(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】高クリープ破断強度と耐酸化性とを併せ持つ高クロムマルテンサイト系耐熱鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220128BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20220128BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20220128BHJP
C21D 8/10 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21D9/08 E
C21D8/10 D
(21)【出願番号】P 2019500645
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2017067613
(87)【国際公開番号】W WO2018011301
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-17
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508362664
【氏名又は名称】ヴァルレック チューブ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】513314366
【氏名又は名称】ヴァローレック ドイチュラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フックスマン,アルノ
(72)【発明者】
【氏名】コッシュリグ,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】スバノビッチ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ベンディック,ウァルター
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-016274(JP,A)
【文献】特開2012-140667(JP,A)
【文献】特表2004-526058(JP,A)
【文献】特開2002-235154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/08
C21D 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセント
(wt%)で以下の化学組成を有する鋼からなる高温用途向けシームレス管状製品:
C:0.10~0.16%
Si:0.20~0.60%
Mn:0.30~0.80%
P≦0.020%
S≦0.010%
Al≦0.020%
Cr:10.50~12.00%
Mo:0.10~0.60%
V:0.15~0.30%
Ni:0.10~0.40%
B:0.008~0.015%
N:0.002~0.020%
Co:1.50~3.00%
W:1.50~2.50%
Nb:0.02~0.07%
Ti:0.001~0.020%
前記鋼の残部は、鉄および避けられない不純物である。
【請求項2】
B/N≦1.5である、請求項1に記載のシームレス管状製品。
【請求項3】
wt%で、
1.00%≦Mo+0.5W≦1.50%
である、請求項1または2に記載のシームレス管状製品。
【請求項4】
wt%で、
B-(11/14)(N-10
-(1/2.45)・(logB+6.81)-(14/48)・Ti)≧0.007
である、請求項1から3のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項5】
wt%で、
2.6≦4・(Ni+Co+0.5・Mn)-20・(C+N)≦11.2
である、請求項1から4のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項6】
炭素含有量が0.13~0.16%の間である、請求項1から5のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項7】
Mo含有量が0.30~0.60%の間である、請求項1から6のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項8】
B含有量が0.0095~0.013%の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項9】
Ti含有量が0.001~0.005%の間である、請求項1から8のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項10】
ミクロ組織が、少なくとも95%の焼もどしマルテンサイトを含み、前記
ミクロ組織の残部がデルタフェライトである、請求項1から9のいずれか一項に記載のシームレス管状製品。
【請求項11】
前記ミクロ組織が、少なくとも98%の焼もどしマルテンサイトを含み、前記
ミクロ組織の残部がデルタフェライトである、請求項
10に記載のシームレス管状製品。
【請求項12】
前記ミクロ組織が、マルテンサイト系でありかつデルタフェライトを含まない、請求項
10または11に記載のシームレス管状製品。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の
シームレス管状製品であって、前記シームレス管状製品がシームレス管
である、シームレス管状製品。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載のシームレス管状製品の生産方法であって、
請求項1から
9のいずれか一項に記載の化学組成を有する鋼を鋳造するステップと、
前記鋼を高温形成するステップと、
前記鋼を加熱し、前記鋼を10~120分の時間で1050℃~1170℃の温度範囲内に保持するステップと、
前記鋼を室温まで冷却するステップと、
前記鋼
を、750℃~820℃の間である焼もどし温度TT
に再加熱し、前記鋼を
、前記焼もどし温度TTに少なくとも1時間保持するステップと、
前記鋼を室温まで冷却するステップと、
を備える生産方法。
【請求項15】
前記
鋼を室温まで冷却する2つの前記冷却するステップ
の両方が、
いずれも、空冷または水冷を使って行われる、請求項14に記載
のシームレス管状製品の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇温で、すなわち550~750℃かつ高応力で機能(作動)する部品用マルテンサイト系高クロム耐熱鋼(スチール)に関する。本発明による鋼は、発電、化学、および石油化学の産業において使用され得る。
【背景技術】
【0002】
フェライト系/マルテンサイト系高Cr鋼材料は、最近の発電所において、再熱器/過熱器管としてかつ蒸気パイプとして広く使用されている。熱発電所の正味効率をさらに改善することは、圧力や温度の蒸気パラメータの増大を必要とする。したがって、より効率的な発電所サイクルを実現するには、改善された蒸気側の耐酸化性を有するより強い材料が必要になる。卓越したクリープ特性とより優れた耐酸化性とを組み合わせた新しいマルテンサイト系高クロム鋼を開発しようとする既知の努力はこれまで、いわゆるZ相の発生により失敗していた。Z相は、急速に粗雑になり、それによって周囲の強化MX析出物(沈殿)を消費する複合窒化物である。MはNbやVであり、XはCやNである。
【0003】
高クロム鋼材料という表現は一般に、9wt%(重量%または重量パーセント)を超えるCrを含む鋼を意味する。しかしながら、良好な耐水蒸気酸化性に不可欠である高Cr含有量は、すなわち9wt%を超えるCrを含有することは、Z相生成の推進力を増大し、炭化クロム析出物の粗雑化率も大きくする。MX析出物および炭化クロム析出物の両者のミクロ組織安定化効果の低下は、マルテンサイト系高Cr耐熱鋼グレードにおける長期のクリープ破断強度の低下の原因になる。こうして、将来の鋼開発の主要な課題は、クリープ破断強度と耐酸化性との間における明らかな矛盾を解決することである。
【0004】
現在、高温用途(適用)については、すなわち、稼働(サービス)温度を550℃より高くした状態での用途については、ASTMグレード(等級)91および92が広く使用されており、いずれも600℃、90MPaおよび114MPaで105h後にクリープ破断強度をもった9wt%のCrをそれぞれ含有する。2つの鋼の主要な違いは、グレード91の場合における1wt%と比べて、グレード92が1.8wt%の範囲内のWと0.4wt%の還元されたMoとを含有することである。加えて、グレード92は、0.005wt%を下回る少量のBを含有する。
【0005】
いずれの鋼も、600℃を上回る温度において蒸気雰囲気中の不十分な耐酸化性に苦しんでおり、そのことが適用温度範囲を著しく制限している。熱伝達を伴うボイラー部品において特に、酸化物スケールは断熱材として働き、それによって金属温度を増大させ、その結果として対応する部品の寿命を短くする。加えて、酸化物スケールは、もし運転中に完全に小さく割られた(砕かれた)なら、後続する蒸気運搬部品に浸食損傷を引き起こし、または、蒸気タービンに入った後にタービン翼と案内羽根とに浸食損傷を引き起こす。小さく割られた酸化物スケールは、特にベンド(曲り管)の領域内で管閉塞を引き起こし、蒸気流を妨げ、しばしば局部的な過熱と悲惨な故障とに終わるかもしれない。
【0006】
X20CrMoV11-1は、十分に確立された、高温用途向けの高Crフェライト/マルテンサイト系鋼であり、当該鋼は、0.20wt%のC、10.5~12wt%のCr、1wt%のMo、および0.2wt%のVを含有する。この鋼は、より高いCr含有量のためASTM鋼グレード91および92の酸化特性よりも良い酸化特性を示すが、劣ったクリープ破断強度(600℃で105h後のクリープ破断強度はおよそ59MPaである)を示す。加えて、熱加工性および溶接性は、0.20wt%の高C含有量のために悪化(低下)する。ASTMグレード122は、10~12%のCr、1.8%のW、1%のCuを含有し、またMX強化粒子の析出を誘発するためにV、Nb、およびNの添加物を含有する。そのクリープ破断強度は、600℃で105h後に98MPaのクリープ破断強度を示すASTMグレード92のものを大幅に下回っている。
【0007】
また、高Cu含有量のために熱加工性の問題が存在する。
【0008】
11~12wt%のCrを有する別の鋼が存在する。それは主に薄肉管として使用され、良好な蒸気側の耐酸化性とASTMグレード91のレベルでのクリープ破断強度とを組み合わせたVM12-SHC鋼と呼ばれている。このような鋼の概念は、特許出願WO02081766から知られており、当該出願には重量を単位として0.06~0.20%のC、0.10~1.00%のSi、0.10~1.00%のMn、0.010%より多くないS、10.00~13.00%のCr、1.00%より多くないNi、1.00~1.80%のW、(W/2+Mo)が1.50%より多くないようなMo、0.50~2.00%のCo、0.15~0.35%のV、0.040~0.150%のNb、0.030~0.12%のN、0.0010~0.0100%のB、任意選択で最大0.0100%のCaを含有するとともに、残りの化学組成が鉄と調製プロセスもしくは鋼鋳造に起因するまたはそれらのために要する不純物もしくは残留物とからなる高温使用向け鋼が開示されている。化学成分含有量によって、1050~1080℃の間で焼ならし熱処理して焼もどした後の鋼がデルタフェライトを含まないまたは事実上含まない焼もどしマルテンサイト組織を有するような関係が好適には検証される。この鋼と比べて、クリープ破断強度は、依然として、耐(腐)食性や機械的特性などのような他の特性を、影響を受けないうちに改善され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、パイプおよび管用のASTMグレード92鋼よりも大幅に良いクリープ破断強度をもつとともに、背景技術に記載したX20CrMoV11-1鋼とVM12-SHC鋼とに匹敵するまたはこれらよりも良い高温腐食および水蒸気酸化作用(反応)をもつマルテンサイト系耐熱鋼のシームレス(継ぎ目のない)管状製品を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、δ-フェライトとしても既知のデルタフェライトの含有量を平均で5vol%(体積%)まで制限したマルテンサイト系ミクロ組織を示す鋼を得ることである。
【0011】
本発明の別の目的は、シームレス管やシームレスパイプなどのような小径または大径のシームレス管状製品の製造を許容する鋼と、既知の確立された製造プロセスを使用して溶接管、溶接パイプ、鍛造物、およびプレートの製造に適した鋼とを提供することである。
【0012】
この鋼は、高温での応力の下で作動する全種類の部品用の製品材料として、特に、発電、化学、および石油化学の産業における、継ぎ目のない溶接した管/パイプ、鍛造品、およびプレートとして適している。加えて、本発明による鋼は耐焼もどし性であり、800℃で30時間までの長い焼もどし時間の後に降伏力は440MPa以上またはそれと同等であり、引張応力は620MPa以上またはそれと同等であり、20℃での強靭性は縦方向に試験されたときには40J以上またはそれと同等であり、横方向に試験されたときには27J以上またはそれと同等である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、この目的は、重量パーセントで以下の化学組成を有する鋼の高温用途向けシームレス管状製品によって達成され得る:
C:0.10~0.16%
Si:0.20~0.60%
Mn:0.30~0.80%
P≦0.020%
S≦0.010%
Al≦0.020%
Cr:10.50~12.00%
Mo:0.10~0.60%
V:0.15~0.30%
Ni:0.10~0.40%
B:0.008~0.015%
N:0.002~0.020%
Co:1.50~3.00%
W:1.50~2.50%
Nb:0.02~0.07%
Ti:0.001~0.020%、前記鋼の残部は鉄と不可避の(避けられない)不純物とである。
【0014】
好ましくは、ホウ素と窒素との比は、高温加工性を達成するB/N≦1.5であるようにする。
【0015】
好ましくは、以下の式を満たす:
1.00%≦Mo+0.5W≦1.50%(wt%で)。
【0016】
別の好ましい実施の形態では、以下の式を満たす(wt%で):
B-(11/14)(N-10-(1/2.45)・(logB+6.81)-(14/48)・Ti)≧0.007。
【0017】
別の好ましい実施の形態では、以下の式を満たす(wt%で):
2.6≦4・(Ni+Co+0.5・Mn)-20・(C+N)≦11.2。
【0018】
好ましい実施の形態では、炭素含有量は0.13~0.16%の間である。
【0019】
別の好ましい実施の形態では、Mo含有量は0.20~0.60%の間である。
【0020】
好ましくは、B含有量は0.0095~0.013%の間である。
【0021】
好ましい実施の形態では、Ti含有量は0.001~0.005%の間である。
【0022】
別の好ましい実施の形態では、ミクロ組織は、少なくとも平均95%の焼もどしマルテンサイトを含み、その残部はデルタフェライトである。
【0023】
さらにより好ましい実施の形態では、ミクロ組織は、少なくとも平均98%の焼もどしマルテンサイトを含み、その残部はデルタフェライトである。
【0024】
最も好ましい実施の形態では、ミクロ組織はマルテンサイト系であり、デルタフェライトを含まない。
【0025】
本発明はまた、以下のステップを含む生産方法に関している:
本発明による化学組成を有する鋼を鋳造するステップと、
前記鋼を加熱形成するステップと、
前記鋼を加熱し、前記鋼を10~120分の間の時間で1050℃~1170℃の間の温度範囲内に保持するステップと、
前記鋼を室温まで冷却するステップと、
前記鋼を再加熱し、750℃~820℃の間である焼もどし温度TTまで少なくとも1時間前記鋼を保持するステップと、
前記鋼を室温まで冷却するステップ。
【0026】
好ましくは、その冷却ステップは、空冷または水冷を使用して行われる。
【0027】
再加熱ステップ後の冷却ステップは、水冷を使用して行われてもよい。
【0028】
加熱ステップ後の冷却ステップは、水冷を使用して行われてもよい。
【0029】
本発明は、本発明のシームレス管状製品による鋼と同一の鋼を使って溶接した管、パイプ、またはプレートの生産に関係し、または、本発明によるプロセスに関係してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】クロム含有量に対して曲線で表された、酸化による質量増加の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明によれば、マルテンサイト系高クロム耐熱鋼は、以下の化学組成を有して生成される。
【0032】
(1)C:0.10~0.16%
Cは、十分な炭化物析出(沈殿)を得るために少なくとも0.10%まで添加される必要がある。加えて、Cはオーステナイト安定化元素でもある。0.10%を下回るC含有量は、ミクロ組織内でより多くのδ-フェライトを含むだろう。過剰なC添加が強靭性および溶接特性を制限するから、炭素の上限は0.16%である。
【0033】
(2)Si:0.20~0.60%
Siは、製鋼プロセス中の脱酸(素)に使用される。加えて、この元素は、重要な元素のうちの1つであり、鋼中の酸化作用(挙動)を決定する。Si添加の十分な酸化改善効果を達成するために、少なくとも0.20%の量が必要である。上位のSiレベルは、好ましくは、0.60%まで制限される。その理由は、過剰なSi添加は、析出物(沈殿物)の粗大化を促進し、強靭性を低下させるからである。好ましくは、下限は0.25%である。
【0034】
(3)Mn:0.30~0.80%
Mnは効果的な脱酸元素である。この元素は、硫黄を結びつけ、δ-フェライト生成を低減する。少なくとも0.30%のMnが添加されてもよい。過剰な添加は高温での鋼の強度を低下させるから、上限は0.8%となるであろう。
【0035】
(4)P≦0.020%
Pは、鋼の強靭特性を低下させる粒界活性元素(有効成分)である。その含有量は、強靭特性に関してPへの悪影響を避けるために0.020%まで制限されなければならない。Pは、不純物として避けられないかもしれないが、0.00%以上の量で存在してもよい。
【0036】
(5)S≦0.010%
Sは、硫化物を生成し、鋼の強靭特性および高温加工性特性を低下させる。上位のS含有量の0.010への制限は、加熱作業操作中の欠陥生成と強靭性への悪影響とを防ぐ。Sは、不純物として避けられないかもしれないが、0.00%以上の量で存在してもよい。
【0037】
(6)Al≦0.020%
Alは、製鋼プロセス中に使用される強力な脱酸元素である。0.02%を上回る過剰なAl添加は、AlN生成を誘発する能力があり、それによって鋼中の強化MX(MはNbやVであり、XはCやNである)窒化物析出の量を減少させ、その結果、クリープ強度特性を低下させる。Alは、不純物として避けられないかもしれないが、0.00%以上の量で存在してもよい。
【0038】
(7)Cr:10.5~12.00%
Crは、マルテンサイト系ミクロ組織の境界でできる炭化物を生成する。炭化クロムは、高温での露出中のマルテンサイト系ミクロ組織の安定化に不可欠である。Crは、鋼の高温酸化作用(挙動)を改善する。Cr添加の十分な酸化改善効果を明らかにするために、少なくとも10.5%の含有量が必要である。12%を上回るCr含有量は、増大したδ-フェライトの生成に終わる。
【0039】
(8)Mo:0.10~0.60%
Moは、固溶体強化の原因にもなるクリープ破断強度の改善にとって重要な元素である。この元素は、炭化物(カーバイド)と金属間相とにも取り込まれる。0.10%のMo含有量が添加されてもよい。0.60%を上回るMo添加は、強靭性を悪化させ、δ-フェライト含有量の増加を誘発する。なお、M含有量とW含有量とは、炭化物と金属間相との十分な析出を確保するために、(重量%で)1≦Mo+0.5×W≦1.5の関係を満たすことに留意する。
【0040】
(9)V:0.15~0.30%
Vは、Nと結合して、可干渉性のMX窒化物(MはNbやVであり、XはCやNである)を生成し、これが長期のクリープ特性の増大に寄与する。0.15%を下回る含有量はこの長期のクリープ改善特性効果を達成するのに十分でない一方、0.30%を上回る含有量は強靭性を低下させ、平均体積で5%を上回るδ-フェライト含有量の結果として危険を増大させる。
【0041】
(10)Ni:0.10~0.40%
Niは、重要な強靭性改善元素である。したがって、0.10%の最小含有量が必要である。しかしながら、この元素は、0.40%を上回る含有量で添加された場合、Ac1温度を低下させ、クリープ破断強度を減少させる傾向がある。
【0042】
(11)B:0.008~0.015%
Bは、M23C6炭化物の安定化とマルテンサイト系ミクロ組織の回復の遅れとの原因になる決定的な元素である。この元素は、粒界を強化し、クリープ破断強度の長期の安定性を改善する。加えて、Bは、クリープ破断延性の顕著な改善の原因になる。最大の強化効果を達成するために、少なくとも0.008%の添加が必要である。しかしながら、0.015%を上回る含有量は、鋼の最大処理温度を大幅に低下させ、有害と見なされる。BとNの添加は、既知の高温加工プロセスを使って変換を可能にするために、B/N≦1.5の関係を満たすことになっている。実際に、このB/Nの関係は、本発明による製造プロセスを使って小径または大径の継ぎ目なく溶接した管、パイプ、およびプレートの製造を許容(可能に)する。好ましくは、B含有量は、0.0095~0.0130(wt%)の間であるべきである。
【0043】
(12)N:0.002~0.020%
窒素は、クリープ破断強度の達成の原因となるMX(MはNbやVであり、XはCやNである)窒化物および炭窒化物の生成に必要である。少なくとも0.002%を添加してもよい。しかしながら、過剰なN添加、すなわち0.020%を上回るN添加は、改善されたBN生成に終わり、それによって、B添加の強化効果を低減させる。
【0044】
好ましくは、BとNの含有量(重量%で)は、以下の関係を満たすことになっている:
B-(11/14)(N-10-(1/2.45)・(logB+6.81)-(14/48)・Ti)≧0.007。
【0045】
(13)Co:1.50~3.00%
Coは、非常に効果的なオーステナイト生成元素であり、δ-フェライト生成を制限するのに有用である。さらに、この元素はAc1温度の状態で弱い効果のみを有する。加えて、この元素は、熱処理後の初期析出のサイズ(大きさ)を小さくすることによってクリープ強度特性を改善する元素である。したがって、1.50%の最小含有量を添加することになっている。好ましくは、最小含有量は1.75%である。しかしながら、過剰な添加のCoは、高温操作中での金属間相の増大析出により脆化を誘発するかもしれない。同時に、Coは非常に高価である。したがって、添加の3.00%への制限、好ましくは2.50%への制限が必要である。
【0046】
Ni、Co、Mn、C、およびNの含有量(重量%で)が以下の式に従うことが好ましい:
2.6≦4・(Ni+Co+0.5・Mn)-20・(C+N)≦11.2。
【0047】
(14)W:1.50~2.50%
Wは、効果的な溶体強化剤として既知である。同時に、この元素は、炭化物に取り込まれ、クリープ強度増大にも寄与し得るC14ラーベス相を生成する。したがって、1.50%の最小含有量が必要とされる。しかしながら、この元素は、高価であり、製鋼および鋳造プロセス中に強く分離しており、この元素は、著しい脆化を引き起こす金属間相を生成する。したがって、W添加の上限は2.50%に設定されるかもしれない。なお、MoとWの含有量(重量%で)は、炭化物と金属間相との十分な析出を確保するために、1.00≦Mo+0.5W≦1.50という関係を満たすことになっていることに留意されたい。
【0048】
(15)Nb:0.02~0.07%。
【0049】
Nbは、クリープ特性のためだけでなくオーステナイト結晶粒度制御のために重要な安定MX炭窒化物を生成する。0.02%の最小含有量を添加してもよい。0.07%を上回るNb含有量は、クリープ強度特性を低下させ得る粗いNb炭化物の生成をもたらす。したがって、上限は0.07%に設定される。
【0050】
(16)Ti:0.001~0.020%
Tiは、強い窒化物生成元素である。窒化物の生成により遊離Bを保護することが有用である。0.001%の最小含有量は、この目的のために必要とされる。しかしながら、0.020%を上回る過剰なTi含有量は、大きなブロック状のTiN析出の生成により強靭特性を低下させ得る。
【0051】
鋼の残部は、鉄と製鋼および鋳造プロセスに由来する通常の残留元素とを含む。使用される鋳造技術は、当業者に既知のものである。本発明者により、不純物は、タンタル、ジルコニウムなどのような元素と、回避できないその他の元素とを意味する。タンタルおよびジルコニウムは鋼に意図的に添加されないが、不可避な不純物として全体で50ppm未満存在し得ることが言及されるべきである。
【0052】
鋼の実施の形態において、不可避な不純物には、銅(Cu)、ヒ素(As)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、および鉛(Pb)のうちの1つまたは複数が含まれてもよい。
【0053】
Cuは、0.20%以下の含有量で存在してもよい。
【0054】
元素Asは150ppm以下の含有量で存在し、元素Snは150ppm以下の含有量で存在し、元素Sbは50ppm以下の含有量で存在し、元素Pbは50ppm以下の含有量で存在し、および、総含有量As+Sn+Sb+Pbは0.04質量%以下である。
【0055】
鋼は、約10~約120分の時間、1050℃~1170℃の間の温度範囲内で焼ならしされ、空中または水中で室温まで冷却され、次いで、少なくとも1時間、750℃~820℃の間の温度範囲内で焼もどしされる。
【0056】
結果として得られた鋼は、顕著かつ絶対的に優れた(卓越した)高温強度とより優れた耐水蒸気酸化性とをもっていることが見出された。さらに、Creq./Nieq.比が2.3未満であることによって、平均的なδ-フェライト含有量が、強靭性の問題を避けるために5vol.%未満まで制限可能であることが見出された。ここで、Creq.およびNieq.は、それぞれCr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nb+8Tiおよび40C+30N+2Mn+4Ni+2Co+Cuとして定義される。驚くべきことに、1.5以下のB/N比が、既知の変換プロセスを使って熱間加工操作を可能にするために保持されなければならないことが見出された。
【0057】
5vol%を上回る含有量は強靭特性を低下させるので、デルタフェライト含有量は5vol%を超えるものとなっていない。
【0058】
高温形成プロセスにより、以下が意味される:熱間圧延、ピルガー、熱間引抜き(絞り)、鍛造、プラグミル、マンドレルロッドがいくつかのインライン(一列に並んだ)ロールスタンドを介して細長い窪み(凹み)を押して中空部を形成するプッシュベンチプロセス、連続圧延、および他の既知の圧延プロセス。本発明による鋼は、管およびパイプの形状に形成され得る。酸化挙動や耐クリープ性などのような満足できる特性を示す鋼を使って多くの試みがなされたが、これらの鋼は、これらの高温形成プロセスを通じて満足できる成形品を与えることに失敗した。特に、シームレス管またはパイプを得ることさえ時々できなかった。本発明の鋼は、満足できる特性をもつシームレス管状製品を有することを可能にし、および、高温形成プロセスによってシームレス管状製品またはプレートを得る実行可能な手段を可能にし、これらの製品は寸法要件の中にある。
【実施例】
【0059】
本発明の鋼の利益が、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明されるだろう。表1に示した化学組成を有する、本発明による鋼(鋼1、鋼2、鋼3)と比較例の鋼(鋼4、鋼5)とは、真空誘導溶解炉を使って100kgのインゴットに対して鋳造され、次いでプレート(13~25mm厚)に熱間圧延され、続いて、焼ならしおよび焼もどしされた。焼ならし熱処理は、1060℃~1100℃の温度範囲内で30分間実施され、その後に室温まで空冷された。焼もどしは、780℃で120分間行われ、再び空気中(空中)で冷却された。
【0060】
比較例の鋼4および5は、0.008を下回るB含有量を有し、したがって本発明に合わない(一致しない)。
【0061】
鋼4の場合、Ni、Co、Mn、C、およびNの添加は式
2.6≦4・(Ni+Co+0.5・Mn)-20(C+N)≦11.2(wt%で)
を満たさない。
【0062】
鋼5も式
B-(11/14)(N-10-(1/2.45)・(logB+6.81)-(14/48)・Ti)≧0.007(wt.%で)
を満たさない。
【0063】
【0064】
2つの実施例の鋼(鋼1、鋼2、鋼3)について、表2に示されている結果は、引張強度、降伏応力、伸び、面積縮小、およびシャルピーVノッチ衝撃エネルギーの目的に合う室温で得られた。
【0065】
【0066】
2つの実施例の鋼の試料に関してISO DIN EN 204に従って実行されたクリープ試験は、クリープ破断強度の顕著な改善をさらに示した。これは、破断時間が130MPaおよび100MPaでの長期クリープ試験時のP91、P91、VM12-SHC、P122、およびX20CrMoV11-1のような最先端の鋼よりも少なくともほぼ2倍を超えることに反映されている。その結果は表3に示されている。さらに、比較例の鋼は、本発明による鋼のクリープ破断強度に達しない。
【0067】
【0068】
図1は、クロム含有量に対して曲線で表された、高温での水蒸気雰囲気中の酸化による質量増加の概略を示す。概略の構成の根拠は、ISO 21608:2012に従って実行された水蒸気雰囲気中の酸化試験である。
【0069】
図1では、異なる水蒸気酸化挙動を表示す3つの領域が、以下の通りに定義された:
(I.)5000h後に10mg/cm
2を上回る質量増加に対する非保護的な挙動
(II.)5~10mg/cm
2の範囲内での質量増加に対する中間的な挙動
(III.)5mg/cm
2を下回る質量増加に対する保護的な挙動。
【0070】
それに応じて、酸化挙動に関して異なる高Crマルテンサイト系耐熱鋼の分類が以下の表4において実施された。領域I、II、およびIIIは、
図1に記載の質量増加に対応する。2つの実施例の鋼は、明らかに、耐水蒸気酸化性に関してP91、P92、P122、およびX20CrMoV11-1より性能が優れている。本発明は、VM12-SHCと同等の挙動を示す。
【0071】
【0072】
本発明によれば、発電、化学、および石油化学の産業において高温で働く(作動)する管、鍛造品、パイプ、およびプレートを生産するために使用され得る、向上されたクリープ特性および耐水蒸気酸化性を有する高クロムマルテンサイト系耐熱鋼を提供することが可能である。