(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】cBN焼結体および切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20220128BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220128BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2018047247
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅大
(72)【発明者】
【氏名】小口 史郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 庸介
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-083681(JP,A)
【文献】特開2003-192446(JP,A)
【文献】特開昭58-077539(JP,A)
【文献】特開2004-160637(JP,A)
【文献】特許第5189504(JP,B2)
【文献】特開2009-154219(JP,A)
【文献】特開2015-009327(JP,A)
【文献】特開昭60-138044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ほう素粒子とセラミックス結合相からなるcBN焼結体において、
平均粒径が10nm以上200nm以下のWSi
2が前記焼結体に含有割合として1体積%以上20体積%以下となるように
前記セラミックス結合相中に分散していることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のcBN焼結体を工具基体とすることを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性に優れた立方晶窒化ほう素(以下、「cBN」で示す)基超高圧焼結体(以下、「cBN焼結体」という)、および、これを工具基体とする切削工具(以下、「CBN工具」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、cBN焼結体は、靭性に優れることが知られており、さらに、鉄系材料との親和性が低いことから、これらの特性を活かし、鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削工具材料として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
(a)平均粒度約3~6μmのcBN約60~80体積%、
(b)セラミック結合剤相であって、(i)その約20~60体積%が第IVB族又は第VIB族金属の炭化物、窒化物又はホウ化物の1種以上で(ii)その約40~80体積%がアルミニウムの炭化物、窒化物、ホウ化物又は酸化物の1種以上であるセラミック結合剤相約40~20体積%、及び
(c)タングステン約3~15重量%
を含み、
[101]TiB2ピークと[110]WBピークのXRD強度比が約0.4未満である、
cBN焼結体が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、
20体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と結合材とを有し、
前記結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも一種と、Zr、Si、Hf、Ge、W、Coの単体、化合物、および固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、Alの化合物とからなり、
前記複合焼結体中にW及び/又はCoが含有される場合には、該W及び/又はCoの合計重量は2.0重量%未満であり、かつ
前記Zr、Si、Hf、Ge(以下、「X」とする。)のいずれか一以上を含有し、該Xはそれぞれ0.005重量%以上2.0重量%未満であり、かつX/(X+W+Co)が0.01以上1.0以下を満たし、かつ
Alの重量が2.0重量%以上20.0重量%以下であることを特徴とするcBN焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-160637号公報
【文献】特許第5189504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたcBN焼結体は、焼結体中にWを含有するため、焼結に際し、Ti硼化物(TiB2)相とW硼化物(WB)相を同時に生成するが、W硼化物相の生成は、cBN粒子-結合相界面のTi硼化物相の生成を抑制し、[101]TiB2ピークと[110]WBピークのXRD強度比が約0.4未満に抑えられているため、cBN粒子-結合相界面の付着力が低下し、これがクラック発生の起点となることによって靱性や耐欠損性が低下するという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載されたcBN焼結体は、結合相の強度と靱性を高めるためにW及び/又はCo、Si又はZrを結合相中に所定量含有させているが、Wが焼結体中に占める割合が多いと焼結体中の靱性が低下し、Siが多いと結合材の拡散反応が過剰に抑制され、cBN粒子と結合材、および結合材同士の結合力が低下し、焼結体の靱性が低下する問題があった。また、混合時の分散性が悪いと局所的に添加物の濃度が高い部分が生じ、その部分の結合材の靱性が低下し、工具として使用した場合、破壊の起点となることによって耐欠損性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記先行技術においてcBN焼結体が十分な靱性を確保できないという課題を解決するものであって、靱性の高いcBN焼結体およびこれを工具基体とするCBN工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、cBN焼結体およびこれを工具基体とするCBN工具について、上記課題を解決するために、cBN焼結体中にW化合物を含有していても、cBN粒子-結合相界面の付着力の低下を生じさせない分散粒子について鋭意検討を行ったところ、cBN粒との反応生成物とはならない粒子を分散させれば、cBN粒子-結合相界面に生じるTi硼化物相の生成を阻害しないことを知見した。そして、この粒子として、WSi2粒子が適切であること、さらには、特定の平均粒径範囲にある微細なWSi2粒子をcBN焼結体の結合相中に分散させることによって、焼結体内にてクラックが生じた場合、その進展はWSi2により細かく迂回し、直線的な進展を抑えることにより靱性の高いcBN焼結体を得ることができることを新たに見出した。また、このcBN焼結体を切削工具の工具基体として用いた場合、刃先への負荷の大きい断続切削を行っても刃先が欠損しにくいということも見出した。
【0010】
本発明は、上記各知見に基づいてなされたものであって、
「(1)立方晶窒化ほう素粒子とセラミックス結合相からなるcBN焼結体において、
平均粒径が10nm以上200nm以下のWSi2が前記焼結体に含有割合として1体積%以上20体積%以下となるように前記セラミックス結合相中に分散していることを特徴とするcBN焼結体。
(2)前記(1)に記載のcBN焼結体を工具基体とすることを特徴とする切削工具。」
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明cBN焼結体では、cBN粒子との反応生成物、すなわちBとNをその構成成分に含まないWSi2の微粒子を分散させるため、cBN粒子-結合相界面に生じるTi硼化物相の生成が阻害されず、cBN粒子-結合相界面の付着力を低下させないことに加えて、焼結体内で生じたクラックの進展を焼結体中に分散させたWSi2により細かく迂回させることで、クラックの直線的な進展を抑えて靱性を高めるという効果を発揮することができる。そして、本発明のcBN焼結体は切削工具の工具基体として用いた場合、刃先への負荷の大きい断続切削を行っても刃先が欠損しにくく、例えば、高硬度鋼の断続切削加工においても、耐摩耗性に優れ、長期の使用にわたって優れた耐欠損性を有するという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明cBN焼結体の焼結組織に含まれるWSi
2の分散を示す模式図であり、各組織の形状、寸法は実際の組織に則したものではない。
【
図2】本発明cBN焼結体(本発明焼結体9)のXRD(X-ray Diffraction)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて表現する場合、その範囲は上限および下限の数値を含むものである。
【0014】
cBN粒子の平均粒径:
本発明で用いるcBN粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.2~8.0μmの範囲であることが好ましい。
これは、硬質なcBN粒子を焼結体内に含むことにより耐欠損性を高める効果に加えて、平均粒径が0.2~8.0μmのcBN粒子を焼結体内に分散させることにより、工具使用中に工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とする欠損、チッピングを抑制するだけでなく、工具使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝播を抑制することにより、優れた耐欠損性を有することができるためである。
cBN粒子の平均粒径は、以下のとおりにして求めることができる。
cBN焼結体の断面組織をSEMにてcBN焼結体組織を観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各粒子の最大長を基に平均粒径を算出する。
画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すにあたり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、画像は0を黒、255を白の256階調のモノクロで表示し、cBN粒子部分の画素値と結合相部分の画素値の比が2以上となる画素値の像を用いてcBN粒が黒となるように2値化処理を行う。
ここで、cBN粒子部分や結合相部分の画素値を求めるための領域として、0.5μm×0.5μm程度の領域内の平均値より求め、少なくとも同一画像内から異なる3個所より求めた平均の値を各々のコントラストとすることが望ましい。
なお、2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッドを用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離する。
2値化処理後に得られた画像内のcBN粒にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の最大長とし、それを各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、例えば、1つのcBN粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。この直径を有する理想球体と仮定して計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求め、この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径をcBN粒子の平均粒径とし、これを3観察領域に対して行い、その平均値をcBNの平均粒径[μm]とした。粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域として、cBN粒子の平均粒径が3μmの場合、15.0μm×15.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0015】
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合:
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、特に限定されるものではないが、40体積%(vol%)未満では、焼結体中に硬質物質が少なく、工具として使用した場合に、耐欠損性が低下することがあり、一方、78体積%を超えると、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下することがある。そのため、本発明が奏する効果をより一層発揮するためには、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、40~78体積%の範囲とすることが好ましい。
【0016】
cBN焼結体中に分散させるWSi2:
cBN焼結体中に分散させるWSi2について説明する。
(1)平均粒径
WSi2の平均粒径は、10nm以上200nm以下とする。この範囲とした理由は、平均粒径が200nmを超えると、結合相中のWSi2粒子を起点とするクラックの発生や進展が生じやすくなるため、cBN焼結体の靱性が低下し、平均粒径10nm未満であると、クラックを細かく迂回させてその進展を抑制することが十分にできないためである。WSi2の平均粒径は、10nm以上160nm以下がより望ましい。
(2)含有割合
WSi2は、cBN焼結体中に1体積%以上20体積%以下の含有割合で存在する。この範囲とした理由は、1体積%未満であるとクラックを細かく迂回させてその進展を抑制することが十分にできずcBN焼結体の靱性を向上させるには十分な量ではなく、20体積%を超えると焼結体中においてWSi2同士が接する確率が多くなり、隣り合ったWSi2が焼結時に結合して肥大なWSi2となり、その肥大なWSi2を起点としたクラックの発生が生じやすくなり、cBN焼結体の靱性が低下してしまうためである。含有割合は、3体積%以上15体積%以下がより望ましい。
【0017】
cBN焼結体の製造方法:
本発明の靭性に優れたcBN焼結体を作製するための手順の一例を次に示す。
(1)結合相を構成する成分の原料粉末の準備
結合相を構成する原料粉末として、WSi2原料と結合相の主となる原料を用意する。WSi2原料として、平均粒径3μmのWSi2粉末を用意する。WSi2粉末は、所望の粒径に粉砕したWSi2原料粉とするため、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて分級することにより、縦軸を体積百分率、横軸を粒子径とした場合のメディアン径D50を粉砕したWSi2原料粉の平均粒径とし、その値が10~200nmのWSi2原料粉を得る。また、結合相の主となる原料としては、従来から知られている結合相形成原料粉末(TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末、Al2O3粉末)を準備する。
(2)粉砕・混合
これらの原料粉末を、例えば、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルにより粉砕および混合を行う。
その後、硬質相として機能させる平均粒径0.2~8.0μmのcBN粉末を添加して、さらに、ボールミル混合を行う。
(3)成形、焼結
次いで、得られた焼結体原料粉末を、所定圧力で成形して成形体を作製し、これを1000℃で仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、例えば、圧力:5GPa、温度:1200~1600℃の範囲内の所定の温度で焼結することにより、本発明のcBN焼結体を作製する。
【0018】
CBN工具:
本発明の、靭性に優れたcBN焼結体を工具基体とするcBN基超高圧焼結体製切削工具は、例えば、高硬度鋼の断続切削加工においても、耐欠損性に優れ、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。
【0019】
各数値の測定方法:
本発明で特定している各数値の測定方法について説明する。
【0020】
WSi2の平均粒径:
WSi2の平均粒径測定のため、cBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:以下、AESという)を用いて、W元素とSi元素のマッピング像を得る。得られた画像において、W元素とSi元素が重なる部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より特定した各粒子を基に平均粒径を算出する。
WSi2の平均粒径の算出は1画像において、W元素とSi元素のマッピング像を基にW元素とSi元素が重なる部分をWSi2と認識した各粒子のフェレ径を、各粒子の直径とする。この直径より計算し求めた各粒子の体積を基に累積体積をcBNと同様に求め、この累積体積より縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[nm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径を測定に用いた1画像内のWSi2の平均粒径とし、これを3画像に対して行い、その平均値をWSi2の平均粒径[nm]とした。粒子解析を行う際には、あらかじめAESにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域としては、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0021】
焼結体中のWSi2の含有割合:
cBN焼結体に占めるWSi2の含有割合は、cBN焼結体の断面組織をAESによってW元素とSi元素のマッピング像より算出し求める。観察した1画像において、W元素とSi元素が重なる部分をWSi2として画像処理にて抜き出し、画像解析によってWSi2が占める面積を算出し、WSi2が占める割合を求める。これを少なくとも3画像に対して行い、算出した各WSi2の面積割合の平均値をcBN焼結体に占めるWSi2の含有割合として求める。画像処理に用いる観察領域として、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が望ましい。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明の実施例について記載する。
【0023】
本実施
例のcBN焼結体の製造では、結合相を構成するための原料粉末として、WSi
2粉末を準備し、WSi
2の粒径制御のため、ボールミルにて粉砕の処理を施した後、遠心分離法を用いて分級することにより所望の粒径範囲のWSi
2原料粉を用意した。
すなわち、平均粒径3μmのWSi
2粉末を準備し、超硬合金で内張りされた容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をした後にボールミルを用いて粉砕を実施後、混合したスラリーを乾燥させた後、遠心分離装置を用いて分級することにより平均粒径が
10~200nmのWSi
2原料粉を得ることができる。
上記のように事前に準備したWSi
2原料粉と、平均粒径が0.3μm~0.9μmのTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl
3粉末、Al
2O
3粉末を用意し、これら原料粉末の中から選ばれたいくつかの結合相構成用原料粉末(各原料粉末の体積%を表1に示す)と、硬質相用原料としてのcBN粉末の合量を100体積%としたときの焼結後のcBN粒子の含有割合が40~78体積%となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。
次いで、得られた焼結体原料粉末を、成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、温度:1400℃の温度で焼結することにより、表2に示す本発明のcBN焼結体1~12(本発明焼結体1~12という)を作製した。
なお、成形体に施す熱処理は、湿式混合時の溶媒を除去することが主な目的である。
また、上記作製工程は、本実施例のように超高圧焼結までの工程において原料粉末の酸化を防止することが好ましく、具体的には非酸化性の保護雰囲気中での取り扱いを実施することが好ましい。
本発明焼結体9のXRD図を
図2に示す。
【0024】
【0025】
【0026】
比較のため、WSi2を含まない場合やWSi2原料をボールミルを用いて粉砕し、遠心分離装置を用いて分級し得た本発明において規定する範囲外の平均粒径のWSi2原料粉を用いた場合や本発明において規定する範囲内の平均粒径のWSi2原料粉を用い、本発明において規定する範囲外のWSi2含有割合を検討すべく、これらWSi2(含まない場合がある)と平均粒径0.3μm~0.9μmのTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末、Al2O3粉末を用意し、これら原料粉末の中から選ばれたいくつかの結合相構成用原料粉末(各原料粉末の体積%を表3に示す)と、硬質相としてのcBN粉末との含量を100体積%としたときの焼結後のcBN粒子の含有割合が58~63体積%となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。
その後、本発明焼結体1~12と同様な条件で成形体を作製し、熱処理し、この成形体を、本発明焼結体1~12と同様な条件で超高圧高温焼結することにより、表4に示す比較例のcBN焼結体(以下、比較例焼結体という)1~5を作製した。
【0027】
【0028】
【0029】
次に、上記で作製した本発明焼結体1~12、比較例焼結体1~5を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断して、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ本発明のcBN基超高圧焼結体切削工具(本発明工具という)1~12、および、比較例のcBN基超高圧焼結体切削工具(比較工具という)1~5を製造した。
【0030】
次いで、本発明工具1~12と比較工具1~5に対して、以下の切削条件で切削加工を実施し、欠損に至るまでの工具寿命(断続回数)を測定した。
<切削条件>
被削材:浸炭焼き入れ鋼(JIS・SCM415、硬さ:HRC58~62)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min、
切り込み:0.1mm、
送り:0.1mm/rev
の条件での、高硬度鋼の乾式切削加工試験を実施。
各工具の刃先がチッピングあるいは欠損に至るまでの断続回数を工具寿命とし、断続回数500回毎に刃先を観察し、刃先の欠損やチッピングの有無を確認した。
表5に、上記切削加工試験の結果を示す。
【0031】
【0032】
表5に示される結果から、本発明工具は、比較工具に比して、突発的な刃先のチッピングが発生することなく、工具寿命が延命化されており、靱性が向上したことが分かり、高硬度鋼の断続切削加工においても、耐摩耗性に優れ、長期の使用にわたって優れた耐欠損性を有するという優れた効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の靱性に優れたcBN焼結体は、CBN工具の工具基体として用いると、欠損を発生することなく長期の使用にわたって、優れた耐欠損性を発揮し、工具寿命の延命化が図られるものであることから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。