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特許7016085脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220214BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220214BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220214BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220214BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220214BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220214BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220214BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220214BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20220214BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61P1/16
A61K8/99
A61Q19/00
A61P3/06
A61P3/04
A23L33/135 ZNA
A61K35/74 A
A61K35/741
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019525559
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022865
(87)【国際公開番号】W WO2018230695
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2017118686
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02743
(73)【特許権者】
【識別番号】391015351
【氏名又は名称】ビオフェルミン製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】川原 知浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 良紀
(72)【発明者】
【氏名】嶋川 真木
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】結束 貴臣
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0044172(US,A1)
【文献】国際公開第2017/072278(WO,A1)
【文献】特表2016-511272(JP,A)
【文献】特表2016-517425(JP,A)
【文献】国際公開第2016/141454(WO,A1)
【文献】PNAS, 2008, Vol.105 No.43, p.16731-16736
【文献】Gastroenterology, 2013, Vol.144 No.5 Suppl.1, p.S897-898
【文献】Int J System Evolut Microbiol., 2002, Vol.52, p.2141-2146
【文献】Anaerobe, 2016, Vol.39, p.136-142
【文献】腸内細菌学雑誌, 2017.04, Vol.31 No.2, p.98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 8/00
A61Q 19/00
A61P 3/00
A61P 29/00
A23L 33/00
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)又はその遠心菌体若しくは死菌体である処理物。
【請求項2】
請求項1に記載の菌又はその処理物を含む、肝臓の線維化の予防又は治療剤。
【請求項3】
肝臓の線維化の予防又は治療剤を製造するための、請求項1に記載の菌又はその処理物の使用。
【請求項4】
請求項に記載の剤を含む、臓の線維化を予防又は治療するための組成物。
【請求項5】
医薬品組成物、食品組成物及び化粧品組成物のいずれかである、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物を含む、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、食生活が豊かになった結果、カロリー摂取過剰となるとともに、運動不足も原因となり、メタボリックシンドロームになる人が急激に増加している。メタボリックシンドロームは、「内臓脂肪症候群」とも呼ばれ、脂質代謝異常、糖代謝異常等複数の病気や異常と関連しており、結果的に動脈硬化、脂肪肝、高脂血症、肥満症、高血圧、糖尿病などの症状及び疾患に至る可能性が高い。
【0003】
脂肪肝の主な原因は、大量飲酒と過栄養である。飲酒を経ずに肝疾患症状を呈する非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease、以下NAFLDとも称する。)は、良性の病気で進行しないと軽視されていたが、肝炎、肝硬変、肝臓がん等を引き起こす例が増加し、看過できない疾患となっている。
【0004】
このようなメタボリックシンドロームを予防又は治療するために、これまでに医薬品が開発されてきたが、強い副作用を示すものが多く、継続的な使用には問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、脂肪関連疾患及び/又は炎症、線維化の予防又は治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フィーカリバクテリウム属の菌が、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療効果を有することを見出した。本発明者らは、さらに検討を重ねて、種々の新知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物を含む、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療剤。
[2]脂肪関連疾患が、メタボリックシンドローム関連疾患又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である、前記[1]に記載の剤。
[3]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌が、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC(登録商標)27768(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27768)、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27766(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27766)又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)である、前記[1]又は[2]に記載の剤。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の剤を含む、脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療するための組成物。
[5]医薬品組成物、食品組成物及び化粧品組成物のいずれかである、前記[4]に記載の組成物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の剤又は組成物を製造するための、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物の使用。
[7]フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)又はその処理物。
[8]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物をヒト又はヒト以外の動物に投与する工程を含むことを特徴とする、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療方法。
[8-2]脂肪関連疾患が、メタボリックシンドローム関連疾患又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である、前記[8]に記載の方法。
[8-3]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌が、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC(登録商標)27768(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27768)、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27766(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27766)又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)である、前記[8]又は[8-2]に記載の方法。
[9]脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療するための、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物の使用。
[9-2]脂肪関連疾患が、メタボリックシンドローム関連疾患又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である、前記[9]に記載の使用。
[9-3]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌が、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC(登録商標)27768(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27768)、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27766(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27766)又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)である、前記[9]又は[9-2]に記載の使用。
[10]脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療するために使用するためのフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物。
[10-2]脂肪関連疾患が、メタボリックシンドローム関連疾患又は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である、前記[10]に記載の、使用するためのフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物。
[10-3]フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌が、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC(登録商標)27768(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27768)、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27766(Faecalibacterium prausnitzii ATCC27766)又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)である、前記[10]又は[10-2]に記載の、使用するためのフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌又はその処理物。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の体重変化を測定した結果を示す図である。
図2図2は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の摂餌量を測定した結果を示す図である。
図3図3は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物から採取した肝臓重量の測定結果を示す図である。
図4図4は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物から採取した精巣上体周囲の脂肪重量の測定結果を示す図である。
図5図5は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物におけるHOMA-IRの算出結果を示す図である。
図6図6は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の血漿中における総コレステロール量の測定結果を示す図である。
図7図7は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中における総コレステロール量の測定結果を示す図である。
図8図8は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中におけるトリグリセライド量の測定結果を示す図である。
図9図9は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物のALT値の測定結果を示す図である。
図10図10は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物のAST値の測定結果を示す図である。
図11図11は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓組織切片をオイルレッドO染色した後の様子を示す図である。
図12図12は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓組織切片をシリウスレッド染色した後の様子を示す図である。
図13図13は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中におけるコラーゲン1α1の相対遺伝子発現量の測定結果を示す図である。
図14図14は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中におけるαSMAの相対遺伝子発現量の測定結果を示す図である。
図15図15は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中におけるTNFαの相対遺伝子発現量の測定結果を示す図である。
図16図16は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の肝臓中におけるIL-6の相対遺伝子発現量の測定結果を示す図である。
図17図17は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群の試験動物の血漿中におけるエンドトキシン量の測定結果を示す図である。
図18図18は、ノーマル群、コントロール群、F.prausnitzii ATCC27768投与群又はF.prausnitzii TY-2投与群の試験動物の肝臓での線維化状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[フィーカリバクテリウム属の菌]
本発明において用いられるフィーカリバクテリウム属の菌は、特に限定されるものでなく、例えば、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)等であってもよい。フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイとしては、例えば、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27768、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ ATCC27766、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)等が挙げられる。さらに本発明において用いられるフィーカリバクテリウム属の菌は、例えば、形態的特徴(例えば、コロニーの形状、細胞の形等)、生理、生化学性状(例えば、糖の資化性、生育温度、至適pH等)、化学分類学的性状(菌体脂肪酸組成等)等の性状を既知のフィーカリバクテリウム属の菌と比較し、その性状の比較結果に基づき同一又は実質的に同一と同定した菌であってもよく、16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析に基づき同一又は実質的に同一と同定した菌等であってもよい。
【0010】
[フィーカリバクテリウム属の菌の取得方法及び培養方法]
フィーカリバクテリウム属の菌の取得方法は、特に限定されるものでなく、例えば、公知又は自体公知の方法に従い、例えば、ヒト又は非ヒト動物の糞便等から取得する方法(例えば、本願明細書の実施例1を参照してもよい)であってもよく、自然界又は生体内から取得する方法であってもよく、ATCC等の機関等から入手する方法であってもよく、市販されているものを取得する方法等であってもよい。
また、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2018年6月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託のために受領された。
当該菌は、上記寄託センターに申請することで入手され得るが、例えば、形態的特徴(例えば、コロニーの形状、細胞の形等)、生理、生化学性状(例えば、糖の資化性、生育温度、至適pH等)、化学分類学的性状(菌体脂肪酸組成等)等の性状をフィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)と比較し、その性状の比較結果に基づき同一又は実質的に同一と同定した菌であってもよく、16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析に基づき同一又は実質的に同一と同定した菌であってもよい。
本発明において、フィーカリバクテリウム属の菌の培養方法は、例えば、市販の培地に菌を添加してインキュベーター内にて培養する等の公知又は自体公知の方法であってよい。
【0011】
[菌又はその処理物]
本発明のフィーカリバクテリウム属の菌(上記の通り、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィイ TY-2(受領番号NITE ABP-02743)等を含む。以下同じ。)としては、生菌が好ましいが、菌の処理物を用いてもよい。菌の処理物とは、フィーカリバクテリウム属の菌に何らかの処理を加えたものをいい、その処理は特に限定されない。該処理物として具体的には、該菌体の超音波などによる破砕液、該菌体の培養液又は培養上清、それらを濾過又は遠心分離など固液分離手段によって分離した固体残渣などが挙げられる。また、該処理物としては、細胞壁を酵素又は機械的手段により除去した処理液、トリクロロ酢酸処理又は塩析処理などして得られるタンパク質複合体(タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質など)又はペプチド複合体(ペプチド、糖ペプチド等)などの菌体内成分であってもよく、菌が細胞膜外へ分泌等した菌体外成分等であってもよい。さらに、これらの濃縮物、これらの希釈物又はこれらの乾燥物なども該処理物に含まれる。また、該菌体の超音波などによる破砕液、該細胞の培養液又は培養上清などに対し、例えば各種クロマトグラフィーによる分離などの処理をさらに加えたものも本発明における該処理物に含まれる。本発明のフィーカリバクテリウム属の菌の生菌体又は死菌体も本発明における該処理物に含まれる。前記死菌体は、例えば、酵素処理、約100℃程度の熱をかける加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、ホルマリンなどの化学物質による処理、γ線などの放射線による処理などにより得ることができる。
【0012】
本発明において使用される菌は、乾燥物(菌体乾燥物)であってもよく、菌体乾燥物としては、シングルミクロンの菌体乾燥物が好ましい。菌体乾燥物とは、通常は乾燥された個々の菌体又は乾燥された菌体の集合物をいう。また、シングルミクロンとは、小数第1位を四捨五入して1~10μmをいう。本発明に使用されるフィーカリバクテリウム属の菌として、シングルミクロンの菌体乾燥物を使用すると、製剤中の生菌率が上がるため、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療効果が高くなる。
【0013】
菌体乾燥物の好ましい製造方法について説明する。上記菌体を溶媒に分散して菌体液とする。溶媒は、当業界で用いられる公知の溶媒を用いてよいが、水が好ましい。また、所望によりエタノールを加えてよい。エタノールを加えることによって、最初にエタノールが気化し、ついで水が気化するから、段階的な乾燥が可能となる。さらに、菌体液は、懸濁液であってもよい。溶媒は上記で示したものと同じでよい。また、懸濁させる際、懸濁剤、例えばアルギン酸ナトリウム等を使用してもよい。
また、上記菌体液には、さらに保護剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、又は静電気防止剤など当業界で一般に用いられている添加剤を通常の配合割合で添加してもよい。
【0014】
上記菌体液を、菌体乾燥物を製造するために噴霧乾燥装置による乾燥操作に付してもよい。噴霧乾燥装置は、シングルミクロンの噴霧液滴を形成できる微粒化装置を備えた噴霧乾燥装置が好ましい。非常に粒径の小さな噴霧液滴にすると、噴霧液滴の単位質量あたりの表面積が大きくなり、乾燥温風との接触が効率よく行われるため、生産性が向上する。
ここでシングルミクロンの液滴とは、噴霧液滴の粒径が小数第1位を四捨五入して1~10μmであるものをいう。
【0015】
噴霧乾燥装置には、微粒化装置が、例えばロータリーアトマイザー(回転円盤)、加圧ノズル、又は圧縮気体の力を利用した2流体ノズルや4流体ノズルである噴霧乾燥装置が挙げられる。
噴霧乾燥装置は、シングルミクロンの噴霧液滴を形成できるものであれば、上記形式のいずれの噴霧乾燥装置であってもよいが、4流体ノズルを有する噴霧乾燥装置を使用するのが好ましい。
【0016】
4流体ノズルを有する噴霧乾燥装置では、4流体ノズルの構造としては、気体流路と液体流路とを1系統として、これを2系統ノズルエッジにおいて対称に設けたもので、ノズルエッジに流体流動面となる斜面を構成している。
また、ノズルエッジの先端の衝突焦点に向かって、両サイドから圧縮気体と液体を一点に集合させる外部混合方式の装置がよい。この方式であれば、ノズル詰まりがなく長時間噴霧することが可能となる。
【0017】
圧縮気体としては、例えば、空気、炭酸ガス、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス等を用いることができる。とくに、酸化されやすいもの等を噴霧乾燥させる場合は、炭酸ガス、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガスを用いるのが好ましい。
圧縮気体の圧力としては、通常約1~15kg重/cm、好ましくは約3~8kg重/cmである。
ノズルにおける気体量は、ノズルエッジ1mmあたり、通常約1~100L/分、好ましくは約10~20L/分である。
【0018】
通常、その後、乾燥室において、その噴霧液滴に乾燥温風を接触させることで水分を蒸発させ菌体乾燥物を得る。
乾燥室の入り口温度は、通常約2~400℃、好ましくは約5~250℃、より好ましくは約5~150℃である。入り口温度が約200~400℃の高温であっても、水分の蒸発による気化熱により乾燥室内の温度はそれほど高くならず、また、乾燥室内の滞留時間を短くすることにより、生菌の死滅や損傷をある程度抑えることができる。
出口温度は、通常約0~120℃、好ましくは約5~90℃、より好ましくは約5~70℃である。
【0019】
上記のように菌体乾燥物の粒径を小さくすることにより、生菌率が上がり、生菌率の多い製剤を提供できるという利点がある。
すなわち、シングルミクロンの菌体乾燥物を得るためにはシングルミクロンの噴霧液滴を噴霧するのが好ましい。噴霧液滴の粒径を小さくすると、噴霧液滴の単位質量あたりの表面積が大きくなるので、乾燥温風との接触が効率よく行われ、乾燥温風の熱による菌体の死滅又は損傷を極力抑えることができる。その結果として、生菌率が上がり生菌数の多い菌体乾燥物が得られる。
【0020】
[剤]
本発明の剤は、フィーカリバクテリウム属の菌又はその処理物を含有する。そして、このような剤は、脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療するために使用することができる。
脂肪関連疾患は、例えば、脂肪が関連する疾患であってもよく、脂肪が関連する疾患に付随して発症等する疾患等であってもよい。脂肪が関連する疾患は、例えば、脂肪に起因して悪化又は発症する疾患等が挙げられる。脂肪に起因して悪化又は発症する疾患としては、例えば、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を含む)、高脂血症等が挙げられる。メタボリックシンドロームは、複数の病気や異常が重なっている状態を表し、複数の病気や異常としては、例えば、肥満症(例えば、脂質代謝異常、脂肪肝等)、糖代謝異常、インスリン抵抗性異常、狭心症や心筋梗塞などの心疾患や動脈硬化性疾患(例えば、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症等)等が含まれる。脂肪が関連する疾患に付随して発症等する疾患としては、例えば、肝硬変、肝臓がん等が挙げられる。
炎症は、特に限定されるものでなく、例えば、突発性の炎症であってもよく、持続性の炎症等であってもよい。また、炎症箇所は、全身であってもよく、局所等であってもよい。炎症の原因は、特に限定されるものでなく、例えば、外因による炎症であってもよく、内因による炎症であってもよい。外因としては、例えば、物理的因子(例えば、機械的刺激、熱、紫外線等)、化学的因子(例えば、強酸、強アルカリ、有害薬品等)、生物学的因子(例えば、細菌、ウイルス、寄生虫等)等が挙げられる。内因としては、例えば、アレルギー、自己免疫異常(例えば、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ等)、炎症物質の産生(例えば、エンドトキシン)、臓器の機能異常、ストレス(例えば、腱鞘炎、変形性関節症)等が挙げられる。炎症の程度は、特に限定されるものでなく、例えば、軽度~重度の炎症が挙げられる。
【0021】
本発明の剤が奏する脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は治療効果は、公知又は自体公知の方法により確認することができる。例えば、体重の測定若しくは肝臓の脂肪量又は精巣上体周囲の脂肪量等をCTスキャン等で解析し、体重又は脂肪量が少ない又は減少する場合に、肥満を予防又は改善する効果を奏することを確認できる。また、例えば、肝臓組織の一部を病理解析し、脂肪滴、線維化の状態を確認し、脂肪滴、繊維化の状態が少ない又は減少する場合に、脂肪肝及び/又は肝臓の線維化の予防又は治療効果を奏することを確認できる。また、例えば、肝細胞の線維化に関与する遺伝子発現を定量性リアルタイムPCR等を用いて解析することにより、該遺伝子発現が低い又は減少する場合に、肝臓の線維化の予防又は治療効果を奏することを確認できる。例えば、定量性リアルタイムPCRには、蛍光色素により標識したTaqManプローブやMolecular Beacon等を使用することができる。TaqManプローブやMolecular Beaconは、PCRにより増幅される領域の内部配列と相同性を有するオリゴヌクレオチドに蛍光色素とクエンチャーを結合させたプローブであり、PCR反応に共存させて用いることができる。また、例えば、血漿に含まれる総コレステロール量、ALT、AST値を測定し、それらの量又は値が少ない又は減少する場合に、肝機能の維持又は改善効果を奏することを確認できる。また、例えば、血漿に含まれるグルコース及びインスリン量から、下記式(1)を用いて、HOMA-IRを算出し、その値が減少する場合に、耐糖能改善効果を奏することを確認できる。
【数1】
【0022】
また、例えば、血漿に含まれるエンドトキシン量を測定し、血液中のエンドトキシン量が少ない又は減少する場合に、炎症の予防又は治療効果を奏することを確認できる。また、例えば、血漿に含まれる炎症性サイトカインなどの遺伝子発現を解析し、該炎症性サイトカイン等の遺伝子発現が少ない又は減少する場合に、炎症の予防又は治療効果を奏することを確認できる。
【0023】
本発明において、「予防」は、その程度は特に限定されるものではなく、発症の阻止、進行の抑制等を含む。また、「治療」には改善等も含まれ、その改善の程度は特に限定されず、疾患の寛解、完治等も含む。
【0024】
本発明の剤は、フィーカリバクテリウム属の菌又はその処理物を含んでいればよく、剤形、投与形態、所望の薬効等に応じて、適宜、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、他の薬理活性成分、担体、添加剤(例えば、防腐剤、界面活性剤、安定剤、等張化剤、pH調整剤等)等が挙げられる。他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0025】
[剤の投与方法、剤形等]
本発明の剤の投与形態(又は剤形)は、脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療できる限り特に限定されず、例えば、経口又は非経口投与(剤)等であってもよい。
経口剤としては、例えば、本発明の剤を、薬学的に許容される担体と混合し、錠剤(例えば、糖衣錠等)、丸剤、カプセル剤、散剤、被覆錠剤、顆粒剤、トローチ剤等の固形剤;水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等の液剤、ゼリー状製剤等の半固形製剤等が挙げられる。非経口剤としては、例えば、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤等)、座剤(例えば、直腸座剤、膣座剤等)、外用剤(例えば、経皮製剤、軟膏剤、経鼻投与製剤等)等が挙げられる。
本発明の剤の形状は、特に限定されないが、例えば、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、固体状等が挙げられる。また、用時調製により、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、固体状等になったものも含まれる。
【0026】
[剤の投与量]
本発明の剤中に含まれる菌又はその処理物の含有量は、特に限定されないが、例えば、菌の乾燥質量に換算して、剤の全量に対して、約0.0001質量%~約50質量%程度、約0.001質量%~約30質量%程度、約0.01質量%~約10質量%程度等であってもよく、菌の処理物の乾燥質量に換算して、剤の全量に対して、約0.0001質量%~約50質量%程度、約0.001質量%~約30質量%程度、約0.01質量%~約10質量%程度等であってもよい。
【0027】
本発明の剤の投与量は、剤型、投与ルート、投与対象、年齢、体重、投与間隔等に応じて適宜選択される。経口投与の場合の剤の投与量は、投与対象(例えば、成人)、投与間隔(例えば、1日につき1回投与)等にもよるが、例えば、本発明の菌の乾燥質量に換算して、約0.0001mg~約100g、約0.001mg~約50g、約0.01mg~約20g、約0.1mg~約5g等であってもよく、本発明の菌の処理物の乾燥質量に換算して、約0.0001mg~約100g、約0.001mg~約50g、約0.01mg~約20g、約0.1mg~約5g等であってもよい。例えば、本発明の剤が生菌を含有する場合には、生菌の菌数にして通常約1~1012個/大人/回、好ましくは10~1011個/大人/回、より好ましくは10~1010個/大人/回である。ここで、製剤中の生菌数の測定は菌体によって異なるが、例えば後述の5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイ寒天平板培地を用いた平板培養法によって容易に測定できる。非経口投与の場合の剤の投与量は、投与対象(例えば、成人)、投与間隔(例えば、1日につき1回投与)等にもよるが、本発明の菌の乾燥質量に換算して、例えば、約0.0001mg~約100g、約0.001mg~約50g、約0.01mg~約20g、約0.1mg~約5g等であってもよく、本発明の菌の処理物の乾燥質量に換算して、例えば、約0.0001mg~約100g、約0.001mg~約50g、約0.01mg~約20g、約0.1mg~約5g等であってもよい。
また、投与間隔も、剤型、投与対象等に応じて適宜選択され、例えば、1日につき1~3回程度であってもよく、数ヶ月に1~3回程度であってもよい。
投与回数も、剤型、投与対象等に応じて適宜選択され、例えば、1回投与であってもよく、ある間隔をおいて持続投与等してもよい。
【0028】
本発明の剤は、各種態様の剤(組成物、医薬組成物、食品組成物、化粧品組成物)を構成する。そのため、本発明には、前記剤を含む組成物も含まれる。
【0029】
[医薬品(医薬品組成物)]
本発明は、本発明の剤を含有する医薬品に使用され得る。
本発明の医薬品の製造方法は、本発明の剤を原料に含んで製造されるものであれば特に限定されず、従来公知又は自体公知の方法に従って製造することができる。
【0030】
本発明の医薬品の投与形態(又は剤形)は、脂肪関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療できる限り特に限定されず、例えば、経口又は非経口投与(剤)等であってもよい。
経口剤としては、例えば、本発明の剤を、薬学的に許容される担体と混合し、錠剤(例えば、糖衣錠等)、丸剤、カプセル剤、散剤、被覆錠剤、顆粒剤、トローチ剤等の固形剤;水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等の液剤、ゼリー状製剤等の半固形製剤等が挙げられる。非経口剤としては、例えば、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤等)、座剤(例えば、直腸座剤、膣座剤等)、外用剤(例えば、経皮製剤、軟膏剤、経鼻投与製剤等)等が挙げられる。
本発明の医薬品の形状は、特に限定されないが、例えば、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、固体状等が挙げられる。また、用時調製により、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、固体状等になったものも含まれる。
【0031】
本発明の医薬品中に含まれる菌又はその処理物の含有量は、特に限定されないが、例えば、菌の乾燥質量に換算して、医薬品の全量に対して、約0.0001質量%~約50質量%程度、約0.001質量%~約30質量%程度、約0.01質量%~約10質量%程度等であってもよく、菌の処理物の乾燥質量に換算して、医薬品の全量に対して、約0.0001質量%~約50質量%程度、約0.001質量%~約30質量%程度、約0.01質量%~約10質量%程度等であってもよい。
【0032】
本発明の医薬品の投与量は、剤型、投与ルート、投与対象、年齢、体重、投与間隔等に応じて適宜選択される。経口投与の場合の医薬品の投与量は、投与対象(例えば、成人)、投与間隔(例えば、1日につき1回投与)等にもよるが、例えば、本発明の菌の乾燥質量に換算して、約0.0001mg~約10g、約0.001mg~約5g、約0.01mg~約1g、約0.1mg~約500mg等であってもよく、本発明の菌の処理物の乾燥質量に換算して、約0.0001mg~約10g、約0.001mg~約5g、約0.01mg~約1g、約0.1mg~約500mg等であってもよい。非経口投与の場合の医薬品の投与量は、投与対象(例えば、成人)、投与間隔(例えば、1日につき1回投与)等にもよるが、本発明の菌の乾燥質量に換算して、例えば、約0.0001mg~約10g、約0.001mg~約5g、約0.01mg~約1g、約0.1mg~約500mg等であってもよく、本発明の菌の処理物の乾燥質量に換算して、例えば、約0.0001mg~約10g、約0.001mg~約5g、約0.01mg~約1g、約0.1mg~約500mg等であってもよい。
また、投与間隔も、剤型、投与対象等に応じて適宜選択され、例えば、1日につき1~3回程度であってもよく、数ヶ月に1~3回程度であってもよい。
投与回数も、剤型、投与対象等に応じて適宜選択され、例えば、1回投与であってもよく、ある間隔をおいて持続投与等してもよい。
【0033】
本発明の医薬品は、いずれの剤型の場合も、本発明の剤に加えて、薬学的に許容される基材又は担体(例えば、水性溶媒、固形担体、多価アルコール、植物油、油性基剤等)、薬学的に許容される添加剤(例えば、界面活性剤、香料又は清涼化剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、キレート剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、粘稠化剤等)、本発明の剤以外の他の生理活性成分(例えば、ビタミン類、アミノ酸類、糖類、高分子化合物等)又は薬理活性成分(例えば、抗菌薬成分、殺菌薬成分等)等を含むことができる。
【0034】
[食品(食品組成物)]
また、本発明の剤は、食品の分野で使用され得る。すなわち、本発明の剤は、食品用添加剤等であってもよい。このような食品用添加剤は、食品を構成する。そのため、本発明には前記剤を含む食品(食品組成物)も含まれる。
【0035】
食品としては、例えば、栄養補助食品、バランス栄養食品、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品等の飲食品が挙げられる。これらの食品の製造方法は、脂肪関連疾患及び/又は炎症の予防又は改善効果が得られるものであれば特に限定されない。当該食品の好適な具体例として、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等の形態を有するサプリメントが例示される。また、上記形態以外にも、当該食品としては、ヨーグルト、チーズ等の発酵食品(乳製品)、ガム、キャンディー、グミ、錠菓、クッキー、ケーキ、チョコレート、アイスクリーム、ゼリー、ムース、プリン、ビスケット、コーンフレーク、チュアブルタブレット、ウエハース、煎餅等の菓子類;炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁飲料、栄養飲料、アルコール飲料、ミネラルウォーター等の飲料類;粉末ジュース,粉末スープ等の粉末飲料;ドレッシング、ソース等の調味料;パン類;麺類;かまぼこ等の練り製品;ふりかけ等があげられる。また、経口摂取用の形態以外に、経管摂取用(流動食等)の形態としてもよい。
【0036】
本発明の食品における剤の含有割合については、対象者の年齢、性別、健康状態、その他の条件等により適宜選択でき、適用量や食品の形態等に応じて適宜調節することができる。また、本発明の剤による改善又は予防効果をより効果的に発現させるために、剤を多く含む食品として提供してもよい。
【0037】
本発明の食品の製造方法は、本発明の剤を原料として含有する方法であれば特に限定されず、従来公知又は自体公知の方法を使用することができる。本発明の剤は、本発明の食品の製造過程において、常法により添加又は配合され得る。
【0038】
本発明の食品に含まれる剤の配合量は、特に限定されず、食品の種類や成分等により適宜変更することができる。
【0039】
本発明の食品の摂取において、本発明の剤の摂取量は、特に限定されず、使用対象、年齢、性別、食品の種類、成分等により適宜変更することができる。
【0040】
[化粧品(化粧品組成物)]
また、本発明の剤は、化粧品の分野で使用され得る。本発明の剤は、抗炎症効果を有するため、本発明の剤を含有する本発明の化粧品は、皮膚の炎症等を予防又は治療等することができる。
本発明における化粧品としては、本発明の剤を含有するものであれば特に限定されず、薬用化粧品等の薬事法における定義では医薬部外品に分類されるものも含む。
【0041】
本発明の化粧品の形状、形態、用途、使用方法等は、特に限定されず、使用対象、年齢、性別等によって適宜選択することができる。
【0042】
本発明の化粧品の製造方法は、本発明の剤を成分として使用する方法であれば特に限定されず、従来公知又は自体公知の方法を使用することができる。また、本発明の化粧品は、本発明の効果を奏することになる限り、本発明の剤とともに、化粧品に一般的に使用され得る基材又は担体、及び必要に応じて添加剤(例えば、酸化防止剤、界面活性剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤、香料等)やその他の有効成分(例えば、保湿成分、抗炎症成分、抗菌又は殺菌成分、ビタミン類、細胞賦活化成分、血行促進成分、角質軟化成分、美白成分、収斂成分等)を配合することができる。
【0043】
上述した本発明の化粧品、食品及び医薬品は、通常、常法により、容器又は袋等に収容することができる。容器又は袋等は、化粧品、食品及び医薬品の容器として使用可能なものであれば特に限定されず、本発明の剤、化粧品、食品及び医薬品の形態、形状、剤型に応じて、従来公知又は自体公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0044】
本発明の対象となる動物としては、ヒト、非ヒト動物のいずれであってもよく、特に限定されないが、例えば、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ニワトリ、アヒル、ガチョウ等の鳥類等が挙げられる。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はペットであり、より好ましくはヒト、イヌ又はネコであり、さらに好ましくはヒトである。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、これらの実施例は本発明の一例であり、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0046】
[希釈液、5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイ寒天平板培地及び5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイブロスの調製]
日本薬局方外医薬品規格「ビフィズス菌」の項に記載の方法に従い、以下のように希釈液を調製した。無水リン酸一水素ナトリウム:6.0g、リン酸二水素カリウム:4.5g、ポリソルベート80:0.5g、L-塩酸システイン:0.5g、カンテン:1.0gを精製水1000mLに混合し、高圧蒸気滅菌器を用いて121℃で15分間加熱滅菌し、pH6.8~7.0に調整した。
5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイ寒天平板培地を以下のように調製した。トリプチックソイ寒天培地(Difco社製)40.0gを蒸留水950mLに溶解させた後、121℃で15分間加熱滅菌した。約47℃に冷ましたトリプチックソイ寒天培地に羊脱繊維血液(日本バイオテスト研究所社製)50mLを添加した後、滅菌プレートに適量添加して5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイ寒天平板培地(寒天平板培地Aなどということもある)を調製した。
5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイブロスを以下のように調製した。トリプチックソイブロス(和光純薬工業株式会社製)30.0gを蒸留水950mLに溶解させた後、121℃で15分間加熱滅菌した。約47℃に冷ましたトリプチックソイブロス(和光純薬又は日本バイオテスト)に羊脱繊維血液を50mL添加し、5%羊脱繊維血液添加トリプチックソイブロス(トリプチックソイブロスBなどということもある)を調製した。
ここで調製したものを以降の実施例で使用した。
【0047】
[実施例1]フィーカリバクテリウム属の菌の分離
前記希釈液900μLにヒト糞便試料100mgを加え、ボルテックスミキサーを用いて均質になるように混合した。さらに前記希釈液を用いて、10倍ずつ段階希釈したものを調製した後、コンラージ棒を用いて寒天平板培地Aに100μLずつ塗布した。塗布後の寒天平板培地Aは嫌気性菌培養装置(株式会社ヒラサワ)を用いて、速やかに、嫌気条件下、37℃で48~96時間、分離培養した。培養後に爪楊枝及びループを用いて、寒天平板培地A上に出現したコロニーを新たな寒天平板培地Aに画線塗抹した後、速やかに、嫌気条件下、37℃で48~96時間、純培養した。同様の純培養処理を再度繰り返し行った後に、出現したコロニーを掻き取り、20%グリセロールと等量の液体培地の混合液に懸濁し、-80℃で保存した。従来の方法に従い、フェノール抽出法を用いて抽出したDNAに対し、16S rRNA(16SリボソームRNA)のホモロジー解析を実施し、菌種を同定した。なお、分離培養及び純培養の作業は全て嫌気性チャンバー(株式会社ヒラサワ社製)内で実施した。
【0048】
[実施例2]菌(Faecalibacterium prausnitzii標準株ATCC27768)の調製
Faecalibacterium prausnitzii標準株ATCC27768(F.prausnitzii ATCC27768)の遠心菌体の調製を行った。具体的には、F.prausnitzii ATCC27768の凍結保存菌株を37℃で48時間静置培養後、トリプチックソイブロスBに、容量比で培養菌液100に対して1の割合になるように接種し、37℃で48時間静置培養した。得られた培養菌液を遠心分離し、PBSで2回洗浄、遠心して遠心菌体を得た。
【0049】
[実験例A]試験動物及び菌の投与
8週齢のC57BL/6Jマウスに対して、高フルクトース高脂肪飼料(AMLN飼料などということもある;リサーチダイエット社製)を20週間摂取させると同時に、F.prausnitzii ATCC27768を一日につき一回、20mg/マウスの量を経口投与した。通常の飼料(MF飼料、オリエンタル酵母工業社製)を摂取させ、F.prausnitzii ATCC27768を投与しない群をノーマル群とした。高フルクトース高脂肪飼料を摂取させ、F.prausnitzii ATCC27768を経口投与しない群をコントロール群とした。
【0050】
[実施例3]メタボリックシンドロームに対する予防又は治療効果
(体重、摂餌量、肝臓重量及び精巣上体周囲の脂肪重量の測定)
試験期間中は、常法に従って、一週間に一回、試験動物の体重及び摂餌量の測定を行った。
AMLN飼料給餌開始から20週間時に、18時間絶食させた後、常法に従って、肝臓及び精巣上体周囲脂肪を採取し、各組織重量を測定した。
【0051】
(血液化学解析)
グルコース量測定用試薬グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業社製)及びインスリン量測定用試薬超高感度マウスインスリン測定キット(森永生科学研究所社製)を用いて、添付のプロトコールに従い、全採血より得た血漿に含まれるグルコース及びインスリンの含有量を測定した。HOMA-IRは、前記の式(1)を用いて算出した。
【0052】
(結果)
F.prausnitzii ATCC27768投与群において、コントロール群と比較して有意に体重増加が抑制された(図1)。摂餌量については、F.prausnitzii ATCC27768投与群及びコントロール群に違いは見られなかった(図2)。また、コントロール群は、ノーマル群と比較して肝臓及び精巣上体周囲の脂肪重量が有意に増加した(図3及び4)。それに対し、F.prausnitzii ATCC27768投与群では、AMLN飼料摂取による肝臓及び精巣上体周囲脂肪重量の増加が有意に抑制された(図3及び4)。さらに、F.prausnitzii ATCC27768の投与により、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRが有意に改善した(図5)。また、コントロール群と比較してF.prausnitzii ATCC27768投与群では、インスリン量に減少傾向が見られた。
これらの結果により、F.prausnitzii ATCC27768は、抗肥満効果及び耐糖能改善効果を有することを明らかにした。またこれらの結果により、F.prausnitzii ATCC27768を投与することにより、メタボリックシンドロームの進行を抑制できることを明らかにした。
【0053】
[実施例4]NAFLDに対する予防又は治療効果
(血液化学解析)
全採血より得た血漿に含有する総コレステロール量、ALT及びASTの値は株式会社エスアールエルに依頼して測定した。また、肝臓中の脂質解析における総コレステロール量及びトリグリセライド量は、株式会社スカイライト・バイオテックに依頼して測定した。
【0054】
(病理解析)
試験動物より採取した肝臓は、常法に従い、10%ホルマリンで浸水固定させた後、パラフィンブロックを作製し、パラフィン切片を作製した。このパラフィン切片に対し、オイルレッドO染色原液(武藤化学社製)又はシリウスレッド染色液(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を用いて、添付のプロトコールに従い、肝臓のパラフィン切片を染色し、染色後のパラフィン切片を写真撮影した。
【0055】
(遺伝子発現解析)
試験動物より採取した肝臓から、RNA抽出試薬(キアゲン社製)を用いて、添付のプロトコールに従って、全RNAを抽出した。逆転写試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付のプロトコールに従って、cDNAを作製し、作製したcDNAを鋳型として、定量性リアルタイムPCRを行った。定量性リアルタイムPCRは、リアルタイムPCR試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)及びリアルタイムPCR装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付のプロトコールに従い行った。定量性リアルタイムPCRにより、コラーゲン1α1(Collagen1α1)、αSMA、TNFα及び18S rRNAの遺伝子発現量を測定した。コラーゲン1α1、αSMA及びTNFα遺伝子に対するプライマー並びにプローブは、表1に示した配列のものを使用した。18S rRNAの遺伝子発現量は、Eukaryotic 18S rRNA Endogenous Control(VIC(登録商標)/MGB(商品名) probe、primer limited)(ABI社製、Cat. No:4319413E)を用いて測定した。遺伝子発現量は、各遺伝子の発現量に対して、18S rRNAの発現量に対する相対値を算出して評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
(結果)
F.prausnitzii ATCC27768投与群は、コントロール群と比較して、血漿中の総コレステロール量並びに肝臓中の総コレステロール量及びトリグリセライド量が有意に減少した(図6、7及び8)。さらにF.prausnitzii ATCC27768の投与により、肝機能のマーカーであるALT値及びAST値が有意に改善した(図9及び10)。また、F.prausnitzii ATCC27768の投与は、肝臓中の肥大化した脂肪滴及び矢頭で示したコラーゲン繊維を顕著に減少させた(図11及び12)。また、F.prausnitzii ATCC27768の投与は、肝臓の線維化の因子であるコラーゲン1α1及び線維化に関与する肝星細胞の活性を示すαSMAの相対遺伝子発現量を有意に減少させた(図13及び14)。
これらの結果により、F.prausnitzii ATCC27768が、脂肪肝及び/又は肝臓の線維化に対する抑制効果を有することを確認した。また、肝機能の改善効果を有することから、F.prausnitzii ATCC27768を投与することにより、NAFLD症状の形成を抑制できることを確認した。
【0058】
[実施例5]炎症に対する予防又は治療効果
(血液化学解析)
実施例3に記載の血液化学解析と同様に、全採血より得た血漿に含まれるエンドトキシン量を測定するために、測定試薬LAL Chromogenic Endpoint Assay(Hycult Biotech Inc.社製)を用いて、エンドトキシンの含有量を測定した。
【0059】
(遺伝子発現解析)
実施例4に記載の遺伝子発現解析と同様に、IL-6及び18S rRNAの遺伝子発現量を定量性リアルタイムPCRを用いて測定した。IL-6遺伝子に対するプライマー及びプローブは、表2に示した配列のものを使用した。18S rRNAの遺伝子発現量は、実施例4に記載の18S rRNA遺伝子発現量測定方法と同じ方法によって測定した。遺伝子発現量は、IL-6遺伝子の発現量に対して、18S rRNAの発現量に対する相対値を算出して評価した。
【0060】
【表2】
【0061】
(結果)
F.prausnitzii ATCC27768投与群では、コントロール群と比較して、炎症性サイトカインであるTNFα及びIL-6の相対遺伝子発現量が有意に減少した(図15及び16)。また、腸管から全身の炎症反応を惹起する血漿エンドトキシン量が、F.prausnitzii ATCC27768の投与により、ノーマル群及びコントロール群の血漿エンドトキシン量よりも有意に減少した(図17)。これらの結果から、F.prausnitzii ATCC27768は、抗炎症効果を有することを明らかにした。
【0062】
[実施例6]菌(Faecalibacterium prausnitzii標準株ATCC27768及びFaecalibacterium.prausnitzii TY-2株)の調製
Faecalibacterium prausnitzii標準株ATCC27768(F.prausnitzii ATCC27768)及びFaecalibacterium.prausnitzii TY-2株(F.prausnitzii TY-2)(受領番号NITE ABP-02743)の遠心菌体の調製を行った。具体的には、F.prausnitzii ATCC27768又はF.prausnitzii TY-2の凍結保存菌株を37℃で48時間静置培養後、トリプチックソイブロスBに、容量比で培養菌液100に対して1の割合になるように接種し、37℃で48時間静置培養した。得られた培養菌液を遠心分離し、PBSで2回洗浄、遠心して遠心菌体を得た。
【0063】
[実施例7]死菌体の作製
30kGyのγ線をFaecalibacterium prausnitzii標準株ATCC27768(F.prausnitzii ATCC27768)又はFaecalibacterium.prausnitzii TY-2株(F.prausnitzii TY-2)(受領番号NITE ABP-02743)の遠心菌体に約190分間照射することで死菌体を作製した。照射は株式会社コーガアイソトープに委託した。
【0064】
[実験例B]試験動物及び菌の投与
8週齢のC57BL/6Jマウスに対して、高フルクトース高脂肪飼料(AMLN飼料などということもある;リサーチダイエット社製)を20週間摂取させると同時に、γ線未照射F.prausnitzii ATCC27768,γ線照射F.prausnitzii ATCC27768,γ線未照射F.prausnitzii TY-2又はγ線照射F.prausnitzii TY-2を一日につき一回、20mg/マウスの量を経口投与した。通常の飼料(MF飼料、オリエンタル酵母工業社製)を摂取させ、F.prausnitzii ATCC27768及びF.prausnitzii TY-2を投与しない群をノーマル群とした。高フルクトース高脂肪飼料を摂取させ、F.prausnitzii ATCC27768及びF.prausnitzii TY-2を経口投与しない群をコントロール群とした。
【0065】
[実施例8]肝臓の線維化に対する抑制効果
(病理解析)
試験動物より採取した肝臓は、常法に従い、10%ホルマリンで浸水固定させた後、パラフィンブロックを作製し、パラフィン切片を作製した。このパラフィン切片に対し、シリウスレッド染色液(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を用いて、添付のプロトコールに従い、肝臓のパラフィン切片を染色し、染色後のパラフィン切片を写真撮影した。
【0066】
(結果)
γ線未照射F.prausnitzii ATCC27768、γ線照射F.prausnitzii ATCC27768,γ線未照射F.prausnitzii TY-2、又はγ線照射F.prausnitzii TY-2の投与は、いずれも肝臓中の矢頭で示したコラーゲン繊維を顕著に減少させた(図18)。
これらの結果により、γ線未照射F.prausnitzii ATCC27768,γ線照射F.prausnitzii ATCC27768,γ線未照射F.prausnitzii TY-2株又はγ線照射F.prausnitzii TY-2株が、肝臓の線維化に対する抑制効果を有することを確認した。すなわち、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の菌の生菌体及び死菌体が、肝臓の線維化に対する抑制効果を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、肥満関連疾患及び/又は炎症を予防又は治療できることから、メタボリックシンドローム等の予防又は治療に有用である。
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【配列表】
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