(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】コラーゲン化粧品
(51)【国際特許分類】
A61K 8/65 20060101AFI20220214BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220214BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220214BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220214BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
A61K8/65
A61K8/02
A61K8/73
A61Q19/00
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2017004740
(22)【出願日】2017-01-14
【審査請求日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2016007488
(32)【優先日】2016-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-536886(JP,A)
【文献】特開2007-277150(JP,A)
【文献】特開2007-169346(JP,A)
【文献】特開2002-212027(JP,A)
【文献】特表2002-526207(JP,A)
【文献】特表2010-535225(JP,A)
【文献】特開2014-101355(JP,A)
【文献】特開2017-124989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/65
A61K 8/02
A61K 8/73
A61Q 19/00
A61Q 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3重らせんコラーゲンと相溶化剤を素材として含む
、化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルムであって、
該相溶化剤は、デキストラン及びでんぷんからなる群から選ばれた1種以上であり、
該3重らせんコラーゲン100質量部に対し、該相溶化剤は3~90質量部である、
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項2】
さらに皮膜増強剤を素材として含むことを特徴とする請求項1に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項3】
前記皮膜増強剤がセルロースナノファイバーである、請求項2に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項4】
前記皮膜増強剤が前記3重らせんコラーゲン100質量部に対し、0.1~40質量部含まれる、請求項2又は3に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項5】
さらに水溶性可塑剤を素材として含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項6】
厚さが100μm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルムを皮膚に適用し、シワを低減若しくは除去することを特徴とする化粧方法(医療行為を除く)。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の
化粧品として用いられる3重らせんコラーゲンフィルムを皮膚に適用後、水または化粧水を加えて溶解させることを特徴とする化粧方法(医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンを利用した新規化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、動物の皮膚や骨を構成するタンパク質の一種である。コラーゲンにはいくつかの種類が知られているが、中でもI型コラーゲンは動物の皮膚や骨などを形成し、広く分布している。I型コラーゲンは、α1鎖一本とα2鎖2本とから構成される3重らせん構造を有する。このI型コラーゲンが集まると繊維状となり、コラーゲン繊維と呼ばれている。
【0003】
I型コラーゲンは真皮に多く含まれ、その強靱さと張りを支えている。従って、I型コラーゲンが不足すると皮膚の張りがなくなり、化粧品としてこれを補うことが有効と考えられ、いろいろなスキンケア製品が開発されている。
3重らせん構造を有するコラーゲンを含有する化粧品は液剤(エッセンス)が一般的であるが、コラーゲン中では微生物が繁殖しやすいので防腐剤添加が必要であり、化粧品としては問題がある。また、3重らせんコラーゲン水溶液を凍結乾燥したコラーゲン多孔質体も用いられているが、機械的強度が弱く、任意の形状に成形することや、仮に成形したとしても使用までの間その構造を保持するように保管することは困難なため使用上問題がある。特に、フィルム状の3重らせんコラーゲンは知られていない。
【0004】
I型コラーゲンの化粧品への応用については、I型コラーゲンにビタミンCを配合した化粧料(特許文献1)、I型コラーゲンによる肌細胞のCD44膜受容体の発現(特許文献2)、I型コラーゲンから誘導されたペプチドを用いる皮膚シワ改善化粧品(特許文献3)等がすでに公表されている。そのほかI型コラーゲンの産生促進剤(特許文献4、5、6)も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-139447号公報
【文献】特表2002-540126号公報
【文献】特開2003-277399号公報
【文献】特再表2004/085429号公報
【文献】特開2011-006331号公報
【文献】特表2014-510052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、3重らせんコラーゲンの優れた特性を利用した新規な化粧品ないしその組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化粧品は、3重らせんコラーゲンと相溶化剤を素材とする3重らせんコラーゲンフィルムであることを特徴とする。
本発明者らは3重らせんコラーゲンの優れた特性を生かし、使用しやすい剤型の化粧品にすべく検討を重ね、3重らせんコラーゲンの構造を保った透明もしくは半透明のフィルム状化粧品に到達した。
【0008】
本発明において3重らせんコラーゲンとは、生体組織中のI型コラーゲンと同様の3重らせん構造を保持するコラーゲンをいう。3重らせん構造を保持しているか否かは、比旋光度を測定することによって確認することができる。好ましい比旋光度は、-300°~-400°である。3重らせんコラーゲンは、市販品を好適に利用することができ、例えば、3重らせんコラーゲンTi-03B(多木化学株式会社製)があげられる。
【0009】
3重らせんコラーゲン水溶液を乾燥させて透明もしくは半透明なフィルム状とするためには、水溶性高分子を相溶化剤として共存させる必要がある。相溶化剤は、水中において3重らせんコラーゲンを包み込んで水中に溶解しており、かつ水を乾燥し除去した際には3重らせんコラーゲンを包み込んで皮膜を形成する。相溶化剤の共存により3重らせんコラーゲンは機械的強度を得て、フィルム状の形態をとる。このフィルム状の3重コラーゲンは、化粧品の素材として有用である。
【0010】
相溶化剤は、次の条件を満たす高分子物質であることが好ましい。条件(1)は、水溶性でありそれ自身が乾燥により強固な皮膜を形成できること。条件(2)は、3重らせんコラーゲンと親和性を有し、水中で3重らせんコラーゲンと共存するとき相分離を起こさないこと。条件(3)は、カルボキシル基、アミノ基、のような極性基をもたず、それによる3重らせんコラーゲンとの静電的相互作用をおこさないこと。条件(4)は、3重らせんコラーゲンと共存する水溶液を乾燥させる時、不均一模様を生じることなく均一なフィルムとなること。
【0011】
相溶化剤としては、デキストランやでんぷんを好適に用いることができ、デキストランがより好ましい。ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類はカルボキシル基を有し3重らせんコラーゲンアミノ基と相互作用をするので使用できない。相溶化剤と3重らせんコラーゲンとの相溶性は、相溶化剤の分子量が低いほうが高く、相溶化剤の分子量は10万以下が好ましい。3重らせんコラーゲン100質量量部に対し、相溶化剤は3~90質量部であることが望ましい。相溶化剤が3質量部未満では、相溶化剤量が不十分となることがあり、乾燥物は平滑なフィルムとなり難い。相溶化剤が90質量部を超えると、3重らせんコラーゲンフィルムを皮膚に適用する時水を加えても皮膚とのなじみが悪くなる。
【0012】
透明もしくは半透明の3重らせんコラーゲンフィルムを作製するには、相溶化剤以外に皮膜増強剤の共存が望ましい。皮膜増強剤は3重らせんコラーゲンとの親和性が低く、皮膜増強剤のみでは良好なフィルムを作成できない。しかしながら相溶化剤と共存するとき、皮膜増強剤は3重らせんコラーゲンフィルムの強度を上げることができる。皮膜増強剤としては相溶化剤と同様な高分子物質が用いることができるが、(1)3重らせんコラーゲンとの相溶性が相溶化剤よりも低くてもよいこと、(2)分子量がより高くてもよいこと、などの特徴がある。皮膜増強剤を加えれば、3重らせんコラーゲンフィルムの取り扱いが容易となり、実用品としての物性が良くなる。
【0013】
皮膜増強剤の具体的例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、 ポリビニルピロリドンなどが有効であり、中でもヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。皮膜増強剤はフィルムの機械的強度向上が目的であるので分子量が高いことが望ましく、より具体的には分子量が10万以上が好ましい。3重らせんコラーゲン100質量部に対し皮膜増強剤は0.1~40質量部使用することが望ましい。0.1質量部未満では皮膜増強剤としての効果を発揮できないことがある。40重量部を超えると製品の皮膚適用時に、加水しても溶解性が悪く化粧品として不適当となることがある。
被膜増強剤としては上記のような水溶性高分子以外に、セルロースナノファイバーが好適に使用できる。セルロースナノファイバーは水溶性高分子ではないがきわめて小さな粒子として水中に分散しセルロースの水酸基により粒子相互作用し乾燥時強靭な被膜を形成するので本発明の被膜増強剤として適当である。その添加量は上記水溶性高分子と同様に、3重らせんコラーゲン100質量部に対しセルロースナノファイバーは0.1~40質量部が望ましい。セルロースナノファイバーとしては、例えば第一工業製薬株式会社製のレオクリスタC-2SP、が好適に用いうる。
【0014】
その他の成分としては水溶性可塑剤が共存することが望ましい。水溶性可塑剤の役割は、透明もしくは半透明の3重らせんコラーゲンフィルムを可塑化し皮膚に適用後水に溶け易くすることである。本発明における水溶性可塑剤としては、多価アルコール、たとえばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが適当であり、またN-メチルピロリドンを用いることもできる。
【0015】
3重らせんコラーゲン水溶液を、相溶化剤等を用いず単に乾燥させてフィルムを作製しようとしても、生成物はもろくフィルム状とならない。その原因は3重らせんコラーゲンを構成する1本の鎖は分子量10万程度であるが、その分子量10万の3本の鎖がそれぞれらせん構造をとり、その構造は水中でも崩れていないので、コラーゲン同士の分子鎖の絡み合いが全く起こらないためと考えられる。
【0016】
本発明の3重らせんコラーゲンフィルムを構成する、3重らせんコラーゲン、相溶化剤、皮膜増強剤はいずれも水溶性高分子である。セルロースナノファイバーは水分散性高分子である。そのため本発明の3重らせんコラーゲンフィルムを製造するには、これらの高分子を含む水溶液(セルロースナノファイバーを含む場合は分散液)を作製し、それを適当な離型シート上に流延し、30℃以下の温度で乾燥すればよい。乾燥は減圧下で行ってもよい。できあがった離型シート上のフィルムは、離型シートと共に適当な形状に打ち抜くか切り出せば3重らせんコラーゲンフィルムが完成する。
若しくは適当な形状に成形した離型フィルム凹部に素材高分子水溶液を流延し、乾燥させて3重らせんコラーゲンとしてもよい。
【0017】
本発明の3重らせんコラーゲンフィルムをまず皮膚の小じわのある位置に置き、水によりフィルム部の皮膚をよくマッサージする。マッサージにより3重らせんコラーゲンフィルムは溶解し皮膚面に薄い被膜を形成し皮膚を湿潤し皮膚のキメを細かくし、しわのあった皮膚が平滑な皮膚となる。例えば目尻の小じわを除去するには、目尻の皮膚を化粧水で軽くマッサージし、その部位に本発明の3重らせんコラーゲンフィルムを適用する。その状態で化粧水などの水溶液を手のひらに取り、フィルム貼付部の皮膚にすり込むことにより、3重らせんコラーゲンフィルムは速やかに溶解し、皮膚のしわのある部分に吸収され効果を発揮する。なお、マッサージする際用いる化粧水などの水溶液は、水分を含むのであれば原理的には何でもよいが、化粧水を用いるのが好ましい。
3重らせんコラーゲンフィルムは、適当な大きさの円形、楕円形、勾玉形など任意の形状とすることができる。フィルム厚さは100μm以下が好ましい。3重らせんコラーゲンフィルム厚さが100μmを超えると適用時に水を加えて溶解させる際に速やかに溶解しがたいことがある。さらに好ましくはフィルム厚さが5~50μmの3重らせんコラーゲンフィルムである。フィルム厚さが5μm未満ではフィルムの機械的強度が小さすぎて取扱いに不便となることがある。
【発明の効果】
【0018】
コラーゲンが皮膚の保湿、抗しわに効果的な化粧品であることはすでに知られていたが、本発明は3重らせんコラーゲンフィルムを提供し、コラーゲンをより従来品を利用するより容易かつ安全に皮膚に供給することが可能となった。コラーゲンをフィルム状に成形することは、本発明により初めて可能となったものである。フィルム状であると皮膚の表面に貼付するのに好都合である。
【0019】
本発明の3重らせんコラーゲンフィルムは、水に容易に溶解し、溶解すると皮膚から吸収されるので、しわ取りなどの化粧用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。しかし、本発明は実施例の内容に限定されるわけではない。
【実施例】
【0021】
(フィルムの製造)
3重らせんコラーゲンを除く相溶化剤、皮膜増強剤等の構成素材を秤量しイオン交換水5mLを加えて加熱攪拌して溶解させた。この溶液を室温に戻してから3重らせんコラーゲン100mgを加えて室温下に溶解させた。得られた水溶液をポリエステル離型シート上に乾燥後の厚さが約20μmになるように流延し、24時間室温(25℃)にて乾燥し直径1.5cmの円形に打ち抜いて、3重らせんコラーゲンフィルムを得た。
各実施例及び比較例のフィルムの構成素材の添加量(質量部)を表1に示す。
【0022】
3重らせんコラーゲンは3重らせんコラーゲンTi-03B(多木化学(株))を使用した。デキストランはデキストラン70(名糖産業(株))を用いた。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)はHPC- H(分子量91万), HPC-M(分子量62万) (日本曹達(株))を用いた。ヒアルロン酸はヒアルロン酸FCH-SU(キッコーマンバイオケミファ(株))を用いた。ポリビニルアルコールはJP-05S(日本酢ビポバール(株))を用いた。でんぷん、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グリセリン、N-メチルピロリドン(N-MP)は試薬(ナカライテスク(株))を用いた。セルロースナノファイバーはレオクリスタ C-2SP(第一工業製薬(株))を用いた。
【0023】
離型シート上の3重らせんコラーゲンフィルムを室温でポンチにより直径1.5cmの円形パッチに打ち抜いて試料フィルムとした。試料フィルムを手の甲に置き水2滴をたらして指でよくすり込みフィルムが水に溶けて皮膚と一体化する挙動を観察した。
【0024】
(物性の評価)
評価項目及び評価尺度は以下の通りである。○及び△を合格とした。
水溶液均質性:
○ 均一透明な水溶液になる
× 不均一な沈殿が生じ均一な水溶液にはならない
膜形成能:
○ 強靭なフィルムとなる
△ 均一フィルムとなるがややもろい
× フィルム状となるが強度的に脆弱であり実用性に乏しい
フィルム外観:
○ 透明あるいは半透明な均一膜となる
△ 半透明でやや白っぽい膜となる
× 白色不連続模様を有する膜となる
膜の水溶解性(2滴の水を加えて指ですり込んで判定した):
○ 速やかに溶解し(10秒以内)皮膚になじんで伸びる
△ 溶解し(10~30秒)皮膚になじんで伸びる
× 「だま」が出来て皮膚上で伸びが悪い
【0025】
【0026】
(しわ取り効能評価)
3重らせんコラーゲンフィルムのしわ取り効果の評価方法は次の通りであった。成人男子ボランテイアの両目尻を化粧液でぬらし実施例4により製造したコラーゲンフィルム(直径3cmの円形)を貼付した後、水を加えて溶解したコラーゲンフィルムをマッサージして目尻全体になじませた。使用前、使用2、5、6回目、にドイツGFM社製PRIMOS Liteを使用した3次元皮膚凹凸測定法によりシワ面積を測定した。使用前を100として3重らせんコラーゲンフィルム使用に伴う相対的シワ面積を表2にまとめた。3重らせんコラーゲンフィルム使用により確実に皮膚しわが軽減してゆくことが観察された。
【0027】
【0028】
別の成人男子ボランテイアの両目尻に実施例5により製造した3重らせんコラーゲンフィルムを貼付した後、水を加えて溶解したコラーゲンフィルムを目尻全体になじませた。使用前、および6回目の使用後にドイツGFM社製PRIMOS Liteを使用した3次元測定法によりシワ面積を測定した。使用前のしわ面積を100として使用に伴う相対的シワ面積を表3にまとめる。コラーゲンフィルムの効果によりシワが減少したことがわかる。
【0029】