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特許7016109複合構造体、複合構造体の製造方法、及び蓄熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】複合構造体、複合構造体の製造方法、及び蓄熱方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20220128BHJP
   C04B 35/573 20060101ALI20220128BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
C04B35/573
F28D20/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018024999
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137819
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】391009419
【氏名又は名称】美濃窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎二郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】窪田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和也
(72)【発明者】
【氏名】尾関 文仁
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048393(JP,A)
【文献】特開平01-113486(JP,A)
【文献】特開2002-162182(JP,A)
【文献】特開2012-111825(JP,A)
【文献】国際公開第2013/061978(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/162929(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/200021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
C04B 35/573
F28D 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる内部構造部と、
前記内部構造部を内包する、反応焼結により形成された炭化ケイ素を90体積%以上含むセラミックスからなるシームレスな外殻部と、を備え
前記金属材料の融点が1,500℃以下である複合構造体。
【請求項2】
前記内部構造部と前記外殻部の間に配置される緩衝層をさらに備える請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記緩衝層が、窒化ホウ素及び炭素の少なくともいずれかの材料で形成されている請求項2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記金属材料が、銅、アルミニウム、ニッケル、及び鉄からなる群より選択される少なくとも一種の金属である請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記金属材料が、ケイ素を含有する請求項1~のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記金属材料が、銅、又は、ケイ素を35質量%以下含む銅-ケイ素合金である請求項1~3のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項7】
蓄熱体として用いられる請求項1~6のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法であって、
前記金属材料からなる成形体の外周面を炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層で被覆して被焼成体を得る工程と、
得られた前記被焼成体の少なくとも前記被覆層をケイ素と接触させた状態で加熱し、反応焼結により前記外殻部を形成する工程と、
を有する複合構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の複合構造体を前記内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、前記複合構造体に蓄熱させる工程を有する蓄熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱体等として有用な複合構造体及びその製造方法、並びにこの複合構造体を蓄熱体として用いた蓄熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱方法の一つとして、相変化に伴う潜熱を利用した潜熱蓄熱が知られている。このような潜熱蓄熱を利用した蓄熱体として、その内部に潜熱蓄熱物質を有するカプセル状の蓄熱体が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電解めっき法によって潜熱蓄熱材の表面に一層以上の金属製被膜を形成した潜熱蓄熱カプセルが提案されている。また、特許文献2では、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆した蓄熱マイクロカプセルが提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3では、糖類等の水溶性蓄熱材からなる芯物質と、この芯物質を被覆する、無機化合物と有機高分子化合物の複合材からなる第一カプセル壁と、この第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁とを有する蓄熱マイクロカプセルが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された潜熱蓄熱カプセルの金属製被膜は耐熱性が低いため、高温状態での使用時に破れてしまい、内部の蓄熱物質が漏出しやすくなるといった問題があった。また、特許文献2及び3で提案された蓄熱マイクロカプセルのカプセル壁は低密度であるために強度が低い。このため、高温条件下や腐食等を生じやすい過酷な環境下で使用することは困難であった。さらに、上述した従来の蓄熱用のカプセル等はエネルギー密度が小さく、外殻部分の耐熱性が十分でないため、温度差を利用した顕熱を十分に利用することができず、エネルギー密度が小さいという問題もあった。
【0006】
このような問題を解決すべく、例えば、セラミックスからなる一対の中空半球体を分割面で嵌合して形成した外殻中に金属等の内部蓄熱体を内包した蓄熱体が特許文献4で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-23172号公報
【文献】特開2007-238912号公報
【文献】特開2009-108167号公報
【文献】特開2012-111825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4で提案された蓄熱体はエネルギー密度が高く、ある程度有用なものではあった。しかしながら、使用時に、外殻を形成する一対の中空半球体の嵌合箇所から内部へと空気が侵入することがあった。このため、金属等の内部蓄熱体が酸化により劣化しやすいとともに、嵌合箇所の存在により機械的強度が不足するといった課題があった。また、外殻と内部蓄熱体との間にわずかな空隙が存在するため、この空隙が熱抵抗となって昇温速度が低下する場合があった。さらに、特許文献4で開示された製造方法では、図5に示すように、内部蓄熱体80と外殻92,94を個別に作製した後、これらを組み合わせて蓄熱体100とする必要がある。このため、製造工程が煩雑となってコスト高であるとともに、安定した性能を有する蓄熱体を定常的に製造することが困難であった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、昇温特性に優れているとともに、機械的強度が高く、かつ、蓄熱性能を安定的に発揮しうる、蓄熱体等として有用な複合構造体を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の複合構造体の簡便な製造方法、及び上記の複合構造体を用いた蓄熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す複合構造体が提供される。
[1]金属材料からなる内部構造部と、前記内部構造部を内包する、反応焼結により形成された炭化ケイ素を90体積%以上含むセラミックスからなるシームレスな外殻部と、を備え、前記金属材料の融点が1,500℃以下である複合構造体。
[2]前記内部構造部と前記外殻部の間に配置される緩衝層をさらに備える前記[1]に記載の複合構造体。
[3]前記緩衝層が、窒化ホウ素及び炭素の少なくともいずれかの材料で形成されている前記[2]に記載の複合構造体。
]前記金属材料が、銅、アルミニウム、ニッケル、及び鉄からなる群より選択される少なくとも一種の金属である前記[~[3]のいずれかに記載の複合材料。
]前記金属材料が、ケイ素を含有する前記[1]~[]のいずれかに記載の複合構造体。
[6]前記金属材料が、銅、又は、ケイ素を35質量%以下含む銅-ケイ素合金である前記[1]~[3]のいずれかに記載の複合構造体。
[7]蓄熱体として用いられる前記[1]~[6]のいずれかに記載の複合構造体。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す複合構造体の製造方法が提供される。
[8]前記[1]~[7]のいずれかに記載の複合構造体の製造方法であって、前記金属材料からなる成形体の外周面を炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層で被覆して被焼成体を得る工程と、得られた前記被焼成体の少なくとも前記被覆層をケイ素と接触させた状態で加熱し、反応焼結により前記外殻部を形成する工程と、を有する複合構造体の製造方法。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下に示す蓄熱方法が提供される。
[9]前記[7]に記載の複合構造体を前記内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、前記複合構造体に蓄熱させる工程を有する蓄熱方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、昇温特性に優れているとともに、機械的強度が高く、かつ、蓄熱性能を安定的に発揮しうる、蓄熱体等として有用な複合構造体を提供することができる。また、本発明によれば、上記の複合構造体の簡便な製造方法、及び上記の複合構造体を用いた蓄熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の複合構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の複合構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の複合構造体の製造方法の一実施形態を示す模式図である。
図4】本発明の複合構造体の製造方法の他の実施形態を示す模式図である。
図5】従来の蓄熱体の製造方法の一例を示す模式図である。
図6】各要因が複合構造体の昇温特性に及ぼす影響を示すグラフである。
図7】各要因が複合構造体の機械的強度に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<複合構造体>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の複合構造体は、金属材料からなる内部構造部と、この内部構造部を内包する、反応焼結により形成された炭化ケイ素を主成分とするセラミックスからなるシームレスな外殻部とを備える。以下、本発明の複合構造体の詳細について説明する。
【0016】
図1は、本発明の複合構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の複合構造体10は、内部構造部2と、この内部構造部2を内包するシームレスな外殻部4とを備える。
【0017】
(内部構造部)
複合構造体10を構成する内部構造部2は金属材料によって形成されており、主として内部蓄熱体として機能する部分である。複合構造体10を1,000~1,500℃の温度域の廃熱を回収して再利用する蓄熱体として用いる場合を考慮すると、内部構造部2を構成する金属材料の融点は1,500℃以下であることが好ましく、1,000~1,400℃であることがさらに好ましい。このような金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、及び鉄などを挙げることができる。これらの金属材料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
内部構造部2を構成する金属材料は、ケイ素を含有することが好ましい。後述する複合構造体の製造方法では、金属材料からなる成形体の外周面を被覆層で被覆した被焼成体を所定温度に加熱する。このため、固体から液体への相変態の際に収縮するケイ素を金属材料に含有させておくことで、加熱に伴って溶融した金属材料の過度の膨張を抑制することができる。これにより、得られる複合構造体に欠損等が生じにくくなるとともに、得られる複合構造体の熱伝導性等の特性をさらに向上させることができる。
【0019】
内部構造部2を構成する金属材料がケイ素を含有する場合において、金属材料中のケイ素の含有量は、2~35質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがさらに好ましく、10~25質量%であることが特に好ましい。金属材料中のケイ素の含有量が2質量%未満であると、ケイ素を含有させることによって得られる効果が不十分になる。一方、金属材料中のケイ素の含有量が35質量%超であると、ケイ素の特性が顕在化しやすく、金属材料自体の熱的特性等が不十分になる場合がある。
【0020】
(外殻部)
複合構造体10を構成する外殻部4は、セラミックスによって形成されている。また、このセラミックスは、反応焼結により形成された炭化ケイ素を主成分として含有する。本実施形態の複合構造体10は、このようなセラミックスによって形成された外殻部4によって内部構造部2を被覆したものであるため、良好な昇温特性を有するとともに、優れた機械的強度を示す。外殻部4を形成するセラミックスに含まれる炭化ケイ素の量は特に限定されないが、50体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
また、外殻部4は、嵌合部、接合部、又は隙間等が実質的に存在しない、いわゆるシームレスな部分である。このため、外殻部4を通じて外部から空気が侵入しにくく、内部構造部2が劣化しにくい。さらに、外殻部4に嵌合部や隙間が実質的に存在しないことから、優れた機械的強度が発揮される。
【0022】
(緩衝層)
図2は、本発明の複合構造体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。図2に示すように、本実施形態の複合構造体20は、内部構造部2と外殻部4の間に配置される緩衝層6をさらに備えることが好ましい。後述する複合構造体の製造方法では、金属材料からなる成形体の外周面を被覆層で被覆した被焼成体を所定温度に加熱する。このため、所定箇所に緩衝層を配置することで、加熱に伴って溶融した金属材料の膨張により生ずる応力を緩衝することができる。また、緩衝層を配置することで、加熱に伴って溶融した金属材料が外部に流出しやすくなるのを抑制することも期待される。すなわち、緩衝層は、遮蔽層としての機能をも具備することが好ましい。緩衝層を配置することで、得られる複合構造体に欠損等が生じにくくなるとともに、得られる複合構造体の熱伝導性等の特性をさらに向上させることができる。
【0023】
緩衝層6の厚みは特に限定されないが、3mm以下とすることが好ましく、1mm以下とすることがさらに好ましい。緩衝層6の厚みが3mm超であると、外部から内部構造部2への熱伝導が阻害されやすくなる場合がある。
【0024】
緩衝層6を構成する材料としては、窒化ホウ素、炭素等を挙げることができる。これらの材料は、一種単独で又は二種を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の複合構造体は、(i)堅牢でシームレスな外殻部、及び(ii)この外殻部に内包された金属材料からなる内部構造部、といった、物理的にも化学的にも顕著に相違する二つの構造部分を備える。このため、本発明の複合構造体は、その特性を生かし、例えば、鉄鋼の転炉などの1,000℃以上の高温かつ腐食しやすい過酷な環境下で廃熱回収するための蓄熱体;輻射を利用した発熱体等として有用である。その他、本発明の複合構造体が、耐食性に優れているとともに熱伝導率が高いものであることを利用すれば、触媒基材、放熱基板、及び熱交換機への適用も期待される。
【0026】
<複合構造体の製造方法>
次に、本発明の複合構造体の製造方法について説明する。本発明の複合構造体の製造方法は、上述の複合構造体を製造する方法であり、金属材料からなる成形体の外周面を炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層で被覆して被焼成体を得る工程(工程(1))と、得られた被焼成体の少なくとも被覆層をケイ素と接触させた状態で加熱し、反応焼結により外殻部を形成する工程(工程(2))とを有する。以下、本発明の複合構造体の製造方法の詳細について説明する。
【0027】
(工程(1))
工程(1)では、金属材料からなる成形体の外周面を炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層で被覆して、被焼成体を得る。成形体を構成する金属材料は、内部構造部を形成するための前述の金属材料と同様のものを挙げることができる。なお、金属材料からなる成形体の外周面上に前述した緩衝層を形成してもよい。緩衝層を形成するには、例えば、窒化ホウ素や炭素の粉末を適当な分散媒(水、エタノール等)に分散させて得られるスラリーを成形体の外周面上に塗布すればよい。
【0028】
図3は、本発明の複合構造体の製造方法の一実施形態を示す模式図である。被焼成体を得るには、まず、金属材料からなる成形体12の外周面上に炭化ケイ素及び炭素を含有する粉体層14を形成して、粉体被覆物16を得る(図3(A)、(B))。この粉体層14は、例えば、炭化ケイ素の粉末及び炭素の粉末を適当な分散媒(水、エタノール等)に分散させて得られるスラリーを成形体12の外周面上に塗布することで形成することができる。得られた粉体被覆物16を回転混合器20のチャンバー18に入れ、チャンバー18を回転させて粉体被覆物16を転動させる(図3(C))。これにより、金属材料からなる成形体12の外周面が、粉体層よりも緻密な被覆層22で被覆された被焼成体30を得ることができる(図3(D))。
【0029】
また、以下の方法によって被焼成体を得ることもできる。図4は、本発明の複合構造体の製造方法の他の実施形態を示す模式図である。まず、金属材料からなる成形体12の形状に対応する、炭化ケイ素及び炭素を含有する外殻成形体32a,32bを製造する(図4(A))。そして、製造した外殻成形体32a,32bの内部に成形体12を収容すれば、金属材料からなる成形体12の外周面が被覆層34で被覆された被焼成体40を得ることができる(図(B))。外殻成形体32a,32bは、例えば、炭化ケイ素の粉末及び炭素の粉末を適当なバインダーと混合した後、成形及び脱脂等することによって製造することができる。なお、図4(A)、(B)に示すような2以上の外殻成形体32a,32bを製造する場合、これらの当接部には、例えば、嵌合部42を構成するためのネジ部を形成しておくことが好ましい。
【0030】
工程(2)では、工程(1)で得た被焼成体の少なくとも被覆層をケイ素と接触させた状態で加熱する。具体的には、図3(E)及び図4(C)に示すように、ケイ素を入れた容器に被焼成体30,40を入れ、所定の温度に加熱する。ケイ素の融点は約1,400℃であるため、1,500℃前後に加熱することでケイ素は溶融して溶融ケイ素50となる。これにより、被焼成体30,40の被覆層22,34をケイ素に接触させた状態で加熱することができる。溶融状態となったケイ素(溶融ケイ素50)は被覆層22,34に浸透するとともに、炭素と反応焼結して炭化ケイ素が形成される。これにより、炭化ケイ素を主成分とするセラミックスからなる外殻部4が形成され、内部構造部2と、内部構造部2を内包するシームレスな外殻部4とを備えた複合構造体10を得ることができる(図3(F)及び図4(D))。
【0031】
なお、図4(C)及び(D)に示すように、嵌合部42の隙間にも溶融ケイ素が含浸するため、含浸したケイ素と炭素が反応して炭化ケイ素が形成される。これにより、嵌合部42の隙間は実質的に消失し、シームレスな外殻部4を形成することができる。
【0032】
<蓄熱方法>
次に、本発明の蓄熱方法について説明する。本発明の蓄熱方法は、前述の複合構造体を蓄熱体として使用する方法である。すなわち、本発明の蓄熱方法は、前述の複合構造体(蓄熱体)を内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、複合構造体に蓄熱させる工程(蓄熱工程)を有する。
【0033】
蓄熱工程では、例えば、溶融前の内部構造部の顕熱、溶融前の内部構造部の潜熱、溶融状態の内部構造部の顕熱、及び外殻部の顕熱の総和の熱量(蓄熱体の全熱量)に対して、外殻部の顕熱の蓄熱量が20%以上となるように、複合構造体を加熱して蓄熱させることが好ましい。このような蓄熱方法によれば、溶融前の内部構造部の顕熱、溶融前の内部構造部の潜熱、溶融状態の内部構造部の顕熱、及び外殻部の顕熱の全てを利用することができ、エネルギー密度の高い蓄熱を実現することができる。なお、これらの顕熱及び潜熱は、下記式(1)を用いて算出することができる。そして、算出した顕熱及び潜熱に基づき、複合構造体を加熱する温度を決定することができる。
【0034】
【0035】
上記式(1)中、Tiは初期温度、Teは最終温度、mは質量、Cpsは固定状態における比熱、Cplは液体状態における比熱、Lは潜熱を示す。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0037】
<複合構造体の製造>
(実施例1-1~1-12)
[金属材料からなる成形体(コア成形体)の製造]
(1)Cu、(2)Cu-10%Si、及び(3)Cu-25%Siからなる3種類の球状のコア成形体を鋳造法により製造した。製造したコア成形体の直径は、いずれも約18.5mmであった。
【0038】
[外殻部の形成(製法1)]
炭化ケイ素(SiC)粉末(平均粒径:約1μm)及びカーボン(C)粉末(平均粒径:約2μm)を、SiC:C=90:10の質量比となるように秤量するとともに、混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末にエタノールを分散媒として添加してスラリーを調製した。調製したスラリーをコア成形体の表面に塗布した。同一成分の混合粉末を所定量投入した回転混合機のチャンバーに、その表面にスラリーを塗布したコア成形体を入れた。回転混合器のチャンバーを20分間回転させてコア成形体を転動させ、コア成形体の外周面上に炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層が形成された被焼成体を得た。得られた被焼成体は、その直径が約22mmの球体であった。
【0039】
粒径数mmのケイ素粗粒を敷いた黒鉛容器内に被焼成体を入れ、アルゴンガス中、1,500℃まで加熱昇温した。ケイ素の融点は約1,400℃である。このため、溶融状態となったケイ素が被覆層を構成する炭化ケイ素粉末の間隙に浸透するとともに、炭素と反応して炭化ケイ素が形成された(反応焼結)。これにより、内部構造と、内部構造部を内包する炭化ケイ素を主成分とする外殻部とを備えた複合構造体を得た。なお、加熱により内部のコア成形体も一時溶融するが、外部に流出する等してその形状を失うことはなかった。得られた複合構造体は、その直径が約22mmの球体であった。すなわち、反応焼結により実質的な寸法収縮は生じなかった。
【0040】
(実施例2-1~2-12)
[金属材料からなる成形体(コア成形体)の製造]
窒化ホウ素(BN)をスラリー状としたものを実施例1~12で製造した3種類のコア成形体の表面に塗布して、厚さ約1mmの緩衝層をそれぞれ形成した。このように緩衝層を形成したものをコア成形体として用いた。
【0041】
[外殻部の形成(製法2)]
炭化ケイ素(SiC)粉末(平均粒径:約1μm)及びカーボン(C)粉末(平均粒径:約2μm)を、SiC:C=90:10の質量比となるように秤量し、機械的に混合して約3,000gの混合粉末を得た。得られた混合粉末と、ポリエチレン、ワックス、及びステアリン酸を含む有機系のバインダーとを加圧ニーダ内に投入し、バインダーの融点以上の温度に加熱しながら十分に混練した後、冷却して固化させた。なお、炭化ケイ素の比重を3.22、及び炭素の比重を2.26とし、バインダーの配合量は約50体積%とした。冷却して得た固化物を破砕してペレットを得た。得られたペレットを射出成形機に投入して射出成形した後、アルゴンガス中、600℃に加熱して脱脂処理して、図4に示すような中空半球体である外殻成形体(直径:約22mm)を得た。一対の外殻成形体の内部にコア成形体を入れるとともに、外殻成形体をネジ部で嵌合した。これにより、コア成形体の外周面上に炭化ケイ素及び炭素を含む被覆層(外殻成形体)が形成された被焼成体を得た。なお、被覆層の嵌合部には、わずかな隙間が残っている。
【0042】
粒径数mmのケイ素粗粒を敷いた黒鉛容器内に被焼成体を入れ、アルゴンガス中、1,500℃まで加熱昇温した。ケイ素の融点は約1,400℃である。このため、溶融状態となったケイ素が被覆層を構成する炭化ケイ素粉末の間隙に浸透するとともに、炭素と反応して炭化ケイ素が形成された(反応焼結)。これにより、内部構造部と、内部構造部を内包する炭化ケイ素を主成分とする外殻部とを備えた複合構造体を得た。なお、加熱により内部のコア成形体も一時溶融するが、外部に流出する等してその形状を失うことはなかった。得られた複合構造体は、その直径が約22mmの球体であった。すなわち、反応焼結により実質的な寸法収縮は生じなかった。また、嵌合部の隙間にもケイ素が含浸し、炭素と反応して炭化ケイ素が形成されたことで、嵌合部の隙間は消失していた。
【0043】
(比較例1-1~1-12)
[外殻部の形成(製法3)]
炭化ケイ素(α-SiC)粉末(屋久島電工社製、平均粒径:0.72mm)粉末100gに対して、アルミナ(Al23)(昭和電工社製)3%、及び炭化ホウ素(B4C)粉末1~5%をそれぞれ添加し、ポリエチレン製の容器に入れた。エタノール中、ナイロン製ボールを用いた湿式ボールミルにより20時間混合した後、乾燥して混合粉末を得た。得られた混合粉末55体積部と、アクリル樹脂及びワックスを含むバインダー45体積部とを混合し、約3,000gの混合物を得た。得られた混合物を加圧ニーダに入れ、バインダーの融点以上の温度に加熱しながら十分に混練した後、冷却して固化させた。冷却して得た固化物を破砕してペレットを得た。得られたペレットを射出成形機に投入して射出成形し、中空半球体である成形体(直径:約25mm)を得た。得られた成形体を、アルゴンガス中、600℃に加熱して脱脂処理した後、2,100℃まで加熱して焼結させた。これにより、直径約22mm、肉厚1mm、相対密度99%の、図5に示すような中空半球体である外殻部を得た。
【0044】
[一体化]
一対の外殻部の内部にコア成形体を入れるとともに、外殻部の接合面(嵌合部)に耐熱性の無機接着剤(商品名「アロンセラミック」、登録商標、東亞合成社製)を薄く塗布した。外殻部をネジ部で嵌合した後、約150℃で加熱して接着した。これにより、内部構造部と、内部構造部を内包する炭化ケイ素を主成分とする外殻部とを備えた複合構造体を得た。なお、嵌合部の隙間を完全に埋めることはできず、わずかな隙間が存在していた。
【0045】
<評価>
(昇温特性)
製造した複合構造体の中心部に直径0.5mmの穴をあけた。あけた穴を通じて、その先端が内部構造部の中心に位置するように熱電対を挿入した。約1,150℃に加熱した炉内に熱電対を挿入した状態の複合構造体を投入した。中心部の温度がほぼ一定となるまでの時間(到達時間)を測定し、昇温特性の指標とした。到達時間の測定結果を表1に示す。また、測定した到達時間の分散分析の結果を表2に示す。さらに、各要因が複合構造体の昇温特性に及ぼす影響を示すグラフを図6に示す。分散分析に当たっては、タグチメソッドに基づき、L36直交表を用いて策定した。また、各データの誤差と効果を切り分けるとともに、統計学的な効果の有無を評価する指標としてSN比を採用した。
【0046】
(機械的強度)
強度試験機を使用し、製造した複合構造体に圧縮荷重を付与した。複合構造体が破壊した時点の荷重(圧壊荷重)を測定し、機械的強度の指標とした。圧壊荷重の測定結果を表1に示す。また、測定した圧壊荷重の分散分析の結果を表3に示す。さらに、各要因が複合構造体の機械的強度に及ぼす影響を示すグラフを図7に示す。分散分析に当たっては、タグチメソッドに基づき、L36直交表を用いて策定した。また、各データの誤差と効果を切り分けるとともに、統計学的な効果の有無を評価する指標としてSN比を採用した。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表1に示すように、実施例の複合構造体は比較例の複合構造体に比して所定の温度までの到達時間が短く、昇温特性に優れていることがわかる。さらに、実施例の複合構造体は比較例の複合構造体に比して圧壊荷重が大きく、機械的強度に優れていることがわかる。
【0051】
また、表2及び図6(グラフ)に示すように、P値を基準にした検定結果から、外殻部の構造が複合構造体の昇温特性に対して有意であることがわかる。また、SN比については、製法1で作製した構造の外殻部が最も大きく、効果が高いことがわかる。なお、製法2で作製した構造の外殻部については、製法1で作製した外殻部に若干劣るものの、製法3で作製した外殻部に比べてSN比が大きいことがわかる。また、内部構造部にケイ素を含有させることで、性能が若干向上したことがわかる。これは、ケイ素をコア成形体に含有させることで固液相変態に伴う寸法変化が抑制され、内部構造部と外殻部の隙間が小さくなったためと考えらえる。
【0052】
さらに、表3及び図7(グラフ)に示すように、外殻部の構造が複合構造体の機械的強度に対して有意であることがわかる。製法3で作製した従来の嵌合構造を有する外殻部には不可避的な隙間が残存している。このため、比較例の複合構造体では外殻部に残存した隙間が破壊の原因となる欠陥となりやすいのに比べて、実施例の複合構造体の外殻部には隙間が実質的に存在せず、破壊の原因となる欠陥がほとんど生じないためであると考えられる。比較例の複合構造体では、設計上、外殻部と内部構造部の間に隙間が生ずる。これに対し、実施例の複合構造体では外殻部と内部構造部の間に隙間が実質的に生じておらず、外殻部と内部構造部が密着しているため、熱抵抗が低下して熱伝導性が向上したと考えられる。さらに、外殻部の内面に内部構造部の表面が接触しているために、外殻部に発生する引張応力が低下し、機械的強度が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の複合構造体は、例えば、鉄鋼の転炉などの1,000℃以上の高温かつ腐食しやすい過酷な環境下で廃熱回収するための蓄熱体として有用である。
【符号の説明】
【0054】
2:内部構造部
4:外殻部
6:緩衝層
10,20:複合構造体
12:(金属材料からなる)成形体
14:粉体層
16:粉体被覆物
18:チャンバー
20:回転混合器
22,34:被覆層
30,40:被焼成体
50:溶融ケイ素
32a,32b:外殻成形体
42:嵌合部
80:内部蓄熱体
92,94:外殻
100:蓄熱体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7