(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ダイヘッド及び塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
B05C5/02
(21)【出願番号】P 2018133265
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕希
(72)【発明者】
【氏名】信田 康広
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-051953(JP,A)
【文献】特開2013-198831(JP,A)
【文献】特開2014-184351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニホールド部及びスリット部を有するダイヘッドであって、
一対のダイブロックと、
前記一対のダイブロック間に重ね合わせた状態で固定される第1のシム及び第2のシムとを
備え、
前記スリット部は、
前記ダイヘッドの幅方向に第1の長さL1を有すると共に、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、
前記ダイヘッドの幅方向に第2の長さL2を有すると共に、前記第1のスリット幅より大きい第2のスリット幅を有し、前記第1のスリットの前記ダイヘッドの幅方向における両端部のそれぞれに連続する一対の第2のスリットとを含み、
前記第1のシムは、前記ダイヘッドの幅方向における長さが(L1+2×L2)である第1の切欠部が設けられた板状部材であり、
前記第2のシムは、前記ダイヘッドの幅方向における長さがL2である一対の第2の切欠部が、前記ダイヘッドの幅方向においてL1の間隔を空けて設けられた板状部材であり、
前記第1のシム及び前記第2のシムが重ね合わされた状態で前記一対のダイブロック間に固定された状態において、前記第1の切欠部のうちの、前記ダイヘッドの幅方向における両端のそれぞれから長さL2の部分である両端部分と前記第2の切欠部とによって前記第2のスリットが構成され、前記第1の切欠部のうちの、前記両端部分以外の部分である中央部分によって前記第1のスリットが構成される
、ダイヘッド。
【請求項2】
マニホールド部及びスリット部を有するダイヘッドであって、
一対のダイブロックと、
前記一対のダイブロック間に重ね合わせた状態で固定される第1のシム及び第2のシムとを
備え、
前記スリット部は、
前記ダイヘッドの幅方向に第1の長さL1を有すると共に、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、
前記ダイヘッドの幅方向に第2の長さL2を有すると共に、前記第1のスリット幅より大きい第2のスリット幅を有し、前記第1のスリットの前記ダイヘッドの幅方向における両端部のそれぞれに連続する一対の第2のスリットとを含み、
前記第1のシムは、前記ダイヘッドの幅方向における長さが(L1+2×L2)である切欠部が設けられた板状部材であり、
前記第2のシムは、前記ダイヘッドの幅方向における長さがL2である一対の溝が、前記ダイヘッドの幅方向においてL1の間隔を空けて設けられた板状部材であり、
前記第1のシム及び前記第2のシムが重ね合わされた状態で前記一対のダイブロック間に固定された状態において、前記切欠部のうちの、前記ダイヘッドの幅方向における両端のそれぞれから長さL2の部分である両端部分と前記溝とによって前記第2のスリットが構成され、前記切欠部のうちの、前記両端部分以外の部分である中央部分によって前記第1のスリットが構成される
、ダイヘッド。
【請求項3】
マニホールド部及びスリット部を有するダイヘッドであって、
一対のダイブロックと、
前記一対のダイブロック間に固定されるシムとを
備え、
前記スリット部は、
前記ダイヘッドの幅方向に第1の長さL1を有すると共に、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、
前記ダイヘッドの幅方向に第2の長さL2を有すると共に、前記第1のスリット幅より大きい第2のスリット幅を有し、前記第1のスリットの前記ダイヘッドの幅方向における両端部のそれぞれに連続する一対の第2のスリットとを含み、
前記シムは、前記ダイヘッドの幅方向における長さがL1である一定深さの凹部と、前記ダイヘッドの幅方向における長さがL2であり、前記凹部より深い一対の溝とが、前記ダイヘッドの幅方向において前記凹部と連続して設けられた板状部材であり、
前記シムが前記一対のダイブロック間に固定された状態において、前記凹部によって前記第1のスリットが構成され、前記一対の溝によって前記第2のスリットが構成される
、ダイヘッド。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載のダイヘッドと、
前記ダイヘッドに塗工液を供給する送液装置と、
ウェブの裏面を支持し、前記ウェブを連続搬送する搬送装置とを備える、塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイコートに用いるダイヘッド及びこれを用いた塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム等に用いられる樹脂性のフィルムをロール状に巻き取る際、巻き取られたフィルム同士の接触に起因してフィルムの変形や傷が生じる場合がある。このような不具合を回避するために、フィルムにナーリング加工を施すことにより、樹脂フィルムの幅方向の両端縁に沿って凹凸形状を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。ナーリング加工で凹凸形状を形成して、フィルムの幅方向における両端縁近傍の厚みを部分的に厚くすることにより、巻き取られたフィルムを両端縁近傍で支持し、フィルムの幅方向における内側にフィルム間の隙間を確保することができる。フィルムへのナーリング加工は、例えば、高温のエンボスロールをフィルムに押し当てることによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナーリング加工が施されたフィルム上にダイコート等により塗工処理を行って樹脂層を積層した場合、フィルムの両端縁近傍とそれ以外の部分との厚みの差が小さくなる。この場合、フィルムに予めナーリング加工で形成した凹凸形状の効果が損なわれ、巻き取られたフィルム同士の接触に起因するフィルムの変形や傷が生じる可能性がある。
【0005】
それ故に、本発明は、フィルム同士の接触に起因する変形や傷が低減された積層フィルムを製造できるダイヘッド及びこれを用いた塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るダイヘッドは、マニホールド部及びスリット部を有し、スリット部は、ダイヘッドの幅方向に第1の長さL1を有すると共に、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、ダイヘッドの幅方向に第2の長さL2を有すると共に、第1のスリット幅より大きい第2のスリット幅を有し、第1のスリットのダイヘッドの幅方向における両端部のそれぞれに連続する一対の第2のスリットとを含む。
【0007】
また、本発明に係る塗工装置は、上記のダイヘッドと、ダイヘッドに塗工液を供給する送液装置と、ウェブの裏面を支持し、ウェブを連続搬送する搬送装置とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルム同士の接触に起因する変形や傷が低減された積層フィルムを製造できるダイヘッド及びこれを用いた塗工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1に示したII-IIラインから見たダイヘッドの正面図
【
図3】
図1に示したIII-IIIラインに沿う位置の断面図
【
図4】
図1及び
図2に示した第1のシム及び第2のシムの斜視図
【
図7】一般的なダイヘッドの概略構成を示す分解斜視図
【
図8】第4の実施形態に係るダイヘッドの概略構成を示す分解斜視図
【
図9】スリット部形状毎の硬化樹脂層の膜厚変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る塗工装置の概略構成図であり、
図2は、
図1に示したII-IIラインから見たダイヘッドの正面図であり、
図3は、
図1に示したIII-IIIラインに沿う位置の断面図である。
【0011】
塗工装置100は、樹脂フィルムや紙等の、薄く柔軟性のある連続媒体であるウェブ6を連続搬送しながら、ウェブ6の表面に樹脂組成物の塗工液を塗工する装置であり、ダイヘッド1と、バックアップロール2と、送液装置3とを備える。
【0012】
ダイヘッド1は、一対のダイブロック10a及び10bと、ダイブロック10a及び10bの間に挟み込まれた状態で固定される第1のシム11及び第2のシム12とを含む。ダイヘッド1には、送液装置3から樹脂組成物の塗工液が供給されるマニホールド部4と、マニホールド部4に連通し、マニホールド部4に供給された塗工液を吐出するスリット部5とが設けられている。マニホールド部4は、例えば、
図3に示すように、ダイブロック10bに溝を設けることにより形成される。
【0013】
スリット部5は、第1のシム11及び第2のシム12に設けられた切欠部(詳細は後述する)により形成されており、
図2に示すように、第1のスリット21と第2のスリット22a及び22bとから構成されている。
【0014】
図2に示すように、第1のスリット21は、ダイヘッド1の幅方向(バックアップロール2の軸方向と平行な方向)において長さL1を有し、かつ、スリット幅W1を有する。尚、本明細書において、スリット幅とはスリットのギャップを意味する。
【0015】
第2のスリット22a及び22bはいずれも、ダイヘッド1の幅方向において長さL2を有し、かつ、スリット幅W2(ただし、W2>W1)を有する。第2のスリット22a及び22bは、第1のスリット21のそれぞれの両端部(ダイヘッド1の幅方向における両端部)に連続して形成されている。つまり、
図2に示すように、スリット部5の幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が、他の部分のスリット幅より大きくなっている。スリット部5の両端部のスリット幅(すなわち、第2のスリット22a及び22bのスリット幅W2)を他の部分より相対的に大きくしているのは、ダイヘッド1を用いて塗工液を塗工し、硬化させることによって形成した樹脂層の厚みを、ウェブ6の幅方向の両端部で相対的に厚くするためである。尚、ウェブ6の幅方向の両端部で樹脂層の厚みを相対的に厚くすることの利点については後述する。
【0016】
バックアップロール2は、ウェブ6の裏面を支持し、ウェブ6を連続搬送する搬送装置の一部を構成する。尚、搬送装置は、図示したバックアップロール以外の搬送ロールやモータ等の駆動装置を備える。送液装置3は、樹脂組成物の塗工液を貯留するためのタンクやポンプ、異物を濾過するフィルタ(いずれも図示せず)等を含み、樹脂組成物の塗工液をダイヘッド1に設けられた供給路を通じてマニホールド部4に供給する。
【0017】
図4は、
図1及び
図2に示した第1のシム及び第2のシムの斜視図である。尚、
図4において、第1のシム11及び第2のシム12の長手方向が
図2に示したダイヘッド1の幅方向に対応する。
【0018】
第1のシム11は、コの字型を有する金属板であり、矩形状の金属板の一辺に矩形状の第1の切欠部31を設けることによって構成される。第1のシム11の長手方向の寸法はL3であり、第1のシム11の短手方向の寸法はL4である。また、第1のシム11の長手方向における第1の切欠部31の長さは、L1+2×L2であり、第1の切欠部31の両端部は、第1のシム11の両端部から距離L5の位置に位置している。
【0019】
第2のシム12は、略矩形状を有する金属版であり、矩形状の金属板の一辺に一対の第2の切欠部32a及び32bを設けることによって構成される。第2のシム12の長手方向の寸法はL3であり、第2のシム12の短手方向の寸法はL4である。また、第2のシム12の長手方向における第2の切欠部32a及び32bの長さは、いずれもL2である。第2のシム12の長手方向において、第2の切欠部32a及び32bは、L1の間隔を空けて配置され、第2のシム12の両端部から距離L5の位置に位置している。
【0020】
第1のシム11及び第2のシム12を重ね合わせてダイブロックの間に固定した状態とすると、第2の切欠部32a及び32bの全体が第1の切欠部31の長手方向の両端部に重なる。第1のシム11及び第2のシム12が重ね合わされた状態では、第1の切欠部31の長手方向における端部のそれぞれから長さL2の部分である両端部分34a及び34bと、これらに重なり合った第2の切欠部32a及び32bとによって、
図2に示した第2のスリット22が構成される。また、第1の切欠部31のうち、両端部分34a及び34bを除いた部分である中央部分35によって、
図2に示した第1のスリット21が構成される。
【0021】
本実施形態に係るダイヘッド1においては、
図2に示したように、スリット幅W1を有する第1のスリット21の外側に、スリット幅W1より大きいスリット幅W2を有する第2のスリット22a及び22bが連続して設けられている。つまり、本実施形態に係るダイヘッド1のスリット部5は、ダイヘッド1の幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が他の部分より相対的に大きくなるように構成されている。
【0022】
ダイヘッド1を用いたダイコートにより樹脂組成物からなる塗工液をウェブに塗工すると、ダイヘッド1の両端部近傍(ウェブの幅方向の両端部近傍)における塗工層の厚みが相対的に厚くなる。ダイヘッド1で塗工した塗工層を硬化させて硬化樹脂層を形成すると、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれに沿って、相対的に膜厚の大きい凸条部を形成することができる。ウェブ上に硬化樹脂層を形成したフィルムを巻き取る際には、ウェブの幅方向の両端縁に沿って形成された凸条部でフィルムを支持し、フィルムの幅方向における内側にフィルム間の隙間を確保することができる。したがって、本実施形態に係るダイヘッド1によれば、フィルム同士の接触に起因する変形や傷が低減された積層フィルムを製造することが可能となる。
【0023】
また、本実施形態に係るダイヘッド1を用いた場合、塗工液の塗工と同時に塗工層の膜厚差を生じさせることができる。したがって、ナーリング加工が施されたフィルム上にダイコート等により塗工処理を行って塗工層を形成する場合とは異なり、塗工後にウェブの幅方向の両端縁近傍に設けた凸条部の機能が損なわれることはない。また、本実施形態に係るダイヘッド1を用いた場合、塗工液を塗工して硬化させることにより、ウェブの幅方向の両端縁近傍に凸条部を形成できるため、ウェブに対して予め行うナーリング加工を省略することも可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、第2のシム12の厚みにより第2のスリット22a及び22bのスリット幅W2を調整することができる。したがって、形成する硬化樹脂膜の膜厚に応じて、塗工層の幅方向両端部近傍と中央部との膜厚差を容易に所望の値に制御することができる。
【0025】
第2のスリット22a及び22bのスリット幅W2をより厚くすれば、巻き取り時に重なり合ったフィルム間の隙間をより大きくすることができるので、より幅広、または、より長尺のフィルムを変形や傷を抑制しつつ巻き取ることができる。
【0026】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係るシム形状を示す斜視図である。
【0027】
本実施形態に係るダイヘッドは、第1の実施形態に係る第1のシム11及び第2のシム12に代えて、第1のシム41及び第2のシム42を用いる点で第1の実施形態に係るダイヘッドと異なる。以下、本実施形態と第1の実施形態との相異点を中心に説明する。
【0028】
第1のシム41は、第1の実施形態に係る第1のシム11と同一形状を有する。すなわち、第1のシム41は、コの字型を有する金属板であり、矩形状の金属板の一辺に矩形状の切欠部43を設けることによって構成される。第1のシム41の長手方向の寸法はL3であり、第1のシム41の短手方向の寸法はL4である。また、第1のシム41の長手方向における切欠部43の長さは、L1+2×L2であり、切欠部43の両端部は、第1のシム41の両端部から距離L5の位置に位置している。
【0029】
一方、第2のシム42は、略矩形状を有する金属版であり、矩形状の金属板の表面に一対の溝44a及び44bを設けることによって構成される。第2のシム42の長手方向の寸法はL3であり、第2のシム42の短手方向の寸法はL4である。また、第2のシム42の長手方向における溝44a及び44bの長さは、いずれもL2である。第2のシム42の長手方向において、溝44a及び44bは、L1の間隔を空けて配置され、第2のシム42の両端部から距離L5の位置に位置している。
【0030】
第1のシム41及び第2のシム42を重ね合わせてダイブロックの間に固定した状態とすると、溝44a及び44bの全体が切欠部43の長手方向の両端部に重なる。第1のシム41及び第2のシム42が重ね合わされた状態では、切欠部43の長手方向における両端部のそれぞれから長さL2の部分である両端部分48a及び48bと、これらに重なり合った溝44a及び44bとによって、相対的にスリット幅が大きい第2のスリットが構成される。また、切欠部43のうち、両端部分48a及び48bを除いた部分である中央部分49によって、相対的にスリット幅が狭い第1のスリットが構成される。
【0031】
本実施形態に係る第1のシム41及び第2のシム42を用いたダイヘッドにおいても、第1の実施形態に係るダイヘッド1と同様に、ダイヘッド1の幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が他の部分より相対的に大きくなるようにスリット部が構成される。したがって、本実施形態に係る第1のシム41及び第2のシム42を備えたダイヘッドを用いた場合も、第1の実施形態と同様に、ダイヘッドの両端部近傍(ウェブの幅方向の両端部近傍)における塗工層の厚みを相対的に厚くすることができる。したがって、塗工層を硬化させた硬化樹脂層には、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれに沿って、相対的に膜厚の大きい凸条部を形成することができ、硬化樹脂層を形成した後のフィルムを巻き取った際に、フィルム同士の接触に起因する変形や傷の発生を低減することができる。
【0032】
また、本実施形態においても、第2のシム42に形成する溝の深さを変えることによって、ウェブの幅方向の両端部近傍における塗工層の厚みを容易に調整することができる。
【0033】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態に係るシム形状を示す斜視図である。
【0034】
本実施形態に係るシム45は、1枚の金属板により構成されている点で、第2の実施形態と相違するが、第2の実施形態に係る第1のシム41及び第2のシム42を重ね合わせたものと等価な形状を有している。より詳細には、シム45は、略矩形状を有する金属版であり、矩形状の金属板の表面に一定の深さの凹部46と、シム45の長手方向において凹部46の両端部と連続するように、凹部46より深い一対の溝47a及び47bを設けることによって構成される。尚、シム45の長手方向の寸法はL3であり、シム45の短手方向の寸法はL4である。また、シム45の長手方向における凹部46の長さはL1であり、シム45の長手方向における溝47a及び47bの長さは、いずれもL2である。シム45の長手方向において、シム47の両端部から距離L5の位置に位置している。本実施形態においては、凹部46によって相対的にスリット幅が狭い第1のスリットが構成され、溝47a及び47bによって相対的にスリット幅が広い第2のスリットが構成される。
【0035】
本実施形態に係るシム45を用いたダイヘッドにおいても、第1の実施形態に係るダイヘッド1と同様に、ダイヘッド1の幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が他の部分より相対的に大きくなるようにスリット部が構成される。したがって、本実施形態に係るシム45を備えたダイヘッドを用いた場合も、第1の実施形態と同様に、ダイヘッドの両端部近傍(ウェブの幅方向の両端部近傍)における塗工層の厚みを相対的に厚くし、塗工層の硬化後に、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれに沿って、相対的に膜厚の大きい凸条部分を形成することができる。したがって、本実施形態に係るシム45を用いた場合も同様に、硬化樹脂層を形成した後のフィルムを巻き取った際の変形や傷の発生が低減された積層フィルムを製造可能なダイヘッドを実現できる。
【0036】
(第4の実施形態)
図7は、一般的なダイヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、
図8は、第4の実施形態に係るダイヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。尚、
図7及び
図8においては、マニホールド部となる溝の記載を省略している。
【0037】
本実施形態に係るダイヘッドの説明に先駆けて、シムを備えない一般的なダイヘッドの構成を説明する。
図7に示すダイヘッド53は、一対のダイブロック50a及び50bから構成される。ダイブロック50a及び50bのそれぞれの接合側の面には、一定の深さの凹部51a及び51bが設けられている。ダイヘッド53にはスリット部を構成するためのシムが用いられておらず、ダイブロック50a及び50bを組み合わせてダイヘッド53を構成した状態において、凹部51及び51bにより塗工液を吐出するためのスリット部が構成される。
【0038】
本実施形態に係るダイヘッド63は、
図8に示すように、一対のダイブロック60a及び60bから構成される。ダイブロック60aは、
図7に示したダイブロック50aと同じ構成を有しており、ダイブロック60bと接合される側の面に凹部61aが設けられている。ダイブロック60bは、ダイブロック60aと接合される側の面に一定の深さの凹部61bと、溝62a及び62bとが設けられている。溝62a及び62bは、ダイブロック60bの長手方向において凹部61bと連続するように設けられており、溝62a及び62bの深さは凹部61bより深い。尚、ダイブロック60bの長手方向における凹部61bの長さはL1であり、ダイブロック60bの長手方向における溝62a及び62bの長さはいずれもL2である。また、ダイブロック60aの長手方向における凹部61aの長さは、L1+2×L2である。尚、ダイブロック60aの
凹部61aは省略することも可能である。
凹部61aを省略する場合は、凹部61bの深さが第1のスリットのスリット幅と一致する。また、ダイブロック60aに、ダイブロック60bに設けたものと同じ凹部及び一対の溝を設けても良い。
【0039】
ダイブロック60a及び60bを組み合わせてダイヘッド64を構成した状態では、凹部61aの長手方向における両端部のそれぞれから長さL2の部分である両端部分64a及び64bと、これらに重なり合った溝62a及び62bとによって、相対的にスリット幅が大きい第2のスリットが構成される。また、凹部61aのうち、両端部分64a及び64bを除いた部分である中央部分65によって、相対的にスリット幅が小さい第1のスリットが構成される。
【0040】
本実施形態に係るダイヘッド63においても、第1の実施形態に係るダイヘッド1と同様に、ダイヘッド63の幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が他の部分より相対的に大きいスリット部が構成される。したがって、本実施形態に係るダイヘッド63を用いた場合も、第1の実施形態と同様に、ダイヘッドの両端部近傍(ウェブの幅方向の両端部近傍)における塗工層の厚みを相対的に厚くし、塗工層の硬化後に、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれに沿って、相対的に膜厚の大きい凸条部分を形成することができる。したがって、本実施形態によれば、硬化樹脂層を形成した後のフィルムを巻き取った際の変形や傷の発生が低減された積層フィルムを製造可能なダイヘッド63を実現できる。
【0041】
(その他の変形例)
尚、上記の第1及び第2の実施形態では、2枚のシムを用いた例を説明したが、3枚以上のシムを重ねて用いても良い。この場合、3枚以上のシムを重ね合わせた状態で、
図2に示したものと同様の形状のスリット部が構成されれば良い。
【0042】
また、上記の第1の実施形態では、ダイヘッドのスリット部をロール(バックアップロール)上に配置し、ロールによってバックアップされたウェブの部分に塗工液を塗工するオンロール方式の塗工装置を例示したが、上記の各実施形態に係るダイヘッドは、オンロール方式の塗工装置に限らず、ダイヘッドを使用する他の方式の塗工装置(ダイコータ)に適用することもできる。例えば、上記の各実施形態に係るダイヘッドは、ウェブを2以上のロールで支持し、ダイヘッドのスリット部をロールのない部分に配置し、ロールによってバックアップされていないウェブの部分に塗工液を塗布するオフロール方式の塗工装置に適用することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的に実施した実施例を説明する。
【0044】
図9は、スリット部形状毎の硬化樹脂層の膜厚変化を示す図である。より詳細には、
図9のプロットは、ウェブの幅方向の端縁から中央側へと1ミリずつ測定位置を変更しながら、ダイコートした塗工液を硬化させて形成した硬化樹脂層の膜厚を測定し、各測定位置における硬化樹脂層の膜厚(総厚)から、ウェブの幅方向中央部における硬化樹脂層の膜厚(有効部厚)を差し引いた値(膜厚差)をプロットしたものである。膜厚は、接触式膜厚計
(型番KG3001A、アンリツ社製)を用いて測定した。
図9の横軸は、ウェブの幅方向の端縁から各測定位置までの距離[mm]を表し、
図9の縦軸は、総厚と有効部厚との膜厚差を表す。また、
図9において、四角印のプロットは実施例を表し、×印のプロットは比較例を表す。
【0045】
まず、
図9の×印のプロットは、
図4に示した第1のシム11に相当する1枚のシムのみを用いて、スリット幅を一定としたダイヘッドでハードコート層形成用塗工液を塗工して形成した硬化樹脂膜の測定値である。尚、ハードコート層形成用塗工液として、アクリレートモノマー45質量部、メチルエチルケトン40質量部、ジメチルカーボネート10質量部及び光重合開始剤5質量部とを含有する組成物を使用した。比較例において使用したダイヘッドのスリット部のスリット幅は100μmであり、ウェブの幅方向におけるスリット部の長さは1310mmである。比較例においては、1330mm幅のウェブに対し、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれから10mm離れた位置が塗工端部となるように塗工液を塗布した。
【0046】
ダイヘッドによって塗工された塗工層のうち、塗工端部(ウェブの両端縁から10mm離れた位置)近傍の部分は、ウェブの幅方向外側に広がる。したがって、塗工端部から所定範囲に形成された硬化樹脂膜の膜厚は、ウェブの幅方向中央部に形成された硬化樹脂膜の膜厚よりも小さくなっている。
【0047】
次に、
図9の四角印のプロットは、
図4に示した第1のシム11及び第2のシム12を併用して、幅方向両端部のスリット幅を相対的に大きくしたダイヘッドを用いて、比較例で用いたものと同じハードコート層形成用塗工液を塗工して形成した硬化樹脂層の測定値である。実施例において使用したダイヘッドのスリット部において、相対的にスリット幅が狭い部分(
図2の第1のスリット21)のスリット幅は100μmであり、相対的にスリット幅が広い部分(
図2の第2のスリット22a及び22b)のスリット幅は200μmである。また、ウェブの幅方向におけるスリット部全体の長さは1320mmであり、
図2の第1のスリット21に相当する部分の長さは1310mmであり、
図2の第2のスリット22a及び22bに相当する部分の長さはそれぞれ5mmである。実施例においては、1330mm幅のウェブに対し、ウェブの幅方向の両端縁のそれぞれから5mm離れた位置が塗工端部となるように塗工液を塗布した。
【0048】
実施例においても、ダイヘッドによって塗工された塗工層のうち、塗工端部(ウェブの両端縁から5mm離れた位置)近傍の部分は、ウェブの幅方向外側に広がる。ただし、本実施例においては、ダイヘッドのスリット部は、幅方向の両端部近傍におけるスリット幅が相対的に大きくなるように構成されているため、塗工端部近傍では、幅方向の中央部と比べて塗工液が厚く塗工される。このため、塗工層の硬化後には、
図9のプロットに示すように、塗工端部から所定範囲には、ウェブの幅方向中央部に形成された硬化樹脂膜の膜厚よりも厚い膜厚を有する部分が形成されている。この相対的に厚い膜厚を有する部分は、ウェブの幅方向の両端縁に沿って延びる凸条部となり、ウェブの巻き取り時にウェブを支持する部分となる。
【0049】
以上説明したように、幅方向の両端部から所定範囲のスリット幅を相対的に大きくしたダイヘッドを用いてダイコートにより塗工液を塗工し、塗工層を硬化させることにより、ウェブの幅方向の両端縁に沿って凸条部を形成できることが確認された。形成された凸条部は、従来ナーリング加工により形成していた凹凸と同様に機能し、フィルムの巻き取り時にフィルムを支持してフィルム間に隙間を確保するために有効である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ダイコートを行うためのダイヘッド及びこれを用いた塗工装置に利用でき、特に、ロール・トゥー・ロールで積層フィルムを製造するために用いるダイヘッド及びこれを用いた塗工装置に好適である。
【符号の説明】
【0051】
1 ダイヘッド
2 バックアップロール
3 送液装置
4 マニホールド部
5 スリット部
6 ウェブ
10a、10b ダイブロック
11 第1のシム
12 第2のシム
21 第1のスリット
22a、22b 第2のスリット
31 第1の切欠部
32a、32b 第2の切欠部
34a、34b 両端部分
35 中央部分
41 第1のシム
42 第2のシム
43 切欠部
44a、44b 溝
45 シム
46 凹部
47a、47b 溝
48a、48b 両端部分
49 中央部分
60a、60b ダイブロック
61 凹部
62a、62b 溝
63 ダイヘッド
64a、64b 両端部分
65 中央部分