(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】複合体、水性樹脂組成物及び塗料
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20220128BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20220128BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20220128BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20220128BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20220128BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220128BHJP
C09D 157/00 20060101ALI20220128BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20220128BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L57/00
C08G18/08 009
C08G18/00 C
C08G18/75
C09D175/04
C09D157/00
C08L33/00
C09D133/00
(21)【出願番号】P 2017095092
(22)【出願日】2017-05-11
【審査請求日】2020-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】工藤 英介
(72)【発明者】
【氏名】猪古 智洋
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001584(JP,A)
【文献】特開2013-189559(JP,A)
【文献】特開2016-060852(JP,A)
【文献】特表2006-519279(JP,A)
【文献】特開2007-270036(JP,A)
【文献】特開2018-188719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 18/00-18/8/7
C08F 2/00-2/60
C08F 283/02-289/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和重合性モノマー重合体と、カチオン性基含有ウレタン樹脂とを含み、
前記カチオン性基含有ウレタン樹脂は、
以下の式(1)で表される、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート由来の構造単位と、
以下の式(2)で表されるポリオール由来の構造単位と、
以下の式(3)及び(4)で表されるジオールから選ばれる2種以上の化合物に由来する構造単位と、
以下の式(5)で表される第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位と、を含む、複合体であって、
前記式(3)で表されるジオールの重量平均分子量が800以上4000以下であり、
前記式(4)で表されるジオールの重量平均分子量が60以上400以下であり、
カチオン性基含有ウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーの重合体であり、
前記ウレタンプレポリマーにおいて、
前記式(1)で表されるポリイソシアネート由来の構造単位の存在量が31~70質量%であり、
前記式(2)で表されるポリオール由来の構造単位の存在量が1~35質量%であり、
前記式(3)で表されるジオール由来の構造単位の存在量が3~40質量%であり、
前記式(4)で表されるジオール由来の構造単位の存在量が1~20質量%であ
り、
前記式(5)で表される第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位の存在量が1~20質量%である、複合体。
式(1):O=C=N-R
1-N=C=O
(式(1)中、R
1は、-R
2-R
3-R
4-で表され、R
2は単結合又はアルキレン基であり、R
3は、
【化1】
で表され、
R
4は、
【化2】
である。)
式(2):
【化3】
(式(2)中、R
8は、-R
9-R
10-R
11-で表され、
R
9は、
【化4】
であり、
R
10は、
【化5】
であり、
R
11は、
【化6】
であり、
R
14は、
【化7】
である。)
式(3):HO-R
19-H (3)
(式(3)中R
19は、
【化8】
である。)
式(4):HO-R
22-OH
(式(4)中R
22は、
【化9】
である。)
式(5):
【化10】
【請求項2】
請求項
1に記載の複合体を含有する、水性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項
1に記載の複合体を含有する、塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、その複合体を含有する水性樹脂組成物及び塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布膜の外観が良好で且つ不飽和重合性モノマー重合体との配合安定性に優れた水性樹脂組成物に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、不飽和重合性モノマー重合体が、カチオン性基含有ポリウレタン樹脂で乳化されている水性樹脂組成物に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の水性樹脂組成物では、耐食性、耐熱性及び耐溶剤性に優れた皮膜を形成することができなかった。そこで、本発明は、耐食性、耐熱性及び耐溶剤性に優れる皮膜の形成に有用な複合体、及びその複合体を含有する水性樹脂組成物(塗料を含む)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明は以下のものを含む。
[1]不飽和重合性モノマー重合体と、カチオン性基含有ウレタン樹脂とを含み、
前記カチオン性基含有ウレタン樹脂は、
以下の式(1)で表される、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート由来の構造単位と、
以下の式(2)で表されるポリオール由来の構造単位と、
以下の式(3)及び(4)で表されるジオールから選ばれる2種以上の化合物に由来する構造単位と、
以下の式(5)で表される第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位と、を含む、複合体。
式(1):O=C=N-R
1-N=C=O
(式(1)中、R
1は、-R
2-R
3-R
4-で表され、R
2は単結合又はアルキレン基であり、R
3は、
【化1】
で表され、
R
4は、
【化2】
である。)
式(2):
【化3】
(式(2)中、R
8は、-R
9-R
10-R
11-で表され、
R
9は、
【化4】
であり、
R
10は、
【化5】
であり、
R
11は、
【化6】
であり、
R
14は、
【化7】
である。)
式(3):HO-R
19-H (3)
(式(3)中R
19は、
【化8】
である。)
式(4):HO-R
22-OH
(式(4)中R
22は、
【化9】
である。)
式(5):
【化10】
[2]2種以上のジオールは、前記式(3)で表され、重量平均分子量が600超であるジオール(C-1)と、前記式(4)で表され、重量平均分子量が600以下であるジオール(C-2)を含む、上記 [1]に記載の複合体。
[3]上記[1]又は[2]に記載の複合体を含有する、水性樹脂組成物。
[4]上記[1]又は[2]に記載の複合体を含有する、塗料。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐食性、耐熱性及び耐溶剤性に優れる皮膜の形成に有用な複合体、及びその複合体を含有する水性樹脂組成物(塗料を含む)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、具体的な実施形態を示し、本発明を詳細に説明する。
本発明の一形態の複合体は、不飽和重合性モノマー重合体とカチオン性基含有ウレタン樹脂とを含む。本発明の一形態の複合体を含む水性樹脂組成物を用いることにより、耐食性、耐熱性及び耐溶剤性に優れた皮膜を形成することができる。上記カチオン性基含有ウレタン樹脂は、式(1)で表されるシクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート由来の構造単位と、式(2)で表されるポリオール由来の構造単位と、式(3)及び式(4)で表されるジオールから選ばれる2種以上の化合物に由来する構造単位と、式(5)で表される第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位と、を含む。
【0008】
<不飽和重合性モノマー重合体>
本発明の一形態にかかる不飽和重合性モノマー重合体は、不飽和重合性モノマーを重合
することで得られる。
本発明の一形態にかかる不飽和重合性モノマー重合体を構成する不飽和重合性モノマーとしては、例えば、カルボン酸基含有不飽和重合性モノマー、該カルボン酸基含有不飽和重合性モノマーのエステル化物、ビニル化合物などが挙げられる。
【0009】
カルボン酸基含有不飽和重合性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸を含む(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0010】
カルボン酸基含有不飽和重合性モノマーのエステル化物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ビシクロ[3,3,1]ノニル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのモノ(メタ)アクリル酸エステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、などのジ(メタ)アクリレート化合物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート化合物、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラ(メタ)アクリレート化合物、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのヘキサ(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
【0011】
ビニル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン、イソプレンが挙げられる。
【0012】
尚、これらの不飽和重合性モノマーは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0013】
不飽和重合性モノマーの重合は、加熱の他、公知の重合開始剤を用いることにより行うことができる。
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾ
リン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系開始剤;フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤などが使用できる。その他、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの過酸化物;などのラジカル重合開始剤も使用できる。また、これらのラジカル重合開始剤と、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸水素塩;硫酸第一銅、硫酸第一鉄などの金属塩;L-アスコルビン酸などの有機還元剤;などの還元剤と、を組み合わせたレドックス開始剤も使用できる。
また、不飽和重合性モノマーの重合方法としては、乳化重合などの公知の方法が用いられる。
重合温度は、上記重合開始剤の種類によって適宜調整されるが、例えば20℃~100℃の範囲内であることが好ましい。
上記重合開始剤の使用量は、通常、不飽和重合性モノマー100重量部に対して、例えば0.005~1重量部が適当である。
不飽和重合性モノマーの重合は、本発明の一形態にかかる複合体の製造において、後述するカチオン性基含有ウレタン樹脂の生成反応と同時又はその生成反応の後に行われる。
【0014】
本発明の一形態にかかる複合体に含まれるカチオン性基含有ウレタン樹脂としては下記のものが使用される。
【0015】
<カチオン性基含有ウレタン樹脂>
本発明の一形態にかかるカチオン性基含有ウレタン樹脂は、典型的にはウレタンプレポリマーと、イオン化剤と、水とを反応させて得られる。この際、反応を促進するため、必要に応じ第3級アミン化合物を含まないポリアミン化合物を含有させてもよい。具体的には、ウレタンプレポリマー中に含まれるイソシアネート基と、水によって生成したアミン又は必要に応じ含有したポリアミン化合物と、が反応してウレア結合を形成する。また、ウレタンプレポリマー中に含まれる式(5)で表される第3級アミン化合物由来の構造部分がイオン化剤により中和されることで、カチオン性基を導入する。このようにしてカチオン性基含有ウレタン樹脂が得られる。
【0016】
<ウレタンプレポリマー>
ウレタンプレポリマーは、本発明の一形態にかかるカチオン性基含有ウレタン樹脂の製造に用いられる成分であり、少なくとも、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネートと、窒素原子を含まずベンゼン環を含むポリオールと、ベンゼン環及び窒素原子を含まない、2種以上のジオールと、活性水素を2個以上有する第3級アミン化合物及び/又はその塩と、を反応させて得られるものである。
別の観点から示すと、ウレタンプレポリマーは、式(1)で表される、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート由来の構造単位、式(2)で表されるポリオール由来の構造単位、式(3)及び式(4)で表されるジオールから選ばれる2種以上の化合物に由来する構造単位、並びに式(5)で表される第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位、を含む。
具体的には、式(2)で表されるポリオール(以下、単に「ポリオール」ともいう。)、並びに式(3)及び式(4)で表されるジオール(以下、単に「ジオール」ともいう。)に含まれるヒドロキシ基と、式(1)で表される、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシアネート(以下、単に「ポリイソシアネート」ともいう。)に含まれるイソシアネート基と、が反応してウレタン結合を形成する。また、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基と、式(5)で表される第3級アミン化合物(以下、単に「第3級アミン化合物」又は「第3級アミン」ともいう。)及び/又はその塩に含まれる水素原子(活性水素)と、が反応して、ウレタン結合やウレア結合などを形成する。
また、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマーは、上述したように水(任意で第
3級アミンを含まないポリアミン化合物も用いてもよい)と反応させるために、ポリイソシアネートに由来するイソシアネート基を有するものである。
【0017】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートは、ウレタンプレポリマーの製造に使用され、以下の式(1)で表される。
式(1):O=C=N-R
1-N=C=O
式(1)中、R
1は、-R
2-R
3-R
4-で表され、R
2は単結合又はアルキレン基であり、R
3は、
【化11】
で表され、
R
4は、
【化12】
で表される。)
である。
【0018】
R
1は好ましくは、
【化13】
である。
なお、シクロヘキサン環構造としては、シクロヘキサン構造を有する二環式の構造も含まれる。また、シクロヘキサン環構造は、ポリイソシアネート中に複数含まれていてもよい。
【0019】
(ポリイソシアネートの種類)
ポリイソシアネートとしては、1個以上のシクロヘキサン環と、2個以上のイソシアネート基と、を有している式(1)で表されるポリイソシアネートであれば特に限定されるものではないが、例えば、イソホロンジイソシアネート、1,3-又は1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-又は1,4-ジイソシアネートシクロヘ
キサン、3-イソシアネート-メチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。式(1)に含まれないポリイソシアネートである、ウレトジオン構造のような2量体、イソシアヌレート構造のような3量体、多官能ポリオールを用いたアダクト体として1分子中に3個以上のイソシアネート基を持つポリイソシアネートなどを、式(1)で表されるポリイソシアネートと併用してもよい。
ポリイソシアネートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記の中でも、ポリイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート、及びジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートから選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0020】
(ポリイソシアネートの仕込み量)
後述するウレタンプレポリマーの製造において、ポリイソシアネートの仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、31~70質量%であることが好ましく、40~65質量%であることがより好ましい。
すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマーにおいて、ポリイソシアネート由来の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、31~70%であることが好ましく、40~65%であることがより好ましい。
本実施形態においてウレタンプレポリマーの製造に、後述する「ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール」を使用する場合には、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールの仕込み量を上記合計量に算入する。
【0021】
(ポリオール)
ポリオールは、ウレタンプレポリマーの製造に使用され、以下の式(2)で表される。式(2):
【化14】
式(2)中、R
8は、-R
9-R
10-R
11-で表され、
R
9は、
【化15】
であり、
R
10は、
【化16】
であり、
R
11は、
【化17】
であり、
R
14は、
【化18】
である。)
【0022】
上記式(2)において、R
8は、好ましくは、
【化19】
である。R
12は、好ましくは、エチレン基又はイソプロピレン基である。R
14は、好ましくは、水素原子、メチル基、イソプロピル基又はフェニル基である。R
15は、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基である。R
16は、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基である。R
17は、好ましくは、水素原子、メチル基、イソプロピル基又はフェニル基である。
【0023】
(ポリオールの種類)
ポリオールは、1個以上のベンゼン環と、2個以上のヒドロキシ基と、を有し、窒素原子を有さない、式(2)で表されるポリオールであれば特に限定されず、例えば、レゾルシノール、2-メチルレゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等の芳香族ポリオール;ビスフェノールA-エチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールA-エチレンオキサイド4モル付加体、ビスフェノールA-エチレンオキサイド6モル付加体、ビスフェノールA-エチレンオキサイド10モル付加体、ビスフェノールA-プロピレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールA-プロピレンオキサイド4モル付加体、ビスフェノールA-プロピレンオキサイド6モル付加体、ビスフェノールA-プロピレンオキサイド10モル付加体等のベンゼン環を有するポリエーテルポリオール;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-メチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタンジオール等のポリオール類との重縮合により得られるベンゼン環を有するポリエステルポリオール;エチレンカーボネートとビスフェノールAなどのポリオールとのエステル交換反応から得られるベンゼン環を有するポリカーボネートポリオール;等が挙げられる。
ポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記の中でも、ポリオールは、ベンゼン環を有するポリエーテルポリオールであることが好ましい。
【0024】
(ポリオールの仕込み量)
後述するウレタンプレポリマーの製造において、ポリオールの仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、通常は例えば1~35質量%とすることができるが、3~25質量%であることがより好ましい。すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、式(2)のポリオール由来の構造
単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常1~35%であり、3~25%であることが好ましい。
本実施形態においてウレタンプレポリマーの製造に後述する「ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール」を使用する場合には、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールの仕込み量を上記合計量に算入する。
【0025】
(ジオール)
式(3)及び(4)で表されるジオールは、上記ウレタンプレポリマーの製造に使用される。なお、該ウレタンプレポリマーの製造には、式(3)及び(4)で表されるジオールから選ばれる2種以上の化合物が使用される。
式(3):HO-R
19-H (3)
式(3)中、R
19は、
【化20】
である。
式(4):HO-R
22-OH (4)
式(4)中、R
22は、
【化21】
である。
【0026】
ウレタンプレポリマーの製造に使用される少なくとも2種のジオールとしては、重量平均分子量が600超のジオールと、重量平均分子量が600以下のジオールとを用いることが好ましく、式(3)で表され、重量平均分子量が600超のジオール(C-1)と、式(4)で表され、重量平均分子量が600以下であるジオール(C-2)を用いることがより好ましい。
【0027】
なお、ジオール(C-1)としては、重量平均分子量が800以上4000以下の範囲
内であるものがより好ましい。ジオール(C-2)としては、重量平均分子量が60以上400以下の範囲内であるものがより好ましい。
本実施形態における各成分の重量平均分子量は、特に断りのない限り、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0028】
(ジオール(C-1)及び(C-2)の具体的な化合物)
ジオール(C-1)としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールなどを用いることができる。
上記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)等が挙げられる。ポリエーテルジオールは、例えば、塩基性触媒下でエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させて製造される。
上記ポリエステルジオールは、例えば、酸種としてマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、セバシン酸等の不飽和カルボン酸等と、アルコール種としてエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキシルジメタノール、1,3-アダマンタンジオール等と、のエステル化反応によって製造されたものが挙げられる。
上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ε-カプロラクトン等の環状エステルをグリコールによって開環重合して製造されたものが挙げられ、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等と、上記のポリエステルジオールで挙げたアルコール種と、を反応させて製造されたものが挙げられる。
【0029】
ジオール(C-2)としては、例えば、エチレングリコール(62.07g/mol)、プロピレングリコール(76.09g/mol)、1,5-ペンタンジオール(104.15g/mol)、1,6-ヘキサンジオール(118.17g/mol)、1,7-ヘプタンジオール(132.2g/mol)、1,8-オクタンジオール(146.23g/mol)、1,9-ノナンジオール(160.25g/mol)、1,10-デカンジオール(174.28g/mol)、ネオペンチルグリコール(104.15g/mol)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(90.12g/mol)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(118.17g/mol)、1,4-シクロヘキシルジメタノール(146.14g/mol)、1,3-アダマンタンジオール(168.23g/mol)等のアルキルジオール、ジエチレングリコール(106.12g/mol)、トリエチレングリコール(150.17g/mol)、テトラエチレングリコール(194.23g/mol)、ペンタエチレングリコール(238.28g/mol)、ヘキサエチレングリコール(282.33g/mol)、ヘプタエチレングリコール(323.28g/mol)、ジプロピレングリコール(134.17g/mol)等のポリアルキレングリコール、ジメチロールプロピオン酸(134g/mol)などが挙げられる。
【0030】
ジオール(C-1)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリブチレングリコール等のポリエーテルジオールであることが好ましい。ジオール(C-2)としては、ポリアルキレングリコールであることが好ましい。
【0031】
(ジオールの仕込み量)
ウレタンプレポリマーの製造において、2種以上のジオールの仕込み量は、ウレタンポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、通常は例えば、2~60質量%とすることができるが、4~55質量%であることが好ましく、7~50質量%である
ことがより好ましい。すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、2種以上のジオール由来の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常2~60%であり、4~55%であることが好ましく、7~50%であることがより好ましい。
【0032】
なお、ウレタンプレポリマーの製造において、ジオール(C-1)を用いる場合の仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、通常は例えば1~50質量%とすることができるが、3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、ジオール(C-1)の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常1~50%であり、3~40%であることが好ましく、5~30%であることがより好ましい。
また、ウレタンプレポリマーの製造において、ジオール(C-2)を用いる場合の仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、通常は例えば1~25質量%とすることができるが、1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましい。
すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、ジオール(C-2)の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常1~25%であり、1~20%であることが好ましく、2~15%であることがより好ましい。
本発明の一形態においてウレタンプレポリマーの製造に後述する「ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール」を使用する場合には、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールの仕込み量を上記合計量に算入する。
【0033】
(第3級アミン化合物又はその塩)
第3級アミン化合物及び/又はその塩は、上記ウレタンプレポリマーの製造に使用され、以下の式(5)で表される。
式(5):
【化22】
R
23におけるアミノアルキル基は、好ましくは-(CH
2)
2-NH
2又は-(CH
2)
3-NH
2である。R
24におけるアミノアルキル基は、好ましくは-(CH
2)
2-NH
2である。R
23及びR
24におけるヒドロキシアルキル基は、好ましくは-(CH
2)
2-OHである。R
24におけるN-アルキルアミノアルキル基は、好ましくは-(CH
2)
2-NH-CH
3である。
【0034】
第3級アミン化合物及びその塩の活性水素が上記のポリイソシアネートと反応することで、第3級アミン化合物及び/又はその塩に由来する基が導入されたウレタンプレポリマーが得られる。
なお、第3級アミン化合物及びその塩には活性水素が2個以上含まれており、例えば、
アミノ基、ヒドロキシ基、N-アルキルアミノ基等の活性水素を有する置換基が2個以上含まれていることが好ましい。また、N-アルキルアミノ基としては、2-メチルアミノ基が好ましい。
【0035】
(第3級アミン化合物及び/又はその塩の仕込み量)
後述するウレタンプレポリマーの製造において、第3級アミン化合物及び/又はその塩の仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩の合計量に対して、通常は例えば1~20質量%とすることができるが、2~15質量%であることが好ましい。
すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、式(5)の第3級アミン化合物及び/又はその塩由来の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常1~20%であり、2~15%であることが好ましい。
本発明の一形態においてウレタンプレポリマーの製造に後述する「ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール」を使用する場合には、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールの仕込み量を上記合計量に算入する。
【0036】
(第3級アミン化合物の種類)
第3級アミン化合物としては、活性水素を2個以上有する第3級アミンであれば特に限定されず、例えば、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン等のN-アミノアルキルジアルカノールアミン、トリエタノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、1-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ2-プロパノール等の置換基を有してもよいトリアルカノールアミン、2,2’-ジアミノ-N-メチルジエチルアミン、N,N’,N’’-トリメチルジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン等の第3級アミンが挙げられる。これら第3級アミンは、ギ酸、酢酸等の有機酸、塩酸、硫酸等の無機酸との塩として用いてもよいし、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、ヨウ化メチル等のアルキル化剤により4級塩化したものを用いてもよい。第3級アミン化合物としては、N-アミノアルキルジアルカノールアミン、特に、N-メチルジエタノールアミンが好ましい。
【0037】
本実施形態のカチオン性基含有ウレタン樹脂は、第3級アミン化合物に由来する構造部分(第3級アミン)の一部又は全部を酸などで中和したものである。この場合に使用される酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸等の有機カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、臭素酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。これらの酸は、1種単独を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、第3級アミン化合物に由来する構造部分(第3級アミン)の一部又は全部は4級化されていてもよい。4級化する場合に使用される4級化剤としては、具体的には、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸エステル、メチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルアイオダイド等のアルキルハライド、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステルが挙げられる。これらの4級化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、中和剤としての酸と4級化剤を併用してもよい。
なお、本明細書において、これらの酸及び4級化剤をイオン化剤という場合がある。
【0038】
本明細書において、「アルキル基」、あるいは、ハロゲン化アルキル基、アミノアルキル基、ヒドロキシアルキル基、N-アルキルアミノアルキル基等に含まれる「アルキル基
」は特に限定されないが、通常炭素数20以下のアルキル基であり、炭素数12以下のアルキル基であってよく、炭素数6以下のアルキル基であってよい。典型的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。
また、「アルキレン基」も特に限定されないが、通常炭素数20以下のアルキレン基であり、炭素数12以下のアルキレン基であってよく、炭素数6以下のアルキレン基であってよい。典型的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、sec-ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、イソへキシレン基、3-メチルペンチレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基などが挙げられる。
なお、ハロゲン化アルキル基は、上記アルキル基における1以上の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子に置換されたものが挙げられる。
【0039】
(ウレタンプレポリマーの製造に使用され得るその他の成分)
本実施形態のウレタンプレポリマーの製造には、上記以外のその他の成分を用いてもよい。その他の成分としては、例えば、上記ポリイソシアネート以外のポリイソシアネート、上記ポリオール及び上記ジオール以外のベンゼン環及び窒素原子を含まないポリオール、有機溶剤、上記第3級アミン化合物以外のポリアミン化合物、イオン化剤、酸、有機金属化合物等が挙げられる。
【0040】
(ポリイソシアネート以外のポリイソシアネート)
上記ポリイソシアネート以外のポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6-ジイソシアネート)ヘキサノエート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;m-又はp-フェニレンジイソシアネート、トリレン-2,4-又は2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(2-イソシアネート-2-プロピル)ベンゼン、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネート-3,3’-ジメチルジフェニル、3-メチル-ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、2-イソシアネートエチル(2,6-ジイソシアネート)ヘキサノエートなどの脂肪族トリイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートなどの芳香族トリイソシアネート;等が挙げられる。上記ポリイソシアネート以外のポリイソシアネートは、ウレトジオン構造のような2量体、イソシアヌレート構造のような3量体であってもよく、多官能ポリオールを用いたアダクト体として1分子中に3個以上のイソシアネート基を持つポリイソシアネートであってもよい。
【0041】
これらの中でも、芳香族ジイソシアネート、芳香族トリイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネートを用いることが好ましく、芳香族ジイソシアネートを用いることがより好ましい。その他の成分の含有量、及びウレタンプレポリマーにおけるその他の成分由来の構造の存在量としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、当業者が適宜設定できる。
【0042】
(上記式(2)で表されるポリオール並びに上記式(3)及び式(4)で表されるジオール以外のポリオール)
上記式(2)で表されるポリオール並びに上記式(3)及び式(4)で表されるジオール以外のポリオールとしては、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールを用いることができ、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールのうち、トリメチロールプロパン(TMP)が好ましい。ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールをウレタンプレポリマーの製造に使用する場合には、その仕込み量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用されるポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、第3級アミン化合物及び/又はその塩、並びに、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールの合計量に対して、0.5~18質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。すなわち、本実施形態で用いられるウレタンプレポリマー中において、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール由来の構造単位の存在量(質量換算)は、ウレタンプレポリマー中に、通常0.5~18%であり、3~15%であることが好ましい。
【0043】
本実施形態にかかるプレタンプレポリマー及びカチオン性基含有ウレタン樹脂は、分岐構造を有するものであることが好ましい。分岐構造を導入する方法としては、上述のように、ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオールを使用する方法を挙げることができるが、この方法に限られるものではない。
【0044】
ウレタンプレポリマーの製造、及び/又はカチオン性基含有ウレタン樹脂の製造において、有機溶剤を用いてよい。有機溶剤は、上述した各成分を反応させるための溶媒として使用される。このような有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤;アセトニトリル、アクリルニトリル等のニトリル系溶剤;メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のアクリレート系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤が挙げられる。
これら有機溶剤は、ウレタンプレポリマーやカチオン性基含有ウレタン樹脂の製造後に、環境への負荷低減の観点から必要に応じて減圧蒸留法によって除いても構わない。
【0045】
本実施形態の複合体及び水性樹脂組成物は、下記の方法で製造することができる。
ポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、第3級アミン化合物及び/又はその塩等、を有機溶剤に溶解させて反応させることによって末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造する。
尚、有機溶剤として、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの任意の有機溶剤を使用することができる。
続いて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーに対して不飽和重合性モノマーを添加し、均一溶液とした後、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー中の第3級アミンの一部又は全てをイオン化剤によってイオン化し、水を添加することで乳化させ、必要によりポリアミン化合物を添加して鎖伸長反応をすることによりカチオン性基含有ウレタン樹脂を生成させることができる。
尚、不飽和重合性モノマーが分子内に活性水素基を含有しない場合は、他の成分(ポリイソシアネート、ポリオール、2種以上のジオール、並びに第3級アミン化合物及び/又はその塩等)を混合する際に不飽和重合性モノマーも混合してもよい。
さらに鎖伸長と同時又は反応後に、不飽和重合性モノマーを重合して不飽和重合性モノマー重合体を生成させ、有機溶剤を減圧留去することにより、本発明の一形態にかかる複合体を含む水性樹脂組成物を製造できる。
なお、本明細書において「複合体」とは、カチオン性基含有ウレタン樹脂と不飽和重合
性モノマー重合体との複合高分子エマルションを意味する。より具体的には、カチオン性基含有ウレタン樹脂を乳化剤として、不飽和重合性モノマー重合体を乳化した複合高分子エマルションを意味する。
【0046】
本発明の一形態にかかる複合体を製造する際には、ウレタンプレポリマーの製造に使用される各成分の合計質量(YM)と、前記不飽和重合性モノマーの質量(XM)との比[XM/YM]が20/80~60/40の範囲内となるように調整することが好ましく、[XM/YM]が30/70~60/40の範囲内となるように調整することがより好ましい。
【0047】
(ポリアミン化合物)
上記カチオン性基含有ウレタン樹脂の製造に使用される鎖伸長剤としてのポリアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、2-アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン;N-ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N-エチルアミノエチルアミン、N-メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン;ヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β-セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3-セミカルバジドプロピルカルバジン酸エステル、セミカルバジド-3-セミカルバジドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン;等を使用することができる。この中でも、ヒドラジン又はエチレンジアミンを使用することが好ましい。
【0048】
鎖伸長剤を用いる場合、ポリアミン化合物の仕込み量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~5質量部であることがより好ましい。
【0049】
さらに、本発明の一形態にかかる水性樹脂組成物には、必要に応じて一般的に使用される各種添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、例えば、耐候剤、抗菌剤、抗カビ剤、顔料、充填材、防錆剤、顔料、染料、造膜助剤、無機架橋剤、有機架橋剤(例えばブロックドイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤等)、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機、有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
また、本実施形態にかかる水性樹脂組成物は、一般の塗料として広く用いることができるが、特に金属表面処理剤などの塗料として使用するのに適している。
本実施形態にかかる水性樹脂組成物は、塗料などの各種用途に応じた有効成分として上記複合体を含有することが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を用いて、本実施形態にかかる複合体及びその複合体を含有する水性樹脂組成物並びに塗料について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
実施例及び比較例の塗料の調製に先立って、各種塗料の調製に用いた各種複合体の合成方法について以下に示す。
【0052】
<合成例1>
ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE-20T、三洋化成工業社製)37.8g、ポリエチレングリコール(PEG2000、第一工業製薬社製)40.3g、ジエチレングリコール(ジエチレングリコール、日本触媒社製)17.6g、N-メチルジエタノールアミン(アミノアルコールMDA、日本乳化剤社製)17.6g、イソホロンジイソシアネート(デスモジュールI、バイエル社製)138.7g、メタクリル酸メチル(関東化学株式会社製)168g、をメチルエチルケトン150gに加え、十分に溶解させた。この混合溶液を50℃で約5時間反応させた後、3質量%以下のイソシアネート基が含まれることを確認した。続いて、この溶液を45℃まで冷却し、硫酸ジメチル10gを加えた。次いで、水1500gを加えて、過硫酸カリウム1.3gを添加し、75℃で3時間反応させた後、50℃で減圧蒸留法によってメチルエチルケトンを除去し、25%の不揮発分(複合体を含む)を含む水性樹脂組成物を得た。なお、イソシアネート基の含有率は、JIS K7301:1995に則り、反応溶液2gをジメチルホルムアミドに溶解させ、n-ジブチルアミン-トルエン溶液10mlを加えた後、ブロモフェノールブルーを指示薬に用いて、0.5mol/Lの塩酸液で滴定し、以下の式を用いて算出することができる。
【数1】
(式中、Aは所定量の反応溶液を調製する際に使用したイソシアネート量(質量)に対して滴定に要した塩酸液の体積を、Bは反応溶液に対して滴定に要した塩酸液の体積を、fは「1」を、Nは塩酸標準溶液のモル濃度を、Sは反応溶液の質量をそれぞれ意味する。)
【0053】
<合成例2~45>
表1及び表2に示す各成分及び仕込み量(質量%)にした以外は、合成例1と同様の方法で、25%の不揮発分(複合体を含む)を含む合成例2~45の水性樹脂組成物を得た。
【0054】
<合成例46>
表2に示す各成分及び仕込み量(質量%)で、かつ、硫酸ジメチル10gに代えて85%リン酸10gを用いた以外は、合成例1と同様の方法で、25%の不揮発分(複合体を含む)を含む合成例46の水性樹脂組成物を得た。
【0055】
<合成例47>
表2に示す各成分及び仕込み量(質量%)で、かつ、硫酸ジメチル10gに代えてギ酸4gを用いた以外は、合成例1と同様の方法で、25%の不揮発分(複合体を含む)を含む合成例47の水性樹脂組成物を得た。
【0056】
<比較合成例1~4>
表3に示す各成分及び仕込み量(質量%)にした以外は、合成例1と同様の方法で、25%の不揮発分(複合体を含む)を含む比較合成例1~4の水性樹脂組成物を得た。
【0057】
表1~3に記載の各成分は、次の通りである。なお、表1~3に記載のウレタンプレポリマーの製造に使用する各成分の仕込み量(質量%)は、以下の各成分(A)~(E)の合計量を基準として計算した。
<ポリイソシアネート(A;以下の一部が、シクロヘキサン環構造を有するポリイソシア
ネートである)>
A1:イソホロンジイソシアネート(デスモジュールI、バイエル社製)
A2:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(デスモジュールW、バイエル社製)
A3: 1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(タケネート600、三井化学社製)
A4:ヘキサメチレンジイソシアネート(50M-HDI、旭化成社製)
<ポリオール(B)>
B1:ビスフェノールA-ポリオキシエチレン2モル付加体(ニューポールBPE20T、三洋化成工業社製)
B2:芳香族二塩基酸ポリエステルポリオール(テスラック2508-70、日立化成社製)
B3:ポリカーボネートジオール(ニッポラン981、東ソー社製)
<ジオール(C;以下の一部が、ベンゼン環及び窒素原子を含まないジオールである)>C1:ポリエチレングリコール(PEG2000、Mw2000、三洋化成工業社製)
C2:ポリエチレングリコール(PEG400、Mw400、三洋化成工業社製)
C3:ポリエチレングリコール(PEG1000、Mw1000、三洋化成工業社製)
C4:ポリエチレングリコール(PEG4000、Mw4000、三洋化成工業社製)
C5:ポリエステルポリオール(ニッポラン4040、Mw2000、東ソー社製)
C6:ポリカーボネートグリコール(ニッポラン982R、Mw2000、東ソー社製)C7:エチレングリコール(エチレングリコール、Mw62、日本触媒社製)
C8:ジエチレングリコール(ジエチレングリコール、Mw106、日本触媒社製)
<第3級アミン(D)>
D1:N-メチルジエタノールアミン(アミノアルコールMDA、日本乳化剤社製)
<その他(ベンゼン環及び窒素原子を含まないトリオール以上のポリオール)(E)>
E1:トリメチロールプロパン(TMP、Perstorp社製)
<不飽和重合性モノマー(X)>
x1:メタクリル酸メチル(関東化学株式会社製)
x2:アクリル酸ブチル(関東化学株式会社製)
x3:メタクリル酸メチル+スチレン(関東化学株式会社製)[質量比1:1]
【0058】
<供試材(金属材料)>
供試材には、以下のものを用いた。
GI:溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面50g/m2)
EG:電気亜鉛めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面20g/m2)
GL:溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板(板厚:0.4mm、めっき付着量:片面75g/m2)
【0059】
<塗料の調製>
合成例及び比較合成例の各水性樹脂組成物100質量部に、水186質量部、コロイダルシリカ20質量部、75%リン酸10質量部、及びシランカップリング剤(KBM-403、信越シリコーン社製)10質量部を加えて十分に混合して、実施例及び比較例の塗料をそれぞれ調製した。
【0060】
<表面処理>
アルカリ脱脂剤[ファインクリーナーE6406(日本パーカライジング社製)を20g/Lとなるように水に混合した溶液]を用いて、60℃で10秒間スプレーすることにより、各種供試材を脱脂した。その後、水を10秒間スプレーすることにより水洗した。水洗した各種供試材に、各種塗料をバーコート法で塗布した後、150℃(PMT:焼き付け時の供試材の最高板温)で乾燥することにより、膜厚2μmの塗膜を形成した。
【0061】
<評価試験>
(耐食性)
上記のようにして表面処理が行われた各種処理板(No.1~53)について、各種耐食性試験を行った。評価方法及び評価基準は以下の通りである。
【0062】
・平面部耐食性試験
塩水噴霧試験法(JIS-Z-2371:2015)に基づき、中性塩水噴霧を120時間行った後、発生した白錆の面積割合(%)を求めて、以下の基準により平面部耐食性を評価した。なお、本評価においては、C以上を合格とした。
A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上30%未満
D:30%以上
【0063】
・加工部耐食性試験
各種処理板をエリクセン試験機にて6mm押出し加工を行った後、塩水噴霧試験法(JIS-Z-2371:2015)に基づき中性塩水噴霧を72時間行った後、発生した白錆の面積割合(%)を求めて、以下の基準により加工部耐食性を評価した。なお、本評価においては、C以上を合格とした。
AA:5%未満
A:5%以上10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上30%未満
D:30%以上
【0064】
・アルカリ脱脂部耐食性試験
処理板に、アルカリ脱脂剤(表面処理で使用したものと同じ)を2分間スプレーし、水洗して、乾燥させた。その後、塩水噴霧試験法(JIS-Z-2371:2015)に基づき、中性塩水噴霧を72時間行った後、発生した白錆の面積割合(%)を求めて、以下の基準により耐アルカリ性を評価した。なお、本評価においては、C以上を合格とした。A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上30%未満
D:30%以上
【0065】
(耐熱変色性試験(耐熱性))
処理板をオーブンにて200℃で1時間加熱し、加熱前後の色差(ΔE)を、色差計(日本電色社製)を用いて求め、以下の評価基準に基づいて耐熱性を評価した。本評価においては、C以上を合格とした。
A:△Eが2未満
B:△Eが2以上3未満
C:△Eが3以上5未満
D:△Eが5以上
【0066】
(耐溶剤性試験)
メチルエチルケトン(MEK)を浸透させたガーゼを各種処理板に1kg荷重で押さえつけながら10往復摺動させた後、摺動前後における色差(ΔE)を、色差計を用いて求め、以下の評価基準に基づいて耐溶剤性を評価した。本評価においては、C以上を合格とした。
A:△Eが0.5未満
B:△Eが0.5以上1未満
C:△Eが1以2未満
D:△Eが2以上
【0067】
<評価結果>
以上の評価試験の結果を以下の表4~表6に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】