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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】斜交織物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   D03D 37/00 20060101AFI20220128BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220128BHJP
   D03D 13/00 20060101ALI20220128BHJP
   D03D 3/02 20060101ALI20220128BHJP
   D06H 7/12 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
D03D37/00
D03D1/00 A
D03D13/00
D03D3/02
D06H7/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018100553
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019203230
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(72)【発明者】
【氏名】川邊 和正
(72)【発明者】
【氏名】川端 清二
(72)【発明者】
【氏名】岩下 美和
(72)【発明者】
【氏名】村上 哲彦
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-103513(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/031053(WO,A1)
【文献】特開2002-249984(JP,A)
【文献】米国特許第05248366(US,A)
【文献】実公昭54-034071(JP,Y1)
【文献】特開平01-246439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 37/00
D03D 1/00
D03D 13/00
D03D 3/02
D06H 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のガイド部に対して周方向に所定間隔で配列された複数の経糸を開閉口させながら緯 糸を挿入して製織し、製織部分を前記ガイド部の中心軸に沿って移送させて筒状織物を連続して織成し、前記筒状織物の長手方向に対して螺旋状に切断して所定幅の斜交織物を連続して製造する斜交織物の製造方法であって、前記製織部分に送給する前記経糸の糸長方向を調整して前記経糸及び前記緯糸の交差角度を設定する斜交織物の製造方法。


【請求項2】
前記経糸の糸長方向は、前記中心軸を中心とする円の半径方向に対して前記経糸の送給方向を周方向に傾斜させて調整する請求項1に記載の斜交織物の製造方法。
【請求項3】
前記経糸の糸長方向は、前記製織部分を移送する際に前記中心軸の周方向に回動させて調整する請求項2に記載の斜交織物の製造方法。
【請求項4】
前記製織部分の外側及び内側から挟持して移送する請求項3に記載の斜交織物の製造方法。
【請求項5】
環状のガイド部の内側に複数の経糸を周方向に所定間隔で配列するように送給するとともに当該経糸を開閉口させる経糸織成部と、緯糸を前記ガイド部に沿うように送給して開口された前記経糸の間に挿入する緯糸織成部と、前記経糸を開閉口させながら前記緯糸を挿入して製織された製織部分を前記ガイド部の中心軸に沿って移送させる移送部と、前記製織部分を移送しながら連続織成された筒状織物の長手方向に対して螺旋状に切断して所定幅の斜交織物を連続形成する切断部とを備え、前記経糸織成部は、前記中心軸を中心とする円の半径方向に対して周方向に傾斜させて前記経糸を送給する斜交織物の製造装置。
【請求項6】
前記移送部は、前記製織部分を前記中心軸の周方向に回動させながら移送する請求項5に記載の斜交織物の製造装置。
【請求項7】
前記移送部は、前記製織部分の内側に当接する内側移送部と、前記製織部分の外側に当接する外側移送部とを備えており、前記内側移送部及び前記外側移送部により前記製織部分を挟持して移送する請求項5又は6に記載の斜交織物の製造装置。
【請求項8】
前記切断部は、切断されて連続形成された前記斜交織物を巻き取る巻取部を備えている請求項5から7のいずれかに記載の斜交織物の製造装置。
【請求項9】
前記筒状織物の周囲に離型シートを付着させるシート取付部を備えている請求項5から8のいずれかに記載の斜交織物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束からなる経糸及び緯糸を長手方向に対して斜交させて製織された斜交織物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする繊維強化樹脂材料(繊維強化複合材料)は、金属材料に比べて軽量かつ高弾性であり、樹脂材料のみに比べて高弾性かつ高強度である。このため、航空・宇宙分野、自動車分野、土木・建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で注目されている材料である。
【0003】
繊維強化複合材料では、炭素繊維等の強化繊維からなる繊維束を多軸に積層しマトリクス樹脂を含浸させて用途に合わせて様々な形状の積層成形体に形成するようになっている。繊維束を多軸に積層する場合、繊維束を経糸及び緯糸に用いて製織した二軸織物を積層することが行われているが、繊維束が90度で交差する二軸織物からなる層に対して斜め45度の角度で交差する層を形成するためには、二軸織物を斜め45度の角度で切断した複数の織物片を配列して層を形成することになる。そのため、織物片を繋ぎ合せた層となり、積層成形体として形成した場合の強度低下が避けられない。そして、織物を切断する工程が必要となることや切断により織物片の織組織が崩れやすくなるといった課題がある。
【0004】
こうした課題に対処するために、繊維束を長手方向に対して斜交させて製織した斜交織物を用いることが提案されている。斜交織物は、長尺状に製織して製造されるため、切断することなくそのまま用いることができ、二軸織物に重ね合せることで多軸に積層することが簡単に行える。また、繋ぎ合せることなく連続体で積層されるため、積層成形体の強度低下を避けることができる。
【0005】
こうした長尺状の斜交織物を製造する方法としては、例えば、特許文献1では、円筒状に製織された織物を製織方向に対して螺旋状に斜め方向に切断することで斜交織物を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平7-103513号公報
【文献】特開2015-158021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、円筒状の芯体の周囲に環状に配置された経糸を開閉口させながら緯糸を挿入して形成される製織部分を芯体の中心軸に沿って順次移送させることで連続した円筒状織物(環状織物)を得ることができるが、その際に経糸が移送方向に沿って移動すると共に緯糸が芯体の周囲を周回しながら挿入されるため、経糸及び緯糸の交差角度を正確に90度となるように製織することが難しい。
【0008】
図10は、円筒状織物の織組織に関する説明図である。緯糸Yの1周した部分を平面図に展開して示しており、移送方向Aに沿って配列された複数の経糸Tに交差するように緯糸Yが織り込まれて製織幅Lの円筒状織物が形成される。緯糸Yは、周回して挿入されるため1周する間に移送方向Aに対して緯糸Yの糸幅d分だけずれるようになる。そのため、緯糸Yは、移送方向Aと直交する方向に対して角度θだけ傾斜した状態となる。角度θは、以下の式から算出することができる。θ=tan-1(d/L)したがって、円筒状織物では、移送方向Aに沿う経糸Tの糸長方向と緯糸Yの糸長方向との交差角度を90度に設定することが難しく、特に、緯糸Yの糸幅dが大きくなるほど、経糸及び緯糸の交差角度は90度からずれやすくなる。
【0009】
そのため、製織された円筒状織物を螺旋状に切断した場合に、繊維束の交差角度を正確に設定した斜交織物を得ることは難しく、繊維束が開繊処理等により幅広となっている場合には、繊維束の交差角度のずれが顕著になることは避けられない。
【0010】
そこで、本発明は、繊維束の交差角度を正確に設定することができる斜交織物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る斜交織物の製造方法は、環状のガイド部に対して周方向に所定間隔で配列された複数の経糸を開閉口させながら緯糸を挿入して製織し、製織部分を前記ガイド部の中心軸に沿って移送させて筒状織物を連続して織成し、前記筒状織物の長手方向に対して螺旋状に切断して所定幅の斜交織物を連続して製造する斜交織物の製造方法であって、前記製織部分の前記経糸の糸長方向を調整して前記経糸及び前記緯糸の交差角度を設定する。さらに、前記経糸の糸長方向は、前記中心軸を中心とする円の半径方向に対して前記経糸の送給方向を周方向に傾斜させて調整する。さらに、前記経糸の糸長方向は、前記製織部分を移送する際に前記中心軸の周方向に回動させて調整する。さらに、前記製織部分の外側及び内側から挟持して移送する。
【0012】
本発明に係る斜交織物の製造装置は、環状のガイド部の内側に複数の経糸を周方向に所定間隔で配列するように送給するとともに当該経糸を開閉口させる経糸織成部と、緯糸を前記ガイド部に沿うように送給して開口された前記経糸の間に挿入する緯糸織成部と、前記経糸を開閉口させながら前記緯糸を挿入して製織された製織部分を前記ガイド部の中心軸に沿って移送させる移送部と、前記製織部分を移送しながら連続織成された筒状織物の長手方向に対して螺旋状に切断して所定幅の斜交織物を連続形成する切断部とを備え、前記経糸織成部は、前記中心軸を中心とする円の半径方向に対して周方向に傾斜させて前記経糸を送給する。さらに、前記移送部は、前記製織部分を前記中心軸の周方向に回動させながら移送する。さらに、前記移送部は、前記製織部分の内側に当接する内側移送部と、前記製織部分の外側に当接する外側移送部とを備えており、前記内側移送部及び前記外側移送部により前記製織部分を挟持して移送する。さらに、前記切断部は、切断されて連続形成された前記斜交織物を巻き取る巻取部を備えている。さらに、前記筒状織物の周囲に離型シートを付着させるシート取付部を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の構成を備えているので、製織部分の経糸の糸長方向を調整して経糸及び緯糸の交差角度を設定することができるので、斜交織物を構成する糸の交差角度を正確に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る斜交織物の製造装置に関する概略構成図である。
図2】本発明に係る斜交織物の製造方法に関する説明図である。
図3図1に示す製造装置を中心軸Oに沿う移送方向Aからみた概略構成図である。
図4図1に示す製造装置を中心軸Oと直交する方向からみた概略断面図である。
図5】製織部分Wにおける経糸Tの傾斜状態を示す説明図である。
図6】外側移送部の移送動作に関する説明図である。
図7】切断動作及び切断された斜交織物に関する説明図である。
図8】切断動作及び切断された斜交織物に関する説明図である。
図9】切断動作及び切断された斜交織物に関する説明図である。
図10】円筒状織物の織組織に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る斜交織物の製造装置に関する概略構成図である。製造装置1は、環状のガイド部2の内側に複数の経糸Tを周方向に所定間隔で配列するように送給するとともに経糸Tを開閉口させる経糸織成部3と、緯糸Yをガイド部2に沿うように送給して開口された経糸Tの間に挿入する緯糸織成部4と、経糸Tを開閉口させながら緯糸Yを挿入して製織された製織部分Wをガイド部2の中心軸Oに沿って移送させる移送部5と、製織部分Wを移送しながら連続織成された筒状織物Fの長手方向に対して螺旋状に切断して所定幅の斜交織物Sを連続形成する切断部6とを備えている。
【0017】
図2は、本発明に係る斜交織物Sの製造方法に関する説明図である。図2では、図10と同様に、緯糸Yの1周した部分を平面図に展開して示している。図10で説明したように、従来の筒状織物の製造方法では、筒状織物を構成する経糸及び緯糸の交差角度を正確に90度に設定することは困難であった。本発明では、製織部分Wの経糸Tの糸長方向を調整して経糸T及び緯糸Yの交差角度を設定することで、交差角度を正確に設定するようにしている。図2では、移送方向Aに対して経糸Tの糸長方向を角度θだけ傾斜するように調整しており、そのため、移送方向Aと直交する方向に対して角度θだけ傾斜する緯糸Yの糸長方向と90度の交差角度に正確に設定することができる。また、経糸Tの糸長方向を調整することで、経糸Tと緯糸Yとの間の交差角度を任意に設定することが可能となり、用途に応じて様々な交差角度で構成されたパターンの斜交織物を製造することができる。
【0018】
製織部分Wの経糸Tの糸長方向を調整する方法としては、製織部分Wを環状のガイド部2の中心軸Oを中心に回動させながら移送させる方法と、環状のガイド部2に配置された複数の経糸T送給する経糸織成部3の全体をガイド部2の中心軸Oを中心に回転させながら製織する方法と、両方法を組み合せた方法が挙げられる。いずれの方法でも中心軸Oを中心とする円の半径方向に対して経糸Tの送給方向を周方向に傾斜させて調整することが好ましい。
【0019】
図3は、図1に示す製造装置1を中心軸Oに沿う移送方向Aからみた概略構成図であり、図4は、中心軸Oと直交する方向からみた概略断面図である。環状のガイド部2は、断面形状が円形に形成されており、経糸Tを内側にスムーズに挿入できるようになっている。なお、ガイド部2としては、断面形状が円形以外の楕円形等の形状に形成してもよく、特に限定されない。
【0020】
経糸織成部3は、経糸Tを巻き付けた給糸部30、給糸部30から送り出された経糸Tを案内するガイドローラ31、及び、ガイドローラ31により案内された経糸Tを開口する開口部32を備えており、開口部32から環状のガイド部2の内側に経糸Tが送給されるようになっている。そして、経糸T毎に設けられた給糸部30、ガイドローラ31及び開口部32を、中心軸Oを中心に周方向に配列している。ガイド部2の内側に送給された経糸Tは、ガイド部2の周方向に所定間隔で配列されており、ガイド部2の内側に挿入される経糸Tの送給方向は、中心軸Oを中心とする円の半径方向に対して周方向に傾斜させて設定されている。このように経糸Tを周方向に傾斜させて挿入することで、製織部分Wに挿入される経糸Tがずれたり、経糸Tが糸幅方向に無理な力
が加わって変形することを防止する。経糸Tの送給方向の半径方向に対する傾斜角度は、後述する移送部5による製織部分Wの経糸Tの糸長方向の移送方向Aに対する傾斜角度に応じて設定すればよい。
【0021】
緯糸織成部4は、緯糸Yを巻き付けた給糸部40、給糸部40から送り出された緯糸Yを案内するガイドローラ41、及び、ガイドローラ41により案内された緯糸Yをガイド部2に沿うように案内してガイド部2の内側に近接して開口された経糸Tの間に挿入する挿入ローラ42を備えている。挿入ローラ42の経糸Tに対向する両側には、経糸Tに接触する一対の接触ローラ43が取り付けられており、開口された経糸Tを接触ローラ43によりさらに拡開するようになっている。
【0022】
この例では、給糸部40、ガイドローラ41及び挿入ローラ42を1セットとして2セットが対向配置されて、図示せぬ移動機構により同じ速度でガイド部2に沿って周方向に回動し、開口した経糸Tの間に1周の回動動作で2本の緯糸Yを挿入するようになっている。(*移動機構の具体的な構成をご教示ください)
【0023】
挿入ローラ42は、緯糸Yを捩れることなくガイド部2の周方向に沿うように案内するため、緯糸Yを案内する周面を中心軸Oと平行になるように設定している。特に、緯糸Yが開繊糸のように幅広の糸の場合、緯糸Yをガイド部2の周方向に沿って巻き付けるように案内する際に緯糸Yが捩れやすくなる。そのため、挿入ローラ42の案内面を中心軸Oと平行になるように設定することで、緯糸Yが捩れる、折れ曲る等の変形することなく経糸Tの間に挿入されて経糸Tに密着し、安定して製織することが可能となる。
【0024】
移送部5は、製織部分Wの内側に当接する内側移送部50と、製織部分Wの外側に当接する外側移送部51及び52とを備えており、内側移送部50並びに外側移送部51及び52により製織部分Wを挟持して中心軸Oの周方向に回動させながら移送するようになっている。内側移送部50は、複数の移送ローラ機構500がガイド部2の内周側に等間隔で配置されている。移送ローラ機構500は、複数の移送ローラ501が移送方向Aに配列されており、配列された移送ローラ501の先端には駆動ローラ503が配置されている。移送方向Aに配列された移送ローラ501及び駆動ローラ503には移送ベルト502が張架されている。
【0025】
駆動ローラ503の回転軸には伝動歯車503aが取り付けられており、中心軸Oに沿って配置された駆動モータ504の駆動ロッド504aの先端には駆動歯車504bが取付固定されている。駆動歯車504bは、伝動歯車503aに噛み合うように取り付けられており、駆動モータ504を回転駆動することで、駆動歯車504b及び伝動歯車503aを介して駆動ローラ503が回転駆動されて移送ベルト502が移送方向Aに移送動作を行うようになる。
【0026】
外側移送部51及び52は、それぞれリング状の圧接部材510及び520を備えており、圧接部材510及び520は、図示せぬ動作機構に取り付けられてそれぞれ移送方向Aに移動可能で製織部分Wの周方向に回動可能となっている。また、圧接部材510及び520は、複数のパーツに分割されて構成されており、動作機構により各パーツを外方に移動させて圧接部材510及び520を拡径動作するようになっている。各パーツの周方向の端部が離間して圧接部材510及び520が拡径することで製織部分Wから離間し、各パーツの周方向の端部が密着して圧接部材510及び520が縮径することで製織部分Wの周囲に圧接した状態に設定されるようになっている。
【0027】
緯糸Yを内側移送部50の移送ベルト502に巻き付けるように経糸Tの間に挿入して製織部分Wを織成しながら移送ベルト502を移送方向Aに駆動していく。その際に、外側移送部51又は52の一方を製織部分Wに圧接して移送ベルト502と製織部分Wを挟持した状態で移送ベルト502と同期して同じ長さだけ移送方向Aに移動させながら周方向に所定幅だけ回動させる。製織部分Wの経糸Tは、圧接された外側移送部51又は52の周方向の回動により糸長方向が移送方向Aから傾斜した状態で移送されるようになる。
【0028】
図5は、製織部分Wにおける経糸Tの傾斜状態を示す説明図である。製織部分Wの経糸Tの糸長方向は、移送方向Aの単位移送長さa当りの周方向の回動幅cで設定されるようになり、移送方向Aに対する経糸Tの糸長方向の傾斜角度θは、以下の式で算出される。θ=tan-1(c/a)製織部分Wの緯糸Yは、周方向に巻き付けるように織成されるため、圧接された外側移送部51又は52の周方向の回動によりほとんど影響を受けることがない。そのため、圧接された外側移送部51又は52の移送長さ及び回動幅で経糸Tの糸長方向を調整することで、経糸T及び緯糸Yの交差角度αを任意に設定することができる。例えば、外側移送部51又は52の回動方向を緯糸Yの巻き付け方向と同じ方向とすることで交差角度αを大きくすることができ、反対方向に設定することで交差角度αを小さくすることができる。
【0029】
図6は、外側移送部51及び52の移送動作に関する説明図である。まず、図6(a)に示すように、外側移送部51及び52は移送方向Aに移動して互いに接近した位置に配置され、外側移送部52が製織部分Wに圧接状態とし外側移送部51が離間した状態に設定される。そして、内側移送部50は、製織部分Wに当接した状態で移送方向Aに移送ベルト502を移動させ、外側移送部52が内側移送部50の移送動作と同期して移送方向Aに移動しながら回動する。一方、外側移送部51は、製織部分Wから離間した状態で外側移送部52とは反対方向に移動する。次に、図6(b)に示すように、外側移送部52は、製織部分Wを所定の長さだけ移送動作を行い、外側移送部51は、所定の長さだけ反対方向に移動する。
【0030】
そして、図6(c)に示すように、外側移送部52は製織部分Wから離間した状態に設定されるとともに、外側移送部51は製織部分Wに圧接した状態に設定される。次に、図6(d)に示すように、内側移送部50は、移送方向Aへの移送動作を継続しながら、外側移送部51が内側移送部50の移送動作と同期して移送方向Aに移動しながら回動する。一方、外側移送部52は、製織部分Wから離間した状態で外側移送部51とは反対方向に移動する。そして、図6(e)に示すように、外側移送部51は、製織部分Wを所定の長さだけ移送動作を行い、外側移送部52は、所定の長さだけ反対方向に移動し、両者は、図6(a)で説明した互いに接近した位置に戻り、図6(f)に示すように、外側移送部51は製織部分Wから離間した状態に設定されるとともに、外側移送部52は製織部分Wに圧接した状態に設定される。こうして、外側移送部51及び52の移送動作を交互に繰り返すことで、製織部分Wを連続して移送して筒状織物Fを織成することができるようになる。
【0031】
なお、上述した例では、リング状の外側移送部を回動させて製織部分の経糸の糸長方向を調整するようにしているが、製織部分の周囲に中心軸に対して所要の角度(製織部分を回動させたい方向に対応する角度)で複数のロールを配置して回転駆動することで製織部分を周方向に回動させることもできる。
【0032】
切断部6は、図1に示すように、製織部分Wを移送しながら連続織成された筒状織物Fの長手方向に対して螺旋状に切断する切断部材60及び切断されて連続形成された所定幅の斜交織物Sを巻き取る巻取ローラ61を備えており、図示しない移動機構により切断部材60及び巻取ローラ61を筒状織物Fの周囲に回動させながら切断動作を行うようになっている。
【0033】
巻取ローラ61は、切断位置の回動速度と同じ速度で巻取位置が回動するように設定することで、切断位置から巻取位置までの長さが変化させずに斜交織物を巻き上げることができ、斜行織物の巻き上げ張力が一定となって安定した品質が得られるようになる。また、巻取ローラ61の巻取軸は、切断される斜交織物の長手方向と直交する方向に沿って設定することで、斜交織物を変形させることなく巻き取ることができる。
【0034】
切断された斜交織物Sの長手方向は、切断部材60の切断方向により設定されるようになるため、斜交織物Sを構成する経糸T及び緯糸Yの糸長方向の長手方向に対する配向角度は、切断方向により任意に調整することができる。切断部材60の移送方向Aに対する切断方向は、筒状織物Fの移送速度と切断部材60の切断位置における周方向の回動速度により設定され、切断位置の回動速度は、筒状織物Fの移送部5による周方向の回動速度と異なる速度に設定することが好ましい。
【0035】
図7から図9は、切断動作及び切断された斜交織物に関する説明図である。図7では、筒状織物Fを経糸T及び緯糸Yの交差角度が約90度となるように織成するとともに緯糸Yの糸長方向に対して約45度の角度で切断方向を設定して切断動作を行っている(図7(a))。得られた斜交織物Sは、図7(b)に示すように、織組織を構成する糸は互いに90度の交差角度で織成されるとともに長手方向にそれぞれ約45度傾斜した配向角度となっている。この例では、緯糸Yの糸長方向に対する切断方向の角度を45度から増減することで、斜交織物を構成する糸の長手方向に対する配向角度を異なる角度に設定することも可能で、様々な配向角度で組み合わせた斜交織物を製造することができる。
【0036】
図8では、筒状織物Fを経糸T及び緯糸Yの交差角度が90度よりも大きくなるように織成するとともに緯糸Yの糸長方向に対して交差角度の半分の角度で切断方向を設定して切断動作を行っている(図8(a))。得られた斜交織物Sは、図8(b)に示すように、織組織を構成する糸は互いに90度より大きい交差角度で織成されるとともに長手方向にそれぞれ等しい配向角度で傾斜した状態に設定されている。この例でも、切断方向の角度を変化させることで、斜交織物を構成する糸の配向角度の様々な組み合せを実現することができる。
【0037】
図9では、筒状織物Fを経糸T及び緯糸Yの交差角度が90度よりも小さくなるように織成するとともに緯糸Yの糸長方向に対して交差角度の半分の角度で切断方向を設定して切断動作を行っている(図9(a))。得られた斜交織物Sは、図9(b)に示すように、織組織を構成する糸は互いに90度より小さい交差角度で織成されるとともに長手方向にそれぞれ等しい配向角度で傾斜した状態に設定されている。この例でも、切断方向の角度を変化させることで、斜交織物を構成する糸の配向角度の様々な組み合せを実現することができる。
【0038】
上述した製造装置には、織成された筒状織物Fの周囲に離型シートを巻き付けるシート取付部を備えることもできる。シート取付部は、所定幅の離型シートを送給する送給ロールを筒状織物Fの周囲に回動させて螺旋状に離型シートを巻き付けていき、離型シートが巻き付けられた筒状織物Fを切断部6により螺旋状に切断するようにする。
【0039】
斜交織物は、構成する糸が長手方向に対して所定の配向角度で傾斜した状態で織成されており、織物の長手方向に糸が織り込まれていない。そのため、切断された斜交織物に長手方向の張力が加わった状態で巻き取る際、織物にねじれ、幅方向の収縮などが生じ易い。さらに、巻き取った状態の織物を引き出す際に加えられる長手方向の張力によるねじれ、幅方向の収縮などの変形が生じ易い。そのため、切断前に離型シートを巻き付けて切断することで、こうした斜交織物の不用意な変形を防止することができる。離型シートとしては、斜交織物を構成する糸がずれないように固定化でき、使用時に離型シートを剥離する際に、斜交織物の製織形態に変形を与えず、かつ、糸を構成する繊維が離脱しないように離型できる程度の接着性を有していることが好ましい。
【実施例
【0040】
[実施例1] 図1に示す製造装置により斜交織物を製造した。環状のガイド部2の内径を直径450mm(内周の長さ約1414mm)に設定した。
製造に用いた経糸及び緯糸は以下の通りである。経糸;炭素繊維束;T700SC-50C-12K(東レ株式会社製、幅約5mm)、本数244本緯糸;炭素繊維束;T700SC-50C-12K(東レ株式会社製、幅約5mm)経糸は、ガイド部2の内側に送給されて周方向に等間隔で挿入され、その挿入方向は、ガイド部2の半径方向に対して周方向に約-30.4度の角度で傾斜した方向とした。緯糸は、糸幅の5mmずつ移送される毎に開口された経糸の間に挿入されるため、挿入された緯糸の糸長方向は、ガイド部2の中心軸に対して約89.6度の方向となる。緯糸の挿入速度は、60本/分とした。
【0041】
製織部分の中心軸方向の移送速度は約300mm/分とし、移送部による周方向の回動動作の角速度は約44.8度/分として製織部分を移送及び回動して筒状織物(周長約1414mm)を連続織成した。経糸及び緯糸の交差角度は120度に設定されていた。
【0042】
切断部による筒状織物の切断方向は、中心軸に対して約29.6度に設定し、連続織成された筒状織物を螺旋状に切断して、幅約1229mmの長尺状の斜交織物を製造した。得られた斜交織物は、平織された糸の交差角度が120度に設定され、長手方向に対する配向角度がそれぞれ60度及び-60度に設定されており、糸の交差角度及び配向角度を正確に設定された斜交織物を安定して製造することができた。
【0043】
[実施例2] 実施例1と同様の製造装置並びに経糸及び緯糸を用い、経糸の挿入方向を約29.6度に設定した。緯糸を実施例1と同様に経糸の間に挿入して製織部分を織成した。製織部分の中心軸方向の移送速度は約300mm/分とし、移送部による周方向の回動動作の角速度は約-44.4度/分(実施例1とは反対方向)として製織部分を移送及び回動して筒状織物(周長約1414mm)を連続織成した。経糸及び緯糸の交差角度は60度に設定されていた。
【0044】
切断部による筒状織物の切断方向は、中心軸に対して約59.6度に設定し、連続織成された筒状織物を螺旋状に切断して、幅約716mmの長尺状の斜交織物を製造した。得られた斜交織物は、平織された糸の交差角度が60度に設定され、長手方向に対する配向角度がそれぞれ30度及び-30度に設定されており、糸の交差角度及び配向角度を正確に設定された斜交織物を安定して製造することができた。
【0045】
[実施例3] 実施例1と同様の製造装置並びに経糸及び緯糸を用い、経糸及び緯糸は幅10mmに開繊して使用し、経糸の挿入方向を約29.6度に設定した。緯糸は、糸幅の10mmずつ移送される毎に開口された経糸の間に挿入されるため、挿入された緯糸の糸長方向は、ガイド部2の中心軸に対して約89.2度の方向となる。緯糸の挿入速度は、60本/分とした。
【0046】
製織部分の中心軸方向の移送速度は約300mm/分とし、移送部による周方向の回動動作の角速度は約1.06度/分として製織部分を移送及び回動して筒状織物(周長約1414mm)を連続織成した。経糸及び緯糸の交差角度は90度に設定されていた。
【0047】
切断部による筒状織物の切断方向は、中心軸に対して約44.2度に設定し、連続織成された筒状織物を螺旋状に切断して、幅約1229mmの長尺状の斜交織物を製造した。得られた斜交織物は、平織された糸の交差角度が90度に設定され、長手方向に対する配向角度がそれぞれ45度及び-45度に設定されており、糸の交差角度及び配向角度を正確に設定された斜交織物を安定して製造することができた。
【符号の説明】
【0048】
1・・・斜交織物の製造装置、2・・・ガイド部、3・・・経糸織成部、4・・・緯糸織成部、5・・・移送部、50・・・内側移送部、51・・・外側移送部、52・・・外側移送部、6・・・切断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10