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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】緩み止め締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/24 20060101AFI20220128BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
F16B39/24 M
F16B43/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019240122
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095991
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-05-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516197481
【氏名又は名称】栗原 秀子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 泰久
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀子
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05626449(US,A)
【文献】特開2016-056846(JP,A)
【文献】特表2010-540872(JP,A)
【文献】登録実用新案第3113151(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00- 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト部材とナット部材からなる締結具を螺合させて被締結体を締結する締結構造であって、
前記締結具と前記被締結体との間に座金を介在させ、
前記座金の前記被締結体に接合する座面は面接合するように平面に形成され、
前記ナット部材と前記座金とが対向する面には、各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、前記高所と低所の間には前記ナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成し、
前記斜面の角度は、ナット部材のリード角より小さい角度に形成したことを特徴とする緩み止め締結構造。
【請求項5】
前記ボルト部材の頭部と前記被締結体との間に前記座金を介在させ、前記座金に対向する前記ボルト部材の頭部の面に各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、前記高所と低所の間には前記ナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成し、前記被締結体に螺孔を形成してナット部材を形成し、前記ナット部材を締め付け方向に回転したとき、前記ボルト部材の段差と前記座金の段差同士を当接させる請求項1に記載の緩み止め締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットおよびボルトからなる締結具により被締結体を締め付け固定する締結構造に関し、より詳細には好適な緩み止め作用を備えた緩み止め締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
部品、部材を締め付け固定に使用する締結部材として、ナットおよびボルトは種々の分野に広く使用されている。これらのナットおよびボルトは、部品、部材を締め付けて固定するためのものであるが、これらの締結部分に振動が繰り返して作用するとナットやボルトが緩むという問題がある。このため、ナットやボルトの緩み止めを目的として、ダブルナットにより緩み止めを行う構造、或いは、座金を利用して緩み止めを行う構造など種々の構成が提案されている。
【0003】
このうち、座金を利用した緩み止め構造としては、例えば、特開2015-17657号公報(特許文献1)、特開2011-220387号公報(特許文献2)、特開2016-223625号公報(特許文献3)及び、実用新案登録第3113151号公報(特許文献4)に開示された緩み止めナットは、ナットの座面及び座金の表面にボルトの回転方向を許容する傾斜面と、ボルトの回転を阻止する回転阻止部を円周方向に複数並べて形成し、各々の回転阻止部に嵌入させることにより廻り止めを行うようにしている。
【0004】
また、座金を利用して緩み止めを行う他の方法として、特開平10-153211号公報(特許文献5)に開示された緩み止めナットは、リング状のワッシャーの一方の面を緩やかな傾斜面に形成し、ナットを螺合して締め付けたとき、ナットが傾斜面によって傾斜させることにより、ボルトに対する面圧を高めて緩み止めを行うようにしている。
【0005】
さらに本出願人は、特開2019-39555号公報(特許文献6)において、新規な締結具の緩み止め構造を提案した。この緩み止め構造は、締結具の頭部と被締結体との間に座金を介在させ、座金4の座面は直行する平面に形成し、座金の座面とは反対の座金接合面と、この座金に接合する締結具の頭部の頭部接合面の傾斜角度を、締結具のねじのリード角θ2の1.0~3.0倍の角度に傾斜した平面に形成している。そして、締結具が緩む方向に回転したとき、頭部接合面と座金接合面の傾斜により、互いに離間しようとして座金の座面が被締結体に押圧されて摩擦力が増大することにより、締結具の回動変位を阻止することにより緩み止めを行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-17657号公報
【文献】特開2011-220387号公報
【文献】特開2016-223625号公報
【文献】実用新案登録第3113151号公報
【文献】特開平10-153211号公報
【文献】特開2019-39555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4に例示した座金を使用した緩み止め構造は、ナットの座面及び座金の表面に傾斜面と回転阻止部を形成し、回転阻止部によって廻り止めを行うようにしているが、ナットを回転させて傾斜面を乗り越えて回転阻止部に嵌入したときには、ナットが軸方向の緩み方向に移動するため、ナットの緩み止め作用が低減するとともに、座金の摩擦力も低減する。このため、振動が繰り返されると、締め付け力が低下したナットと座金が一緒に回転するので、緩み止め効果を失う問題があった。
【0008】
また、特許文献5に例示した座金を使用した緩み止め構造は、リング状のワッシャーの一方の面に緩やかな傾斜面に形成し、この傾斜面によってナットを傾斜させてボルトに対する面圧を高めるようにしている。しかし、ナットを傾斜させることによりボルトを強制的に屈曲させることになり、ボルトに対するストレスが増加するため、寿命を低下させる要因となる問題があった。また、ナットの一方面の全面をワッシャーの傾斜面に接合しない場合には、ナットがワッシャーの一部に当接するのみであり、摩擦力が著しく低下するため、やはり緩み止め効果を失うことが問題となる。
【0009】
さらに、特許文献5に開示した緩み止め構造は、締結具が緩み方向に回転するに連れて軸力が増大するとともに、摩擦力が増大することから、最大限の緩み止め効果を発揮することが実証されている。しかしながら、締結具の頭部接合面と座金の座金接合面を傾斜させていることから、この傾斜面をプレス加工により形成するとき、金型のパンチが傾斜面によって傾斜する圧力が加わることから、パンチに大きなストレスが生じて寿命を著しく短くしてしまう問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、簡単安価な構成であっても、振動によりボルト部材またはナット部材が緩み方向に回転しようとしても、座金との相乗作用によって緩み止め作用を増加させることができ、しかも、製造工程において、金型に与えるストレスを低減することができる緩み止め締結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明による緩み止め締結構造は、ボルト部材とナット部材からなる締結具を螺合させて被締結体を締結する締結構造であって、前記締結具と前記被締結体との間に座金を介在させ、前記座金の前記被締結体に接合する座面は面接合するように平面に形成され、前記締結具と前記座金とが対向する面には、各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、前記高所と低所の間には前記締結具のリード角方向と同じ斜面を形成し、前記斜面の角度は、前記締結具のリード角よりも小さい角度に形成したことを要旨としている
【0012】
また、前記高所と低所を隣接させた位置に段差を形成し、前記ナット部材を締め付け方向に回転したとき、前記ナット部材の段差と前記座金の段差同士を当接させるように構成している。
【0013】
さらに、前記座金の前記被締結体に接合する座面の面積は、前記ナット部材と前記座金とが対向する面の面積よりも大きく形成することが望ましい。
【0015】
また、前記斜面の角度は、各々点対称に形成された偶数個の斜面を等しい角度に形成するとともに、各々の斜面の傾斜角度の総和を前記ナット部材のリード角の0.5~2倍の範囲としている。
【0016】
また、前記ボルト部材の頭部と前記被締結体との間に前記座金を介在させ、前記座金に対向する前記ボルト部材の頭部の面に各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、前記高所と低所の間には前記ナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成し、前記被締結体に螺孔を形成してナット部材を形成し、前記ナット部材を締め付け方向に回転したとき、前記ボルト部材の段差と前記座金の段差同士を当接させるように構成している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、座金の被締結体に接合する座面は面接合するように平面に形成し、ナット部材と記座金とが対向する面には、各々点対称に偶数個の高所と低所を形成し、高所と低所の間にはナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成しているので、振動が加えられたボルト部材またはナット部材の締結具が回動しようとするとき、頭部接合面と座金接合面が傾斜しているので、互いに離間しようとして座金の座面は被締結体に押圧して摩擦力が増大する一方、締結具は、雄ねじと雌ねじが押圧されて摩擦力が増大することから、締結具の回動変位が阻止される。この結果、締結具が不動となるので緩み止めを防止することができる。
【0018】
さらに、偶数個の高所と低所を点対称に形成しているので、プレス加工により形成するとき、金型のパンチを点対称にバランス良く押圧するので、パンチに与えるトレスを低減することができるので、長寿命にすることが可能となる。
【0019】
また、高所と低所の間に形成したリード角方向と同じ斜面の角度をナット部材のリード角よりも小さい角度に形成したことにより、ナット部材が振動によって緩み方向に回転するとき、緩やかな斜面のために小さな回転トルクであっても回転を始動させるので、この回転始動によって早期に緩み止め作用を生じさせることができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、高所と低所を隣接させた位置に段差を点対称の複数個所に形成しているので、高所と低所の間に形成したリード角方向と同じ斜面の角度が小さいことにより段差が低い場合であっても、ナット部材を締め付け方向に回転したときに、段差同士を当接させた座金を一体的に同方向に回転させることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、座金が被締結体に接合する座面の面積をナット部材と座金とが対向する面の面積よりも大きく形成したことにより、被締結体と座金の摩擦力が大きくなり、ナット部材が振動によって緩み方向に回転しても、座金が不動となっているので、緩み止め作用を生じさせることができる。
【0023】
請求項の発明によれば、斜面の角度を各々点対称に形成等しく形成し、各々の斜面の傾斜角度の総和をナット部材のリード角の0.5~2倍の範囲に設定しているので、ナット部材が緩み方向に回転しようとしたとき、ナット部材を小さなトルクで早期に回転始動させることが可能となる。この結果、ナット部材と座金が速やかに軸方向に変位することから、早期に緩み止め作用を開始させることができる。
【0024】
請求項の発明によれば、ボルト部材の頭部と被締結体との間に座金を介在させ、座金に対向するボルト部材の頭部の面に各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、高所と低所の間にナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成することにより、ボルト部材であっても、前述したナット部材と同様に緩み止め作用を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に関わる緩み止め締結構造の締結状態を示す断面図である。
図2】ナット部材及び座金の接合面を示す斜視図である。
図3】緩み止め締結構造におけるナット部材の傾斜角度を示す説明図である。
図4】緩み止め締結構造における座金の傾斜角度を示す説明図である。
図5】(A)(B)は、緩み止め作用を示す説明図である。
図6】(A)(B)は、ナット部材、座金の摩擦面を示す説明図である。
図7】ナット部材と座金の接合面積を小さくした実施例を示す側面図である。
図8】本発明に関わる緩み止め締結構造の第2の実施例を示す断面図である。
図9】第2の実施例におけるボルト部材の接合面を示す斜視図である。
図10】第2の実施例におけるボルト部材、座金の傾斜角度を示す説明図である。
図11】本発明に関わる緩み止め締結構造の第3の実施例における座金を示す説明図である。
図12】第3の実施例の側面図である。
図13】は、第3の実施例における締め付けと緩み止め作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の緩み止め締結構造は、ボルト部材とナット部材からなる締結具を螺合させて被締結体を締結する締結構造であって、前記締結具と前記被締結体との間に座金を介在させ、前記座金の前記被締結体に接合する座面は面接合するように平面に形成され、前記ナット部材と前記座金とが対向する面には、各々点対称に偶数個の高所と低所を形成するとともに、前記高所と低所の間には前記ナット部材のリード角方向と同じ斜面を形成し、前記斜面の角度は、ナット部材のリード角よりも小さい角度に形成している。
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を詳細に説明する。図1は、本発明に関わる緩み止め締結構造の実施例を示し、ナット部材により被締結体を締結した状態を示している。例えば金属板からなる基板1には貫通孔1aが形成され、この貫通孔1aにボルト部材2のねじ部2aが挿通されている。この基板1には貫通孔3aが形成された被締結体3が重合されていて、貫通孔3aにボルト部材2のねじ部2aが挿通されている。ボルト部材2のねじ部2aの先端側は、被締結体3よりも突出している。ボルト部材2は一般の市販品であり、頭部の座面2bは基板1に面接合され、締め付け状態では摩擦作用によって不動となっている。被締結体3から突出したボルト部材2の先端側には、座金4を介在してナット部材5が螺合されている。
【0028】
ナット部材5の頭部5aは、市販のナットの規格に従った寸法の六角ナット状に形成されている。座金4に接合する頭部5aの頭部接合面5bには、図2に示すように、180度対向する点対称に2個の高所5cと低所5dが形成され、この高所5cと低所5dの間には、各々ナット部材5のリード角方向と同じ斜面5e、5fが同じ角度の平面に形成されている。図3に示すように、これら各々の斜面5e、5fの角度θ1は、ナット部材5のリード角θ2よりも小さい角度に形成している。これは、各々の斜面5e、5fは2個形成されている各々の斜面5e、5fの傾斜角度の総和が、ナット部材5のリード角θ2の0.5~1.5倍の範囲となるようにするためである。さらに、2個の高所5cと低所5dを隣接させた位置に各々段差5g、5hが形成され、ナット部材5を締め付け方向に回転したとき、ナット部材5の段差5g、5hと、後述する座金4の段差4g、4h同士が当接するようにしている。
【0029】
ナット部材5は、一般のナットと同様に鍛造プレス加工によって製造されるが、相違する点は、頭部5aの頭部接合面5bに2個の高所5cと低所5dを形成し、高所5cと低所5dの間に斜面5e、5fを形成し、さらに、2個の高所5cと低所5dを隣接させた位置に各々段差5g、5hを形成したことである。このように頭部接合面5bを形成するとき、偶数個の高所5cと低所5dを点対称に形成しているので、プレス加工により形成するとき、鍛造金型のパンチが点対称にバランス良く押圧される。このため、パンチが偏寄することがないので、パンチに与えるストレスが低減され、長寿命にすることが可能となる。また、ナット部材5に対する押圧時のストレスも低減されるので、製造後の変形が防止される。
【0030】
一方、座金4は、図2に示すように、中央にナット部材5を挿通する透孔4aが形成され、外形は、好ましくは、ナット部材5の各頂部を結ぶ円形の外径にほぼ等しくした円盤状に形成されている。なお、座金4の外径寸法はナット部材5の最外径寸法よりも大きく形成しても良い。さらに、被締結体3に接合する座面4bは、ボルト部材2及びナット部材5の軸線Cに対して直行する平面に形成され、座面4bとは反対の座金接合面4cは、ナット部材5と同様に、180度対向する点対称に2個の高所4dと低所4eが形成され、この高所4cと低所4dの間には、各々ナット部材5のリード角方向と同じ斜面4f、4gが同じ角度の平面に形成されている。図4に示すように、これら各々の斜面4f、4gの角度θ1は、ナット部材5のリード角θ2よりも小さい角度に形成している。これは、ナット部材5と同様に、2個形成されている各々の斜面4f、4gの傾斜角度の総和が、ナット部材5のリード角θ2の0.5~1.5倍の範囲となるようにするためである。さらに、2個の高所4dと低所4eを隣接させた位置に各々段差4h、4iが形成され、ナット部材5を締め付け方向に回転したとき、ナット部材5の段差5h、5gと同士が当接するようにしている。この座金4の座金接合面4cは、ナット部材5の頭部接合面5bに嵌まり合うように接合される。
【0031】
この座金4も、上述したナット部材5と同様に鍛造プレス加工によって製造することができる。座面4bの座金接合面4cには、180度対向する点対称に2個の高所4dと低所4eが形成され、高所4cと低所4dの間に斜面4f、4gが形成され、さらに、2個の高所4dと低所4eを隣接させた位置に各々段差4h、4iが形成されている。この座金接合面4cをプレス加工によって形成するとき、2個の高所4dと低所4eなどを点対称に形成しているので、プレス加工により形成するとき、鍛造金型のパンチが点対称にバランス良く押圧される。このため、パンチが偏寄することがないので、パンチに与えるストレスが低減され、長寿命にすることが可能となる。また、座金4に対する押圧時のストレスも低減されるので、製造後の変形が防止される。
【0032】
上述したように、座金4の座金接合面4cとナット部材5の頭部接合面5bの傾斜角度の総和をナット部材5のリード角θ2の0.5~1.5倍としているのは、後述するように、振動を加えたときにナット部材5が緩み方向に回動したとき、緩み止め効果を発揮させるためである。すなわち、ナット部材5に形成された斜面5e、5fは、点対象に形成されていることから、各々の傾斜角度は2倍になり、急な昇りの角度となるためにナット部材5の回動が困難になる。このため、振動を加えたときにナット部材5が緩み方向に回動可能な角度として、各々の斜面5e、5fを2分の1とし、総和の傾斜角度が適正な0.5~1.5倍になるようにしている。因みに、傾斜角度θ1の総和をリード角θ2の0.5倍未満に設定した場合は、振動を加えたときにナット部材5の回転角度が大きくなるため、緩み止め効果が生ずるまでの時間が長くなって緩み止め効果が得られないことがある。一方、1.5倍以上に設定した場合には、振動によりナット部材5が急な傾斜のため回転が困難になって緩み止め効果が得られないことがある。
【0033】
以上のように構成した緩み止め締結構造において、被締結体3の貫通孔3aに挿通されているボルト部材2のねじ部2aにナット部材5を螺合するときは、座金4の座面4bが被締結体3に接合するように、中央の透孔4aをボルト部材2のねじ部2aに挿通する。その後、ナット部材5をボルト部材2のねじ部2aに螺合して、座金4の座金接合面4cにナット部材5の頭部接合面5bを当接する。さらにナット部材5を締め付け方向に回転すると、座金4の段差4e、4iにナット部材5の段差5d、5hが当接し、ナット部材5と座金4の回転方向の位置が決められる。そして、ナット部材5を所定の締め付けトルクまで回転すると、座金4がナット部材5に従動して回転し、座面4bが被締結体3に面接合するとともに、ナット部材5の斜面5e、5fに座金4の斜面4f、4gが接合することにより、図5(A)に示すように、ナット部材5の締結作業が完了する。この締め付け状態では、座金4の座面4bが面接合される被締結体3との摩擦作用によって不動となっている。
【0034】
次に、本発明の緩み止め締結構造による緩み止め作用について、図5により説明する。図5(B)は、被締結体3をナット部材5により締結した状態から、振動を加えられたときの状態を示している。このように振動が加えられると、まず、ナット部材5が矢示のように回動する。すなわち、座金4の座面4bは被締結体3に面接合し、図6(B)に示すように、広い摩擦面積F1を有している。一方、ナット部材5は、斜面5e、5fと座金4の斜面4f、4gが接合することから、図6(A)に示すように、狭い摩擦面積F2となる。従って、振動を加えたときには、狭い摩擦面積F2のナット部材5が矢示の緩み方向に回動を始め、座金4は被締結体3との大きな摩擦力により不動状態が保たれる。
【0035】
その後、さらに振動が加えられることによりナット部材5が回動し、図5(B)に示す状態となる。ナット部材5が図示右方に回動することにより、座金4の段差4f、4iとナット部材5の段差5h、5gが離間するとともに、座金4の斜面4f、4gとナット部材5の斜面5e、5fによって、ナット部材5が座金4から離間しようとして、矢示のように座金4を被締結体3の方向に押圧して、座金4と被締結体3との摩擦力が増強される。一方、ナット部材5は、反対に矢印のように図示上方に強制的に押圧され、ナット部材5とボルト部材2のねじ山同士を押圧し、摩擦力が増強されて回動できない状態となる。この結果、振動によって緩み方向に回動しようとするナット部材5が止められる。ナット部材5の緩み方向への回動は、傾斜面の作用により摩擦力が増強して不動状態に達した時点で停止する。
【0036】
このように、本発明の緩み止め締結構造においては、振動が加えられることによりナット部材5を積極的に回動させることにより、緩み止め作用が生じるようにしている。このため、座金4の座金接合面4cとナット部材5の頭部接合面5bの傾斜角度の総和をナット部材5のリード角θ2の0.5~1.5倍として、座金4の斜面4f、4eとナット部材5の斜面5e、5fの傾斜角度は緩やかに形成している。これにより、ナット部材5は比較的小さな振動であっても緩み方向への回転を早期に始動させることが可能となる。その後の振動によりナット部材5が緩み方向に回転するに従って、座金4と被締結体3との摩擦力を増強するとともに、ナット部材5を強制的に押圧することにより、緩み止め作用が一層増強される。
【0037】
図7は、座金4の変形例を示し、ナット部材5の頭部接合面5bとの接合面積を小さくさせたものである。すなわち、座金4の座金接合面4cには、中央に形成されたナット部材5を挿通する透孔4aの内周縁にすり鉢状の凹陥部4jを形成している。これにより、座金4の座金接合面4cにおける接合面積が、ナット部材5の頭部接合面5bの接合面積F3よりも小さくなるため、ナット部材5が緩み方向に回転したとき、両面の摩擦力が小さくなり、ナット部材5を小さな回転トルクで回転させることができる。この結果、緩み止め作用を一層円滑にさせることが可能となる。
【0038】
図8は、本発明に関わる緩み止め締結構造の第2の実施例を示し、締結具としてのボルト部材により被締結体を締結した状態を示している。例えば金属板からなる基板10には止まり穴10aが形成され、内周には雌ねじ部10bが形成されている。この止まり穴10aには、ボルト部材11の雄ねじ部11aが螺合している。なお、止まり穴10aが形成された基板10は、ボルト部材11に対してはナット部材5と等価であり、本発明においては、図8に示す基板10、及び、図示しない基板10を貫通するねじ穴を形成したものもナット部材と定義している。
【0039】
基板10には貫通孔3aを形成した被締結体3が重合され、ボルト部材11を挿通している。ボルト部材11は、頭部11aの首下の面に、前述したナット部材5と同様に、座金4の座金接合面4cに接合させる。この座金4は、前述したものと同じであり、詳細な説明は省略するが、この座金4の外形は、ボルト部材11の頭部11aの各頂部を結ぶ円形の外径寸法以上とした円盤状に形成されている。このボルト部材11の頭部11aの首下の面11bには、図9に示すように、180度対向する点対称に2個の高所11cと低所11dが形成され、この高所11cと低所11dの間には、各々ボルト部材11のリード方向と同じ斜面11e、11fが同じ角度の平面に形成されている。これら各々の斜面11e、11fの角度θ1は、図10に示すように、ボルト部材11のリード角θ2よりも小さい角度に形成している。これは、各々の斜面11e、11fは2個形成されている各々の斜面11e、11fの傾斜角度の総和が、ボルト部材11のリード角θ2の0.5~1.5倍の範囲となるようにするためである。さらに、2個の高所11cと低所11dを隣接させた位置に各々段差11g、11hが形成され、ボルト部材11を締め付け方向に回転したとき、ボルト部材11段差11g、11hと、座金4の段差4g、4h同士が当接するようにしている。
【0040】
このように構成した第2の実施例の緩み止め締結構造において、基板10の止まり穴10aにボルト部材11を螺合するときは、ボルト部材11に座金4の透孔4aを挿通した後、基板10の雌ねじ部10bに螺合し、さらにボルト部材11を締め付け方向に回転すると、座金4の段差4g、4hにボルト部材11の段差11g、11hが当接し、ボルト部材11と座金4の回転方向の位置が決められる。さらにボルト部材11を回転すると、座金4がボルト部材11に従動して回転し、座面4bが被締結体3に面接合するとともに、ボルト部材11の斜面11e、11fに座金4の斜面4e、4fが接合することにより、図8に示すように、ボルト部材11の締結作業が完了する。この締め付け状態では、座金4の座面4bが面接合される被締結体3との摩擦作用によって不動となっている。
【0041】
次に、上述した本発明の第2の実施例による緩み止め締結構造の緩み止め作用について説明する。図8に示すように、被締結体3を基板10にボルト部材11によって締結された状態のとき、外部から振動が加えられることにより、まず、ボルト部材11が緩み方向に回動する。これは、図6において説明したように、座金4の座面4bと被締結体3との面接合状態では広い摩擦面積F1を有しているのに対し、ボルト部材11と基板10に形成された止まり穴10aの雌ねじ部10bとの接合による摩擦面積F2が小さくなっているため、摩擦力が小さいボルト部材11が回動するためである。このとき、座金4の座面4bと被締結体3とは、摩擦力が大きいことから、不動状態が保たれている。
【0042】
その後、振動が加えられることによりボルト部材11が回動しようとすると、座金4の頂部4dに対し、ボルト部材11の頭部接合面11bの斜面11e、11fが、座金4の斜面4e、4f傾斜面を登ろうとする。このため、ボルト部材11が座金4から離間しようとして座金4を被締結体3の方向に押圧し、座金4と被締結体3との摩擦力をさらに増強させる。一方、ボルト部材11は、反対の図示上方に強制的に押圧されることから、ボルト部材11と基板10の雌ねじ部10bのねじ山同士が軸方向に押圧するので、摩擦力が増強されて回動できない状態となる。この結果、振動によって緩み方向に回動しようとするボルト部材11の緩み方向への回動ができない状態になる。これにより、ボルト部材11の緩み方向への回動は、傾斜面の作用により摩擦力が増強して不動状態に達した時点で停止する。
【0043】
本発明に関わる緩み止め締結構造としては、ナット部材及び座金の各々の接合面に形成する高所と低所を波状に形成しても良い。すなわち、図11は、第3の実施例としての座金12を示し、中央には、ボルト部材11を挿通する透孔12aが形成され、外形は、前述したナット部材5の外径寸法と同じもしくは大きくした円盤状に形成されている。さらに、被締結体3に接合する座面12bは、軸線に対して直行する平面に形成されている。そして、座面12bとは反対の座金接合面12cは、180度対向する点対称に2個の高所12dと低所12eが形成され、この高所12cと低所12dの間は波状に形成された斜面12f、12gが形成されている。これら各々の斜面12f、12gの傾斜角度は、後述するナット部材12のリード角よりも小さい角度に形成され、前述した実施例と同様に、2個形成されている各々の斜面12f、12gの傾斜角度の総和を、リード角θ2の0.5~2倍の範囲となるようにしている。
【0044】
一方、ナット部材13は、図12に示すように、頭部13aの図示下方の座金12の座金接合面12cに接合する頭部接合面13bには、座金12の座金接合面12cと同じように、180度対向する点対称に2個の高所13cと低所13dが形成され、この高所12cと低所12dの間は波状に形成された斜面13e、13fが形成されている。これら各々の斜面13e、13fの傾斜角度は、前述した座金と同じように、ナット部材13のリード角よりも小さい角度に形成され、各々の斜面13e、13fの傾斜角度の総和を、リード角の0.5~1.5倍の範囲となるようにしている。そして、ナット部材13の頭部接合面13bは、座金12の座金接合面12cに接合したとき、各々の嵌まり合うように接合される。この結果、ナット部材13と座金12との回転方向の位置が決められる。なお、ナット部材13を締め付けるときには、各々の高所と低所が嵌まり合うように接合した状態で、座金12とともに締め付け方向に回転する。
【0045】
このように構成した第3の実施例においても、前述した実施例と同様に緩み止め作用を有している。図13に示すように、外部から振動が加えられると、座金12の座面12bと被締結体3との間の摩擦面積よりもナット部材13と座金12の座金接合面12cとの間の摩擦面積が小さいことから、まず、ナット部材13が図13に示す矢示の緩み方向に回動するが、座金12は被締結体3との大きな摩擦力により不動状態が保たれている。その後、振動によってナット部材13のみが緩み方向に回動しようとする。そして、座金12の斜面12e、12fとナット部材13の斜面13e、13fによって、ナット部材13が座金12から離間しようとして、矢示のように座金12を被締結体3の方向に押圧して、座金12と被締結体3との摩擦力が増強される。一方、ナット部材13は、反対に矢印のように図示上方に強制的に押圧され、ナット部材13とボルト部材2のねじ山同士を押圧し、摩擦力が増強されて回動できない状態となる。この結果、振動によって緩み方向に回動しようとするナット部材13が止められる。このように、ナット部材13の緩み方向への回動は、傾斜面の作用により摩擦力が増強して不動状態に達した時点で停止する。
【0046】
以上、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。ボルト及びナットは、JISねじ、インチねじのいずれにも適用可能であり限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本考案は、機械器具、電機機械器具、車両、建設、建築、鉄道等に用いる被締結部材の締結に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 ボルト部材
2a ねじ部
3 被締結体
4 座金
4b 座面
4c 座金接合面
4d 高所
4e 低所
4f 斜面
4h 段差
5 ナット部材
5a 頭部
5c 高所
5d 低所
5e 斜面
5c 底部
5e 斜面
5g 段差
θ1 傾斜角度
θ2 リード角
C 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13