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特許7016106軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017104868
(22)【出願日】2017-05-26
(65)【公開番号】P2018199941
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-04-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591077678
【氏名又は名称】インフラテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】394014641
【氏名又は名称】カネカケンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝司
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和也
(72)【発明者】
【氏名】原口 望
(72)【発明者】
【氏名】東原 健一
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-101232(JP,A)
【文献】特開2004-238863(JP,A)
【文献】特開平04-118425(JP,A)
【文献】米国特許第05549418(US,A)
【文献】特開2000-220145(JP,A)
【文献】特開2005-146618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00-17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版を形成する工程を含む軽量盛土の構築方法であって、
形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備えた、断面がL字形状の埋設型枠材を、発泡樹脂ブロック上に固定した後、立設部位の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設する工程を有し、
上記埋設型枠材は、底板部位において、立設部位との結合部分から先端部分に向かって、その長さが次第に短くなるように形成されていることを特徴とする軽量盛土の構築方法。
【請求項2】
上記埋設型枠材の長さがコンクリート床版の厚さの3~15倍であることを特徴とする請求項に記載の軽量盛土の構築方法。
【請求項3】
上記埋設型枠材が繊維補強セメントで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の軽量盛土の構築方法。
【請求項4】
発泡樹脂ブロック上に緩衝材を設置した後、埋設型枠材を設置することを特徴とする請求項1~の何れか一項に記載の軽量盛土の構築方法。
【請求項5】
発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版が形成された軽量盛土構造であって、
打設されるコンクリート床版の枠材である埋設型枠材を備え、
上記埋設型枠材は、断面がL字形状であり、コンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備え、発泡樹脂ブロック上に固定されており、
上記埋設型枠材は、底板部位において、立設部位との結合部分から先端部分に向かって、その長さが次第に短くなるように形成されていることを特徴とする軽量盛土構造。
【請求項6】
発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版が形成された嵩上げ構造であって、
打設されるコンクリート床版の枠材である埋設型枠材を備え、
上記埋設型枠材は、断面がL字形状であり、コンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備え、発泡樹脂ブロック上に固定され、
上記埋設型枠材は、底板部位において、立設部位との結合部分から先端部分に向かって、その長さが次第に短くなるように形成されていることを特徴とする嵩上げ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間が軽減された軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発泡スチロール土木工法(Expanded Polystyrol Construction Method ;EPS工法とも称される)によって軽量盛土を構築することが行われている。当該工法では、例えば2000×1000×500mmの大きさの発泡スチロール(発泡ポリスチレン)製のブロック(EPSブロックとも称される)を多数積み上げることにより、軽量盛土構造を形成することができる。
【0003】
上記ブロックを多数積み上げて形成される軽量盛土構造においては、不陸整正のために、ブロックの積み上げ高さが3mになるごとに、並びに最上部に、一般的な場合では厚さ150mmのコンクリート床版を設置することが業界の基準書で規定されている。一般に、コンクリート床版を設置するには、壁面材を設置するためのH型鋼を設置し、ブロックを積み上げた後、H型鋼を利用して、図6に示すように、木製枠材(型枠合板)等の枠材によってコンクリート床版用の型枠構造を固定し、ブロック上に鉄筋金網を設置して結束線やセパレータ等の固定治具を用いて固定を行った上で上記型枠構造にコンクリートを打設して硬化させ、硬化後に型枠構造を解体する。
【0004】
ところが、発泡スチロール製のブロックに釘等の固定部材を用いて型枠を設置すること、並びに型枠の解体を行うことは非常に困難である。具体的には、スペースが限られた場所での、コンクリートの打設圧に耐え得る型枠を設置する作業、および当該型枠を解体する作業は、発泡スチロール製のブロック上での作業となるため固定部材が充分に固定され難く、また足元が不安定であるので、非常に困難である。さらに、ブロックの積み上げ高さが高くなるにつれ、型枠を支えるために長尺の支柱を設置したり、型枠を組むために別途足場を組む必要が生じたりする場合があり、型枠を組むための部品点数も多くなる。
【0005】
このため、コンクリート床版の型枠を簡便に設置することができる方法が求められている。例えば、特許文献1には、壁面側に位置するブロックの端面部分に堰堤部を設け、当該堰堤部を型枠として用いることにより、コンクリート床版を設置する構築方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-172676号公報(1999年6月29日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているコンクリート床版の構築方法では、ブロックの壁面側の先端部にまでコンクリートを打設することができない。即ち、ブロック上の全面にコンクリート床版を設置することができないという問題点を有している。
【0008】
また、近年、H型鋼を用いないで、ブロックに壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)盛土構築用のブロックが施工されることが多くなってきている。ところが、当該ブロックを用いた施工法でも、特許文献1に記載されているコンクリート床版の構築方法と同様に、発泡スチロール製のブロックに釘等の固定部材を用いて型枠を設置すること、並びに型枠の解体を行うことは非常に困難である。
【0009】
それゆえ、ブロック上の全面にコンクリート床版を設置するための型枠を簡便に設置することができる方法、つまり、壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)盛土構築用のブロックにも対応可能で、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間を軽減することができる軽量盛土の構築方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討した結果、型枠として、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、底板部位とを備えた断面がL字形状の埋設型枠材を用い、当該埋設型枠材を発泡樹脂ブロック上に固定した後、立設部位の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設することにより、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間が軽減された軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔9〕に記載の発明を含む。
【0012】
〔1〕 発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版を形成する工程を含む軽量盛土の構築方法であって、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備えた、断面がL字形状の埋設型枠材を、発泡樹脂ブロック上に固定した後、立設部位の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設することを特徴とする軽量盛土の構築方法。
【0013】
〔2〕 上記埋設型枠材は底板部位に複数の孔を有し、当該埋設型枠材を、その孔に棒状の固定部材を差し込むことによって発泡樹脂ブロック上に固定することを特徴とする〔1〕に記載の軽量盛土の構築方法。
【0014】
〔3〕 上記固定部材の径が6mm以上であることを特徴とする〔2〕に記載の軽量盛土の構築方法。
【0015】
〔4〕 上記埋設型枠材の長さがコンクリート床版の厚さの3~15倍であることを特徴とする〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の軽量盛土の構築方法。
【0016】
〔5〕 上記埋設型枠材は、底板部位において、立設部位との結合部分から先端部分に向かって、その長さが次第に短くなるように形成されていることを特徴とする〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載の軽量盛土の構築方法。
【0017】
〔6〕 上記埋設型枠材が繊維補強セメントで形成されていることを特徴とする〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載の軽量盛土の構築方法。
【0018】
〔7〕 発泡樹脂ブロック上に緩衝材を設置した後、埋設型枠材を設置することを特徴とする〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の軽量盛土の構築方法。
【0019】
〔8〕 発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版が形成された軽量盛土構造であって、打設されるコンクリート床版の枠材である埋設型枠材を備え、上記埋設型枠材は、断面がL字形状であり、コンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備え、発泡樹脂ブロック上に固定されていることを特徴とする軽量盛土構造。
【0020】
〔9〕 発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版が形成された嵩上げ構造であって、打設されるコンクリート床版の枠材である埋設型枠材を備え、上記埋設型枠材は、断面がL字形状であり、コンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、平均厚さがコンクリート床版の厚さの30%以下である底板部位とを備え、発泡樹脂ブロック上に固定されていることを特徴とする嵩上げ構造。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、底板部位とを備えた断面がL字形状の埋設型枠材を用い、当該埋設型枠材を発泡樹脂ブロック上に固定した後、立設部位の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設する。このため、ブロック上の全面にコンクリート床版を設置するための型枠を簡便に設置することができ、また、コンクリート床版を形成した後、型枠を解体する必要が無い。そして、ブロック上の全面に、埋設型枠材と一体となったコンクリート床版を設置することができる。
【0022】
それゆえ、壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)盛土構築用のブロックにも対応可能で、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間を軽減することができる軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法を提供することができる。即ち、施工性に優れ、工期の短縮およびコスト低減を行うことができる軽量盛土構造、および軽量盛土の構築方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施の形態に係る軽量盛土の構築方法に用いる埋設型枠材の、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図であり、(d)は要部を拡大して示す平面図である。
図2】上記埋設型枠材を用いた軽量盛土構造の一例を示す概略の部分断面図である。
図3】上記埋設型枠材を用いた軽量盛土構造の一例を示す要部の断面図である。
図4】上記埋設型枠材を用いた軽量盛土構造の他の一例を示す要部の断面図である。
図5】上記埋設型枠材を用いた軽量盛土構造のさらに他の一例を示す概略の断面図である。
図6】従来の軽量盛土構造の一例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。
【0025】
本発明の実施の一形態に係る軽量盛土の構築方法は、発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版を形成する工程を含む軽量盛土の構築方法であって、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、底板部位とを備えた断面がL字形状の埋設型枠材を、発泡樹脂ブロック上に固定した後、立設部位の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設する方法である。
【0026】
また、本発明の実施の一形態に係る軽量盛土構造は、発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版が形成された軽量盛土構造であって、打設されるコンクリート床版の枠材である埋設型枠材を備え、上記埋設型枠材は、断面がL字形状であり、コンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位と、底板部位とを備え、発泡樹脂ブロック上に固定されている構成である。
【0027】
〔埋設型枠材〕
本発明の実施の一形態に係る埋設型枠材は、発泡樹脂ブロック上にコンクリート床版を形成するための型枠である。図1に示すように、埋設型枠材1は、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さを有する立設部位2と、底板部位3とを備えており、断面(立設部位2および底板部位3を通る断面)がL字形状である。
【0028】
埋設型枠材1の材質としては、繊維強化されていないコンクリートと比較して、薄型化および軽量化を図ることができるため、繊維強化コンクリートが好適である。強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリアラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリル繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。このうち、ガラス繊維がより好ましい。従って、埋設型枠材1としては、具体的には、繊維補強セメントで形成された繊維強化コンクリート板がさらに好ましく、ガラス繊維補強セメント(GRC: Glass fiber Reinforced Cement)で形成された繊維強化コンクリート板が特に好ましい。繊維強化コンクリートを構成するコンクリート(セメント)の種類は、特に限定されるものではないが、より良好な一体性を図るためには、コンクリート床版となるコンクリートの物性値にできるだけ近い物性値を有するコンクリートであることがより好ましい。また、繊維強化コンクリートは、一般的なコンクリートと比較して緻密であるため、コンクリートの中性化を抑制する効果を期待することができ、鉄筋かぶりの一部としても充分に機能する。さらに、繊維強化コンクリートは、誤ってハンマーで叩いても割れ難い強度を備えている。尚、埋設型枠材1の材質として、鋼材(鋼板)を用いると軽量化を図ることが困難であり、プラスチックを用いると耐候性に劣る。
【0029】
埋設型枠材1は、工場で生産することができる。つまり、埋設型枠材1は、軽量盛土の構築時に作製する必要は無く、予め生産しておく(プレキャスト製品として用意しておく)ことができる。また、埋設型枠材1は、工場で生産することができるので、当該埋設型枠材1の表面にジャンカ(打設不良)が発生することを防止することができ、綺麗な仕上がりとなる。そして、埋設型枠材1は、工場で生産することができるので、壁面側に意匠を容易に形成することができる。
【0030】
繊維強化コンクリートは、一般に、曲げ強度が10.0N/mm~30.0N/mmであり、圧縮強度が50N/mm以上である。繊維強化コンクリートの切断は、ダイヤモンド・カッターを用いて行うことができる。従って、埋設型枠材1は、軽量盛土の形状(傾斜部分等)に対応することができるように、必要に応じて現場で加工することができる。
【0031】
埋設型枠材1の立設部位2の高さh(図1の(b),(c))は、形成するコンクリート床版の厚さに等しい高さである150mmであるか、または、当該コンクリート床版の厚さに、埋設型枠材1の上下部分に形成される目地部分の目隠しに要する長さ(20mm程度)を加えた長さに等しい高さであることが好ましい。つまり、埋設型枠材1の立設部位2の高さhは、150mmであるか、または目地部分の目隠しを行う場合には170mm程度であることが好ましい。尚、本明細書において、「コンクリート床版の厚さに等しい高さ」との文言は、施工にあたり、コンクリート床版の厚さと実質的に等しいと見なされる高さ、および、さらに目地部分の目隠しを行うことができる長さを加えた高さを包含している。
【0032】
埋設型枠材1の底板部位3の幅w(図1の(a),(c))は、コンクリートの打設圧に耐え得ることができる幅であればよく、特に限定されるものではないが、150mm程度が好適である。埋設型枠材1の底板部位3の平均厚さt(図1の(b),(c))は、形成するコンクリート床版の厚さの30%(45mm)以下である。底板部位3の平均厚さtがコンクリート床版の厚さの30%を超えると、埋設型枠材1が重くなり、重機を用いる必要が生じたり、底板部位3の上部にコンクリートの骨材が充填されなくなったり、人力での運搬および施工が困難になったりするおそれがある。
【0033】
発泡樹脂ブロック上に設置したときに埋設型枠材1が安定するように、埋設型枠材1は、立設部位2よりも底板部位3の方が重いことが望ましい。このため、埋設型枠材1の立設部位2の平均厚さt’(図1の(a),(c))は、底板部位3の平均厚さtよりも薄いことが好ましい。つまり、底板部位3の平均厚さtは、立設部位2の平均厚さt’以上の厚さであることが好ましい。これにより、埋設型枠材1の重心が低くなるので、当該埋設型枠材1を発泡樹脂ブロック上に安定して固定することができる。但し、底板部位3の幅wが立設部位2の高さhと比較して充分に広い場合には、発泡樹脂ブロック上に設置したときに埋設型枠材1が安定し易くなるため、埋設型枠材1の立設部位2の平均厚さt’を、底板部位3の平均厚さtよりも厚くしてもよい。尚、立設部位2は、底板部位3側(結合部分)から先端部分に向かって、厚さが次第に薄くなるように形成されていてもよい。
【0034】
埋設型枠材1の長さl(図1の(a),(b))は、特に限定されるものではないが、コンクリート床版の厚さの3~15倍であること、つまり、450mm~2250mmが好適であり、埋設型枠材1を人力で容易に運搬することができるように、1000mm程度がより好ましい。埋設型枠材1の長さlが3倍未満であると、壁面側の目地処理、および固定部材9(図3)による固定作業が手間になるおそれがある。埋設型枠材1の長さlが15倍を超えると、埋設型枠材1が重くなり過ぎて人力での運搬が難しくなるおそれがあり、また、軽量盛土の形状(曲線部分、傾斜部分等)に対応するために、埋設型枠材1を現場で加工する必要が生じ易くなる。尚、埋設型枠材1の重量は、1000mmの長さで8kg程度である。
【0035】
上記埋設型枠材1は、底板部位3において、立設部位2側(結合部分)から先端部分に向かって、その長さが次第に短くなるように、いわゆるテーパーが形成されていてもよい。即ち、底板部位3の先端部分の長さl’(図1の(a))は、埋設型枠材1の長さlよりも数mm短くなっていてもよい。より具体的には、図1の(d)に示すように、例えば底板部位3の幅wが148mmである二つの埋設型枠材1を、立設部位2側が直線状になるように並べた場合には、互いに隣り合う底板部位3の先端部分の間に、例えば3.4mmの隙間が空くように、上記底板部位3の先端部分の長さl’(図1の(a))は、埋設型枠材1の長さlよりも3.4mm短くなっていてもよい。埋設型枠材1は、底板部位3にテーパーが形成されることにより、軽量盛土の曲線部分にも対応した軽量盛土構造を構築可能となっている。上記テーパーの度合いは、30R程度の曲線部分にも対応可能なように、1~2°程度が好適であるものの、軽量盛土構造の施工場所の曲線部分に対応して適宜決定すればよく、特に規定されない。
【0036】
そして、埋設型枠材1は、一部分に応力が集中しないように、立設部位2と底板部位3との結合部分にいわゆるR加工が施されていると共に、作業時の安全性等を考慮して、角部分に面取り加工が施されていてもよい。
【0037】
また、埋設型枠材1は、底板部位3に、埋設型枠材1を発泡樹脂ブロック上に固定するための棒状の固定部材9(図3)を差し込む、複数の孔4を必要に応じて有している。上記孔4の数は、複数であればよいが、埋設型枠材1を発泡樹脂ブロック上に安定して固定することができ、また、軽量盛土の形状(曲線部分、傾斜部分等)に対応するために現場で加工することを想定して、3個以上が好ましく、5個以上がより好ましく、10個程度が最適である。底板部位3における上記孔4の配置は、図1の(a)に示すように、埋設型枠材1の長さ方向において対称となる位置が好ましい。図1は、孔4が10個の場合の配置の一例である。上記孔4の径は、固定部材9の径に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、6mm~15mm程度が好適である。
【0038】
尚、埋設型枠材1は、底板部位3に孔4を有していなくてもよい。埋設型枠材1が底板部位3に孔4を有していない場合には、当該埋設型枠材1は、底板部位3の先端部分をL字形状の固定部材で押さえて発泡樹脂ブロック上に固定すればよい。
【0039】
〔固定部材〕
図3に示すように、埋設型枠材1は、固定部材9を、底板部位3の孔4に挿入して発泡樹脂ブロック10に突き刺すことにより、発泡樹脂ブロック10上に固定される。上記棒状の固定部材9は、発泡樹脂ブロック10に突き刺し易いように一方の先端部が尖っており、他方の先端部が埋設型枠材1を押さえることができるように膨らんでいる。より好ましくは、上記棒状の固定部材9は、上記他方の先端部が曲がったL字形状である。固定部材9の材質としては、鋼材が好適である。固定部材9の長さ(孔4に挿入される長さ)は、一つの埋設型枠材1を固定する固定部材9の本数にもよるが、150mm~300mmであり、200mm程度が好適である。或いは、コンクリート床版の厚さと同等の長さから、2倍程度の長さが好適である。固定部材9の断面形状は、丸形、或いは三角形、正方形、六角形等の多角形が挙げられるが、特に限定されるものではない。固定部材9の径(断面形状が丸形である場合には直径、多角形である場合には最大径)は、発泡樹脂ブロック10に突き刺した状態での引抜抵抗や剪断抵抗を得るために、6mm以上であることが好ましい。上記径が6mm未満であると、固定に用いる固定部材9の本数(および孔4の個数)を極端に多くする必要が生じる。
【0040】
上記固定部材9の本数は、複数本であればよいが、埋設型枠材1を発泡樹脂ブロック上に安定して固定することができるように、2本以上が好ましく、3本以上がより好ましく、5本程度が最適である。従って、埋設型枠材1の底板部位3に設けられる複数の孔4の全てに固定部材9が挿入されるのではなく、固定部材9は、埋設型枠材1を発泡樹脂ブロック上に安定して固定することができるように、複数設けられた孔4のうち、固定に好適な孔4を選択して挿入される。
【0041】
〔発泡樹脂ブロック〕
図2,3に示すように、発泡樹脂ブロック10は、同体積の土砂の1/100程度の重量の、発泡スチロール(発泡ポリスチレン)製のブロック(EPSブロックとも称される)であり、多数積み上げることにより、盛土を形成することができるようになっている。尚、図2では、発泡樹脂ブロック10として、壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)発泡樹脂ブロックを例に挙げている。また、発泡樹脂ブロック10は、例えば2000×1000×500mm等の種々の寸法の規格品として市販されている。発泡樹脂ブロック10は、人力で容易に運搬および施工することができる。
【0042】
〔壁面材〕
図2,3に示すように、壁面材20は、発泡樹脂ブロック10の壁面側に固定される平板状の部材であり、軽量盛土の耐久性および耐候性を高める機能を有している。壁面材20の材質としては、高強度が要求されるので、繊維強化コンクリートが好適である。壁面材20は、工場で生産することができる。つまり、壁面材20は、軽量盛土の構築時に作製する必要は無く、予め生産しておく(プレキャスト製品として用意しておく)ことができる。そして、壁面材20は、工場で生産することができるので、壁面側に意匠を容易に形成することができる。
【0043】
〔軽量盛土の構築方法〕
本発明の実施の一形態に係る軽量盛土の構築方法は、図2,3に示すように、発泡樹脂ブロック10上にコンクリート床版12を形成する工程を含む軽量盛土の構築方法であって、埋設型枠材1を、発泡樹脂ブロック10上に固定した後、立設部位2の高さに等しい厚さとなるようにコンクリートを打設する方法である。以下、軽量盛土の構築方法の一工程を順に説明する。
【0044】
先ず、発泡樹脂ブロック10を水平に並べることができるように、軽量盛土を構築する地面等の基礎を整地する(整地工程)。
【0045】
次に、図2に示すように、整地した基礎に発泡樹脂ブロック10を隙間無く水平に並べると共に、高さ3mを超える軽量盛土を構築する場合には、積み上げ高さが3mになるまで発泡樹脂ブロック10を積み上げる(ブロック積上工程)。発泡樹脂ブロック10同士は、互いにずれないように、緊結金具11(図2では簡略化のため、一つだけを記載している)を用いて互いに連結することによって固定する。また、発泡樹脂ブロック10と地面(傾斜面)等の基礎との隙間を埋めるために、裏込材13を充填する。
【0046】
発泡樹脂ブロック10の積み上げ高さが3mに達すると、図3に示すように、壁面側における最上段の発泡樹脂ブロック10の上に、埋設型枠材1を、固定部材9を用いて固定する(埋設型枠材固定工程)。即ち、埋設型枠材1を、その孔4に固定部材9を差し込むことによって発泡樹脂ブロック10上に固定する。埋設型枠材1の立設部位2は構築後の軽量盛土において露出するので、埋設型枠材1は、壁面材20と壁面側において面一となるように、発泡樹脂ブロック10の壁面側にはみ出すようにして固定する。また、固定時には、発泡樹脂ブロック10上に緩衝材14を設置した後、埋設型枠材1を設置する。緩衝材14は、いわゆるパッキンとしての機能を備え、コンクリートを打設したときの、いわゆるノロ漏れを防止する。また、積み上げた発泡樹脂ブロック10同士で段差が生じて、埋設型枠材1と発泡樹脂ブロック10との間に隙間が生じる場合には、緩衝材14は、上記段差を埋めるための充填材としても機能する。尚、ノロ漏れが問題にならない場合や、積み上げた発泡樹脂ブロック10同士で段差が生じない場合には、緩衝材14を省略することもできる。また、予め、埋設型枠材1の下に緩衝材14を固定しておくこともできる。
【0047】
埋設型枠材1は人力で容易に運搬および施工することができるので、重機を用いる必要が無い。そして、重機を用いる必要が無いので、クレーン操作や玉掛け等の特殊技能を有する作業員(熟練工員)を特に必要としない。また、重機が入ることが困難な現場でも軽量盛土の構築作業ができる。
【0048】
次いで、図3に示すように、最上段の発泡樹脂ブロック10の上に、コンクリート床版12の補強部材である鉄筋金網15を配置する。即ち、配筋を行う(配筋工程)。配筋は、鉄筋かぶりを考慮して、発泡樹脂ブロック10の上に数十mm、例えば40mmの台(図示しない)を複数、規則的に配置し、その上に鉄筋金網15を載置することによって行う。埋設型枠材1は発泡樹脂ブロック10に固定されており、埋設型枠材1と鉄筋金網15とを結合させる必要は無い。
【0049】
続いて、図3に示すように、埋設型枠材1の立設部位2の高さhに等しい高さとなるまでコンクリートを打設し、硬化させる(養生する)ことにより、コンクリート床版12を形成する(床版形成工程)。埋設型枠材1は、打設したコンクリートと一体化する。つまり、埋設型枠材1は、コンクリート床版12と一体化する。埋設型枠材1の立設部位2は、コンクリート床版12の厚さに等しい高さを有しており、コンクリートを打設するときの目安となるので、厚さ150mmのコンクリート床版を速く確実に形成することができる。それゆえ、作業を効率的に行うことができる。
【0050】
図2は、発泡樹脂ブロック10を3mの高さに積み上げることによって軽量盛土を構築する場合を示している。発泡樹脂ブロック10を3mの高さに積み上げることによって軽量盛土を構築する場合には、基礎砕石層および敷砂層を形成して水平にした地面等の基礎の上に、発泡樹脂ブロック10を3mの高さになるまで隙間無く水平に並べると共に積み上げるブロック積上工程を行う。次いで、上述した埋設型枠材固定工程、配筋工程、および床版形成工程を行い、コンクリート床版12を形成する。
【0051】
図5は、発泡樹脂ブロック10を9mの高さに積み上げることによって軽量盛土を構築する場合を示している。発泡樹脂ブロック10を3mよりも高く積み上げることによって軽量盛土を構築する場合には、先ず、基礎砕石層および敷砂層を形成して水平にした地面等の基礎の上に、発泡樹脂ブロック10を3mの高さになるまで隙間無く水平に並べると共に積み上げるブロック積上工程を行う。次いで、上述した埋設型枠材固定工程、配筋工程、および床版形成工程を行い、中間コンクリート床版となるコンクリート床版12を形成する。続いて、当該コンクリート床版12の上に、同様にして、上述したブロック積上工程、埋設型枠材固定工程、配筋工程、および床版形成工程を行い、これら工程を軽量盛土が必要とする高さとなるまで繰り返す(図5では二回繰り返している)。そして、最上部に、上部コンクリート床版となるコンクリート床版12を形成する。
【0052】
その後、図2,3に示すように、発泡樹脂ブロック10の壁面側に壁面材20を固定する(壁面材固定工程)。壁面材20同士の繋ぎ目は、例えば独立気泡を有する樹脂発泡体等の、止水性、伸縮性および耐候性を有する目地材で埋めて目張りを行う。埋設型枠材1の壁面には壁面材20は固定しない。従って、埋設型枠材1の立設部位2は、構築後の軽量盛土において露出している。尚、埋設型枠材1と壁面材20との間に生じる隙間には、止水性を有する充填材21を充填する。
【0053】
次いで、図3に示すように、例えば軽量盛土の上に道路を建設する場合には、縁石となるコンクリートブロック31、路面となるアスファルト32等を設ける。
【0054】
これにより、軽量盛土が構築される。本発明の実施の一形態に係る軽量盛土の構築方法は、埋設型枠材を用いるので、型枠を簡便に設置することができ、型枠を組むための足場が不要である。また、埋設型枠材はコンクリート床版と一体化するので、発泡樹脂ブロック上の全面に、埋設型枠材と一体となったコンクリート床版を設置することができる。さらに、従来の施工法と比較して、コンクリート床版を速く確実に形成することができる。その上、型枠を解体する必要が無いので、軽量盛土の構築作業が簡略化されると共に、型枠に係る廃棄物の発生が無い。また、型枠を組むための足場を組む必要も無い。
【0055】
それゆえ、壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)盛土構築用のブロックにも対応可能で、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間を軽減することができる軽量盛土の構築方法を提供することができる。即ち、施工性に優れ、工期の短縮およびコスト低減を行うことができる軽量盛土の構築方法を提供することができる。
【0056】
次に、軽量盛土の構築方法の他の工程を以下に説明する。
【0057】
発泡樹脂ブロック10が、壁面材を直接設置可能な(壁面材と一体となる)盛土構築用のブロックではない(壁面部を形成するためのH型鋼を用いる必要がある)場合には、図4に示すように、発泡樹脂ブロック10の壁面側に壁面部を形成するH型鋼30を打ち込んだ後、上述したブロック積上工程、埋設型枠材固定工程、配筋工程、および床版形成工程を行う。但し、埋設型枠材1は構築後の軽量盛土において露出しないので、埋設型枠材1は、発泡樹脂ブロック10と壁面側において面一となるように、発泡樹脂ブロック10上に固定する。
【0058】
その後、H型鋼30の壁面側に壁面材20を固定する(壁面材固定工程)。壁面材20同士の繋ぎ目は、止水性を有する目地材で埋めて目張りを行う。
【0059】
発泡樹脂ブロック10の不陸(積み上げられた発泡樹脂ブロック10のがたつき)が生じて、互いに隣り合う埋設型枠材1間で段差が生じた場合には、開いた繋ぎ目(目地)をテープ等の補強材で塞ぎ、ワニ玉クリップ等の金具を用いて滑らかな段差となるように補正してもよい。
【0060】
本発明の実施の一形態に係る軽量盛土の構築方法は、埋設型枠材1を、固定部材9を用いて発泡樹脂ブロック10の上に固定する。それゆえ、軽量盛土の構築方法の他の工程においても、上述した軽量盛土の構築方法の一工程と同様に、軽量盛土の構築作業が簡略化されており、同様の効果を奏する。
【0061】
〔軽量盛土構造〕
本発明の実施の一形態に係る軽量盛土構造は、図2,3に示すように、発泡樹脂ブロック10上にコンクリート床版12が形成された軽量盛土構造であって、埋設型枠材1を備え、上記埋設型枠材1は、発泡樹脂ブロック10上に固定されている構成である。
【0062】
発明の実施の一形態に係る軽量盛土構造は、上述した埋設型枠材が用いられている。また、発泡樹脂ブロック上の全面に、埋設型枠材と一体となったコンクリート床版が設置されている。
【0063】
それゆえ、コンクリート床版の型枠の設置に掛かる手間が軽減された軽量盛土構造を提供することができる。即ち、施工性に優れ、工期の短縮およびコスト低減を行うことができる軽量盛土構造を提供することができる。
【0064】
軽量盛土構造の形態としては、例えば、道路盛土、鉄道盛土、公園盛土、園地盛土、地滑り地の盛土、既設盛土間の新設盛土、堤防背面の嵩上げ盛土、拡幅盛土、構造物背面盛土、等の種々の形態を例示することができるものの、これら形態に限定されるものではなく、一般に軽量盛土構造と称される種々の形態が包含される。
【0065】
また、本発明に係る軽量盛土構造は、上述した形態の他に、例えば、堤防背面の嵩上げ、列車ホーム(プラットホーム)の嵩上げ、倉庫の床の嵩上げ、等の嵩上げ構造として用いることも可能である。
【0066】
即ち、本発明の実施の一形態は、発泡樹脂ブロック10上にコンクリート床版12が形成された嵩上げ構造であって、埋設型枠材1を備え、上記埋設型枠材1は、発泡樹脂ブロック10上に固定されている嵩上げ構造であってもよい。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る軽量盛土の構築方法は、例えば、道路盛土、鉄道盛土、公園盛土、園地盛土、地滑り地の盛土、既設盛土間の新設盛土、堤防背面の嵩上げ盛土、拡幅盛土、構造物背面盛土、等の種々の軽量盛土構造の構築に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0069】
1 埋設型枠材
2 立設部位
3 底板部位
4 孔
9 固定部材
10 発泡樹脂ブロック
11 緊結金具
12 コンクリート床版
13 裏込材
14 緩衝材
15 鉄筋金網
20 壁面材
21 充填材
30 H型鋼
h 立設部位の高さ
l 埋設型枠材の長さ
t 底板部位の平均厚さ
w 底板部位の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6