(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び通行ゲート
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/52 20060101AFI20220128BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20220128BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20220128BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
H01Q1/52
H01Q21/06
H01Q21/24
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2021084078
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2021-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515305441
【氏名又は名称】RFルーカス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100190355
【氏名又は名称】田中 紀央
(72)【発明者】
【氏名】上谷 一
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-083739(JP,A)
【文献】特開2015-216520(JP,A)
【文献】特開2011-066495(JP,A)
【文献】特開2008-099266(JP,A)
【文献】特開2021-005816(JP,A)
【文献】特開昭63-199503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
G06K 7/00- 7/14
G06K 17/00-19/18
G06Q 50/00
G07B 11/00-17/04
G07G 1/00-5/00
H04B 5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子のそれぞれに所定の特性に応じた電力と位相とが設定された単位アンテナアレイと、前記単位アンテナアレイにおける複数のアンテナ素子のうちの一部のアンテナ素子を、所定部分を除いて電磁波を隠蔽するように設けられる導体による遮蔽物と
を備えるアンテナ装置における1以上の前記単位アンテナアレイが配置されるアンテナ装置部を、通行者が通過する通路に対応する位置に設けるようにされ、
前記アンテナ装置部の単位アンテナアレイにおける複数のアンテナ素子は、通行者の通過方向に沿うように配置され、
前記遮蔽物は、前記アンテナ装置部におけるアンテナ素子のうち、前記通過方向において最端に配置されたアンテナ素子に対して設けられる
通行ゲート。
【請求項2】
前記一部のアンテナ素子に対応する所定の位置に対して設けられる導体片を備える
請求項1に記載の
通行ゲート。
【請求項3】
前記導体片は、単位アンテナアレイにより放射される電波の波長に基づく所定長の辺を有する方形である
請求項2に記載の
通行ゲート。
【請求項4】
前記単位アンテナアレイにおける前記複数のアンテナ素子はそれぞれ円偏波により電波を放射するパッチアンテナである
請求項1から3のいずれか一項に記載の
通行ゲート。
【請求項5】
前記アンテナ装置部を通行ゲートの通路に対応して設けられる床または天井に配置し、
前記通路に沿った側面に電波吸収材が設けられる
請求項
1から4のいずれか一項に記載の通行ゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び通行ゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナの周囲に、アンテナ近傍で電波を吸収または反射することでアンテナの指向特性を変更する指向特性変更部材を設け、指向特性変更部材の、アンテナに対する位置関係を調整することで指向特性を変更可能な技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、アンテナに対して指向特性変更部材を設ける必要があり、例えば構造も複雑であり、汎用性も低くなる。このため、簡易な構成によりアンテナの特性の変更が実現できるようにすることが好ましいという側面がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成によりアンテナの特性の変更が実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するための本発明の一態様は、複数のアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子のそれぞれに所定の特性に応じた電力と位相とが設定された単位アンテナアレイと、前記単位アンテナアレイにおける複数のアンテナ素子のうちの一部のアンテナ素子を、所定部分を除いて電磁波を隠蔽するように設けられる導体による遮蔽物とを備えるアンテナ装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、上記のアンテナ装置における1以上の前記単位アンテナアレイが配置されるアンテナ装置部を、通行者が通過する通路に対応する位置に設けるようにされた通行ゲートである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、簡易な構成によりアンテナの特性の変更が実現できるようになるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における通行ゲートの外観例を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における通行ゲートを平面方向からみた図である。
【
図3】本実施形態におけるアンテナ装置部を平面方向からみた図である。
【
図4】本実施形態におけるアンテナユニットのアンテナ形成パターンの一例を示す図である。
【
図5】本実施形態における遮蔽物を設けたアンテナユニットの態様例を示す図である。
【
図6】本実施形態における遮蔽物を設けたアンテナユニットによるアンテナ装置部の態様例を示す図である。
【
図7】本実施形態における試験板の態様例を示す図である。
【
図8】本実施形態におけるアンテナユニットについての試験結果を示す図である。
【
図9】本実施形態における遮蔽物と導体片を設けたアンテナユニットの態様例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態のアンテナ装置を備える通行ゲート1の外観例を示す斜視図である。
図2は、通行ゲート1を平面方向からみた図である。
通行ゲート1は、いわゆるウォークスルー決済に対応するもので、店舗において客が購入する商品についての精算(決済)を行うために用いられる。店舗にて、客は、自分が購入しようとする商品を商品棚等から取り出し、買い物袋に入れるようにする。商品にはRFID(Radio Frequency IDentifier)タグが付されている。客は、自分が購入しようとする商品を買い物袋に入れ終えると、会計のために商品の入った買い物袋を持ちながら通行ゲート1を通過する。
【0011】
客が通行ゲート1を通過する際、通行ゲート1に設けられたアンテナと買い物袋に入れられている商品に付されたRFIDタグとが電波の送受信を行う。これにより、通行ゲート1が備えるRFIDタグリーダによって、商品に付されたRFIDタグに記憶されている商品の情報が読み取られる。読み取られた商品の情報は、通行ゲート1からサーバに送信される。サーバは受信された商品の情報を利用して精算を行う。
【0012】
精算対象の商品と客との対応付けは、例えば客が、自分の所持するスマートフォンなどの携帯端末に表示させた客識別コード(例えば、2次元コード)を通行ゲート1に対応するコードリーダに読み取らせるようにされる。サーバは、コードリーダにより読み取られた客識別コードと、通行ゲート1から送信された商品の情報とを対応付けることにより、精算対象の商品と客との対応付けが行われる。
【0013】
なお、以降の説明にあたり、通行ゲート1を通過方向DRに沿って通過している客の前後左右の方向を、通行ゲート1の前後左右として扱う。
【0014】
なお、以降の説明にあたり、アンテナとRFIDタグとの間での電波の伝搬に応じた通信と、RFIDタグの読み取りとについては、同義であるとして説明する場合がある。
【0015】
図1、
図2に示されるように、通行ゲート1は、基本的構成として床部11と側壁13を備える。
床部11は、通行ゲート1において客が通過する通路の床面となる部位である。床部11は、平面方向からみて長方形とされており、客が通過する際の通過方向DRに長方形の長手方向の辺が沿うようにされた向きで配置されている。
床部11は、上側の上面部11aと、当該上面部11aの下側のアンテナ装置部11bとを有する。上面部11aは、例えば樹脂などにより形成される。アンテナ装置部11bは、RFIDタグとの通信のために電波を放射するアンテナ装置が備えられる部位である。
【0016】
側壁13は、床部11の長手方向の各辺に沿って設けられる。つまり、側壁13は、床部11の左右両側に在るようにして設けられる。なお、床部11の左右いずれか一方の側が店舗の壁面であるような場合には、床部11の他方の側のみに側壁13が設けられてもよい。側壁13は、客が確実にアンテナ装置部11bを有する床部11の上を歩いた状態で通行ゲート1を通過できるようにするための案内として機能する。
【0017】
ここで、床部11のアンテナ装置部11bにおいて備えられるアンテナは、床部11の上を客とともに通過する商品に付されたRFIDタグを確実に読み取ることができるようにすることが求められる。つまり、アンテナ装置部11bのアンテナは、床部11を底面とする或る高さまでの空間(読取対象空間)において存在するRFIDタグを確実に読み取ることが求められる。
その一方で、アンテナ装置部11bのアンテナは、読取空間よりも外側の空間(非読取対象空間)に存在するRFIDタグについては読み取らないようにすることが求められる。床部11の平面外側の空間に存在するRFIDタグも読み取り可能な状態であると、客が通行ゲート1を通過する際に、客が購入対象とする商品だけではなく、周囲の他の客が所持している商品や通行ゲート1の近傍にて陳列されている商品のRFIDタグまで読み取ってしまい、正常な精算が行えないことになる。
【0018】
しかしながら、単にアンテナ装置部11bにてアンテナを配置した場合には、電波が非読取対象空間にまで及ぶことから、非読取対象空間に存在するRFIDタグまでも読み取ることができてしまう。
【0019】
そこで、本実施形態の通行ゲート1は、以下に説明するようにして、読取対象空間に存在するRFIDタグについては読み取るようにしたうえで、非読取対象空間に存在するRFIDタグについては読み取らないようにされる。
【0020】
このために、アンテナ装置部11bのアンテナとしては、電波放射の弱い方向を通過方向DRに沿うようにさせ、電波放射の強い方向が通過方向DRと直行するようにして配置されるようにしてよい。本実施形態では、平面形状のアンテナ(アンテナ素子110)が法線方向に電波放射の指向性を持っている。そのような平面形状のアンテナを床面に配置することによって、電波放射方向は床から天井に向かう上下方向となる。側板に平面形状のアンテナを配置した場合には、店舗における通行ゲート1の配置の向きによっては、電波の指向性が店内に向く場合が想定される。そこで、本実施形態のように床面にアンテナを配置することによって、店舗における通行ゲート1の配置に依存することなく、通行ゲート1を通過しているものではない読み取り不要のRFIDタグを誤って読み取ってしまうといった誤検出を防止できる。
そのうえで、通行ゲート1の左右の側壁13の床部11側の面には、それぞれ、電波吸収板14を設けるようにされる。電波吸収板14は、電波吸収材により形成される板である。
電波吸収板14を設けることにより、アンテナ装置部11bのアンテナが、左右の非読取対象空間に存在するRFIDタグを読み取らないようにすることが可能となった。
本実施形態では、床面に配置した平面形状のアンテナ(アンテナ素子110)に対し、側壁13に電波吸収板14を設置した。上記もしたようにアンテナは床から天井に向かう法線方向に指向性を有するが、左右方向にも電波が幾分放射される。そこで、床面に接する側壁に電波吸収板14を設置することにより、左右方向における余分な電波放射を効率的に吸収し、通行ゲート1を通過しているものではない読み取り不要のRFIDタグの誤検出を防止できる。
【0021】
また、本実施形態では、アンテナ装置部11bのアンテナが前後における非読取対象空間に存在するRFIDタグを読み取らないようにするため、以下の構成が採られる。
図3は、アンテナ装置部11bを抜き出して平面方向からみた図である。アンテナ装置部11bは、3つのアンテナユニット100が左右方向に並ぶようにして配置されている。
なお、アンテナ装置部11bにおいて配置されるアンテナユニット100の数については特に限定されない。
【0022】
図4は、1つのアンテナユニット100のアンテナ形成パターンの一例を示している。同図のアンテナユニット100は、2つの単位アンテナアレイ101が前後方向に沿って配置される。1つの単位アンテナアレイ101においては、前後方向に沿って2つのアンテナ素子110が配置される。アンテナ素子110は、電波を放射する放射面を有する。このようなアンテナ素子110は、パッチアンテナとして機能する。
【0023】
1の単位アンテナアレイ101における2つのアンテナ素子110には、それぞれ単位アンテナアレイ101として所望の特性が与えられるように設定された電力と位相による信号が供給される。アンテナ素子110のそれぞれは、供給された入力信号に応じて円偏波による電波を放射する。放射されたアンテナ素子110のそれぞれの電波が空間にて合成される結果、単位アンテナアレイ101として或る特定の特性が得られる。
具体的に、1の単位アンテナアレイ101における2つのアンテナ素子110は、一方が主アンテナとして機能し、他方が波形制御アンテナとして機能する。主アンテナとしてのアンテナ素子110には、所定周波数、所定出力(振幅)による波形の入力信号を与えて電波を放射させ、波形制御アンテナとしてのアンテナ素子110には、主アンテナに与えられる信号と同じ周波数と出力であって、かつ、主アンテナに与えられる信号に対して所定の位相差を有する波形の入力信号を与えるようにされる。これにより、主アンテナと波形制御アンテナとのそれぞれから放射される電波の合成波が所定の偏向を有するようにされる。アンテナユニット100においては、このように構成された主アンテナと波形制御アンテナとがおおむね線対称に配置されている。
本実施形態においては、単位アンテナアレイ101の特性として、前述のように、前後方向における電波放射に対して左右方向における電波放射のほうが強くなるように、2つのアンテナ素子110に供給する信号の電力と位相を設定してよい。本実施形態においては、1のアンテナユニット100において配置されるアンテナ素子110のうち、中央よりの2つのアンテナ素子110が主アンテナとして機能し、最も前と最も後ろに配置される2つのアンテナ素子110が波形制御アンテナとして機能する。
【0024】
上記のように、本実施形態の単位アンテナアレイ101は、2つのアンテナ素子110に供給される信号の電力と位相によって特性が決定されるようになっている。そして、アンテナユニット100は、このような単位アンテナアレイ101が前後方向に2つ備えられたアンテナアレイとして構成される。
なお、1つのアンテナユニット100に備えられる単位アンテナアレイ101の数については特に限定されない。
【0025】
上記構成のアンテナユニット100によるアンテナ装置部11bは、そのままでは通行ゲート1の前後の非読取対象空間に存在するRFIDタグを読み取り可能な状態にある。
そこで、本願の発明者等は、アンテナユニット100において前後方向に沿って配置される4つのアンテナ素子110のうち、最も前に位置するアンテナ素子110と最も後ろに位置するアンテナ素子110との一部を、遮蔽物で覆うことで、これらのアンテナ素子110から前方または後方に放射される電波の抑制を試みることとした。遮蔽物は、例えば遮蔽された部分からの電波の放射を抑制することが可能なように、アルミニウムや銅等の導体が用いられる。
【0026】
図5は、1のアンテナユニット100に対して2つの遮蔽物200を設けた態様例を示している。同図では、一方の遮蔽物200は、アンテナユニット100において最も前に位置するアンテナ素子110を遮蔽対象として前側から覆い、当該アンテナ素子110の後ろ側を一部露出させるようにして設けられている。
もう一方の遮蔽物200は、アンテナユニット100において最も後ろに位置するアンテナ素子110を遮蔽対象として後ろ側から覆い、当該アンテナ素子110の前側を一部露出させるようにして設けられている。
つまり、アンテナユニット100における前方の単位アンテナアレイ101については、2つのアンテナ素子110のうちの前方のアンテナ素子110を遮蔽物200により遮蔽している。また、アンテナユニット100における後方の単位アンテナアレイ101については、2つのアンテナ素子110のうちの後方のアンテナ素子110を遮蔽物200により遮蔽している。
【0027】
また、アンテナ装置部11bにおいては、
図5のように遮蔽物200が設けられたアンテナユニット100が左右方向において3つ並ぶように配置される。そこで、
図6に示すように、アンテナ装置部11bに対しては、3つのアンテナユニット100にわたるようにして共通の遮蔽物200が設けられてよい。
【0028】
本願の発明者は、遮蔽物200を設けるにあたり、遮蔽対象のアンテナ素子110について遮蔽物200により遮蔽されない部分をどの程度とすればRFIDタグの読み取り状況が最良となるのかを、以下のように試験した。
試験にあたり、試験者である本願の発明者は、
図7に示す試験板300-1、300-2を用いた。試験板300-1は、ダイポールアンテナの方向を水平とした横向きのRFIDタグ301を18行×4列に配列させて設けた板である。各行は、10cm~180cmの範囲で10cmごとの高さとなるようにされている。
また、試験板300-2は、ダイポールアンテナの方向を垂直とした縦向きのRFIDタグ301を18行×5列に配列させて設けた板である。試験板300-2についても、各行は、10cm~180cmの範囲で10cmごとの高さとなるようにされている。
また、試験板300-1、300-2に設けられたRFIDタグ301ごとに付されている数は、RFIDタグ301に付された番号である。
【0029】
試験にあたり、本願の発明者は、例えば
図6のように3つのアンテナユニット100が配置されたアンテナ装置部11bの前端から所定の距離を隔てた位置にて試験板300-1、300-2をともに立てるようにして設けた。この場合、試験板300-1、300-2に配置されたRFIDタグ301は、非読取対象空間に存在するため読み取ることが避けられるべきものである。また、本願の発明者は、アンテナ装置部11bの平面から所定の高さとなる位置にM枚のRFIDタグを置くようにした。このように置かれたM枚のRFIDタグは、読取対象空間に存在することから、読み取られるべきものである。
そのうえで、本願の発明者は、アンテナ装置部11bにて配置されたアンテナユニット100における最も前のアンテナ素子110を遮蔽対象として、例えば前側から後ろにかけて所定長(例えば0.5cm)ごとに遮蔽幅を大きくしていくように変更しながら、遮蔽幅ごとにRFIDタグ301の読み取り状況を試験した。
【0030】
図8は、上記の試験結果を示している。試験結果Rs1は、試験板300-1、300-2に配置されたRFIDタグ301についての読み取り状況を示す。つまり、試験結果Rs1は、非読取対象空間に存在するRFIDタグ301についての読み取り状況を示す。試験結果Rs2は、読取対象空間に置かれたM枚のRFIDタグ301についての読み取り状況を示す。
同図によれば、読取対象空間に存在するM枚のRFIDタグ301の全てを正常に読み取り可能とされたうえで、非読取対象空間に存在するRFIDタグを読み取った数が最小となるのは、例えば遮蔽幅W1のときとなる。
また、アンテナ装置部11bの後端から所定の距離を隔てた位置にて試験板300-1、300-2を立て、アンテナ装置部11bにおける最も後ろのアンテナ素子110を遮蔽対象として試験を行った場合にも、同様の試験結果が得られた。
【0031】
図5においては、遮蔽幅W1によりアンテナユニット100における前端と後端のアンテナ素子110を、遮蔽物200により遮蔽幅W1で遮蔽させた状態を示している。このように遮蔽物200が遮蔽幅W1でアンテナ素子110を遮蔽している状態では、アンテナ素子110における放射面111が完全に遮蔽されることなく一定面積が露出している状態にある。
このような状態では、放射面111の露出している部分から放射される電波と、遮蔽された放射面111の部分から漏れ出した電波とが合成されるようになる。このような状態に応じて変化した単位アンテナアレイ101の特性が、
図8の遮蔽幅W1に対応する試験結果を生じさせたことになる。
本実施形態の場合、アンテナユニット100において、中央寄りに配置された二つの主アンテナとしてのアンテナ素子110は完全に露出している。一方、主アンテナの入力信号に対して所定の位相差を有する入力信号が供給される2以上の波形制御アンテナとしてのアンテナ素子110は、それぞれ1/2以上の面積が遮蔽されている。2つの主アンテナとしてのアンテナ素子110のそれぞれには同位相の入力信号が供給され、2つの波形制御アンテナとしてのアンテナ素子110のそれぞれには同位相であって、主アンテナの入力信号に対しては所定の位相差を有する入力信号が供給される。
波形制御アンテナの遮蔽面積が小さすぎると効果が薄く、遮蔽面積が大きすぎると波形制御アンテナとしての機能が失われる。波形制御アンテナとしてのアンテナ素子110の面積全体の2/3~3/4程度を遮蔽することが好ましい。例えば、アンテナ素子110の面積全体の70%程度を遮蔽するのが最適であるとの結果が得られた。
本実施形態においては、アンテナユニット100が通過方向DRに沿って平行に3つ配置されているので、本実施形態の通行ゲート1には中央に6つの遮蔽されていない主アンテナが配置され、最も後ろ(通過者から見て入り口)と最も前(通過者から見て出口)に、一部が遮蔽された波形制御アンテナが3つずつ配置されることになる。
また、波形制御アンテナの遮蔽部分は、通行ゲート1の出入り口側である。すなわち、波形制御アンテナにおいて主アンテナに対して遠い側の部分が遮蔽されている。これによって、主アンテナと波形制御アンテナとが放射する電波の合成波の通行ゲート1の出入り口から通行ゲート1の外側への漏洩が減少し、通行ゲート1を通過しているものではない読み取り不要のRFIDタグの誤検出を防止できる。
また、本実施形態は遮蔽物200の配置によって合成波の状態を変更可能であり、アンテナユニット100自体については変更なく使用できるので、製造コストを抑えることができる。例えば、波形制御アンテナとしてのアンテナ素子110自体の面積や形状を変更すると、周波数や電力が主アンテナ側と整合しなくなり、合成波自体が変化してしまう可能性がある。本実施形態のように、波形制御アンテナを配置しつつ遮蔽物200により遮蔽することで、主アンテナと波形制御アンテナの形状や面積については実質的に同じとしたまま、すなわち、供給する入力信号の周波数と電力は同じとしたままで、最適な合成波を容易に得ることができる。
【0032】
ただし、
図8に示されるように、遮蔽幅W1のときには、未だ、或る程度の数の非読取対象空間におけるRFIDタグが読み取られている。このため、遮蔽幅W1によりアンテナ素子110を遮蔽した状態としたうえで、さらに非読取対象空間におけるRFIDタグの読み取りの数が削減されることが好ましい。
【0033】
そこで、本願の発明者は、遮蔽幅W1のときに読み取られた非読取対象空間のRFIDタグについての内訳を検証した。検証の結果、試験板300-1に配置されたRFIDタグ301のうちから読み取られたものはゼロであり、読み取られたRFIDタグは、試験板300-1に配置されたものが全てであった。このことは、遮蔽幅W1によりアンテナ素子110を遮蔽したことにより、遮蔽されたアンテナ素子110を含む単位アンテナアレイ101の特性として、偏波が円偏波から垂直偏波に近い状態となったことを意味する。なお、条件によっては、逆に水平偏波に近い状態となる場合もある。
また、非読取対象空間にて生じたこのような現象は、読取対象空間においても同様に生じている。このため、読取対象空間においても、水平に近い姿勢状態にあるRFIDタグが読み取られにくい状況となる。
つまり、遮蔽幅W1によりアンテナ素子110を遮蔽した段階では、RFIDタグについて読み取りやすい向きと読み取りにくい向きとで偏りが生じる。このため、非読取対象空間においては、読み取りやすい向きのRFIDタグを誤って読み取りやすくなる一方で、読取対象空間においては、読み取りにくい向きのRFIDタグが読み取り不可となりやすい状況が生じる。
【0034】
このような状況に対して、本願の発明者は、直線偏波に近くなった状態を円偏波に近い状態に戻すようにすることを検討した。その結果、本願の発明者は、
図9のアンテナ装置部11bとして示すように、アンテナユニット100ごとにおいて、遮蔽対象としたアンテナ素子110が遮蔽されずに露出している部分の所定箇所に、導体片103を設けることとした。導体片103は、例えばアルミニウム、銅等による導体が用いられてよい。
なお、同図においては、アンテナ装置部11bにおける各アンテナユニット100において導体片103を設けた例が示されているが、例えば、アンテナ装置部11bにおける一部のアンテナユニット100において導体片103を設ける場合があってよい。
【0035】
このような導体片103を設けた状態では、試験結果として、前後の非読取対象空間に配置した試験板300-1、300-2から読み取ることのできたRFIDタグ301がゼロであった。これに対して、読取対象空間に試験板300-1、300-2を配置した状態では、試験板300-1、300-2のいずれからもRFIDタグ301を、導体片103が設けられない場合と比較してより多く読み取ることができた。つまり、導体片103が設けられたことにより、アンテナユニット100から放射される電波の偏向方向が円偏波に近い状態に戻った。これにより、読取対象空間においては、RFIDタグの姿勢にかかわらず読み取りがしやすくなり、非読取対象空間におけるRFIDタグは読み取りにくくなるように変化した。
【0036】
そのうえで、本願の発明者は、試験の結果、導体片103の位置としては、アンテナユニット100の幅W2の中間に対応する位置が好ましいことを発見した。また、導体片103のサイズとしては、1辺が1/8λによる長さの正方形が好ましいことを発見した。
【0037】
このように、本実施形態においては、遮蔽物200と導体片103を設けるという簡易な構成によって、読取対象空間に存在するRFIDタグは読み取り、非読取対象空間に存在するRFIDタグは読み取らないよう、単位アンテナアレイ101の特性を変更できる。また、このような簡易な構成でよいことで、例えば単位アンテナアレイ101を備えるアンテナユニット100が汎用的なものであるような場合にも対応して、容易に特性を変更することも可能となる。
【0038】
なお、本実施形態において、遮蔽物200の遮蔽幅の調整のみによって非読取対象空間のRFIDタグを読み取ることなく、読取対象空間のRFIDタグを良好に読み取ることができた場合には、導体片103は設けられなくともよい。
なお、例えば通行ゲート1に天井部分を設けたうえで、アンテナユニット100を備えるアンテナ装置部11bは天井部分に設けられてもよい。この場合、アンテナ装置部11bは天井部分のみに設けられてもよいし、床部11と天井部分との両方に設けられてもよい。
なお、本実施形態のように遮蔽物200や導体片103が設けられるアンテナユニット100は、ウォークスルー決済に対応する通行ゲート1以外にも適用されてよい。例えば、本実施形態のアンテナユニット100は、例えば商品倉庫などにおいてピップアップされた商品を運搬するのに用いられる商品収容コンテナなどに適用することができる。また、本実施形態のアンテナユニット100の構成は、例えば客などが店舗外に商品を持ち出すこと検知するシステム、入出荷される物品を検品するシステム、書籍の自動貸し出しに対応するシステム等にも適用が可能である。また、本実施形態のアンテナユニット100の構成は、例えば店舗、倉庫、物流の貨物船・列車・トラックなどにて多数存在する物品のうちから取り出された物品をベルトコンベアなどにより搬送する際に、ベルトコンベアにより搬送される物品に付されたRFIDを読み取るようにされたシステムに適用可能である。
上記のようにウォークスルー決済以外の用途に対応するシステムにアンテナユニット100を適用する場合には、アンテナユニット100における単位アンテナアレイ101の数や1の単位アンテナアレイ101におけるアンテナ素子110の数は、適用されるシステムに応じて適宜変更されてよい。また、単位アンテナアレイ101間の配列位置関係や、単位アンテナアレイ101におけるアンテナ素子110の配列方向等も、適用されるシステムに応じて適宜変更されてよい。
なお、本実施形態において遮蔽対象となるアンテナ素子は、パッチアンテナ以外の形式のアンテナであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 通行ゲート、11 床部、11a 上面部、11b アンテナ装置部、13 側壁、14 電波吸収板、100 アンテナユニット、101 単位アンテナアレイ、103 導体片、110 アンテナ素子、200 遮蔽物
【要約】
【課題】簡易な構成によりアンテナの特性の変更が実現できるようにする。
【解決手段】複数のアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子のそれぞれに所定の特性に応じた電力と位相とが設定された単位アンテナアレイと、前記単位アンテナアレイにおける複数のアンテナ素子のうちの一部のアンテナ素子を、所定部分を除いて電磁波を隠蔽するように設けられる導体による遮蔽物とを備えるアンテナ装置を構成する。
【選択図】
図5