(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtech(TM))及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20220128BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N1/20 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020135957
(22)【出願日】2020-08-11
【審査請求日】2020-09-14
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,Volume 83,Issue 12,令和1年8月12日発行,第2327-2333ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】509013611
【氏名又は名称】生展生物科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】陳威仁
(72)【発明者】
【氏名】朱慧芳
(72)【発明者】
【氏名】呉▲シェン▼慧
(72)【発明者】
【氏名】周志輝
(72)【発明者】
【氏名】蘇秋勇
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-192955(JP,A)
【文献】特表2019-535770(JP,A)
【文献】特開平06-113823(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101659983(CN,A)
【文献】JOURNAL OF FOOD SCIENCE,2009年,Vol. 74, Nr. 4,M185-M189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便試料を得る工程と、
前記糞便試料を濃度が500ppmである次亜塩素酸ナトリウムで30秒処理する工程と、
培地を調製する工程と、
次亜塩素酸ナトリウム処理を経た前記糞便試料及び次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない糞便試料のそれぞれを培地に接種し、50℃~60℃の培養温度下で培養する工程と、
培養完了後、前記培地上のコロニー周囲の色の変化を観察し、それぞれの培地上で周囲に色の変化があった前記コロニーを選択して、前記コロニーの
数量をカウントする工程と、を含み、
前記培地のpH値は5.0~6.0であり、前記培地は、乳酸を生成する細菌の増殖のために提供される栄養成分と、pH指示薬として用いられるブロモクレゾールグリーンを有し、
前記コロニーが次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない前記糞便試料からのものである場合、前記コロニーのカウント結果は有胞子性乳酸菌の総数であり、前記コロニーが次亜塩素酸ナトリウム処理を経た前記糞便試料からのものである場合、前記コロニーのカウント結果は有胞子性乳酸菌の胞子数である、微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項2】
前記糞便試料に対する次亜塩素酸ナトリウム処理の時間は30秒である、請求項1に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項3】
前記有胞子性乳酸菌の総数から前記有胞子性乳酸菌の胞子数を差し引き、有胞子性乳酸菌の栄養細胞の数量を得る、請求項1に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項4】
前記培地はグルコース酵母エキス寒天培地であり、pH値は5.5である、請求項1に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項5】
前記培養温度は55℃である、請求項1に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項6】
前記糞便試料の提供者には、試料採取の少なくとも5日前に、有胞子性乳酸菌又は有胞子性乳酸菌を含む組成物を経口投与する、請求項1に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法を用いる検出工程を含む、
測定対象試料内の有胞子性乳酸菌の胞子の個体内における酸産生能の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロバイオティクスの体外計測方法及びその用途に関し、特に複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans)は、バチルスコアグランスとも呼ばれており、乳酸桿菌とバチルス属の特徴を有し、芽胞を形成する特性を有している。研究によれば、有胞子性乳酸菌は、消化器疾患の調整、免疫調整、コレステロールを下げるなどの様々な健康促進効果を有するため、一種のプロバイオティクスと見なされている。しかし、有胞子性乳酸菌は非腸管内性の既存菌種であり、人体が獲得するには自ら摂取しなければならない。
【0003】
有胞子性乳酸菌は、胞子形態によって高温又は酸性などの過酷な環境に耐えるため、現在は胃酸などで活性化が破壊されるのを防ぐために、胞子形態の有胞子性乳酸菌を食品又は組成物とすることが多い。但し、有胞子性乳酸菌の胞子が個体に投与された後に腸管内で発芽(germination)しなかった場合には、腸管内での栄養細胞(vegetative cells)への変換及び腸管定着が不可能となるが、これは有胞子性乳酸菌が個体の体内において栄養細胞の生理活性を発揮できないことを意味している。
【0004】
現在の研究では、有胞子性乳酸菌の腸管内における発育機序を完全に理解することができない。また、従来の検出及び解析方法では糞便内の有胞子性乳酸菌及びその他の微生物を分離培養することができず、糞便中からバチルスコアグランスのスクリーニング又は分離を行う専用の培地も未だ提供されていない。また、75℃で30分間処理するなど、短時間の熱処理を通してその他の微生物を除去し、胞子形態の有胞子性乳酸菌の数量を算出する研究が行われているものの、加熱処理は「熱活性化」現象が生じるため、胞子の発芽・増殖が促進されて、誤った結果を得てしまう場合がある。
【0005】
従って、従来技術では有胞子性乳酸菌が腸管内で発芽したか否かを判断することが難しく、有胞子性乳酸菌の胞子又は有胞子性乳酸菌の胞子を含む組成物が個体内で栄養細胞の活性化を発揮しているか否かを知るのは困難であることが分かる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)を提供することを主な目的としており、前処理済及び/又は未処理の糞便試料を、改良後の培地で培養し、糞便試料内の有胞子性乳酸菌又は栄養細胞の数量を直接的又は間接的に算出するものである。
【0007】
本発明の別の目的は、複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)の用途を提供することであり、本発明が開示する方法によって糞便試料内の有胞子性乳酸菌及び/又はその胞子の体内における有効性及びその胞子の数量を検出し、有胞子性乳酸菌の胞子が体内で栄養細胞に変換された数量を推計することにより、非侵襲的な方法で有胞子性乳酸菌を含む組成物を正確且つ迅速に評価し、善玉菌の増殖に有利な腸内環境を構築することができる効果を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明は複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)を提供するが、それは、糞便試料を培地に接種して培養し、周囲の色が変化したコロニーを選択して、当該コロニーが有胞子性乳酸菌であるかを判断し、次に当該コロニーをカウントして、当該コロニーの数量を得るものである。
【0009】
実施例中、糞便試料中の有胞子性乳酸菌の栄養細胞が培地上で増殖できるようにするため、培地に接種する前に、糞便試料に対して次亜塩素酸ナトリウム処理を行う必要がある。
【0010】
そのうち、糞便試料に対する次亜塩素酸ナトリウム処理の時間は、約30~60秒とし、例えば30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、55秒とするが、処理時間は30秒とするのが好ましい。
【0011】
そのうち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は1000ppm以下とし、例えば100、200、300、400、500、600、700、800、900ppmとするが、例として、次亜塩素酸ナトリウム濃度が500ppmである場合でも、処理前後における糞便試料中の有胞子性乳酸菌の胞子の数量を安定的に維持することができる。
【0012】
別の実施例中、本発明が開示する複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)では、糞便試料及び次亜塩素酸ナトリウム処理を経た糞便試料をそれぞれ培養し、有胞子性乳酸菌の総数及びその胞子の数量を算出して、有胞子性乳酸菌の栄養細胞の数量を推計する。具体的には、糞便試料の一部を取り、次亜塩素酸ナトリウムで処理し、次亜塩素酸ナトリウム処理を経た糞便試料及び次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない糞便試料のそれぞれを培地に接種して、培養を行う。培養完了後、培地上のコロニー周囲の色の変化を観察し、それぞれで培地上の周囲に色の変化があった当該コロニーを選択し、且つ当該コロニーの数量をカウントして、当該コロニーが次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない糞便試料からのものである場合、当該コロニーのカウント結果は有胞子性乳酸菌の総数であり、当該コロニーが次亜塩素酸ナトリウム処理を経た糞便試料からのものである場合、当該コロニーのカウント結果は有胞子性乳酸菌の胞子数である。
【0013】
そのうち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は1000ppm未満とし、例えば500ppmとする。また、糞便試料に対する次亜塩素酸ナトリウム処理の時間は60秒未満であるのが好ましく、例えば30秒又は45秒とする。
【0014】
また、実施例中、有胞子性乳酸菌の総数から有胞子性乳酸菌の胞子数を差し引くと、有胞子性乳酸菌の栄養細胞の数量を得ることができる。
【0015】
本発明の実施例中、培地はグルコース酵母エキス寒天培地(GYEA medium)であり、pH値は約5.5である。
【0016】
本発明の実施例中、pH指示薬はブロモクレゾールグリーンである。
【0017】
本発明の実施例中、培養温度は約55℃である。
【0018】
本発明の実施例中、糞便試料の提供者には、試料採取の少なくとも5日前に、有胞子性乳酸菌又は有胞子性乳酸菌を含む組成物を投与する。
【0019】
さらに、本発明が開示する複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)は、測定対象試料内の有胞子性乳酸菌の胞子の一個体内における酸産生能又は酸産生率を検出又は評価するのに使用することができ、つまり、被験者は測定対象試料を少なくとも5日前に投与され、被験者からの糞便試料を培地で培養して、有胞子性乳酸菌及び/又はその胞子の数量を算出し、有胞子性乳酸菌及びその胞子の数量の差が大きいほど、測定対象試料の被験者内における酸産生能又は酸産生率が優れていることを示すため、これにより、有胞子性乳酸菌株の腸内における健康促進機能の評価が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1中のAは、有胞子性乳酸菌を改良GYEA培地で培養し、コロニー形態を肉眼観察したものである。
図1中のBは、有胞子性乳酸菌を改良GYEA培地で培養し、第2段階の培養4日目にコロニー形態を顕微鏡で観察した結果である。
図1中のCは、有胞子性乳酸菌を改良GYEA培地で培養し、第2段階の培養5日目にコロニー形態を顕微鏡で観察した結果であり、そのうち、矢印の指す箇所が有胞子性乳酸菌の胞子である。
図1中のDは、有胞子性乳酸菌を改良GYEA培地で培養し、第2段階の培養6日目にコロニー形態を顕微鏡で観察した結果であり、そのうち、矢印の指す箇所が有胞子性乳酸菌の胞子である。
【
図2】胞子を有する有胞子性乳酸菌コロニーの培養日数別割合である(Duncan's test,p<0.05)。
【
図3】異なる濃度の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た試料における有胞子性乳酸菌の胞子数の相対的割合であり、そのうち、次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない有胞子性乳酸菌の胞子数を比較基準としている。
【
図4】異なる時間の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た試料における有胞子性乳酸菌の胞子数の相対的割合であり、そのうち、次亜塩素酸ナトリウム処理が0秒の有胞子性乳酸菌の胞子数を比較基準としている。
【
図5】異なる腸管部分における有胞子性乳酸菌の胞子と栄養細胞それぞれの割合であり、そのうち、a~b間に顕著な差異(p<0.05)があり、c~d間に顕著な差異(Duncan's test,p<0.05)がある。
【
図6】各ラット群の糞便中の短鎖脂肪酸含有量であり、そのうち、*は顕著な差異があることを示している(Duncan's test,p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)及びその用途を開示するが、それは、改良を経た所定のpH値を有する培地を提供し、且つ糞便試料の前処理技術を組み合わせることにより、糞便試料を培地に接種し、所定温度下で培養した後、培地上のコロニー周囲の色の変化により有胞子性乳酸菌が含まれたコロニーを選択且つ判断し、有胞子性乳酸菌の総数及び/又は有胞子性乳酸菌の胞子数を算出するものである。また、有胞子性乳酸菌の総数及び有胞子性乳酸菌の胞子数を得た後、有胞子性乳酸菌の総数と有胞子性乳酸菌の胞子数との間の差値を算出すれば、有胞子性乳酸菌の栄養細胞の数量となり、これにより、測定対象試料内の有胞子性乳酸菌の個体内における酸産生能又は酸産生率を評価することができ、腸管内の弱酸性環境を安定的に維持できるなら、善玉菌が増殖するのに有利となり、且つ悪玉菌の増殖が抑えられるため、本発明が開示する方法は、測定対象試料内の個体内における活性化の有無及びその活性化の良否を推定することで、測定対象試料の有効性を判断する効果を達成することができる。
【0022】
本発明における「判断」とは、コロニーが有胞子性乳酸菌であることをスクリーニングによって確認することを指し、手作業又は機器により行うことができる。
【0023】
本発明における「栄養細胞(vegetative cells)」とは、芽胞形成菌が、適正な増殖環境下で胞子形態の休眠状態から再び活性化した状態を指し、栄養細胞は、増殖状態において増殖能を有する。
【0024】
以下、本発明及びその効果について説明するため、幾つかの実施例を挙げて、実施例の結果と図面を合わせてより詳細に説明する。
【0025】
本発明が使用する有胞子性乳酸菌は、「胞子形態のバチルス属純菌株(約5x109胞子/g)」で、生展生物科技股▲分▼有限公司が提供する商用の菌であり、4℃の環境下で保存したものである。この菌株の選択はあくまでも例示に過ぎず、本案の保護範囲を限定するものではなく、生展生物科技股▲分▼有限公司が提供するものではない有胞子性乳酸菌を使用しても本発明の開示する効果を達成することができる。
【0026】
以下の実施例中の動物実験は、いずれも国立中興大学及び使用委員会による承認を経ており、関係する倫理規定を遵守して行われた。
【0027】
以下の実施例における全てのデータは、いずれもダンカンの新多重範囲検定(Duncan's test)により統計解析されたものである。
【実施例1】
【0028】
複雑な微生物検体中の有胞子性乳酸菌の確認
【0029】
測定対象の菌試料を取り、先ず改良GYEA(glucose yeast extract agar)培地で培養した。改良条件は、pH値を5.5に調整し、ブロモクレゾールグリーンをpH指示薬とした。55℃の好気性環境下で2日間培養し、温度によって55℃以上の温度では生存できない細菌を除去して、有胞子性乳酸菌コロニー(
図1中のAの通り)を残した。有胞子性乳酸菌の増殖により、培養環境中のpH値が約pH3.8に下がったため、有胞子性乳酸菌コロニーの周囲に青から黄色への色の変化が生じ、さらに顕微鏡でコロニーの胞子形成状況を確認すると、周囲が黄色の輪であり且つ胞子を有する青色のコロニーが有胞子性乳酸菌コロニーであることが分かった。第2段階の培養を行ったが、即ち、引き続き55℃の恒温環境下に置いて特定の日数培養した後、黄色の輪を有する有胞子性乳酸菌コロニーを選択し、且つマラカイトグリーン及び蕃紅花で染色して、顕微鏡で観察した。結果は
図1中のB~Dに示す通りである。また、胞子を有するコロニーをカウントした結果は
図2に示す通りである。
【0030】
図1中のBは、第2段階の培養4日後、有胞子性乳酸菌コロニーは増殖型の栄養細胞(vegetative form)のみ現れていることを示しているが、第2段階の培養5日目からは、有胞子性乳酸菌コロニー中に胞子が現れ始め、培養日数が増えるにつれて増加していることが分かる(
図1中のC及びDの通り)。さらに、
図2の結果は、第2段階の培養6日目に、胞子を有する有胞子性乳酸菌コロニーの割合が顕著に増加し、さらに培養7日目には、ほぼ全てのコロニーが胞子を有していたことを示している。
【0031】
従って、有胞子性乳酸菌の検出及び培養を行う環境には、下記の条件が含まれている必要がある。55℃の培養温度であること;培養後、少なくとも5日目に胞子形成が観察可能となるが、培養7日目に観察すると効果が良好である;使用する培地は、上述の改良GYEA培地のように、乳酸を生産する細菌が増殖できるようにする必要があり、且つpH値指示薬を有するのが好ましい。
【実施例2】
【0032】
試料の前処理パラメータの試験(1)
【0033】
有胞子性乳酸菌含有試料を、それぞれ異なる濃度(0、500、750、1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムで30秒間処理した後、それぞれ改良GYEA培地に接種して、55℃で2日間培養した後、黄色の輪を有するコロニーを選択し、コロニーの菌数をカウントして、有胞子性乳酸菌の胞子数を得た。結果は表1に示す通りである。そのうち、各データ間には顕著な差異(Duncan's test,p<0.05)があった。さらに、次亜塩素酸ナトリウムで処理していない有胞子性乳酸菌の胞子数を基準として、異なる濃度の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た有胞子性乳酸菌の胞子の相対的割合を算出した。結果は
図3に示す通りである。
【0034】
次亜塩素酸ナトリウムで試料を処理する目的は、有胞子性乳酸菌の栄養細胞を除去し、且つ有胞子性乳酸菌の胞子数を安定的に維持することで、培養後に得られる有胞子性乳酸菌の胞子数を正確にすることであるため、次亜塩素酸ナトリウムで処理した試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数は、次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数に近いほど、より好適である。
【0035】
表1及び
図3の結果から、試料がより高濃度の次亜塩素酸ナトリウム処理を経るほど、そのうちの有胞子性乳酸菌の胞子数がより少なくなることが分かる。これは、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムは試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数を処理前と大差なく安定的に維持することができないことを意味している。従って、表1及び
図3の結果から、試料中の有胞子性乳酸菌の栄養細胞を除去し、且つ有胞子性乳酸菌の胞子数を維持することを同時に達成するには、使用する次亜塩素酸ナトリウム濃度が1000ppmを超えてはならず、また、濃度は約500ppmが好適であることが分かる。
【0036】
【実施例3】
【0037】
試料の前処理パラメータの試験(2)
【0038】
有胞子性乳酸菌試料を、それぞれ濃度500ppmの次亜塩素酸ナトリウムで異なる時間(0、30、60、180秒)処理した後、それぞれ改良GYEA培地に接種して、55℃で2日間培養した後、黄色の輪を有するコロニーを選択し、コロニーの菌数をカウントして、有胞子性乳酸菌の胞子数を得た。結果は表2に示す通りである。そのうち、各データ間には顕著な差異(Duncan's test,p<0.05)があった。さらに、次亜塩素酸ナトリウムで処理していない有胞子性乳酸菌の胞子数を基準として、異なる時間の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た後の有胞子性乳酸菌の胞子の相対的割合を算出した。結果は
図4に示す通りである。上述したように、次亜塩素酸ナトリウム処理を経た後の試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数と、次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数との差がより大きいほど、有胞子性乳酸菌の胞子数を安定的に維持することができないことを示している。
【0039】
表2及び
図4の結果から、30秒間の次亜塩素酸ナトリウム溶液処理を経た後の試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数は、次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていないものに近く、試料が60秒間の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た場合には、そのうちの有胞子性乳酸菌の胞子数が次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない試料よりも減少しており、試料が180秒間の次亜塩素酸ナトリウム処理を経た場合には、そのうちの有胞子性乳酸菌の胞子数が次亜塩素酸ナトリウム処理を経ていない試料中の有胞子性乳酸菌の胞子数よりも大幅に増加していた。上述の結果は、試料中の有胞子性乳酸菌の栄養細胞を除去し、且つ有胞子性乳酸菌の胞子数を維持することを同時に達成するには、次亜塩素酸ナトリウムで試料を処理する時間は60秒以下でなければならず、また、処理時間は約30秒が好適であることを示している。
【0040】
【実施例4】
【0041】
動物実験
【0042】
8週齢雄性SDラット(台湾、BioLASCO公司から購入)16匹を取り、体重はそれぞれ336.6±16.7gであり、22±1℃、湿度60±5%、12時間明暗サイクルの制御環境内で飼育した。
【0043】
SDラットをランダムに2群に分け、そのうちの1群をコントロール群、もう1群を有胞子性乳酸菌群(以下はBC菌群と略称する)とし、試験期間中は各ラット群に同じ飲食を供給したが、異なる点として、BC菌群には有胞子性乳酸菌の胞子(5x107 CFU/g)を毎日投与した。試験期間中、各SDラット群の摂食量及び体重を毎日記録し、試験28日目に新鮮な糞便を採取した。採取した糞便を-20℃の環境で保存した。試験終了後、各SDラット群は犠牲にした。
【0044】
記録の結果によれば、SDラットの平均摂食量は28.4~28.9g/dayであり、且つ試験終了における平均最終体重は434.3~439.0gであった。
【実施例5】
【0045】
腸管及び糞便中の細菌形態の検出
【0046】
各ラット群の糞便を採取し、糞便の含水率、重量及びpH値を検出した。結果は表3に示す通りである。
【0047】
ラットの盲腸液、結腸内容物及び糞便を採取し、それぞれ1:10(w/v)の割合で無菌リン酸緩衝生理食塩水中に懸濁させた。リン酸緩衝生理食塩水で10倍に連続希釈して、細菌のカウントに必要な濃度を得た。
【0048】
有胞子性乳酸菌の胞子をカウント(spore counts,SCs)するため、改良GYEA培地に塗布する前に、各ラット群の糞便を取り、先にそれぞれ濃度500ppmの次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)溶液で30秒間処理した。
【0049】
各ラット群の次亜塩素酸ナトリウム溶液処理を経ていない糞便及び次亜塩素酸ナトリウム溶液処理を経た糞便を、改良GYEA培地上で55℃下において2日間培養し、黄色い輪を有するコロニーを選択して、コロニーの菌数をカウントし、コロニーが次亜塩素酸ナトリウム溶液処理を経ていない糞便からのものである場合、カウントされた数量は有胞子性乳酸菌の総カウント数(total viable counts,TCs)であり、栄養細胞及び胞子を含むが、コロニーが次亜塩素酸ナトリウム溶液処理を経た糞便からのものである場合、カウントされた数量は有胞子性乳酸菌の胞子数であり、次に有胞子性乳酸菌の総カウント数から有胞子性乳酸菌の胞子数を引くと、栄養細胞の数量が得られる。結果は表4及び
図5の通りである。表4中、数量が1x10
2 CFU/g未満は未検出であった。
【0050】
全てのコロニーはいずれも実施例1に示す方法の処理を経ており、且つ下記のRNAプライマー対により16S rRNAの確認を行っており、結果によって、本実施例中で検出及びカウントしたコロニーと、NCBI BLASTのデータベース中の有胞子性乳酸菌との類似度は99.8%であると確定することができ、本実施例中で培養されたコロニーはいずれも有胞子性乳酸菌コロニーであることが示された。
【0051】
フォワードプライマー(F):5'-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3';
【0052】
リバースプライマー(R):5'-ACGGTTACCTTGTTACGACTT-3'。
【0053】
【0054】
【0055】
表3の結果から、コントロール群と比較すると、有胞子性乳酸菌の胞子を投与することで、糞便の湿度が増加し、重量を増加させることができるだけでなく、有胞子性乳酸菌が乳酸を生成するため、糞便のpH値を低下させることが分かる。
【0056】
表4の結果から、コントロール群中、有胞子性乳酸菌の胞子の存在は検出されず、BC菌群は、連続28日間の有胞子性乳酸菌の胞子の経口試験を経た後、SDラットの糞便中にそれぞれ3.64x105 CFU/gの胞子と6.31x105 CFU/gの栄養細胞を発見することができた。
【0057】
さらに、
図5の結果から、BC菌群のSDラットの盲腸液、結腸内容物及び糞便中、有胞子性乳酸菌の胞子と有胞子性乳酸菌の栄養細胞との割合は、それぞれ2.3:7.7、2.1:7.9及び3.9:6.1であった。この結果は、有胞子性乳酸菌の栄養細胞が腸管と糞便のいずれにも出現し、且つ盲腸及び結腸における割合が糞便中を上回ることを示しており、有胞子性乳酸菌の胞子再形成(resporulation)が結腸の遠位、排便前に生じていることが推測できる。
【0058】
上述の結果から、本発明が開示する方法によって糞便を培養すると、確かに糞便中の有胞子性乳酸菌の総数及び有胞子性乳酸菌の胞子数を知ることができ、これにより、有胞子性乳酸菌の栄養細胞数を正確且つ迅速に推計可能であり、有胞子性乳酸菌の栄養細胞数が増加若しくは比較的高い場合、又は有胞子性乳酸菌の胞子数が減少若しくは低下した場合、その有胞子性乳酸菌株が腸管内で発芽でき、例えば良好な酸産生能を有するなど、栄養細胞の健康促進効果が発揮されることを示している。反対に、有胞子性乳酸菌の栄養細胞数が減少若しくは比較的低い場合、又は有胞子性乳酸菌の胞子数が増加若しくは比較的高い場合、その有胞子性乳酸菌株の健康促進効果は良くないことを示している。
【0059】
従って、本発明が開示する方法は、消化管内で有胞子性乳酸菌が発芽して栄養細胞となる能力を知るのに用いることができ、これにより、個体内に投与されて入った有胞子性乳酸菌株が腸管の健康改善又は維持に役立ち得るか否かの評価に用いることができる。
【実施例6】
【0060】
糞便中の短鎖脂肪酸の検出
【0061】
最初に糞便試料を1:10(w/v)の割合で0.9%(w/v)の冷塩水と均質化し、1006gで10分間遠心分離した後、上澄み液2mLを取り、イソカプロン酸10μL(内部標準)及び硫酸20μL 50%(w/v)と混合し、エチルエーテルで抽出した後、カラム(Agilent J&W HP-INNO Wax GC Column,30m,0.25mm. 0.25μm)を用いてガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器でエーテル層1μLを解析し、そのうち、7mL/minの流速でヘリウムガスをキャリアガスとして提供した。解析条件は以下の通りである。初期オーブン温度80℃下で1分間、20℃/minの速度で140℃まで昇温、その後140℃下で1分間、次に20℃/minの速度で220℃まで昇温、220℃で2分間。サンプルインジェクターと検出器の温度はそれぞれ140℃と250℃とした。各ラット群の糞便中の短鎖脂肪酸の検出結果は
図6に示す通りである。
【0062】
図6の結果から、BC菌群のSDラットは、有胞子性乳酸菌の胞子が投与されたことで、酢酸(96.1から147.7mol/g糞便)及び酪酸(34.9から99.0mol/g糞便)の急激な上昇が生じたが、プロピオン酸の含有量は顕著に上昇しなかったことが分かる。全体的には、有胞子性乳酸菌の胞子を投与した後、胞子の発芽・増殖が短鎖脂肪酸の総濃度を約1.7倍(169.3から279.2mol/g糞便)に高めることができた。
【0063】
この結果を前述の実施例の結果と総合すると、有胞子性乳酸菌の胞子が消化管内で活性化されて栄養細胞になると、消化管内で乳酸などの物質が生成され、元々消化管内に常在する酸生成細菌(acid-producing bacteria)を増殖且つ酸産生することができるようにし、これにより、消化管内の短鎖脂肪酸の総濃度を高めることが合理的に理解できる。
【0064】
前述の実施例の結果を総合すると、本発明が開示する複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)は、糞便試料中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量及び有胞子性乳酸菌の胞子数を検出することにより、糞便試料の提供者の体内に入った有胞子性乳酸菌が活性化又は再発芽して栄養細胞になることができたか否かを知ることができ、体内に入った有胞子性乳酸菌の胞子が栄養細胞に変換された数量が高い場合、体内に投与された有胞子性乳酸菌又は有胞子性乳酸菌を含む組成物が良好な生理活性を有しており、腸内環境を改善し、腸内の健康を促進し得ることを示している。
【要約】
【課題】 本発明は複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)及びその用途を得ることにある。
【解決手段】 本発明は、複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法(VESPOtechTM)及びその用途を開示する。そのうち、複雑な微生物検体中に含まれる有胞子性乳酸菌の数量を検出する方法は、改良を経た培地を提供し、所定温度下で測定対象試料を培養した後、改良を経た培地上の色の変化を根拠に有胞子性乳酸菌又はその胞子を含むコロニーを識別することで、有胞子性乳酸菌の総数を算出することができ、有胞子性乳酸菌の胞子数を推計することができる。本発明が開示する検出方法は、試料中の有胞子性乳酸菌の活性化の有無又はその活性化の良否を検出し、有胞子性乳酸菌株の腸内健康を促進する機能を評価するのに使用することができる。
【選択図】 なし