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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】干渉計の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
G01B11/00 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018149565
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020024169
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100086379
【弁理士】
【氏名又は名称】高柴 忠夫
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】日比野 謙一
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-174232(JP,A)
【文献】特開2005-274304(JP,A)
【文献】特開2011-122829(JP,A)
【文献】米国特許第04639139(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照レンズと被検レンズの間隔を所定量動かしながら、所定枚数の干渉縞画像を取得する位相シフト工程と、
取得した前記干渉縞画像上の画素ごとに、実際の位相シフト量である実位相シフト量を算出する実位相シフト量算出工程と、
前記干渉縞画像上の画素ごとに、算出した前記実位相シフト量に基づいて、あらかじめ用意した複数の解析アルゴリズムの中から適用アルゴリズムを選択するアルゴリズム選択工程と、
前記被検レンズの被検面上の画素ごとに、選択した前記適用アルゴリズムを用いて、該画素の初期位相を求める解析工程と、
を備える干渉計の測定方法。
【請求項2】
前記アルゴリズム選択工程において、前記干渉縞画像上の画素ごとに、前記複数の解析アルゴリズムの中から複数の適用アルゴリズムを選択し、
前記解析工程において、前記被検レンズの被検面上の画素ごとに、選択した前記複数の適用アルゴリズムによる複数の解析結果を、前記実位相シフト量を用いて、複素ベクトル空間で合成することにより該画素の初期位相を求める
請求項1に記載の干渉計の測定方法。
【請求項3】
前記実位相シフト量算出工程において、前記被検面上の画素の座標、前記参照レンズ中心の撮像面座標、および前記参照レンズの開口数に基づいて、前記実位相シフト量を算出する、請求項1または2に記載の干渉計の測定方法。
【請求項4】
前記実位相シフト量算出工程において、前記位相シフト工程で取得した前記干渉縞画像から前記実位相シフト量を算出する、請求項1または2に記載の干渉計の測定方法。
【請求項5】
前記実位相シフト量算出工程において、前記位相シフト工程で取得した前記干渉縞画像上から空間的に略均一に複数の画素を選択して各画素における実際の輝度変化から実位相シフト量を算出し、算出した複数の前記実位相シフト量に基づいて、前記干渉縞画像上の全解析画素である被検面の各解析画素における前記実位相シフト量を近似算出する、請求項1または2に記載の干渉計の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光源から出射されるレーザー光の一部を反射させて参照光とするとともに、他の一部を透過させて測定光とし、測定光を被検面に対して出射する参照面と、参照光、及び被検面にて反射される測定光の干渉光に基づいて、被検面の形状を測定する解析装置とを備えるフィゾー型干渉計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図10は、特許文献1に記載のフィゾー型干渉計の構成を示す図である。フィゾー型干渉計100は、参照レンズ110が保有する参照面111と、図示しない光源、位相シフト機構、および解析装置から構成される。被検レンズ120は測定対象のレンズであり、被検レンズ120の被検面121の形状を測定する。
【0004】
参照レンズ110および被検レンズ120は、それぞれ参照面111および被検面121の曲率中心がフィゾー型干渉計100の射出光集光位置Qに一致するように配置される。このような構成により、フィゾー型干渉計100は、参照面111と被検面121の反射光を重ね合わせて形成される干渉縞を撮像する。
【0005】
図示しない位相シフト機構により(メカ的に)、参照レンズ110を光軸方向(図10の上方向)にλ/8動かして画像取得することを5回繰り返す。ここで、λは光の波長であり、λ/8は位相をπ/2変化させるために必要な移動量である。この操作により、光軸上で位相がπ/2ずつずれた5ヶ所(5枚)の干渉縞画像を取得することができる。得られた干渉縞画像5枚から、式(1)で示されるアルゴリズムにより、被検面121の面形状を解析する。
【0006】
【数1】
【0007】
式(1)は、位相シフト法のアルゴリズムの式であり、IはN番目の位置(N=1~5)の画像の輝度(干渉光の強度)を示す。干渉縞の位相の変化量における期待値と実際の値との間のずれ量をΔとする。
【0008】
図10に示すように、参照レンズ110および被検レンズ120の外側(周辺)では、位相シフト方向に対して、光の入射方向が角度を持つため、狙った位相シフト量(π/2)が与えられない。すなわち、位相が正確にπ/2ずつずれた干渉縞画像を取得することができず、誤差が生じる。式(1)の右辺の2cosΔ/1+cos2Δは補正項であり、この誤差を数値的に補正する。補正項が含まれる式(1)を用いて解析することで、外側(周辺)でも高精度な解析を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5543765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、特許文献1に記載のフィゾー型干渉計による測定方法では、次のような課題がある。撮像素子に入射する光が理想的な正弦波の場合は、式(1)の補正項が有効である。しかし、フィゾー型干渉計の場合は参照レンズ110の参照面111と被検レンズ120の被検面121間で多重反射が起こり、多重反射が出す光(レーザー光源1の射出光周波数が2n倍の光)により、検出光はゆがんだ正弦波となる。さらに、参照レンズ110および被検レンズ120の外側(周辺)では中心部と位相シフト量が異なるため、式(1)の補正項では誤差が大きく、正確な形状を算出することが出来ない。
【0011】
また、特許文献1に記載のフィゾー型干渉計による測定方法では、干渉信号を理想的な正弦波で近似しているため、被検レンズのNA(開口数)が0.8を超えるような高NAレンズを精度よく測ることができない。また、高反射レンズでは、多重反射光が多く、理想的な正弦波から大きくずれるため、精度よく測ることが出来ない。さらに、アライメント誤差があると精度良く測ることができない。
【0012】
本発明は、上述の課題に基づいてなされたものであり、被検レンズが高NAレンズであっても被検面の形状を精度良く測定できる干渉計の測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1態様では、干渉計の測定方法は、参照レンズと被検レンズの間隔を所定量動かしながら、所定枚数の干渉縞画像を取得する位相シフト工程と、取得した前記干渉縞画像上の画素ごとに、実際の位相シフト量である実位相シフト量を算出する実位相シフト量算出工程と、前記干渉縞画像上の画素ごとに、算出した前記実位相シフト量に基づいて、あらかじめ用意した複数の解析アルゴリズムの中から適用アルゴリズムを選択するアルゴリズム選択工程と、前記被検レンズの被検面上の画素ごとに、選択した前記適用アルゴリズムを用いて、該画素の初期位相を求める解析工程と、を備える。
【0014】
本発明の1態様では、前記アルゴリズム選択工程において、前記干渉縞画像上の画素ごとに、前記複数の解析アルゴリズムの中から複数の適用アルゴリズムを選択し、前記解析工程において、前記被検レンズの被検面上の画素ごとに、選択した前記複数の適用アルゴリズムによる複数の解析結果を、前記実位相シフト量を用いて、複素ベクトル空間で合成することにより該画素の初期位相を求めてもよい。
【0015】
本発明の1態様では、前記実位相シフト量算出工程において、前記被検面上の画素の座標、前記参照レンズ中心の撮像面座標、および前記参照レンズの開口数に基づいて、前記実位相シフト量を算出してもよい。
【0016】
本発明の1態様では、前記実位相シフト量算出工程において、前記位相シフト工程で取得した前記干渉縞画像から前記実位相シフト量を算出してもよい。
【0017】
本発明の1態様では、前記実位相シフト量算出工程において、前記位相シフト工程で取得した前記干渉縞画像上から空間的に略均一に複数の画素を選択して各画素における実際の輝度変化から実位相シフト量を算出し、算出した複数の前記実位相シフト量に基づいて、前記干渉縞画像上の全解析画素である被検面の各解析画素における前記実位相シフト量を近似算出してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の各態様に係る干渉計の測定方法によれば、被検レンズが高NAレンズであっても精度良く測定できる干渉計の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る干渉計を含む光学系全体の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法において、得られた干渉縞画像の例を示す図である。
図4A】本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法における、メカ的な位相シフトを表す図である。
図4B図4Aの一部の拡大図である。
図5】本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法における、各解析アルゴリズムを選択した場合の、測定誤差を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施形態に係る干渉計の測定方法において、複素ベクトル空間での解析結果合成を表す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る干渉計の測定方法において、位相シフト量空間における、設計位相シフト量および実位相シフト量を示す図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る干渉計の測定方法において、被検面領域から複数の画素を選択する図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る干渉計の測定方法において、選択画素のフレーム方向の輝度値の変化を表す図である。
図10】従来技術に係る干渉計の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法について詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る干渉計を含む光学系全体の構成を示す図である。図1に示すように、レーザー光源1の射出光は、ビームスプリッタ2で反射し、コリメータ3で平行光になり、参照レンズ4の参照平面4aで反射および透過し、被検レンズ5の被検面5aで反射し再度反射光と結合し、結像レンズ6を透過し、撮像素子7上に干渉縞を形成する。参照レンズ4は、ピエゾアクチュエータ8により、光軸方向に移動可能に支持される。撮像素子7および、ピエゾアクチュエータ8は、解析装置10に電気的に接続される。解析装置10は、複数の解析アルゴリズムを備える。解析アルゴリズムは、公知技術を使うか、公知技術を用いて設計すればよい。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法を示すフローチャートである。以下、各工程について説明する。
【0023】
工程1は、位相シフト工程である。位相シフト工程では、ピエゾアクチュエータ8により、参照レンズ4を光軸方向にδ=λ/12動かして、撮像素子7により干渉縞画像を解析装置10に取り込み記憶することを13回繰り返す。ここで、λはレーザー光源1の波長である。光軸上(中心線上)において、光路長換算でδ=λ/12は、光の位相でΔα=2π/6の位相シフトに相当する。この操作により、光軸上で位相が2π/6ずつずれた13枚の干渉縞画像を取得する。
【0024】
図3は、得られた干渉縞画像の例を示す図である。図3の干渉縞画像において、外側の円で囲まれたキャッツアイ領域31は、参照レンズ4の被検レンズ5側の参照面4aの反射光により形成されている。図3の干渉縞画像において、内側の円で囲まれた被検面領域32は、被検レンズ5の参照レンズ4側の被検面5aの反射光により形成されている。
【0025】
キャッツアイ領域31および被検面領域32の識別は、既知の手法により行えばよい。例えば、キャッツアイ領域31は周辺より明るく変調のない領域であり、被検面領域32は変調のある領域であるとして、画像処理的に識別することができる。
【0026】
図4Aは、本発明の実施形態に係る干渉計の測定方法における、メカ的な位相シフトを表す図である。参照レンズ4および被検レンズ5は、それぞれ参照面4aおよび被検面5aの曲率中心が射出光集光位置Qに一致するように配置される。レーザー光源1からの射出光は、上方から参照レンズ4に入射し、外側の面で屈折して射出光集光位置Qに到達する。このような構成により、干渉計は、参照面4aと被検面5aの反射光を重ね合わせて形成される干渉縞を撮像する。
【0027】
ピエゾアクチュエータ8(位相シフト機構)は、メカ的に参照レンズ4を光軸方向(図4Aの上方向)にδ動かして画像取得する。図4Aの一部IVBの拡大図である図4Bに示すように、参照レンズ4および被検レンズ5の外側(周辺)では、位相シフト方向に対して、光の入射方向が角度θを持つ。そのため、この位置では、参照レンズ4をδ動かしても、光路長はδcosθしか動かない。
【0028】
工程2は、実位相シフト量算出工程である。参照レンズ4を光軸方向にδ動かした時の、光軸上(光軸方向の)の位相シフト量をΔα、ターゲットである被検面5a上の各解析画素33の実際の位相シフト量(実位相シフト量)をΔα’、 各解析画素33における光の入射角度をθとする。すなわち、狙いの位相シフト量(設計位相シフト量)Δαと、各解析画素位置における実位相シフト量Δα’との関係は、図4Bより、式(2)のようになる。
【0029】
【数2】
【0030】
キャッツアイ領域31の中心画素31aの座標(参照レンズ4中心の撮像面座標)を(x,y)、被検面領域32(被検面5a)上のターゲットである解析画素33の座標を(x,y)、キャッツアイ領域31の画素単位直径(参照レンズ4の画像の径)をD[ピクセル]、参照レンズ4の開口数をNAとすると、式(3)が成立する。
【0031】
【数3】
【0032】
参照レンズ4のNA(開口数)は、式(4)のように、参照レンズ4のFナンバーFnoから求めることができる。
【0033】
【数4】
【0034】
式(2)~(4)を解くことで、ターゲットである被検面5a上の各解析画素33における光の入射角度θが求まり、各解析画素33の実位相シフト量Δα’を求めることができる。このように、取得した干渉縞画像上の画素ごとに、実際の位相シフト量を算出する工程が、工程2(実位相シフト量算出工程)である。
【0035】
工程3は、アルゴリズム選択工程である。表1は、解析装置10が備える、複数の解析アルゴリズムに対応する窓関数Wを示す表である。表1の例では、N=6~12の7種類の解析アルゴリズムおよび対応する窓関数が用意されている。Nは分割数を示し、設計位相シフト量2π/N(N=6~12)ごとに、窓関数(Window関数)が用意されている。窓関数の値(要素)の各々は各撮像画像に対応し、表1の例では各値が13枚の撮像画像にそれぞれ対応する。
【0036】
【表1】
【0037】
式(5)は、表1の窓関数Wを適用して被検面の位相φを求める式である。すなわち、被検面の位相φを求めるアルゴリズムである。
【0038】
【数5】
【0039】
Nrは選択している窓関数を示す。Mは干渉縞画像数(撮像枚数)を示し、表1の例ではM=13である。rは、干渉縞画像の番号であり、r=1~Mである。Iはr番目(r=1~M)の干渉縞画像における解析画素の輝度値を示す。αNrは式(6)から求める。
【0040】
【数6】
【0041】
設計位相シフト量Δαは式(7)から求める。Nは分割数である。
【0042】
【数7】
【0043】
光軸上(中心線上)であれば位相シフト量Δα=2π/6であるので、N=6に対応する解析アルゴリズム(窓関数)を適用する。参照レンズ4および被検レンズ5の外側(周辺)では、表1および式(5)~(7)の7種類の解析アルゴリズムの中から、実位相シフト量Δα’に最も近い解析アルゴリズムを1つ選択する(適用アルゴリズム)。なお、窓関数(係数)が変わるだけで、式(5)~(7)自体は同じである。
【0044】
このように、干渉縞画像上の画素ごとに、算出した実位相シフト量に基づいて、あらかじめ用意した複数の解析アルゴリズムの中から適用アルゴリズムを選択する工程が、工程3(アルゴリズム選択工程)である。
【0045】
工程4は、解析工程である。解析工程では、選択した1つの解析アルゴリズム(適用アルゴリズム)を用いて、被検面の各解析画素の位相(初期位相)φを求める。ここで、例えば、工程3でN=8の解析アルゴリズムを選択した場合は、式(5)~(7)に表1に示す窓関数W={1,2,4,6,7,8,8,8,7,6,4,2,1}を適用してφを求め、被検面の各解析画素の位相φとすればよい。以上の工程を、被検面上の中心から外側(周辺)までの全てに解析画素の適用することにより、被検面全体の位相(初期位相)を求めることができる。
【0046】
図5は、7つ(N=6~12)の解析アルゴリズムの各々を選択した場合の、測定誤差を示すグラフである。横軸はNAであり、縦軸は測定誤差[nm]である。測定誤差はNAだけでなく、位相と物体反射率の影響もうけるが、ここでは位相45度、物体反射率30%を与えた。図5から分かるように、7つの解析アルゴリズムにはそれぞれ誤差の大きい領域があるが、適切な1つ(適用アルゴリズム)を選択することで、測定誤差を極小化することができる。
【0047】
上述のように、本実施形態によれば、被検レンズのNAが0.8を超えるような高NAレンズであっても精度よく面形状を測ることができる。また、被検レンズが高反射レンズであっても精度よく面形状を測ることができる。さらに、アライメント誤差があって位相が空間的に揃っていなくても精度よく面形状を測ることができる。
【0048】
上述の説明では、位相シフト工程において、参照レンズ4を光軸方向にδ=λ/12動かして、撮像素子7により干渉縞画像を解析装置10に取り込み記憶することを13回繰り返す例を示した。ただし、参照レンズ4を動かす大きさδ、および干渉縞画像を取得する回数はこれらに限定されない。位相シフト工程において、参照レンズ4と被検レンズ5の間隔を所定量動かしながら、所定枚数の干渉縞画像を取得すればよい。
【0049】
上述の説明では、解析アルゴリズムが7つ用意され、7つの解析アルゴリズムから1つ(適用アルゴリズム)を選択する例を示した。ただし、解析アルゴリズムは複数用意されていればよく、少なくとも2つの解析アルゴリズムが用意され、それらから1つの解析アルゴリズム(適用アルゴリズム)を選択すれば、本実施形態の効果が得られる。
【0050】
(第2実施形態)
第2実施形態では、工程3(アルゴリズム選択工程)と工程4(解析工程)が第1実施形態とは異なる。
【0051】
第2実施形態の工程3(アルゴリズム選択工程)では、表1および式(5)~(7)の7種類の解析アルゴリズムの中から、実位相シフト量Δα’に最も近い順に解析アルゴリズムを2つ選択し、第1解析アルゴリズム(N=a)および第2解析アルゴリズム(N=b)とする。
【0052】
第2実施形態の工程4(解析工程)では、選択した第1解析アルゴリズム(N=a)および第2解析アルゴリズム(N=b)の各々において、第1実施形態と同じ工程4(解析工程)を行い、各々の解析結果φ、φを求める。
【0053】
φ、φは位相なので、図6に示す複素ベクトル空間において多重平均する。図6は、本実施形態に係る干渉計の測定方法において、解析結果(被検面の位相)φabを求めるための複素ベクトル空間での解析結果合成を表す図である。図7は、位相シフト量空間における、第1解析アルゴリズム(N=a)の設計位相シフト量2π/a、第2解析アルゴリズム(N=b)の設計位相シフト量2π/b、および実位相シフト量Δα’を示す図である。
【0054】
実位相シフト量Δα’とちょうど一致する設計位相シフト量はなく、Δα’以下の最も近い設計位相シフト量が2π/aであり、Δα’を超えた最も近い設計位相シフト量が2π/bである。そこで、図7に示すように、位相シフト量の差の比Δα’-2π/a:2π/b-Δα’=t:(1-t)とすると、式(8)が成立する。
【0055】
【数8】
【0056】
ここで、0≦t≦1である。得られたtを用いて、図6に示すように、選択解析アルゴリズムの設計位相シフト量2π/a~2π/bの間を、複素ベクトル空間で線形補完する。具体的には、式(9)を用いることにより解析結果φabを算出し、これを実位相シフト量Δα’における被検面の位相φとする。
【0057】
【数9】
【0058】
図5において、「合成」のラインは、本実施形態を適用した場合の測定誤差を示す。図5から分かるように、7つの解析アルゴリズムから適用アルゴリズムを選択する場合と比較して、測定誤差を小さくすることができる。また、本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、解析アルゴリズムが切り替わる境界でギャップが発生することなく、さらに高精度な測定ができる。
【0059】
このように、本実施形態では、アルゴリズム選択工程において、干渉縞画像上の画素ごとに、複数の解析アルゴリズムの中から複数の適用アルゴリズムを選択する。そして、解析工程において、被検レンズの被検面上の画素ごとに、選択した複数の適用アルゴリズムによる複数の解析結果を、実位相シフト量を用いて、複素ベクトル空間で合成することにより各画素の初期位相を求めている。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態では、工程2(実位相シフト量算出工程)が第1実施形態とは異なる。第1実施形態では、実位相シフト量が参照レンズの画面の座標から一意に求まることを前提としていたが、第3実施形態では、実位相シフト量を実測する。
【0061】
図8は、本実施形態に係る干渉計の測定方法において、被検面領域から複数の画素を選択する図である。図3に示す干渉縞画像の被検面領域32において、図8に示すように空間的に略均一な複数(n個)の点(格子の交点上の点)を選択(サンプル)する。図8の例では、被検面領域32に含まれる格子の交点上の12点を選択(サンプル)している。
【0062】
選択(サンプル)した複数の点のうちある1点に注目して、選択画素k(1≦k≦n)とし、その座標を(x,y)とする。そして、選択画素k(x,y)における画像の実際の輝度値Ik,rを求める。図9は、選択画素のフレーム方向の輝度値の変化を表す図である。複数の選択画素kにおける実際の輝度値Ik,rを、画像(画素)の番号rを横軸として並べてプロットすると、図9に示すように、正弦波(モデル式)g(r)を用いて正弦波フィッティングすることができる。g(r)は式(10)のように表すことができる。A、B、Cはパラメータであり、Δα’ 選択画素kにおける位相シフト量である。
【0063】
【数10】
【0064】
そこで、選択画素kごとに、式(11)のSを最小にする、A、B、C 、Δα’ 、ニュートン法など既知の方法により算出する。
【0065】
【数11】
【0066】
求めたΔα’ 1≦k≦n)を既知の空間的近似関数であるZernike関数で近似することにより被検面領域内の位相分布を求め、各解析画素33の実位相シフト量Δα’を求める。
【0067】
このように、本実施形態では、画像の実際の輝度変化を正弦波フィッティングして、位相がどれだけ動いたか(位相シフト量)を計算で求める。1万~100万の画素の中から、空間的に略均一にサンプルした画素(10~100画素を想定、図8の例では12画素)について計算し、その後、空間方向(1万~100万画素を想定)に近似関数で展開する。
【0068】
上述のように、本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、位相シフトに空間的な偏りがあっても精度よく測ることができる。
【0069】
なお、上述の説明では、格子上の交点を選択画素として選択したが、選択画素は格子上の交点に限定されず、例えば、同心円状に等間隔に選択してもよい。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態およびその変形例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…レーザー光源、2…ビームスプリッタ、3…コリメータ、4…参照レンズ、4a…参照平面、5…被検レンズ、5a…被検面、6…結像レンズ、7…撮像素子、8…ピエゾアクチュエータ、10…解析装置、31…キャッツアイ領域、32…被検面領域、33…解析画素
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10