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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】サクションロールにおけるシール装置
(51)【国際特許分類】
   D21F 3/10 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
D21F3/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020017244
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021123820
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2020-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】391044823
【氏名又は名称】株式会社長谷川鉄工所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100148725
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智基
(72)【発明者】
【氏名】露木 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】槌谷 和義
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208649788(CN,U)
【文献】特開昭48-006002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0191872(US,A1)
【文献】特開平01-139893(JP,A)
【文献】実開昭59-103798(JP,U)
【文献】特開昭61-245394(JP,A)
【文献】特開平11-315488(JP,A)
【文献】特開2000-073290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サクションロールの内空部にサクションボックスを配置し、前記サクションボックスに備えたデッケルストラップを該サクションロールの内周面に対向させて該サクションボックスの内部に陰圧室を区画し、該サクションボックスの陰圧室を陰圧に維持することにより、該サクションロールの外周面を搬送される湿紙の水分を該サクションロールの吸引孔を通して該サクションボックスの陰圧室経由で脱水するサクションロールにおけるシール装置であり、
前記サクションロールの内周面と前記デッケルストラップとの間に隙間が形成され、上記隙間にシール用流体を供給し、該隙間を液封する液封装置を有するサクションロールにおけるシール装置であって、
前記サクションロールの内周面と前記デッケルストラップとの間に形成される前記隙間の大きさを調整できる隙間調整装置を有するサクションロールにおけるシール装置。
【請求項2】
前記液封装置は、前記デッケルストラップの内部に配設され、前記サクションロールの内周面に沿う該デッケルストラップの円弧状表面に開口し、該サクションロールの中心軸に沿って連続するスリット状をなす流体供給路を備え、該流体供給路から該サクションロールの内周面に向かう流体の流出方向が該サクションロールの吸引孔に対して非平行とされ、該流体供給路から供給されるシール用流体が前記隙間を流れて該隙間を液封する請求項1に記載のサクションロールにおけるシール装置。
【請求項3】
前記隙間調整装置は、前記サクションボックスにおける取付用凹部の底面と、この取付用凹部に嵌合される該デッケルストラップにおける取付用凸部の先端面との間に弾発体を介装し、該デッケルストラップを該サクションロールの内周面の側に向かう突出方向へと弾発し、
前記サクションボックスにおける上記取付用凹部の側壁に固定したエアシリンダによって出没されるストッパピンを前記デッケルストラップにおける上記取付用凸部の側面に設けた傾斜溝面に対し、上記デッケルストラップの突出方向に直交する方向から係合させ、
上記弾発体により前記サクションロールの内周面に向けて弾発されている前記デッケルストラップが上記ストッパピンの上記係合によって係止される状態下で、該ストッパピンの上記出没量の調整により該デッケルストラップの円弧状表面が該サクションロールの内周面に対する前記隙間を調整可能にする、請求項1又は2に記載のサクションロールにおけるシール装置。
【請求項4】
前記デッケルストラップの円弧状表面を前記サクションロールの内周面に対して変位可能にするデッケル変位装置を設け、前記サクションボックスにおける陰圧室の陰圧が目標値に達するように、前記デッケルストラップの円弧状表面を該サクションロールの内周面に対して変位させて前記隙間を調整する請求項1乃至3のいずれかに記載のサクションロールにおけるシール装置。
【請求項5】
前記隙間は、0mm越え5mm以下の範囲内である請求項1乃至4のいずれかに記載のサクションロールにおけるシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクションロールの内空部に配置したサクションボックスに備えたデッケルストラップが、サクションロールの内周面に対向してサクションボックスの内部に区画する陰圧室をシールするための、サクションロールにおけるシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機の脱水工程では、特許文献1に記載の如く、サクションロールの内空部にサクションボックスを配置し、サクションボックスに備えたデッケルストラップをサクションロールの内周面に摺接させて該サクションボックスの内部に陰圧室を区画し、サクションボックスの陰圧室を陰圧に維持することにより、サクションロールの外周面を搬送される湿紙の水分を該サクションロールの吸引孔を通してサクションボックスの陰圧室経由で脱水することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-36329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のサクションボックスに備えられているデッケルストラップは、該サクションボックスの内部に区画された陰圧室の陰圧を維持するために、サクションロールの内周面に摺接するものとされている。このため、サクションロールの内周面とデッケルストラップの摩擦は大きく、これによって摩耗するデッケルストラップの高頻度の交換が必要になるし、サクションロールの駆動エネルギーも多大になっている。また、サクションロールの内周面とデッケルストラップの摩擦の低減を図るために、デッケルストラップの摺動部に潤滑用シャワー水を供給する潤滑用シャワーを設けたり、デッケルストラップの材料として低摩擦係数のカーボン樹脂等を採用することが余儀なくされ、コスト高になっている。
【0005】
本発明の課題は、サクションボックスに備えたデッケルストラップをサクションロールの内周面に対して非接触としながら、該サクションボックスの内部に区画した陰圧室の陰圧を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、サクションロールの内空部にサクションボックスを配置し、 サクションボックスに備えたデッケルストラップをサクションロールの内周面に対向させて該サクションボックスの内部に陰圧室を区画し、サクションボックスの陰圧室を陰圧に維持することにより、サクションロールの外周面を搬送される湿紙の水分を該サクションロールの吸引孔を通してサクションボックスの陰圧室経由で脱水するサクションロールにおけるシール装置であり、前記サクションロールの内周面と前記デッケルストラップとの間に隙間が形成され、上記隙間にシール用流体を供給し、該隙間を液封する液封装置を有するサクションロールにおけるシール装置であって、前記サクションロールの 内周面と前記デッケルストラップとの間に形成される前記隙間の大きさを調整できる隙間 調整装置を有するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記液封装置は、前記デッケルストラップの内部に配設され、前記サクションロールの内周面に沿う該デッケルストラップの円弧状表面に開口し、サクションロールの中心軸に沿って連続するスリット状をなす流体供給路を備え、該流体供給路からサクションロールの内周面に向かう流体の流出方向が該サクションロールの吸引孔に対して非平行とされ、該流体供給路から供給さ れるシール用流体が前記隙間を流れて該隙間を液封するものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記隙間調整装置は 、前記サクションボックスにおける取付用凹部の底面と、この取付用凹部に嵌合される該 デッケルストラップにおける取付用凸部の先端面との間に弾発体を介装し、該デッケルス トラップを該サクションロールの内周面の側に向かう突出方向へと弾発し、前記サクショ ンボックスにおける上記取付用凹部の側壁に固定したエアシリンダによって出没されるス トッパピンを前記デッケルストラップにおける上記取付用凸部の側面に設けた傾斜溝面に 対し、上記デッケルストラップの突出方向に直交する方向から係合させ、上記弾発体によ り前記サクションロールの内周面に向けて弾発されている前記デッケルストラップが上記 ストッパピンの上記係合によって係止される状態下で、該ストッパピンの上記出没量の調 整により該デッケルストラップの円弧状表面が該サクションロールの内周面に対する前記 隙間を調整可能にするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において更に、前記デッ ケルストラップの円弧状表面を前記サクションロールの内周面に対して変位可能にするデ ッケル変位装置を設け、前記サクションボックスにおける陰圧室の陰圧が目標値に達する ように、前記デッケルストラップの円弧状表面を該サクションロールの内周面に対して変 位させて前記隙間を調整するものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに係る発明において更に、前記隙間は、0mm越え5mm以下の範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0011】
(a)サクションロールの内周面とデッケルストラップとの間に隙間を形成し、この隙間に供給されるシール用流体によって該隙間を液封することにより、サクションボックスに備えたデッケルストラップをサクションロールの内周面に対して非接触としながら、該サクションボックスの内部に区画した陰圧室の陰圧を維持することができる。
【0012】
これにより、デッケルストラップがサクションロールの内周面に摺接することに基づく摩擦がなくなり、デッケルストラップの摩耗による交換頻度を限りなく低減できるし、サクションロールの駆動エネルギーも低減できる。
【0013】
デッケルストラップの摺動部に潤滑用シャワー水を供給する必要がないし、デッケルストラップの材料として低摩擦係数のカーボン樹脂等を採用する必要もなくなり、コストを低減できる。
【0014】
(b)上述(a)の隙間の大きさが調整できるものとすることにより、サクションロールの内径及び回転数、陰圧室に必要とされる陰圧、陰圧室に接続される真空ポンプの流量等の操業条件に応じて適切となる隙間を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はサクションロールの内空部に配置されたサクションボックスを示し、(A)はサクションボックスに取り付けた流体配管を示す斜視図、(B)はサクションボックスの端部材を取り外して示す斜視図である。
図2図2はサクションロール及びサクションボックスを示す断面図である。
図3図3は隙間調整装置の一例を示す断面図である。
図4図4は隙間調整装置の他の例を示す断面図である。
図5図5はサクションロール及びサクションボックスの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は抄紙機の脱水工程を示すものであり、湿紙1の水分を相手ロール2の圧力と、サクションロール10の内部に生成される陰圧により脱水する(相手ロール2を伴わない場合もある)。
【0019】
サクションロール10は、該サクションロール10を構成するセル10Aの内空部に配置されたサクションボックス20を伴い、このサクションボックス20の周囲を高速で回転するとともに、サクションボックス20の内部に区画した陰圧室21を陰圧にすることで、サクションロール10の外周面を該サクションロール10の回転方向Nと同方向に搬送される湿紙1に含まれている水分を該サクションロール10のセル10Aを貫通する吸引孔11から陰圧室21に吸引して脱水する。陰圧室21に接続されている吸引ダクト12(図2)は、真空ポンプに接続されていて該陰圧室21を陰圧にするとともに、陰圧室21に吸引された水をサクションロール10及びサクションボックス20の外部へ回収する。
【0020】
なお、サクションロール10は、セル10Aの外周面にゴムライニング層を備えるものでもよく、その場合の吸引孔11は、セル10A及びゴムライニング層を貫通するものになる。
【0021】
サクションボックス20は、サクションロール10を構成するセル10Aの内周面に対向して該サクションボックス20の内部に陰圧室21を区画するデッケルストラップ30を備えることにより、該陰圧室21の陰圧を維持可能にしている。なお、デッケルストラップ30は、通常、サクションロール10の周方向で陰圧室21に対応する部分を挟む両側(サクションロール10の回転方向Nで陰圧室21側に入る入口側と、陰圧室21側から出る出口側)に配置されるメインデッケルストラップ30Mと、サクションロール10の軸方向の両側に配置されるエンドデッケルストラップ30Eを有し、両側のメインデッケルストラップ30M及び両側のエンドデッケルストラップ30Eの四者をサクションロール10の内周面に対向させて陰圧室21を区画するものとされている。
【0022】
なお、本発明は、メインデッケルストラップ30Mとエンドデッケルストラップ30Eの両者に適用できるが、以下の実施形態では、本発明をメインデッケルストラップ30Mに適用するものとした。
【0023】
しかるに、サクションボックス20にあっては、図2に示す如く、サクションロール10の周方向及び軸方向に沿う該サクションロール10の内周面と、該サクションロール10の内周面に対向するメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31との間に一定の隙間Gが形成され、この隙間Gにシール用流体(本実施形態では水)を供給する流体供給路41を備え、該隙間Gを液封する液封装置40を有する。
【0024】
メインデッケルストラップ30Mにおいて、流体供給路41から供給されて隙間Gを流れるシール用流体は、該隙間Gを確実に流れ、かつ該隙間Gを流通する間に十分な圧力損失を生じて液封の確実を果たす必要がある。隙間Gにシール用流体を確実に流し、十分な圧力損失を生じさせるためには、流体供給路41から隙間Gへの十分な給水量を確保するとともに、隙間Gの大きさを該隙間Gの全域(サクションロール10の周方向及び軸方向に沿う隙間Gの全域)で均等にし、該隙間Gを流れるシール用流体の流路長C(後述する主ピース30Aの円弧状表面31がサクションロール10の周方向に沿ってなす長さ)を大きくとる必要がある。上述の給水量、及び、流路長Cは、サクションロール10の内径及び回転数、陰圧室21に必要とされる陰圧、陰圧室21に接続される真空ポンプの流量、隙間Gの大きさ、サクションロール10の軸方向に沿う隙間Gの長さ等に基づき、例えば、流体力学において圧力損失を算出できる代表的なダルシ―・ワイスバッハの式を用いて算定できる。なお、十分な圧力損失を生じさせるために用いることができる数式としては、流体力学を用いた流路寸法、流速、摩擦損失係数をパラメータに含み、圧力損失を算出できる方程式であればよい。
【0025】
メインデッケルストラップ30Mにおいて、サクションロール10の回転方向Nで入口側(i)と出口側(o)の各メインデッケルストラップ30Mi、30Moがサクションロール10の内周面との間に形成した隙間Gに対し、対応する液封装置40の流体供給路41から供給されるシール用流体は、サクションボックス20の陰圧室21に生成されている陰圧の影響を受けて、サクションボックス20の内部へと流れる(図2のLとRの流れ)。このとき、入口側のメインデッケルストラップ30Miが形成する隙間Gでは、液封装置40の流体供給路41が供給したシール用流体の流量(図2のL)が、サクションロール10の回転の影響で出口側のメインデッケルストラップ30Moが形成する隙間Gにおける流量(図2のR)より増大するものになる。このことは、サクションボックス20の陰圧室21に陰圧を維持するためのシール維持条件が、入口側のメインデッケルストラップ30Miにおいてより厳しいことを意味するものであり、入口側のメインデッケルストラップ30Miにおける給水量、隙間Gのサイズ等のシール維持条件を決定し、このシール維持条件を出口側にも採用することで出口側のメインデッケルストラップ30Moにあってもシール維持を保証できるものになる。
【0026】
メインデッケルストラップ30Mの構成材料は、サクションロール10の内周面との摺接による摩耗の発生を考慮する必要がないから、カーボン樹脂等の低摩擦係数材料を選択する必要がなくなり、抄紙過程で混入するアルカリ、酸等に対する耐薬品性に優れたフッ素樹脂や、ABS樹脂等の三次元造形等の樹脂成型品に必要に応じてテフロン(登録商標)コーティングを施した安価な材料を採用できる。
【0027】
本発明によるメインデッケルストラップ30Mのシール性を確保するためには、例えば、流体力学におけるコールブルックの式による通り、サクションロール10との間に一定の隙間Gを形成するメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31における表面粗さを向上させるのがよい。例えば隙間Gを1.0mmで流路長Cを20mmとした場合、円弧状表面31における表面粗さをRy30~Ry50まで増加させると、シール性能は約15%向上する。なお、メインデッケルストラップ30Mのシール性を確保するために用いることができる数式としては、他にもブラウジスの式、ファニングの式、カルマン・ニクラーゼの式などがあり、流体力学を用いた流路の表面粗度、流路寸法、流速をパラメータに含み、摩擦損失係数を算出できる方程式であればよい。
【0028】
また、メインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31に深さ数μmの溝を付与することで、テクスチャリングによるトライボロジー効果により、メインデッケルストラップ30Mのさらなるシール性が期待できる。溝の付与は、円弧状表面31において、サクションロール10の回転方向に交差する方向に深さ60μm程度の溝を設定することでなされる。
【0029】
本発明におけるメインデッケルストラップ30Mの摩耗の低減は、隙間Gを流れるシール用流体(水等)との摩擦の存在によってゼロにはできないが、従来の接触型に比して限りなく低減できる。サクションボックス20の陰圧室21に生成する陰圧の影響により、メインデッケルストラップ30Mがサクションロール10の内周面に対して上下に変動するおそれがあるから、これを回避するためにメインデッケルストラップ30Mはサクションボックス20に対して完全に固定する必要がある。
【0030】
液封装置40は、メインデッケルストラップ30Mの内部に配設され、サクションロール10の内周面に沿う該メインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31に開口し、該サクションロール10の中心軸に沿って連続するスリット状をなす流体供給路41を備える。このとき、流体供給路41からサクションロール10の内周面に向かう流体の流出方向Kは、当該流体供給路41の開口部の面前を通過するサクションロール10の吸引孔11の孔軸方向Hに対して交差角(入口側のメインデッケルストラップ30Miではα1、出口側のメインデッケルストラップ30Moではα2)をなして互いに非平行とされることが好ましい(図2)。
【0031】
流体供給路41からの流体の流出方向Kが吸引孔11の孔軸方向Hに対して上述の交差角α1、α2をなすものとするのは、当該流体が吸引孔11から湿紙1に向けて逆流するのを防ぐためである。各吸引孔11の孔軸方向Hを基準とするα1、α2の向きは、サクションロール10の回転方向Nに沿う方向(図2のα2)でもよいし、サクションロール10の回転方向Nに対する反対方向(図2のα1)でもよい。
【0032】
なお、図5のα2は、サクションロール10の回転方向Nに対する反対方向に向けた交差角の例である。
【0033】
本実施形態において、メインデッケルストラップ30Mは、図3に示す如く、主ピース30Aと副ピース30Bに2分され、主ピース30Aと副ピース30Bが接合する合面に流体供給路41の孔状路41rと、該孔状路41rに連通するスリット状路41sを形成するものとされ、両ピース30A、30Bは、ボルト32により締結され、主ピース30Aに設けた取付用凸部33が、サクションボックス20に設けた取付用凹部23に嵌合されて取り付けられる。メインデッケルストラップ30Mの主ピース30A及び副ピース30Bの端面には、流体供給路41を側方から閉じる蓋34がボルト35により固定され、蓋34に設けられてサクションロール10の外部へと延在されるシール用流体の給水管42が流体供給路41の孔状路41rに接続される(図1)。
【0034】
サクションボックス20において、メインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31がサクションロール10の内周面との間に形成する隙間Gは、当該隙間Gがサクションロール10の内空部にて形成されるものであるため、測定し難い。一つの測定方法としては、サクションロール10の吸引孔11より小サイズの測定具を該吸引孔11からメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31に当接するまで通し、この測定具によってサクションロール10の厚みに隙間Gが加えられた長さを測定し、この測定長さからサクションロール10の厚みを減算することにより、隙間Gを算定する。
【0035】
サクションボックス20において、メインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31がサクションロール10の内周面との間に形成する隙間Gは、実験値又は理論値として求めることができる。ただし、実際には、操業中に隙間Gの微調整が必要になる。この微調整は、サクションボックス20に取り付けられたメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31をサクションロール10の内周面に対して変位可能にするエアシリンダ等のデッケル変位装置を設けておき、サクションボックス20における陰圧室21の陰圧が目標値に達するように、メインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31をサクションロール10の内周面に対して変位させ、隙間Gを調整する。
【0036】
さらに、サクションボックス20にあっては、サクションロール10の内周面とメインデッケルストラップ30Mとの間に形成される隙間Gの大きさを調整できる隙間調整装置50を有する。
【0037】
隙間調整装置50は、図3に示す如く、サクションボックス20における取付用凹部23の底面と、この取付用凹部23に嵌合されるメインデッケルストラップ30Mにおける取付用凸部33の先端面との間に圧縮コイルバネ等の弾発体51を介装し、該メインデッケルストラップ30Mをサクションロール10の内周面の側に向かう突出方向へと弾発する。そして、サクションボックス20における取付用凹部23の側壁に固定したエアシリンダ等によって出没されるストッパピン52をメインデッケルストラップ30Mにおける取付用凸部33の側面33Aに設けた傾斜溝面36に対し、上記メインデッケルストラップ30Mの突出方向に直交する方向から係合させる。傾斜溝面36に係合するストッパピン52の先端部には、該傾斜溝面36との滑りをよくするためのキャップ状治具Jが被着される。弾発体51によりサクションロール10の内周面に向けて弾発されているメインデッケルストラップ30Mがストッパピン52の上記係合によって停止されることから、該ストッパピン52の上記出没量の調整によりメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31がサクションロール10の内周面に対する近接量(換言すれば隙間G)を調整可能にする。ストッパピン52を出没させるエアシリンダ53に供給するエア圧力と、このエア圧力に対応してメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31が形成する隙間Gとの相関関係を予め実験等によって求めておくことで、上述のエア圧力をエアシリンダ53に加えることで適宜の隙間Gを設定できる。
【0038】
隙間調整装置50は、図4に示す如く、サクションロール10の横断面上で、メインデッケルストラップ30Mが取り付けられたサクションボックス20をサクションロール10の内空部に配置した状態を想定し、メインデッケルストラップ30Mにおける円弧状表面31の例えば頂部31Pがサクションロール10の内周面に対してなす多様な間隔δと、当該δに対応する上記隙間Gを予め算定しておき、それらの各隙間Gに対応する各目盛り54をサクションボックス20における取付用凹部23の上端面23Aに対応するメインデッケルストラップ30Mの側面33Aに刻設しておくことによっても構成できる。
【0039】
サクションボックス20及びメインデッケルストラップ30Mをサクションロール10の内空部に組み込む前段階で、メインデッケルストラップ30Mの側面33Aに設けたいずれかの隙間Gの目盛り54を選定し、この目盛り54をサクションボックス20における取付用凹部23の上端面23Aに対向させ、該メインデッケルストラップ30Mをボルト55によってサクションボックス20に固定することで、サクションロール10の内空部に組み込まれた状態下でのメインデッケルストラップ30Mがサクションロール10の内周面に対してなす隙間Gを当該選定した目盛り54の隙間Gにて設定できる。
【0040】
なお、以上の隙間Gは、狭いほど陰圧室21の陰圧を維持できる。ただし、隙間Gが狭過ぎると、サクションロール10の回転部の振れ、円筒度及び部品加工誤差等の関係からサクションロール10とデッケルストラップ30とが部分的に接触してしまうおそれがある。サクションロール10の回転部の振れは、セル10Aのサイズや回転数に応じて変化するから、サクションロール10とデッケルストラップ30とが完全に非接触となり、かつサクションボックス21の陰圧を維持できる隙間Gを探索して採用する作業が必要になる。本発明者の知見によれば、隙間Gの好適値は0mm越え5mm以下、より好適には0mm越え1mm以下である。
【0041】
また、サクションロール10の内周面とメインデッケルストラップ30Mの円弧状表面31との間に形成される隙間Gは、サクションロール10の回転方向Nに関して均一とするものに限らず、当該隙間Gにおける圧力損失を増加させる目的で、サクションロール10の回転方向Nに関して漸減(又は漸増)させて当該隙間Gを流れるシール用流体に絞り抵抗を付与する等してもよい。
【0042】
したがって、本実施形態によれば以下の作用効果を奏する。
【0043】
(a)サクションロール10の内周面とメインデッケルストラップ30Mとの間に隙間Gを形成し、この隙間Gに供給されるシール用流体によって該隙間Gを液封することにより、サクションボックス20に備えたメインデッケルストラップ30Mをサクションロール10の内周面に対して非接触としながら、該サクションボックスの内部に区画した陰圧室21の陰圧を維持することができる。
【0044】
これにより、メインデッケルストラップ30Mがサクションロール10の内周面に摺接することに基づく摩擦がなくなり、メインデッケルストラップ30Mの摩耗による交換頻度を限りなく低減できるし、サクションロール10の駆動エネルギーも低減できる。
【0045】
メインデッケルストラップ30Mの摺動部に潤滑用シャワー水を供給する必要がないし、メインデッケルストラップ30Mの材料として低摩擦係数のカーボン樹脂等を採用する必要もなくなり、コストを低減できる。
【0046】
(b)上述(a)の隙間Gの大きさが調整できるものとすることにより、サクションロール10の内径及び回転数、陰圧室21に必要とされる陰圧、陰圧室21に接続される真空ポンプの流量等の操業条件に応じて適切となる隙間Gを形成できる。
【0047】
(c)上述(a)の隙間Gに供給されるシール用流体が、サクションボックス20の内部に配設され、サクションロール10の中心軸に沿って連続するスリット状の流体供給路41から供給される。したがって、サクションロール10の内周面とメインデッケルストラップ30Mとの間に形成される隙間Gの全域に、シール用流体を確実に供給できる。
【0048】
(d)流体供給路41からサクションロール10の内周面に向かう流体の流出方向Kが該サクションロール10の吸引孔11に対して非平行とされる。したがって、流体供給路41から流出した流体がサクションロール10の吸引孔11を貫通して該サクションロールの外周面にある湿紙1に飛散する悪影響の発生を回避できる。
【0049】
なお、サクションボックス20にあっては、図2に示す如く、サクションロール10の内周面に対向する位置に、サクションロール10の吸引孔11にクリーニング用シャワー水を噴射するシャワー24を設けている。
【0050】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、サクションボックス20に設けられるエンドデッケルストラップ30Eにあっても、メインデッケルストラップ30Mと同様に、該エンドデッケルストラップ30Eの円弧状表面がサクションロール10の内周面に対してなす隙間Gを調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、サクションボックスに備えたデッケルストラップをサクションロールの内周面に対して非接触としながら、該サクションボックスの内部に区画した陰圧室の陰圧を維持することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 湿紙
10 サクションロール
11 吸引孔
20 サクションボックス
21 陰圧室
23 取付用凹部
30、30M、30E デッケルストラップ
31 円弧状表面
33 取付用凸部
36 傾斜溝面
40 液封装置
41 流体供給路
50 隙間調整装置
51 弾発体
52 ストッパピン
G 隙間


図1
図2
図3
図4
図5