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特許7016093安全・安定なプラズマローゲンとその製剤及び認知症の未病状態の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】安全・安定なプラズマローゲンとその製剤及び認知症の未病状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 11/00 20060101AFI20220128BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20220128BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220128BHJP
   C07F 9/10 20060101ALI20220128BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220128BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20220128BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C11B11/00
A61K35/57
A61K31/683
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/26
A61P43/00 105
A61P25/28
A61P25/24
A61P25/16
A61P25/18
C07F9/10 A CSP
A23L33/12
A61B6/00
G01N33/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017091865
(22)【出願日】2017-05-02
(65)【公開番号】P2018104663
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2016092597
(32)【優先日】2016-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016254188
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599046254
【氏名又は名称】有限会社梅田事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】516131935
【氏名又は名称】株式会社ピーソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100070057
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100158713
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 眞紀子
(72)【発明者】
【氏名】名達 義剛
(72)【発明者】
【氏名】永田 仁
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-065167(JP,A)
【文献】国際公開第2009/154309(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/083827(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/039472(WO,A1)
【文献】特表2003-533199(JP,A)
【文献】特開平07-238293(JP,A)
【文献】特開2003-012520(JP,A)
【文献】特開2007-262024(JP,A)
【文献】特開2013-053109(JP,A)
【文献】特開2004-026803(JP,A)
【文献】国際公開第2008/093709(WO,A1)
【文献】特開平06-279781(JP,A)
【文献】特表2016-517595(JP,A)
【文献】FARRELL, D.J.,PROC OF AUSTRALIAN POULTRY SCIENCE SYMPOSISIUM,1995, V.7,P.16-22
【文献】VAN ELSWYCK, M. E.,WORLD'S POULTRY SCIENCE JOURNAL,1997, V.53, N.3,P.253-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23L 5/40-33/29
A23J 7/00
A61K 9/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-99/00
C07F 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産卵廃鶏の皮剥胸肉から抽出分別され、該抽出分別の工程で副生する蛋白質画分及び水溶性低分子画分が精製除去されている総脂質の精製物から成る、産卵廃鶏の皮剥胸肉に特異的なリン脂質の構成比を有するプラズマローゲン含有リン脂質から成る脳内アミロイドβ(以下、「A β と言う。」)の蓄積抑制用の複合脂質(以下、「脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質」と言う。)であって、
(A)前記脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質が、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含むω―3高度不飽和脂肪酸(以下、「ω―3HUFA」と言う。)誘導体(以下、「ω―3HUFA誘導体」と総称する。)を含有する飼料で飼養された産卵廃鶏の皮剥胸肉に当該ω―3HUFA誘導体が移行した産卵廃鶏由来の皮剥胸肉から抽出分別される、前記産卵廃鶏の皮剥胸肉に特異的なリン脂質の構成比を有し、プラズマローゲンのSN-2位にEPAの混入を最少化(検出不能レベルで実質的にはゼロ)してDHAの結合割合を増加させて成り、且つ、前記リン脂質の構成比として含有質量比が[コリン型プラズマローゲン]>[エタノールアミン型プラズマローゲン]の特異的なリン脂質の構成を維持して成る脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質であり、
(B)前記ω―3HUFA誘導体が、下記の1)~8)
1)1-アルキルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
2)1-アルケニルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
3)1-アシルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
4)オキアミの脱殻剥き身及び/又は乾燥物に含有されている、前記1)~)何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
5)ホールホタテ及び/又はその加工残、若しくはそのミール(乾燥物)に含有されている、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
6)ホール海鞘(ホヤ)及び/又はその加工残、若しくはそのミール(乾燥物)に含有されている、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
7)有機合成された、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
8)発酵法で調製された、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
から選択される何れか1種であることを特徴とする前記脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質。
【請求項2】
請求項1に記載のω-3HUFA誘導体を含有する飼料で飼養された産卵廃鶏の皮剥胸肉に含有されているプラズマローゲンのSN-2位にEPAの混入を最少化(検出不能レベルで実質的にはゼロ)して、SN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比を増加させて成ることを特徴とする、産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉。
【請求項3】
請求項1記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、請求項1記載の抽出分別の工程で副生する水溶性低分子画分含有して成ることを特徴とする、脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物。
【請求項4】
請求項1記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質を、フォスフォリパーゼA1(以下、「PLA1」という。)で酵素処理して、ジアシル型グリセロリン脂質を遊離脂肪酸とリゾリン脂質に分解後除去し且つスフィンゴミエリンを抽出分別除去して成ることを特徴とする、脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン
【請求項5】
サポニン類の存在下で、水性相に、請求項1に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、又は請求項3に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、又は請求項4に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する、高純度プラズマローゲンが、ナノ乳化又は可溶化され、DHA結合型プラズマローゲン成分が安定化されていることを特徴とする、水性製剤。
【請求項6】
請求項1に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、
請求項2に記載の産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉、
請求項3に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、
請求項4に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン、並びに
請求項5に記載の水性製剤
の中から選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、該有効成分中のDHA結合型プラズマローゲン含有リン脂質が、日用量0.25mg又は0.5mgで、生理的には無害な量のA β の脳内蓄積が認められる状態(以下、「認知症未病状態」という。)にある認知症発症前の成人に経口投与されるように用いられることを特徴とするA β 脳内蓄積抑制剤。
【請求項7】
請求項1に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、
請求項2に記載の産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉、
請求項3に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、
請求項4に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン、並びに
請求項5に記載の水性製剤
の中から選択される少なくとも1種を有効成分として含有するサプリメント又は食品としての加工品であって認知症未病状態にある認知症発症前の成人を被険者とする該被験者の認知症未病状態の判定方法に用いられるものであり、該判定方法が、
(1)PET(陽電子放射断層撮影)を用いてA β 脳内蓄積状態を検査して、被験者の認知症未病状態を判定するために、PET画像のSUVR値(スコア)に基づいてAβの脳内蓄積状態のランク別の区分けを下記により実施する工程、
1) 蓄積初期1期: 1.0±0.2
2) 蓄積中間期2期:1.2±0.2
3) 蓄積後期3期: 1.4±0.2
(2)前記ランク別に、前記サプリメント又は食品としての加工品の被験者に対するドースレスポンスを3~10か月の長期に亘り適宜な頻度で試験して、前記サプリメント又は食品としての加工品の有効成分中のDHA結合型プラズマローゲンの適切な日用量の範囲又は見当範囲を下記により設定する工程;
1)1期の被験者;「漸増」範囲:1.0±0.15
2)2期の被験者;「零増」範囲:1.2±0.15
3)3期の被験者;「漸減」範囲:1.4±0.15
(3)前記認証発症前の成人の被験者に、当該設定日用量のDHA結合型プラズマローゲンを有効成分として含有する前記サプリメント又は食品としての加工品を認知症発症前の段階から長期に亘り継続的に投与する工程、
(4)該長期投与の間に適宜な頻度でA β 前記所定の脳内蓄積状態の定期的検定をPET診断で実施する工程、
(5)定期的PET診断に併行して、該長期投与期間中に適宜な頻度で、海馬の減容状態の検定をMRI診断で検定する工程、
(6)前記(1)~(4)の工程又は前記(1)~(5)の工程を実施することにより
前記被験者の認知症未病状態を判定する判定方法である、ことを特徴とする、前記サプリメント又は食品としての加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全な生物系素材に由来する、安全・安定なプラズマローゲンとその製剤及び認知症発症前の成人(健常者)を被験者とする認知症の未病状態の判定方法関するものである。更に詳しくは、本発明は、必須の要件としてプラズマローゲン(以下、「PLs」と言うことがある。)のSN-2位に、EPA(エイコサペンタエン酸;ω-3高度不飽和脂肪酸の一種)の混入を最少化(検出不能レベルで実質的にはゼロ)してDHA(ドコサヘキサエン酸;代表的なω-3高度不飽和脂肪酸)の結合割合を増加させて成る安全・安定なPLsの製造と、当該PLsを安全な界面活性物質を用いて簡便にナノ乳化(又は可溶化)して成る安全・安定な水性製剤(乳液・ゼリー・粒体・粉体)の製造及びこれらのサプリメント又は食品としての用途、並びにこれらのPLs等をサプリメント又は食品として経口摂取することによる認知症の未病状態を判定する方法と、それらによる認知症の長期に亘る抑制・緩和・予防等に資する新技術・新製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子を持つ可能性が高い家族を、アルツハイマー病(以下、「ADと言う。」)を発症する前の状態から長期に追跡することによって、1)ADへと向かう変化が検出出来るか否か、2)症状が現れるどれくらい前から、脳に変化が現れるのか、を見つけるために、米国ワシントン大学を中心としたDIAN研究(ジョン・モリス教授統括)が実施された。
*Dominantly Inherited Alzheimer Network(遺伝子アルツハイマー病ネットワーク)
【0003】
モリス教授によれば、研究の主たるターゲットは、脳の画像解析と脳脊髄液の成分動態の解明の二つである。具体的には、PET(陽電子放射断層撮影)を用いてADの原因の一つとされるアミロイドβ(以下、「Aβ」と言う。)の脳内蓄積の検査と、脳脊髄液中のτ蛋白(以下、「τ」と言う。)とAβの変動の検定である。研究対象者の年齢と、その親がADを発症した年齢に基づいて、対象者の発症までの年数を予測して研究を開始した。Aβをはじめとする発症に関与する種々の物質、例えばτが、その予測年数までのあいだにどう変化してゆくかを捉え、得られたデータをキャリアとノンキャリアで比較した。
【0004】
その結果、発症より25年頃前から、キャリアの脳ではAβが溜まりはじめていることが明確に確認された。しかし、発症後はカーブを描いて減少に転じていた。τの場合、発症の15年前あたりから、キャリアのτが脳脊髄液内で増え始めていることが明らかになった。このことは、脳内の神経細胞が死にはじめていることを示している。更に、記憶を司る海馬が、ADを発症する15年前ほど前から徐々に、小さくなりはじめていた。発症の10年前になると、記憶力などの衰えが徐々に見られる様になった。しかし、物忘れがひどくなったり、親しい人の名前を忘れたり、人との約束を忘れたりと、日常生活に支障が出始めるのは、ADの発症後であった。
【0005】
この画期的DIAN研究の成果は、従来の認知症に関する医科学的な対処戦略の抜本的変更を迫る、正に“パラダイムシフト”が強く求められるものである。即ち、従来の診断で認知症発症とされた場合、殆ど末期症を来たしており、その根治は絶望的であることを示している。このことは、逆に、認知症の制圧には早期予防が必須の要件になって来ていると共に、改めてAβとτの脳内蓄積がアルツハイマー病を含む認知症の病状進行に関する直接的な指標になり得ること、そして、それらの検定には低侵襲的で且つ可視化が可能なPETの活用が欠かせないこと、を実証するものである。
【0006】
近年、神経変性疾患及び精神疾患の治療及び/又は発症抑制並びに予防のための有効成分として、PLsが注目を集めて来ている(例えば、[特許文献1])。PLsは、生体内常在型の特殊なリン脂質であって、SN-1位にビニルエーテル結合を持ち、それ故に、還元性を示す特異性を有している。このPLsは、特異的でありながら、ヒト生体内全リン脂質の18質量%、就中、脳内全リン脂質の20質量%を占めている。その高い含有量からは、寧ろ汎用性リン脂質の1種と言っても過言ではない。
【0007】
このPLsは、機能的には、生体内で重要な還元作用を発揮する点で特殊でありながら、その存在位置が生体内では重要な膜に局在化して、各種の膜の酸化損耗を直接的に防御している。更に、PLsは、特に脳内において多面的な機能を発現していることが明らかにされるに至って、一層注目を集めている。しかるに、PLsは、その分子構造から明らかな様に、還元性の裏返しで酸化され易く(ラジカル捕捉感受性が高い)且つ酸性下で水和による加水分解性が高い(リン脂質のリゾ体と脂肪族アルデヒドに分解)。これが、PLsの実用的な有機合成を阻んでいる原因の一つと考えられる。
【0008】
今迄の処、PLsは、専ら生体組織からの抽出精製に頼っている(例えば、[特許文献2]、[特許文献3]、[特許文献4]等)。生体内においては、その重要性に依って、合目的な各種の仕組みによって安定化が図られていると共に、生合成系、即ち、小胞体のペルオキシソームからの産生によって常時補給されている。
【0009】
上記パラダイムシフト以降、PLsに求められる課題は次の二つである。
(1)生体内においては、PLsの恒常性維持のための各種の保護修飾作用が働き自動的に安定化されているが、生体外においてはこれらの保護作用が欠落しているために、意図的な人工的な処方乃至は製剤化が必須である。これを具現化するPLsの安全で安価な安定化技術の開発。
(2)加齢と共に減少する生体内、就中、脳内のPLs量を普段に補い且つこれを維持させる技術の開発。
【0010】
[安全で安価な安定化技術]
生体内常在性構造が細胞膜の最重要な構成成分として、その強力な抗酸化作用を生かした各種の細胞膜攻撃から防御して生命の恒常性維持に重要な役割を発揮していることに鑑みて、細胞膜の疑似化としての脂質二重膜(リポソーム)の普段の形成、換言すれば、その自己乳化性を活かした乳化分散、就中、ミクロ乳化乃至は可溶化型の処方製剤化が好適と判断される。更に、その分子構造において、強い抗酸化活性の発現根拠のビニルエーテル結合に隣接するSN-2位に如何なる分子種を導入するかが肝要で、その詳細は後述する、物理的保護作用としての“バルク効果”を発揮できる分子種、例えばDHAを例示することが出来る。DHAの他の化学的効果がその抗酸化性で、該物理的・化学的作用が相俟ってDHA結合型PLsは多重的自己安定型に改質される。
【0011】
[脳内のPLs量を普段に補い且つこれを維持させる技術]
生体内PLsの恒常性維持の中核がその生合成系のペルオキシソームで、この合目的な活性化が肝要である。その多段階生合成系の中核を成す高級アルコールの合成が、後述する様に、その生合成律速酵素としてFar1(Fatty
acyl-CoA reductase1)が同定されている。後述する様に、DHAリン脂質、就中、DHA型PLsが該律速酵素発現を亢進し、依ってペルオキシソームにおけるPls産生を促進すると報告されている。
【0012】
PLsの抽出用原料は、家禽、特に産卵(採卵とも言う)成鶏が主流である(例えば、[特許文献1],[特許文献2],[特許文献3],[特許文献4]等)。更に、近年では、抽出用原料として、魚介類由来のホヤの内臓([特許文献5]等)や養殖ホタテの内臓類(例えば、[特許文献6])が使用され始めている。養殖二枚貝にあっては、環境中から蓄積されるその貝毒、特にカドミウムに対する懸念(安全性に対する危惧)が払拭し切れない。他方で、海産性PLsは、SN-2位にDNAとEPAを併せて結合しているのが特徴である。EPA結合型PLsは脳血液関門でブロックされるため脳内には取り込まれず、DHA結合型のみがその脳内機能性が注目されている。後述の本発明に係る[DHA飼料で鶏を飼養する方式]にあっては、選択性高くDHA結合型PLsのみが産生されるために効率が良く安全である。
【0013】
生体内におけるDHAの存在形態(結合分子)は、グリセロリン脂質で、特にエタノールアミン型が多い。DHAは殆どSN-2位(グリセロリン脂質で唯一の光学活性炭素)に結合している。生体由来の脂肪酸の中で、DHAは構造的な特異性が最も高い。DHAは、鎖長が長く、そのため、二重結合の数が6個と極めて多く、且つ複数のビスアリル型構造((-CH=CHCH-)CH-)が存在する。当該メチレン炭素は、酸化感受性が高く、DHAが酸化を受け易い主要原因になっている。ところが、これをO/W乳化(水中油型乳化)すると、下記の如く、酸化安定性の順列が真逆に一変する(カッコ内の数字は、二重結合の数を示す。)(例えば、[非特許文献1])。
【0014】
* 通常の安定性順列;
リノール酸(2)>リノレン酸(3)>アラキドン酸(4)>EPA(エイコサペンタエン酸)(5)>DHA(6)
* O/W乳化型(水中油型)の安定性順列;
DHA(6)>EPA(5)>アラキドン酸(4)>リノレン酸(3)>リノール酸(2)
【0015】
生体内は水系が基本で、DHAは、グリセロリン脂質(両親媒性で界面活性能を内在している)に結合し、自己乳化状態で安定化していることが強く示唆される。更に、生体内、特に、脳内において、DHAは、選択性が高く、PLsのSN-2位に結合していると報告されており(例えば、[許文献2])、PLsのSN-1位のビニルエーテル結合が、SN-2位にDHAが結合することによって、以下の1)~2)により、二重に安定化されていると考えられる。即ち、
1)DHAのバルク立体構造が、立体障害効果を発現して、酸化活性種のSN-1位ビニルエーテル結合への接近を阻む。
2)DHA結合型PLsの自己乳化機能によって、分子が乳化状態に保持される結果、ミセルの微細カプセル内保持状態で存在するため、一層、酸化及び水和から保護される。
【0016】
魚介類中のDHA等の多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、食物連鎖の成せる業で、海中のα-リノレン酸を多く含む植物性プランクトンを食した動物プランクトンが、これをEPAとDHAに転化させ、小魚がこれを摂餌して食物連鎖が開始される(例えば、非特許文献3)。
【0017】
安全・安定なPLsを得る方法は、生体代謝を経るのが最も合理的と判断される。例えば、生体としては、既に、DHA鶏卵の実用化実績を有する産卵成鶏、就中、産卵鶏の廃鶏(産卵効率の低下で間引かれる産卵鶏)が例示されるが、より好適には強制換羽(短期断食で脱落羽毛を再生させて産卵効率を向上させる養鶏法)による産卵廃鶏が例示される。なお、産卵鶏は、文字通り、産卵が目的の家禽で、同じ鶏でも採肉目的のブロイラーとは別異な家禽である。その鶏卵の流通の都合から、産卵鶏は、ブロイラー(飼養規模が1千万羽~数千万羽)に比べ概ね1/10見当の規模であると共に、消費地の近傍周辺部で飼養される。
【0018】
通常、この産卵鶏の一羽当たりの年間産卵量は300個以上である。日齢が700日程度で廃鶏として間引かれて、養鶏場の近傍に位置する半官半民の専用の廃鶏処理センター(全国に40箇所程度存在し、数百万羽~1千数百万羽の処理能力)で、屠殺解体採肉処理される。処理製品は食用に供されるが、一部を除くと、大部分はミンチ等の形態で加工用廉価鶏肉原料として流通される。産卵鶏は、バルク輸入冷凍鶏肉との価格競争にあって、廉価販売を余儀なくされて来た。処が、近年の消費者の安全性志向に後押しされ、国産鶏肉として付加価値が付き、価格は上昇傾向にある。しかし、産卵鶏は、経済的には採肉専用種の数千万羽による垂直統合化養鶏に太刀打ちできず、且つ品質上も僅か50日齢という幼鳥(若鶏)の食感食味には対抗できず、産卵養鶏業の事業採算は低迷状態が続いている。
【0019】
上記の状況において、特筆すべきは、産卵廃鶏の年間発生平均羽数が9千万羽に上っていることと、その養鶏場渡し価格が、概ね、例えば、0円評価で、格安であることである。更に、その発生の集積度が高く、且つ廃鶏処理センターまで活鶏として搬入されるためにブロイラー並みの高鮮度処理製品が得られることが挙げられる。
【0020】
一般論として、鶏は、人工育種産物ではあるが、遺伝子レベルでは鳥類に属する。更に、独特な呼吸器系である“気嚢式呼吸器官”([非特許文献4])を備え、6千5百万年前の巨大隕石の激突で殆ど絶滅した“気嚢式呼吸器官”を有する恐竜の末裔としての形質を受け継いでいる([非特許文献5])。その特異性は、気嚢式の特長である吸気と排気が別々に行われる結果、哺乳類対比で酸素の取り込みが遥かに多く、代謝速度が顕著に向上することである。これが如実に現れるのが、可食部1kgを獲得するに要する飼料量で、典型的な家畜の豚で9.1kg、肉牛が25.0kgに対して、僅かに4.5kgで足りる。これを凌ぐのは、嗜好性と汎用性に欠けるが、養殖コオロギの2.1kgだけであるとされている(FAO 2013公表)。
【0021】
鶏の組織や部位及び臓器には、哺乳類の家畜とは別異のユニークなものが多い。砂肝、金冠(未成熟卵黄)、皮膚、羽毛、腸、肝臓、ガラ(生骨)、鶏冠等(概ね、産廃扱い)や胸肉(“心筋”様で、食用ミンチとして流通)、腿抜き骨付き胸肉(俗称「兜」)、卵黄、骨髄(生ガラに含有)等が例示される。産卵鶏にDHA入り飼料を数週間投与すれば、上記の組織や部位及び臓器等にDHAを移行させることができる。供試飼料に加えるDHA給源と形態としては、魚油とこれを微細乳化(可溶化が好ましい)して飼料に添加することが例示される。
【0022】
当該DHA移行型PLs等を含有する組織等は、その特異性を減耗させることなく、目的物を得ることに留意した、独特な加工工程で処理されることが重要である。その処理生成物として、例えば、上記に列挙した原料特異的構成比を保持した、DHA結合型PLs含有複合脂質、これに水溶性低分子量画分(下記*を参照。)を加えた複合脂質組成物、更に、これらに特異的蛋白質画分(下記**を参照。)を戻した蛋白・脂質の複合化組成物、これらを微細乳化(可溶化)した各種の水性製剤が例示される。
【0023】
*---遊離アミノ酸、アンセリンやカルノシン(認知機能低下抑制効果が示唆さている、例えば、[非特許文献19]等の還元性ジペプチド、コエンザイムQ10(電子の授受に関与)、カルニチン(脂質代謝亢進機能性を有し、認知症発症の危険因子活性が高い[高脂血・高血糖]の抑制改善に有効で、プラズマローゲンのアジュバンドになり得る)等。
**---例えば、[心筋]様の“胸肉”や骨髄のコラーゲン蛋白、皮膚のコラーゲン蛋白等。
【0024】
上記した各種組成物及び水性製剤については、世界的汎用型難病とされ、その根治を目指すサミット([非特許文献6])まで開催される世界的喫緊な難題とされているADを含む認知症の征圧に一石を投じる可能性について報じられている。最近になって、AD、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症(以下、「ALS」と言うことがある。)、多発性硬化症等の慢性神経変性疾患の大部分、あるいは脳卒中や頭部外傷などの急性脳損傷においても、中枢神経(脳、脊髄等)の慢性炎症を伴うことが明らかになってきている。
【0025】
そして、これらの疾病が、中枢炎症によって引き起こされ、進行するのではないかと言う可能性も考えられている([非特許文献7])。例えば、中枢神経系炎症がAD等の神経変性疾患を発症させることや、疾病を進行させる可能性があることが報告されている(例えば、[非特許文献7])。また、炎症を引き起こす物質であるLPS(リポポリサッカライド)の腹腔内投与により作出した記憶障害モデルラットを解析した結果、脳にAβペプチドの蓄積が見られたこと、抗炎症剤であるsulindac sulfideにより症状が回復したこと、が報告されている([非特許文献8])。更に、中枢神経系炎症が、うつ病や自閉症等の精神疾患や発達障害、更には、正常な老化過程においても、高率に認められることも明らかとなって来ている。
【0026】
以上のことから、中枢神経系炎症、及び関連する、神経細胞死([非特許文献9])、神経細胞新生阻害([特許文献7])及びAβ脳内蓄積を予防又は治療することにより、感染による炎症により神経細胞が損傷されて発生する神経障害を防止したり、あるは、AD、パーキンソン病等の神経変性疾患の治療、又は統合失調症、うつ病、自閉症等の精神疾患や発達障害の治療を行うことができると期待されている([非特許文献8])。このような現況のもと、中枢神経系炎症等を効果的且つ副作用なく治療できる方法が以前にも増して望まれている。
【0027】
このような状況下にあって、本発明者は、革新的な臨床試験方法によって、鶏胸肉由来の独自のプラズマローゲン組成物を用いて、認知症発症前の成人(健常者)の認知機能を改善出来ることを立証することに成功し、本発明を完成するに至った。臨床試験の結果は、INPROVEMENT IN COGNITIVE FUNCTION BY SUPPLEMENT CONTAINED PLASMALOGEN FOR HEALTHY JAPANESE-A RAMDOMIZED, DOUBLE-BLIDED, PLASEBO-CONTROLED STUDY-のタイトルで、査読付きの「診療と新薬」第53巻12月号に掲載されている(非特許文献25)。この革新的成果によって、今後は、中枢神経系炎症等の予防及び/又は緩和用の打開策を手に出来ることになり、結果的に、中枢神経系炎症等の効率的な抑制に資する処多大であると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】特許第5847086号公報
【文献】特許第5062873号公報
【文献】特許第5774816号公報
【文献】特許第5430566号公報
【文献】特開2007-262024号公報
【文献】特開2006-121957号公報
【文献】特許第6016363号公報
【文献】特許第5540209号公報
【文献】特許第5360454号公報
【文献】特許第5704493号公報
【文献】特許第5784486号公報
【文献】特開昭60-51104号公報
【文献】特開昭57-59629号公報
【文献】特開昭60-64919号公報
【文献】特許第6025568号公報
【文献】特許第4047354号公報[ドコサヘキサエン酸の生産性の高い新規ラビリンチュラ類微生物およびその利用](北海道大学等)
【文献】特願2007-148398号公報[微生物発酵によるDHA含有リン脂質の製造方法](北海道大学)
【非特許文献】
【0029】
【文献】オレオサイエンス、第6巻、第12号、3-9(2006)
【文献】「脳機能と栄養」幸書房(2004)
【文献】「水産食品栄養学―基礎からヒトへ―」技報堂出版(2004)
【文献】科学80、No.11、1091-1097(2010)
【文献】読売新聞2011年2月11日
【文献】「G8認知症サミット」2013年12月11日ロンドン; http://dementiachallenge.dh.gov.uk/2013/12/12g8denetia-summit-agreements/)
【文献】J.Neuroinflammation,9:197,2012
【文献】Ann.N.Y.Acad.Sci.,(2012)1262:85-92
【文献】PLoSONE.8:e83508.doi:10.1371(2013)
【文献】J.Mol.Neurosci.,16,263-272(2001))
【文献】BrainRes.,698(1995)223-226
【文献】J.NeuropatholExperi Neurol-Jul 1,1999
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【文献】DementGeriat Cogn Disord Extra 2,298-303(2012)
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【文献】プラズマローゲン研究会主催「プラズマローゲンの基礎と臨床」~アルツハイマー病に対する有効性~シンポジウム配布資料;2014/02/04九州大学医学部 百年講堂
【文献】NeuroscienceLetters,556(2013)104-108)
【文献】日本統合医療学会九州支部大会 ヨーガ部会設立記念発表会;於九州大学病院(2010/12/4)
【文献】JAlzheimer’s Disease,33,983-998(2013)
【文献】NHKスペシャル取材班著「アルツハイマー病を治せ!」~“認知症800万人”時代の処方箋~(2014)p35~51、p76~77、p79~83(主婦と生活社)
【文献】UMINR000028474プラズマローゲンの摂取による脳機能改善の評価
【文献】ウエックスラー記憶力検査;第1回国際プラズマローゲンシンポジウム;2016年11月7~8日九州大学、講演要旨集P26
【文献】第1回国際プラズマローゲンシンポジウム;2016年11月7~8日九州大学、講演要旨集P49
【文献】DementGeriatr Disord Extra,2.298-303(2012) アルツハイマー型認知症患者の赤血球プラズマローゲンは低下している
【文献】「診療と新薬」第53巻12月号39-62(2016)
【文献】Abe,Y.etal. Biochim.Biophys.Acta-Mol.Cell.Biol.Lipids 2014
【文献】Honsho,M.et.al.J.Biol.Chem.2010 ;Honsho,M.et.al. J.Biol.Chem.2013
【文献】Newton,37(No3)24-57(2017)
【文献】JST新技術説明会080627発表資料「高付加価値を有するDHA含有リン脂質の製造方法」奥山英登志
【文献】Morris,JC.et,al.Clinicaland biomarker changes in dominantly InheritedAlzheimer’s disease.N Engl J Med.2012 Aug30;367(9)795-804
【文献】Klunk,W.E.,et.al.,Imagingbrain amyloid in Alzheimer’s disease with Pittsbergh Compoud-B.Ann Neurol,55,306-319(2004)
【文献】Maruyama,M.,et.al.,Imagingof tau pathology in a tauopathyMouse model and inAlzheimer patients compared to normal controls.Neuron,79、1094-1108(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、安全・安定なPLsとその製剤、それらを含有するサプリメント並びに食品としての加工品、化粧品、医薬品又は飼料としての用途及び認知症発症前の成人(健常者)を被験者として、該被験者の認知症の未病状態を判定する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明者は、驚くべきことに、PLs分子中のSN-2位にDHAを導入することによって、更には、PLsを簡便にナノ乳化(可溶化)して形状変換することによって、PLsを安全に安定化できるのみならず、認知症(神経変性疾患及び精神疾患等)の緩和と予防、及び改善効果が発現することを認めると共に、その統合的な費用対効果を顕著に改善することを見出して、更に研究開発を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0032】
即ち、本発明は、以下の項に記載の技術的手段から構成される。
(1) 産卵廃鶏の皮剥胸肉から抽出分別され、該抽出分別の工程で副生する蛋白質画分及び水溶性低分子画分が精製除去されている総脂質の精製物から成り、産卵廃鶏の皮剥胸肉に特異的なリン脂質の構成比を有するプラズマローゲン含有リン脂質から成る脳内アミロイドβ(以下、「A β と言う。」)の蓄積抑制用の複合脂質(以下、「脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質」と言う。)であって、
(A)前記脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質が、ドコサヘキサエン酸(DHA)を含むω―3高度不飽和脂肪酸(以下、「ω―3HUFA」と言う。)誘導体(以下、「ω―3HUFA誘導体」と総称する。)を含有する飼料で飼養された産卵廃鶏の皮剥胸肉に当該ω―3HUFA誘導体が移行した産卵廃鶏由来の皮剥胸肉から抽出分別される、前記産卵廃鶏の皮剥胸肉に特異的なリン脂質の構成比を有し、プラズマローゲンのSN-2位にEPAの混入を最少化(検出不能レベルで実質的にはゼロ)してDHAの結合割合を増加させて成り、且つ、前記リン脂質の構成比として含有質量比が[コリン型プラズマローゲン]>[エタノールアミン型プラズマローゲン]の特異的なリン脂質の構成を維持して成る脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質であり、
(B)前記ω―3HUFA誘導体が、下記の1)~8)
1)1-アルキルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
2)1-アルケニルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
3)1-アシルグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
4)オキアミの脱殻剥き身及び/又は乾燥物に含有されている、前記1)~)何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
5)ホールホタテ及び/又はその加工残、若しくはそのミール(乾燥物)に含有されている、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
6)ホール海鞘(ホヤ)及び/又はその加工残、若しくはそのミール(乾燥物)に含有されている、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
7)有機合成された、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
8)発酵法で調製された、前記1)~)の何れかに記載のグリセロフォスファチジルリン脂質のSN-2にω―3HUFAが結合したω―3HUFA誘導体
から選択される何れか1種であることを特徴とする前記脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質。
(2) 前記1に記載のω-3HUFA誘導体を含有する飼料で飼養された産卵廃鶏の皮剥胸肉に含有されているプラズマローゲンのSN-2位にEPAの混入を最少化(検出不能レベルで実質的にはゼロ)して、SN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比を増加させて成ることを特徴とする、産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉。
(3) 前記1記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、請求項1記載の抽出分別の工程で副生する水溶性低分子画分含有して成ることを特徴とする、脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物。
(4) 前記1に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質を、フォスフォリパーゼA1(以下、「PLA1」という。)で酵素処理して、ジアシル型グリセロリン脂質を遊離脂肪酸とリゾリン脂質に分解後除去し且つスフィンゴミエリンを抽出分別除去して成ることを特徴とする、脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン
5) サポニン類の存在下で、水性相に、(1)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、又は(3)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、又は(4)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する、高純度プラズマローゲンが、ナノ乳化又は可溶化され、DHA結合型プラズマローゲン成分が安定化されていることを特徴とする、水性製剤。
6)(1)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、
(2)に記載の産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉、
(3)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、
(4)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プ
ラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン、並びに
5)に記載の水性製剤
の中から選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、該有効成分中のDHA結合型プラズマローゲン含有リン脂質が、日用量0.25mg又は0.5mgで、生理的には無害な量のA β の脳内蓄積が認められる状態(以下、「認知症未病状態」という。)にある認知症発症前の成人に経口投与されるように用いられることを特徴とするA β 脳内蓄積抑制剤。
7)1)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質、
(2)に記載の産卵廃鶏の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質含有皮剥胸肉、
(3)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性複合脂質組成物、
(4)に記載の脳内A β 蓄積抑制機能性を有する、純度30~70質量%の粗製プ
ラズマローゲン又はそれ以上の純度を有する高純度プラズマローゲン、並びに
5)に記載の水性製剤
の中から選択される少なくとも1種を有効成分として含有するサプリメント又は食品としての加工品であって認知症未病状態にある認知症発症前の成人を被険者とする該被験者の認知症未病状態の判定方法に用いられるものであり、該判定方法が、
(1)PET(陽電子放射断層撮影)を用いてA β 脳内蓄積状態を検査して、被験者の認知症未病状態を判定するために、PET画像のSUVR値(スコア)に基づいてAβの脳内蓄積状態のランク別の区分けを下記により実施する工程、
1) 蓄積初期1期: 1.0±0.2
2) 蓄積中間期2期:1.2±0.2
3) 蓄積後期3期: 1.4±0.2
(2)前記ランク別に、前記サプリメント又は食品としての加工品の被験者に対するドースレスポンスを3~10か月の長期に亘り適宜な頻度で試験して、前記サプリメント又は食品としての加工品の有効成分中のDHA結合型プラズマローゲンの適切な日用量の範囲又は見当範囲を下記により設定する工程;
1)1期の被験者;「漸増」範囲:1.0±0.15
2)2期の被験者;「零増」範囲:1.2±0.15
3)3期の被験者;「漸減」範囲:1.4±0.15
(3)前記認証発症前の成人の被験者に、当該設定日用量のDHA結合型プラズマローゲンを有効成分として含有する前記サプリメント又は食品としての加工品を認知症発症前の段階から長期に亘り継続的に投与する工程、
(4)該長期投与の間に適宜な頻度でA β 前記所定の脳内蓄積状態の定期的検定をPET診断で実施する工程、
(5)定期的PET診断に併行して、該長期投与期間中に適宜な頻度で、海馬の減容状態の検定をMRI診断で検定する工程、
(6)前記(1)~(4)の工程又は前記(1)~(5)の工程を実施することにより
前記被験者の認知症未病状態を判定する判定方法である、ことを特徴とする、前記サプリメント又は食品としての加工品。
更に、本発明は、上記各発明に係る発明特定事項として、以下の態様を含むことを特徴としている。
(1) 抽出分別方法として、前処理物の過剰な含水エタノールによる緩慢抽出になる 3相(「蛋白無機質等の不溶固形分」(沈殿)と「中性脂質分」(上層)と「含水エタノール分(水溶性低分子類、極性脂質類)」)に分離(分別)すること。
(2)上記含水エタノール分の脱アルコール後にヘキサンを加えて水溶性低分子類を分別・分離し、ヘキサンを蒸発乾固して極性脂質分(複合脂質)を得ること。
(3)酵素処理工程として、分離含水エタノール相を蒸発乾固して得られるリン脂質画分をP L A l 酵素処理してプラズマローゲンを精製すること。
(4)各プラズマローゲンに、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンが含有されること。
(5)各プラズマローゲンに含有されるエタノールアミンプラズマローゲンとコリンプラズマローゲンの質量比が[エタノールアミンプラズマローゲン]<[コリンプラズマローゲン]であること。
(6)DHA結合型プラズマローゲン含有リン脂質の経口による日用量が0.01mg~10mg、例えば、好適には0.25mg(内服薬以下)であること。
(7)Aβとτの脳内蓄積診断用に用いるPETが、頭部専用のヘルメット型PETであること。
(8)プラズマローゲンの投与時期が30代から、より好適には40代からであること。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、上記構成を採用することにより、以下のような格別の効果を奏するものである。
(1)本発明は、生理的に無害な量のAβ及びτの脳内蓄積が認められる状態(認知症未病状態)にある認知症発症前の成人(健常者)を被験者として、該被験者の認知症未病状態を判定する方法として有用である。
(2)本発明は、認知症等の緩和と予防用サプリメント又は食品としての加工品を提供するものとして有用である。
(3)本発明の安全で安定化されたPLsを有効成分として含有する、神経変性疾患(認知症、AD、パーキンソン病、うつ病、及び統合失調症)の緩和と予防用のサプリメント([非特許文献16])、抗中枢神経系炎症製剤([非特許文献8]及び[特許文献1])、神経細胞新生製剤([特許文献7])、神経細胞のアポトーシス抑制製剤([非特許文献9])及びAβとτの脳内蓄積抑制製剤([非特許文献8])とすることにより、認知機能障害・不全全般の症状を予防・緩和・改善し、治療するためのサプリメント又は製剤を提供することができる。
(4)中枢神経系の炎症を惹起させる原因の一つとして、中枢神経系に存在する活性化グリア細胞が炎症性サイトカインを放出することが考えられているが、本発明の抗中枢神経系炎症製剤は、中枢神経の炎症発生に伴い増加及び活性化されるグリア細胞に対して増加抑制作用を有しており、当該作用により中枢神経系炎症を緩和・予防・改善し、治療することが実現できる。
【0034】
(5)中枢神経の炎症が原因の一つと考えられている疾患、例えば、認知症(特にAD)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症等の慢性神経変性疾患、並びに統合失調症、うつ病、自閉症等の精神疾患の治療のためにも、本発明の抗中枢神経系炎症性製剤を好適に用いることができる。
(6)PLsは、生体組織に多く含まれる成分であり、また、従来からPLsを含む生体組織が食用に供されて来ていることで安全性が実証されており、生体組織から抽出されたPLsを含む本発明の、脳機能障害の緩和と予防用のサプリメント、抗中枢神経系炎症製剤、神経細胞新生製剤、神経細胞のアポトーシス抑制製剤及びAβとτの脳内蓄積抑制製剤は、副作用等の心配が殆どなく、安全性が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明について更に詳細に説明する。
ここで、本発明について説明すると、生体内常在型リン脂質であるPLsは、該PLsを含有する生体組織が従来から食用とされて来た。従って、本発明に係る生体組織から抽出されたPLsは、副作用等の心配が殆どなく、安全性が極めて高いと考えられる。但し、PLsは、一旦、生体組織から抽出分離されてしまうと、途端に安定性が失われて、ビニルエーテル結合が分解の危機に曝されることになる。つまり、このことは、[強還元性]ビニルエーテル結合は、強[易酸化性](=“易”酸化分解性)であることを意味し、これを有効に活用するには何らかの然るべき防御措置を施すことが必須となる。
【0036】
本発明者は、該“二律背反”性の合理的打破の方策を鋭意研究の結果、三つの方法が有効であることを見出した。一つは、PLsを合理的にナノ乳化することであり、二つ目は、PLsの分子内、即ち、SN-2にDHAを合理的に導入することである。この二つを統合化すること、つまり、DHA結合型PLsをナノ乳化することが、最強の合理的防御となる。此処でいう“合理的”とは、統合的な費用対効果比が顕著に高いと言うことで、“安全で実用的安定化”を実現することを意味している。
【0037】
更に、三つ目は、名実共に“一石数鳥”の手法で、鶏に、飼料として、[alkylphospholipid]の分子構造を有する“エーテルリン脂質”を摂取させることである。これは、[原効果]と言われる原らの研究成果(非特許文献23)の、オキアミ由来のalkylphospholipid濃縮物1質量%をラットに8日間経口投与してその血清中のalkylphospholipidとPLsを顕著に増加させると同時に、それらのSN-2結合脂質クラス中のDHAとEPA比率を増加させることに依っている。即ち、本発明者は、該[原効果]を次の様に活用して、本発明を一層合理化・高品質化することに成功した。
【0038】
適宜なalkylphospholipid含有素材、例えば、オキアミ脱殻肉、好適にはその乾燥物を飼料として成鶏、好適には産卵鶏に投与した処、その産卵の卵黄において、驚くべきことに1-alkenyl-2-docosahexenoyl-glycerophospholipid及び1-alkyl-2-docosahexenoyl-glyc-erophospholipidを選択性高く、即ち、EPA結合体を殆ど含まないで生成していることが認められた。
更に、該卵黄の濃縮卵黄油をラットに投与した結果、血清中の1-alkenyl-2-docosahexenoyl-2-docosahexenoyl-glycerophospholipidが顕著に増加していることが認められた。
【0039】
生体内PLs実量増加の[統合的な費用対効果比]向上における当該手法の有意性・優位性は、
(1)DHA-PLsとその前駆体の[DHA-エーテルリン脂質]の選択的且つ安全性の高い生合成法であること、
(2)合理性が高い有機合成体、例えば、エーテルリン脂質、アルキルグリセロリン脂質やそのDHA結合型[DHA-エーテルリン脂質]等の[安全性担保リスク]を略完全に払拭可能な、謂わば[生体由来型]への変換が、高い[費用体効果比]で実用化出来ること、
(3)[生体由来型への変換]においては、鶏は、前述の様に、スーパー人工飼育動物であって、その代謝回転の速度は他の追随を許さないこと、即ち、
[合理性は高いが安全性が低い[人工合成]]×[安全性は高いが生産性の低い[生合成]]で安全・安価な製品化が実現出来ること、にある。
【0040】
本発明は、安全・安定なPLsとその製剤、並びに認知機能障害の緩和及び予防用のサプリメント、抗中枢神経系炎症製剤、神経細胞新生製剤、神経細胞のアポトーシス抑制製剤及びAβとτの脳内蓄積抑制製剤、及びそれらの経口摂取を介する認知症の発症阻止に資する認知症未病状態の判定方法に関するものである。
【0041】
ここで、PLsについて更に説明すると、PLsとは、エーテルリン脂質の一種で、SN-1にビニルエーテル結合を介した長鎖アルケニル基を有するグリセロリン脂質を言う。加えて、PLsは、ヒトの生体内リン脂質の18質量%を占める汎用型でありながら、強い還元性を有する特殊なリン脂質の総称のことである。この特殊性が、PLsに顕著な酸化分解性と加水分解性を付与する原因になっている。このために、PLsの実用化に際しては、典型的な“二律背反”性の事象に直面させられ、その合理的打破が求められる。本発明者は、当該“二律背反”性の事象を、合理的に、即ち、PLsの本来的な機能性を最大限活かしつつ、その安定化を安価で安全な手段で達成することに成功し、本発明を確立した。
【0042】
本発明に用いるPLsは、鶏の生体組織から抽出分別されるものが好適である。生体組織とは、生物におけるPLsを含有する組織である。ここで、一般論として説明すると、当該生物としては、例えば動物及び微生物が挙げられる。微生物としては、嫌気性細菌が好適であり、例えば、腸内細菌のAcidaminococaceae科の細菌等が特に好ましい。細菌の場合、“生体組織”は細菌そのものである。動物としては、鳥類、哺乳類、魚類、オキアミ、貝類等が好適である。哺乳類では、その供給安定性と安全性の両面から家畜が好ましく、例えば、牛、豚、馬、羊、ヤギ等が挙げられる。
【0043】
原料用哺乳類の主な組織としては、皮膚、脳、腸、心臓、生殖器、筋肉、脊椎骨、乳等が挙げられ、これらの組織(臓器、部位)からPLsを抽出することができる。また、鳥類としては、鶏、家鴨、鶉、鴨、雉、駝鳥、七面鳥等が挙げられる。調達性・コスト・豊富な食体験性から、鶏、就中、種鶏を含む産卵鶏が特に好適である。用いる組織には、特に制限はないが、例えば、胸肉、鶏皮、内臓(特に、腸、卵巣卵管金冠、砂肝、肝臓)、卵、ガラ(ミンチ調製副生物)、羽毛等を用いるのが好適である。
【0044】
本発明では、生体組織から抽出分別されるPLsとして、鶏組織から抽出分別されるPLsが用いられる。従来から食用とされて来た鶏は、安全性が確認されており、安定供給もし易いため、好適である。生体組織からPLsを抽出分別する方法としては、PLsが抽出(及び必要に応じて精製)できる限り特に制限されないが、簡便さ及びコスト等の点から、次に述べる様にして抽出及び精製することが好ましい。また、当該抽出及び精製方法によれば、ジアシル型グリセロリン脂質を分解・除去できるため、PLsの純度をより一層高めることができる点で、好ましい。
【0045】
PLsの抽出及び精製の工程としては、具体的には、例えば、以下の(1)~(5)の工程が挙げられる。
(1)生体組織からから総脂質画分(含、低分子量水溶性画分)と蛋白質画分及び中性脂質画分の3相に抽出分別する工程。
具体的には、以下の工程が例示される。
1)生組織をミンチ化して緩慢凍結させる工程
2)凍結ミンチを強制解凍後圧搾脱水後に“過加熱水”(アクアガスRTM;[特許文献8]、[特許文献9]、[特許文献10]、[特許文献11])で高速調理殺菌し真空高速冷却(無酸素雰囲気下の冷却脱水)する工程
3)上記脱水処理後、3倍(V/W)量の脱気(脱酸素)エタノールを加えて、密封無酸素的雰囲気下で12時間緩慢撹拌して抽出を行う工程
4)上記を繰り返す工程
5)エタノールを合体後、無酸素雰囲気中でエタノール分を留去後、遠心して水層(水溶性低分子量画分)を分別して総脂質画分を得る工程(水溶性低分子量画分は別途凍結乾燥)
【0046】
(2)総脂質画分から、組織特異的構成比を有する複合脂質を抽出分別する工程。
(3)上記工程中から水溶性低分子量画分を分別し、これを複合脂質画分に加えて複合脂質組成物を得る工程。
(4)上記工程中から蛋白質画分を分別し、これに前項の複合脂質組成物を加えて、蛋白質・脂質複合組成物を得る工程。
(5)複合脂質画分に酵素を加えてSN-1結合脂肪酸を加水分解し、混在するジアシルグリセロリン脂質をリゾ体に変換すると共に副生脂肪酸と共に親水系溶媒で抽出分別して、PLsを精製する工程。
【0047】
抽出は、有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン、ヘキサン等及びこれらから成る群より選択された少なくとも2種以上の混合溶媒等の食品適性を有するもの)あるいは含水有機溶媒による抽出を行うことが好ましい。また、抽出に供される鶏組織は、好適には、上記(1)及び(2)の工程で処理する方法が例示される。即ち、後工程のエタノールによる3相分別において用いるエタノール量をできるだけ少なくするために、生組織から無酸素雰囲気下低温・短時間でできるだけ脱油と脱水を行うことが求められる。
【0048】
抽出処理条件に付いては、肝心なことは、含有PLsの酸化分解と加水分解を最少化するために、密封下無酸素的雰囲気中で低温での短時間撹拌処理することである。好適な一例として、前記した前処理(1)及び(2)で処理済みの産卵成鶏の皮剥ぎ兜ミンチ肉にエタノールを加えて、30℃以上50℃以下で180分以上、静置又は緩慢撹拌を行う方法が例示される。当該胸肉1kgに対して、予め脱気(脱酸素)処理済みのエタノールを2~4Lを加えて、密封下静置又は緩慢撹拌を行う。
【0049】
3相に分別された内で、含水エタノール相は、エタノールを蒸発濃縮して、水層を分離した後、予め脱気処理済みヘキサンを加えて、リン脂質画分を抽出する。分離した水層とヘキサン不溶層を合わせて脱気水を加えて、4℃に静置後、低温下で遠心分離して不溶部を除去して、凍結乾燥を行って、低分子水溶性画分18gを得る。他方、ヘキサン溶液を、常法によって蒸発乾固して、複合脂質画分7gが得られる。当該リン脂質画分に、該低分子水溶性画分を加えて、複合脂質組成物25gが得られる。
【0050】
当該リン脂質画分を酵素加水分解処理工程に供し、ジアシル型リン脂質を加水分解してPLsを好ましく濃縮することができる。このような加水分解処理としては、例えば、ホスホリパーゼA1(以下、「PLA1」と言う。)による酵素処理が挙げられる([特許文献4])。PLA1で処理すれば、混在するジアシル型グリセロリン脂質は、遊離脂肪酸とリゾリン脂質に分解され、これらをアセトン及びヘキサンで抽出分配すれば、プラズマローゲンを精製することができる。遊離脂肪酸及びリゾリン脂質の除去は、例えば、アセトン及びヘキサンを用いた分配によって行うことができる。
【0051】
PLA1は、上記の効果が得られるものであれば、その由来等は特に制限されないが、例えば、アスペルギュース・オリゼ由来のPLA1が挙げられる。該PLA1は、例えば、三菱化学フーズ(株)等から購入可能である。その使用量は、得られる複合脂質量に応じて適宜に設定することができる。好ましくは、0.2~200unit/複合脂質1mgを使用でき、更に好ましくは、2~200unit/複合脂質1mgを使用できる。なお、1unitは、1分間当たり1μmolの基質(複合脂質)を変化させる量であり、1μmol/minを意味する。
【0052】
用いるバッファーも、PLA1に応じて適宜に選択できる。例えば、0.1Mクエン酸-塩酸バッファー(pH4.5)を、複合脂質1g当たり1~30ml、好ましくは5~15mlに複合脂質1gを溶解させ、所定量のPLA1を加えて、用いることができる。反応条件は、脱気済みのバッファーを用いて窒素ガス雰囲気中で、できるだけ短時間、好ましくは1時間、温度もできるだけ低温下、好ましくは50℃を上限として、撹拌して酵素反応を行う。
【0053】
加温による酵素失活処理は避けて、反応終了後、直ちに室温まで冷却後、予め脱気処理済みのヘキサンを反応液の2~3倍量を加えて遠心処理して上層のヘキサン層を回収することで、酵素バッファーと酵素蛋白質を除去する。該ヘキサン溶液をアセトン及び水を適宜に加えて分配を行い、更に、水又は水溶液により溶液分配することで、リゾリン脂質を除去してプラズマローゲンを精製する。即ち、アセトンによりリン脂質以外の中性脂質を除去し、水系溶液分配によりプラズマローゲンとリゾリン脂質を分離する。この様にして得られた生体組織由来のプラズマローゲンは、好ましくは、本発明の認知機能障害の緩和及び予防用のサプリメント、抗中枢神経系炎症性製剤、神経細胞新生性製剤、神経細胞のアポトーシス抑制性製剤及び/又はAβ脳内蓄積抑制性製剤の有効成分として用いることができる。
【0054】
生体組織由来の複合脂質(複合脂質組成物を含む)及びPLsのリン脂質とその組成比には、生体組織による特有の特性が存在する。以下に、産卵成鶏の場合の組成比について説明する。
【0055】
1.皮
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=[1~10]:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[1.5~15]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[0.5~5]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[1.5~10]:1
【0056】
2.兜屠体(皮剥ぎ)
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=[0.5~5]:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[2~15]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[0.5~5]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[3~20]:1
【0057】
3.卵黄
(1)PLsン;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[0.1~1.5]
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[2~20]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[10~50]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[40~350]:1
【0058】
4.砂肝
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=[2~15]:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[1~10]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[0.5~6]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[1~10]:1
【0059】
5.腸
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=[2~15]:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[2~20]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[1~12]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[1~10]:1
【0060】
6.ガラ
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=[1~10]:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[2~20]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[1~10]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[3~25]:1
【0061】
7.金冠(含、卵巣)
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[0.0001~0.1]
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[1.5~15]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[15~130]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[20~200]:1
【0062】
8.骨髄
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[0.0001~0.1]
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[1~10]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[0.5~6]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[30~3]:1
9.胸肉
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[0.5~5]
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[2~10]
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:[0.5~5]
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=[5~50]:1
【0063】
特異性が高いのが、以下の1)~4)である。
1)胸肉([PL-PE]<[PL-PC])で[心筋]様
2)金冠([PL-PE]>>>[PL-PC])で[PL-PC]が略ゼロ
3)生ガラ(発生率が高く、価格も産廃扱いでゼロ以下且つ組成が[胸肉]に近く、更に骨髄(脳の末梢組織を内在している)を含んでいることから、潜在的付加価値(脳機能改善機能)が期待され、統合的価格対性能比が顕著に高いと考えられる。
4)兜屠体([胸肉]+[骨髄])で、統合的な[価格対性能比]が高い[胸肉]相当と考えられる。
【0064】
本発明に用いる生体組織から抽出した複合脂質及びPLsは、乾燥質量換算で、エタノールアミンPLs及びコリンPLsの含有量が、以下の1)~2)の通りである。
1)複合脂質では、上限が50質量%であって、10質量%以上のものが好ましく、20質量%以上のものがより好ましく、30質量%のもの以上が更に好ましく、40質量%以上のものがなお好ましい。
2)PLsでは、50質量%以上のもが好ましく、60質量%以上のもがより好ましく、70質量%以上のもが更に好ましく、80質量%以上のもがより更に好ましく、90質量%以上のもがなお好ましく、92質量%以上のもが特に好ましい。
【0065】
エタノールアミンPLs及びコリンPLsの質量比並びに含有量は、生体組織から抽出した複合脂質又はプラズマローゲンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で解析して求めることができる。具体的には、HPLCにおいて、蒸発光散乱検出(ELSD;Evaporating Light Scattering Detector)によりクロマトグラムを得、当該クロマトグラムにおけるエタノールアミンPLs及びコリンPLsを示すそれぞれのピーク面積比を求めることで、質量比を算出できる。また、エタノールアミンPLs及びコリンPLsを示すピーク面積がクロマトグラム全体のピーク面積の何%に当たるかを算出すれば含有量を求めることができる。
【0066】
本発明においては、用いる鶏の生体を合目的に改質することが重要である。即ち、本発明では、鶏をω-3HUFA誘導体含有飼料で飼養することによって、その組織や臓器及び部位等の脂質、就中、PLsに選択性高くω-3HUFAを移行させ、依って、PLsのSN-2結合脂肪酸と移行ω-3HUFAとをエステル交換させて(非特許文献26)、ω-3HUFA結合型PLs含有複合脂質及びPLsを生成させる。ω-3HUFA結合型のPLsについては、認知機能障害との関係があることを示唆する事例があり、以下にそのことを例示する。
【0067】
1.脳内DHA量とPLs量との相関関係
脳内のDHAは、グリセロリン脂質、就中、PLs結合型として存在し(非特許文献26)、PLs産生小胞体であるペルオキシソームのPLsの生合成系の制限酵素fatty
acyl-CoA reductase1(Far1)(非特許文献27)の発現亢進に関与していることが知られている(非特許文献10)。
2.脳内DHA及びPLs濃度の減少と、神経変性疾患及び精神疾患の発症との相関関係(非特許文献10)。
【0068】
1)脳内に[H]DHAを添加すると、DHAは大部分脳内の膜間に存在するPLsのSN-2に結合する。
2)該結合DHAは、PLs産生系をブロックしたセルラインでは大幅に減少する。
3)前記培養系にsir1-hexadecylglycerolを添加すると、PLs結合DHA量とPLsの産生量が回復する。
【0069】
4)脳内DHA含量の低下と脳内PLs産生量の減少は、下記1)~7)の神経変性疾患及び精神疾患の発症に関係がある。
(1)ペルオキシソーム失調症
(2)AD
(3)鬱病
(4)ADHD(注意欠陥性多動性障害症)
(5)脳卒中
(6)活動亢進症
(7)精神分裂症
【0070】
5)DHA強化食品の摂取は、上記の1)~7)に特有な行動異常や学習能力の低下、並びに精神状態の悪化に関わる情報伝達性を改善する可能性に関係することが示唆されている。
更に、DHAは、その構造から酸化分解を受け易く、酸敗して悪臭を発するのが通例であるが、これを乳化(ナノ乳化)するだけで簡便に解決できることは意外に知られていない。以下に、これを例示的に説明する。
【0071】
(1)高度不飽和脂肪酸(HUFA)及びそのエステル(含、グリセライド)を水溶液中に分散(乳化)させると、空気中に放置した場合とは全く逆に、不飽和度の高いもの程酸化されにくくなる。水中分散系では、DHAやEPAの酸化分解性が極めて低くなる([非特許文献1])。その理由は、乳化DHA等の立体構造が、酸化活性種の接近に対して障壁になって、謂わば“立体障害”効果で酸化ターゲット箇所(ビスアリル結合炭素原子)への活性種の衝突をブロックして酸化反応を阻止していると考えられる。その際に、水分子の存在が重要で、酸化ターゲット箇所近傍を覆う(カバーする)格好で間接的に保護していると考えられる。
【0072】
(2)該乳化系のO/Wエマルジョンにおいて、そのミセル粒径が細かいほどDHA等のPUFAの酸化安定性が向上し、通常のミクロ乳化よりナノ乳化(可溶化)が好適である。なお、乳化は、大きな負荷が掛かる可能性のある、例えば、高圧ホモゲナイザー等の使用は避けて、簡便で緩慢な撹拌が好ましい。高負荷乳化は、PUFAの酸化安定性を損なう。
(3)細胞培養系にリノール酸(LA)、アラキドン酸(AA)、DHAを取り込ませて酸化処理を行った処、LAとAA添加系では過酸化物生成量が増大したが、DHAでは該増大は認められなかった。
【0073】
(4)LA-PC(フォスファチジルコリン)とAA-PC及びDHA-PCを培養細胞系に加えて、酸化処理したところ、上記と同様にDHA特異的に過酸化物生成量が、然もコントロールよりも少ない結果となった。以上の様に、DHAの培養細胞中での特徴的な酸化安定性は、空気中あるいは溶媒系とは全く異なるものであり、DHAは、従来考えられているほど生体内では酸化に対して不安定でないことを示している。
(5)ラットに魚油を投与した場合、魚油の投与量が極端に多くない限り、生体内の脂質過酸化レベルに変化が認められない。
(6)これにより、適切な量の魚油を摂取する限り、生体内の脂質過酸化の亢進とこれに伴う悪影響が殆どないことが示唆される。
【0074】
(7)以上から、PLsのSN-2に、合理的にDHAを結合させることに依って、下記の1)~2)のPLs分子内における直接的な安定化効果の発現が期待される。
1)生体外において、PLsのビニルエーテル結合に対する隣接結合DHAの立体障害が、酸化活性物質の攻撃を効率的にブロックするとともに、DHA結合分子、即ち、PLs自体も、結合DHAに特有なその乳化型特異的分子構造を介して、酸化安定性を獲得できると考えられる。
2)生体内(株化細胞培養系)、特に、脳内(細胞内)において、DHAは、リン脂質と、就中、エタノールアミン型PLsに結合して、PLs生合成小胞体「ペルオキシソーム」の膜内に局在化して、生合成の鍵酵素(制限酵素)の発現を亢進させてPLs産生を促進させていると考えられる。
【0075】
以上に加えて、以下にPLsと脳機能障害との相関を纏めて例示する。
1.ADとの相関
1)AD患者の脳内PLs含有量は有意に減少する(非特許文献11、非特許文献12)。
2)AD患者の血清PLs含有量は有意に減少している(非特許文献13)。
3)AD患者の赤血球PLs含有量は有意に減少する(非特許文献14)。
4)中枢神経系炎症モデルマウス(LPS腹腔注射で炎症惹起の認知機能障害)では脳内PLsが減少する(非特許文献8)。
【0076】
2.PLsの生体内動態
1)経口投与ラットの血中プラズマローゲンは増加する(非特許文献15)。
2)LPS誘発中枢神経系炎症モデルマウスの脳内PLs含量は増加する(非特許文献8)。
3)PLs経口投与AD患者の血中エタノールアミンPLsは増加する(非特許文献16)。
【0077】
3.認知機能障害の予防と緩和及び治療効果
1)老化モデルラット(SAMP8)の神経新生を促進させる(特許文献7)。
2)Aβ両側注入ラットの空間認知学習機能障害を抑制する(非特許文献16)。
3)LPS誘発の中枢神経系炎症マウスの症状を緩和させる(非特許文献8)。
(1)ミクログリアの活性化を抑制。
(2)脳内サイトカイン、TNFα-mRNAの増加と脳内IL-2βの発現抑制。
(3)Aβの蓄積抑制。
【0078】
4)LPS(腹腔内注射)誘発の中枢神経系炎症マウスの中枢神経系炎症とAβ蓄積の抑制(非特許文献8).
(1)グリア細胞の活性化抑制。
(2)前頭前野及び海馬へのAβ蓄積を抑制。
LPSを腹腔内注射して誘発される炎症によるPLsの減少を抑制する(非特許文献8)。
【0079】
5)神経細胞死のin vitro抑制(非特許文献9)。
6)その他の関連
(1)認知機能障害発症危険因子の高血糖及び高脂血の抑制(非特許文献18)。
(2)カルノシン食による認知機能低下の抑制(非特許文献19)。
以上のPLs効能において、上述したDHA結合型PLsにおいても、その分子内の直接的安定化と認知機能障害の改善・是正に対する相乗効果が相俟って、抗認知機能障害効能が顕著に増大するものと考えられる。
【0080】
鶏を、ω-3HUFA誘導体含有飼料で飼養して、その生体組織に効率的にω-3HUFAを移行させる方法について、以下に例示する。
1.生物種の選択
鶏、特に、産卵鶏が好ましく、種鶏雌雄の廃鶏が更に好ましく、“強制換羽”産卵鶏を含む産卵廃鶏が特に好ましい。その根拠を以下に例示する。
1)動物で唯一“恐竜特異的呼吸系「気嚢式」”を受け継いでいるのが鳥類であり、動物と対比して、下記の顕著な特異性を有している。
(1)酸素の吸入量が2倍(吸気と排気が別系統のため)。
(2)上記によって、エネルギー関係代謝速度が2倍。
(3)上記により、可食部1kg製造に必要な飼料が、ブロイラーで4.5kg、一方家畜の豚の9.1kgと肉牛の25.0kgに比べ大幅に 効率が高く、食用動物でこれを凌ぐのが、汎用性に欠けるがコオロギの2.1kgだけとされている(FAO 2013公表)。
【0081】
2)下記の要因で調達性(統合的価格対性能比)が顕著に優れている。
(1)養鶏はグローバル産業で、品質が均一で価格も安価定着で集約度が高い;
* ブロイラーは垂直統合型産業
* 産卵成鶏(700日齢程度)の廃鶏(年間7割程度が間引かれる;750日齢程度)は専用の屠殺解体場「半官半民の廃鶏処理センター(全国に30箇所見当が点在し、平均処理能力は年間3百万羽程度で1千万羽超もある)」は、高鮮度で安価且つ国産・安全が特長
* 卵価安定化国策の落とし子(日本特有)
(2)世界の年間累計飼育羽数が200億羽;中国で著増中
(3)グローバルに共通数品種で対応;ブロイラー(精肉)と産卵鶏(鶏卵)
(4)現在も伸長中
(5)鮮度が良く、廃鶏でも活状態で屠殺
(6)家畜では特異的に生育が早い;ブロイラーで50日、産卵鶏は年間を通じ毎日1個に近い卵を産む
【0082】
(7)“強制換羽”は、産卵効率が落ちた産卵成鶏を再生させる人工的手段で、700日齢程度の老鶏を10日間程度絶食させ、結果的に羽毛(羽)が落ちて裸状態になってから、再度飼育する養鶏スタイル。動物虐待と紙一重であるが、卵価低迷や販売数量伸び悩み時の応急措置として黙認されている。生体機能性再生の特異的個体として、例えば、DHAを含むω-3HUFA誘導体移行用鶏として、興味深い。この種の措置を大規模に実現できるのも家禽の特異性の一つでもある。
(8)産卵鶏由来の卵黄には、その前駆体の金冠特異的にそのPLs組成率がPL-PC>>PL-PE(実質的にはゼロ)であるが、通常飼育産卵鶏の卵黄中に、PLsが含まれて居ないという極めて不可思議な現象がある。
処が、今般のDHAを含むω-3HUFA誘導体移行飼育の結果、該産卵鶏の卵黄中には、驚くべきことに、以下の*が明らかとなった。
*PLsが検出された
*その大部分がDHA-PLsであった
*然も、前駆体の金冠とは真逆に、組成率がPL-PE>>PL-PCであった
該結果は、後述の様に、DHAが生体内PLs新生小胞体「ペルオキシソーム」の生合成経路の律速酵素Far1の発現を亢進させる結果、卵黄中にPLsが産生したものと考えられる。更に、該PLsが特異的に卵黄中のDHAを補足してDHA-PLsを発生させたものと解釈される。
【0083】
2.PLsの抽出用に好適な組織等の選定
以下の組織等が例示される。
1)産卵鶏の卵黄(冷凍)
2)生ガラ(ミンチ凍結)
3)兜(ミンチ冷凍)
4)砂肝(ミンチ凍結)
5)腸(ミンチ凍結)
6)皮(ミンチ凍結)
7)金冠(冷凍)
8)胸肉(ミンチ凍結)
【0084】
3.供試するω-3HUFA誘導体の選定
魚介類由来のミール、イワシ・サバ・さんま・マグロ・カツオ・ホタテ・ホヤ・オキアミ等及びそれらの2種以上の組み合わせ、同左の魚介類由来のミール副生油脂、魚介類の生殖組織由来のミール、同左の副生オイル、微生物の発酵培地由来、等が例示される。
4.ω-3HUFA含有飼料と飼養条件
下記が例示される。
1)鶏種
ジュリア種、及び/又はボリスブラウン種
2)飼料
コーン62%、ω-3HUFA含有飼料15%見当、植物油脂15%、動物基本飼料6%及びその他穀類2%見当
3)飼養条件
(1)飼養期間は1~5週間、好適には1~3週間
(2)鶏は40週齢見当
(3)飼養場所は九州の養鶏場
(4)飼育羽数は50羽程度で適宜に
4)屠殺解体分別一次処理保管
九州の廃鶏処理センター
【0085】
生体組織由来の複合脂質とその組成物及びPLsを基質とするナノ乳化の詳細は、以下に示される。
1.基本処方
好適な処方を以下に例示する。
上記複合脂質を、サポニン類の存在下で、ナノ乳化することにより、水性相に複合脂質又はPLsが可溶化されていることを特徴とする複合脂質又はPLs含有水性製剤が得られる。([特許文献12])
その際に、サポニン、好ましくは、キラヤサポニンを必須成分として、脂肪酸モノグリセライド、炭素原子数が6~12の脂肪酸である脂肪酸モノグリセライド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物、水あめ等から選択される1種以上の補助成分を適宜に使用する。
【0086】
2.ナノ乳化工程
上記複合脂質を、予め脱気した、キラヤサポニン含有水溶液中にマグネチックスターラーで撹拌しながら窒素ガス雰囲気下で添加し、濁りがなくなるまで撹拌すると、透明性のある可溶化溶液が得られる。
3.ナノ乳化液の性状
上記調製液を10,100,1000倍に希釈して、透明性を目視確認する。
4.安定性試験([特許文献12])
上記調製液を、例えば、500倍に希釈した透明性のある水溶液に、クエン酸を用いてpH4にして、変化の有無を目視確認し、これを95℃で30分間加熱後に室温に戻して、変化の有無を目視で確認する。更に、該加熱液を蒸発乾固後、常法でヘキサン抽出液を得て、未加熱可溶化液を対照にして、HPLC/ELSDチャートでピーク面積比較解析を行って、残存プラズマローゲンを検定する。
【0087】
5.平均粒径測定試験([特許文献12])
上記調製可溶化液中の油相粒子の平均粒径を、市販サブミクロンアナライザーで測定する。
6.粉末製剤の調製試験と成分の残存性([特許文献14])
該可溶化液に賦形剤の澱粉加水分解物を溶解させた後、卓上ミニスプレイドライヤーを用いて、噴霧乾燥を行う。この粉末製剤の、例えば、水100倍希釈で溶液の透明性を目視でその透明性を判定し、可溶化を確認する。
また、上述の様に、未加熱可溶化液を対照にして、HPLC/ELSDチャートでピーク面積比較解析を行って、PLsの残存量を確認する。
【0088】
7.可溶化ゼリーの調製試験([特許文献13])
1)グリセリンにカゼインナトリウムを加温溶解させ、これに、例えば、1%複合脂質δトコフェロール溶液を撹拌下添加し、透明感のあるゼリー状の可溶化物を得る。蒸発乾固後にヘキサンで抽出して、HPLC/ELSDで前項と同様にピーク面積比の対比解析からPLsの残存を確認する。また、当該ゼリーの、例えば、100倍水希釈液を調製して、市販サブミクロンアナライザーで平均粒径分布を測定する。
2)例えば、水8gに乾燥卵白2gを溶解し、これに上白糖を適宜に溶解させる。この液に窒素ガス雰囲気で撹拌下、例えば、PLsの0.5%δトコフェロール溶液を適量添加すれば、透明感のあるゼリー状の可溶化物が得られる。
【0089】
本発明に係る複合脂質とその組成物及びPLs並びにこれらの水性製剤、更に、蛋白質・脂質複合組成物、ω-3HUFA結合型PLsを含有する複合脂質とその組成物及びPLs並びにこれらの水性製剤、更に、蛋白質・脂質複合組成物(以下、「各種PLs類」と言うことがある。)を、中枢神経系炎症、神経細胞新生失調症、神経細胞のアポトーシス症及びAβとτの脳内蓄積症(以下、「「認知機能障害」と言う。」)の緩和・予防・改善、及び治療用の有効成分として、食品、化粧品、医薬品又は飼料に用いることができる。
【0090】
本発明に係るPLs製剤を、サプリメント及び/又は一般食品(以下、「各種食品」と言うことがある。)として用いる場合、当該各種食品は、各種PLs製剤そのものであっても良いし、これらと食品衛生学上許容される基材、担体、添加剤や、その他食品としてとして利用され得る成分・材料が適宜配合されたものでも良い。また、このような各種食品の形態としては、例えば、液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状の食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
本発明に係るPLs製剤を、飲食品として用いる場合、当該製剤は、PLs、及び食品衛生学上許容される基材、担体、添加剤や、その他食品としてとして利用され得る成分・材料が適宜配合されたもの(即ち、各種PLsを含む食品組成物)である。例えば、各種PLs製剤を含む、加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。
【0092】
サプリメント及び食品の種類は、特に制限されないが、例えば、各種PLs製剤が配合されたハンバーグ、ミートボール、ウインナー、鳥そぼろ、鶏皮チップ等の加工食品、及び加工された肉食品等を含んで成る健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品等が例示される。また、各種PLs製剤を、例えば、粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類(例えば、ガム、チョコレート、キャンデー、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅、プリン、ゼリー状お菓子、杏仁豆腐等)、パン類、スープ類(粉末スープを含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものが例示される。
【0093】
なお、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本発明に関わる飲食品を調製する場合は、継続的摂取が行いやすいように、例えば、顆粒、カプセル、錠剤(チュアラブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤等)等の形態に調製することが好ましく、中でも、摂取の簡便さの点からは、カプセル、タブレット、錠剤、ゼリー等の形態がより好ましい。顆粒、カプセル、錠剤、ゼリー等の形態は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。
【0094】
本発明に係る飲食品におけるPLsの配合量は、好ましくは、0.00005~100質量%、より好ましくは、0.0005~75質量%、更に好ましくは、0.005~50質量%である。本発明に係る飲食品は、認知機能障害の予防・緩和・改善のために用いることができる。また、摂取量、摂取対象、含有PLs量の測定等は、例えば、後述する本発明に係る医薬品と同様であることが好ましい。
【0095】
なお、病院食とは、病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは、被介護者用の食事である。本発明に係る飲食品は、特に上記例示の疾患で入院、自宅療養等している患者、あるいは、介護を受けている患者用の病院食、病人食又は介護食として用いることができる。また、高齢者等、上記例示の疾患を患う可能性が高い人が予防的に摂取することもできる。
【0096】
本発明の抗認知機能障害剤を医薬分野で用いる場合、当該製剤は、PLsのみからなるものでも良いし、他の成分を配合したもの(即ち、PLsを含む医薬品)でも良い。例えば、本発明に係る医薬品においては、有効成分である各種PLs製剤に、必要に応じて、薬学的に許容される基材、担体、添加剤(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘調化剤等)等を配合することができる。また、常法により、例えば、錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアラブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。特に、液剤、懸濁剤、乳剤等に調製し、注射剤又は点滴剤として用いても良く、また、経口剤として用いても良い。
【0097】
本発明に係る医薬品におけるPLsの配合量は、抗認知機能障害作用が発揮される限り、特に制限されず、一日当たりの好ましいPLsの摂取量に応じて適宜に設定できる。その配合量は、好ましくは、0.0005~100質量%、より好ましくは、0.005~90質量%、更に好ましくは、0.05~80質量%である。本発明に係る医薬品を投与する対象としては、認知機能障害を患った対象が好ましい。この様な疾患としては、神経変性疾患及び精神疾患等を例示できる。神経変性疾患としては、具体的にはAD、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症等を例示できる。
【0098】
また、精神疾患としては、具体的には、うつ病、躁病、躁うつ病、統合失調症、自閉症、接触障害等を例示できる。更には、このような疾患を将来患う可能性が高い対象に対し、本発明に係る医薬品を投与しても良い。例えば、遺伝学的に上記例示疾患を患う可能性が高い対象や、高齢者(特に60歳以上)等に予防的に投与することができる。また、本発明に係る医薬品を投与する対象としては、ヒトのみならず、飼料用として、その他の哺乳類であっても良い。このような哺乳類には、例えば、家畜やペットとして飼育されるものが想定でき、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター等が例示できる。
【0099】
本発明に係る抗認知機能障害剤の投与時期は、当該認知機能障害発症の、好ましくは5年前、より好ましくは10年前、更に好ましくは15年前から投与することが求められる。発症診断時点では、末期症を迎えていることが明らかにされている([非特許文献20])。好適な投与形態は、その投与期間が長期に渡ることに鑑み、経口投与が良い。本発明に係る抗認知機能障害剤の投与量は、患者の年齢、患者の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜に選択される。通常、当該剤中のPLsの量が、好ましくは成人一日当たり0.001~1000mg、より好ましくは、0.01~100mgの範囲を目安とするのが望ましい。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。
【0100】
本発明は、認知機能障害を患った対象に対して、有効量の本発明の抗認知機能障害剤を投与(特に、経口投与又は経血管投与)する工程を含む認知機能障害の治療方法をも提供する。更に、本発明は、神経変性疾患又は精神疾患を患った対象又は患う可能性の高い対象に対して、有効量の本発明の抗認知機能障害剤を投与(特に、経口投与又は経血管投与)する工程を含む、これらの疾患の予防又は治療方法をも提供する。当該方法は、具体的には、前述の本発明の抗認知機能障害剤を投与することで実施される。なお、当該方法における、対照、摂取量等の各条件は、前述の通りである。
【0101】
本発明に係るPLsとその製剤等の所定の効能(神経変性疾患と精神疾患の予防及び治療)の独自な臨床試験方法として、下記の1)~7)を例示できる。
1)対象者が、生理的には無害な量のAβ及びτの脳内蓄積が認められる状態にある認知症発症前の成人(健常者)、就中、「認知症未病状態」にある被験者であることを特徴とする。
近年の米国における研究成果([非特許文献20])で、Aβとτ蛋白の脳内蓄積が従来の発症診断時期に比べ、少なくとも10年、通常では15~20年前から蓄積が開始されることが明らかにされ、一種の“パラダイムシフト”が起きている。早期予防が発症抑制の決め手で、認知症発症前の成人(健常者)~未病状態にある被験者における該効能発現如何が肝要である所以である。
2)安全・安定なPLs及び/又はその製剤を用いることを特徴とする。
【0102】
上記に依って、神経変性疾患と精神疾患の予防・緩和・改善及び治療用の成分には、従来対比で遥かに長期間の摂取が求められるため、安全・安定且つ安価なプラズマローゲンが必須要件とされる。
3)より好適には、安全・安定なω-3HUFA結合型PLs及び/又はその製剤を用いることを特徴とする。
4)前記安全・安定なω-3HUFA結合型PLsが、安全なω-3HUFA給源を含む飼料で安全に飼養された鶏から安全に抽出されたことを特徴とする。
5)安全で簡便な経口投与であることを特徴とする。
【0103】
6)投与期間は、通常の当該疾患対象の臨床試験期間の1年以上に比べ、長くても2年以下、好ましくは18カ月間、より好ましくは12か月間、好適には6か月間以下1か月間以上と短く、対象者に対する負担を軽減できることを特徴とする。
7)主要必須測定効能が、以下の*印の群から選択された3項目以上を含んでいることを特徴とする、革新的な神経変性疾患と精神疾患の予防及び治療効能の判定方法である。
* 内田・クレペリン検査
* MMSE
* 安静時機能性MRI(rs-fMRI)画像解析(非特許文献17)
* 赤血球中のPLs含量測定(非特許文献24)
* PSOL「認知機能自己診断テスト」
* RBANS([非特許文献21])
* Cognitrax([非特許文献21])
* ウエックスラー記憶力検査([非特許文献22])
【0104】
なお、rs-fMRI画像は、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の解析・評価に有用である。即ち、従来は、意識的活動を行っていない時、脳もまた休すんでいると考えられて来たが、近年脳機能イメージング研究によって驚くべき事実が明らかされ、安静時でも重要な活動が営まれ、脳の基底状態における活動に費やされているエネルギーは意識的な反応に使われる脳エネルギーの20倍にも達するとされる([非特許文献17])。この脳活動の中心となっているのが、DMNと称される複数の脳領域で構成されるネットワークであり、脳内の様々な神経活動と同調させる作用がある。注目すべきは、AD患者で顕著な萎縮が認められる脳領域が、DMNを構成する主要な脳領域と殆ど重なっていることで、安静時のfMRI画像解析によって新たな神経疾患の理解の手掛かりになることが期待されている。
【0105】
最近、安静時脳機能ネットワークのスモールワールド性及びモジュラリティが加齢に伴って低下することが明らかにされ、これらの機能的変化が一般的に脳委縮などの解剖学的変化に先行して発生するため、加齢及び認知症の研究において有用なマーカーとなる可能性があると発表されている(非特許文献17)。
【0106】
本発明者らによる前述の基本コンセプトに基づいた最新のPLsの認知機能改善効果判定の下記要件を満たす臨床試験;
* 専門機関のJACTA(東京)に委託実施の、
* 無作為・二重盲検・プラセボ対照の、
* 革新的なPLs組成物の、認知機能改善性食品を用いた
* 厳選した健常被験者(機関登録者の書類選考135名⇒認知機能3階層問診選抜81名⇒試験責任者の面接選抜75名⇒試験中に発覚した不適格者を排除71名)に対して、
* 極めて低日用量、0.25mgと0.5mg、
* 極めて短期間の12週間内、
で、然も、僅か6週目で、認知機能の有意且つ即効的な改善効果が確認され(非特許文献25)、驚くべき成果と評価される。
【0107】
従来の認知症に関わる[II相臨床試験]の実施方法は、対象が脳と言うこともあって、試験結果の合理的な客観化が困難であった。直接的な画像解析方法も装置が高額過ぎたり、画像解析に合理性が欠如したり再現性に問題があったり等々で、学術的認知が得られものが無かった。
脳内Aβとτ蛋白の動態を直接的に検定するには「腰椎穿刺」を行う必要があるが、極めて侵襲性が高く、汎用性が無い。
直近の報告によれば、PET(Positoron
Emission Tomography;陽電子放射断層撮影)を改良小型化して頭部専用PETが、量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所で開発され、従来PETに比べ装置のコストを1/3に、更に、海馬付近の感度を向上させることにも成功したとされている(非特許文献28)。
また、同所では[τ蛋白]をPETで観察するための検査薬[PBB3]の開発にも成功し、Aβと共に[τ蛋白]もPETで観察できることになったとしている。
本発明者は、当該[アミロイドPET-PIB]を駆使して、懸案の認知機能改善における[DHA-PLs]vs[PLs]の効能評価[臨床試験]を行って、極めて興味深い結果を得ている。
【実施例
【0108】
以下、検証例と調製例及び実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0109】
調製例1[生体組織抽出用PLs含有リン脂質の製造]
[生体組織抽出PLs含有リン脂質の製造]
1.廃鶏の皮剥ぎ兜から複合脂質の調製
鶏組織である産卵廃鶏のフレッシュな皮剥ぎ兜(「中抜き屠体」から「腿」を抜いた屠体)から複合脂質を調製した。
皮剥ぎ兜を廃鶏処理センターから調達し、約8mmのミンチ1kgを調製した。該ミンチを緩慢凍結して保存した。使用に際し、温流水で強制解凍後に圧搾して脱水・脱油を行った。これを[過加熱水](アクアガス;登録商標)で“無酸素的雰囲気”(酸素0.5容量%以下)で5分間クッキング後、真空冷却方式で急冷脱水を行った。得られた脱水・脱油・調理・殺菌済み胸肉を低温粉砕後にエタノール3相分離工程に供した。
【0110】
[3相分離工程]
上記で得られた調理・殺菌済みの粉砕皮剥ぎ兜を容器に入れて脱気しておき、この容器に脱気済みの800mlのエタノールを加えて密封下、35℃で10時間緩慢撹拌を続けた後に氷冷下に静置して、上層の鶏油分と固形沈殿蛋白分等を分別して、含水エタノール画分(密封冷蔵保管)を得た。蛋白分等に脱気エタノール800mlを加えて、同様の抽出操作を繰り返し、遠心分離でエタノール相を分液し、密封下で氷冷して、併せて減圧濃縮した。水溶性低分子画分の固形分を濾別後、減圧蒸発乾固し、PLs含有リン脂質(複合脂質)7gを得た。
【0111】
1)総脂質の分別
Folch法で抽出・分配・分離した総脂質は26.5質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
3)上記結果の[mg/100g皮剥ぎ兜]での一覧表記
TL(総脂質):26.5質量%、TPL(総リン脂質):0.6質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):104、PE(フォスファチジルエタノールアミン):43、PL-PC(コリン型PLs):49、PC(フォスファチジルコリン):327、SM(スフィンゴミエリン):74
【0112】
4)皮剥ぎ兜特異的リン脂質の構成比
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=2.1:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:7.6
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:2.4
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=7:1
【0113】
2.廃鶏の生ガラから複合脂質の調製
兜に倣って処理した。
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は14質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
3)上記結果の[mg/100g生ガラ]での一覧表記
TL(総脂質):14質量%、TPL(総リン脂質):0.73%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):149、PE(フォスファチジルエタノールアミン):119、PL-PC(コリン型PLs):42、PC(フォスファチジルコリン):283、SM(スフィンゴミエリン):60
【0114】
4)生ガラ特異的リン脂質の構成比
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=3.5:1
(2)アシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:2.4
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:2.1
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=10:1
【0115】
3.廃鶏の腸から複合脂質の調製
兜に倣って処理した。
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は32質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
3)上記結果の[mg/100g生ガラ]での一覧表記
TL(総脂質):32質量%、TPL(総リン脂質):1質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):169、PE(フォスファチジルエタノールアミン):88、PL-PC(コリン型PLs):14、PC(フォスファチジルコリン):379、SM(スフィンゴミエリン):86
【0116】
4)腸特異的総脂質の構成比
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=12:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.3
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:2.6
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=7,6:1
【0117】
4.廃鶏の砂肝から複合脂質の調製
兜に倣って処理した。
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は7.9質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
3)上記結果の[mg/100g砂肝]での一覧表記
TL(総脂質):7.9質量%、TPL(総リン脂質):0.88質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):111、PE(フォスファチジルエタノールアミン):91、PL-PC(コリン型PLs):23、PC(フォスファチジルコリン):255、SM(スフィンゴミエリン):118
【0118】
4)砂肝特異的構成比
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=4.8:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:2.8
(3)エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:2.6
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=4.1:1
【0119】
5.金冠から複合脂質の調製
1)産卵廃鶏の金冠
兜に倣って処理した。
(1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は31質量%であった。
(2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
(3)上記結果の[mg/100g金冠]での一覧表記
TL(総脂質):31質量%、TPL(総リン脂質):9.5質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):200、PE(フォスファチジルエタノールアミン):1,574、PL-PC(コリン型PLs):0、PC(フォスファチジルコリン):7,542、SM(スフィンゴミエリン):145
【0120】
(4)金冠特異的リン脂質の構成比
1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=200:0
2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.8
3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:45
4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=64:1
【0121】
2)種鶏雌の金冠
(1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は39.3質量%であった。
(2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
(3)上記結果の[mg/100g金冠]での一覧表記
TL(総脂質):39.3質量%、TPL(総リン脂質):12.2質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):551、PE(フォスファチジルエタノールアミン):2、236、PL-PC(コリン型PLs):0、PC(フォスファチジルコリン):10,592、SM(スフィンゴミエリン):339
【0122】
(4)金冠特異的リン脂質の構成比
1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=551:0
2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.7
3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:23.3
4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=40:1
【0123】
6.廃鶏の表皮から複合脂質の調製
兜に倣って処理した。
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は46質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した。
3)上記結果の[mg/100g皮]での一覧表記
TL(総脂質):46質量%、TPL(総リン脂質):0.72質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):58、PE(フォスファチジルエタノールアミン):21、PL-PC(コリン型PLs):17、PC(フォスファチジルコリン):95、SM(スフィンゴミエリン):55
【0124】
4)皮特異的リン脂質の構成比
(1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=3.4:1
(2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.5
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:1.5
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=3.5:1
【0125】
7.廃鶏の胸肉から複合脂質の調製
鶏組織である産卵廃鶏のフレッシュな皮剥ぎ胸肉を廃鶏処理センターから調達し、約8mmのミンチ1kgを調製した。該ミンチを緩慢凍結して保存した。使用に際し、温流水で強制解凍後に圧搾して脱水・脱油を行った。これを[過加熱水](アクアガス;RTM)で“無酸素的雰囲気”(酸素0.5容量%以下)で5分間クッキング後、真空冷却方式で急冷脱水を行った。得られた脱水・脱油・調理・殺菌済み胸肉を低温粉砕後にエタノール3相分離工程に供した。
[3相分離工程]
上記で得られた調理・殺菌済みの粉砕胸肉を容器に入れて脱気しておき、この容器に脱気済みの800mlのエタノールを加えて密封下、35℃で10時間緩慢撹拌を続けた後に氷冷下に静置して、上層の鶏油分と固形沈殿蛋白分を分別して、含水エタノール画分(密封冷蔵保管)を得た。蛋白分に脱気エタノール800mlを加えて、同様の抽出操作を繰り返し、遠心分離でエタノール相を分液し、密封下で氷冷して、併せて減圧濃縮した。水溶性低分子画分の固形分を濾別後、減圧蒸発乾固し、PLs含有リン脂質(複合脂質)7gを得た。
【0126】
(1)総脂質の分別
Folch法で抽出・分配・分離した総脂質は1.8質量%であった。
(2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らのHPLC/ELSD法で、測定した[特許文献1]。
(3)上記結果の[mg/100g胸肉]での一覧表記
TL(総脂質):1.8質量%、TPL(総リン脂質):0.7質量%
PL-PE(エタノールアミン型PLs):61、PE(フォスファチジルエタノールアミン):44、PL-PC(コリン型PLs):124、PC(フォスファチジルコリン):276、SM(スフィンゴミエリン):32
(4)胸肉特異的リン脂質の構成比
1)PLs;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:2
2)ジアシルグリセロリン脂質;[エタノールアミン型]:[コリン型]=1:6.3
3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:1.7
4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=16:1
【0127】
調製例2
[複合脂質から精製PLsの調製]
1.廃鶏皮剥ぎ兜の複合脂質から精製PLsの調製
上記のPLs含有リン脂質(複合脂質)20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。
【0128】
更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して鶏皮剥ぎ兜由来の精製PLsを得た。
[廃鶏皮剥ぎ兜由来の精製PLsの純度の検定]
名達らの手法([特許文献1])に準じて純度検定を行った。純度は93.6質量%であった。
【0129】
2.廃鶏生ガラの複合脂質から精製PLsの調製
上記のプラズマローゲン含有リン脂質20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。
【0130】
この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して廃鶏生ガラ由来の精製PLsを得た。
[廃鶏生ガラ由来の精製PLsの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は94.3質量%であった。
【0131】
3.廃鶏腸の複合脂質から精製PLsの調製
上記のPLs含有リン脂質20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。
【0132】
この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して廃鶏腸由来の精製PLsを得た。
[廃鶏の腸由来の精製プラズマローゲンの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は91質量%であった。
【0133】
4.廃鶏砂肝の複合脂質から精製プラズマローゲンの調製
上記のPLs含有リン脂質20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。
【0134】
この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して廃鶏砂肝由来の精製プラズマローゲン3gを得た。
[鶏砂肝由来の精製PLsの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は95.4質量%であった。
【0135】
5.鶏金冠の複合脂質から精製PLsの調製
1)廃鶏由来金冠
上記のPLs含有リン脂質20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。
【0136】
この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して廃鶏金冠由来の精製PLsを得た。
[廃鶏金冠由来の精製プラズマローゲンの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は95.6質量%であった。
【0137】
2)種鶏雌の金冠
上記に準拠して、種鶏雌金冠由来の精製PLsを調製した。
[廃鶏金冠由来の精製PLsの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は96.7質量%であった。
【0138】
6.廃鶏皮の複合脂質から精製PLsの調製
上記のPLs含有リン脂質20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。
この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して廃鶏皮由来の精製PLsを得た。
[廃鶏皮由来の精製PLsの純度の検定]
名達らの手法に準じて純度検定を行った。純度は96.7質量%であった。
【0139】
7.廃鶏ムネ肉の複合脂質から精製PLsの調製
上記のPLs含有リン脂質(複合脂質)20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ)溶液400ml(10mg/ml 0.1Mクエン酸-塩酸バッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間撹拌した。氷冷下、2倍容量のヘキサンを加えて2回撹拌、分配し、上層を回収して濃縮乾固した。更に、乾固物にアセトンを60ml加えて撹拌、遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。
更に、該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)60mlを加えて撹拌、遠心し、液層を回収した。この液層を濃縮乾固した後、ヘキサン/アセトン(1:1)240mlを加えて分液ロートに移し、水36mlを添加して撹拌、分配した。下層を捨て、上層にアセトン/水(5:3)96mlを加えて撹拌・分配した。上層を回収し、速やかに減圧乾燥して鶏ムネ肉由来の精製PLsを得た。
[廃鶏ムネ肉由来の精製プラズマローゲンの純度の検定]
名達らの手法([特許文献1])に準じて純度検定を行った。純度は94質量%であった。
【0140】
調製例3
[ω-3HUFA誘導体含有飼料で飼養された産卵成鶏の作出とその部位特異的な構成比を有し且つω-3HUFA結合型のPLsを含有するリン脂質(複合脂質)の調製]
~飼養条件~
a.産卵鶏種と飼養羽数;ジュリア30羽
b.同上の日齢;700日齢
c.同上の平均体重;1.8kg
d.ω-3HUFA誘導体含有飼料;DHA-TG25%(EPA-TG6%)含有カツオ油5%添加の市販産卵鶏用飼料(コーン62%,植物油20%,動物基本飼料6%,その他12%)
e.同上投与期間;4週間
f.飼育環境;ケージ飼育
g.屠殺日齢;735日齢
h.飼養終了後の結果;
[ω-3HUFA移行組織・部位の複合脂質のリン脂質のプロファイル解析とその精製PLs結合DHA比率の検定]
【0141】
1.皮剥ぎ兜
1)各脂質の分別; 総脂質:26.5質量% 総リン脂質:0.6質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(兜)として下記に記載した。
PL-PE:114、PE:43、PL-PC:54、PC:276、SM:74
【0142】
3)皮剥ぎ兜のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は94.6質量%(内訳、PL-PC:30.4%、PL-PE:64.2%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は64%であった。
【0143】
2.生ガラ
1)各脂質の分別; 総脂質:14質量% 総リン脂質:0.73質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(生ガラ)として下記に記載した。
PL-PE:164、PE:119、PL-PC:46、PC:283、SM:60
3)生ガラのPLsの結合DHAの検定
(1)プラズマローゲンの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は94.4質量%(内訳、PL-PC:20.8%、PL-PE:73.6%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は69%であった。
【0144】
3.腸
1)各脂質の分別; TL:32% TPL:1%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(腸)として下記に記載した。
PL-PE:186、PE:88、PL-PC:16、PC:379、SM:86
3)腸のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は92.4質量%(内訳、PL-PC:7.3%、PL-PE:85.1%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は70%であった。
【0145】
4.砂肝
1)各脂質の分別; 総脂質:7.9質量% 総リン脂質:0.9質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(砂肝)として下記に記載した。
PL-PE:122、PE:91、PL-PC:25、PC:255、SM:118
3)砂肝のPLsの結合DHAの検定
(1)プラズマローゲンの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は95質量%(内訳、PL-PC:16.2%、PL-PE:78.8%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は69%であった。
【0146】
5.金冠
[産卵成鶏]
1)各脂質の分別; 総脂質:31質量% 総リン脂質:9.5質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(金冠)として下記に記載した。
PL-PE:220、PE:1574、PL-PC:0、PC:7,542、SM:145
3)金冠のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は96質量%(内訳、PL-PC:0%、PL-PE:96%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は69%であった。
【0147】
[種鶏雌]
1)各脂質の分別; 総脂質:39質量% 総リン脂質:12.2質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(金冠)として下記に記載した。
PL-PE:551、PE:2、238、PL-PC:0、PC:10,592、SM:339
3)金冠のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は97質量%(内訳、PL-PC:0%、PL-PE:97%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は70%であった。
【0148】
6.皮(表皮)
1)各脂質の分別; 総脂質:31質量% 総リン脂質:9.5質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(皮)として下記に記載した。
PL-PE:58、PE:21、PL-PC:17、PC:95、SM:55
3)皮のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は96質量%(内訳、PL-PC:21.8%、PL-PE:74.2%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は67%であった。
【0149】
7.胸肉
(1)各脂質の分別; TL:1.9%、TPL:0.8%
(2)リン脂質のプロファイル
1)HPLC/ELSD法に依った。
2)プロファイルをmg/100g(胸肉)として下記に記載した。
PL-PE:67、PE:44、PL-PC:136、PC:276、SM:32
(3)胸肉のPLsの結合DHAの検定
1)精製PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は95.4質量%(内訳、PL-PC:36.8%、PL-PE:58.6%)であった。
2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は65%であった。
【0150】
8.鶏卵の卵黄
1)各脂質の分別; 総脂質:32.1質量% 総リン脂質:9.8質量%
2)リン脂質のプロファイル
(1)HPLC/ELSD法に依った。
(2)プロファイルをmg/100g(金冠)として下記に記載した。
PL-PE:100、PE:1,624、PL-PC:5、PC:7,942、SM:133
3)金冠のPLsの結合DHAの検定
(1)PLsの調製
名達らの手法に倣って調製し、得られたPLsの純度は97質量%(内訳、PL-PC:5%、PL-PE:92%)であった。
(2)PLsの脂肪酸組成解析
上記PLsを常法でメチルエステル化し、脂肪酸組成分析を実施した。PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHAの構成比は75%であった。
【0151】
調製例4
[卵黄由来のPLs含有リン脂質(複合脂質)の抽出分離]
生卵黄100gにエタノール20gを混合して室温に10分間放置後、更に、20%含水エタノール120gを加えて撹拌する。これを2000rpm、5分間遠心分離すると、上層から黄色透明な卵黄油相、黄白色の複合脂質乳化相、殆ど白色の卵黄蛋白沈殿の3相に分離する。卵黄油相と乳化相を分け、沈殿相を20%含水エタノール50gで抽出し、同様に遠心分離して、上澄を前記乳化相と合わせて減圧下濃縮すると黄色の卵黄複合脂質11.5g(アセトン不溶部80%)が得られた。
【0152】
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は33.5質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らの手法のHPLC/ELSD法で測定した。
3)上記結果の[mg/100g卵黄]での一覧表記
TL(総脂質):33.5%
TPL(総リン脂質):9.5%
PLs([PL-PE]+[PL-PC](エタノールアミン型PLs+コリン型PLs)):0
PE(フォスファチジルエタノールアミン):1,574
PC(フォスファチジルコリン):7,542
SM(スフィンゴミエリン):145
【0153】
4)卵黄の複合脂質に特異的なリン脂質の構成比
(1)PLs; [エタノールアミン型]:[コリン型]= -
(2)ジアシルグリセロリン脂質; [エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.8
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]= -
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=62.9:1
【0154】
[種鶏雌の金冠由来のPLs含有リン脂質(複合脂質)の抽出分離]
金冠100gにエタノール20gを混合して室温に10分間放置後、更に、20%含水エタノール120gを加えて撹拌する。これを2000rpm、5分間遠心分離すると、上層から黄色透明なっ金冠油相、黄白色の複合脂質乳化相、殆ど白色の卵黄蛋白沈殿の3相に分離する。金冠油相と乳化相を分け、沈殿相を20%含水エタノール50gで抽出し、同様に遠心分離して、上澄を前記乳化相と合わせて減圧下濃縮すると黄色の金冠複合脂質12.2g(アセトン不溶部80%)が得られた。
【0155】
1)脂質の分別
Folch法で抽出分配分離した総脂質は39.3質量%であった。
2)リン脂質のプロファイル検定
常法の名達らの手法のHPLC/ELSD法で測定した。
3)上記結果の[mg/100g卵黄]での一覧表記
TL(総脂質):39.3%
TPL(総リン脂質):12.2%
PLs([PL-PE]+[PL-PC](エタノールアミン型PLs+コリン型PLs)):551
PE(フォスファチジルエタノールアミン):2、233
PC(フォスファチジルコリン):10,592
SM(スフィンゴミエリン):339
【0156】
4)金冠の複合脂質に特異的なリン脂質の構成比
(1)PLs; [エタノールアミン型]:[コリン型]=1:[~0.1]
(2)ジアシルグリセロリン脂質; [エタノールアミン型]:[コリン型]=1:4.7
(3)[エーテルグリセロリン脂質]:[ジアシルグリセロリン脂質]=1:23
(4)[総グリセロリン脂質]:[総スフィンゴミエリン]=40:1
【0157】
検証例1
1.認知機能及び関連事象に対する鶏由来PLsの及ぼす効果等の測定(検定)例
当該測定試験用PLsは、下記の様に調製された。
[鶏種とその部位]
廃鶏処理センターから産卵廃鶏の皮剥ぎ胸肉ミンチを調達した。
[総脂質の調製]
上記ミンチを外注凍結乾燥し、これをエタノールで常法通り緩慢抽出して胸肉由来総脂質を調製した。
[複合脂質の調製]
上記総脂質のエタノール溶液に適宜に加水して脱ガム(脱中性脂質)して、複合資質を調製した。
[グリセロリン脂質の調製]
該複合脂質を常法通りヘキサン/アセトン(7:3)で処理して脱スフィンゴミエリン、精製グリセロリン脂質を調製した。
[高純度PLsの調製]
常法通り、PLA1酵素でジアシルグリセロリン脂質をリゾ体に変換して、純度90質量%程度のPLsを調製した。
2.経口投与された廃鶏ムネ肉PLsの消化吸収性の検証例

(1)ラットの血中PLsが増加したことに依って、経口投与の有効性が確認された(非特許文献15)。
(2)LPS誘発性中枢神経系炎症モデルマウスの脳内PLs濃度を増加させることに依って、経口投与PLsの脳血液関門からの脳内吸収が確認された(非特許文献8)。
(3)AD患者の血中PLs濃度が増加したことにより、ヒト、就中AD患者に対する経口投与の有効性が検証された(非特許文献16)。
3.廃鶏胸肉PLs認知機能障害の発症抑制(予防)と緩和及び治療効果の検証例
(1)老化モデルラット(SAMP8)の神経細胞が新生されることに依って、廃鶏ムネ肉PLsによる認知機能障害の緩和とその治療効果の可能性が検証された(特許文献7)。
(2)Aβの両側注入モデルラットに対する廃鶏ムネ肉プラズマローゲンによる空間認知学習機能障害の抑制作用発現は、廃鶏ムネ肉PLsの認知機能障害の治療効果の可能性を立証するものである(非特許文献16)。
【0158】
4.LPS誘発性中枢神経系炎症モデルマウスの炎症症状の緩和作用の検証例(非特許文献8)
1)廃鶏ムネ肉PLsによるミクログリアの活性化抑制は、その中枢神経系炎症を介する認知機能障害の緩和・治療の可能性を立証するものである。
2)廃鶏ムネ肉PLsによる脳内サイトカインのTNFαのm-RNAの増加と脳内IL-2βの発現抑制作用は、廃鶏ムネ肉PLsによる中枢神経系炎症を介する認知機能障害の緩和と治療の可能性を立証するものである。
3)廃鶏ムネ肉PLsによる脳内Aβの蓄積抑制作用は、その中枢神経系炎症を介する認知機能障害の緩和・治療の可能性を立証するものである。
5.腹腔内注射LPS誘発性の中枢神経系炎症モデルマウスの中枢神経系炎症とAβ蓄積の抑制作用の検定([非特許文献8])
1)廃鶏ムネ肉PLsによる中枢神経系グリア細胞の活性化抑制を介する中枢神経系炎症の消炎は、廃鶏ムネ肉PLsの認知機能障害の予防と緩和作用の可能性を立証するものである。
2)廃鶏ムネ肉PLsによる前頭前野及び海馬へのAβ蓄積の抑制作用は、廃鶏ムネ肉PLsのAβ蓄積の抑制作用を介した認知機能障害の抑制効果の可能性を立証するものである。
3)廃鶏ムネ肉PLsはLPSを腹腔内注射して誘発される炎症で惹起するPLsの減少の抑制を介した認知機能障害の抑制効果の可能性を立証するものである。
4)廃鶏ムネ肉PLsは、神経細胞培養系における神経細胞死の抑制を介して、神経細胞死に伴う認知機能障害を直接的に治療する作用を発揮する可能性を立証するものである。(非特許文献9)
5)その他
(1)廃鶏ムネ肉由来複合脂質画分は、その認知機能障害発症危険因子の高血糖及び高脂血の抑制を介して、認知機能障害の発症を遅延させる作用発現の可能性を立証するものである。([非特許文献18])
(2)廃鶏ムネ肉由来複合脂質組成物は、カルノシン食による認知機能低下の抑制を介して認知機能障害を予防及び又は緩和作用発現の可能性を立証するものである。(非特許文献19)
【0159】
検証例2
1.廃鶏ムネ肉PLsの認知機能障害抑制効能に対応する、鶏由来DHA結合型PLsの認知機能障害の抑制効能が顕著に増大するか否かの検証例
1)PLsのDHAとの結合適性の検証
PLsはDHAを貯蔵する主要なリン脂質である([非特許文献26])。
2)DHA-PLsの生化学・生理学的特異性の検証
(1)単分子(遊離)では、水系(乳濁)の方がより安定である([非特許文献1])。
(2)複合系(脂質二重層)では、主要な膜構成成分であるため、単分子系より遥かに安定化している。
(3)DHA-PLsは、不安定なビニルエーテル結合に隣接して結合しているバルクな脂肪酸であるDHAによって、ラジカルや活性酸性水等のビニルエーテル結合箇所へのアプローチが立体障害的にブロックされる結果、安定化されると考えられる([非特許文献1])。
(4)グリセロリン脂質のSN-2位に結合している脂肪酸残基は、最も加水分解を受けにくく、消化吸収系も分解を受けずに上手く通過して吸収され、且つPLsも血中に取り込まれることも相俟って、DHA-PLsは効率的に血中に移行するものと判断される。
【0160】
(5)脳血液関門からの脳内移行性については、DHAはグリセライド構造体では脳内には移行出来ず、リン脂質構造が必須と考えられており、且つPLsはDHAとの結合選択性が大きく(上述)、DHA-PLs構造は脳血液関門通過の最敵分子種形態と言っても過言ではない。
(6)脳内に移行後は、PLs産生系の神経細胞内小胞体ペルオキシソームにアプローチして、DHAがPLs生合成系の律速酵素Far1(fatty
acyl-CoA reductase1)の発現を促進することによって、PLs産生を亢進させる([非特許文献10])。
(7)脳内PLsの濃度増加は、主として中枢神経系炎症の抑制を介して、認知機能障害の発現抑制とその緩和及び治療を促進させる(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献10、及び特許文献1)。
以上、その分子内の直接的安定化と認知機能障害の改善・是正に対する相乗効果が相俟って、DHA-PLsは、認知機能の改善・維持・向上に最適な分子種と言うことができる。
【0161】
検証例3
(1)成年期から予防が必要
1)米国ワシントン大のモリス教授が統括したDIAN研究プロジェクトの画期的成果として、40歳代からAβ及びτ蛋白の脳内蓄積が起こっていることが明らかにされた結果、認知症発症診断時に於いては“末期状態”を来たしているため、該認知症患者に対する治療法が殆ど無いことが明らかされた。
* Dominantly Inherited Alzheimer Network(遺伝性アルツハイマー病ネットワーク):家族性ADの原因遺伝子を持つ可能性が高い家族(100名強)を、AD発症前の状態から長期に追跡することによって、ADへと向かう変化が検出できるか否か、そして症状が現われるどれくらい前から、脳に変化が現れるのを見つけることを目指すもので、2005年にスタートし7年後の2012年に上記の画期的成果が得られた(非特許文献30 Morris, JC. et, al. Clinical and biomarker changes in dominantly Inherited Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2012 Aug 30;367(9)795-804、[非特許文献20][アルツハイマー病を治せ!]
NHKスペシャル取材班著(主婦と生活社 2014))
2)先ずは、AD発症の先駆的症状であるAβの蓄積を抑制することが先決で、該[Aβの蓄積]に連動して起こるτ蛋白のニューロン内凝集([τの縺れ];ニューロン死を誘発)も抑制することが求められる。
3)以上の症状発症は、ミクログリア細胞を“戦闘モード”へと活性化させ、放出された強酸化性因子やサイトカインの攻撃に依り結果的にニューロンを死に至らしめることになり、依って、“ミクログリア活性化”を抑制することが求められる。
【0162】
(2)上記脳内異常の是正に寄与する産卵成鶏胸肉PLs(以下、「胸肉PLs」と言う。)の各種作用
1)胸肉PLsは[脳内Aβの蓄積]を抑制する(特許文献第1)。
2)胸肉PLsは脳内ミクログリアの活性化を抑制する(非特許文献8)。
3)胸肉PLsはニューロンアポトーシスを抑制する(非特許文献9)。
4)胸肉PLsは脳内サイトカインのTNFα-mRNA亢進及びIL-2βの発現を抑制することに依ってニューロンの損耗を抑制する(非特許文献8)。
5)胸肉PLsはニューロン新生を促進する(特許文献7)。
胸肉PLsの上記諸々の作用は、[Aβの蓄積]抑制及びニューロン内凝集[τ蛋白]誘発性細胞死のニューロン新生による補強、の各々を介して、40歳代からの長期間PPLs摂取は有効な予防方法になり得る。
【0163】
(3)胸肉PLsの“四安”に付いて;*安心・安全・安定・安価
1)安心
i)胸肉の人類による食経験は永く且つその消費量も著量。
ii)飛翔時に長時間の活動が求められる胸肉は、哺乳類の心筋に相当すると考えられる。
故に、エネルギー多消費器官であるため、副生高酸化性物質も多く、これを適切に防御する抗酸化系の構築が必然である。この中核を成すのが細胞膜構成成分の強還元性PLsであって、そのために含有量が多いものと考えられる。
iii)上記に依って、PLsは生体内細胞膜構成の重要成分であって、ヒト全リン脂質の実に18%を占める“汎用性”リン脂質である。
iv)PLsは通常、細胞内小胞体[ペルオキシソーム]で産生されるが、加齢とともにその生合成能が低下するので、その補給が求められる。
2)安全
i)胸肉PLsの製造では、一切の化学処理を排し、安全で温和な抽出処理とその精製時に含まれて居る同類のリン脂質群を天然由来の酵素で分解するに留めている。
ii)原料胸肉は、新鮮な産卵成鶏中抜き屠体から分割され、皮剥ぎを施して製造される食用精肉で鶏種・鶏舎・摂取飼料・日齢の記録及び残留農薬と抗生物質・重金属が検定記録されている。
iii)産卵成鶏は国産品。
3)安定
i)食用グレードのトコフェロール中に溶解させて安定化・抗酸化を図り、
ii)これを腸溶性ソフトカプセル化して外販、乃至は、
iii)これを、天然食用成分のみで温和にナノ乳化、
iv)ナノ乳化液を、
(i)ソフトカプセル化、
(ii)所定量を既存食品等に添加、
(iii)賦形剤を加えて噴霧乾燥して粒剤・粉剤化し、
(iv)これを、錠剤化、又は
(v)固形食品等とのドライブレンド。
4)安価
i)日用量が0.5mgと極少量で済むため妥当な原価で提供出来る
ii)上記の安定化で保存安定性が良好であり、原単位の水増しが不要
iii)原料産卵成鶏(国産)は家禽では最も廉価
iv)胸肉は鶏精肉中で最も廉価で、通常は加工用のバルクミンチとして流通
v)胸肉は鶏精肉用部位中で最大の比率で調達性に優れている
【0164】
検証例4
[ラビンチュラ類微生物のDHAリン脂質の生産性]
1)沖縄のマングローブ汽水域で採取された微細藻類から分離されたラビンチュラ類微生物12B株含有DHA量は何と21g(全DHA)/100gと桁違いに高く(下記の魚類データ参照)、その全脂肪酸中には、実に50%を超えるDHAが含有されていることが北海道大学の奥山准教授らによって明らかにされた(特許文献16、許文献17)。
(1)魚類の含有DHA(g/可食部100g)(非特許文献29)
1)クロマグロ・トロ;3.2
2)サバ(大西洋産);2.3
3)シロサケ・イクラ;2.0
4)ブリ;1.6
5)サンマ;1.6
【0165】
(2)新技術「ブドウ糖飢餓発酵法」によりリン脂質が飛躍的向上、DHA含量は更に増加
ラビンチュラ類微生物12B株はブドウ糖存在下で発酵すると大量の脂肪を蓄積する。次いで、ブドウ糖飢餓にすることにより蓄積脂肪がリン脂質に変換(13%⇒67%)する結果、DHA含量も増大する。
2)DHAリン脂質の実用化目標
(1)現状(ベンチレベル)DHAリン脂質;培養液(1g/L)の乾燥重量中11%
(2)目標DHAリン脂質;培養液(5-10g/L)の乾燥重量中20%
3)上記発酵培養液及び又はその乾燥物は、ω-3HUFA誘導体として非常に好適
(1)生体内プラズマローゲン産生系のペルオキシソームの活性化
(2)脳血液関門から脳内に容易に移行
(3)脳内DHAの常在型構造
次に、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0166】
実施例1
[産卵廃鶏の卵黄由来の精製プラズマローゲンの調製]
名達らの方法([特許文献4])に準拠して、95.6質量%純度のプラズマローゲン(PLs)を調製した。
[種鶏雌の卵黄由来の精製PLsの調製]
名達らの方法([特許文献4])に準拠して、96.7質量%純度のPLsを調製した。
【0167】
実施例2
[卵黄由来の精製PLsのナノ乳化とその安定性の検定]
95.6質量%PLsの10質量%δトコフェロール溶液5gを、キラヤサポニン15gを含む水溶液95g中にマグネチックスターラーで撹拌しながら滴下し、濁りがなくなるまで撹拌を続けるとナノ乳化液が得られた。サブミクロンアナライザーで当該ナノ乳化液中の油相粒子の平均粒径を測定した結果、58nmであった。該ナノ乳化液を水で500倍に希釈したものは、透明で、クエン酸を用いてpH4にしても全く変化がなく、95℃で30分間加熱後室温に戻しても、濁りの発生が無く、透明性に変化がなかった。該ナノ乳化希釈液を低温で蒸発乾固させて、上記特許の手法(HPLC/ELSD)でPLsの純度検定を行った結果、94質量%であることが確認された。
【0168】
実施例3
[卵黄由来の精製PLsのナノ乳化液の形状変換とその安定性]
1)実施例1で調製した92質量%PLsの0.5質量%ナノ乳化液の噴霧乾燥該ナノ乳化液100gに澱粉加水分解物(例えば、日澱科学(株)製のアミコール6H)30gを溶解させた後、卓上ミニスプレイドライヤー(例えば、ヤマト科学(株)製)を用いて、入口熱風温度110℃、出口温度60℃で噴霧乾燥を行い、92質量%PL-PEを1質量%含有する粉末状製剤が得られた。この粉末状製剤の水100倍希釈液は多少青みを呈するが、透明であった。この水希釈液中の油相粒子の粒度を測定した結果、平均粒径が61nmであった。更に、該水希釈液はクエン酸を用いてpH4にしても全く変化がなく、また、95℃で30分間加熱後、室温に戻しても混濁等の変化がなかった。このナノ乳化希釈液を低温で蒸発乾固させて、上記特許の手法(HPLC/ELSD)でPLsの純度検定を行った結果、90質量%であることが確認された。
【0169】
2)卵黄由来のPL-PE含有ゼリーの調製とその性状
水8gに乾燥卵白を溶解し、これに上白糖14gを加えて溶解させた。この液に撹拌下、95%PLsの10質量%δトコフェロール溶液120gを添加して均一化させると半透明なゼリー状の可溶化物が得られた。このものを水中に入れると略透明な水溶液が得られた。
【0170】
実施例4
[調製例3で調製した産卵成鶏が生んだ鶏卵から得られたDHA移行卵黄からPLsのDHA結合型PLsの抽出・精製]
調製例3と同様にして、DHAが移行した卵黄複合脂質を調製した。
【0171】
実施例5
[DHAが移行した卵黄由来の精製PLsの調製]
名達らの方法のHPLC/ELSD法([特許文献4])に準拠して、96%純度のDHA結合PLsを含有するPLsを調製した。
【0172】
実施例6
[前項のPLsのDHA結合割合の測定]
常法に従って、該PLsをメチルエステル化して、脂肪酸組成を測定した。その結果、PLsのSN-2結合脂肪酸中のDHA結合割合(mol%)は75%であることが判明した。
【0173】
実施例7
[96%純度のDHA結合(75%)型PLsのナノ乳化とその安定性の検定]
実施例2と同様に行って、ナノ乳化液が得られた。サブミクロンアナライザーで当該ナノ乳化液中の油相粒子の平均粒径を測定した結果、37nmであった。
該ナノ乳化液を水で500倍に希釈したものは、透明で、クエン酸を用いてpH4にしても全く変化がなく、95℃で30分間加熱後室温に戻しても、濁りの発生がなく、透明性に変化がなかった。該ナノ乳化希釈液を低温で蒸発乾固させて、上記特許の手法(HPLC/ELSD)でPLsの純度検定を行った結果、95質量%であることが確認された。
【0174】
実施例8
[ナノ乳化液の形状変換とその安定性]
実施例3に倣って、以下の通り実施した。
1)実施例1で調製した96質量%PLsの0.5質量%ナノ乳化液の噴霧乾燥
該ナノ乳化液100gに澱粉加水分解物(例えば、日澱科学(株)製のアミコール6H)30gを溶解させた後、卓上ミニスプレイドライヤー(例えば、ヤマト科学(株)製)を用いて、入口熱風温度110℃、出口温度60℃で噴霧乾燥を行い、96質量%PLsを1質量%含有する粉末状製剤が得られた。この粉末状製剤の水100倍希釈液は多少青みを呈するが、透明であった。この水希釈液中の油相粒子の粒度を測定した結果、平均粒径が40nmであった。更に、該水希釈液はクエン酸を用いてpH4にしても全く変化がなく、また、95℃で30分間加熱後、室温に戻しても混濁等の変化がなかった。このナノ乳化希釈液を低温で蒸発乾固させて、上記特許の手法(HPLC/ELSD)でPLsの純度検定を行った結果、94質量%であることが確認された。
【0175】
2)DHA結合型PLs含有ゼリーの調製とその性状
水8gに乾燥卵白を溶解し、これに上白糖14gを加えて溶解させた。この液に撹拌下、96%PLsの10質量%δトコフェロール溶液120gを添加して均一化させると半透明なゼリー状の可溶化物が得られた。このものの水100倍希釈液は略透明で、クエン酸を用いてpH4にしても全く変化がなく、また、95℃で30分間加熱後、室温に戻しても混濁等の変化がなかった。このナノ乳化希釈液を低温で蒸発乾固させて、上記特許の手法(HPLC/ELSD)でPLsの純度検定を行った結果、95質量%であることが確認された。
【0176】
実施例9
[92質量%PLsとDHA結合割合75mol%の96質量%PLsの安定性比較試験]
1)10質量%δトコフェロール溶液の遮光下密封での50℃放置試験
含量の半減期比較で、92質量%PLsが平均1週間で半減したのに対し、DHA結合型の96質量%PLsは、4週間でも減耗がなかった。
2)10質量%δトコフェロール溶液の0.1質量%ナノ乳化液の遮光下密封での60℃放置試験
含量の半減期比較で、92質量%PLsが平均5日間で半減したのに対し、DHA型結合の96質量%PLsは4週間でも殆ど減耗がなかった。
【0177】
実施例10
[脱殻オキアミミールの卵黄改質効果の検討]
1.試験条件
(1)産卵鶏種;ボリスブラウン42週齢56羽、28羽/区
(2)試験区 ;対照区・試験区
(3)飼 料 ;市販飼料(2,850kcal/kg,CP17.0%)
・対照区
市販飼料100質量%とした。
・試験区
市販飼料85質量%及び脱殻オキアミミール15質量%とした。
(4)飼養期間;1週間
2.検体処理と検定
(1)産生鶏卵の処理
割卵後、卵黄を分別し、これを凍結乾燥した。次に、これをエタノールで抽出して脂質画分を分取した。
(2)脂質画分の脂質検定
脂質画分の脂質を、ガスクロマトグラフィー及びHPLC/ELSDに依り検定した。
検定項目;EPA、DHA、PLs
3.検定結果
表1に、検定の結果を示した。
【0178】
【表1】
【0179】
以下に、脱殻オキアミミールの添加効果について、対照区と比較した結果を示す。
(1)EPA;0
(2)DHA;3.3倍アップ
(3)PLs;2.5倍アップ
以上に依り、脱殻オキアミミールに依る卵黄の顕著な改質効果が認められた。
【0180】
実施例11
[ω-3HUFA誘導体移行種鶏雌の金冠由来の-PLsと産卵廃鶏の胸肉由来PLs及びプラセボ区設定との対比での「Aβ及びτの脳内蓄積推移解明]の単盲検オープントライアル臨床試験]
1.検体
(1)DHA-PLs;96.7%純度で、DHA結合率が75mol%
検体の調製は、[DHA移行種鶏雌の金冠]で調製例2
5.2)に準拠して行った。
(2)PLs;92質量%[廃鶏ムネ肉由来]
2.対象とn数
15名5区(DHA-PLs3名×[0.25mg区と0.5mg区]、PLs3名×[0.25mg区と0.5mg区]及びプラセボ区3名)の男女の認知症未病状態の被験者で、60±5歳で選抜した。男女の構成は、男性5名と女性10名であった。
【0181】
3.条件
(1)日用量;0.25mg(朝)と0.5mg(0.25mg×朝夕2回)
(2)剤型;ソフトカプセル
(3)期間;40週
(4)検査間隔;0、20週、40週
4.評価法
β蛋白のPET画像解析に依った。尚、AβPETの検査薬にはPIB(非特許文献31)を用いた。
蓄積量は、認知機能障害の進行度に呼応するPET画像のSUVR(Standardized Uptake Value Ratio)のスコア(増減)で示した。
【0182】
5.評価結果
<0.25mg区>
表2に、0.25mg区の評価結果を示した。
(1)開始時のPET画像の所見概要
[Aβ画像]
被験者が、認知症未病状態の被験者であるため、青一色は認められず、「青」をバックにした僅かに「赤」を含む「黄色+緑」の展開が認められた。
(2)評価
1)[DHA-PLs]及び[PLs]は、何れも、低日量の経口摂取で認知症未病状態の被験者のAβに対する蓄積抑制作用が示唆された。蓄積Aβに対する低減化については、何れも40週目で低減作用が示唆された。
【0183】
2)[PLs]対比で[DHA-PLs]は、上記において同等の傾向を示した。
【0184】
【表2】
【0185】
<0.5mg区>
表3に、0.5mg区の評価結果を示した。
(1)開始時のPET画像の所見概要
[Aβ画像]
被験者が、MCIであるため、青一色は認められず、「青」をバックにした僅かに「赤」を含む「黄色+緑」の展開が認められた。
(2)評価
1)[PLs]及び[DHA-PLs]は、低日量の経口摂取で認知症未病状態の被験者のAβの蓄積抑制及び蓄積低減効果が示唆された。
2)[PLs]対比で[DHA-PLs]は、上記において効能が高い傾向が示唆された。
(3)総括評価
以上に依って、[PLs]及び[DHA-PLs]、就中、[DHA-PLs]は、0.25mgの経口極低日用量においても、認知症未病状態の被験者のAβの蓄積抑制及び蓄積低減効果を有することが示唆された。
【0186】
【表3】
【0187】
実施例12
[ω-3HUFA誘導体移行種鶏雌の金冠由来の-PLsと産卵廃鶏の胸肉由来PLs及びプラセボ区設定との対比での「海馬の減容状態推移の解明」単盲検オープントライアル臨床試験]
1.検体
(1)DHA-PLs;96.7%純度で、DHA結合率が75mol%
[DHA移行種鶏雌の金冠]で調製例2 5.2)に準拠
(2)PLs;92質量%[廃鶏ムネ肉由来]
2.対象とn数
15名5区(DHA-PLs3名×[0.25mg区、0.5mg区]、PLs3名×[0.25mg区、0.5mg区]及びプラセボ区3名)の男女の認知症未病状態の被験者で、60±5歳で選抜した。男女の構成は、男性5名と女性10名であった。
【0188】
3.条件
(1)日用量;0.25mg(朝)及び0.5mg(0.25mg×朝夕2回)
(2)剤型;ソフトカプセル
(3)期間;40週
(4)検査間隔;0、20週、40週
4.評価法
被験者の脳MRI画像における「海馬」の減容状態を検査した。
5.評価結果
表4~5に、評価結果を示した。
(1)0.25mg区
1)[PLs]及び[DHA-PLs]共に、低日量の経口摂取で認知症未病状態の被験者の海馬の減容に対する抑制作用は低いことが示唆された。
【0189】
【表4】
【0190】
(2)0.5mg区
1)[PLs]及び[DHA-PLs]は、何れも、低日用量の40週間の経口摂取で認知症未病状態の被験者の脳MRIにおける海馬の減容を抑制する傾向が示唆された。
(3)総括評価
[PLs]及び[DHA-PLs]は、何れも、低日用量の40週間の経口摂取で認知症未病状態の被験者の脳MRIにおける海馬の減容を抑制する傾向が示唆された。
【0191】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0192】
以上詳述した通り、本発明は、安全・安定なプラズマローゲンとその製剤及び用途に係るものであり、本発明により、1)生物系素材由来の、プラズマローゲンのSN-2にDHA(ドコサヘキサエン酸)を結合して成るプラズマローゲン含有複合脂質を提供する、2)当該プラズマローゲン複合脂質をナノ乳化(又は可溶化)して成る水性製剤(乳液、ゼリー、粒体、粉体等)を提供する、3)DHA含有ω-3高度不飽和脂肪酸(ω-3HUFA)誘導体を含む飼料で飼養された鶏の生体組織に当該ω-3HUFA誘導体が移行した生体組織特異的な構成比を有するプラズマローゲン含有複合脂質等から成る、ω-3HUFA結合型のラズマローゲン等を有効成分として含有する認知症の緩和、改善、予防用びサプリメント又は食品としての加工品を提供する、4)ω-3HUFA配合型のプラズマローゲン等を有効成分として含有する神経変性疾患及び/又は精神疾患の治療用製剤等を提供する、5)認知症発症前の成人(健常者)を被験者として、該被験者の認知症未病状態を判定する方法を提供する、等の格別の効果が得られる点で、本発明は、産業上の利用可能性を有する。