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特許7016380酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料
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  • 特許-酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料 図1
  • 特許-酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20220214BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C3/091
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020084960
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021011425
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】108123406
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520167298
【氏名又は名称】台湾玻璃工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIWAN GLASS INDUSTRY CORP.
【住所又は居所原語表記】11F,No.261,Sec.3,Nanjing E. Rd.,Taipei,Taiwan.
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 嘉佑
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093959(JP,A)
【文献】特開昭62-100454(JP,A)
【文献】特開昭64-079085(JP,A)
【文献】特開昭64-051345(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101012105(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化ケイ素(SiO)を含み、前記酸化ケイ素(SiO)の重量パーセントがガラス原料の45~55%である主材料と、
酸化ホウ素(B)を含み、前記酸化ホウ素(B)の重量パーセントが前記ガラス原料の30~40%(ただし、30~35%の場合を除く。)であり、前記ガラス原料の溶融時の粘性を低くすることができるフラックス材料と、
酸化アルミニウム(Al)を含み、前記酸化アルミニウム(Al)の重量パーセントが前記ガラス原料の10~14%であり、前記ガラス原料の構造強度を増加させることができる強化材料と、
酸化カルシウム(CaO)を含み、前記酸化カルシウム(CaO)の重量パーセントが前記ガラス原料の1~6%であり、前記ガラス原料の耐水性を向上させるためのものである調整材料、を含む、酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を4.5以下に低下させたガラス原料。
【請求項2】
前記ガラス原料はさらに酸化マグネシウム(MgO)を含み、前記酸化マグネシウム(MgO)は前記ガラス原料の溶融温度を低下させることができ、前記酸化マグネシウム(MgO)と前記酸化カルシウム(CaO)の総含有量は、前記ガラス原料の1~8%とすることができる、請求項1に記載のガラス原料。
【請求項3】
前記ガラス原料はさらに酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)及び/又は酸化リチウム(LiO)のアルカリ金属酸化物を含み、且つ前記アルカリ金属酸化物の総含有量は前記ガラス原料の0.01~1%とすることができる、請求項1又は請求項2に記載のガラス原料。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム(Al)の重量パーセントはさらに、前記ガラス原料の11~13%とすることができる、請求項3に記載のガラス原料。
【請求項5】
前記酸化カルシウム(CaO)の重量パーセントはさらに、前記ガラス原料の3.5~6%とすることができる、請求項4に記載のガラス原料。
【請求項6】
前記アルカリ金属酸化物の総含有量はさらに、前記ガラス原料の0.1~0.5%とすることができる、請求項5に記載のガラス原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス原料に関し、特に酸化ホウ素(B)の含有量を高め、且つ酸化カルシウム(CaO)の含有量を低くすることで低誘電率を有するガラス原料に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は優れた物理特性を有するため、現代の産業において欠かすことのできない重要な原料となっており、中でも、電子グレードのガラス繊維で製造された「ガラス繊維糸」は、プリント基板において特に必要な基材の1つである。また、ガラス繊維に関しては、それは無機繊維に属し、且つ断面は円形を呈しており、直径は数μm~20μm、密度は2.4~2.7g/cmである。さらに、様々な材料の組成、比率に従って、ガラス繊維は複数のタイプに分類することができるが、現在製造されている電子グレードのガラス繊維の原料はほとんどが「Eガラス」(E-Glass)であり、その主成分は大抵、酸化ケイ素(SiO、含有量は52~62%)、酸化アルミニウム(Al、含有量は12~16%)、酸化カルシウム(CaO、含有量は16~25%)、酸化マグネシウム(MgO、含有量は0~5%)及び酸化ホウ素(B、含有量は0~10%)であり、Eガラスの誘電率(Dielectric constant)と誘電正接(Dissipation factor)はそれぞれ約6.8~7.1と0.006である。
【0003】
しかし、有線・無線ネットワーク技術が日々進歩するにつれて、人々の電子デバイス(例えば、スマートフォン、タブレット端末など)に対するニーズも増加しており、様々な機能を有する各種電子デバイスが次々に研究開発されている。その中で、電子デバイスの動作速度及び周波数を高めるためには、回路基板の製造において低誘電率、低誘電正接の材料を採用することがしばしば必要となり、それによって初めて電気特性の規格に適合させることが可能となる。従って、上述のEガラスの誘電率は明らかに要求を満たしておらず、したがって、多くのガラス製造業者もガラスの成分や比率について次々に改良を行っており、回路基板の使用により適したガラス原料の研究開発が望まれている。現在、製造業者によって改良され、より低い誘電率を持つことができるガラスもあるが、出願者が実際に行った試験では、図1に示す通り、ガラスA1~A8の試験で誘電率がいずれも4.7以上、さらには5を超えるものもあり、電気特性が特に要求される一部の回路基板にとって理想的とは言えない誘電率であった。
【0004】
ガラスは、複数の成分から構成されており、各成分の変更が後に形成されるガラス製品の特性に変化を生じさせてしまう。そのため、より低い誘電率を有するガラス原料を如何に研究開発するかが、本発明が解決しようとする重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回路基板の製造に使用される従来のガラス原料は、誘電率の数値が理想的ではないことに鑑み、発明者の多年に亘る実務経験を基に、多くの研究、テスト及び試作を重ねた結果、ついに本発明である、酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料の設計に至った。これにより、上述の課題を効果的に解決することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料を提供することを目的としており、それは、主材料、フラックス材料、強化材料及び調整材料を含み、主材料は酸化ケイ素を含み、酸化ケイ素の重量パーセントはガラス原料の45~55%であり、フラックス材料はガラス原料の溶融時の粘性を低くすることができ、それは酸化ホウ素(B)を含み、酸化ホウ素(B)の重量パーセントはガラス原料の30~40%であり、強化材料はガラス原料の構造強度を増加させることができ、それは酸化アルミニウム(Al)を含み、酸化アルミニウム(Al)の重量パーセントはガラス原料の10~14%であり、調整材料はガラス原料の耐水性を向上させるためのものであり、それは酸化カルシウム(CaO)を含み、酸化カルシウム(CaO)の重量パーセントはガラス原料の1~6%である。このように、酸化ホウ素(B)の含有量を高め、且つ酸化カルシウム(CaO)の含有量を低くすることで、ガラス原料自体に低誘電率及び低誘電正接の特性を持たせることができ、後で生産される回路基板又は他の製品が必要とする電気特性に適合させることができる。
【0007】
審査官が本発明の目的、技術的特徴及びその効果をより認識し理解できるよう、以下、図面を参照して実施例を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】従来のガラス原料A1~A8の試験結果である。
図2】本発明のガラス原料B1~B3の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施例>
本発明は、酸化ホウ素の重量パーセントを高めることで誘電率を低下させたガラス原料であり、且つガラス繊維又は他のガラス製品の製造に用いることができる。1つの実施例において、ガラス原料は、少なくとも主材料、フラックス材料、強化材料及び調整材料によって構成される。主材料は酸化ケイ素(SiO)を含み、酸化ケイ素(SiO)はガラスの骨格を形成する酸化物の1つであり、且つその重量パーセントはガラス原料の45~55%である。また、強化材料はガラス原料の構造強度を増加させることができ、それには少なくとも酸化アルミニウム(Al)を含み、酸化アルミニウム(Al)もガラスの骨格を形成する酸化物の1つである。また、酸化アルミニウム(Al)が不足している場合には、ガラス原料の耐水性を低下させ、且つ誘電率を上昇させてしまい、酸化アルミニウム(Al)が18%を超える場合には、後でガラス繊維を製造する際に紡糸温度が高くなってしまうため、酸化アルミニウム(Al)の重量パーセントはガラス原料の10%~14%である(比率は11~13%が好ましい)。
【0010】
当該実施例において、フラックス材料はガラス原料の溶融時の粘性を低くすることができ、それは少なくとも酸化ホウ素(B)を含み、且つ酸化ホウ素(B)の重量パーセントはガラス原料の30~40%である。調整材料はガラス原料の耐水性を向上させるためのものであり、それは少なくとも酸化カルシウム(CaO)を含み、酸化カルシウム(CaO)の重量パーセントはガラス原料の1~6%である。特に、固体状態のケイ酸塩及びホウ酸塩などのガラスでは、アルカリ金属グループ及びアルカリ土類グループの金属イオンは、ガラスの誘電率に大きな影響を及ぼし、その含有量が多ければ多いほどガラスの誘電率の数値も高くなる。そのため、酸化カルシウム(CaO)がガラスネットワークの調整体であり、且つ後で製造されるガラス繊維の溶融温度を低下させることができるとはいえ、酸化カルシウム(CaO)の含有量を高めた場合には、ガラス原料の誘電率を高めてしまう。したがって、本発明では、特に酸化ホウ素(B)が有する誘電率(Dielectric constant、DKと略す)及び誘電正接(又は散逸率、Dissipation factor、DFと略す)を低下させる能力と、ガラス原料の溶融温度を低下させる能力を利用し、酸化ホウ素(B)の含有量をガラス原料の30~40%まで高めることで、酸化カルシウム(CaO)の含有量を1~6%に低くする(比率は3.5~6%が好ましい)。このように、従来のガラスにおける酸化カルシウム(CaO)の含有量が約7~10%であるのに対し、本発明の酸化カルシウム(CaO)の含有量は明らかにより低いので、本発明のガラス原料はより低い誘電率(約4.5未満)を有することができ、良好な電気特性を有することができる。
【0011】
また、ガラス原料はさらに酸化マグネシウム(MgO)を含むことができ、主に酸化マグネシウム(MgO)がガラス原料の溶融温度を低下させるできるので、ガラス繊維の溶融と成形を容易にする。一方で、酸化マグネシウム(MgO)も同じくアルカリ土類に属するため、含有量が高すぎる場合には、ガラス原料の誘電率及び誘電正接を低くするのに不利であり、且つガラス原料の相分離を増加させる。そのため、当該実施例において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)の総含有量は、ガラス原料の1~8%とすることができる。また、製造業者はガラス原料中にフラックスとしてアルカリ金属酸化物を添加することもできる。ここで、アルカリ金属酸化物は酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)及び/又は酸化リチウム(LiO)を含み、且つアルカリ金属酸化物の総含有量はガラス原料の0.01~1%とすることができる。但し、アルカリ金属酸化物の含有量が高すぎる場合には、ガラス原料の誘電損失角の正接が高くなり、耐水性も悪くなるため、それらのアルカリ金属酸化物の総重量パーセントはガラス原料の0.1~0.5%とするのが理想的な状態である。
【0012】
要約すると、製造業者がガラス原料に対して加熱を行い、溶融して溶融ガラスを形成し、且つ紡糸作業により溶融ガラスからガラス繊維を製造するプロセスでは、酸化ホウ素(B)の含有量を高め、且つ酸化カルシウム(CaO)の含有量を低くすることで、ガラス原料自体に低誘電率及び低誘電正接の特性を持たせることができるので、当該ガラス原料で製造される製品(回路基板など)の高周波伝送における誘電損失エネルギー(dielectric loss energy)をより低くし、後で生産される回路基板の電気特性要件に適合させることができる。本発明の技術全体が従来技術よりも優れていることを強調するため、図2に示すように、出願者は特に、B1~B3の比率の異なるバッチ(Batch)150gをそれぞれ200mLのセラミック製るつぼに注ぎ、且つ温度1450℃下に約6時間置いて、完全に溶融させた後、ゆっくりと室温に戻してから、成形されたガラス塊をダイヤモンドカッターで長さと幅が20mm、厚さが2~3mmのガラス板試料にカットし、RFインピーダンス・アナライザ(RF impedance analyzer)を用いて上述のガラス板試料の誘電率及び誘電正接を測定し、図2の試験結果を得た。図2から、本発明のガラス材料は誘電率を4.5以下にすることができ、従来のガラス製品と比較すると、より良好な電気特性を確かに有していることが理解できる。
【0013】
なお、図2のB1~B3の成分には酸化リチウム(LiO)が含まれていないが、酸化リチウム(LiO)を追加した場合でも、本発明のアルカリ金属酸化物の総含有量に影響しない限り、同じ試験結果を得ることができる。以上は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明が主張する権利範囲を限定するものではなく、当業者であれば本発明が開示した技術内容に基づいて同等の効果が得られる変更を容易に想到し得るものであり、すべて本発明の保護範囲を逸脱しない。
図1
図2