(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】テルルの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20220131BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220131BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20220131BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20220131BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220131BHJP
C22B 61/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C22B7/00 H
C22B7/00 G
C22B3/08
C22B3/12
C22B3/46
C22B3/44 101B
C22B3/44 101A
C22B61/00
(21)【出願番号】P 2018063197
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】ミルワリエフ リナート
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214092(JP,A)
【文献】特開2015-113267(JP,A)
【文献】特開2001-316735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル銅含有物をアルカリ浸出する第1アルカリ浸出工程、浸出後に固液分離してテルル浸出液とアルカリ浸出残渣に分離する工程、前記アルカリ浸出残渣を硫酸浸出する硫酸浸出工程を有するテルル回収方法において、第1アルカリ浸出工程で酸化還元電位を-200~-120mVの範囲にして浸出残渣中のテルルの残留を抑制することによって、該浸出残渣の硫酸浸出において酸化銅の選択的な浸出を行い、次いで、酸化銅が浸出された硫酸浸出残渣をアルカリ浸出する第2アルカリ浸出を行ってさらにテルルを浸出することを特徴とするテルルの回収方法。
【請求項2】
前記テルル銅含有物が銅の電解精製において副生するテルル化銅である請求項1に記載するテルルの回収方法。
【請求項3】
前記第1アルカリ浸出において、酸化還元電位を-180~-150mVの範囲にして浸出を行う請求項1または請求項2に記載するテルルの回収方法。
【請求項4】
前記第1アルカリ浸出および前記第2アルカリ浸出において、水酸化ナトリウム溶液を加えると共に空気または酸素ガスをマイクロバブルにして吹き込み、液温40~50℃で浸出を行う請求項1~請求項3の何れかに記載するテルルの回収方法。
【請求項5】
前記第1アルカリ浸出工程のテルル浸出液および前記第2アルカリ浸出工程のテルル浸出液を硫化浄液処理して生じた硫化殿物を固液分離し、一方、分離した液分のテルル液を中和して生じた酸化テルルを回収して塩酸溶解し、この塩酸溶解液に還元剤を導入してセレンを沈澱分離させ、この分離した液分のテルル含有溶液にさらに還元剤を導入して、テルルを還元析出させる請求項1~請求項4の何れかに記載するテルルの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルル化銅などのテルル含有物からアルカリ浸出によってテルルを回収する方法において、浸出工程の効率が良く、テルルの回収率が高いテルル回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製においては、電気銅および銅電解スライム(アノードスライム)が回収され、この銅電解スライム中に多量に残留する銅を取除くため、先ず、脱銅浸出を行い脱銅電解スライム(貴金属含有物)と銅、テルル、砒素等が含まれる浸出液を濾別回収する。次に、該浸出液中のテルルをテルル化銅の形で回収し、精製テルルの原料にしている。
【0003】
従来、このテルル化銅等からテルルが回収されている。例えば、特開2012-214307号公報(特許文献1)には、テルル化銅をアルカリ浸出し、そのアルカリ浸出残渣を酸溶解し、溶解液に含まれるテルルを鉄粉で還元して回収する方法が記載されている。また、特許第5591749号公報(特許文献2)には、テルル化銅のアルカリ浸出残渣を酸溶解し、この溶解液に含まれるテルルを亜硫酸ガス(SO2)で還元して回収する方法が記載されている。さらに、特許第5591748号公報(特許文献3)には、テルル化銅のアルカリ浸出残渣をセレン還元後液(塩酸、硫酸を含む混酸)で溶解し、該溶解液に含まれるテルルを亜硫酸ガス(SO2)で還元し、還元後のテルルはテルル化銅と混ぜてアルカリ浸出に使用する方法が記載されている。
【0004】
一方、特開2017-119623号公報(特許文献4)には、テルル化銅をアルカリ浸出したアルカリ浸出残渣を銅電解澱物と共に脱銅浸出に回すテルル回収方法が記載されている。この方法は、銅電解液中に銅電解殿物を溶解させて、該銅電解液中に銅およびテルルを含む不純物を浸出させ、これによって該銅電解殿物から銅を除去する脱銅浸出工程を行い、銅電解液と銅電解殿物を含む脱銅浸出処理槽中に、テルル化銅を浸出した後のテルルを含むアルカリ浸出残渣を供給する工程を含むことによって、処理プロセス全体でテルル回収効率を高めることを意図した方法である。
【0005】
この他に、Journal of MMIJ Vol 127 (2011) No.6,7(非特許文献1)には、テルル化銅とテルル還元滓を含むテルル原料を苛性ソーダによってアルカリ浸出したときの浸出率(82%)およびテルル採取率が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-214307号公報
【文献】特許第5591749号公報
【文献】特許第5591748号公報
【文献】特開2017-119623号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of MMIJ Vol 127 (2011) No.6,7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のテルル化銅のアルカリ浸出では、テルルの20重量%程度が浸出残渣に残るので、特許文献1~4に記載されているテルル回収方法は、何れも、アルカリ浸出残渣からテルルを回収することを意図した処理方法であって、アルカリ浸出の処理条件は従来と同様であり、アルカリ浸出についての改良は検討されていない。
また、特許文献1~4の方法は、原料のテルル化銅を出来るだけアルカリ溶解しようとしているので、同時にテルルの酸化が進んでアルカリ性溶液中に溶解し難いテルル酸ソーダ(Na2TeO4)が多く浸出残渣に含まれるようになる。
【0009】
本発明は、従来の上記テルル回収方法では十分に検討されていないテルル化銅の浸出条件を改善して、アルカリ浸出残渣にテルル酸ソーダを出来るだけ残さないようにし、このアルカリ浸出残渣の硫酸浸出において酸化銅の選択的な浸出を可能にしてテルルと銅の分離効果を高め、一方、硫酸浸出残渣の第2アルカリ浸出によってさらにテルルの浸出を促し、処理プロセス全体のテルルの回収効果を高めたテルル回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した、テルルの回収方法に関する。
〔1〕テルル銅含有物をアルカリ浸出する第1アルカリ浸出工程、浸出後に固液分離してテルル浸出液とアルカリ浸出残渣に分離する工程、前記アルカリ浸出残渣を硫酸浸出する硫酸浸出工程を有するテルル回収方法において、第1アルカリ浸出工程で酸化還元電位を-200~-120mVの範囲にして浸出残渣中のテルルの残留を抑制することによって、該浸出残渣の硫酸浸出において酸化銅の選択的な浸出を行い、次いで、酸化銅が浸出された硫酸浸出残渣をアルカリ浸出する第2アルカリ浸出を行ってさらにテルルを浸出することを特徴とするテルルの回収方法。
〔2〕前記テルル銅含有物が銅の電解精製において副生するテルル化銅である上記〔1〕に記載するテルルの回収方法。
〔3〕前記第1アルカリ浸出において、酸化還元電位を-180~-150mVの範囲にして浸出を行う上記〔1〕または上記〔2〕に記載するテルルの回収方法。
〔4〕前記第1アルカリ浸出および前記第2アルカリ浸出において、水酸化ナトリウム溶
液を加えると共に空気または酸素ガスをマイクロバブルにして吹き込み、液温40~50℃で浸出を行う上記〔1〕~上記〔3〕の何れかに記載するテルルの回収方法。
〔5〕前記第1アルカリ浸出工程のテルル浸出液および前記第2アルカリ浸出工程のテルル浸出液を硫化浄液処理して生じた硫化殿物を固液分離し、一方、分離した液分のテルル液を中和して生じた酸化テルルを回収して塩酸溶解し、この塩酸溶解液に還元剤を導入してセレンを沈澱分離させ、この分離した液分のテルル含有溶液にさらに還元剤を導入して、テルルを還元析出させる上記〔1〕~上記〔4〕の何れかに記載するテルルの回収方法。
【0011】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、テルル銅含有物をアルカリ浸出する第1アルカリ浸出工程、浸出後に固液分離してテルル浸出液とアルカリ浸出残渣に分離する固液分離工程、前記アルカリ浸出残渣を硫酸浸出する硫酸浸出工程を有するテルル回収方法において、第1アルカリ浸出工程で酸化還元電位を-200~-120mVの範囲にして浸出残渣中のテルルの残留を抑制することによって、該浸出残渣の硫酸浸出において酸化銅の選択的な浸出を行い、次いで、酸化銅が浸出された硫酸浸出残渣をアルカリ浸出する第2アルカリ浸出を行ってさらにテルルを浸出することを特徴とするテルルの回収方法である。
本発明のテルル回収方法の概略を
図1に示す。
【0012】
〔第1アルカリ浸出工程〕
本発明において処理するテルル銅含有物は、例えば、銅の電解精製において副生するテルル化銅(Cu2.72Te2)である。テルル銅含有物をアルカリ浸出する。テルル銅含有物のアルカリ浸出を第1アルカリ浸出工程と云う。第1アルカリ浸出工程で生じたアルカリ浸出液(テルル浸出液)とアルカリ浸出残渣は次工程で固液分離される。
【0013】
第1アルカリ浸出工程において、例えば、テルル化銅のスラリーに水酸化ナトリウム溶液を加えてテルルを浸出する。水酸化ナトリウムの濃度は、テルル化銅含有スラリーの濃度によって変わるが、スラリー濃度100~300g/Lの範囲において水酸化ナトリウム濃度は20~80g/Lの範囲が好ましい。
【0014】
空気または酸素ガスをマイクロバブルにして液中に吹き込めば、従来の浸出方法よりも低い液温40~50℃で浸出を行うことができる。酸素ガスをマイクロバブルにして吹込む場合、ガス吹込み量(L)はスラリー量(L)に対して、毎分0.1~0.5倍程度、空気の場合、0.5~2.5倍程度であれば良い。マイクロバブルの吹込みは、気液せん断型のマイクロバブル発生装置を用いると良い。
【0015】
第1アルカリ浸出工程において、スラリーに酸化還元電極を設け、酸化還元電位(ORP)を-200~-120mV(銀/塩化銀電極基準。以後も同基準。)の範囲にし、好ましくは酸化還元電位を-180~-150mVの範囲にして、アルカリ浸出を行う。酸化還元電位が-200mVを下回るとテルルが十分に酸化されないのでテルルの浸出率が低下する。一方、酸化還元電位が-120mVを上回るとテルルが過剰に酸化され、アルカリ性浸出液中に未溶解のテルル酸ソーダ(Na2TeO4)が生じて残渣に移行するので、テルルの浸出率が低下する。
【0016】
酸化還元電位が-200~-120mVの範囲では、テルルは4価に酸化されて液中に溶出し、この4価のテルルイオンは6価までは殆ど酸化されないため、テルル酸ソーダが殆ど生成せず、浸出残渣に残らない。なお、未反応のテルル化銅(0価テルル)が一部残留するが、次の第2アルカリ浸出工程で浸出される。酸化還元電位が-180~-150mVの範囲ではテルル酸ソーダは生成しない。
【0017】
〔第1固液分離工程〕
第1固液分離工程において、第1アルカリ浸出工程で生成したアルカリ浸出液(テルル浸出液)とアルカリ浸出残渣が固液分離される。この第1アルカリ浸出残渣は次の硫酸浸出工程において浸出処理される。
【0018】
〔硫酸浸出工程〕
硫酸浸出工程において第1アルカリ浸出残渣を硫酸浸出する。第1アルカリ浸出残渣は主に酸化第一銅(Cu2O)および未溶解のテルル化銅(Cu2.72Te2)であり、概ね20~30質量%のテルル化銅が残留している。このテルル化銅は硫酸では溶解し難いので浸出残渣に残るが、次の第2アルカリ浸出工程で浸出される。一方、酸化第一銅は硫酸銅を生じて液中に浸出される。
【0019】
なお、テルル酸ソーダ(Na2TeO4)は硫酸に溶解するので、第1アルカリ浸出残渣にテルル酸ソーダが含まれていると、硫酸浸出において、このテルルが銅と共に浸出するので銅を選択的に浸出することが出来なくなる。本発明の処理方法では、第1アルカリ浸出を酸化還元電位-200~-120mVの範囲にして行うので、テルル酸ソーダが殆ど生成せず、第1アルカリ浸出残渣の硫酸浸出においてテルルが殆ど浸出しないので、酸化銅を選択的に浸出させることができる。
【0020】
〔第2固液分離工程〕
第2固液分離工程において、硫酸浸出液と硫酸浸出残渣が固液分離され、この硫酸浸出残渣は次の第2アルカリ浸出工程において浸出処理される。
【0021】
〔第2アルカリ浸出工程〕
第2アルカリ浸出工程において、酸化銅が浸出された硫酸浸出残渣をアルカリ浸出して残渣中のテルルの浸出を促す。上記硫酸浸出残渣には未溶解のテルル化銅が主に含まれているので、このテルル化銅を第1アルカリ浸出と同様に溶解してテルルを浸出させる。
【0022】
第2アルカリ浸出は第1アルカリ浸出と同様の条件で行うことができる。具体的には、例えば、硫酸浸出残渣のスラリーに水酸化ナトリウム溶液を加え、銀/塩化銀電極を設け、酸化還元電位を-200~-120mVの範囲にし、好ましくは酸化還元電位を-180~-150mVの範囲にして、アルカリ浸出を行う。該硫酸浸出残渣に含まれるテルルは4価に酸化されてアルカリ溶液中に溶出する。一方、銅は酸化銅を生じて浸出残渣に残る。第2アルカリ浸出液(テルル浸出液)からテルルが回収される。また、酸化銅を含む残渣は銅製錬の原料に利用することができる。
【0023】
〔テルルの精製回収工程〕
テルル精製回収工程の一例を
図2に示す。図示するように、第1アルカリ浸出工程および第2アルカリ浸出工程のテルル浸出液に水硫化ソーダを加え、微量に溶存している銅イオン、鉄イオン、鉛イオンなどを硫化殿物として除去する。この硫化浄液したテルル含有溶液に硫酸を加えてpH5~6に中和してテルルを粗酸化テルルとして沈降させ、固液分離して回収する。なお、テルル化銅にはセレン化銅などの形態でセレン(Se)が含まれていることがあり、第1アルカリ浸出および第2アルカリ浸出において、セレンの一部は浸出されてテルル浸出液に含まれる。このテルルと共にセレンを含む浸出液をpH5~6に中和すると、テルルは二酸化テルルとして沈降するのに対して、セレンは液中に残るので、固形分のテルル酸化物と濾液に含まれるセレンを固液分離することができる。
【0024】
回収した粗酸化テルルを固液分離して回収し、これを塩酸性溶液に溶解し、重亜硫酸ソーダなどの還元剤を加えて液の酸化還元電位を400~370mVにして液中に残留する微量のセレンを還元し、析出したセレンを固液分離する。一方、固液分離したテルル含有液に、還元剤を320~300mVになるまで添加すると、液中のテルルが定量的に還元析出するので、この析出物を固液分離し、洗浄してテルル(精製テルル)を回収することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法では、第1アルカリ浸出工程の浸出残渣を硫酸浸出して銅分を除去し、該硫酸浸出残渣に残った未反応のテルル化銅を再び第2アルカリ浸出することによって、テルルの回収率を高めることができる。
アルカリ浸出工程において、酸化剤(空気または酸素)をマイクロバブルにして導入することによって、40℃~50℃の低温で、かつ、迅速にテルルをアルカリ浸出することができる。この低温浸出によって加熱に必要なコストを削減できる、また、テルル化銅中の不純物(シリカ、セレンなど)のアルカリ浸出速度が温度低下に従って低下するのでテルルとこれら不純物との分離効率が上昇する。
【0026】
酸化還元電位-200~-120mVの範囲、好ましくは酸化還元電位-180~-150mVの範囲にしてアルカリ浸出を行うことによって、Te(4+)→Te(6+)の過剰酸化に伴うテルル酸ソーダ(Na2TeO4)の形成による浸出残渣中のテルル残留を抑制し、アルカリ浸出残渣の硫酸浸出において、酸化銅を選択的に溶出させることができ、テルルと銅の分離効果を高めることができる。また、酸化銅の粒子が微細であるため選択的にかつ短時間で銅を浸出することができる。
【0027】
上記硫酸浸出において生じる残渣の主成分は、酸化銅を選択的に溶出させた残りの未反応のテルル化銅であるので、この硫酸浸出残渣を第1アルカリ浸出と同様にアルカリ浸出することができ(第2アルカリ浸出)、この二段階のアルカリ浸出によってテルルの回収率を高めることができる。具体的には、例えば、テルルの回収率を90%に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のテルル回収方法の概略を示す工程図。
【
図3】実施例1の第1アルカリ浸出工程の結果を示すグラフ。
【
図4】実施例1のアルカリ浸出前のテルル化銅のXRDチャート。
【
図5】実施例1のアルカリ浸出残渣のXRDチャート。
【
図8】実施例3の第2アルカリ浸出の結果を示すグラフ。
【
図9】比較例1のアルカリ浸出の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施例および比較例を以下に示す。
〔実施例1:第1アルカリ浸出工程〕
テルル含有率44質量%のテルル化銅と水酸化ナトリウム溶液(NaOH濃度30g/L)をスラリー濃度が100g/Lになるよう混合し、40℃まで加温した。スラリーに空気をマイクロバブルにして吹込み(空気吹込み量は1.75L/L-スラリー/分)テルル浸出を行った。浸出1時間後にスラリーの酸化還元電位(ORP)は-183mVに達した時点を終点として浸出を終了させた。テルル浸出率の経時変化を
図3に示した。また、アルカリ浸出前のテルル化銅(原料)のXRDチャートを
図4に示し、アルカリ浸出後残渣のXRDチャートを
図5に示した。
図3に示すように、ORP-200~-150mVの範囲でテルルの浸出率は約78%になり、従来のアルカリ浸出の浸出率(約80%)と遜色ない結果が得られた。
一方、
図4に示すように、原料中のテルルはテルル化銅(Cu
2.72Te
2)の形態で存在するが、アルカリ浸出後残渣(
図5)には主に酸化第一銅(Cu
2O)が残る。なお、
図5のXRDには未溶解のテルル化銅とテルル酸ソーダに帰属するピークは確認できない。
【0030】
〔実施例2:硫酸浸出工程〕
実施例1の第1アルカリ浸出で生じたアルカリ浸出残渣(Te濃度14質量%)を用い次に示す条件で硫酸浸出を行った。浸出条件は初期硫酸濃度200g/L、浸出温度40~55℃、スラリー濃度75g/Lである。銅とテルル濃度の経時変化を
図6に示し、硫酸浸出残渣のXRDチャートを
図7に示した。
図6に示すように、浸出開始15分後の銅およびテルル濃度はほぼ一定であることから、浸出反応は概ね15分以内に終了している。また、テルルの浸出は0.4g/L程度に抑制されており、銅が選択的に浸出されていることが確認された。また、
図7に示すように、硫酸浸出残渣は主に未溶解の酸化第一銅(Cu
2O)およびテルル化銅(Cu2.72Te2)であったことから、硫酸性溶液中可溶なテルル酸ソーダが生成しておらず、アルカリ浸出残渣中のテルルはテルル化銅として残留していることが分かる。
【0031】
〔実施例3:第2アルカリ浸出工程〕
実施例2の硫酸浸出で生じた硫酸浸出残渣(Te濃度24質量%)を用い、第2アルカリ浸出を行った。空気をマイクロバブルにして吹込む量(1.11L/L-スラリー/分)以外の条件は、第1アルカリ浸出と同様な条件で行った。テルル浸出率とORPの経時変化を
図8に示した。
図8に示すように、ORP-186mVで、テルルの浸出率は約70%になり、第1アルカリ浸出と同様の結果が得られた。
【0032】
〔テルルの回収率〕
出発原料であるテルル銅含有物のテルル量を100%とすると、第1アルカリ浸出において、浸出液へ78%のテルルが移行され、22%のテルルが第1アルカリ浸出残渣に残った。次の硫酸浸出では、硫酸浸出残渣中にテルルの21%以上が残留し、テルルの1%未満が硫酸浸出液に溶出した。硫酸浸出残渣の第2アルカリ浸出において、21%のテルルの内、15%が浸出液へ移行し、残り6%が第2アルカリ浸出残渣に残留した。この結果、アルカリ浸出液で回収されるテルルの割合は合計93%以上であることが分かる。
【0033】
〔比較例1〕
実施例1と同様のテルル含有物について、浸出終点のORPを-96mVに設定した以外は実施例1と同様にアルカリ浸出を行った。この結果を
図9に示した。
図9のテルル浸出率の経時変化より、ORP-120mV以上ではTe浸出率が減少している。また、このアルカリ浸出残渣について、実施例2と同様の条件で硫酸浸出を行ったところ、硫酸浸出液中に多量テルルが溶出された(テルル濃度8.2g/L、原料中テルルに対し約22%)。この結果から、アルカリ浸出残渣に含まれるテルルは主に硫酸に溶解するテルル酸ソーダであることが推察された。