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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/32 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
G05B11/32 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018040029
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019153239
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中田 成幸
(72)【発明者】
【氏名】星島 一輝
(72)【発明者】
【氏名】宮田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】水本 郁朗
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雅人
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/187414(WO,A1)
【文献】特開平10-161706(JP,A)
【文献】特開平5-61543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0099677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形要素と動特性要素とを有する制御対象を制御する制御装置において、
フィードバック制御器及び並列フィードフォワード補償器を備え、信号の入力順に前記フィードバック制御器、前記非線形要素、及び、前記動特性要素が直列に接続されると共に、前記並列フィードフォワード補償器が前記制御対象及びその制御対象が有する前記動特性要素のそれぞれに対して並列に接続され、
前記並列フィードフォワード補償器に、前記フィードバック制御器から出力される値及び前記非線形要素から出力される値の二つの値が入力されて、前記並列フィードフォワード補償器が、前記制御対象及び前記並列フィードフォワード補償器を併せた拡大系要素が概強正実条件を満たす補償をし、
前記フィードバック制御器が、前記拡大系要素に対してフィードバック制御を行う構成にしたことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記並列フィードフォワード補償器は、第一ノミナル部、第二ノミナル部、及び補償部を有し、
前記第一ノミナル部及び前記第二ノミナル部が、前記動特性要素のノミナルモデルに基づいて設計され、前記補償部が、この補償部及び前記第二ノミナル部を併せた併合要素が概強正実条件を満たすように設計され、
前記第一ノミナル部に前記非線形要素から出力される値が入力され、前記第二ノミナル部及び前記補償部に前記フィードバック制御器から出力される値が入力され、
前記第二ノミナル部から出力された値と前記補償部から出力された値とを加算した値から、前記第一ノミナル部から出力された値を減算した値を出力する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記フィードバック制御器に対して並列に接続されるフィードフォワード制御器を備え、
前記非線形要素に入力される値は、前記フィードバック制御器から出力された値と、前記フィードフォワード制御器から出力された値とを加算した値であり、
前記非線形要素から出力されて、前記並列フィードフォワード補償器に入力される値は、前記非線形要素と前記並列フィードフォワード補償器との間で、前記フィードフォワード制御器から出力された値を減算した値である請求項1又は2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関し、具体的には、制御対象に対して単純適応制御を行って出力を目標値へと追従させる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明の発明者らのうちの一人は、むだ時間を有する制御対象に対して単純適応制御を行う制御装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。この制御装置は、むだ時間を有する制御対象に対して、むだ時間を有する並列フィードフォワード補償器を導入して、その並列フィードフォワード補償器が制御対象と並列フィードフォワード補償器とを併せた伝達関数が概強正実条件を満たす補償をする装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/187414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンテナクレーンにおいては、搬送作業で吊り荷のコンテナに対して鉛直軸回りの回転運動(スキュー運動)が発生することが知られている。このスキュー運動を制御するためのアクチュエータの制御は、吊り荷の状態による運動特性の変化やむだ時間による応答遅れに加えて、アクチュエータへの入力信号の振幅や変化率に対する入力制限が存在する。それ故、入力制限を考慮していない上記の特許文献1に記載の装置では、アクチュエータへの制御則に基づいた理想入力値と実際の入力値とが異なることになる。その結果、出力フィードバック制御が有効に機能しなくなり、制御性能の劣化や制御系の不安定化が生じていた。
【0005】
本発明の目的は、入力制限などの非線形要素を有する制御対象に対して、ロバストな単純適応制御を行って出力を目標値へと速やかに追従させることができる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の制御装置は、非線形要素と動特性要素とを有する制御対象を制御する制御装置において、フィードバック制御器及び並列フィードフォワード補償器を備え、信号の入力順に前記フィードバック制御器、前記非線形要素、及び、前記動特性要素が直列に接続されると共に、前記並列フィードフォワード補償器が前記制御対象及びその制御対象が有する前記動特性要素のそれぞれに対して並列に接続され、前記並列フィードフォワード補償器に前記フィードバック制御器から出力される値及び前記非線形要素から出力される値の二つの値が入力されて、前記並列フィードフォワード補償器が、前記制御対象及び前記並列フィードフォワード補償器を併せた拡大系要素が概強正実条件を満たす補償をし、前記フィードバック制御器が、前記拡大系要素に対してフィードバック制御を行う構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、並列フィードフォワード補償器を、制御対象及びその制御対象が有する動特性要素のそれぞれに対して並列に接続することで、制御対象と並列フィードフォワード補償器とからなる拡大系要素が概強正実条件を満たす。それ故、拡大系要素に対する適応出力フィードバック制御系の漸近安定性を保証するには有利になり、ロバストな適応出力フィードバック制御により制御対象の出力を目標値へと速やかに追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】制御装置の実施形態を例示するブロック図である。
図2図1の並列フィードフォワード補償器を設計する基本概念を例示するブロック図である。
図3】コンテナクレーンにおける制御対象の非線形ダイナミクスを例示するブロック図である。
図4】制御装置及び並列フィードフォワード補償器を有さない従来技術の制御装置の数値シミュレーション結果である。
図5】制御装置及びフィードフォワード制御器を有さない制御装置の数値シミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、制御装置の実施形態について説明する。なお、本明細書の「^」はその前にある文字に対する上付き文字を表しているものとする。
【0010】
図1に例示するように、制御装置1は、各種情報処理を行うCPU、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能な内部記憶装置、及び各種インターフェースなどから構成されるハードウェアである。制御装置1は、各機能要素として、制御対象10、入力部20、フィードバック制御器30、並列フィードフォワード補償器(PFC:Parallel Feedforward Compensator)40、及び、フィードフォワード制御器50を備え、制御対象10及び並列フィードフォワード補償器40からなる拡大系要素60が形成される。各機能要素は、プログラムとして内部記憶装置に記憶されていて、適時、CPUにより実行されている。なお、各機能要素としては、プログラムの他にそれぞれが独立して機能するプログラマブルコントローラ(PLC)で構成されてもよい。
【0011】
制御対象(プラント)10は、入力値u(t)が入力されて、出力値y(t)が出力されるモデルであり、非線形要素11と動特性要素12とを有する。
【0012】
非線形要素11は、入力値u(t)が入力されて、操作値f(u)が出力されるモデルであり、線形ではシステムのダイナミクスが完全に捉えられないモデルである。非線形要素11としては、シグモイドやウェーブレットなどの動的な非線形推定器を用いるモデル、線形であるモデル内の例外となる勾配制限や飽和などの入力制限、及び不感帯などの静的なモデル、不明のパラメータを含む常微分方程式又は差分方程式を用いるモデルが例示される。また、非線形モデル11には、システム内に生じるむだ時間(遅れ時間)も含むものとする。非線形要素11は、その非線形ダイナミクスがf(・)で表される。
【0013】
動特性要素12は、操作値f(u)が入力されて、出力値y(t)が出力されるモデルであり、制御対象10のうちの非線形要素11を除き、線形でシステムのダイナミクスが捉えられるモデルである。動特性要素12としては、一次遅れ系や二次遅れ系が例示される。動特性要素12は、その伝達関数がG(s)で表される。
【0014】
入力部20は、目標値r(t)を出力する機能要素である。入力部20としては、操作レバー、マウスやキーボードなどのユーザーインターフェースが例示される。また、入力部20としては、センシング機器やタイマーを用いて、目標値r(t)を経時的に変化させるもの、装置の動作に基づいて目標値r(t)を自動的に入力するものも例示される。
【0015】
フィードバック制御器30は、信号の流れに関して入力部20と制御対象10との間に配置されて、制御対象10に対して直列に接続される。フィードバック制御器30は、制御対象10及び並列フィードフォワード補償器40を併せた拡大系要素60に対して適応出力フィードバック制御による単純適応制御(SAC:Simple Adaptive
Control)を行う制御器である。フィードバック制御器30は、目標値r(t)と拡大系要素60から出力される実出力値ya(t)との偏差-ea(t)(=r(t)-ya(t))が入力されて、その偏差-ea(t)をゼロにする、あるいはゼロに近づける目標入力値ue(t)が出力される。フィードバック制御器30の可変フィードバックゲインは、k(t)で表される。
【0016】
並列フィードフォワード補償器40は、制御対象10及び制御対象10のうちの動特性要素12のそれぞれに対して並列に接続される補償器である。並列フィードフォワード補償器40は、フィードバック制御器30から出力された制御入力値ue(t)が入力されると共に、非線形要素11から出力された操作値f(u)が入力されて、拡大系要素60が概強正実(ASPR:Almost Strictly Positive Real)条件を満たす補償をする補償器である。
【0017】
ここで、概強正実条件とは、拡大系要素60の相対次数が「0」又は「1」であること、最高位係数が正であること、かつ、最小位相系であることの三つの条件である。
【0018】
並列フィードフォワード補償器40は、スミス法の考えを利用して設計された補償器である。また、並列フィードフォワード補償器40は、動特性要素12の伝達関数G(s)が未知であることから、スミス予測器における伝達関数の代わりに動特性要素12のノミナルモデルG0(s)を用いて構成される補償器である。
【0019】
並列フィードフォワード補償器40は、第一ノミナル部41、第二ノミナル部42、及び、補償部43を有する。並列フィードフォワード補償器40は、第二ノミナル部42から出力された値及び補償部43から出力された値を加算した値から第一ノミナル部41から出力された値を減算した補償値yf(t)が出力される。
【0020】
第一ノミナル部41及び第二ノミナル部42は、スミス予測器に似た機能を担っており、適応出力フィードバックにより得られた閉ループが、非線形ダイナミクスf(・)のない拡大系要素60に対する線形閉ループ部と非線形ダイナミクスf(・)とが直列に接続された状態と見做せる機能を担う機能要素である。第一ノミナル部41及び第二ノミナル部42は、動特性要素12のノミナルモデルとして設計されて、そのノミナルモデルの伝達関数が、G0(s)で表される。第一ノミナル部41は、非線形要素11から出力された操作値f(u)が入力され、第二ノミナル部42は、フィードバック制御器30から出力された制御入力値ue(t)が入力される。
【0021】
ここで、スミス法とは、フィードバック制御のループ内にむだ時間を含む制御対象のモデルを有し、むだ時間後の出力を予測して制御を行う方法である。つまり、スミス予測器は、制御対象が有するむだ時間をフィードバック制御の外側に出して、むだ時間を除いた一次遅れの制御対象をフィードバック制御することを可能にする補償器である。
【0022】
補償部43は、拡大系要素60が概強正実条件を満たす補償をするものである。補償部43は、第二ノミナル部42及び補償部43を併せた併合要素44の伝達関数G^a(s)が概強正実条件を満たすように設計され、その伝達関数がF(s)で表される。補償部43は、フィードバック制御器30から出力された制御入力値ue(t)が入力される。
制御対象10及び並列フィードフォワード補償器40を併せた拡大系要素60から出力される実出力値ya(t)は、以下の数式(1)で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
上記の数式(1)において、動特性要素12の伝達関数G(s)に対してノミナルモデルの伝達関数G0(s)の近似誤差が小さいとすると、実出力値ya(t)は、以下の数式(2)と見做せる。近似誤差が小さいとは、想定される周波数帯域でG(s)[f(u)]とG0(s)[f(u)]の出力値の誤差が小さいことであり、G(s)-G0(s)のH∞ノルムが十分に小さいことである。
【0025】
【数2】
【0026】
つまり、実出力値ya(t)は、併合要素44の伝達関数G^a(s)で表される。上述したとおり、補償部43は、併合要素44に概強正実条件を満たさせるように設計されていることから、併合要素44の伝達関数G^a(s)は概強正実条件を満たす。従って、拡大系要素60は、概強正実条件を満たすことになる。
【0027】
図2は、制御対象10の非線形要素11にむだ時間(伝達関数がe-Ts)が含まれたと仮定して、そのむだ時間をスミス法の考えに基づいて、フィードバック制御の閉ループの外に追い出したと見做せることを説明するものである。ここで、非線形要素11からむだ時間を除いた非線形ダイナミクスをg(・)とし、動特性要素12にむだ時間を追加した伝達関数をG(s)e-Tsとする。また、スミス予測器45の伝達関数をP(s)とする。
【0028】
ここで、操作値g(u)が制御入力値ue(t)と等しい場合(ue(t)=g(u))であれば、スミス予測器45の伝達関数P(s)は、以下の数式(3)のように設計される。なお、以下の数式では、Ga(s)=G(s)+F(s)であり、Ga(s)が概強正実条件を満たすものとする。
【0029】
【数3】
【0030】
スミス予測器15を上記の数式(3)のように設計すると、実出力値ya(t)は以下の数式(4)で表される。
【0031】
【数4】
【0032】
上記の数式(4)に示すように、操作値g(u)が制御入力値ue(t)と等しい場合は、むだ時間をフィードバック制御の閉ループの外側に追い出したと見做せて、むだ時間を除いた一次遅れの動特性要素12をフィードバック制御することと等価になる。
【0033】
しかし、操作値g(u)が制御入力値ue(t)と等しく無い場合であれば、非線形ダイナミクスg(・)を考慮して、スミス予測器45の出力fp(t)は、以下の数式(5)となるように設計される。なお、伝達関数G(s)は未知であるため、伝達関数Ga(s)も未知である。そこで、動特性要素12のノミナルモデルの伝達関数をG0(s)とすると、伝達関数Ga(s)の代わりに、既知の伝達関数として併合要素44の伝達関数G^a(s)(=G0(s)+F(s))を用いる。
【0034】
【数5】
【0035】
上記の数式(5)のようにスミス予測器45が設計されると、制御入力値ue(t)は以下の数式(6)で表される。
【0036】
【数6】
【0037】
0(s)の近似誤差が小さい場合、上記の数式(6)は以下の数式(7)のように表される。
【0038】
【数7】
上記の数式(7)で示す制御入力値ue(t)が印加されたとき、実出力値ya(t)は、以下の数式(8)で表される。
【0039】
【数8】
【0040】
よって,ue(t)=g(u)のとき、数式(4)と同様になり、むだ時間をフィードバック制御の閉ループの外側に追い出したと見做せて、むだ時間を除いた一次遅れの動特性要素12をフィードバック制御することと等価になる。
【0041】
上記の数式(5)を補償器としてもつブロック図2を書き換えると、図1に例示する拡大系要素60のブロック図と等価となる。なお、図1では、C=k(t)である。また、非線形ダイナミクスf(・)と、非線形ダイナミクスg(・)及びむだ時間(e-Ts)とは等価であることから、むだ時間を非線形要素11に含ませている。一方で、むだ時間を動特性要素12に含ませる場合は、同様にむだ時間を第一ノミナル部41に含ませればよい。
【0042】
図1に例示するように、フィードフォワード制御器50は、並列フィードフォワード補
償器40の内側に印加され、フィードバック制御器30に対して並列に接続されると共に並列フィードフォワード補償器40には印加されないように構成される制御器である。フィードフォワード制御器50は、理想入力部51、出力誤差入力部52、及び入力除去部53を有し、理想入力部51及び出力誤差入力部52が互いに並列に接続される。
【0043】
理想入力部51は、目標値r(t)の状態ベクトルωが入力されて、理想入力値v*(t)が出力される。理想入力値v*(t)は、放射状基底関数ネットワーク(RBFN:Radial Basis Function Network)を用いて、目標値r(t)に対して制御対象10の出力値y(t)が完全追従を達成するように近似算出された数値である。
【0044】
未知の理想入力値をvnn(t)とし、放射状基底関数ネットワークを用いて近似すると、その未知の理想入力値vnn(t)は以下の数式(9)~数式(12)で表される。ここで、Wは重みベクトルとし、lはニューラルネットワークのノード数とし、μi及びηiは設計パラメータとする。
【0045】
なお、放射状基底関数ネットワークは、非線形関数を放射状基底関数で展開するニューラルネットワークであり、初期値依存が無く、数あるニューラルネットワークのうちで処理が高速なことで知られている。また、放射状基底関数は、円形の等高線を持つ関数であり、中心点から離間するについて値が単調に減少する関数であり、ガウス関数が例示される。
【0046】
【数9】
【0047】
上記の数式(9)~数式(12)が成立するときに、十分大きなノード数lに対して、あるコンパクト集合(ω∈Ωω⊂Rq)で、以下の数式(13)を満足する理想重みW*が存在する。
【0048】
【数10】
【0049】
従って、理想入力値v*(t)は、以下の数式(14)で構成される。なお、理想重みW*は未知であることから、理想重みの推定値W^(t)を用いることとする。
【0050】
【数11】
【0051】
理想入力部51は、放射状基底関数ネットワーク以外のニューラルネットワーク(例えば、畳み込みニューラルネットワークや再帰型ニューラルネットワーク)や近似のシステムの逆数(逆関数)により構成してもよい。但し、理想入力部51は、近似のシステムの逆数よりもニューラルネットワークを用いることが好ましく、種々のニューラルネットワークのうちの放射状基底関数ネットワークを用いることがより好ましい。ニューラルネットワークを用いることで、近似のシステムの逆数を採用する場合に生じる新たなシステムを求める必要が無くなり、システムを求める労力を削減すると共に、精度を向上することができる。また、ニューラルネットワーク放射状基底関数ネットワークは、未知の重みベクトル×既知の基底関数という他のニューラルネットワークに比して簡素な構造である。それ故、理想入力部51が放射状基底関数ネットワークを用いることで、他のニューラルネットワークを用いた場合に生じる算出に要する時間を短縮し、多くの実験や試験による調整を省くことができる。
【0052】
出力誤差入力部52は、目標値r(t)が入力されて、補正値V(t)が出力される。補正値V(t)は、目標値r(t)が入力された場合に、実際に生じる出力誤差e(t)に基づいて、以下の数式(15)で表される。ここで、1/Knを定常状態における目標値r(t)のノミナル値とする。
【0053】
【数12】
【0054】
出力誤差入力部52は、定常状態の目標値r(t)の誤差を正規化した誤差の積分項により補正する機能要素である。出力誤差入力部52を設けることで、目標値r(t)が大きく変動した場合に、非線形要素11により理想入力値51から出力される理想入力値v*(t)のみでは追従が間に合わない事態を解消するには有利になる。
制御装置1の単純適応制御における特性方程式は、以下の数式(16)で表される。
【0055】
【数13】
【0056】
また、上記の数式(16)のk(t)及びW^(t)は、以下の数式(17)、(18)で表されるシグマ修正項を含む積分形パラメータ調整則(適応調整則)により求める。
【0057】
【数14】
【0058】
以上のように、制御装置1は、並列フィードフォワード補償器40を、制御対象10の非線形要素11と動特性要素12とのそれぞれに対して並列に接続することで、動特性要素12と並列フィードフォワード補償器40とからなる拡大系要素60が概強正実条件を満たす。それ故、拡大系要素60に対する数式(16)~数式(18)で構成される適応出力フィードバック制御系の漸近安定性を保証するには有利になり、ロバストな適応出力フィードバック制御により実出力値ya(t)を目標値r(t)へと速やかに追従させることができる。
【0059】
また、制御装置1は、フィードフォワード制御器50を、並列フィードフォワード補償器40の内側に印加することで、制御対象10の不確かさや特性変化のばらつきが大きい場合でも、実出力値ya(t)が目標値r(t)に完全追従するまでに要する時間を短縮することができる。
【0060】
具体的に、コンテナクレーンにおけるスキュー運動に関するアクチュエータの制御に、制御装置1による単純適応制御を行った場合の結果示す。
【0061】
ここで、スキュー運動に関するアクチュエータを制御対象10とした動特性要素12の伝達関数G(s)は以下の数式(19)で表される。なお、K1をゲインとし、ωをスキュー角周波数とし、ζを減衰率とする。検証では、K1=0.0098、ω=0.4、ζ=0.01を与えることとし、この真の値は未知とする。ただし、下記に示すノミナル値は既知で与えられているものとする。また、動特性要素12のノミナルモデルの伝達関数G0(s)は、以下の数式(20)で表される。なお、ノミナル値として、Kn=0.01、ωn=0.5、ζn=1を与えることとする。
【0062】
【数15】
【0063】
【数16】
【0064】
スキュー運動に関するアクチュエータを制御対象10とした非線形要素11の非線形ダイナミクスf(・)は、図3で表される。なお、τをアクチュエータの時定数とし、Tをむだ時間とし、KJを静的ゲインとし、Kpx、Kpvをフィードバックゲインとする。τ、T、KJは既知であり、Kpx、Kpvは予め実験や試験により適切な値に調整されているものとする。検証では、τ=0.1、T=0.5、KJ=0.5、Kpx=21.9296、Kpv=0.0981を与えることとする。また、飽和(Saturation)の上下限値を±100とし、変化率の制限の上下限値を±200とする。
【0065】
補償部43の伝達関数F(s)は、以下の数式(21)で表される。なお、制御対象10が定常状態の場合に、並列フィードフォワード補償器40の出力である補償値yf(t)が「ゼロ」に収束するものとする。検証では、α1=0.1、β1=0.002、β2=0.001、a=0.1、b=1とする。
【0066】
【数17】
【0067】
並列フィードフォワード補償器40は、上記の検証のように、β1、β2を小さくすることで、出力値y(t)と実出力値ya(t)の誤差を小さくすることができる。但し、β1、β2を小さくし過ぎると、ノイズの影響もありロバスト性が低減するおそれがある。そこで、並列フィードフォワード補償器40は、微分項を含むプロパーなフィルタ(bs/(s+a))を付加することで、定常状態における並列フィードフォワード補償器40の影響を無くすことができる。
【0068】
上記の数式(17)、(18)における設計パラメータとして、γ=1.0×105、σ=1.0×10-3、Γ=1.0×102、σω=1.0×10-2、S(ω)=r(t)、α=2とする。
【0069】
図4は、目標値r(t)を一定とし、実出力値ya(t)に対して初期値を与えた場合のシミュレーションを示しており、実線及び点線が実施形態の制御装置1による結果を示
し、一点鎖線が並列フィードフォワード補償器40を有さない従来技術の制御装置による結果(Y(t)、F(u))を示している。制御装置1の単純適応制御では、実出力値ya(t)が目標値r(t)に対して追従し、経時的に収束する。一方、従来技術の制御装置では、出力値Y(t)が目標値r(t)に対して追従せず、収束しない。
【0070】
図5は、目標値r(t)に対して初期値を与えたシミュレーションを示しており、実線及び点線が実施形態の制御装置1による結果を示し、一点鎖線がフィードフォワード制御器50を有さない制御装置1による結果(yb(t))を示している。なお、ここでは、制御対象10のゲインK1が誤差50%を含むようにK1=0.0147を与えることとし、フィードフォワード制御器50を有さない制御装置1には、代わりに固定ゲイン1/0.01のみを印加することとする。制御対象10のゲインK1の値と、ノミナルモデルG0(s)のノミナル値Knの値が大きくずれた場合でも、制御装置1の単純適応制御では、実出力値ya(t)が速やかに目標値r(t)に対して追従する。一方、フィードフォワード制御器50を有さない制御装置1では、追従に要する時間が長い。
【0071】
既述した実施形態では、制御対象10としてコンテナクレーンの吊り荷に生じるスキュー回転運動を制御するアクチュエータを例示したが、制御対象としては、本実施形態に限定されない。
【0072】
既述した実施形態では、フィードバック制御器30に対して並列に接続されるフィードフォワード制御器50を備えた例を説明したが、フィードフォワード制御器50を備えなくても、実出力値ya(t)を目標値r(t)に追従に要する時間が短いことが見込めるようであれば、フィードフォワード制御器50を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 制御装置
10 制御対象
11 非線形要素
12 動特性要素
30 フィードバック制御器
40 並列フィードフォワード補償器
60 拡大系要素
図1
図2
図3
図4
図5