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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】植生シートおよび緑化用補強土壁
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
E02D17/20 102B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021182523
(22)【出願日】2021-11-09
【審査請求日】2021-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和3年9月1日と14日と18日、和歌山県内の施工現場(西牟婁郡すさみ町里野地内 一般国道42号 すさみ串本道路 施工者:木下建設株式会社)に本願発明に係る植生用シートを納入。(2)令和3年8月24日、秋田県内の施工現場(鹿角郡小坂町 国道103号 施工者:株式会社タナックス)に本願発明に係る植生用シートを納入。(3)令和3年8月30日と9月13日と24日、熊本県内の施工現場(玉名郡南関町豊永 東谷桑水線 施工者:有限会社青空産業)に本願発明に係る植生用シートを納入。(4)令和3年7月1日、熊本県内の施工現場(阿蘇郡小国町井野地区 施工者:株式会社ミトマ)に本願発明に係る植生用シートを納入。(5)令和3年8月18日と9月13日、宮崎県内の施工現場(西都市穂北地内 県道313号 杉安高鍋線 施工者:株式会社伊達組)に本願発明に係る植生用シートを納入。(6)令和3年5月19日と8月31日、宮崎県内の施工現場(えびの市内竪地内 国道447号 施工者:株式会社坂下組)に本願発明に係る植生用シートを納入。(7)令和3年5月21日、鹿児島県内の施工現場(志布志市有明町伊崎田 山ノ口・宝永線 施工者:株式会社共栄開発)に本願発明に係る植生用シートを納入。(8)令和3年4月22日、宮崎県内の施工現場(都城市高崎町笛水地内 一般市道苗水前田線 施工者:今村工業)に本願発明に係る植生用シートを納入。(9)令和3年10月4日、鹿児島県内の施工現場(曽於市大隅町月野 県道63号志布志福山線 施工者:株式会社渡辺組)にて本願発明に係る植生用シートを納入。(10)令和3年10月4日、鹿児島県内の施工現場(曽於市大隅町月野 県道63号志布志福山線 施工者:鶴田建設株式会社)にて本願発明に係る植生用シートを納入。 以上、いずれも公開者(納入者)は前田工繊株式会社。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】辻 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩崇
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-159104(JP,A)
【文献】特開2000-32809(JP,A)
【文献】特開平2-35116(JP,A)
【文献】特開平8-187012(JP,A)
【文献】特開平10-68130(JP,A)
【文献】特開2001-303575(JP,A)
【文献】特開2011-153460(JP,A)
【文献】特開2013-238082(JP,A)
【文献】特開平8-154500(JP,A)
【文献】特開平11-61829(JP,A)
【文献】特開2008-248561(JP,A)
【文献】特開2019-201552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
階層的に形成した複数の盛土層の間に盛土補強材を敷設して形成した補強盛土と、盛土補強材の一端を接続して、補強盛土の法面側に位置させた壁面材とを具備した補強土壁用の植生シートであって、
表面と裏面を有し、裏面に植生種子や肥料等の植生要素を保持させた透水性および通気性を有するシート本体と、
前記シート本体の表面に一体に付設した補強ネットとを積層した二層構造を呈し、
前記シート本体が非水解性の化学繊維と水解性の化学繊維とを組み合わせた混綿からなり、
前記補強ネットが帯状の経糸と緯糸が交差して縦長の網目を有し、
ニードルパンチ法により前記シート本体の表面に補強ネットが一体に付設されていることを特徴とする、
植生シート。
【請求項2】
前記シート本体および補強ネットが盛土層の法面側を包持可能な全長を有することを特徴とする、請求項1に記載の植生シート。
【請求項3】
前記シート本体の裏面に塗布した水解性の下地膜と被覆膜を介してシート本体の裏面に植生要素を保持させたことを特徴とする、請求項1または2に記載の植生シート。
【請求項4】
前記補強ネットが化学繊維製のフラット・ヤーンからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の植生シート。
【請求項5】
前記補強ネットの縦長の網目の横幅が1.2mm、縦幅が6.0mmであることを特徴とする、請求項4記載の植生シート。
【請求項6】
前記シート本体がポリエステル繊維とレーヨン繊維を組み合わせた混綿からなることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の植生シート。
【請求項7】
階層的に形成した複数の盛土層の間に盛土補強材を敷設して形成した補強盛土と、盛土補強材の一端を接続して、補強盛土の法面側に位置させた壁面材と、壁面材の内側に配置した植生シートを具備した緑化用補強土壁であって、
前記請求項1乃至6の何れか一項に記載の植生シートを使用し、
補強ネットを形成した前記植生シートの表面を壁面材の裏面に向けて取り付け、植生種子や肥料等の植生要素を予め保持させた前記植生シートの裏面を補強盛土に接面させて位置させたことを特徴とする、
緑化用補強土壁。
【請求項8】
緑化用補強土壁の法面に小段部を形成し、該小段部を前記植生シートの余長部で被覆したことを特徴とする、請求項7に記載の緑化用補強土壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種子等の流出を抑えつつ、発芽環境を改善して良好な好適な植生環境を維持できる植生シートおよび緑化用補強土壁に関する。
【背景技術】
【0002】
図7を参照して説明すると、緑化用の補強土壁は、帯状のエキスパンドメタルをL字形に折曲した壁面材20と植生シート60と補強盛土を組み合せた土構造物である。
施工にあたっては、壁面材20を起立状態で敷設する工程と、壁面材20の背面に帯状の植生シート60を取付ける工程と、壁面材20の背面にジオグリッド等の帯状の盛土補強材12を接続する工程と、壁面材20の背面側に盛土層11を構築する工程とを繰り返すことで所定の高さの補強土壁を構築している(特許文献1)。
【0003】
上下の壁面材20の積み重ねにあたり、複数の起立部12を段差のない連続した同一平面上に揃えて補強土壁の前面を緑化する形態が知られている。
【0004】
植生シート60としては、紙製や不織布製のシート状物に植生種子や肥料等を保持させた単層または複数層からなる多種の植生シートが提案されている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-159104号公報
【文献】特開2000-32809号公報
【文献】特開平2-35116号公報
【文献】特開平8-187012号公報
【文献】特開平10-68130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の補強土壁を緑化技術にはつぎのような問題点を内包している。
<1>図7(A)に示すように、植生シート60が紙製である場合は、補強土壁の連続した表面を表流水Wが流下する際に植生シート60が濡れて溶け出し、植生シート60の内部に担持させた植生種子や肥料等が流出して植生不良が生じ易い。
<2>補強土壁の表面が植生不良に陥ると、植生シート60が壁面材20の網目を通じて露出するため、短期間のうちに植生シート60が紫外線劣化によりボロボロに破損する。
<3>植生シート60が紫外線劣化により破損すると、背面土砂が壁面材20の網目を透過して流出する。
壁面材20の背面土砂の流出に伴い、盛土層11の内部に空隙Sが形成され、この空隙Sが経時的に拡大していく。
<4>盛土層11の空隙Sが大きくなると、図7(B)に示すように、支持地盤を失った壁面材20が変位して補強土壁の表層崩壊の原因となる。
【0007】
さらに従来の植生シートにはつぎのような問題点を内包している。
<1>従来の植生シート60は複数の層を一体化する手段として接着剤を用いると、硬質の接着層が植物の発芽とその後の生育を阻害する。
<2>植生シート60が不織布製の場合、シート本体の密度を高くすれば、植生シート60による背面土砂の流出防止効果を高められるが、シート本体が密実化するために植物の発芽生育性が悪くなり、反対に植物の発芽生育性を優先してシート本体の密度を低くすれば、植生種子、肥料、背面土砂等が流出し易くなる。
このように従来の植生シート60は、植生種子の良好な生育環境を維持することと、植生種子、肥料、背面土砂等の流出を防止することを同時に達成することが困難であった。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは以上の問題点を解消できる、植生シートおよび緑化用補強土壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、階層的に形成した複数の盛土層の間に盛土補強材を敷設して形成した補強盛土と、盛土補強材の一端を接続して、補強盛土の法面側に位置させた壁面材とを具備した補強土壁用の植生シートであって、表面と裏面を有し、裏面に植生種子や肥料等の植生要素を保持させた透水性および通気性を有するシート本体と、前記シート本体の表面に一体に付設した補強ネットとを積層した二層構造を呈し、前記シート本体が非水解性の化学繊維と水解性の化学繊維とを組み合わせた混綿からなり、前記補強ネットが帯状の経糸と緯糸が交差して縦長の網目を有し、ニードルパンチ法により前記シート本体の表面に補強ネットが一体に付設されている。
本発明の他の形態において、前記シート本体および補強ネットが盛土層の法面側を包持可能な全長を有する。
本発明の他の形態において、前記シート本体の裏面に塗布した水解性の下地膜と被覆膜を介してシート本体の裏面に植生要素を保持させた。
本発明の他の形態において、前記補強ネットが化学繊維製のフラット・ヤーンからなる。
本発明の他の形態において、前記補強ネットの縦長の網目の横幅が1.2mm、縦幅が6.0mmであることが望ましい。
本発明の他の形態において、前記シート本体はポリエステル繊維とレーヨン繊維を組み合わせた混綿からなることが望ましい。
本発明は、階層的に形成した複数の盛土層の間に盛土補強材を敷設して形成した補強盛土と、盛土補強材の一端を接続して、補強盛土の法面側に位置させた壁面材と、壁面材の内側に配置した植生シートを具備した緑化用補強土壁であって、前記した何れかひとつの植生シートを使用し、補強ネットを形成した前記植生シートの表面を壁面材の裏面に向けて取り付け、植生種子や肥料等の植生要素を予め保持させた前記植生シートの裏面を補強盛土に接面させて位置させた。
本発明の他の形態において、緑化用補強土壁の法面に小段部を形成し、該小段部を前記植生シートの余長部で被覆するとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、少なくともつぎの一つの効果を奏する。
<1>植生シートを構成するシート本体が土砂の流出を抑制するだけでなく、植生種子、肥料等の植生要素の流出を確実に防止できる。
<2>植生要素の敷設手段として、水解性の下地膜と被覆膜を使用することで、植生シートが吸水するだけで水解性の下地膜と被覆膜が消失するので、良好な植生環境が維持される。
<3>植生シートの網目を縦長の長方形に形成することで、植物の生育が促進されて植生不良の問題を回避することができる。
<4>生育した緑化植物の葉で補強土壁の表面を紫外線から遮断できるので、植生シートの紫外線劣化による損傷を未然に防止できる。
<5>植生シートの表面が起毛状態を呈して発芽環境がよいので、植生シートに保持された植生種子だけでなく、飛来種子による植生効果が高くなる。
したがって、補強土壁の表面の植生状態を長期間に亘って持続することができる。
<6>植生シートの表面側を覆う補強ネットが緩衝機能を発揮して雨滴の衝撃を吸収するので、植生シートによる土砂や植生要素等の吸出し抑制効果が高くなる。
<7>ポリエステル繊維等の非水解性の化学繊維と、レーヨン繊維等の水解性の化学繊維を混合した不織布製のシート本体は、柔軟で土との密着性がよく、表面水の流下や雨滴の作用に対して耐侵食性が高いうえに、補強ネットによる雨滴の衝撃吸収作用により、シート本体の耐侵食性がさらに高くなる。
<8>長期間が経過した後にレーヨン繊維等の水解性の化学繊維が分解されたとしてもポリエステル繊維等の非水解性の化学繊維が残るため、育成後の植物から供給される種子や周辺から飛来する種子を捕捉することにより永続的な植生サイクルが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】盛土層側からみた施工途中における本発明に係る緑化用補強土壁の斜視図中詰材成形用型枠装置の説明図で、(A)は中詰材成形用型枠装置の完成図、(B)は中詰材成形用型枠装置の分解組立図
図2】一部を省略した植生シートと壁面材の斜視図
図3】一部を省略した植生シートの部分拡大図
図4】緑化用補強土壁の施工方法の説明図で、(A)は一段目の壁面材と盛土補強材の設置工の説明図、(B)は壁面材の背面に一段目の盛土層を形成するまでの説明図、(C)は一段目の盛土層の上に二段目用の壁面材と盛土補強材の設置工の説明図
図5】補強盛土の法面部の縦断面図で、(A)は吸水前における補強盛土の法面部の縦断面、(B)は植生時における補強盛土の法面部の縦断面
図6】植生した補強盛土の法面部の部分縦断面図
図7】本発明が前提とする緑化用補強土壁の縦断面図で、(A)は盛土土砂の流出初期における緑化用補強土壁の縦断面図、(B)は壁面材の変位時における緑化用補強土壁の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0013】
1.補強土壁の構築用資材
図1を参照して説明すると、補強土壁は、階層的に形成した複数の盛土層11の間に盛土補強材12を敷設して形成した補強盛土10と、盛土補強材12の一端を接続して、補強盛土10の法面側に位置させた壁面材20と、壁面材20の内側に配置し、各盛土層11の法面側を巻き込んで抱持する植生シート30とを具備する。
【0014】
<1>盛土材料
補強盛土10を構成する盛土材料としては、一般的な土砂や、現場で発生する掘削土を用いることも可能である。
【0015】
<2>盛土補強材
盛土補強材12は、複数の盛土層11内に敷設して盛土全体の安定性を高め、併せて盛土補強材12の上下面と盛土層11との間の摩擦に起因した引き抜き抵抗により壁面材20の裏面に作用する土圧を支持するために機能する面状補強材である。
盛土補強材12としては、例えば、ジオテキスタイル、ジオグリッド、ジオネット又は防錆処理した金網材等の可撓性を有する公知の面状補強材を使用できる。
【0016】
<3>壁面材
壁面材20は、盛土層11の法面側の変形と崩落を抑えるための形状保持部材であり、本例では帯網を断面略L字形に折曲して水平部21と起立部22とを有する。
壁面材20の素材としては、エキスパンドメタル、溶接金網、織製金網、有孔鋼板等を使用できる。
水平部21に対する起立部22の交差角度は適宜選択が可能である。
水平部21と起立部22の間に補強用の斜材23を取り付けてあるが、起立部22が土圧に対抗し得るだけの十分な強度を有していれば斜材23は省略可能である。
【0017】
<4>植生シート
植生シート30は補強土壁の表面を緑化するためのシートであり、盛土層11の法面側を抱持可能なように、壁面材20の水平部21および起立部22の内側の縦断寸法を越えた全長を有している。
図3を参照して説明すると、植生シート30は、植生種子や肥料等を保持させるシート本体31と補強ネット35とを具備し、シート本体31の片面に補強ネット35を被覆して一体化した二層構造(二重構造)を呈する。
【0018】
<4.1>シート本体
シート本体31は、土粒子の透過と移動を阻止しつつ、植物の発芽を許容する性質を有する厚さが2mmほどの透水性および通気性を有するシート状物である。
シート本体31の素材としては、非水解性の化学繊維と水解性の化学繊維を適宜の混合比率で組み合わせた混綿からなる。
非水解性の化学繊維と水解性の化学繊維は織らずに絡み合わせてウェブ状に形成する。
繊維の形態は、短繊維(ステープル)と長繊維(フィラメント)を使用できるが、実用上は短繊維が好適である。
【0019】
シート本体31の素材に非水解性の化学繊維と水解性の化学繊維の組み合わせを採用したのはつぎの理由による。
水解性の化学繊維を用いるのは、水解性の化学繊維は親水性が高い性質を有しているので、シート本体31の保水量を高めて植生に必要な植生環境を長期間に亘って維持するためである。
非水解性の化学繊維を併用するのは、長期間が経過した後に水解性の化学繊維が分解されたとしても、非水解性の化学繊維が残り、非水解性の化学繊維を主体とした植生基盤であるシート本体31として持続するためである。
【0020】
<4.1.1>非水解性の化学繊維の例示
非水解性の化学繊維としては、ポリエステル系繊維,ポリアミド系繊維,ポリビニルアルコール系繊維,ポリアクリロニトリル系繊維,ポリスチレン系繊維,ポリ塩化ビニル系繊維,アセテート系繊維,ポリエチレン系繊維,ポリプロピレン系繊維等を適用できる。
【0021】
<4.1.2>水解性の化学繊維の例示
水解性の化学繊維としては、レーヨン系繊維等を適用できる。
【0022】
<4.1.3>実用上の組合せ
実用上、シート本体31の素材としては、ポリエステル繊維とレーヨン繊維の組合せが好適である。
【0023】
<4.2>補強ネット
補強ネット35はシート本体31の表面31a側に一体化してシート本体31の補強機能と緩衝機能を有するネット材であり、帯状の経糸36と緯糸37の間に縦長の網目38を有する。緩衝機能とは雨滴の衝撃に対する緩衝機能である。
【0024】
<4.2.1>素材
補強ネット35は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルム素材を短冊状にカットした後に延伸して形成した平らなフラット・ヤーンが使用可能である。
補強ネット35にフラット・ヤーンを用いると、植生ネット20の可撓性が増して壁面材や土砂に対して馴染み易くなる。
【0025】
<4.2.2>補強ネットの網目寸法
補強ネット35の網目38は壁面材20の網目(20~30mm)より格段に小さい寸法関係にある。
補強ネット35の網目38は縦長とし、壁面材20の起立部22に取り付ける際は網目38を縦長に位置させる。
植生種子の発芽性と生育性に最適な網目38を検証したところ、網目38は正方形より長方形が好ましいことが判明した。
さらに網目38の横幅Xと縦幅Yの寸法を調べたとこ、横幅Xが1.2mm、縦幅Yが6.0mmの寸法が双葉系の植生種子の生育に適していることが判明した。
【0026】
網目38の横幅Xが1.2mmより小さいと植生植物の茎の生育が阻害されるうえに周辺から飛来する種子を捕捉することが困難となる。横幅Xが1.2mmより大きいと植生種子32aや裏込め土の細粒分が網目38を透過して流出し易くなる、といった問題が生じる。
網目38の縦幅Yは6.0mmより小さいと網目38に発芽が阻害されるうえに周辺から飛来する種子を捕捉することが困難となる。縦幅Yが6.0mmより大きいと植生種子32aや裏込め土の細粒分が網目38を透過して流出し易くなる、といった問題が生じる。
本発明では、植生植物の生育性と外来種子の捕捉性を高め、さらに植生種子32aや裏込め土の細粒分の流出を抑制するために、網目38を縦長に形成すると共に、網目38を上記した寸法に設定した。
【0027】
<4.3>シート本体と補強ネットの接合手段
ニードルパンチ法を使用してシート本体31と補強ネット35を一体化する。
シート本体31に補強ネット35を重ねた積層体の片面または両面に対して多数のニードルを突き刺すことで繊維(原綿等)同士を交絡させて一枚ものの植生シート30を得る。
【0028】
ニードルパンチ法を使用して積層体の両側から全面に亘って多数のニードルを突き刺すと、二層を一体化できることの他に、シート本体31の表面31a側と裏面31bの両面が起毛状態となって、飛来種子を含む植生種子の定着性と発芽性がよくなる。
【0029】
<4.4>植生要素(植生種子、肥料)
植生シート30にはシート本体31の裏面31b側に植生種子32aや肥料32b等の植生要素を予め付設しておく。
植生種子32aは適宜選択して使用する。
植生種子32aとしては、例えば厳しい環境下でも発芽し易いシバ科、マメ科、イネ科等の双葉系種子や、周辺環境に適した郷土植物の種子を選択してもよい。
【0030】
<4.4.1>植生要素の付着手段
シート本体31と補強ネット35を一体化したシート本体31を対象として、シート本体31の裏面31bに植生種子32aや肥料32b等の植生要素を付着する。
植生要素の付着方法としては、例えばシート本体31の裏面31bの全面に水解性のりからなる下地膜33を塗布した直後に、裏面31b全面に植生要素を散布または吹付けして付着させ、つづいてシート本体31の裏面31bの全面に水解性のりからなる被覆膜34を塗布して乾燥させることで、植生シート30の裏面31bに植生要素を付着することができる。
【0031】
<4.4.2>水解性のりを用いた理由
植生種子32aや肥料32b等の植生要素の付着手段として水解性のりを用いたのは、植生シート30の保管時や運搬時においては、硬化した下地膜33と被覆膜34が植生要素の剥がれ落ちを確実に防止して植生要素を損傷から護り、緑化目的で使用するときは、植生シート30に吸水させることで水解性の下地膜33と被覆膜34を消失させて植生要素を露出させるためである。
【0032】
[補強土壁の構築方法]
図4を参照して補強土壁の構築方法について説明する。
【0033】
<1> 壁面材の設置と補強材の敷設(図4(A))
地盤G上に壁面材20の水平部21を接地させるとともに、壁面材20の水平部21に盛土補強材12の一端を連結した後、盛土補強材12を水平に敷設する。
【0034】
<2>植生シートの取付け(図4(A))
壁面材20の水平部21と起立部22の裏側に跨って植生シート30の一部を取り付ける。壁面材20の水平部21からはみ出した植生シート30の余長部を壁面材20の前方に垂らしておく。
【0035】
植生シート30の余長部は、後出するように補強土壁の全面に階段状の小段部13を形成した際に、小段部13の全面を植生シート30で被覆可能な長さを有している。
【0036】
植生シート30の取り付けに際し、補強ネット35を設けた表面31a側を壁面材20の水平部21および起立部22の裏面に対向させ、植生シート30の裏面31b側を露出させて取り付ける(図2)。
【0037】
植生シート30の位置ずれを防止するため、断面コ字形のキャップ24を壁面材20の起立部22の頂部に嵌着して植生シート30を位置決めするとよい(図2)。
【0038】
<3>盛土工(図4(B))
盛土補強材12の上面に盛土材料を撒き出し、壁面材20の起立部22の高さに達するまで盛土材料を転圧して一段目の盛土層11を構築する。
【0039】
一段目の盛土層11を形成したら、壁面材20の前方に垂らしていた植生シート30の余長部を盛土層11の上面に敷設して一段目の盛土層11の法面側を植生シート30で巻き返す。
【0040】
<4>工程の繰り返し(図4(C))
一段目の盛土層11の上面に、既述した各工程を繰り返して二段目以降の盛土層11を順次構築して所定の高さの補強土壁10を得る。
【0041】
<4.1>小段部(図4(C))
二段目以降は壁面材20の設置位置を後方にずらして、上下の壁面材20の間に小段部13を形成して、補強土壁10の表面を階段状に形成する。
一段目の盛土層11に巻き返した植生シート30の余長部の端部を二段目の盛土層11で拘束する。
下位の植生シート30の余長部が小段部13を被覆するので、小段部13の盛土土砂が露出しない。
小段部13の奥行寸法は適宜選択が可能である。作業員が登坂可能な寸法にしておくと、施工後に小段部13を点検用通路として活用できる。
【0042】
[植生シートの各種作用]
植生シートによる各種作用について説明する。
【0043】
<1>土砂流出の防止作用
小段部13を含めて補強盛土10の法面全面を植生シート30が隙間なく被覆して、盛土土砂の露出箇所がない。
そのため、補強土壁の表面を表流水が流下する際に、植生シート30が吸水しても植生シート30は溶け出さずに補強盛土10の法面側の土砂を抱持している。
さらに、植生シート30を構成するシート本体31が土粒子の透過を阻止するので補強盛土10の土砂流出を確実に防止できる。
【0044】
例えば、ゲリラ豪雨が生じても、植生シート30の表面31a側を覆う補強ネット35が緩衝機能を発揮して雨滴の衝撃を吸収して土砂の流出を抑制する。
【0045】
<2>植生作用
図5(A)は植生シート30が吸水する前の法面部を示していて、植生シート30の裏面31bに盛土層11の土砂が圧接している。
植生シート30が吸水すると、水解性の下地膜33と被覆膜34を消失して植生要素である植生種子32aや肥料32bが露出して発芽可能な環境が整う。
植生種子32aは堆肥32を含む盛土土砂を植生基盤として発芽する。植生種子32aから成長した緑化植物40は植生シート30のシート本体31および補強ネット35の網目38を貫通して地表に伸びる。
【0046】
補強土壁の小段部13も同様に良好な環境で緑化植物40が生育する(図6)。
【0047】
<3>外来種子による植生用
補強土壁の小段部13を植生シート30が表面31aを真上に向けて覆っている。
植生シート30の表面31aが起毛状態を呈して発芽環境がよいので、外来種子を小段部13で捕捉して流下し難い。
捕捉した外来種子は、植生シート30を貫通して盛土土砂に根入れして植生する。段部13を覆う植生シート30の表面31aが起毛構造を呈外部からの飛来種子が活着し易い。
このように、植生シート30が発芽環境に優れているため、予め植生シート30に付着させた植生種子32aだけでなく、後発的に付着する外来種子が生育するので、植生不良が生じにくい。
【0048】
<4>紫外線の影響
既述したように、小段部13を含めて補強盛土10の法面全面に緑化植物40が繁茂し、緑化植物40の多数の葉が小段部13を含む補強盛土10の法面全面を覆い、紫外線を遮断する。
そのため、壁面材20の裏面側に位置する植生シート30が紫外線に晒される時間を大幅に短縮できて、紫外線に起因した植生シート30の劣化破壊を回避することができる。
したがって、補強土壁の表面の植生状態を長期間に亘って持続することができる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・・補強盛土
20・・・・壁面材
30・・・・植生シート
【要約】
【課題】土砂や植生種子、肥料等の植生要素の流出を抑制しつつ、植生植物の良好な生育環境を保持できる、補強土壁用の植生シートおよび緑化用補強土壁を提供すること。
【解決手段】裏面に植生種子や肥料等の植生要素を保持させた透水性および通気性を有するシート本体31と、シート本体31の表面に一体に付設した補強ネット35を具備した植生シート30を使用し、植生シート30の表面を壁面材20の裏面に向けて取り付け、植生要素を予め保持させた植生シート30の裏面を盛土土砂に接面させて位置させた。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7