(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】核酸導入用脂質誘導体
(51)【国際特許分類】
C07F 9/10 20060101AFI20220128BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220128BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C07F9/10 B
A61K9/16
A61K31/7088
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/28
A61K48/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019512374
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2018007736
(87)【国際公開番号】W WO2018190017
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017078458
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 知浩
(72)【発明者】
【氏名】奥 直人
(72)【発明者】
【氏名】前田 典之
(72)【発明者】
【氏名】深田 尚文
(72)【発明者】
【氏名】冨田 康治
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-247750(JP,A)
【文献】特開昭54-84530(JP,A)
【文献】特開昭48-26936(JP,A)
【文献】ASAI, Tomohiro et al.,Dicetyl phosphate-tetraethylenepentamine-based liposomes for systemic siRNA delivery,Bioconjugate Chemistry,2011年,Vol. 22, No. 3,pp. 429-435,ISSN 1520-4812
【文献】NAGATA, Toshiyuki et al.,Fusion of plant protoplasts induced by a positively charged synthetic phospholipid,Zeitschrift fuer Naturforschung, C: Journal of Biosciences,Vol. 34C, No. 5-6,1979年,pp. 460-462,ISSN 0341-0382
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/10
A61K 9/16
A61K 31/7088
A61K 47/10
A61K 47/24
A61K 47/28
A61K 48/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、R
1及びR
2は同一又は異なって、鎖式炭化水素基を示す。mは1又は2を示す。nは1又は2を示す。pは1~4の整数を示す。]
で表されるリン脂質。
【請求項2】
前記鎖式炭化水素基が不飽和鎖式炭化水素基である、請求項1に記載のリン脂質。
【請求項3】
前記鎖式炭化水素基の炭素数が12~24である、請求項1又は2に記載のリン脂質。
【請求項4】
前記m及び前記nが共に2である、請求項1~3のいずれかに記載のリン脂質。
【請求項5】
前記pが1又は2である、請求項1~4のいずれかに記載のリン脂質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のリン脂質(リン脂質A)を含有する、脂質粒子。
【請求項7】
薬物を内包する、請求項6に記載の脂質粒子。
【請求項8】
前記薬物がポリヌクレオチドである、請求項7に記載の脂質粒子。
【請求項9】
さらに、コレステロールを含有する、請求項6~8のいずれかに記載の脂質粒子。
【請求項10】
前記リン脂質Aが不飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質であり、且つ、さらに、飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質(リン脂質B)を含有する、請求項6~9のいずれかに記載の脂質粒子。
【請求項11】
前記リン脂質Bの含有量が、前記リン脂質A 100モルに対して30~70モルである、請求項10に記載の脂質粒子。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかに記載のリン脂質を含有するアルコール溶液と、水溶性薬物を含有する酸性水溶液とを混合する工程を含む、脂質粒子の製造方法。
【請求項13】
前記水溶性薬物がポリヌクレオチドである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記アルコール溶液が溶媒としてブタノールを含有する溶液である、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~5のいずれかに記載のリン脂質及び薬物を含有する脂質粒子を含有する、医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸導入用脂質誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、small interfering RNA(siRNA)を始めとするRNA干渉剤が魅力的な医薬品シーズとして大きな期待を集めている。これまで有力なシーズが次々と見出されてきたが、外部から投与したRNAが生体内で本来の活性を示すには極めて高度なデリバリーシステムを必要とする。これは、RNAが速やかに酵素分解を受けることや細胞膜をほとんど通過しないことなどに起因する。そのため、RNA干渉剤の実用化には、必然的にデリバリーシステムの開発が伴う。
【0003】
RNA等の薬物のデリバリーシステムとしては、薬物を脂質粒子に封入した状態で投与することが知られている。ただ、負電荷を有する核酸を投与する場合、通常は、静電的相互作用を起こすべく正電荷を有する脂質が用いられるので、細胞毒性の懸念があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さない脂質粒子である場合に、細胞毒性を低減できることに着目した。
【0006】
本発明は、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、且つ内包する薬物のより効率的な効果発現が可能な脂質粒子、及び該脂質粒子を形成するための脂質を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は、さらに、薬物をより効率的に内封でき、且つ/或いは薬物のより効率的な送達に適したサイズを有する脂質粒子、及び該脂質粒子を形成するための脂質を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、一般式(1)で表わされるリン脂質が、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、且つ内包する薬物のより効率的な効果発現が可能な脂質粒子を形成できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 一般式(1):
【0010】
【0011】
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、鎖式炭化水素基を示す。mは1又は2を示す。nは1又は2を示す。pは1~4の整数を示す。]
で表されるリン脂質。
【0012】
項2. 前記鎖式炭化水素基が不飽和鎖式炭化水素基である、項1に記載のリン脂質。
【0013】
項3. 前記鎖式炭化水素基の炭素数が12~24である、項1又は2に記載のリン脂質。
【0014】
項4. 前記m及び前記nが共に2である、項1~3のいずれかに記載のリン脂質。
【0015】
項5. 前記pが1又は2である、項1~4のいずれかに記載のリン脂質。
【0016】
項6. 項1~5のいずれかに記載のリン脂質(リン脂質A)を含有する、脂質粒子。
【0017】
項7. 薬物を内包する、項6に記載の脂質粒子。
【0018】
項8. 前記薬物がポリヌクレオチドである、項7に記載の脂質粒子。
【0019】
項9. さらに、コレステロールを含有する、項6~8のいずれかに記載の脂質粒子。
【0020】
項10. 前記リン脂質Aが不飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質であり、且つ、さらに、飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質(リン脂質B)を含有する、項6~9のいずれかに記載の脂質粒子。
【0021】
項11. 前記リン脂質Bの含有量が、前記リン脂質A 100モルに対して30~70モルである、項10に記載の脂質粒子。
【0022】
項12. 項1~5のいずれかに記載のリン脂質を含有するアルコール溶液と、水溶性薬物を含有する酸性水溶液とを混合する工程を含む、脂質粒子の製造方法。
【0023】
項13. 前記水溶性薬物がポリヌクレオチドである、項12に記載の製造方法。
【0024】
項14. 前記アルコール溶液が溶媒としてブタノールを含有する溶液である、項12又は13に記載の製造方法。
【0025】
項15. 項1~5のいずれかに記載のリン脂質及び薬物を含有する脂質粒子を含有する、医薬。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、且つ内包する薬物のより効率的な効果発現が可能な脂質粒子、及び該脂質粒子を形成するための脂質を提供することができる。これにより、細胞毒性をより低減しつつも、より効率的に薬物(例えば、siRNA等のポリヌクレオチド)の効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】DOP-DDの合成方法(実施例1)の概要を示す。
【
図2】実施例1で合成したDOP-DDのNMRチャートを示す。
【
図3】DOP-TTの合成方法(実施例2)の概要を示す。
【
図4】実施例2で合成したDOP-TTのNMRチャートを示す。
【
図5】実施例3で測定された、脂質粒子の粒子径(Size)、粒子径分布(PDI)、中性域におけるゼータ電位(ζ-Potential)を示す。
【
図6】実施例5で測定された、脂質粒子のpKaの測定結果を示す。縦軸はTNS由来の蛍光強度の相対値を示し、測定バッファーのpHを示す。
【
図7】実施例6で測定された、Lamin A/C mRNA量の定量結果を示す。縦軸はLamin A/C mRNA量の相対値を示す。横軸はサンプルの種類を示し、Controlはネガティブコントロールを示し、2100及び3500は脂質粒子溶液(数字は脂質/siRNAモル比)を示す。
【
図8】実施例7で測定された、Lamin A/Cタンパク質量の定量結果を示す。上段はLamin A/Cタンパク質のバンドを示し、下段はコントロールであるβ-アクチンタンパク質のバンドを示す。写真下方はサンプルの種類を示し、Controlはネガティブコントロールを示し、3500は脂質粒子溶液(数字は脂質/siRNAモル比)を示す。
【
図9】本発明の脂質粒子の好ましい一態様を表す模式図である。Novel Lipidは本発明のリン脂質を示す。DPPC及びNovel Lipidを表す図形中、丸部分が親水性部分を示し、二本棒部分が疎水性部分を示す。
【
図10】実施例8の溶血性試験の結果を示す。横軸中、DOP-DD LNPは実施例8-1の脂質粒子の結果を示し、旧型脂質ナノ粒子は実施例8-2の対照脂質粒子の結果を示す。
【
図11】実施例9の細胞毒性評価試験の結果を示す。横軸中、陰性対照群は脂質粒子を使用しない場合の結果を示し、DOP-DD LNPは実施例9-1の脂質粒子の結果を示し、旧型脂質ナノ粒子は実施例9-2の対照脂質粒子の結果を示し、陽性対照群はLysis bufferを添加した場合の結果を示す。
【
図12】実施例10の安定性試験の結果を示す。横軸中、DOP-DD LNPは実施例10-1の脂質粒子の結果を示し、旧型脂質ナノ粒子は実施例10-2の対照脂質粒子の結果を示す。
【
図13】実施例11の遺伝子抑制試験3の結果を示す。横軸中、コントロールはmockを示し、DOP-DD LNPは実施例11-1の脂質粒子の結果を示す。白カラムはsiRNAとしてPLK1 siRNAを使用した場合を示し、黒カラムはsiRNAとしてControl siRNAを使用した場合を示す。
【
図14】実施例12の遺伝子抑制試験4の結果を示す。写真下方において、コントロールはsiRNAとしてControl siRNAを使用した場合を示し、DOP-DD LNPはsiRNAとしてPLK1 siRNAを使用した場合を示す。写真右側において、標的タンパク質はPLK1の検出結果を示し、コントロールはコントロールタンパク質の検出結果を示す。
【
図15】実施例12の遺伝子抑制試験4の結果を示す。本図は、
図14の上段の写真におけるバンド濃度の定量結果を示す。
【
図16】実施例13の体内分布試験の結果を示す。縦軸は分布を調べた臓器又は組織を示し、横軸は脂質粒子の存在割合を示す。DOP-DD LNPは実施例13-1の脂質粒子の結果を、PEG修飾割合別に示す(PEG修飾の表記無しの場合は、PEG修飾0%)。
【
図17】実施例14のin vivo遺伝子抑制試験の結果を示す。横軸中、コントロールはsiRNAとしてControl siRNAを使用した場合を示し、DOP-DD LNPはsiRNAとしてPLK1 siRNAを使用した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0029】
1.リン脂質
本発明は、その一態様として、一般式(1):
【0030】
【0031】
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、鎖式炭化水素基を示す。mは1又は2を示す。nは1又は2を示す。pは1~4の整数を示す。]
で表されるリン脂質(本明細書において、「本発明のリン脂質」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0032】
一般式(1)中、R1又はR2で示される鎖式炭化水素基は、一価の鎖式炭化水素基である限り特に制限されず、直鎖状及び分岐鎖状(好ましくは直鎖状)のいずれのものも包含する。鎖式炭化水素基の炭素数は、脂質粒子を形成可能な数である限り特に制限されないが、例えば4~30、好ましくは8~26、より好ましくは12~22、さらに好ましくは14~20、よりさらに好ましくは15~19である。鎖式炭化水素基は、飽和鎖式炭化水素基及び不飽和炭化水素基の何れも包含するが、好ましくは不飽和鎖式炭化水素基であり、より好ましくは二重結合を含む不飽和鎖式炭化水素基であり、さらに好ましくは二重結合を1つのみ有する不飽和鎖式炭化水素基である。鎖式炭化水素基としては、例えばブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、9-ペンタデセニル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、cis-9-ヘプタデセニル、11-ヘプタデセニル、cis,cis-9,12-ヘプタデカジエニル、9,12,15-ヘプタデカントリエニル、6,9,12-ヘプタデカントリエニル、9,11,13-ヘプタデカントリエニル、ノナデシル、8,11-ノナデカジエニル、5,8,11-ノナデカトリエニル、5,8,11,14-ノナデカテトラエニル、ヘンイコシル、トリコシル、cis-15-トリコセニル、ペンタコシル、ヘプタコシル、ノナコシル等が挙げられる。
【0033】
一般式(1)中、R1及びR2の少なくとも一方が不飽和鎖式炭化水素基であることが好ましく、両方が不飽和鎖式炭化水素基であることがより好ましい。
【0034】
mは、好ましくは2である。
【0035】
nは、好ましくは2である。
【0036】
m及びnは、好ましくは共に2である。
【0037】
pは、好ましくは1又は2である。細胞毒性の観点からは、pは、より好ましくは1である。また、薬物の内封率の観点からは、pは、より好ましくは2である。
【0038】
本発明のリン脂質は、様々な方法で合成することができる。本発明の化合物は、例えば以下の反応式:
【0039】
【0040】
[式中、R1、R2、m、n、及びpは前記に同じである。]
に従って又は準じて合成することができる。
【0041】
本反応では、一般式(A)で表される化合物と一般式(B)で表される化合物とを、ホスホリパーゼDの存在下で反応させることで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0042】
一般式(B)で表される化合物の使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、2~20モルが好ましく、5~16モルがより好ましい。
【0043】
ホスホリパーゼDの使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、100~1500 Uが好ましく、400~1000 Uがより好ましい。なお、1 Uは、至適条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1マイクロモル(μmol)の基質を変化されることができる酵素量(1マイクロモル毎分)と定義される。
【0044】
本反応は、溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、ホスホリパーゼDの活性を発揮できる溶媒である限り特に制限されない。溶媒としては、各種緩衝液が好適に使用される。緩衝液としては、好ましくは酢酸緩衝液が挙げられる。溶媒のpHは、好ましくは4~7、より好ましくは5~6である。本反応系においては、上記水系溶媒の他にも、一般式(A)で表される化合物を溶解させるために各種有機溶媒(例えば、酢酸エチル等)を含んでいてもよい。
【0045】
本反応は、典型的には、一般式(A)で表される化合物の有機溶媒溶液と一般式(B)で表される化合物の水系溶媒溶液とを混合し、そこへホスホリパーゼDを添加することにより行われる。
【0046】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0047】
反応温度は、ホスホリパーゼDの活性を発揮できる温度である限り特に制限されず、通常20~50℃、好ましくは35~45℃である。
【0048】
反応時間は、ホスホリパーゼDの活性を発揮できる時間である限り特に制限されず、通常8時間~150時間、好ましくは24時間~100時間、より好ましくは36時間~90時間である。
【0049】
反応終了後、溶媒を留去し、生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離し、精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0050】
近年、脂質ナノ粒子の安全性を高めるため、イオナイザブル脂質が開発され、ナノ粒子化されている。イオナイザブル脂質は酸性で正に荷電するが、そのときの実効電荷の変化は0→+1である。一方、本発明のリン脂質(charge-reversible脂質)の実効電荷の変化は、-1~+2の範囲であり得、着眼点が異なる。本発明のリン脂質は中性条件下でもイオン化はしており、イオナイザブル脂質とは物理化学的性質が異なり得る。本発明の脂質は、中性条件下でも両親媒性脂質としてふるまうことも可能であり、それ故により高い安定性とより高い安全性を期待できる。
本発明のリン脂質を用いることにより、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、且つ内包する薬物のより効率的な効果発現が可能な脂質粒子を形成することができる。
【0051】
2.脂質粒子
本発明は、その一態様として、本発明のリン脂質(本明細書において、「リン脂質A」と示すこともある。)を含有する、脂質粒子(本明細書において、「本発明の脂質粒子」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0052】
本発明の脂質粒子は、粒子構成脂質として本発明のリン脂質が含まれる粒子である限り特に制限されない。脂質粒子に含まれる本発明のリン脂質は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明の脂質粒子としては、例えば本発明のリン脂質を含む両親媒性の脂質が外層を構成し、且つ該脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。該粒子としては、例えば外層が脂質一重膜からなる粒子、外層が脂質二重膜からなる粒子が挙げられ、好ましくは外層が脂質一重膜からなる粒子が挙げられ、より好ましくは外層の脂質一重膜において両親媒性脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。粒子の内層は、水相又は油相の均一な相からなるものでもよいが、1又は複数の逆ミセルを含むことが好ましい。本発明の脂質粒子の好ましい一態様を
図9に示す。
【0053】
本発明の脂質粒子の粒子径は、特に制限されない。該粒子径は、好ましくはナノサイズであり、具体的には例えば10~700 nm、好ましくは20~500 nm、より好ましくは40~250 nm、さらに好ましくは60~200 nm、よりさらに好ましくは70~150 nm、特に好ましくは80~120 nmである。
【0054】
本発明の脂質粒子は、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さない。より具体的には、本発明の脂質粒子は、pH 7.4のTris-HCl緩衝液中におけるゼータ電位が、-80~-1 mV、-50~-1 mV、-40~-1 mV、-30~-1 mV、-30~-10 mV、-30~-15 mV、-30~-20 mVである。
【0055】
本発明の脂質粒子のpKaは、好ましくは6以上7未満である。
【0056】
本発明の脂質粒子は、本発明のリン脂質以外に、粒子構成脂質として、他の脂質を含み得る。脂質の具体例としては、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が例示される。
【0057】
リン脂質の具体例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン;ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジリノレオイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルパルミトイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルステアロイルホスファチジルグリセロール、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール等のホスファチジルグリセロール;ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン等のホスファチジルエタノールアミン;ホスファチジルセリン;ホスファチジン酸;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;カルジオリピン;卵黄レシチン;大豆レシチン;及びこれらの水素添加物等が例示される。これらは、PEG等の水溶性高分子で修飾されたものであってもよい。
【0058】
糖脂質の具体例としては、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等のグリセロ糖脂質;ガラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質;ステアリルグルコシド、エステル化ステアリルグリコシド等が例示される。
【0059】
ステロールの具体例としては、コレステロール、コレステリルヘミスクシネート、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロール、フィトステロール、スチグマステロール、チモステロール、エルゴステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等が例示される。特に、当該ステロールには、リポソーム膜を安定化させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりする作用があるため、リポソーム膜の構成脂質として含まれていることが望ましい。
【0060】
飽和又は不飽和の脂肪酸の具体例としては、デカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、ドコサン酸等の炭素数10~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が例示される。
【0061】
上記脂質は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
本発明の脂質粒子は、好ましくは本発明のリン脂質以外のリン脂質(本明細書において、「リン脂質B」と示すこともある)とステロールとを含む。本発明のリン脂質が不飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質である場合、リン脂質Bは飽和鎖式炭化水素基を有することが好ましい。リン脂質Bとしては、好ましくはホスファチジルコリンが挙げられ、特に好ましくはジパルミトイルホスファチジルコリンが挙げられる。ステロールとしては、好ましくはコレステロールが挙げられる。
【0063】
本発明の脂質粒子がリン脂質Bを含有する場合、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば15~100モル、好ましくは30~70モル、より好ましくは40~60モル、さらに好ましくは45~55モルである。或いは、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば5~70モル、好ましくは10~40モル、より好ましくは15~30モル、さらに好ましくは17~27モルである。
【0064】
本発明の脂質粒子がステロールを含有する場合、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば30~200モル、好ましくは60~140モル、より好ましくは80~120モル、さらに好ましくは90~110モル、よりさらに好ましくは95~105モルである。
【0065】
本発明の脂質粒子がリン脂質B及びステロールを含有する場合、リン脂質Bの含有量は、ステロール100モルに対して、例えば15~100モル、好ましくは30~70モル、より好ましくは40~60モル、さらに好ましくは45~55モルである。或いは、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば5~70モル、好ましくは10~40モル、より好ましくは15~30モル、さらに好ましくは17~27モルである。
【0066】
本発明のリン脂質と必要に応じて配合される他の脂質(好ましい態様においては、リン脂質B及びステロール)との合計含有量は、本発明の脂質粒子構成脂質100モル%に対して、例えば50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、よりさらに好ましくは99モル%以上である。
【0067】
本発明の脂質粒子においては、リン脂質の一部がPEG等の水溶性高分子で修飾されていることが好ましい。PEG修飾されたリン脂質の含有量は、本発明の脂質粒子構成脂質100モル%に対して、例えば1~50モル%、好ましくは2~30モル%、より好ましくは3~20モル%、さらに好ましくは4~15モル%である。
【0068】
本発明の脂質粒子は、好ましくは薬物を内包する。薬物としては、特に制限されず、例えば、ポリヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、糖、低分子化合物等が挙げられる。薬物は、負電荷を有するものが好ましく、また水溶性のものが好ましい。このような薬物としては、ポリヌクレオチドを好適に採用できる。薬物の対象疾患としては、特に制限されないが、例えばがん(特に、固形がん)が挙げられる。
【0069】
ポリヌクレオチドとしては、薬物としての機能を発揮し得るものである限り特に制限されないが、例えばsiRNA、miRNA、アンチセンス核酸、これらの発現ベクターや、タンパク質の発現ベクター、ゲノム編集用核酸(例えばガイドRNA、Casタンパク質発現ベクター、TALEN発現ベクター等)、核酸ワクチン等が挙げられる。
【0070】
ポリヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0071】
薬物は、本発明の脂質粒子の内層に含まれることが好ましい。薬物がポリヌクレオチドである場合、薬物は、内層における逆ミセル内に含まれることが好ましい。
【0072】
本発明の脂質粒子構成脂質と薬物とのモル比(本発明の脂質粒子構成脂質/薬物、mol/mol)は、例えば薬物がsiRNA等のポリヌクレオチドである場合、例えば500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは1900以上、よりさらに好ましくは2500以上、特に好ましくは3200以上である。該モル比の上限は特に制限されず、例えば10000、7000、5000である。
【0073】
本発明の脂質粒子は、上記以外にも他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば膜安定化剤、荷電物質、抗酸化剤、膜タンパク質、ポリエチレングリコール(PEG)、抗体、ペプチド、糖鎖等が挙げられる。
【0074】
抗酸化剤は、膜の酸化防止のために含有させることができ、膜の構成成分として必要に応じて使用される。膜の構成成分として使用される抗酸化剤としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、酢酸トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、ビタミンE、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エリソルビン酸、クエン酸等が例示される。
【0075】
膜タンパク質は、膜への機能付加又は膜の構造安定化を目的として含有させることができ、膜構成成分として必要に応じて使用される。膜タンパク質としては、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質、アルブミン、組換えアルブミン等が挙げられる。
【0076】
他の成分の含有量は、本発明の脂質粒子100質量%に対して、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0077】
本発明の脂質粒子は、脂質粒子の公知の製造方法に従って又は準じて製造することができる。本発明の脂質粒子は、好適には、本発明のリン脂質を含有するアルコール溶液と、水溶性薬物を含有する酸性水溶液とを混合する工程(工程1)を含む方法によって、製造することができる。
【0078】
アルコール溶液の溶媒であるアルコールとしては、リン脂質を溶解可能なアルコールである限り特に制限されない。溶解性の観点から、アルコールとしては、ブタノールが好ましく、t-ブタノールがより好ましく挙げられる。
【0079】
酸性水溶液は、水溶性薬物と、溶媒である水の他に、通常は酸が含まれる。酸としては、例えば有機酸及び無機酸が挙げられ、好ましくは有機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、マレイン酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、葉酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ケトグルタル酸、アジピン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、イソクエン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、p-トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、ボロン酸、フッ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、クロム酸、過マンガン酸、アンバーリストが挙げられる。酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
酸性水溶液のpHは、好ましくは3~5である。
【0081】
酸性水溶液とアルコール溶液との混合比(酸性水溶液/アルコール溶液、v/v)は、例えば1.5~10、好ましくは2~8、より好ましくは3~7、さらに好ましくは4~6、よりさらに好ましくは4.5~5.5である。
【0082】
混合は、本発明のリン脂質と薬物とが混合可能な態様である限り特に制限されないが、通常は、ボルテックス等で激しく撹拌する。混合時間は、混合態様によっても異なるが、例えば10秒間~2分間、好ましくは15秒間~1分間である。
【0083】
工程1は、通常、加温下で実行される。工程1の温度は、例えば30℃~50℃、好ましくは35℃~45℃である。
【0084】
工程1後は、得られた混合液を静置することが好ましい。
【0085】
静置時間は、例えば30秒間~5分間、好ましくは1分間~3分間である。
【0086】
静置温度は、例えば30℃~50℃、好ましくは35℃~45℃である。
【0087】
上記工程1は、マイクロ流路を用いた反応系を用いて実施することも可能である。その場合、各種条件は、該反応系に応じて適宜調整することができる。
【0088】
3.脂質粒子の用途
本発明は、その一態様として、薬物を内包する本発明の脂質粒子を含有する、医薬(本明細書において、「本発明の医薬」と示すこともある。)に関する。また、薬物を内包する本発明の脂質粒子は、試薬としても利用することができる。
【0089】
本発明の脂質粒子は、細胞毒性をより低減しつつも、より効率的に薬物(例えば、siRNA等のポリヌクレオチド)の効果を発揮することができる。このため、本発明の脂質粒子は、薬物のキャリアとして好適に利用することができる。
【0090】
本発明の医薬中の有効成分(=薬物)の含有量は、対象とする疾患の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。例えば、本発明の医薬中の有効成分の含量は、本発明の医薬全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0091】
本発明の医薬の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。好ましい投与形態は非経口投与であり、より好ましくは静脈注射である。経口投与および非経口投与のための剤形ならびにその製造方法は当業者に周知であり、有効成分を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0092】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、本発明の脂質粒子を注射用蒸留水に溶解して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。医薬は、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0093】
本発明の医薬は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。本発明の医薬は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0094】
本発明の医薬の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0095】
本発明の医薬の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。本発明の医薬の投与量は、例えば、一日当たりで、1μg/kg(体重)~10g/kg(体重)程度とすることができる。本発明の医薬の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0097】
実施例1-1.dioleoylphosphate - diethylenediamine conjugate(DOP-DD又はDOP-DEDA)の合成1
DOP-DEDAを以下のスキームに従って合成した。合成方法の概要を
図1に示す。
【0098】
【0099】
1.0 g(1.3 mmol)のDOPCを酢酸エチルに溶解した混合物に1.84 gの2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(17.8 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.5 M酢酸酸緩衝液を加えて、40℃へ加熱した。加熱後、PLDP(旭化成ファーマ社製、ホスホリパーゼD)(600 U)を加え、48時間撹拌した。DOPCの消費がTLC分析で確認されるまで撹拌した。なお、1ユニットは、至適条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1マイクロモル(μmol)の基質を変化されることができる酵素量(1マイクロモル毎分)と定義される。
【0100】
反応混合物をクロロホルム:メタノール=6:1で希釈し、1%塩酸、20%食塩水で洗浄した。反応混合物を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。0.72gの濃縮物が得られた。得られた反応粗製物のうち0.36 gをジオキサン4 mlに溶解させ、2 mlのジオキサン/4M HClを滴下し、室温で攪拌した。氷冷した後にアセトンを加え、1時間攪拌した後に析出した白色結晶をアセトンで懸濁洗浄を3回した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、0.20 gの白色結晶を得た(収率40%)。NMRチャートを
図2に示す。
【0101】
実施例1-2.dioleoylphosphate - diethylenediamine conjugate(DOP-DD又はDOP-DEDA)の合成2
DOP-DEDAを実施例1-2と同様のスキームに従って合成した。
【0102】
30.06 g(38.2 mmol)のDOPCを酢酸エチルに溶解した混合物に55.21 gの2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(904 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.5 M酢酸酸緩衝液を加えて、40℃へ加熱した。加熱後、PLDP(旭化成ファーマ社製、ホスホリパーゼD)(14400 U)を加え、21時間撹拌した。DOPCの消費がTLC分析で確認されるまで撹拌した。
【0103】
反応混合物をクロロホルム:メタノール=6:1で希釈し、1%塩酸、20%食塩水で洗浄した。反応混合物を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。28.83gの濃縮物が得られた。得られた反応粗製物のうち5.00 gをジオキサン55 mlに溶解させ、氷冷した後に27.5 mlのジオキサン/4M HClを滴下し、30分間攪拌した。攪拌した後に析出した淡黄色結晶をろ過し、結晶をアセトンで3回懸濁洗浄した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、3.10 gの淡黄色結晶を得た。得られた淡黄色結晶のうち2.80gをTHF55mLに溶解させ、氷冷した後に140 mlのアセトンを滴下し、氷浴内で30分間攪拌した。攪拌後に析出した淡黄色結晶をろ過し、結晶をアセトンで5回懸濁洗浄した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、2.61 gの淡黄色結晶を得た(収率56%)。
【0104】
実施例2.dioleoylphosphate - triethylenetriamine conjugate(DOP-TT又はDOP-TETA)の合成
DOP-TETAを以下のスキームに従って合成した。合成方法の概要を
図3に示す。
【0105】
【0106】
1.0 g(1.3mmol)のDOPCを酢酸エチルに溶解した混合物に1.53 gのヒドロキシエチルジエチレントリアミン(10.4 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.1 M酢酸酸緩衝液を加えて、40℃へ加熱した。加熱後、PLDP(810 U)を加え、72時間撹拌した。DOPCの消費がTLC分析で確認されるまで撹拌した。
【0107】
反応混合物を酢酸エチルで希釈し、1%塩酸、20%食塩で洗浄した。反応混合物を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。0.80 gの濃縮物が得られた。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水=60/30/5)で精製し、対応するフラクションを濃縮し、ジオキサン3 mlに溶解させた。次に濃縮物ジオキサン溶液に氷冷しながら5 mlのジオキサン/4M HCl を加え、13 mlのアセトンを加え、析出した白色ロウ状物質を吸引ろ過し、減圧乾燥した。33 mgの対応する白色ロウ状物質を得た(収率3%)。NMRチャートを
図4に示す。
【0108】
実施例3.脂質粒子の製造及び各種物性値の測定
<実施例3-1.脂質粒子の製造>
siRNAを1 mMクエン酸緩衝液(pH 4.0)に添加して、siRNA酸性水溶液を調製した(40℃、siRNA濃度:571 nM)。一方で、脂質(DOP-DD又はDOP-TT、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、及びコレステロール(Chol))を2:1:2のモル比(DOP-DD又はDOP-TT:DPPC:Chol)でt-ブタノールに添加して、リン脂質のアルコール溶液を調製した(40℃、脂質濃度:10 mM)。リン脂質アルコール溶液に対して3又は5倍容量のsiRNA酸性水溶液を添加し、直ちにボルテックスを30秒間行った。得られた混合物を40℃で2分間インキュベートして、脂質粒子を得た。最後にt-ブタノールを透析によって除去した。
【0109】
<実施例3-2.各種物性値の測定>
脂質粒子をRNase free waterで20倍希釈した後、ゼータサイザーナノZS(Malvern社製)を用いて粒子径と多分散指数(PDI)を測定した。また、脂質ナノ粒子を10 mM Tris-HCl緩衝液(pH=7.4)で20倍希釈した後、ζ-Potentialを測定した。
【0110】
結果を
図5に示す。
図5に示されるように、DOP-DD又はDOP-TTを用いて得られたリン脂質粒子は、粒子径、及び粒子径分布において良好であった。また、生理的条件下(中性域)におけるゼータ電位がプラスの場合、細胞に対する毒性の懸念が高まるところ、得られたリン脂質粒子は、中性域におけるゼータ電位がマイナスであり、この点でも良好であった。
【0111】
実施例4.脂質粒子の製造及び内包率の測定
<実施例4-1.脂質粒子の製造>
リン脂質アルコール溶液に対して5倍容量のsiRNA酸性水溶液を添加し、siRNA:脂質のモル比を1:700とする以外は、実施例3-1と同様にして脂質粒子を製造した。
【0112】
<実施例4-2.内包率の測定>
RNA定量試薬(RiboGreen試薬、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて行った。具体的には次のようにして行った。脂質粒子溶液に対して2% Triton-X 100又はRNase free waterを添加した。得られた溶液、RNase free water、及びRiboGreen試薬を、96ウェルブラックプレートのウェル中で混合した。プレートを5分間振盪した後、各ウェルの蛍光強度を測定した。測定された蛍光強度に基づいて、以下の式により、siRNAの脂質粒子中の内包率を算出した。
【0113】
内包率(%)=(全siRNAの蛍光強度 - 遊離のsiRNAの蛍光強度)/(全siRNAの蛍光強度)
その結果、リン脂質としてDOP-DDを用いた場合の内包率は96.4%であり、リン脂質としてDOP-TTを用いた場合の内包率は99.4%であった。
【0114】
実施例5.脂質粒子の製造及びpKaの測定
<実施例5-1.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC及びCholを用い、実施例3-1と同様にして脂質粒子を製造した。
【0115】
<実施例5-2.pKaの測定>
測定バッファー(組成:20 mM リン酸ナトリウム、25 mMクエン酸、20 mM酢酸アンモニウム、150 mM塩化ナトリウム)を調製した。測定バッファーのpHを、4.5、5.0、6.0、6.5、7.0、7.4、8.0、8.5、9.0、又は9.5になるように調整した。測定バッファーに、脂質粒子を20μMの濃度になるように添加し、さらにTNS(2-(p-toluidinyl)naphthalene-6-sulphonic acid)を6μMの濃度になるように添加した後に、蛍光強度(λex=321 nm、λem=431 nm)を測定した。
【0116】
結果を
図6に示す。
図6より、6.0<pKa<7.0であることが分かった。このことから、DOP-DDを用いて得られたリン脂質粒子は、生理的条件下(中性域)では正電荷(細胞に対する毒性が懸念される)を持たないことが明らかとなった。
【0117】
実施例6.脂質粒子の製造及び遺伝子抑制試験1
<実施例6-1.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、細胞膜透過ペプチド(プロタミン-13:RRRRRRGGRRRRG)が連結されたジオレイルホスファチジルエタノールアミン(PD-13)、DPPC及びCholを用い(モル比は37.7:5.7:18.9:37.7(DOP-DD:PD-13:DPPC:Chol))、siRNAとしてLamin A/Cに対するsiRNAを用い、siRNA:脂質のモル比を1:2100又は1:3500とする以外は、実施例3-1と同様にして脂質粒子を製造した。
【0118】
<実施例6-2.遺伝子抑制試験>
Hela細胞を6ウェルプレートに播種(1.5×105cells/ウェル)し、37℃で24時間培養した。脂質粒子溶液(siRNA 60 pmol含む)とsiRNAの複合体溶液(siRNA 80 pmol含む)を各ウェルに滴下し、37℃で24時間培養した。TRIzol試薬(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。total RNAからcDNAを合成した。cDNAを鋳型として、real-time PCRによりLamin A/C mRNA量を定量した。
【0119】
結果を
図7に示す。DOP-DDを用いて得られたリン脂質粒子により、効率的に遺伝子ノックダウンが可能であることが分かった。
【0120】
実施例7.脂質粒子の製造及び遺伝子抑制試験2
siRNA導入後の細胞を0.1%SDSで溶解してタンパク質を抽出し、ウェスタンブロッティングによりLamin A/Cのタンパク質量を定量する以外は、実施例6と同様にして行った。
【0121】
結果を
図8に示す。DOP-DDを用いて得られたリン脂質粒子により、効率的に遺伝子ノックダウンが可能であることが分かった。
【0122】
実施例8.脂質粒子の製造及びpH変化時の溶血性試験
<実施例8-1
.脂質粒子の製造>
siRNAを1mMクエン酸緩衝液(pH 4.0)に添加して、siRNA酸性水溶液を調製した(40℃、siRNA濃度:571 nM)。一方で、脂質(DOP-DD、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、及びコレステロール(Chol))を45 : 10 : 45のモル比(DOP-DD : DPPC : Chol)でt-ブタノールに添加して、脂質のアルコール溶液を調製した(40℃、脂質濃度:10 mM)。リン脂質アルコール溶液に対して5倍容量のsiRNA酸性水溶液を添加し、直ちにボルテックスを30秒間行った。その後、超純水を用いて透析を行うことでt-ブタノールを除去し、脂質粒子を得た。
<実施例8-2
.対照脂質粒子の製造>
脂質(ジオレイルホスファチジルジエチレントリアミン(DOP-DETA)、DPPCおよびChol)を2:1:2のモル比でt-ブタノールに添加して、脂質のアルコール溶液を調製した。その他の操作は実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例8-3
.pH変化時の溶血性試験>
ウシ保存血液(株式会社日本バイオテスト研究所)500 μLと1 x PBS 1 mLを撹拌後、遠心分離(10,000 x rpm、10 min、4℃)し、上清を除去することで洗浄した。この洗浄操作を5度繰り返した。沈殿赤血球をPBS(pH=7.4 or 5.5)240 μLで再懸濁した。この赤血球溶液20 μLと脂質粒子を混合し(混合後の脂質ナノ粒子の総脂質濃度は0.2 mM)、最終容積が1 mLとなるように各pHのPBSを用いて希釈した。上記サンプルをThermoMixer C(eppendorf社)にて振盪(1,400 rpm、1 h、37℃)し、その後遠心分離(10,000 x rpm、10 min、25℃)した。上清50 μLと超純水150 μLを96ウェルクリアプレートのウェル内で混合し、541nmの吸収波長にてヘモグロビンの吸光度を測定した。
結果を
図10に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、旧型の脂質粒子と異なり、生理的条件下で溶血性を示さないことが分かった。
【0123】
実施例9.脂質粒子の製造及び細胞毒性評価試験
<実施例9-1. 脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC及びCholを用い、実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例9-2
.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DETA、DPPC及びCholを用い、実施例8-2と同様にして対照脂質粒子を製造した。
<実施例9-3
.細胞毒性評価試験>
MDA-MB-231ヒト乳がん細胞を24ウェルプレートに播種(6.0 x 10
4 cells/ウェル)し、37℃で24時間培養した。脂質粒子溶液(siRNA 15 pmolを含む)をウェルに滴下し、37℃で24時間培養した。脂質粒子の細胞毒性は、Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学研究所)を用いて評価した。陽性対照群用のウェルにはLysis buffer 50 μLを滴下し、37℃で30分間インキュベートした。各ウェルの上清100 μLを96ウェルクリアプレートに移した後、Working Reagent液を50 μL添加し、室温で30分間インキュベートした。その後Stop solution 50 μLを加え、吸光度を測定した。
結果を
図11に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、旧型の脂質粒子と異なり、生理的条件下で細胞傷害性を示さないことが分かった。
【0124】
実施例10.脂質粒子の製造及び安定性試験
<実施例10-1
.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC、Chol及びポリエチレングリコール(M.W. 6,000)結合ジステアロイルホスホエタノールアミン(DSPE-PEG6000、添加量は総脂質量に対して0、5あるいは10モル%)をt-ブタノールに添加して、脂質のアルコール溶液を調製した。その他の操作は実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例10-2
.対照脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DETA、DPPC及びCholを用い、実施例8-2と同様にして対照脂質粒子を製造した。
<実施例10-3
.脂質粒子の安定性試験>
未非働化ウシ胎児血清 100 μLまたはRNase-free water 100 μL、脂質粒子80 μL、及び10x PBS 20 μLを混合し(混合後の脂質粒子の総脂質濃度は1 mM)、ThermoMixer C(eppendorf社)を用いて振盪(1,000rpm、1 h、37℃)した。SmartSpec
TM3000(BIO-RAD社)を用いて600 nmにおける吸光度を測定した。
結果を
図12に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、旧型の脂質粒子と異なり、血清存在下であっても高い安定性を示すことが分かった。また、本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子はPEG修飾の有無によらず安定であることも分かった。
【0125】
実施例11.脂質粒子の製造及び遺伝子抑制試験3
<実施例11-1
.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC及びCholを用い、実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例11-2
.遺伝子抑制試験3>
HT1080ヒト線維肉腫細胞を6ウェルプレートに播種(1.5 x 10
5 cells/ウェル)し、37℃で24時間培養した。脂質粒子溶液(siRNA 60 pmolを含む)をウェルに滴下し、37℃で24時間培養した。TRIzol試薬(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。total RNAからFirst-strand cDNA Synthesis Kit(GE Healthcare社製)を用いてcDNAを合成した。cDNAを鋳型として、real-time PCRによりPLK1 mRNA量を定量した。
結果を
図13に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、低濃度のsiRNAでも優れたRNA干渉効果を示すことが分かった。
【0126】
実施例12.脂質粒子の製造及び遺伝子抑制試験4
<実施例12-1
.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC及びCholを用い、実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例12-2
.遺伝子抑制試験4>
実施例11-2と同様にしてsiRNAを細胞に導入した。siRNA導入後の細胞を0.1% SDSで溶解してタンパク質を抽出し、ウェスタンブロッティングによりPLK1のタンパク質量を定量した。
結果を
図14及び15に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、低濃度のsiRNAでも優れたRNA干渉効果を示すことが分かった。
【0127】
実施例13.RI標識脂質粒子の製造及び体内分布試験
<実施例13-1
.RI標識脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC、Chol、DSPE-PEG6000(添加量は総脂質量に対して0、5あるいは10モル%)および
3H標識コレステリルヘキサデシルエーテル(74 kBq/マウス)をt-ブタノールに添加して、脂質のアルコール溶液を調製した。その他の操作は実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例13-2
.体内分布試験>
MDA-MB231細胞懸濁液(1.0x10
7 cells / 100 μL PBS)をBALB/c nu/nuマウスに皮下移植し、腫瘍体積が200 mm
3になるまで飼育した。脂質粒子溶液(siRNA 2 μg及び[
3H]-cholesteryl hexadecyl ether 74 kBqを含む)をマウス尾静脈より投与し、24時間飼育した。その後、血液・心臓・肺・肝臓・脾臓・腎臓・がんの各臓器を摘出した。それら臓器をSolvable 1 mLにて溶解させた後、消泡剤として2-propanol 500 μLと脱色剤として過酸化水素 500 μLを添加し一晩静置した。さらにシンチレーター(Hionic Fluor, PerkinElmer)10 mL加えてよく反応させ、一晩暗所にて静置し燐光を安定化した。
3H放射活性を液体シンチレーションカウンター(LSC-7400, Hitachi Aloka Medical)にて測定した。
結果を
図16に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、PEG化することにより腫瘍への集積性が向上することが分かった。
【0128】
実施例14.脂質粒子の製造及びin vivoでの遺伝子抑制試験
<実施例14-1
.脂質粒子の製造>
脂質として、DOP-DD、DPPC、Chol、及びDSPE-PEG6000(添加量は総脂質量に対して10モル%)をt-ブタノールに添加して、脂質のアルコール溶液を調製した。その他の操作は実施例8-1と同様にして脂質粒子を製造した。
<実施例14-2
.in vivoにおける遺伝子抑制試験>
MDA-MB-231ヒト乳がん細胞懸濁液(1.0 x 10
7cells / 100μL PBS)をBALB/c nu/nuマウス皮下に移植し、腫瘍体積が150mm
3となるまで飼育した。脂質粒子溶液(siRNA 20μgを含む)をマウス尾静脈より投与し、96時間飼育した。腫瘍を摘出し、TRIzol試薬(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて、total RNAを抽出した。total RNAからcDNAを合成した。cDNAを鋳型として、real-time PCRによりPLK1 mRNA量を定量した。
結果を
図17に示す。本発明のリン脂質を用いて得られた脂質粒子は、腫瘍においてRNA干渉効果を誘導することが分かった。