(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】新規ポリ乳酸
(51)【国際特許分類】
C08L 75/06 20060101AFI20220128BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20220128BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C08L75/06 ZBP
C08G18/42 080
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2017110421
(22)【出願日】2017-06-02
【審査請求日】2020-03-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 良晴
(72)【発明者】
【氏名】増谷 一成
(72)【発明者】
【氏名】山本 真揮
(72)【発明者】
【氏名】小杉 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆益
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001637(JP,A)
【文献】特開2011-241314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
C08G 18/00-18/87
C08G 71/00-71/04
C08G 63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i):少なくとも、(i-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体
を含有し、
(i)の重合体と(ii)の重合体との混合割合が、(i)の重合体中及び(ii)の重合体の総量中に存在するL-乳酸由来部位及びD-乳酸由来部位のモル比が、2:8~8:2となる割合である、
ステレオコンプレックス結晶のみの混合物。
(ただし、次の(I)及び(II)の混合物は除く。
(I):以下の(ia)と(iia)との混合物。
(ia):(ia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iia):(iia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体
(II):以下の(ib)と(iib)との混合物
(ib):(ib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iib):(iib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体)
【請求項2】
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有するか、あるいは
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有
し、
(i)の重合体と(ii)の重合体との混合割合が、(i)の重合体中及び(ii)の重合体の総量中に存在するL-乳酸由来部位及びD-乳酸由来部位のモル比が、2:8~8:2となる割合である、
ステレオコンプレックス結晶のみの混合物。
【請求項3】
(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が99:1~81:19であり、及び/又は
(ii-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が1:99~19:81である、
請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しい、請求項1~3のいずれかに記載の混合物。
【請求項5】
(i-1)の重合体の数平均分子量と、(ii-1)の重合体の数平均分子量とが、略等しい、請求項1~4のいずれかに記載の混合物。
【請求項6】
(i-1)の重合体の数平均分子量が1000~80000程度であり、及び/又は
(ii-1)の重合体の数平均分子量が1000~80000程度である、
請求項1~5のいずれかに記載の混合物。
【請求項7】
(i-1)におけるジオール及び(ii-1)におけるジオールが、同一又は異なって、HO-(CH
2)
β-OH(βは2~20の整数を示す)で表されるアルカンジオール、H-(OCH
2CH
2)
γ2-OH、(γ2は2~20の整数を示す)で表されるポリエチレングリコール、及び
H-(OCH(CH
3)CH
2)
γ3-OH(γ3は2~20の整数を示す)で表されるポリプロピレングリコール、
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1~6のいずれかに記載の混合物。
【請求項8】
(i-2)のジイソシアネート及び(ii-2)のジイソシアネートが、同一又は異なって、脂肪族ジイソシアネートである、請求項1~7のいずれかに記載の混合物。
【請求項9】
(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)と、(ii-1)の重合体におけるD-乳酸及びL-乳酸のモル比(D-乳酸:L-乳酸)とが、
略等しい、請求項1~8のいずれかに記載の混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリ乳酸等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(polylactic acid、polylactide:PLA)は、乳酸がエステル結合によって重合したポリマー(ポリエステル)である。乳酸は1つの不斉炭素を持ち、L 体とD体の2種が存在する。L体のみを重合させたものはポリ-L-乳酸(poly-L-lactic acid,:PLLA)、D体のみを重合させたものはポリ-D-乳酸(poly-D-lactic acid:PDLA)と呼ばれる。
【0003】
ポリ乳酸は、代表的な生分解性プラスチックの一つであり、環境中で、加水分解により低分子化され、微生物などにより最終的には二酸化炭素と水にまで分解され得る。また、出発原料が再生可能な農産物であり、さらに合成経路に熱分解反応が含まれることから、ケミカルリサイクルが容易である。このような性質のため、環境に配慮したポリマーと期待されている。ただし、ポリ乳酸は、従来から用いられているABS樹脂等と比べると、耐久性や耐熱性が低く、これらの欠点を克服することが重要と考えられている。
【0004】
近年、PLLAとPDLAの混合により得られるステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SC-PLA)が、次世代型バイオプラスチックとして注目されている。SC-PLAはPLLA単独又はPDLA単独の結晶よりも高い融点を示すようになるため、耐熱性や機械的特性の改良されたバイオプラスチックとして期待されている(特許文献1)。しかし、PLLAとPDLAの混合により得られるステレオコンプレックス型ポリ乳酸には、ステレオコンプレックス結晶のみならず、ホモ結晶も存在しており、このホモ結晶が存在する分融点が低くなる(すなわち、耐熱性が低下する)。このため、ホモ結晶ができるだけ存在しない(好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみの)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得ることが、耐熱性を向上させるために資すると考えられる。
【0005】
この観点から進められた研究の一例として、L-乳酸オリゴマーの両末端に水酸基を有するテレケリックL-乳酸プレポリマーおよびD-乳酸オリゴマーの両末端に水酸基を有するテレケリックD-乳酸プレポリマーを質量比で2:8から8:2の範囲の割合で混合し、当該混合物とジイソシアネートとを重合して得られるポリマー(ポリウレタン-ポリ乳酸ポリマー)が、ステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶性による優れた耐熱性および生分解性を併有する特性を備えうることが、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-76462号公報
【文献】特開2014-221860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホモ結晶ができるだけ存在しない(好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみの)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、L-乳酸とD-乳酸との混合物であって質量比でL-乳酸が多い混合物(L乳酸プレミックス)及びジオールの重合体(L-ラクチルセグメント)を、さらにジイソシアネートと重合して得られるポリマー(L-ラクチルセグメント結合体)と、L-乳酸とD-乳酸との混合物であって質量比でD-乳酸が多い混合物(D乳酸プレミックス)及びジオールの重合体(D-ラクチルセグメント)を、さらにジイソシアネートと重合して得られるポリマー(D-ラクチルセグメント結合体)との混合物が、ステレオコンプレックス結晶のみを形成する傾向があることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(i):少なくとも、(i-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体
を含有する混合物。
(ただし、次の(I)及び(II)の混合物は除く。
(I):以下の(ia)と(iia)との混合物。
(ia):(ia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iia):(iia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体
(II):以下の(ib)と(iib)との混合物
(ib):(ib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iib):(iib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体)
項2.
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有するか、あるいは
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有する、
混合物。
項3.
(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が99:1~81:19であり、及び/又は
(ii-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が1:99~19:81である、
項1又は2に記載の混合物。
項4.
(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しい、項1~3のいずれかに記載の混合物。
項5.
(i-1)の重合体の数平均分子量と、(ii-1)の重合体の数平均分子量とが、略等しい、項1~4のいずれかに記載の混合物。
項6.
(i-1)の重合体の数平均分子量が1000~80000程度であり、及び/又は
(ii-1)の重合体の数平均分子量が1000~80000程度である、
項1~5のいずれかに記載の混合物。
項7.
(i-1)におけるジオール及び(ii-1)におけるジオールが、同一又は異なって、
HO-(CH2)β-OH(βは2~20の整数を示す)で表されるアルカンジオール、
H-(OCH2CH2)γ2-OH、(γ2は2~20の整数を示す)で表されるポリエチレングリコール、及び
H-(OCH(CH3)CH2)γ3-OH(γ3は2~20の整数を示す)で表されるポリプロピレングリコール、
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項1~6のいずれかに記載の混合物。
項8.
(i-2)のジイソシアネート及び(ii-2)のジイソシアネートが、同一又は異なって、脂肪族ジイソシアネートである、項1~7のいずれかに記載の混合物。
項9.
(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)と、
(ii-1)の重合体におけるD-乳酸及びL-乳酸のモル比(D-乳酸:L-乳酸)とが、
略等しい、項1~8のいずれかに記載の混合物。
項10.
(i)の重合体と(ii)の重合体との混合割合が、(i)の重合体中及び(ii)の重合体の総量中に存在するL-乳酸由来部位及びD-乳酸由来部位のモル比が、2:8~8:2となる割合である、項1~9のいずれかに記載の混合物。
項11a.
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体。
項11b.
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、
(i―1)L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0は除く)である重合体、あるいは
(ii-1)L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100は除く)である重合体。
項12a.
(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体と(i-2)ジイソシアネートとの重合体。
項12b.
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0は除く)である重合体と、(i-2)ジイソシアネートと
の重合体、あるいは
(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100は除く)である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートと
の重合体。
項13.
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させて重合物(ラクチルセグメント)を得る工程、並びに
当該ラクチルセグメントを、少なくともジイソシアネートと重合させて重合体(ラクチルセグメント結合体)を得る工程、
を含む、ラクチルセグメント結合体製造方法。
項14.
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、及び
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
を含む、重合体(i)の製造方法、あるいは
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、及び
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、
を含む、重合体(ii)の製造方法。
項15.
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、並びに
重合体(i)及び重合体(ii)を混合する工程
を含むか、あるいは
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合体させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、並びに
重合体(i)及び重合体(ii)を混合する工程
を含む、
重合体混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る混合物は、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみのステレオコンプレックス型ポリ乳酸である。このため、耐熱性が好ましく向上し得る。従って、本発明により、これまで耐熱性が低いために応用及び適用が困難であった種々の成型物に、ポリ乳酸を用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ラクチルセグメントを得るための方法(直接重縮合法及びラクチド法)の概要を示す。
【
図2】ジオールとしてHO-(CH
2)
n-OHで表されるアルカンジオールを用い直接重縮合法によりL-ラクチルセグメントを調製する概要(
図2の上側)、並びに、当該L-ラクチルセグメントとジイソシアネートとを重合(換言すれば鎖延長反応)させてL-ラクチルセグメント結合体を調製する概要(
図2の下側)、を示す。
【
図3】L-ラクチルセグメント結合体及びD-ラクチルセグメント結合体の混合物(キャストフィルム)の示差走査熱量測定計(DSC)測定結果を示す。
【
図4】L-ラクチルセグメント結合体及びD-ラクチルセグメント結合体の混合物(キャストフィルム)の示差走査熱量測定計(DSC)測定結果を示す。
【
図5】「Seg(20k)-(L100/D0)」と「Seg(20k)-(L10/D90)」の等モル量混合物(「Seg(20k)-((L100/D0)/(L10/D90))」)の混合物(キャストフィルム)の示差走査熱量測定計(DSC)測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明に包含されるポリ乳酸は、(i):少なくとも、(i-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、を含有する混合物に係る。
【0014】
ただし、当該混合物から、以下の(I)の混合物、及び(II)の混合物は除かれる。
【0015】
(I):以下の(ia)と(iia)との混合物。
(ia):(ia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iia):(iia-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体
【0016】
(II):以下の(ib)と(iib)との混合物
(ib):(ib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体
(iib):(iib-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体
【0017】
上記混合物のうち、中でも好ましいものとしては、例えば、次の2つの混合物が挙げられる。
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有する混合物。
(i):(i―1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体と、(i-2)ジイソシアネートとの重合体、並びに、(ii):(ii-1)L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)である重合体と、(ii-2)ジイソシアネートとの重合体、を含有する、混合物。
【0018】
なお、(i)の重合体及び(ii)の重合体を含有する混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(i)の重合体及び(ii)の重合体以外の他の成分(例えば他のポリマー)を含んでいてもよい。好ましくは、(i)の重合体及び(ii)の重合体の混合物である。
【0019】
(i-1)の重合体は、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20である重合体である。L-乳酸及びD-乳酸のモル比は、α:(100-α)〔αは99~81の整数〕であってもよく、例えば99:1~81:19であることが好ましく、98:2~82:18、97:3~85:15、96:4~87:13、等がより好ましく挙げられる。
【0020】
(ii-1)の重合体は、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80である重合体である。L-乳酸及びD-乳酸のモル比は、(100-α):α〔αは99~81の整数〕であってもよく、例えば1:99~19:81であることが好ましく、2:98~18:82、3:97~15:85、4:96~13:87、等がより好ましく挙げられる。
【0021】
ジオールとしては、例えば、炭素数が2~30程度、2~25程度、2~20程度、又は2~18程度のアルカンジオールが挙げられる。また、アルカンジオールは、直鎖状又は分岐鎖状であり得、直鎖状であることが好ましい。なかでも、HO-(CH2)β-OH(βは2~20の整数、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20を示す)で表されるアルカンジオールが好ましい。βは、好ましくは2~18、より好ましくは2~16、さらに好ましくは2~14である。より具体的には、例えば1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール(すなわちドデカメチレングリコール)等が好ましく挙げられる。
【0022】
また例えば、ジオールとして、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を用いることができる。これらはそれぞれ、H-(OCH2CH2)γ2-OH、H-(OCH(CH3)CH2)γ3-OH、と表され得る。ここで、γ2、γ3は、それぞれ独立して、2~20の整数(好ましくは2~18、より好ましくは2~16、さらに好ましくは2~14)を示す。
【0023】
ジオールは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
なお、(i-1)及び(ii-1)で用いるジオールの種類及び量は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。同一であることが好ましい。
【0025】
(i-1)及び(ii-1)の重合体は、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させることで得ることができる。用いるL-乳酸及びD-乳酸の量は、上記の重合体におけるモル比と同じモル比になるよう調整することで、得られる重合体のモル比も上記の値になる。なお、L-乳酸及びD-乳酸は分子量が同一であるため、質量比はモル比に等しい。また、用いる乳酸及びジオールの量を調整することにより、得られる(i-1)及び(ii-1)の重合体の平均分子量(数平均分子量)を調整することができる。特に制限はされないが、例えば、用いる乳酸とジオールとのモル比(乳酸/ジオールの計算値)としては、10~300程度が好ましい。
【0026】
本明細書において、乳酸とジオールの重合体を「ラクチルセグメント」と呼ぶことがある。特に(i-1)の重合体を「L-ラクチルセグメント」、(ii-1)の重合体を「D-ラクチルセグメント」と、それぞれ呼ぶことがある。
【0027】
(i-1)の重合体(L-ラクチルセグメント)は、数平均分子量(Mn)が好ましくは1000~80000程度、より好ましくは1500~50000程度、さらに好ましくは2000~40000程度、よりさらに好ましくは2000~25000程度である。また、(ii-1)の重合体(D-ラクチルセグメント)の数平均分子量(Mn)も同様に、1000~80000程度、より好ましくは1500~50000程度、さらに好ましくは2000~40000程度、よりさらに好ましくは2000~25000程度である。本明細書における重合体の数平均分子量は、(i)及び(ii)の重合体の数平均分子量も含め、1H-NMR測定結果から算出した値である。より詳細には、各重合体サンプル30mgに対して0.7mLの溶媒(CDCL3(+0.03 vol% TMS))を加えて試料溶液を調製し、これを1H-NMR測定し、得られたピークから算出した値である。
【0028】
(i-1)及び(ii-1)の重合体は、公知の方法(例えば上記特許文献2に記載の方法)又は公知の方法に準じて容易に得られる方法により製造することができる。より具体的には、例えば、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを縮合させる直接重縮合法、並びに、L-乳酸及びD-乳酸を分子内縮合させてラクチドを生成し、これにジオールを加えて重合させるラクチド法、等が挙げられる。直接重縮合法及びラクチド法の概要を
図1に示す。さらに、
図2に、ジオールとしてHO-(CH
2)
n-OHで表されるアルカンジオールを用い直接重縮合法によりL-ラクチルセグメントを調製する概要(
図2の上側)、並びに、併せて、当該L-ラクチルセグメントとジイソシアネートとを重合(換言すれば鎖延長反応)させてL-ラクチルセグメント結合体を調製する概要(
図2の下側)、を示す。
図1及び
図2ではRはジオール由来のユニットを示し、l、m、n、Xは適当な正の整数である。また、
図2では乳酸としてL-乳酸と記載されているが、本発明に係るL-ラクチルセグメントを製造する場合には、L-乳酸とD-乳酸との混合物であってL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)である混合物(L乳酸プレミックス)を用いる。
図2において、乳酸としてL-乳酸とD-乳酸との混合物であってL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)である混合物(D乳酸プレミックス)を用いれば、D-ラクチルセグメントが調製される。
【0029】
これらの重合は、例えば、触媒(パラトルエンスルホン酸(p-TSA)、オクチル酸スズ等)を加えながら、例えば150℃~200℃程度に加熱し、必要に応じて撹拌することで行うことができる。
【0030】
(i)の重合体(L-ラクチルセグメント結合体)は、少なくとも、(i-1)の重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合させて得られる。(i-1)の重合体及び(i-2)ジイソシアネート以外に、さらに他の化合物を組み合わせて重合させてもよい。このような重合体も、(i)の重合体に包含される。このような他の化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等の様々なポリオールが挙げられる。(i)の重合体としては、好ましくは、他の化合物を用いていない、(i-1)の重合体と(i-2)ジイソシアネートとの重合体である。
【0031】
また、(ii)の重合体(D-ラクチルセグメント結合体)は、少なくとも、(ii-1)の重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合させて得られる。(ii-1)の重合体及び(ii-2)ジイソシアネート以外に、さらに他の化合物を組み合わせて重合させてもよい。このような重合体も、(ii)の重合体に包含される。このような他の化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等の様々なポリオールが挙げられる。(ii)の重合体としては、好ましくは、他の化合物を用いていない、(ii-1)の重合体と(ii-2)ジイソシアネートとの重合体である。
【0032】
なお、(i)及び(ii)のいずれにおいても、上記他の化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(i-2)ジイソシアネートと(ii-2)ジイソシアネートとは、同一であっても異なっていてもよい。ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネートや脂肪族ジイソシアネートが例示でき、脂肪族ジイソシアネートが好ましい。芳香族ジイソシアネートとしては、例えばトルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えばO=C=N-(CH2)δ-N=C=Oで表される化合物が挙げられる。ここでδは1~10の整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)であり、1~8の整数であることが好ましい。特に好ましいジイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートは、(i-2)及び(ii-2)のいずれにおいても、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、(i-1)及び(ii-1)で用いるジイソシアネートの種類及び量は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0034】
(i)の重合体(L-ラクチルセグメント結合体)は、数平均分子量(Mn)が好ましくは10000~1000000程度、より好ましくは20000~900000程度、さらに好ましくは30000~800000程度、よりさらに好ましくは40000~700000程度、特に好ましくは50000~600000程度である。また、(ii)の重合体(D-ラクチルセグメント結合体)の数平均分子量(Mn)も同様に、好ましくは10000~1000000程度、より好ましくは20000~900000程度、さらに好ましくは30000~800000程度、よりさらに好ましくは40000~700000程度、特に好ましくは50000~600000程度である。
【0035】
ジイソシアネートの使用モル量としては、適宜設定することができるが、例えば、(i-1)及び(ii-1)の重合体を調製した際のジオール使用モル量の0.8~1.2倍モル量とすることが好ましい。
【0036】
(i)の重合体と(ii)の重合体とを混合する方法としては、ホモ結晶ができるだけ存在しない(好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみの)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得ることができれば、特に制限されないが、例えば、溶融混合が挙げられる。溶融混合物が当該混合物の好ましい一形態といえる。より具体的には、例えば両方の重合体を加熱して溶融混合する方法が挙げられる。必要に応じて、両重合体を適当な溶媒に溶解させてもよい。溶融混合して得た溶融物を用いて得られるフィルムや繊維、ペレット等も好ましく本発明の混合物に包含される。なお、必要に応じて用いられる溶媒としては、例えばCHCl3/HFIP (9/1(wt/wt))混合溶媒が好ましく挙げられる。なお、上記の通り、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分(例えば他のポリマー)をさらに加えて溶融混合してもよい。
【0037】
混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体は、例えば、(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しいことが好ましい。(i)の重合体と(ii)の重合体の数平均分子量が「略等しい」とは、(i)の重合体の数平均分子量と(ii)の重合体の数平均分子量とのうち、大きい方の数平均分子量の85%~100%の範囲に、もう一方の数平均分子量が含まれることをいう。両者の数平均分子量が同一である場合はいずれを「大きい方」として用いてもよい。例えば、(i)の数平均分子量が140000であって(ii)の数平均分子量より大きい場合、(ii)の数平均分子量が119000~140000(すなわち、140000の85%~100%)である場合には、これらの数平均分子量は「略等しい」といえる。この範囲の下限「85%」は、好ましくは例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、又は95%であり得る。
【0038】
また例えば、混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体において、(i-1)の重合体の数平均分子量と、(ii-1)の重合体の数平均分子量とが、略等しいことが好ましい。特に、(i-1)の重合体の数平均分子量と、(ii-1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、且つ(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しいことがより好ましい。(i-1)の重合体と(ii-1)の重合体の数平均分子量が「略等しい」とは、(i-1)の重合体の数平均分子量と(ii-1)の重合体の数平均分子量とのうち、大きい方の数平均分子量の85%~100%の範囲に、もう一方の数平均分子量が含まれることをいう。両者の数平均分子量が同一である場合はいずれを「大きい方」として用いてもよい。例えば、(i-1)の数平均分子量が9000であって(ii-1)の数平均分子量より大きい場合、(ii-1)の数平均分子量が7650~9000(すなわち、9000の85%~100%)である場合には、これらの数平均分子量は「略等しい」といえる。この範囲の下限「85%」は、好ましくは例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、又は95%であり得る。
【0039】
また例えば、混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体において、(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)と、(ii-1)の重合体におけるD-乳酸及びL-乳酸のモル比(D-乳酸:L-乳酸)とが、略等しいことが好ましい。ここでの「略等しい」は、次のように判断する。
【0040】
(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)について、各比の値の合計が100となるように換算する。つまり、L-乳酸及びD-乳酸のモル比を(Li:Di)であって、且つLi+Di=100となるように換算する。同様に、(ii-1)の重合体におけるD-乳酸及びL-乳酸のモル比(D-乳酸:L-乳酸)について、各比の値の合計が100となるように換算する。つまり、D-乳酸及びL-乳酸のモル比を(Dii:Lii)であって、且つDii+Lii=100となるように換算する。このとき、Li及びDiiのうち大きい方の値の85%~100%の範囲に、もう一方の値が含まれる場合を「略等しい」という。両者の値が同一である場合はいずれを「大きい方」として用いてもよい。例えば、(Li:Di)=(90:10)であり、(Dii:Lii)=(80:20)である場合、Li及びDiiのうちLiの方が大きく、Li(90)の85%~100%は76.5~90であって、Lii(80)はこの範囲に含まれるから、(i-1)の重合体におけるL-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)と、(ii-1)の重合体におけるD-乳酸及びL-乳酸のモル比(D-乳酸:L-乳酸)とは、「略等しい」といえる。この範囲の下限「85%」は、好ましくは例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%であり得る。
【0041】
混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体との混合比は、(i)の重合体中及び(ii)の重合体の総量中に存在するL-乳酸由来部位及びD-乳酸由来部位のモル比が、8:2~2:8となる割合であることが好ましい。より好ましくは、7:3~3:7であり、さらに好ましくは6:4~4:6であり、特に好ましくは約1:1である。なお、理論上、(Li:Di)と(Dii:Lii)とが正反対であって、分子量(数平均分子量)が同じである(i)の重合体と(ii)の重合体を等質量(すなわち等モル)混合すれば、結果として(i)の重合体中及び(ii)の重合体の総量中に存在するL-乳酸由来部位及びD-乳酸由来部位のモル比は1:1になる。
【0042】
本発明は、さらに、上記(i)の重合体及び(ii)の重合体、上記(i)の重合体及び(ii)の重合体の製造方法、並びに(i)の重合体及び(ii)の重合体の混合物の製造方法、をも包含する。
【0043】
(i)の重合体及び(ii)の重合体については、上述の通りである。
【0044】
(i)の重合体及び(ii)の重合体の製造方法については、上述した(i)の重合体及び(ii)の重合体における、L-乳酸及びD-乳酸のモル比の限定を付さない場合についても、本発明に包含される。すなわち、本発明には、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させて重合物(ラクチルセグメント)を得る工程、並びに、当該ラクチルセグメントを、少なくともジイソシアネートと重合させて重合体(ラクチルセグメント結合体)を得る工程、を含む、ラクチルセグメント結合体製造方法も包含される。
【0045】
このようなラクチルセグメント結合体製造方法の中でも、好ましい製造方法として、例えば次の2つの製造方法が挙げられる。
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合体させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、及び
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
を含む、重合体(i)の製造方法。
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、及び
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、
を含む、重合体(ii)の製造方法。
【0046】
(i)の重合体及び(ii)の重合体の製造方法における、各工程については、上述した通りである。
【0047】
(i)の重合体及び(ii)の重合体の混合物の製造方法としては、前記i)の重合体及び(ii)の重合体の製造方法の各工程の後、得られた(i)の重合体及び(ii)の重合体を混合する工程を加える方法が、好ましく挙げられる。より詳細には、例えば次の2つの方法が挙げられる。
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合体させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、並びに
重合体(i)及び重合体(ii)を混合する工程
を含む、重合体混合物の製造方法。
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合体させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が100:0~80:20で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(i-1)を得る工程、
得られた(i-1)重合体と(i-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(i)を得る工程、
L-乳酸、D-乳酸、及びジオールを重合させる工程であって、L-乳酸及びD-乳酸のモル比(L-乳酸:D-乳酸)が0:100~20:80(但し0:100及び20:80は除く)で重合させ、L-乳酸、D-乳酸、及びジオールの重合体(ii-1)を得る工程、
得られた(ii-1)重合体と(ii-2)ジイソシアネートとを重合し、重合体(ii)を得る工程、並びに
重合体(i)及び重合体(ii)を混合する工程
を含む、重合体混合物の製造方法。
【0048】
(i)の重合体及び(ii)の重合体の混合物の製造方法における、各工程については、上述した通りである。
【0049】
本発明に係る上記混合物は、好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみのステレオコンプレックス型ポリ乳酸である。このため、耐熱性が好ましく向上し得る。従って、本発明により、これまで耐熱性が低いために応用及び適用が困難であった種々の成型物に、ポリ乳酸を用いることが可能となる。
【0050】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0051】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0052】
ラクチルセグメント及びラクチルセグメント結合体の調製
<L-ラクチルセグメント及びL-ラクチルセグメント結合体>
L-lactideに対して少量のD-lactideとジオールを所定の配合比率で配合し、触媒としてオクチル酸スズを加えながら180℃で反応させて両末端に反応性の水酸基を有するL体リッチな重合体(L-ラクチルセグメント)を製造した。そして、L-ラクチルセグメントに、等モル量のジイソシアネートを加えて鎖延長反応させることにより、L-ラクチルセグメント結合体を合成した。なお、以下L-ラクチルセグメント結合体を「Seg-PLLA」と呼ぶことがある。
【0053】
より詳細には、二つ口フラスコに、(1)L-lactide 20g(L100/D0)、(2)L-lactide 19g/D-lactide 1g(L95/D5)、(3)L-lactide 18g/D-lactide 2g(L90/D10)、又は(4)L-lactide 16g/D-lactide 4g(L80/D20)、の四種類の原料をそれぞれ投入し、さらに、得られるラクチルセグメントの数平均分子量(セグメント長ともいう)が20000程度とする場合はドデカメチレングリコール(DMG)を202.3mg、セグメント長を10000程度とする場合はDMGを404.7mg、セグメント長を5000程度とする場合はDMGを809.4mg加え、室温下、10Paの減圧下にて、6時間、lactideを乾燥した(窒素置換を1時間毎に1回行った)。その後、オクチル酸スズを45μL加え、窒素雰囲気下にて、180℃に加熱されたオイルバス中にフラスコを入れ25分重合した(L-ラクチルセグメントが合成された)。当該重合後、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を用いたDMGに対して等モル量加え、180℃に加熱されたオイルバス中で15分鎖延長反応を行った。得られた重合物を室温下まで冷却し、L体リッチな重合物(L-ラクチルセグメント結合体:Seg-PLLA)を得た。
【0054】
<D-ラクチルセグメント及びD-ラクチルセグメント結合体>
D-lactideに対して少量のL-lactideとジオールを所定の配合比率で配合し、触媒としてオクチル酸スズを加えながら180℃で反応させて両末端に反応性の水酸基を有するD体リッチな重合体(D-ラクチルセグメント)を製造した。続けてD-ラクチルセグメントに対して等モル量のジイソシアネートを加えて鎖延長反応させることにより、D-ラクチルセグメント結合体を合成した。なお、以下D-ラクチルセグメント結合体を「Seg-PDLA」と呼ぶことがある。
【0055】
より詳細には、二つ口フラスコに、(1)D-lactide 20g (L0/D100)、(2)D-lactide 19g/L-lactide 1g(L5/D95)、(3)D-lactide 18g/L-lactide 2g(L10/D90)、(4)D-lactide 16g/L-lactide 4g(D80/DL20)、の四種類の原料をそれぞれ投入し、さらに、ラクチルセグメントの分子量(セグメント長)を20000程度とする場合はドデカメチレングリコール(DMG)を202.3mg、セグメント長を10000程度とする場合はDMGを404.7mg、セグメント長を5000程度とする場合はMGを809.4 mg加え、室温下、10Paの減圧下にて6時間、lactideを乾燥した(窒素置換を1時間毎に1回行った)。その後、オクチル酸スズを45μL加え、窒素雰囲気下にて、180℃に加熱されたオイルバス中にフラスコを入れ25分重合した(D-ラクチルセグメントが合成された)。当該重合後、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を、用いたDMGに対して等モル量加え、180℃に加熱されたオイルバス中で15分鎖延長反応を行った。得られた重合物を室温下まで冷却し、D体リッチな重合物(D-ラクチルセグメント結合体:Seg-PDLA)を得た。
【0056】
得られた各ラクチルセグメント及び各ラクチルセグメント結合体の数平均分子量については、1H-NMR測定を行い得られた結果から算出して求めた。より詳細には、各重合体サンプル30mgに対して0.7mLの溶媒(CDCL3(+0.03 vol% TMS))を加えて試料溶液を調製し、これを1H-NMR測定し、得られたピークから算出した値である。1H-NMRとしては、1H-NMR (300MHz) Bruker AV300 spectrometerを用いた。
【0057】
上記(1)のL又はD-ラクチルセグメントのセグメント長、及び当該セグメントから得られたL又はD-ラクチルセグメント結合体の、数平均分子量(Mn)を以下に示す。
【0058】
【0059】
L-ラクチルセグメント結合体及びD-ラクチルセグメント結合体の混合物の検討
得られたL-ラクチルセグメント結合体(Seg-PLLA)及びD-ラクチルセグメント結合体(Seg-PDLA)を等モル量、CHCl3/HFIP (9/1(wt/wt))混合溶媒に溶解させ、得られた溶解液を用いてキャストフィルムを作製した。なお、HFIPはヘキサフルオロ-2-プロパノールである。また、比較のため、通常のポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)を同様に混合してキャストフィルムを作製した(PLLA/PDLA)。当該PLLA及びPDLAの数平均分子量を上記と同様にして測定したところ、PLLAは114000、PDLAは124000であった。
【0060】
なお、各ラクチルセグメント結合体について、「Seg(セグメント長)-(Lx/Dy)」と表記することがある。Lx/Dyは、セグメントにおけるL体/D体比率を表す。例えば、「Seg(10k)-(L100/D0)」は、L-乳酸/D-乳酸がモル比100/0で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約10000)が連結したラクチルセグメント結合体を表し、また例えば「Seg(5k)-(L10/D90)」は、L-乳酸/D-乳酸がモル比10/90で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約5000)が連結したラクチルセグメント結合体を表す。
【0061】
また、L-乳酸/D-乳酸のモル比が正反対である点を除けば、同一条件であるラクチルセグメント結合体どうしを混合した場合、特に「Seg(セグメント長)-(x/y)」と表記することがある。ここでx/yは、Lx/DyとLy/Dxの混合であることを表す。例えば、「Seg(10k)-(100/0)」は、L-乳酸/D-乳酸がモル比100/0で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約10000)が連結したラクチルセグメント結合体、及びL-乳酸/D-乳酸がモル比0/100で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約10000)が連結したラクチルセグメント結合体の、混合物を表す。つまり、「Seg(10k)-(100/0)」は、「Seg(10k)-(L100/D0)」と「Seg(10k)-(L0/D100)」の混合物である。また、例えば「Seg(5k)-(90/10)」は、L-乳酸/D-乳酸がモル比90/10で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約5000)が連結したラクチルセグメント結合体、及びL-乳酸/D-乳酸がモル比10/90で重合したラクチルセグメント(セグメント長が約5000)が連結したラクチルセグメント結合体の、混合物を表す。つまり、「Seg(5k)-(90/10)」は、「Seg(5k)-(L90/D10)」と「Seg(5k)-(L10/D90)」の混合物である。
【0062】
なお、当該kを用いたラクチルセグメントの数平均分子量の表記には幅があり、約±15%(すなわち85%~115%)までを含める。例えば、10kは8500~11500を示す。また、上記表1では、ラクチルセグメントの数平均分子量が18900を20k、8900を10k、4860を5kと表記している。
【0063】
得られた各キャストフィルムの熱的性質を示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定した(室温から250℃まで昇温)。結果を
図3及び
図4に示す。
【0064】
図3左側の測定結果から、L-乳酸又はD-乳酸のみから調製したラクチルセグメントを、連結して合成したラクチルセグメント結合体どうしを混合した場合、ステレオコンプレックス結晶のみならずホモ結晶をも生じることがわかった。一方で、
図3右側の測定結果から、ラクチルセグメントにおけるL-乳酸/D-乳酸モル比が異なるもの(特に正反対のもの)を混合した場合、ホモ結晶は生じず、ステレオコンプレックス結晶のみが生じることがわかった。
【0065】
さらに、
図4の測定結果から、Seg(10k)-(100/0)ではステレオコンプレックス結晶のみならずホモ結晶も生じており、Seg(10k)-(80/20)ではステレオコンプレックス結晶もホモ結晶も生じておらず、これらは耐熱性がそれほど高くはない一方、Seg(10k)-(95/5)及びSeg(10k)-(90/10)では、ホモ結晶は生じず、ステレオコンプレックス結晶のみが生じており、耐熱性に優れることがわかった。このことから、ラクチルセグメントにおけるL-乳酸/D-乳酸モル比が異なるもの(特に正反対のもの)を混合する場合、100:0~80:20(但し100:0及び80:20は除く)程度のものどうしを混合することにより、ホモ結晶は生じず、ステレオコンプレックス結晶のみが生じることがわかった。
【0066】
またさらに、「Seg(20k)-(L100/D0)」と「Seg(20k)-(L10/D90)」の等モル量混合物(「Seg(20k)-((L100/D0)/(L10/D90))」)のキャストフィルムを上記と同様にして作製した。当該キャストフィルムについても、熱的性質を示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定した(室温から250℃まで昇温した後、室温まで下げて、再度室温から250℃まで昇温させた時に測定)。結果を
図5に示す。当該混合物についても、ホモ結晶は生じず、ステレオコンプレックス結晶のみが生じることがわかった。
【0067】
このことから、ラクチルセグメントにおけるL-乳酸/D-乳酸モル比が異なるものを混合する場合、当該モル比が正反対でなくとも、100:0~80:20程度のものどうしを混合することにより、ホモ結晶は生じず、ステレオコンプレックス結晶のみが生じることがわかった。