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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ワークの不良原因特定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20220128BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220128BHJP
   G03G 5/00 20060101ALI20220128BHJP
   G01N 21/952 20060101ALI20220128BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 302Y
G03G5/00 101
G01N21/952
G01N21/88 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017246136
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019113994
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 巧
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188015(JP,A)
【文献】特開2003-108213(JP,A)
【文献】特開2007-148910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G05B 23/00-23/02
G05Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを処理する複数の生産工程と、所定の生産工程から次の生産工程までワークを搬送する搬送工程とを含み、前記各工程を経て得られたワークに対し検査を行って良否を判定するとともに、不良と判定されたワークの不良の原因を特定するようにしたワークの不良原因特定方法において、
各工程において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データの中から、不良と判定されたワークに対する各工程の処理条件データを抽出し、その抽出データを基に不良の原因を特定する一方、
前記処理条件データに、前記搬送工程におけるワークの搬送時間を含む搬送関連時間に関する搬送関連時間データが含まれており、
前記搬送工程は複数設けられ、
複数の前記搬送工程のうち少なくとも2つ以上の搬送工程における各搬送時間の合計を搬送関連時間とすることを特徴とするワークの不良原因特定方法。
【請求項2】
前記搬送工程は複数設けられ、
前記搬送工程における全ての搬送時間の合計を前記搬送関連時間とする請求項に記載のワークの不良原因特定方法。
【請求項3】
各生産工程におけるワークの処理に要した時間をそれぞれ処理時間とし、各処理時間のうち少なくとも1つ以上の処理時間が、前記搬送関連時間に含まれている請求項1または2に記載のワークの不良原因特定方法。
【請求項4】
前記生産工程は、ワークに対し、熱処理を施す熱処理工程、引抜加工を行う引抜工程、切断加工を行う切断工程、洗浄処理を施す洗浄工程のうち、少なくとも1つ以上の工程が含まれている請求項1~のいずれか1項に記載のワークの不良原因特定方法。
【請求項5】
処理される全てのワークにおける搬送関連時間の平均値を搬送関連時間平均値とし、
不良と判定されたワークの前記搬送関連時間データを、前記搬送関連時間平均値と照合してワークの不良原因を特定するようにした請求項1~のいずれか1項に記載のワークの不良原因特定方法。
【請求項6】
ワークを処理する複数の生産工程と、所定の生産工程から次の生産工程までワークを搬送する搬送工程とを含み、前記各工程を経て得られたワークの良否を判定するようにしたワークの良否判定方法であって、
請求項1~のいずれか1項に記載されたワークの不良原因特定方法によって不良原因を予め特定しておき、その不良原因に基づいてワークの良否を判定するようにしたことを特徴とするワークの良否判定方法。
【請求項7】
前記各工程において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データを参照することにより、前記各工程を経た各ワークの中から、不良原因を構成する処理条件と同じ処理が実施されたワークを選出し、その選出したワークを不良と判定するようにした請求項に記載のワークの良否判定方法。
【請求項8】
ワークを処理する複数の生産工程部と、所定の生産工程部から次の生産工程部までワークを搬送する搬送手段と、生産されたワークに対し検査を行って良否を判定する良否判定手段と、不良と判定されたワークの不良の原因を特定する不良原因特定手段とを備えたトレーサビリティシステムにおいて、
前記不良原因特定手段は、生産工程部および搬送手段において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データの中から、不良と判定されたワークに対する各工程の処理条件データを抽出し、その抽出データを基に不良の原因を特定するように構成され、
前記不良原因特定手段は、前記処理条件データとして、前記搬送手段によるワークの搬送時間を含む搬送関連時間に関する搬送関連時間データを取得するように構成されており、
前記搬送手段は複数設けられ、
複数の前記搬送手段のうち少なくとも2つ以上の搬送手段における各搬送時間の合計を搬送関連時間とすることを特徴とするトレーサビリティシステム。
【請求項9】
ワークを処理する複数の生産工程部と、所定の生産工程部から次の生産工程部までワークを搬送する搬送手段と、生産されたワークに対し検査を行って良否を判定する良否判定手段とを備えたワークの良否判定システムにおいて、
前記良否判定手段は、請求項に記載のトレーサビリティシステムによって予め特定された不良原因に基づいてワークの良否を判定するように構成されていることを特徴とするワークの良否判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の処理が施されて生産されたワークが不良と判定された際に、その不良の原因を特定するようにしたワークの不良原因特定方法およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機等の電子写真システムにおいて、感光ドラムとして用いられる感光ドラム用基体等の円筒体は、例えば押出加工や引抜加工されたアルミニウム合金製の長尺な管状体(素管)を所定長さに切断して製造される。特許文献1等に示すように、切断後の円筒体(分割品)に対しては、各種の検査によって良否が判定されて、その検査結果を基にして合格品と不合格品とを判別するようにしている。
【0003】
一方、感光ドラム用基体に限られず、不良品の発生を抑制して、生産効率(歩留まり)の向上やコストの削減を効果的に図るためには、不良原因を特定して、その不良原因を製造ラインから取り除くことが不可欠である。このため従来においては例えば、トレーサビリティを導入して、不良品が発生した際に、その不良品の製造過程での各工程においてどのような処理が実施されていたか等の処理条件(処理状況)をさかのぼって調査し、不良原因を特定する方法が多く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-345051号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、上記のような感光ドラム用基体の製造方法において、不良原因を特定する場合主として、加工工程での処理条件例えば、引抜加工時の引抜力や切断時の圧力を参照して、不良原因を特定するようにしている。
【0006】
しかしながら、不良の原因には様々な要素があり、未だ究明されていない不良原因が多く残されている。このため従来においては不良原因を明確に特定できない場合もあり、そのような場合、製造ラインを改善することが困難となり、生産性の向上やコストの削減を図ることが困難であるという課題があった。
【0007】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、不良原因をより明確に特定することができ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができるワークの不良原因特定方法およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0009】
[1]ワークを処理する複数の生産工程と、所定の生産工程から次の生産工程までワークを搬送する搬送工程とを含み、前記各工程を経て得られたワークに対し検査を行って良否を判定するとともに、不良と判定されたワークの不良の原因を特定するようにしたワークの不良原因特定方法において、
各工程において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データの中から、不良と判定されたワークに対する各工程の処理条件データを抽出し、その抽出データを基に不良の原因を特定する一方、
前記処理条件データに、前記搬送工程におけるワークの搬送時間を含む搬送関連時間に関する搬送関連時間データが含まれていることを特徴とするワークの不良原因特定方法。
【0010】
[2]前記搬送工程は複数設けられ、
複数の前記搬送工程のうち少なくとも2つ以上の搬送工程における各搬送時間の合計を搬送関連時間とする前項1に記載のワークの不良原因特定方法。
【0011】
[3]前記搬送工程は複数設けられ、
前記搬送工程における全ての搬送時間の合計を前記搬送関連時間とする前項1または2に記載のワークの不良原因特定方法。
【0012】
[4]各生産工程におけるワークの処理に要した時間をそれぞれ処理時間とし、各処理時間のうち少なくとも1つ以上の処理時間が、前記搬送関連時間に含まれている前項1~3のいずれか1項に記載のワークの不良原因特定方法。
【0013】
[5]前記生産工程は、ワークに対し、熱処理を施す熱処理工程、引抜加工を行う引抜工程、切断加工を行う切断工程、洗浄処理を施す洗浄工程のうち、少なくとも1つ以上の工程が含まれている前項1~4のいずれか1項に記載のワークの不良原因特定方法。
【0014】
[6]処理される全てのワークにおける搬送関連時間の平均値を搬送関連時間平均値とし、
不良と判定されたワークの前記搬送関連時間データを、前記搬送関連時間平均値と照合してワークの不良原因を特定するようにした前項1~5のいずれか1項に記載のワークの不良原因特定方法。
【0015】
[7]ワークを処理する複数の生産工程と、所定の生産工程から次の生産工程までワークを搬送する搬送工程とを含み、前記各工程を経て得られたワークの良否を判定するようにしたワークの良否判定方法であって、
前項1~6のいずれか1項に記載されたワークの不良原因特定方法によって不良原因を予め特定しておき、その不良原因に基づいてワークの良否を判定するようにしたことを特徴とするワークの良否判定方法。
【0016】
[8]前記各工程において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データを参照することにより、前記各工程を経た各ワークの中から、不良原因を構成する処理条件と同じ処理が実施されたワークを選出し、その選出したワークを不良と判定するようにした前項7に記載のワークの良否判定方法。
【0017】
[9]ワークを処理する複数の生産工程部と、所定の生産工程部から次の生産工程部までワークを搬送する搬送手段と、生産されたワークに対し検査を行って良否を判定する良否判定手段と、不良と判定されたワークの不良の原因を特定する不良原因特定手段とを備えたトレーサビリティシステムにおいて、
前記不良原因特定手段は、生産工程部および搬送手段において実施された処理に関する処理条件データを各ワーク毎に取得しておき、その処理条件データの中から、不良と判定されたワークに対する各工程の処理条件データを抽出し、その抽出データを基に不良の原因を特定するように構成され、
前記不良原因特定手段は、前記処理条件データとして、前記搬送手段によるワークの搬送時間を含む搬送関連時間に関する搬送関連時間データを取得するように構成されていることを特徴とするトレーサビリティシステム。
【0018】
[10]ワークを処理する複数の生産工程部と、所定の生産工程部から次の生産工程部までワークを搬送する搬送手段と、生産されたワークに対し検査を行って良否を判定する良否判定手段とを備えたワークの良否判定システムにおいて、
前記良否判定手段は、前項9に記載のトレーサビリティシステムによって予め特定された不良原因に基づいてワークの良否を判定するように構成されていることを特徴とするワークの良否判定システム。
【発明の効果】
【0019】
発明[1]のワークの不良原因特定方法によれば、搬送工程の搬送時間を不良原因の候補とし、その搬送時間を含む搬送関連時間データに基づいて、不良原因を特定するようにしているため、従来解明できなかった搬送時間に関連した不良原因を明確に特定することができる。
【0020】
発明[2]~[6]のワークの不良原因特定方法によれば、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【0021】
発明[7][8]のワークの良否判定方法によれば、発明[1]~[6]の不良原因に基づいて、ワークの良否を判定するようにしているため、ワークの検査精度をより一層向上させることができる。
【0022】
発明[9]のトレーサビリティシステムによれば、上記の方法発明と同様に同様の効果を得ることができる。
【0023】
発明[10]のワークの良否判定システムによれば、上記と同様にワークの検査精度をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1はこの発明の実施形態であるワークの不良原因特定方法が採用された円筒体の製造過程の各工程を示すブロック図である。
図2A図2Aは実施形態の長寸円筒体の製造過程における第1搬送工程および熱処理工程を説明するための図である。
図2B図2Bは実施形態の短寸円筒体の製造過程における第1搬送工程および熱処理工程を説明するための図である。
図3A図3Aは実施形態の長寸円筒体の製造過程における引抜工程および第3搬送工程を説明するための図である。
図3B図3Bは実施形態の短寸円筒体の製造過程における引抜工程および第3搬送工程を説明するための図である。
図3C図3Cは実施形態の引抜工程における加工時間と引抜力との関係を説明するためのグラフである。
図4A図4Aは実施形態の長寸円筒体の製造過程における切断工程および洗浄工程を説明するための図である。
図4B図4Bは実施形態の短寸円筒体の製造過程における切断工程および洗浄工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<製造過程の概要>
図1はこの発明の実施形態であるワークの不良原因特定方法が採用された円筒体製造過程の各工程を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態において製造される円筒体(管状体)は例えば、電子写真システムを構成する複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機等において、感光ドラム、転写ローラ、その他の各部に利用されるものである。
【0026】
図1に示すように本実施形態において円筒体を製造するに際しては主として、搬入された材料である素管を、コンベア(搬送装置)によって加熱装置(加熱炉)まで搬送する第1搬送工程と、素管を加熱して放熱する熱処理工程と、熱処理された素管をコンベア(搬送装置)によって引抜装置(引抜加工装置)まで搬送する第2搬送工程と、素管の端部を縮径加工(口付加工)し、その素管に対し引抜装置によって引抜加工を行う引抜工程と、引抜加工後の素管をコンベア(搬送装置)によって切断装置まで搬送する第3搬送工程と、素管を切断装置によって切断して複数の分割品(円筒体)を得る切断工程と、切断された分割体(切断品)をコンベア(搬送装置)によって洗浄装置まで搬送する第4搬送工程と、分割品(円筒体)を洗浄装置によって洗浄する洗浄工程と、洗浄された円筒体を排出する第5搬送工程とを含んでいる。そして処理された円筒体に対し製品検査(分割品に対する検査)が行われて、良否が判定される。
【0027】
なお本実施形態においては、第1~第5搬送工程の各搬送装置(第1~第5搬送装置)が搬送手段を構成するとともに、加熱装置、引抜装置、切断装置および洗浄装置が生産工程部を構成するものである。さらに本実施形態においては,熱処理工程、引抜工程、切断工程および洗浄工程によって生産工程が構成されるものであり、生産工程には、製品検査(検査工程)は含まれない。
【0028】
また本実施形態において、第1~第5搬送工程の各搬送装置、加熱装置、引抜装置、切断装置、洗浄装置、自動検査装置の各駆動部は、マイクロコンピュータ等によって構成される制御装置C1…によって制御されて、各工程での各種の処理が行われるようになっている。さらに各制御装置C1…は、情報データベースDB1と、トレースデータベースDB2とに接続されている。情報データベースDB1には、後述するように各工程での処理条件(状況)に関する情報(処理条件データ)等が保持されるとともに、トレースデータベースDB2には、後述するようにワーク(素管)の分割前後の位置関係に関する情報(分割前後位置データ)等が保持されている。そしてデータベースDB1、DB2に保持された情報を基に、製品検査が行われるようになっている。
【0029】
なお本実施形態においては、各工程を管理する制御装置C1…を統括して管理するホストコンピュータ等の主制御装置を設けるようにしても良い。
【0030】
また本実施形態においては、処理条件に関する情報を保持する情報データベースDB1と、トレース情報に関する情報を保持するトレースデータベースDB2との2つのデータベースを用いているが、それだけに限られず、本発明においては、これらの情報を1つのデータベースで統括して管理しても良いし、3つ以上のデータベースに適宜分割して管理するようにしても良い。
【0031】
また本実施形態において、ワークとは、切断前の素管、切断後の切断品および分割品としての円筒体、最終製品を全て含むものである。
【0032】
さらに本実施形態においては、データベースDB1,DB2が搬送関連時間保持手段として機能するものである。
【0033】
<第1搬送工程>
図2Aおよび図2Bは長寸円筒体および短寸円筒体の製造過程における第1搬送工程および熱処理工程を説明するための図である。なお図2Aおよび図2Bにおいて、素管(ワーク)W1上に記載された破線は、後工程の切断工程における素管W1の切断位置に対応する位置を示している(以下の図3A図3B図4Aおよび図4Bにおいても同じ)。
【0034】
図2A図2Bに示すように第1搬送工程において搬送される素管W1は、例えばアルミニウム合金製の押出管等によって構成されている。
【0035】
この第1搬送工程においては、素管W1がコンベア(第1搬送装置)によって熱処理工程の加熱装置(加熱炉)2に向けて順次搬送される。
【0036】
本実施形態において、搬送される素管W1にはそれぞれ個別の番号(ID番号、シリアル番号)が付与されている。
【0037】
また第1搬送工程での制御装置C1(図1参照)は、搬送する素管W1の個別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、素管W1が、第1搬送装置に搬入された時点から次工程(熱処理工程)の加熱炉2に搬送されるまでの時間(搬送時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各素管W1毎の搬送時間を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として、制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報(処理条件データ)を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0038】
<熱処理工程>
図2Aおよび図2Bに示すように、熱処理工程における加熱処理では、加熱炉2に所定数の素管W1毎にまとめて加熱するバッチ方式で行う場合と、加熱炉2に素管W1を順次通過させつつ加熱する連続方式で行う場合とがある。
【0039】
本実施形態においては、連続方式で加熱するものである。また加熱炉2用の制御装置C1は、処理する素管W1の個別番号を取得できるとともに、温度センサからの情報に基づいて、炉内温度を取得できるようになっている。さらに制御装置C1は、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、素管W1が、加熱炉2を通過する時間(加熱処理時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各素管W1毎の加熱時間、加熱温度に関する情報を、制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報(処理条件データ)を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0040】
一方本実施形態において、加熱炉2を通過した後、素管W1は放熱処理されて、素管温度を所定の温度まで低下させるようにしている。本実施形態においては、この放熱処理も熱処理工程の一部として取り扱っている。
【0041】
<第2搬送工程>
第2搬送工程においては、熱処理工程において放熱処理された後の素管W1が、コンベア(第2搬送装置)によって引抜工程の引抜装置まで順次搬送される。
【0042】
また第2搬送工程での制御装置C1は上記と同様、搬送する素管W1の個別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、素管W1が、第2搬送装置に搬入された時点からの引抜装置に搬送されるまでの時間(搬送時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各素管W1毎の搬送時間を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として、制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0043】
<引抜工程>
図3Aおよび図3Bに示すように引抜加工においては、口付加工により先端部に口付加工部W0が形成された素管W1の口付加工部W0をクランプした状態で、引抜ダイス3内を通過させることにより、縮径させつつ引き延ばすように加工する。この引抜加工においては、素管W1を引っ張る際の圧力(引込力)を計測することによって、素管材料に加わる負荷による良否を簡易的に評価することができる。
【0044】
一方、引抜加工を実施することによって、素管W1は延びて長さ寸法や径寸法が変化するが、延び変化率や径変化率等の変化率(変形率)は設計値であり生産中は一定であるため、素管W1における引抜加工前の長さから、引抜加工後の長さを正確に算出することができる。
【0045】
本実施形態においては、引抜加工装置の制御装置C1(図1参照)は、加工される素管W1の識別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、引抜加工に要した時間(引抜時間)を取得できるようになっている。さらに本実施形態においては図3Cに示すように加工される素管W1の引抜開始時点から終了時点までの引張圧力の経時変化を取得できるようになっている。そしてこれらの情報に基づいて、引抜加工後において各素管W1毎に、素管W1のどの位置(部位)にどの程度の負荷(圧力)が加わったかの情報(位置毎の引張圧力情報)を算出できるようになっており、これらの情報が情報データベースDB1に保持されている。そして必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、上記の部位毎の引張圧力情報や引抜時間情報を情報データベースDB1から切り出すことができるようになっている。
【0046】
また本実施形態において制御装置C1は、図3Cに示すように引抜加工装置に設置された振動センサからの情報を基に、引抜加工中にビビリ振動が発生したか否かを検出できるようになっている。さらにビビリ振動が発生した際には、引抜開始時点からの経過時間を基に、ビビリ欠陥が加工後の素管W1のどの位置で発生したかの情報を算出できるようになっており、その情報が情報データベースDB1に保持される。本実施形態において、ビビリの発生位置に関する情報や、上記の素管の位置毎の引張圧力情報や引抜時間情報は、処理条件データを構成するものである。
【0047】
ところで本実施形態においては、引抜加工による延び率(変化率)を基に、引抜加工後の素管W1の各位置(各部位)が引抜加工前の素管W1のどの位置(部位)に対応するかの情報(引抜前後の対応位置情報)を算出するようにしている。ここで、引抜加工による延び率は、素管材料、引抜ダイス、加工条件の公差等の各種の要因によって微妙に変化するが、所定の公差を考慮した計算式を用いることによって、引抜加工後の各位置が引抜加工前のどの位置に対応するかを正確に把握することができる。さらに引抜加工後にセンサ等を用いて素管長さを測定するようにすれば、その実測値を基に、引抜前後の対応位置をより正確に把握することができる。
【0048】
本実施形態において、算出された引抜前後の対応位置情報は、トレースデータベースDB2に保持される。そして必要時に、トレースデータベースDB2から、引抜加工されたいずれの素管W1に対しても、引抜加工後の各位置(部位)が引抜加工前のどの位置に対応するかの情報を切り出すことができるようになっている。
【0049】
<第3搬送工程>
第3搬送工程においては、引抜加工された後の素管W1が、コンベア(第3搬送装置)によって切断工程の切断装置まで順次搬送される。
【0050】
また第3搬送工程での制御装置C1は上記と同様、搬送する素管W1の個別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、素管W1が、第3搬送装置に搬入された時点から切断装置に搬送されるまでの時間(搬送時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各素管W1毎の搬送時間を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として、制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0051】
<切断工程>
図4Aおよび図4Bに示すように切断工程においては、素管W1の先端部における口付加工部W0と、後端部における終端部WEとを切除するとともに、残りの中間部を製品長さに合わせて複数の円筒体W2…に分割するように切断する。例えば本実施形態においては、3本の長寸の円筒体W2に分割する場合と、5本の短寸の円筒体W2に分割する場合とがある。長寸の円筒体W2は長さが250mmであり、短寸の円筒体W2は150mmである。後に詳述するが本実施形態においては、長寸の円筒体W2はAタイプと称され、短寸の円筒体W2はBタイプと称される。参考までに長寸のAタイプの円筒体W2は、引抜前の寸法が200mm相当であり、短寸のBタイプの円筒体W2は、引抜前の寸法が120mm相当である。
【0052】
切断工程においては、素管W1を鋸刃等で切断するものであるが、この切断時の圧力(切断圧力)を計測することによって、素管材料に加わる負荷による良否を簡易的に評価することができる。
【0053】
本実施形態においては、切断装置の制御装置C1は、予め設定された素管W1の切断位置情報を基に、素管W1を複数の箇所で切断するものであり、各切断時の切断圧力を取得できるようになっている。さらに制御装置C1は、切断加工する素管W1の識別番号や、切断位置等を取得できるようになっており、これらの情報と、上記切断圧力に関する情報とに基づいて、各素管W1毎に、素管W1の切断位置にどの程度の負荷(圧力)が加わったかの情報(位置毎の切断圧力情報)を算出できるようになっており、この情報が情報データベースDB1に保持される。さらに制御装置C1は、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、切断加工に要した時間(切断時間)を取得できるようになっている。そして必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、上記の部位毎の切断圧力情報や切断時間情報を情報データベースDB1から切り出すことができるようになっている。本実施形態において、素管W1の位置毎の切断圧力情報や引抜時間情報は、処理条件データを構成するものである。
【0054】
また本実施形態において制御装置C1は、切断位置情報等を基に、切断後の各円筒体(分割体)W2…が、切断前の素管W1のどの位置に対応するかの情報(切断前後の対応位置情報)を算出できるようになっている。さらに切断後の円筒体W2が切断前のどの素管W1から切り出されたかの情報が、上記の切断前後の対応位置情報と関連付けされて、トレースデータベースDB2に保持される。従って必要時に、処理されたいずれの円筒体W2に対しても、円筒体W2が切断前のどの素管W1のどの部位に相当するかの情報をトレースデータベースDB2から切り出すことができるようになっている。本実施形態において、この情報すなわち、円筒体W2が切断前のどの素管W1のどの部位に相当するかの情報は、分割前後位置データを構成するものである。さらにこの分割前後位置データは、切断装置の制御装置C1によって取得されるものであるため、この制御装置C1が、分割前後位置データを取得する手段として機能する。
【0055】
さらにトレースデータベースDB2には既述したように、引抜後の素管W1の各位置が引抜前のどの位置に対応するかの情報(引抜前後位置データ)が保持されているため、この引抜前後位置データと、上記の切断前後の対応位置情報(分割前後位置データ)とに基づいて、切断されたいずれの円筒体W2に対しても、円筒体W2が引抜前のどの素管W1のどの部位に相当するかの情報を算出して切り出すことができるようになっている。
【0056】
<第4搬送工程>
第4搬送工程においては、切断加工された後の分割体W2が、コンベア(第4搬送装置)によって洗浄工程の洗浄装置まで順次搬送される。
【0057】
また第4搬送工程での制御装置C1は上記と同様、搬送する分割体W2の個別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、分割体W2が、第4搬送装置に搬入された時点から洗浄装置に搬送されるまでの時間(搬送時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各分割体W2毎の搬送時間を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0058】
<洗浄工程>
図4Aおよび図4Bに示すように洗浄工程は、例えば前工程の加工によって残存する油等を除去するために行うものであり、複数の円筒体W2を縦向き状態でパレット55上に前後左右に所定間隔おきに配置し、そのパレット55を洗浄槽5内の洗浄液に浸漬することによって行う。この洗浄時において、洗浄装置の制御装置C1(図1参照)は、洗浄槽に設置された温度計(温度センサ)からの情報に基づいて、洗浄槽内の温度(洗浄温度)に関する情報を取得できるとともに、その洗浄に要した時間(洗浄時間)を取得できるようになっている。これらの情報(処理条件データ)は、情報データベースDB1に保持され、必要時に、情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0059】
<第5搬送工程>
第5搬送工程においては、洗浄処理された後の分割体W2が、コンベア(第5搬送装置)によって所定のワーク収集箇所まで順次搬出される。
【0060】
また第5搬送工程での制御装置C1は上記と同様、搬送する分割体W2の個別番号を取得できるとともに、各種センサやタイマー等からの情報に基づいて、分割体W2が、第5搬送装置に搬入された時点から所定のワーク収集箇所に搬送されるまでの時間(搬送時間)を算出できるようになっている。こうして取得された各分割体W2毎の搬送時間を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として制御装置C1は情報データベースDB1において保持し、さらに必要時に、処理されたいずれの素管W1に対しても、その情報を情報データベースDB1から切り出せるようになっている。
【0061】
<製品検査>
第5搬送工程において搬送された分割体W2に対しては製品検査が実施される。図1に示すように本実施形態において製品検査は、検査装置により自動的に検査が行われる自動検査と、オペレータにより手動で検査する目視検査とがあり、自動検査は基本的に全ての製品に対し行われるのに対し、目視検査は抜き取りで一部の製品にのみ行われる。
【0062】
自動検査は主として円筒体W2の変形曲がりの検査(変形検査)と、円筒体W2の外観品質の検査(外観検査)とが行われる。
【0063】
変形曲がり検査は、円筒体W2を軸心回りに回転させながら、変位センサ等により円筒体W2の径方向の変位量を計測し、1回転(360度)の変位の偏差量を変形曲がり量とする。なお、変位センサを計測したい位置毎に複数個設置することにより、円筒体W2の複数の位置毎に変形曲がり量を計測することができる。
【0064】
外観品質検査は、円筒体W2を軸心回りに回転させながら、外周面に照明を照射して、その反射光量をカメラ等によって計測することにより、スリキズやスジ、変色等の外観異常を検出することができる。さらにカメラに取り込まれた画像から、画像変動の発生位置を算出できるとともに、発生位置毎の画像変動値を積算することで、外観異常の発生位置を正確に特定することができる。
【0065】
本実施形態では、自動検査において、円筒体W2の曲がり異常(変形)や、変色や異物付着が所定の基準以上の場合等に、不良と判定され、不良と判定された不良品や不良に近い製品に対しては、修正可能なものは修正したり、不可能なものは破棄したり、または必要に応じて目視検査によって詳細な検査を行うものである。そして総合的な判断で合格品と不合格品とに選別するものである。
【0066】
<不良原因の特定方法>
本実施形態においては、上記の製品検査で不良と判定されたワーク(円筒体W2)に対し、その不良原因を特定するものである。この不良原因の特定方法としては、処理された全てのワークに対し、各工程で実施された処理に関する処理条件データを取得しておき、その処理条件データの中から、不良と判定されたワークに対する処理条件データを抽出し、その抽出データを、他の処理条件データと照合して、異常性のある抽出データを見出し、異常性のあるデータに関連した処理を不良原因として特定するものである。例えば不良と判定されたワークにおいて、洗浄工程での洗浄温度が高過ぎるというデータが含まれているような場合には、洗浄温度が高過ぎることが不良原因として特定され、さらに引抜工程において引抜力が大き過ぎるデータが含まれているような場合、引抜力の過大が不良原因として特定されるものである。
【0067】
また本実施形態においては、処理条件データの中に、搬送工程においてワークの搬送時間を含む搬送関連時間に関するデータ(搬送関連時間データ)が含まれている。本実施形態においては、第1~第5の複数の搬送工程のうち、いずれか1つの搬送時間を、搬送関連時間データに設定したり、いずれか2つ以上の搬送時間の合計を搬送関連時間データに設定したり、全ての搬送時間の合計(累計)を搬送関連時間データに設定することができる。さらに本実施形態においては第1~第5搬送工程のうち、いずれか1つ以上の搬送工程の搬送時間と、生産工程のうち、いずれか1つ以上の生産工程の処理時間との合計(組み合わせ)を搬送関連時間データと設定することもできる。これらの組み合わせは任意であり、各製造ライン毎に適切な搬送関連時間データを設定すれば良い。
【0068】
例えば製品検査において、ワークW1に引抜工程での油成分が付着して、外観異常が認められた場合には、その異常(不良)の原因の一つとして、引抜工程から洗浄工程までに要する時間が長くなり、引抜工程においてワークW1に付着した油が、洗浄工程で洗浄する前に固まってしまい、洗浄工程で固化した油を十分に除去できなかった場合を挙げることができる。従って第3搬送工程の搬送時間、切断工程の処理時間および第4搬送工程の搬送時間の合計に相当する搬送関連時間データを処理条件データに含ませておいて、不良と判断されたワークの搬送関連時間データが、他のワークの搬送関連時間データと比べて大きい(長い)場合には、不良の原因は第3搬送工程の開始から第4搬送工程の終了までの時間が長くなり過ぎたことであると特定することができる。同様な考えから、第3搬送工程の搬送時間と切断加工の処理時間との合計を搬送関連時間データとしたり、第3および第4搬送時間の合計を搬送関連時間データと設定したり、切断時間と第4搬送時間の合計を搬送関連時間データとしておけば、引抜工程完了後から洗浄工程までに要する時間が長くなったことが不良原因として特定することができる。
【0069】
また生産に要したトータルの時間(リードタイム)についても、製品に異常を来す原因となるおそれがある。すなわち各工程のいずれかの工程に設備不良等の不具合があった場合、その設備不良の工程での所要時間が長くなり、リードタイムが長くなる。このため第1~第5搬送工程の搬送時間と、生産工程(熱処理工程、引抜工程、切断工程および洗浄工程)の処理時間との合計(リードタイム)を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として設定しておいて、不良と判定されたワークの搬送関連時間データを参照して長いような場合には、不良原因はリードタイムが長くなり過ぎたことであると特定することができる。逆に、熱処理工程での加熱不足、引抜工程での加工不足、洗浄工程での洗浄不足等、生産工程での処理が不十分な場合、リードタイムが短くなる可能性があるため、不良ワークの搬送関連時間データが短いような場合には、リードタイムが短くなり過ぎたことが不良原因であると特定することができる。
【0070】
また第1~第5搬送工程における搬送時間の合計(累計)についても、製品の異常を来す原因となるおそれがある。すなわちワークの状態が安定しない前に次の生産工程が行われて、不具合が生じるような場合、例えば引抜工程での加工熱が十分に除去されないまま、切断工程が実施されて、切断不良により表面異常が発生するような場合には、第3搬送時間等、第1~第5搬送時間が短くなる。このため第1~第5搬送時間の合計を、搬送関連時間データ(処理条件データ)として設定しておいて、不良と判定されたワークの当該搬送関連時間データを参照して短いような場合には、搬送時間が短くなり過ぎたことが不良原因であると特定することができる。逆に所定の生産工程(上流側の生産工程)が実施された後、次の生産工程(下流側の生産工程)が実施されるまでの経過時間が長すぎるような場合には、ワークが予定外に冷めてしまい、下流側の生産工程で加工不良が発生する可能性もあるため、不良ワークの搬送時間が長くなり過ぎることも不良原因の一つとなる。
【0071】
具体的に本実施形態においては、製品検査用の制御装置C1が、データベースDB1に保持された情報を基に、処理された全てのワークに対する搬送関連時間データをそれぞれ算出して保持するとともに、算出した搬送関連時間データの平均値(搬送関連時間平均値)を算出して保持しておく。そして不良と判定されたワークの搬送関連時間データを搬送関連時間平均値と照合して、不良ワークの搬送関連時間データが搬送関連時間平均値に対し異常に大きかったり、小さかったりした場合、当該搬送関連時間データに関連した項目が不良原因であると特定するものである。
【0072】
なお本実施形態においては、後の実施例から客観的に判断できるように、不良ワークの搬送関連時間データが搬送関連時間平均値に対し、例えば1.1倍以上、または1.2倍以上で大き過ぎると判断し、0.9倍以下、または0.8倍以下で小さ過ぎると判断するようにしている。なお言うまでもなく、大小の判断基準となる倍率は、限定されるものではなく、適宜設定するようにすれば良い。
【0073】
ここで本実施形態においては、製品検査用の制御装置C1は、良否判定手段および不良原因特定手段として機能する。
【0074】
以上のように本実施形態のワークの不良原因特定方法によれば、生産工程前後における搬送工程の搬送時間を不良原因の候補とし、その搬送時間を含む搬送関連時間データに基づいて、不良原因を特定するようにしているため、従来解明できなかった搬送時間に関連した不良原因を明確に特定することができる。従ってその不良原因を確実に取り除いて製造ラインを改善することができ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる。
【0075】
また本実施形態においては、上記の搬送関連時間データ、つまり不良原因を構成する処理条件を、ワークの良否を判定する際の判断基準として用いることもできる。すなわち検査対象のワークにおける搬送関連時間データを各ワーク毎に取得しておき、そのデータを参照することによって、各ワークの中から、不良となったワークと同等な搬送関連時間で処理されたワークを選出し、その選出したワークを不良と判定するものである。具体的には、搬送関連時間をワークの良否を判定する際の検査項目としておき、自動検査の際に、検査対象のワークの搬送関連時間データが、所定の基準範囲よりも長かったり、短かったりしたような場合には、他の検査にかかわらず、そのワークを不良と自動的に判定するものである。
【0076】
また本実施形態においては、ワーク(素管W1)を分割する工程を含み、各分割品と、分割前のワークのうち各分割品を構成する各部位である各分割品単位部位とを関連付けた分割前後位置データを取得できるとともに、各工程において処理が実施された際の処理条件をワークの各位置毎に求めた処理条件データを取得することができる。このため分割前後位置データに基づいて、分割前のワークのうち、製品検査で不良と判定された分割品に対する不良対応の分割品単位部位を選出し、その選出された分割品単位部位に関するデータと、処理条件データとを照合して、不良対応の分割品単位部位に対する各工程毎の処理条件を抽出し、その抽出データを基に不良原因を特定することができる。これにより分割前のワーク単位ではなく、ワークを構成する分割品単位での部位毎に追跡調査を行うことができ、分割品単位毎の詳細な情報を基に、不良原因をより正確に求めることができる。
【0077】
さらに本実施形態においては、引抜加工等のワークを変形させるワーク形状変形工程を含み、ワーク形状変形工程における変形率を基に、変形前のワークの各位置と変形後のワーク各位置との関連付けを行うことができる。このため変形前のワークの各位置を変形後のワークの各位置から算出できるため、変形前のワークにおける不良対応の各分割品単位部位を正確に算出することができ、不良原因をより一層正確に求めることができる。
【0078】
なお上記実施形態においては、搬送工程の搬送時間、または搬送時間と生産工程の処理時間との組み合わせを、搬送関連時間データとしているが、それだけに限られず、本発明においては、搬送関連時間データの一部にいずれかの搬送工程による搬送時間が含まれていれば良い。例えば、複数の搬送工程のうち、いずれか1つ以上の搬送時間と、複数の生産工程のうち、いずれか1つ以上の生産工程の処理条件との組み合わせを搬送関連時間データとして設定することも可能である。具体的には、搬送時間と、熱処理工程の加熱温度との組み合わせを搬送関連時間データとしたり、搬送時間と、引抜工程の最大圧力または/および最小圧力との組み合わせを搬送関連時間データとしたり、搬送時間と、切断工程の最大圧力または/および最小圧力との組み合わせを搬送関連時間データとしたり、搬送時間と、洗浄工程での洗浄温度との組み合わせを搬送関連時間データとして設定するようにしても良い。
【0079】
<実施例>
【0080】
【表1】
【0081】
表1はワークW1における各円筒体W2に相当する各部位(各製品単位部位)毎の各工程での処理条件を示す表である。
【0082】
表1の左端に記載された括弧付きの番号は製品単位番号であって、図2Aおよび図2Bに示すように、素管W1のうち製品(円筒体)を構成する製品単位部位(分割品単位部位)を示す番号である。例えば「A01-1」「B01-4」等のハイフンより前側の「A01」「B01」は素管の個別番号に相当し、ハイフンより後側の「1」「4」は当該素管のどの位置かを示すものである。また最初の文字が「A」の素管は、Aタイプ(機種1)の素管であり、後に3本の長寸の分割体(円筒体)に分割される(図4A参照)。最初の文字が「B」の素管は、Bタイプ(機種2)の素管であり図2Bに示すように、後に5本の分割体(円筒体)に分割される(図4B参照)。換言すると、製品単位番号は、素管切断後の分割品(円筒体)の個別番号としても用いられる。例えば図2Aおよび図4Aに示すように「A01-1」の円筒体とは、「A01」の素管の1番目の製品単位部位「1」によって構成され、「A01-2」の円筒体とは、「A01」の素管の2番目の製品単位部位「2」によって構成され、「A01-3」の円筒体とは、「A01」の素管の3番目の製品単位部位「3」によって構成されることになる。同様に図2Bおよび図4Bに示すように、「B01-1」の円筒体とは図2Bに示すように、「B01」の素管の1番目の製品単位部位「1」によって構成され、「B01-2」の円筒体とは、「B01」の素管の2番目の製品単位部位「2」によって構成され、「B01ー3」の円筒体とは、「B01」の素管の3番目の製品単位部位「3」によって構成され、「B01-4」の円筒体とは、「B01」の素管の4番目の製品単位部位「4」によって構成され、「B01-5」の円筒体とは、「B01」の素管の5番目の製品単位部位「5」によって構成されることになる。なお言うまでもなく、素管の口付加工部「A01-0」「B01-0」や終端部「A01-E」「B01-E」は切除されるため、その部分は表1において除外されている。
【0083】
表1において「搬送(P1)」の項目は第1搬送工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の搬送時間を示している。
【0084】
またこの搬送条件(搬送時間)に関する情報は、既述した通り、情報データベースDB1に保持されており、これらの情報は、必要時に必要な部分だけを取り出せるようになっている。さらに以下の各工程のワーク処理条件や搬送条件に関する情報も同様であり、情報データベースDB1に保持されており、必要時に取り出せるようになっている。
【0085】
「熱処理(Q1)」の項目は熱処理工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の熱処理温度(加熱温度)と、熱処理時間(加熱時間)とを示している。
【0086】
「搬送(P2)」の項目は第2搬送工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の搬送時間を示している。
【0087】
「引抜加工(Q2)」の項目は引抜工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎のビビリの発生の有無と、引抜力の最大値「max」と、最小値「min」と、引抜加工に要した時間(加工時間)とを示している。なおビビリの発生の有無は、ワークの良否判定時の判定基準として用いられるものではあるが、ビビリの発生の有無は、本発明を理解する上で、直接関連しないので、本明細書においては特に言及することはない。
【0088】
「搬送(P3)」の項目は第3搬送工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の搬送時間を示している。
【0089】
「切断(Q3)」の項目は切断工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の切断圧力の最大値「max」と、最小値「min」と、加工異常の発生の有無と、切断加工に要した時間(加工時間)とを示している。加工異常とは、切断圧力の最大値が大き過ぎる場合に、負荷が大きく加工異常があったと推定するものであるが、加工異常の発生の有無は、本発明を理解する上で、直接関連しないので、本明細書においては特に言及することはない。
【0090】
「搬送(P4)」の項目は第4搬送工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の搬送時間を示している。
【0091】
「洗浄(Q4)」の項目は洗浄処理工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の洗浄温度と、洗浄時間とを示している。
【0092】
「搬送(P5)」の項目は第5搬送工程に相当するものであり、この項目においては各ワーク毎の搬送時間を示している。
【0093】
【表2A】
【0094】
【表2B】
【0095】
表2AはワークW1における各円筒体W2に相当する各部位(各製品単位部位)毎の搬送関連時間データ(処理条件データ)を示す表である。
【0096】
表2Aにおいて「P1」とあるのは、第1搬送工程(表1の搬送)での搬送時間を示し、同様に「P2」~「P5」とあるのは、第2~第5搬送工程での搬送時間を示す。さらに表2Aにおいて「(Q1)」とあるのは、熱処理工程の処理時間を示し、同様に「Q2」~「Q4」とあるのは、引抜工程、切断工程、洗浄工程の各処理時間を示している。
【0097】
具体的に説明すると、表2Aの1列目(T1)の搬送関連時間データは、各ワーク毎の第1搬送時間と熱処理時間との加算値(P1+Q1)であり、2列目(T2)の搬送関連時間データは、T1列の時間に第2搬送時間を加算した値(P1+Q1+P2)である。以下同様に、3列目(T3)~8列目(T8)の搬送関連時間データは、前列の時間に以降の搬送時間(P3~P5)または処理時間(Q2~Q4)を順次加算した値である。さらに表2Aの9列目(T9)の搬送関連時間データは、各ワーク毎の第3搬送時間と切断処理時間との加算値(P3+Q3)であり、同様に10列目(T10)~12列目(T12)の搬送関連時間データは、前列の時間に以降の搬送/処理時間(P4、Q4、P5)を順次加算した値である。また表2Aの最終列(T13)の搬送関連時間データは、各ワーク毎の第1~第5搬送時間の合計(P1+P2+P3+P4+P5)である。
【0098】
表2Bは表1Aに記載された各ワーク毎の搬送関連時間データの平均値に対する比率(割合)を示したものである。例えば表1Aに示す1行目(A01-1)のワークの1列目(T1)の搬送関連時間データ(P1+Q1)の値である「12時間」は、表2Bに示すように搬送関連時間平均値に対し0.9倍であることを示している。
【0099】
なお表1Aおよび表2Bに示される値は、製品検査用の制御装置C1が、データベースDB1に保持された表1の情報を基に、自動的に算出されるようになっている。
【0100】
【表3】
【0101】
表3は検査装置による自動検査の検査結果とオペレータによる目視検査の検査結果(最終目視判定)とを示す表である。目視検査は最終検査の位置づけであり、自動検査よりも目視検査が優先され信頼性が高いものである。検査項目の外観(付着物A)は、油成分等の付着物Aが付着しているか等を検査するものである。外観(付着物B)は、付着物Bが付着しているか等を検査するものである。外観(付着物C)は、付着物Cが付着しているか等を検査するものである。
【0102】
なお既述した通り、実際の検査においては、上記の外観検査以外に、他の外観検査や、曲がり検査等、多数の検査も行うものであるが、本発明を理解する上で直接関連性のない検査については割愛している。
【0103】
まず付着物Aの外観検査においては、「A51-2」「A91-2」「A91-3」の3つのワークに対し不良(NG)の判定となっている。これらの3つの不良ワークに対してトレーサビリティによって原因を調査したところ、表2Aおよび表2Bに示すように、第3搬送時間および切断時間の合計値(T9=P3+Q3)と、第3,第4搬送時間および切断時間の合計値(T10=P3+Q3+P4)が、平均値に対し1.2倍となっており大きくなっていることが判明した。またこの搬送関連時間データ(T9,T10)以外の処理条件データに、3つの不良ワークに対し共通して異常性があるようなデータはなく、よって上記の時間(T9=P3+Q3)(T10=P3+Q3+P4)が長いことが不良原因であると推定することができる。さらに不良原因となった理由を調査していくと、引抜工程後の洗浄工程までの時間(T9,T10)が長くなり、引抜工程で付着した油成分が固まってしまい、洗浄工程で十分に洗浄できなかったものと考えられる。
【0104】
なお「A51-1」「A51-2」のワークは切断前には同じ材料(ワーク)であるのに、「A51-1」は良品と判定され、「A51-2」は不良と判定されている。これは、切断後の搬送時間(P4)が、「A51-2」は「A51-1」よりも長くなり、洗浄工程での洗浄が十分に行えなかったためと考えられる。
【0105】
また付着物Aの自動検査において、「A91-2」のワークは良品(OK)と判定されているが、「A51-2」「A91-3」と同じ不良原因があると考えられるため、安全性を考慮して、最終目視判定において不良(×)と判定した。
【0106】
次に付着物Bの外観検査においては、「A91-2」「A91-3」「A92-3」「A93-3」の4つのワークが不良と判定されている。この原因を調査したところ、生産に要したトータルタイムであるリードタイム(T8=P1~P5+Q1~Q4)が、平均値に対し1.1倍と大きくなっていることが判明した。またこの搬送関連時間データ(T8)以外の処理データに、4つの不良ワークに対し共通して異常性があるようなデータはなく、よって上記の時間(T8)が長いことが不良原因であると推定することができる。さらに不良原因となった理由を調査していくと、事前に設定された設計上のリードタイム(T8)より時間が多くかかってしまったために、各工程での設備不良等による予期しない表面異常が生じたためと推定することができる。換言すると、表2Aに示すようにリードタイム(T8)が77時間以上の場合には、不良と判定される可能性が高いと言える。
【0107】
なお付着物Bの自動検査において、「A92-3」のワークは良品と判定されているが、「A91-2」「A91-3」「A93-3」と同じ不良原因があると考えられるため、安全性を考慮して、最終目視判定において不良(×)と判定した。
【0108】
次に付着物Cの外観検査においては、「A01-1」「A10-3」「B01-4」の3つのワークが不良と判定されている。この原因を調査したところ、第1~第5搬送工程の総搬送時間(T13=P1~P5)が、平均値に対し0.8倍と小さくなっていることが判明した。またこの搬送関連時間データ(T13)以外の処理データに、3つの不良ワークに対し共通して異常性があるようなデータはなく、よって上記の時間(T13)が短いことが不良原因であると推定することができる。さらに不良原因となった理由を調査していくと、待ち時間(搬送時間)がなく、次々にワークの処理が進んでしまい、所定の生産工程での加工熱が取りきれないまま、次の生産工程で処理が行われたため、加工不良(処理不足)により表面異常が生じたものと推定することができる。
【0109】
なお付着物Cの自動検査において、「A10-3」のワークは良品と判定されているが、「A01-1」「B01-4」と同じ不良原因があると考えられるため、安全性を考慮して、最終目視判定において不良(×)と判定した。
【0110】
以上の実施例から明らかなように、搬送工程での搬送時間を含む搬送関連時間が、ワークの不良原因となることが判る。従って、生産工程の前後における搬送工程の時間を含む搬送関連時間を不良原因の候補とし、その搬送関連時間に関する搬送関連時間データに基づいて、不良原因を特定することによって、従来解明できなかった搬送関連時間の不良原因を明確に特定することができる。従ってその不良原因を確実に取り除いて製造ラインを改善することができ、生産性の向上およびコストの削減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明のワークの不良原因特定方法は例えば、ワークに対し複数の処理が順次実施されるようにした製造ラインに適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
W1:素管(ワーク)
W2:円筒体(ワーク)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B