(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】グラフェン含有の球状PI系フィラーを含むグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びこれを用いて製造されるグラファイトシート
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20220127BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20220127BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220127BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20220127BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20220127BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C01B32/205
C08J5/18 CFG
C08K3/26
C08K3/30
C08K3/32
C08L79/08
(21)【出願番号】P 2020545164
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 KR2018008200
(87)【国際公開番号】W WO2019168245
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】10-2018-0024301
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】キム、ギョンス
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ジョンヨル
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、ドンヨン
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-43668(JP,A)
【文献】特開2008-24571(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0032910(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポリアミック酸を含む前駆体組成物から由来するグラファイトシート用ポリイミドフィルムであって、
昇華性を有する無機物系フィラー、及び
グラフェンを含有する球状のポリイミド系フィラーを含
み、
前記無機物系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.2重量部~0.5重量部で、
前記ポリイミド系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.1重量部~5重量部であり、
前記無機物系フィラーは、平均粒径が1.5μm~4.5μmで、
前記ポリイミド系フィラーは、平均粒径が1μm~10μmである、ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記無機物系フィラーは、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの無機物粒子を含む、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミド系フィラーは、第2ポリアミック酸から由来した第2ポリイミド鎖を含み、前記第2ポリアミック酸100重量部に対して1重量部~5重量部のグラフェンを含む、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記第2ポリアミック酸を構成する単量体の組成が、第1ポリアミック酸を構成する単量体の組成と互いに同一又は異なる、請求項
3に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムは、前記第1ポリアミック酸から由来した第1ポリイミド鎖を含み、
前記第1ポリイミド鎖は、少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造を形成し、
前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が前記多層構造間に分散されている、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化するとき、
前記第1ポリイミド鎖の多層構造のうち少なくとも一部が黒鉛化されて多層グラファイト構造を形成し、
前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化され、前記多層グラファイト構造の層間を連結する架橋部を形成する、請求項
5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記架橋部は、
前記ポリイミド系フィラーの第2ポリイミド鎖が黒鉛化された第1架橋部、及び
前記ポリイミド系フィラーのグラフェンから由来した第2架橋部、を含む、請求項
6に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1に係るポリイミドフィルムを製造する方法であって、
(a)有機溶媒、ジアミン単量体及び二無水物単量体を混合することによって第1ポリアミック酸溶液を製造する段階、
(b)前記第1ポリアミック酸溶液に無機物系フィラー及びポリイミド系フィラーを混合することによって前駆体組成物を製造する段階、
(c)前記前駆体組成物を支持体にキャスティングして乾燥させることによってゲルフィルムを製造する段階、及び
(d)前記ゲルフィルムを熱処理することによってポリイミドフィルムを形成するイミド化段階、を含む、製造方法。
【請求項9】
前記(b)段階において、第1ポリアミック酸溶液に線形構造の第1触媒及び環構造の第2触媒をさらに投入する、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1触媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジエチルホルムアミド(DEF)からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第1触媒はジメチルホルムアミドである、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2触媒はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1触媒及び第2触媒の総投入量は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して1.5モル~4.5モルである、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項14】
第1触媒の含量は、第1触媒及び第2触媒の総量を基準にして10モル%~30モル%である、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項15】
前記(b)段階において、第1ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤をさらに投入する、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1に係るポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化させることによって製造される、グラファイトシート。
【請求項17】
前記グラファイトシートは10μm~100μmの厚さを有する、請求項
16に記載のグラファイトシート。
【請求項18】
前記グラファイトシートは、平面方向に対する熱伝導度が1,000W/m・K以上である、請求項
16に記載のグラファイトシート。
【請求項19】
前記グラファイトシートは、厚さ方向に対する熱伝導度が60W/m・K以上である、請求項
16に記載のグラファイトシート。
【請求項20】
請求項
16に係るグラファイトシートを含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン含有の球状PI系フィラーを含むグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びこれを用いて製造されるグラファイトシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器は、その構造が徐々に軽量化、小型化、薄型化及び高集積化されているので、単位体積当たりの発熱量が増加しながら熱負荷による多くの問題が発生しており、代表的な問題としては、電子機器の熱負荷による半導体の演算速度の低下及びバッテリーの劣化による寿命短縮などのように、電子機器の性能に直接影響を与えるものを例に挙げることができる。
【0003】
このような理由により、電子機器の効果的な放熱は、非常に重要な課題の一つとして台頭している。
【0004】
前記電子機器に使用される放熱手段として、熱伝導度に優れたグラファイトが注目されており、そのうち、シート状であって加工しやすく、銅やアルミニウムの熱伝導度に比べて約2倍~7倍優れた熱伝導度を有する人造グラファイトシートが脚光を浴びている。
【0005】
このような人造グラファイトシートは、高分子の炭化工程及び黒鉛化工程を通じて製造することができ、高分子のうち、約400℃以上の温度に耐えられる耐熱性高分子がグラファイト前駆体として使用可能である。このような耐熱性高分子の代表的な例としては、ポリイミド(polyimide、PI)を挙げることができる。
【0006】
ポリイミドは、剛直な芳香族主鎖と共に化学的安定性に非常に優れたイミド環をベースとして、各有機材料のうち、最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料であって、人造グラファイトシートの製造時に優れた収率、結晶化度及び熱伝導度を可能にし、最適なグラファイト前駆体として知られている。
【0007】
一般に、人造グラファイトシートの物性は、前駆体であるポリイミドの物性に大きく影響を受けることが知られており、人造グラファイトシートの物性向上のためにポリイミドの改良が活発に行われている。特に、人造グラファイトシートの熱伝導度向上のための多くの研究が進行中である。
【0008】
代表例としては、ポリイミドを高配向性のフィルムに製造し、これをグラファイトシートの製造に用いるものを例として挙げることができる。高配向性ポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミック酸を乾燥させた後、延伸や圧着などの工程を通じて各高分子鎖をフィルムの平面方向に配向させたものであってもよい。
【0009】
一定方向に配向された各高分子鎖は、炭化及び黒鉛化時、規則的な炭素配列をなしながら結晶性に優れたグラファイト層を形成することができる。これによって、高配向性ポリイミドフィルムを用いると、結晶性に優れた「多層グラファイト構造」のグラファイトシートを製造することができる。
【0010】
このようなグラファイトシートは、2次元平面方向への熱伝導度に非常に優れるが、厚さ方向への熱伝導度は、平面方向に比べて1%以下程度である。これは、ほとんどのグラファイト層が電気的引力で重畳しており、各層間に物理的なギャップが存在することによるものと推測される。
【0011】
そこで、平面への熱伝導度のみならず、厚さ方向にも優れた熱伝導度を有するグラファイトシート、及びその実現を可能にするポリイミドの開発が必要な実情にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、新規のポリイミドフィルム及びこれによって製造されたグラファイトシートを提供することにある。
【0013】
本発明の一側面によると、昇華性を有する無機物系フィラー及びグラフェン(graphene)を含有する球状のポリイミド系フィラーを含むポリイミドフィルムは、平面方向の熱伝導度のみならず、厚さ方向の熱伝導度も著しく向上したグラファイトシートを実現することができる。
【0014】
本発明の他の側面によると、ポリイミドフィルムの前駆体組成物をイミド化するとき、異なる特性を有する2種以上の触媒を用いることによって、高分子鎖のパッキング効率が向上したポリイミドフィルムを実現することができる。
【0015】
また、このように製造されたポリイミドフィルムを用いると、結晶化度に優れ、熱伝導度が向上したグラファイトシートを製造することができる。
【0016】
そこで、本発明は、その具体的な実施例を提供することを実質的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ポリイミド系フィラーを含むポリイミドフィルムを用いる場合、平面方向に対する熱伝導度が1,000W/m・K以上で、厚さ方向に対する熱伝導度が60W/m・K以上であるグラファイトシートの製造が可能であることを見出し、これを実現するための具体的な内容を本明細書で説明する。
【0018】
本発明は、第1態様として、第1ポリアミック酸を含む前駆体組成物から由来するグラファイトシート用ポリイミドフィルムであって、昇華性を有する無機物系フィラー、及びグラフェンを含有する球状のポリイミド系フィラーを含む、ポリイミドフィルムを提供することができる。
【0019】
また、本発明は、第2態様として、ポリイミド高分子鎖のパッキング効率を向上できるポリイミドフィルムの製造方法を提供することができる。
【0020】
また、本発明は、第3態様として、前記ポリイミドフィルムを用いて製造されたグラファイトシート、及びこれを含む電子装置を提供することができる。
【0021】
以下では、本発明に係る「ポリイミドフィルム」、「ポリイミドフィルムの製造方法」及び「グラファイトシート」の順に、発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0022】
説明の前に、本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的又は辞典的な意味に限定して解釈してはならなく、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義できるという原則に立脚し、本発明の技術的思想に符合する意味及び概念で解釈しなければならない。
【0023】
したがって、本明細書に記載した実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全て代弁するものではないので、本出願時点において、これらに取って代わる多様な均等物及び変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
【0024】
本明細書において、単数の表現は、文脈上、明らかに異なる意味を有していない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」又は「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素又はこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであって、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、構成要素、又はこれらの組み合わせなどの存在又は付加可能性を予め排除するものではないことを理解しなければならない。
【0025】
本明細書において、「二無水物(dianhydride)」は、その前駆体又は誘導体を含むことを意図とする。これらの前駆体又は誘導体は、技術的には二無水物でない場合があるにもかかわらず、ジアミンとの反応によってポリアミック酸を形成可能であり、このポリアミック酸はポリイミドに変換され得る。
【0026】
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体又は誘導体を含むことを意図とする。これらの前駆体又は誘導体は、技術的にはジアミンでない場合があるにもかかわらず、二無水物との反応によってポリアミック酸を形成可能であり、このポリアミック酸はポリイミドに変換され得る。
【0027】
本明細書において、量、濃度、又は他の値あるいはパラメーターが、範囲、好ましい範囲又は好ましい上限値及び好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかどうかに関係なく、任意の一対の任意の上側範囲限界値又は好ましい値及び任意の下側範囲限界値又は好ましい値で形成された全ての範囲を具体的に開示するものと理解しなければならない。数値の範囲が本明細書で言及される場合、異なる形で記述しない限り、その範囲は、その終点及びその範囲内の全ての整数及び分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義するときに言及される特定値に限定されないことを意図とする。
【0028】
[第1態様:ポリイミドフィルム]
本発明に係るポリイミドフィルムは、第1ポリアミック酸を含む前駆体組成物から由来するグラファイトシート用ポリイミドフィルムであって、昇華性を有する無機物系フィラー、及びグラフェンを含有する球状のポリイミド系フィラーを含むことを特徴とする。
【0029】
前記無機物系フィラーは、ポリイミドフィルムの炭化及び/又は黒鉛化時に昇華し、所定の発泡現象を誘導することができる。このような発泡現象は、炭化及び/又は黒鉛化時に発生する昇華ガスの排気を円滑にし、良質のグラファイトシートの収得を可能にすることができ、発泡によって形成される所定の空隙はグラファイトシートの耐屈曲性(「柔軟性」)も向上させることができる。
【0030】
但し、過度な発泡現象及びそれによる多数の空隙は、グラファイトシートの熱伝導度及び機械的物性を大きく悪化させる場合があり、グラファイトシートの表面に欠陥をもたらし得るので、無機物系フィラーの種類、含量及び粒径は愼重に選択されなければならない。
【0031】
これに対する一つの具体的な例において、前記無機物系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.2重量部~0.5重量部であってもよい。
【0032】
前記無機物系フィラーの含量が前記範囲を下回る場合、上述した発泡現象を期待しにくい。この場合、ポリイミドフィルムが炭化及び/又は黒鉛化されるとき、フィルムの内部で発生する昇華ガスの排気が円滑に行われないおそれがある。
【0033】
フィルムの内部に残留する未排気昇華ガスは、炭素再配列を妨害し、純度が高い人造グラファイトへの転換に悪影響を与えてしまい、結果的に、結晶性が良くないグラファイトシートが製造される原因になり得る。
【0034】
また、ポリイミドフィルムの表面層及び内部でほぼ同時に炭化及び/又は黒鉛化が進められると仮定するとき、内部から発生する昇華ガスが、表面層に形成されたグラファイト構造を損傷及び破壊する場合があり、良質のグラファイトシートを得ることが難しい。
【0035】
他の側面において、前記無機物系フィラーの含量が前記範囲を下回る場合、ポリイミドフィルム表面の粗度(roughness)が低下し得るので好ましくない。
【0036】
ここで、ポリイミドフィルム表面の粗度が過度に低くなる場合、互いに重畳するフィルム表面間の摩擦力が増加するようになり、工程取り扱い性が低下し得る。具体的には、重畳する各フィルム間の増加した密着力は、ポリイミドフィルムの巻取過程で発生する斜行性による巻取不良の修正を難しくすることによって、結果的に、巻取性が低下し、コロナ処理時に増加する接着性によるブロッキング(blocking)現象を発生させ得る。
【0037】
また、前記巻取過程で重畳する各フィルム間に微細な大きさの異物が流入する場合、低い表面粗度により、前記異物の大きさを相殺できる程度の空間を確保することができなくなり、これによって、巻取の繰り返しによってロールの厚さが増加するほど、前記異物によって該当部位の厚さ偏差が増加するので、結局、異物によって変形した跡である突き出し跡が発生し得る。
【0038】
前記無機物系フィラーの含量が前記範囲を上回る場合、無機物系フィラーの分散性が悪化する場合があり、これによって、一部の凝集された無機物系フィラーがポリイミドフィルムの表面に現われながら、表面欠陥の原因になり得る。
【0039】
更に他の側面において、前記範囲を逸脱した過量の無機物系フィラーは、炭化及び黒鉛化過程で過度な発泡現象を誘発し、グラファイトシートの内部構造に損傷を誘発してしまい、これによって、グラファイトシートの熱伝導度が低下する場合があり、グラファイトシートの表面に、発泡跡であるブライトスポット(bright spot)の個数を大きく増加させ得るので好ましくない。
【0040】
前記無機物系フィラーの平均粒径も、以上で説明した無機物系フィラーの含量の意義と同一の原理下で選択可能であり、より詳細には、前記平均粒径が1.5μm~4.5μmであってもよい。
【0041】
前記無機物系フィラーの平均粒径が前記範囲を下回る場合、ポリイミドフィルム表面の粗度が低くなり得る。また、前記範囲を下回ることによって過度に小さい粒径の無機物系フィラーは、炭化及び黒鉛化過程で所望の水準の発泡現象を誘導しにくいので、これに対する上述した弊害が発生し得る。
【0042】
無機物系フィラーは、平均粒径が前記範囲を上回る場合、上述した表面欠陥と共に、過度なブライトスポット形成の原因になり得るので好ましくない。
【0043】
前記無機物系フィラーは、例えば、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの無機物粒子を含んでもよいが、これらにのみ限定されるものではない。
【0044】
一方、前記球状のポリイミド系フィラーは、ポリイミド樹脂の内側で一つ以上のグラフェンが分散されている第1複合体の形態であってもよく、ポリイミド樹脂の外側表面で一つ以上のグラフェンが付着している第2複合体の形態であってもよく、前記第1複合体と第2複合体とが複合された第3複合体の形態であってもよい。
【0045】
前記グラフェンは、板状構造を有し、平均長径が5μm~15μmで、垂直方向に対する平均長さが1nm~10nmであってもよい。
【0046】
このようなポリイミド系フィラーは、炭化及び/又は黒鉛化過程で、グラファイトシートの熱伝導度、より詳細には、厚さ方向の熱伝導度の決定に重要に作用することができ、これによって、その含量及び粒径が愼重に選択されなければならない。
【0047】
これに対する一つの具体的な例において、前記ポリイミド系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.1重量部~5重量部であってもよく、ポリイミド系フィラーの平均粒径は1μm~10μmであってもよい。
【0048】
前記ポリイミド系フィラーの含量が前記範囲を下回る場合、本発明が意図したグラファイトシートの厚さ方向の熱伝導度の向上効果を期待することができない。これは、前記平均粒径の範囲を下回る場合にも同じになり得る。
【0049】
以上の弊害は、以下で説明する実施例を通じて明確に立証可能である。
【0050】
その一方で、前記ポリイミド系フィラーの含量が前記範囲を上回る場合、ポリイミド系フィラーの分散性が悪化する場合があり、これによって、一部の凝集されたポリイミド系フィラーがポリイミドフィルムの表面に現われながら、表面欠陥の原因になり得る。
【0051】
また、前記範囲を逸脱する過量のポリイミド系フィラーは、炭化及び/又は黒鉛化過程で炭素が再配列されることを妨害し、グラファイトシートの構造を損傷させる場合があり、これによって、前記グラファイトシートの平面方向の熱伝導度が過度に減少し得る。
【0052】
しかし、本発明の範囲では、以上の弊害がなく、優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの実現が可能である。
【0053】
以上の弊害は、前記平均粒径の範囲を上回る場合にも同じになり得る。
【0054】
前記ポリイミド系フィラーは、第2ポリアミック酸から由来した第2ポリイミド鎖を含んでもよく、前記第2ポリアミック酸を構成する単量体の組成は、第1ポリアミック酸を構成する単量体の組成と互いに同一であってもよく、場合に応じては異なってもよい。
【0055】
また、前記ポリイミド系フィラーは、前記第2ポリアミック酸100重量部に対して1重量部~5重量部のグラフェンを含んでもよい。
【0056】
前記グラフェンの含量が前記範囲を下回ると、本発明で意図したグラファイトシートの熱伝導度の向上効果を期待することができない。
【0057】
その一方で、前記グラフェンの含量が前記範囲を上回ると、熱伝導度の改善効果に比べて製造単価の上昇が過度であるので好ましくない。更に他の側面において、過度に多くのグラフェンを含有する場合、球状のポリイミド系フィラーの強度が著しく低くなり、形態を維持しにくくなり得る。
【0058】
本発明で特に注目する点は、本発明のポリイミドフィルムが、グラフェンを含有しているポリイミド系フィラーを含むことである。
【0059】
グラフェンをフィラーとして単独で含む場合、グラフェンがポリアミック酸中に均一に分散されにくく、ポリアミック酸の乾燥過程でグラフェンが脱落する可能性が高く、ポリイミドとグラフェンとの熱的及び機械的物性差により、ゲルフィルムやポリイミドフィルムの延伸過程でしわ、うねり、ピンホール又はクラックなどの欠陥が誘発されるなどの工程上の弊害が発生し得る。
【0060】
その一方で、本発明のポリイミド系フィラーの場合、ポリイミドフィルムと同一又は類似する物性のポリイミド樹脂がグラフェンと複合体をなす形態であるので、前記のような弊害がないか、弊害の発生可能性が著しく低いという利点がある。
【0061】
また、炭化及び/又は黒鉛化によってポリイミドフィルムがグラファイトシートに変換されると仮定するとき、本発明のポリイミド系フィラーは、これをなすポリイミド成分がポリイミドフィルムをなす成分とは別途に変換され、グラファイトシートの厚さ方向に熱伝逹経路をなす特定構造を形成することができる。
【0062】
これに対しては、下記の非制限的な例を通じて具体的に説明する。
【0063】
一つの具体的な例において、前記ポリイミドフィルムは、前記第1ポリアミック酸から由来した第1ポリイミド鎖を含み、前記第1ポリイミド鎖は、少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造を形成し、前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が前記多層構造間に分散されている構造であってもよい。
【0064】
前記ポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化するとき、前記第1ポリイミド鎖の多層構造のうち少なくとも一部が黒鉛化されて多層グラファイト構造を形成し、前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化され、前記多層グラファイト構造の層間を連結する架橋部を形成することができる。
【0065】
前記架橋部は、前記ポリイミド系フィラーの第2ポリイミド鎖が黒鉛化された第1架橋部、及び前記ポリイミド系フィラーのグラフェンから由来した第2架橋部を含んでもよい。但し、第2架橋部を形成しない一部のグラフェンは、前記多層グラファイト構造の層間で実質的に層と平行に介在してもよい。
【0066】
前記第1架橋部は、2次元平面形態を有するグラフェン形態又はグラフェン形態に近い炭素同素体でも、前記2次元炭素同素体が積層された3次元の炭素同素体でもよく、層間の熱伝逹経路として作用し得る。
【0067】
通常のグラファイトシートにおいて、熱は多層グラファイト構造の層表面に沿って移動し、平面方向の熱伝導度が相対的に高く、多層グラファイト構造を貫通する厚さ方向の場合、多層構造間の物理的ギャップによって熱伝導度が相対的に低い。
【0068】
その一方で、本発明に係るポリイミドフィルムから由来したグラファイトシートは、熱の一部が前記第1及び第2架橋部に沿って多層グラファイト構造の層間で移動しやすいので、厚さ方向の熱伝導度が上述した通常の場合に比べて著しく向上し得る。
【0069】
[第2態様:ポリイミドフィルムの製造方法]
本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)有機溶媒、ジアミン単量体及び二無水物単量体を混合することによって第1ポリアミック酸溶液を製造する段階、
(b)前記第1ポリアミック酸溶液に無機物系フィラー及びポリイミド系フィラーを混合することによって第1前駆体組成物を製造する段階、
(c)前記第1前駆体組成物を支持体にキャスティングして乾燥させることによってゲルフィルムを製造する段階、及び
(d)前記ゲルフィルムを熱処理することによってポリイミドフィルムを形成するイミド化段階、を含んでもよい。
【0070】
前記第1ポリアミック酸溶液は、芳香族ジアミン単量体及び芳香族二無水物単量体を実質的に等モル量になるように有機溶媒中に溶解させて重合することによって収得され得る。
【0071】
前記第1ポリアミック酸を収得するための重合方法は、例えば、
(1)ジアミン単量体全量を溶媒中に入れた後、二無水物単量体をジアミン単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法、
(2)二無水物単量体全量を溶媒中に入れた後、ジアミン単量体を二無水物単量体と実質的に等モルになるように添加して重合する方法、
(3)ジアミン単量体のうち一部の成分を溶媒中に入れ、反応成分に対して二無水物単量体のうち一部の成分を約95モル%~105モル%の比率で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、続いて、残りの二無水物単量体成分を添加することによって、ジアミン単量体及び二無水物単量体が実質的に等モルになるようにして重合する方法、
(4)二無水物単量体を溶媒中に入れ、反応成分に対してジアミン化合物のうち一部の成分を95モル%~105モル%の比率で混合した後、他の二無水物単量体成分を添加し、続いて、残りのジアミン単量体成分を添加することによって、ジアミン単量体及び二無水物単量体が実質的に等モルになるようにして重合する方法、
(5)溶媒のうち一部のジアミン単量体成分と一部の二無水物単量体成分をいずれか一つが過量になるように反応させることによって第1組成物を形成し、他の溶媒のうち一部のジアミン単量体成分と一部の二無水物単量体成分をいずれか一つが過量になるように反応させることによって第2組成物を形成した後、第1及び第2組成物を混合し、重合を完結する方法であって、ここで、第1組成物を形成するとき、ジアミン単量体成分が過剰である場合は、第2組成物では二無水物単量体成分を過量にし、第1組成物で二無水物単量体成分が過剰である場合は、第2組成物ではジアミン単量体成分を過量にすることによって第1及び第2組成物を混合し、これらの反応に使用される全体のジアミン単量体成分と二無水物単量体成分とが実質的に等モルになるようにして重合する方法などを挙げることができる。
【0072】
但し、前記重合方法が以上の例にのみ限定されることはなく、公知のどの方法も使用可能であることは当然である。
【0073】
また、前記(a)段階において、全ての単量体を一挙に添加してもよく、各単量体を順次添加してもよい。各単量体を順次添加する場合、単量体間の部分的重合が起こるおそれがあり、粘度の調節のためにいずれか一つの単量体は分割して投入してもよい。
【0074】
前記第1ポリアミック酸溶液の製造に利用可能な二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びこれらの類似物を含み、これらは、単独で用いてもよく、任意の比率で混合した混合物として用いてもよい。
【0075】
前記第1ポリアミック酸溶液の製造に利用可能なジアミンは、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-オキシジアニリン、ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-オキシジアニリン)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-オキシジアニリン)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン及びこれらの類似物を含み、これらは、単独で用いてもよく、任意の比率で混合した混合物として用いてもよい。
【0076】
但し、以上の例にのみ本発明の範疇が限定されることはなく、公知のどの物質も使用可能であることは当然である。
【0077】
前記第1ポリアミック酸溶液は、通常、固形分の含量が5重量%~35重量%、好ましくは10重量%~30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度の場合、第1ポリアミック酸溶液は適当な分子量及び溶液粘度を得る。
【0078】
前記有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解され得る溶媒であれば特に限定されないが、より詳細には、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。
【0079】
前記非プロトン性極性溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)及びジグリム(Diglyme)などを挙げることができ、これらは、単独で使用されてもよく、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0080】
場合に応じては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いて第1ポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。一つの例において、本発明の前駆体組成物の製造に特に好ましく使用可能である有機溶媒は、アミド系溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドであってもよい。
【0081】
前記無機物系フィラー又は前記ポリイミド系フィラーの添加方法は、特に限定されるものではなく、公知のどの方法も利用可能である。
【0082】
前記ポリイミド系フィラーは、例えば、以下で説明する方法によって製造できるが、これは、発明の実施を促進するためのものであって、以下にのみ本発明の範疇が限定されるものではない。
【0083】
前記方法は、
非プロトン性極性溶媒下で、芳香族二無水物単量体とジアミン単量体とを重合することによって第2ポリアミック酸を製造する段階、
前記第2ポリアミック酸中にグラフェンを投入して撹拌する段階、
前記グラフェン含有の第2ポリアミック酸を60℃~100℃の温度で2時間~6時間にわたって熟成させる段階、
前記熟成させた第2ポリアミック酸を過量の溶剤に吐出して固形状に生成しながら、重合に使用された溶媒を除去する段階、及び
収得された固形の吐出物を粉砕し、粉末粒状体であるポリイミド系フィラーを収得する段階、を含んでもよい。
【0084】
前記第2ポリアミック酸の製造に使用可能な非プロトン性極性溶媒、二無水物単量体及びジアミン単量体は、第1ポリアミック酸で説明した非制限的な例示から適宜選択され得る。
【0085】
前記第2ポリアミック酸を製造する段階は、第1ポリアミック酸の製造方法で説明した非制限的な例示から適宜選択して利用可能である。
【0086】
前記グラフェンを投入して撹拌する段階の場合、(i)製造が完了した第2ポリアミック酸中にグラフェンの全量を投入して撹拌する方法、及び(ii)第2ポリアミック酸の粘度調節中にグラフェンの全量を投入して撹拌する方法、から適宜選択され得る。
【0087】
前記第2ポリアミック酸の粘度調節とは、第2ポリアミック酸が所望の粘度に至るまで、ジアミン単量体及び二無水物単量体のうち相対的に過少モル量であるいずれか一つの単量体を少量ずつ分割して投入しながら粘度を調節する過程を意味することができ、この過程で、ジアミン単量体と二無水物単量体とが実質的に等モルをなし得る。
【0088】
一つの具体的な例において、前記(b)段階において、第1ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤をさらに投入してもよい。
【0089】
前記脱水剤とは、脱水作用を通じてポリアミック酸に対する閉環反応を促進する成分を意味し、これに対する非制限的な例として、脂肪族の酸無水物、芳香族の酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハライド、及びチオニルハライドなどを挙げることができる。
【0090】
このうち、入手の容易性及び費用の観点で脂肪族酸無水物が好ましい場合があり、その非制限的な例として、無水酢酸(AA)、プロピオン酸無水物、及び乳酸無水物などを挙げることができ、これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0091】
また、前記イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、及び複素環式3級アミンなどのイミン系成分であってもよい。
【0092】
このうち、触媒としての反応性の観点で、複素環式3級アミンが好ましい場合がある。複素環式3級アミンの非制限的な例として、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン(BP)、ピリジンなどを挙げることができ、これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0093】
前記脱水剤の添加量は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して0.5モル~5モルの範囲内であることが好ましく、1.0モル~4モルの範囲内であることが特に好ましい。
【0094】
前記イミド化剤の添加量は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して0.05モル~3モルの範囲内であることが好ましく、0.2モル~2モルの範囲内であることが特に好ましい。
【0095】
前記脱水剤及びイミド化剤が前記範囲を下回ると、化学的イミド化が不十分になり、焼成途中で破断されたり、機械的強度が低下したりする場合がある。
【0096】
また、これらの量が前記範囲を上回ると、イミド化が速く進められ、フィルム状にキャスティングすることが困難になる場合があるので好ましくない。
【0097】
一つの具体的な例において、前記(b)段階では、第1ポリアミック酸溶液に線形構造の第1触媒及び環構造の第2触媒をさらに投入してもよく、このとき、前記第2触媒の含量は、前記第1触媒及び第2触媒の総量を基準にして10モル%~30モル%であってもよい。
【0098】
本発明に係る製造方法は、特に、第2触媒を特定の範囲で含むことによって、ポリアミック酸高分子鎖のパッキング性を向上させることができる。前記パッキング性は、ポリアミック酸高分子鎖が規則的に配列及び重畳し、ポリアミック酸の全体の分子構造が規則的であることを意味する特性であり得る。
【0099】
このようにパッキング性が向上したポリアミック酸でポリイミドフィルムを製造すると、ポリイミドフィルム高分子鎖のパッキング効率が向上し得る。これによって、ポリイミドの全体の分子構造が規則性を有しながら結晶性部分を多く含み得る。
【0100】
したがって、このようなポリイミドフィルムを用いてグラファイトシートを製造する場合、ポリイミドの規則的な分子構造から炭素が規則的に配列されながら、結晶化度に優れたグラファイトシートを製造することができ、優れた結晶化度は、グラファイトシートの熱伝導度、特に平面方向の熱伝導度の向上に相当寄与する。
【0101】
但し、前記第2触媒の含量が本発明に係る範囲を逸脱して10モル%未満である場合は、パッキング性の向上を期待しにくく、これによって、結晶性が十分に向上しないので、本発明で意図したグラファイトシートの熱伝導度の向上効果が大きくない。
【0102】
その一方で、前記第2触媒の含量が30モル%を超える場合は、イミド化率が低下し、ポリイミドフィルムの機械的強度が大きく低下したり、同一のイミド化率を達成するためにさらに多くの時間がかかったりして、全体的な工程効率が低下し得る。
【0103】
前記第1触媒及び第2触媒の総投入量は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して1.5モル~4.5モルであってもよい。
【0104】
前記第1触媒及び第2触媒の含量が前記範囲を逸脱して上回ったり、下回ったりする場合、ポリイミドフィルムの熱的及び/又は機械的物性が低下し得るので、好ましくない。
【0105】
前記線形構造の第1触媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジエチルホルムアミド(DEF)からなる群から選ばれる少なくとも一つであってもよく、熱伝導度の改善の側面でジメチルホルムアミドが最も好ましい場合がある。
【0106】
前記環構造の第2触媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N-ビニルピロリドン及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも一つであってもよく、より詳細には、N-メチルピロリドンが最も好ましい場合がある。
【0107】
一つの具体的な例において、ゲルフィルムを形成するための前記(c)段階では、支持体にキャスティングされた前駆体組成物を、40℃~300℃、より詳細には、80℃~200℃、さらに詳細には、100℃~180℃、特に詳細には、100℃~130℃の温度範囲で乾燥させることによってゲルフィルムを収得することができる。
【0108】
場合に応じては、最終的に収得されるポリイミドフィルムの厚さ及び大きさを調節し、配向性を向上させるために前記ゲルフィルムの延伸工程が行われてもよく、延伸は、機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)のうち少なくとも一つの方向に行われてもよい。
【0109】
前記ゲルフィルムの揮発分の含量は、5重量%~500重量%の範囲内であることが好ましく、5重量%~200重量%の範囲内であることがより好ましく、5重量%~150重量%の範囲内であることが特に好ましい。揮発分の含量がこの範囲内であるゲルフィルムを用いることによって、以降でポリイミドフィルムを収得するために熱処理する過程中にフィルムの破断、色ムラ、特性変動などの欠点が発生することを回避することができる。
【0110】
参考までに、ゲルフィルムの揮発分の含量は、下記の数式1を用いて算出することができ、式中、Aは、ゲルフィルムの重量を表し、Bは、ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を表す。
【0111】
(A-B)*100/B(1)
【0112】
一つの具体的な例において、前記(d)段階では、前記ゲルフィルムをテンターに固定した後、50℃~700℃、より詳細には、150℃~600℃、特に詳細には、200℃~600℃範囲の可変的な温度で熱処理することによって、ゲルフィルムに残存する水、残留溶媒などを除去し、残っているほぼ全てのアミック酸基をイミド化することによって本発明のポリイミドフィルムを収得することができる。
【0113】
場合に応じては、前記のように収得したポリイミドフィルムを400℃~650℃の温度で5秒~400秒間加熱して仕上げることによってポリイミドフィルムをさらに硬化させることもでき、収得したポリイミドフィルムに残留し得る内部応力を緩和させるために所定の張力下でこれを行ってもよい。
【0114】
[第3態様:グラファイトシート]
本発明に係るグラファイトシートは、上述した「ポリイミドフィルム」又は「ポリイミドの製造方法」で製造されたポリイミドフィルムを用いて製造可能であり、より詳細には、前記ポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化することによって製造され得る。
【0115】
前記グラファイトシートは、10μm~100μmの厚さを有し、平面方向に対する熱伝導度が1,000W/m・K以上で、厚さ方向に対する熱伝導度が60W/m・K以上であってもよい。
【0116】
一つの具体的な例において、炭化段階は、減圧又は窒素/アルゴンガス中で行われてもよく、常温から最高温度である1,000℃以上~1,500℃程度の温度まで約12時間にわたって昇温及び維持させることによってポリイミドフィルムを炭化させることができる。
【0117】
このような炭化段階には、ホットプレス及び/又は電気炉が用いられてもよい。
【0118】
場合に応じては、炭素の高配向性のためにホットプレスを用いて垂直方向に圧力を加えてもよい。炭化過程中に5kg/cm2以上、好ましくは、15kg/cm2以上、より好ましくは、25kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは、発明の実施を促進するための例示であって、前記圧力条件に本発明の範疇が限定されるものではない。
【0119】
続いて、炭化されたポリイミドフィルムの黒鉛化段階が進められてもよい。
【0120】
前記黒鉛化段階にも、ホットプレス及び/又は電気炉が用いられてもよい。
【0121】
また、前記黒鉛化段階は、窒素/アルゴンガス中で行われてもよく、常温から最高温度である2,500℃以上~3,000℃程度の温度まで約10時間にわたって昇温及び維持させることによってグラファイトシートを製造することができる。
【0122】
場合に応じては、前記黒鉛化段階で100kg/cm2以上、好ましくは、200kg/cm2以上、より好ましくは、300kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは、発明の実施を促進するための例示であって、前記圧力条件に本発明の範疇が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【
図1】実施例1で製造されたポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【
図2】比較例4で製造されたポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0124】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用及び効果をより詳細に説明する。但し、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎなく、これによって発明の権利範囲が定められることはない。
【0125】
<実施例1>
[製造例1-1:ポリイミド系フィラーの製造]
1Lの容器にN,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)200gを添加し、0℃に温度を下げた後、4,4’-オキシフェニレンジアミン(ODA)17.23g(84.4mmol)を添加して溶解させた。
【0126】
これに、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)18.4g(84.4mmol)を滴加させながら投入した。
【0127】
反応温度が40℃を超えないように調節しながら30分間撹拌した後、80℃にゆっくり昇温させた後、4時間にわたって同一の温度で撹拌して熟成させることによってポリアミック酸を収得した。
【0128】
このように収得したポリアミック酸中に、板状構造を有し、平均長径が10μmで、垂直方向に対する平均長さが2nmであるグラフェン0.97g(3重量部)を添加して均一に分散させた。
【0129】
その後、ポリアミック酸をメタノール800gに浸漬させて糸状に吐出し、これを10時間にわたって放置した。3時間に一回ずつ糸状のポリアミック酸浸漬物上に浮かんでいるメタノール上澄液を除去し、600gのメタノールを投入することによって溶媒を除去した。
【0130】
10時間経過した後、メタノールを全て除去してから残った固体化物質を粉砕機をを用いて粉砕し、水及びメタノールで洗浄及びろ過した後、40℃の真空オーブンで10時間にわたって乾燥させることによって、平均粒径が3μmであるポリイミド系フィラーを製造した。
【0131】
[製造例1-2:第1前駆体組成物の製造]
0.5Lの反応器に、窒素雰囲気下で有機溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)404.8gを投入した。温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体としてODAを45.59g投入して約30分撹拌し、単量体が溶解されたことを確認した後、二無水物単量体としてPMDAを49.66g投入し、最終的に粘度が10万cP~15万cPになるように最後の投入量を調節することによって第1ポリアミック酸を重合した。
【0132】
その後、無機物系フィラーとして、平均粒径が3μmである第2リン酸カルシウム0.26g及び製造例1-1で最終的に収得されたポリイミド系フィラー0.56gを投入し、温度を維持しながら1時間にわたって撹拌することによって前駆体組成物を収得した。
【0133】
比較のための換算時、前駆体組成物において、第1ポリアミック酸の固形分100重量部に対する無機物系フィラーの含量は0.3重量部で、ポリイミド系フィラーの含量は1重量部である。
【0134】
[製造例1-3:ポリイミドフィルムの製造]
製造例1-2で製造された前駆体組成物70gに、イミド化剤としてβ-ピコリン(BP)2.25g、脱水剤として無水酢酸(AA)16.73g、及び第1触媒としてDMF9.5g、及び第2触媒としてNMP3.2gを投入した後、これらを均一に混合し、SUSプレート(100SA、Sandvik)にドクターブレードを用いて350μmでキャスティングし、100℃~200℃の温度範囲で乾燥させた。
【0135】
その後、フィルムをSUSプレートから剥離してからピンフレームに固定させ、高温テンターに移送した。
【0136】
フィルムを高温テンターで200℃から600℃まで加熱し、25℃で冷却した後、ピンフレームから分離することによって、横*縦が20cm*20cmで、厚さが50μmであるポリイミドフィルムを収得した。
【0137】
<実施例2>
製造例1-1で撹拌速度を調節し、平均粒径が1μmであるポリイミド系フィラーを製造した点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0138】
<実施例3>
製造例1-1で撹拌速度を調節し、平均粒径が10μmであるポリイミド系フィラーを製造した点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0139】
<実施例4>
ポリイミド系フィラーの含量が0.1重量部になるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0140】
<実施例5>
ポリイミド系フィラーの含量が5重量部になるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0141】
<実施例6>
無機物系フィラーの含量が0.5重量部になるように無機物系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0142】
<実施例7>
無機物系フィラーを平均粒径3μmの硫酸バリウムに変更し、無機物系フィラーの含量が0.3重量部になるように硫酸バリウムの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0143】
<比較例1>
ポリイミド系フィラーを投入していない点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0144】
<比較例2>
無機物系フィラーを投入していない点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0145】
<比較例3>
ポリイミド系フィラー及び無機物系フィラーを投入していない点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0146】
<比較例4>
製造例1-1で撹拌速度を調節し、平均粒径が15μmであるポリイミド系フィラーを製造した点を除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0147】
<比較例5>
ポリイミド系フィラーの含量が10重量部になるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0148】
<比較例6>
ポリイミド系フィラーの含量が0.05重量部になるようにポリイミド系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0149】
<比較例7>
無機物系フィラーの含量が0.1重量部になるように無機物系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0150】
<比較例8>
無機物系フィラーの含量が0.6重量部になるように無機物系フィラーの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0151】
<比較例9>
第2リン酸カルシウムの平均粒径を5μmに変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0152】
<比較例10>
第2リン酸カルシウムの平均粒径を1μmに変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0153】
<比較例11>
製造例1-3において、第2触媒を投入せず、第1触媒としてDMF11.84gを投入したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0154】
<比較例12>
製造例1-1において、固形分の含量100重量部を基準にしてグラフェンの含量が0.5重量部になるようにグラフェンの投入量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0155】
<実験例1>
各実施例及び各比較例のポリイミドフィルムに対して、ポリイミド系フィラー及び/又は無機物系フィラーの平均粒径及び投入量に応じてポリイミドフィルムの外観にどのような結果が導出されるのかを確認した。
【0156】
そこで、前記のような平均粒径及び投入量が本発明の範囲にある実施例1~7で製造されたポリイミドフィルムと、本発明の範囲を逸脱した比較例4、5、8及び9のポリイミドフィルムとを比較し、肉眼を通じて各ポリイミドフィルムの表面欠陥の個数をチェックし、その結果を表1、
図1(実施例1)及び
図2(比較例4)に示した。
【0157】
【0158】
ポリイミド系フィラー及び/又は無機物系フィラーの平均粒径及び投入量が本発明の範囲を逸脱する比較例4、5、8及び9のポリイミドフィルムにおいては、多数の表面欠陥が発生したことを確認することができる。また、比較例4に係るポリイミドフィルムの表面を撮影した
図2を参考にしたときにも、肉眼上、表面状態が良くないことを確認することができる。
【0159】
前記のような内容から、本発明の範囲を逸脱し、ポリイミド系フィラー及び/又は無機物系フィラーを過度に投入する場合、又は、非常に大きい粒子を使用する場合は、ポリイミドフィルムの外観が滑らかでないことが分かる。
【0160】
その一方で、ポリイミド系フィラー及び/又は無機物系フィラーの平均粒径及び投入量が本発明の範囲にある各実施例のポリイミドフィルムにおいては、表面欠陥が発生しておらず、実施例1に係るポリイミドフィルムの表面を撮影した
図1を参考にしたときにも、肉眼上、表面状態が滑らかであることを確認することができる。
【0161】
<実験例2>
実施例及び比較例の各ポリイミドフィルムを、炭化が可能な高温炉を用いて窒素気体下で3℃/分の速度で1,200℃まで昇温させて約2時間維持させた(炭化)。続いて、超高温炉を用いてアルゴン気体下で5℃/分の昇温速度で2,800℃まで昇温させて1時間維持(黒鉛化)させた後で冷却し、30μmの厚さを有する各グラファイトシートを製造した。但し、比較例2及び比較例3の場合、以上の手順に従って炭化及び黒鉛化を試みたが、グラファイトシートが収得されなかった。
【0162】
前記製造されたグラファイトシートの平面方向の熱伝導度、厚さ方向の熱伝導度及びブライトスポットの発生数量をそれぞれ測定し、その結果を下記の表2に示した。
【0163】
拡散率測定装備(モデル:LFA 467、Netsch社)を用いてレーザーフラッシュ(laser flash)法でグラファイトシートの厚さ方向及び平面方向に対する熱拡散率を測定し、前記熱拡散率測定値に密度(重量/体積)及び比熱(DSCを用いた比熱測定値)を掛けることによって熱伝導度を算出した。
【0164】
ブライトスポットの発生数量は、グラファイトシートの表面不良を発生させる要因であって、前記シートの50mm*50mmである正方形の内部において、大きさが0.05mm以上である突起の発生数量を測定した。
【0165】
【0166】
前記表2をまとめると、下記のような結果が導出される。
【0167】
1.各実施例は、いずれもポリイミド系フィラーを本発明の範囲、すなわち、好ましい含量及び平均粒径で含むポリイミドフィルムに関する。このようなポリイミドフィルムで製造されたグラファイトシートは、表2のように平面方向の熱伝導度が1,000W/m・K以上で、厚さ方向の熱伝導度も60W/m・K以上であって非常に優れており、ブライトスポットが5個以下であるので表面が良好である。
【0168】
これは、ポリイミド系粒子の少なくとも一部が多層グラファイト構造の層間で黒鉛化されて架橋部を形成し、この架橋部が層間熱伝達経路として作用することによるものと推測される。
【0169】
また、前記ポリイミド系フィラーは、熱伝導性に優れたグラフェンを含有しているので、前記グラフェンの少なくとも一部が多層グラファイト構造の層間に他の架橋部を形成し、この架橋部が厚さ方向の熱伝導度をさらに向上させたと予想される。
【0170】
更に他の側面において、グラフェンの一部は、多層グラファイト構造の層間で平行に介在し、厚さ方向及び平面方向のいずれの熱伝導度もさらに向上させたと予想される。
【0171】
その一方で、ポリイミド系フィラーの投入が省略された比較例1のポリイミドフィルムで製造されたグラファイトシートにおいては、厚さ方向の熱伝導度が実施例に比べて著しく低いことを確認することができる。
【0172】
比較例1の場合は、上述した架橋部が各層間に存在しない代わりに、物理的なギャップのみが存在し、層間の熱伝達が円滑でない点によるものと理解される。
【0173】
すなわち、ポリイミド系粒子を含むかどうかによって、グラファイトシートの厚さ方向の熱伝導度において格段の差を示すことができる。
【0174】
2.その場合、さらに多くの架橋部を形成するためにポリイミド系フィラーの過量投入を考慮できるが、この場合に該当する比較例5(10重量部)を参考にすると、平面方向の熱伝導度が実施例に比べて著しく良くないことが分かる。また、各実施例と比較したとき、ブライトスポットが多数形成されたことに注目しなければならない。
【0175】
炭化及び黒鉛化過程で、ポリイミドフィルム内の各フィラーのほとんどの成分は昇華するようになり、この過程で発生するガスが多量であるほどグラファイト構造を破壊する可能性が高くなる。一般に、前記ブライトスポットは、大量のガスが同時に排気されながら形成されるものと推測されており、このような理由により、ブライトスポットの多数形成は、多層グラファイト構造の破壊に対する強力な証拠であると見なすことができる。
【0176】
結果的に、比較例5の場合、過量のポリイミドフィラーから由来した多量のガスが炭化及び黒鉛化過程で多層グラファイト構造を部分的に損傷させると同時に、炭素の再配列を妨害し、その結果、グラファイトシートの平面方向の熱伝導度を特に低下させたと予想される。
【0177】
その一方で、さらに多くの架橋部を形成するためにさらに大きい粒径のポリイミド系フィラーの使用を考慮することができ、これに対しては比較例4を参照することができる。
【0178】
比較例4の場合、平均粒径が15μmであるポリイミド系フィラーを適切な含量で投入することによってポリイミドフィルムを製造したが、所望の平面方向の熱伝導度が発現されておらず、この場合にも、炭化及び黒鉛化過程で多量のガスが由来され、炭素再配列を妨害することによって所望の結果が表れていないと予想される。
【0179】
その一方で、ポリイミド系フィラーを相対的に少量含む比較例6の場合は、厚さ方向の熱伝導度が著しく低いことを確認することができる。これは、ポリイミド系フィラーが過度に少ない含量で投入され、架橋部の形成が微々たるものとなることによるものと理解される。
【0180】
以上の結果から、ポリイミド系フィラーの含量及び粒径が、平面と厚さ方向への熱伝導度のいずれにも優れたグラファイトシートの実現に決定的な因子として作用することが分かる。
【0181】
3.無機物系フィラーの投入が省略された比較例2及び比較例3のポリイミドフィルムでは、グラファイトシートが製造されなかった。これから推測すると、無機物系フィラーがポリイミドからグラファイトへの変換に重要な因子として作用すると見なすことができる。
【0182】
一方、比較例7及び比較例8は、無機物系フィラーが本発明の範囲を逸脱して過少又は過多に投入された場合であって、比較例9及び比較例10は、無機物系フィラーが本発明の範囲を逸脱して過小又は過大の大きさである場合である。この場合は、表2のように、平面方向及び厚さ方向のうち少なくとも一つの熱伝導度が実施例に比べて著しく不良であった。これは、無機物系フィラーの投入は必要であるが、無機物系フィラーの投入量及び大きさが本発明の範囲に属することが重要であることを証明する。
【0183】
4.比較例11の場合、線形構造を有する第1触媒のみを用いてポリイミドフィルムを製造し、これから由来したグラファイトシートは、表2のように平面及び厚さ方向の熱伝導度が相対的に低いことを確認することができる。
【0184】
これは、ポリアミック酸がイミド化される過程でポリイミド高分子鎖のパッキング効率が相対的に低かった点に起因するものと予想される。
【0185】
その反証として、第2触媒を第1触媒と共に使用する各実施例の場合、比較例11に比べて平面及び厚さ方向の熱伝導度のいずれにも著しく優れており、このような結果から、第2触媒を適正量使用したとき、ポリイミド高分子鎖のパッキング効率の向上を誘導することができ、このようなパッキング効率の向上が、炭化及び黒鉛化時、炭素の規則的配列を有利にすることを予想することができる。
【0186】
5.比較例12は、本発明の範囲を逸脱し、相対的に少量のグラフェンを含有するポリイミド系フィラーを用いてポリイミドフィルムを製造したものである。これから由来したグラファイトシートは、表2のように、各実施例に比べて相対的に低い厚さ方向の熱伝導度を有し、これによって、厚さ方向の熱伝導度の改善にグラフェンが非常に重要な因子として作用すると理解することが妥当である。
【0187】
以上、本発明の各実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野で通常の知識を有する者であれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用及び変形を行うことが可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0188】
以上では、本発明が、昇華性を有する無機物系フィラー及びポリイミド系フィラーを含むことによる利点を具体的に説明した。
【0189】
以上の内容をまとめると、本発明のポリイミドフィルムは、炭化及び黒鉛化時、グラフェンを含有するポリイミド系フィラーが多層グラファイト構造の各層間に熱伝逹経路をなす一つ以上の架橋部を形成することができる。これによって、平面方向の熱伝導度のみならず、厚さ方向の熱伝導度も著しく向上したグラファイトシートを実現することができる。
【0190】
また、ポリイミドフィルムは、好ましい含量の無機物系フィラーを含むことによって所定の発泡現象を誘導することができ、これによって、柔軟性に優れたグラファイトシートを実現することができる。
【0191】
また、本発明は、ポリイミドフィルムの前駆体組成物をイミド化するとき、異なる特性を有する2種以上の触媒を用いることによって、高分子鎖のパッキング効率が向上したポリイミドフィルムを実現することができる。このようなポリイミドフィルムは、熱伝導度が向上したグラファイトシートを実現することができる。
【0192】
(付記)
(付記1)
第1ポリアミック酸を含む前駆体組成物から由来するグラファイトシート用ポリイミドフィルムであって、
昇華性を有する無機物系フィラー、及び
グラフェンを含有する球状のポリイミド系フィラーを含む、ポリイミドフィルム。
【0193】
(付記2)
前記無機物系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.2重量部~0.5重量部で、
前記ポリイミド系フィラーの含量は、第1ポリアミック酸100重量部に対して0.1重量部~5重量部である、付記1に記載のポリイミドフィルム。
【0194】
(付記3)
前記無機物系フィラーは、平均粒径が1.5μm~4.5μmで、
前記ポリイミド系フィラーは、平均粒径が1μm~10μmである、付記1に記載のポリイミドフィルム。
【0195】
(付記4)
前記無機物系フィラーは、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの無機物粒子を含む、付記1に記載のポリイミドフィルム。
【0196】
(付記5)
前記ポリイミド系フィラーは、第2ポリアミック酸から由来した第2ポリイミド鎖を含み、前記第2ポリアミック酸100重量部に対して1重量部~5重量部のグラフェンを含む、付記1に記載のポリイミドフィルム。
【0197】
(付記6)
前記第2ポリアミック酸を構成する単量体の組成が、第1ポリアミック酸を構成する単量体の組成と互いに同一又は異なる、付記5に記載のポリイミドフィルム。
【0198】
(付記7)
前記ポリイミドフィルムは、前記第1ポリアミック酸から由来した第1ポリイミド鎖を含み、
前記第1ポリイミド鎖は、少なくとも一部が平面方向に配向された多層構造を形成し、
前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が前記多層構造間に分散されている、付記1に記載のポリイミドフィルム。
【0199】
(付記8)
前記ポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化するとき、
前記第1ポリイミド鎖の多層構造のうち少なくとも一部が黒鉛化されて多層グラファイト構造を形成し、
前記ポリイミド系フィラーの少なくとも一部が黒鉛化され、前記多層グラファイト構造の層間を連結する架橋部を形成する、付記7に記載のポリイミドフィルム。
【0200】
(付記9)
前記架橋部は、
前記ポリイミド系フィラーの第2ポリイミド鎖が黒鉛化された第1架橋部、及び
前記ポリイミド系フィラーのグラフェンから由来した第2架橋部、を含む、付記8に記載のポリイミドフィルム。
【0201】
(付記10)
付記1に係るポリイミドフィルムを製造する方法であって、
(a)有機溶媒、ジアミン単量体及び二無水物単量体を混合することによって第1ポリアミック酸溶液を製造する段階、
(b)前記第1ポリアミック酸溶液に無機物系フィラー及びポリイミド系フィラーを混合することによって前駆体組成物を製造する段階、
(c)前記前駆体組成物を支持体にキャスティングして乾燥させることによってゲルフィルムを製造する段階、及び
(d)前記ゲルフィルムを熱処理することによってポリイミドフィルムを形成するイミド化段階、を含む、製造方法。
【0202】
(付記11)
前記(b)段階において、第1ポリアミック酸溶液に線形構造の第1触媒及び環構造の第2触媒をさらに投入する、付記10に記載の製造方法。
【0203】
(付記12)
前記第1触媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジエチルホルムアミド(DEF)からなる群から選ばれる少なくとも一つである、付記11に記載の製造方法。
【0204】
(付記13)
前記第1触媒はジメチルホルムアミドである、付記11に記載の製造方法。
【0205】
(付記14)
前記第2触媒はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である、付記11に記載の製造方法。
【0206】
(付記15)
前記第1触媒及び第2触媒の総投入量は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して1.5モル~4.5モルである、付記11に記載の製造方法。
【0207】
(付記16)
第1触媒の含量は、第1触媒及び第2触媒の総量を基準にして10モル%~30モル%である、付記11に記載の製造方法。
【0208】
(付記17)
前記(b)段階において、第1ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤をさらに投入する、付記10に記載の製造方法。
【0209】
(付記18)
付記1に係るポリイミドフィルムを炭化及び/又は黒鉛化させることによって製造される、グラファイトシート。
【0210】
(付記19)
前記グラファイトシートは10μm~100μmの厚さを有する、付記18に記載のグラファイトシート。
【0211】
(付記20)
前記グラファイトシートは、平面方向に対する熱伝導度が1,000W/m・K以上である、付記18に記載のグラファイトシート。
【0212】
(付記21)
前記グラファイトシートは、厚さ方向に対する熱伝導度が60W/m・K以上である、付記18に記載のグラファイトシート。
【0213】
(付記22)
付記18に係るグラファイトシートを含む、電子装置。