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特許7016072ラジカル重合によるオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法
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  • 特許-ラジカル重合によるオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ラジカル重合によるオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/26 20060101AFI20220128BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C08F16/26
C08F4/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017167740
(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公開番号】P2019044050
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】杉 原 伸 治
(72)【発明者】
【氏名】遠 藤 雅 大
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-166829(JP,A)
【文献】特開2017-014438(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099427(WO,A1)
【文献】特開2016-050266(JP,A)
【文献】特表2009-510175(JP,A)
【文献】Radical polymerization of oligoethylene glycol methyl vinyl ethers in protic polar solvents,MACROMOLECULAR CHEMISTRY AND PHYSICS,1998年,199,1,119-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/00-16/38
C08F 2/00-2/60
C08F 4/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法であって、
下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1~10の整数である。)
で示されるビニルエーテルを、重合溶媒として水、添加剤として塩基性化合物、およびラジカル重合開始剤として有機アゾ系化合物の存在下、pH5以上で重合させる工程を含んでなり、
前記塩基性化合物の使用量が、前記ビニルエーテルに対して、0.01~0.5mol%である、製造方法。
【請求項2】
前記塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物またはアミン化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機アゾ系化合物が、下記式(2):
【化2】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、RおよびRは、それぞれ独立してニトリル基、置換基を有していてもよいアルコキシ部分を有するエステル基、または置換基を有していてもよいアルキルアミノ部分を有するアミド基を示す。)
で示される化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機アゾ系化合物がアゾエステル化合物である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルエーテルポリマーの重平均分子量が3000~50000の範囲内である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合によるオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーは接着剤、塗料、潤滑剤の配合成分として用いられる。また、熱刺激応答性や生体適合性といった特徴を有し、その特徴を利用した分散剤、金属回収樹脂、抗血栓性材料などに応用可能である。
【0003】
ビニルエーテルは一般的に電子供与性の置換基を有するため、カチオン重合によってビニルエーテルポリマーを得られることが知られている。しかしながら、カチオン重合は通常0℃以下の低温下で行われるため、工業的スケールでは重合時の反応熱により温度制御が容易ではない。更に、カチオン重合で用いられる開始剤は水で失活するため、無水状態かつ不活性ガス中で反応させる必要がある。したがって、ビニルエーテルポリマーを、カチオン重合により工業的に安価かつ効率的に製造することは困難である。
【0004】
従来、ビニルエーテルモノマーはラジカル重合性が低く、ラジカル重合によってビニルエーテルポリマーを得ることは困難であった。しかし、近年の研究により、反応条件を適切に設定することで、特定のビニルエーテルモノマーではラジカル重合が進行し、ビニルエーテルポリマーを得られることが知られている(特許文献1、2)。
【0005】
例えば、特許文献1には、バルク重合または水溶媒中で、開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い、2-ヒドロキシエチルビニルエーテルや4-ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有ビニルエーテルポリマーを得る方法が開示されている。しかし、AIBNを用いた重合はモノマー転化率が低く、効率的に重合を行うことができなかった。
【0006】
また、特許文献1にはアルコール溶媒中で、開始剤として2,2’-アゾビスイソ酪酸メチル(MAIB)などの非ニトリルアゾ系開始剤を用いた条件で重合を行うことにより、ヒドロキシ基含有ビニルエーテルのモノマー転化率を向上させた例も開示されている。ただし、この条件では、アルコール系溶媒と非ニトリルアゾ系開始剤を用いた場合であっても、溶媒として用いるアルコールの種類によってはポリアセタールが生成し、目的とするヒドロキシ基含有ビニルエーテルポリマーの収率が著しく低下することが確認されている。
【0007】
特許文献2には、特許文献1で開示された条件を改良し、ヒドロキシ基含有ビニルエーテルについて、水溶媒中で、開始剤としてMAIBを用いることにより、高転化率でビニルエーテルの単独ポリマーを得られる重合例が開示されている。
【0008】
一方、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルに関しては、特許文献1にヒドロキシ基含有ビニルエーテルとの共重合例が記載されているが、単独重合については条件が確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5936184号公報
【文献】特開2017-014438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示されている条件下でオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルの単独重合を行った場合、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルモノマーの分解が発生し、ポリマーの収率が著しく低下することが確認され、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルモノマーの効率的な重合を行うことができなかった。
【0011】
本発明は、上記現状を鑑みてなされたものであり、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法において、モノマーの分解やポリアセタールの生成を抑制し、安定的かつ効率的な当該ポリマーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の重合条件下でオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルをラジカル重合させることにより、モノマーの分解やポリアセタールの生成を抑制することができ、更に高いモノマー転化率およびポリマー選択率でオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<>を提供するものである。
<1>オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法であって、
下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1~10の整数である。)
で示されるビニルエーテルを、重合溶媒として水、添加剤として塩基性化合物、およびラジカル重合開始剤として有機アゾ系化合物の存在下、pH5以上で重合させる工程を含んでなり、
前記塩基性化合物の使用量が、前記ビニルエーテルに対して、0.01~0.5mol%である、製造方法。
>前記塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物またはアミン化合物である、<1>に記載の製造方法。
>前記有機アゾ系化合物が、下記式(2):
【化2】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、RおよびRは、それぞれ独立してニトリル基、置換基を有していてもよいアルコキシ部分を有するエステル基、または置換基を有していてもよいアルキルアミノ部分を有するアミド基を示す。)
で示される化合物である、<>または<>に記載の製造方法。
>前記有機アゾ系化合物がアゾエステル化合物である、<1>~<>のいずれかに記載の製造方法。
>前記ビニルエーテルポリマーの重平均分子量が3000~50000の範囲内である、<1>~<>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法によれば、特定の重合条件下でオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルをラジカル重合させることにより、モノマーの分解やポリアセタールの生成を抑制することができ、更に高いモノマー転化率およびポリマー選択率で当該ポリマーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1~7、比較例1~2における、モノマー(MOVE)転化率とポリマー(PMOVE)選択率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法>
本発明のオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの製造方法は、特定の条件下でオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルをラジカル重合する工程を含むことを特徴とする。以下、当該ラジカル重合工程について、詳細に説明する。
【0017】
<モノマー成分>
本発明に用いられるオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルは、下記式(1)で表される。
【化3】
(式中、Rは、炭素数1~3のアルキル基を示し、nは1~10の整数である。)
【0018】
式(1)において、Rで示されるアルキル基の炭素数は、1~3であり、好ましくは1または2である。アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。これらの中でも、アルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0019】
式(1)において、nは1~10の整数であり、1~6の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、1~3の整数が特に好ましい。
【0020】
式(1)で表されるビニルエーテルモノマーとしては、例えば、2-メトキシエチルビニルエーテル、2-エトキシエチルビニルエーテル、2-(2-メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-(2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0021】
<重合溶媒>
本発明においては、重合溶媒として水を用いることを必須とする。また、重合溶媒として、本発明の効果を損なわない範囲で水溶性有機溶媒を併用してもよい。ここで、水溶性とは、25℃における水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1g以上であることを意味する。
【0022】
水の使用量は、特に限定されないが、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテル100質量部に対して、5~2000質量部であり、好ましくは10~1000質量部である。また、重合溶媒全量に対する水の量は、10質量%以上100質量%以下であり、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。
【0023】
上記の水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの1価アルコール系溶媒;エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールなどの多価アルコール系溶媒;セロソルブ、メチルセロソロブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;およびテトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテルなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<添加剤>
本発明では、重合時のpHを5以上とするため、添加剤として塩基性化合物を添加することを必須とする。重合時のpHは、5以上14以下であることが好ましく、6以上12以下であることがより好ましい。重合時のpHが5未満(酸性~弱酸性程度)であった場合は、反応系中の水素イオンによって、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルが加水分解反応を起こし、アルコールとアルデヒドに分解することにより、ポリマーの収率が著しく低下するため、塩基性化合物の添加が必要となる。
【0025】
また、塩基性化合物のカチオン種として、ビニルエーテルと相互作用可能なサイズの小さいカチオン種が存在することにより、カチオン種がビニルエーテルモノマーの酸素原子から電子を引き付け、ビニル基のラジカル重合性を向上させると考えられる。このことから、本発明の重合条件下では、ラジカル重合性の低いオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルにおいても、ラジカル重合が進行するものと考えられる。
【0026】
塩基性化合物の使用量は、特に限定されないが、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテル1molに対して、0.01~0.5mol%であり、好ましくは0.05~0.2mol%である。
【0027】
ビニルエーテルの加水分解抑制とラジカル重合性向上の効果を併せ持つ塩基性化合物として、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物やアンモニア、トリエチルアミンなどのアミン化合物などが挙げられる。本発明においては、これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
<ラジカル重合開始剤>
本発明において、ラジカル重合開始剤は有機アゾ系化合物であれば、従来公知のものを用いることができる。
【0029】
ラジカル重合開始剤の使用量は、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテル1molに対して、好ましくは0.1~50mol%であり、より好ましくは0.2~20mol%であり、更に好ましくは1~10mol%である。
【0030】
本発明において、有機アゾ系化合物は、下記式(2):
【化4】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を示し、RおよびRは、それぞれ独立してニトリル基、置換基を有していてもよいアルコキシ部分を有するエステル基、または置換基を有していてもよいアルキルアミノ部分を有するアミド基を示す。)
で示される化合物を用いてもよい。
【0031】
上記の有機アゾ系化合物としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾニトリル化合物;2,2’-アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾエステル化合物;2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシルエチル]-プロピオンアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]等のアゾアミド化合物;2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)などを挙げることができる。これらの中でも、ポリアセタール化抑制の観点から、アゾエステル化合物を用いることが好ましい。
【0032】
<オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマー>
本発明において、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、その用途に応じて適宜設定され得るものであり、特に限定されない。例えば、重量平均分子量(Mw)は、高分子性を発現させる観点から、好ましくは3000~50000の範囲内であり、より好ましくは4000~30000の範囲内である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、ポリマーの性質を均一化する観点から、好ましくは1.5超2.0未満であり、より好ましくは1.55以上1.90以下である。
なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定値であり、後述する測定条件にて測定することができる。
【0033】
本発明において、モノマー転化率は、特に限定されないが、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。
本発明において、ポリマー選択率は、特に限定されないが、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
ここで、「モノマー転化率」とは、重合開始前のモノマー全量に対する重合中(または重合後)のモノマーの消費率を、後述する測定条件でガスクロマトグラフィー(GC)により測定したモノマーのピーク面積から算出したものである(したがって、転化率に関しては、モノマーのポリマー化とモノマー分解の区別はつけていない)。
また、「ポリマー選択率」とは、消費されたモノマーに対するポリマーの生成率を表し、GCにおけるアルコール(モノマー分解物)のピーク面積からモノマーの分解率を算出し、[モノマー選択率(%)]=[100(%)]―[モノマー分解率(%)]として導出したものである。
【0034】
<重合工程>
本発明による製造方法において、重合工程の反応温度(重合温度)は重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよく、段階的に温度を変えて反応(重合)させてもよい。一般的には50~100℃の範囲が好ましく、60~90℃が特に好ましい。
【0035】
重合工程の反応時間は、試薬の種類、量、反応温度によって異なるが、好ましくは2~90時間であり、より好ましくは2~50時間であり、更に好ましくは3~30時間である。
【0036】
重合方法は特に制限されないが、例えば、あらかじめ反応器にモノマー、重合溶媒、添加剤、重合開始剤を仕込んでおき、昇温することによって重合を開始させることができる。また、加熱したモノマーまたはモノマー溶液に、重合開始剤を添加して重合を開始してもよい。重合開始剤の添加は逐次添加でも一括添加でもよい。また、これらを組み合わせて、あらかじめ重合開始剤の一部を反応器に仕込んでおき、その後残部を反応系に逐次添加してもよい。逐次添加の場合、操作は煩雑になるが重合反応を制御しやすい。ただし、モノマーに添加剤を加える前に溶媒と混合させた場合、モノマーの加水分解が進行するため、添加剤はあらかじめモノマーと混合しておくことが好ましい。
【0037】
反応終了後、得られたオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルポリマーは、公知の操作、処理方法により処理し、単離することができる。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における測定は、次の測定方法に従った。
【0039】
pHはメトラートレド(株)製Seven2Goを使用し、重合開始前の仕込液に電極を浸すことで測定した。
【0040】
重合反応におけるモノマー転化率、ポリマー選択率の算出はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。
<条件>
カラム:DB-1(アジレントテクノロジー(株)製)
昇温プログラム:50℃5分保持→10℃/分で昇温→250℃5分保持
キャリアガス:窒素
カラム流速:0.95ml/分
【0041】
ホモポリマーおよび共重合体の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)の分析は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて行った。
<条件>
カラム:Shodex GPC LF804×3(昭和電工(株)製)
溶媒:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流速:1.0ml/分
検量線:標準ポリスチレンスタンダード
【0042】
実施例1:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.10mol%)
フラスコへ撹拌子と2-メトキシエチルビニルエーテル(以下、「MOVE」と記載する)50g(490mmol)と2,2’-アゾビスイソ酪酸メチル(和光純薬工業(株)製「V-601」、以下、「MAIB」と記載する)5.6g(24.5mmol、モノマーに対して5mol%)、イオン交換水44.4g、水酸化リチウム0.012g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)を加えて栓をした。この仕込液のpHは9.4であった。MAIBが溶解するまで撹拌を行い、70℃に予熱しておいたウォーターバスにフラスコをつけ、7時間撹拌しながら加熱し、重合した。重合終了後、氷浴でフラスコを冷却して重合を停止し、ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)(以下、「PMOVE」と記載する)の水溶液を得た。MOVEの転化率は79%、うちポリマーに転化した割合(以下、「ポリマー選択率」と記載する)は99%であり、PMOVEのMwは7710、Mw/Mnは1.59であった。
【0043】
実施例2:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.05mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0060g(0.25mmol、モノマーに対して0.05mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは5.2であった。MOVEの転化率は81%、ポリマー選択率は84%であり、PMOVEのMwは5000、Mw/Mnは1.56であった。
【0044】
実施例3:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.06mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0072g(0.30mmol、モノマーに対して0.06mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは6.6であった。MOVEの転化率は85%、ポリマー選択率は91%であり、PMOVEのMwは5220、Mw/Mnは1.68であった。
【0045】
実施例4:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.07mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0084g(0.35mmol、モノマーに対して0.07mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは7.0であった。MOVEの転化率は85%、ポリマー選択率は93%であり、PMOVEのMwは4910、Mw/Mnは1.67であった。
【0046】
実施例5:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.08mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0096g(0.40mmol、モノマーに対して0.08mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは7.5であった。MOVEの転化率は85%、ポリマー選択率は93%であり、PMOVEのMwは5240、Mw/Mnは1.73であった。
【0047】
実施例6:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.09mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0108g(0.45mmol、モノマーに対して0.09mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは8.1であった。MOVEの転化率は86%、ポリマー選択率は93%であり、PMOVEのMwは5390、Mw/Mnは1.70であった。
【0048】
実施例7:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.20mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.024g(1.0mmol、モノマーに対して0.20mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは11.5であった。MOVEの転化率は65%、ポリマー選択率は100%であり、PMOVEのMwは7670、Mw/Mnは1.72であった。
【0049】
比較例1:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(添加剤無し)
添加剤を加えなかったこと以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.3であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は26%であり、PMOVEのMwは3070、Mw/Mnは1.41であった。
【0050】
比較例2:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.01mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.0012g(0.050mmol、モノマーに対して0.01mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.5であった。MOVEの転化率は91%、ポリマー選択率は43%であり、PMOVEのMwは2900、Mw/Mnは1.33であった。
【0051】
実施例1~7、比較例1~2における、モノマー転化率とポリマー選択率を図1に示す。
【0052】
実施例1~7、比較例1~2の結果から、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルの重合において、塩基性化合物を添加し、重合開始前の仕込液のpHを5以上とした場合にモノマーの分解が抑制され、ポリマー選択率が大幅に向上することが確認された。
【0053】
実施例8:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.20mol%、MAIB1mol%)
水酸化リチウムの添加量を0.024g(1.0mmol、モノマーに対して0.20mol%)、MAIBを1.1g(4.9mmol、モノマーに対して1mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは11.3であった。MOVEの転化率は43%、ポリマー選択率は100%であり、PMOVEのMwは13770、Mw/Mnは1.53であった。
【0054】
実施例8の結果から、開始剤の使用量を減らすことで、ポリマーの分子量が増大することを確認した。
【0055】
実施例9:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化リチウム添加0.20mol%、MAIB0.2mol%、重合時間変更)
水酸化リチウムの添加量を0.024g(1.0mmol、モノマーに対して0.20mol%)、MAIBを0.22g(1.0mmol、モノマーに対して0.2mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。ここで,重合時間を7時間、24時間、87時間の3種類実施した。仕込液のpHは11.5であった。MOVEの転化率はそれぞれ10%(7時間)、30%(24時間)、86%(87時間)であり、ポリマー選択率はいずれも100%であった。各PMOVEのMwは18560(7時間)、21200(24時間)、20000(87時間)であり、Mw/Mnは1.60(7時間)、1.70(24時間)、1.67(87時間)であった。
【0056】
実施例9の結果から、開始剤の使用量をより減らすことで、ポリマーの分子量をさらに増大させることができ、その際、重合時間を長くすることで、重合率を高めることが可能であることを確認した。
【0057】
実施例10:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(水酸化ナトリウム添加0.10mol%)
添加剤を水酸化ナトリウム0.020g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは9.6であった。MOVEの転化率は76%、ポリマー選択率は99%であり、PMOVEのMwは7560、Mw/Mnは1.60であった。
【0058】
実施例11:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(アンモニア添加0.10mol%)
添加剤を25%アンモニア水0.033g(アンモニア含有量0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは9.4であった。MOVEの転化率は88%、ポリマー選択率は83%であり、PMOVEのMwは4480、Mw/Mnは1.58であった。
【0059】
実施例12:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(トリエチルアミン添加0.10mol%)
添加剤をトリエチルアミン0.050g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは9.4であった。MOVEの転化率は85%、ポリマー選択率は85%であり、PMOVEのMwは4460、Mw/Mnは1.69であった。
【0060】
比較例3:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(塩化リチウム添加0.10mol%)
添加剤を塩化リチウム0.021g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.4であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は24%であり、PMOVEのMwは2860、Mw/Mnは1.40であった。
【0061】
比較例4:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(臭化リチウム添加0.10mol%)
添加剤を臭化リチウム0.043g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.2であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は23%であり、PMOVEのMwは2840、Mw/Mnは1.37であった。
【0062】
比較例5:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(ヨウ化リチウム添加0.10mol%)
添加剤をヨウ化リチウム0.066g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.3であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は21%であり、PMOVEのMwは2810、Mw/Mnは1.37であった。
【0063】
比較例6:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(硫酸リチウム添加0.05mol%)
添加剤を硫酸リチウム0.028g(0.25mmol、モノマーに対して0.05mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.4であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は22%であり、PMOVEのMwは2650、Mw/Mnは1.31であった。
【0064】
比較例7:ポリ(2-メトキシエチルビニルエーテル)の製造(塩化ナトリウム添加0.10mol%)
添加剤を塩化ナトリウム0.029g(0.50mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例1と同様にしてPMOVEを合成した。仕込液のpHは4.4であった。MOVEの転化率は99%、ポリマー選択率は25%であり、PMOVEのMwは2150、Mw/Mnは1.42であった。
【0065】
実施例10~12、比較例3~7の結果から、添加剤は水中で塩基となる塩基性化合物でなければ、オキシエチレン鎖含有ビニルエーテルモノマーの分解抑制効果を発現しないことが確認された。
【0066】
実施例13:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(水酸化リチウム添加0.10mol%)
フラスコへ撹拌子とトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテル(以下、「TEGMVE」と記載する)50g(263mmol)とMAIB3.0g(13mmol、モノマーに対して5mol%)、イオン交換水46.9g、水酸化リチウム0.0063g(0.26mmol,モノマーに対して0.10mol%)を加えて栓をした。仕込液のpHは9.4であった。MAIBが溶解するまで撹拌を行い、70℃に予熱しておいたウォーターバスにフラスコをつけ、7時間撹拌しながら加熱し、重合した。重合終了後、氷浴でフラスコを冷却して重合を停止し、ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテル(以下、「PTEGMVE」と記載する)の水溶液を得た。TEGMVEの転化率は89%、ポリマー選択率は90%であり、PTEGMVEのMwは6650、Mw/Mnは1.55であった。
【0067】
実施例14:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(水酸化ナトリウム添加0.10mol%)
添加剤を水酸化ナトリウム0.011g(0.26mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例13と同様にしてPTEGMVEを合成した。仕込液のpHは9.4であった。TEGMVEの転化率は90%、ポリマー選択率は94%であり、PTEGMVEのMwは6890、Mw/Mnは1.59であった。
【0068】
実施例15:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(アンモニア添加0.20mol%)
添加剤を25%アンモニア水0.035g(0.52mmol、モノマーに対して0.20mol%)にした以外は実施例13と同様にしてPTEGMVEを合成した。仕込液のpHは9.9であった。TEGMVEの転化率は91%、ポリマー選択率は87%であり、PTEGMVEのMwは6720、Mw/Mnは1.53であった。
【0069】
実施例16:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(トリエチルアミン添加0.10mol%)
添加剤をトリエチルアミン0.050g(0.26mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例13と同様にしてPTEGMVEを合成した。仕込液のpHは10.0であった。TEGMVEの転化率は93%、ポリマー選択率は82%であり、PTEGMVEのMwは6160、Mw/Mnは1.57であった。
【0070】
比較例8:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(添加剤なし)
添加剤を加えなかったこと以外は実施例13と同様にしてPTEGMVEを合成した。仕込液のpHは5.5であった。TEGMVEの転化率は98%、ポリマー選択率は22%であり、PTEGMVEのMwは3370、Mw/Mnは1.45であった。
【0071】
比較例9:ポリトリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルの製造(塩化リチウム添加0.10mol%)
添加剤を塩化リチウム0.11g(0.26mmol、モノマーに対して0.10mol%)にした以外は実施例13と同様にしてPTEGMVEを合成した。仕込液のpHは5.4であった。TEGMVEの転化率は100%、ポリマー選択率は24%であり、PTEGMVEのMwは3500、Mw/Mnは1.50であった。
【0072】
実施例13~16、比較例8~9の結果から、MOVE以外のオキシエチレン鎖含有ビニルエーテルについても、モノマーの分解を抑制しつつ、ラジカル重合を進行させるためには塩基性化合物の添加によるpHの調整が必要であることが確認された。
【0073】
【表1】
図1