(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】抗原特異的T細胞の生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220214BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220214BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220214BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220214BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220214BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220214BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220214BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220214BHJP
C40B 30/04 20060101ALI20220214BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220214BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12Q1/02
C12N5/10
C12N15/12
A61P35/02
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61K35/15 Z
A61K39/00 B
A61P37/04
G01N33/53 D
G01N33/543 541A
G01N33/545 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C40B30/04
C12Q1/6869 Z ZNA
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2018568171
(86)(22)【出願日】2017-03-16
(86)【国際出願番号】 US2017022663
(87)【国際公開番号】W WO2017161092
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-11
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518329653
【氏名又は名称】ネクシミューン インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】593072783
【氏名又は名称】ザ ジョーンズ ホプキンズ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE JOHNS HOPKINS UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーケー マティアス
(72)【発明者】
【氏名】サントス ホセ ルイ
(72)【発明者】
【氏名】キム ソジョン
(72)【発明者】
【氏名】シュネック ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】コスミデ アリッサ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0051698(US,A1)
【文献】特開2014-098035(JP,A)
【文献】Perica K et al.,Enrichment and expansion with nano-artificial antigen presenting cells for adoptive immunotherapy.,ACS Nano,2015年07月28日,9, 7,6861-6871
【文献】Perica K. et al.,Magnetic field-induced T cell receptor clustering by nanoparticles enhances T cell activation and stimulates antitumor activity.,ACS Nano,2014年02月24日,8, 3,2252-2260
【文献】Schilbach K. et al.,Cytotoxic minor histocompatibility antigen HA-1-specific CD8+ effector memory T cells: artificial APCs pave the way for clinical application by potent primary in vitro induction.,Blood,2005年07月01日,106, 1,144-149
【文献】Garber HR. et al.,Adoptive T-cell therapy for leukemia.,Molecular and Cellular Therapies,2014年,2,25
【文献】Lu XL. et al.,Induction of the Epstein-Barr virus latent membrane protein 2 antigen-specific cytotoxic T lymphocytes using human leukocyte antigen tetramer-based artificial antigen-presenting cells.,Acta Biochimica et Biophysica Sinica,2006年,38, 3,157-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6869
C12N 5/0783
C12Q 1/02
C12N 5/10
C12N 15/12
A61P 35/02
A61P 35/00
A61K 35/17
A61K 35/15
A61K 39/00
A61P 37/04
G01N 33/53
G01N 33/543
G01N 33/545
G01N 33/50
G01N 33/15
C40B 30/04
C12N 15/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種幹細胞移植後に再発した血液癌を有する患者を治療するための増大されたT細胞を製造する方法であって、
好適なドナーからの
末梢血単核球(PBMC)を含む試料を提供すること
;
CD8+T細胞に関して豊富化させること;
前記試料を
ナノ粒子に接触させること(ここで、前記ナノ粒子は、常磁性であり、
その表面に(1)MHC
クラスIペプチド抗原提示複合体であって、
一種以上の血液癌関連ペプチド抗原とMHC結合ナノ粒子の受動的充填によって調製される前記MHC
クラスIペプチド抗原提示複合体(シグナル1)と、(2)抗CD28共刺激リガンド(シグナル2)とを含む
)
5分から2時間前記常磁性ナノ粒子の近くに磁界を配置することにより抗原
特異的T細胞を活性化すること
;
磁性カラムを用いて前記常磁性
ナノ粒子に結びついた抗原特異的T細胞を回収すること
により、抗原特異的CD8+T細胞について豊富化すること
;及び
前記回収されたT細胞を
培地中で7~21日間増大させること
(ここで、増大したT細胞は、前記ペプチド抗原に特異的であり、セントラルメモリー及びエフェクターメモリー表現型を有するCTLを少なくとも約10
8
個含む)、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、約10nm~約500nmの平均直径のサイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記T細胞がサイトカインの存在下での培養で増大される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
常磁性ナノaAPC
が2~5種の血液癌関連ペプチド抗原を提示する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記血液癌が、急性骨髄性白血病又は骨髄異形成症候群であり、前記ペプチド抗原の一種以上がサバイビン、WT-1、PRAME、RHAMM、及びPR3から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血液癌が、多発性骨髄腫であり、前記T細胞がNY-ESO-1、WT-1、及びSOX2抗原の一種以上で豊富化され、増大される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記血液癌がリンパ腫であり、T細
胞がEBV抗原で豊富化され、増大される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
シグナル1及びシグナル2が同じナノ粒子集団上にある、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記
増大されたT細胞の抗原特異的T細胞の成分は、該試料中のT細胞の少なくとも約5%のT細胞~少なくとも25%のT細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記抗原特異的T細胞は、前記試料から約100倍~約10000倍に増大される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が急性骨髄性白血病(AML)又は骨髄異形成症候群を有する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
MHCがMHC-Igである、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記T細胞及び常磁性ナノ粒子が磁界の存在下で少なくとも
約10分~1時間インキュベートされる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記T細胞及び常磁性ナノ粒子が磁界の存在下で少なくとも
5分間インキュベートされる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子が10~250nmの平均直径を有する、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記
CD8+T細胞が
、次の表現型:低PD-1発現;セントラルメモリー表現型(CD3+CD45RA-、CD62L+);及びエフェクターメモリー表現型(CD3+、CD45RA-、CD62L-)を含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
10
9
個よりも多いCTLが生成される、請求項1~16のいずれかの方法で製造されたT細胞。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ナイーブな抗原特異的前駆体は希少であり100万に1つというほど少ないものであり得るため、抗原特異的T細胞の増大は困難である。(例えば)養子療法に必要とされる多数の腫瘍特異的T細胞を産生するには、従来の方法ではリンパ球を何週にもわたり抗原で刺激し、多くの場合、この後に労力のかかるプロセスでT細胞選択及びサブクローニングが行われる。さらに、リンパ球(例えば、抗CD3/抗CD28ビーズ)の増大に現状使用されている様々なプロセスは、ある程度枯渇した表現型を示すT細胞を生成する傾向がある。Sachamitr P.et al.,Induced pluripotent stem cells:challenges and opportunities for cancer immunotherapy,Front Immunol.2014 Apr 17;5:176を参照。
【0002】
治療目的及び診断目的の両方において、枯渇した表現型を示さないT細胞を含めて、多数及び/または高出現頻度の抗原特異的T細胞を迅速に産生することができる技術が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、様々な態様において、治療及び/または診断目的のための抗原特異的T細胞及びそのT細胞受容体(TCR)の特定及び特性決定を可能にする抗原特異的T細胞の磁気的豊富化及び/または増大を提供し、さらに治療用の抗原特異的遺伝子操作T細胞の生成も提供する。豊富化及び/または増大のステップ中に磁界の存在下で常磁性ナノaAPCをインキュベートすることで、T細胞表面上の常磁性粒子の磁気的クラスター化を通じてT細胞が活性化される。
【0004】
様々な態様において、本発明は、養子免疫療法のための抗原特異的T細胞集団を増大する方法を提供し、当該T細胞には異種T細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作T細胞が含まれる。本発明の実施形態に従って増大されたT細胞は多機能表現型(Tcm、Tem)を示し、これは、枯渇した表現型により近い抗CD3/抗CD28を用いて非特異的に増大されたT細胞とは対照的である。
【0005】
一部の実施形態において、本発明は、特に抗原特異的T細胞の磁気的豊富化及び増大のために構成された人工抗原提示細胞を提供し、これには抗原提示複合体(シグナル1)及びリンパ球共刺激シグナル(シグナル2)(例えば、抗CD28)を別々のビーズに分離して、制御レベル及びプロセスのバリエーションの追加を可能にすることが含まれる。
【0006】
さらに他の態様において、本発明は、多数の候補抗原における、T細胞集団中の反応特異性をスクリーニングする方法を提供する。当該方法は、磁気カラム及び常磁性aAPCによる抗原特異的T細胞の連続的豊富化を用い、陰性分画をこの後の豊富化ステップに使用する。各豊富化ステップにおいて、異なるペプチド抗原を提示するaAPCのカクテルによる提示を通じて、数種の候補抗原をバッチ処理することができる。各連続的豊富化ステップで複数の候補抗原ペプチドをスクリーニングすることができるため、当該方法によって、元の試料中の抗原特異的T細胞前駆体の出現頻度を減らすことなく、少なくとも75種の抗原の試験が容易に可能になる。
【0007】
例示的な実施形態において、本発明は、急性骨髄性白血病(AML)または骨髄異形成症候群などの血液悪性腫瘍を有する患者を治療する方法を提供する。一部の実施形態において、当該患者は同種幹細胞移植後に再発している。HLAが一致するドナーからのT細胞供給源を用いることで、抗原特異的T細胞は、磁気カラムを少なくとも2種または3種の腫瘍関連ペプチド抗原を提示する常磁性ナノaAPC(複数可)と共に用いて、磁気的に豊富化され活性化される。ペプチド抗原は、調製されたナノaAPCに受動的に充填され、リガンドは、免疫グロブリン配列のFc部分のC末端付近で遺伝子操作によりタンパク質に組み入れた遊離システインを通じて、粒子に化学的に結合する。例えば、aAPCは、同じまたは異なるナノ粒子集団上にシグナル1及びシグナル2を含むことができる。
【0008】
一部の実施形態において、磁気的活性化は少なくとも5分間、例えば5分~5時間または5分~2時間発生し、次に培地中で少なくとも5日間、一部の実施形態においては最大3週間、増大が行われる。得られたCD8+ T細胞は表現型的に特性決定して、セントラルメモリー表現型またはエフェクターメモリー表現型及び多機能性であることを確認することができる。増大されたT細胞は、抗腫瘍応答を確立するために患者に投与することができる。
【0009】
本発明の他の態様及び実施形態は、以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】T細胞活性化の文脈におけるシグナル1及びシグナル2(左パネル)と、常磁性粒子上での人工抗原提示細胞の構築(右パネル)を示す図である。同種のT細胞のみがaAPCによって活性化される。
【
図2】本発明の実施形態によるナノ粒子上に提示され得る異なる共刺激シグナル(シグナル2)を示し、またシグナル2を別々の粒子上に設置することにより達成されるシグナル2の制御を示す図である。
【
図3】磁界の存在下でのT細胞の表面上における常磁性粒子とT細胞共受容体(CD3ε)とのクラスター化を実証する図である。
【
図4】磁界の存在によって常磁性aAPCを有するT細胞の増殖が増強されることと、この増強が別々のナノ粒子上に存在するシグナル2の量に依存することとを示す図である。
【
図5A】シグナル1及びシグナル2が、別々のナノ粒子上に存在する場合であってもT細胞の増大を支援し得ること(A、左パネル)と、得られたCD8 T細胞が両方のシグナルを提示するaAPCによって活性化されたものと同等であること(A、右パネル)とを示す図である。
【
図5B】両方のシグナルを提示するaAPCにより活性化されたT細胞のサイトカイン分泌プロファイル(分泌したサイトカインまたはエフェクター分子の数)を、別々の粒子上で提示されるシグナルを有する場合と比較して示す図である。
【
図6A】別々にシグナル1及びシグナル2を含有する常磁性ビーズにおける磁界の存在下でのクラスター化を、クラスター化しないポリスチレン粒子と比較して示す図である。
【
図6B】磁気的増大システムで観察された増大の増加を示す図である。
【
図7】シグナル1及び2が十分に近接してクラスター化した場合に最適なT細胞増大が見られることを示す図である。粒子サイズの増加につれて、S1+S2アプローチの有効性が減少する(右パネル)。それに対し、両方のシグナルを含有するナノ粒子は反対の効果を示す(左パネル)。
【
図8】共刺激のタイプを変化させて活性化プロファイルをカスタマイズすることができることを示す図である。
【
図9】クローン型T細胞受容体をシークエンシングする前の細胞精製に使用されるゲーティングスキームを示す図である。最初にナイーブT細胞を採取し、E+Eシステムを用いてナノaAPCで刺激した。7日目に細胞を採取し、フローサイトメトリーにより解析した。左パネルは、培地中で見られたリンパ球集団限定の事象の総数を示している。中央パネルでは、生/死細胞を染色し生細胞に排他的に限定したものであり、右パネルでは、trp-2ペプチドで充填したMHC_Ig二量体を染色に使用し、陽性の細胞のみを選別した(およそ18.3%)。次にこれらの細胞をTCRシークエンシングに送った。結果は
図10に示されている。
【
図10】TCRシークエンシング解析に基づいて生産的クローン及び非生産的クローンの数を示す図である。
【
図11A】上位クローン(Carreno et al,Science 15;348(6236):803-8(2015)において、>0.1%の出現頻度及び>100リードとして特定)の出現頻度(パネルA)を示す図であり、磁気的豊富化及び増大の後の生産的クローンの出現頻度(パネルB)と比較するものである。
【
図11B】磁気的豊富化及び増大の後の生産的クローンの出現頻度(パネルB)を示す図である。
【
図12】総リードのパーセントに基づいてT細胞クローン型の出現頻度を示す図である。
【
図13】全クローンについてのV及びJのペアリングの3Dヒストグラムである。
【
図14】総リードに基づいた、上位10種のクローンについてのV及びJのペアリングの3Dヒストグラムである。
【
図15】健康なドナーからの機能的に活性のヒトネオ抗原特異的CD-8+ T細胞の産生を示す図である。磁気的豊富化及び増大のプロセスを用いて、MCF-7乳癌からの3個のネオエピトープを同時に試験した。
【
図16】部位特異的MHC結合を有するナノ粒子へのペプチドの受動的充填により、1週間後に増大が高められたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、様々な態様において、治療及び/または診断目的のための抗原特異的T細胞及びそのT細胞受容体(TCR)の特定及び特性決定を可能にする抗原特異的T細胞の磁気的豊富化及び/または磁気的増大を提供し、さらに治療用の抗原特異的遺伝子操作T細胞の生成も提供する。磁気的豊富化とは、磁気カラムによってT細胞集団から抗原特異的T細胞を分離し、一方他の細胞(非同種のT細胞を含む)が通過できるように、自らの表面にMHCペプチド抗原提示複合体を有する常磁性ナノ粒子を使用することを指す。豊富化されたT細胞の増大は、磁界の存在下でも不在下でも起こり得る。増大の磁気的増強とは、自らの表面にMHCペプチド抗原提示複合体を有する常磁性ナノ粒子及び1種以上のリンパ球共刺激リガンド(同じ粒子上でも異なる粒子上でもよい)を用いたT細胞の増大及び/または活性化を指し、磁界の存在によってナノ粒子及びTCRの磁気的クラスター化が誘導され、それによって活性化及びその後の抗原特異的T細胞分画の増大が推進される。T細胞増大を推進するための、ナノスケール人工抗原提示細胞に対する磁気的クラスター化はUS2016/0051698に開示されており、参照により本明細書に組み込まれる。様々な実施形態において、豊富化及び増大のプロセスは磁気的活性化を含み、このときシグナル1及びシグナル2(同じまたは異なるナノ粒子集団上にある)を有する常磁性ナノaAPCは、磁界の存在下でインキュベートされる。概して、磁界の存在下でのインキュベートは、少なくとも5分間、または少なくとも10分間、または少なくとも15分間、または少なくとも30分間、または少なくとも1時間、または少なくとも2時間行われる。例えば、磁界の存在下でのインキュベートは、5分~約2時間、または約10分~約1時間行われ得る。
【0012】
様々な態様において、本発明は、養子免疫療法のための抗原特異的T細胞集団を増大する方法を提供し、当該T細胞には異種T細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作T細胞が含まれる。養子免疫療法はex vivoでの免疫細胞の活性化及び増大を伴い、得られた細胞は、がんなどの疾患治療のために患者に移行させる。例えば養子移入を通じて、抗原特異的な細胞傷害性(CD8+)リンパ球(CTL)の応答を誘導することは、十分な数及び出現頻度の活性化された抗原特異的CTLを(希少な前駆体細胞からの場合も含めて)比較的短時間で産生することができれば、魅力的な療法となるであろう。このアプローチは一部の実施形態においては、疾患の再発を防止する長期記憶ももたらし得る。がん免疫治療及びCTLを伴う免疫療法に加え、本発明はCD4+ T細胞及び制御性T細胞を含めた他の免疫細胞についても有用であり、したがって、特に感染性疾患及び自己免疫疾患に広く適用可能である。さらに、本発明の実施形態に従って増大されたT細胞は、枯渇した表現型により近い抗CD3/抗CD28により非特異的に増大されたT細胞とは対照的に、多機能表現型(Tcm、Tem)を示す。
【0013】
一部の実施形態において、セントラルメモリー表現型またはエフェクターメモリー表現型を有するT細胞(それぞれTcmまたはTem)が本開示に従って生成され、次に、当該細胞にキメラ抗原受容体または異種TCRが導入されて、養子療法に用いるCAR-T細胞が生成される。このような細胞は、本明細書で説明されているプロセスを用いてin vivoで活性化及び増大させることができる。
【0014】
さらに他の実施形態において、ナノ粒子は、シグナル1としてCAR-T受容体(例えば、CD19)と結合するリガンドを含む。これらの実施形態によるナノ粒子は、磁気性活性化及びその後のCAR-T細胞の増大を可能にする。
【0015】
例えば、様々な実施形態において、本発明の実施形態に従って増大されたCD8+リンパ球は以下の表現型を含む:PD-1低発現型;セントラルメモリー表現型(CD3+、CD44+、CD62L+);及びエフェクターメモリー表現型(CD3+、CD44+、CD62L-)。一部の実施形態において、本発明の実施形態に従って豊富化及び増大されたCD8+リンパ球は、同種の抗原で充填されたaAPCで刺激すると、炎症マーカー(例えば、IFNγ、TNFα、IL-2、MIP-1β、GrzB、及び/またはパーフォリン)を生成する。
【0016】
一部の態様において、本発明は、表現型的に及び/または遺伝子型的に特性決定して生産的かつ有効な抗原特異的TCRを特定することができる、多数の抗原特異的T細胞を迅速に産生する方法を提供する。例えば、当該態様において、本発明は、抗原特異的T細胞受容体(TCR)を特定する方法を提供する。当該方法は、本明細書でさらに詳細に説明するように、表面にMHCペプチド抗原提示複合体を有する常磁性ナノ粒子を用いて、不均一なT細胞集団を磁気的に豊富化させ増大させることを含む。次に、増大されたT細胞を、MHCペプチドリガンドを用いて(例えば、フローサイトメトリーによって)選別して、抗原特異的TCRに関して高度に豊富化されたT細胞集団を得る。次に、TCRレパートリーをシークエンシング及び/またはプロファイリングすることができる。増大されたT細胞の機能的特性決定と共に、定義された親和性を有するTCRを短時間で特定することができる。このようなTCRは、養子療法に用いる遺伝子操作されたT細胞を産生するための異種発現に有用である。
【0017】
当該態様における本発明により、十分な数のT細胞をわずか数日でシークエンシング用に産生することが可能になる。例えば一部の実施形態において、磁気的に豊富化された細胞は、培地中で約2日~最大9週間、または一部の実施形態では5日~約2週間(例えば、約1週間)増大される。DNAシークエンシングは、パイロシークエンシング、次世代シークエンシング(NGS;DNAまたはRNAシークエンシング)、または合成によるシークエンシングを含めた任意の公知のプロセスを用いて行うことができる。概して、シークエンシングはTCRアルファ及び/またはベータ鎖を含み、これにはV、D、及びJ遺伝子領域によって形成されるTCRの相補性決定領域(例えば、ベータ受容体鎖のCDR3)が含まれる。
【0018】
別の態様において、本発明は、T細胞における、候補抗原ペプチドのライブラリーへの反応性をスクリーニングする方法を提供する。様々な実施形態において、当該方法は、常磁性ナノ粒子のカクテルを用いて、集団中の抗原特異的T細胞を磁気的に豊富化させ増大させることであって、常磁性ナノ粒子の各々が、自らの表面に、候補抗原ペプチドを提示するMHCペプチド抗原提示複合体を有する、豊富化させ増大させることを含む。当該方法はさらに、豊富化され増大されたT細胞を、例えば候補ペプチドとの反応性について表現型的に評価することを含む。
【0019】
一部の実施形態において、最初の磁気的豊富化ステップからのフロースルー分画により、連続的な磁気的豊富化が実施され、各連続的豊富化において、異なる目的抗原ペプチドまたは異なる抗原ペプチドのセットが用いられる。例えば、一部の実施形態において、少なくとも6回、または少なくとも10回、または少なくとも20回の連続的な磁気的豊富化が実施される。各連続的豊富化ステップで5~約20種の候補抗原ペプチドをスクリーニングすることができるため、当該方法で30~400種の抗原を試験することが可能である。様々な実施形態において、元の試料中の抗原特異的T細胞前駆体の出現頻度を減らすことなく、少なくとも50種の抗原が試験され、または少なくとも75種の抗原が試験され、または少なくとも100種の抗原が試験され、または少なくとも150種の抗原が試験され、または少なくとも200種の抗原が試験され、または少なくとも300種の抗原が試験される。
【0020】
他の態様において、本発明は、異種のまたは遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)を含むT細胞の増大方法を提供する。当該方法は、異種のまたは遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)を発現するT細胞を含むT細胞集団を、磁気的に豊富化させ磁気的に増大させることを含む。豊富化及び増大は、自らの表面に、異種のまたは遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)によって認識されるMHCペプチド抗原提示複合体を有する、常磁性ナノ粒子によって行われる。一部の実施形態において、当該方法は、約10%~約40%(例えば、少なくとも約20%)の抗原特異的出現頻度で開始して、高い出現頻度及び多数の抗原特異的T細胞を約10~14日以内に生成する。
【0021】
他の態様において、本発明は、磁気的豊富化及び増大を用いて抗原特異的T細胞集団を調製する方法であって、MHCペプチド複合体がMHC結合ナノ粒子の受動的充填によって調製される方法を提供する。ナノ粒子の受動的充填は、ペプチド存在下でのMHCのリフォールディングと対比され、その後に抗原提示複合体の粒子表面に対する結合または付着が行われる。特定の抗原ペプチドに関与していない粒子のバッチを調製することにより、当該プロセスのワークフロー及びコストが大きく改善される。全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,734,013号に開示されているように、ペプチド存在下のアルカリ剥離、急速中和、及びリフォールディングによるペプチド抗原のMHC-Igに対する能動的充填によって、対応する受動的に充填されたMHC-IgよりもT細胞染色に関して10~100倍強力なリガンドが生成された。しかし、本発明の実施形態は、用いるものが受動的に充填されたHLA-Igリガンドであっても、優れた機能性を有する抗原特異的T細胞のロバストな豊富化及び増大を提供する。例えば、一部の実施形態において、MHC結合ナノ粒子は過剰なペプチド抗原とのインキュベートにより、少なくとも約2日間受動的に充填される。
【0022】
本発明の様々な態様において、磁気的豊富化及び増大がシグナル1(MHCペプチド複合体)及びシグナル2(例えば、抗CD28)の両方を含有するaAPCと共に記載されているが、一部の実施形態におけるaAPCはシグナル1のみ含有する。自らの表面に結合したリンパ球共刺激リガンドを有する第2のナノ粒子が、回収されたT細胞の豊富化ステップ中または増大中に添加される。「シグナル2」(例えば、リンパ球共刺激リガンド)を別々の粒子に提供することにより、刺激のタイミング及びタイプをコントロールすることができる。また、第2のナノ粒子は常磁性であってもよく、第2のナノ粒子が常磁性の場合、MHCペプチド抗原提示複合体を提示する第1のナノ粒子と磁気的にクラスター化することが可能になる。このような実施形態において、ナノ粒子は小さいままであることが好ましく、例えば約200nm未満、約100nm未満、または約50nm未満であることが好ましい。したがって、一部の実施形態において、第2のナノ粒子は常磁性であり、第2のナノ粒子は豊富化ステップ(複数可)中に回収されたT細胞の増大中に添加される。
【0023】
一部の実施形態において、第2のナノ粒子は常磁性ではなく、抗原特異的T細胞の磁気的豊富化中に添加される。カラムがシグナル2ナノ粒子に対し磁気的に結合することはないため、シグナル2ナノ粒子は非特異的T細胞の磁気的捕捉をもたらさない。一部の実施形態において、非常磁性ナノ粒子アプローチを連続的豊富化に使用して、各豊富化ステップにおける損失または非同種のT細胞の不要な保持を防止する。第2のナノ粒子は、既知のポリマー材料のいずれかを含めた任意の非常磁性材料とすることができ、これにはポリスチレンもしくはラテックスの粒子、またはPLGA、PLGA-PEG、PLA、またはPLA-PEGを含む粒子が含まれる。
【0024】
さらに他の態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞を産生する方法であって、自らの表面にMHCペプチド抗原提示複合体を有する常磁性ナノ粒子を用いてT細胞集団を磁気的に豊富化させ増大させて、豊富化され増大された抗原特異的T細胞集団を調製することと、キメラ抗原受容体(CAR)を用いてT細胞集団を形質転換することと、を含む方法を提供する。
【0025】
様々な実施形態において、患者はがん患者であり、増大されたCAR-T細胞は、任意選択で生体適合性のaAPCの投与による再活性化により、当該患者に養子移入することができる。一部の実施形態において、当該方法は、MHCペプチド抗原提示複合体及びリンパ球共刺激リガンドを提示する人工抗原提示細胞(aAPC)を含む医薬組成物によってブーストして、in vivoでCAR-T細胞を増大させ再活性化させることを含む。治療的用法に適したaAPCは、全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2016/105542に記載されている。
【0026】
関係する実施形態において、本発明は、CARを発現するT細胞を増大させて生成プロセスを増強する方法を提供する。例えば、当該方法は、上述のようなCARを発現するT細胞集団を提供することと、自らの表面にMHCペプチド抗原提示複合体を有する常磁性ナノ粒子の存在下で、T細胞集団を磁気的に豊富化させ及び/または増大させることと、を含み得る。
【0027】
例示的なCARとしては、モノクローナル抗体に由来し、CD3ゼータ膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン、または他のTCRシグナリングドメインに融合している短鎖可変断片(scFv)の融合物が挙げられる。CARは、例えばCD19を標的とすることにより、悪性B細胞を標的とすることができる。
【0028】
様々な態様において、本発明は、刺激シグナルを捕捉し免疫エフェクター細胞(例えば、CTLなどの抗原特異的Tリンパ球)に送達する人工抗原提示細胞(aAPC)を用いる。aAPC上に存在しT細胞活性化を支援するシグナルには、主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI及びクラスIIと関連して提示され、抗原特異的T細胞受容体(TCR)に結合する抗原ペプチドであるシグナル1;及びT細胞応答を調節する1種以上の共刺激リガンドであるシグナル2、が含まれる。本明細書で説明されているように、シグナル1及びシグナル2は別々の粒子上で供給することができ、シグナル2についての粒子材料選択(例えば、常磁性または非常磁性)によって、当該方法に対し追加の機能性がもたらされ得る。シグナル1リガンド及びシグナル2リガンドは、リガンドが粒子上で機能的な方向性を維持できるように、部位特異的様式でナノ粒子に化学結合していてもよい。
【0029】
当該システムの一部の実施形態において、シグナル1は単量体、二量体、または多量体のMHCコンストラクトによって付与される。二量体のコンストラクトは、一部の実施形態では免疫グロブリン重鎖配列の可変領域またはCH1もしくはCH2領域との融合により、創出される。MHC複合体は、1種以上の抗原ペプチドで充填される。シグナル2は、B7.1(T細胞受容体CD28の天然のリガンド)またはCD28の活性化抗体である。シグナル1リガンド及びシグナル2リガンドは、グリコシル基のバリエーションまたは遊離システインスルフヒドリル基の修飾を含んでもよい。
【0030】
一部の態様において、本発明は、養子移入に用いる抗原特異的T細胞集団を調製する方法を提供する。このような態様において、T細胞は、患者または好適なドナーからのものである。aAPCは、目的の疾患(例えば、腫瘍タイプ)に共通する抗原を提示する場合もあれば、個別化に基づいて選択される1種以上の抗原を提示する場合もある。増大ステップは、一部の実施形態では約3日~約2週間、または約5日~約10日間(例えば、約1週間)進めることができる。次に、豊富化及び増大のプロセスは、抗原特異的細胞を最適に増大させる(及びさらなる純度を得る)ために、1回以上繰り返すことができる。この後の豊富化及び増大のラウンドに関しては、試料中の増加した抗原特異的T細胞集団の増大を支援するために、追加のaAPCをT細胞に添加してもよい。ある特定の実施形態において、最終ラウンド(例えば、ラウンド2、3、4、または5)の増大はin vivoで生じ、このとき生体適合性のナノAPCは増大されたT細胞集団に添加され、次に患者に注入される。
【0031】
ある特定の実施形態において、当該方法は、抗原特異的T細胞の約1000~10,000倍の増大(またはそれ以上)を提供し、約108個より多い抗原特異的T細胞が、例えば約1ヵ月未満、もしくは約3週間未満、もしくは約2週間未満のスパンで、または約1週間で産生される。得られた細胞は、疾患治療のために患者に投与することができる。aAPCは、一部の実施形態において得られた抗原特異的T細胞調製物と共に、患者に投与してもよい。
【0032】
個別化に基づいてT細胞抗原を選択する際に、各々が候補抗原ペプチドを提示するaAPCのライブラリーを対象または患者からのT細胞でスクリーニングし、各aAPCペプチドに対するT細胞の応答を測定または定量化する。T細胞応答は、一部の実施形態では分子的に定量化することができ、例えば、サイトカイン発現または他のT細胞活性化の代理マーカーの発現を定量化することにより(例えば、免疫組織化学検査または発現された遺伝子の増幅(例えば、RT-PCR)により)行われる。一部の実施形態において、定量化ステップは約15時間から48時間の間、培地中で実施される。他の実施形態において、T細胞応答は、細胞内シグナリング(例えば、Ca2+シグナリング、またはT細胞活性化の初期の間に生じる他のシグナリング)を検出することにより測定され、次に、約15分~約5時間以内(例えば、約15分~約2時間以内)にナノaAPCを含む培地から定量化することができる。最もロバストな応答を示すペプチドが、免疫療法(一部の実施形態における、本明細書で説明されている養子免疫療法アプローチを含む)に選択される。一部の実施形態において、特にがん免疫療法に関して、患者の腫瘍が(例えば、次世代シークエンシングを用いて)遺伝子的に解析され、患者の固有の変異シグネチャー(例えば、患者の腫瘍のDNA内に、非腫瘍細胞中では生じない固有の変異を含む)から腫瘍抗原が予測される。このような予測抗原(「ネオ抗原」)を合成し、本明細書で説明されているaAPCプラットフォームを用いて、患者のT細胞に対しスクリーニングする。ひとたび反応抗原が特定/確認されると、aAPCは、本明細書で説明されている豊富化及び増大プロトコル用に調製することができ、または一部の実施形態ではaAPCを患者に直接投与することができる。
【0033】
一部の態様において、対象または患者のT細胞は、(本明細書で説明されているように)各々がペプチド抗原を提示する常磁性ナノaAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングする。各々に対するT細胞応答を測定または定量化し、それによって患者のT細胞レパートリーに関して、よって対象または患者の状態に関して、有用な情報がもたらされる。例えば、変異タンパク質、過剰発現タンパク質、及び/または腫瘍関連抗原に対するT細胞抗腫瘍応答の数及び独自性は、リスクを階層化するためのバイオマーカーとして使用することができ、一部の実施形態では、コンピューターに実装された分類子アルゴリズムを伴い、薬物耐性または薬物感受性に関する応答プロファイルを分類する場合もあれば、免疫療法(例えば、チェックポイント阻害療法または養子T細胞移入療法)の候補として応答プロファイルを階層化する場合もある。例えば、このようなT細胞応答の数または強度は、疾患進行のリスクの高さに反比例する可能性があり、及び/または患者が免疫療法(チェックポイント阻害療法、養子T細胞移入、または他のがん免疫療法が挙げられ得る)に対してなし得る応答に直接関係する可能性がある。
【0034】
さらに他の態様及び実施形態において、患者のT細胞は、各々が候補ペプチド抗原を提示する常磁性ナノAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングされる。例えば、当該アレイまたはライブラリーは、腫瘍関連抗原を提示する場合もあれば、自己抗原を提示する場合もあれば、様々な感染性疾患に関係するT細胞抗原を提示する場合もある。当該アレイまたはライブラリーを患者のT細胞と共にT細胞受容体のクラスター化を促すための磁界の存在下でインキュベートすることにより、T細胞応答の存在、及び/またはこのT細胞応答の数もしくは強度を迅速に測定することができる。この情報は、例えば、準臨床的腫瘍、自己免疫疾患もしくは免疫疾患、または感染性疾患の診断に有用であり、また、潜在的な病原または治療T細胞、T細胞抗原を含めた疾患の生物学についての初期的な理解、そして薬物または免疫療法の対象に相当する目的のT細胞受容体についての理解をもたらすことができる。
【0035】
本発明は、抗原特異的免疫細胞のex vivoでの検出、豊富化、及び/または増大が治療的または診断的に望ましいがん及び他の疾患のための免疫療法を提供する。本発明は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ヘルパーT細胞、及び制御性T細胞を含めた抗原特異的T細胞に加え、対応リガンドがaAPCの表面に提示されるNKT細胞またはB細胞についても、検出、豊富化、及び/または増大が広く適用可能である。
【0036】
一部の実施形態において、患者はがん患者である。患者への養子移入に用いるための抗原特異的CTLのex vivoでの豊富化及び増大により、ロバストな抗腫瘍免疫応答がもたらされる。当該方法に従って治療または評価され得るがんには、歴史的に免疫応答の誘発が不十分ながん、または再発率の高いがんが含まれる。例示的ながんとしては、癌腫、肉腫、及びリンパ腫を含めた様々なタイプの固形がんが挙げられる。様々な実施形態において、当該がんは、黒色腫(転移性黒色腫を含む)、結腸癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、腺管癌、肝癌、膵臓癌、腎臓がん、子宮内膜癌、精巣癌、胃癌、口腔粘膜異形成、ポリポーシス、頭頸部癌、浸潤性口腔癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、中皮腫、移行性扁平上皮尿路癌、脳癌、神経芽腫、及び膠腫である。
【0037】
一部の実施形態において、当該がんは、白血病、リンパ腫、及び骨髄腫を含めた血液悪性腫瘍である。例えば、血液悪性腫瘍は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、小児急性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群、悪性皮膚T細胞、菌状息肉症、非MF皮膚T細胞リンパ腫、リンパ腫様丘疹症、及びT細胞豊富型皮膚リンパ腫過形成であり得る。
【0038】
様々な実施形態において、当該がんはステージI、ステージII、ステージIII、またはステージIVである。一部の実施形態において、当該がんは転移性及び/または再発性である。一部の実施形態において、当該がんは症状発現前であり、本明細書で説明されているスクリーニングシステムで検出される(例えば、結腸癌、膵臓癌、または早期検出が難しい他のがん)。
【0039】
一部の実施形態において、患者は感染性疾患を有する。感染性疾患は、患者への養子移入に用いるための抗原特異的免疫細胞(例えば、CD8+またはCD4+ T細胞)のex vivoでの豊富化及び増大によって、生産的/防御的免疫反応が増強または提供され得る疾患であり得る。治療され得る感染性疾患としては、細菌、ウイルス、プリオン、真菌、寄生虫、蟯虫などが原因となるものが挙げられる。このような疾患としては、AIDS、B/C型肝炎、CMV感染症、及び移植後リンパ球増殖症(PTLD)が挙げられる。例えば、CMVは、臓器移植患者に見られる最も一般的なウイルス病原体であり、骨髄移植または末梢血幹細胞移植を受けた患者における病的状態または脂肪の主原因である。これは、このような患者の免疫不全状態に起因するものであり、免疫不全状態によって、血液反応陽性患者における潜在性ウイルスの再活性化または血液反応陰性個体における日和見感染の余地が生じる。これらの治療に対する有用な代替策は、移植手順の開始前に講じる予防的な免疫治療レジメンであり、これは患者または適切なドナーに由来するウイルス特異的CTLの産生を伴うものである。PTLDは顕著な割合の移植患者に発生し、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染に起因するものである。EBV感染は、米国における成人人口のおよそ90%に存在すると考えられている。活動的なウイルス複製及び感染は免疫システムによって抑制されているが、CMVの場合のように、移植療法によって免疫不全状態にある個体は制御を担うT細胞集団を喪失しており、ウイルスが再活性化する余地が与えられる。このことは、移植プロトコルに対する重大な障害となる。また、EBVは、様々な血液癌及び非血液癌の腫瘍促進にも関与し得る。バイオフィルムを伴う感染症、または非プランクトン状態におけるマトリックス支持型の細菌成長に関しては、CD8+ T細胞が解決に重要であり得る。バイオフィルムマトリックスに侵入する活性化CD8+ T細胞を動員する抗原特異的応答は、抗生物質抵抗性の微生物感染の除去に有効であることが判明する可能性がある。
【0040】
一部の実施形態において、患者は、患者に養子移入するための制御性T細胞(例えば、CD4+、CD25+、Foxp3+)をex vivoで豊富化及び増大することにより有害な免疫応答が弱められ得る自己免疫疾患を有する。治療され得る自己免疫疾患としては、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、I型糖尿病、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、重症筋無力症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、尋常性天疱瘡、アジソン病、ヘルペス状皮膚炎、セリアック病、及び橋本病が挙げられる。一部の実施形態において、患者は自己免疫疾患または免疫状態(例えば、前文に記載のもの)を有する疑いがあり、本明細書で説明されているような常磁性ナノaAPCのライブラリーに対するT細胞応答の評価は、この免疫状態の特定または確認に有用である。
【0041】
したがって、様々な実施形態において、本発明は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ヘルパーT細胞、及び制御性T細胞などの抗原特異的T細胞の豊富化及び増大に関与する。一部の実施形態において、本発明は抗原特異的CTLの豊富化及び増大に関与する。前駆T細胞は、患者から、または好適なHLA適合ドナーから得ることができる。前駆T細胞は複数の供給源から得ることができ、これには末梢血単核球(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、及び腫瘍が含まれる。一部の実施形態において、試料は患者からのPBMC試料である。一部の実施形態において、PBMC試料は目的T細胞集団(例えば、CD8+、CD4+、または制御性T細胞)の単離に使用する。一部の実施形態において、前駆T細胞は、当業者に公知のあらゆる技法(例えば、フィコール分離)を用いて、対象から収集された血液単位から得られる。例えば、個体の循環血からの前駆T細胞は、アフェレーシスまたは白血球搬出法によって得ることができる。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞及び前駆T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含めたリンパ球を含有する。白血球搬出法は、血液試料から白血球を分離する検査法である。
【0042】
アフェレーシスによって収集される細胞は、洗浄して血漿画分を除去し、この後の処理ステップのために細胞を適切な緩衝液または培地に入れる。洗浄ステップは、当業者に公知の方法により、例えば、半自動「フロースルー」遠心機(例えば、Cobe 2991 cell processor)を製造業者の指示に従って使用することにより、行うことができる。洗浄後、細胞を様々な生体適合性緩衝液に、例えばCaフリーMgフリーPBSに再懸濁させることができる。代替方法として、アフェレーシス試料の望ましくない成分を除去し、細胞を培地に直接再懸濁させてもよい。
【0043】
所望に応じて、赤血球を溶解し単球を枯渇させることにより、例えばPERCOLL(商標)グラジエントを通じた遠心処理により、前駆T細胞を末梢血リンパ球から単離することができる。
【0044】
所望に応じて、T細胞の分集団を、存在し得る他の細胞から分離することができる。例えば、特定のT細胞の分集団、例えば、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、及びCD45RO+ T細胞を、ポジティブセレクションまたはネガティブセレクションの技法によってさらに単離することができる。他の豊富化技法としては、細胞選別及び/または負の磁性免疫付着もしくはフローサイトメトリーを介した選択が挙げられ、例えば、ネガティブ選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに向けられたモノクローナル抗体のカクテルを使用する。
【0045】
ある特定の実施形態において、白血球搬出法によって白血球を収集し、この後に市販の磁気的豊富化カラムなどの公知のプロセスを用いて、CD8+ T細胞に関して豊富化する。次に、aAPC試薬による磁気的豊富化を用いて、CD8豊富化細胞を抗原特異的T細胞に関して豊富化する。様々な実施形態において、少なくとも約105個、または少なくとも約106個、または少なくとも約107個のCD8豊富化細胞を、抗原特異的T細胞の豊富化のために単離する。
【0046】
様々な実施形態において、免疫細胞(例えば、CD8+ T細胞)を含む試料を、磁気的性質を有する人工抗原提示細胞(aAPC)に接触させる。常磁性材料は、磁界に対しわずかな正の感受性を有する。常磁性材料は磁界によって誘引され、また常磁性材料は外部場が除去されると磁気的性質を保持しない。例示的な常磁性材料としては、以下に限定されないが、マグネシウム、モリブデン、リチウム、タンタル、及び酸化鉄が挙げられる。磁気的豊富化に適した常磁性ビーズは市販されている(DYNABEADSTM、MACS MICROBEADSTM、Miltenyi Biotec)。一部の実施形態において、aAPC粒子は鉄デキストランビーズ(例えば、デキストランでコーティングされた酸化鉄ビーズ)である。
【0047】
抗原提示複合体は、T細胞またはT細胞前駆体に提示するための抗原を有する抗原収容溝を含む。抗原提示複合体は、例えばMHCクラスIまたはクラスII分子とすることができ、二量体または多量体のMHCを提供するために連結または繋留させることができる。一部の実施形態において、MHCは単量体であるが、ナノ粒子上の緊密な会合が結合活性及び活性化に十分である。一部の実施形態において、MHCは二量体である。二量体のMHCクラスIコンストラクトは、免疫グロブリン重鎖配列との融合によって構築することができ、次に1つ以上のジスルフィド結合を通じて(そして会合した軽鎖により)会合する。一部の実施形態において、シグナル1複合体は、CD1ファミリーのメンバー(例えば、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、及びCD1e)などの非古典的MHC様分子である。MHC多量体は、ペプチドリンカーまたは化学リンカーを通じての直接的繋留によって創出される場合もあれば、ビオチン部分を通じたストレプトアビジンとの会合を介して多量体となる場合もある。一部の実施形態において、抗原提示複合体は、免疫グロブリンとの融合を伴うMHCクラスIまたはMHCクラスIIの分子複合体であり、これは、免疫グロブリン骨格がもたらす安定性及び分泌効率に基づいて、安定性が極めて高く生成が容易である。
【0048】
免疫グロブリン配列を有するMHCクラスI分子複合体は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,268,411号で説明されている。このようなMHCクラスI分子複合体は、立体構造的にインタクトな様式で免疫グロブリン重鎖の末端に形成することができる。抗原ペプチドが結合しているMHCクラスI分子複合体は、抗原特異的リンパ球受容体(例えば、T細胞受容体)に安定的に結合することができる。様々な実施形態において、免疫グロブリン重鎖配列は全長ではなく、Igヒンジ領域と、CH1、CH2、及び/またはCH3ドメインの1つ以上とを含む。Ig配列は可変領域を含んでも含まなくてもよいが、可変領域配列が存在する場合は、この可変領域は完全であっても部分的であってもよい。当該複合体は、さらに免疫グロブリン軽鎖を含むことができる。可変鎖配列が欠如しているMHCクラスIリガンド(例えば、HLA-Ig)は、粒子との部位特異的結合に使用することができ、これは、全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2016/105542で説明されている。
【0049】
例示的なMHCクラスI分子複合体は、少なくとも2つの融合タンパク質を含む。第1の融合タンパク質は、第1のMHCクラスIα鎖及び第1の免疫グロブリン重鎖(またはヒンジ領域を含むその一部)を含み、第2の融合タンパク質は、第2のMHCクラスIα鎖及び第2の免疫グロブリン重鎖(またはヒンジ領域を含むその一部)を含む。第1及び第2の免疫グロブリン重鎖は会合して、2つのMHCクラスIペプチド収容溝を含むMHCクラスI分子複合体を形成する。免疫グロブリン重鎖は、IgM、IgD、IgG1、IgG3、IgG2β、IgG2α、IgG4、IgE、またはIgAの重鎖であり得る。一部の実施形態において、IgG重鎖はMHCクラスI分子複合体の形成に使用される。多価のMHCクラスI分子複合体が望ましい場合、IgMまたはIgA重鎖をそれぞれ2価または4価の分子をもたらすために使用することができる。
【0050】
例示的なクラスI分子としては、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-Eが挙げられ、これらは個別に用いることも任意の組合せで用いることもできる。一部の実施形態において、抗原提示複合体はHLA-A2リガンドである。本明細書においてMHCという用語は、各場合においてHLAで置き換えることができる。
【0051】
例示的なMHCクラスII分子複合体は、米国特許第6,458,354号、米国特許第6,015,884号、米国特許第6,140,113号、及び米国特許第6,448,071号で説明されており、これらは全体が参照により本明細書に組み込まれる。MHCクラスII分子複合体は、少なくとも4つの融合タンパク質を含む。2つの第1の融合タンパク質は、(i)免疫グロブリン重鎖(またはヒンジ領域を含むその一部)及び(ii)MHCクラスIIβ鎖の細胞外ドメインを含む。2つの第2の融合タンパク質は、(i)免疫グロブリンκまたはλ軽鎖(またはその一部)及び(ii)MHCクラスIIα鎖の細胞外ドメインを含む。2つの第1の融合タンパク質及び2つの第2の融合タンパク質は会合してMHCクラスII分子複合体を形成する。各第1の融合タンパク質のMHCクラスIIβ鎖の細胞外ドメイン及び各第2の融合タンパク質のMHCクラスIIα鎖の細胞外ドメインは、MHCクラスIIペプチド収容溝を形成する。
【0052】
免疫グロブリン重鎖は、IgM、IgD、IgG3、IgG1、IgG2β、IgG2α、IgG4、IgE、またはIgAの重鎖であり得る。一部の実施形態において、IgG1重鎖は、2つの抗原収容溝を含む2価の分子複合体の形成に使用される。任意選択で、重鎖の可変領域が含まれてもよい。IgMまたはIgA重鎖は、それぞれ5価または4価の分子複合体をもたらすために使用することができる。
【0053】
MHCクラスII分子複合体の融合タンパク質は、MHCクラスIIポリペプチドの免疫グロブリン鎖と細胞外ドメインとの間に挿入されるペプチドリンカーを含むことができる。リンカー配列の長さは柔軟性に応じて変動し得る。
【0054】
一部の実施形態における免疫グロブリン配列は、ヒト化モノクローナル抗体配列である。
【0055】
概してシグナル2はT細胞作用分子であり、すなわち、前駆T細胞または抗原特異的T細胞に対する生物学的影響を有する分子である。このような生物学的影響としては、例えば、前駆T細胞のCTL、ヘルパーT細胞(例えば、Th1、Th2)、または制御性T細胞への分化;及び/またはT細胞の増殖が挙げられる。したがって、T細胞作用分子としては、T細胞共刺激分子、接着分子、T細胞成長因子、及び制御性T細胞誘導物質分子が挙げられる。一部の実施形態において、aAPCは少なくとも1種のこのようなリガンドを含み、任意選択で、aAPCは少なくとも2、3、または4種のこのようなリガンドを含む。
【0056】
ある特定の実施形態において、シグナル2はT細胞共刺激分子である。T細胞共刺激分子は、抗原特異的T細胞の活性化に寄与する。このような分子としては、以下に限定されないが、CD28(抗体を含む)、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、B7-H3、4-1BB、4-1BBL、CD27、CD30、CD134(OX-40L)、B7h(B7RP-1)、CD40、LIGHTに特異的に結合する分子、HVEMに特異的に結合する抗体、CD40Lに特異的に結合する抗体、及びOX40に特異的に結合する抗体が挙げられる。一部の実施形態において、共刺激分子(シグナル2)は、抗体(例えば、モノクローナル抗体)もしくはその一部、例えばF(ab’)2、Fab、scFv、または単鎖抗体、または他の抗原結合断片である。一部の実施形態において、抗体は、ヒト化モノクローナル抗体もしくは抗原結合活性を有するその一部であり、または完全ヒト型抗体もしくは抗原結合活性を有するその一部である。
【0057】
(同じまたは別々のナノ粒子上で)用いられ得る共刺激リガンドの組合せとしては、抗CD28/抗CD27及び抗CD28/抗41BBが挙げられる。これらの共刺激リガンドの比は、増大をもたらすために変化させることができる。
【0058】
例示的なシグナル1及びシグナル2はWO2014/209868で説明されており、遊離スルフヒドリル(例えば、不対システイン)を有することで、定常領域を適切な化学官能性を有するナノ粒子支持体に結合できるようにするリガンドについて説明されている。
【0059】
ナノaAPCに有用な接着分子は、ナノaAPCとT細胞またはT細胞前駆体との接着を媒介するために使用することができる。有用な接着分子としては、例えば、ICAM-1及びLFA-3が挙げられる。
【0060】
一部の実施形態において、シグナル1はペプチドHLA-A2複合体によってもたらされ、シグナル2はB7.1 Igまたは抗CD28によってもたらされる。例示的な抗CD28モノクローナル抗体は9.3mAb(Tan et al.,J.Exp.Med.1993 177:165)であり、これはある特定の実施形態ではヒト化され、及び/または完全にインタクトな抗体もしくは抗原結合断片としてビーズに結合され得る。
【0061】
一部の実施形態は、T細胞の増殖及び/または分化に作用するT細胞成長因子を用いる。T細胞成長因子の例としては、サイトカイン(例えば、インターロイキン、インターフェロン)及びスーパー抗原が挙げられる。所望に応じて、サイトカインは、融合タンパク質を含む分子複合体中に存在してもよく、またはaAPCによってカプセル化されてもよい。特に有用なサイトカインとしては、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、ガンマインターフェロン、及びCXCL10が挙げられる。任意選択で、サイトカインは増大ステップ中に培地成分によってのみ提供される。
【0062】
ナノ粒子は任意の材料から作製することができ、材料は所望の磁気的性質によって適切に選択することができ、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属、または希土類金属の合金を含むことができる。また、常磁性材料としては、マグネシウム、モリブデン、リチウム、タンタル、及び酸化鉄も挙げられる。材料(細胞を含む)の豊富化に好適な常磁性ビーズは市販されており、これには鉄デキストランビーズ、例えばデキストランでコーティングされた酸化鉄ビーズが含まれる。磁気的性質を必要としない本発明の態様において、ナノ粒子は、セルロース、セラミック、ガラス、ナイロン、ポリスチレン、ゴム、プラスチック、またはラテックスなどの非金属または有機(例えば、ポリマー)材料で作製されてもよい。ナノ粒子を調製するための例示的な材料は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはPLA及びこれらのコポリマーであり、このような実施形態に関して用いることができる。ポリマー及びコポリマーを含めて用いられ得る他の材料には、全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2014/25889に記載されているものが含まれる。
【0063】
一部の実施形態において、磁性粒子は生体適合性である。これは、豊富化され増大された細胞と共にaAPCが患者に送達されることになる実施形態において特に重要である。例えば、一部の実施形態において、磁性粒子は生体適合性の鉄デキストラン常磁性ビーズである。
【0064】
様々な実施形態において、粒子のサイズ(例えば、平均直径)は約10~約500nm以内、または約20~約200nm以内である。特に、aAPCが患者に送達されることになる実施形態において、マイクロスケールaAPCは、リンパ管によって運搬されない程度に大きく、また皮下注射した場合、注射部位にとどまる。静脈内注射した場合、aAPCは毛細血管床にとどまる。事実上、マイクロスケールビーズの輸送が不十分であることにより、最適な免疫療法のためにaAPCが輸送されるべきであるような研究は排除されている。ナノaAPCの輸送及び体内分布は、マイクロスケールaAPCよりも効率性が高い可能性がある。例えば、aAPCが最も有効であり得る2つの有望な部位は、ナイーブT細胞及びメモリーT細胞が存在するリンパ節と、腫瘍そのものである。直径が約50~約200nmのナノ粒子は、リンパ管によって取り込まれ、リンパ節まで輸送され、T細胞の大きなプールにアクセスできるようになり得る。参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2014/25889で説明されているように、ナノaAPCの皮下注射によって、対照または静脈内注射したビーズの場合よりも腫瘍成長が小さくなるという結果が得られた。
【0065】
磁気的クラスター化に関しては、ナノ粒子のサイズは10~250nmの範囲、または一部の実施形態では20~100nmの範囲である。細胞-ナノ粒子界面における受容体-リガンド相互作用については十分に分かっていない。しかし、ナノ粒子結合及び細胞活性化は、膜空間組織化に感受性を有し(これはT細胞活性化中に特に重要である)、磁界は、クラスター結合したナノ粒子の活性化増強を操作するために使用され得る。例えば、T細胞活性化によって、ナノスケールTCRクラスター化の持続的増強状態が誘導され、ナノ粒子は大きな粒子とは異なる形でこのクラスター化に感受性を有する。
【0066】
さらに、ナノ粒子のTCRクラスターとの相互作用は、受容体トリガーの増強に活用することができる。T細胞活性化はシグナリングタンパク質の集合によって媒介され、直径数百ナノメータ-の「シグナリングクラスター」は、最初にT細胞-APC接触部位の周辺で形成され、内部へ移動する。本明細書で説明されているように、外部磁界を使用して、抗原特異的T細胞(希少なナイーブ細胞を含む)を豊富化させ、TCRに結合した磁性ナノaAPCの集合を推進させることができ、それによってTCRクラスターの集合及びナイーブT細胞の活性化増強がもたらされる。磁界は、常磁性粒子に対し適切に強い力を発揮することができるが、他の点では生物学的に不活性であることから、粒子の挙動を制御する強力なツールとなる。常磁性ナノaAPCに結合しているT細胞は、外部印加磁界の存在下で活性化される。ナノaAPCはそれ自体が磁化しており、磁界源にも磁界内の付近のナノ粒子にも誘引され、ビーズ及びTCR集合体がaAPC媒介の活性化をブーストするように誘導する。
【0067】
ナノaAPCはより多くのTCRに結合し、以前活性化していたTCRがナイーブT細胞よりも大きく活性化するように誘導する。加えて、外部磁界の印加によってナイーブ細胞上でのナノaAPC集合が誘導され、T細胞の増殖がin vitroとその後のin vivoの養子移入の両方で増強される。重要なことには、黒色腫養子免疫療法モデルにおいて、磁界中でナノaAPCにより活性化されたT細胞は腫瘍拒絶を媒介する。したがって、印加磁界の使用によって、他の方法では刺激に対する応答性が不十分なナイーブT細胞集団の活性化が可能になる。ナイーブT細胞は、高い増殖能力と長期にわたる強いT細胞応答をもたらす優れた能力により、がん免疫療法に関し分化が進んだサブタイプよりも有効であることが示されているため、このことは免疫療法の重要な特徴である。したがって、ナノaAPCは、磁界によるT細胞の活性強化のために使用して、ナイーブな前駆体から増大された抗原特異的T細胞の収量や活性を高め、例えば感染症、がん、もしくは自己免疫疾患を有する患者のための細胞療法を改善することができ、または免疫抑制性の患者に予防的保護をもたらすことができる。
【0068】
分子は、吸着により、または共有結合を含めた直接的化学結合により、ナノ粒子に直接付着していてもよい。Hermanson,BIOCONJUGATE TECHNIQUES,Academic Press,New York,1996を参照。分子自体は、求核基、離脱基、または求電子基を含めた様々な化学官能基を用いて直接的に活性化することができる。活性化を行う官能基としては、アルキル及びハロゲン化アルキル、アミン、スルフヒドリル、アルデヒド、不飽和結合、ヒドラジド、イソシアナート、イソチオシアナート、ケトン、及び化学結合を活性化することが知られている他の基が挙げられる。代替方法として、小分子カップリング試薬の使用により、小分子をナノ粒子に結合させることができる。カップリング試薬の非限定的な例としては、カルボジイミド、マレイミド、n-ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビスクロロエチルアミン、二官能性アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、無水物などが挙げられる。他の実施形態において、当技術分野において周知のように、ビオチン-ストレプトアビジン連結またはカップリングなどの親和性結合を通じて、分子をナノ粒子に結合させることができる。例えば、ストレプトアビジンは、共有結合または非共有結合によってナノ粒子に結合することができ、ビオチン化分子は、当技術分野において周知の方法を用いて合成することができる。
【0069】
ナノ粒子に対する共有結合が企図されている場合、支持体は、典型的にはリンカーを通じての好適な反応物質との共有結合に利用できる、1種以上の化学部分または官能基を含有するポリマーでコーティングすることができる。例えば、アミノ酸ポリマーは、適切なリンカーを介して分子を共有結合させるのに利用できる、リジンのεアミノ基などの基を有することができる。本開示では、第2のコーティングをナノ粒子に適用してこのような官能基を提供することも企図されている。
【0070】
活性化の化学作用は、分子とナノ粒子の表面との特定の安定した結合を可能にするために使用され得る。タンパク質と官能基との付着に使用することができる方法は多数存在する。例えば、一般的なクロスリンカーであるグルタルアルデヒドを使用して、2ステッププロセスでタンパク質アミン基をアミノ化したナノ粒子表面に付着させることができる。得られた連結は加水分解的に安定である。他の方法としては、タンパク質上のアミンと反応するn-ヒドロスクシンイミド(NHS)エステルを含有するクロスリンカー、アミン-、スルフヒドリル-、またはヒスチジン-含有タンパク質と反応する活性ハロゲンを含有するクロスリンカー、アミンまたはスルフヒドリル基と反応するエポキシドを含有するクロスリンカー、マレイミド基とスルフィドとの間の結合、及び還元的アミノ化後のペンダント糖部分の過ヨウ素酸酸化によるタンパク質アルデヒド基形成、の使用が挙げられる。
【0071】
一部の実施形態において、シグナル1及び/またはシグナル2のリガンドは、免疫グロブリン配列のFc領域において遺伝子操作された遊離システインを通じて粒子と化学的に結合している。
【0072】
同じまたは異なる粒子上で同時に使用された場合の特定のリガンドの比は、抗原または共刺激リガンド提示においてナノ粒子の有効性を高めるように変動させることができる。例えば、ナノ粒子は、HLA-A2 Ig及び抗CD28(または他のシグナル2リガンド)と様々な比で結合させることができ、例えば、約30:1、約25:1、約20:1、約15:1、約10:1、約5:1、約3:1、約2:1、約1:1、約0.5:1、約0.3:1、約0.2:1、約0.1:1、または約0.03:1で結合させることができる。一部の実施形態において、当該比は2:1~1:2である。支持体に結合させるタンパク質の総量は、例えば、約250mg/ml、約200mg/ml、約150mg/ml、約100mg/ml、または約50mg/mlの粒子であり得る。サイトカイン放出及び成長などのエフェクター機能の要件は、シグナル1とシグナル2との間でT細胞活性化及び分化の場合よりも異なり得るため、これらの機能は別々に決定してもよい。
【0073】
ナノ粒子の構成は、不規則な形状から球状に至るまで、及び/またはでこぼこしたもしくは不規則な表面から滑らかな表面に至るまで、様々であり得る。非球状のaAPCは、全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2013/086500で説明されている。
【0074】
ある特定の実施形態において、aAPCは、50~100nmの範囲(例えば、およそ85nm)の常磁性粒子であり、PDI(サイズ分布)は0.2未満、または一部の実施形態では0.1未満である。aAPCの表面電荷は、0~-10mV、例えば-2~-6mVとすることができる。aAPCは1粒子当たり10~120リガンド、例えば1粒子当たり約25~約100のリガンドを有することができ、遊離システインを通じて粒子に結合しているリガンドは免疫グロブリン配列のFc領域に導入される。粒子は、約1:1の比のHLA二量体:抗CD28を含有することができ、これらは同じまたは異なる集団の粒子上に存在することができる。ナノ粒子は、同種のT細胞を強力に増大する一方で、非同種のTCRに対しては、ペプチド抗原の受動的充填によっても刺激を示さない。粒子は、凍結乾燥形態で少なくとも2年または3年間安定である。
【0075】
aAPCはT細胞に抗原を提示するため、ナイーブT細胞からのものを含めた抗原特異的T細胞の豊富化及び増大の両方に使用することができる。ペプチド抗原は、例えば、がん、がんのタイプ、感染性疾患などの所望の療法に基づいて選択される。一部の実施形態において、当該方法はがん患者の治療のために行われ、患者に対し特異的なネオ抗原が特定され、aAPC充填のために合成される。一部の実施形態において、3種から10種の間のネオ抗原が腫瘍の遺伝子解析(例えば、核酸シークエンシング)を通じて、その後に予測的バイオインフォマティクスを通じて特定される。本明細書で示されるように、当該方法において、いくつかの抗原を共に(別々のaAPC上で)、機能の損失なく用いることができる。一部の実施形態において、抗原は天然、非変異のがん抗原であり、その多くが公知である。この個別化に基づいた抗原特定のプロセスは、以下でさらに詳細に説明する。
【0076】
様々な抗原を抗原提示複合体に結合させることができる。抗原の性質は、使用する抗原提示複合体のタイプに依存する。例えば、ペプチド抗原は、MHCクラスI及びクラスIIのペプチド収容溝に結合させることができる。非古典的MHC様分子は、リン脂質、複合糖質などの非ペプチド抗原(例えば、ミコール酸及びリポアラビノマンナンなどの細菌の膜成分)の提示に使用することができる。免疫応答を誘導可能な任意のペプチドは、抗原提示複合体に結合させることができる。抗原ペプチドとしては、腫瘍関連抗原、自己抗原、同種抗原、及び感染病原体の抗原が挙げられる。
【0077】
「腫瘍関連抗原」には、由来する腫瘍によって排他的に発現される固有の腫瘍抗原、多くの腫瘍で発現されるが正常成人組織では発現されない共通腫瘍抗原(腫瘍胎児性抗原)、及び腫瘍が生じた正常な組織によっても発現される組織特異的抗原が含まれる。腫瘍関連抗原は、例えば、胚抗原、異常な翻訳後修飾による抗原、分化抗原、変異した腫瘍遺伝子または腫瘍抑制物質の産物、融合タンパク質、またはオンコウイルスタンパク質とすることができる。
【0078】
様々な腫瘍関連抗原が当技術分野において公知であり、その多くが市販されている。腫瘍胎児性抗原及び胚抗原としては、がん胎児性抗原及びアルファ-フェトプロテイン(通常、高度発現は発達中の胚に限られるが、それぞれ肝臓及び結腸の腫瘍でしばしば高度に発現)、MAGE-1及びMAGE-3(黒色腫、乳癌、及び膠腫で発現)、胎盤アルカリホスファターゼシアリル-ルイスX(腺癌で発現)、CA-125及びCA-19(胃腸、肝臓、及び婦人科系腫瘍で発現)、TAG-72(結腸直腸腫瘍で発現)、上皮糖タンパク質2(多くの癌腫で発現)、膵臓腫瘍胎児性抗原、5T4(胃癌で発現)、アルファフェトプロテイン受容体(複数の腫瘍タイプ、特に乳房腫瘍で発現)、及びM2A(生殖細胞新生物で発現)が挙げられる。
【0079】
腫瘍関連分化抗原としては、チロシナーゼ(黒色腫で発現)及び特定の表面免疫グロブリン(リンパ腫で発現)が挙げられる。
【0080】
変異した腫瘍遺伝子または腫瘍抑制遺伝子産物としては、いずれも多くの腫瘍タイプで発現されるRas及びp53、Her-2/neu(乳癌及び婦人科系がんで発現)、EGF-R、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、網膜芽腫遺伝子産物、myc(肺癌に関連)、ras、p53、乳癌に関連する非変異型、MAGE-1、及びMAGE-3(黒色腫、肺癌、及び他のがんに関連)が挙げられる。融合タンパク質としては、慢性骨髄性白血病で発現されるBCR-ABLが挙げられる。オンコウイルスタンパク質としては、HPV16型、E6、及びE7が挙げられ、これらは子宮頸癌で見られる。
【0081】
組織特異的抗原としては、メラノトランスフェリン及びMUC1(膵臓癌及び乳癌で発現);CD10(一般的な急性リンパ芽球性白血病抗原、すなわちCALLAとして以前から知られている)または表面免疫グロブリン(B細胞白血病及びリンパ腫で発現);IL-2受容体のα鎖、T細胞受容体、CD45R、CD4+/CD8+(T細胞白血病及びリンパ腫で発現);前立腺特異的抗原及び前立腺酸性ホスファターゼ(前立腺癌で発現);GP100、MelanA/Mart-1、チロシナーゼ、gp75/褐色、BAGE、及びS-100(黒色腫で発現);サイトケラチン(様々な癌腫で発現);ならびにCD19、CD20、及びCD37(リンパ腫で発現)が挙げられる。
【0082】
また、腫瘍関連抗原としては、変質した糖脂質抗原及び糖タンパク質抗原、例えばノイラミン酸含有スフィンゴ糖脂質(例えば、黒色腫及び一部の脳腫瘍で発現するGM2及びGD2);血液型抗体、特にT及びシアル酸付加Tn抗原(癌腫で異常に発現し得る);ならびにCA-125及びCA-19-9などのムチン(卵巣癌に発現)またはグリコシル化不十分MUC-1(乳癌及び膵臓癌に発現)も挙げられる。
【0083】
例えば、一部の実施形態において、治療対象の患者は膀胱癌を有し、NY-ESO-1、MAGE-A10、及びMUC-1抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は脳癌を有し、NY-ESO-1、サバイビン、及びCMV抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は乳癌を有し、MUC-1、サバイビン、WT-1、HER-2、及びCEA抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は子宮頸癌を有し、HPV抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は結腸直腸癌を有し、NY-ESO-1、サバイビン、WT-1、MUC-1、及びCEA抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は食道癌を有し、NY-ESO-1抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は頭頸部癌を有し、HPV抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は腎臓癌または肝癌を有し、NY-ESO-1抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は肺癌を有し、NY-ESO-1、サバイビン、WT-1、MAGE-A10、及びMUC-1抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は黒色腫を有し、NY-ESO-1、サバイビン、MAGE-A10、MART-1、及びGP-100の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は卵巣癌を有し、NY-ESO-1、WT-1、及びメソテリン抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は前立腺癌を有し、サバイビン、hTERT、PSA、PAP、及びPSMA抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は肉腫を有し、NY-ESO-1抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者はリンパ腫を有し、EBV抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者は多発骨髄腫を有し、NY-ESO-1、WT-1、及びSOX2抗原の1種以上を用いてT細胞が豊富化され増大される。一部の実施形態において、治療対象の患者はリンパ腫を有し、EBV抗原を用いてT細胞が豊富化され増大される。
【0084】
一部の実施形態において、治療対象の患者は急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群を有し、サバイビン、WT-1、PRAME、RHAMM及びPR3抗原の1種以上(1、2、3、4、または5種を含む)を用いてT細胞が豊富化され増大される。
【0085】
「感染病原体の抗原」としては、原虫、細菌、真菌(単細胞及び多細胞の両方)、ウイルス、プリオン、細胞内寄生虫、蟯虫、及び免疫応答を誘導し得る他の感染病原体の成分が挙げられる。
【0086】
細菌抗原としては、グラム陽性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性細菌、嫌気性菌、例えばActinomycetaceaeファミリーの生物、Bacillaceae、Bartonellaceae、Bordetellae、Captophagaceae、Corynebacteriaceae、Enterobacteriaceae、Legionellaceae、Micrococcaceae、Mycobacteriaceae、Nocardiaceae、Pasteurellaceae、Pseudomonadaceae、Spirochaetaceae、Vibrionaceae及びAcinetobacter属の生物、Brucella、Campylobacter、Erysipelothrix、Ewingella、Francisella、Gardnerella、Helicobacter、Levinea、Listeria、Streptobacillus、ならびにTropherymaの抗原が挙げられる。
【0087】
原虫感染病原体の抗原としては、マラリア原虫、Leishmania種、Trypanosoma種、及びSchistosoma種の抗原が挙げられる。
【0088】
真菌抗原としては、Aspergillus、Blastomyces、Candida、Coccidioides、Cryptococcus、Histoplasma、Paracoccicioides、Sporothrix、Mucorales目の生物、黒色真菌症(choromycosis)及び足菌腫を誘導する生物ならびにTrichophyton属の生物、Microsporum、Epidermophyton、ならびにMalasseziaの抗原が挙げられる。
【0089】
ウイルスペプチド抗原としては、以下に限定されないが、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、RSウイルス、ポックスウイルス、HIV、インフルエンザウイルス、及びCMVの抗原が挙げられる。特に有用なウイルスペプチド抗原としては、HIVタンパク質、例えばHIV gagタンパク質(以下に限定されないが、膜アンカー(MA)タンパク質、コアカプシド(CA)タンパク質及びヌクレオカプシド(NC)タンパク質が挙げられる)、HIVポリメラーゼ、インフルエンザウイルスマトリックス(M)タンパク質及びインフルエンザウイルスヌクレオカプシド(NP)タンパク質、B型肝炎表面抗原(HBsAg)、B型肝炎コアタンパク質(HBcAg)、E型肝炎タンパク質(HBeAg)、B型肝炎DNAポリメラーゼ、C型肝炎抗原などが挙げられる。
【0090】
抗原ペプチドを含めた抗原は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,268,411号で説明されているように、能動的または受動的に、抗原提示複合体の抗原収容溝に結合させることができる。任意選択で、抗原ペプチドはペプチド収容溝に共有結合していてもよい。
【0091】
所望に応じて、ペプチド繋留を使用して、抗原ペプチドをペプチド収容溝に連結させることができる。例えば、複数のクラスI MHC分子の結晶学的解析により、β2Mのアミノ末端は、MHCペプチド収容溝に存在する抗原ペプチドのカルボキシル末端からの距離がおよそ20.5オングストロームと、非常に近接していることが示されている。したがって、長さがおよそ13アミノ酸の比較的短いリンカー配列を使用して、ペプチドをβ2Mのアミノ末端に繋留させることができる。配列が適切であれば、当該ペプチドはMHC結合溝に結合する(米国特許第6,268,411号を参照)。
【0092】
aAPCに結合している抗原特異的T細胞は、磁気的豊富化を用いて、または他の細胞選別もしくは細胞捕捉の技法を用いて、結合していない細胞から分離することができる。この目的に使用され得る他のプロセスとしては、フローサイトメトリー及び他のクロマトグラフィー手段(例えば、抗原提示複合体または本明細書で説明されている他のリガンドの固定を伴うもの)が挙げられる。一実施形態において、抗原特異的T細胞は、所望の抗原特異的T細胞の正の選択に十分な期間、ビーズと共にインキュベートすることによって、例えば抗原提示複合体/抗CD28結合常磁性ビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標))と共にインキュベートすることによって、単離(または豊富化)される。
【0093】
一部の実施形態において、T細胞集団において以前活性であったT細胞を、例えばCD44に対する抗体を用いて実質的に枯渇させ、集団をナイーブT細胞に関しては豊富化されたままにしておくことができる。ナノaAPCとこの集団との結合は、ナイーブT細胞を実質的に活性化させるのではなく、ナイーブ細胞の精製を可能にすると考えられる。
【0094】
さらに他の実施形態において、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞(または他の免疫エフェクター細胞)を標的とするリガンドを常磁性ナノ粒子に組み込み、これらの細胞集団を磁気的に豊富化させ、任意選択で、以下で説明するように培地中で増大させることができる。追加の免疫エフェクター細胞リガンドは、全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2014/25889で説明されている。
【0095】
理論に拘泥することは望まないが、不要な細胞を除去することで、サイトカイン及び成長シグナルの競合が低減され、抑制的な細胞が除去される場合もあれば、単に、目的細胞を増大させるための物理的スペースがより多くもたらされる場合もある。
【0096】
次に、豊富化されたT細胞を培地中で増大させ、任意選択である期間の間磁石に近づけて磁界を生成し、aAPCに結合した細胞のT細胞受容体クラスター化を増強する。ナノaAPCを用いた培地への刺激は、可変量の時間の間、例えば、約5分~約72時間(例えば、約0.5、2、6、12、36、48、または72時間、さらに持続的な刺激)行うことができる。高度に豊富化された抗原特異的T細胞培地における刺激時間の効果を評価することができる。抗原特異的T細胞を培地に戻し、当技術分野において公知であるように、細胞成長、増殖速度、様々なエフェクター機能などについて解析することができる。このような条件は、所望の抗原特異的T細胞応答に応じて変動し得る。一部の実施形態において、T細胞は、培地中で約2日~最大3週間、または一部の実施形態では約5日~約2週間、もしくは約5日~約10日増大される。一部の実施形態において、T細胞は、培地中で約1週間増大され、その後に第2の豊富化及び増大ステップが任意選択で実施される。一部の実施形態において、2、3、4、または5ラウンドの豊富化及び増大が実施される。
【0097】
この1ラウンド以上の豊富化及び増大(例えば、約7日)の後、試料における抗原特異的T細胞の成分は、少なくとも約1%のT細胞となり、または一部の実施形態では、試料中少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、もしくは少なくとも約20%、もしくは少なくとも約25%のT細胞となる。さらに、これらのT細胞は概して活性化状態を示す。患者から単離された元の試料から、様々な実施形態における抗原特異的T細胞は、(約7日で)約100倍~約10,000倍、例えば少なくとも約100倍、または少なくとも約200倍増大される。2週間後、抗原特異的T細胞は、少なくとも1000倍、または様々な実施形態では少なくとも約2000倍、少なくとも約3,000倍、少なくとも約4,000倍、もしくは少なくとも約5,000倍増大される。一部の実施形態において、抗原特異的T細胞は、2週間後に5000倍超または10,000倍超増大される。この1ラウンド以上の豊富化及び増大(1週間または2週間)の後、少なくとも約106個、または少なくとも約107個、または少なくとも約108個、または少なくとも約109個の抗原特異的T細胞が得られる。
【0098】
ナノaAPCがT細胞前駆体の増大、活性化、及び分化に及ぼす効果は、当業者に公知のあらゆる方法でアッセイすることができる。増殖アッセイを用いて、培地中のCTL、ヘルパーT細胞、または制御性T細胞の増加を、各タイプのT細胞に特異的なマーカーの検出によって測定することにより、機能を迅速に決定することができる。このようなマーカーは、当技術分野において公知である。CTLは、クロムリリースアッセイを用いたサイトカイン生成または細胞溶解活性のアッセイによって検出することができる。
【0099】
適切なエフェクター機能を用いて抗原特異的T細胞を産生することに加えて、抗原特異的T細胞の有効性に関する別のパラメーターは、T細胞が病態部位に行き来することを可能にするホーミング受容体の発現である(Sallusto et al.,Nature 401,708-12,1999;Lanzavecchia & Sallusto,Science 290,92-97,2000)。
【0100】
例えば、エフェクターCTLの有効性は、以下の表現型のホーミング受容体と結びつけられている:CD62L+、CD45RO+、及びCCR7-。したがって、ナノaAPCに誘導及び/または増大されるCTL集団は、これらのホーミング受容体の発現に関して特性決定することができる。ホーミング受容体の発現は、最初の刺激条件に結びつけられた複合形質である。これは、共刺激複合体及びサイトカイン環境の両方によって制御されるものと推定される。関与している重要なサイトカインの1つは、IL-12である(Salio et al.,2001)。以下で論じるように、ナノaAPCは、個別に別々の成分(例えば、T細胞エフェクター分子及び抗原提示複合体)を変化させて、生物学的結果パラメーターを最適化する可能性をもたらす。任意選択で、抗原特異的T細胞集団中のホーミング受容体プロファイルに作用するようにIL-12などのサイトカインを最初の誘導培地に含めることができる。
【0101】
任意選択で、抗原特異的T細胞を含む細胞集団は、同じナノaAPCまたは第2のナノaAPCのいずれかと共に、第1の細胞集団中の抗原特異的T細胞よりも数が増加した抗原特異的T細胞を含む第2の細胞集団の形成に十分な期間の間、インキュベートを継続することができる。典型的には、このようなインキュベートは3~21日間、好ましくは7~10日間行われる。
【0102】
好適なインキュベート条件(培地、温度など)には、T細胞またはT細胞前駆体の培養に使用されるものや、DCまたは人工抗原提示細胞を用いて抗原特異的T細胞の形成を誘導するために用いる当技術分野で公知のものが含まれる。例えば、Latouche & Sadelain,Nature Biotechnol.18,405-09,April 2000;Levine et al.,J.Immunol.159,5921-30,1997;Maus et al.,Nature Biotechnol.20,143-48,February 2002を参照。以下の具体的な例も参照されたい。
【0103】
増殖シグナルの大きさを評価するために、抗原特異的T細胞集団をCFSEで標識し、細胞分裂の速度及び数について解析することができる。T細胞は、抗原が結合しているナノaAPCを用いた1~2ラウンドの刺激後にCFSEで標識することができる。この時点では、抗原特異的T細胞は、総細胞集団の2~10%に相当するはずである。抗原特異的T細胞は、抗原特異的T細胞の分裂の速度及び数の後にCFSEの喪失となるように、抗原特異的染色を用いて検出することができる。刺激後の様々な時間(例えば、12、24、36、48、及び72時間)に、抗原提示複合体及びCFSEの両方に関して細胞を解析することができる。抗原が結合していないナノaAPCを用いた刺激を使用して、増殖のベースラインレベルを決定することができる。任意選択で、3H-チミジンの取込みを監視することによって増殖を検出することができる。
【0104】
ナノaAPCを用いて得られた抗原特異的T細胞は、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、リンパ内投与、及び腫瘍内投与を含めた任意の適切な経路によって患者に投与することができる。患者には、ヒト患者及び獣医学患者の両方が含まれる。
【0105】
抗原特異的制御性T細胞は、免疫抑制効果を達成するため、例えば、移植患者における移植片対宿主病の治療もしくは予防のために、または自己免疫疾患(例えば、上に記載した疾患またはアレルギー)の治療もしくは予防のために使用することができる。制御性T細胞の使用は、例えば、US2003/0049696、US2002/0090724、US2002/0090357、US2002/0034500、及びUS2003/0064067で開示されており、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
これらの方法に従って調製した抗原特異的T細胞は、約5~10×106CTL/kg体重(約7×108CTL/治療)~最大約3.3×109CTL/kg体重(約6×109CTL/治療)の範囲の用量で患者に投与することができる(Walter et al.,New England Journal of Medicine 333,1038-44,1995;Yee et al.,J Exp Med 192,1637-44,2000)。他の実施形態において、患者は、用量当たり約103、約5×103、約104、約5×104、約105、約5×105、約106、約5×106、約107、約5×107、約108、約5×108、約109、約5×109、または約1010細胞の静脈内投与を受けることができる。さらに他の実施形態において、患者は、例えば、200μlのボーラス中約8×106または約12×106細胞の結節内注射を受けることができる。任意選択で細胞と共に投与されるナノAPCの用量としては、用量当たり少なくとも約103、約5×103、約104、約5×104、約105、約5×105、約106、約5×106、約107、約5×107、約108、約5×108、約109、約5×109、約1010、約5×1010、約1011、約5×1011、または約1012ナノaAPCが挙げられる。
【0107】
例示的な実施形態において、豊富化及び増大のプロセスは、患者に由来する同じ試料に対し、繰り返し実施される。T細胞集団は0日目に豊富化され活性化され、次に好適な期間(例えば、約3~20日)の間培地中に置く。その後、ナノaAPCを使用して、目的抗原に対し再び豊富化させ増大させ、さらに集団の純度を高め、さらなるT細胞増大のために追加の刺激をもたらすことができる。ナノaAPC及び豊富化されたT細胞の混合物は、この後にin vitroで適切な期間の間再び培養してもよく、またはin vivoでのさらなる増大及び治療効果のために直ちに患者に再注入してもよい。豊富化及び増大は、所望の増大が達成されるまで何回でも繰り返すことができる。
【0108】
一部の実施形態において、ナノaAPCのカクテル(各ナノaAPCが異なる抗原に対するもの)は、複数の抗原に対する抗原T細胞を同時に豊富化させ増大させるためにすぐに使用することができる。この実施形態において、複数の異なるナノaAPCのバッチ(各々が異なるMHCペプチドを有する)は、各目的抗原に対するT細胞を同時に豊富化させるために合わせて使用することになる。得られたT細胞プールは豊富化され、これらの抗原の各々に対し活性化されることになり、よって複数の抗原に対する応答が同時に培養され得る。これら複数の抗原は単一の治療介入に関係する場合が考えられ、例えば、単一の腫瘍上に存在する複数の抗原である可能性がある。
【0109】
一部の実施形態において、患者は、1種以上のチェックポイント阻害剤を用いた免疫療法を受け、その次に養子移入により抗原特異的T細胞を投与されるか、または患者の腫瘍の遺伝子解析を通じてin vitroで特定されたネオ抗原を有するaAPCの直接投与が行われる。様々な実施形態において、チェックポイント阻害剤(複数可)はCTLA-4またはPD-1/PD-L1の1つ以上を標的とし、これにはこのような標的に対する抗体、例えばモノクローナル抗体、またはその一部、またはそのヒト化もしくは完全ヒト型のバージョンが含まれ得る。一部の実施形態において、チェックポイント阻害剤療法はイピリムマブまたはKeytruda(ペムブロリズマブ)を含む。
【0110】
一部の実施形態において、患者は約1~5ラウンドの養子免疫療法を受ける(例えば、1、2、3、4、または5ラウンド)。一部の実施形態において、養子免疫療法の各投与は、チェックポイント阻害剤療法のラウンドと同時に、またはその後に(例えば、約1日~約1週間後)行われる。一部の実施形態において、養子免疫療法は、チェックポイント阻害剤投与の約1日後、約2日後、約3日後、約4日後、約5日後、約6日後、または約1週間後に提供される。
【0111】
さらに他の実施形態において、患者に対する養子移入またはナノaAPCの直接注入は、ビーズ上のリガンドとして、CTLA-4またはPD-1/PD-L1の1つ以上を標的とするリガンドを含む。このような実施形態において、当該方法は、可溶性のチェックポイント阻害剤療法の投与における、ある特定の副作用を回避することができる。
【0112】
一部の態様において、本発明は個別化されたがん免疫療法を提供する。当該方法は、患者が反応する抗原を特定するためのaAPCを使用し、その次に適切なペプチドが充填されたaAPCを患者に投与するか、またはex vivoでの抗原特異的T細胞の豊富化及び増大を行うことで遂行される。
【0113】
ゲノムワイドシークエンシングは、がん生物学への理解を劇的に変えるものであった。がんのシークエンシングにより、多くのヒトのがんの発生に関与する分子的プロセスに関し、重要なデータがもたらされた。3つの主な細胞プロセス、(1)細胞運命、(2)細胞生存、及び(3)ゲノム維持の調節経路に関与する重要遺伝子において、推進変異(driving mutation)が特定された。Vogelstein et al.,Science 339,1546-58(2013)。
【0114】
また、ゲノムワイドシークエンシングはがん免疫療法に対するアプローチに革命を起こす可能性も有する。シークエンシングデータからは、がん免疫療法に関し、共通の標的だけではなく個別化された標的についての情報ももたらされ得る。原理上、変異タンパク質は免疫システムに対し異質であり、また推定上の腫瘍特異的抗原である。実際に、シークエンシングの試みにより、千単位とは言えないとしても百単位の関連免疫標的が定義されている。限られた研究からは、このようなネオエピトープに対するT細胞応答は、がん患者に見いだされる場合もあればがんワクチンによって誘導される場合もあることが示されている。しかし、特定のがんに対するこのような応答の出現頻度や、このような応答がどの程度患者間で共有されるのかについては、よく分かっていない。腫瘍特異的免疫応答に対する理解が限定的である主な理由の1つは、有望な免疫学的関連標的を検証するための現状のアプローチが煩雑であり、多くの時間を要することである。
【0115】
したがって一部の態様において、本発明は、がんのネオ抗原に対するT細胞応答検出のための高スループットプラットフォームに基づいたアプローチを提供する。このアプローチは、がん抗原に対するT細胞応答が出現頻度の低いものであっても検出するために本明細書で説明されているaAPCプラットフォームを使用する。このような応答についての出現頻度や個人間の可変性を理解することには、がんワクチンや個別化されたがん免疫療法を設計する上で重要な意義があると考えられる。
【0116】
中枢トレランスが自己タンパク質に対するT細胞応答を抑止しても、発がん性変異はT細胞応答を形成し得るネオエピトープを誘導する。全エクソーム解析に由来する変異一覧により、このようなネオエピトープを特定するための出発点がもたらされる。HLA結合予測アルゴリズム(Srivastava,PLoS One 4,e6094(2009)を用いて、各々のがんが7~10個までのネオエピトープを有し得ることが予測された。ある同様のアプローチでは数百個の腫瘍ネオエピトープが推定された。しかし、このようなアルゴリズムはT細胞応答の予測の精度が低い可能性があり、予測されたHLA結合エピトープのうち、HLAと関連して結合することが予想されるものはわずか10%である(Lundegaard C,Immunology 130,309-18(2010))。したがって、予測されたエピトープは、このような有望なネオエピトープに対するT細胞応答が存在するかについて検証されなければならない。
【0117】
ある特定の実施形態において、ナノaAPCシステムは、様々ながんにおける、または特定の患者のがんにおけるT細胞応答を誘導するネオエピトープをスクリーニングするために使用される。がんは、例えば全エクソーム解析により、遺伝子解析することができる。例えば、24例の進行した腺癌のパネルにおいて、腫瘍当たり平均約50種の変異が特定された。解析したおよそ20,000例の遺伝子のうち、1327例が少なくとも1種の変異を有し、148例が2つ以上の変異を有し、974例のミスセンス変異が特定され、さらに少数の欠失及び挿入が見られた。
【0118】
変異タンパク質における重複する9つのアミノ酸ウインドウから、候補ペプチドのリストを作成することができる。変異したアミノ酸を含有する全9つのAAウインドウと、各タンパク質からの2つの非変異「対照」とが選択されることになる。これらの候補ペプチドは、正味MHC及び安定化マトリックス法(SMM)を含めたMHC結合予測アルゴリズムのコンセンサスを用いて、MHC結合について計算的に評価されることになる。ナノaAPC及びMHC結合アルゴリズムが、主にHLA-A2アレル向けに開発されている。コンセンサス予測の感受性カットオフは、扱いやすい数の変異を含有するペプチド(約500)及び非変異対照ペプチド(約50)が特定されるまで調整することができる。
【0119】
次にペプチドライブラリーを合成する。MHC(例えば、A2)を有するaAPCをマルチウェルプレートに入れ、ペプチドで受動的充填する。CD8 T細胞は、A2陽性の健康なドナー及びA2陽性のがん患者両方のPBMCから単離することができる。この後、豊富化ステップに向け、単離したT細胞を充填したaAPCと共にインキュベートする。インキュベートの次に、プレートまたは培養フラスコを磁界に置き、aAPCに結合していない無関係なT細胞を含有する上清を除去する。aAPCに結合している残りのT細胞を培養し、7~21日間増大させる。aAPCを用いた再刺激及び細胞内IFNγ蛍光染色を用いて抗原特異的増大を評価する。
【0120】
一部の実施形態において、患者のT細胞をナノAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングし、結果を診断または予後判定の目的で使用する。例えば、変異したタンパク質、過剰発現したタンパク質、及び/または他の腫瘍関連抗原に対するT細胞抗腫瘍応答の数及び特定は、リスクを階層化するためのバイオマーカーとして使用することができる。例えば、このようなT細胞応答の数は、疾患進行のリスクまたは化学療法に対する耐性もしくは非応答性のリスクに反比例し得る。他の実施形態において、患者のT細胞をナノAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングし、T細胞応答の存在、またはこれらのT細胞の応答の数もしくは強度から、患者が準臨床的腫瘍を有することが特定され、及び/または腫瘍生物学の初期的な理解がもたらされる。
【0121】
一部の実施形態において、患者または対象のT細胞を、各々が異なる候補ペプチド抗原を提示する常磁性aAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングする。このスクリーニングによって、対象または患者のT細胞レパートリーに関する豊富な情報がもたらされる可能性があり、またスクリーニングの結果は診断または予後判定の目的に有用である。例えば、変異したタンパク質、過剰発現したタンパク質、及び/または他の腫瘍関連抗原に対するT細胞抗腫瘍応答の数及び特定は、リスクを階層化するための、免疫療法の有効性を監視するための、または免疫療法治療の結果を予測するためのバイオマーカーとして使用することができる。さらに、このようなT細胞応答の数または強度は、疾患進行のリスクに反比例する場合もあれば、化学療法に対する耐性もしくは非応答性のリスクを予測する場合もある。他の実施形態において、対象または患者のT細胞を、各々が候補ペプチド抗原を提示するナノAPCのアレイまたはライブラリーに対してスクリーニングし、T細胞応答の存在、またはこれらのT細胞の応答の数もしくは強度から、例えば自己免疫疾患を特定することにより、または患者が準臨床的腫瘍を有することを特定することにより、患者の健康状態に関する情報がもたらされる。これらの実施形態において、当該プロセスは潜在的な疾患状態を特定するだけではなく、疾患生物学の初期的な理解をもたらす。
【0122】
例示的な実施形態において、患者は、急性骨髄性白血病(AML)または骨髄異形成症候群などの血液癌を有し、一部の実施形態において、当該患者は同種幹細胞移植後に再発している。HLAが一致するドナーからのT細胞供給源を用いることで、抗原特異的T細胞は、磁気カラムと、任意選択でサバイビン、WT-1、PRAME、RHAMM、及びPR3から選択される2~5種の腫瘍関連ペプチド抗原を提示する常磁性ナノaAPCとを用いて、磁気的に豊富化され活性化される。抗原は、部位特異的結合を通じて同じまたは異なる粒子集団上にシグナル1及びシグナル2を提示する調製されたナノaAPCに受動的に充填される。
【0123】
磁気的活性化は、少なくとも5分~5時間または5分~2時間発生し、次に培地中で少なくとも5日間、一部の実施形態においては最大2週間または最大3週間、増大が行われ得る。得られたCD8+ T細胞は、表現型的に特性決定して以下を確認することができる:PD-1低発現型;セントラルメモリー表現型(CD3+、CD45RA-、CD62L+);及びエフェクターメモリー表現型(CD3+、CD45RA-、CD62L-)。増大されたT細胞は、抗腫瘍応答を確立するために、1回~約4回患者に投与することができる。
【0124】
本発明の他の態様及び実施形態は、以下の例示的な実施例に基づいて当業者には明らかなものとなる。
【実施例】
【0125】
人工抗原提示細胞(aAPC)は、抗原特異的T細胞の活性化のために、デキストランコーティング酸化鉄ナノ粒子などの常磁性粒子上に構築することができる。
図1。シグナル1及びシグナル2の存在によってT細胞の活性化及び増大がもたらされる。常磁性粒子を使用することにより、シグナル1及び/またはシグナル2のクラスター化が磁界によって誘導される。
図3及び
図6A。
【0126】
別々のナノ粒子上にある共刺激シグナル(シグナル2)の提示を制御することにより、共刺激シグナルのタイプを制御し変化させることができる。
図2。常磁性粒子の使用時に磁界が存在することでT細胞の増殖が増強されるが、この効果は、シグナル1とは別のナノ粒子上に存在するシグナル2の量に依存する。
図4。得られたT細胞は、シグナル1及び2が同じ粒子上に存在しても異なる粒子上に存在しても、質的に同じである。
図5。
【0127】
抗原特異的T細胞の最も大きな増大は、別々の(常磁性または非常磁性)ビーズ上にシグナル1及びシグナル2の両方が存在するときに観察され、両方の粒子が常磁性であるときに最も大きな増大が観察された。
図6。
【0128】
粒子サイズの増加につれて、S1+S2アプローチの有効性が減少する。それに対し、両方のシグナルを含有するナノ粒子は反対の効果を示す。したがって、シグナル1及びシグナル2に別々のナノ粒子を使用する場合、粒子は200nm以下、例えば100nmまたは30nmにとどめることが好ましく、このような粒子が高レベルの増大を支援した。
図7。
【0129】
各シグナルを別々のビーズに設置することにより、共刺激のタイプを変化させて活性化プロファイルをカスタマイズすることができる。例えば、50/50の抗CD28及び抗CD27を含有するシグナル2のビーズ、ならびに25/75の抗CD28及び抗41BBを含有するシグナル2のビーズは、高レベルの増大を支援した。
図8。
【0130】
磁気的豊富化及び増大によって、所望の抗原特異性を有する新規のTCRの迅速な特定につながる。
図9、
図10。豊富化され増大されたT細胞は、TCRシークエンシングに用いる純度の高い抗原特異的T細胞集団を産生するように選別された四量体または二量体であり得る。これは、非常に短時間で十分なTCRシークエンシングを行う上で十分な材料を特定及び産生するための迅速な方法である。
【0131】
磁気的豊富化により、高出現頻度の生産的なクローン型がもたらされた。
図11、
図12。これらの結果は、出現頻度がより均等に分散しているCarreno et al.の結果(
図11A)と好対照をなすものである。クローンは、V及びJのペアリングの出現頻度について評価することができる(
図13、
図14)。
【0132】
磁気的豊富化及び増大により、T細胞集団における、ネオ抗原を含めた候補抗原に対する反応性をスクリーニングすることが可能になる。スクリーニングは、バッチ方式で行うことができる。
図15。例えば、機能的に活性のヒトネオ抗原特異的CD-8+ T細胞は、健康なドナーから特定された。磁気的豊富化及び増大のプロセスを用いて、MCF-7乳癌からの3個のネオエピトープを同時に試験した。したがって、ポリクローナルCD8 T細胞集団の応答は、変異した抗原からの予測ネオエピトープに対して検出することができる。このようなT細胞集団は典型的には非常に希少であり、四量体解析などの従来の技法では検出できないことが多い。
【0133】
連続的豊富化によって、このプロセスがより効率的になる。連続的豊富化を用いて、磁気的豊富化ステップにおける陰性の細胞集団(所望の抗原に対し陰性の結合していないT細胞のみを含有する)を、今度は別の抗原ペプチドセットで充填した新規のナノ粒子と共にインキュベートする。このプロセスは、各実行において10~15種の異なるペプチド充填ナノ粒子と共に、複数回(例えば、少なくとも6回)繰り返すことができる。これにより、最低90種の異なる抗原について単一の試料を調べる連続的なE+Eアプローチが可能になる。
【0134】
図16は、部位特異的MHC結合を有するナノ粒子へのペプチドの受動的充填により、1週間後に増大が高められたことを示している。CD8+ T細胞をナイーブC57BL/6脾臓から単離し、10
7細胞当たり20uLの粒子にてTrp2ペプチドで充填したナノ粒子(Kb Ig二量体/aCD28)と共に、4℃で1時間インキュベートした。次に、磁気カラムを用いてナノ粒子に結合した細胞を単離し、96ウェルプレートで7日間培養した。7日目に細胞を採取し、カウントし、抗CD8抗体及びTrp2/kb五量体で染色した。対照に関しては、Kb五量体及び無関係なペプチドを使用した。
【0135】
分子のFC末端における遺伝子操作された遊離システインを介し部位特異的方式でシグナル1及びシグナル2が共有結合するナノ粒子の設計及び構築は、ナノ粒子を非常に安定したものにし、その貯蔵寿命を長くする。これによって、大規模な未充填バッチ(後から目的ペプチドで受動的に充填する)の生成が可能になる。例えば、充填プロセス中に、未充填の粒子を過剰なペプチドと共に4℃で最低3日間インキュベートする。その後に、磁気カラム上の充填されたナノ粒子を洗浄することにより、結合していない遊離ペプチドを除去する。常磁性粒子はカラム上に保持され、遊離ペプチドは洗い流される。激しい洗浄(3~5回)の後、磁石を除去し、粒子を溶離する。この受動的充填アプローチは、システムに高い抗原的柔軟性を導入し、製造コストを低減し、カスタムメイドの患者専用の複数抗原/粒子カクテル(5~10種の抗原)を生成するためのバッチ処理アプローチを可能にし、ネオエピトープ特定のための高スループットスクリーニング(>50個のエピトープ)を可能にする。
【0136】
現状のパフォーマンスにおいては、およそ1:1の比のシグナル1及びシグナル2(抗CD28)ならびに粒子当たりの高タンパク質密度(80~200のリガンド)が使用されている。粒子は、50~150nmの範囲にある。
【配列表】