(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】複合型溝兼ねじ形成工具
(51)【国際特許分類】
B23G 5/20 20060101AFI20220128BHJP
B23D 37/16 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
B23G5/20
B23D37/16
(21)【出願番号】P 2016188548
(22)【出願日】2016-09-27
【審査請求日】2018-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】10 2015 116 444.2
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505455004
【氏名又は名称】エミューゲ ヴェルク リチャード グリンペル ゲーエムベーハー ウント カンパニー ケージー ファブリック ファープレーツィシオンスヴェルクツォイゲ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】グリンペル、ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ヘクトル、ディートマー
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】河端 賢
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-75816(JP,A)
【文献】特開2005-231019(JP,A)
【文献】実開平5-16062(JP,U)
【文献】特表2015-523915(JP,A)
【文献】特開2001-113411(JP,A)
【文献】実開平3-113718(JP,U)
【文献】特開2004-322271(JP,A)
【文献】特開2008-161971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 3/02
B23D 5/02
B23D 37/00
B23D 37/14
B23D 37/16
B23D 39/00
B23D 43/00
B23D 77/12
B23G 1/16
B23G 5/06
B23G 5/18
B23G 5/20
B23G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物(2)の壁部(21
)にそれぞれ溝を形成するための、
それぞれ工具軸線(A)の回りにねじられたn個の溝形成範囲(42、44)と、工作物(2)にねじを形成するための、それぞれ前記工具軸線(A)の回りにねじられたm個のねじ形成範囲と、を備え、前記工具軸線(A)回りに回転可能である、工作物に少なくとも1つの溝を製作するため
の複合型溝兼ねじ形成工具(4)
であって、
m個の前記ねじ形成範囲は、それぞれが、対応する前記溝形成範囲の後側であって互いに別々の前記溝形成範囲の後側に配置され、対応する前記溝形成範囲とねじれが一致しており、
前記溝形成範囲(42、44)が少なくとも1つの第1溝形成歯(
71)と少なくとも1つの第2溝形成歯(
72)を備え、少なくとも前記第2溝形成歯(
72)が、前記
複合型溝兼ねじ形成工具によって溝を形成する方向において、前記第1溝形成歯(
71)の後側に配置され
、
前記溝形成範囲(42、44)が前記工具軸線(A)回りにねじって配置され、少なくとも前記第2溝形成歯(
72)がねじり方向および軸方向において少なくとも前記第1溝形成歯(
71)の後側
に接続し
ており、
少なくとも前記第1溝形成歯(71)が第1溝形成用圧力歯(71)で、少なくとも前記第2溝形成歯(72)が第2溝形成用圧力歯(72)であり、少なくとも第3溝形成用圧力歯(73)がねじり方向および軸方向において少なくとも前記第1溝形成用圧力歯(71)と少なくとも前記第2溝形成用圧力歯(72)の後側に配置され、
すべての前記溝形成用圧力歯(71、72、73)が圧力エッジ(71a、72a、73a)を備え、この圧力エッジが前記工具軸線(A)に対して平行な軸線に対して、5~45°の迎え角(α1、α2、α3)、かつ、15~100°の後続角(β1、β2、β3)で配置され、すべての前記溝形成用圧力歯(71、72、73)の後続角は、互いに異なり、
前記複合型溝兼ねじ形成工具の送り方向において後側にある前記溝形成用圧力歯の前記工具軸線(A)に対する半径(r
72a
、r
73a
)が、それぞれこの溝形成用圧力歯の前にある隣接する溝形成用圧力歯の半径(r
71a
、r
72a
)よりも大きいことを特徴とする
複合型溝兼ねじ形成工具。
【請求項2】
前記第1溝形成歯(
71)が、意図した仕上げ溝寸法形
状よりも浅い所定の溝寸法形
状を有する溝を生じるように形成されていることと、前記第2溝形成歯(
72)が、意図した仕上げ溝寸法形
状に一致する所定の溝寸法形
状を有する溝を生じるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の
複合型溝兼ねじ形成工具。
【請求項3】
前記第1溝形成歯(
71)が半径方向外側に延在していることと、前記第2溝形成歯(
72)が、半径方向外側に延在
していることを特徴とする請求項1または2に記載の
複合型溝兼ねじ形成工具。
【請求項4】
前記溝形成用圧力歯(71、72、73)が後続範囲(71b、72b)によって互いに分離さ
れることを特徴とする請求項
1から3のいずれか一項に記載の
複合型溝兼ねじ形成工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物に少なくとも1つの溝を製作するための溝形成工具、特に複合型溝兼ねじ形成工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、工作物にねじを製作するための工具を開示し、この工具は次の特徴を有する:
a)工具が工具軸線回りに回転可能であり、
b)工具が工作物にそれぞれ1つの溝を形成するための、工具軸線の回りにねじられた1つ以上の溝形成範囲と、工作物にねじを形成するための、工具軸線回りにねじられた、好ましくはらせん形の1つ以上のねじ形成範囲を有し、
c)溝形成範囲のねじれとねじ形成範囲のねじれが互いに適合し、
d)m個のねじ形成範囲の各々がn個の溝形成範囲のいずれか1つの後側でこの溝形成範囲のねじれに続いて配置されている。
【0003】
溝形成範囲の少なくとも一部は、溝形成切刃を備えた切削加工の溝形成範囲として形成可能である。溝形成切刃は特にブローチ削り刃として形成されおよび/または工具の端面に配置されている。
【0004】
切削加工の溝形成範囲および/または溝形成切刃の少なくとも一部は軸方向においてまたはねじれ方向においておよび/または周方向においてそれぞれ、特に削り屑分配段または削り屑分配エッジとして設けられた少なくとも1つの段またはエッジを備えている。
【0005】
所定の用途のためには、成形を行う溝形成範囲として溝形成範囲を提供すること、すなわち形成すべき溝を成形して製作することが望まれる。この場合、n個の溝範囲の少なくとも一部を、削り屑を出さないようにおよび/または工作物材料の塑性変形または押込みによって形成可能である。その際、各溝形成範囲は、工具軸線回りにほぼ周方向に延在する成形稜線を有する。この成形稜線は軸方向またはねじれ方向に見て溝形成範囲の半径方向で最も高い隆起部であり、および/または半径方向で最も外側に突出している。各溝形成範囲は軸方向またはねじれ方向において成形稜線の後側に、背面を備えている。この背面は成形稜線から軸方向またはねじれ方向に下降し、工作物材料を流動させるための自由空間を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第10 2012 105 183 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特に工作物、例えばコア穴にねじを形成することを可能にする溝を、工作物、例えばコア穴の壁部に有利に製作することができるように形成された溝形成範囲を有する工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は本発明に従い、溝形成範囲が少なくとも1つの第1溝形成歯と少なくとも1つの第2溝形成歯を備え、少なくとも第2溝形成歯が、溝形成工具によって溝を形成する方向において、第1溝形成歯の後側に配置されている、請求項1の前提部分に係る溝形成工具によって解決される。
【0009】
本発明に係る溝形成工具の場合、形成すべき溝を、前後に並べた少なくとも2つの溝形成歯によって形成することができる。それによって、溝形成作業が2つの溝形成歯に分配されるので、溝形成歯あたりの負荷が小さくなる。従って、耐用年数が改善される。この場合もちろん、必要なトルクが増大することを考慮しなければならない。本発明に係る工具は貫通穴において特に有利に適用可能である。この貫通穴の場合には一般的に、有効ねじ深さを失うことなく、溝形成範囲の少なくとも一部を穴から繰り出すために、軸方向において十分な空間が供される。
【0010】
本発明の有利な実施形では、第1溝形成歯が、意図した仕上げ溝寸法形状、特に意図した仕上げ溝断面プロファイルと異なる所定の溝寸法形状、特に所定の溝断面プロファイルを有する溝を生じるように形成され、第2溝形成歯または第1溝形成歯の後側に配置された少なくとも1つの他の溝形成歯が、意図した仕上げ溝寸法形状、特に意図した仕上げ溝断面プロファイルに一致する所定の溝寸法形状、特に所定の溝断面プロファイルを有する溝を生じるように形成されている。
【0011】
このように形成された工具により、例えば第1溝形成歯によって溝の予備加工を行い、そして例えば第2溝形成歯によって最終仕上げをすることができる。それによって、工具の耐用年数にわたって表面品質が低下しないかまたは少ししか低下しない溝を形成することができる。
【0012】
本発明の他の有利な実施形では、第1溝形成歯が半径方向外側に延在し、第2溝形成歯または第1溝形成歯の後側に配置された少なくとも1つの他の溝形成歯が、半径方向外側に突出し、第1溝形成歯と、第2溝形成歯および/または第1溝形成歯の後側に配置された他の各溝形成歯との間に、第1と第2の溝形成歯および/または第1溝形成歯の後側に配置された他の各溝形成歯よりも短く半径方向外側に突出する範囲が配置されている。
【0013】
これにより、個々の溝形成歯の間の定められた空間的分離が生じ、それによって定められた加工領域が生じる。さらに、半径方向外側に短く突出する範囲は、材料、例えば削り屑または膨れ上がる材料ビードの収容およびまたは排出を可能にする。
【0014】
本発明の他の有利な実施形では、溝形成範囲が工具軸線回りにねじって配置されているかあるいは工具軸線に対して平行に配置され、少なくとも第2溝形成歯がねじり方向および/または軸方向において少なくとも第1溝形成歯の後側に、特に直接接続して配置されている。
【0015】
本発明に係る工具の場合、溝形成範囲がねじって形成されているときわめて有利である。というのは、溝形成のために必要な力が低減されるからである。真っ直ぐな溝形成範囲は、形成すべき溝が短いかまたは所定の材料の場合に有利である。
【0016】
本発明の他の有利な実施形では、少なくとも第1溝形成歯と少なくとも第2溝形成歯が溝形成用切削歯であり、特に少なくとも第3溝形成用切削歯がねじり方向および/または軸方向において少なくとも第1溝形成用切削歯と少なくとも第2溝形成用切削歯の後側に配置され、好ましくは多数の溝形成用切削歯がねじり向および/または軸方向において少なくとも第1溝形成用切削歯と少なくとも第2溝形成用切削歯の後側に配置されている。
【0017】
溝形成歯が溝形成用切削歯として形成されていることにより、溝は切削加工され、そして続けて加工する溝形成用切削歯によって徐々に加工され、一度には加工されない。
【0018】
その際、形成すべき溝は比較的に薄い厚さの削り屑を除去することによって形成可能である。それによって、個々の溝形成用切削歯の加工負荷は小さい。
【0019】
本発明の他の有利な実施形では、少なくとも1つの、好ましくはすべての溝形成用切削歯が、工具軸線に対して垂直な軸線に対して、-15~30°、特に-5~20°、好ましくは0~10°のすくい角を有し、特に第1溝形成用切削歯のすくい角が第2溝形成用切削歯のすくい角よりも小さく、第1溝形成用切削歯のすくい角および/または第2溝形成用切削歯のすくい角が第3溝形成用切削歯のすくい角よりも小さい。
【0020】
-5~15°の角度範囲は、短く削る材料の場合に特に有利である。長く削る材料の場合には特に5~20°の角度範囲が有利である。溝形成用切削歯の上記形状は特に削り屑排出にとって有利である。上記の代わりに、第1溝形成用切削歯のすくい角を、第2溝形成用切削歯のすくい角よりも大きくし、および/または第3溝形成用切削歯のすくい角よりも大きくすることができる。上記の代わりにあるいは上記に加えて、第2溝形成用切削歯のすくい角を、第1溝形成用切削歯および/または第3溝形成用切削歯のすくい角よりも大きくすることができる。同様に、上記の代わりにあるいは上記に加えて、第3溝形成用切削歯のすくい角を、第1溝形成用切削歯のすくい角および/または第2溝形成用切削歯のすくい角よりも大きくすることができる。さらに、第1および/または第2および/または第3またはすべての溝形成用切削歯のすくい角が同一であってもよい。
【0021】
本発明の他の有利な実施形では、溝形成用切削歯、特に溝形成用切削歯の切刃がそれぞれ、工具軸線に対して半径方向間隔または半径を有するかまたは有することができ、工具の送り方向において後側にある溝形成用切削歯の半径が、その都度この溝形成用切削歯の前にある隣接する溝形成用切削歯の半径よりも大きい。
【0022】
続けて設けられた溝形成用切削歯が、その都度その前にある溝形成用切削歯よりも半径方向外側に大きく突出していると特に有利である。これにより、溝、特に溝の深さが徐々に加工される。半径の選択により、その都度切刃によって切除される削り屑の厚さを設定することができるのできわめて有利である。
【0023】
他の有利な実施形では、少なくとも第1溝形成歯と少なくとも第2溝形成歯が溝形成用圧力歯であり、特に少なくとも第3溝形成用圧力歯がねじり方向および/または軸方向において少なくとも第1溝形成用圧力歯と少なくとも第2溝形成用圧力歯の後側に配置され、好ましくは多数の溝形成用圧力歯がねじり向および/または軸方向において少なくとも第1溝形成用圧力歯と少なくとも第2溝形成用圧力歯の後側に配置されている。
【0024】
このような工具により、削り屑を出さない加工によって溝を成形することができる。溝の冷間変形により、例えば溝壁におけるひび割れの形成が低減される。変形加工が多数の溝形成用圧力歯に分配されることにより、溝形成用圧力歯あたりの加工負荷が低減される。もちろん、発生摩擦や必要トルクが増大する。
【0025】
本発明の他の有利な実施形では、溝形成用圧力歯が後続範囲によって互いに分離され、および/または
少なくとも1つの、好ましくはすべての溝形成用圧力歯が圧力エッジを備え、この圧力エッジが工具軸線に対して平行な軸線に対して、5~45°、特に15~40°、好ましくは25~35°の迎え角で配置され、および/または
少なくとも1つの、好ましくはすべての溝形成用圧力歯が圧力エッジを備え、この圧力エッジが工具軸線に対して平行な軸線に対して、15~100°、特に30~75°、好ましくは50~70°の後続角で配置されている。
【0026】
溝形成用圧力歯が後続範囲によって互いに分離されていると、変形工程によって先行する溝形成用圧力歯で生じる材料ビードが、工具のさらなる前進時に、後続範囲内に移動することができる。そこで、材料ビードは次の溝形成用圧力歯によってとらえられ、コア穴壁部内に押し込まれる。これにより、材料ビードに基づく溝の不均一性が回避される。上記の角度は、できるだけ小さなトルクで済むように選定されている。
【0027】
本発明の他の有利な実施形では、溝形成用圧力歯、特に圧力エッジがそれぞれ、工具軸線に対して半径方向間隔または半径を有するかまたは有することができ、工具の送り方向において後側にある溝形成用圧力歯の半径が、その都度この溝形成用圧力歯の前にある隣接する溝形成用圧力歯の半径よりも大きい。
【0028】
これにより、溝、特に溝の深さが削り屑を出さないで徐々に成形される。半径の選定により、各溝形成用圧力歯について可変調節可能な変形度合いを選定することができるのできわめて有利である。
【0029】
本発明の他の有利な実施形では、少なくとも第1溝形成歯が溝形成用切削歯として形成され、少なくとも第2溝形成歯が溝形成用圧力歯として形成されている。
【0030】
このような工具により、溝形成用切削歯によって溝が予め切削加工される。後続の溝形成用圧力歯によって、溝を仕上げ溝深さまたは仕上げ溝寸法形状まで加工することができる。溝形成用圧力歯によって生じる溝の冷間変形により、溝は有利な強度を有することができる。
【0031】
本発明の他の有利な実施形では、溝形成用切削歯が、工具軸線に対して垂直な軸線に対して、-15~30°、特に-5~20°、好ましくは0~10°のすくい角ω0を有する切刃を備え、および/または
溝形成用圧力歯が圧力エッジを備え、この圧力エッジが工具軸線に対して平行な軸線に対して、5~45°、特に15~40°、好ましくは25~35°の迎え角α0で配置され、および/または
溝形成用圧力歯が圧力エッジを備え、この圧力エッジが工具軸線に対して平行な軸線に対して、15~100°、特に30~75°、好ましくは50~70°の後続角で配置されている。
【0032】
このように形成された工具は、必要なトルクに関してきわめて有利であり、それにもかかわらず要求される加工速度、切削出力および変形程度に関して性能がよい。
【0033】
工具が複合型溝兼ねじ形成工具として形成されているときわめて有利である。この工具は工作物にそれぞれ1つの溝を形成するための、工具軸線の回りにねじられた1つ以上の溝形成範囲と、工作物にねじを形成するための、工具軸線回りにねじられた、好ましくはらせん形の1つ以上のねじ形成範囲を有し、特に溝形成範囲のねじれとねじ形成範囲のねじれが互いに適合し、特にm個のねじ形成範囲の各々がn個の溝形成範囲のいずれか1つの後側でこの溝形成範囲のねじれに続いて配置されている。
【0034】
これにより、迅速かつ経済的なねじ形成のためのきわめて性能のよい工具が提供され、この工具の場合、溝形成の非常に良好な品質が達成される。
【0035】
本発明の課題はさらに、本発明に係る溝形成工具が次の方法ステップを有するねじ形成方法で使用されることにより有利に解決される。
a)ねじ軸線回りに回転する工作物の壁部内に1つ以上のねじれた溝を形成するかあるいは1つ以上のねじれた溝を有しかつねじ軸線回りに回転する工作物の壁部を形成し、
b)ねじれた溝のねじれに適合してねじれた工具のその都度一つのねじ形成範囲を、関連する溝のねじれに適合したねじれた挿入運動で、ねじれた各溝に挿入し、
c)工具をねじ軸線回りに回転しかつ同時に回転運動の回転速度とねじピッチに適合した軸方向送り速度でねじ軸線と同軸に工具を軸方向に送ることにより、溝に隣接する工作物の壁部の各壁部部分範囲にねじを形成し、この場合回転および同時の軸方向の送りの間、各ねじ形成範囲が関連する壁部部分範囲に係合し、ねじ山の関連する部分を生じ、回転後再び同じ溝または他の溝の壁部内に挿入され、
d)関連するねじれた溝のねじれに適合しねじれた取り出し運動で、関連する溝から工具のねじ形成範囲を取り出す。
【0036】
有利な実施形では、方法は次の特徴の1つまたは複数を有する。
a)ねじれた各溝は、好ましくは円筒面または円錐上でねじ軸線回りに延在するほぼらせん形の溝として形成される。
b)ねじを形成する際に、各ねじ形成範囲は、好ましくは円筒面または円錐上でねじ軸線回りにほぼらせん形に延在する。
c)各溝と各ねじ形成範囲は、ねじ軸線または工具軸線回りの回転方向とねじれピッチまたはねじれ角度が同じであるねじれを有する。
d)溝ねじれピッチはねじピッチよりもはるかに大きく選定され、一般的には少なくとも4倍の大きさ、特に少なくとも6倍の大きさ、好ましくは少なくとも8倍の大きさあるいは少なくとも36倍の大きさである。
e)溝ねじれ角度はねじピッチ角度よりもはるかに大きく、特に2倍より大きく、好ましくは4倍より大きく選定され、角度はそれぞれねじ軸線または工具軸線に対して垂直の横断面に対する。
f)溝ねじれ角度は2~70°、特に5~45°および好ましくはrと25°の間の範囲である。
g)ねじ軸線回りの溝とねじのねじれ方向または回転方向は同じであり、両方共右回りまたは左回りであるかあるいは反対回り、すなわち一方が右回りで他方が左回りである。
【0037】
このような方法においては、特に溝が特に有利に製作される。
【0038】
方法の他の有利な実施形では、この特徴の少なくとも1つが設けられている。
a)少なくとも1つの溝、好ましくは各溝が切削加工で形成される。
b)少なくとも1つの溝、好ましくは各溝が削り屑を出さないで形成され、特に所望な溝の方向に移動させられ削り屑を出さないで加工する溝形成工具または工具の溝形成範囲によって形成される。
c)工作物の壁部と壁部内の溝は1つの加工方法ステップでまたは1つの加工工具で一緒に形成される。
【0039】
このような方法では、溝とねじあるいはコア穴、溝およびねじが1つまたは非常に少ない方法ステップで製作可能であるので、生産能力の高いきわめて経済的な方法が生ずる。
【0040】
方法の他の有利な実施形では、関連する溝への挿入の際に、ねじ形成範囲が、溝底に対する半径方向間隔および好ましくは溝側面に対する間隔を維持しつつ、ねじ軸線に対して半径方向に、関連する溝内に挿入される。
【0041】
それによって、溝の形成と同時に、ねじ形成範囲が係合範囲内に移動するので、溝形成に直接続いて、ねじを形成することができる。この手段もきわめて経済的な方法をもたらす。
【0042】
方法においてさらに、ねじを形成する工作物の壁部が、工作物のコア穴、特に止まり穴または貫通穴のコア穴壁部であると有利である。
【0043】
他の有利な実施形では、溝とねじが、少なくとも1つのねじれたねじ形成範囲のほかに少なくとも1つのねじれた溝形成範囲を付加的に有する1個の工具で、および/または1つの加工ステップで形成され、この場合1つまたは複数の溝形成範囲が溝を形成するかまたは1つまたは複数のねじ形成範囲が1つまたは複数の溝形成範囲によって形成された溝を付加的に後加工するかまたは一緒に形成する。
【0044】
それによって、きわめて迅速で正確なねじ形成方法が得られる。
【0045】
方法の他の実施形では、次の特徴の少なくとも1つが設けられている。
a)ねじ形成工具のねじ成形歯の外側プロファイルが、この歯によって形成されたねじ山区間の最終のねじプロファイルを決定する。
b)ねじは異なるねじプロファイルを有する軸方向にずれた少なくとも2つのねじ部分範囲によって形成され、この場合特に任意のねじプロファイルを任意の順序で組み合わせることができる。
c)第1ねじ部分範囲は、特にねじ底および/またはねじ側面に、第2ねじ部分範囲よりも少なくとも部分的に小さな寸法または外側寸法を有するねじプロファイルを備えている。
d)第1ねじ部分範囲は前側のねじ部分範囲であり、第2ねじ部分範囲は後側のねじ部分範囲であり、前側のねじ部分範囲が軸方向または送り方向において後側のねじ部分範囲の前側に設けられている。
e)第1の、好ましくは前側のねじ部分範囲が、そのねじプロファイルに、ねじ底の平坦部を有する。
f)第2の、特に後側のねじ部分範囲が、第1の、好ましくは前側のねじ部分範囲のねじプロファイルよりも半径方向外側に位置するねじ底を備えたねじプロファイルを有する。
g)ねじ部分範囲、特に第1ねじ部分範囲または前側のねじ部分範囲の直径が、他のねじ部分範囲、特に第2ねじ部分範囲または後側のねじ部分範囲の直径よりも小さい。
【0046】
これにより、きわめて正確なねじを製作することができ、さらに経済的な所望な方法で製作することができる。
【0047】
次に、実施の形態に基づいて本発明をさらに説明する。その際、それぞれ略示した図も参照する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図2】ねじれた2つの溝と、この溝の間に形成されたねじとを有する止まり穴を備えた工作物を示し、この溝とねじは
図1の工具によって形成可能である。
【
図3】技術水準に係る複合型ねじ形成工具の側面図である。
【
図4】複合型ねじ形成工具の有利な第1の実施の形態を示す。
【
図5】複合型ねじ形成工具の有利な第2の実施の形態を示す。
【
図6】複合型ねじ形成工具の有利な第3の実施の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1~
図6において互いに一致する部分および大きさには同じ参照符号がつけてある。
【0050】
図1は技術水準からそれ自体知られている複合型工具4を示す。この複合型工具の場合、工具4の前側区間8には、2つのねじ形成範囲32、34に加えて、端面6にさらに、溝形成範囲42がねじれたねじ形成範囲32の前に設けられ、そして溝形成範囲44がねじれたねじ形成範囲34の前に設けられている。
【0051】
各溝形成範囲42、44は軸方向前方に向けられて端面6に設けられた溝形成輪郭部を有する。この溝形成輪郭部はそれぞれ、半径方向において最も外側に突出しかつ半径方向外側にある範囲から軸方向において最も前側にある、工具の前側区間8内の工具3の範囲である。
【0052】
ねじ形成範囲32、34はそれぞれ多数の圧力トンネル32-1、34-1を備えている。圧力トンネル32-1、34-1は半径方向において最も外側に突出するねじ形成範囲32、34の範囲である。溝形成範囲42、44はねじ形成範囲32、34よりもさらに半径方向外側に突出している。このねじ形成範囲の代わりにまたはねじ形成範囲と組み合わせて、圧力トンネル32-1、34-1の代わりに切削加工するねじ形成歯を設けることができる。
【0053】
溝形成範囲42、44の溝形成輪郭部は、工具4の軸方向送り運動の際および軸方向のブローチ削り過程または切削過程の際に、形成すべき溝22、24の溝輪郭部にかたどられる。ねじ形成範囲32、34はそれに続く回転運動の際にねじ山36を生じる。
【0054】
図2はねじれた2つの溝22、24と、この溝の間に形成されたねじ山36とを有するコア穴20を備えた工作物を示す。この場合、溝とねじは好ましくは
図1の工具によって形成される。ねじれた溝22、24と、ピッチPを有するねじ山36を確認することができる。止まり穴として形成されたコア穴20の底は、穿孔された範囲55として形成されている。この場合さらに、ねじのない範囲56が形成されている。このねじのない範囲はねじ形成ステップの間、一緒に回転する溝形成範囲42、44によって形成される。次に、止まり穴に基づいて本発明を説明するが、貫通穴との関連においても本発明を有利に適用可能である。
【0055】
図3はねじ形成工具4の側面図であり、観察者の方向確認のためおよび
図4~
図6に示した実施の形態を具体的に説明するために役立つ。
【0056】
図4~
図6に示した実施の形態はそれぞれ、
図3においてIVで示した範囲内に設けられ、断面図で示してある。その際、IVで示した範囲は加工方向または送り方向Vに関連して前側に位置する工具範囲または前側の工具端部である。
【0057】
上記のすべての実施の形態について、本発明に係る教えは、直線配置のねじ形成範囲を有する直線配置の溝形成範囲と、ねじり配置のねじ形成範囲を有するねじり配置の溝形成範囲の双方に適用可能である。その際、直線配置またはねじり配置は工具3の送りの調節と、工具軸線A回りの工具3の回転の調節を決定する。さらに、上記のすべての実施の形態は、円筒形のコア穴にも円錐形のコア穴にも適用可能である。同様に、上記のすべての実施の形態は、直線形状でもねじった形状でも、ねじ形成範囲を有していない工具に適用可能である。
【0058】
図4は溝形成範囲42と、軸方向において後側に接続する、圧力トンネル34-1を有するねじ形成範囲34とを示す。その際、溝形成範囲42は、軸方向においてまたはねじり方向において前後に位置する第1溝形成範囲61と第2溝形成範囲62と第3溝形成範囲63を有する。
【0059】
溝形成範囲61、62、63はすべて切削加工を行う。溝形成範囲は、そのそれぞれの切刃61a、62a、63aが工具中心軸線Aに対して所定の間隔、すなわちそれぞれの半径r61a、r62a、r63aを有するように配置されている。工具中心軸線Aに対する切刃61a、62a、63aの間隔はそれぞれ、送り方向後側に向けて増大しているので、
r61a<r62a<r63a
が当てはまる。
【0060】
その際、溝形成範囲61、62、63と特に切刃61a、62a、63aは互いにずれているかまたは分離されているので、その都度各切刃が固有の削り屑を出すかまたは生じる。図示した実施の形態では、3つの溝形成切削歯61、62、63が設けられているが、それにもかかわらず2つだけの溝形成用切削歯あるいは3つよりも多い溝形成用切削歯を設けることができる。
【0061】
溝形成範囲42は、工作物2のコア穴壁部に溝を形成するために設けられている。そのために、工作物2は、所定のコア穴半径rKernlochを有するコア穴20を備えている。この場合、コア穴半径rKernlochは切刃61a、62a、63aの半径よりも小さい。
【0062】
その際、それぞれ送り方向Vにおいて後側に向けて増大する溝形成用切削歯61、62、63または切刃61a、62a、63aの半径r61a、r62a、r63aは、形成すべき溝深さが徐々に加工除去されるように、すなわち送り方向Vにおいて最も前側の切刃61aがrKernlochとr61aの差に相当する深さを切削除去して溝形成切削歯61の寸法形状に一致する溝を形成するように選定されている。
【0063】
次に、溝形成切削歯62、63がより深い溝を加工する。この場合、完成した溝の深さは最後の切刃63aの半径によって決まる。その際、溝形成用切削歯あたりの半径の増大は、
0.05×Δr≦r61a-rKernloch≦0.5×Δrまたは
0.05×Δr≦r62a-r61a≦0.5×Δrまたは
0.05×Δr≦r63a-r62a≦0.5×Δr
であると有利である。この場合、
Δr=r63a-rKernloch
である。
【0064】
これにより、それぞれの溝形成用切削歯で生じる削り屑厚さが決定される。
【0065】
その際、溝形成用切削歯61、62、63の寸法形状はその都度加工すべき材料に合わせることが可能である。短い削り屑を生じる材料の場合には、溝形成用切削歯61、62、63のすくい角ω1、ω2、ω3は長い削り屑を生じる材料の場合よも小さく選定される。それに加えて、短い削り屑の材料の場合の刃物角ψ1、ψ2、ψ3は長い削り屑の材料の場合よりも大きく選定される。逃げ角γ1、γ2、γ3は同様に定められる。
【0066】
図5は溝形成範囲42と、軸方向において後側に接続する、圧力トンネル34-1を有するねじ形成範囲34とを備えた有利な代替的な実施の形態を示す。その際、溝形成範囲42は軸方向においてあるいはねじり方向において前後して、第1、第2および第3の溝形成用圧力歯71、72、73を備えている。溝形成用圧力歯71、72、73はすべて、材料を押しのけることによって変形作業を行う、すなわち削り屑を生じない。それによって、材料の流動が達成されるので、溝形成用圧力歯71、72、73の寸法形状に一致する形の溝が形成される。
【0067】
溝形成用圧力歯71、72、73は、そのそれぞれの圧力エッジ71a、72a、73aが工具中心軸線Aに対して所定の間隔、すなわちそれぞれの波形r
71a、r
72a、r
73aを有するように配置されている。送り方向において後側に向けて、圧力エッジ71a、72a、73aの半径が増大しているので、
図4の実施の形態と同様に、
r
71a<r
72a<r
73a
が当てはまる。
【0068】
送り方向Vにおいて各圧力エッジ71a、72a、73aの後側には、それぞれ後続範囲71b、72b、73bが接続している。この場合、後続範囲の半径はそれぞれ、先行する圧力エッジの半径よりも小さい。例えば、圧力エッジ71の半径r71aは付設の後続範囲72bの半径r71bよりも大きい。
【0069】
すなわち、成形プロセスで圧力エッジによって材料を押しのけることにより、材料が流動することになる。この場合、圧力エッジ71aの後側に後続範囲71bを設けることにより、材料は後続範囲71b内に例えばビード状に流れることが可能である。それにより、発生するビードの破断または剪断を回避することができる。
【0070】
その際、溝形成用圧力歯71、72、73の寸法形状は、圧力エッジ71a、72a、73aが所定の迎え角α1、α2、α3で配置されるように形成されている。圧力エッジ71a、72a、73aは、コア穴壁部21の表面に対してこの迎え角で、コア穴壁部21に変形接触する。
【0071】
その際、圧力エッジ71a、72a、73aは後続範囲71b、72b、73bの方へ後続角度β1、β2、β3で下降している。その際、後続角度β1、β2、β3の選択は後続範囲71b、72b、73b内に流動するビードの形成に影響を及ぼす。
【0072】
図6は、溝形成用範囲42と、軸方向において後側に接続する、圧力トンネル34-1を有するねじ形成用範囲34とを備えた有利な他の代替的な実施の形態を示す。その際、溝形成用範囲42は1つの溝形成用切削歯81と、軸方向においてまたはねじり方向においてこの溝形成用切削歯の後側に設けられた溝形成用圧力歯82とを備えている。溝形成用切削歯81は切削加工を行う、すなわち削り屑を生じる。溝形成用圧力歯82は変形加工する、すなわち削り屑を出さない。
【0073】
その際、溝形成用圧力歯82の圧力エッジ82aの半径r82aは、溝形成用切削歯81の切刃81aの半径r81aよりも大きい。コア穴壁部21内に加工すべき溝は先ず、溝形成用切削歯81によって切削予備加工される。この場合、仕上げ溝深さまたは仕上げ溝形状にはまだ達していない。次に、溝形成用圧力歯82が溝をその仕上げ溝寸法形状まで仕上げ加工する。この場合、溝表面で、発生する変形に基づいて、有利に変形された表面が得られる。
【符号の説明】
【0074】
2・・・工作物
3・・・工具
4・・・ねじ形成工具
5・・・シャンク
6・・・端面
7・・・多角形部
8・・・前側区間
9・・・後側区間
20・・・コア穴
21・・・コア穴壁部
22、24・・・溝
32、34・・・ねじ形成範囲
32-1、34-1・・・圧力トンネル
36・・・ねじ山
42、44・・・溝形成範囲
50・・・通路
51・・・中央範囲
55・・・穿孔された範囲
56・・・ねじのない範囲
61、62、63・・・溝形成用切削歯
61a、62a、63a・・・切刃
71、72、73・・・溝形成用圧力歯
71a、72a、73a・・・圧力エッジ
71b、72b、73b・・・後続範囲
A・・・工具軸線
M・・・コア穴軸線
V・・・送り方向
P・・・ねじピッチ
S・・・回転方向
D・・・ねじれ軸線
ω0、ω1、ω2、ω3・・・すくい角
γ0、γ1、γ2、γ3・・・逃げ角
ψ1、ψ2、ψ3・・・刃物角
α0、α1、α2、α3・・・迎え角
β0、β1、β2、β3・・・後続角度
r61a、r62a、r63a・・・半径
r71a、r72a、r73a・・・半径
r71b、r72b、r73b・・・半径
r81a、r82a・・・半径
r82b・・・半径
rKernloch・・・コア穴半径