(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】鋼構造物のモデル変換装置および鋼構造物のモデル変換プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20220128BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220128BHJP
E01D 21/00 20060101ALN20220128BHJP
E01D 22/00 20060101ALN20220128BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20220128BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10 200
E01D21/00 Z
E01D22/00 Z
G06F119:14
(21)【出願番号】P 2020025562
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2020-10-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和元年9月3日「令和元年度土木学会全国大会第74回年次学術講演会」にて、「シェル要素を用いた耐震解析の高度化に向けたプログラム開発」を公開
(73)【特許権者】
【識別番号】503361813
【氏名又は名称】学校法人 中村産業学園
(73)【特許権者】
【識別番号】520058424
【氏名又は名称】株式会社地震工学研究開発センター
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 徹
(72)【発明者】
【氏名】野中 哲也
(72)【発明者】
【氏名】馬越 一也
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-133595(JP,A)
【文献】特開2015-87815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
E01D 21/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物を構成する部材と、前記部材を複数に分割したはり要素と、前記はり要素の節点と、前記節点の位置における断面とが含まれ定義された構造全体のはりモデルと、前記はりモデルの中からシェル要素に置換する部材が指定された置換指定情報とに基づいて、前記断面を前記部材の軸線方向に線形的に補間して前記部材の板面を構築することにより、前記置換指定情報により指定された前記部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成するモデル構築手段を備えた鋼構造物のモデル変換装置。
【請求項2】
前記部材における端部の断面を剛体により拘束して、前記部材の境界節点とする境界節点処理手段を備えた請求項1記載の鋼構造物のモデル変換装置。
【請求項3】
前記はりモデルに追加され、初期応力として付与される残留応力が定義された追加定義情報に基づいて、板要素の結合位置に残留応力を付与する追加情報処理手段を備えた請求項1または2記載の鋼構造物のモデル変換装置。
【請求項4】
前記はり要素が板要素であるときに、前記板要素の節点と、他の板要素の板厚との関係に基づいて、前記板要素と前記他の板要素との距離を算出して、板要素間の接触判定を行う要素結合処理手段を備えた請求項1から3のいずれかの項に記載の鋼構造物のモデル変換装置。
【請求項5】
前記モデル構築手段は、前記シェルモデルを生成するときに、並列計算用の計算ノードとして、前記部材ごとに出力ファイルを生成する請求項1から4のいずれかの項に記載の鋼構造物のモデル変換装置。
【請求項6】
コンピュータを、
鋼構造物を構成する部材と、前記部材を複数に分割したはり要素と、前記はり要素の節点と、前記節点の位置における断面とが含まれ定義された構造全体のはりモデルと、前記はりモデルの中からシェル要素に置換する部材が指定された置換指定情報とに基づいて、前記断面を前記部材の軸線方向に線形的に補間して前記部材の板面を構築することにより、前記置換指定情報により指定された前記部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成するモデル構築手段として機能させる鋼構造物のモデル変換プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物を単純な線分により表したはりモデルから、面により表したシェルモデルに変換する鋼構造物のモデル変換装置および鋼構造物のモデル変換プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に鋼構造物の耐震設計においては、はりの基本仮定に基づく近似的なはり要素からなるはりモデルを用いる。はり要素では、はりの基本仮定のため、局部座屈を伴う部材の損傷を考慮できない。従って、部材に局部座屈を伴う損傷が生ずる鋼構造物の挙動をはりモデルにより正確に評価することはできない。通常の耐震設計では、はりモデルに対して設計用地震動を水平1方向に入力し、上記の損傷状態に至らない範囲で設計が行われる。
【0003】
最近では上記の耐震設計に加え、想定外の被害低減を目指し、設計用地震動を上回る規模の地震動に対して鋼構造物の崩壊挙動を予測し、制御するための新たな検討が行われつつある。このためには上記の局部座屈を伴う部材の損傷を考慮するために、板の理論に基づくシェル要素からなるシェルモデルを用いた有限要素法(FEM(Finite Element Method))解析による高精度のシミュレーションが必要となる。
【0004】
しかし、鋼構造物をモデル化するにあたり、新たにシェルモデルを手作業で構築するには時間が掛かる。そのため、既存のはりモデルからシェルモデルに変換可能なツール(プログラム)があると利便性が高い。
このようなモデルを変換して高精度なシミュレーションを実施できるような技術として、例えば、特許文献1に記載された方法が知られている。
【0005】
特許文献1の橋梁の耐震補強部材の設計支援方法では、2次元CADによりI桁の正面図を描き、その断面形状毎に図面と任意の軸に関する座標値とを有する2次元CADデータ化し、これらの2次元CADデータを基に、3次元座標データ化を行って、該3次元データを基にFEM解析モデルを構築する、ということが記載されている。
この特許文献1に記載の方法によると、メッシュ分割や板厚、材料特性情報を与えてFEM解析に供させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、鋼構造物の一部となる耐震補強部材あるいはその周辺部の部材のみを独立に取り出した部分的なFEM解析モデルを構築しているため、他の構造から当該部材へ伝達される力や変位は別途評価して上記のモデルに境界条件として与える必要がある。このような方法では、鋼構造物全体に対して一部の部材の損傷挙動が及ぼす影響を考慮することができない。すなわち、実際には、他の構造とその一部である部材の間には常に力および変位の相互作用があるので、一部の部材は構造全体系のモデルの中に組み込んで評価する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、鋼構造物の構造全体を考慮したシェルモデルに変換することで、シェルモデルによる詳細なシミュレーションを可能とする鋼構造物のモデル変換装置および鋼構造物のモデル変換プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋼構造物のモデル変換装置は、鋼構造物を構成する部材と、前記部材を複数に分割したはり要素と、前記はり要素の節点と、前記節点の位置における断面とが含まれ定義された構造全体のはりモデルと、前記はりモデルの中からシェル要素に置換する部材が指定された置換指定情報とに基づいて、前記断面を前記部材の軸線方向に線形的に補間して前記部材の板面を構築することにより、前記置換指定情報により指定された前記部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成するモデル構築手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の鋼構造物のモデル変換プログラムは、コンピュータを、鋼構造物を構成する部材と、前記部材を複数に分割したはり要素と、前記はり要素の節点と、前記節点の位置における断面とが含まれ定義された構造全体のはりモデルと、前記はりモデルの中からシェル要素に置換する部材が指定された置換指定情報とに基づいて、前記断面を前記部材の軸線方向に線形的に補間して前記部材の板面を構築することにより、前記置換指定情報により指定された前記部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成するモデル構築手段として機能させることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、モデル構築手段が、鋼構造物を構成する部材と、部材を複数に分割したはり要素と、はり要素の節点と、節点の位置における断面とが含まれた構造全体のはりモデルと、はりモデルの中からシェル要素に置換する部材が指定された置換指定情報に基づいて、断面を部材の軸線方向に線形的に補間して部材の板面を構築することにより、指定された任意の部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成する。そのため、鋼構造物における構造全体はりモデルから、置換指定情報により指定された任意の部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルへ自動的に変換することができる。そのため、手作業で構築することなく新たなシェルモデルを得ることができる。また、シェルモデルを、指定された任意の部材をシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルとしているため、指定された部材を構造全体系のモデルの中に組み込んで評価することができるので、構造全体に対して部材の損傷挙動が及ぼす影響を考慮することができる。
【0012】
前記部材における端部の断面を剛体により拘束して、前記部材の境界節点とする境界節点処理手段を備えたものとすることができる。
境界節点処理手段が、部材における端部の断面を剛体により拘束して、部材の境界節点とする。そのため、剛体平面上の任意の1点における運動は、剛体平面上の他の位置の運動を従属させることができるので、部材の両端での自由度を大幅に低減することができる。また、部材端部の自由度を境界節点に集約することで、はりモデルの設計法に合わせることができる。
【0013】
前記はりモデルに追加され、初期応力として付与される残留応力が定義された追加定義情報に基づいて、板要素の結合位置に残留応力を付与する追加情報処理手段を備えたものとすることができる。
シェルモデルを生成するときに、追加情報処理手段が板要素の結合位置に残留応力を付与するため、シェルモデルを用いてシミュレーションを行うときに、残留応力を考慮してシミュレーションすることができる。
【0014】
前記はり要素が板要素であるときに、前記板要素の節点と、他の板要素の板厚との関係に基づいて、前記板要素と前記他の板要素との距離を算出して、板要素間の接触判定を行う要素結合処理手段を備えたものとすることができる。
このように板要素の接触状態か離間状態かを判定することで、板要素同士における接合状態または離間状態をシェルモデルに反映させることができる。
【0015】
前記モデル構築手段は、前記シェルモデルを生成するときに、並列計算用の計算ノードとして、前記部材ごとに出力ファイルを生成することができる。
出力ファイルを、部材ごとに分割することで、解析結果の出力ファイルのサイズの増加を抑制し、ポストプロセッサ上での可視化処理や、着目する結果データの抽出処理時間を短くすることができる。更に、はりモデルによる設計法や照査法との親和性も向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、指定された任意の部材について、メッシュを構築したシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成することにより、鋼構造物の構造全体を考慮したシェルモデルに変換することができるので、シェルモデルによる詳細なシミュレーションを可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係るモデル変換装置と、はりモデルが格納された記憶装置と、追加情報が格納された記憶装置と、変換されたシェルモデルが格納された記憶装置とを示す図である。
【
図2】
図1に示すモデル変換装置を説明するためのブロック図である。
【
図3】2本の柱と、柱を繋ぐ梁とによる、はりモデルの一例を示す図である。
【
図4】(A)は、入力ファイルとなる、はりモデルおよび追加情報を説明するための図、(B)は、出力ファイルとなるシェルモデルとを説明するための図である。
【
図5】(A)および(B)は一般的な箱形断面、(C)および(D)は補剛箱形断面、(E)はI形断面、(F)はH形断面である。
【
図6】残留応力分布のモデルを説明するための図であり、(A)は箱形断面、(B)は補剛箱形断面、(C)はH形断面(TYPE-A)、(D)はH形断面(TYPE-B)である。
【
図7】
図1に示すモデル変換装置のモデル変換処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8】各プレート間の結合を説明するための図であり、(A)ははり要素の断面の一例を示す図、(B)は結合処理を説明するための拡大図である。
【
図9】多直線状の部材におけるメッシュの構築を説明するための図である。
【
図10】境界節点の処理を説明するための図であり、(A)は、各部材が剛体によって結合されている場合に、従来の処理を説明するための図、(B)は、部材における端部の断面を剛体で拘束することを説明するための図である。
【
図11】シェルモデルによる部材の端部の断面を剛体で拘束することを説明するための図である。
【
図12】並列計算のために部材単位で領域を分割することを説明するための図である。
【
図13】
図3に示すはりモデルの柱をシェルモデルに変換された一例の図である。
【
図14】橋梁における構造全体のはりモデルの一部の部材を指定してシェル要素に置換して構造全体のシェルモデルとしたことを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る鋼構造物のモデル変換装置を図面に基づいて説明する。
なお、本明細書では、鋼構造物を構成する部品単位を部材と称し、FEM解析のために部材を複数に分割したものを要素(はり要素、シェル要素)と称している。また、部材は、一定断面の1本の棒材であり、直線状であることの他に、多直線により形成されている場合も含む。
【0019】
図1に示す、本実施の形態に係る鋼構造物のモデル変換装置10は、記憶装置20に格納されたはりモデルと、記憶装置30に格納された追加情報とに基づいて、シェルモデルを生成して記憶装置40に格納するものである。
【0020】
なお、
図1においては、記憶装置20~40をモデル変換装置10と別体として示しているが、はりモデルと追加情報とシェルモデルとが、モデル変換装置10の記憶手段内に領域を分けて格納されるようにしてもよいし、記憶装置20~40とのいずれかまたは全部が、ネットワークを介してモデル変換装置10と接続されていてもよい。
本実施の形態では、モデル変換装置10が、記憶装置20~40とネットワークを介して接続されているものとする。
【0021】
モデル変換装置10は、モデル変換プログラムが動作するコンピュータである。モデル変換プログラムが、コンピュータで動作することで、モデル変換装置10の各手段として機能するものである。
【0022】
図2に示すように、モデル変換装置10は、通信手段11と、モデル構築手段12と、追加情報処理手段13と、要素結合処理手段14と、境界節点処理手段15と、表示手段16と、入力手段17と、記憶手段18とを備えている。
通信手段11は、ネットワークからデータを受信してモデル変換装置10の各手段にデータを出力したり、各手段からデータを入力してネットワークへ送信したりする機能を有する。
【0023】
モデル構築手段12は、シェル要素に置換される部材が指定された置換指定情報と、部材ごと、要素ごとに付加される追加定義を示す追加定義情報とが組み込まれた構造全体のはりモデルを読み込み、置換指定情報により指定された部材のはり要素の断面形状に基づいてシェル要素のメッシュを構築して、所定の書式による構造全体のシェルモデルを生成する。本実施の形態では、シェルモデルは、耐震解析研究所社製の耐震解析ソフトウェアSeanFEMにてシミュレーション可能な形式により表記されている。また、シェルモデルを可視化するためにXML(Extensible Markup Language)形式のファイルも生成する。
追加情報処理手段13は、はりモデルに追加情報を付加すると共に、追加情報の内容に基づいて追加定義情報を付加したシェルモデルを生成する。
要素結合処理手段14は、断面形状から2つのはり要素が接触状態か離間状態を判定して結合状態とする。
境界節点処理手段15は、部材の両端面を仮想の剛体で拘束して部材の境界節点とする処理を行う。
【0024】
表示手段16は、LCDパネル、有機ELパネル等とすることができる。
入力手段17は、キーボードやマウス、タッチパッドとすることができる。
記憶手段18は、OSやアプリケーションソフトなどのプログラム、および変換中のモデルの作業用データが記憶される。記憶手段18は、例えば、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブとすることができる。
【0025】
次に、シェルモデルと追加情報について、
図3および
図4に基づいて説明する。
例えば、
図3に示すはりモデルは、柱となる部材P1a,P2aと、部材P1a,P2aの頂部に跨る梁となる部材P3aとから構成されている。
部材P1aは、はり要素E1a~E4aにより構成され、部材P2aは、はり要素E9a~E12aにより構成され、部材P3aは、はり要素E5a~E8aにより構成される。各はり要素E1a~E12aが節点N1a~N13aを有している。そして、節点N1aと節点N13aが固定された状態である。
【0026】
このような、はりモデルは、
図4(A)に示すように、節点定義情報と、要素定義情報と、支持条件定義情報と、断面形状定義情報とが含まれており、定義される。
節点定義情報は、各はり要素E1a~E12aの節点N1a~N13aを識別するための節点番号(1~13)に、座標情報が対応付けられたデータである。
要素定義情報は、各はり要素E1a~E12aを識別するための要素番号(1~12)に、部材を特定するための部材番号と、断面を識別するための断面番号と、各要素の始点節点および終点節点を示す節点番号(1~13)とが対応付けられたデータである。
支持条件定義情報は、固定された節点(節点N1a,N13a)を定義するデータである。本実施の形態では、節点ごとに拘束する自由度が定義できる。
断面形状定義情報は、断面番号に、材料を示す情報と、断面形状を示す座標情報とが対応付けられている。
【0027】
また、
図4(A)に示す追加情報には、シェル要素に置換される部材のはり要素を要素番号により指定する置換指定情報と、追加定義情報とが含まれる。
追加定義情報には、ダイヤフラム定義情報と、メッシュサイズ定義情報と、初期不整定義情報と、接触判定定義情報とが含まれている。
ダイヤフラム定義情報は、ダイヤフラムの位置を設定するものであり、部材ごとに設定することができる。
メッシュサイズ定義情報は、板幅方向のメッシュサイズ(有次元)と、軸線方向のメッシュサイズ(有次元)とが設定できる。
初期不整定義情報は、残留応力が設定できる。
接触判定定義情報は、プレート(板要素)同士が接触しているか否かを判定するための閾値(プレート間の接触判定許容値)である。
【0028】
ここで、初期応力として付与される残留応力について、詳細に説明する。
追加情報処理手段13は、例えば、
図5(A)および同図(B)に示す一般的な箱形断面、
図5(C)および同図(D)に示す補剛箱形断面、
図5(E)に示すI形断面、
図5(F)に示すH形断面、またはこれら以外の任意の断面に対して、初期不整としての残留応力を与えることができる。
【0029】
残留応力は、各断面に応じた残留応力比の値(σrt/σy,σrc/σy,σrt1/σy,σrc1/σy)により設定する。残留応力は部材軸線方向の応力成分に関しては、つり合いを満足するような分布モデルを設定する。
【0030】
部材が箱形断面である場合に、箱形断面である
図6(A)と、補剛箱形断面である
図6(B)に示される箱形断面の残留応力分布のモデルに基づいて、詳細に説明する。
【0031】
箱形を形成するパネル部については、引張側残留応力σrt/σy(正値)、パネルの圧縮側残留応力σrc/σy (負値)を入力値として式(1)に与える。
bt/b=-σrcσrt/(σrt-σrc)2・・・(1)
なお,bはパネル幅(補剛板の場合はサブパネル幅)である。
【0032】
補剛材については、例えば、以下のような固定値とした残留応力分布とすることができる。
σrst/σy=0.25、σrsc/σy=-0.40・・・(2)
bst/bs=0.19、bsc/bs=0.61 ・・・(3)
なお、bsはリブの高さである。
【0033】
次に、部材がH形断面、I形断面である場合に、H形断面(TYPE-A)である
図6(C)と、H形断面(TYPE-B)である
図6(D)に示されるH形断面の残留応力分布のモデルに基づいて、詳細に説明する。
フランジの引張側残留応力については、TYPE-Aの場合はσ
rt1/σ
yを与え、TYPE-Bの場合はσ
rc1/σ
yを与える。
フランジの圧縮側残留応力については、σ
rc1/σ
yを与える。
ウェブの引張側残留応力については、σ
rt/σ
yを与える。
ウェブの圧縮側残留応力については、σ
rc/σ
yを与える。
【0034】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係るモデル変換装置の動作および使用状態を図面に基づいて説明する。
ユーザは、
図2に示す、表示手段16を見ながら、入力手段17を操作して、コンピュータにてモデル変換プログラムを動作させ、コンピュータをモデル変換装置10として機能させる。
モデル変換装置10では、モデル構築手段12が、記憶装置20に格納されたはりモデル(節点定義情報、要素定義情報、支持条件定義情報、断面形状定義情報など)を読み込む(
図7のステップS10参照)。また、モデル構築手段12が、記憶装置30(
図1参照)に格納された追加情報を読み込む(ステップS20参照)。なお、予め、はりモデルおよび追加情報が、モデル変換装置10内の記憶手段18に格納されている場合には、モデル構築手段12は記憶手段18からはりモデルおよび追加情報を読み込む。
【0035】
追加情報処理手段13が、追加情報を読み込み、はりモデルに付加する(ステップS30参照)。本実施の形態におけるはりモデルは、上述のSeanFEMにてシミュレーション可能な書式で記述されている。従って、追加情報処理手段13は、はりモデルとなる入力ファイルのヘッダに、シェル要素に置換される部材のはり要素の要素番号のリスト(置換指定情報)、ダイヤフラムの位置(ダイヤフラム定義情報)、シェル要素のメッシュサイズ(メッシュサイズ定義情報)、初期不整に関する情報(初期不整定義情報)等を記述する。
【0036】
まず、モデル変換の前処理として、要素結合処理手段14は、はり要素の断面の定義に基づいて、はり要素が板要素であるときに、板要素の節点と、他の板要素の板厚との関係に基づいて、板要素と他の板要素との距離を算出して、板要素間の接触判定を行い、各プレート間の結合を処理する。以下にプレート間結合の処理内容を説明する。
例えば、
図8(A)に示す断面のはり要素である場合に、断面形状定義情報には断面を構成するプレートの始点および終点の局所座標値、および板厚が与えられている。
【0037】
図8(B)に示す板要素の端点(節点、●印にして示す。)に対して、他の板要素の板厚中心線との距離を算定し、その距離が板要素の板厚の1/2の値と一致しているか否かにより各板要素間の接触判定を行う。このとき、不一致であっても、接触判定定義情報の許容値以内であれば接触状態でると判定される。接触しているとの判定であれば、中間格点(×印)を示す新たな座標値を算定し、この中間格点とプレートの端点を剛体で結合するよう処理する。また,シェル要素に置き換えた領域の両端(部材両端)はもとのはり要素を構成していた節点をマスター節点とし剛体で結合するよう処理する(ステップS40参照)。
このようにして、プレート(板要素)同士における接合状態または離間状態をシェルモデルに反映させることができる。
【0038】
ここで、プレート(板要素)間の結合の判定を詳細に説明する。判定は以下の2種類であり、判定に応じて残留応力が追加情報処理手段13により付与される(ステップS50参照)。
まず、1点目は、プレートの表面に他のプレートの端点が一致する場合である。この場合は両プレートが溶接により接合されていると判定し、残留応力を考慮する場合には両パネルの結合部に引張応力が与えられる。
2点目は、プレートの端点と他のプレートの端点が一致する場合である。
この場合は板を折り曲げた状態であると判定し、残留応力を考慮する場合においてもこの接合部には残留応力は導入されない。なお,プレート端部間の接合は剛体により拘束する。この際、例えば、SeanFEMにおいては、剛体では長さが必要(剛体両端を同一座標とはできない)であるため、両プレートの端部をわずかに縮める(各板厚の1/1000)処理を行う。
【0039】
次に、モデル構築手段12が、例えば、メッシュの構築を処理する(ステップS60参照)。以下にメッシュ構築の処理内容を説明する。
メッシュの構築は、例えば、
図9に示す部材が多直線状である場合には、まず、はりモデルにおけるはり要素の節点についての情報(節点定義情報,要素定義情報)に基づいて、部材内部に節点を設け、これらの節点位置における断面の法線ベクトルを算定する。これらの断面の法線ベクトルは隣接する区間での法線ベクトルの平均値とする。そして、部材始点から終点に向かって、ダイヤフラムや中間点に位置する断面上のシェル要素節点を部材軸方向に線形的に補間してシェル要素の節点および部材の板面となるメッシュを構築する。
【0040】
このとき、追加情報処理手段13が、
図8(B)の部材について、部材軸線を法線とする任意の断面位置に複数のダイヤフラムを模した拘束(剛体要素による)を与えることができ、そうすることで、はり理論の基本仮定を導入することができる。また、この任意の断面位置は、追加情報によりダイヤフラム間隔として指定することができる。
【0041】
ここで、
図2に示す境界節点処理手段15による境界節点の処理(ステップS70参照)について詳細に説明する。
はりモデルの部材端部の処理として、例えば、
図10(A)に示すように、各部材A,Bが剛体Rによって結合されている場合に、部材A,Bの端部の断面(端面)を剛体R(部材C)で拘束し、部材A,Bの端面におけるマスター節点を境界節点とし、剛体Rの端面におけるスレーブ節点を境界節点とする処理を行うと、部材Cにおける当該節点(マスター節点,スレーブ節点)の自由度が消去されるので、シミュレーションにて計算できなくなる。
【0042】
そこで,境界節点処理手段15では,
図10(B)に示すように、部材A,Bにおける端部の節点での剛体との結合を自動的に判定し、部材A,Bにおける端部の断面を剛体R1,R2(仮想剛体)で拘束し、部材A,Bにおける端部の節点が属する剛体のマスター節点が境界節点となるよう自動修正している。
【0043】
このように、部材A,Bの端部断面を剛体により拘束すれば、剛体は変形しないため、剛体平面上の任意の1点における運動は、剛体平面上の他の位置の運動を従属させることができる。
従って、
図11に示すように部材A,Bの境界節点の自由度を、X軸方向u
x、Y軸方向u
y、Z軸方向u
z、X軸周り方向θ
x、Y軸周り方向θ
y、Z軸周り方向θ
zの6自由度、両端の合計で12自由度と、大幅に低減することができる。
また、はりの理論は、断面を不変とした理論であるため、部材A,Bの端部断面を剛体により拘束する処理を行ったシェルモデルは、はりモデルと親和性が高く、はりモデルによる設計法や照査法を活用することができる。
【0044】
このようにして、はりモデルからシェルモデルへ変換される。
シェル要素にてモデル化されたシェルモデルでは、部材が多く解析モデルの自由度が大規模に及ぶ場合には、数値解析によるシミュレーションを行う際に、並列計算が行われる。この並列計算に対応するために、モデル構築手段12では、例えば、
図12に示すシェル要素でモデル化した解析モデルMの部材P1b~P8bを、それぞれ1つの計算ノードN1b~N8bに割り当て、
図4(B)に示すように出力ファイルを、計算ノード(部材)ごとに生成する(ステップS80参照)。
【0045】
並列計算を行うための領域分割法では、計算効率を優先させて分割しており、部材が途中で分断されてしまうことがある。しかし、本実施の形態では、モデル構築手段が、部材ごとに分割して出力ファイルを生成することで、解析結果の出力ファイルのサイズの増加を抑制し、ポストプロセッサ上での可視化処理や、着目する結果データの抽出処理時間を短くすることができ、更に、はりモデルによる設計法や照査法との親和性を向上させることができる。
【0046】
例えば、
図3に示すはりモデルが鋼構造物を構成する構造全体であるときに、このはりモデルの部材である柱を示す部材P1a,P2aを指定してシェル要素で置換した構造全体のシェルモデルを生成したとする。
このシェルモデルに変換した例を
図13に示す。
図13では、柱である部材P1a,P2aが板面を有するシェルモデルに変換されている。
また、
図14に、橋梁における構造全体のはりモデルのうち、損傷が生じるおそれがある部分を指定してシェル要素に置換した構造全体(橋梁全体)のシェルモデルとした例を示す。
シェルモデルは、構造全体がシェル要素に置換されるだけでなく、
図13および
図14に示すように、任意の部材を指定することで、はり要素とシェル要素とが組み合わされた構造全体のシェルモデルとすることができる。
従って、指定された部材を構造全体系のモデルの中に組み込んで評価することができるので、構造全体に対して部材の損傷挙動が及ぼす影響を考慮することができる。よって、シェルモデルによる詳細な、かつ高い精度なシミュレーションを可能とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、鋼構造物を単純な線分により表したはりモデルから、面により表したシェルモデルに変換することができるため、地震動による鋼構造物への影響を高い精度でシミュレーションする際に好適であり、特に、大規模な鋼構造物である橋梁のシミュレーションに最適である。
【符号の説明】
【0048】
10 モデル変換装置
11 通信手段
12 モデル構築手段
13 追加情報処理手段
14 要素結合処理手段
15 境界節点処理手段
16 表示手段
17 入力手段
18 記憶手段
20,30,40 記憶装置
P1a~P3a,P1b~P8b,A~C 部材
E1a~E12a はり要素
N1a~N13a 節点
R,R1,R2 剛体
N1b~N8b 計算ノード
M 解析モデル