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特許7016355クリップケミストリーを用いた特性付与化合物でグラフト化した表面修飾ポリマー基質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】クリップケミストリーを用いた特性付与化合物でグラフト化した表面修飾ポリマー基質
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20220214BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 29/18 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220214BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20220214BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20220214BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20220214BHJP
   A01N 43/76 20060101ALI20220214BHJP
   A01N 37/46 20060101ALI20220214BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20220214BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220214BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20220214BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/34
A61L27/54
A61L29/06
A61L29/08 100
A61L29/16
A61L29/18
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/16
A61L31/18
C08F8/30
A01N61/00 D
A01N43/76
A01N37/46
C08J7/12 C CER
C08J7/12 CEZ
C07K7/06
C07K7/08
C07K14/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019520489
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2017065596
(87)【国際公開番号】W WO2017220804
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/001131
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】518456029
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ドゥ・シミー・ドゥ・モンペリエ - ウエヌエスセエム
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DE CHIMIE DE MONTPELLIER - ENSCM
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】バンジャマン・ノッテレ
(72)【発明者】
【氏名】アニタ・シュルツ・エプーズ・ルクセンホーファー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・クダン
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132868(JP,A)
【文献】特表平05-501971(JP,A)
【文献】特表2012-510880(JP,A)
【文献】Langmuir,2010年08月16日,Vol.26, No.17,p.14126-14134
【文献】Bull.Korean Chem. Soc.,2009年,Vol.30, No.8,p.1851-1854
【文献】Anal. Chem.,1994年10月15日,vol.66, No.20,p.3519-3520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
C08F 8/00
C08J 7/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-水素(C-H)結合を含むポリマー基質に特性付与化合物をグラフト化する方法であって、
a)基質を提供すること;
b)基質の少なくとも一部に被覆された特性付与化合物の均一な乾燥層を得るために、式(I)
【化1】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して水素もしくはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-NHC(S)NH-、-C(O)NRC(O)-(ここで、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)、好ましくはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-または-NHC(S)NH-、より好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-を表す〕
の光活性アリールアジド部分を含む前記特性付与化合物で被覆し、基質の少なくとも一部を被覆する特性付与化合物の均一な乾燥層を得て、前記式(I)のアリールアジド部分を基質の炭素-水素結合と共有結合近接にさせること
ただし、前記特性付与化合物がポリマーであるとき、それは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、ここで繰り返し単位Aは上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含むものである
c)基質の炭素-水素結合への挿入反応に供されるナイトレンを形成するのに十分な時間t(tは30分以下である)の間、被覆された基質を反応光源、好ましくはUVまたはIR源で照射し、それによりグラフト化ポリマー基質を得ること;
d)場合により得られたグラフト化ポリマー基質を洗浄すること;
e)工程b)、c)および場合によりd)を少なくとも1回、好ましくは最大9回、より好ましくは4回繰り返すこと;および
f)場合により工程e)の終了時に得たグラフト化基質を乾燥させること
を含み、前記特性付与化合物が防汚特性、抗菌特性を提供する、またはMRI蛍光画像化のような医用画像化において基質を放射線不透過性にするまたは可視化するまたは近赤外画像化により可視化するものであり
ここで前記方法が、いかなる前処理段階も必要とせず、ポリマー基質上で直接的に実施されるものである、方法
【請求項2】
ポリマー基質が埋め込み型ポリマー基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマー基質が脂肪族ポリエステルおよびコポリエステル、脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマー、ポリカーボネート、ポリジオキサノン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリ尿素、ポロキサマー、ポロキサミン、シリコーン、ポリカルボキシレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルならびにポリアクリレートから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
特性付与化合物が繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有する親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Aが表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する請求項1で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含み、親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーが防汚特性を付与する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーが少なくとも繰り返し単位AおよびBを含み、ここで
繰り返し単位Aが請求項1で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含み、
繰り返し単位Bが請求項1で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含まない、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
繰り返し単位Aと繰り返し単位Bのモル比(繰り返し単位A/繰り返し単位B)が0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは0.5%~10%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーがポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ((メタ)アクリレートPEG)、ポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、20000g.mol-1未満の分子量を有する直鎖状ポリ(四級アンモニウム)、双性イオン性ポリ(ベタイン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリリシン、ポリオキサゾリン、ポリオキサジン、ポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマーまたはポリオキサゾリン-ポリサルコシンブロック-コポリマーまたはポリオキサゾリン-ポリオキサジンコポリマーである、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
特性付与化合物が、
-四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-Cアルキルで四級化された四級化ポリ(ビニルピリジン)、四級化ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、直鎖状四級化ポリ(エチレンイミン)、ポリリシン、四級化ポリリシン、四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステル、四級化ポリオキサゾリン-ポリエチレンイミンコポリマー、
-式(IIa):
【化2】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級アンモニウム、
-式(IIb):
【化3】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ホスホニウム、
-式(IIc)
【化4】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ピリジニウム、
-好ましくはポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)、オーレインおよびポリミキシンBから選択され、請求項1で定義される式(I)の末端基を含む25個以下のアミノ酸の抗菌性ペプチド
から選択される抗菌剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
特性付与化合物が放射線不透過性ヨード造影剤、ガドリニウム錯体、蛍光化合物または近赤外蛍光化合物であり、ポリマー基質が好ましくは埋め込み型である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
特性付与化合物がDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミノペンタ酢酸)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、HPDO3A(10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザ-シクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、TRITA(1,4,7,10-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン)、TETA(1,4,8,11-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、BOPTA(4-カルボキシ-5,8,11-トリス(カルボキシメチル)-1-フェニル-2-オキサ-5,8,11-トリアザトリデカン-13-酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N44-トリ酢酸)、PCTA(3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-トリ酢酸)、DOTMA((α、α’、α’’、α’’’)-テトラメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンテトラ酢酸)およびHOPO(1-ヒドロキシピリジン-2-オン)のガドリニウム錯体を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
特性付与化合物が
-式(III):
【化5】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、そして
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化化合物、または
-式
【化6】
〔式中、
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化部分を含むポリマー
である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
特性付与化合物が
-式(Va):
【化7】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
、R、RおよびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は水素原子、COOHまたはC(O)OC-Cアルキル基から選択される〕
のローダミン誘導体
-式(Vb):
【化8】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
p’は0または1であり、
q’は0または1であり、
p’が0ならば、RはHであり、
q’が0ならば、RはHであり、
p’が1でありq’が1ならば、RおよびRは双方ともHであるか、一体となって-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
は、好ましくは末端炭素原子上で場合によりSO またはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基であり、
は好ましくは末端炭素原子上で場合によりSONaまたはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基である〕
のシアニン誘導体、または
-式(Vc):
【化9】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
R’はHまたは-CHCHCOOHまたは-CH=CHCOOH基を表す〕
のフルオレセイン誘導体
である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
式(VI):
【化10】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して、水素またはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-C(O)NRC(O)-(式中、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)、好ましくはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、または-NHC(S)NH-、さらにより好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-を表す〕
のアリールアミノ部分の窒素原子を介して特性付与化合物でグラフト化された表面修飾ポリマー基質であって、前記特性付与化合物が防汚特性、抗菌特性を提供する、またはMRI蛍光画像のような医用画像において基質を放射線不透過性にするまたは可視化するまたは近赤外画像により可視化し、ただし前記特性付与化合物がポリマーであるとき、それは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、ここで前記繰り返し単位Aは表面修飾ポリマー基質の表面に共有結合した窒素原子を有する、上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む、表面修飾ポリマー基質。
【請求項14】
ポリマー基質が埋め込み型ポリマー基質である、請求項13に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項15】
ポリマー基質が脂肪族ポリエステルおよびコポリエステル、脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマー、ポリカーボネート、ポリジオキサノン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリ尿素、ポロキサマー、ポロキサミン、シリコーン、ポリカルボキシレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルならびにポリアクリレートから選択される、請求項13または14に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項16】
特性付与化合物が繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有する親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Aが表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する請求項13で定義される式(VI)の光活性アリールアミノ部分を含み、親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーが防汚特性を付与する、前記請求項13~15のいずれか一項に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項17】
親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーが少なくとも繰り返し単位AおよびBを含み、ここで
繰り返し単位Aが請求項13で定義される式(VI)の光活性アリールアミノ部分を含み、
繰り返し単位Bが請求項13で定義される式(VI)の光活性アリールアミノ部分を含まない、
請求項16に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項18】
繰り返し単位Aと繰り返し単位Bのモル比(繰り返し単位A/繰り返し単位B)が0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは0.5%~10%のものである、請求項17に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項19】
親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーがポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ((メタ)アクリレートPEG)、ポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、20000g.mol-1未満の分子量を有する直鎖状ポリ(四級アンモニウム)、双性イオン性ポリ(ベタイン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリリシン、ポリオキサゾリン、ポリオキサジン、ポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマーまたはポリオキサゾリン-ポリサルコシンブロック-コポリマーまたはポリオキサゾリン-ポリオキサジンコポリマーである、請求項16~18のいずれか一項に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項20】
特性付与化合物が、
-四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-Cアルキルで四級化された四級化ポリ(ビニルピリジン)、四級化ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、直鎖状四級化ポリ(エチレンイミン)、ポリリシン、四級化ポリリシン、四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステル、四級化ポリオキサゾリン-ポリエチレンイミンコポリマー、
-式(VIIa):
【化11】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、そして
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級アンモニウム、
-式(VIIb):
【化12】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ホスホニウム、
-式(VIIc)
【化13】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ピリジニウム、
-好ましくはポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)、オーレインおよびポリミキシンBから選択され、上で定義される式(I)の残基を含む25個以下のアミノ酸の抗菌性ペプチド
から選択される抗菌剤である、請求項13または14に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項21】
特性付与化合物が放射線不透過性ヨード造影剤、ガドリニウム錯体、蛍光化合物または近赤外蛍光化合物であり、ポリマー基質が好ましくは埋め込み型である、請求項13または14に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項22】
特性付与化合物がDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミノペンタ酢酸)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、HPDO3A(10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザ-シクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、TRITA(1,4,7,10-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン)、TETA(1,4,8,11-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、BOPTA(4-カルボキシ-5,8,11-トリス(カルボキシメチル)-1-フェニル-2-オキサ-5,8,11-トリアザトリデカン-13-酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N44-トリ酢酸)、PCTA(3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-トリ酢酸)、DOTMA((α、α’、α’’、α’’’)-テトラメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンテトラ酢酸)およびHOPO(1-ヒドロキシピリジン-2-オン)のガドリニウム錯体を含む、請求項21に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項23】
特性付与化合物が
-式(VIII):
【化14】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、そして
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化化合物、
-式
【化15】
〔式中、
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化部分、または
【化16】
またはトリヨードフェニル部分
【化17】
含むポリマー
である、請求項21に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項24】
特性付与化合物が
-式(Xa):
【化18】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、
、R、RおよびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は水素原子、COOHまたはC(O)OC-Cアルキル基から選択される〕
のローダミン誘導体
-式(Xb):
【化19】
〔式中、
~XおよびLは請求項13で定義されるとおりであり、
p’は0または1であり、
q’は0または1であり、
p’が0ならば、RはHであり、
q’が0ならば、RはHであり、
p’が1でありq’が1ならば、RおよびRは双方ともHであるか、一体となって-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
は、好ましくは末端炭素原子上で場合によりSO またはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基であり、
は好ましくは末端炭素原子上で場合によりSONaまたはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基である〕
のシアニン誘導体、または
-式(Xc):
【化20】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
R’はHまたは-CHCHCOOHまたは-CH=CHCOOH基を表す〕
のフルオレセイン誘導体
である、請求項21に記載の表面修飾ポリマー基質。
【請求項25】
請求項13~24のいずれか一項に記載の埋め込み型表面修飾ポリマー基質を含む医療デバイス。
【請求項26】
インプラント、カテーテル、埋め込み型メッシュ、埋め込み型膜、ステント、ドレーン、血管移植片、埋め込み型ガイドおよび埋め込み型組織として適切である、請求項25に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特性付与化合物でグラフト化した表面修飾ポリマー基質、それを含む医療デバイスおよびポリマー基質をグラフト化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスは現代医療の不可欠な一部である。年間約5億個のデバイスが使用される。
【0003】
近年、多機能にするために表面が修飾された高性能の医療デバイスが開発されている。
【0004】
例えば、いくつかの医療デバイスは、それらを医用画像化に有用とするために修飾された表面を示す。このような医療デバイスは例えば、出願国際公開第2011/004332号および国際公開第2013/084204号に記載されている。しかしながら、国際公開第2011/004332号および国際公開第2013/084204号において、医療デバイスは基質に共有結合していないポリマーで被覆されており、そのため望ましくないリーチング現象が起こり得る。
【0005】
また、インプラントの使用と関連する広範な問題は、依然として細菌感染症である(例えば、重症患者におけるカテーテル誘発性尿路感染症)。実際、全院内感染症の約45%が埋め込み型デバイスによって引き起こされていると推定される。
【0006】
インプラント非関連感染症とは対照的に、インプラント表面に付着しているほんのわずかな細菌が、感染症を引き起すのに十分である。表面に付着すると、細菌の代謝および表現型の変化が、それらを一般的に損なわれた免疫応答から保護し、それらを大部分の抗微生物剤に対して耐性にする。さらに、細菌はバイオフィルム - タンパク質、多糖類および細胞外DNAのマトリックス - の形成を誘導し、このバイオフィルムはインプラント関連感染症の処置における主要な障害である。感染症を効率的に治癒するために、インプラントは、たいていの場合は摘出されなければならず、患者に対してさらなる苦痛および苦悩をもたらす。これは医学的苦境のみではない:米国単独で、追加入院や処置のための費用は年間30億ドル以上になると概算される。
【0007】
無菌環境は感染症のリスクを低く保持するが、多くの汚染が手術に際してなお起こり、病原体がしばしば患者自身により持ち込まれる。従って、最近数十年、新しい生物活性抗細菌表面を作製するための多大な努力がなされている。これらの生物材料の多くは銀または抗微生物剤 - しばしば表面コーティングに包埋される - ならびに殺菌剤として作用し、表面に固定化された正に荷電した四級アンモニウム化合物およびポリカチオンを含む。
【0008】
細菌を死滅させる生物活性表面に加えて、タンパク質および細菌の付着ならびにその結果のバイオフィルム形成を防止する生理不活性な防汚修飾が研究されている。ポリエチレングリコール(PEG)のような防汚特性を有する疎水性ポリマーが一般的にこの戦略のために使用される。表面の高い被覆率は無制限のタンパク質および細菌の付着の防止に重要である。
【0009】
ポリマーを表面に共有結合させるために、2つの主な方法が使用される。「グラフト導入」 - 表面へのポリマー鎖の結合 - はポリマーのより良好な制御および特徴付けを可能にし、一方ポリマーが表面上で直接的に合成される「グラフト成長」法はしばしばより高いグラフト密度をもたらすが、その化学的多様性が限られている。
【0010】
従って、多くの場合生体適合性ポリマー材料製である、柔軟で実施が容易であり、多種多様な化学化合物および埋め込み型デバイスに適合する「グラフト導入」法が開発された。
【0011】
この点において、クリップケミストリーは多種多様な化学物質に適合し、グラフト化される材料がCH結合を含むことのみを必要し、これは大部分のポリマー材料に当てはまるため、最適な技術として生まれた。
【0012】
クリップケミストリーはナイトレンラジカルのC-H結合へのラジカル挿入から成り、ここでナイトレンラジカルは好ましくはアリールアジド誘導体(Ar-N)の(好ましくはライトを用いた)照射により発生する。照射すると、図1に示すように、アリールアジドは分解してナイトレンラジカル(Ar-N°)を生じ、これはその後C-H結合と反応して基質の表面と化合物の間に共有結合性の炭素-窒素結合を形成する。
【0013】
例えば、特許出願国際公開第90/00887号、国際公開第98/22542号、米国特許第6,090,995号または欧州特許第0397130号には、疎水性ポリマーと埋め込み型ポリマーデバイスの間に共有結合を形成する直接的および間接的な「グラフト導入」法に基づくクリップケミストリーが開示されている。
【0014】
同様の方法を用いて、Ferrerら(Langmuir 2010, 26(17). 14129-14134)はポリマー基質(ポリウレタンまたはポリスチレン)の表面に、前記ポリマー基質と少なくとも1つのアリールアジドを含む修飾デキストランポリマーの「クリップ」反応を使用して、デキストランをグラフト化する方法を開示している。しかしながら、Ferrerらの方法は基質の前処理段階、すなわちプラズマ酸化を含む。また、N官能基の分布の面からは、Ferrerらのデキストランポリマーは「ランダム」ポリマーである。
【0015】
大部分の方法は、特に許容できるグラフト化率で効率的なグラフト化を確実にするために、修飾する表面の前官能基化を必要とするため、先行技術の方法は十分なものではない。
【0016】
従って、ポリマーおよび小分子をポリマー基質にグラフト化するのに効率的で実施が容易であり、その結果新規な多機能性埋め込み型または非埋め込み型ポリマー基質およびデバイスへと効率的に導くクリップケミストリーに基づく直接的な「グラフト導入」法を提供する必要性がなお存在する。さらに、こうして得られた表面修飾基質は長時間安定で、かつその特性を保持しなければならない。すなわち、グラフト化された特性付与化合物は時間と共に分解しないか、または浸出しないことが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この技術的課題に対処するために、本発明者らは、炭素-水素(C-H)結合を含むポリマー基質をアリールアジド部分を含む特性付与化合物でグラフト化するための方法であって、基質を特性付与化合物で被覆し、30分未満の時間照射し、そしてこの一連の工程を少なくとも1回繰り返すことによる方法を設計した。
【0018】
実際に、この一連の工程を1回のみの実施は、特性付与化合物の効率的なグラフト化をもたらさない。本発明者らは、当該手順を数回実施する必要があることを観察している。この点において、照射時間の単純な延長は特性付与化合物を含むアリールアジドの分解を増加させるが、グラフト化率を改善しない。短い照射時間でのこの手順の繰り返しのみが、十分に安定なグラフト化基質をもたらす。
【0019】
先行技術と対比して、本発明の方法は、いかなる前処理もせずポリマー基質上で直接実施し得る。換言すると、ポリマー基質の表面は活性化される必要がない。特に、ポリマー基質の表面は酸化される必要がない。
【0020】
さらに、特性付与化合物がポリマーのとき、本発明者らは、単純な鎖端アリールアジド含有コポリマーと比較して、アリールアジド部分を含む繰り返し単位に富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーで、より信頼性があり、かつ再現性のあるグラフトが得られることを観察している。
【0021】
従って、第一の態様において、本発明は炭素-水素(C-H)結合を含むポリマー基質に特性付与化合物をグラフト化するための方法に関し、前記方法は、
a)基質を提供すること;
b)前記基質を、式(I)
【化1】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して水素もしくはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-NHC(S)NH-、-C(O)NRC(O)-(ここで、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)を表す〕
の光活性アリールアジド部分を含む前記特性付与化合物で被覆し、基質の少なくとも一部を被覆する特性付与化合物の均一な乾燥層を得て、前記式(I)のアリールアジド部分を基質の炭素-水素結合と共有結合近接にさせること;
c)基質の炭素-水素結合への挿入反応に供されるナイトレンを形成するのに十分な時間t(tは30分以下である)の間、被覆された基質を反応光源で照射し、それによりグラフト化されたポリマー基質を得ること;
d)場合により得られたグラフト化ポリマー基質を洗浄すること;
e)工程b)、c)および場合によりd)を少なくとも1回繰り返すこと;および
f)場合により工程e)の終了時に得たグラフト化基質を乾燥させること
を含む。
【0022】
別の態様において、本発明は本発明の方法により得られる表面修飾ポリマー基質、有利には表面修飾埋め込み型ポリマー基質に関する。
【0023】
さらに別の態様において、本発明は式(VI)
【化2】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して水素もしくはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-NHC(S)NH-、-C(O)NRC(O)-(ここで、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)を表す〕
のアリールアミノ部分の窒素原子を介して特性付与化合物でグラフト化された表面修飾埋め込み型ポリマー基質に関し、前記特性付与化合物は防汚特性、抗菌特性を提供するかまたは基質を医用画像化において放射線不透過性にするまたは可視化する。但し、特性付与化合物は繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Aは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する、上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0024】
別の態様において、本発明は、本発明の表面修飾ポリマー(好ましくは埋め込み型)基質を含む医療デバイスに関する。
【0025】
定義
本明細書で使用される「埋め込み型」ポリマー基質は、患者の身体の内部または表面上に設置されることを意味するポリマー基質として理解される。従って、それは医療使用に適合性を有するべきである。特に、身体に有毒であるべきではなく、埋め込んだ患者の健康に何らかの有害な方法で干渉するべきではない。埋め込み型ポリマー基質はまた、埋め込まれた宿主による拒絶のリスクを最小限にするべきである。
【0026】
本明細書で使用される「生体適合性」は、埋め込みに適し、目的に応じて、埋め込まれた患者の体内で生物学的統合または分解を受ける基質を適格とする。
【0027】
本明細書で使用される
【化3】
として表される残基Rは、結合
【化4】
を介して分子の残りに結合する残基Rを意味する。
【0028】
本明細書で使用される
【化5】
として表される残基R-NHは、その残基が垂直な結合
【化6】
によりポリマー基質に共有結合していることを示す。水平線は基質の表面を表す。
【0029】
本明細書で使用される「結合近接」は、特に照射後に試薬間で共有結合の形成を可能にする距離として理解される。
【0030】
本発明において、IRは赤外線を示す。
【0031】
本発明において、MRIは核磁気共鳴画像法を示す。
【0032】
本明細書で使用される「放射線不透過性」化合物は、X線画像法、例えばPET(ポジトロン断層法)において可視的な化合物である。
【0033】
本明細書で使用される「防汚」剤は、合成表面への微生物の付着を防止する。特に、防汚剤は細菌の付着を防止し、特にバイオフィルム、特にタンパク質、ポリサッカライドおよび細胞外DNAならびに細菌を含むマトリックスの形成を防止する。
【0034】
本明細書で使用される「殺菌剤」は、細菌を死滅させるまたはそれらの生育またはそれらの繁殖する能力を抑制する薬剤として理解される。
【0035】
本明細書で使用される「間接的グラフト化」法は、初めに、特性付与化合物に結合するためのアンカーとしての役割を果たす低分子量分子をグラフト化することにより官能基化することを必要とする。このような間接的グラフト化法は、例えば、後に特性付与化合物を導入するためのクリップケミストリー反応に供されるアリールアジド部分を含むカップリング化合物の第一グラフト化に関する、特許出願米国特許第2010/0028559号に開示されている。
【0036】
対照的に、本明細書で使用される「直接的グラフト化」法は、特性付与化合物に共有結合するための固着点としての役割を果たす介在分子なしに、特性付与化合物を基質の表面に直接的にグラフト化する方法をいう。換言すると、直接的グラフト化法により得られる材料において、材料表面と特性付与化合物の間に介在分子は存在しない。本発明において、特性付与化合物はクリップケミストリー反応の結果グラフト化されるため、C-NH結合により直接的に基質に結合する。
【0037】
本明細書で使用される「コポリマー」は、数種の異なる繰り返し単位、すなわち少なくとも2種の繰り返し単位を含むポリマーとして理解される。コポリマーはランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはグラジエントコポリマーであり得る。
【0038】
本明細書で使用される「ブロックコポリマー」は異なるブロックの配列を含み、各々が1繰り返し単位のみを含むコポリマーとして理解される。ブロックコポリマーは単一の分子であり、その結果各ブロックは共有結合により隣接するブロックに共有結合的に結合する。例えば、繰り返し単位A、BおよびCのブロックコポリマーは以下の構造:
【化7】
を有し得る。
【0039】
本明細書で使用される「グラジエントコポリマー」は、モノマー組成における優勢な一種から優勢な他種への段階的な変化を示すコポリマーとして理解される。これは組成の急な変化を有するブロックコポリマーと対照的である。
【0040】
本明細書で使用される用語「ポロキサマー」は、ポリオキシエチレン(ポリエチレンオキシド、POEとしても知られる)鎖によりいずれかの側でグラフト化された中央ポリオキシプロピレン鎖(ポリプロピレンオキシド、PPOとも称される)を含む、またはこれから成るトリブロックコポリマーをいう。従って、ポロキサマーはポリ(エチレンオキシド)の2つの親水性鎖に囲まれたポリ(プロピレンオキシド)の中央疎水性鎖を含む(PEO-PPO-PEOブロックコポリマー)。ポロキサマーは一般に、文字「P」(ポロキサマーに対して)とその後の3つの数字に従って指定される。100を乗じた初めの2つはポリオキシプロピレン中心の分子量を与え、10を乗じた最後の1桁はポリオキシエチレンの含有率を与える。例えば、P407(Pluronic(登録商標)F127)は4000g/molの分子量を有するポリオキシプロピレン中心および70%のポリオキシエチレン含量を含むポロキサマーである。
【0041】
本発明において、PEGはポリエチレングリコールを示す。
【0042】
本発明において、PCLはポリカプロラクトンを示す。
【0043】
本発明において、「(メタ)アクリレート」(または「(メタ)アクリル」)単位はアクリレート(またはアクリル)単位ならびにメタクリレート(またはメタクリル)単位を包含する。特に、メタクリル基はCH=C(R)C(O)O(CH)-またはCH=C(R)C(O)O(CH)O-基であり、ここでRは一般的にHまたはCHを表し、qは好ましくは0~15、例えば3~8の整数である。(メタ)アクリル基の好ましい例は、CH=CH-C(O)O-CHCH-、CH=C(CH)-C(O)O-CHCH-、CH=CH-C(O)O-CHCHO-、およびCH=C(CH)-C(O)O-CHCHO-である。
【0044】
本明細書で使用されるビニル基は、末端二重結合を含む基(例えば、(C-C)アルケニル)である。好ましくは、本発明のビニル基は1つの二重結合のみを含む。一般的に、本発明において、ビニル基は式CH=CH-(C-C)アルキル、またはCH=C(CH)-(C-C)アルキルのものである。ビニル基の例はCH=CH-、CH=CH-CH-およびCH=CH-CH-CH-基、好ましくはCH=CH-である。
【0045】
本明細書で使用される用語「(C-C)アルキル」は、限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどを含む直鎖または分岐鎖の一価飽和炭化水素鎖である。
【0046】
本発明で使用される用語「アリール」は、好ましくは5~10個の炭素原子を含む芳香族基をいう。本発明のアリール基は単環式であり得るか、縮合環を含み得る。アリール基の例は、フェニルまたはナフチル基である。有利には、それはフェニル基である。
【0047】
本発明で使用される用語「ヘテロアリール」は、好ましくはN、OまたはSから選択される1~3個のヘテロ原子を含む5~10員芳香族基をいう。本発明のヘテロアリール基単環式であり得るか、縮合環を含み得る。ヘテロアリール基の例は、フラニル、チオフェニル、ピロリル、ピリジニル、インドリルである。
【0048】
本明細書で使用されるヒュスゲン反応は、三重結合とアジド基の間の1,3-双極子付加である。ヒュスゲン反応は「クリックケミストリー」としても知られており、通常は加熱により得られる。それは銅触媒により触媒され得る。このような反応は当分野で既知であり、当業者はヒュスゲン反応を容易に実施する。
【0049】
本明細書で使用される「プロパルギル基」は、式HC≡C-CH-の基として理解される。
【0050】
本発明で使用される用語「アミノ酸」は、DまたはL型の天然α-アミノ酸(例えば、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)およびバリン(Val))、ならびに非天然アミノ酸(例えば、β-アラニン、アリルグリシン、tert-ロイシン、3-アミノ-アジピン酸、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸、2-アミノブタン酸、4-アミノ-1-カルボキシメチルピペリジン、1-アミノ-1-シクロブタンカルボン酸、4-アミノシクロヘキサン酢酸、1-アミノ-1-シクロヘキサンカルボン酸、(1R,2R)-2-アミノシクロヘキサンカルボン酸、(1R,2S)-2-アミノシクロヘキサンカルボン酸、(1S,2R)-2-アミノシクロヘキサンカルボン酸、(1S,2S)-2-アミノシクロヘキサンカルボン酸、3-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノシクロヘキサンカルボン酸、(1R,2R)-2-アミノシクロペンタンカルボン酸、(lR,2S)-2-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノ-1-シクロペンタンカルボン酸、1-アミノ-1-シクロプロパンカルボン酸、4-(2-アミノエトキシ)-安息香酸、3-アミノメチル安息香酸、4-アミノメチル安息香酸、2-アミノブタン酸、4-アミノブタン酸、6-アミノヘキサン酸、1-アミノインダン-1-カルボン酸、4-アミノメチル-フェニル酢酸、4-アミノフェニル酢酸、3-アミノ-2-ナフトエ酸、4-アミノフェニルブタン酸、4-アミノ-5-(3-インドリル)-ペンタン酸、(4R,5S)-4-アミノ-5-メチルヘプタン酸、(R)-4-アミノ-5-メチルヘキサン酸、(R)-4-アミノ-6-メチルチオヘキサン酸、(S)-4-アミノ-ペンタン酸、(R)-4-アミノ-5-フェニルペンタン酸、4-アミノフェニルプロピオン酸、(R)-4-アミノピメリン酸、(4R,5R)-4-アミノ-5-ヒドロキシヘキサン酸、(R)-4-アミノ-5-ヒドロキシペンタン酸、(R)-4-アミノ-5-(p-ヒドロキシフェニル)-ペンタン酸、8-アミノオクタン酸、(2S,4R)-4-アミノ-ピロリジン-2-カルボン酸、(2S,4S)-4-アミノ-ピロリジン-2-カルボン酸、アゼチジン-2-カルボン酸、(2S,4R)-4-ベンジル-ピロリジン-2-カルボン酸、(S)-4,8-ジアミノオクタン酸、tert-ブチルグリシン酸、γ-カルボキシグルタミン酸、β-シクロヘキシルアラニン、シトルリン、2,3-ジアミノプロピオン酸、馬尿酸、ホモシクロヘキシルアラニン、モロイシン、ホモフェニルアラニン、4-ヒドロキシプロリン、インドリン-2-カルボン酸、イソニペコチン酸、α-メチル-アラニン、ニペコチン酸、ノルロイシン、ノルバリン、オクタヒドロインドール-2-カルボン酸、オルニチン、ペニシラミン、フェニルグリシン、4-フェニル-ピロリジン-2-カルボン酸、ピペコリン酸、プロパルギルグリシン、3-ピリジニルアラニン、4-ピリジニルアラニン、1-ピロリジン-3-カルボン酸、サルコシン、スタチン、テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸またはトラネキサム酸)をいう。好ましくは、それは天然または非天然α-アミノ酸であり、好ましくは天然α-アミノ酸である。
【0051】
本発明で使用される用語「ペプチド」は、ペプチド結合(すなわちアミド官能基)により結合した2~25個の上で定義されるアミノ酸(および好ましくは天然α-アミノ酸)を含む鎖をいう。
【0052】
本発明の目的のために、用語「薬学的に許容される」は医薬組成物の製造に有用なものおよび医薬用途について一般的に安全かつ非毒性のものを示すことを意図する。
【0053】
本明細書で使用される、薬学的に許容されるアニオンは、特に、塩化物、臭化物、硫酸、硝酸、リン酸のような無機アニオンまたは酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク酸、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸およびトリフルオロ酢酸などのような有機アニオン、好ましくは塩化物、臭化物、リン酸、酢酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、ムコン酸、プロピオン酸、コハク酸および酒石酸、さらに好ましくは塩化物、臭化物から選択される。
【0054】
本明細書で使用される、薬学的に許容される塩基は、有機または無機であり得る。有機塩基の例は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどである。無機塩基の例は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含む。
【0055】
基質の接触角は当業者に既知の方法に従って測定される。例えば、カメラにより、グラフト化前後の基質表面に沈着させた水滴から接触角を測定し、そうして基質表面の親水性または疎水性特性の変化を定量することを可能とする方法を使用し得る。
【0056】
詳細な説明
I.ポリマー基質をグラフト化する方法
本発明は、
a)基質を提供すること;
b)前記基質を、式(I)
【化8】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して水素もしくはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-NHC(S)NH-、-C(O)NRC(O)-(ここで、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)、好ましくはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-または-NHC(S)NH-、より好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-を表す〕
の光活性アリールアジド部分を含む前記特性付与化合物で被覆し、基質の少なくとも一部を被覆する特性付与化合物の均一な乾燥層を得て、前記式(I)のアリールアジド部分を基質の炭素-水素結合と共有結合近接させること;
c)基質の炭素-水素結合への挿入反応に供されるナイトレンを形成するのに十分な時間t(tは30分以下である)の間、被覆された基質を反応光源、好ましくはUVまたはIR源で照射し、それによりグラフト化ポリマー基質を得ること;
d)場合により得られたグラフト化ポリマー基質を洗浄すること;
e)工程b)、c)および場合によりd)を少なくとも1回、有利には2回、好ましくは最大9回、より好ましくは工程b)、c)および場合によりd)を4回繰り返すこと;および
f)場合により工程e)の終了時に得たグラフト化基質を乾燥させること
を含む。
【0057】
好ましくは、Lはアジド基(N)からパラ位に存在する。従って、好ましくは光活性アリールアジド部分は式(I’):
【化9】
〔式中、
LおよびX~Xは上および下で定義されるとおりである〕
のものである。
【0058】
ある実施態様において、X~Xの1つはOHまたはNOであり、他は独立して、HおよびC-Cアルキル基から選択される。好ましくは、本実施態様において、X~Xの1つはOHまたはNOであり、他はHである。
【0059】
別の実施態様において、X~Xはハロゲン原子である。好ましくは、本実施態様において、X~Xはフッ素原子である。
【0060】
別の実施態様において、X~XはHである。有利には、本実施態様において、Lは有利には、NH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-または-NHC(S)NH-、好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-である。
【0061】
有利には、本発明の方法は工程a)の前に基質のいかなる表面修飾も含まない。特に、本発明の方法は好ましくは、化学的またはプラズマ酸化のような酸化を含まない。
【0062】
本発明の方法はさらに、得られたグラフト化されたポリマー基質を洗浄する工程f1)を含み得て、これは好ましくは工程e)およびf)の間に実施される。
【0063】
本方法はまた、得られた表面修飾基質を滅菌(例えば高温で加熱することにより)する最終工程g)をさらに含み得る。
【0064】
特定の実施態様において、本発明の方法は工程a)、b)、c)、任意の工程d)、e)および場合によりf1)、f)およびg)から成る。
【0065】
I.1.ポリマー基質
一般的に、ポリマー基質は脂肪族ポリエステルおよびコポリエステル、脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマー、ポリカーボネート、ポリジオキサノン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリ尿素、ポロキサマー、ポロキサミン、シリコーン、ポリカルボキシレートならびにポリエーテルエーテルケトンから選択される。
【0066】
ポリマー基質はまた、ABS(アクリロニトリル ブタジエンスチレン スチレン)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルおよびポリアクリレートから選択され得る。
【0067】
基質は埋め込み型または非埋め込み型であり得る。実際、本発明の方法の実現可能性は埋め込み型基質に限定されない:上で示すように、特定の基質に本方法を適用可能とするために必要な唯一の特性は、それがクリップケミストリー官能基化に利用可能なC-H結合を含むことである。
【0068】
特定の実施態様において、ポリマー基質は埋め込み型であり、脂肪族ポリエステルおよびコポリエステル、脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマー、ポリカーボネート、ポリジオキサノン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシド、ポリ尿素、ポロキサマー、ポロキサミン、シリコーン、ポリカルボキシレートならびにポリエーテルエーテルケトンから選択される。
【0069】
好ましい脂肪族ポリエステルおよびコポリエステルならびに脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマーはポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、PLA-ポロキサマー-PLAおよびポリカプロラクトンである。
【0070】
本発明は特に全ての割合のPLGAを含む。すなわち本発明のPLGAにおける乳酸:グリコール酸比は0~100、好ましくは50:50~85:15、例えば50:50、70:30、75:25、82:18~85:15である。
【0071】
PLAポリマーにおいて、乳酸は(L)-乳酸または(D)-乳酸であり得る。本発明は任意の割合でPLAポリマーを含む。すなわち、(L)-乳酸:(D)-乳酸比は0~100、好ましくは50:50~98:2または2:98~50:50。特に、本発明のPLAは、PLA94、PLA100、PLA98、PLA96、PLA70およびPLA50であり得る。
【0072】
本発明のポリマー基質は特に、Resomer(登録商標)ポリマー(Evonikにより市販される)から選択され得る。この場合、それは有利には埋め込み型である。
【0073】
好ましいポリカプロラクトンは、ポリ(ε-カプロラクトン)である。
【0074】
好ましい本発明のポリカルボキシレートはポリ(トリメチレンカーボネート)である。
【0075】
ポロキサマーの例は、Pluronic(登録商標)として市販されるポロキサマーである。
【0076】
ポロキサミンの例は、Tetronic(登録商標)として市販されるポロキサミンまたはLeroyら(例えば、Leroy A., Materials Science and Engineering C (2013), 33(7), 4133-4139 ; Leroy, A. Biomaterials Science : 3, 4, 617-626 (2015) ; Morille, Marieを参照)によりまたはMorilleら(Tran Van-Thanh; Garric, Xavier; et al. Journal Of Controlled Release 170, 1, 99-110, (2013)を参照)により開示されるポリマーである。
【0077】
ポリカーボネートの例は、ポリ(トリメチレンカーボネート)である。
【0078】
有利な実施態様において、基質は埋め込み型である。
【0079】
特定の実施態様において、ポリマー(埋め込み型)基質は分解性ではない。この実施態様において、ポリマー(埋め込み型)基質は、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ尿素、シリコーンおよびポリエーテルエーテルケトンである。
【0080】
別の特定の実施態様において、ポリマー基質は分解性である。本実施態様において、基質は有利には、埋め込み型であり、好ましくは脂肪族ポリエステルおよびコポリエステル、脂肪族ポリエステルおよびポリエーテルのコポリマー、例えばポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、PLA-ポロキサマー-PLAおよびポリカプロラクトン(特にポリ(ε-カプロラクトン))であり、これらは各々好ましくは上記のとおりである。このような分解性ポリマーの例は、特にNottelら(特に、Journal of Polymer Science 2010, 48, 5891-5898; Mater. Sci. Eng. C 2013, 33(7), 4133-4139; Biomacrocmolcules 2012, 13, 1544-1553; Acta Biomaterialia 2013, 9, 7709-7718を参照)により記載されている。
【0081】
I.2.被覆
本発明の方法の工程b)において、基質を特性付与化合物で被覆して、ポリマー基質の少なくとも一部を被覆する特性付与化合物の均一な乾燥層を得て、該式(I)のアリールアジド部分をポリマー基質の炭素-水素結合と共有結合近接とする。
【0082】
均一な被覆を達成するために、多様な被覆技術が使用され得る。特に、ディップコーティング、スプレーコーティングまたはスピンコーティング、好ましくはスプレーコーティングが使用され得る。
【0083】
適切ならば、特性付与化合物の乾燥層を得るために、その後、被覆された基質を、特に被覆の均一性を保持する条件下で乾燥させる。被覆がディップコーティングにより実施されるとき、乾燥工程が有利に使用される。
【0084】
有利には、層は1~50nm、より好ましくは1~20nmの厚さを有するポリマーから成る。
【0085】
当業者は、望ましい厚さの、望ましい均一な乾燥層を得るために、被覆工程および場合により乾燥工程の操作条件を適合させる。
【0086】
特定の実施態様において、特性付与化合物は(埋め込み型)基質の全面に被覆される。特性付与化合物が防汚または抗菌剤であるとき、本実施態様が好ましい。
【0087】
特定の実施態様において、特性付与化合物は(埋め込み型)基質の表面の一部に被覆される。特性付与化合物が医用画像化に有用であるとき、本実施態様が好ましい。
【0088】
I.3.反応光源
本発明において、反応光源は好ましくは、UV光源である。
【0089】
好ましくは、反応光源は1~400W、好ましくは4~20W、例えば8Wの出力を有する。
【0090】
反応光源がUV光源であるとき、その波長は好ましくは、10nm~380nm、好ましくは200nm~380nmである。例えば、UV光源は365nm~254nm、好ましくは254nmの波長を有する。
【0091】
反応光源は、特にそれがUV光源であるとき、好ましくは照射される(基質の)表面から1~50cmの距離、例えば2~5cmの距離に設置される。当業者は、特に反応光源の出力を考慮して適切な距離を選択する。
【0092】
好ましくは、反応光源はUV光源である。
【0093】
I.4.照射時間t
上で説明されるとおり、本発明者らは照射時間の延長が特性付与化合物のアリールアジドの分解性を増大させるが、グラフト化率は改善されないことを観察している。
【0094】
従って、工程b)において、被覆基質は30分以下、好ましくは25分以下、より好ましくはまたは20分以下の時間tの間照射される。
【0095】
さらに、tはナイトレンの形成を可能にするのに十分であるべきである。特に、tは少なくとも30秒、好ましくは少なくとも1分である。
【0096】
最も好ましくは、tは1分、5分または20分である。
【0097】
I.5.洗浄工程d)
洗浄工程d)は、好ましくは超音波処理により(例えば超音波槽への浸漬により)および/または溶媒、好ましくは水性溶媒またはメタノールのようなアルコールで濯ぐことにより実施される。特定の実施態様において、洗浄は室温での超音波水槽における浸水による超音波処理で、および/または水またはメタノールで濯ぐことにより実施される。
【0098】
I.6.繰り返し(工程e)
繰り返し回数は、特に接触角を考慮してまたは得られたグラフト化基質のグラフト化率を考慮して、当業者により決定され得る。
【0099】
本発明者らは、繰り返し回数は特性付与化合物とポリマー基質の「適合性」によることを観察している。親水性基質は一般的に親水性特性付与化合物との適合性がより高いが、疎水性特性付与化合物とは適合性がより低く、この逆もそうである。
【0100】
本発明者らは、基質と特性付与化合物の「適合性」が低いほど、繰り返し回数が多くなければならないことを観察している。
【0101】
しかしながら、最適な結果は一般的に4回の繰り返しで得られることもまた、観察された。
【0102】
I.7.特性付与化合物
本発明の方法の特性付与化合物は、上の式(I)のアリールアジド部分を含む。
【0103】
一般的に、特性付与化合物は防汚特性、抗菌特性を提供するか、またはMRI、蛍光画像化または近赤外画像化のような医用画像化において基質を放射線不透過性にするまたは可視化する。
【0104】
特性付与化合物は、ポリマーまたは小分子であり得る。
【0105】
特定の実施態様において、特性付与化合物はポリマーである。本実施態様において、ポリマーは繰り返し単位Aを含むコポリマーであり、前記繰り返し単位Aは上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含む。
【0106】
コポリマーはポリマー鎖の末端に1つまたは2つのみの繰り返し単位Aを含み得る。この場合、コポリマーは「鎖端ポリマー」と称される。コポリマーがポリサルコシンまたはポリラクトンコポリマーであるとき、鎖端ポリマーの例が得られる。例えば、この場合、式(I)のアリールアジド部分を含む繰り返し単位Aにおいて、LはNHである。対応する遊離アミンはラクトンモノマーまたは環状無水物との反応の開始剤として作用する。
【0107】
あるいは、コポリマーは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Aは上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含む。
【0108】
本実施態様において、ブロックまたはグラジエントコポリマーは少なくとも繰り返し単位AおよびBを含み:
-繰り返し単位Aは上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含み、
-繰り返し単位Bは上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含まない。
【0109】
繰り返し単位AとBは適合性である、すなわち、それらは好ましくは、同一の反応条件下で重合できる重合可能な基を含むモノマーから誘導されると理解される。有利には、繰り返し単位AおよびBは同一の重合可能な基から誘導される。
【0110】
例えば、ビニルモノマーから誘導されるとき、Aは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むビニルモノマーから誘導される。同様に、Bがオキサゾリンモノマーから誘導されるとき、Aは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むオキサゾリンモノマーから誘導される。Bがサルコシンモノマーから誘導されるとき、Aは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むサルコシンモノマーから誘導される。Bが(メタ)アクリレートモノマーから誘導されるとき、Aは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含む(メタ)アクリレートモノマーから誘導される。
【0111】
特に、モノマーAは式A1:
【化10】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
Zは結合または-O(O)C-を表し、
rは0~10、好ましくは0または2の整数であり、
RはH、C-Cアルキルまたはアリール基から選択される〕
のものであり得る。
【0112】
好ましくは、XはHであり、rは0または2であり、RはHまたはCHから選択される。
【0113】
有利には、Lは-C(O)O-または-O(O)C-である。好ましくは、Lは-O(O)C-であり、Zは結合である。
【0114】
別の特定の実施態様において、モノマーAは式A2:
【化11】
〔式中、
~Xは上で定義されるとおりであり、
RaおよびRbはそれぞれ、独立して、H、C-Cアルキルまたはアリール基から選択される〕
のものであり得る。
【0115】
好ましくは、XはHであり、RaおよびRbはHである。
【0116】
特定の実施態様において、反応性末端基を含む第一のホモポリマーまたはブロックコポリマーは、最終ブロックコポリマーの次のブロックを形成するための重合開始剤としての役割を果たす。
【0117】
例えば、第一のポリオキサゾリンブロックコポリマーまたはホモポリマー(例えば、上の式A2のモノマーを重合することにより得られるホモポリマー)は以下の式B1のモノマーの重合のための開始剤としての役割を果たし得て、その結果ポリオキサゾリン-ポリサルコシンブロックコポリマーを導く:
【化12】
〔式中、
RはHまたはC-Cアルキル基、好ましくは、PEGブロックを形成するための開始剤としての役割を果たし、その結果ポリオキサゾリン-PEGブロックコポリマーを導くC-Cアルキル基を表す〕。
【0118】
有利には、繰り返し単位Aと繰り返し単位Bのモル比(繰り返し単位A/繰り返し単位B)は、0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは5%~10%である。
【0119】
I.7.a.特性付与化合物としての防汚剤および抗菌剤
特定の実施態様において、特性付与化合物は防汚または抗菌特性を提供する。
【0120】
本実施態様において、基質は埋め込み型または非埋め込み型であり得る。
【0121】
適切な防汚または抗菌ポリマーは、例えばTimofeevaら(Appl. Microbiol. Biotechnol. 2011, 89, 475-492)、Campocciaら(Biomaterials 2013, 34, 8533-8554)およびKenawyら(Biomacromolecules, 2007, 8(5), 1359-1384)により記載されている。
【0122】
特性付与化合物が防汚剤である場合、それは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有する親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Aは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する、上で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含む。
【0123】
特性付与化合物が抗菌剤である場合、それは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり得て、前記繰り返し単位Aは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する、上で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含む。
【0124】
特に、親水性またはカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーは少なくとも繰り返し単位AおよびBを含み、ここで繰り返し単位Aは上で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含み、繰り返し単位Bは上で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含まない。好ましくは、繰り返し単位Aと繰り返し単位Bのモル比(繰り返し単位A/繰り返し単位B)は、0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは5%~10%のものである。
【0125】
一般的に、上で定義される式(I)の光活性アリールアジド部分を含む繰り返し単位Aを含む親水性もしくはカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーは、
-ポリ(エチレングリコール)、
-ポリ(エチレンオキシド)、
-ポリ((メタ)アクリレートPEG)、
-ポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、
-四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化されている、20000g.mol-1未満、特に1000g/mol-1~20000g.mol-1未満の分子量を有する直鎖状ポリ(四級アンモニウム)、特に四級化ポリ(N-(C-C)アルキル)(メタ)アクリルアミド)または四級化ポリ(N-(ヒドロキシル(C-C)アルキル)(メタ)アクリルアミド、特に四級化(ポリジメチルアミノエチルメタクリレート)、
-双性イオン性ポリ(ベタイン)、すなわち側鎖基がリン酸-ベタイン、スルホン酸-ベタインまたはカルボン酸-ベタイン)のようなベタイン型構造を有する両性ポリマー、
-ポリ(ビニルピロリドン)、
-ポリリシン、
-ポリ(-(C-C)アルキル)オキサゾリン)、特にポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)のようなポリオキサゾリン、
ポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマー、または
ポリオキサゾリン-ポリサルコシンブロックコポリマー
を含む。
【0126】
ポリオキサジンおよびポリオキサゾリン-ポリオキサジンコポリマーもまた考慮される。
【0127】
好ましくは、親水性(好ましくはブロックまたはグラジエント)コポリマーはポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、ポリオキサゾリン(特にポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン))またはポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマーである。
【0128】
例えば、親水性(好ましくはブロックまたはグラジエント)コポリマーは、上で定義される式A1のモノマーと式(B2):
【化13】
〔式中、
qは1~10、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2であり、
RはHまたはC-Cアルキル、好ましくはHまたはCHであり、そして
およびRはそれぞれ、独立してHおよびC-Cアルキルから選択される〕
のモノマーの重合により得られるポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)である。
【0129】
例えば、RはHまたはCHであり、qは2であり、RおよびRはともにCHである。
【0130】
親水性(好ましくはブロックまたはグラジエント)コポリマーはまた、上で定義される式A1のモノマーと式B3:
【化14】
〔式中、
Ra’、Rb’およびRc’はそれぞれ、独立してH、C-Cアルキルまたはアリール基から選択される〕
のモノマーとの重合により得られるポリオキサゾンであり得る。
【0131】
好ましくは、Rc’はC-Cアルキルまたはアリール基であり、Ra’およびRb’はそれぞれ、独立してHおよびC-Cアルキルから選択される。例えば、Ra’およびRb’はHであり、Rc’はメチルである。
【0132】
特定の実施態様において、特性付与化合物は窒素原子を介して基質表面に共有結合した抗菌剤である。
【0133】
第一の実施態様において、抗菌剤は四級化ポリ(ビニルピリジン)、四級化ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、直鎖状四級化ポリ(エチレンイミン)、ポリリシン、四級化ポリリシン、四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステルから選択されるコポリマー(好ましくはカチオン性コポリマー)であり、ここで四級化ポリマーはC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化される。四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化された四級化ポリオキサゾリン-ポリエチレンイミンコポリマーのような、一部加水分解されたポリオキサゾリンの四級形態もまた、考慮される。
【0134】
四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステルは、特にBlanquer et al. J Pol Sci Part A Pol Chem (2010), 48(24), 5891-5898 and Nottelet et al. Biomacromolecules (2012), 13, 1544-1553に記載され得る。
【0135】
第二の実施態様において、抗菌剤は式(IIa)
【化15】
〔式中、X~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級アンモニウムである。
【0136】
例えば、LはNHであり、XはHであり、rは0であり、qは3であり、R、RおよびRはそれぞれメチルであり、Bは臭素である。
【0137】
第三の実施態様において、抗菌剤は式(IIb):
【化16】
〔式中、X~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
およびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ホスホニウムである。
【0138】
第四の実施態様において、抗菌剤は式(IIc)
【化17】
〔式中、X~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容されるアニオンを表す〕
の四級ピリジニウムである。
【0139】
第五の実施態様において、抗菌剤は25個以下のアミノ酸(好ましくは20個以下のアミノ酸)の抗菌性ペプチドであり、好ましくはポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)、オーレインおよびポリミキシンBから選択され、上で定義される式(I)の残基を含む。
【0140】
好ましくは、第五の実施態様において、抗菌剤は上で定義される式(I)に含まれる1つの光活性アリールアジド部分を含むポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)から選択される。
【0141】
I.7.b.医用画像化に有用な特性付与化合物
特定の実施態様において、特性付与化合物は医用画像化に有用である。特に、特性付与化合物は近赤外蛍光化合物を含む放射線不透過性ヨード造影剤、ランタニドの(特に直鎖状またはマクロ環式ポリアミンとの)錯体または蛍光化合物である。
【0142】
本実施態様において、基質は好ましくは埋め込み型である。
【0143】
・放射線不透過性化合物
特定の実施態様において、特性付与化合物は放射線不透過性である。
【0144】
特定の実施態様において、放射線不透過性化合物は式(III):
【化18】
〔式中、
式中、X~XおよびLは上で定義されるとおりであり、そして
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化化合物であり得る。
【0145】
より具体的には、放射線不透過性化合物は式(IIIa):
【化19】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりである〕
のヨードベンジル誘導体または式(IIIb):
【化20】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりである〕
のトリヨードベンジル誘導体であり得る。
【0146】
好ましくは、X~XはHを表す。
【0147】
例えば、放射線不透過性化合物は、X~XがHを表し、Lが-NHC(O)-または-C(O)NH-を表す式(IIIb)のトリヨードベンジル誘導体である。
【0148】
別の特定の実施態様において、放射線不透過性化合物は、mが1、2、3または4を表す式
【化21】
のヨウ素化部分、例えばヨードフェニル部分
【化22】
またはトリヨードフェニル部分
【化23】
含むポリマーである。例えば、ポリマーは上で定義される式A1および式B4、例えば式4aまたは式4b:
【化24】
〔式中、
Lは上で定義されるとおりであり、特に-C(O)O-または-O(O)C-を表し、
mは1、2、3または4を表し、
Zは結合または-OC(O)-を表し、
qは0~10、好ましくは1~8の整数、より好ましくは2であり、そして
RはHまたはC-Cアルキル基、好ましくはHまたはCHである〕
のモノマーのブロックまたはグラジエントコポリマーである。
【0149】
好ましくは、LおよびZの少なくとも1つは、モノマー(B3a)および(B3b)が(メタ)アクリレートモノマーとなるように-OC(O)-を表す。
【0150】
有利には、Lは-C(O)O-を表し、Zは-OC(O)-を表す。
【0151】
好ましくは、Lは-C(O)O-を表し、qは2であり、RはHまたはCHであり、Zは-OC(O)-である。
【0152】
Notteletら(RSC Advances 2015, 5, 84125-84133)により記載されるPCLコポリマーに類似するPCLコポリマーもまた、本発明において考慮される。
【0153】
・MRI
特定の実施態様において、特性付与化合物はMRI造影剤としての役割を果たす。
【0154】
一般的に、特性付与化合物はDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミノペンタ酢酸)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、HPDO3A(10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、TRITA(1,4,7,10-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン)、TETA(1,4,8,11-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、BOPTA(4-カルボキシ-5,8,11-トリス(カルボキシメチル)-1-フェニル-2-オキサ-5,8,11-トリアザトリデカン-13-酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N44-トリ酢酸)、PCTA(3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-トリ酢酸)、DOTMA((α、α’、α’’、α’’’)-テトラメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンテトラ酢酸)またはHOPO(1-ヒドロキシピリジン-2-オン)、好ましくはDTPA、DOTA、NOTA、DO3AまたはPCTA、さらにより好ましくはDTPAまたはDOTAのガドリニウム錯体を含む。
【0155】
それは特に、式(IV):
【化25】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数、より好ましくは2であり、そして
特に上に記載のGd錯体ガドリニウムリガンドは、好ましくは遊離塩基としてのまたはガドリニウムと錯体形成したDTPA、DOTA、NOTA、DO3AまたはPCTA、さらにより好ましくはDTPAまたはDOTAである〕
のものを含み得る。
【0156】
特定の実施態様において、特性付与化合物は式(IVa)または(IVb):
【化26】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり
qは1~10、好ましくは2~8の整数、より好ましくは2であり、そして
Yは結合、-CHN(CHCHCOOH)CHCH-基または
【化27】
から選択される〕
のものである。
【0157】
式(IV)および(IVa)において、好ましくは、XはHであり、Lは-NHC(O)-または-C(O)NH-基である。
【0158】
式(IV)、(IVa)および(IVb)の化合物は、遊離塩基またはガドリニウムとの錯体として使用され得る。後者の場合において、適切な場合、それは好ましくはNaOHまたはメチルグルカミンのような薬学的に許容される塩基との塩として使用される。
【0159】
ガドリニウムとの錯体形成は、式(IV)、(IVa)および(IVb)の化合物のグラフト化前またはグラフト化後に実施される。
【0160】
それは上で定義されるモノマーA1および以下の式B5:
【化28】
〔式中、
qは1~10、好ましくは2~8の整数、より好ましくは2であり、
ZはOまたはNR’であり、
R’は水素原子またはC-Cアルキル基(好ましくは水素原子)であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基またはアリール基から選択され、そして
「Gd錯体またはリガンド」、特に上に記載のガドリニウムリガンドは、好ましくは遊離塩基としてのまたはガドリニウムと錯体形成したDOTA、NOTA、DO3AおよびPCTA、さらにより好ましくはDOTAである。後者の場合において、適切な場合、それは好ましくはNaOHまたはメチルグルカミンのような薬学的に許容される塩基との塩として使用される〕
のモノマーのブロックまたはグラジエントコポリマーであり得る。
【0161】
好ましくは、RはHまたはCHであり、qは2である。
【0162】
例えば、モノマーB5は以下の式B5a、式B5bまたは式B5c:
【化29】
〔式中、
qは1~10、好ましくは2~8の整数、より好ましくは2であり、
ZおよびZ’はそれぞれ、独立してOまたはNR’であり、ここでR’は水素原子またはC-Cアルキル基(好ましくは水素原子)であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基またはアリール基から選択され、そして
Yは結合、-CHN(CHCHCOOH)CHCH-基または
【化30】
から選択される〕
のものである。
【0163】
式(B4a)、(B4b)および(B4c)の化合物は、好ましくは遊離塩基またはガドリニウムとの錯体として使用され得る。後者の場合において、適切な場合、それらは好ましくはNaOHまたはメチルグルカミンのような薬学的に許容される塩基との塩として使用される。
【0164】
好ましくは、RはHまたはCHであり、qは2である。
【0165】
ガドリニウムとの錯体形成は、式(B5)、(B5a)、(B5b)または(B5c)の化合物のグラフト化前またはグラフト化後に実施され得る。
【0166】
あるいは、特性付与化合物はPCL、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)コポリマーのような、特に特許出願国際公開第2013084204A1号および国際公開第2011004332号に記載のマクロ分子リガンドのガドリニウム錯体を含む。
【0167】
本実施態様において、特性付与化合物は特に、例えば国際公開第2011/004332号または国際公開第2013/084204号またはNotteletらによる記事(特に、Biomacrocmolecules 2013, 14, 3626-3634; Biomacrocmolecules 2014, 15, 4351-4362; RSC Adv. 2016, 6, 5754-5760を参照)に記載されるようなプロパルギル残基を含み、上で定義される式(I)のアリールアジド部分をさらに含むコポリマーであり得る。
【0168】
例えば、このようなコポリマーは、上で定義される式A1のモノマーと非環式モノマー、例えばプロパルギル(メタ)アクリレートまたはC-Cアルキル(メタ)アクリレートとプロパルギル(メタ)アクリレートの混合物の重合により得られる。その後プロパルギル残基をヒュスゲン反応によりアジド基を含むガドリニウム錯体またはリガンドと反応させるか、またはチオール-イン反応によりチオール基を含むガドリニウム錯体またはリガンドと反応させ、MRIにおいて可視的なコポリマーを得る。
【0169】
ガドリニウムとの錯体形成は、コポリマーのグラフト化前またはグラフト化後に実施され得る。
【0170】
・蛍光およびIR画像
特定の実施態様において、特性付与化合物は蛍光または近赤外画像のための造影剤として有用である。
【0171】
第一の実施態様において、特性付与化合物は式(Va):
【化31】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
、R、RおよびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は水素原子、COOHまたはC(O)OC-Cアルキル基から選択される〕
のローダミン誘導体である。
【0172】
この第一の実施態様において、好ましくは、Lは-NHC(S)NH-であり、XはHである。有利には、RはCOOHである。好ましくは、R、R、RおよびRはそれぞれ、エチル(CHCH)である。
【0173】
一般的に、本実施態様において、化合物(Va)はBとの塩であり、ここでBは薬学的に許容されるアニオン、例えばハロゲンアニオン、一般的にClまたはBr、好ましくはClである。
【0174】
第二の実施態様において、特性付与化合物は、式(Vb):
【化32】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
p’は0または1であり、
q’は0または1であり、
p’が0ならば、RはHであり、
q’が0ならば、RはHであり、
p’が1でありq’が1ならば、RおよびRは双方ともHであるか、一体となって-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
は、好ましくは末端炭素原子上で場合によりSO またはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基であり、
は好ましくは末端炭素原子上で場合によりSONaまたはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基である〕
のシアニン誘導体である。
【0175】
好ましくは、本実施態様において、一体となって、RとRは-CHCHCH-架橋基、およびRとRは-CHCHCH-架橋基を形成する。そうであるならば、Rは有利には、末端炭素上でSO 基で置換されたC-アルキル基(すなわち、-(CH)-SO 基)であり、Rは有利には、末端炭素上でSONa基で置換されたC-アルキル基(すなわち、-(CH)-SONa基)である。本実施態様において、RおよびRは、好ましくは双方ともHであり、p’およびq’は好ましくは双方とも1である。
【0176】
一般的に、本実施態様において、化合物(Vb)はBとの塩であり、ここでBは薬学的に許容されるアニオン、例えばハロゲンアニオン、一般的にClまたはBr、好ましくはClである。
【0177】
第三の実施態様において、特性付与化合物は式(Vc):
【化33】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
R’はHまたは-CHCHCOOHまたは-CH=CHCOOH基を表す〕
のフルオレセイン誘導体である。
【0178】
好ましくは、本実施態様において、Lは-NHC(S)NH-であり、XはHである。有利には、R’はHである。
【0179】
蛍光画像化について、好ましくは上で定義される式(Va)のローダミン誘導体が使用される。
【0180】
近赤外画像について、好ましくは上で定義される式(Vc)のフルオレセイン誘導体または式(Vb)のシアニン誘導体が使用される。
【0181】
I.8.その他
本発明の方法は上に記載された特定のおよび好ましい実施態様の全ての組合せを含む。
【0182】
II.式(I)のアリールアジド部分を含む中間体
本発明はさらに、上で定義される式(I)のアリールアジド部分を含む中間体に関する。
【0183】
特に、本発明は上で定義される式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(III)、(IIIa)、(IIIb)、(IV)、(IVa)、(IVb)、(Va)、(Vb)および式(Vc)の化合物に関する。
【0184】
特に、本発明は遊離塩基としてのまたはガドリニウム錯体としての式(IV)、(IVa)および(IVb)の化合物に関する。
【0185】
本発明はさらに、上で定義される式A2のモノマーに関する。
【0186】
III.表面修飾ポリマー基質
本発明は表面修飾ポリマー基質、特に、式(VI):
【化34】
〔式中、
、X、XおよびXは独立して、水素またはフッ素原子、C-Cアルキル基、NOまたはOHを表し、
LはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、-C(O)NRC(O)-(ここで、RはC-Cアルキルまたはトリアゾリルを表す)、好ましくはNH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、または-NHC(S)NH-、さらにより好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-を表す〕
のアリールアミノ部分の窒素原子を介して特性付与化合物でグラフト化された埋め込み型ポリマー基質に関し、前記特性付与化合物は防汚特性、抗菌特性を提供する、またはMRI蛍光画像のような医用画像化において基質を放射線不透過性にするまたは可視化するまたは近赤外画像化により可視化する。ただし、前記特性付与化合物がポリマーであるとき、それは繰り返し単位Aに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、ここで前記繰り返し単位Aは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する、上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0187】
好ましくは、Lはアジド基(N)のパラ位に存在する。従って、好ましくは、光活性アリールアジド部分は式(VI’):
【化35】
〔式中、
LおよびX~Xは上および下で定義されるとおりである〕
のものである。
【0188】
ある実施態様において、X~Xの1つはOHまたはNOであり、他は独立して、HおよびC-Cアルキル基から選択される。好ましくは、本実施態様において、X~Xの1つはOHまたはNOであり、他はHである。
【0189】
別の実施態様において、X~Xはハロゲン原子である。好ましくは、本実施態様において、X~Xフッ素原子である。
【0190】
別の実施態様において、X~XはHである。有利には、本実施態様において、Lは有利には、NH、-C(O)O-、-S-、-C(O)NH-、-NHC(O)-、-OC(O)-、-NHC(O)NH-、または-NHC(S)NH-、好ましくは-C(O)NH-、-NHC(O)-、-C(O)O-、NHまたは-NHC(S)NH-である。
【0191】
本発明の表面修飾ポリマー基質は特に、埋め込み型である。このような場合、それは一般的に、生体適合性である。
【0192】
III.1.基質
一般的に、ポリマー(埋め込み型)基質は本発明に関連して上で定義される。
【0193】
III.2.ポリマー性特性付与化合物
本発明の基質の特性付与化合物は、上の式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0194】
特性付与化合物はポリマーまたは小分子であり得る。
【0195】
特定の実施態様において、特性付与化合物はポリマーである。本実施態様において、ポリマーは繰り返し単位Cを含むコポリマーであり、前記繰り返し単位Cは上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0196】
コポリマーは繰り返し単位Cに富むブロックまたは領域を有するブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Cは上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0197】
本実施態様において、ブロックまたはグラジエントコポリマーは少なくとも繰り返し単位CおよびDを含み、ここで:
-繰り返し単位Cは上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含み、そして
-繰り返し単位Dは上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含まない。
【0198】
繰り返し単位CおよびDは適合性である、すなわち、それらは好ましくは同一の条件下で重合できる重合可能な基を含むモノマーに由来すると理解される。有利には、繰り返し単位CおよびDは同一の重合可能な基を含むモノマーに由来する。
【0199】
例えば、Dはビニルモノマーに由来し、Cは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むビニルモノマーに由来する。同様に、Dがオキサゾリンモノマーに由来するとき、Cは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むオキサゾリンモノマーに由来する。Dがサルコシンモノマーに由来するとき、Cは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含むサルコシンモノマーに由来する。Dは(メタ)アクリレートモノマーに由来するとき、Cは好ましくは、上で定義される式(I)のアリールアミノ部分を含む(メタ)アクリレートモノマーに由来する。
【0200】
特に、モノマーCは上で定義される式A1のモノマーに由来し得る。
【0201】
別の特定の実施態様において、モノマーCは上で定義される式A2のものであり得る。有利には、繰り返し単位Cと繰り返し単位Dのモル比(繰り返し単位C/繰り返し単位D)は、0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは5%~10%である。
【0202】
III.2.特性付与化合物としての防汚剤および抗菌剤
特定の実施態様において、特性付与化合物は防汚または抗菌特性を提供する。
【0203】
特性付与化合物が防汚剤である場合、それは繰り返し単位Cに富むブロックまたは領域を有する親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり得て、前記繰り返し単位Cは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する上で定義される式(VI)のアリールアミノ部分を含む。
【0204】
特性付与化合物が抗菌剤である場合、それは繰り返し単位Cに富むブロックまたは領域を有するカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーであり、前記繰り返し単位Cは表面修飾基質の表面に共有結合した窒素原子を有する上で定義される式(VI)の光活性アリールアミノ部分を含む。
【0205】
特に、親水性またはカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーは少なくとも繰り返し単位CおよびDを含み、ここで繰り返し単位Cは上で定義される式(VI)の光活性アリールアジド部分を含み、繰り返し単位Dは上で定義される式(VI)の光活性アリールアジド部分を含まない。好ましくは、繰り返し単位Cと繰り返し単位Dのモル比(繰り返し単位C/繰り返し単位D)は、0.01%~50%、好ましくは0.1%~20%、さらにより好ましくは5%~10%である。
【0206】
一般的に、上で定義される式(VI)の光活性アリールアジド部分を含む繰り返し単位Cを含む親水性もしくはカチオン性ブロックまたはグラジエントコポリマーは、
-ポリ(エチレングリコール)、
-ポリ(エチレンオキシド)、
-ポリ((メタ)アクリレートPEG)、
-ポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、
-四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化されている、20000g.mol-1未満、特に1000g/mol-1~20000g.mol-1の分子量を有する直鎖状ポリ(四級アンモニウム)、特に四級化ポリ(N-(C-C)アルキル)(メタ)アクリルアミド)または四級化ポリ(N-(ヒドロキシル(C-C)アルキル)(メタ)アクリルアミド、特に四級化(ポリジメチルアミノエチルメタクリレート)、
-双性イオン性ポリ(ベタイン)、すなわち側鎖基がリン酸-ベタイン、スルホン酸-ベタインまたはカルボン酸-ベタイン)のようなベタイン型構造を有する両性ポリマー、
-ポリ(ビニルピロリドン)、
-ポリリシン、
-ポリ(-(C-C)アルキル)オキサゾリン)、特にポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)のようなポリオキサゾリン、
ポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマー、または
ポリオキサゾリン-ポリサルコシンブロックコポリマー
を含む。
【0207】
ポリオキサジンおよびポリオキサゾリン-ポリオキサジンコポリマーもまた考慮される。
【0208】
好ましくは、親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーは、ポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)、ポリオキサゾリン(特にポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン))またはポリサルコシンブロックまたはグラジエントコポリマーである。
【0209】
例えば、親水性(好ましくはブロックまたはグラジエント)コポリマーは、上で定義される式A1のモノマーと上で定義される式(B1)のモノマーの重合により得られるポリ((C-C)アルキルアミノ(メタ)アクリレート)である。
【0210】
親水性ブロックまたはグラジエントコポリマーはまた、上で定義される式A2のモノマーと上で定義される式B2のモノマーの重合により得られるポリオキサゾリンである。
【0211】
特定の実施態様において、特性付与化合物は窒素原子を介して基質表面に共有結合した抗菌剤である。
【0212】
第一の実施態様において、抗菌剤は四級化ポリ(ビニルピリジン)、四級化ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレート)、直鎖状四級化ポリ(エチレンイミン)、ポリリシン、四級化ポリリシン、四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステルから選択されるコポリマー(好ましくはカチオン性コポリマー)であり、ここで四級化ポリマーはC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化される。四級化ポリマーがC-C15アルキル、好ましくはC-C10アルキル、より好ましくはC-Cアルキルで四級化された四級化ポリオキサゾリン-ポリエチレンイミンコポリマーのような、一部加水分解されたポリオキサゾリンの四級形態もまた、考慮される。
【0213】
四級化ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)のコポリエステルは、特にBlanquer et al. J Pol Sci Part A Pol Chem (2010), 48(24), 5891-5898およびNottelet et al. Biomacromolecules (2012), 13, 1544-1553に記載され得る。
【0214】
第二の実施態様、抗菌剤は式(VIIa):
【化36】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
、Rはそれぞれ独立して、水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して、水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容される塩基を表す〕
の四級アンモニウムである。
【0215】
例えば、LはNHであり、XはHであり、rは0であり、qは3であり、R、RおよびRはそれぞれメチルであり、Bは臭素である。
【0216】
第三の実施態様において、抗菌剤は式(VIIb):
【化37】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
、Rはそれぞれ独立して、水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、
は独立して、水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容される塩基を表す〕
のホスホニウムである。
【0217】
第四の実施態様において、抗菌剤は式(VIIc)
【化38】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数であり、
rは0~3000、好ましくは0~500の整数であり、
Rは水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は薬学的に許容される塩基を表す〕
のピリジニウム塩である。
【0218】
第五の実施態様において、抗菌剤は25個以下のアミノ酸(好ましくは20個以下のアミノ酸)の抗菌性ペプチドであり、好ましくはポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)、オーレインおよびポリミキシンBから選択され、上で定義される式(VI)の残基を含む。
【0219】
好ましくは、この第五の実施態様において、抗菌剤は上で定義される式(VI)の1つの光活性アリールアジド残基部分を含むポリアルギニン(例えばオクタアルギニンArg8)から選択される。
【0220】
III.2.b.医用画像化に有用な特性付与化合物
特定の実施態様において、特性付与化合物は医用画像化に有用である。特に、特性付与化合物は放射線不透過性ヨード造影剤、ランタニドの(特に直鎖状またはマクロ環式ポリアミンとの)錯体または近赤外蛍光化合物を含む蛍光化合物である。
【0221】
・放射線不透過性化合物
特定の実施態様において、特性付与化合物は放射線不透過性である。
【0222】
特定の実施態様において、放射線不透過性化合物は式(VIII):
【化39】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、そして
mは1、2、3または4を表す〕
のヨウ素化化合物であり得る。
【0223】
より具体的には、放射線不透過性化合物は式(VIIIa):
【化40】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりである〕
のヨードベンジル誘導体または式(VIIIb):
【化41】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりである〕
のトリヨードベンジル誘導体であり得る。
【0224】
好ましくは、X~XはHを表す。
【0225】
例えば、放射線不透過性化合物は、X~XがHを表し、Lが-NHC(O)-または-C(O)NH-を表す式(VIIIb)のトリヨードベンジル誘導体である。
【0226】
別の特定の実施態様において、放射線不透過性化合物は、mが1、2、3または4を表す式
【化42】
のヨウ素化部分、例えばヨードフェニル部分
【化43】
またはトリヨードフェニル部分
【化44】
を含むポリマーである。例えば、ポリマーは上で定義される式A1および上で定義される式B4、例えば式4aまたは4bのモノマーのブロックまたはグラジエントコポリマーである。
【0227】
・MRI
特定の実施態様において、特性付与化合物はMRI造影剤としての役割を果たす。
【0228】
一般的に、特性付与化合物はDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミノペンタ酢酸)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、HPDO3A(10-(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸)、TRITA(1,4,7,10-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン)、TETA(1,4,8,11-テトラキス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、BOPTA(4-カルボキシ-5,8,11-トリス(カルボキシメチル)-1-フェニル-2-オキサ-5,8,11-トリアザトリデカン-13-酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N44-トリ酢酸)、PCTA(3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-トリ酢酸)、DOTMA((α、α’、α’’、α’’’)-テトラメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピンテトラ酢酸)またはHOPO(1-ヒドロキシピリジン-2-オン)、好ましくはDTPA、DOTA、NOTA、DO3AまたはPCTA、さらにより好ましくはDTPAまたはDOTAのガドリニウム錯体を含む。
【0229】
それは特に、式(IX):
【化45】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは0~10、好ましくは1~8の整数、より好ましくは2であり、そして
特に上に記載のGd錯体は、好ましくはDTPA、DOTA、NOTA、DO3AまたはPCTA、さらにより好ましくはDTPAまたはDOTAとのガドリニウム錯体である〕
のものであり得る。
【0230】
特定の実施態様において、特性付与化合物は式(IXa)または(IXb):
【化46】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
qは1~10、好ましくは2~8の整数、より好ましくは2であり、そして
Yは結合、-CHN(CHCHCOOH)CHCH-基、または
【化47】
から選択される〕
のものである。
【0231】
式(IX)および(IXa)において、好ましくは、XはHであり、Lは-NHC(O)-または-C(O)NH-基である。
【0232】
適切な場合、式(IX)、(IXa)または(IXb)の化合物は、好ましくはNaOHまたはメチルグルカミンのような薬学的に許容される塩基との塩として使用される。
【0233】
それは上で定義されるモノマーA1および上で定義されるモノマー(B5)、(B5a)、(B5b)および(B5c)のブロックまたはグラジエントコポリマーであり得て、ここで特に上に記載の「Gd錯体またはGdリガンド」は、好ましくはDTPA、DOTA、NOTA、DO3AまたはPCTA、さらにより好ましくはDTPAまたはDOTAとのガドリニウム錯体である。適切な場合、それは好ましくはNaOHまたはメチルグルカミンのような薬学的に許容される塩基との塩として使用される。
【0234】
あるいは、特性付与化合物はPCL、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(5-アミノ-δ-バレロラクトン)コポリマーのような、特に特許出願国際公開第2013084204A1号および国際公開第2011004332号に記載のマクロ分子リガンドのガドリニウム錯体を含む。
【0235】
本実施態様において、特性付与化合物は特に、例えば国際公開第2011/004332号または国際公開第2013/084204号に記載されるようなプロパルギル残基を含み、上で定義される式(I)のアリールアジド部分をさらに含むコポリマーであり得る。
【0236】
・蛍光およびIR画像
特定の実施態様において、特性付与化合物は蛍光または近赤外画像化のための造影剤として有用である。
【0237】
第一の実施態様において、特性付与化合物は式(Xa):
【化48】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
、R、RおよびRはそれぞれ、独立して水素原子またはC-Cアルキル基から選択され、そして
は水素原子、COOHまたはC(O)OC-Cアルキル基から選択される〕
のローダミン誘導体である。
【0238】
この第一の実施態様において、好ましくは、Lは-NHC(S)NH-であり、XはHである。有利には、RはCOOHである。好ましくは、R、R、RおよびRはそれぞれ、エチル(CHCH)である。
【0239】
一般的に、本実施態様において、化合物(Xa)はBとの塩であり、ここでBは薬学的に許容されるアニオン、例えばハロゲンアニオン、一般的にClまたはBr、好ましくはClである。
【0240】
第二の実施態様において、特性付与化合物は、式(Xb):
【化49】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
p’は0または1であり、
q’は0または1であり、
p’が0ならば、RはHであり、
q’が0ならば、RはHであり、
p’が1でありq’が1ならば、RおよびRは双方ともHであるか、一体となって-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、
はHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
はHおよびSONaから選択され、RはHであるか、一体となって、RとRは-CHCHCH-または-CHCHCH-架橋基を形成し、
は、好ましくは末端炭素原子上で場合によりSO またはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基であり、
好ましくは末端炭素原子上で場合によりSONaまたはCOOH基で置換されていてよい(C-C)アルキル基である〕
のシアニン誘導体である。
【0241】
好ましくは、本実施態様において、一体となって、RとRは-CHCHCH-架橋基、およびRとRは-CHCHCH-架橋基を形成する。そうであるならば、Rは有利には、末端炭素上でSO 基で置換されたC-アルキル基(すなわち、-(CH)-SO 基)であり、Rは有利には、末端炭素上でSONa基で置換されたC-アルキル基(すなわち、-(CH)-SONa基)である。本実施態様において、RおよびRは、好ましくは双方ともHであり、p’およびq’は好ましくは双方とも1である。
【0242】
一般的に、本実施態様において、化合物(Xb)はBとの塩であり、ここでBは薬学的に許容されるアニオン、例えばハロゲンアニオン、一般的にClまたはBr、好ましくはClである。
【0243】
第三の実施態様において、特性付与化合物は式(Xc):
【化50】
〔式中、
~XおよびLは上で定義されるとおりであり、
R’はH、または-CHCHCOOHまたは-CH=CHCOOH基を表す〕
のフルオレセイン誘導体である。
【0244】
好ましくは、本実施態様において、Lは-NHC(S)NH-であり、XはHである。有利には、R’はHである。
【0245】
蛍光画像化のために、好ましくは上で定義される式(Xa)のローダミン誘導体が使用される。
【0246】
近赤外画像化のために、好ましくは上で定義される式(Xc)のフルオレセイン誘導体または式(Xb)のシアニン誘導体が使用される。
【0247】
III.3.本発明の方法により得られるグラフト化基質
本発明の表面修飾ポリマー(埋め込み型)基質は、本発明の方法により得ることができる。
【0248】
III.4.その他
本発明は、本発明の基質に関して記載される特定のおよび好ましい実施態様を包含する。
【0249】
IV.医療デバイス
本発明はさらに、本発明の表面修飾された埋め込み型基質を含む医療デバイスに関する。
【0250】
特に、本発明の医療デバイスはインプラント(特に、軟組織についての埋め込み型維持デバイス)、カテーテル、埋め込み型メッシュ(特に、外科用メッシュ)、埋め込み型膜、ステント、ドレーン、血管移植片、埋め込み型ガイドおよび埋め込み型組織(例えば、靱帯補綴)として適切である。
【0251】
本発明の医療デバイスは、特にそれらが医用画像化における放射線不透過性化合物または可視的な化合物を含む表面修飾基質を含むとき、特に興味深い。実際、軟組織用の埋め込み型支持装置の場合、これまで不可能であった非侵襲性医用画像化技術のおかげで、医療装置の生体組込みおよび安定性を追うことが可能である。実際、埋め込み型支持デバイスは、いくつかの場合においてエコー検査によってさえも目に見えない。
【0252】
さらに、参照番号を医療機器に含めることが可能であり、これは非侵襲的な医用画像化技術により判読可能であり、それ故に、必要ならば、(CE番号、バッチ番号などを通じて)容易に識別できる。
【0253】
さらに、ガドリニウム錯体でグラフト化した表面修飾基質を含む本発明の医療デバイスは、デバイスの良好なコントラストが付いた画像を得るための通常の造影剤注入より、必要とするガドリニウムが10000以上少ないことは注目に値する。
【0254】
V.本発明の表面修飾ポリマー基質の非医療的使用
本発明はさらに、本発明の表面修飾ポリマー基質の非治療的、またはより一般的には非医療的使用に関する。
【0255】
特に、防汚および/または抗菌化合物を有するグラフト化基質は、多様な技術分野で適用される。例えば、このような基質は、特に、乗用車(オートバイ、トラック、すなわち自動車産業におけるものを含む)、電車、船のような乗り物のための、ミスト防止または防曇特性を有する材料の製造に有用である。それらは建設産業または織物産業においてもまた有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0256】
図1】クリップケミストリーを用いた本発明のグラフト化法を示すスキーム。アリールアジドおよびアリール-アミノ部分に付された星印は、グラフト化前または後の本発明の特性付与化合物を表す。
図2】AおよびB:UV照射後のGd-DTPA-biN3の多様なポリマー表面への結合の可能な方法。C:Gd-DTPA-biN3でUV処理した後のPPメッシュのMRIによる視認性。
図3】A:多様なポリマー表面へのGd-DOTA-N3結合のスキーム。B:官能基化に使用される典型的なPP-メッシュ。C:Gd-DTPA-biN3でUV処理した後のPPメッシュの検出。D:ラットにおけるインビボの官能基化Gd-DOTA-N3の視認性。F:ラットにおける未処理および処理PPメッシュ処置の位置。G:ラットにおけるPPメッシュを埋め込んだ側の画像。
図4】A:UV照射後のポリマー表面に結合したクリップ修飾ローダミンBのスキーム。BおよびC:クリップ修飾ローダミンBで処理したPLA(B)および未処理PLA(C)の蛍光画像。D:光学顕微鏡で視認されたPLA表面。
図5】A:クリップ修飾ポリサルコシンスペーサーによる多様なポリマー表面へ結合したGd-DTPAのスキーム。B:ポリサルコシンから開始し、ω-Gd-DTPAで終了する修飾された4-アジドアニリンのPLCホイルのMRIによる視認性。
図6】左:クリップ部分によりポリマー表面に共有結合したポリサルコシンのスキーム。右:未処理(対照)のおよびポリサルコシン修飾したPLAおよびPP表面の防汚性。
図7】A:クリップを含むポリ(2-オキサゾリン)を用いてUV官能基化した後の、PPおよびPLA上のバイオフィルム形成の減少。B:ポリ(2-オキサゾリン)処理後のPLA表面の接触角の減少。C:ポリマー基質上への(2-メチル-2-オキサゾリン)-b-ポリ(2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン)ブロックコポリマーの結合の代表的なスキーム。
図8】上:クリップを含むポリ(2-オキサゾリン)コポリマースペーサーにより多様なポリマー表面に結合したローダミンBのスキーム。下:HO中100℃で15時間処理前および処理後のポリ(2-オキサゾリン)コポリマーで修飾した多様なポリマー表面の蛍光画像。
図9】A:基質修飾フィルムの代表的なスキーム。B:DTPAアリール-アミド部分でグラフト化した多様なポリエステル基質(左から右へ:PCL、PLAおよびPLGA)のMRI画像(7T、反転させたスピンエコーシーケンス、T1=1300ミリ秒)。C:t=0の時点およびPBS媒体(pH=7.4)中37℃で2か月インキュベート後の、DTPAアリールアミド部分でグラフト化した多様なポリエステル基質のMRI画像(7T、反転させたスピンエコーシーケンス、T1=1300ミリ秒)。
図10】A:基質修飾フィルムの代表的なスキーム。B:直接接触による細胞毒性アッセイ(左)およびL929マウス線維芽細胞(n=5)についての細胞増殖アッセイ(右)による、DOTAアリールアミド部分でグラフト化した基質の生体適合性評価。C:DOTAアリール-アミド部分でグラフト化した基質の炎症性応答の組織学的評価。埋入したラット(n=4)における筋肉、筋肉組織、脂肪組織、メッシュ、炎症、線維症を有する組織学的切片(HES、x5)(上段)および炎症の等級付け(下段)。
図11】未処理のおよびPOx修飾されたポリマー表面のXPS全スペクトル。PPPサンプルについてピーク評価を例示的に示す。POx修飾表面のスペクトルはより良好な視認性のためにy軸に沿って30x10カウント/秒毎にオフセットされる。
図12】未処理の(すなわち、修飾していない)PS(上段)および(A)ランダムコポリマーおよび(B)グラジエントコポリマーを用いてPox処理した(すなわち、実施例6に記載のポリマーで修飾した)PS(下段)についてのクリスタルバイオレットで染色したスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)のバイオフィルム形成。
【実施例
【0257】
本発明は以下の実施例により説明され、これらは決して本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【0258】
1.Gd-ジエチレントリアミンペンタ酢酸(Gd-DTPA-biN )錯体で修飾された4-アジドアニリンを用いた官能基化
クリップ合成:アルゴン雰囲気下、2.2当量の4-アジドアニリン塩酸塩を無水DMFおよび2.2当量のTEAに溶解した。1当量のジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物を透明な溶液に添加し、反応混合物を50℃で2時間加熱し、暗所およびアルゴン雰囲気下で、室温で一晩撹拌した。溶媒を高真空下で除去し、残渣をMeOH/EtOH中で懸濁し、冷ジエチルエーテル/クロロホルム(50/50;v/v)で沈殿させた。さらに2回繰り返し沈殿させ、HOに溶解し、凍結乾燥させ、黄色粉末としてDTPA-biNを得た。
【0259】
1当量のDTPA-biNおよび10当量のピリジンをHOに溶解し、40℃で30分間振盪した。2当量のGdCl・6HOを添加し、反応混合物を40℃で一晩撹拌した。沈殿した生成物をHOに溶解し、遊離のGdを除去するためにChelex 100で処理した。MTBテストによりさらなる遊離のGdが検出されなくなるまで、処理を繰り返した。
【化51】
【0260】
表面官能基化:
清浄なポリマー(例えばPLA、PLA-Pluronic-PLA、PLGA,PCL、PP)表面(フィルム、メッシュ、圧縮ペレット)を脱気したメタノール中、1~5g/Lのクリップで被覆し、254nmで5~30分照射した。その後、表面をHOおよびEtOHで濯いだ。
【0261】
MRI画像
材料。Bruker 7T BIOSPEC 70/20、「ミニイメージング」配置(グラジエント BGA12 675mt/m、共鳴器「バードケージ」35mm)。一連のマーカーグラジエントエコーシーケンス後、1300ミリ秒の反転時間を有するスピン3Dエコーシーケンスを得た(FOV 3*3*1cm マトリックス 128*128*48、TR=3000ミリ秒、TE=8ミリ秒(TEeff=16)、RF=8、0:51の収集時間)。
【0262】
TR/TE 110/3ミリ秒および75°、30°および15°の角度を有するMGE3Dシーケンスを得た。
【0263】
ポリマー基質へのナイトレンの結合についての仮説を図2および9Aに示し、MRI測定による視認性(図2Cおよび9B)を示す。
【0264】
上に記載されるDTPA-N3で表面がグラフト化されたPCL、PLAおよびPLGAフィルム(基質)のMRI画像を図9Bに示す。これらの画像は反転(7T、T1=1300ミリ秒)を有するスピンエコーシーケンスに表面修飾基質を供した後に得られた。
【0265】
食塩水リン酸緩衝液(pH 7.4、37℃)中2か月後PP修飾メッシュについてのMRI視認性の安定性を図9Cに示す。糸のような形状を有する表面修飾基質もまた安定性について試験することに成功した:37℃でPBS媒体(pH=7.4)中2か月後に得られた画像は画像劣化を一切示さなかった(図9Cを参照)。
【0266】
2.Gd-2-(4,7,10-トリ酢酸)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタン二酸で修飾された4-アジドアニリン、(Gd-DOTA-N )錯体を用いた官能基化
クリップ合成:真空シュレンクフラスコで、1当量の4-アジドアニリン塩酸塩を無水DMFに溶解した。1.2当量のTEAおよび1.2当量のDOTA-GA無水物(2,2’,2’’-(10-(2,6-ジオキソテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリ酢酸)を添加した。反応混合物を45℃で3時間撹拌し、一晩撹拌を継続した。溶媒を高真空および温和な加熱下で除去した。残渣をMeOH/CHCl(2/1;v/v)に溶解し、ジエチルエーテル中で沈殿させた。続いて沈殿を遠心分離し、乾燥させ、HOに溶解し、凍結乾燥させ、黄褐色粉末としてDOTA-Nを得た。
【0267】
1当量のDOTA-Nおよび10当量のピリジン(またはNaOH)をHO(pH約6.5)に溶解した。2当量のGdCl・6HOを添加し、反応混合物を40~60℃で2~15時間撹拌した。溶液をさらなるHOで希釈し、遊離のGdを除去するためにChelex 100で処理した。MTBテストによりさらなる遊離のGdが検出されなくなるまで、処理を繰り返した。
【化52】
【0268】
表面官能基化:
室温から80℃に加熱した清浄なポリマー(例えばPLA、PLA-Pluronic-PLA、PLGA、PCL、PP、PEEK、PU)表面(フィルム、メッシュ、ペレット)を脱気したメタノール中の1~20g/Lのクリップで被覆し(例えば、噴霧により)、空気乾燥させ、254nmで5~10分照射した。その後、表面をHOおよびEtOHで濯いだ。表面被覆率を増加させるために、照射を場合により最大5回繰り返した。超音波槽で20分間、HO中で最後に精製した。
【0269】
ラットへの埋入および画像化
対照(未処理)および表面修飾外科用メッシュ(1cmx2cm)を70%エタノールを用いて消毒し、UV照射により滅菌する。
【0270】
4匹の雌性ラットに1つの対照および1つの外科用メッシュを埋入する(ラット1匹あたり2つのメッシュ)。補綴を背筋部位に埋入する。対照を左部位に埋入し、表面修飾メッシュはを右部位に埋入する。
【0271】
その後、9Tでスピンエコーおよびグラジエントエコーシーケンスを用いて埋入したラットのMRI測定を実施し、30~40分データを収集した。実験はモンペリエ大学のBioNanoNMRI小動物MRIプラットフォームで実施した。
【0272】
このようにして得た表面修飾基質の構造を示すスキームを図3(A)に示す。図3はまた、表面が上記(B)で修飾された外科用メッシュおよびMRIにおけるその視認性を示す(B)。本発明の表面修飾メッシュをマウスに埋入し(G)、埋入された本発明の外科用メッシュのインビボでのMRIにおける視認性を示す(D、F)。
【0273】
修飾基質の生体適合性(MRI)
a)直接接触法による細胞毒性アッセイ
24ウェルプレートに、1ウェルあたり1,7.10細胞のL929細胞(Sigma-Aldrich)を播種し、適切な雰囲気下で一晩付着させた。ウェル表面の約1/10を覆うために、ガドリニウム錯体を含むおよび含まないポリマーPLAおよびPPを切り取った(ISO10993-5に記載のとおり)。汚染除去を実現した:第一工程で70%のエタノールで洗浄し、続いて10%PBS-ペニシリン/ストレプトマイシンで3回洗浄し、その後PBSのみで洗浄した。
【0274】
細胞増殖培地を入れ替え、汚染除去したポリマーフィルムを上に置いた。37℃、5% COで48時間インキュベート後、ポリマーを除去し、製造者の指示に従ってPrestoblue(登録商標)細胞生存率アッセイ(Invitrogen、A13261)を用いて細胞生存率を評価した。簡潔に言うと、10%のPrestoblue(登録商標)を増殖培地に添加し、45分間のインキュベート後に590nmでの蛍光を測定した。ポリマーフィルムを添加していないウェルを対照(n=4)として使用する。
【0275】
b)細胞増殖アッセイ
24ウェルプレートの表面を覆うために、ガドリニウム錯体を含むおよび含まないポリマーPLAおよびPPを切った(1.9cm)。ポリマーディスクを70%のエタノールに浸した紙で拭い、その後10%PBS-ペニシリン/ストレプトマイシンで3回濯ぎ、その後PBSのみで濯いだ。
【0276】
未処理の24ウェルプレートに、1ウェルあたり2.10細胞のL929細胞(Sigma-Aldrich)を、リングにより支持されるポリマー上(中心)に播種し、細胞を付着させるために適切な雰囲気下で約2時間インキュベートした。付着していない細胞をPBSで洗浄後、新しい増殖培地を添加した。製造者の指示に従って、24時間、48時間および120時間でのPrestoblue(登録商標)細胞生存率アッセイ(Invitrogen、A13261)を用いて細胞生存率を評価した。ポリマーフィルムを添加していないウェルを対照(n=5)として使用する。
【0277】
図10Bに要約した上のインビトロ生体適合性試験の結果は、本発明の方法が非毒性の材料をもたらすことを示す。
【0278】
炎症性応答の組織学的評価
メッシュを4匹のラットの背筋組織に埋入した。各ラットに、修飾(ガドリニウム錯体)メッシュを埋入し、他方の側に非修飾メッシュを埋入した。インプラント検体を埋入から1か月後に回収し、10% ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、薄切りし、ヘマトキシリン・エオジン染色法HES(RHEMプラットフォーム、Montpellier)で染色した。RHEM技術施設の専門の病理学者により、病変強度(i)および拡散(d)がグレード化された。病変強度を炎症性領域の存在に応じて、i0(病変なし)~i4(重度)までグレード化した。病変拡散をd0(病変なし)~d2(末梢分布)までグレード化した。1匹の対照ラット(メッシュ埋入なし)と結果を比較した。
【0279】
図10Cに要約したこのインビトロ生体適合性試験の結果は、修飾メッシュ(黒色四角で示す結果)について観察される炎症は、材料の表面修飾によるものではなく、外科手術によるものであることを示す:炎症性応答の強度ならびにその拡散は、非修飾(すなわち、そのままの)メッシュ(点で描いた四角により表される結果を参照)で観察されるもの以下であった。
【0280】
3.4-アジドアニリン修飾ローダミンBを用いた官能基化
クリップ合成:1.2当量のローダミンBイソチオシアネートを無水DMFに溶解した。2当量のDIPEAおよび1当量の4-アジドアニリン塩酸塩を添加し、反応混合物を40℃で少なくとも3日間撹拌した。粗生成物をSephadex LH20 カラム(溶離剤としてMeOH)により精製した。
【化53】
【0281】
表面官能基化:清浄なポリマー(例えばPLA、PP)表面(例えばフィルム、圧縮ペレット)を脱気したメタノール中、1~20g/Lのクリップで被覆し、254nmで1~20分照射した。その後、表面をHOおよびEtOHで濯いだ。
【0282】
蛍光測定
材料.ライカ製蛍光顕微鏡、20x拡大、緑色励起波長(555nm)。
【0283】
このようにして得られた表面修飾PLA基質の構造を示すスキームを図4(A)に示す。図4はまた、蛍光表面修飾PLA基質蛍光画像および光学顕微鏡画像を示す。
【0284】
4.4-アジドアニリンで開始され、ω-Gd-DTPAで停止されるポリサルコシンでの官能基化
クリップ合成:
サルコシン-N-カルボキシ無水物。初めに、1当量のサルコシンを新たに粉砕し、高真空下で1.5時間乾燥させた。その後その粉末を無水THFに溶解し、1.3当量のリモネン、2当量のジホスゲンをアルゴンの定流下でゆっくりと添加した。反応混合物を65℃で2時間加熱した。室温まで冷却した後、反応混合物をさらに3時間、アルゴンを用いて、20% NaOH水溶液を満たした2つの気体洗浄ボトルへ流し入れた。次に、黄色固体が残るまで真空下で溶媒を除去し、固体を乾燥THFに溶解した。20mLの石油エーテルを添加後、氷浴で冷却しながら懸濁液を30分間激しく撹拌した。沈殿を4時間、冷却下で析出させた。アルゴン雰囲気下、透明な上清をシリンジを用いて注意深く除去した。石油エーテルを用いてこの操作をもう一度繰り返し、冷凍庫(-20℃)で一晩沈殿を形成させた。高真空下で固体を乾燥させた後、生成物をアルゴン雰囲気下で昇華させ(95℃、<10-2ミリバール)、サルコシン-NCAの白色粉末を得た。
【化54】
【0285】
4-アジドアニリンで開始されるポリサルコシン。4-アジド-アニリン塩酸塩、TEAおよび乾燥ベンゾニトリルを用いて開始剤のストック溶液を調製した。適切な量の開始剤のストック溶液を、乾燥ベンゾニトリルに溶解したサルコシン-NCA(濃度約10mg/mL)に添加した。重合の程度により、反応混合物を室温で12時間~7日間撹拌した。ポリマーを冷ジエチルエーテル(ポリマー溶液の体積の10~20倍液)中で2回沈殿させた。溶媒の除去および乾燥後、ポリマーをHOに再溶解し、凍結乾燥させた。白色~淡黄色の粉末を得た。
【化55】
【0286】
4-アジドアニリンで開始され、ω-Gd-DTPAで停止されるポリサルコシン。1当量のポリサルコシンを無水DMAcに溶解した。2当量の活性化形態のDTPA(例えば無水物、チオールエステル)(およびチオールエステルとともに5当量のAgOTf)を添加し、室温で一晩撹拌した。溶媒の除去後、残渣をCHClに溶解し、冷ジエチルエーテル中で沈殿させた。Sephadex LH20 カラム(MeOHを溶離剤として)により、最終精製した。
【0287】
1当量のポリマーおよび10当量のピリジンをHOに溶解し、40℃で2時間撹拌した。2当量のGdCl・6HOを添加し、反応混合物を40℃で一晩振盪した。沈殿した生成物をHOに溶解し、遊離のGdを除去するためにChelex 100で処理した。MTBテストによりさらなる遊離のGdが検出されなくなるまで、この処理を繰り返した。
【化56】
【0288】
表面官能基化:
清浄なポリマー(例えばPLA、PCL、PP、PLGA)表面(フィルム、メッシュ)を脱気したメタノール中、1~20g/Lのポリマークリップで被覆し、254nmで5~10分照射した。その後、表面をHOおよびEtOHで濯いだ。
【0289】
材料。Bruker 7T BIOSPEC 70/20、「ミニイメージング」配置(グラジエント BGA12 675mt/m、共鳴器「バードケージ」35mm)。一連のマーカーグラジエントエコーシーケンス後、1300ミリ秒の反転時間を有するスピン3Dエコーシーケンスを得た(FOV 3*3*1cm マトリックス 128*128*48、TR=3000ミリ秒、TE=8ミリ秒(TEeff=16)、RF=8、0:51の収集時間)。
【0290】
TR/TE 110/3ミリ秒および75°、30°および15°の角度を有するMGE3Dシーケンスを得た。
【0291】
このようにして得られた表面修飾基質の構造を示すスキームを図5(A)に示す。図5はまた、このような本発明の表面修飾PCL基質のMRI画像を示す。
【0292】
5.4-アジドアニリンで開始されるポリサルコシンを用いた官能基化
クリップ合成:
サルコシン-N-カルボキシ無水物。第4章に記載。
4-アジドアニリンで開始されるポリサルコシン。第4章に記載。
【0293】
表面官能基化:ポリマーを脱気したメタノールに溶解し、0.1~50g/Lの濃度(一般に、重合度が高いほど濃度を高くするべきである)の濃度とした。ポリ乳酸(PLA)およびポリプロピレン(PP)表面は、メタノール中で15~30分、超音波槽で洗浄した。高真空でさらに15分乾燥させた後、表面を60℃に加熱した。エアブラシを用いて、加温した表面にポリマー溶液を噴霧した。その後、254nmで1~30分間、表面を照射した。照射後、表面をメタノールまたはエタノールで5~10分間洗浄した。この手順を最大5回繰り返すことで、最終結果が改善された。最後に、超音波槽でエタノールを用いて表面を洗浄(基質が超音波処理に不安定でない限り、表面を全体的に洗浄した)、真空下で乾燥させた。
【0294】
抗付着効果
スタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)ATCC49461および大腸菌(E.coli)CFT073株をこれらの試験に使用した。
【0295】
細菌付着試験は、Balaszら(Biomaterials 25 (11) (2004) 2139-2151)の技術を適用して実施した。培地中で0.05のOD600(600nmでの光学密度)に希釈した細菌株を含むウェルに、プレートを浸漬した。1時間後、プレートをウェルから出し、無菌水で3回、激しく洗浄し、その後中性媒体(APまたはPBS)に浸漬する。24時間の時点で、無菌食塩水でボルテックスおよび超音波処理した後に、プレートに付着した細菌を回収する。連続希釈し、ミューラー・ヒントン寒天培地で培養することにより、細菌を定量した。プレートの各表面をミューラー・ヒントン寒天培地に15回移すことにより、大部分の付着細菌を分離させる。37℃で一晩インキュベート後、細菌計数を行った。全ての培養した細菌を添加することにより、全体的な付着細菌集団を得る。結果をCFU(コロニー形成単位)として表す。MALDI-TOF質量分析(Vitek-MS、BioMerieux)を用いて、細菌同一性の確認を実施する。
【0296】
このようにして得られた表面修飾基質の構造を示すスキームを図6(A)に示す。図6はこのような本発明の表面修飾PLAおよびPP基質のスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)についての防汚効果を示す。
【0297】
6.ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)-コ-ポリ(2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン)コポリマーを用いた官能基化
クリップ合成:
2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン。1当量の4-アジド安息香酸を高真空下で乾燥させた。その後、5当量の塩化チオニルおよび乾燥THFを添加した。アルゴン雰囲気下、反応混合物を70℃で3時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去し、粗生成物をシクロヘキサン中で結晶化させた。上清の除去および乾燥後、4-アジド-ベンゾイルクロライドを淡褐色の結晶として得た。
【化57】
【0298】
1当量の4-アジド-ベンゾイルクロライドをクロロホルムに溶解した。1.1当量の2-ブロモエチルアミン臭化水素酸塩および水酸化カリウムをHOに溶解し、氷浴で冷却した。冷却した水溶液に有機溶液を添加し、冷却しながら15分間撹拌し、さらに室温で15分間撹拌した。相を分離し、有機相をHOで洗浄し、MgSOで乾燥させ、ろ過した。溶媒を除去し、N-(2-ブロモエチルアミン)-4-アジドベンズアミドを黄色固体として得た。
【化58】
【0299】
最後に、1当量のN-(2-ブロモエチルアミン)-4-アジドベンズアミドおよび1.1当量の水酸化カリウムを無水メタノールに溶解し、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。溶媒を除去した後、残渣をジクロロメタンに溶解し、HOで洗浄(3x)した。その後、有機相をMgSOで処理し、ろ過し、乾燥させた。2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリンを得た。
【化59】
【0300】
ポリ(2-オキサゾリン)。ブロックコポリマーについて、十分な量の2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン(n当量)を減圧したフラスコに添加し、さらに高真空下で乾燥させた。開始剤のメチルトリフレート(MeOTf、1当量)および乾燥アセトニトリル(ACN、最終モノマー濃度<3M)もまた、不活性条件下で添加した。グラジエントコポリマーについて、第一ブロックの2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリンを少量の2-メチル-2-オキサゾリン(MeOx)とコポリマー化して、ポリマー内に官能基を拡散させた。その後反応混合物を80℃で3~7時間(ブロック長による)撹拌した。次に、アルゴン気流下、MeOxを反応混合物に添加した。重合の設定度に応じて、80℃で1~7日間、重合を実施した。3当量の1-BOC-ピペラジンを添加して40℃で5時間撹拌し、反応を終了させた。その後、炭酸カリウムを添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。遠心分離およびろ過後、溶媒を除去し、残渣をクロロホルムおよびメタノール(1/2、v/v)に溶解し、冷ジエチルエーテル(ポリマー溶液の体積の10~20倍)中で沈殿させた。2回目の沈殿後、ポリマーを乾燥させ、HOに溶解し、凍結乾燥させた。白色から暗黄色粉末を得た。
【化60】
【0301】
モノマーが重合中に全て存在する同様の方法により、ランダムコポリマーを得た。
【0302】
表面官能基化:第5章に記載のとおりである。結果を図11に示す。
【0303】
防汚効果:バイオフィルム形成
スタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)ATCC49461および大腸菌(E.coli)CFT073株をこれらの試験に使用した。
【0304】
クリスタルバイオレットを用いた定量:
培地中でOD600=0.05に希釈した細菌株を含むウェルに、プレートを浸漬すうr。37℃で72時間インキュベート後、プレートをウェルから除き、無菌水で3回、徹底的に濯ぐ。
【0305】
バイオフィルムに含まれる細菌を染色するために、プレートを0.1%クリスタルバイオレット中に10分間放置した。その後、過剰の染料を除去するために無菌水で3回洗浄した。細菌を250μlのDMSOを用いて沈殿させる。分光光度計を用いて得られた溶液をアッセイし、OD600を測定した。
【0306】
このようにして得られた表面修飾基質の構造を示すスキームを図7(C)に示す。図7(A)は非グラフト化対照と比較したこのような本発明の表面修飾PLAおよびPP基質に対するバイオフィルム形成の減少を示す。
【0307】
接触角
プログレッシブスキャンCCDカメラ(Dataphysics OCAH200)により接触角を測定し、ImageJソフトウェアを用いて解析した。図7(B)は、未処理(非グラフト化)PLA基質と比較したこのような表面修飾PLA基質の接触角の減少を示す(B)。
【0308】
水中細菌バイオフィルムの定量化のためのクリスタルバイオレットアッセイ
材料
-ポリマー被覆した6ウェルプレート
-Tryptic Soy Broth(TSB, Becton-Dickinson)
-0.1%クリスタルバイオレット水溶液(Carl Roth)
-1xPBS
-H
-33%酢酸(Carl Roth)
-光度計および単回使用キュベット
株:スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis) RP62a
【0309】
細菌バイオフィルムの設置。細菌を、2mlのTSBを添加した13mlの培養チューブ内で、37℃、220rpmで振盪しながら一晩増殖させた。培養物の吸収を600nm(OD600nm)で測定し、TSB中OD600nm=0.05で20ml(100mlフラスコ内)のプレ培養を開始した。プレ培養物を37℃、220rpmで振盪しながら4~6時間インキュベートし、培養物を指数増殖期に付した。OD600nmを測定し、培養物をOD600nm=0.05までTBS中で希釈した。各ウェルを4mlの細菌溶液で満たした。プレートを37℃で24時間インキュベートし、水中バイオフィルムを形成させた。
【0310】
バイオフィルムの染色および定量化。マルチウェルプレートを倒置して培地を廃棄した。その後ウェルをPBSで穏やかに3回洗浄し、結合していない細胞を除去した。プレートを65℃で30分間(蓋なしで)加熱することにより、バイオフィルムを固定した。バイオフィルムを染色するために、1mlの0.1%クリスタルバイオレットをウェルに添加し、3分間インキュベートした。染料を廃棄し、水中に染料が見られなくなるまでウェルを洗浄(少なくとも3回)した。
【0311】
結果。得られた結果を図12に示す。グラジエントコポリマーはバイオフィルムの形成をより効率的に阻害すると考えられる。
【0312】
7.ローダミンBで停止するポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)-コ-ポリ(2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン)コポリマーの官能基化
クリップ合成:
2-(4-アジドフェニル)-オキサゾリン。第6章に記載のとおりである。
ポリ(2-オキサゾリン)。第6章に記載のとおりである。
【0313】
ローダミンで停止するポリ(2-オキサゾリン)。1.2当量のローダミンBイソチオシアネートを無水DMFに溶解した。1当量のDIPEAおよび1当量のポリ(2-オキサゾリン)を添加し、反応混合物を40℃で少なくとも3日間振盪した。粗製の生成物をSephadex LH20 カラム(溶離剤としてMeOH)により精製した。
【0314】
表面官能基化:第5章に記載のとおりである。
【0315】
蛍光測定
材料。ライカ蛍光顕微鏡、20x拡大、緑色励起波長(555nm)。
【0316】
このようにして得られた表面修飾基質の想定される構造を示すスキームを図8(A)に示す。図8はまた、このようにして得られた多様な表面修飾基質の、HO中100℃で加熱前および加熱後の蛍光画像を示す。これらの結果は本発明の表面修飾基質の安定性を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12