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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】石炭排水の処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20220128BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220128BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20220128BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20220128BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/14 500
B01D21/00 C
B01D21/02 N
B01D21/24 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019212002
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021084040
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-06-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593145663
【氏名又は名称】協和機電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 隆
(72)【発明者】
【氏名】大森 大助
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭洋
(72)【発明者】
【氏名】並内 完美
(72)【発明者】
【氏名】財津 慎太郎
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130450(JP,A)
【文献】特開2003-320400(JP,A)
【文献】特開昭52-039701(JP,A)
【文献】特開平07-299491(JP,A)
【文献】特開2011-157226(JP,A)
【文献】特開2009-178696(JP,A)
【文献】特開2000-288574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
C10L5/00-7/04
C10L9/00-11/08
B01D21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚運炭設備のコンベヤから回収した排水を多孔質膜で濾過する膜濾過工程と、
排水中の固形物を濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値以上であった場合に、スラリを前記揚運炭設備のコンベヤにて再利用するスラリ再利用工程と
を含む石炭排水の処理方法。
【請求項2】
前記濃縮工程を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値未満であった場合に、スラリを前記膜濾過工程または前記濃縮工程へ戻すスラリ還流工程を含む請求項1に記載の石炭排水の処理方法。
【請求項3】
前記膜濾過工程では、固形物の濃度が20g/L以上、100g/L以下の排水を濾過する請求項1または2に記載の石炭排水の処理方法。
【請求項4】
前記多孔質膜として、平均孔径が0.4μm以下の多孔質膜を使用する請求項3に記載の石炭排水の処理方法。
【請求項5】
前記多孔質膜として、平均孔径が排水中の微粉炭の平均粒径に対し20分の1以下の多孔質膜を使用する請求項3に記載の石炭排水の処理方法。
【請求項6】
揚運炭設備のコンベヤから排出された排水が導入される膜処理槽と、
該膜処理槽の内部に配置されて排水を濾過する多孔質膜とを備え、
排水から引き抜かれたスラリ中の固形物の濃度が閾値以上の場合に、スラリを前記揚運炭設備のコンベヤへ戻し得るよう構成された石炭排水の処理装置。
【請求項7】
排水中の固形物を濃縮し、スラリとして引き抜くと共に、スラリ中の固形物の濃度が閾値未満の場合に、スラリを再度濃縮し得るよう構成された請求項に記載の石炭排水の処理装置。
【請求項8】
前記膜処理槽から排水を抜き出して濃縮する濃縮槽を備えた請求項6または7に記載の石炭排水の処理装置。
【請求項9】
前記膜処理槽に、相対的に粒径の大きい粒子を除去する粗粒子除去器を設けた請求項6~8のいずれか一項に記載の石炭排水の処理装置。
【請求項10】
前記膜処理槽では、固形物の濃度が20g/L以上、100g/L以下の排水を濾過する請求項6~9のいずれか一項に記載の石炭排水の処理装置。
【請求項11】
前記多孔質膜の平均孔径が0.4μm以下である請求項6~10のいずれか一項に記載の石炭排水の処理装置。
【請求項12】
前記多孔質膜の平均孔径は、排水中の微粉炭の平均粒径に対し20分の1以下である請求項6~10のいずれか一項に記載の石炭排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭排水の処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、石炭や石炭灰を扱う設備では、機器に対して散水が行われる場合がある。例えば、石炭火力発電所の揚運炭設備において、燃料である石炭は貯炭場からコンベヤを用いて搬送されてミルで粉砕され、微粉炭としてボイラのバーナへ供給され、燃焼される。こうした揚運炭設備では、機器の一つであるコンベヤに対し、石炭の温度上昇や微粉炭の拡散を抑制し、また機器の機能を維持する目的で散水が行われる。散水された後の洗浄水は回収され、微粉炭を除去されたうえで再利用される。
【0003】
下記特許文献1には、こうした揚運炭設備におけるコンベヤの洗浄設備や、排水の処理装置の一例が記載されている。特許文献1に記載されている石炭排水の処理装置は、沈降槽と膜処理槽を備えており、コンベヤから回収された排水を前記沈降槽に貯留して排水中の微粉炭等を沈降処理により除去した後、上澄みを前記膜処理槽に移して多孔質膜で濾過するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-130450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如き処理装置においては、膜処理槽にて濾過を行う前に、沈降槽にて固形物の濃度を調整している。ここで、沈降槽の処理能力は、原則として槽の容積に依存する。特に、沈降槽において自然沈降を行う場合、微粉炭等を十分に沈降させるには排水が相応の時間、槽内に留まる必要があるので、沈降槽に要求される容積は、単位時間あたりの処理量に比例する。つまり、沈降槽により固形物の濃度を調整することを考えた場合、排水の量が多ければ、それだけ設備全体の容積や体積が大きくなってしまう。そこで、沈降槽によらずに膜処理槽における固形物の濃度を調整するような機構の実現が求められていた。
【0006】
固形物の濃度は、膜濾過処理の対象とする排水から固形物を濃縮して抜き出すことで調整できる。すなわち、膜処理槽の排水から膜濾過によって固形物を除けば、残った排水中の固形物の濃度はそれだけ高くなるので、その分の固形物を槽内に残った排水から取り除けば、槽内の固形物濃度を保つことができる。
【0007】
ここで、沈降処理を経ていない排水を膜処理槽で処理する場合、膜処理槽における固形物の濃度調整の結果として抜き出される固形物は相当の量になるが、石炭排水を浄化処理の対象とする場合、ここで回収された固形物は、状態によっては燃料の石炭として再利用できる可能性がある。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、膜濾過処理の対象とする排水中の固形物の濃度を効果的に調整すると共に、排水から取り出した固形物を有効に利用し得る石炭排水の処理方法および装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、揚運炭設備のコンベヤから回収した排水を多孔質膜で濾過する膜濾過工程と、排水中の固形物を濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値以上であった場合に、スラリを前記揚運炭設備のコンベヤにて再利用するスラリ再利用工程とを含む石炭排水の処理方法にかかるものである。
【0010】
本発明の石炭排水の処理方法は、前記濃縮工程を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値未満であった場合に、スラリを前記膜濾過工程または前記濃縮工程へ戻すスラリ還流工程を含んでもよい。
【0011】
本発明の石炭排水の処理方法において、前記膜濾過工程では、固形物の濃度が20g/L以上、100g/L以下の排水を濾過することができる。
【0012】
本発明の石炭排水の処理方法においては、前記多孔質膜として、平均孔径が0.4μm以下の多孔質膜を使用してもよい。
【0013】
本発明の石炭排水の処理方法においては、前記多孔質膜として、平均孔径が排水中の微粉炭の平均粒径に対し20分の1以下の多孔質膜を使用してもよい。
【0015】
また、本発明は、揚運炭設備のコンベヤから排出された排水が導入される膜処理槽と、該膜処理槽の内部に配置されて排水を濾過する多孔質膜とを備え、排水中の固形物を濃縮し、スラリとして引き抜くと共に、排水から引き抜かれたスラリ中の固形物の濃度が閾値以上の場合に、スラリを前記揚運炭設備のコンベヤへ戻し得るよう構成された石炭排水の処理装置にかかるものである。
【0016】
本発明の石炭排水の処理装置は、スラリ中の固形物の濃度が閾値未満の場合に、スラリを再度濃縮し得るよう構成することができる。
【0017】
本発明の石炭排水の処理装置においては、前記膜処理槽から排水を抜き出して濃縮する濃縮槽を備えることができる。
【0018】
本発明の石炭排水の処理装置においては、前記膜処理槽に、相対的に粒径の大きい粒子を除去する粗粒子除去器を設けることができる。
【0019】
本発明の石炭排水の処理装置において、前記膜処理槽では、固形物の濃度が20g/L以上、100g/L以下の排水を濾過することができる。
【0020】
本発明の石炭排水の処理装置においては、前記多孔質膜の平均孔径を0.4μm以下としてもよい。
【0021】
本発明の石炭排水の処理装置において、前記多孔質膜の平均孔径は、排水中の微粉炭の平均粒径に対し20分の1以下としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の石炭排水の処理方法および装置によれば、膜濾過処理の対象とする排水中の固形物の濃度を効果的に調整すると共に、排水から取り出した固形物を有効に利用し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施による石炭排水の処理装置の一例を示す全体概要図である。
図2】石炭排水の処理装置を構成する浄化ユニットの一例を示す概要構成図である。
図3】石炭排水中における固形物の粒度分布を示すグラフである。
図4】石炭排水中における固形物の濃度と、排水の粘度の関係を示すグラフである。
図5】本発明の実施による石炭排水の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1図2は本発明の実施による石炭排水の処理装置の一例を示している。図1に示す如く、揚運炭設備の機器であるコンベヤCの周囲には散水ポンプ1が設けられており、コンベヤCの所要箇所に対し、散水ポンプ1で昇圧された洗浄水が散水ノズル(図示せず)から散水されるようになっている。コンベヤCに対して散水された後の微粉炭を含む洗浄水は回収され、排水として浄化ユニット10に送られる。排水は、浄化ユニット10で固形物を分離除去された後、再び洗浄水として散水ポンプ1から散水される。また、本実施例の場合、排水から分離された固形物を、後述するようにコンベヤCに戻すようにもなっている。
【0027】
浄化ユニット10の構成を図2に示す。本実施例の浄化ユニット10は、排水に対して膜濾過処理を行う膜処理槽20と、膜濾過処理後の排水を貯留する処理水槽30と、排水中の固形物を濃縮する濃縮槽40を備えている。
【0028】
コンベヤCから回収された原排水は、一旦排水タンク50に貯留された後、まず膜処理槽20に送られる。膜処理槽20内には、粗粒子除去器21と、多孔質膜22が設置されている。
【0029】
粗粒子除去器21は、例えば0.5mm以上1mm以下程度の適当な孔径を有する網状の金属製の部材として構成され、膜処理槽20における排水の導入部に設けられている。排水タンク50から導かれる排水は、まず粗粒子除去器21を通されて粒径の大きい粒子を除かれる。そのうえで、排水は多孔質膜22に通されて濾過され、より粒径の小さい固形物を除去される。
【0030】
多孔質膜22は、例えば酢酸セルロース(CA: Cellulose Acetate)、ポリエチレン(PE: Polyethylene)、ポリアクリロニトリル(PAN: Polyacrylonitrile)、ポリスルフォン(PS: Polysulfone)、ポリエーテルスルホン(PES: Polyethersulfone)、ポリアミド(PA: Polyamide)、ポリビニルアルコール(PVA: Polyvinyl Alcohol)、ポリビニリデンフロライド(PVDF: Polyvinylidene Difluoride)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE: Polytetrafluoroethylene)といった樹脂、またはその他の種類の樹脂から選択される一以上の樹脂を素材として多孔質状に形成された膜である。多孔質膜22は、例えば中空糸膜として成形され、管状の形状をなす多孔質膜22の外側から内側へ排水を導き、排水が多孔質膜22の素材を通過する際に微粉炭等の物質を捕捉する。一般に、濾過に用いられる多孔質膜には、捕捉可能な粒子の大きさに応じて逆浸透膜(RO膜: Reverse Osmosis Membrane、NF膜:Nanofiltration Membrane)、限外濾過膜(UF膜:Ultrafiltration Membrane)、精密濾過膜(MF膜:Microfiltration Membrane)といった種類があるが、石炭排水を対象とする場合、多孔質膜22としては精密濾過膜か、あるいはより細かい粒子を捕捉できる限外濾過膜が適している。
【0031】
多孔質膜22には、下流側に濾過ライン60を介して濾過ポンプ61が接続されている。濾過ポンプ61は、中空糸膜である多孔質膜22の内側から、膜処理槽20内の排水を濾過ライン60を介して吸引する。つまり、管状の中空糸膜である多孔質膜22にとっては、管の外側にあたる膜処理槽20内の空間が上流、管の内側が下流にあたる。膜処理槽20内の排水は、濾過ポンプ61の吸引力により多孔質膜22の内側へ導かれ、多孔質膜22の素材を通過する際に濾過されて微粉炭等の物質を除去され、除去された物質は多孔質膜22の表面に捕捉される。濾過された排水は、処理水槽30に送られてここに貯留され、さらに洗浄水として散水ポンプ1(図1参照)へ送られ、コンベヤCの洗浄に再利用される。
【0032】
ここで、コンベヤCから排出される排水中の固形物の濃度は概ね0.1~20g/L程度であるが、本実施例の場合、膜処理槽20における排水中の固形物の濃度はここから20g/L以上、100g/L以下に調整される。一般に、膜処理によって排水等を処理する場合、水中の固形物の濃度は15g/L前後を上限として管理される。固形物の濃度が高すぎると、多孔質膜が早期に目詰まりし、差圧が高くなって膜濾過による排水の処理量が低下してしまうほか、多孔質膜を頻繁に洗浄する必要も生じて処理効率が下がってしまうとされるためである。こうした事態を避けるために、例えば上記特許文献1に記載されているように、膜処理槽の前段に沈降槽を備え、予め排水中の固形物を沈降処理により取り除いてから膜処理を行うようにされてきたのである。
【0033】
しかしながら、本願発明者らは、鋭意研究の結果、対象とする排水中の固形物の濃度を従来より高く設定しても、膜処理による浄化を十分に効率よく行えることを見出した。これを可能とするのは、第一に多孔質膜に使用する膜の選定であり、第二に石炭排水に特有の性質である。
【0034】
本実施例においては、多孔質膜22としては例えば精密濾過膜、あるいはそれ以下の孔径の膜を想定している。具体的には、平均孔径が0.4μm以下の多孔質膜を用いると好適である。対象の排水中に含まれる微粉炭粒子の粒径に対して多孔質膜22の孔径が十分に小さければ、微粉炭粒子を漏れなく捕捉できるのに加え、粒子の多くが孔の奥まで入り込まないので、捕捉された粒子を簡単な操作で除去し、浄化性能を回復できる(本実施例の場合、後述するように、膜処理槽20内に多孔質膜22を設置したままの状態で、逆洗浄と表面洗浄により多孔質膜22を洗浄するようにしている。尚、逆洗浄や表面洗浄を行う機構については、後に改めて詳述する)。尚、コンベヤC(図1参照)にて扱う石炭の種類や、石炭の破砕状態によっては、排水に含まれる微粉炭の径も異なることが想定できるので、多孔質膜22としては、排水中に含まれる微粉炭の粒径に応じて異なる孔径の膜を選択してもよい。具体的には、排水(粗粒子除去器21によって粒径の大きい微粉炭粒子を除去された後の排水)中の微粉炭の平均粒径に対し、平均孔径が20分の1以下である膜を多孔質膜22として採用する。
【0035】
下記表1は、実際の石炭排水中における固形物の粒度(粒径)を測定した実験の結果を示している。それぞれ異なる条件(石炭の種類、産地、破砕状態、対象とする機器等)で採取した10種類の石炭排水(サンプル1~10)につき、含まれる固形物の粒径を測定し、平均値を算出した。その結果、石炭排水に含まれる固形物の粒径は、概ね平均10μm前後~80μm前後であった。
【表1】

【0036】
また、粒度の分布を図3に示す。ここでは、上記表1のうちサンプル4における固形物の粒度分布を示している。サンプル4(平均粒度27.5μm)には、0.9μmから200μm前後までの固形粒子が含まれており、10μm前後の粒子が最も多かった。上に述べたような多孔質膜22の選定については、こうした測定に基づいて行うことができるすなわち、例えばサンプル4の石炭排水を浄化したい場合には、例えば平均孔径が約1.375μm以下の膜を使用してもよいし、また、限外濾過膜、あるいは平均孔径が0.4μm以下の膜を使用してもよい。
【0037】
ここで、石炭排水以外の排水、例えば下水等であれば、固形成分として無機成分の他に有機成分を多く含有しており、その比率も一定でない。ところが、石炭排水の場合、排水中に含まれる物質の種類が極めて限定され、且つCOD成分(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)がSS(Suspended Solid: 浮遊物質)に結合した状態で存在していることが、本願発明者らの研究により明らかになっている。このため、排水からSSを除去する操作(例えば、精密濾過膜による濾過)を行った場合、一緒にCOD成分も除去される。したがって、多孔質膜22として、SSを除去し得る程度の孔径の膜を採用すれば、石炭排水に関して十分な浄化性能を得ることができ、排水中に含まれる物質を効率よく除去することができる。
【0038】
また、多孔質膜22を洗浄する際にも、多孔質膜22からSSを除去できれば、それと共にCODも除去されることになる。したがって、上述のように、微粉炭の粒径に対して適当な孔径の多孔質膜22を選択すれば、表面洗浄や逆洗浄で多孔質膜22の浄化性能を十分に再生することが可能である。
【0039】
ところで、膜濾過処理の効率や、多孔質膜22の洗浄の効率には排水の粘度が影響し、排水の粘度は、それに含まれる固形物の濃度に左右される。そこで、排水中の固形物の濃度と、排水の粘度、および膜濾過差圧(多孔質膜22の前後における圧力差)の関係を調べる実験を行った。
【0040】
図4は、石炭排水に含まれる固形物の濃度と、排水の粘度の関係を調べた実験の結果を示している。排水に含まれる固形物の濃度が高いほど、排水の粘度は高く、特に100g/Lを超えると粘度が顕著に上昇する傾向が見られた。すなわち、排水の粘度が高ければ、それだけ流動性は低く、膜処理槽20内に関しては、排水の撹拌や表面洗浄の効率が低下してしまう。
【0041】
また、下記表2は、固形物の濃度と膜濾過差圧の関係を調べた実験の結果を示している。固形物濃度が高いほど、多孔質膜22の前後における差圧が大きくなる傾向が見られた。
【表2】

【0042】
すなわち、膜処理槽20内における固形物の濃度が高すぎると、高い排水粘度によって多孔質膜22の洗浄に支障を来す虞があるほか、同じ流束および処理水量を得るために必要な膜濾過差圧が高くなって膜処理に係るエネルギー効率も低下してしまう。実証実験において、膜処理槽20内における固形物濃度が100g/Lを超える条件で運転を行ったところ、表面洗浄で除去しきれない固形物が多孔質膜22に固着し、目詰まりを引き起こして継続的な運転が困難となった。こうしたことから、上に述べたように、膜処理槽20内における固形物濃度は100g/L程度を上限として管理することが好ましいのである。
【0043】
このように、本実施例では、膜処理槽20内における固形物濃度を従来と比較して高く(具体的には、20g/L以上、100g/L以下に)調整することで、従来であれば膜処理槽20の前段に備えられていた沈降槽にあたる構成を廃している。固形物の沈降のために浄化性能に応じた容積を必要とする沈降槽を廃することにより、浄化ユニット10の設置に要するスペースを大幅に低減することができる。
【0044】
さらに、個々の浄化ユニット10の設置スペースが小さく済むことは、敷地や空間の一層の有効利用にも資する。すなわち、従来のように沈降槽を含む浄化ユニットを設置しようとする場合、設置には大きなスペースを要するが、そのような大面積の確保できる場所は限られてしまう。つまり、例えばコンベヤの脇に空いた小空間などは浄化ユニットの設置に利用できない。そこで、例えば適当な一箇所に浄化ユニットを設置し、該浄化ユニットと、コンベヤの複数箇所との間に、各種の配管を敷設する必要があった。ところが、本実施例のような沈降槽を含まない浄化ユニット10であれば、コンベヤCの脇の空いたスペースに、複数の浄化ユニット10を分散して配置するといったことが可能である。このため、限られたスペースをいっそう有効に活用できると同時に、配管等に要するコストや空間をも節減することができる。
【0045】
ところで、上記特許文献1に記載されているような沈降槽を設けず、沈降処理を経ない排水を膜処理槽20に貯留して膜処理を行う場合、膜処理槽20内における排水中の固形物の濃度を管理する装置が別途必要である。すなわち、膜処理槽20内における固形物の濃度が上がりすぎないように調整しなくてはならない。このためには、排水中の固形物を濃縮し、スラリとして引き抜く操作が有効である。本実施例の場合、この役割を果たす装置として、膜処理槽20に加えて濃縮槽40を備えている。
【0046】
濃縮槽40には、膜処理槽20内の排水の一部が必要に応じて抜き出されて導かれるようになっている。本実施例の場合、膜処理槽20内における排水中の固形物濃度が一定の値を越えた場合、排水の一部を濃縮槽40へ流入させて貯留するようになっており、濃縮槽40内では、貯留された排水中の固形物が沈降して底部に蓄積する。濃縮槽40の底部にはスラリ引抜ライン70が接続され、該スラリ引抜ライン70にはスラリ引抜ポンプ71が設置されている。そして、スラリ引抜ポンプ71が定期的に、あるいは濃縮槽40内の水位等に応じて作動し、濃縮槽40の底部に蓄積したスラリ(固形物を多く含んだ排水)がスラリ引抜ライン70から引き抜かれるようになっている。
【0047】
また、膜処理槽20内においても、排水中の固形物が沈降して底部に蓄積する。そして、スラリ引抜ライン70は膜処理槽20の底部にも接続されており、膜処理槽20の底部に蓄積した固形物についても、スラリ引抜ポンプ71の作動によりスラリ引抜ライン70から引き抜かれるようになっている。
【0048】
濃縮槽40および膜処理槽20の底部に接続されたスラリ引抜ライン70は、濃縮槽40、膜処理槽20の下流側にて一本に合流しており、合流点より下流側にはスラリ引抜ポンプ71が設置されている。さらに本実施例の場合、スラリ引抜ライン70はスラリ引抜ポンプ71より下流側にて2本の枝管に分岐しており、分岐した前記枝管の出口は、それぞれコンベヤC(図1参照)または排水タンク50に接続されている。前記枝管の途中にはそれぞれ開閉弁72,73が設置され、これらの開閉弁72,73を切り替えることで、濃縮槽40または膜処理槽20から抜き出したスラリをコンベヤCに移して再利用するか、排水として排水タンク50に戻すかを選択できるようになっている。そして本実施例の場合、この切替えをスラリ中の固形物の濃度に応じて行うことを想定している。すなわち、固形物の濃度が高い場合には開閉弁72を開放すると共に開閉弁73を閉止し、スラリをコンベヤCに移して石炭として再利用する。一方、固形物の濃度が低い場合には開閉弁72を閉止すると共に開閉弁73を開放し、スラリを排水タンク50に戻して再度、膜処理槽20における膜濾過処理や、濃縮槽40での濃縮に供する。具体的には、例えばスラリ中の固形物の濃度の閾値を200g/Lに設定し、固形物の濃度がこの閾値以上であればコンベヤCに移し、閾値未満であれば排水として排水タンク50に戻せばよい。
【0049】
このように、本実施例では、膜処理槽20と濃縮槽40内で固形物を濃縮し、スラリとして引き抜くことで、膜処理槽20内における固形物の濃度を、膜処理に適した濃度に調整するようにしている。この際、膜処理槽20内だけで濃縮を行うのではなく、膜処理槽20内の排水を取り出して濃縮する濃縮槽40を別途設けることにより、いっそう効率よく固形物を濃縮し、高濃度のスラリを回収することができる。
【0050】
さらに本実施例では、スラリ中の固形物の濃度が高い場合にはコンベヤCに戻して再利用するようにしている。微粉炭である固形物を適当な濃度で含むスラリは、そのままコンベヤCに戻し、微粉炭として利用することができる。膜処理槽20では固形物を高い濃度で含む排水を処理し、さらに濃縮槽40ではこれを濃縮しているので、高濃度のスラリを効率的に得ることができ、そのまま再利用することができるのである。
【0051】
また本実施例では、スラリ中の固形物の濃度が低い場合、スラリを再度排水タンク50に戻すようにしている。排水タンク50に戻されたスラリは、再び排水として膜処理槽20や濃縮槽40に送られ、濃縮される。こうして、引き抜かれるスラリが低濃度であった場合には、再度濃縮することで有効に利用できるようにしている。尚、低濃度のスラリは、本実施例では排水タンク50へ戻すようになっているが、膜処理槽20や濃縮槽40に戻すようにしてもよい。
【0052】
さらに、本実施例の場合、凝集剤による沈降等を経ずに排水を膜処理に供しているので、膜処理等20や濃縮槽40から回収されたスラリには凝集剤が含まれない。このため、凝集剤に起因する配管の詰まり等の問題を回避しつつ、スラリや洗浄水を効果的に再利用することができる。
【0053】
また、本実施例では、濃縮槽40および膜処理槽20における微粉炭の固着を防止するための仕組みとして、濃縮槽40と膜処理槽20の下部に傾斜部40a,20aをそれぞれ設けると共に、濃縮槽40および膜処理槽20の内部に撹拌ノズル90,91を設置している。
【0054】
濃縮槽40と膜処理槽20は、それぞれ円筒形の形状をなしており、その下部は下へ向かうほど径が小さくなる傾斜部40a,20aを形成している。すなわち、傾斜部40a,20aは、それぞれ濃縮槽40または膜処理槽20の内側に向かう下り勾配をなしており、その勾配のなす角度としては、水平に対して30°以上45°以下程度が好適である。
【0055】
撹拌ノズル90,91は、濃縮槽40および膜処理槽20内の下部に設置され、ここに撹拌ブロワ92から適当な気体(例えば、空気)が送り込まれ、この空気により、濃縮槽40および膜処理槽20内に貯留された排水が撹拌されるようになっている。尚、撹拌ブロワ92の代わりに撹拌ポンプを備え、撹拌ノズル90,91から水を噴射して排水を撹拌するようにしてもよい。
【0056】
膜処理槽20には、上述のように固形物を80g/L前後も含む高濃度の排水が貯留されるため、槽内で固形物が固着しやすい。濃縮槽40では、さらに固形物の濃縮を行うので尚更である。そこで、本実施例では、撹拌ノズル90,91から送り込む空気により槽内の排水を撹拌して排水の滞留を防止し、固形物が固着しないようにしている。また、水中の固形物は自重により沈降すること、角部には水流が到達しない場合があることから、固形物は特に底部の隅に溜まりやすい傾向があるので、濃縮槽40および膜処理槽20の下部に傾斜部40a,20aを設けることにより、固着をいっそう効率よく防止しているのである。
【0057】
尚、濃縮槽40においてスラリの濃縮や引抜きを行うにあたり、撹拌ノズル90の動作は適宜オンオフを切り替えてよい。固形物の濃度の高いスラリを得るには、濃縮槽40内で撹拌を行わずに排水を静置する方が効率的であるからである。例えば、膜処理槽20から濃縮槽40内へ排水を導入している間は撹拌ノズル90を動作させて排水を撹拌し、濃縮を行う段階で撹拌ノズル90を停止するといった形で運転を行うことができる。
【0058】
ここで、本実施例の場合、膜処理槽20内に粗粒子除去器21を備え、相対的に粒径の大きい粒子を除去したうえで多孔質膜22による濾過を行っている。粗い粒子は、細かい粒子と比較して流動性が低く、ポンプ等による引抜きをしづらい。また、水中における沈降速度も速く、隅に固着しやすい。そこで本実施例では、粗粒子除去器21により相対的に粒径の大きい粒子を予め除去したうえで膜処理槽20や濃縮槽40に排水を貯留し、粗い粒子が槽内に固着したり、スラリ引抜ポンプ71による引抜きの妨げになるといった事態を防止するようにしている。尚、ここで「相対的に粒径の大きい粒子」とは、排水中に含まれる粒子のうち、特に粒径の大きい粒子群を指し、より具体的には、粗粒子除去器21によって除かれる程度の粒径の粒子である。
【0059】
多孔質膜22の表面洗浄および逆洗浄を行うための機構について説明する。膜処理槽20の内部における多孔質膜22の下方には、膜洗浄ノズル80が配置されており、膜洗浄ブロワ81から膜洗浄ノズル80へ適当な気体(例えば、空気)が送られ、上方の多孔質膜22に噴射されるようになっている。この膜洗浄ブロワ81から噴射される空気により、多孔質膜22の表面に捕捉された固形物がこそぎ落とされる。また、膜洗浄ノズル80は、膜処理槽20内の排水を撹拌する機能も担っている(尚、上述のように、膜処理槽20内には、撹拌のための機構として撹拌ノズル91が別途設けられている。すなわち、本実施例では、膜洗浄ノズル80と撹拌ノズル91の働きにより、膜処理槽20内の排水を撹拌するようにしている)。尚、膜洗浄ブロワ81をポンプに代え、表面洗浄を水によって行ってもよい。
【0060】
また、濾過ライン60には、逆洗浄を行うための逆洗ライン101が接続されている。逆洗ライン101は、処理水槽30からコンベヤC(図1参照)へ、浄化後の排水(処理水)を導く処理水ライン100の途中から分岐して濾過ライン60へ至り、該濾過ライン60へ処理水を導くようになっている。逆洗ライン101の途中には逆洗ポンプ102が設けられると共に、処理水ライン100における逆洗ライン101への分岐点の下流側の位置、および逆洗ライン101の途中には、それぞれ開閉弁103,104が設けられている。多孔質膜22の逆洗浄を行う際には、濾過ポンプ61を停止し、開閉弁103を閉止し、開閉弁104を開放し、逆洗ポンプ102を作動させると、処理水槽30内の処理水が処理水ライン100から逆洗ライン101へ導かれ、膜処理槽20内の多孔質膜22に対し下流側の濾過ライン60から処理水が押し込まれ、多孔質膜22に捕捉された固形物が押し出されるようにして除去される。尚、ここでは逆洗浄用の水として処理水を用いる場合を例示したが、逆洗浄には例えば工業用水など、多孔質膜22の洗浄に好適な水であればどのような由来の水を用いてもよい。
【0061】
表面洗浄および逆洗浄の頻度は適宜設定してよいが、一例として、濾過ポンプ61による膜処理を間欠運転とし、濾過ポンプ61の作動と停止を適当な周期で繰り返しつつ、濾過ポンプ61の停止中に逆洗浄を行うとよい。例えば、膜処理を27分間行ったら、続く3分間は濾過ポンプ61を停止して逆洗ポンプ102を作動させ、逆洗浄を行う、という運転を繰り返す。また、膜洗浄ブロワ81は常時運転して表面洗浄を行い、その中で例えば1日の運転のうち1時間、濾過ポンプ61を停止させ、その間、表面洗浄による洗浄効果を高める運転を行う。このように、濾過ポンプ61の間欠運転に表面洗浄と逆洗浄を組み合わせ、運転サイクルに洗浄を組み込むことで、多孔質膜22の閉塞を抑制する。本実施例では、上述のように高濃度の排水に対して多孔質膜22による膜処理を行っているが、石炭排水に対して適当な孔径の多孔質膜22を選択すれば、このような表面洗浄や逆洗浄による洗浄により、多孔質膜22の目詰まりを十分に除去することができる。実際、本願発明者らによる実証実験によれば、表面洗浄と逆洗浄によって多孔質膜22の浄化性能を十分に回復し、効率的な排水の浄化を継続できることが確認されている。
【0062】
すなわち、本実施例の如き浄化ユニット10であれば、高濃度の石炭排水を多孔質膜22により浄化しつつも、多孔質膜22に捕捉された微粉炭等の粒子を表面洗浄と逆洗浄のみで十分に除去することができ、場合によっては、例えば薬剤を用いた洗浄を不要とすることも可能である。薬剤による洗浄を行わない場合、洗浄のための槽や、薬剤を貯留するためのタンクを別途設置する必要がないので、装置の設置に必要なスペースが小さく済み、また、薬剤による洗浄のために多孔質膜22を別の槽に移すような手間も不要であるため、効率的な運転が可能である。尚、ここでは表面洗浄を行うための機構と、逆洗浄を行うための機構を両方備えた装置を例示したが、いずれか一方でも多孔質膜22の性能を十分に回復できる場合は、一方のみを備えるようにしてもよい。
【0063】
上述の本実施例による石炭排水の処理方法を、図5のフローチャートを参照して説明する。本実施例の石炭排水の処理方法は、主要な工程として膜濾過工程(ステップS2)、濃縮工程(ステップS8)およびスラリ再利用工程(ステップS10)を含んでいる。
【0064】
回収工程(ステップS1)は、石炭または石炭灰を扱う機器(コンベヤ)Cから排水を回収する工程である(図1参照)。排水タンク50(図2参照)に回収された排水は、浄化ユニット10の膜処理槽20に移され、膜濾過工程(ステップS2)が実行される。膜処理槽20内では、固形物を20g/L以上100g/L以下の濃度で含む排水に対し、濾過による浄化が行われる。膜処理槽20内の排水は、下流の濾過ライン60に設置された濾過ポンプ61の作動により多孔質膜22を通して吸引され、固形物を濾過により除去される。
【0065】
膜濾過工程(ステップS2)を経て浄化された排水は、濾過ライン60を通じて処理水槽30(図2参照)に送られ、処理水ライン100から散水ポンプ1(図1参照)に送られ、機器(コンベヤ)Cに対し洗浄水として利用される(ステップS7、処理水再利用工程)。
【0066】
また、回収工程(ステップS1)から処理水再利用工程(ステップS7)へ至る一連の工程中、一定の条件により、逆洗浄工程(ステップS4)および表面洗浄工程(ステップS60)が実行される。本実施例の場合、逆洗浄工程と表面洗浄工程については、時間の経過に応じて実行することを想定している。回収工程から膜濾過工程および処理水再利用工程が順次実行される間、時間がカウントされ、ステップS3,S5にて時間経過の判断が行われる。尚、このステップS3,S5を実行するタイミングはいつでも良い(ここでは図示の都合上、ステップS2の直後にステップS3,S5を表示しているが、実際にはステップS1,S2,S7の各工程は同時並行で連続的に実行されるので、ステップS3,S5は適当な周期で適当な時点に実行すれば良い)。
【0067】
ステップS3では、浄化ユニット10の運転を開始してから、または前回の逆洗浄工程(ステップS4)が行われてから所定の時間が経過したか否かが判定される。所定の時間(例えば、30分)が経過していた場合には、逆洗浄工程(ステップS4)に移り、濾過ポンプ61(図2参照)を停止すると共に逆洗ポンプ102を作動させ、逆洗ライン101から多孔質膜22へ処理水を送り込み、多孔質膜22の逆洗浄を行う。
【0068】
ステップS5では、浄化ユニット10の運転を開始してから、または前回の表面洗浄工程(ステップS6)が行われてから所定の時間が経過したか否かが判定される。所定の時間(例えば、24時間)が経過していた場合には、表面洗浄工程(ステップS6)に移り、膜洗浄ブロワ81(図2参照)を作動させ、膜洗浄ノズル80から多孔質膜22へ水または気体を噴射し、多孔質膜22の表面洗浄を行う。
【0069】
また、このような膜処理槽20の運転と平行して、濃縮工程(ステップS8)が行われる。濃縮工程では、膜処理槽20から濃縮槽40へ移された排水中の固形物が濃縮槽40内に蓄積して濃縮され、底部のスラリ引抜ライン70からスラリとして引き抜かれる。また、膜処理槽20の底部に蓄積した固形物も、同様にスラリとして引き抜かれる。
【0070】
スラリ引抜ライン70では、図示しない濃度計等により、スラリとして引き抜かれた排水中の固形物の濃度が測定され(ステップS9)、この濃度に応じ、スラリ再利用工程(ステップS10)またはスラリ還流工程(ステップS11)が実行される。すなわち、ステップS9において、スラリ中の固形物の濃度が閾値以上であった場合には、スラリをコンベヤC(図1参照)に移し、微粉炭として再利用する(ステップS10、スラリ再利用工程)。一方、固形物の濃度が閾値未満であった場合には、スラリを排水タンク50(図1参照)に戻し(ステップS11、スラリ還流工程)、再度、膜濾過による浄化(ステップS2、膜濾過工程)や、その後の濃縮槽40による濃縮(ステップS8、濃縮工程)に供する。尚、ここで、濃度の低いスラリは排水タンク50ではなく膜処理槽20に戻してもよいし、あるいは、濃縮槽40に戻してもよい。また、ステップS9~S11は、濃縮槽40においては、例えば水位がある閾値以上となったタイミングで実行すればよいし、膜処理槽20においては、例えば底部にある程度のスラリが蓄積したと見られるタイミングで実行すればよい。
【0071】
以上のように、上記本実施例の石炭排水の処理方法は、石炭または石炭灰を扱う機器(コンベヤ)Cから回収した排水を多孔質膜22で濾過する膜濾過工程(ステップS2)と、排水中の固形物を濃縮する濃縮工程(ステップS8)と、濃縮工程(ステップS8)を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値以上であった場合に、スラリを機器Cにて再利用するスラリ再利用工程(ステップS10)を含んでいる。
【0072】
また、本実施例の石炭排水の処理装置は、石炭または石炭灰を扱う機器(コンベヤC)から排出された排水が導入される膜処理槽20と、該膜処理槽20の内部に配置されて排水を濾過する多孔質膜22とを備え、排水中の固形物を濃縮し、スラリとして引き抜くと共に、排水から引き抜かれたスラリ中の固形物の濃度が閾値以上の場合に、スラリを機器Cへ戻し得るよう構成されている。
【0073】
このようにすれば、膜処理槽20内における固形物の濃度を効率よく管理することができる。また、適当な濃度に濃縮されたスラリを再利用することができる。
【0074】
また、本実施例の石炭排水の処理方法は、濃縮工程(ステップS8)を経たスラリ中の固形物の濃度が閾値未満であった場合に、スラリを膜濾過工程(ステップS2)または濃縮工程(ステップS8)へ戻すスラリ還流工程(ステップS11)を含んでいる。
【0075】
また、本実施例の石炭排水の処理装置は、スラリ中の固形物の濃度が閾値未満の場合に、スラリを再度濃縮し得るよう構成されている。
【0076】
このようにすれば、高濃度のスラリをさらに効率よく回収することができる。
【0077】
また、本実施例の石炭排水の処理装置においては、膜処理槽20から排水を抜き出して濃縮する濃縮槽40を備えている。このようにすれば、排水中の固形物をいっそう効率よく濃縮し、高濃度のスラリとして回収することができる。
【0078】
また、本実施例の石炭排水の処理装置においては、膜処理槽20に、相対的に粒径の大きい粒子を除去する粗粒子除去器21を設けている。このようにすれば、粒径の大きい粒子を予め除去したうえで膜処理槽20や濃縮槽40に排水を貯留するので、粗い粒子が槽内に固着したり、引抜きの妨げになるといった事態を防止することができる。
【0079】
また、本実施例の石炭排水の処理方法および装置において、膜濾過工程(ステップS2)および膜処理槽20では、固形物の濃度が20g/L以上、100g/L以下の排水を濾過している。このようにすれば、沈降槽を廃し、固形物を高濃度で含む排水を多孔質膜22による膜処理に供することにより、設備の設置に必要なスペースを大幅に低減することができる。
【0080】
また、本実施例の石炭排水の処理方法および装置においては、多孔質膜22の平均孔径を0.4μm以下、または、排水中の微粉炭の平均粒径に対し20分の1以下としている。このようにすれば、SSにCOD成分が結合している石炭排水を効果的に浄化することができる。
【0081】
また、本実施例の石炭排水の処理方法および装置において、前記機器は揚運炭設備のコンベヤとしている。
【0082】
したがって、上記本実施例によれば、膜濾過処理の対象とする排水中の固形物の濃度を効果的に調整すると共に、排水から取り出した固形物を有効に利用し得る。
【0083】
尚、本発明の石炭排水の処理方法および装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
1 散水ポンプ
10 浄化ユニット
20 膜処理槽
20a 傾斜部
21 粗粒子除去器
22 多孔質膜
30 処理水槽
40 濃縮槽
40a 傾斜部
50 排水タンク
60 濾過ライン
61 濾過ポンプ
70 スラリ引抜ライン
71 スラリ引抜ポンプ
72 開閉弁
73 開閉弁
80 膜洗浄ノズル
81 膜洗浄ブロワ
90 撹拌ノズル
91 撹拌ノズル
92 撹拌ブロワ
100 処理水ライン
101 逆洗ライン
102 逆洗ポンプ
103 開閉弁
104 開閉弁
C コンベヤ
図1
図2
図3
図4
図5