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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】マイクロ合金鋼およびその鋼の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220128BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220128BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20220128BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/58
C21D9/08 E
C21D8/10 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019501610
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2017067606
(87)【国際公開番号】W WO2018011299
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-17
(31)【優先権主張番号】16305910.8
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513314366
【氏名又は名称】ヴァローレック ドイチュラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コッシュリグ,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】シェルフ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ホユダ,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ニレーロ,ロドルフォ
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156188(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019708(WO,A1)
【文献】特開2000-008123(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104894485(CN,A)
【文献】特開2014-029003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/08
C21D 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも485MPaのYSを有する鋼であって、-60℃で、少なくとも69Jの靭性値を有する鋼であり、重量パーセントで以下の化学組成元素からなるシームレスパイプ用鋼:
0.04≦C≦0.18
0.10≦Si≦0.60、
0.80≦Mn≦1.90、
P≦0.020、3
S≦0.01、
0.01≦Al≦0.06、
0.50≦Cu≦1.20、
0.10≦Cr≦0.60、
0.60≦Ni≦1.20、
0.25≦Mo≦0.60、
B≦0.005、
V≦0.060、
Ti≦0.050、
0.010≦Nb≦0.050、
0.10≦W≦0.50、
N≦0.012、
残部はFeおよび避けられない不純物である。
【請求項2】
Cは0.04%~0.12%の間である、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
Cは0.05%~0.08%の間である、請求項1または2に記載の鋼。
【請求項4】
Mnは1.15%~1.60%の間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】
Cuは0.60%~1%の間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】
Moは0.35%~0.50%の間である、請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項7】
Tiは0.010%を下回る、請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項8】
Wは0.10%~0.30%の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項9】
は0.008%を下回る、請求項1から8のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項10】
重量パーセントでの炭素含有量とマンガン含有量との比は0.031≦C/Mn≦0.070であるような比である、請求項1から9のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項11】
重量パーセントで、
CEIIW≦0.65%またはCEPcm≦0.30%
であり、
CEIIW=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15、
CEPcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5B、
C>0.12%なら前記CEIIWの許容限界が適合し、C≦0.12%なら前記CEPcmの許容限界が適合する、請求項1から10のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項12】
前記鋼は、面積または体積分率で15%未満の多角形状フェライトを含みまたは含まず、残部がベイナイトおよびマルテンサイトであるミクロ組織を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項13】
前記鋼は、平均で550MPa~890MPaの間に含まれる降伏強度と、-60℃において前記降伏強度の少なくとも10%ジュール単位での靱性とを有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項14】
前記鋼は、平均で少なくとも690MPaの降伏強度と、-80℃において少なくとも平均69J靭性とを有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項15】
少なくとも以下の連続するステップを備え、少なくとも485MPaのYSを有する鋼であって、-60℃で、少なくとも69Jの靭性値を有する鋼である、シームレスパイプ用鋼の生産方法であって、
請求項1から11いずれか一項に記載の化学組成を有する鋼を提供するステップと、
次いで、高温形成プロセスを通じて1100℃~1280℃の間に含まれる温度で前記鋼を高温形成し、パイプを得るステップと、
それから、前記パイプを、890℃以上のオーステナイト化温度ATまで加熱し、前記オーステナイト化温度ATで5~30分の間に含まれる時間の間保ち、その後に室温まで冷却し、焼き入れされたパイプを得るステップ
そして、前記焼き入れされたパイプを加熱し、580℃~700℃の間に含まれる焼き戻し温度TTに保ち、前記焼き戻し温度TTで20~60分の間に含まれる焼き戻し時間Ttの間保ち、その後に室温まで冷却し、焼き入れおよび焼き戻しされたパイプを得るステップと
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも485MPa(70ksi)の降伏強度(降伏力)を有するマイクロ合金鋼/合金鋼であって顕著な靭性挙動(作用)および良好な溶接性を具備するものに関し、好ましくは、本発明は、690MPa(100ksi)を超える降伏力を有する鋼に関する。本発明の鋼は、オフショア用途、ラインプロセスパイプ、構造的および機械的用途において使用可能であり、特に、様々な現代のオフショアリグ(用具、装備)設計、たとえば油圧シリンダとしての建設機器だけでなくオープントラス(桁違い)脚用の控えパイプとしてのジャッキアップリグと同様に、厳しい環境条件と-80℃まで下がった稼働(使用)温度とが存在する場合において使用可能である。
【背景技術】
【0002】
一般的に言えば、過去数年間、パイプ製造者は、材料節約に関して高まる要求を満たそうとかなり試みた。その成果は、荷重を変えずに肉厚を減らすことによって設計要件に従う増大降伏強度および増大引張強度に基づいて作り上げられた。
【0003】
パイプライン用途/プロセス用途においてシームレス(継ぎ目のない)パイプに通常使用される合金は、規格形式で、たとえば、API 5LおよびDNV-OS-F101の形式で最大100ksiの鋼グレード(X100)用に定義されている。25mmを上回る肉厚を有する高強度グレードについては、それらの規格は、化学組成の限界値に関する情報を与えていない。実際には、a.m.規格内で言及されたこれらの鋼(スチール)は、パイプラインに使用されるだけでなく、最大2インチの壁の構造的および機械的用途にも使用されるだろう。
【0004】
典型的には10mm~50mmの間の肉厚範囲内のオフショア構造物および設備用のシームレスパイプは、船級協会の規格DNV GLおよびABSによって適合され(取扱範囲に入れられ)ており、当該規格は、化学組成を含めて、グレードアップを定義するとともに、-60℃(クラスF)まで下がった様々なシャルピー衝撃試験温度を伴う690MPaのYS最小値を包含する。
【0005】
シームレスパイプ用の化学組成の変更は、金属材料に関するオフショア規格DNVGL-OS-B101および適用可能なABS規格に従って製造者、購入者、および船級協会の間で合意され得る。
【0006】
高強度グレードの開発において、それらの材料が優れた靭性特性および溶接性を有するべきであることが考慮されなければならない。
【0007】
今まで、API 5Lに従って485MPaの最小降伏強度(YS)と570MPaの最小引張強度(UTS)との意味を含むX70のようなシームレス標準鋼グレードがパイプラインにおいて使用されていた。しかしながら、690MPaの最小YSおよび770MPaの最小UTSを有するX100と呼ばれる最大100ksiの強度クラスにおいて鋼の強度を上げる要求が高まっている。
【0008】
このような鋼が例えば骨組構造を支持するためのオフショア建設(海上工事)では自己昇降ユニット内のオープントラス脚として使用されるとき、高度な要件(必要条件)がそれらの溶接性に関して、すなわち、パイプ継手(ジョイント)溶接と-40℃まで下がった低温でのおよび-60から-80℃までも下がった極寒領域でのそれらの延性/靱性とに関して満たされるべきである。
【0009】
一方、溶接されたパイプまたはプレートの生産については、前述のX100グレードの目標とされる特性が、熱加工圧延とわずかに変更した化学組成および熱処理との組み合わせによって達成され得た。典型的には、熱間圧延されたシームレスパイプに必要な特性が、制御された圧延プロセスを使って、その後にうまく調整した化学分析と組み合わせて焼き入れかつ焼き戻し処理に続けて達成されなければならない。
【0010】
より低いグレードから出発して、前述の用途向けの高温処理されたシームレスパイプの十分な延性を維持しつつ必要な強度の増大は、新しい合金化の概念の展開を必要とする。特に、良好な溶接性をもつ十分に高い延性を、485MPaを上回るYSにおける従来の合金化の概念/プロセス使って達成するのは困難である。
【0011】
強度を増大する際の典型的な既知の方法は、析出硬化のプロセスに基づいて従来の合金化の概念を用いることによってかつ/またはマイクロ合金化の概念を用いることによって炭素含有量、炭素当量を増加させる。
【0012】
チタン、ニオブ、およびバナジウムなどのようなマイクロ合金元素は、一般的に言えば、強度を増大させるために使用される。チタンは、液相中に高温で非常に粗い(未製錬の)窒化チタンとして既に部分的に沈殿している。ニオブは、より低い温度でニオブ(C、N)沈殿物を生成する。液相内の温度をさらに下げることに伴って、バナジウムは、炭窒化物の形で、すなわち、VC粒子の沈殿物の形でさらに積もり(蓄積し)、材料の脆化をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらのマイクロ合金元素の極めて粗い沈殿物は、しばしば延性に悪影響を及ぼす。したがって、これらの合金元素の濃度は一般に制限される。加えて、沈殿物の生成に必要な炭素および窒素の濃度が考慮されなければならず、全化学組成の定義を複雑にする。
【0014】
それらの周知の概念は、延性/靭性の悪化の原因になり得、劣った溶接性をももたらし得た。グレードがより高くなるにつれて、それらの概念は複雑さおよび使用の点でますます制限される。
【0015】
これら前述の制限を克服するために、低炭素含有量での析出硬化を利用するマイクロ合金化技術と組み合わせて溶体硬化により強度を増大させる元素を使用することによって新しい合金化の概念は、優れた延性/靭性および溶接性をもつ高強度鋼を生み出すだろう。
【0016】
高炭素含有量をもつシームレスパイプ用の鋼の概念に関しては、米国特許出願公開US2002/0150497は、熱間圧延プロセスとその後の焼き入れおよび焼き戻しとを通じて構造的用途向けの溶接可能なシームレス鋼管用合金を提供しており、当該合金には、高強度をもたらすために、0.12~0.25wt.%のC、0.40wt.%以下のSi、1.20~1.80wt.%のMn、0.025wt.%以下のP、0.010wt.%以下のS、0.01~0.06wt.%のAl、0.20~0.50wt.%のCr、0.20~0.50wt.%のMo、0.03~0.10wt.%のV、0.20wt.%以下のCu、0.02wt.%以下のN、0.30~1.00wt.%のW、ならびに、残部の鉄および付随する不純物が含まれる。しかしながら、先に説明したように、このようなレベルではシームレス鋼管の溶接性は能力が試される。加えて、この概念を用いて到達され得る靭性値は、温度が-80℃と同じ低さになり得る極寒用途などのような用途向けに使用することを困難にする。
【0017】
同じ手法を用いて、米国特許出願公開US2011/0315277は、高張力で溶接可能な熱間圧延シームレス鋼管を、特に建設管(建造物配管)を生産するための低合金鋼用の鋼合金に関する。その化学組成(質量%で)は、0.15~0.18%のC、0.20~0.40%のSi、1.40~1.60%のMn、最大0.05%のP、最大0.01%のS、>0.50~0.90%のCr、>0.50~0.80%のMo、>0.10~0.15%のV、0.60~1.00%のW、0.0130~0.0220%のNであり、残部は、生産関連の不純物とAl、Ni、Nb、Tiから選択された1つまたは複数の元素の任意選択の添加物とともに鉄から構成されており、ただしV/Nの関係が4~12の間の値を有するとともに鋼のNi含有量は0.40%を超えない。先の米国特許出願公開US2002/0150497に関して、この開示の炭素含有量も溶接性の能力が試されている。依然として、極寒用途に適してもいない靭性値の改善の余地がある。
【0018】
炭素含有量を低下させて、米国特許出願公開US2011/02594787は、620MPaの最小降伏強度と少なくとも690MPaの引張強度とを有する、パイプ用の高強度で溶接可能な鋼を開示しており、当該鋼は質量-%の以下の組成によって特徴づけられている:0.030~0.12%のC、0.020~0.050%のAl、最大0.40%のSi、1.30~2.00%のMn、最大0.015%のP、最大0.005%のS、0.20~0.60%のNi、0.10~0.40%のCu、0.20~0.60%のMo、0.02~0.10%のV、0.02~0.06%のNb、最大0.0100%のN、ならびに、溶融関連の不純物をもつ残部の鉄。ここに、Cu/Ni比は1未満の値を有する。靭性の改善の余地があるとともに、パイプの長さとその肉厚とを通じて靭性および降伏強度などのような機械的特性の安定度(安定性)の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による鋼は、少なくとも485MPa、好ましくは少なくとも690MPaのYSを有する鋼であって、極寒用途に適しており、すなわち-60℃で、好ましくは-80℃で少なくとも69Jの靭性値を有する鋼を提供することを目的とする。さらに、本発明の鋼は、シームレスパイプの長さおよび壁全体にわたって安定した特性を有する。
【0020】
かかる問題を解決するために、本発明は、少なくとも485MPaのYSを有する鋼であって、-60℃で、少なくとも69Jの靭性値を有する鋼であり、重量パーセントで以下の化学組成元素からなるとともに許容限界を含むシームレスパイプ用鋼に関する:
0.04≦C≦0.18
0.10≦Si≦0.60、
0.80≦Mn≦1.90、
P≦0.020、
S≦0.01、
0.01≦Al≦0.06、
0.50≦Cu≦1.20、
0.10≦Cr≦0.60、 g
0.60≦Ni≦1.20、
0.25≦Mo≦0.60、
B≦0.005、
V≦0.060、
Ti≦0.050、
0.010≦Nb≦0.050、
0.10≦W≦0.50、
N≦0.012、
その残部はFeおよび避けられない不純物である。
【0021】
好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、0.04%~0.12%の間の、または、さらに一層好ましくは0.05%~0.08%の間の炭素含有量Cを有する。
【0022】
マンガンに関しては、好ましくは、その含有量は1.15%~1.60%の間である。
【0023】
銅に関しては、好ましくは、その含有量は0.60%~1%の間である。
【0024】
モリブデンに関しては、好ましくは、その含有量は0.35%~0.50%の間である。
【0025】
チタンに関しては、好ましくは、その含有量は厳密に0.010%を下回る。
【0026】
別の好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は0.10%~0.30%の間のタングステン含有量を有する。
【0027】
別の好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、厳密に0.008%を下回るV含有量を有する。別の好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、0.031≦C/Mn≦0.070であるような重量パーセント単位での炭素含有量とマンガン含有量との比を有する。改善(向上)された溶接性を確保するように、本発明に係る鋼は、好ましくは、炭素含有量に依存して以下の関係を満たす化学組成を有する:
CEIIW≦0.65%またはCEPcm≦0.30%
であり、(重量パーセントで)
CEIIW=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15、
CEPcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5B、
C>0.12%なら前記CEIIWの許容限界が適合し(当てはまり)、C≦0.12%なら前記CEPcmの許容限界が適合する(当てはまる)。
【0028】
本発明の別の好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、15%未満の多角形状フェライトを含むとともに前記残部がベイナイトと焼き戻されたマルテンサイトとであるミクロ組織を有する。フェライト、ベイナイト、およびマルテンサイトの合計は100%である。
【0029】
好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、平均で485MPa~890MPaの間に含まれる降伏強度と、-60℃において前記降伏強度の少なくとも10%ジュール単位での靱性とを有する。たとえば、YSの500MPaの鋼については、最小靱性値は50ジュールであるべきである。
【0030】
さらに一層好ましい実施の形態では、本発明に係る鋼は、平均で少なくとも690MPaのYSと、-80℃において少なくとも平均69J靭性とを有する。
【0031】
また、本発明は、少なくとも以下の連続するステップを備える、シームレスパイプ用鋼の生産方法に関する:
本発明に従って組成を有する鋼を提供するステップと、
次いで、高温形成プロセスを通じて1100℃~1280℃の間に含まれる温度で前記鋼を高温形成し、パイプを得るステップと、
それから、前記パイプを、890℃以上のオーステナイト化温度ATまで加熱し、前記オーステナイト化温度ATで5~30分の間に含まれる時間の間保ち、その後に、焼き入れされたパイプを得るように室温まで冷却するステップと、
そして、前記焼き入れされたパイプを、加熱し、580℃~700℃の間に含まれる焼き戻し温度TTに保ち、前記焼き戻し温度TTで20~60分の間に含まれる焼き戻し時間Ttの間保ち、その後に、前記室温まで冷却し、焼き入れおよび焼き戻しされたパイプを得るステップとを備える。
【0032】
本発明に係る鋼、または、本発明に従って生産された鋼は、オンショアもしくはオフショア用途のいずれかの構造部品またはラインパイプ部品用に12.5mmを上回る肉厚を有するシームレスパイプを得るために使用され得る。
【0033】
好ましい実施の形態では、このような鋼は、オンショアまたはオフショアいずれかの構造的用途、機械的用途、またはラインパイプ用途向けに20mmを上回る肉厚を有するシームレスパイプを得るために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】鋼1~4のシャルピー遷移曲線(ジュール)を示す図である。
図2】タングステンを含む鋼1および2とタングステンを含まない鋼3および4との機械的特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
また、本発明の骨組(構造)の範囲において、化学組成元素の影響と、好ましいミクロ組織の特徴と、生産プロセスパラメータとが以下にさらに詳述されるだろう。
【0036】
化学組成範囲は、重量パーセントで表されており、上限および下限を含むことに留意されたい。
【0037】
炭素:0.04%~0.18%
炭素は、本発明による鋼の降伏強度および硬度を大幅に増大させる強力なオーステナイト形成具(生成元素)である。0.04%を下回ると、降伏強度および引張強度は大幅に低下し、予想を下回る降伏強度をもつリスクがある。0.18%を上回ると、溶接性、延性、および靭性などのような特性が悪影響を受け、まったく古典的なマルテンサイトのミクロ組織に達する。好ましくは、炭素含有量は0.04~0.12%の間である。さらに好ましい実施の形態では、炭素含有量は0.05~0.08%の間であり、それらの許容限界は含まれる。
【0038】
ケイ素:0.10%~0.60%
ケイ素(シリコン)は、溶鋼から酸素を除く(脱酸する)元素である。少なくとも0.10%の含有量は、このような効果を生むことができる。ケイ素はまた、本発明において0.10%を上回るレベルで強度および伸びを増大させる。0.60%を上回ると、本発明による鋼の靭性は、悪影響を受け、低下する。このような有害な影響を避けるために、Si含有量は0.10~0.60%の間である。
【0039】
マンガン:0.80%~1.90%
マンガンは、鋼の鍛造性(可鍛性)および硬化性(焼入性)を向上させる元素であり、鋼の焼入性に寄与する。さらに、この元素は、鋼の強度を向上させる強力なオーステナイト生成元素でもある。その結果、その含有量は、0.80%の最小値であるべきである。1.90%を上回ると、溶接性および靭性の低下が、本発明による鋼において予想される。好ましくは、Mn含有量は1.15%~1.60%の間である。
【0040】
アルミニウム:0.01%~0.06%
アルミニウムは、鋼の強力な脱酸剤であり、その存在はまた、鋼の脱硫を促進する。この元素は、この効果を有するために、少なくとも0.01%の量で添加される。
【0041】
しかしながら、0.06%を越えると、前述の効果に対して飽和効果が存在する。加えて、粗くて延性に有害なAl窒化物が生成される傾向がある。これらの理由により、Al含有量は、0.01~0.06%の間であるべきである。
【0042】
銅:0.50%~1.20%
銅は、溶体硬化に非常に重要であるが、この元素は一般に靭性および溶接性に有害であることがよく知られている。本発明による鋼では、Cuは、降伏強度および引張強度のいずれも増大させる。本発明のNi含有量との組み合わせで、Cuの存在に起因される靭性および溶接性の低下(減少)は効果がなく、Niは、鋼中でCuと組み合わされたときCuの悪影響を中和する(無効にする)。この理由により、最小Cu含有量は0.50%であるべきである。1.20%を上回ると、本発明による鋼の表面品質は、熱間圧延プロセスにより悪影響を受ける。好ましくは、銅含有量は0.60~1%である。
【0043】
クロム:0.10%~0.60%
本発明による鋼中のクロムの存在によって、特に降伏強度を増大させるクロム沈殿物が生み出される。この理由により、0.10%の最小Cr含有量が必要とされる。0.60%を上回ると、沈殿物(析出物)密度が、本発明による鋼の靭性および溶接性に悪影響を及ぼす。
【0044】
ニッケル:0.60%~1.20%
ニッケルは、本発明の鋼において溶体硬化に非常に重要な元素である。Niは、降伏強度および引張強度を増大させる。Cuの存在との組み合わせで、Niは靭性特性を改善する。この理由により、その最小含有量は0.60%である。1.20%を上回ると、本発明による鋼の表面品質は、熱間圧延プロセスにより悪影響を受ける。
【0045】
モリブデン:0.25%~0.60%
モリブデンは、降伏強度および引張強度のいずれも増大させ、パイプの長さおよび厚さを通じて母材(基材)中の機械的特性と、ミクロ組織と、靭性との均質性を助ける(サポートする)。0.25%を下回ると、前述の効果は十分に効果的でない。0.60%を上回ると、鋼の挙動(反応)は、溶接性および靭性に関して、悪影響を受ける。好ましくは、Mo含有量は0.35~0.50%の間であり、それらの許容限界は含まれる。
【0046】
ニオブ:0.010%~0.050%
ニオブの存在は、炭化物および/または窒化物析出(沈殿)をもたらし、粒界ピンニング(ピン留め)効果による微粒子サイズのミクロ組織の原因となる。したがって、降伏強度の増大がホールペッチ効果によって得られる。粒子サイズの均質性は靭性挙動を改善する。すべてのこれらの効果のために、最低0.010%のNbが必要とされる。0.050%を上回ると、NbCの脆化効果を避けるように窒素含有量の厳密な制御が必要とされる。加えて、0.050%を上回ると、靭性挙動の低下が本発明による鋼に対して予想される。
【0047】
タングステン:0.10%~0.50%
タングステンの添加は、安定した降伏強度を有して生産された管、すなわち、最高200℃の運転(作動)温度まで降伏強度の低ばらつきを有して生産された管を提供するよう意図されている。タングステンの添加はまた、安定した応力-歪み関係をももたらす。また、0.10%を上回ると、タングステンはさらに、前述のモリブデン合金化の良い影響を支持する。この理由により、0.10%のタングステンの最小含有量が、本発明による鋼では必要とされる。0.50%のタングステンを上回ると、本発明による鋼の靭性および溶接性が低下し始める。好ましくは、タングステン含有量は0.10%~0.30%の間である。
【0048】
ホウ素:≦0.005%
ホウ素は、本発明による鋼では不純物である。この元素は任意に添加されない。0.005%を上回ると、この元素は溶接性に悪影響を及ぼす。その理由は、溶接後にこの元素が、熱影響を受けないゾーン内にハードスポット(材料欠陥)を生成し、したがって、本発明による鋼の溶接性を低下させると予想されるからである。
【0049】
バナジウム:≦0.060%
0.060%を上回ると、バナジウム沈殿物は、低温度での靭性値のバラツキを有するリスクおよび/または遷移温度からより高い温度へのシフトをもたらすリスクを高める。その結果、靭性特性は、0.060%を上回るバナジウム含有量により悪影響を受ける。好ましくは、バナジウム含有量は、0.008%を厳密に下回る。
【0050】
チタン:≦0.050%
この元素は不純物元素である。この元素は、本発明による鋼には任意に添加されない。0.050%を上回ると、TiNおよびTiCなどのようなTiを含む炭素および窒素沈殿物は、炭化物および窒化物の沈殿物とニオブとのバランスを変化させ、その結果、ニオブの有益な効果が妨げられるだろう。鋼の降伏強度は悪影響を受け、低下するだろう。好ましくは、Ti含有量は0.010%以下である。
【0051】
窒素:≦0.012%
0.012%を上回ると、大きいサイズの窒化物の沈殿(析出)物が予想され、これらの沈殿物は、上側(上位)範囲内の遷移温度を変化させることによって靭性挙動に悪影響を及ぼすだろう。
【0052】
残余の元素
残部は、Feと、鋼生産および鋳造プロセスの結果から生じる不可避な(避けられない)不純物とからなる。主な不純物元素の含有量は、リンおよび硫黄について以下で定義されるように制限される:
P≦0.020%
S≦0.005%。
【0053】
CaおよびREM(希土類鉱物)などのような他の元素も不可避不純物として存在し得る。
【0054】
不純物元素含有量の合計は0.1%未満である。
【0055】
好ましい実施の形態では0.031≦C/Mn≦0.070であることに留意されたい。この範囲は、冷却速度がミクロ組織の特徴を著しく変える場合には厚い製品にとってより重要なことであるが、本発明の鋼を冷却速度に対してあまり敏感にしないことを可能にする。靭性および降伏強度などのような特性の安定性は、重量パーセントでこのような化学組成の範囲内でより良好である。
【0056】
生産方法
本発明により特許請求の範囲に記載の方法は、以下に列挙された、少なくとも次の連続するステップ(工程)を備える。この最良の実施の形態において、鋼パイプが生産される。
【0057】
本発明により特許請求の範囲に記載の組成を有する鋼は、当該技術分野において既知の鋳造方法に従って得られる。次いで、鋼は、1100℃~1280℃の間の温度で加熱されるので、あらゆる点で到達する温度は、高温形成中に鋼が被る高い変形速度にとって有利である。この温度範囲は、オーステナイトの範囲内にある必要がある。好ましくは、最高温度は1280℃未満である。次いで、インゴット(鋳塊)またはビレット(鋼片)は、世界中でよく使用されている高温形成プロセスを備えた、たとえば、鍛造、ピルガープロセス、連続マンドレル、高品質仕上げプロセスを備えた少なくとも1つのステップ(工程)において、所望寸法を有するパイプに高温形成される。
【0058】
最低(最小)の変形率は、少なくとも3でなければならない。
【0059】
それから、パイプは、オーステナイト化され、すなわち、ミクロ組織がオーステナイト系である場合には温度ATまで加熱される。オーステナイト化温度ATはAc3を上回り、好ましくは890℃を上回る。次いで、本発明による鋼からなるパイプは、オーステナイト化温度ATで少なくとも5分のオーステナイト化時間Atの間保たれる。この目的は、パイプのあらゆる点で到達する温度が、少なくともオーステナイト化温度に等しくすることである。その温度がパイプ全体にわたって均質になることを確実にするように、オーステナイト化時間Atは30分を上回らないようにするべきである。その理由は、そのような持続時間を上回ると、オーステナイト結晶粒が不必要に大きく成長し、より粗い最終組織をもたらすからである。これは靭性に有害であろう。
【0060】
次いで、本発明による鋼からなるパイプは、好ましくは水焼き入れを使用して、室温(周囲)温度まで冷却される。それから、本発明による鋼からなる焼き入れ(急冷)パイプは、好ましくは焼き戻しされ、すなわち、加熱されて580℃~700℃の間に含まれる焼き戻し温度TTで保持される。このような焼き戻しは、20~60分の間の焼き戻し時間Ttの間中行われる。これが、焼き入れおよび焼き戻しされた鋼パイプをもたらす。
【0061】
最後に、本発明による焼き入れおよび焼き戻しされた鋼パイプは、空冷を使用して周囲温度まで冷却される。
【0062】
このようにして、鋼からなる、焼き入れおよび焼き戻しされたパイプが得られ、この鋼には面積で15%未満の割合の多角形状フェライトが含まれ、その残部はベイナイト組織およびマルテンサイトである。多角形状フェライト、ベイナイト、およびマルテンサイトの合計は100%である。
【0063】
ミクロ組織の特徴
マルテンサイト
本発明による鋼中のマルテンサイト含有量は、焼き入れ(急冷)操作中の冷却速度に依存する。化学組成との組み合わせで、これは肉厚に依存し、マルテンサイト含有量は5%~100%の間である。100%に至るまで残部は、多角形状フェライトおよびベイナイトである。
【0064】
多角形状フェライト
好ましい実施の形態では、本発明による焼き入れおよび焼き戻しされた鋼パイプは、最終冷却後に、体積分率で15%未満の多角形状フェライトを含むミクロ組織を示す。理想的には、フェライトが本発明による鋼のYSおよびUTSに悪影響を及ぼす可能性があるので、フェライトは鋼中に存在しない。
【0065】
ベイナイト
本発明による鋼のベイナイト含有量は、焼き入れ操作中の冷却速度に依存する。化学組成との組み合わせで、これは最大80%に制限される。100%に至るまで残部は、多角形状フェライトおよびマルテンサイトである。80%を上回るベイナイト含有量は、低い降伏強度および引張強度と、肉厚を通じて不均質な特性とをもたらす。
【0066】
本発明は、次の非限定的な実施例に基づいて以下に示されるだろう。
【0067】
鋼は調製され、それらの組成は次の表1に示され、重量パーセントで表される。
【0068】
鋼1および2の組成は本発明にかなう(一致する)。
【0069】
比較する目的で、組成3および4は、基準鋼の製造のために使用され、したがって本発明に一致しない。
【0070】
【表1】
【0071】
下線付きの値は本発明に適合しない。
【0072】
上流に向かうプロセスは、すなわち、溶融から高温形成までのプロセスは、高温形成のために1150℃~1260℃の間の温度で加熱した後、シームレス鋼パイプの一般に既知の製造方法を使って行われる。たとえば、上述の成分組成の溶融した鋼が、一般に使用される溶融実施(慣習)によって溶融されることが望ましい。必然的に含まれる一般的な方法は、連続的プロセスまたはインゴット鋳造プロセスである。次に、これらの材料は加熱され、それから、たとえば、一般に既知の製造方法である鍛造、プラグ、またはピルガーミルのプロセスによる熱間加工によって、上述の成分組成をもち所望の寸法のパイプに製造される。
【0073】
表1の組成は、
AT(℃):℃単位でのオーステナイト化温度
At:分単位でのオーステナイト化時間
を使って以下の表2で要約され得る生産プロセスを経た。
【0074】
オーステナイト化後の冷却は、水焼き入れを使用して
TT:℃単位での焼き戻し温度
Tt:分単位での焼き戻し時間
で行われる。
【0075】
焼き戻し後の冷却は空冷である。
【0076】
【表2】
【0077】
化学組成に関して、鋼基準1および2は本発明によるが、基準3および4は本発明によらない。プロセスパラメータはすべて本発明による。これは、焼き戻し温度からの最終冷却後、15%未満のフェライトを含むとともにその残部がベイナイトおよびマルテンサイトであるミクロ組織を示す焼き入れおよび焼き戻しされた鋼管をもたらした。
【0078】
表1の化学組成に適用された表2のプロセスはまた、表3および4で要約された特定の機械的挙動および靭性値をもたらした。
【0079】
MPaおよびksi単位でのYSは、規格ASTM A370およびASTM E8に定義された引張試験において得られた降伏強度である。
【0080】
MPaおよびksi単位でのUTSは、規格ASTM A370およびASTM E8に定義された引張試験において得られた引張強度である。
【0081】
【表3】
【0082】
本発明による鋼の平均衝撃エネルギー値は、-80℃において100J以上である。鋼No.3も良好なシャルピー値を有するが、その機械的特性が低すぎる。鋼4は、十分な機械的特性を有するが、そのシャルピー値は-40℃において既に分散し始める。
【0083】
【表4】
【0084】
本発明による鋼は、好ましくは、690MPaを超える降伏強度と、-80℃において少なくとも100Jの衝撃エネルギー平均値とを有する。
【0085】
溶接試験が、FCAWプロセスを使用することによって鋼No.2に対して実施された。融解ラインと熱の影響を受けるゾーンとにおいて-60℃でのシャルピー試験の結果が表5に示されている。
【0086】
【表5】
【0087】
ここに、FLは融解ラインであり、FL+Xはその融解ラインからmm単位で離れた距離Xを表す。タングステンを含む鋼の衝撃エネルギー値は、溶接状態においてさえも非常に良好であり、極寒用途に適している。
図1
図2