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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220128BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018016859
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019133074
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
(72)【発明者】
【氏名】山本 真士
(72)【発明者】
【氏名】村岡 敦史
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-9883(JP,A)
【文献】特開2017-109262(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150495(WO,A1)
【文献】特開2014-194483(JP,A)
【文献】特開2011-215263(JP,A)
【文献】特開平10-329292(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158353(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C55/04
B29L 7/00
B29L11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のフィルムの左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持し、該左右のクリップの少なくとも一方のクリップピッチを変化させて、該フィルムを斜め延伸すること、
該フィルムをクリップから開放し、冷却すること、および、
非接触方式の加熱手段によって該フィルムをTg-30℃~Tg-10℃に加熱しながら、長尺方向に100N/m~400N/mの張力を5秒~60秒間付与することを含む、
延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記加熱手段が、熱風式加熱手段である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱手段から前記フィルムへの熱伝達係数が、50W/m・K~500W/m・Kである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記張力の付与が、搬送ロール間において前記フィルムにかかる張力を調整することによって行われる、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記フィルムの形成材料が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、または、これらの混合物を含む、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記フィルムの面内位相差Re(550)が、100nm~180nmになるように前記フィルムを斜め延伸する、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法によって長尺状の延伸フィルムを得ること、および
長尺状の光学フィルムと該長尺状の延伸フィルムとを搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることを含む、光学積層体の製造方法。
【請求項8】
前記光学フィルムが、偏光板であり、
前記延伸フィルムが、λ/4板である、請求項7に記載の光学積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法および光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置において、表示特性の向上や反射防止を目的として円偏光板が用いられている。円偏光板は、代表的には、偏光子と位相差フィルム(代表的にはλ/4板)とが、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすようにして積層されている。従来、位相差フィルムは、代表的には、縦方向および/または横方向に一軸延伸または二軸延伸することにより作製されているので、その遅相軸は、多くの場合、フィルム原反の横方向(幅方向)または縦方向(長尺方向)に発現する。結果として、円偏光板を作製するには、位相差フィルムを幅方向または長尺方向に対して45°の角度をなすように裁断し、1枚ずつ貼り合わせる必要があった。
【0003】
このような問題を解決するために、長尺状のフィルムの左右端部(幅方向の端部)をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持し、該左右のクリップの少なくとも一方のクリップピッチを変化させて、斜め方向に延伸することにより、位相差フィルムの遅相軸を斜め方向に発現させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このような技術で得られた斜め延伸フィルムによれば、ロールに巻き取る際にシワや揉まれが発生する場合がある。また、別の光学フィルムと貼り合わせる際に、接着剤や粘着剤の塗工ムラや未塗工部が生じる場合や、シワや揉まれが発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4845619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、斜め延伸されたフィルムを巻き取る際および別の光学フィルムと積層する際の上記問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施形態によれば、長尺状のフィルムの左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持し、該左右のクリップの少なくとも一方のクリップピッチを変化させて、該フィルムを斜め延伸すること、該フィルムをクリップから開放し、冷却すること、および、非接触方式の加熱手段によって該フィルムをTg-30℃~Tg-10℃に加熱しながら、長尺方向に100N/m~400N/mの張力を付与することを含む、延伸フィルムの製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記加熱手段が、熱風式加熱手段である。
1つの実施形態において、上記加熱手段から上記フィルムへの熱伝達係数が、50W/m・K~500W/m・Kである。
1つの実施形態において、上記張力の付与が、搬送ロール間において上記フィルムにかかる張力を調整することによって行われる。
1つの実施形態において、上記フィルムの形成材料が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、または、これらの混合物を含む。
1つの実施形態において、上記フィルムの面内位相差Re(550)が、100nm~180nmになるように上記フィルムを斜め延伸する。
本発明の別の局面によれば、上記製造方法によって長尺状の延伸フィルムを得ること、および、長尺状の光学フィルムと該長尺状の延伸フィルムとを搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることを含む、光学積層体の製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記光学フィルムが、偏光板であり、上記延伸フィルムが、λ/4板である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、斜め延伸されたフィルムを、所定の温度に加熱しつつ、長尺方向に所定の張力を付与する。これにより、巻き取る際および別の光学フィルムと積層する際の上記問題が解決され、品位に優れた延伸フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図2】本発明の製造方法により得られる位相差フィルムを用いた円偏光板の概略断面図である。
図3】たるみ量の測定方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らが斜め延伸されたフィルムを巻き取る際および別の光学フィルムと積層する際に発生する上記問題についてその原因を検討したところ、延伸フィルムをロール搬送する際に幅方向の一方または両方の端部にたるみが生じており、該たるみが生じた状態で巻き取りや積層を行うことによってシワや揉まれが発生すること、および、該たるみが生じた状態で接着剤や粘着剤を塗布することによって塗工ムラや未塗工部が生じることが分かった。具体的には、図3に示すように、搬送ロール320によって搬送されている延伸フィルム240の下に超音波変位センサー300を配置し、超音波変位センサー300から延伸フィルム240までの距離を測定したところ、フィルムの幅方向において該距離が規定より短い部分、すなわち、たるみが生じている部分があることが分かった。
【0010】
上記たるみが生じる原因としては、次のように推測される。すなわち、斜め延伸においては、フィルムの一方の端部と他方の端部とで延伸または収縮のタイミング、回数、順序等が異なり、幅方向中央に対して両端部の延伸プロセスが互いに非対称となる。また、両端部の熱履歴が互いに異なり得る。その結果、斜め延伸後のフィルムは幅方向における変形量および特性が不均一になる。さらに、Tg以下までフィルム温度を下げて固定化した後にクリップを開放しても、形状が十分に安定しておらず、クリップ開放時にフィルムが微小に収縮する場合がある。この場合、収縮量がフィルムの幅方向で不均一になる。これらの結果として、斜め延伸後のフィルム(例えば、端部、特に、片端部)に、たるみが生じ得る。
【0011】
なお、上記端部の変形量とたるみ量との関係に関して、端部にたるみが生じているフィルムをロール間距離が1000mmの搬送ロールにかけ渡した状態でフィルム端部および幅方向中央部の長さとたるみ量とを測定することによって調べたところ、端部の長さがたるみのない部分(幅方向中央部)の長さ(ロール間距離=1000mm)よりも0.25mm長いだけで、たるみ量が約10mmに達することが分かった。なお、たるみ量(mm)は、図3に示すように、ロール間中央部の幅方向の複数個所において超音波変位センサー300から延伸フィルム240までの距離を測定し、最大距離(LMAX)と最小距離(LMIN)との差(LMAX-LMIN)として求めた。
【0012】
本発明は、斜め延伸されたフィルムを、所定の温度に加熱しつつ、長尺方向に所定の張力を付与することにより、上記たるみを低減し、その結果として、該たるみに起因する上記問題を解決するものである。以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0013】
A.延伸フィルムの製造方法
本発明の延伸フィルムの製造方法は、長尺状のフィルムの左右端部(幅方向の端部)をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持し、該左右のクリップの少なくとも一方のクリップピッチを変化させて、該フィルムを斜め延伸すること(斜め延伸工程)、該フィルムをクリップから開放し、冷却すること(開放-冷却工程)、および、非接触方式の加熱手段によって該フィルムをTg-30℃~Tg-10℃に加熱しながら、長尺方向に100N/m~400N/mの張力を付与すること(張力付与工程)を含む。なお、本明細書において、「縦方向のクリップピッチ」とは、縦方向に隣接するクリップの走行方向における中央間距離を意味する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
[斜め延伸工程]
最初に、図1を参照して、本発明の製造方法に適用可能な延伸装置の一例について説明する。図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、フィルム把持用の多数のクリップ20を有する無端ループ10Lと無端ループ10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、フィルムの入口側から見て左側の無端ループを左側の無端ループ10L、右側の無端ループを右側の無端ループ10Rと称する。左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20は、それぞれ、基準レール70に案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。延伸装置においては、シートの入口側から出口側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、延伸ゾーンC、および開放ゾーンDが順に設けられている。これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となるフィルムが実質的に把持、予熱、斜め延伸、および開放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、それぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。さらに、図示しないが、延伸ゾーンCと開放ゾーンDとの間には、必要に応じて任意の適切な処理をするためのゾーンが設けられてもよい。このような処理としては、縦収縮処理、横延伸処理等が挙げられる。
【0015】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端ループ10L、10Rは、延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。延伸ゾーンCでは、予熱ゾーンBの側から開放ゾーンDに向かうに従って左右の無端ループ10L、10Rの離間距離が上記フィルムの延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大する構成とされている。開放ゾーンDでは、左右の無端ループ10L、10Rは、上記フィルムの延伸後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0016】
左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端ループ10Lの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端ループ10Rの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット11、12に係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材(図示せず)に走行力が与えられる。これにより、左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側の無端ループ10Lおよび右側の無端ループ10Rをそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0017】
さらに、左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って縦方向のクリップピッチが変化し得る。可変ピッチ型の構成は、パンタグラフ方式、リニアモーター方式、モーター・チェーン方式等の駆動方式を採用することにより実現され得る。例えば、特許文献1には、パンタグラフ方式のリンク機構が詳細に説明されている。
【0018】
上記のような延伸装置を用いてフィルムの斜め延伸を行うことにより、延伸フィルム、例えば、斜め方向に遅相軸を有する位相差フィルムが作製され得る。
【0019】
具体的には、把持ゾーンA(延伸装置100のフィルム取り込みの入り口)において、左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20によって、延伸対象となるフィルムの両側縁が互いに等しい一定のクリップピッチ、あるいは、互いに異なるクリップピッチで把持され、左右の無端ループ10L、10Rの移動(実質的には、基準レール70に案内された各クリップ担持部材の移動)により、当該フィルムが予熱ゾーンBに送られる。
【0020】
予熱ゾーンBにおいては、左右の無端ループ10L、10Rは、上記のとおり延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されているので、基本的には横延伸も縦延伸も行わず、フィルムが加熱される。ただし、予熱によりフィルムのたわみが起こり、オーブン内のノズルに接触するなどの不具合を回避するために、わずかに左右クリップ間の距離(幅方向の距離)を広げてもよい。
【0021】
予熱においては、フィルムを温度T1(℃)まで加熱する。温度T1は、フィルムのガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下である。用いるフィルムにより異なるが、温度T1は、例えば70℃~190℃であり、好ましくは80℃~180℃である。
【0022】
上記温度T1までの昇温時間および温度T1での保持時間は、フィルムの構成材料や製造条件(例えば、フィルムの搬送速度)に応じて適切に設定され得る。これらの昇温時間および保持時間は、クリップ20の移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。
【0023】
延伸ゾーンCにおいては、左右のクリップ20の少なくとも一方の縦方向のクリップピッチを変化させて、フィルムを斜め延伸する。斜め延伸は、例えば図示例のように、左右のクリップ間の距離(幅方向の距離)を拡大させながら行われ得る。あるいは、図示例とは異なり、左右のクリップ間の距離を維持したまま行われ得る。
【0024】
1つの実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置と他方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置とを縦方向における異なる位置とした状態で、それぞれのクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少することによって行われ得る。
【0025】
別の実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチを固定したまま、他方のクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少させた後、当初のクリップピッチまで戻すことによって行われ得る。
【0026】
さらに別の実施形態において、斜め延伸は、(i)上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチを増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させること、および、(ii)該減少したクリップピッチと該拡大したクリップピッチとが所定の等しいピッチとなるように、それぞれのクリップのクリップピッチを変化させることによって行われ得る。
【0027】
斜め延伸の具体的な実施形態としては、特許文献1、特開2013-54338号公報、特開2014-194482号公報、特開2014-238524号公報、特開2014-194484号公報等に記載される実施形態が好ましく適用され得る。
【0028】
斜め延伸は、代表的には、温度T2で行われ得る。温度T2は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg-20℃~Tg+30℃であることが好ましく、さらに好ましくはTg-10℃~Tg+20℃、特に好ましくはTg程度である。用いる樹脂フィルムにより異なるが、温度T2は、例えば70℃~180℃であり、好ましくは80℃~170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1-T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱ゾーンで温度T1まで加熱されたフィルムは温度T2まで冷却され得る。
【0029】
上記縦収縮処理および横延伸処理は、斜め延伸後に行われる。斜め延伸後のこれらの処理については、特開2014-194483号公報の0029~0032段落を参照することができる。
【0030】
[開放-冷却工程]
開放ゾーンでは、フィルムを把持するクリップを開放し、フィルムを冷却する。クリップの開放は、通常、フィルムをTg以下まで冷却した後に行う。必要に応じて、フィルムを熱処理して延伸状態を固定し(熱固定)、Tg以下まで冷却した後にクリップを開放する。
【0031】
フィルムは、例えばTg-30℃未満、好ましくはTg-35℃以下、より好ましくはTg-40℃以下まで冷却される。1つの実施形態においては、フィルムをTg-30℃未満、好ましくはTg-35℃以下、より好ましくはTg-40℃以下に冷却し、その後、クリップを開放する。別の実施形態においては、フィルム温度がTg~Tg-30℃の状態でクリップを開放し、その後、Tg-30℃未満、好ましくはTg-35℃以下、より好ましくはTg-40℃以下までフィルムをさらに冷却する。延伸フィルムを十分に冷却してたるみの原因となるフィルムの変形を完了させておくことにより、張力付与工程で該変形を左右対称に調整して、たるみを好適に低減することができる。後者の実施形態において、クリップ開放後のフィルムの冷却は、開放ゾーンで(換言すれば、斜め延伸装置内で)行われてもよく、延伸装置の出口から送り出された後、張力付与工程への搬送過程に行われてもよい。
【0032】
上記熱処理は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、延伸されるフィルムによって異なり、T2≧T3の場合も、T2<T3の場合もあり得る。一般的に、フィルムが非晶性材料である場合はT2≧T3であり、結晶性材料である場合はT2<T3にすることで結晶化処理を行う場合もある。T2≧T3の場合、温度T2とT3の差(T2-T3)は好ましくは0℃~50℃である。熱処理時間は、代表的には10秒~10分である。
【0033】
[張力付与工程]
張力付与工程では、クリップから開放された延伸フィルムをTg-30℃~Tg-10℃に加熱しながら、長尺方向に100N/m~400N/mの張力を付与する。このような温度範囲で所定の張力を付与することにより、斜め延伸によって得られた光学特性(位相差、軸角度等)からの変化を抑制しつつ、たるみを低減することができる。1つの実施形態において、張力付与工程によって低減されるたるみ量(張力付与工程前の延伸フィルムのたるみ量-張力付与工程後のたるみ量)は、例えば6mm以上、好ましくは8mm以上、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは12mm以上である。また、張力付与後の延伸フィルムのたるみ量は、好ましくは8mm未満、より好ましくは6mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。
【0034】
上記延伸フィルムの加熱は、非接触方式の加熱手段によって行われる。非接触方式の加熱手段を用いることにより、シワやキズの発生を防止することができる。非接触方式の加熱手段としては、例えば、熱風式加熱手段、近赤外加熱手段、遠赤外加熱手段、マイクロ波加熱手段等が挙げられる。
【0035】
上記加熱手段から延伸フィルムへの熱伝達係数は、好ましくは50W/m・K~500W/m・Kであり、より好ましくは100W/m・K~300W/m・Kである。熱伝達係数が上記範囲であれば、延伸フィルムを加熱時にシワやキズが発生することを防止できる。熱伝達係数は、以下のようにして求めることができる。
≪熱伝達係数の測定方法≫
フィルムに熱電対を固定した状態で目的の加熱手段を室温(Tini)から所定の設定温度(Tset)まで変化させて、この間のフィルムの温度変化を測定する。下記の式(1)に、室温(Tini)と設定温度(Tset)とを代入し、比熱の温度依存性を計算に入れて解くことにより、式(2)に変形する。次いで、式(2)をフィルムの温度変化データにフィッティングすることにより熱伝達係数が求められる。
【数1】
【0036】
上記加熱温度(フィルム温度)は、Tg-30℃~Tg-10℃であり、好ましくはTg-25℃~Tg-10℃、より好ましくはTg-20℃~Tg-10℃である。加熱温度がTg-30℃未満であると、たるみの低減効果が不十分となり得る。一方、加熱温度がTg-10℃を超えると、光学特性の変化が大きくなる。
【0037】
上記延伸フィルムに付与される張力は、100N/m~400N/mであり、好ましくは120N/m~380N/m、より好ましくは150N/m~350N/mであり得る。上記範囲の張力によれば、たるみのない部分のみが張力を負担する結果、たるみのある部分の長さは変化しない一方で、たるみのない部分がごくわずかに延びてたるみのある部分の長さに近づく。その結果、光学特性の変化やフィルムの破断を回避しつつ、たるみを好適に低減することができる。一方、張力が100N/m未満であると、たるみの低減効果が不十分となり得る。また、張力が400N/mを超えると、延伸フィルムが破断し得る。
【0038】
上記張力の付与は、好ましくは、搬送ロール間において行われる。具体的には、搬送ロール間において延伸フィルムにかかる張力を測定し、該張力が所望の値となるように搬送ロールの回転速度等を制御することによって張力が付与され得る。なお、本明細書において、搬送ロールは、ニップロール、フィードロール、サクションロール等を含む。
【0039】
上記張力を付与する時間は、フィルムの形成材料、たるみ量等に応じて適切に設定され得る。該時間は、例えば、5秒~60秒であり得る。
【0040】
上記張力付与の完了後は、フィルムにかかる張力を解消し、常法に従って、フィルムをロールに巻き取ることができる。
【0041】
B.延伸対象のフィルム
本発明の製造方法においては、任意の適切なフィルムを用いることができる。例えば、位相差フィルムとして適用可能なフィルムが挙げられる。このようなフィルムを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、所望の特性に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-プロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-sec-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0043】
上記のようなポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば特開2012-67300号公報および特許第3325560号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0044】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0045】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール系樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール系樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール系樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007-161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0046】
上記延伸対象のフィルムを延伸して得られる位相差フィルムは、好ましくは、屈折率特性がnx>nyの関係を示す。さらに、位相差フィルムは、好ましくはλ/4板として機能し得る。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm~180nm、より好ましくは135nm~155nmである。なお、本明細書において、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率である。また、Re(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。したがって、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
【0047】
位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、斜め延伸条件を適切に設定することにより所望の範囲とすることができる。例えば、斜め延伸によって100nm~180nmの面内位相差Re(550)を有する位相差フィルムを製造する方法は、特開2013-54338号公報、特開2014-194482号公報、特開2014-238524号公報、特開2014-194484号公報等に詳細に開示されている。よって、当業者は、当該開示に基づいて適切な斜め延伸条件を設定することができる。
【0048】
位相差フィルムの遅相軸方向は、フィルムの長尺方向に対して好ましくは30°~60°または120°~150°、より好ましくは38°~52°または128°~142°、さらに好ましくは43°~47°または133°~137°、特に好ましくは45°または135°程度である。
【0049】
位相差フィルムは、好ましくは、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8~0.95である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8~0.97である。
【0050】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10-12(m/N)~100×10-12(m/N)であり、より好ましくは10×10-12(m/N)~50×10-12(m/N)である。
【0051】
C.光学積層体および該光学積層体の製造方法
本発明の製造方法により得られた延伸フィルムは、別の光学フィルムと貼り合わせられて光学積層体として用いられ得る。例えば、本発明の製造方法によって得られた位相差フィルムは、偏光板と貼り合わせられて、円偏光板として好適に用いられ得る。
【0052】
図2は、そのような円偏光板の一例の概略断面図である。図示例の円偏光板200は、偏光子210と、偏光子210の片側に配置された第1の保護フィルム220と、偏光子210のもう片側に配置された第2の保護フィルム230と、第2の保護フィルム230の外側に配置された位相差フィルム240と、を有する。位相差フィルム240は、本発明の製造方法により得られた位相差フィルム(λ/4板)である。第2の保護フィルム230は省略されてもよい。その場合、位相差フィルム240が偏光子の保護フィルムとして機能し得る。偏光子210の吸収軸と位相差フィルム240の遅相軸とのなす角度は、好ましくは30°~60°、より好ましくは38°~52°、さらに好ましくは43°~47°、特に好ましくは45°程度である。
【0053】
本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、長尺状であり、かつ、斜め方向(長尺方向に対して例えば45°の方向)に遅相軸を有する。また、多くの場合、長尺状の偏光子は長尺方向または幅方向に吸収軸を有する。よって、本発明の製造方法により得られた位相差フィルムを用いれば、いわゆるロールトゥロールを利用することができ、きわめて優れた製造効率で円偏光板を作製することができる。なお、ロールトゥロールとは、長尺状のフィルム同士をロール搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における測定および評価方法は下記のとおりである。
【0055】
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
(2)位相差値
Axometrics社製のAxoscanを用いて面内位相差Re(550)を測定した。
(3)配向角(遅相軸の発現方向)
測定対象のフィルムの中央部を、一辺が当該フィルムの幅方向と平行となるようにして幅50mm、長さ50mmの正方形状に切り出して試料を作成した。この試料を、オンライン位相差計(王子計測機器株式会社製 製品名「KOBRA-WI」)を用いて測定し、波長590nmにおける配向角θを測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
(5)たるみ量
図3に示すように、延伸フィルムの搬送経路の下(搬送ロール間(約1000mm)中央部)に超音波変位センサーを配置し、幅方向の中央部と端部において超音波変位センサーから延伸フィルムまでの距離を測定し、最大距離(LMAX)と最小距離(LMIN)との差(LMAX-LMIN)をたるみ量(mm)とした。
(6)張力
フィルム搬送ライン中に設置したフィルム張力検出器によって、フィルムにかかる張力を測定した。
(7)熱伝達係数
上記[張力付与工程]の項に記載の方法で測定した。
【0056】
<実施例1>
(ポリエステルカーボネート樹脂フィルムの作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン 29.60質量部(0.046mol)、ISB 29.21質量部(0.200mol)、SPG 42.28質量部(0.139mol)、DPC 63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10-2質量部(6.78×10-5mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂のTgは、140℃であった。
【0057】
得られたポリエステルカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み135μmの樹脂フィルムを作製した。
【0058】
(斜め延伸工程)
上記のようにして得られたポリエステルカーボネート樹脂フィルムを、図1に示すような装置を用いて斜め延伸して、位相差フィルムを得た。具体的には、ポリエステルカーボネート樹脂フィルムを延伸装置の予熱ゾーンで145℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチ(P)は125mmであった。次に、フィルムが斜め延伸ゾーンCに入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少を開始し、右側クリップのクリップピッチをPまで増大させるとともに左側クリップのクリップピッチをPまで減少させた。このとき、右側クリップのクリップピッチ変化率(P/P)は、1.42であり、左側クリップのクリップピッチ変化率(P/P)は0.78であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.45倍であった。次いで、右側クリップのクリップピッチをPに維持したままで、左側クリップのクリップピッチの増大を開始し、PからPまで増大させた。この間の左側クリップのクリップピッチの変化率(P2/P3)は1.82であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.9倍であった。なお、斜め延伸は138℃で行った。
【0059】
(開放-冷却工程)
次いで、開放ゾーンにおいて、125℃で60秒間フィルムを保持して熱固定を行った。熱固定されたフィルムを、100℃まで冷却後、左右のクリップを開放して、延伸フィルム1aを得た。
【0060】
(張力付与工程)
以上のようにして、得られた延伸フィルム1aを、搬送ロールを用いて熱風式オーブン内に搬送し、Tg-20℃に加熱した。さらに、該オーブン内で、搬送ロールのトルクを調整することにより、搬送ロール間にかけ渡されたフィルムに300Nの張力を15秒間付与し、その後、該張力を解消することにより長尺状の延伸フィルム1bを得た。なお、上記熱風式オーブンの延伸フィルムに対する熱伝達係数は、110W/m・Kであった。
【0061】
<実施例2>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム2bを得た。
【0062】
<実施例3>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-10℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム3bを得た。
【0063】
<実施例4>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと、および、延伸フィルムに付与する張力を100Nにしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム4bを得た。
【0064】
<実施例5>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと、および、延伸フィルムに付与する張力を400Nにしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム4bを得た。
【0065】
<実施例6>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-30℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム6bを得た。
【0066】
<実施例7>
Tgが128℃であるシクロオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン株式会社製、商品名「ゼオノアフィルム」、厚み100μm)を用いて実施例1と同様の斜め延伸を行った。次いで、100℃で1分熱固定し、70℃まで冷却してから左右のクリップを開放して延伸フィルム7aを得た。次いで、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルム7bを得た。
【0067】
<比較例1>
実施例1で作製した延伸フィルム1aをそのまま用いて、長尺状の延伸フィルムc-1bとした。
【0068】
<比較例2>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-40℃にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルムc-2bを得た。
【0069】
<比較例3>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTgと同じ温度(140℃)にしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルムc-3bを得た。
【0070】
<比較例4>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと、および、延伸フィルムに付与する張力を50Nにしたこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルムc-4bを得た。
【0071】
<比較例5>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱風式オーブン内での延伸フィルムの加熱温度をTg-15℃にしたこと、および、延伸フィルムに付与する張力を500Nにしたこと以外は実施例1と同様にして張力付与を行ったところ、フィルムが破断してしまった。
【0072】
<比較例6>
(張力付与工程)
実施例1で作製した延伸フィルム1aを用い、熱ロールを用いた接触加熱によって延伸フィルムをTg-15℃に加熱したこと以外は実施例1と同様にして、長尺状の延伸フィルムc-6bを得た。
【0073】
上記実施例および比較例で得られた延伸フィルム1b~7b、c-1b~c-4bおよびc-6bについてたるみ量、面内位相差および配向角を測定した。また、目視にて延伸フィルムの外観観察を行い、単位面積(1m)あたりにシワまたはキズが認められない場合には「良」、認められる場合は「不良」と評価した。結果を表1に示す。表1中、「たるみ低減量」は、各フィルムのたるみ量と延伸フィルムc-1bのたるみ量との差(延伸フィルムc-1bのたるみ量-各フィルムのたるみ量)である。なお、延伸フィルムc-1bのたるみ量は22mmであった。
【0074】
【表1】
【0075】
<評価>
表1に示されるとおり、実施例の製造方法によれば、張力付与工程において、位相差値および配向角を大きく変化させることなく、9mm以上のたるみの低減量が得られた。これに対し、比較例2および4はたるみの低減量が小さかった。これは、加熱温度または付与する張力が不十分であったためと思われる。一方、比較例5では付与した張力が大きすぎた結果、フィルムが破断してしまった。また、Tgまで加熱した比較例3では、たるみの低減量は大きかったが、光学特性が大きく変化し、シワも発生した。さらに、接触方式の加熱手段を用いた比較例6では、シワとキズとが発生した。なお、延伸フィルム1b~7bは、問題なくロールに巻き取ることができたが、延伸フィルムc-1b~c-4bおよびc-6bは、ロールに巻き取る際にシワおよび揉まれが発生し、外観が損なわれた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、位相差フィルムの製造に好適に用いられ、結果として、液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置の製造に寄与し得る。
【符号の説明】
【0077】
10L 無端ループ
10R 無端ループ
20 クリップ
70 基準レール
100 延伸装置
200 円偏光板
210 偏光子
220 第1の保護フィルム
230 第2の保護フィルム
240 位相差フィルム
図1
図2
図3