(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粉末及びその製造方法、炭窒化ホウ素粉末、並びに、複合材及び放熱部材
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220127BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220127BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20220127BHJP
C01B 21/082 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C01B21/064 B
C08L101/00
C08K3/38
C01B21/082
(21)【出願番号】P 2021553498
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039581
(87)【国際公開番号】W WO2021079912
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019192712
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】楯岡 悠
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-115808(JP,A)
【文献】特開2017-128476(JP,A)
【文献】特開2011-98882(JP,A)
【文献】特開平06-287007(JP,A)
【文献】特開平06-256007(JP,A)
【文献】特表2014-531514(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108341404(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064、21/082
C08L 101/00
C08K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、
水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.65mL/g以下である、窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.55mL/g以下である、請求項1に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
平均粒径が15~100μmである、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
平均粒径が15~100μmであり、タップ密度が1.00~1.50g/mLである、炭窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して、炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物とホウ素源とを含む混合物を加熱して、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、前記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有する、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末と樹脂とを含有する、複合材。
【請求項7】
請求項6に記載の複合材を有する、放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粉末及びその製造方法、炭窒化ホウ素粉末、並びに、複合材及び放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑材、熱伝導性フィラー、絶縁性フィラー等の用途に幅広く利用されている。近年、電子機器の高性能化等によって上述のような窒化ホウ素には熱伝導性に優れることが求められている。
【0003】
鱗片状である窒化ホウ素の熱特性は、通常、異方性を有する。すなわち、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が、厚み方向に対して垂直な面内方向(a-b面内方向)の熱伝導性よりも極端に低いことが知られている。例えば、a軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対し、c軸方向の熱伝導率は2W/(m・K)である。このため、例えば、窒化ホウ素粉末を樹脂に充填した複合材の熱特性は、複合材中での窒化ホウ素粒子の配向状態に大きく影響を受ける。例えば、プレスしてシート状に成形された複合材を作製すると、多くの場合には、窒化ホウ素粒子はプレス方向とは垂直方向に配向し、プレス方向の熱伝導性が低くなる。
【0004】
このような現象を回避するため、特許文献1では、窒化ホウ素微粒子を、平均円形度が0.80以上の球形状とすることが記載されている。また、特許文献2では、プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填される、熱伝導率の異方性の抑制と接触熱抵抗の低減によって高熱伝導率を発現する窒化ホウ素粉末として、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が結合した窒化ホウ素粒子を含有し、前記窒化ホウ素粒子の集合体である窒化ホウ素粉末が、0.70以上の平均球形度、20~100μmの平均粒径、50~80%の空隙率、0.10~2.0μmの平均細孔径、10μm以下の最大細孔径、及び500~5000ppmのカルシウム含有率であることを特徴とする窒化ホウ素粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/122379号
【文献】国際公開第2014/136959号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を製造可能な窒化ホウ素粉末、及び当該窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上述の窒化ホウ素粉末を製造するために有用な炭窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を提供することを目的とする。本開示はまた、放熱性に優れる放熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.65mL/g以下である、窒化ホウ素粉末を提供する。
【0008】
上記窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される特定の細孔半径を有する細孔に対応する積算気孔体積が0.65mL/g以下であることによって、複合材を調製した際の窒化ホウ素の充填率に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る。
【0009】
上記窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.55mL/g以下であってもよい。上記窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される特定の細孔半径を有する細孔に対応する積算気孔体積が0.55mL/g以下であることによって、複合材を調製した際の窒化ホウ素の充填性と、熱伝導性とをより高水準で両立し得る。
【0010】
上記窒化ホウ素粉末は、平均粒径が15~100μmであってよい。
【0011】
本開示の一側面は、平均粒径が15~100μmであり、タップ密度が1.00~1.50g/mLである、炭窒化ホウ素粉末を提供する。
【0012】
上記炭窒化ホウ素粉末は、特定の平均粒径を有し、タップ密度が所定の範囲内であることから、上述のような窒化ホウ素粉末を製造するための原料として好適である。平均粒径及びタップ密度が所定の範囲内であることが上述のような窒化ホウ素粉末の原料に適する理由は必ずしも定かではないが、平均粒径及びタップ密度が上述の範囲内となる炭窒化ホウ素は結晶性が高く、格子間距離が短いものと考えられ、このような炭窒化ホウ素を原料とすることで、従来の窒化ホウ素粉末よりも緻密な内部構造を有する窒化ホウ素粉末を製造可能になるものと本発明者らは推測する。
【0013】
本開示の一側面は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して、炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程と、上記焼成物とホウ素源とを含む混合物を加熱して、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される窒化ホウ素凝集粒子を得る工程と、を有する、窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0014】
上記窒化ホウ素粉末の製造方法では、炭化ホウ素粉末を窒素加圧雰囲気下で比較的高温で焼成することによって結晶性の高い六方晶炭窒化ホウ素を含む焼成物を調製することができる。このように炭窒化ホウ素の結晶性を高めたうえで、ホウ酸と混合し、加熱処理することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、更には生成した一次粒子同士が凝集して凝集粒子を形成させることができる。結晶性の高い炭窒化ホウ素における格子間距離は小さく、格子間距離が小さいことによって緻密な内部構造を有する六方晶窒化ホウ素の一次粒子を形成できるものと推測される。当該六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士が凝集した凝集粒子も従来品に比べて凝集粒子内部の空隙を低減し得る。そして、このような内部空隙が低減された六方晶窒化ホウ素を用いることで、調製される複合材は、従来の窒化ホウ素粉末を用いて調製されるものに比べて、窒化ホウ素の充填性を高めることができ、且つ得られる複合材は優れた熱伝導性を発揮し得る。
【0015】
本開示の一側面は、上述の窒化ホウ素粉末と樹脂とを含有する、複合材を提供する。
【0016】
上記複合材は上述の窒化ホウ素粉末を有することから充填性及び熱伝導性に優れる。
【0017】
本開示の一側面は、上述の複合材を有する、放熱部材を提供する。
【0018】
上記放熱部材は上述の複合材を有することから、十分な放熱性を有する。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を製造可能な窒化ホウ素粉末、及び当該窒化ホウ素粉末の製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の窒化ホウ素粉末を製造するために有用な炭窒化ホウ素粉末を提供できる。本開示によればまた、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を提供できる。本開示によればまた、放熱性に優れる放熱部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた窒化ホウ素粉末の水銀ポロシメーター測定の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、比較例1で得られた窒化ホウ素粉末の水銀ポロシメーター測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。
【0022】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0023】
窒化ホウ素粉末の一実施形態は、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む。窒化ホウ素粉末は、上記凝集粒子の集合物である顆粒を含んでもよい。すなわち、窒化ホウ素粉末は、一次粒子、凝集粒子及び顆粒を含んでもよい。
【0024】
窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.65mL/g以下である。上述の積算気孔体積の上限値は、例えば、0.55mL/g以下、0.45mL/g以下、0.40mL/g以下、又は0.35mL/g以下であってよい。上述の積算気孔体積の下限値は、特に限定されるものではなく、検出限界以下であってよいが、凝集粒子を含むことから一般的には、0.05mL/g以上、又は0.1mL/g以上である。上述の積算気孔体積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.05~0.65mL/g、0.1~0.55mL/g、又は0.1~0.45mL/gであってよい。
【0025】
窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される全気孔体積に占める、細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積の割合の上限値は、例えば、48%以下、45%以下、42%以下、35%以下、又は33%以下であってよい。窒化ホウ素粉末は、水銀ポロシメーターによって測定される全気孔体積に占める、細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積の割合の下限値は、特に限定されるものでは無いが、例えば、3%以上、5%以上、10%以上、20%以上、又は30%以上であってよい。
【0026】
本明細書における積算気孔体積は、JIS R 1655:2003「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔分布試験方法」に準拠して水銀圧入法に基づき測定される値である。細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積は、窒化ホウ素粉末に対する上記積算気孔体積の測定結果を利用して求めることができる。細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積は、具体的には、0.02μmから測定上限までの気孔体積(以下、全気孔体積ともいう)から、細孔半径が1.2μm超の気孔(顆粒間に形成される気孔等を含む)に対応する体積を差し引いた値を意味する。細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積は、例えば、
図1及び
図2を参考にすると、Yで示される値に相当する。また、上述の細孔半径が0.02~1.2μmの積算気孔体積の割合は、上記Yに相当する値を、全気孔体積で除した値を意味する。例えば、
図1及び
図2を参考にすると、全気孔体積はXで示される値であるから、上述の細孔半径が0.02~1.2μmの積算気孔体積の割合はY/Xで表される。具体的には、実施例に記載の方法で測定及び決定される。
【0027】
従来、複合材の調製に用いる窒化ホウ素粉末の充填率を上げる観点から、窒化ホウ素粉末の気孔の割合を低減することは試みられている(例えば、特許文献2)。しかし、従来技術における気孔の割合(空隙率との用語で表される値)は、窒化ホウ素粉末の放熱特性とは必ずしも相関がなかった。本発明者らの検討によれば、上記空隙率の観点で同程度の気孔を有する窒化ホウ素粉末であっても、全体の気孔に占める凝集粒子内部における気孔の割合が小さい窒化ホウ素粉末であると、充填性及び熱伝導性に優れる複合体を製造できる。そして、本発明者らの検討によって、水銀ポロシメーターによって測定される細孔半径が0.02~1.2μmである特定の範囲における積算気孔体積が、上述の凝集粒子内部における気孔の割合によく対応すること、ひいては、当該積算気孔体積を所定範囲となるように調整した窒化ホウ素粉末によれば、充填性及び熱伝導性に優れる複合体を製造可能であることが見出された。
【0028】
窒化ホウ素粉末において、凝集粒子内の気孔(窒化ホウ素の一次粒子間に形成される空隙)及び凝集粒子間に形成される気孔の合計値の全気孔体積に対する割合が小さいことが好ましい。当該割合は、従来技術(例えば、特許文献2)における空隙率に相当する。全気孔体積が等しい複数の窒化ホウ素粉末の中でも、全気孔体積に占める上記割合が低い窒化ホウ素粉末が複合材における充填性及び熱伝導性により優れる。上記空隙率は、例えば、53体積%以下であってよく、50体積%以下、45体積%以下、又は40体積%以下であってよい。上記空隙率の下限値は、通常、15体積%以上である。
【0029】
上記空隙率は、JIS R 1655:2003「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔分布試験方法」に準拠して水銀圧入法に基づき測定される値を用いて決定することができる。具体的には、下記式(1)式から算出される値を意味する。
εg=Vg/(Vg+1/ρt)×100・・・(1)
【0030】
上記式(1)において、εgは、窒化ホウ素粉末の空隙率(%)であり、ρtは、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の密度2.26(g/cm3)である。ただし、当該式(1)におけるVgは、凝集粒子内空隙の積算細孔体積(cm3/g)に対応するものと説明される値であるが、Vgには細孔半径が1.0μm以上の範囲であって対数微分気孔体積の値が最初に最小値になるときの細孔半径をR(μm)としたときの、最小の細孔半径~細孔半径Rまでの細孔に対応する積算気孔体積である。換言すれば、Vgは、全細孔体積から、細孔半径がR超の気孔に対応する容積を差し引いた値を、全気孔体積で除した値である。
【0031】
窒化ホウ素粉末の平均粒径は、熱伝導率を十分に高くする観点から、例えば、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、又は40μm以上であってもよい。当該平均粒径は、シート状の複合材等に好適に用いることができるように、例えば、200μm以下、150μm以下、100μm以下、90μm以下、又は80μm以下であってもよい。当該平均粒径は上述の範囲内で調整してもよく、例えば、15~200μm、15~100μm、又は15~80μmであってよい。
【0032】
本明細書における窒化ホウ素粉末の平均粒径は、市販のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製のLS-13 320)を用いて測定される値を意味する。測定の際はホモジナイザーによる照射を行わずに測定を行い、体積平均径(D50)の値を平均粒径とした。
【0033】
上述の窒化ホウ素粉末は、例えば、以下の方法によって製造することができる。窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して焼成物を得る工程(以下、窒化工程ともいう)と、上記焼成物とホウ素源とを含む混合物を加熱して、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程(以下、結晶化工程ともいう)と、を有する。
【0034】
窒化工程では、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物(例えば、炭窒化ホウ素粉末)を得る。窒化工程における焼成温度は、2000℃以上であってよく、2100℃以上であってもよい。窒化工程における焼成温度の下限値を2000℃以上とすることによって、窒化工程で得られる炭窒化ホウ素の結晶性を高め、六方晶炭窒化ホウ素の割合を高めることができる。窒化工程において、六方晶炭窒化ホウ素の割合を高めておくことによって、水銀ポロシメーターによって測定される全積算気孔体積に占める細孔半径が0.02~1.2μmにおける積算気孔体積の割合をより低減することができる。また、当該焼成温度は、2300℃以下であってよく、2250℃以下であってもよい。当該焼成温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2000~2300℃であってよい。
【0035】
ここで、六方晶炭窒化ホウ素の割合が高められているかどうかは、上記焼成物のタップ密度によって確認することができる。本開示では、窒化工程の温度を通常より高い範囲から選択することに加えて、上記焼成物のタップ密度が特定の範囲(具体的な数値範囲は後述する)になるように設定してもよい。所望のタップ密度になる加熱温度の閾値は、原料成分の種類及び組成等に応じて変わるものの上記温度範囲内に存在する傾向にある。なお予め、原料成分及び組成の異なる組成物を用いて、数種の製造例を得て、得られる結果から適正な焼成温度を決定することができる。例えば、得られた炭窒化ホウ素のタップ密度が、所望のタップ密度よりも小さければ、焼成温度を高くすることによって所望のタップ密度を有する炭窒化ホウ素を得ることができる。同様にして、種々の組成物に対して、適正な焼成温度を容易に決定できる。
【0036】
窒化工程における圧力は、0.6MPa以上であってよく、0.7MPa以上であってもよく、0.8MPa以上であってよい。窒化工程における圧力の下限値を0.6MPa以上とすることによって、ホウ酸が系外に揮発して反応性が低下することを抑制する共に、炭化ホウ素の窒化を十分に進行させることができる。窒化工程における圧力は、1.0MPa以下であってよく、0.9MPa以下であってもよい。窒化工程における圧力の上限値を1.0MPa以下とすることによって、製造コストの上昇を抑制することができる。当該圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。
【0037】
窒化工程における窒素加圧雰囲気の窒素ガス濃度は、例えば、95体積%以上であってよく、98体積%以上であってよく、99.9体積%以上であってもよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば、6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0038】
窒化工程で得られる炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物は、タップ密度が従来法で得られる焼成物のタップ密度よりも大きい傾向にある。当該焼成物のタップ密度の下限値は、最終的な窒化ホウ素の積算気孔体積を低減する観点から、例えば、1.00g/mL以上、1.05g/mL以上、又は1.10g/mL以上であり、当該焼成物のタップ密度の上限値は、真密度が2.3であることから、例えば、1.50g/mL以下、又は1.40g/mL以下であってよい。
【0039】
本明細書におけるタップ密度は、JIS R 1628:1997「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に準拠して求められる値を意味する。測定には市販の装置を用いることができる。具体的には、焼成物等の測定対象物を100cm3の専用容器に充填し、タッピングタイム180秒、タッピング回数180回、タップリフト18mmの条件でタッピングを行った後の嵩密度を測定して、得られた値をタップ密度とする。
【0040】
炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物の平均粒径の下限値は、例えば、15μm以上、20μm以上、又は25μm以上であってよい。炭窒化ホウ素を含む焼成物の平均粒径の上限値は、例えば、100μm以下、90μm以下、又は80μm以下であってよい。炭窒化ホウ素を含む焼成物の平均粒径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~100μmであってよい。炭窒化ホウ素は、平均粒径が15~100μm以下であり、タップ密度が1.00~1.50g/mLであってもよい。
【0041】
結晶化工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素を含む焼成物とホウ素源とを含む配合物を加熱して、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。すなわち、結晶化工程では、炭窒化ホウ素を脱炭化させるとともに、所定の大きさの一次粒子を生成させつつ、これらを凝集させて凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。この際、窒化ホウ素粉末には、上記凝集粒子の集合物である顆粒が含まれていてもよい。
【0042】
ホウ素源としては、ホウ酸、酸化ホウ素、又はこれらの混合物が挙げられる。結晶化工程で加熱する混合物は、公知の添加物を含有してもよい。
【0043】
混合物において、炭窒化ホウ素とホウ素源との配合割合は、モル比に応じて適切に設定可能である。ホウ素源としてホウ酸及び酸化ホウ素の少なくとも一方を用いる場合には、例えば、炭窒化ホウ素100質量部に対して、ホウ酸及び酸化ホウ素の合計量が100~300質量部となるようにホウ素源を配合してもよいし、ホウ酸及び酸化ホウ素の合計量が150~250質量部となるようにホウ素源を配合してもよい。
【0044】
結晶化工程において混合物を加熱する加熱温度は、例えば、2000℃以上であってもよく、2100℃以上であってもよい。当該加熱温度の下限値を2000℃以上とすることによって、粒成長を十分に進行させることができる。結晶化工程において混合物を加熱する加熱温度は、例えば、2150℃以下であってよく、2100℃以下であってもよい。当該加熱温度の上限値を2150℃以下とすることによって、BN粉末の黄色化を抑制ことができる。当該加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2000~2150℃であってよい。結晶化工程における混合物を加熱する加熱温度は、窒化工程における炭化ホウ素粉末の加熱温度よりも低いことが好ましい。
【0045】
結晶化工程は、常圧(大気圧:50kPa以下)の雰囲気下で加熱してもよく、加圧して大気圧を超える圧力で加熱してもよい。加圧する場合には、例えば、0.5MPa以下であってよく、0.3MPa以下であってもよい。
【0046】
結晶化工程における加熱時間は、0.5時間以上であってよく、1時間以上、又は3時間以上であってもよい。当該加熱時間の下限値を0.5時間以上とすることで、粒成長を十分に進行させることができる。結晶化工程における加熱時間は、40時間以下であってよく、30時間以下、20時間以下、又は10時間以下であってよい。当該加熱時間の上限値を40時間以下とすることで、製造コストの上昇を抑制することができる。当該加熱時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~40時間であってよく、1~30時間であってもよい。
【0047】
窒化ホウ素粉末の製造方法は、その他の工程を有してもよい。その他の工程としては、例えば、粉砕工程、及び分級工程等が挙げられる。窒化ホウ素粉末の製造方法では、例えば、結晶化工程の後に、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程においては、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。例えば、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等を用いることができる。なお、本明細書における「粉砕」には「解砕」も含むものとする。粉砕及び分級によって、窒化ホウ素粉末の平均粒径を15~200μmに調整してもよい。
【0048】
上述の窒化ホウ素粉末は、樹脂との複合材を調製する際に有用である。すなわち、複合材の一実施形態は、上述の窒化ホウ素粉末と樹脂とを含有する。複合材は、熱伝導性を発揮し得る樹脂組成物であってもよく、放熱シート等のシート状の物であってもよい。
【0049】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、並びにAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。樹脂は、これらの樹脂原料と硬化剤との混合物であってもよい。
【0050】
上述の樹脂のうち、エポキシ樹脂(例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂)は、耐熱性及び銅箔回路への接着強度が優れていることから、プリント配線板の絶縁層として好適である。また、シリコーン樹脂は耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性が優れていることから熱インターフェース材として好適である。
【0051】
複合材は、窒化ホウ素粉末と、上述の樹脂又はその原料となるモノマーと、必要に応じて硬化剤とを所定の割合で配合し、熱又は光によって樹脂原料を硬化させて得てもよい。エポキシ樹脂を用いる場合の硬化剤としては、具体的には、フェノールノボラック樹脂、酸無水物樹脂、アミノ樹脂、イミダゾール類が挙げられる。このうち、イミダゾール類が好ましい。この硬化剤の配合量は、原料(モノマー)100質量部に対して、例えば、0.5~15質量部であってよく、1.0~10質量部であってもよい。
【0052】
複合材における窒化ホウ素粉末の含有量は、複合材全体を基準として、例えば、30~85体積%であってよく、40~80体積%以下であってよい。上記含有量が30体積%以上であることによって、熱伝導性が十分に高くなり、十分な放熱性能を有する複合材とすることができる。上記含有量が85体積%以下であることによって、成形時に生じる空隙を低減して、絶縁性及び機械強度を一層高くすることができる。なお、複合材は、窒化ホウ素粉末及び樹脂以外の成分を含んでいてもよい。この場合、複合材中における窒化ホウ素粉末及び樹脂の合計の含有量は、例えば、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0053】
複合材は、熱伝導性に優れることから、例えば、放熱シート及び金属ベース基板等の放熱部材として好適に用いることができる。
【0054】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
[六方晶炭窒化ホウ素の調製]
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部と、をヘンシェルミキサーによって混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。ボールミルによる粉砕は、回転数20rpmで60分間行った。その後、目開き45μmの振動篩を用いて粉砕粉を分級した。篩上の微粉を、クラッシール分級機で気流分級を行って、10μm以上の粒径を有する炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0057】
調製した炭化ホウ素粉末を、抵抗加熱炉を用いて、窒素ガス雰囲気下で、焼成温度2150℃、且つ圧力0.90MPaの条件で12時間加熱した。焼成の際、窒素ガス量を化学両論量よりも過剰に、必要量に対して20当量分だけ過剰となるように窒素ガスを供給した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。焼成物のタップ密度は1.17g/mLであった。また、XRDで分析した結果六方晶炭窒化ホウ素の生成を確認した。その後引き続き、アルミナ製のルツボに充填した後、マッフル炉を用い、大気雰囲気且つ焼成温度700℃の条件下で、5時間加熱した。
【0058】
[窒化ホウ素粉末の調製]
焼成物とホウ酸とを、炭窒化ホウ素100質量部に対してホウ酸が100質量部となるような割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、窒化ホウ素製のルツボに充填し、抵抗加熱炉を用い大気圧の圧力条件で、窒素ガス雰囲気下、室温から1000℃まで昇温速度10℃/分で昇温した。引き続いて、1000℃から昇温速度2℃/分で2000℃まで昇温した。2000℃で、5時間保持して加熱することによって、一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素を得た。得られた窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで20分解砕した後、目開き95μmの振動篩で通篩することによって窒化ホウ素粉末を得た。
【0059】
<窒化ホウ素粉末の評価>
上述のようにして得られた窒化ホウ素粉末に対して水銀ポロシメーターを用い以下の手順に従って、積算気孔体積及び対数微分気孔体積の測定を行った。装置は島津製作所製のオートポアIV9500を用い、測定用セルは粉体用の5cc×1.1ccのものを使用した。測定は、装置の最高圧力を228MPa、細孔直径の測定範囲を500μm以下0.0055μm以上に設定して行った。結果を表1及び
図1に示す。
図1は、実施例1で得られた窒化ホウ素粉末の水銀ポロシメーター測定の結果を示すグラフである。
【0060】
より具体的には、ステム使用率が50~80%となるように0.7g程度の窒化ホウ素粉末を粉体用セルに充填し、金属キャップを取りつけた。この際、セル側の金属キャップとの接触面に、グリース(リーフエナジー株式会社製、製品名:APIEZON)を外側から半分程の幅で一周塗布した。更に樹脂ナットを取り付け、緩みが無いよう治具を使って締め付けた。次に、セルのステム部分の下から1~5cmの位置に高真空グリース(high Vacuum grease)を塗布し均一になるよう広げた。その後、セルを低圧部圧力室(低圧ポート)にセットし、測定を開始した。低圧側の測定が終わったらセルを取り外し、グリースを拭き取らないまま重量を測定した。高圧部圧力室にセルをセットし、ゆっくりと閉め、蓋の開け閉めを繰り返した。ベントバルブに気泡を含んだ高圧流体が出てこなくなったら蓋を締め、高圧部の測定を開始した。なお、上記測定範囲内の圧力の中で総測定点数42点になるよう測定した。
【0061】
<複合材用の窒化ホウ素粉末としての評価>
上述の窒化ホウ素粉末、及び樹脂を用いて複合材を調製し、窒化ホウ素粉末の充填性及び熱伝導性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
〔窒化ホウ素の充填性評価〕
上述のようにして得られた窒化ホウ素粉末の樹脂への充填材としての特性の評価を行った。まず、ナフタレン型ポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名:HP4032)を100質量部、硬化剤としてイミダゾール類(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ-CN)を10質量部混合して、混合物を得た。この混合物100体積部に対して、窒化ホウ素粉末を65体積部の割合で混合して、塗布剤を調製した。塗布剤を、幅:110mmのシート状PET製基材上に厚みが1.0mmとなるように塗布し後、500Paで10分間かけて減圧脱泡を行った。その後、150℃に加熱しながら、圧力160kg/cm2の条件下で、一軸プレスを60分間行うことで、厚さ0.5mmの放熱シート(複合材)を得た。このように調製した放熱シートについて目視観察を行い、下記の基準で、窒化ホウ素粉末の樹脂への充填性を評価した。
【0063】
A:シート上に、ムラ、穴あき、及びかすれ等がなく、均一に製膜可能であった。
B:シート全体では、若干のムラ及びかすれが確認されるものの、少なくとも50mm角の範囲で均一な製膜が可能であった。
C:シート上に、ムラ、穴あき、又はかすれ等が確認され、均一に製膜することができなかった、又はシートの保型性が悪く、50mm角以上の製膜ができなかった。
【0064】
〔放熱シートとしての放熱性評価〕
上述のようにして得られた放熱シートについて、性能評価を行った。得られた放熱シートの一軸プレス方向における熱伝導率を熱伝導率(H:単位W/(m・K))を、熱拡散率(T:単位m2/秒)、密度(D:単位kg/m3)、及び比熱容量(C:単位J/(kg・K))を用いて、H=T×D×Cの計算式で算出した。熱拡散率Tは、放熱シートを、縦×横×厚み=10mm×10mm×0.3mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。密度Dはアルキメデス法によって測定した。比熱容量Cは、示差走査熱量計(リガク社製、装置名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した。表1に示す測定結果は、比較例2の熱伝導率の値を1.0とした相対値として記載した。
【0065】
(実施例2)
焼成温度を2050℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を得た。得られた窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に、積算気孔体積及び対数微分気孔体積の測定、並びに充填性及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
炭窒化ホウ素の粉砕時間を0.5時間に変更し、平均粒径40μmの粉砕物を調製したこと以外は、実施例1と同ようにして、窒化ホウ素粉末を得た。なお、窒化ホウ素粉末は、目開き150μmの振動篩を用いて、通篩を行って得た。得られた窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に、積算気孔体積及び対数微分気孔体積の測定、並びに充填性及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
容器に、酸素含有量が2.3%、純度が96.5%、且つカルシウム含有量が70ppmであるアモルファス窒化ホウ素粉末を15.9質量%、酸素含有量が0.1%、純度が98.9%、且つカルシウム含有量が30ppmである六方晶窒化ホウ素を5.5質量%、炭酸カルシウム(PC-700白石工業製)を0.55質量%、及び水を78.1質量%となるように測り取り、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、ボールミルを用いて4時間粉砕し、水スラリーを得た。さらに、水スラリー100質量部に対して、ポリビニルアルコール樹脂(ゴーセノール日本合成化学社製)を0.5質量部添加し、溶解するまで50℃で加熱攪拌した後、噴霧乾燥機によって乾燥温度230℃で球状化処理を行った。なお、噴霧乾燥機の球状化装置としては、回転式アトマイザーを使用し7300回転で処理した。
【0068】
得られた処理物をバッチ式高周波炉にて、焼成温度1850℃で5時間焼成した後、焼成物に解砕及び250μm篩にて分級処理を行い、窒化ホウ素粉末を得た。得られた窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に、積算気孔体積及び対数微分気孔体積を測定した。結果を表1及び
図2に示す。
図2は、比較例1で得られた窒化ホウ素粉末の水銀ポロシメーター測定の結果を示すグラフである。得られた窒化ホウ素粉末についてまた、実施例1と同様に、充填性及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1中、「-
※」は測定ができなかったことを意味する。
【0069】
(比較例2)
アモルファス窒化ホウ素粉末を33.3質量%、六方晶窒化ホウ素を10.5質量%、炭酸カルシウムを1.15質量%、及び水を54.0質量%となるように原料組成を変更したこと以外は、比較例1と同ようにして、窒化ホウ素粉末を得た。得られた窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に、積算気孔体積及び対数微分気孔体積の測定、並びに充填性及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例3)
炭化ホウ素(B4C)を窒化ホウ素製のルツボに充填し、抵抗加熱炉を用いて、窒素ガス雰囲気下で、焼成温度1980℃、且つ圧力0.85MPaの条件下で12時間加熱したこと、及び加熱の際、窒素ガスの供給量を5当量分となるように供給した以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を得た。得られた窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に、積算気孔体積及び対数微分気孔体積の測定、並びに充填性及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示されるとおり、細孔半径0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が0.65mL/g以下である窒化ホウ素粉末の方が充填性及び放熱性に優れることが確認された。また特に、従来技術において評価指標とされる空隙率において、同じ53の値を示している実施例2及び比較例2の結果から、空隙率が同じであっても細孔半径0.02~1.2μmにおける積算気孔体積が小さい窒化ホウ素粉末の方が充填性及び放熱性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示によれば、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を製造可能な窒化ホウ素粉末、及び当該窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することができる。本開示によればまた、窒化ホウ素の充填性に優れ、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る複合材を提供することができる。本開示によればまた、放熱性に優れる放熱部材を提供することができる。