(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】関節補助ユニット、歩行補助装置
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
A61H3/00 B
(21)【出願番号】P 2017248375
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503247056
【氏名又は名称】甲府市
(73)【特許権者】
【識別番号】000175722
【氏名又は名称】サンコール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】寺田 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小倉 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐敬
(72)【発明者】
【氏名】高橋 玲
(72)【発明者】
【氏名】星野 優
(72)【発明者】
【氏名】牧原 幸伸
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-165823(JP,A)
【文献】特開2016-59763(JP,A)
【文献】国際公開第2015/123451(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節の一端側に装着される第1のリンクと、
前記膝関節の他端側に装着される第2のリンクと、
前記第1のリンクと前記第2のリンクの間で回転運動ないし回転中心を移動させつつ相対的に回転運動させるとともにスライド運動させる駆動部と、を具備し、
前記駆動部は、
周縁カムと、
前記周縁カムの周縁を移動する駆動体と、
前記周縁カムの内側に形成される第1のカム溝と、前記第1のカム溝の内側に配置され前記第1のカム溝と非対称に形成される第2のカム溝と、
前記第1のカム溝と係合する第1のカムピンと、
前記第2のカム溝と係合する第2のカムピンと、
を備え、
前記駆動体の移動により、少なくとも前記第1のカムピン又は前記第2のカムピンを前記第1又は第2のカム溝と係合させつつ移動させ
、
前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記駆動体の移動方向に応じて、前記第1のリンクと前記第2のリンクの屈曲方向が切り替わることを特徴とする関節補助ユニット。
【請求項2】
前記第1のカム溝と前記第2のカム溝は、前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記第1のリンクと前記第2のリンクの間に生じる異なる駆動方向に対応して前記第1及び第2のカムピンが移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の関節補助ユニット。
【請求項3】
前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態において、前記回転中心と2つの各前記カムピンとを結ぶ直線と垂直に交わり各前記カムピンを通るそれぞれの垂線が交わる内側の角度が少なくとも30°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の関節補助ユニット。
【請求項4】
脚の膝関節から上腿部にかけて装着される上腿装着ユニットと、前記膝関節から下腿部にかけて装着される下腿装着ユニットと、前記膝関節に装着される関節補助ユニットと、を備え、
前記関節補助ユニットは、
前記上腿装着ユニットと連結される第1のリンクと、
前記下腿装着ユニットに装着される第2のリンクと、
前記第1のリンクと前記第2のリンクの間で回転運動ないし回転中心を移動させつつ相対的に回転運動させるとともにスライド運動させる駆動部と、を具備し、
前記駆動部は、
周縁カムと、
前記周縁カムの周縁を移動する駆動体と、
前記周縁カムの内側に形成される第1のカム溝と、前記第1のカム溝の内側に配置され前記第1のカム溝と非対称に形成される第2のカム溝と、
前記第1のカム溝と係合する第1のカムピンと、
前記第2のカム溝と係合する第2のカムピンと、
を備え、
前記駆動体の移動により、少なくとも前記第1のカムピン又は前記第2のカムピンを前記第1又は第2のカム溝と係合させつつ移動させ
、
前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記駆動体の移動方向に応じて、前記第1のリンクと前記第2のリンクの屈曲方向が切り替わることを特徴とする歩行補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の関節の動きを補助する関節補助ユニット等に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症の症状が悪化し、人工膝関節置換患者等における歩行運動、屈伸動作、リハビリテーション等の補助に使用される歩行補助装置が従来から知られている。この種の歩行補助装置は、複数存在し(例えば、特許文献1参照)、特許文献1に示す歩行補助装置は、ユーザの膝関節に装着され、アクチュエータを用いて膝関節回りを前後方向に揺動させる脚リンクを備えた関節補助ユニットを具備している。
【0003】
ところで、人体の膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨からなる骨の部分と、半月板からなる軟骨と、前十字靭帯、後十字靭帯、内側副靭帯、外側副靭帯等の靭帯によって構成される。
【0004】
図7に示すように、大腿骨1の下部は後方に突出しており、いくつもの大きさの違う円弧を組み合わせたような形状になっている。脛骨2の上面は略平坦でこの上を大腿骨1の下部が滑りながら回転することで膝の屈伸運動が行われる。
【0005】
図8は膝の屈伸運動に伴って大腿骨1の下部の回転中心2aが描く軌跡を示す。
図8から明らかなように、膝関節が屈伸すると大腿骨1の下部の回転中心2aは、ずれながら曲線の軌跡を描く。このように膝関節は単なる回転運動を行うのではなく、すべり転がり運動を行っている。
【0006】
また、
図7は膝関節の角度とすべり量との関係の一例を示す。
図7中、膝関節の屈曲角度U,V,Wはすべり量u,v,wにそれぞれ対応する。膝関節1の屈伸運動の可動域は、膝が伸びた状態のときを0°とすると、0°~130°程度であり、歩行時に使用している可動域は大体0°~60°である。この可動域のうち、膝の曲がり始めから10°~15°の間は、略一軸の転がり運動をし、その後徐々にすべり運動へ移行してすべり転がり運動となる。
【0007】
従来、このような膝関節のすべり転がり運動を考慮して、人体の上腿部に装着される上腿装着部に対して人体の下腿部に装着される下腿装着部を回転させたときに、下腿装着部の膝関節側端部が前後方向にスライドするようにした膝関節運動補助装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この膝関節運動補助装置によれば、人間の膝関節運動への追従性を高めることができ、装具のずれを防止したり、装着違和感等を解決したりすることができる。
【0008】
特許文献2に示す膝関節運動補助装置は、枢軸(回転中心)を移動可能な連結部と、膝関節端部間がスライド運動を行うカム機構を備えた駆動部と、を備え、所定の角度において、枢軸を適宜移動制御しつつ膝関節端部間をスライド運動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4092322号公報
【文献】特許第5713388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような膝関節運動補助装置は、左右の脚に装着した際に駆動方向が異なるため、左右別々に専用の装置を製造する必要があり、コストが高騰する要因となっていた。
【0011】
また、特許文献2に示す膝関節運動補助装置を改良することで左右兼用の装置を製造可能であるか否かについて検討したものの、連結部を用いることなく所定の動作を行う構成とする必要性が生じた。
【0012】
また、通常、歩行補助装置は左右の歩行補助ユニットを一対として製造販売され、購入する側は、片側の歩行補助ユニットのみが必要であっても左右両方の歩行補助ユニットを購入する必要があった。
【0013】
一方で、歩行補助ユニットに設けられている関節補助ユニットが左右兼用であれば、汎用性があってコストダウンを容易に図ることができる。
【0014】
そこで、本発明は上記問題を課題の一例として為されたもので、左右の関節に兼用して装着可能な関節補助ユニット等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。なお、本発明の理解を容易にするため図面の参照符号を括弧書きで付するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
すなわち、請求項1に記載の関節補助ユニット(20)は、膝関節の一端側に装着される第1のリンク(21)と、前記膝関節の他端側に装着される第2のリンク(22)と、前記第1のリンクと前記第2のリンクの間で回転運動ないし回転中心を移動させつつ相対的に回転運動させるとともにスライド運動させる駆動部(30)と、を具備し、前記駆動部は、周縁カム(32)と、前記周縁カムの周縁を移動する駆動体(33)と、前記周縁カムの内側に形成される第1のカム溝(41)と、前記第1のカム溝の内側に配置され前記第1のカム溝と非対称に形成される第2のカム溝(45)と、前記第1のカム溝と係合する第1のカムピン(42)と、前記第2のカム溝と係合する第2のカムピン(46)と、を備え、前記駆動体の移動により、少なくとも前記第1のカムピン又は第2のカムピンを前記第1又は第2のカム溝と係合させつつ移動させ、前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記駆動体の移動方向に応じて、前記第1のリンクと前記第2のリンクの屈曲方向が切り替わることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の関節補助ユニットは、請求項1に記載の関節補助ユニットにおいて、前記第1のカム溝と前記第2のカム溝は、前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記第1のリンクと前記第2のリンクの間に生じる異なる駆動方向に対応して前記第1及び第2のカムピンが移動可能であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に記載の関節補助ユニットは、請求項1又は2に記載の関節補助ユニットにおいて、前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態において、回転中心と2つの各前記カムピンとを結ぶ直線と垂直に交わり各前記カムピンを通るそれぞれの垂線が交わる内側の角度(α)が少なくとも30°以上であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項4に記載の歩行補助装置(S)は、脚の膝関節から上腿部(16)にかけ
て装着される上腿装着ユニット(5)と、前記膝関節から下腿部(17)にかけて装着される下腿装着ユニット(10)と、前記膝関節に装着される関節補助ユニット(20)と、を備え、前記関節補助ユニットは、前記上腿装着ユニットと連結される第1のリンクと、前記下腿装着ユニットに装着される第2のリンクと、前記第1のリンクと前記第2のリンクの間で回転運動ないし回転中心を移動させつつ相対的に回転運動させるとともにスライド運動させる駆動部と、を具備し、前記駆動部は、周縁カムと、前記周縁カムの周縁を移動する駆動体と、周縁カムの内側に形成される第1のカム溝と、前記第1のカム溝の内側に配置され前記第1のカム溝と非対称に形成される第2のカム溝と、前記第1のカム溝と係合する第1のカムピンと、前記第2のカム溝と係合する第2のカムピンと、を備え、前記駆動体の移動により、少なくとも前記第1のカムピン又は第2のカムピンを前記第1又は第2のカム溝と係合させつつ移動させ、前記第1のリンクと前記第2のリンクが伸展状態を基準として、前記駆動体の移動方向に応じて、前記第1のリンクと前記第2のリンクの屈曲方向が切り替わることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
実際の膝関節の動きに近似した動きを実現することができる。また、屈曲方向を切替えることができるので左右の脚に兼用して装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】歩行補助装置の使用状態を示す模式図であり、
図1(a)は脚を伸展させた状態を示し、
図1(b)は脚を屈曲させた状態を示す。
【
図2】歩行補助装置の関節補助ユニットの構成を示す模式図である。
【
図4】膝関節が伸展した状態を示す関節補助ユニットの動作例を示す模式図である。
【
図5】膝関節が歩行時に屈曲した状態を示す関節補助ユニットの動作例を示す模式図である。
【
図6】膝関節が着座時に屈曲した状態を示す関節補助ユニットの動作例を示す模式図である。
【
図8】大腿骨の下部の回転中心が膝関節の屈曲と共に移動する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、関節補助ユニットを、利用者の膝関節に用いた歩行補助装置について説明を行う。また、以下の説明において、「屈曲動作」とは、膝関節を曲げる動作をいい、「伸展動作」とは、膝関節が伸びる動作をいう。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の歩行補助装置Sは、利用者の脚に装着されるもので、左右の脚に兼用して装着可能な歩行補助ユニットUを備えている。この歩行補助ユニットUは、脚の膝関節から上腿部16にかけて装着される上腿装着ユニット5と、膝関節から下腿部17にかけて装着される下腿装着ユニット10と、膝関節に装着される関節補助ユニット20と、を備えている。なお、歩行補助装置Sは、例えば、利用者の腰部に装着される腰部装着ユニット2に連結されて用いられ、両脚に補助が必要な場合には、歩行補助ユニットUが左右のそれぞれの脚に装着される。
【0025】
この歩行補助ユニットUは、動力源としての例えばモーターの駆動により上腿装着ユニット5に対して下腿装着ユニット10を前後方向に揺動させることで、使用者に対して、例えば、
図1(a)に示す伸展動作と、
図1(b)に示す屈曲動作を適正に行わせ、歩行補助を行う。
【0026】
腰部装着ユニット2は、利用者の腰に巻回して取り付けられる腰ベルト3を備え、腰ベルト3の左右には、上腿装着ユニット5と連結される連結具4が設けられている。
【0027】
上腿装着ユニット5は、利用者の上腿部16の側面に配置される平板状の上腿部プレート6を有し、上端部が腰部装着ユニット2に連結具7を介して回転可能に連結され、上腿部プレート6は上腿部16の外側面に沿って立ち上がるようにして取り付けられる。また、上腿部プレート6には、上腿部16の一部に接触させる接触部材や接触部材を上腿部16に密着させる面ファスナ等の取付具8が設けられており、この取付具8によって上腿部プレート6が膝上に固定して取り付けられる。
【0028】
また、下腿装着ユニット10は、利用者の下腿部17の側面に配置される平板状の下腿部プレート11を有し、上端部が上腿部プレート6との間で関節補助ユニット20を介して連結され、下腿部プレート11は下腿部17の外側面に沿って垂下して取り付けられる。また、下腿部プレート11には、膝下に接触、及び足首に接触させる接触部材や接触部材を膝下及び足首に密着させる面ファスナ等の取付具12が設けられており、この取付具12によって下腿部プレート11の下端部が膝下及び足首に固定して取り付けられる。
【0029】
図1及び
図2に示すように、関節補助ユニット20は、利用者の膝関節の側面に配置され、上腿部プレート6に連結される平板状の第1のリンク21と、この第1のリンク21との間で屈伸自在に連結され、下腿部プレート11に取り付けられる平板状の第2のリンク22と、第1のリンク21と第2のリンク22との間で回転運動ないし回転中心Xを移動させつつ相対的に回転運動させるとともに前後方向にスライド運動させる駆動部30と、を備えている。
【0030】
駆動部30は、周縁カム32と、回転駆動によって周縁カム32の周縁を移動する駆動体33と、周縁カム32の内側に形成される第1のカム溝41と、第1のカム溝41の内側に配置され第1のカム溝41と非対称に形成される第2のカム溝45と、第1のカム溝41と係合する第1のカムピン42と、第2のカム溝45と係合する第2のカムピン46と、を備えている。駆動部30はカバー24によって覆われ、カバー24は第1及び第2のリンク21、22に対して着脱可能である。
【0031】
周縁カム32の周縁には、例えば、駆動体33が係合する歯列が形成され、駆動体33の外周縁にも歯列が形成され、駆動体33の回転により、駆動体33が周縁カム32の周縁を歯列に沿って移動すると同時に周縁カム32が揺動する。
【0032】
また、周縁カム32の周縁の輪郭は、回転中心Xの動きに応じて形成される所定の曲率を有する円弧状に形成され、第1及び第2のカム溝41、45の輪郭は、
図7及び
図8に示す膝関節の移動軌跡としての膝関節の回転運動ないしすべり転がり運動を生じるように形成される。すなわち、実際の膝関節は、
図7及び
図8に示したように、膝関節角がまっすぐな0°から曲がり始めの15°の間は、すべりのない単純な回転運動を行うことから、第1及び第2のカム溝41、45の輪郭のうち膝関節角の0°~15°に対応する部分は、真円状の円弧に形成され、膝関節角が15°~105°の間では、膝関節は回転すべり運動を行うことから、第1及び第2のカム溝41、45の輪郭は楕円状の円弧に形成され、膝関節角が105°以上では膝関節は再び回転運動を行うことから、第1及び第2のカム溝41、45の輪郭は真円状の円弧に形成される。これにより、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10には、実際の膝関節の動きに近似した動きが実現される。
【0033】
なお、第1及び第2のカム溝41、45の輪郭は、膝関節の逆方向の動作にも対応して上記同様に形成される。
【0034】
そして、第1のカム溝41と第2のカム溝45は、第1のリンク21と第2のリンク22が伸展状態を基準として、第1のリンク21と第2のリンク22の間に生じる異なる駆動方向に対応して第1のカムピン42及び第2のカムピン46が移動可能に形成され、左右の脚の駆動動作を行うことが可能であるから、関節補助ユニット20を左右の脚に兼用して用いることが可能である。
【0035】
なお、周縁カム32やカム溝41、45の形状は、第1及び第2のリンク21、22の大きさやカムピン42、46の配置位置によって適宜変更される。また、膝関節の動きは、体型、年齢、性別等によって違いが生じるが、この場合にも周縁カム32やカム溝41、45の形状を変えればよい。
【0036】
また、第1のカムピン42、又は第2のカムピン46が移動する際には、互いに抵抗を有する必要があるため、常に、駆動体33と第1のカムピン42と第2のカムピン46の各々が所定の三角形を形成する頂点として保持されるように配置される。
【0037】
また、
図4に示すように、各カム溝41、45に配置される各カムピン42、46は、第1のリンク21と第2のリンク22が伸展状態において、回転中心Xと2つの各カムピン42、46とを結ぶ直線と垂直に交わり各カムピン42、46を通るそれぞれの垂線が交わる内側の角度(α)が少なくとも30°(π/6rad)以上となるように配置される。この角度(α)を30°以上にすることで、カムピン42、46同志の連れ回りや、カムピン42、46が移動する際にカム溝41、45に引っかかる等を防ぐことができる。なお、この角度(α)の上限値は、良好に動作させるために150°(5/6πrad)以下であることが好ましいが、この角度(α)の範囲は、膝関節の屈曲範囲にしたがって適宜変更される。
【0038】
また、駆動体33と第1及び第2のカムピン42、46は、第1のリンク21と第2のリンク22が伸展状態の時を基準として、駆動体33の移動方向に応じて、各カムピン42、46の移動方向及び第1のリンク21と第2のリンク22の屈曲動作の方向が切替わるように配置されている。具体的には、
図2に示すように、第1のリンク21と第2のリンク22が伸展状態において、駆動体33をa方向に移動することで、カムピン42、46はカム溝41、45を図中の矢印A1方向に移動可能となっており、駆動体33をb方向に移動することで、カムピン42、46はカム溝41、45を図中の矢印A2方向に移動可能である。また、このカムピン42、46の移動によって第1のリンク21と第2のリンク22の屈曲動作の方向が切り替わる。このようにすれば、駆動体33の移動方向を切替えることで、容易に膝関節の屈曲方向を変更することができるので、左右の脚に兼用して装着することができコストの低減化を図れる。
【0039】
このように構成された駆動部30は、
図4乃至
図7に示すように、駆動体33が周縁カム32の周縁を移動することによって、各カムピン42、46が各カム溝41、45と係合しつつ移動し、第1のリンク21と第2のリンク22とが第1のリンク21と第2のリンク22の間で回転運動ないし回転中心Xを移動させつつ相対的な回転運動を行うと同時に、前後方向にスライド運動を行うこととなる。このときの第1のリンク21と第2のリンク22の動きは、
図7に示した膝関節の回転運動ないしすべり転がり運動に近似し、また、大腿骨1の下部における回転中心2aは、
図8に示した曲線の軌跡を描くように移動する。
【0040】
また、駆動部30は、特許文献2に示す従来の膝関節運動補助装置のように回転中心Xの移動軌跡にしたがってカムピンを移動させるカム機構とは異なるカム機構を用いて、第1のリンク21と第2のリンク22との間で回転運動ないし回転中心Xを移動させつつ相対的に回転運動させるとともに前後方向にスライド運動させることが可能となっており、さらに、基準位置からカムピン42、46を互いに反対方向に移動することで第1のリンク21と第2のリンク22の屈曲動作の方向を切替えることができるため、左右兼用の歩行補助ユニットUとして機能させることができる。
【0041】
また、
図3に示すように、第1のリンク21と第2のリンク22は重ね合されて配置され、駆動部30の動力源としてのモーター29が第1のリンク21に縦向きに取り付けられる。
【0042】
駆動体33は周縁カム32の外周縁に配置され、第1のリンク21に回転可能に枢支され、第2のリンク22側に突出し、周縁カム32の歯列に係合する。カムピン42、46は回転自在なローラとして第1のリンク21に取り付けられ、第2のリンク22側に突出し、カム溝41、45と係合する。駆動体33はピニオンとして形成され、その軸33aが第1のリンク21にベアリング34を介して回転自在に支持される。
【0043】
また、このモーター29から上記駆動体33への動力伝達系もこの第1のリンク21に取り付けられる。動力伝達系は、例えば、平歯車及びすぐばかさ歯車の組合せからなる歯車列によって構成され、歯車列の一部はモーター29内の図示しない歯車減速機として設けられる。この歯車減速機は例えば平歯車列によって構成される。
【0044】
歯車減速機の終端歯車の軸29aはモーター29のケーシングから略垂直下方に向かって突出し、その軸29aの先端にすぐばかさ歯車28aが固定される。このすぐばかさ歯車28aには他のすぐばかさ歯車28bが噛み合っており、このすぐばかさ歯車28bが上記駆動体33の軸33aに固定される。
【0045】
これにより、モーター29が回転すると、その動力が駆動体33に伝達され、上述したような相対的回転運動及びスライド運動が第1のリンク21と第2のリンク22との間に生じることになる。また、このように動力伝達系が平歯車及びすぐばかさ歯車の一方又は双方からなる歯車列によって構成されることから、クラッチ等を設けずとも人体側からの入力に対してその動きを制限することがない。したがって、セルフロックが回避されることとなり、モーター29の非稼動時に患者等は自由に脚を動かせることができるのはもちろんのこと、モーター29の稼動時において患者等が転倒するような場合であってもモーター29に抗するように脚を動かせることができるのですこぶる安全である。
【0046】
上記モーター29は図示しない制御部によって制御され、上記周縁カム32の所定の角度範囲内において正転し又は逆転する。
【0047】
次に、本実施形態の関節補助ユニット20の動作例を
図4乃至
図6を用いて説明する。
【0048】
例えば、本実施形態の関節補助ユニット20を装着した利用者が、
図4に示す起立状態から
図5に示す中間状態を経て
図6に示す屈曲状態に姿勢を変更しようとする場合は、
図4に示すように、駆動体33が矢印Aの方向に回転しつつ周縁カム32の回りを矢印aの方向に公転する。これにより、第1のリンク21と第2のリンク22は、所定の回転角度に応じて回転運動ないし異なる回転中心で回転運動を行うとともにスライド運動して屈曲し、例えば患者の上腿部16は椅子等に着座可能になる。
【0049】
図4に示すように、第1のリンク21が第2のリンク22に対して真っ直ぐに伸びた状態から少しばかり屈曲するまでは、各カムピン42、46はそれぞれA1方向に移動するものの、第1のリンク21と第2のリンク22は、スライド運動することなく回転中心Xを中心に回転運動のみ行う。これは、膝関節角の0°~15°に対応し、この角度範囲内では、膝関節はすべりのない単純な回転運動を行う。
【0050】
次に、
図5及び
図6に示すように、第1のリンク21が第2のリンク22に対して更に曲がろうとすると、実際の膝関節の移動時の回転中心の移動軌跡を示す仮想回転中心軌跡X1にしたがって回転中心Xが左斜め上方に移動しつつスライド運動を行いながら回転運動を行う。これは、膝関節角の15°~105°に対応する。これにより、
図6に示す屈曲状態からさらに、第1のリンク21は第2のリンク22に対して約90°屈曲し、患者は無理なく椅子等に着座することができる。
【0051】
なお、患者が着座する直前の状態においては、図示しない制御部からの指令によってモーター29が逆方向に回転し、駆動体33が矢印Aの逆方向に駆動力を加えるように制御されて膝関節の屈曲が支えられつつ、患者の自重によって約90°屈曲する。
【0052】
その後、図示しない制御部からの指令によってモーター29が逆転し、
図6、
図5および
図4で順次示すように、駆動体33が矢印Bの方向に回転しつつ周縁カム32の回りを矢印bの方向に公転する。これにより、患者は着座状態から起立することが可能になる。
【0053】
なお、第1のリンク21と第2のリンク22が伸展状態において、駆動体33を矢印Bの方向に回転しつつ周縁カム32の回りを矢印b方向に公転した場合には、各カムピン42、46は逆方向に移動し、回転中心Xは右斜め上方に移動し、上記同様に動作する。
【0054】
次に、本実施形態の歩行補助装置の作用について説明する。
【0055】
まず、例えば、歩行補助装置Sの歩行補助ユニットUは、
図1(a)に示すように、変形性膝関節症が悪化し、人工膝関節置換となった患者等の脚に装着される。
【0056】
すなわち、歩行補助ユニットUの関節補助ユニット20が患者の膝関節の外側面に当てられ、上腿装着ユニット5が上腿部16の側面に当てられ、下腿装着ユニット10が下腿部17の側面に当てられる。
【0057】
そして、上腿装着ユニット5の連結具7が患者の腰に巻き付けられた腰ベルト3の連結具4と連結され、取付具8が上腿部16の膝上部分に取り付けられ、取付具12が下腿部17の膝下部分及び足首に取り付けられる。
【0058】
その他、図示しないが電池が腰ベルト3に取り付けられ、この電池にモーター29が電気的に接続される。
【0059】
モーター29の図示しないON/OFFスイッチが入れられると、モーター29が起動し、その動力が駆動部30の歯車列を介して駆動体33に入力される。
【0060】
モーター29は図示しない制御部によって歩行用、着座用等の各種の制御モードで制御される。
【0061】
歩行用の制御モードにセットされた場合は、
図4のごとく膝関節が伸展した状態で駆動体33が矢印Aの方向に回り始め、周縁カム32の回りを矢印a方向に公転し、その結果、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが相対的回転運動を行って
図5のごとく膝関節を屈曲させる。この回転運動による膝関節の回転角度は例えば0°~15°の範囲内である。
【0062】
更に、駆動体33が矢印aの方向に移動すると、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが、回転中心Xが左斜め上方に移動しつつ相対的にスライド運動を行いながら回転運動を行って、
図6のごとく膝関節を屈曲させる。この回転すべり運動による膝関節の回転角度は、例えば、15°~60°の範囲内である。
【0063】
このように、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが、回転中心Xが左斜め上方に移動しつつ相対的にスライド運動を行いながら回転運動を行うことから、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10は、
図7に示した人体の膝関節のすべり転がり運動に近似した動きをすることとなり、患者は無理なく自然に脚を屈曲させることができる。
【0064】
駆動体33が周縁カム32の回りを矢印a方向に所定角度だけ公転すると、モーター29が逆転に切り替えられ、駆動体33が矢印Bの方向に回り始め、周縁カム32の回りを矢印b方向に公転し、その結果、
図6、
図5、
図4の順に上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが相対的に動作し、膝関節を伸展させる。
【0065】
これにより、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが、回転中心Xが斜め下方に移動しつつ相対的にスライド運動を行いながら回転運動を行うことから、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10は、
図7に示した人体の膝関節のすべり転がり運動に近似した動きをすることとなり、患者は無理なく自然に脚を伸ばすことができる。
【0066】
その後、モーター29の正逆転の繰り返しによって、上記駆動体33の回転が矢印Aの方向と矢印Bの方向に交互に切り替えられ、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10の伸展と屈曲とが繰り返され、
図1(A)(B)に示すように、患者の歩行動作が補助される。
【0067】
一方で、モーター29が図示しない制御部によって着座用の制御モードにセットされた場合は、
図4に示す膝関節が伸展した状態で駆動体33が矢印Aの方向に回り始め、周縁カム32の回りを矢印a方向に公転し、その結果、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10とが相対的回転運動又は回転すべり運動を行い、
図5及び
図6の状態を経て、膝関節を屈曲させる。この回転運動による膝関節の回転角度は例えば0°~90°の範囲内である。
【0068】
なお、駆動体33は、患者が着座前の状態まで周縁カム32の回りを矢印a方向に所定角度だけ公転し、その後、周縁カム32の回りを矢印b方向に逆転して駆動力を逆方向に加えて、膝関節の屈曲を支え、その後、患者の自重によって膝関節の回転角度が90°の屈曲状態になった際に、モーター29を停止し、上腿装着ユニット5と下腿装着ユニット10との相対的回転運動も停止し、患者は椅子等に着座可能となる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、駆動体33と周縁カム32の周縁は歯列によって噛み合うように構成されているが、特にその構成に限定されるものではない。また、駆動源としてモーターを用いたが他の種類の駆動源を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
S…歩行補助装置
20…関節補助ユニット
21…第1のリンク
22…第2のリンク
30…駆動部
32…周縁カム
33…駆動体
41、45…カム溝
42、46…カムピン