B2に対応する動力値の範囲B2´から最小値2、平均値2、最大値2を算出する。また、データ生成部32は、仕上げプロセス時B3に対応する動力値の範囲B3´から最小値3、平均値3、最大値3を算出する。
【0060】
その後、データ生成部32は、算出した各値を並べた[最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,最小値3,平均値3,最大値3]に、元となった研削データに対応付けられる品質データ[R]とを組み合わせた学習用のデータを生成する。
【0061】
すなわち、データ生成部32は、[説明変数,目的変数]=[(最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,最小値3,平均値3,最大値3),R]とする学習用のデータを生成して、学習用のデータ14として記憶部12に格納する。このようにして、データ生成部32は、収集された各研削データ13のそれぞれから、学習用のデータ14を生成するので、最も品質に影響を与える仕上げプロセスの特徴量によってモデルを学習することができ、学習精度をさらに向上させることができる。
【0062】
(3-3.空研時の動力値を除外する手法)
次に、
図11を用いて、空研時の動力値を除外する手法について説明する。上述した砥石軸動力値は、砥石を回転させるための電流値(A)である。通常、研削加工においては、加工中の研削砥石2の回転数を一定にする制御を実施する。そして、何らかの影響により研削砥石2の回転数が落ちそうになる際に、砥石軸動力値を増加させ、設定された回転数へ戻す制御が実行される。すなわち、砥石軸動力値は研削砥石2の回転成分に対する抵抗要素として考えることができる。
【0063】
研削砥石2の回転数が変化する要素は、大きく二つある。(1)研削砥石2とワークが接触する際の抵抗要素、(2)研削砥石2を回転させる際の抵抗要素である。研削加工におけるワーク品質は、砥石表面の状態の品質であり、研削中の研削抵抗が大きく寄与することが知られている。しかし、単に研削加工中の砥石軸動力値を取得するだけでは、研削砥石2を回転させる際の抵抗要素が含まれる。そのため、空研プロセス時の砥石軸動力値を取得し、研削加工中の砥石軸動力値から、空研時の砥石軸動力値を差し引くことで、研削砥石2とワークが接触する際の抵抗要素のみ抽出することが可能となる。そこで、ここでは、空研プロセス時の砥石軸動力値を除外した砥石軸動力値を抽出することで、研削品質に大きく寄与する特徴量を学習し、研削品質を保証する例を説明する。
【0064】
図11は、空研プロセス時の動力値を除外した学習用のデータの生成例を説明する図である。
図11に示すように、データ生成部32は、上述した手法により、研削データから空研プロセス時と仕上げプロセス(精研、微研)のタイミングを特定する。
【0065】
続いて、データ生成部32は、空研プロセス時のタイミング(C1からCn)に対応する動力値の範囲(C1´,・・・,Cn´)を特定する。同様に、データ生成部32は、仕上げプロセス(B1,B2,B3)に対応する動力値の範囲(B1´,B2´,B3´)を特定する。そして、データ生成部32は、仕上げプロセス時の動力値から、空研プロセス時の動力値を減算した値を用いて学習用のデータを生成する。
【0066】
例えば、データ生成部32は、動力値の範囲C1´から最小値1、平均値1、最大値1を算出し、動力値の範囲C2´から最小値2、平均値2、最大値2を算出する。このようにして、データ生成部32は、各動力値の範囲(C1´,・・・,Cn´)に対応する最小値、平均値、最大値を算出する。続いて、データ生成部32は、各空研プロセス時の動力値の範囲(C1´,・・・,Cn´)から算出された各最小値、各平均値、各最大値を用いて、最小値の平均値(xa)と平均値の平均値(ya)と最大値の平均値(za)を算出する。
【0067】
そして、データ生成部32は、仕上げプロセス時B1,B2,B3それぞれに対応する動力値の範囲から[最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,最小値3,平均値3,最大値3]を算出する。その後、データ生成部32は、仕上げプロセス時の動力値[最小値1,平均値1,最大値1,最小値2,平均値2,最大値2,最小値3,平均値3,最大値3]から、最小値の平均値(xa)と平均値の平均値(ya)と最大値の平均値(za)を減算した動力値[最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za]を算出する。
【0068】
その後、データ生成部32は、算出された動力値と元となった研削データに対応付けられる品質データ[R]とを組み合わせて、学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za),R]を生成する。
【0069】
このようにして、データ生成部32は、最も品質に影響を与える仕上げプロセスの状態から、品質への影響が小さい空研プロセスの状態を除外した上でモデルを学習することができ、学習精度をさらに向上させることができる。
【0070】
(3-4.組み合わせ)
なお、上述した3-1から3-3の手法は、それぞれを独立して実行することもでき、任意に組み合わせることもできる。また、3-3の手法では、仕上げプロセスの動力値から空研プロセス時の動力時を除外する例を説明したが、3-1で得られたベース円研削時の各動力時から空研プロセス時の動力値を除外することもできる。
【0071】
図3に戻り、学習部33は、学習用のデータ14を用いて、品質予測モデルを生成する処理部である。
図12は、品質予測モデルの生成を説明する図である。
図12に示すように、学習部33は、ニューラルネットワークなどを用いた品質予測モデルに学習用のデータ14を入力し、品質予測モデルの出力結果を取得する。そして、学習部33は、品質予測モデルの出力結果と学習用のデータの目的変数との誤差を算出し、この誤差が最小化するように品質予測モデルを生成する。
【0072】
例えば、学習部33は、学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za),R]のうち、説明変数(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za)を品質予測モデルに入力して出力値を取得する。そして、学習部33は、学習用のデータの目的変数(R)と出力値との誤差が小さくなるように、品質予測モデルを学習する。
【0073】
そして、学習部33は、学習が完了すると、学習済みの品質予測モデルを学習結果として記憶部12に格納する。なお、学習を完了するタイミングは、所定時間経過後、所定数の学習用のデータによる学習完了後、誤差が閾値以下となったときなど、任意に設定することができる。
【0074】
予測処理部40は、取得部41、抽出部42、予測部43を有し、学習済みの品質予測モデルを用いて、研削加工機1による研削の品質を予測する処理部である。
【0075】
取得部41は、予測対象のデータを取得する処理部である。例えば、取得部41は、品質予測モデルの完了後に、研削加工機1によって研削されたときの動力値を含む研削データを取得して、抽出部42に出力する。
【0076】
抽出部42は、予測対象の研削データから予測対象とする特徴量を抽出する処理部である。具体的には、抽出部42は、データ生成部32が学習用のデータを生成したときと同じ手法を用いて、予測対象の研削データから品質予測モデルに入力する特徴量(予測対象データ15)を生成して、記憶部12に格納する。
【0077】
例えば、抽出部42は、データ生成部32が上記3-1手法を用いて学習用のデータを生成した場合、同様の手法により、予測対象の研削データからベース円研削時の動力値を、予測対象データ15として抽出する。また、抽出部42は、データ生成部32が上記3-3手法を用いて学習用のデータを生成した場合、同様の手法により、予測対象の研削データから仕上げプロセス時の動力値と空研時の動力値を抽出し、仕上げプロセス時の動力値から空研時の動力値を除外した予測対象データ15を抽出する。
【0078】
予測部43は、抽出部42により抽出された予測対象データ15と、学習済みの品質予測対象モデルとを用いて、研削加工機1による研削の品質を予測する処理部である。例えば、予測部43は、記憶部12から、学習済みの品質予測対象モデルを取得する。そして、予測部43は、抽出部42により抽出された予測対象データ15を、学習済みの品質予測対象モデルに入力して出力を取得する。
【0079】
その後、予測部43は、品質予測対象モデルからの出力を、予測結果として記憶部12に格納したり、ディスプレイ等に表示したり、管理者などのユーザ端末に送信したりする。このように、予測処理部40は、予測対象データ15が発生して、記憶部12に格納するたびに、予測を繰り返して実行する。
【0080】
[処理の流れ]
次に、研削品質予測装置10が実行する各処理について説明する。ここでは、一例として、上記3-3の手法を用いた場合の学習処理と予測処理のそれぞれの流れについて説明する。
【0081】
(学習処理の流れ)
図13は、学習処理の流れを示すフローチャートである。
図13に示すように、学習処理部30は、学習処理の開始がユーザ等により指示されるまで待機し(S101)、処理開始が指示されると(S101:Yes)、記憶部12から研削データ13を取得する(S102)。
【0082】
続いて、学習処理部30は、研削データ13から動力値のデータを抽出し(S103)、抽出した動力値のデータから、ベース円研削タイミングおよび各プロセスを特定する(S104)。
【0083】
そして、学習処理部30は、空研プロセスのおけるベース円研削時の動力値を抽出し(S105)、空研プロセスの動力値の平均値を算出する(S106)。また、学習処理部30は、仕上げプロセスのおけるベース円研削時の動力値を抽出し(S107)、仕上げプロセスのおけるベース円研削時の動力値から空研プロセスの動力値の平均値を減算する(S108)。
【0084】
その後、学習処理部30は、S107で得られた動力値と、研削データに含まれる品質データとを対応付けた学習用のデータを生成する(S109)。ここで、学習用のデータの生成を継続する場合(S110:No)、S102以降を繰り返す。
【0085】
一方、学習用のデータの生成が完了すると(S110:Yes)、学習処理部30は、生成された学習用のデータを用いて品質予測モデルを学習し(S111)、学習が完了すると、学習結果を記憶部12に格納する(S112)。
【0086】
(予測処理の流れ)
図14は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
図14に示すように、予測処理部40は、予測処理の開始がユーザ等により指示されるまで待機し(S201)、処理開始が指示されると(S201:Yes)、記憶部12から、学習済みの品質予測モデルを取得する(S202)。
【0087】
続いて、予測処理部40は、記憶部12や研削加工機1から予測対象の研削データを取得し(S203)、予測対象の研削データから、ベース円研削タイミングおよび各プロセスを特定する(S204)。
【0088】
そして、予測処理部40は、空研プロセスのおけるベース円研削時の動力値を抽出し(S205)、空研プロセスの動力値の平均値を算出する(S206)。また、予測処理部40は、仕上げプロセスのおけるベース円研削時の動力値を抽出し(S207)、仕上げプロセスの動力値から空研プロセスの動力値の平均値を減算して、予測対象データ15を生成する(S208)。
【0089】
その後、予測処理部40は、生成された予測対象データ15を、学習済みの品質予測モデルに入力し(S209)、品質予測モデルの出力結果を取得して出力する(S210)。
【0090】
そして、予測処理部40は、予測を継続する場合(S211:No)、S203以降が繰り返され、予測を終了する指示等を受け付けると(S211:Yes)、予測処理を終了する。
【0091】
[効果]
上述したように、研削品質予測装置10は、複数のカムシャフト3それぞれに対して研削砥石2で研削を行ったときの研削砥石2を駆動させた各動力値の推移と、複数のカムシャフト3それぞれの研削品質を示す情報とを取得する。研削品質予測装置10は、各動力値の推移から、複数のカムシャフト3の共通部分であるベース円を研削したときの動力値である動力値を抽出する。その後、研削品質予測装置10は、抽出された動力値と研削品質を示す情報とに基づくデータを用いて、研削状態を予測する品質予測モデルを生成することができる。
【0092】
この結果、研削品質予測装置10は、カムシャフト3の型式等に依存しない予測モデルを学習することができるので、研削品質の予測精度を向上させることができる。また、研削品質予測装置10は、研削後のカムシャフト3の品質を予測することができるので、結果として、カムシャフト3を研削した研削砥石2の状態を予測することもできる。また、研削砥石2の状態を予測するができるので、管理者に依存することなく、ドレスタイミングを判定する共通の指標を提供することができる。また、ドレスタイミングを適切に判定することができるので、無用なドレッシングを抑制することができるとともに、品質保証の格上げも図ることができる。
【0093】
また、研削品質予測装置10は、研削への影響が小さく空研プロセスの動力値を除外した特徴量を用いて、品質予測モデルを学習するので、品質予測モデルの予測精度を向上させることができる。また、研削品質予測装置10は、品質への影響が大きい仕上げプロセスの動力値を特徴量として、品質予測モデルを学習するので、研削砥石2の品質を正確に判断できる予測結果を取得することができる。
【実施例2】
【0094】
ところで、実施例1で説明した学習用のデータ以外にも、研削の品質に影響を与える他の要素を説明変数に組み込むことで、予測精度の向上を図ることができる。そこで、実施例2では、新たな特徴量を説明変数の組み込むことで、学習用のデータの次元を増やして、品質予測モデルの学習を行う例を説明する。なお、ここでは、上記3-3の手法を採用した例で説明する。
【0095】
[研削砥石2の直径]
例えば、データ生成部32は、研削砥石2の直径を説明変数に組み込むことができる。
図15は、研削砥石2の直径を学習用のデータに利用する例を説明する図である。
図15に示すように、研削砥石2の直径が大きい場合、カムシャフト3と接する面積が大きくなるので、研削抵抗が大きくなる。つまり、研削砥石2の直径が動力値の大きさに影響し、動力値の大きさがカムシャフト3の研削に大きな影響を与えることから、研削砥石2の直径を特徴量に用いて学習を行うことで、予測精度の向上が図れる。
【0096】
したがって、データ生成部32は、上記3-3で手法された学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za),R]の説明変数に研削砥石の直径を追加する。
【0097】
すなわち、データ生成部32は、学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za,研削砥石2の直径),R]を用いて、品質予測モデルの学習を実行する。
【0098】
[カムシャフト3の情報]
例えば、カムシャフト3の直径が異なる場合や、研削時のワーク回転数が異なる場合も研削条件が異なるため、研削品質を示す情報に影響を与える。したがって、データ生成部32は、研削時のカムシャフト3の直径や回転数も追加した学習用のデータを生成することで、学習精度を向上し、予測精度の向上も実現する。
図16は、カムシャフト3の直径や回転数を学習用のデータに利用する例を説明する図である。
【0099】
図16の(a)に示すように、データ生成部32は、学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za,カムシャフト3の直径),R]を用いて、品質予測モデルの学習を実行する。
【0100】
また、
図16の(b)に示すように、データ生成部32は、学習用のデータ[(最小値1-xa,平均値1-ya,最大値1-za,最小値2-xa,平均値2-ya,最大値2-za,最小値3-xa,平均値3-ya,最大値3-za,カムシャフト3の回転数),R]を用いて、品質予測モデルの学習を実行する。
【0101】
なお、カムシャフト3のベース円の直径や研削砥石2の回転数を、説明変数に追加した学習用のデータを生成することで、予測精度の高い品質予測モデルを生成することもできる。
【実施例3】
【0102】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0103】
[データや数値等]
上記実施例で用いたデータ例、数値例、表示例、閾値等は、あくまで一例であり、任意に変更することができる。また、プロセスの細分化も一例であり、任意に変更することができる。また、カムシャフト3に限らず、複数の型式において共通部分がある他のワークに対しても同様に処理することができる。
【0104】
[学習用のデータ]
上記実施例では、該当プロセス内のベース円研削時の動力値の最小値、平均値、最大値を学習用のデータに利用する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、最小値、平均値、最大値のいずれか一つを用いてもよく、任意の2つを用いてもよく、分散値などを用いることもできる。また、カムシャフト3の直径や回転数、研削砥石2の直径等は、研削加工機1から取得することもでき、管理者等の入力により取得することもできる。
【0105】
[学習モデル]
上記実施例では、学習モデルとして、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰モデルなど様々な機械学習を採用することができる。
【0106】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0107】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0108】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0109】
[ハードウェア]
図17は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図17に示すように、研削品質予測装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図17に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0110】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他の装置との通信を行う。HDD10bは、
図3に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0111】
プロセッサ10dは、
図3に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図3等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、研削品質予測装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、学習処理部30と予測処理部40等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、学習処理部30と予測処理部40等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0112】
このように、研削品質予測装置10は、プログラムを読み出して実行することで研削予測方法を実行する情報処理装置として動作する。また、研削品質予測装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、研削品質予測装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
10 研削品質予測装置
11 通信部
12 記憶部
13 研削データ
14 学習用のデータ
15 予測対象データ
16 予測結果
20 制御部
30 学習処理部
31 研削結果取得部
32 データ生成部
33 学習部
40 予測処理部
41 取得部
42 抽出部
43 予測部