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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】骨形成不全症の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220128BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 31/663 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 38/29 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 38/23 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 45/08 20060101ALI20220128BHJP
   C07K 16/22 20060101ALN20220128BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P19/08
A61K31/663
A61K38/29
A61K38/23
A61K45/08
C07K16/22
C12N15/13
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020042524
(22)【出願日】2020-03-12
(62)【分割の表示】P 2019022397の分割
【原出願日】2014-03-20
(65)【公開番号】P2020109110
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】61/803,647
(32)【優先日】2013-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/875,399
(32)【優先日】2013-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/883,151
(32)【優先日】2013-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン・リー
(72)【発明者】
【氏名】クバー・ティー・サンパス
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-31444(JP,A)
【文献】特表2009-521496(JP,A)
【文献】Biochem.Biophys.Res.Commun.,2012年,422,p.488-493
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2011年,1812,p.711-718
【文献】J.Biol.Chem.,1999年,274(40),p.28514-28520
【文献】神奈川歯学,1990年,24(4),p.716-729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)に結合する抗体または抗原結合断片を含む、ヒト対象の骨形成不全症(OI)の治療用の医薬組成物であって、
ヒト対象は、I型またはII型コラーゲン、ロイシンプロリン-高プロテオグリカン(レプレカン)、または軟骨関連タンパク質(CRTAP)の変異遺伝子を持っていると特定され、
前記抗体または抗原結合断片は、配列番号4、5および6のアミノ酸配列をそれぞれ有する重鎖相補性決定領域(CDR)1-3、および配列番号7、8および9のアミノ酸配列をそれぞれ有する軽鎖CDR1-3を含む、
前記医薬組成物。
【請求項2】
前記抗体が、それぞれ配列番号10および11のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体が、ヒトIgG4定常領域およびヒトκ軽鎖定常領域を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ヒトIgG4定常領域が配列番号12のアミノ酸配列を含み、ヒトκ軽鎖定常領域が配列番号13のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体が、それぞれ配列番号14および15のアミノ酸配列を含む重鎖および軽鎖を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記対象がI型OIである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体が少なくとも1つの治療薬と組み合わせて使用される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記薬剤が、ビスホスホネート、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、カルシトニン、および選択的エストロゲン受容体調節因子からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ヒト対象における骨形成不全症(OI)を治療する方法において使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)に結合する抗体またはその抗原結合断片を含み、
前記抗体または抗原結合断片は、それぞれ配列番号4、5、および6のアミノ酸配列をそれぞれ有する相補性決定領域を有する重鎖相補性決定領域(CDR)1-3および配列番号7、8、および9のアミノ酸配列をそれぞれ有する軽鎖CDR1-3を含み、そして
前記方法は、
a)抗体またはその抗原結合断片を投与すること、
b)(1)1型プロコラーゲン(C末端/N末端)、オステオカルシン、総アルカリホス
ファ
ターゼ、および骨特異的アルカリホスファターゼから選択される骨沈着の1つ以上のバイオマーカー、または
(2)尿中ヒドロキシプロリン、尿中総ピリジノリン、尿中遊離デオキシピリジノリン、
尿中コラーゲンI型架橋N-テロペプチド、尿中または血清コレーゲンI型架橋C-テロペプチド、骨シアロタンパク質、オステオポンチンおよび酒石酸耐性酸性ホスファターゼ5bから選択される骨吸収の1つ以上のバイオマーカー
のレベルを測定することを含む、
前記医薬組成物。
【請求項10】
前記抗体が、それぞれ配列番号10および11のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記抗体が、ヒトIgG4定常領域およびヒトκ軽鎖定常領域を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記抗体が、それぞれ配列番号14および15のアミノ酸配列を含む重鎖および軽鎖を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記対象がI型OIである、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2013年3月20日に出願された米国仮特許出願第61/803,647号、2013年9月9日に出願された米国仮特許出願第61/875,399号、および2013年10月26日に出願された米国仮特許出願第61/883,151号と関連し、これらの仮特許出願の内容は参照によって全体としてそれぞれ本明細書に組み入れる。
【0002】
政府資金調達
本発明は、米国国立衛生研究所より付与された第P01 HD070394号、第P01 HD22657号および第R01 DE01771号の下で政府支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は骨形成不全症(osteogenesis imperfecta、OI)を処置する方法に関する。より詳細には、本発明は、ヒトトランスフォーミング成長因子ベータ(transforming growth factor beta、TGFβ)またはそのアイソフォームに特異的に結合する結合タンパク質、例えば抗体またはその抗原結合性断片を使用して、OIを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
骨形成不全症(OI)は、「脆骨病」またはLobstein症候群としても知られる、衰弱をもたらす希少性の先天性骨疾患であり、15,000人に約1人が罹患する。OIの種類によって表現型は様々であるが、共通の症状として、骨格と歯の不完全骨化、骨量減少、脆弱骨、および病的骨折が挙げられる。OIにおけるこれらの共通の症状は遺伝子変異によって引き起こされると考えられており、その遺伝子変異により骨マトリックスの沈着またはホメオスタシスに関与するI型コラーゲンまたは他のタンパク質の欠乏が引き起こされる。これらの症状ならびに致死性の骨折および合併症の性向の結果、OI患者の寿命は、一般人集団の寿命より短い。したがって、該技術分野でOIの有効な処置方法を開発する早急な必要性があることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1A(ウェスタンブロット)および図1B~1F(グラフ)は、TGFβシグナル伝達が、野生型対照と比較して、Crtap-/-マウスの骨で上昇していることを示す。
図2図2A(発光画像)および図2B~2C(グラフ)は、TGFβリポーターマウスと交配したCrtap-/-マウスが、野生型対照と比較して、より高いTGFβ活性を有することを示す。
図3図3は、マウス汎特異的(pan-specific)抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウス由来の脊椎のμCT画像である。
図4図4は、マウス汎特異的抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウス由来の脊椎の定量的測定値を含むグラフである。
図5A図5は、マウス汎特異的抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウス由来の脊椎の組織学的解析結果である。
図5B図5は、マウス汎特異的抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウス由来の脊椎の組織学的解析結果である。
図6図6Aおよび6Bは、3点曲げ試験によって測定するときの、マウス汎特異的抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウス由来の大腿骨の生体力学的特性(図6A-最大荷重、図6B-剛性))を示すグラフである。
図7図7Aおよび7B(顕微鏡画像)および7C(グラフ)は、マウス汎特異的抗TGFβ抗体1D11で処置したCrtap-/-マウスの肺表現型を示す。
図8図8は、抗デコリン抗体で染色したCrtap-/-およびWT肺の顕微鏡画像である。
図9図9は、デコリン結合アッセイを図示するグラフである。
図10図10は、Crtap-/-マウスにおけるTGFβシグナル伝達の増加を示す一群のグラフ、写真および画像である。図10Aは、TGFβ標的遺伝子p21、PAI-1およびCol1α1の定量的RT-PCRの結果を示す一連の3つのグラフである。グラフは、P3WTおよびCrtap-/-マウスの頭蓋骨における増加したTGFβシグナル伝達を示す。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、1群あたりn=5、p<0.05として示す。図10Bは、P3頭蓋タンパク質抽出物のウェスタンブロット分析の写真であり、WTマウスと比較してCrtap-/-マウスでは全Smad2タンパク質に対する活性化Smad2(pSmad2)の量が増加していることを示し、TGFβ-シグナル伝達が増加していることを示唆する;1群あたりn=3。図10Cは、図10Bで示したウェスタンブロットを定量化して示すグラフである。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、p<0.05として示す。図10Dは、TGFβ-リポーターマウス(SBE-Lucマウス)と相互交配したCrtap-/-マウスとWTマウスにおいてCrtap-/-マウスの方が骨格構造と重複する領域の生物発光が増加していることを示す画像である。P10の3同腹仔の代表画像を示している。3同腹仔において、Crtap-/-マウスは頭/頭蓋冠でWTマウスと比較して平均2.86倍(SD±0.34)の生物発光シグナルを示す(スケールバー=1cm)。図10Eは、TGFβリポーター細胞株を使用して、骨形成条件下で3日間培養したWTおよびCrtap-/-骨髄間質細胞由来の調整培地で評価したTGFβ活性を示すグラフであり、TGFβ活性がWT細胞由来の培地と比較してより高いことが実証される。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、1群あたりn=5、p<0.05として示す。図10Fは、pSmad2についての肺(P10)の免疫染色を示す2つの画像であり、WTおよびCrtap-/-マウスにおける細胞内染色の増加が示される(40倍拡大)。1群あたりマウスn=3の代表的画像を示す(スケールバー=20μm)。
図11図11は、TGFβ中和抗体1D11処置後のCrtap-/-マウスの表現型補正を示す一群の写真とグラフである。図11Aは、16週齢の野生型(WT)マウス、対照抗体処置Crtap-/-マウスおよび1D11処置Crtap-/-マウスにおける処置後8週間のL4椎体の一連の3つのマイクロCT画像である。図11Bは、L4椎体のマイクロCTの結果を示す一群の3つのグラフを示しており、それらの図はWT、対照Crtap-/-および1D11処置Crtap-/-マウスにおいて、骨体積/全体積(BV/TV)、骨梁数(trabecular number)(Tb.N)、および骨梁幅(trabecular thickness)(Tb.Th)が増加していることを実証する。結果は、平均±SD、1群あたりn=8、Crtap-/-1D11対Crtap-/-対照についてp<0.05、+Crtap-/-対WTについてp<0.05として示す。図11Cは、L4脊椎の組織形態計測(histomorphometry)分析の結果を示す一群の3つのグラフを示しており、それらの図はWTと比較してCrtap-/-マウスにおいて骨表面あたりの破骨細胞(osteoclast)数(N.Oc/BS)および骨芽細胞(osteoblast)数(N.Ob/BS)が増加していることを示す。1D11処置後の骨芽細胞数および破骨細胞数の低下は、Crtap-/-マウスの骨再形成加速化が効果的に抑制されたことを示す。Crtap-/-マウスにおける骨面積あたりの骨細胞数(N.Ot/B.Ar)の増加は、1D11処置後にWTレベルまで減少する。結果は、平均±SD、1群あたりn=6、Crtap-/-1D11対Crtap-/-対照についてp<0.05、+Crtap-/-対WTについてp<0.05として示す。図11Dは、16週齢の野生型(WT)マウス、対照Crtap-/-マウス、および1D11処置Crtap-/-マウスにおける処置後8週間での膨張肺のヘマトキシリン/エオシン染色を示す一連の3つの画像である。Crtap-/-対照マウスは、WTマウスと比較して遠位気道空間の増加を示す。1D11を用いて処置した後、対照Crtap-/-マウスと比較して、遠位気道直径の縮小がある。1群あたりn=8マウスの代表的画像を示している(スケールバー=100μm)。図11Eは、平均肺胞径(mean linear intercept、MLI)法による肺胞構造間の距離を定量化して示すグラフであり、対照抗体処置Crtap-/-およびWTマウスと比較して1D11処置Crtap-/-マウスにおける遠位気道空間が顕著に減少していることが実証される。結果は、平均±SD、1群あたりマウスn=8、1マウスあたり10解析画像、Crtap-/-1D11対Crtap-/-対照に対してp<0.05、+Crtap-/-対WTに対してp<0.05として示す。
図12図12は、デコリンのI型コラーゲンへの結合が、P986 3Hyp部位で重複し、Crtap-/-マウスのI型コラーゲンで減少していることを示す一連のグラフである。図12Aは、P3マウスの頭蓋骨の定量的RT-PCRの結果を示す一群の3つのグラフであり、WTに対してCrtap-/-マウスの頭蓋骨における小ロイシンリッチプロテオグリカンデコリン(Dcn)、バイグリカン(Bgn)、およびアスポリン(Aspn)のRNA発現に差異がないことを示している。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、1群あたりn=5として示す。図12Bは、表面プラズモン共鳴分析を示すグラフであり、Crtap-/-マウスのI型コラーゲンに対する組み換えデコリンコアタンパク質に対する結合が、WTのI型コラーゲンと比較しておよそ45%少ないことを示している。3μM、5μMおよび12μMのデコリンを使用して3つの独立した実験を行った。チップ上に固定されたI型コラーゲンに対して標準化された結合デコリン総量の応答単位(RU)を示す。Crtap-/-I型コラーゲンに結合するデコリンの低下平均は44.6±7.9%である。
図13図13は、増加したTGFβシグナル伝達の阻害によりCol1α2遺伝子(Col1α2tm1.1Mcbr)のG610C変異に起因する優性OIモデルマウスの骨表現型が改善することを示す一連のグラフおよび写真である。図13Aは、TGFβ標的遺伝子p21およびPAI-1の定量的RT-PCRの結果を示す2つのグラフであり、これらはP3 WTおよびCol1α2tm1.1Mcbrマウスの頭蓋骨におけるTGFβシグナル伝達の増加を示している。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、1群あたりn=3、p<0.05として示す。図13Bはウェスタンブロット分析の結果を示す写真であり、この結果から、WTと比較して、WTおよびCol1α2tm1.1McbrマウスのP3頭蓋冠におけるSmad2タンパク質の全レベルに対する活性化Smad2(pSmad2)のレベル増加が示され、TGFβ-シグナル伝達の増加が示唆される;1群あたりn=3。図13Cは、図13Bで示したウェスタンブロットを定量化して示したグラフである。結果は、WT群の平均倍数変化±SD、p<0.05として示す。図13Dは、16週齢の野生型(WT)マウス、対照抗体処置Col1α2tm1.1Mcbrマウス、および1D11処置後Col1α2tm1.1Mcbrマウスの処置後8週間のL4椎体の一連のマイクロCT画像の写真である。図13Eは、L4椎体のマイクロCTからのデータの一連のグラフであり、これらは1D11処置後のCol1α2tm1.1Mcbrマウスにおいて骨体積/全体積(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、および骨梁幅(Tb.Th)が増加していることを示す。結果は、平均±SD、1群あたりn=6、Col1α2tm1.1Mcbr1D11対Col1α2tm1.1Mcbr対照についてp<0.05、+Col1α2tm1.1Mcbr対WTについてp<0.05として示す。
図14図14は、体重曲線のグラフであり、試験期間中におけるWTと比較したCrtap-/-マウスの体重減少を示す(全ての時間点についてp<0.05、平均±SEを示している)。1D11処置Crtap-/-マウスでは、Crtap-/-対照マウスと比較して統計的に有意な体重の差は観察されなかった。
図15図15は、Crtap-/-マウスにおける異常なI型コラーゲン翻訳後修飾に対してTGFβ阻害の効果がないことを示す一連のグラフおよび表である。図15Aは、WTマウス、対照Crtap-/-マウス、および1D11処置Crtap-/-マウス(16週齢マウス、処置後8週間)の脛骨由来の抽出されたI型コラーゲンのタンデム質量スペクトルを示す一連の3つのグラフである。上のグラフ中の配列は配列番号19であり、中央のグラフの配列は配列番号20であり、下のグラフの配列は配列番号21である。図15Bは、タンデム質量スペクトル分析の概要を示す表である。1D11処置は、骨試料におけるコラーゲン残基Pro986 α1(I)の3-ヒドロキシル化状態に有意な影響を与えなかった。3-ヒドロキシル化された残基の平均パーセンテージ(%)(±SD)を示している、1群あたりn=5。図15Cは、対照Crtap-/-および1D11-処置Crtap-/-マウスにおける骨I型コラーゲンが、WTマウスと比較して、ヒドロキシリシルピリジノリン(HP)およびリシルピリジノリン架橋(LP)レベルの変化とHP/LP比率の増加を表すことを示す一連の3つのグラフである。Crtap-/-マウスにおける1D11処置は、対照Crtap-/-マウスと比較してこれらのパラメータに有意な影響を与えなかった。結果は、平均±SD、1群あたりn=4マウス、+Crtap-/-対WTについてp<0.05として示す。
図16図16は、処置研究の開始時(図16A=8週齢)および終了時(図16B=16週齢)における血清骨代謝回転マーカー・オステオカルシン(OCN)および骨コラーゲンのC末端架橋テロペプチド(CTX)を示す一連のグラフである。図16Aは、試験開始時のWTマウスと比較した8週齢Crtap-/-における増加したOCNおよびCTX血清レベルの増加が、Crtap-/-マウスにおける増加した骨代謝回転を表すことを示す2つのグラフである。結果は、平均±SD、WTについてn=8、Crtap-/-マウスについてn=14、+Crtap-/-対WTについてp<0.05として示す。図16Bは、16週齢1D11処置Crtap-/-マウスが、対照Crtap-/-マウスと比較して、血清OCNの低下とCTX血清レベルの顕著な低下の傾向を示すことを示す2つのグラフであり、TGFβの阻害により増加した骨代謝回転が抑制されることを示している。結果は、平均±SD、WTについてn=8、Crtap-/-の1群あたりn=7、Crtap-/-1D11対Crtap-/-対照についてp<0.05、+Crtap-/-対WTについてp<0.05として示す。
図17図17は、WT、対照Crtap-/-、および1D11処置Crtap-/-マウス(16週齢、処置後8週間)の椎体L4のマイクロCT分析の結果を示す表である。平均±SDは、骨体積/組織体積(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(trabecular separation)(Tb.Sp)および骨体積に対する骨塩量(bone mineral density)(BMD BV);1群あたりn=8を示しており、+は等分散試験が不合格になった場合のクラスカル=ウォリスの順位に基づく一元配置分散分析を示す。n.s.=統計的に有意でない。
図18図18は、WT、対照Crtap-/-、および1D11処置Crtap-/-マウス(16週齢、処置後8週間)についての大腿骨近位部における骨梁骨のマイクロCT分析の結果を示す表である。平均±SDは、骨体積/組織体積(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(Tb.Sp)および骨体積に対する骨塩量(BMD BV);1群あたりn=8について示す。+は等分散試験が不合格になった場合のクラスカル=ウォリスの順位に基づく一元配置分散分析を示す。n.s.=統計的に有意でない。
図19図19は、WT、対照Crtap-/-、および1D11処置Crtap-/-マウス(16週齢、処置後8週間)についての大腿骨中軸での皮質骨のマイクロCT分析の結果を示す表である。平均±SDは、皮質の厚さ、骨体積に対する骨塩量(BMD BV)、前後(a.p.)径、横断面積(CSA)、および内外(m.l.)および前後(a.p.)軸に対する横断面慣性モーメント(CSMI);1群あたりn=8を示す。n.s.=統計的に有意でない。
図20図20は、3点曲げ試験による大腿骨(16週齢マウス、処置後8週間)の生体力学試験の結果を示す表である。WTマウスと比較して、対照Crtap-/-マウスは、弾性率および弾性変位を除く生体力学パラメータの有意な低下を示す。1D11を用いた抗TGFβ処置は、Crtap-/-大腿骨における最大荷重および極限強度の著しい改善に至り、全ての骨および組織強度の増加を示している。しかしながら、降伏後変位の有意な変化は観察されず、1D11がOI骨の脆弱性増加に影響しなかったことを示す。WTについてn=6、対照Crtap-/-についてn=4、1D11処置Crtap-/-マウスについてn=3。n.s.=統計的に有意でない。
図21図21は、WT、対照Crtap-/-、および1D11処置Crtap-/-マウス(16週齢、処置後8週間)におけるL4椎体の組織形態計測分析の結果を示す表である。平均±SDは、骨体積/組織体積(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(Tb.Sp)、破骨細胞数/骨表面積(N.Oc/BS)、破骨細胞表面積/骨表面積(Oc.S/BS)、骨芽細胞数/骨表面積(N.Ob/BS)、骨芽細胞表面積/骨表面積(Oc.S/BS)、骨細胞数/骨面積(N.Ot/B.Ar);1群あたりn=6について示す。+は等分散試験が不合格になった場合のクラスカル=ウォリスの順位に基づく一元配置分散分析を示す。n.s.=統計的に有意でない。
図22図22は、WT、対照Col1α2tm1.1Mcbr、および1D11処置Col1α2tm1.1Mcbrマウス(16週齢、処置後8週間)における椎体L4のマイクロCT分析の結果を示す表である。平均±SDは、骨体積/組織体積(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(Tb.Sp)および骨体積に対する骨塩量(BMD BV);1群あたりn=6について示す。n.s.=統計的に有意でない。
図23図23は、WTおよびCrtap-/-マウスにおける組み換えデコリンコアタンパク質のI型コラーゲンに対する結合を測定した表面プラズモン共鳴分析を示すグラフである。デコリンの示された濃度それぞれにおける3つの技術的複製物は、2つの独立した生物学的複製物から実施した(◆複製物1、▲複製物2)。結果は、WTの平均に対するパーセンテージで示す(バーは1群あたりの平均を示す)。
図24図24(顕微鏡画像)は、WTおよびCrtap-/-マウスの遠位部大腿骨骨端におけるデコリンの免疫染色を20倍拡大、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=100μm(図24A~24C)および40倍拡大、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=50μm(図24D~24F)で実証する。対照大腿骨は二次抗体のみとインキュベートした。
図25図25(顕微鏡画像)は、WTおよびCrtap-/-マウスの遠位部大腿骨骨端におけるTGFβ1の免疫染色を、20倍、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=100μm(図25A~25C)、および40倍拡大、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=50μm(図25D~25F)で実証する。対照大腿骨は二次抗体のみとインキュベートした。
図26図26(顕微鏡画像)は、WTおよびCol1α2tm1.1Mcbrマウスについての遠位部大腿骨骨端におけるTGFβ1の免疫染色を、20倍、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=100μm(図26A~26C)、および40倍拡大、遺伝子型あたりn=3、スケールバー=50μm(図26D~26F)で実証する。対照大腿骨は二次抗体のみとインキュベートした。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は骨形成不全症(OI)を効果的に処置する方法に関する。より詳細には、本発明は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)またはそのアイソフォームに特異的に結合する結合タンパク質、例えば抗体またはその抗原結合性断片を使用して、OIを処置する方法に関する。好ましくは、結合タンパク質は「汎特異的」であり、ヒトTG
Fβの3つのアイソフォーム、つまりTGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3の全てに結合する。より好ましくは、結合タンパク質は、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に特異的に結合し、中和する。一態様において、本発明は、それを必要とする対象におけるOIを処置する方法であって、該対象に、TGFβに特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む前記方法を提供する。
【0007】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号4、5および6からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)を含む重鎖可変領域と、配列番号7、8および9からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する3つのCDRを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0008】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0009】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、さらにヒトIgG4定常領域を含む。一実施形態において、ヒトIgG4定常領域は、配列番号12のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、さらにヒトκ軽鎖定常領域を含む。別の実施形態において、ヒトκ軽鎖定常領域は、配列番号13のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、さらにヒトIgG4定常領域とヒトκ軽鎖定常領域を含む。
【0010】
別の実施形態において、ヒトIgG4定常領域は、配列番号12のアミノ酸配列を含み、ヒトκ軽鎖定常領域は、配列番号13のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0011】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を中和する。
【0012】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、骨体積密度(BV/TV)、全骨表面積(BS)、骨面密度(BS/BV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(Tb.Sp)および全体積(Dens TV)からなる群から選択される骨パラメータを改善させる。
【0013】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、骨吸収を阻害する。
【0014】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、尿中ヒドロキシプロリン、尿中総ピリジノリン(PYD)、尿中遊離デオキシピリジノリン(DPD)、尿中コラーゲンI型架橋N-テロペプチド(NTX)、尿中または血清コラーゲンI型架橋C-テロペプチド(CTX)、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチン(OPN)および酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(tartrate-resistant acid phosphatase)5b(TRAP)からなる群から選択される骨吸収の血清バイオマーカーを低下させる。
【0015】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、総アルカリホスファターゼ、骨特異的アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、およびI型プロコラーゲン(C末端/N末端)からなる群から選択される骨沈着の血清バイオマーカーを増加させる。
【0016】
別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、骨吸収を阻害する。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、骨沈着を促進する。別の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、聴覚機能、肺機能および腎機能からなる群から選択される、OIによって影響を受けた非骨格器官の機能を改善する。
【0017】
別の態様において、本発明は、それを必要とする対象におけるOIを処置する方法であって、該対象に、TGFβに結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含み、該抗体が、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、前記方法を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、それを必要とする対象におけるOIを処置する方法であって、該対象に、TGFβに結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合性断片と少なくとも1つの治療薬剤とを組み合わせて投与することを含む前記方法を提供する。別の実施形態において、前記薬剤はビスホスホネートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.定義
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「a」、「an」および「the」は、他に明記のない限り、複数の参照物も含むことに留意されたい。
【0021】
用語「約」または「およそ」は、所与の値または範囲の10%以内、より好ましくは5%以内(または1%以下)を意味する。
【0022】
用語「投与する」または「投与」は、注入または他の方法で、体外に存在する物質(例えば抗体)を物理的に患者に送達する行為、例えば、粘膜、皮内、静脈内、皮下、もしくは筋肉内送達により、および/または本明細書に記載もしくは当該分野で公知の任意の他の物理的送達方法により投与する行為を指す。疾患またはその症状を処置するとき、物質の投与は、典型的には、その疾患または症状の発症後に行う。疾患またはその症状を予防するとき、物質の投与は、典型的には、その疾患または症状の発症前に行う。
【0023】
TGFβの「拮抗剤」または「阻害剤」は、阻害または他の方法で、TGFβの1つまたはそれ以上の生物活性を、例えばTGFβを発現する細胞内で、またはTGFβリガンドを発現する細胞内で、またはTGFβ受容体を発現する細胞内で、低下させることができる分子を指す。特定の例示的実施形態において、本発明の抗体は、TGFβの活性を、細胞表面発現TGFβ受容体(例えば、TGFβ受容体1、2または3)を有する細胞内で、前記抗体が前記細胞に接触するとき、阻害または他の方法で低下させる拮抗剤抗体である。いくつかの実施形態において、TGFβの拮抗剤(例えば本発明の抗体)は、例えばTGFβ受容体を発現する細胞の活性および/または細胞シグナル伝達経路を阻害または他の方法で低下させ、それにより拮抗剤不在下のTGFβ媒介生物活性と比較して細胞のTGFβ媒介生物学的活性を阻害することにより作用することができる。本発明の特定の実施形態において、抗TGFβ抗体は、拮抗性抗TGFβ抗体、好ましくは、全ヒトモノクローナル拮抗性抗TGFβ抗体である。
【0024】
用語「抗体」、「免疫グロブリン」または「Ig」は、本明細書中で交換可能に使用することができる。抗体という用語には、これらに限定されないが、合成抗体、モノクローナル抗体、組み換え産生抗体、多重特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、ヒト抗体、ヒ
ト化抗体、キメラ抗体、イントラボディ、単鎖Fvs(scFv)(例えば、単一特異性、二重特異性など)、ラクダ化抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体およびこれらの任意のエピトープ結合断片を含む。特に、抗体は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、つまり抗原結合ドメイン、またはTGFβ抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子(例えば、抗TGFβ抗体の1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR))を含む。抗TGFβ抗体は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、任意のクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)または任意の下位クラス(例えばIgG2aとIgG2b)の抗体であってもよい。特定の実施形態において、抗TGFβ抗体は、ヒト化抗体、例えばヒト化モノクローナル抗TGFβ抗体である。別の実施形態において、抗TGFβ抗体は、完全ヒト抗体、例えば完全ヒトモノクローナル抗TGFβ抗体である。好ましい実施形態において、抗TGFβ抗体は、IgG抗体、例えばIgG4抗体である。
【0025】
用語「組成物」および「製剤」は、特定の成分(例えば抗TGFβ抗体)を場合により特定の量で含有する生成物、および特定の成分を場合により特定の量で組み合わせることで直接的または間接的に得られる任意の生成物を包含することを意図する。
【0026】
用語「定常領域」または「定常ドメイン」は、抗体の抗原への結合に直接的には関与しないが、様々な有効機能、例えばFc受容体との相互作用を示す、軽鎖または重鎖のカルボキシ末端部分を指す。当該用語は、抗原結合部位を含んでいる可変ドメインである免疫グロブリンの他の部分と比較してより保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の一部を指す。定常ドメインは重鎖のCH1、CH2、CH3ドメインと軽鎖のCHLドメインとを含む。
【0027】
用語「エピトープ」は、抗原の表面の局所的領域、例えば、TGFβポリペプチドまたはTGFβポリペプチド断片、つまり、抗体の1つまたはそれ以上の抗原結合領域に結合することが可能であり、動物、好ましくは哺乳類、最も好ましくはヒトにおいて抗原活性または免疫原活性を有する、すなわち免疫反応を誘発する能力を有する領域を指す。免疫原活性を有するエピトープは、動物における抗体反応を誘発するポリペプチドの一部である。抗原活性を有するエピトープは、当技術分野において周知の任意の技術、例えば免疫アッセイによって測定するとき、抗体が特異的に結合するポリペプチドの一部である。抗原エピトープは必ずしも免疫原である必要はない。エピトープは、通常、分子の化学的に活性な表面群からなり、例えばアミノ酸または糖側鎖であり、特定の三次元構造特性と特別な電荷特性とを有している。エピトープに寄与するポリペプチドの領域は、ポリペプチドの連続するアミノ酸であってもよく、またはエピトープは、ポリペプチドの2つもしくはそれ以上の非連続的領域を一緒にして成るものでもよい。エピトープは抗原の三次元表面特徴であってもなくてもよい。特定の実施形態において、TGFβエピトープは、TGFβポリペプチド(例えば、TGFβポリペプチドの三量体形態)の三次元表面特徴である。別の実施形態において、TGFβエピトープは、TGFβポリペプチドの線形特徴(例えばTGFβポリペプチドの二量体形態または単量体形態)である。抗TGFβ抗体は、特にTGFβの単量体形態のエピトープ、TGFβの二量体形態のエピトープ、またはTGFβの単量体形態および二量体形態の両方に、特異的に結合することができる。
【0028】
用語「賦形剤」は、薬物用の希釈剤、ビヒクル、保存剤、結合剤、安定剤などとして一般に使用される不活性な物質を指し、例えば、これらに限定されないが、タンパク質(例えば血清アルブミンなど)、アミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、グリシン、ヒスチジンなど)、脂肪酸およびリン脂質(例えばアルキルスルホネート、カプリレートなど)、界面活性剤(例えばSDS、ポリソルベート、非イオン
界面活性剤など)、ショ糖エステル(例えばショ糖、マルトース、トレハロースなど)および多価アルコール(例えばマンニトール、ソルビトールなど)が挙げられる。参照によって全体として本明細書に組み入れるRemington’s Pharmaceutical Sciences(1990)、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.も参照のこと。
【0029】
ペプチドまたはポリペプチドの文脈において、用語「断片」は、完全長より短いアミノ酸配列を含むペプチドまたはポリペプチドを指す。そのような断片は、例えば、アミノ末端の切断、カルボキシ末端での切断、および/またはアミノ酸配列からの内部残基の欠失によって生じ得る。断片は、例えば、選択的RNAスプライシング、または生体内プロテアーゼ活性から生ずる場合もある。ある実施形態において、TGFβ断片としては、TGFβポリペプチドの少なくとも50、100アミノ酸残基、少なくとも125の連続するアミノ酸残基、少なくとも150の連続するアミノ酸残基、少なくとも175の連続するアミノ酸残基、少なくとも200の連続するアミノ酸残基あるいは少なくとも250の連続するアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。特定の実施形態では、TGFβ抗原に特異的に結合するTGFβポリペプチドまたはその抗体断片は、完全長ポリペプチドまたは抗体の少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの機能を維持している。
【0030】
用語「完全ヒト抗体」または「ヒト抗体」は、本明細書で交換可能に使用され、ヒト可変領域を含み、最も好ましくはヒト定常領域も含む抗体を指す。特定の実施形態において、当該用語は、ヒト起源の可変領域と定常領域とを含む抗体を指す。「完全ヒト」抗TGFβ抗体は、特定の実施形態において、TGFβポリペプチドに結合し、ヒト生殖細胞免疫グロブリン核酸配列の天然体性変異型である核酸配列によってコードされる抗体も包含することができる。特定の実施形態において、抗TGFβ抗体は完全ヒト抗体である。用語「完全ヒト抗体」には、Kabatらによって記載されるような、ヒト生殖細胞免疫グロブリン配列に対応する可変領域および定常領域を有する抗体が含まれる(Kaba,E. A.ら(1991)、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91~3242を参照)。完全ヒト化抗体を産生する方法は、当該技術分野において公知である。
【0031】
語句「組み換えヒト抗体」は、組み換え手段によって製造されたか、発現されたか、作製されたか、または単離されたヒト抗体を含み、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組み換え発現ベクターを使用して発現された抗体、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体、およびヒト免疫グロブリン遺伝子(例えば、Taylor,L.D.ら(1992)、Nucl. Acids Res.、20:6287~6295頁参照)にトランスジェニックおよび/もしくは染色体交換された動物(例えばマウスもしくはウシ)から単離された抗体、または他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段によって製造されたか、発現されたか、作製されたか、または単離された抗体を含む。そのような組み換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞免疫グロブリン配列由来の定常領域および可変領域を有してもよい(Kabat,E.A.ら(1991)、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department
of Health and Human Services、NIH Publication No.91~3242参照)。しかしながら、特定の実施形態では、そのような組み換えヒト抗体はインビトロ変異生成(またはヒトのIg配列に動物の遺伝子組み換え体が使用されるときはインビボでの体性変異)にかけられ、したがってその組み換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列に由来
および関連する一方、インビボのヒト抗体生殖細胞系レパートリーには天然に存在しない可能性もある配列である。
【0032】
用語「重鎖」は、抗体について使用するとき、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、アルファ(α)、デルタ(Δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)およびミュー(μ)と呼ばれる5つの別個の種類を指す。重鎖のこれらの個別の種類は、当該技術分野において周知であり、抗体に5つのクラス、それぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、さらにIgGについては4つの下位クラス、つまりIgG1、IgG2、IgG3、IgG4を生じさせる。好ましくは、重鎖は、ヒト重鎖である。
【0033】
「単離された」または「精製された」抗体は、抗体が由来する細胞もしくは組織に由来する、細胞物質もしくは他の混入タンパク質を実質的に含まず、または化学的に合成された場合は化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない。語句「細胞性物質を実質的に含まない」は、抗体が単離されたまたは組み換え産生された細胞の細胞成分と分離されている抗体の調製物を含む。したがって胞性物質を実質的に含まない抗体には、異種性タンパク質(本明細書において「混入タンパク質」とも称される)が、約30%未満、20%未満、10%未満または5%未満(乾燥重量による)である抗体の調製物を含む。抗体が組み換え産生される場合、抗体は好ましくは培地を実質的に含まない、つまり、培地がタンパク質調製物の体積の約20%未満、10%未満または5%未満を示す。抗体が化学合成によって製造されるとき、化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まないことが好ましく、つまりタンパク質の合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されている。したがって、そのような抗体調製物は、対象の抗体以外に約30%未満、20%未満、10%未満、5%未満(乾燥重量による)の化学前駆物質または化合物を有する。好ましい実施形態において、抗TGFβ抗体は単離または精製されている。
【0034】
用語「Kabatナンバリング」および同様の用語は、当該技術分野において認識されており、抗体またはその抗原結合部分の重鎖および軽鎖可変領域中の他のアミノ酸残基よりも可変性が高い(つまり、超可変性の)アミノ酸残基に番号を付けるシステムを指す(Kabatら(1971) Ann. NY Acad. Sci. 190:382-391およびKabatら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest、Fifth Edition、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication No. 91-3242)。重鎖可変領域に関しては、超可変領域は、典型的に、CDR1についてアミノ酸31~35位、CDR2についてアミノ酸50~65位、CDR3についてアミノ酸95~102位の範囲である。軽鎖可変領域に関しては、超可変領域は、典型的に、CDR1についてアミノ酸24~34位、CDR2についてアミノ酸50~56位、CDR3についてアミノ酸89~97位の範囲である。
【0035】
用語「軽鎖」は、抗体について使用するとき、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)またはラムダ(λ)と呼ばれる2つの別個の種類を指す。軽鎖アミノ酸配列は当該技術分野において周知である。好ましい実施形態において、軽鎖はヒト軽鎖である。
【0036】
用語「制御する」、「制御すること」および「制御」は、対象が、疾患または障害の治癒をもたらさない治療剤(例えば予防剤または治療薬剤)から得る、有益な効果を指す。特定の実施形態において、対象は、TGFβ媒介疾患(例えばOI)またはその1つまたはそれ以上の症状を「制御」して疾患の進行または悪化を予防するために、1つまたはそれ以上の治療剤(例えば予防剤または治療薬剤)を投与される。
【0037】
用語「モノクローナル抗体」は、均質または本質的に均質の抗体集団から得られた抗体を指し、各モノクローナル抗体は典型的にはそれぞれ抗原上の単一エピトープを認識する。好ましい実施形態において、「モノクローナル抗体」は、単一のハイブリドーマまたは他の細胞によって生産される抗体である。用語「モノクローナル」は、抗体を作製するためのどの特定の方法にも限定されない。例えば、モノクローナル抗体は、Kohlerら;Nature、256:495(1975)に記載されるようなハイブリドーマ方法によって作製してもよく、またはファージライブラリから単離してもよい。クローン細胞株およびそれより発現されたモノクローナル抗体の製造のための他の方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Short Protocols in Molecular Biology、(2002)第5版; Ausubelら編著、John Wiley and Sons、New Yorkにおける第11章参照)。
【0038】
用語「薬学的に許容される」とは、連邦政府もしくは州政府の管理当局によって承認されているか、または米国薬局方、欧州薬局方もしくは他の一般的に認識されている薬局方において、動物、特にヒトで使用するために収載されていることを意味する。
【0039】
用語「薬学的に許容される賦形剤」は、活性分子、例えばモノクローナル抗体と、適合可能なまたは都合の良い投薬形態を製造するために組み合わされる任意の不活性分子を意味する。「薬学的に許容される賦形剤」は、使用された投与量および濃度でレシピエントに非毒性であり、モノクローナル抗体を含む製剤の他の成分と適合可能な賦形剤である。
【0040】
用語「予防する」、「予防すること」、および「予防」は、本明細書に記載する一治療剤または治療剤の組み合わせ(例えば、予防または治療薬剤の組み合わせ)の投与により、TGFβ媒介疾患および/またはそれに関連する症状の発症、再発、発生または拡大を全体的にまたは部分的に阻害することを指す。
【0041】
用語「TGFβ抗原」は、抗体が特異的に結合するTGFβポリペプチドの一部を指す。TGFβ抗原は、抗体が特異的に結合するTGFβポリペプチドまたはその断片のアナログまたは誘導体を指す。いくつかの実施形態において、TGFβ抗原は単量体TGFβ抗原または二量体TGFβ抗原である。エピトープに寄与するTGFβポリペプチドの領域は、ポリペプチドの連続するアミノ酸であってもよく、またはエピトープは、ポリペプチドの2つまたはそれ以上の非連続的領域を一緒にして成るものでもよい。エピトープは抗原の三次元表面特徴であってもなくてもよい。免疫反応を誘発可能なTGFβ抗原の表面上に局在化された領域は、TGFβエピトープである。エピトープは抗原の三次元表面特徴であってもなくてもよい。本明細書で使用するとき、TGFβ抗原の「アナログ」は、TGFβポリペプチド、TGFβポリペプチドの断片または本明細書に記載のTGFβエピトープと類似または同一の機能を有するポリペプチドを指す。例えば、アナログは、本明細書に記載のTGFβポリペプチド(例えば、配列番号1、2もしくは3)、TGFβポリペプチドの断片、TGFβエピトープまたは本明細書に記載の抗TGFβ抗体の断片のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一の配列を含み得る。追加的にまたは代替的に、ポリペプチドは、本明細書に記載のTGFβポリペプチド、TGFβポリペプチドの断片またはTGFβエピトープをコードするヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によってコードされる。
【0042】
用語「ヒトTGFβ」、「hTGFβ」または「hTGFβポリペプチド」および同様の用語は、配列番号1、2または3のアミノ酸配列を含むポリペプチド(「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において相互に交換可能に使用)、ならびにそのSNP変異体を含む関連ポリペプチドを指す。関連ポリペプチドとしては、好ましくはTGFβ活性を保持するかおよび/または抗TGFβ免疫反応を生成するため
に十分な、対立形質変異体(例えば、SNP変異体)、スプライス変異体、断片;誘導体;置換、欠失、および挿入変異体;融合ポリペプチド;ならびに異種間ホモログが挙げられる。さらに、抗TGFβ免疫反応を生成するために十分なTGFβの可溶形態も包含される。当業者であれば認識するように、抗TGFβ抗体は、TGFβポリペプチド、ポリペプチド断片、抗原および/または、エピトープがより大きなポリペプチド断片の一部、さらにはより大きなポリペプチドの一部である大きな抗原の一部であるとき、エピトープに結合することができる。hTGFβは二量体形態または単量体形態で存在することもできる。
【0043】
用語「TGFβ媒介疾患」および「TGFβ媒介障害」は、相互に交換可能に使用される語であり、TGFβ、例えばhTGFβによって完全にまたは部分的に引き起こされるまたは起因する任意の疾患または障害を指す。特定の実施形態において、TGFβは異常発現している。いくつかの実施形態において、TGFβは、特定の細胞型において異常に上方調節されている。別の実施形態において、正常、異常、または過剰な細胞シグナル伝達が、TGFβ受容体へのTGFβの結合により引き起こされる。特定の実施形態において、TGFβ受容体(例えば、TGFβ受容体1、2または3)は、細胞、例えば骨芽細胞、破骨細胞または骨髄間質細胞の細胞表面で発現する。いくつかの実施形態において、TGFβ媒介疾患は、退行性骨疾患、例えば骨形成不全症である。
【0044】
用語「特異的に結合する」または「特異的結合」は1つの抗原またはその断片(例えばTGFβ)に特異的に結合し、他の抗原には特異的に結合しないことを指す。抗原に特異的に結合する抗体は、例えば放射免疫アッセイ(RIA)、酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)、BIACORE、または当該分野で公知の他のアッセイによって測定するとき、他のペプチドまたはポリペプチドに対して低い親和性で結合してもよい。ある実施形態において、本発明の抗TGFβ抗体は、異なる非TGFβ抗原の2倍を超える親和性でTGFβ(例えばhTGFβ)に特異的に結合しうる。抗原に特異的に結合する抗体またはその変異体もしくは断片は、関連する抗原と交差反応してもよい。例えば、ある実施形態において、抗TGFβ抗体は、hTGFβおよび別のTGFβ抗原(例えば齧歯動物または非ヒト霊長類TGFβ抗体)と交差反応することができる。好ましくは、抗原に特異的に結合する抗体またはその変異体もしくは断片は、他の非TGFβ抗原と交差反応しない。TGFβ抗原に特異的に結合する抗体またはその変異体もしくは断片は、例えば免疫アッセイ、BIAcoreまたは当業者に既知の他の技術によって同定することができる。典型的には、特異的または選択的反応は、少なくとも2倍のバックグラウンドシグナル、バックグラウンドノイズ、またはより典型的には10倍を超えるバックグラウンドでありうる。いくつかの実施形態において、結合タンパク質または抗体は、その抗原、例えばTGFβに、1×10-6M~1×10-7の解離定数で結合する。別の実施形態において、解離定数は、1×10-6M~1×10-8である。抗体の特異性に関する考察については、例えば、Paul編著、1989、Fundamental Immunology第2版、Raven Press、New York、332~336頁を参照のこと。
【0045】
用語「対象」および「患者」は、相互に交換可能に使用される。本明細書で使用するとき、対象は、好ましくは哺乳動物、例えば非霊長動物(例えばウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)、または霊長動物(例えばサル、ヒト)、最も好ましくはヒトである。1つの実施形態において、対象は、TGFβ媒介疾患を有する哺乳動物、好ましくはヒトである。別の実施形態において、対象は、TGFβ媒介疾患の発症リスクを有する哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0046】
用語「治療薬剤」は、TGFβ媒介疾患および/またはそれに関連する症状の処置、制御、または緩和に使用することができる任意の薬剤を指す。ある実施形態において、用語
「治療薬剤」は、TGFβ抗体を指す。ある別の実施形態において、用語「治療薬剤」は、TGFβ抗体以外の薬剤を指す。好ましくは、治療薬剤は、TGFβ媒介疾患またはその1つもしくはそれ以上の症状の処置、制御または緩和に有用であることが公知であるか、またはこれまで使用されたもしくは現在使用されている薬剤である。
【0047】
用語「治療」は、TGFβ媒介疾患(例えば、OI)の予防、制御、処置および/または緩和に使用することができる任意のプロトコル、方法および/または薬剤を指す。特定の実施形態において、用語「治療(複数)」および「治療」は、当業者、例えば医療従事者に知られているTGFβ媒介疾患の生物学的治療法、支持療法、ならびに/またはTGFβ媒介疾患の予防、制御、処置および/もしくは緩和に有用な他の治療法を指す。
【0048】
用語「処置する」、「処置」および「処置すること」は、1つまたそれ以上の治療(例えば、これらに限定されないが、1つまたはそれ以上の予防薬剤または治療薬剤の投与)の結果として、TGFβ媒介疾患(例えば、OI)の進行、重症度、および/または持続期間を低減または改善することを指す。特定の実施形態において、そのような用語は、TGFβのTGFβ受容体への結合の低下または阻害、対象のTGFβ受容体を発現する細胞からのTGFβの産生もしくは分泌の低下もしくは阻害、対象のTGFβを発現しない細胞からのTGFβの産生もしくは阻害の低下もしくは阻害、および/またはTGFβ媒介関連疾患、例えばOIの1つまたはそれ以上の症状の阻害または低下を指す。
【0049】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、軽鎖および重鎖の一部分であって、典型的には重鎖のアミノ末端120~130アミノ酸および軽鎖の約100~110アミノ酸であり、抗体間で著しく配列が異なっており、特定の抗体それぞれの特定の抗原に対する結合性および特異性に利用される一部分を指す。配列の可変性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる領域に集約され、一方で、可変ドメインのより高度に保存された領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。軽鎖と重鎖のCDRは、抗原と抗体の相互作用で主たる役割を担う。アミノ酸位置のナンバリングは、Kabatら(1991)Sequences of proteins of immunological interest.(U.S. Department of Health and Human
Services、Washington D.C.)第5版(「Kabatら」)に記載されているようなEUインデックスに従う。好ましい実施形態において、可変領域はヒト可変領域である。
【0050】
B.骨形成不全症(OI)
OIは、骨マトリックス沈着またはホメオスタシスに関与する1つまたはそれ以上のタンパク質の欠損によって特徴付けられる一群の先天性骨障害を包含する。特定の遺伝子変異、生じるタンパク質の欠損、または罹患個体の表現型によって定義される8つの種類のOIがある。OIの種類によって表現型は様々であるが、共通の症状として、骨格と歯の不完全骨化、骨量減少、脆弱骨、および病的骨折が挙げられる。
【0051】
I型コラーゲンは、石灰化組織および非石灰化組織の両方において最も豊富な結合組織タンパク質の1つである。I型コラーゲンの正確な合成、翻訳後修飾および分泌は、適切な組織発達、維持および修復に必要である。OIを有する個体で特定されるほとんどの変異がI型コラーゲンの合成低下、またはI型コラーゲンの不正確な合成および/もしくはプロセシングを引き起こす。
【0052】
I型コラーゲン遺伝子の変異に加えて、コラーゲンの細胞内トラフィッキングおよびプロセシングに関与する遺伝子の他の変異が、OI罹患個体において特定される。これらの遺伝子としては、分子シャペロン、例えばFK506結合タンパク質10(FKBP10)および熱ショックタンパク質47(HSP47)(Alanayら、2010;Chr
istiansenら、2010;Kelleyら、2011)が挙げられる。さらなる変異が、分子間コラーゲン架橋遺伝子、例えば、プロコラーゲン-リジン、2-オキソグルタレート5-ジオキシゲナーゼ2(PLOD2)において、コラーゲンプロリルヒドロキシラーゼ遺伝子ファミリーのメンバー、例えばロイシンプロリン-高プロテオグリカン(レプレカン(leprecan))(LEPRE1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼB(シクロフィリンB)(CYPB)において、および軟骨関連タンパク質(CRTAP)において特定されている(Morelloら、2006;Cabralら、2007;Baldridgeら、2008;van Dijkら、2009;Choiら、2009;Barnesら、2010;Pyottら、2011)。変異に加えて、骨形成タンパク質(BMP)およびトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)ならびにそれぞれの受容体などのタンパク質が様々なOI表現型に関与していると考えられるが、それらの作用の正確なメカニズムはわかっていない(Gebkenら、2000)。
【0053】
一実施形態において、TGFβ発現は、I型およびII型コラーゲンに結合する分子によって制御される。ある実施形態において、小ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)はTGFβ発現を制御する。特定の実施形態において、デコリンはTGFβ合成を制御する。ある実施形態において、デコリンは、3-ヒドロキシプロリン部位がI型および/またはII型コラーゲン分子の986位に存在していないI型またはII型コラーゲンには結合しない。
【0054】
C.骨生物学
脊椎動物の骨格は、骨で構成されており、骨は、構造、土台、保護、およびイオン輸送を制御する無機物質源である生きた石灰化組織である。骨は細胞および非細胞成分で構成される特別な結合組織である。非細胞性細胞外マトリックス(ECM)は、コラーゲンタンパク質および非コラーゲンタンパク質を含んでおり、それらの両方が石灰化プロセスに関与している。正確に分泌され整列したECMが、適切な骨形成にとって重要である。骨形成不全症で証拠づけられるように、いずれかのECMタンパク質の欠失、奇形または誤配列により、病理が発生する。
【0055】
用語「皮質骨」または「緻密骨」は、濃密で、硬く、頑丈な骨の外層を指す。用語「骨梁骨」または「海綿質骨」は、皮質骨より軽く、皮質骨ほど濃密でない骨の吸収性中間層である。用語「骨梁」は、棒状形状のコラーゲンで構成された海綿状骨の微視的構造単位である。
【0056】
骨は不断の再構築が行われる動的組織である。用語「骨芽細胞」は、類骨を沈着する終末分化骨形成細胞を指す。用語「類骨」は、主としてI型コラーゲンで構成される未成熟の未石灰化骨を指す。用語「前骨芽細胞」は、完全に分化していない増殖能を有する未成熟骨芽細胞を指す。用語「骨前駆細胞」は、骨芽細胞を含むいくつかの種類の間質細胞を生じさせることが可能な多能性細胞を指す。骨前駆細胞は一般に「間質幹細胞」と呼ばれ、骨髄の中で発生し、循環血液から少数を単離することができる。用語「破骨細胞」は、骨髄単球から分化した終末分化骨再吸収細胞を指す。破骨細胞は、酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現によって識別することができる。
【0057】
正常なホメオスタシス条件下において、骨芽細胞と破骨細胞は骨統合を維持するために協同して働く。骨沈着および骨吸収が共役しないとき、病理が生じる。例えば、大理石骨病は、破骨細胞が吸収できない結果として、骨が過剰に濃密で硬くなることを特徴とする骨疾患であり、一方で骨粗鬆症は、破骨細胞の活性増加に起因しうる脆い多孔性の骨を特徴とする骨障害である。破骨細胞の活性が骨形成不全症で増加している可能性があることを提示する証拠があり、これらの種類の細胞が治療介入の有望な標的となりうることが示唆される。本開示は、TGFβ抗体を用いて破骨細胞を阻害する方法を含む。
【0058】
骨の構造、密度および性質を測定し、特徴付けるためにいくつかの方法を使用することができ、例えば、組織学および組織形態計測、原子間力顕微鏡、共焦点ラマン顕微鏡検査、ナノインデンテーション、3点曲げ試験、X線イメージングおよびマイクロコンピュータ断層撮影(μ-CT)が挙げられる。例示的な実施形態において、骨格はこれらの方法の少なくとも1つによって測定され、特徴付けられる。
【0059】
用語「骨体積密度」は、石灰化された物質(骨体積またはBV)で構成される骨の所与の体積(全体積またはTV)に対する割合を指す。したがって、骨体積密度はBV/TVとして計算され、パーセンテージで記述される。用語「骨比表面積」は所与の骨体積あたりの全骨表面積(BS)を指す。したがって、特定の骨表面積はBS/TVとして計算される。他の共通の骨測定値としては、骨面積(B.Ar)、骨梁数(Tb.N)、骨梁間隔(Tb.Sp);N.Oc(破骨細胞数);Oc.S(破骨細胞表面積);Oc.S/BS;骨芽細胞数(N.Ob)、骨芽細胞表面積(Ob.S)、骨芽細胞全周(Ob.Pm)および前記測定値のいずれかの導関数が挙げられる。Oc.S/BSが大きいことは、破骨細胞による骨吸収が増加していることの指標である。
【0060】
D.トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)
TGFβは、細胞の増殖および分化、胚発生、細胞外マトリックス形成、骨発達、創傷治癒、造血、ならびに免疫および炎症反応に関与する多機能サイトカインである(Robertsら、1981;Borderら、1995a)。分泌TGFβタンパク質は、潜在関連ペプチド(latency-associated peptide、LAP)および成熟TGFβペプチドへと切断され、潜在型および活性型で見出される。成熟したTGFβペプチドは、ホモ二量体、および他のTGFβファミリーとのヘテロ二量体の両方を形成する。TGFβは、任意の天然源から精製することができ、または合成的に(例えば組み換えDNA技術の使用によって)製造することもできる。TGFβ分子は、「hTGF」として知られるヒト由来の分子であることが好ましい。
【0061】
3つのヒトTGFβのアイソフォーム:TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3(それぞれSwiss Prot受入番号P01137、P08112およびP10600)があり、それらは生物学的に活性な状態で鎖間ジスルフィド架橋によって連結された2つの112アミノ酸モノマーを含む25kDaのホモ二量体である。TGFβ1は、TGFβ2とは27個で、TGFβ3とは22個で、主に保存的なアミノ酸が変化していることによる差異がある。これらの差異は、X線結晶学(Schluneggerら、1992;Peerら、1996)によって測定されるTGFβの3D構造で位置づけされ、受容体結合領域が定義される(Griffithら、1996;Qianら、1996)。
【0062】
hTGFβ1(配列番号1)
MPPSGLRLLL LLLPLLWLLV LTPGRPAAGL STCKTIDMEL VKRKRIEAIR GQILSKLRLA 60
SPPSQGEVPP GPLPEAVLAL YNSTRDRVAG ESAEPEPEPE ADYYAKEVTR VLMVETHNEI 120
YDKFKQSTHS IYMFFNTSEL REAVPEPVLL SRAELRLLRL KLKVEQHVEL YQKYSNNSWR 180
YLSNRLLAPS DSPEWLSFDV TGVVRQWLSR GGEIEGFRLS AHCSCDSRDN TLQVDINGFT 240
TGRRGDLATI HGMNRPFLLL MATPLERAQH LQSSRHRRAL DTNYCFSSTE KNCCVRQLYI 300
DFRKDLGWKW IHEPKGYHAN FCLGPCPYIW SLDTQYSKVL ALYNQHNPGA SAAPCCVPQA 360
LEPLPIVYYV GRKPKVEQLS NMIVRSCKCS 390(配列番号1)
【0063】
hTGFβ2(配列番号2)
MHYCVLSAFL ILHLVTVALS LSTCSTLDMD QFMRKRIEAI RGQILSKLKL TSPPEDYPEP 60
EEVPPEVISI YNSTRDLLQE KASRRAAACE RERSDEEYYA KEVYKIDMPP FFPSENAIPP 120
TFYRPYFRIV RFDVSAMEKN ASNLVKAEFR VFRLQNPKAR VPEQRIELYQ ILKSKDLTSP 180
TQRYIDSKVV KTRAEGEWLS FDVTDAVHEW LHHKDRNLGF KISLHCPCCT FVPSNNYIIP 240
NKSEELEARF AGIDGTSTYT SGDQKTIKST RKKNSGKTPH LLLMLLPSYR LESQQTNRRK 300
KRALDAAYCF RNVQDNCCLR PLYIDFKRDL GWKWIHEPKG YNANFCAGAC PYLWSSDTQH 360
SRVLSLYNTI NPEASASPCC VSQDLEPLTI LYYIGKTPKI EQLSNMIVKS CKCS 414(配列番号2)
【0064】
hTGFβ3(配列番号3)
MKMHLQRALV VLALLNFATV SLSLSTCTTL DFGHIKKKRV EAIRGQILSK LRLTSPPEPT 60
VMTHVPYQVL ALYNSTRELL EEMHGEREEG CTQENTESEY YAKEIHKFDM IQGLAEHNEL 120
AVCPKGITSK VFRFNVSSVE KNRTNLFRAE FRVLRVPNPS SKRNEQRIEL FQILRPDEHI 180
AKQRYIGGKN LPTRGTAEWL SFDVTDTVRE WLLRRESNLG LEISIHCPCH TFQPNGDILE 240
NIHEVMEIKF KGVDNEDDHG RGDLGRLKKQ KDHHNPHLIL MMIPPHRLDN PGQGGQRKKR 300
ALDTNYCFRN LEENCCVRPL YIDFRQDLGW KWVHEPKGYY ANFCSGPCPY LRSADTTHST 360
VLGLYNTLNP EASASPCCVP QDLEPLTILY YVGRTPKVEQ LSNMVVKSCK CS 412(配列番号3)
【0065】
ヒトにはTGFβ受容体1、2、および3の3つのTGFβ受容体があり、それらは構造的特性および機能的特性、例えばTGFβタンパク質ファミリーメンバーに対する親和性によって識別することができる。TGFβタンパク質のホモ二量体またはヘテロ二量体TGFβ膜貫通受容体複合体への結合は、細胞内SMADタンパク質によって媒介される標準的TGFβシグナル伝達経路を活性化する。
【0066】
TGFβの脱調節は、複数の病理学的プロセスに結びつき、ヒトにおいて、様々な病態、例えば先天的欠損症、癌、慢性炎症、自己免疫疾患および線維性疾患との関係が指摘されてきた(Borderら、1994;Borderら、1995b)。
【0067】
ヒトTGFβはマウスTGFβに非常に類似しており、ヒトTGFβ1はマウスTGFβ1と1つしかアミノ酸の違いがなく、ヒトTGFβ2はマウスTGFβ2と3つのアミノ酸の差があるだけであり、ヒトTGFβ3はマウスTGFβ3と同一である。
【0068】
E.トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)と結合する分子
本発明は、TGFβと結合する分子を対象に投与することを含む方法を含む。TGFβ結合剤は、任意の結合性の分子、例えば抗体、融合タンパク質(例えば免疫アドヘシン)、siRNA、核酸、アプタマー、タンパク質または小分子有機化合物であり得る。
【0069】
ある実施形態において、本発明は、TGFβに結合する抗体(抗TGFβ抗体)またはその変異体もしくはその抗原結合性断片を含む。抗TGFβ抗体は、特にTGFβタンパク質、ポリペプチド断片またはエピトープに結合する。TGFβと結合する分子は任意の種由来であり得る。
【0070】
ある典型的な実施形態において、TGFβに結合する抗体は、ヒト化抗体、完全ヒト抗体またはその変異体もしくはその抗原結合性断片である。好ましい抗TGFβ抗体は、TGFβとその受容体との結合を抑制し、TGFβ生物活性(例えば、TGFβ受容体媒介細胞内SMADシグナル伝達およびその結果としての細胞活性)を阻害する。
【0071】
ある実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、Lerdelimumab(CAT-152)、Metelimumab(CAT-192)、Fresolimumab(GC-1008)、LY2382770、STX-100あるいはIMC-TR1である。
【0072】
ある特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、次の相補性決定領域(CDR)のいずれか1つまたはそれ以上のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む:HCDR1-SNVIS(配列番号4)、
HCDR2-GVIPIVDIANYAQRFKG(配列番号5)、または
HCDR3-TLGLVLDAMDY(配列番号6)。
【0073】
他の特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、次の相補性決定領域(CDR)のいずれか1つまたはそれ以上のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む:LCDR1-RASQSLGSSYLA(配列番号7)、
LCDR2-GASSRAP(配列番号8)、または
LCDR3-QQYADSPIT(配列番号9)。
【0074】
特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号4、5および6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0075】
別の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号7、8および9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0076】
より特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号4、5および6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7、8および9のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0077】
特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む:
QVQLVQSGAE VKKPGSSVKV SCKASGYTFS SNVISWVRQA PGQGLEWMGG VIPIVDIANY AQRFKGRVTI TADESTSTTY MELSSLRSED TAVYYCASTL GLVLDAMDY
GQGTLVTVSS(配列番号10)。
【0078】
別の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む:
ETVLTQSPGT LSLSPGERAT LSCRASQSLG SSYLAWYQQK PGQAPRLLIY GASSRAPGIP DRFSGSGSGT DFTLTISRLE PEDFAVYYCQ QYADSPITFG QGTRLEIK(配列番号11)。
【0079】
より特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、TGFβに結合する抗体は、定常領域、例えばヒトIgG定常領域を含む。いくつかの実施形態において、定常領域はヒトIgG4定常領域である。さらなる実施形態において、定常領域は改変ヒトIgG4定常領域である。好ましくは、IgG4定常領域は、配列番号12のアミノ酸配列を含む:
ASTKGPSVFP LAPCSRSTSE STAALGCLVK DYFPEPVTVS WNSGALTSGV HTFPAVLQSS GLYSLSSVVT VPSSSLGTKT YTCNVDHKPS NTKVDKRVES KYGPPCPSCP
APEFLGGPSV FLFPPKPKDT LMISRTPEVT CVVVDVSQED PEVQFNWYVD GVEVHNAKTK PREEQFNSTY RVVSVLTVLH QDWLNGKEYK CKVSNKGLPS SIEKTISKAK GQPREPQVYT LPPSQEEMTK NQVSLTCLVK GFYPSDIAVE WESNGQPENN YKTTPPVLDS DGSFFLYSRL TVDKSRWQEG NVFSCSVMHE ALHNHYTQKS LSLSLGK(配列番号12)。
【0081】
別の実施形態において、定常領域はヒトCκ定常領域である。好ましくは、Cκ定常領域は、配列番号13のアミノ酸配列を含む:
RTVAAPSVFI FPPSDEQLKS GTASVVCLLN NFYPREAKVQ WKVDNALQSG NSQESVTEQD SKDSTYSLSS TLTLSKADYE KHKVYACEVT HQGLSSPVTK SFNRGEC(配列番号13)。
【0082】
特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖を含む:
QVQLVQSGAE VKKPGSSVKV SCKASGYTFS SNVISWVRQA PGQGLEWMGG VIPIVDIANY AQRFKGRVTI TADESTSTTY MELSSLRSED TAVYYCASTL GLVLDAMDY
GQGTLVTVSS ASTKGPSVFP LAPCSRSTSE STAALGCLVK DYFPEPVTVS WNSGALTSGV HTFPAVLQSS GLYSLSSVVT VPSSSLGTKT YTCNVDHKPS NTKVDKRVES KYGPPCPSCP APEFLGGPSV FLFPPKPKDT LMISRTPEVT CVVVDVSQED PEVQFNWYVD GVEVHNAKTK PREEQFNSTY RVVSVLTVLH QDWLNGKEYK CKVSNKGLPS SIEKTISKAK GQPREPQVYT LPPSQEEMTK NQVSLTCLVK GFYPSDIAVE WESNGQPENN YKTTPPVLDS DGSFFLYSRL TVDKSRWQEG NVFSCSVMHE ALHNHYTQKS LSLSLGK(配列番号14)。
位置1-120:重鎖(VH)の可変領域。CDR(相補性決定領域、Kabatの定義による)に下線を付している。
位置121-447:ヒトIgG4の定常領域(SwissProt IGHG4_HUMAN)。
【0083】
他の特定の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む:
ETVLTQSPGT LSLSPGERAT LSCRASQSLG SSYLAWYQQK PGQAPRLLIY GASSRAPGIP DRFSGSGSGT DFTLTISRLE PEDFAVYYCQ QYADSPITFG QGTRLEIKRT
VAAPSVFIFP PSDEQLKSGT ASVVCLLNNF YPREAKVQWK VDNALQSGNS QESVTEQDSK DSTYSLSSTL TLSKADYEKH KVYACEVTHQ GLSSPVTKSF NRGEC(配列番号15)。
位置1-108:軽鎖(VL)の可変領域。CDR(相補性決定領域、Kabatの定義による)に下線を付している。
位置109-215:ヒトCκの定常領域。
【0084】
さらなる実施形態において、TGFβに結合する抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、TGFβに結合する抗体は、リーダー配列を含む宿主細胞によって発現される。リーダー配列は、好ましくは長さが1-30のアミノ酸、より好ましくは25-25のアミノ酸、最も好ましくは19アミノ酸のアミノ酸配列を含む。重鎖、軽鎖、または重鎖および軽鎖の両方が、リーダー配列を含んでもよい。
【0086】
例えば、軽鎖または重鎖リーダー配列は、配列番号16のアミノ酸配列を含んでもよい:MGWSCIILFL VATATGVHS(配列番号16)。したがって、プロセシングされていない重鎖を発現する宿主細胞は、配列番号17のアミノ酸を含んでもよい:MGWSCIILFL VATATGVHSQ VQLVQSGAEV KKPGSSVKVS CKASGYTFS 50
NVISWVRQAP GQGLEWMGGV IPIVDIANYA QRFKGRVTIT ADESTSTTYM 100
ELSSLRSEDT AVYYCASTLG LVLDAMDYWG QGTLVTVSSA STKGPSVFPL 150
APCSRSTSES TAALGCLVKD YFPEPVTVSW NSGALTSGVH TFPAVLQSSG 200
LYSLSSVVTV PSSSLGTKTY TCNVDHKPSN TKVDKRVESK YGPPCPSCPA 250
PEFLGGPSVF LFPPKPKDTL MISRTPEVTC VVVDVSQEDP EVQFNWYVDG 300
VEVHNAKTKP REEQFNSTYR VVSVLTVLHQ DWLNGKEYKC KVSNKGLPSS 350
IEKTISKAKG QPREPQVYTL PPSQEEMTKN QVSLTCLVKG FYPSDIAVEW 400
ESNGQPENNY KTTPPVLDSD GSFFLYSRLT VDKSRWQEGN VFSCSVMHEA 450
LHNHYTQKSL SLSLGK 466(配列番号17)。
ここで、
位置1~19:リーダー配列
位置20~139:重鎖(VH)の可変領域。CDR(相補性決定領域、Kabatの定義による)に下線を付している。
位置140~466:ヒトIgG4の定常領域(SwissProt IGHG4_HUMAN)。
【0087】
他の例示的実施形態において、プロセシングされていない軽鎖を発現する宿主細胞は、配列番号18のアミノ酸を含んでもよい:
MGWSCIILFL VATATGVHSE TVLTQSPGTL SLSPGERATL SCRASQSLGS 50
SYLAWYQQKP GQAPRLLIYG ASSRAPGIPD RFSGSGSGTD FTLTISRLEP 100
EDFAVYYCQQ YADSPITFGQ GTRLEIKRTV AAPSVFIFPP SDEQLKSGTA 150
SVVCLLNNFY PREAKVQWKV DNALQSGNSQ ESVTEQDSKD STYSLSSTLT 200
LSKADYEKHK VYACEVTHQG LSSPVTKSFN RGEC 234(配列番号18)。
ここで、
位置1~19:リーダー配列
位置20~127:軽鎖(VL)の可変領域。CDR(相補性決定領域、Kabatの定義による)に下線を付している。
位置128~234:ヒトCκの定常領域。
【0088】
本発明の例示的実施形態において、TGFβに結合する抗体はヒト化抗体または完全ヒト抗体である。ヒト化抗体アイソタイプおよび完全ヒト抗体アイソタイプの例としては、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが挙げられる。好ましくは、抗TGFβ抗体はIgG抗体である。IgGには4つの形態がある。好ましくは、抗TGFβ抗体はIgG4抗体である。本発明の1つの実施形態において、抗TGFβ抗体はヒト化IgG4抗体である。本発明の別の実施形態において、抗TGFβ抗体は完全ヒトIgG4抗体である。
【0089】
最も好ましい本発明の実施形態において、抗TGFβ抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含むIgG4抗TGFβ抗体である。本発明の代替的な最も好ましい実施形態において、抗TGFβ抗体は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含むIgG4抗TGFβ抗体であり、重鎖可変領域は配列番号4、5および6のアミノ酸配列を含む3つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖重鎖可変領域は、配列番号7、8および9のアミノ酸配列を含む3つのCDRを含む抗体である。配列番号14を含む重鎖アミノ酸配列、および配列番号15を含む軽鎖アミノ酸配列、および配列番号4~9に一致するCDR配列を含む抗TGFβ抗体の特定、単離、調製および特性決定は、米国特許第7,723,486号および米国特許第8,383,780号に詳細に記載されており、それらの文献は各々全体として参照によって本明細書に組み入れる。
【0090】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は「汎特異的」であり、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する。より好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合し、拮抗剤として作用する。最も好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合し、ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を中和する。本発明の方法で使用するために適している典型的な汎特異的抗TGFβモノクローナル抗体(mAb)の例としては、米国特許第7,723,476号および米国特許第8,383,780号に記載されており、それらは各々全体として参照によって本明細書に組み入れる。
【0091】
1D11.16は、多様なインビトロアッセイにおいてヒトおよびマウスTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を中和する典型的なマウス汎特異的抗TGFβ抗体であり(Daschら、1989;Daschら、1996、R&D System produ
ct sheet for MAB1835、これらは参照によって全体としてそれぞれ本明細書に組み入れる)、線維症モデル動物における原理究明研究においても有用である(Lingら、2003;Miyajimaら、2000;Schneiderら、1999;Khannaら、1999;Shenkarら、1994)。しかしながら、1D11.16は、マウスモノクローナル抗体であるので(Daschら、1989;Daschら、1996)、ヒトでの治療的使用には好ましくない。したがって、特定の実施形態では、1D11.16抗体の変異体または誘導体が本発明の方法で用いられる。
【0092】
上述のように、本発明の特定の実施形態は、抗TGFβ抗体の変異体または誘導体を含む。詳細には、本発明は、抗TGFβ抗体が、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含むIgG4抗TGFβ抗体である、抗TGFβ抗体の変異体を含みうる。別の実施形態において、本発明は、1D11.16抗体の変異体または誘導体を含む。抗TGFβ抗体の変異体は、それらの高い類似性に基づいて同様の物理化学的特性を有し得、したがって、本発明の範囲内に含まれる。変異体は、本明細書に記載の抗TGFβ抗体に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも97%、例えば少なくとも98%または99%相同であるアミノ酸配列を有し、TGFβポリペプチド、TGFβポリペプチド断片またはTGFβエピトープに対する結合に競合可能な抗体と定義される。好ましくは、変異体は、TGFβとその受容体との結合およびTGFβ生物活性(例えば、TGFβ受容体媒介細胞内SMADシグナル伝達およびその結果としての細胞活性)を緩和、中和、または他の方法で阻害する。標的に対する結合の競合の決定は、当該技術分野で公知の常法にしたがって実施することができる。好ましくは、変異体はヒト化抗体であり、好ましくはIgG4分子である。好ましい実施形態において、変異体は、抗TGFβ抗体が、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含むIgG4抗TGFβ抗体と、アミノ酸配列において少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。用語「変異体」は、抗TGFβ抗体のアミノ酸配列と比較して、1つまたはそれ以上のアミノ酸によって改変されたアミノ酸配列を含む抗体を指す。変異体は、アミノ酸の置換、修飾、付加および欠失を含む保存的配列改変を含み得る。
【0093】
改変の例としては、例えばこれらに限定されないが、糖鎖形成、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/遮蔽基による誘導体化、タンパク質分解、ならびに細胞リガンドおよび他のタンパク質への連結が挙げられる。アミノ酸改変は、当該分野で公知の標準的技術によって、例えば抗体をコードする核酸における部位特異的変異生成、分子クローニング、オリゴヌクレオチド特異的変異生成およびランダムPCR媒介変異生成によって導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が同様の構造または化学的性質を有するアミノ酸残基と置換されている置換を含む。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術分野において定義されている。これらのファミリーには、例えば、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、無極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族性側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)が挙げられる。上記で使用した以外の他のアミノ酸残基の分類を利用し得ることも当業者にとって明確である。さらに変異体は、非保存性アミノ酸置換(例えば、アミノ酸を、異なる構造または化学的性質を有するアミノ酸残基とする置換)を有してもよい。同様の些細な変形は、アミノ酸の欠失、挿入またはその両方を含んでもよい。免疫学的活性を失うことなく、置換、修飾、挿入または欠失しうるアミノ酸残基を決定する指針は、当該技術分野で周知のコンピュータ・プログラムを使用して見出することができる。コンピュータ・
アルゴリズム、例えば、特にGapまたはBestfitは、当業者に良く知られており、比較されるアミノ酸配列を最適に整列させて、アミノ酸残基の類似性または同一性を定義するために使用することができる。変異体は、抗TGFβ抗体と比較して、同じまたは異なる、より高いまたはより低い結合親和力を有し、なおTGFβに結合することができ、より高いまたはより低いが抗TGFβ抗体と同じ生物学的活性を有する。
【0094】
本発明の実施形態には、抗TGFβ抗体の抗原結合断片も含まれる。用語「抗原結合ドメイン」、「抗原結合領域」、「抗原結合断片」および同様の語句は、抗原と相互作用するアミノ酸残基を含み、抗原に対するその特異性と親和性を結合剤に付与する抗体の一部分(例えば相補性決定領域(CDR))を指す。抗原結合領域は、齧歯動物(例えば、ウサギ、ラット、またはハムスター)およびヒトに由来することができる。好ましくは、抗原結合領域はヒト起源である。抗原結合断片の非限定的な例としては、以下が挙げられる:Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、および抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位。
【0095】
F.治療的投与
本明細書に記載の方法は、TGFβに結合する治療有効量の抗体を対象に投与することを含む。本明細書で使用するとき、語句「治療有効量」は、OIに関連する1つまたはそれ以上の症状の検知可能な改善をもたらす、または骨形成不全症の病態もしくは症状を生じさせる根本的な病理学的メカニズムに相関する生物学的効果(例えば特別のバイオマーカーのレベルの低下)を生じさせる、TGFβに結合する抗体の用量を意味する。例えば、骨塩量を増加させ、骨量および/もしくは骨強度を増加させ、骨折および/もしくは歯損を低下させ、ならびに/またはOIの任意の診断測定値を改善するTGFβに結合する抗体の用量は、治療有効量と考えられる。
【0096】
一実施形態において、骨塩量、骨量および/または骨強度は、TGFβに結合する抗体を用いた処置後に、約5%~約200%増加する。特定の実施形態において、骨塩量、骨量および/または骨強度は、TGFβに結合する抗体を用いた処置後に、約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%、または195%~約200%増加する。
【0097】
ある実施形態において、骨吸収の血清バイオマーカー、例えば尿中ヒドロキシプロリン、尿中総ピリジノリン(PYD)、尿中遊離デオキシピリジノリン(DPD)、尿中コラーゲンI型架橋N-テロペプチド(NTX)、尿中または血清コラーゲンI型架橋C-テロペプチド(CTX)、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチン(OPN)および酒石酸耐性酸性ホスファターゼ5b(TRAP)を低下させる抗体の用量は、治療有効量と考えられる。一実施形態では、骨吸収の血清バイオマーカーは、TGFβに結合する抗体の処置後に、約5%~約200%低下する。
【0098】
一実施形態において、骨吸収の血清バイオマーカー、例えば尿中ヒドロキシプロリン、尿中総ピリジノリン(PYD)、尿中遊離デオキシピリジノリン(DPD)、尿中コラーゲンI型架橋N-テロペプチド(NTX)、尿中または血清コラーゲンI型架橋C-テロ
ペプチド(CTX)、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチン(OPN)および酒石酸耐性酸性ホスファターゼ5b(TRAP)は、TGFβに結合する抗体を用いた処置後に、約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%、または195%~約200%低下する。
【0099】
ある実施形態において、骨沈着の血清バイオマーカー、例えば総アルカリホスファターゼ、骨特異的アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、およびI型プロコラーゲン(C末端/N末端)を増加させる抗体の用量が、治療有効量と考えられる。実施形態では、骨沈着の血清バイオマーカーは、TGFβに結合する抗体を用いた処置後に約5%~約200%増加する。
【0100】
一実施形態において、骨沈着の血清バイオマーカー、例えば総アルカリホスファターゼ、骨特異的アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、およびI型プロコラーゲン(C末端/N-末端)が、TGFβに結合する抗体を用いた処置後に、約5%~約10%、10%~約15%、15%~約20%、20%~約25%、25%~約30%、30%~約35%、35%~約40%、40%~約45%、45%~約50%、50%~約55%、55%~約60%、60%~約65%、65%~約70%、70%~約75%、75%~約80%、80%~約85%、85%~約90%、90%~約95%、95%~約100%、100%~約105%、105%~約110%、110%~約115%、115%~約120%、120%~約125%、125%~約130%、130%~約135%、135%~約140%、140%~約145%、145%~約150%、150%~約155%、155%~約160%、160%~約165%、165%~約170%、170%~約175%、175%~約180%、180%~約185%、185%~約190%、190%~約195%、または195%~約200%増加する。
【0101】
別の実施形態は、OIによって影響を受けた非骨格器官の機能を改善する治療有効量の抗体を投与することを含む。例えば、聴覚、肺および/または腎機能を改善するTGFβに結合する抗体の用量は、治療有効量と考えられる。
【0102】
本発明の方法によれば、対象に投与されるTGFβに結合する抗体の治療有効量は、対象の年齢およびサイズ(例えば、体重または体表面積)、ならびに投与経路および当業者に周知の他の投与経路に依存して変化する。
【0103】
特定の例示的実施形態において、抗TGFβ抗体は対象に皮下投与で投与される。他の例示的な投与様式としては、これらに限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が挙げられる。組成物は、任意の都合のよい経路で投与することができ、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜(例えば口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を通じた吸収によって、ならびに他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は、全身性でも局所性でもよい。TGFβ抗体は、非経口的にまたは皮下に投与することができる。
【0104】
様々な送達システムが知られており、医薬組成物を送達させるために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセル内の被包化、受容体媒介エンドサイトーシスなどが挙げられる(例えば、Wuら(1987)、J. Biol. Chem.、第262巻、4429~4432頁参照)。治療用組成物は、適切な担体、賦形剤、および改善された移行性、送達性、耐用性などを製剤に付与するために組み入れられる他の薬剤を用いて投与される。多くの適切な製剤を、全ての薬剤師に公知の処方集で見つけることができる:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ろう、油、脂質、ベシクル含有脂質(カチオン性またはアニオン性)(LIPOFECTIN(商標)など)、DNA結合体、無水吸収性ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powellら、「Compendium
of excipients for parenteral formulations」、PDA(1998)、J Pharm Sci Technol、第52巻、238~311頁も参照のこと。
【0105】
医薬組成物は、活性成分の用量に適合する単位用量での投薬形態で製造することができる。そのような単位用量の投薬形態としては、例えば、錠剤、丸薬、カプセル剤、輸注剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0106】
医薬組成物は、任意の許容される装置または機構を使用して対象に投与することもできる。例えば、投与は、注射器と針を使用して、または再使用可能なペン型および/もしくは自動注射送達装置を用いて実施することができる。本発明の方法は、複数の再使用可能なペン型および/または自動輸注装置を使用してTGFβ結合剤(または結合剤を含む医薬製剤)を投与することを含む。そのような装置の例としては、いくつか示すと、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)およびOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物の皮下投与に適用される使い捨てのペン型および/または自動注射器配達装置の例としては、いくつか示すと、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICKTM Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLETTM(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)、およびHUMIRATM Pen(Abbott Labs、Abbott Park、IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
対象にTGFβ結合剤(または結合剤を含む医薬製剤)を送達するマイクロインフューザの使用も本明細書で企図される。本明細書で使用するとき、用語「マイクロインフューザ」は、長期間(例えば約10、15、20、25、30分またはそれ以上)にわたる多
量(例えば約2.5mLまたはそれ以上まで)の治療用製剤をゆっくり投与するように設計された皮下送達装置を意味する。例えば、米国特許第6,629,949号;米国特許第6,659,982号;およびMeehanら、J. Controlled Release、第46巻、107~116頁(1996)参照。マイクロインフューザは、高濃度(例えば、約100、125、150、175、200mg/mLもしくはそれ以上)および/または粘性の溶液内に含まれた大量の治療用タンパク質を送達させるために特に有用である。
【0108】
G.併用療法
ある態様において、本発明は、そのような処置を必要とする対象に、TGFβに結合する抗体を、少なくとも1つのさらなる治療薬剤と組み合わせて投与することを含むOIを処置する方法を包含する。本発明の方法の実施においてTGFβに結合する抗体と組み合わせて投与され得るさらなる治療薬剤の例としては、これらに限定されないが、ビスホスホネート、カルシトニン、テリパラチド、および対象の骨形成不全症を処置、予防または緩和することが知られている任意の他の化合物が挙げられる。本発明の方法において、さらなる治療薬剤は、TGFβに結合する抗体と同時にまたは連続的に投与することができる。例えば、同時投与に関して、TGFβに結合する抗体と少なくとも1つのさらなる治療薬剤との両方を含む医薬製剤を作製することができる。一実施形態において、TGFβに結合する抗体は、ビスホスホネート製剤(例えばエチドロネート、クロドロネート、チルドロネート、パミドロネート、ネドリネート、オルパドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート、ゾレンドロネート、およびリセドロネート)と組み合わせて投与される。別の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、骨形成を刺激する薬物、例えば副甲状腺ホルモンアナログおよびカルシトニンと組み合わせて投与される。さらに別の実施形態において、TGFβに結合する抗体は、選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)と組み合わせて投与される。本発明の方法の実施において、TGFβに結合する抗体と組み合わせて投与されるさらなる治療薬剤の量は、既知の方法および当該分野で容易に利用可能な常法にしたがって簡便に決定することができる。
【実施例
【0109】
OIは、全身性結合組織疾患であり、罹患した個体は、I型コラーゲンのα1またはα2鎖の一次配列の変異によるI型コラーゲン原線維の形成における異常、ならびにI型コラーゲンの翻訳後修飾およびI型コラーゲン原線維に結合するタンパク質における異常を示す。CRTAPは、プロリル-3-ヒドロキシル化複合体の1メンバーであり、その機能がI型コラーゲンの適切な折り畳み、翻訳後修飾および分泌を支援する軟骨関連タンパク質と呼ばれるタンパク質をコードする。CRTAPへの変異は、VII型骨形成不全症の原因である。Crtap遺伝子(Crtap-/-)を欠くマウスは、骨形成不全症を模倣する表現型を表し、この疾患のモデルとして使用される(Morelloら、2006)。Crtap-/-マウスおよび年齢一致野生型(WT)同腹子対照を次の実施例で使用した。
【0110】
材料および方法
動物、抗TGFβ処置および組織回収
Crtap-/-マウスを生成し、混合C57Black/6J/129Sv遺伝的バックグラウンドを維持した。Col1α2遺伝子(Col1α2tm1.1Mcbr)におけるG610C変異を保有するマウスを得て、野生型C57Bl/6Jマウスに交配させた。Col1α2tm1.1Mcbr対立遺伝子に対してヘテロ接合性のマウスも実験に使用した。Smad2/3依存のTGFβシグナル伝達経路に応答してルシフェラーゼを発現するTGFβ-リポーターマウス(SBE-Lucマウス)を取得し、Crtap+/-マウスと2世代交配してリポーター導入遺伝子を発現するCrtap-/-マウスおよび野生型同腹子を生成した。マウスは全て小動物施設に収容し、実験は動物実験委員
会(IACUC)の承認プロトコルにしたがって実施した。
【0111】
タンパク質とRNAの分析について、P3マウスの頭蓋冠を分離し、骨格外組織を取り除き、液体窒素で急速凍結した。Crtap-/-P10マウス肺の免疫染色については、各マウスの肺を、屠殺後すぐに4%パラホルムアルデヒドを用いた25cmのHOの定圧での引力により等しく膨張させ、次いで縫合により気管で閉じた。その後、肺を、胸部から穏やかに切除し、4%パラホルムアルデヒド中に一晩固定した。
【0112】
8週齢の雌Crtap-/-およびCol1α2tm1.1Mcbrマウスを、汎TGFβ中和抗体1D11で8週間(10mg/kg体重、I.P.注射、各週3回)処置した。対照Crtap-/-、Col1α2tm1.1Mcbr、およびWTマウスは、同じIgG1アイソタイプの対照抗体(13C4)を受けた。処置後、マウスを屠殺し、腰椎および大腿骨を回収し、マイクロCTおよび骨組織形態計測のために10%ホルマリン中に固定した。Crtap-/-マウスの対側性大腿骨は、生体力学試験が行われるまで、生理食塩水で湿らせたガーゼで包んで-20℃で保存した。これらのCrtap-/-マウスの肺を、P10マウスについて記載したように、等しく膨張させ、回収し、固定した。1D11または対照抗体は群割付けによって注入したため、処置の間は盲検が行われなかった。全ての後の分析では、調査者は遺伝子型と処置群を知らされなかった。
【0113】
免疫ブロッティング
急速凍結したP3頭蓋冠試料からタンパク質を抽出し、300μlの溶解バッファー(0.0625M Tris-HCl pH7.5、2%SDS、5mM NaF、2mM
NaVOおよびロシュコンプリートプロテイナーゼ阻害剤)に移して、1分間ホモジナイズし、95℃で40分間インキュベートした。上清を遠心濾過ユニット/Amicon Ultra 3K(Millipore)に移し、遠心分離してタンパク質を濃縮した。溶解物の全タンパク濃度を、製造業者の指示にしたがってMicro BCA試薬(Pierce)を使用して測定した。40μgの頭蓋冠タンパク質抽出物を、5%のβ-メルカプトエタノールを含有するレムリ(laemmeli)緩衝剤に懸濁し、Mini Protean TGX SDS-PAGEゲル(勾配4~20%;Bio-Rad)上で分離し、ウェスタンブロット分析用のPVDF膜上に移した。PVDF膜を、pSmad2モノクローナル抗体とインキュベートし(Cell Signaling #3108、5%BSA含有TBST中1:750、一晩)、次いで二次HRP結合抗ウサギ抗体とインキュベートし(GE、5%BSA含有TBST中1:5000、2時間)、ECL Plus Western Blotting Detection System(GE)を用いて処置して、X線フィルムに曝露させた。続いて、抗体を、ReBlot Plus試薬(Millipore)を使用して膜から剥がし、Smad2モノクローナル抗体とインキュベートし(Cell Signaling#5339、5%BSA含有TBST中1:2000、一晩)、その後、同様に二次抗体とインキュベートし、ECLを媒介させて可視化した。X線フィルムをスキャンし、各バンドの密度をImageJソフトウェア(National Institutes of Health)を使用して定量した。
【0114】
定量リアルタイムPCR
全RNAを、Trizol試薬(Invitrogen)を使用して急速凍結P3マウス頭蓋冠から抽出した。Superscript III RT system(Invitrogen)を使用して、製造業者のプロトコルに従い、全RNAからcDNAを合成した。定量RT-PCRを、遺伝子特異的プライマーおよびSYBRグリーンI試薬(Roche)を使用して、LightCycler.v1.5(Roche)で実施した。β2-マイクログロブリンをs遺伝子として使用してcDNA濃度を標準化した。
【0115】
インビボ生物発光イメージング
TGFβリポーター導入遺伝子を発現するP10Ctrap-/-マウスおよび野生型同腹子(SBE-Lucマウス)に、D-ルシフェリン(Goldbio、150mg/kg、IP)を注入し、イソフルランで麻酔をかけ、生物発光画像システム(Xenogen)を使用して、注入後10分間画像処理した。
【0116】
一次骨芽細胞培養物、TGFβ-リポーター細胞
骨髄細胞をおよそ2か月齢のCrtap-/-および野生型マウスの脛骨および大腿骨から分離し、10%FBS、100U/mLペニシリンおよび100ug/mLストレプトマイシンを補足したα-MEMで培養した。培地は2日に1回ごとに代え、非接着細胞は廃棄した。7日後に、骨髄間質細胞(BMSC)と定義される接着細胞を、24ウェルプレートに、1cmあたり2.5×10細胞で再播種し、骨形成培地(α-MEM、10%FBS、500μMアスコルビン酸および10mM β-グリセロホスフェート)中で3日間培養した。調整培地を回収し、PAIルシフェラーゼ・リポーター・ミンク肺上皮細胞と共にインキュベートした。24時間後、細胞溶解物をルシフェラーゼ活性アッセイのために回収し、Dual-Luciferase Reporter System(Promega)を使用して測定した。結果は、Micro BCA試薬(Pierce)を使用して定量した全タンパク質に対して標準化した。
【0117】
マイクロCT、骨組織形態計測
腰部脊椎と大腿骨は、Scanco μCT-40マイクロCTを使用してスキャンし、骨梁および皮質骨パラメータを定量した。脊椎および大腿部の骨梁骨パラメータを、手動で椎体L4の骨梁ならびに大腿骨の遠位骨端セクションの輪郭をとることにより、Scanco分析ソフトウェアを使用して分析した。大腿部の中軸中心にある皮質骨パラメータは、ソフトウェアに含まれた自動閾値アルゴリズムを使用して定量した。
【0118】
スキャンされた脱灰されていないCrtap-/-マウス背骨試料を、切開のため、プラスチックに包埋した。トルイジンブルー染色およびTRAP染色を、ObおよびOcの可視化および定量のために、それぞれBioquant Osteo画像解析システムを使用して、標準プロトコルにしたがって実施した。
【0119】
免疫染色および組織学
免疫組織化学については、P5マウスの後足を回収し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、パラフィンに包埋した。脱パラフィンおよび再水和後、熱誘導抗原回収(Dako、S1700)を実施し、次いでヒアルロニダーゼを用いて30分間処置した(2mg/ml;Sigma)。内因性ペルオキシダーゼを、3%過酸化水素を使用して10分間ブロックした。ブロッキング溶液(3%標準ヤギ血清、0.1%BSA、0.1%TritonX-100、PBS中)でインキュベートした後、切片を、TGFβ1に対する抗体(G1221、Promega)、およびデコリン(LF-113、Larry Fisher、National Institute of Dental and Craniofacial Research、Bethesda、MD、USAより好意で提供)で、60分間37℃でインキュベート(それぞれPBSで1:25希釈、対照試料はPBSのみでインキュベート)し、次いで二次抗体と共にインキュベートした(SuperPicTure Ploymer Detection kit、Invitrogen)。DAB基質を製造業者の推奨にしたがって添加し、試料を脱水して、Cytoseal XYLキシレンをベースとするマウント培地(Thermo Scientific)を使用してマウントした。WTと変異同腹子の切片は、同時に処置した。WTと変異体同腹子について、骨梁骨の画像を、同一の露光時間を使用して、光学顕微鏡(Axioplan2、ツァイス)を用いて得た。
【0120】
P10および16週齢Crtap-/-マウスの肺を、組織回収しながら等しく膨張させ、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋した。P10Crtap-/-および野生型マウスの肺を、pSmad2の免疫染色のために使用した。簡潔には、パラフィン切片をキシレンで処置し、再水和し、抗原回収のために20分間加熱した(pH6;Dako)。切片を、次いでブロッキング溶液(3%標準ロバ血清、0.1%BSA、PBS中0.1%Triton X-100)とインキュベートし、次いで、ウサギ抗pSmad2抗体(1:500)(Cell signaling、#3108)、Alexa flour594結合ロバ抗ウサギ第2抗体(1:600)(Invitrogen)とインキュベートし、DAPI含有Prolong Gold抗褪色試薬(Invitrogen)でマウントした。これらの切片からの蛍光画像を、同一露光時間を使用して、ツァイス顕微鏡(Axiovision Software)を使用して得た。
【0121】
16週齢マウスの肺組織学および形態測定については、傍矢状切片を、ヘマトキシリン・エオシン染色を標準プロトコルで使用して染色した。平均肺胞径(MLI)法を使用して肺胞構造間の距離を定量した。簡潔には、光学顕微鏡(Axioplan2、ツァイス)を使用して、両方の肺の全ての肺葉から、1マウスあたり10の組織学的領域を20倍拡大で得た。MLIは、改変ImageJソフトウェア(国立衛生試験所(National Institutes of Health)、Paul Thompsonによって改変)を使用して測定した。手動で血管、大きな気道および他の非肺胞構造を除去した後、各画像の胞状組織についてソフトウェアを自動的に開始し、画像全体にわたり各ラインを21ピクセルで測定しながら1,353ラインで構成されたライン・グリッドを重ね合せた。肺胞構造を遮るラインの数を使用してMLIを計算した。
【0122】
3点曲げによる生体力学的試験
Crtap-/-およびWTの大腿骨を、3点曲げ試験によって、Instron5848装置(Instron Inc.,Norwood MA)で6mmのスパンを用いて試験した。大腿骨は全て室温で、湿らせて試験した。これらを0.05N/秒の速度で5秒間、1Nで予荷重した。予荷重に続き、大腿骨を破壊されるまで0.1mm/秒の速度で荷重した。荷重と変位のデータはBLUEHILLソフトウェア(Instron5848)を使用して40Hzの速度で得た。
【0123】
降伏点を決定するために、荷重-変位曲線において、予荷重前と最大荷重後の領域を特定した。この領域を5つの区分に分け、最大傾斜を有する区分の適合線を得た。次いで、この線に0.012mmのオフセットを実施した。オフセット線と荷重-変位曲線との間の交点を、0.012オフセット降伏点とした。この降伏点は、一般に文献で選択されている0.2%オフセットひずみに、より厳密に一致した。弾性領域は、予荷重の完成から降伏点までの領域として特定した。降伏後領域は、降伏点から、荷重の変化が-1Nを超過し、破断を示す点までの領域として特定した。弾性変位は、試験片が弾性領域に残る間の変位とした。降伏後変位は、試験片が降伏後領域に残る間の変位とした。全変位は、弾性変位および降伏後変位の合計として計算した。台形の数値積分法を使用して、破断までのエネルギーを、荷重-変位曲線下面積として計算した。最大荷重は、試験片が破断する前に、BLUEHILLによって記録された最高荷重値を見出すことにより決定した。剛性を計算するために、最小二乗適合法を、荷重-変位曲線の弾性領域の最大傾斜区分に適用した。剛性は最小二乗適合線の傾斜とした。大腿部の中軸のマイクロCT分析から得た幾何学的なデータ(直径および慣性モーメント)を利用して固有の材料特性、つまり極限強度、破断までの靱性、および弾性率を計算した。
【0124】
血清骨代謝回転(bone turnover)マーカー
血清オステオカルシン(OCN)は、Biomedical Technologies Inc.からのマウス・オステオカルシンEIAキットを使用して定量した。骨コラ
ーゲン(CTX)のC末端架橋テロペプチドは、Immunodiagnostic Systems Ltd.からのRatLaps(商標)EIAキットを使用して定量した。両方の分析は、製造業者のプロトコルにしたがって実施した。
【0125】
コラーゲンSDS-PAGE、質量分析および架橋分析
質量分析については、I型コラーゲンを、Crtap-/-および野生型脛骨から製造した。骨を、クロロホルム/メタノール(3:1 v/v)で脱脂し、0.5MのEDTA、0.05MのTris-HCl、pH7.5で脱塩し、これらの脱塩工程は全て4℃で実施した。骨を細かく刻み、コラーゲンをSDS-PAGE試料バッファー中での熱変性(90℃)によって可溶化した。コラーゲンα鎖をSDS-PAGEゲルから切断し、インゲル・トリプシン消化にかけた。Electrospray MSを、トリプシンペプチドについて、C8キャピラリーカラム(300μm×150mm;Grace Vydac208 MS5.315)を使用したインライン液体クロマトグラフィー(LC)(ThermoFinnigan)を装備したLCQ Deca XPイオントラップ質量分析計を使用して、4.5μl分で溶出して実施した。Sequest検索ソフトウェア(ThermoFinnigan)を使用して、NCBIタンパク質データベースを使用してペプチド同定を行った。
【0126】
6N HClを使用して脱塩された骨を加水分解した後にHPLCによってピリジノリン架橋(HPおよびLP)を定量した。
【0127】
表面プラズモン共鳴分析
表面プラズモン共鳴実験はBIACore X機器(GE Healthcare Bio-Science Corp.)を使用して実施した。野生型およびCrtap-/-マウス由来の精製された天然マウス腱I型コラーゲンを、CM5センサー・チップ上で、それぞれ約0.05ナノグラム/mm(500RU)および0.08ナノグラム/mm(800RU)の濃度でのアミドカップリングによって固定化した。実験は、10μl/分の流速にて20℃でHBSPバッファー(10mM Hepesバッファー、pH7.4、150mM NaClおよび0.005%界面活性剤P20を含有)中で実施した。組み換えヒトデコリンコアタンパク質(R&D systems)を両方のI型CM5チップ上に注射した。ヒトデコリン原液の濃度はアミノ酸分析によって決定した。デコリンの野生型およびCrtap-/-マウスI型コラーゲンに対する結合応答は、CM5センサー・チップ上の固定化I型コラーゲンの量によって標準化した。3つのデコリン濃度(3、5および12μM)を使用して、各濃度について分析を3回繰り返した。この実験は、各時間の異なるマウスから単離したコラーゲンで2回実施した。
【0128】
統計的手法
2群間の比較は、不対両側スチューデントt検定を使用して行った。3群間の比較については、群の等分散が確認された場合には一元配置分散分析(ANOVA)を実施し、次いでHolm-Sidak法を使用して全ペアワイズ多重比較を行った。等分散試験が不合格となった場合は、クラスカル=ウォリスの順位に基づく一元配置分散分析を実施し、次いでTukeyテストを使用して、全ペアワイズ多重比較を行った。0.05未満のP値を、スチューデントt検定、ANOVA、およびクラスカル=ウォリスの順位に基づく一元配置ANOVAで統計的に有意であるとみなした。事後ペアワイズ多重比較については、各P値について、P値の順位および比較総数に依存する臨界レベルと比較し、群間の差異が有意であるかを測定した。Sigma Plot V11.0(Systat Software Inc.)を統計分析に使用した。
【0129】
OIマウスの骨および肺に対する1D11の効果は、試験開始時点では不明であった。マウスについて初期試料の群あたりのサイズを決定するために、サイズを計算して1D1
1と対照処置OIマウスとの間の90%出力でのマイクロCTによる骨量(BV/TV)の最小差異20%を検出した。1群のサイズは8匹のマウスを必要とした。
【実施例1】
【0130】
Crtap-/-頭蓋冠における改変されたTGFβシグナル伝達
Crtap-/-マウスおよび年齢一致野生型(WT)同腹子対照を、活性化pSmad2、TGFβシグナル伝達経路のメンバー、およびTGFβの下流の他の標的の発現について分析した。頭蓋骨を切除し、RNAおよびタンパク質を、リアルタイム-PCRおよびウェスタンブロットによってそれぞれ抽出し、分析した。図1Aおよび1Bにおいて見出し得るように、Crtap-/-マウスは、ウェスタンブロットで測定し、デンシトメトリで定量化するとき、WTマウスと比較して全Smad2に対する活性化pSmad2の比率が100%高く、TGFβシグナル伝達がCrtap-/-マウス中で上昇していることが示された。TGFβの転写標的、例えばCol1α1およびp21は、RT-PCRによって測定するとき、図1Cおよび図1Dで実証されるように、WT対照と比較して、それぞれ上昇していた。線維化促進性ECMタンパク質結合組織成長因子(CTGF)を測定すると、RT-PCRによって測定するように、および図1Eで実証されるように、WT対照と比較してCrtap-/-マウスでは約50%高いことがわかった。図1Fにおいて示されるように、RT-PCR分析は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p27の発現が、Crtap-/-マウスまたはWTマウスにおいて変わらないことが明らかになった。
【実施例2】
【0131】
インビボでのCrtap-/-マウスおよびCrtap-/-骨芽細胞の増加したTGFb活性
Crtap-/-マウスを、TGFβシグナル伝達の活性化に応じてルシフェラーゼを発現するTGFβリポーターマウスと交配させた(Jackson Laboratory;B6.Cg-Tg(SBE/TK-luc)7Twc/J)。P9マウスに、基質D-ルシフェリン(150mg/kg)を注入し、10分後にイメージングした(Xenogen;IVISカメラシステム)。図2Aで実証されるように、Crtap-/-マウスは、WT対照と比較して、尾骨、長骨および頭蓋冠において発光がかなり高く、crtap-/-マウスにおいてTGFb活性が増加していることを示していた。図2Bは、頭蓋冠でのルシフェラーゼ活性を定量したものである。
【0132】
骨髄間質細胞(BMSC)をCrtap-/-マウスおよびWTマウスから単離し、骨形成条件の下でエキソビボ培養し、調整培地で、TGFβシグナル伝達の活性化に応答するルシフェラーゼ発現細胞株を使用して、TGFβ活性について分析した。図2Cに示されるように、Crtap-/-BMSCからの調整培地は、WTマウスのBMSCと比較して、リポーター細胞株のルシフェラーゼ活動がほぼ2倍に大きくなった。まとめると、これらのデータは、Crtap-/-マウスの骨および骨芽細胞についてTGFβ分泌および活性が上昇していることを示している。
【実施例3】
【0133】
Crtap-/-脊椎のμCT分析
8週齢成体Crtap-/-マウス(1群あたりN=6)に、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、TGFβに結合する汎特異的抗体のマウス代替物である1D11(10mg/kg、I.P.,3回/週、全8週)を投与した。無関係の13C4抗体を、Crtap-/-マウスと対照としてのWTマウス(N=6)の個別群に投与した。16週齢マウス(週8~16から処置)のL4椎体を、μ-CTで画像化した。TGFβ中和抗体1D11(Genzyme;10mg/kg、I.P.,3回/週)で8週間処置した8週齢Crtap-/-マウス(1群
あたりn=6)ならびに対照抗体(13C4プラセボ)で処置した野生型(WT)および対照Crtap-/-マウスからの椎体L4のマイクロCTデータを図3に示した。図3に示されるように、Crtap-/-脊椎は、WT対照脊椎と比較して海綿状であった。しかしながら、1D11処置により、WT状態と同様の骨格表現型に帰着した。
【0134】
図3からのデータを図4で定量化した。汎特異的抗TGFβ抗体を用いた処置によってCrtap-/-マウスの骨格表現型がレスキューされた。被処置Crtap-/-マウスの脊椎骨は、骨体積密度(BV/TV)、全骨表面積(BS)、骨面密度(BS/BV)、骨梁数(Tb.N)、骨梁幅(Tb.Th)、骨梁間隔(Tb.Sp)および全体積(Dens TV)を含む測定されたパラメータにおいて、WT対照マウスと統計的に類似していた。
【実施例4】
【0135】
抗TGFβ処置したCrtap-/-脊椎における組織形態計測
μ-CTに加えて、抗体処置マウス、プラセボ処置マウスおよびWTマウスの脊椎骨を、組織形態計測によって分析した。図5Aおよび5Bに示されるように、μ-CTの結果を組織形態計測により確認した。さらに、組織切片を、破骨細胞マーカーTRAPの発現について染色した。分析で明らかにされるように、Crtap-/-マウスの骨表面では、WT対照と比較して、より多くの破骨細胞が被覆され(N.Oc/BSおよびOc.S/BS)、破骨細胞活性が増加していることが示された。1D11抗TGFβを用いた処置により、全ての破骨細胞特異的パラメータがWT数未満に減少した。したがって、破骨細胞は、TGFβ抗体、より詳細には、汎特異的抗TGFβ抗体に対する有望な標的として同定された。
【実施例5】
【0136】
抗TGFβ処置Crtap-/-大腿骨の3点曲げ試験
生体力学試験は、インストロン5848装置(Instron Inc.,Norwood MA)を用いた標準3点曲げ試験を使用して、6mmのスパンで、1N/秒の速度で5秒間1Nを予荷重して、16週齢マウス(処置後8~16週目)の切除した大腿骨に実施した。予荷重に続き、大腿骨を破壊されるまで0.1mm/秒の速度で圧縮した。荷重と変位のデータはBLUEHILLソフトウェア(Instron5848)を使用して40Hzの速度で得た。
【0137】
図6に実証されるように、Crtap-/-マウスの大腿骨は、WT対照マウスよりも堅さが少なく、はるかに小さい最大荷重を耐える能力があった。1D11処置Crtap-/-マウスの大腿骨は、顕著な最大荷重の改善と、対照Crtap-/-マウスと比較した剛性の増加傾向を示した。
【0138】
したがって、1D11汎特異的抗TGFβ抗体を用いた処置は、定量的に、定性的に、および生物力学的に、Crtap-/-マウスの骨格筋表現型を回復した。
【実施例6】
【0139】
1D11によるTGFβシグナル伝達の阻害は肺の表現型を改善する
Crtap-/-マウスは、低い骨量、糸球体硬化症および肺形成障害によって現れる全身性結合組織疾患を有した(Baldridgeら; PLoSone 5(5):e10560(2010))。TGFβ発現の増加が、pSmad2の免疫染色陽性により証拠づけられ、図7Aで実証されるように、Crtap-/-マウスの肺で見られた。組織学的に、Crtap-/-マウスは、図7Bに示されるように、WTマウスと比較して、遠位気道空間が増加していることが示された。図7Aおよび図7Bで実証され、図7Cで定量化されるように(P<0.05対対照Crtap-/-;1マウスあたり10画
像解析、1群あたりn=8マウス)、1D11処置(10mg/kg、IP、3x/週を8週間)により、Crtap-/-マウスにおけるpSmad2発現が減少し、遠位気道空間が減少し、肺表現型が改善した。
【実施例7】
【0140】
Crtap-/-肺中でのデコリン発現
Crtap-/-マウスの骨および肺における調節不全TGFβシグナル伝達の基礎を理解するためにTGFβ発現の転写制御因子を調べた。ECMにおいてTGFβを制御可能な細胞外タンパク質の主なクラスとしては、小ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)、例えばデコリンが挙げられる。図8に示されるように、免疫染色により、WT対照肺と比較して、Crtap-/-肺におけるデコリンの発現が増加していることが明らかになった。
【0141】
デコリンは成熟TGFβの制御因子であるので、この知見から、コラーゲンの翻訳後修飾の変化は、OIで起こると、SLRPを含めたECMタンパク質の相互作用を変化させることが示唆された。デコリンは、例えばI型およびII型コラーゲンのアミノ酸残基396位に存在しているヒドロキシプロリン部位に結合するが、これらのコラーゲンはCrtap-/-マウスには存在しない。デコリン結合がOIにおいて変化しているか、ならびにその変化がCrtap-/-骨およびマウスにおいて観察される表現型に少なくとも部分的に関与しているかを測定するために、デコリン結合アッセイを行った。図9に示されるように、3-ヒドロキシル化コラーゲンペプチド(I型およびII型コラーゲンなど)に結合するデコリン結合は、3-ヒドロキシル化を有しないコラーゲンペプチド(III型コラーゲンなど)より多かった。
【実施例8】
【0142】
TGFβシグナル伝達の増加は、骨形成不全症における共通のメカニズムである
OIは、脆弱骨、低骨量、骨変形および骨折を特徴とする。さらに、肺異常を含む骨外性の症状発現は実質的に病的状態および死を導く。OIの症例の多くは、I型コラーゲンをコードする遺伝子の常染色体優性突然変異(COL1A1とCOL1A2)によって引き起こされる。近年、コラーゲンの翻訳後修飾に関与するタンパク質をコードするさらなる遺伝子の突然変異がOIの退行形態を引き起こすものとして同定された。記述された第1番目の変異は、I型コラーゲンのプロリン残基986α1(I)の3-ヒドロキシル化に関わるプロリル-3-ヒドロキシラーゼ複合体の一員である軟骨関連タンパク質(CRTAP)にあった。低形質CRTAP変異は、原線維性コラーゲンにおける3-ヒドロキシプロリン(3Hyp)の部分的損失および他の残基の過剰修飾を導き、優性形態の重度OIと臨床的に重複する退行性OI VII型に帰着した。3Hypの生理学的作用は、完全には理解されていないが、生化学的研究によって、コラーゲンの安定性に否定的に影響するよりもむしろコラーゲン-タンパク質相互作用に関係していることが示唆された。
【0143】
ECMは、シグナル伝達分子およびそれらの制御因子の重要な貯蔵所である。骨において、TGFβは、骨再吸収破骨細胞と骨形成骨芽細胞の局所的な活性を連結させることにより骨再構築の中心的調整因子として作用する。TGFβは、骨芽細胞によって豊富に産生され、主に不活性の潜在的形態で分泌され、骨マトリックス内へ配置される。ここで、破骨細胞による骨吸収の間に放出および活性化が行われ得る。さらなる制御レベルとして、活性なTGFβがプロテオグリカンによって結合され、これによりコラーゲン原線維に関連する生物活性が調節され得る。I型コラーゲンは骨におけるECMの最も豊富な成分であるため、OIの中で観察されるコラーゲン構造の変化が、骨脆弱性の増加だけでなく、骨マトリックスのシグナル貯蔵機能にも影響しているという興味を引く仮説が掲示された。興味深いことに、Crtap-/-マウスは、TGFβシグナル伝達が増加したモデル動物と表現型が重複していた。例えば、TGFβ過剰発現により、低骨量が引き起こさ
れた。さらに、Crtap-/-マウスは肺において肺胞気道空間の拡大を示すが、これはマルファン症候群モデルマウスで観察される状態と類似しており、TGFβシグナル伝達の増加が、肺病理の主な要因であることが示された。したがって、OI退行の場合のTGFβシグナル伝達の状態をCrtap-/-モデルマウスにおいて調べた。
【0144】
骨におけるTGFβシグナル伝達の状態を評価するために、Crtap-/-マウスの頭蓋骨でのTGFβ標的遺伝子の発現レベルを評価した。野生型(WT)試料と比較して、Crtap-/-骨は、TGFβ活性の上昇と一致して、TGFβ下流標的p21(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1)、PAI-1(プラスミノゲン活性化阻害因子-1)およびCol1α1の発現増加を示した(図10A)。細胞内のTGFβシグナル経路の活性増加を確認するために、細胞内第2メッセンジャータンパク質でありTGFβ受容体の活性化後にリン酸化されるSmad2の状態を評価した。標的遺伝子発現と一致して、免疫ブロット分析により、Crtap-/-マウスの骨試料において全Smad2に対するリン酸化Smad2(pSmad2)のより高い比率が実証され、このことはTGFβシグナル伝達が増加していることを示していた(図10Bおよび10C)。
【0145】
これらの静的測定値が、インビボにおけるTGFβ活性をの増加反映しているかを確かめるために、Crtap-/-マウスを、TGFβ応答Smad結合因子の制御下でルシフェラーゼを発現するTGFβリポーターマウス(SBE-Lucマウス)と相互交配させた。WT/SBE-Luc同腹子と比較して、Crtap-/SBE-Lucマウスは、骨格構造における生物発光領域が増加しており、インビボにおけるTGFβ活性の増加が示された(図10D)。3同腹仔において、Crtap-/-マウスは、WTマウスと比較して、頭/頭蓋冠において平均2.86倍(SD±0.34)の生物発光シグナルを示している。さらに、Crtapの損失と関連した増加したTGFβ/Smadシグナル伝達が骨に固有、つまり組織自律的なものかを試験するために、骨髄間質細胞(BMSC)を、インビトロで骨芽細胞に対して分化させた。TGFβリポーター細胞株の使用により、Crtap-/-BMSC由来の調整培地は、WT BMSC由来の培地と比較して、より高いTGFβ活性を示すことがわかった(図10E)。まとめると、これらの知見から、Crtapの損失が、組織自律的形式で骨におけるTGFβシグナル伝達を増強することが示された。
【0146】
重度のOIを有する患者はさらに固有の肺異常を示すこともあり、呼吸不全はこれらの個体の主要な死因の1つである。興味深いことに、Crtap-/-マウスは、他の発症モデルにおけるTGFβシグナル伝達の増加に関連した特徴である、肺胞気道空間のびまん性増加を示した。これにしたがって、Crtap-/-マウスの肺は、肺胞細胞のpSmad2に対する細胞内染色の増加を示し、TGFβ活性の増加が骨外性組織にも現れていることが示された(図10F)。
【0147】
TGFβシグナル伝達の増加がCrtap-/-マウスにおける骨と肺の表現型に関与する主要メカニズムを表すものであるかを理解するために、レスキュー実験を、汎TGFβ中和抗体(1D11)を用いて実施した。8週齢Crtap-/-マウスを1D11で8週間処置した;対照Crtap-/-およびWTマウスには非特異性対照抗体(13C4)を投与した。1D11は、処置したCrtap-/-マウスの体重を顕著に変化させず、TGFβの阻害が一般的な栄養状態に影響しなかったことを示した(図14)。さらに質量分析および架橋分析により、1D11がCrtap-/-マウスにおけるI型コラーゲンのP986 3-ヒドロキシル化またはコラーゲン架橋の状態に顕著な変化を与えなかったことが示され、TGFβシグナル伝達の調節異常が、変化した分子コラーゲン構造の結果であり、細胞内コラーゲンプロセシングまたは細胞外原線維集合体に直接的に関与しないことが示唆された(図15)。Crtap-/-マウスは、骨量の低下と異常な骨梁骨パラメータを示した(図11Aおよび11B)。脊椎のマイクロCT画像分析は、
対照Crtap-/-マウスと比較して、TGFβ阻害が、骨体積/全体積、骨梁数、骨梁幅を含む骨梁骨パラメータを、WTレベルの近くまで顕著に改善したことを示した(図11Aおよび11B、および図17)。同様の有益な効果が、Crtap-/-マウスの大腿部の骨梁骨で観察され、TGFβ阻害により骨梁骨パラメータが顕著に改善された(図18)。1D11を用いた骨格におけるTGFβ阻害の効果は、WTマウスと、正常TGFβ成熟の機能不全によりTGFβ活性が増加したモデルであるEsl-1-/-マウスとにおいて、以前に報告されている。1D11はWTマウスの背骨で骨梁BV/TVを33%、穏やかに増加させたが、Esl-1-/-マウスでは、BV/TVの106%増加が示された。このことは、骨格中で増加している病態生理学状況でTGFβを標的とすることで、相対的により明白な肯定的な結果に結びつきうることを示唆した。本研究において、1D11は、Crtap-/-マウスの背骨で骨梁BV/TVを235%増加させ、TGFβシグナル伝達の調節異常がCrtap-/-マウスにおける低い骨量の重要な要因であることを支持した。大腿骨中軸では、Ctrap-/-マウスにおいて、皮質の幅、直径、横断面積および横断面の慣性モーメントを含む皮質のアーキテクチャーのパラメータが、WTマウスと比較して顕著に低下していた。1D11処置後、これらのパラメータは、もはやWTマウスと有意な差異はなかった(図19)。皮質および骨梁骨におけるこれらの変化が、骨強度の改善に転換されるどうかを試験するために、3点曲げ試験による大腿骨の生体力学試験を実施した。TGFβ阻害により、処置されたCrtap-/-マウスにおいて最大荷重と極限強度が増加されたことがわかり、全体の骨および組織強度の向上と骨折に対する耐性の改善が示された。しかしながら、1D11処置は、対照および1D11処置Crtap-/-マウスの両方で降伏後変位の低下が示されるように(図20)、OI骨の脆性増加には影響を与えなかった。これはおそらく、変化したコラーゲン構造に関連した固有の異常なミネラル化を反映していると考えられた。まとめると、これらの知見から、TGFβシグナル伝達の増加が、Crtap欠損に起因する退行性OIの骨表現型の主要な要因であり、TGFβシグナル伝達調節異常の阻害により、骨量、微細構造パラメータが回復し、全骨強度が改善することが示された。
【0148】
Crtap-/-マウスにおける細胞レベルでのTGFβ阻害の効果を理解するために、処置されたマウスの組織形態計測分析を実施した。この試験における椎体の切片で、対照Crtap-/-の骨表面あたりの破骨細胞数(Oc)および骨芽細胞数(Ob)が、WTマウスと比較して増加していることがわかり、背骨における骨再構築の増加が示された(図11Cおよび図21)。一貫して、骨コラーゲン(CTX)の血清骨代謝回転マーカー・オステオカルシン(OCN)およびC末端架橋テロペプチドは、8週齢(OCNおよびCTX)と16週齢(CTXのみ)の対照Crtap-/-マウスにおいて向上していた(図19)。骨の細胞組成における同様の変化が、優性OIおよび退行性OIを有する患者について記述され、骨代謝回転の増加と一致してOc数およびOb数の増加が示された。興味深いことに、TGFβシグナル伝達が増加したモデルマウスは、破骨細胞の骨吸収および異常な骨構築の増加を伴う低い骨量をも示した。TGFβが骨細胞に影響を与えるという報告の多くは、TGFβが骨修復部位でOc前駆体およびOb前駆体の動員および初期分化を刺激することができ、次いでインスリン様成長因子1(IGF-1)が媒介するOb分化が起こるというモデルと一致する。しかしながら、引き続く高用量で、TGFβは、分化因子RUNX2の抑制によりOb分化を阻害することができた。Oc/Ob相互作用に対する重大な影響を考慮すると、TGFβ利用可能性の微調整が、骨再構築の間の形成を伴う骨吸収の局所結合のための重要な因子であり、その不均衡が重大な骨病理に結びつく可能性がある。
【0149】
対照Crtap-/-マウスにおける知見とは対照的に、1D11で処置されたCrtap-/-マウスの骨切片は、Oc数およびOb数を低下させた。この数はWTマウスで測定された値よりも低く、この実験中で使用された1D11の用量でのTGFβ抑制の結果として骨再構築の調節異常が超生理学的に抑制されたことが示された(図11C)。初
期の報告と一致して、WTレベルより低いOc数およびOb数が観察されたことでも、骨再構築プロセスの間の通常のOc数およびOb数を調整するためにTGFβの局所的量の生理学的必要性が強調された。我々の知見は、WTマウスについての1D11処置によりOc数が低下し、Ob数が増加したという従来の研究とは異なった。これは、WTマウスの正常骨と比較して、増加したTGFβシグナル伝達および増加した骨再構築を伴う病態生理学的状況におけるTGFβ阻害の明白な細胞効果を反映している可能性がある。TGFβは骨芽細胞前駆細胞の分化を阻害することが示されており、TGFβシグナル伝達の増加により、未熟な骨芽細胞系細胞の割合が高くなる可能性がある。他方、骨表面における未熟Obの増加または高比率により、これらの細胞による分泌TGFβの量の増加が引き起こされ得る。1D11を用いたTGFβ阻害により、Crtap-/-マウスにおいて増加したOb数が著しく低下するという知見は、TGFβシグナル伝達の増加が、骨芽細胞系細胞の増加に必然的に関与することを示唆している。
【0150】
Oc数およびOb数に関する知見に加えて、対照Crtap-/-マウスでは、骨面積あたりの骨細胞(Ot)数の増大が観察されたが、1D11で処置したCrtap-/-マウスではWTマウスの数と匹敵するレベルまで低下していた(図11Cおよび図21)。OI患者では、疾患のより重度な形態の個体でOt密度の増加が観察され、OI骨における生理学的成熟不全に基づく未熟な主要骨の存在を反映していると思われた。増加したTGFβシグナル伝達がOIにおける骨病理の要因となるという私たちの仮説と一致して、WTマウスにおけるTGFβの過剰発現は、同様にOt密度の増加に帰着した。考えられる説明として、TGFβは、Obの、Otへの移行中のObアポトーシスを阻害し、それによりOt密度の増加を引き起こす。集約すると、これらの知見から、増加したTGFβシグナル伝達が、Crtap-/-マウスにおける高い骨代謝回転状態と骨の成熟不全の要因となり、TGFβシグナル伝達調節異常の阻害により、これらの細胞変化が逆行することが示された。
【0151】
Oc/Ob相互作用に対するこれらの重大な影響を考慮することにより、TGFβ利用可能性の微調整が、骨再構築の間の骨形成を伴う骨吸収の局所結合のための重要な因子であり、その不均衡が重大な骨病理に結びつくことが考えられた。私たちの知見は、Crtap-/-マウスにおけるTGFβシグナル伝達異常の阻害により、骨量および微構造パラメータが回復し、全体の骨強度が改善され、Crtap-/-マウスで観察される細胞変化が逆行することを示した。したがって、TGFβシグナル伝達の調節異常は、この退行性OIモデルマウスの骨表現型の重要な要因である。
【0152】
さらに私たちは、TGFβの阻害が、Crtap-/-マウスの肺表現型に影響するかどうかについても関心を持った。Crtap-/-マウスの肺は、WTマウスと比較して、遠位気道空間の増加を示した(図11D)。興味深いことに、TGFβ中和抗体で処置されたCrtap-/-マウスの肺は、肺胞構造間の距離の60%改善を示した(図11Dおよび11E)。この知見から、過度のTGFβシグナル伝達が、Crtap-/-マウスで示される肺異常の重要な病理学的要因でもあることも示された。増加したTGFβシグナル伝達は、肺の発生異常だけでなく、成熟した肺における疾患にも関与していた。例えば、肺におけるTGFβ過剰発現は、拡大した気道空間領域を伴う肺発達不全に至り、TGFβシグナル伝達の増加は、マルファン症候群ならびに肺気腫および気管支喘息の発症における肺異常の病理機構に関与していた。私たちの結果は、過度のTGFβシグナル伝達が、Crtap-/-マウスで示される肺異常の重要な病理学的要因であることを示した。Crtap-/-マウスにおける1D11を備えた肺表現型の部分的なレスキューを考慮すると、調節異常TGFβシグナル伝達は、解剖学的構造が確立されたときに肺組織発達に影響し、さらにTGFβ阻害が表現型を改善することができるときには後の工程で肺組織の維持に影響を与えることが考えられた。
【0153】
次の問題は、Crtapの喪失に基づくコラーゲンの変化(コラーゲンのP986での3Hypの損失をもたらし、翻訳後改変をもたらす)が、どのように調節異常TGFβシグナル伝達に帰着するかであった。生化学的分析は、コラーゲンのプロリル-3-ヒドロキシル化は、コラーゲン分子の安定性に根本的な影響を及ぼさないが、コラーゲン-タンパク質の相互作用に影響しうることを示した。興味深い仮説として、3Hypの損失がコラーゲンの小ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)との相互作用に影響を与えている可能性があった。SLRPは、I型コラーゲンと同様にTGFβ、それらの両方に結合し、TGFβの活性も調節することが知られている。例えば、SLRPデコリンは、骨肉腫細胞におけるTGFβの明確な作用を阻害することができ、一方で、前骨芽細胞におけるTGFβ活動を増強する。I型コラーゲンに対するデコリンの結合領域は、3重らせんドメインの961/962残基に集中することが示唆されており、この位置はCrtap欠損症におけるOIでヒドロキシル化されていないP986残基のすぐ近くである。したがって、P986 3Hyp位置がデコリンのI型コラーゲンへの相互作用部位を示し、成熟TGFβのコラーゲンに対する隔離を媒介している可能性がある。
【0154】
それゆえ、コラーゲンに結合するデコリンがTGFβ制御にとって重要であり、この結合が、変化したコラーゲンの構造を変化させ、例えば退行性OIの場合にはI型コラーゲンのα1鎖のP986の翻訳後3-プロリル-ヒドロキシル化性修飾の損失によって破壊するとの仮説を立てた。Crtapの損失は頭蓋骨におけるデコリンおよび他のSLRPのRNA発現を変化させず(図12A)、骨梁におけるデコリンの定性的量も変化させなかったが(図24)、WTマウスに対してCrtap-/-マウスに由来するI型コラーゲンへの組み換えデコリンコアタンパク質の結合が減少していた(図12B)ことが示された。WTおよびCrtap-/-マウスの組み換えデコリンコアタンパク質のI型コラーゲンに対する結合の表面プラズモン共鳴分析測定結果は、試験した3つの濃度において、Crtap-/-マウスでの結合が低下していることを実証した(図23)。デコリンの示された濃度それぞれでの3つの技術的複製物は、2つの独立した生物学的複製から実施した(◆複製物1、▲複製物2)。結果は、WTの平均に対するパーセンテージで示した(バーは1群あたりの平均)。Crtap-/-I型コラーゲンに結合するデコリンの低下の平均値は、312μM、512μMおよび12μMのデコリンで、それぞれ28.5%、33.5%および38.1%であった。
【0155】
この知見は、コラーゲン-プロテオグリカン相互作用の変化が、OIの骨および他のコラーゲンが豊富な組織におけるTGFβシグナル伝達の調節異常の一因である可能性を示唆した。デコリンがTGFβ生物活性を効果的に縮小するためにデコリン-コラーゲン結合が必要であることの報告に基づくと、OIコラーゲンにおける欠陥が、デコリンの結合を導いている可能性があり、マトリックス中のTGFβを隔離し、TGFβ機能を改変している可能性があった。したがって、絶対的なTGFβレベルに大きな変化がない場合でも(図24および図25)、変化したプロテオグリカン-コラーゲン相互作用が、OIにおける骨および他のコラーゲン豊富な組織における調節異常TGFβシグナル伝達に関与している可能性があった。この概念は、特定の領域においてプロテオグリカンに結合することが知られている重度の高い形態の優性OIクラスターにおけるCOL1A1とCOL1A2の変異の発見により支持され、さらに、正常な骨ホメオスタシスに対するプロテオグリカン-コラーゲン相互作用の生理学的関連性が支持された。このことから、さらにデコリンとコラーゲン結合部位に対して競合する他のプロテオグリカンが、調節異常TGFβ活性に関与し、さらなるシグナル伝達経路を変化させることが示唆された。
【0156】
コラーゲン線維の不完全な構造が脆弱骨および骨外性顕示に結びつくOIの複数の退行性および優性形態には臨床的な重複があることから、TGFβシグナル伝達の調節異常が共通の病態生理学的疾患メカニズムである可能性がある。この仮説に取り組むために、優性OIモデルマウスにおけるTGFβシグナル伝達の状態を調べた。Col1α2遺伝子
のG610C変異(Col1α2tm1.1Mcbr)を保有するノックイン・マウスは、アーミッシュ系集団で最初に同定された優性遺伝される軽度OI型の表現型模写体である。Col1α2tm1.1Mcbrマウスの骨試料において、TGFβ目標遺伝子p21およびPAI-1の発現増加が確認され、TGFβシグナル伝達が上方調節されていることが示唆された(図13A)。一貫して、Col1α2tm1.1Mcbrマウス由来の骨抽出物の免疫ブロット分析においても、活性化pSmad2/全Smad2の比率増加が示され、Crtap-/-マウスにおける我々の観察と類似していた(図13Bおよび13C)。
【0157】
この優性OIモデルにおける増加したTGFβシグナル伝達が通常のメカニズムでも現れるかを試験するために、8週齢のCol1α2tm1.1Mcbrマウスを、TGFβ中和抗体1D11で8週間処置し、対照Col1α2tm1.1McbrおよびWTマウスを対照抗体13C4で処置した。Crtap-/-マウスにおける知見と類似して、1D11処置は背骨でWTレベルまで骨梁パラメータを回復させた(図13D、13Eおよび22)。まとめると、これらの知見から、調節異常TGFβシグナル伝達が、優性OI形態の病理の重大な要因でもあり、抗TGFβ療法が優性OIにおける骨表現型を改善することが示された。
【0158】
臨床的な転換の観点からすると、OI患者における全身的なTGFβ阻害は、負の効果があり得ることを考慮しなければならない。一方、TGF-β1-/-マウスは生後第1週において重篤な多病巣性炎症性疾患および免疫系調節異常を発症したが、1D11で処置したCrtap-/-マウスおよびCol1α2tm1.1Mcbrマウスは両方とも全体的な健康、挙動または成長に顕著に有害な作用は観察されず、成体マウスにおけるTGFβリガンドの部分的な薬理学的阻害の効果は発達中にTGFβ1を完全に損失している場合と異なることが示唆された。ヒトにおいて、TGFβの3つのアイソフォームへの親和性と特異性の点で1D11と似ているFresolimumab(GC1008、Genzyme)が、処置耐性原発性巣状糸球体硬化症、特発性肺線維症、悪性黒色腫および腎細胞癌を有する患者に対する第1相試験で使用された。これらの研究において、Fresolimumabは、一般に十分な耐用性があり、用量依存性の起こり得る副作用としては、皮膚発疹または病斑、鼻血、歯肉出血および疲労があった。
【0159】
OIの分子のメカニズムは完全には理解されていない。その結果、OIを有する患者に対する現在の処置選択肢は、主に骨粗鬆症の処置で使用されているような、抗再吸収治療薬剤に限定されている。興味深いことに、最近の、OIを有する成人における同化剤teriparatideの無作為プラセボ対照試験において、重度のOI型III/IVを有する成人が、軽度のOI型Iを有する成人と異なった応答をすることが示された(Orwollら、2014年)。これは、細胞シグナル伝達の変化を標的とする療法に対応して、遺伝子型の差異があったことを示唆しており、TGFβ標的処置が、コラーゲンおよびコラーゲンの翻訳後修飾遺伝子突然変異に基づいて重度OIをさらに研究するための有望な選択肢となりうることを示唆した。全体として、私たちのデータは、骨脆弱疾患の様々な遺伝的に継承された形態の病理におけるメカニズムとしてマトリックス細胞シグナル伝達調節異常に基づく概念を支持するものであり、骨格および骨格外組織の過剰TGFβ活性の中和によるOIの処置のための疾患特異的メカニズムに基づく手順を指摘するものである。
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